(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20240312BHJP
A61K 8/87 20060101ALI20240312BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/87
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2020061214
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】中野 千尋
(72)【発明者】
【氏名】河内 佑介
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/036283(WO,A1)
【文献】特表2017-533186(JP,A)
【文献】特開平04-295412(JP,A)
【文献】特開平09-002932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)を含む皮膚外用剤。
成分(A)キチンナノファイバー及び表面キトサン化キチンナノファイバーから選ばれる1種又は2種
成分(B)
ローカストビーンガム、タマリンドガム、及び疎水変性ポリエーテルウレタンから選ばれる1種または2種以上
【請求項2】
20℃条件下でpH3~8である請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
化粧料であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキチンナノファイバー及び表面キトサン化キチンナノファイバーを含む皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンやキトサンは優れた抗菌性、保湿性、生体適合性および安全性などが報告されており、従来、医用材料、医薬、化粧品、食品、繊維、農業、水処理等に利用されている。
【0003】
キチンやキトサンは、一般に水不溶性である上、適正な溶媒が少ないことによりその利用が制限されていたが、近年、キチンやキトサンをナノファイバー化することにより、比較的簡単に水系溶媒に均一に分散でき安定に配合可能となった。
【0004】
これらの利便性の改善に伴い、キチンナノファイバーやキトナンナノファイバーが保湿効果を目的として化粧料に利用されている。さらに、キチンナノファイバーやキトサンナノファイバーを用いることは、保湿効果以外にもアトピー性皮膚炎や褥瘡、火傷等の角層の損傷に対する治療・予防効果が報告されており、皮膚上皮の厚さを増加させることも示されている。(特許文献1)
【0005】
しかし、ナノファイバー化したキチンやキトサンは、一時的に水に分散させることは可能だが、経時で沈降・凝集する問題があった。
【0006】
このような分散安定性を解決する一般的な手段として高分子を併用することが考えられる。高分子は沈降抑制し、分散安定性を向上する他、しっとり感の付与、肌なじみを良くするために用いられることが知られている。しかし、ナノファイバー化したキチンやキトサンは、高分子を併用すると、凝集が生じやすいことが知られているため、配合することにより安定性が悪くなるといった課題があった。凝集は、ナノファイバー繊維同士のイオン的な結合や、高分子の繊維がキチンおよびキトサンの繊維と絡まるためと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の従来技術に鑑みてなされたものであり、特定の成分(A)を含みながらも、使用感および安定性に優れた皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明者は鋭意研究を行った結果、成分(A)キチンナノファイバー及び表面キトサン化キチンナノファイバーと成分(B)で示される特定の高分子を組み合わせる事によって、凝集がなく保存安定性に優れ、使用感に優れる皮膚外用剤を見出すことができた。
成分(B)について、具体的には、グルコース、ガラクトース、マンノースおよびキシロースからなる群から選ばれる1種以上の単糖で構成される水溶性増粘多糖類及び疎水変性ポリエーテルウレタンから選ばれる1種又は2種以上を配合した皮膚外用剤が、使用感および保存安定性に優れることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、キチンナノファイバーや表面キトサン化キチンナノファイバーを含みながらも使用感および保存安定性に優れた皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1はキチンナノファイバー又は表面キトサン化キチンナノファイバーの繊維幅および繊維長を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でいうナノファイバーとは、平均繊維幅をナノレベル(nm)まで高度に解繊維した微細繊維であり、平均繊維幅が2nmから 200nm、繊維長が100nm以上の繊維状物質である。
【0013】
本発明に用いられる成分(A)キチンナノファイバーは、特に限定されていないが、カニ殻などの甲殻から得られたキチンを超極細繊維の状態で取り出したキチンナノファイバー等が挙げられる。例えば、キチンナノファイバーを乾燥したものは、定量するとき、窒素(N:14.01)として6.5~8.5%を含むこと等が挙げられる。サイズとしては、例えば、平均繊維幅が2nmから 200nm、繊維長が1μm以上の繊維状物質であるもの等が挙げられる。市販品の例としては、製品名:マリンナノファイバーキチンNF(表示名:キチン/株式会社マリンナノファイバー社製)等が挙げられる。
【0014】
本発明に用いられる成分(A)表面キトサン化キチンナノファイバーは、特に限定されていないが、上記のキチンナノファイバーを加水分解して部分的に表面を脱アセチル化して得られるもの等が挙げられる。特に脱アセチル化度は限定されるものではないが、20%以上が好ましい。サイズとしては、例えば、平均繊維幅が2nmから 200nm、繊維長が1μm以上の繊維状物質であるもの等が挙げられる。市販品の例としては、製品名:マリンナノファイバー部分加水分解キチンNF(表示名:加水分解キチン/株式会社マリンナノファイバー社製)等が挙げられる。
【0015】
本発明の皮膚外用剤において、成分(A)は1種を選んで配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合しても良い。
【0016】
本発明の皮膚外用剤においては、ナノファイバーの配合量は特に限定されるものではないが、効果、使用感などの観点から0.001~0.8質量%とすることが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる成分(A)は、より分散性を高めるために、高圧処理等で機械的に解繊してもよい。
【0018】
本発明に用いられる成分(B)は、グルコース、ガラクトース、マンノースおよびキシロースからなる群から選ばれる1種以上の単糖で構成される水溶性増粘多糖類、または疎水変性ポリエーテルウレタンである。
【0019】
成分(B)は、基本的にはこれら4種以外の単糖を全く含まない多糖類の事を指すが、多糖類は天然由来の物もあるため、一部不純物程度にこれら以外の単糖も含むことができる。具体的には、多糖類中のこれら4種の単糖の構成率は95%以上、好ましくは98%以上を含むものとする。
【0020】
成分(B)を構成する単糖は一部置換基で置換されていても、されていなくても特に制限はないが、好ましくは置換基がない、もしくは水溶性を維持し、増粘性を有する範囲であれば、非イオン性の置換基で置換されていることが望ましい。
【0021】
成分(B)の水溶性増粘多糖類は、特に制限はされないが、水溶性の性質があり、水を増粘させることを特徴とする。さらに詳細には、単糖同士がグリコシド結合により結合した構造を有し、分岐の有無や重合度などは特に制限はない。
【0022】
成分(B)の具体例としてはローカストビーンガム、グアーガム、タラガム、プルラン、タマリンドガム等が挙げられ、これらの水溶性増粘多糖類であれば、使用感および保存安定性に優れた皮膚外用剤を提供することができる。
【0023】
成分(B)の疎水変性ポリエーテルウレタンは会合性増粘剤である。会合性増粘剤は、親水基部を骨格とし、末端に疎水性部分を持つコポリマーであり、水中でコポリマーの疎水性部分同士が会合し増粘作用を示すものをいう。このような会合性増粘剤は、水中でコポリマーの疎水性部分同士が会合し、親水部がループ状、ブリッジ状をなし、増粘作用を示す。
【0024】
疎水変性ポリエーテルウレタンは、特に限定されないが、例えば、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー、ビスステアリルPEG/PPG-8/6(SMDI/PEG-400)コポリマー等が挙げられる。
【0025】
本発明の皮膚外用剤において、成分(B)は1種を選んで配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合しても良い。
【0026】
本発明の皮膚外用剤において、成分(B)の配合量は特に限定されるものではないが、安定性や使用性などの観点から0.0005質量%~4質量%とすることが好ましい。特に好ましく0.001質量%~3質量%である。
【0027】
本発明に用いられるキチンナノファイバー又は表面キトサン化キチンナノファイバーの安定性や皮膚に対する安全性面を勘案すると、調製する皮膚外用剤は中性から弱酸性が好ましい。具体的には、pH3~8が好ましい。
【0028】
本発明の皮膚外用剤には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない質的、量的範囲内で、水、多価アルコール、低級アルコール、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、キレート剤、薬効成分、油剤、シリコーン、酸化防止剤、紫外線吸収剤、香料、色素等、通常化粧品や医薬部外品に用いられている成分も配合することができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0030】
実施例1~8および比較例1~11について、下記表1および2に示す処方の化粧水を用いて、保存安定性(凝集)、肌なじみの良さについて以下の評価方法により評価した。
[化粧水の製法]
表1および2に示す成分Cに成分Bを投入し、よく撹拌した後成分Aを追加投入して化粧水を得た。
【0031】
【表1】
*1 マリンナノファイバー(登録商標)部分加水分解キチンNF
【0032】
【表2】
*1 マリンナノファイバー(登録商標)部分加水分解キチンNF
【0033】
調製した化粧水の安定性について評価した。
[凝集の評価基準]
表1に示す実施例処方および表2に示す比較例処方で作製した化粧水を用い、室温で1日静置したときの外観について、以下の基準により評価した。
◎:凝集が全く見られない。
〇:わずかに凝集が見られるが、化粧料としての品質上問題ないレベルである。
△:凝集が見られ、化粧料としての品質上問題となるレベルである。
×:凝集が著しく、化粧料としての品質上問題となるレベルである。
[肌なじみの評価]
評価項目について、15名の専門パネルが評価し、以下の基準にて示した。
◎:11名以上が良いと評価した。
〇:7~10名が良いと評価した。
△:4~6名が良いと評価した。
×:良いと評価した人が3名以下。
【0034】
表2に示される比較例1の化粧水では、混合後に凝集および沈降が観察され、肌なじみも悪かった。
【0035】
表1の結果から、実施例1~8は、肌なじみが良く、安定性に優れていた。
【0036】
一方、表2に示される比較例2~5、11の化粧水では、肌なじみは良好であったが、凝集が観察された。成分(A)配合後、配合前に比べて濁りが生じた。比較例6~10では塗布時になじみが悪く、凝集も見られた。比較例3~6、9、10にあるような一般的な水溶性増粘多糖類ではキチン繊維との凝集が生じ、安定性が悪化する傾向がみられる。しかし、実施例1、2、5~8にあるグルコース、ガラクトース、マンノースおよびキシロースからなる群から選ばれる1種以上の単糖から構成される水溶性増粘多糖類を用いた場合は、成分(A)の保存安定性や使用性は劇的に向上することがわかった。
比較例2、7、8にあるような水溶性高分子であるコポリマーやクロスポリマーに関しても同様に、凝集が起こってしまう。しかし、実施例3、4の疎水変性ポリエーテルウレタンと併用することで成分(A)の保存安定性や使用性は劇的に向上することがわかった。
【0037】
このように多くの高分子は、より安定性が悪化するといった課題があったが本願請求の高分子であれば凝集が発生することなく、使用性を高める事が出来ている。
【0038】
常法にて、各処方の組成物を作製した。いずれの処方においても本発明の効果を奏することが確認された。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、キチンナノファイバー及び表面キトサン化キチンナノファイバーを含む安定性および使用感に優れた皮膚外用剤として利用できるものである。