(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
F16H 61/18 20060101AFI20240312BHJP
F16H 59/66 20060101ALI20240312BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20240312BHJP
F16H 59/04 20060101ALI20240312BHJP
F16H 63/40 20060101ALI20240312BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F16H61/18
F16H59/66
F16H59/70
F16H59/04
F16H63/40
B60T7/12 A
(21)【出願番号】P 2020012174
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】田村 智志
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-340182(JP,A)
【文献】特開2018-198558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/18
F16H 59/00-61/12
F16H 61/38-61/64
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体と、
前記走行機体の変速操作を行う操作具と、
前記操作具の操作位置を検出する操作位置検出センサと、
該操作位置検出センサにより検出された前記操作具の操作位置に基づいて前記走行機体を複数段階で変速切換可能に構成された変速装置と、
前記走行機体の左右方向の傾斜角度を検出する傾斜センサと、
前記走行機体のエンジンから駆動輪に伝動される動力を断続する走行クラッチと、
前記走行機体を制動するブレーキ装置と、
前記変速装置の変速切換を行う
一のアクチュエータと、
前記変速装置を、ニュートラル状態と、前記走行機体が前進走行する状態と、後進走行する状態との切換を行う
他のアクチュエータと、
前記操作位置検出センサによる検出結果及び前記傾斜センサによる検出結果が入力され、前記
一のアクチュエータによって前記変速装置の変速を制御し、前記
他のアクチュエータによって前記走行機体の前記前後進・停止の切換を制御し、前記ブレーキ装置によって前記走行機体への制動の有無を制御する制御部と
、を備え、
前記制御部は、
前記走行機体の左右方向の傾斜角度が予め設定された第1傾斜角度以上となったことが検出されたことを条件として、前記
一のアクチュエータによって前記変速装置を自動的に減速方向に変速させる制御を実行し、
前記走行機体の左右方向の傾斜角度が前記第1傾斜角度よりも傾斜が大きく設定された第2傾斜角度以上となったことが検出された場合、前記ブレーキ装置によって前記走行機体を制動させるとともに、前記
他のアクチュエータによって前記変速装置のニュートラル状態への切換を行
うことにより、前記走行機体を自動的に停車させる制御を実行する、
ように構成され、
前記制御部は、
前記変速装置を自動的に減速方向に変速させる前記制御を実行している最中、前記走行機体が傾斜地に位置し、その左右方向の傾斜角度が前記第2傾斜角度以上の状態になっていることが検出された場合、前記走行機体
を自動的に停車させる前記制御を実行し、
その後、オペレータの操作によって、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が前記第2傾斜角度未満の状態に回復した場合、前記変速装置を自動的に減速方向に変速させる前記制御の実行を再開する、
ように構成された
作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、
前記走行機体の左右方向の傾斜角度が前記第2傾斜角度以上となったことが検出された場合、前記操作具の操作位置に関わらず、前記走行機体を自動的に停車させ、前記変速装置の変速状態と前記操作具の操作位置とを不一致な状態とし、
その後、オペレータの前記操作具の操作によって前記変速装置の変速状態と前記操作具の操作位置とが一致したことが検出された場合、前記走行機体を自動的に停車させる前記制御を解除する、
ように構成された
請求項1に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の傾斜角度に応じて前記走行機体を減速させる制御部を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
無段階で走行変速する走行HSTを有する走行機体と、前記走行機体の無段階変速操作を行う主変速操作レバーと、前記走行機体の左右方向の傾斜角度を検出する傾斜センサと、制御部とを備え、前記制御部は、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が予め設定された所定角度以上となったことが検出された場合には、前記走行機体を所定の安全速度まで減速するように構成した特許文献1に記載の作業車両が従来公知である。
【0003】
上記文献によれば、前記走行機体が所定以上傾斜したことが検出された場合に所定の安全速度まで減速することによって傾斜面の作業走行時の安全性を向上させることができるものであるが、走行機体が傾斜面を比較的早い速度で作業走行していた場合等には、前記走行機体が不測のタイミングで一気に減速されて操作性や安全性に影響する可能性があり得る他、必要以上に減速されることで作業効率が必要以上に低下する場合もあり得るという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、走行機体が予め設定した傾斜角度以上に傾斜した場合に前記走行機体を減速する自動減速制御が実行可能な作業車両において、傾斜地を作業走行中の走行機体の安全性と作業効率とを両立させることのできる作業車両を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、走行機体と、前記走行機体の変速操作を行う操作具と、前記操作具の操作位置を検出する操作位置検出センサと、該操作位置検出センサにより検出された前記操作具の操作位置に基づいて前記走行機体を複数段階で変速切換可能に構成された変速装置と、前記走行機体の左右方向の傾斜角度を検出する傾斜センサと、前記走行機体のエンジンから駆動輪に伝動される動力を断続する走行クラッチと、前記走行機体を制動するブレーキ装置と、前記変速装置の変速切換を行う一のアクチュエータと、前記変速装置を、ニュートラル状態と、前記走行機体が前進走行する状態と、後進走行する状態との切換を行う他のアクチュエータと、前記操作位置検出センサによる検出結果及び前記傾斜センサによる検出結果が入力され、前記一のアクチュエータによって前記変速装置の変速を制御し、前記他のアクチュエータによって前記走行機体の前記前後進・停止の切換を制御し、前記ブレーキ装置によって前記走行機体への制動の有無を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が予め設定された第1傾斜角度以上となったことが検出されたことを条件として、前記一のアクチュエータによって前記変速装置を自動的に減速方向に変速させる制御を実行し、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が前記第1傾斜角度よりも傾斜が大きく設定された第2傾斜角度以上となったことが検出された場合、前記ブレーキ装置によって前記走行機体を制動させるとともに、前記他のアクチュエータによって前記変速装置のニュートラル状態への切換を行うことにより、前記走行機体を自動的に停車させる制御を実行する、ように構成されたことを特徴としている。
【0007】
前記制御部は、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が前記第2傾斜角度以上となったことが検出された場合、前記操作具の操作位置に関わらず、前記走行機体を自動的に停車させ、前記変速装置の変速状態と前記操作具の操作位置とを不一致な状態とし、その後、オペレータの前記操作具の操作によって前記変速装置の変速状態と前記操作具の操作位置とが一致したことが検出された場合、前記走行機体を自動的に停車させる前記制御を解除する、ように構成されたものとしてもよい。
【0008】
前記制御部は、前記変速装置を自動的に減速方向に変速させる前記制御を実行している最中、前記走行機体が傾斜地に位置し、その左右方向の傾斜角度が前記第2傾斜角度以上の状態になっていることが検出された場合、前記走行機体を自動的に停車させる前記制御を実行し、その後、オペレータの操作によって、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が前記第2傾斜角度未満の状態に回復した場合、前記変速装置を自動的に減速方向に変速させる前記制御の実行を再開する、ように構成されたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
前記制御部は、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が予め設定された前記第1傾斜角度以上となった場合には前記変速装置を減速方向に変速し、該第1傾斜角度より大きい前記第2傾斜角度以上となった場合には前記走行機体を自動的に停車させるように構成したことにより、前記走行機体の左右傾斜の大きくなるにしたがって段階的に前記変速装置の自動減速、走行機体の自動停車とが段階的に行われるため、傾斜地走行時の安全性と、作業効率とを両立させることができる。
【0010】
また、前記制御部は、前記操作具の操作位置に関わらず、前記走行機体を自動的に停車させることができるように構成され、前記制御部は、前記変速装置の変速状態と、前記操作具の操作位置とが一致したことが検出された場合には、前記自動減速制御による前記走行機体の自動的な停車が解除されるように構成されたものによれば、前記走行機体が停止した状態からオペレータの意図しないタイミングで走行開始する事態を効率的に防止できる。
【0011】
なお、前記制御部は、前記自動減速制御により前記走行機体が自動的に停車した後に、前記走行機体の左右方向の傾斜角度が前記第2傾斜角度以上の状態から回復したことが検出された場合に、前記自動減速制御による前記変速装置の自動的な減速が再開されるように構成されたものによれば、前記走行機体が第2傾斜角度以上に傾斜した状態から脱するまでの間は、前記変速装置に制限が掛からないため、走行機体の傾斜のきつい場所から離れるための操作をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図6】傾斜地走行制御の制御パターンを示した表図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1及び
図2は、本発明を適用したトラクタの側面図及び正面図であり、
図3は、操縦部を示した要部正面図であり、
図4は、操作パネルを示した図である。本トラクタは、左右一対の前輪1,1及び後輪2,2によって支持される機体フレーム3と、該機体フレーム3の前側に設置されたエンジン(図示しない)の上方側をカバーするボンネット4と、該ボンネット4の後方に設置されてオペレータが乗込んで操縦等を行う操縦部が設けられたキャビン6とを備えた走行機体7が構成されている(
図1参照)。また、該走行機体7の後方には、昇降リンク5を介してロータリ耕耘機等の作業機10が昇降可能に連結されている。
【0014】
前記操縦部は、オペレータが着座する座席8と、該座席8の前方側に配置された操向操作具であるステアリングハンドル9と、該ステアリングハンドル9の前方側に配置された表示パネル11と、前記ステアリングハンドル9の下方側に配置されたPTO変速レバー12と、前記座席8の左右一方(図示する例では左)側に配置された副変速レバー13と、前記座席8の左右他方(図示する例では右)側に配置された操作パネル14と、前記座席8とステアリングハンドル9との間に設けられた床面であるフロアステップ16と、該フロアステップ16側に配置されて走行機体7の制動作動を操作するブレーキペダル17とを備えている(
図2参照)。
【0015】
前記副変速レバー13は、トランスミッション(変速装置)を介して、少なくとも前進走行のうち路上走行状態に適した路上走行状態と、作業走行に適した作業走行状態とに切換えることができるように構成されている。図示する例では、路上走行に適した高速(H)及び、中速(M)と、作業走行に適した低速(L)の3段階に切換えることができる。
【0016】
前記操作パネル14は、前後方向に揺動操作されることにより、主変速操作可能に構成された主変速レバー18と、該主変速レバー18の左右内側に並べて配置されて前記作業機を昇降操作する作業機昇降レバー19と、前記主変速レバー18の前側に配置された走行モード切換スイッチ21と、PTOスイッチ23とが設けられている。
【0017】
上記主変速レバー18は、走行機体を有段変速する変速装置を介して走行変速切換を操作できるように構成されている。このとき、該変速装置は、HST(油圧式無段階変速装置)を後述する制御部50により制御することにより、複数段階で有段変速可能(言い換えると、複数の変速段Sに設定可能)に構成されている。
【0018】
具体的に説明すると、該主変速レバー18には、前後揺動(操作)位置を検出する検出する主変速レバーポテンショ(操作位置検出センサ)22が設けられており、前記変速装置は、前記制御部を介して前記主変速レバー18の操作位置(設定変速段S1)に応じて複数段階(図示する例では1速~8速の計8段階)で有段変速(変速段Sを設定)することができるように構成されている。
【0019】
上記作業機昇降レバー19は、前記走行機体7の後部の昇降シリンダ(図示しない)を伸縮作動させることにより、該走行機体7後部の作業機を昇降操作することができる。該構成によれば、前記走行機体7後部に連結されたロータリ耕耘機を、非作業高さから圃場の耕耘作業を行う作業高さに操作することができるとともに、作業高さのロータリ耕耘機の昇降位置を調整することにより、用途や圃場の状況に応じて耕耘深さを変更することができる。
【0020】
上記走行モード切換スイッチ21は、後述する制御部50による傾斜地走行制御が実行される傾斜走行モードに切換えることができるように構成されている。該傾斜値走行制御の詳細については後述する。
【0021】
次に、
図5乃至7に基づき、前記制御部による傾斜値走行制御について説明する。
図5は、制御部のブロック図であり、
図6は、傾斜地走行制御の制御パターンを示した表図である。
【0022】
前記制御部50の入力側には、
図5に示されるように、前記走行モード切換スイッチ21と、路上走行状態や作業走行状態等の制御モードの切換えを行う制御モード設定スイッチ24と、前記走行機体7の左右方向の傾斜角度を検出する左右傾斜センサ(傾斜センサ)31と、前記主変速レバー18の操作位置を検出するセンサである前記主変速レバーポテンショ(操作位置検出センサ、操作位置検出ポテンショ)22とが接続されている。
【0023】
前記制御部50の出力側には、前記HSTの斜板を制御することにより前記変速装置を有段変速させることができるように構成されたアクチュエータである主変速ソレノイド32と、前記HSTを介して前進後進及び停止の切換作動を行うためのアクチュエータである前後進ソレノイド33と、ブレーキを作動させるブレーキソレノイド34と、前記走行クラッチ36(を断続作動させるアクチュエータ)と、後述する報知手段37とが接続されている。
【0024】
前記制御部50は、前記左右傾斜センサ31によって前記走行機体7の左右方向の傾斜角度θが予め設定された所定の減速傾斜角度(第1傾斜角度)αより大きくなったことが検出された場合には、前記主変速ソレノイド32を介して走行機体7(変速装置)を自動的に減速させるとともに、前記走行機体7の左右方向の傾斜角度θが減速傾斜角度αよりも大きく設定された停止傾斜角度(第2傾斜角度)βよりも大きくなったことが検出された場合には、前記走行機体7を自動的に停車させるように構成された傾斜地走行制御が実行可能に構成されている(
図2等参照)。
【0025】
具体的に説明すると、
図6に示されるように、前記傾斜地走行制御によって、前記走行機体(変速装置)を自動的に減速切換させる場合には、前記主変速ソレノイド32を介して前記変速装置の設定変速段S1を、前記主変速レバー18の操作位置に応じた変速段から所定段数(図示する例では2段階)減速するように構成されている。
【0026】
ちなみに、前記変速装置は、前記主変速レバー18の操作位置にはよらず、前記主変速ソレノイド32により主変速レバー18の操作位置の変速段から2段階強制的に減速(シフトダウン)させるように構成されている。すなわち、前記傾斜地走行制御による走行機体7の自動的な減速切換は、前記走行機体(変速装置)の変速状態(変速段S)と、前記主変速レバー18の操作位置が示す変速段とが不一致な状態になる(
図6参照)。
【0027】
該構成の傾斜地走行制御によれば、前記走行機体7が傾斜面を走行している際に、前記走行機体7の左右方向が所定角度以上に傾いた場合には、前記走行機体7を自動的(強制的)に減速させて安全性を確保しつつ、前記走行機体7が必要以上に減速されて作業効率を大きく悪化させることを防止できる。また、前記走行機体7が傾斜面走行時に一気に急減速されてオペレータの操向操作に支障をきたす事態も防止できる。
【0028】
また、前記制御部50は、前記主変速ソレノイド32を介した減速では、前記変速装置による有段減速が所定の下限変速段Sl(図示する例では2速)以下には減速作動されないように構成されている(
図5参照)。ちなみに、前記主変速ソレノイド32による減速幅や、前記下限変速段Slは、前記ロータリ耕耘機の作業高さ、言い換えると、耕耘深さ(浅耕(高い)、標準耕(標準)、深耕(低い))に応じて設定変更することができる(
図6参照)。
【0029】
該構成によれば、前記走行機体7が元々十分に減速された適した状態で作業走行されている場合には、前記傾斜地走行制御による前記走行機体7の減速が実行されないため、作業効率が必要以上に悪化する事態を防止できる。
【0030】
さらに、前記制御部50は、前記走行機体7の左右傾斜が前記停止傾斜角度βよりも大きくなった場合には、前記走行クラッチ36を切断作動させるとともに、前記前後進ソレノイド33と、ブレーキソレノイド34によって前記走行機体7を制動作動させることによって、該走行機体7を自動的に停車させることができる。このとき、前記制御部50は、前記エンジンも自動的に停止させる構成にしても良い。
【0031】
なお、前記制御部50は、前記傾斜地走行制御により前記走行機体7が減速作動された場合には、前記走行機体7の左右傾斜が前記減速傾斜角度αよりも小さくなるとともに、前記主変速レバー18が減速方向に操作されることによって、該主変速操作レバー18の操作位置(設定変速段S1)と、前記主変速ソレノイド32により減速切換された変速装置の変速段Sとが一致した場合には、前記傾斜地走行制御による強制減速が解除されるように構成されている。
【0032】
該構成によれば、前記傾斜地走行制御によって走行機体が自動的に減速された場合には、オペレータの意図しないタイミングで前記走行機体の減速が解除されて急に増速する事態を確実に防止することができる。
【0033】
ちなみに、前記制御部50は、前記傾斜地走行制御によって、前記走行機体が自動的に減速したり停車したりした状態や、これらが解除された状態を前記報知手段36によってオペレータに報知することができるように構成されている。前記報知手段36としては、具体的には、報知ブザーや、前記表示パネル11側に設けた報知ランプ、前記操縦部側等に別途設けたモニタ(図示しない)等が用いられるが、これらには限られない。
【0034】
図7は、傾斜地走行制御を示したフロー図である。前記傾斜地走行制御の処理が開始されると、ステップS1に進む。ステップS1では、前記走行モード切換スイッチにより、前記走行機体が傾斜地モードに切換えられているか否かが確認され、傾斜地モードに切換えられていることが検出された場合には、ステップS2に進む。なお、ステップS1において、傾斜地モードに切換えられていることが検出されなかった場合には、その後、リターンする。
【0035】
このとき、ステップS1では、前記走行モード切換スイッチ21による傾斜地モードの切換の有無に代えて、前記副変速レバー13の操作位置と、前記PTOレバー12(スイッチ)の操作状況や、前記制御モード設定スイッチ24等によって、走行機体7が傾斜地を含む圃場面を作業走行する状態であるか否かを判断するように構成しても良い。
【0036】
ステップS2は、前記左右傾斜センサ31により検出される前記走行機体7の左右方向の傾斜角度θが予め設定された前記停止傾斜角度β以上であるか否かが確認され、前記走行機体7の左右方向の傾斜角度が停止傾斜角度β以上であることが検出されなかった場合には、ステップS3に進む。
【0037】
ステップS3では、後述の緊急停止フラグのON・OFFが確認され、緊急停止フラグのOFF状態が検出された場合には、ステップS4に進む。
【0038】
ステップS4では、前記左右傾斜センサ31により検出される前記走行機体7の左右方向の傾斜角度θが前記減速傾斜角度α以上で且つ前記停止傾斜角度βより小さいか否かが確認され、前記走行機体の傾斜角度θが前記減速傾斜角度α以上で且つ前記停止傾斜角度βより小さい範囲内であることが検出された場合には、ステップS5に進む。
【0039】
ステップS5では、後述の減速制御フラグのON・OFFが確認され、減速制御フラグのOFF状態が検出された場合には、ステップS6に進む。ステップS6では、減速制御フラグがONにセットされ、その後、ステップS7に進む。
【0040】
なお、ステップS5において、減速制御フラグのON状態が検出された場合には、そのままステップS7に進む。
【0041】
ステップS7では、前記主変速操作レバー18の操作位置(設定変速段S1)が2速以上で且つ4速以下の範囲であるか否かが検出され、前記主変速レバー18の設定変速段S1が2速以上で且つ4速以下の範囲ではなかった場合には、ステップS8に進む。
【0042】
ステップS8では、前記主変速操作レバー18の操作位置(設定変速段S1)が5速以上であるか否かが検出され、前記主変速レバー18の設定変速段S1が5速以上であることが検出された場合には、ステップS9に進む。
【0043】
ステップS9では、前記変速装置の変速段Sを、前記主変速ソレノイド32を介して主変速レバー18の操作位置(設定変速段S1)から2段減速方向に変速(シフトダウン)し、その後、リターンする。このとき、主変速レバー18の操作位置は操作されないため、シフトダウンされた変速装置の変速段Sと、前記主変速レバー18の操作位置(設定変速段S1)とが不一致な状態となる。
【0044】
また、ステップS8において、前記主変速レバー18の設定変速段S1が5速以上であることが検出されなかった場合には、その後、リターンする。
【0045】
また、ステップS7において、前記主変速レバー18の設定変速段S1が2速以上で且つ4速以下の範囲内であることが検出された場合には、ステップS10に進む。ステップS10では、前記変速装置の変速段Sを、前記主変速ソレノイド32を介して2速に変速(シフト)し、その後、リターンする。
【0046】
すなわち、前記傾斜地走行制御は、前記左右傾斜センサ31により前記走行機体7の左右方向の傾斜角度θが減速傾斜角度α以上で且つ停止傾斜角度β以下であることが検出された場合には、前記変速装置の設定変速段Sが、前記主変速レバー18の操作位置(設定変速段S1)から自動的に2段階シフトダウンされるが、前記変速装置の設定変速段Sは2速以下にはならないように構成されている。
【0047】
また、ステップS4において、前記走行機体7の傾斜角度θが前記減速傾斜角度α以上で且つ前記停止傾斜角度βより小さい範囲内であることが検出されなかった場合には、ステップS11に進む。ステップS11では、減速制御フラグのON・OFFが確認され、減速制御フラグのON状態が検出された場合には、ステップS12に進む。
【0048】
ステップS12では、前記主変速レバーポテンショ22により検出された主変速レバー18の操作位置が示す設定変速段S1と、前記変速装置の変速段Sとが一致しているか否かが確認され、前記主変速レバー18の操作位置が示す設定変速段S1と、前記変速装置の変速段Sとが一致していることが検出された場合には、ステップS13に進む。ステップS13では、減速制御フラグがOFFにセットされ、その後、リターンする。
【0049】
なお、ステップS12において、前記主変速レバー18の操作位置が示す設定変速段S1と、前記変速装置の変速段Sとが一致していなかった場合と、ステップS11において、減速制御フラグのOFF状態が検出された場合には、その後、リターンする。
【0050】
すなわち、前記傾斜地走行制御は、前記主変速ソレノイド32により前記変速装置が自動的に減速切換された後は、前記走行機体7の左右傾斜角度θが減速傾斜角度αよりも小さくなるとともに、前記変速装置の変速段Sと、前記主変速レバー18の操作位置S1とが一致したことが検出された場合に、該傾斜地走行制御による変速装置の自動的な減速切換が解除(減速制御フラグがOFFにセット)されるように構成されている。
【0051】
また、ステップS2において、前記走行機体7の左右方向の傾斜角度が停止傾斜角度β以上であることが検出された場合には、ステップS14に進む。ステップS14では、緊急停止フラグのON・OFFが確認され、緊急停止フラグのOFF状態が検出された場合には、ステップS15に進む。
【0052】
ステップS15では、前記ブレーキソレノイド34や走行クラッチ36等を用いて前記走行機体7を走行停止されるとともに、前記前後進ソレノイド33によって前記変速装置(主変速レバー18)がニュートラル状態に操作され、緊急停止フラグをONにセットし、その後、リターンする。
【0053】
なお、ステップS14において、緊急停止フラグのON状態が検出された場合には、ステップS16に進む。ステップS16では、前記変速装置の変速段を、前記主変速レバー18の操作位置に応じて変速作動させて、その後、リターンする。
【0054】
すなわち、前記傾斜地走行制御は、前記左右傾斜センサ31により前記走行機体7の左右方向の傾斜角度θが停止傾斜角度βより大きくなったことが検出された場合には、前記走行機体7が自動的に停止されるように構成されている。これにより、前記報知手段37と合わせてオペレータに対して、走行機体の左右方向の傾斜角度が大きく傾斜していることを確実に報知することができる。
【0055】
また、該走行機体が自動的に停止された場合には、前記主変速レバー18の操作位置(設定変速段S1)がニュートラルの位置に操作されるため、該走行機体は、前記主変速レバー18の操作位置に応じて変速操作可能な状態となる。このため、オペレータは、前記走行機体7が傾斜地走行制御によって自動停止された後に、傾斜地から脱出する操作をスムーズに再開することができる。
【0056】
ちなみに、前記傾斜地走行制御は、前記主変速レバー18の操作位置を変えずに前記走行機体7が自動停止するように構成し、前記変速装置が自動的に減速方向に変速された場合と同様、前記変速装置の変速段S1と、前記主変速レバー18の操作位置とが一致したことを条件に、前記主変速レバー18に基づく走行再開が可能になるように構成しても良い。
【0057】
また、ステップS3において、緊急停止フラグがON状態であることが検出された場合には、ステップS17に進む。ステップS17では、緊急停止フラグをOFFにセットし、その後、リターンする。
【0058】
すなわち、前記傾斜地走行制御は、前記走行機体7が自動的に停車した後は、前記走行機体7の左右方向の傾斜角度θが停止傾斜角度βよりも小さくなる状態まで回復した場合に、前記変速装置が自動的に減速される制御が再開されるように構成されている。
【符号の説明】
【0059】
7 走行機体
18 主変速レバー(操作具)
22 主変速レバーポテンショ(操作位置検出センサ)
31 左右傾斜センサ(傾斜センサ)
32 主変速ソレノイド(アクチュエータ)
33 前後進ソレノイド(アクチュエータ)
36 走行クラッチ
37 ブレーキソレノイド(ブレーキ装置)
50 制御部