特許 7452984 ビールテイスト飲料およびその製造方法

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-03-11

(45)【発行日】2024-03-19

(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料およびその製造方法

(51)【国際特許分類】

   C12G 3/04 20190101AFI20240312BHJP

   C12C 5/02 20060101ALI20240312BHJP

   A23L 2/00 20060101ALI20240312BHJP

   A23L 2/52 20060101ALI20240312BHJP

【ＦＩ】

C12G3/04

C12C5/02

A23L2/00 B

A23L2/52

【請求項の数】 5

(21)【出願番号】P 2019208606

(22)【出願日】2019-11-19

(65)【公開番号】P2021078415

(43)【公開日】2021-05-27

【審査請求日】2022-11-14

(73)【特許権者】

【識別番号】303040183

【氏名又は名称】サッポロビール株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100137589

【弁理士】

【氏名又は名称】右田 俊介

(74)【代理人】

【識別番号】100158698

【弁理士】

【氏名又は名称】水野 基樹

(72)【発明者】

【氏名】鎌田 英二

【審査官】村松 宏紀

(56)【参考文献】

【文献】特開２０１４－００００５５（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１５－１０７１０２（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｃ１２Ｇ、Ｃ１２Ｃ、Ａ２３Ｌ

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

ナリンギンとアルギン酸エステルとを含有し、
前記アルギン酸エステルの含有量が３０ｐｐｍ以上であり、
さらに、前記ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、前記アルギン酸エステルの含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、下記式（１）～（３）の全ての関係式を満たすことを特徴とする、ビールテイスト飲料。
（１）Ｙ≦５Ｘ－１５０
（２）Ｙ≦－１．８Ｘ＋５００
（３）Ｘ≦２００

【請求項2】

前記ビールテイスト飲料がアルコール飲料である、請求項１に記載のビールテイスト飲料。

【請求項3】

前記ビールテイスト飲料がノンアルコール飲料である、請求項１に記載のビールテイスト飲料。

【請求項4】

ナリンギンを含有させる工程と、
アルギン酸エステルを含有させる工程と、
前記アルギン酸エステルの含有量を３０ｐｐｍ以上とする工程と、
前記ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、前記アルギン酸エステルの含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、下記式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整する工程と、
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
（１）Ｙ≦５Ｘ－１５０
（２）Ｙ≦－１．８Ｘ＋５００
（３）Ｘ≦２００

【請求項5】

ビールテイスト飲料において、ナリンギンと、アルギン酸エステルとを含有させ、
前記アルギン酸エステルの含有量を３０ｐｐｍ以上とし、
さらに、前記ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、前記アルギン酸エステルの含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、下記式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整することを特徴とする、ビールテイスト飲料における嫌な渋味の抑制およびビールらしい苦味の後残りの向上方法。
（１）Ｙ≦５Ｘ－１５０
（２）Ｙ≦－１．８Ｘ＋５００
（３）Ｘ≦２００

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、ビールテイスト飲料、およびその製造方法等に関する。

【背景技術】

【0002】

ビールテイスト飲料は、ビールらしい香味や苦味（ビール様の風香味）を有する飲料であって、酒税法により定義されるビール、発泡酒、その他醸造酒、またはリキュールのいずれかに属するビールテイストアルコール飲料や、ノンアルコールビールテイスト飲料などが販売されている。そして、近年では、ホップ由来ではない苦味物質を含むビールテイスト飲料も開発されている。

【0003】

例えば、特許文献１には、自然なほろ苦さとスッキリとした飲みやすさを有するビールテイスト飲料として、ナリンジンなどの苦味物質と麦芽エキスとを含み、さらにリナロールの含有量および／ またはダイアセチルの含有量を特定範囲に調整したビールテイスト飲料が開示されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0004】

【文献】特開２０１４－１２８２５１号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0005】

しかしながら、ナリンギンを含むビールテイスト飲料は、後味などに、ナリンギンに由来するビールテイスト飲料として適さない嫌な渋味が残る場合がある。また、泡持ちを良くするために、ビールテイスト飲料にナリンギンとともに起泡剤であるアルギン酸類を含有させると、この嫌な渋味が増強される場合がある。

【0006】

そこで本発明は、嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味の後残りを有するビールテイスト飲料、およびその製造方法等を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0007】

上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ビールテイスト飲料において、ナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量との関係性が渋味や苦味に大きな影響を与えていることを明らかにした。そして、ナリンギンとアルギン酸類とを含有し、このナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量とが、特定の３つの関係式をいずれも満たすようなビールテイスト飲料とすることにより、嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味の後残りを有するビールテイスト飲料となることを見出し、本発明を完成させた。

【0008】

すなわち、本発明は次の＜１＞～＜５＞である。
＜１＞ナリンギンとアルギン酸類とを含有し、前記ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、前記アルギン酸類の含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、下記式（１）～（３）の全ての関係式を満たすことを特徴とする、ビールテイスト飲料。
（１）Ｙ≦５Ｘ－１５０
（２）Ｙ≧－１．８Ｘ＋５００
（３）Ｘ≦２００
＜２＞前記ビールテイスト飲料がアルコール飲料である、＜１＞に記載のビールテイスト飲料。
＜３＞前記ビールテイスト飲料がノンアルコール飲料である、＜１＞に記載のビールテイスト飲料。
＜４＞ナリンギンを含有させる工程と、アルギン酸類を含有させる工程と、前記ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、前記アルギン酸類の含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、下記式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整する工程と、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
（１）Ｙ≦５Ｘ－１５０
（２）Ｙ≧－１．８Ｘ＋５００
（３）Ｘ≦２００
＜５＞ビールテイスト飲料において、ナリンギンと、アルギン酸類とを含有させ、さらに、前記ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、前記アルギン酸類の含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、下記式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整することを特徴とする、ビールテイスト飲料における嫌な渋味の抑制およびビールらしい苦味の後残りの向上方法。
（１）Ｙ≦５Ｘ－１５０
（２）Ｙ≧－１．８Ｘ＋５００
（３）Ｘ≦２００

【発明の効果】

【0009】

本発明によれば、嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味の後残りを有するビールテイスト飲料を提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】横軸をナリンギン含有量（ｐｐｍ）、縦軸をアルギン酸プロピレングリコールエステル含有量（ｐｐｍ）とし、実施例のサンプル１～１２の官能評価結果をプロットしたグラフである。

【発明を実施するための形態】

【0011】

本発明について説明する。
本発明は、ナリンギンとアルギン酸類とを含有し、ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、アルギン酸類の含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、後述する式（１）～（３）の全ての関係式を満たすビールテイスト飲料（以下においては「本発明のビールテイスト飲料」という場合もある）、ナリンギンを含有させる工程と、アルギン酸類を含有させる工程と、ナリンギンの含有量をＸ（ｐｐｍ）、アルギン酸類の含有量をＹ（ｐｐｍ）とした場合に、後述する式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整する工程と、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法（以下においては「本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法」という場合もある）等である。

【0012】

ここで、本発明において含有量の単位として示す「ｐｐｍ」とは、特に断りのない限り、「ｍｇ／Ｌ」を意味する。そして、この含有量は、ビールテイスト飲料の総容量に対する含有量である。

【0013】

まず、本発明のビールテイスト飲料について詳細に説明する。
なお、本発明において「ビールテイスト飲料」とは、ビールらしい香味や苦味、つまりビール様の風香味を有する飲料を意味する。したがって、本発明の「ビールテイスト飲料」には、酒税法（昭和二十八年法律第六号）により定義される発泡性酒類（ビール、発泡酒、その他醸造酒、またはリキュール）に属するビール様の風香味を有するアルコール飲料や、上記した酒税法により定義される発泡性酒類には属さないがビール様の風香味を有するアルコール飲料（例えば非発泡性アルコール飲料）、ビール様の風香味を有する清涼飲料水（例えばノンアルコールビールテイスト飲料）などが包含される。また、本発明のビールテイスト飲料は、その製造において、酵母等による発酵工程（酵母等が糖類などの有機物からアルコールなどの代謝産物を生成する工程）を経て製造された発酵飲料であってもよく、あるいはこの発酵工程を行うことなく製造された非発酵飲料であってもよい。

【0014】

そして、本発明のビールテイスト飲料は、まず、苦味物質であるナリンギン（Ｎａｒｉｎｇｉｎ：Ｃ_２７Ｈ_３２Ｏ_１４）を含有する。このナリンギンは、ナリンゲニン（５，７，４´－トリヒドロキシフラバノン）の７位の水酸基にＬ－ラムノシル－（α１→２）－グルコースがβ結合した構造を有するフラボノイド配糖体の一種であり、柑橘果皮などに多く含まれる苦味を呈する化合物であって、ナリンジンとも呼ばれる。本発明のビールテイスト飲料においては、精製されたナリンギン（ナリンギン製剤）だけでなく、柑橘果皮等から水、熱水、およびエタノールからなる群から選ばれる１以上を溶媒として用いて抽出して得られた柑橘果皮抽出物などの、ナリンギン含有原料も使用することができる。ナリンギンを多く含む柑橘果皮としては、例えば、グレープフルーツ類やタンゼロ類の果皮などが示される。また、このナリンギンは、製剤以外の市販品（例えば食品添加物など）を使用してもよい。
本発明のビールテイスト飲料は、このナリンギンを所定量含有することにより、ホップを使用しなくてもビールらしい苦味の後残りを有する。

【0015】

さらに、本発明のビールテイスト飲料は、上記したナリンギンに加えて、水溶性食物繊維であるアルギン酸類を含有する。このアルギン酸類は、アルギン酸、アルギン酸塩（アルギン酸ナトリウムなど）、アルギン酸エステル（アルギン酸プロピレングリコールエステルなど）からなる群から選択される１以上である。特に、本発明の効果がより発揮されやすいことから、本発明のビールテイスト飲料はアルギン酸エステルを含有するのがより好ましく、アルギン酸プロピレングリコールエステルを含有するのがさらに好ましい。
本発明のビールテイスト飲料においては、上記したナリンギンとアルギン酸類とを後述する３つの関係式を全て満たすように含有させることにより、ビールテイスト飲料として適さない嫌な渋味、つまり、ビールらしい苦味や渋味とは異なる、苦味物質などに由来する不快な渋味の後残りを抑制することができ、ビールらしい苦味の後残りを有するビールテイスト飲料とすることができる。
なお、このアルギン酸類も、市販品（製剤、食品添加物等）、アルギン酸類含有原料などを使用することができる。

【0016】

そして、この３つの関係式とは、具体的には、下記式（１）～（３）である。なお、式中、Ｘは本発明のビールテイスト飲料におけるナリンギンの含有量（ｐｐｍ）であり、Ｙは本発明のビールテイスト飲料におけるアルギン酸類の含有量（ｐｐｍ）である。本発明のビールテイスト飲料においては、この３つの関係式をいずれも満たすようにナリンギンの含有量およびアルギン酸類の含有量を調整する。
（１）Ｙ≦５Ｘ－１５０
（２）Ｙ≧－１．８Ｘ＋５００
（３）Ｘ≦２００

【0017】

ここで、図１は、本発明のビールテイスト飲料におけるナリンギンの含有量を横軸、アルギン酸類の含有量を縦軸としたグラフであるが、ナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量とが上記式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整するとは、図１に示されるグラフ内の３本の太字直線で囲まれる領域内（式（１）～（３）がいずれも記載されている領域内）となるように調整することである。このようなナリンギンの含有量およびアルギン酸類の含有量の調整により、嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味の後残りを有する本発明のビールテイスト飲料を得ることができる。
なお、図１の３本の太字直線は、上記式（１）～（３）の等号付き不等号を等号に代えた式により表される直線である。

【0018】

さらに、本発明のビールテイスト飲料は、ナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量とが上記式（１）～（３）の全ての関係式を満たし、且つ、下記式（４）の関係式を満たすように調整するとより好適である。
（４）Ｙ≦－６Ｘ＋６５０

【0019】

なお、本発明のビールテイスト飲料においては、ナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量とが上記式（１）～（３）の全ての関係式を満たし（より好適には上記式（１）～（４）の全ての関係式を満たし）、且つ、ナリンギンの含有量（Ｘ）を３５ｐｐｍ以上とするのが好ましく、５０ｐｐｍ以上とするのがより好ましく、８０ｐｐｍ以上とするのがさらに好ましい。また、このナリンギンの含有量（Ｘ）は、上記式（３）よりもさらに特定して、１９０ｐｐｍ以下とするのが好ましく、１８０ｐｐｍ以下とするのがより好ましく、１５０ｐｐｍ以下とするのがさらに好ましく、１３０ｐｐｍ以下とするのがさらに好ましい。これにより、嫌な渋味がより抑制され、且つビールらしい苦味の後残りがより優れたビールテイスト飲料とすることができる。

【0020】

さらに、本発明のビールテイスト飲料においては、ナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量とが上記式（１）～（３）の全ての関係式を満たし（より好適には上記式（１）～（４）の全ての関係式を満たし）、且つ、アルギン酸類の含有量（Ｙ）を、１０ｐｐｍ以上とするのが好ましく、２０ｐｐｍ以上とするのがより好ましく、３０ｐｐｍ以上とするのがさらに好ましく、５０ｐｐｍ以上とするのがさらに好ましく、８０ｐｐｍ以上とするのがさらに好ましい。また、このアルギン酸類の含有量（Ｙ）を３２０ｐｐｍ以下とするのが好ましく、３００ｐｐｍ以下とするのがより好ましく、２５０ｐｐｍ以下とするのがさらに好ましい。これにより、ビールテイスト飲料として好ましい性状を維持しつつ、ナリンギンなどに由来する嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味の後残りがより優れたビールテイスト飲料とすることができる。さらに、発泡性ビールテイスト飲料においては、泡持ちも向上させることができる。
なお、アルギン酸類の含有量（Ｙ）を３４０ｐｐｍ超とすると、ビールテイスト飲料として好ましくない粘度となってしまう。

【0021】

ここで、本発明のビールテイスト飲料におけるナリンギンおよびアルギン酸類の含有量は、ＨＰＬＣ等を用いた公知の方法によって測定する。

【0022】

なお、本発明のビールテイスト飲料は、ホップ由来成分を含有していてもよいが、ホップ由来成分を含有していなくてもビールらしい苦味の後残りを有することが特徴である。例えば、本発明のビールテイスト飲料は、苦味価（ＢＵ）が５未満であってもよく、４．５以下であってもよく、４．０以下であってもよく、３．５以下であってもよく、３．０以下であってもよく、２．５以下であってもよく、２．０以下であってもよく、１．５以下であってもよく、１．０以下であってもよく、０．５以下であってもよい。この苦味価は、ホップ等の使用量、品種、種類、添加のタイミングなどによって調整することができる。ここで、この苦味価（ＢＵ）は、改訂ＢＣＯＪビール分析法（公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、２０１３年増補改訂）の「８．１５ 苦味価」に記載されている方法によって測定される値である。

【0023】

本発明のビールテイスト飲料にホップを使用する場合には、その種類としては、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスなどが例示される。使用するホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。これらは単独で使用してもよいし、２種以上を組み合わせて使用してもよく、特段限定されない。

【0024】

そして、本発明のビールテイスト飲料は、前述のナリンギンおよびアルギン酸類に加えて、原料として麦または麦加工物、米、とうもろこし、豆類、糖類、果実、香辛料などを任意に使用することができる。なお、この「原料」とは、本発明のビールテイスト飲料の製造に用いられる全原料のうち、水およびホップ以外のものを指す。

【0025】

ここで、上記した麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦が挙げられる。また、麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキスが挙げられる。この麦エキスは、麦から糖分および窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。麦芽は、麦を発芽させることにより得られる。モルトエキスは、麦芽から糖分および窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。

【0026】

さらに、本発明のビールテイスト飲料には、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、飲料に通常配合され得る原料、例えば酸味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、塩類等を含んでいてもよい。酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、乳酸ナトリウム、ＤＬ－リンゴ酸、ＤＬ－リンゴ酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、ＤＬ－酒石酸、Ｌ－酒石酸、ＤＬ－酒石酸ナトリウム、Ｌ－酒石酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウムなどが挙げられる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素などが挙げられる。甘味料としては、例えば、高甘味度甘味料が挙げられる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムＫ、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、リチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンＣ、ビタミンＥ、ポリフェノールなどが挙げられる。塩類としては、例えば、食塩（塩化ナトリウム）、酸性リン酸カリウム、酸性リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
また、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、ナリンギン以外の苦味物質や、アルギン酸類以外の水溶性食物繊維を含んでいてもよい。

【0027】

さらには、本発明のビールテイスト飲料は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲であれば、上記以外の任意の成分をさらに含んでもよい。

【0028】

また、本発明のビールテイスト飲料は、アルコール飲料（ビールテイストアルコール飲料）であってもよい。その場合のアルコール度数は特に限定されないが、一例としては、下限は１ｖ／ｖ％以上、より好ましくは２ｖ／ｖ％以上、さらに好ましくは３ｖ／ｖ％以上、さらに好ましくは４ｖ／ｖ％以上、さらに好ましくは５ｖ／ｖ％以上が示され、上限は好ましくは２０ｖ／ｖ％以下、より好ましくは１５ｖ／ｖ％以下、さらに好ましくは１０ｖ／ｖ％以下、さらに好ましくは９ｖ／ｖ％以下、さらに好ましくは８ｖ／ｖ％以下、さらに好ましくは７ｖ／ｖ％以下、さらに好ましくは６ｖ／ｖ％以下が示される。
あるいは、本発明のビールテイスト飲料は、アルコール度数１ｖ／ｖ％未満、より好ましくは０．５ｖ／ｖ％未満、さらに好ましくは０．１ｖ／ｖ％未満、さらに好ましくは０．０５ｖ／ｖ％未満であるノンアルコール飲料（ノンアルコールビールテイスト飲料）であってもよい。

【0029】

ここで、本発明において「アルコール度数（ｖ／ｖ％）」とは、改訂ＢＣОＪビール分析法（公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、２０１３年増補改訂）の「８．３ アルコール」に記載されている方法（８．３．６アルコライザー法）によって測定される値である。そして、本発明において「アルコール」とは、エタノールを意味する。

【0030】

なお、本発明のビールテイスト飲料のアルコール度数は、その製造工程において、発酵条件を制御する方法や、各種スピリッツ（ウォッカ等）、焼酎、ブランデー、発泡酒、醸造用アルコールなどを添加する方法、発酵液を蒸留または希釈する方法等によって調整することができる。

【0031】

さらに、本発明のビールテイスト飲料は、発泡性であると、その飲用時においてビールらしい香味や苦味等をより感じ易いため好ましい。ここで、本発明において「発泡性」とは、２０℃における炭酸ガス圧が０．０４９ＭＰａ（０．５ｋｇ／ｃｍ^２）以上であることを意味する。そして、この炭酸ガス圧は、０．２９４ＭＰａ（３．０ｋｇ／ｃｍ^２）以下としてもよい。なお、炭酸ガスは、発酵により生成されたものであってもよいし、炭酸水やカーボネーション（炭酸ガス圧入）工程により付与されたものであってもよい。そして、このカーボネーション工程は、バッチ式で行ってもよいし、配管路に炭酸ガス圧入システム（カーボネーター）が組み込まれたインライン方式で連続的に行ってもよい。また、このカーボネーション工程は、フォーミング（泡噴き）の発生等を避けるために、液温を１０℃以下（より好ましくは４℃以下）として行うのが好適である。
あるいは、本発明のビールテイスト飲料は、２０℃における炭酸ガス圧が０．０４９ＭＰａ（０．５ｋｇ／ｃｍ^２）未満である非発泡性ビールテイスト飲料としてもよい。

【0032】

次に、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法について詳細に説明する。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、ナリンギンを含有させる工程と、アルギン酸類を含有させる工程と、ナリンギンの含有量Ｘ（ｐｐｍ）とアルギン酸類の含有量Ｙ（ｐｐｍ）とを、前述した式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整する工程とを含めば、その他の工程については常法にしたがえばよく、特段限定はされない。また、上記した各工程は、２工程以上を１工程において併せて行ってもよく、あるいは各工程の少なくとも１つを２工程以上に分けて行ってもよい。

【0033】

そして、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法においては、上記した各工程を備えることにより、嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味の後残りを有するビールテイスト飲料を製造することができるため、ホップを添加する工程を備えていなくてもよい。つまり、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、ホップを添加する工程を含まない構成であってもよい。
あるいは、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法がホップ等を添加する工程を含む構成である場合でも、苦味価（ＢＵ）を５未満とする工程を備えていてもよい。

【0034】

本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法の一例としては、非発酵飲料を製造する場合、まず調合工程として、所定量のナリンギンおよびアルギン酸類を含む調合液を調製し、さらに必要であればホップなどをこの調合液に添加し、これも必要に応じてスピリッツや発泡酒などの添加によるアルコール度数の調整や、炭酸水の添加、カーボネーション等による炭酸ガス圧の調整などを行い、その後、濾過工程、殺菌工程などを行って、最終的にナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量とが前述した式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整された製品とする。さらに、この製品をアルミニウムやスチールなどの金属製容器、ガラス製容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ（プラスチックパウチ）容器などに充填して密封する容器充填工程を行ってもよい。特に、気体、水分、光線などの遮断性が高く、長期間常温において品質を維持することが可能であることから、金属製容器に充填され密封された構成とするのがより好ましい。

【0035】

また、本発明に係るビールテイスト発酵飲料を製造する方法の一例としては、まず発酵前工程として、麦芽、大麦、ナリンギン含有原料等を使用して常法により仕込液（所定量のナリンギンを含む糖化液）を調製し、さらに必要であればホップなどをこの仕込液に添加して煮沸し、沈殿物を除去して発酵前液を取得し、この発酵前液にビール酵母を添加して所定の条件において発酵工程を行う方法が示される。発酵後は、発酵後工程として、所定量のアルギン酸類を添加し、その後、貯酒（熟成）、濾過などを行って、最終的にナリンギンの含有量とアルギン酸類の含有量とが前述した式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整された製品とする。これも必要であれば、発酵後工程などにおいて、スピリッツや発泡酒等の添加やアルコールの除去などによるアルコール度数の調整や、炭酸ガス圧の調整を行ってもよい。また、これも同様に、製品を金属製容器などに充填して密封する容器充填工程を行ってもよい。

【0036】

そして、上記した２つの製造方法の例において、ナリンギンおよびアルギン酸類は、上記工程に限定されず、いずれの工程において含有させてもよい。また、ナリンギン含有量およびアルギン酸類含有量の調整も、最終的に得られるビールテイスト飲料において所定の関係となれば、どの工程において行ってもよい。

【0037】

なお、本発明は、ビールテイスト飲料において、ナリンギンと、アルギン酸類とを含有させ、さらに、ナリンギンの含有量Ｘ（ｐｐｍ）とアルギン酸類の含有量Ｙ（ｐｐｍ）とを、前述した式（１）～（３）の全ての関係式を満たすように調整する、ビールテイスト飲料における嫌な渋味の抑制およびビールらしい苦味の後残りの向上方法を提供するものであるとも言える。

【0038】

以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。

【実施例】

【0039】

＜ビールテイスト飲料の調製および官能評価＞
まず、ベースとなる純水にカラメル、酸味料、香料（ナリンギンを含まない香料）を添加し、さらに、ナリンギンとアルギン酸プロピレングリコールエステルとを、最終サンプルの含有量として下記表１上段に記載のナリンギン含有量およびアルギン酸プロピレングリコールエステル含有量となるように添加した。そして、炭酸ガス圧が２．２ｋｇ／ｃｍ^２となるように炭酸水により調整した。このようにして、ナリンギンおよび／またはアルギン酸プロピレングリコールエステルの含有量が異なるサンプル１～１２のノンアルコールビールテイスト飲料を作製した。
さらに、スピリッツも添加して最終サンプルのアルコール度数を５．０ｖ／ｖ％とした以外は上記と同様の方法により、サンプル１３のビールテイストアルコール飲料も作製した。

【0040】

そして、この得られた各サンプルにおける、ビールらしい苦味の後残り、および嫌な渋味について、訓練され官能的識別能力を備えた３名のパネリストにより、以下に示す評価基準を用いて比較官能によって各サンプルを官能評価した。

【0041】

［ビールらしい苦味の後残りの評価基準］
サンプル１２におけるビールらしい苦味の後残りを１（ほとんど感じない）とし、このサンプル１２との対比として、１（ほとんど感じない：サンプル１２と同等）、２（わずかに感じる）、３（やや感じる）、４（感じる）、５（強く感じる）の５段階により比較官能評価を行った。

【0042】

［嫌な渋味の評価基準］
サンプル１２における嫌な渋味を１（強く感じる）とし、このサンプル１２との対比として、１（強く感じる：サンプル１２と同等））、２（感じる）、３（わずかに感じる）、４（ほとんど感じない）、５（感じない）の５段階により比較官能評価を行った。

【0043】

この官能評価結果を下記表１下段および図１に示した。なお、下記表１のビールらしい苦味の後残りおよび嫌な渋味の評価点は３名のパネリストの平均値であり、最終的な評価は、ビールらしい苦味の後残りと嫌な渋みの評価点（平均値）の合計値を算出し、５．５未満を×、５．５以上７．５未満を〇、７．５以上を◎として評価したものである。
この結果から、図１に示す式（１）；Ｙ≦５Ｘ－１５０、式（２）；Ｙ≧－１．８Ｘ＋５００、および式（３）；Ｘ≦２００（いずれも、Ｘはナリンギン含有量、Ｙはアルギン酸プロピレングリコールエステル含有量）で示される範囲の領域内、つまり図１の３本の太字直線で囲まれる領域内に含まれるサンプル（サンプル３～７、サンプル９～１０）は、嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味を有する好ましいノンアルコールビールテイスト飲料であることが明らかとなった。
また、サンプル１３も、同様に、嫌な渋味が抑制され、且つビールらしい苦味を有する好ましいビールテイストアルコール飲料であることが明らかとなった。

【0044】

【表1】

【図1】