(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240312BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240312BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240312BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240312BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240312BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20240312BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M4/525
H01M4/36 A
H01B1/10
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2020061753
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 紀正
(72)【発明者】
【氏名】川端 雄介
(72)【発明者】
【氏名】関谷 智仁
(72)【発明者】
【氏名】伊津 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓海
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009228(WO,A1)
【文献】特開2017-103060(JP,A)
【文献】特開2013-045515(JP,A)
【文献】特開2018-032621(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047566(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172106(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M4/00-4/62
H01B1/06、1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池と充電装置を備える全固体電池のシステムにおいて、
前記全固体電池に対し、2.8Vの電圧を上限とする充電を行い、
前記全固体電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有し、
前記正極は、正極活物質、固体電解質および導電助剤を含有する正極合剤の成形体を有し、
前記正極活物質はリチウムコバルト酸化物を含有し、
前記固体電解質は下記一般式(1)
Li
7-xPS
6-xCl
yBr
z (1)
〔前記一般式(1)中、x=y+z、1.0<x≦1.8、0.1≦z/y≦10.0で
ある〕
で表される硫化物系固体電解質であり、
前記正極合剤における前記正極活物質の含有量が50~80質量%であ
り、
前記負極は、負極活物質、固体電解質および導電助剤を含有する負極合剤の成形体を有し、
前記負極活物質はリチウムチタン酸化物を含有することを特徴とする全固体電池のシステム。
【請求項2】
前記全固体電池に対し、2.6Vの電圧を上限とする充電を行う請求項1に記載の全固
体電池のシステム。
【請求項3】
前記リチウムコバルト酸化物は、表面の少なくとも一部に、前記リチウムコバルト酸化
物と固体電解質との反応を抑制する反応抑制層を有している請求項1又は2に記載の全固
体電池のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量で出力特性に優れた全固体電池のシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型・軽量で、かつ高容量・高エネルギー密度の二次電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得るリチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池では、正極活物質にリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などのリチウム含有複合酸化物が用いられ、負極活物質に黒鉛などが用いられ、非水電解質として有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液が用いられている。
【0004】
そして、リチウムイオン二次電池の適用機器の更なる発達に伴って、リチウムイオン二次電池の更なる長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化が求められていると共に、長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化したリチウムイオン二次電池の信頼性も高く求められている。
【0005】
しかし、リチウムイオン二次電池に用いられている有機電解液は、可燃性物質である有機溶媒を含んでいるため、電池に短絡などの異常事態が発生した際に、有機電解液が異常発熱する可能性がある。また、近年のリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化および有機電解液中の有機溶媒量の増加傾向に伴い、より一層リチウムイオン二次電池の信頼性が求められている。
【0006】
以上のような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム二次電池(全固体電池)が注目されている。全固体電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いるものであり、固体電解質の異常発熱の虞がなく、高い安全性を備えている。
【0007】
特許文献1には、大気に触れた場合の硫化水素の発生を抑制でき、乾燥空気中に放置した場合においても高い導電性を維持可能なリチウムイオン電池用の固体電解質として、特定組成を有するアルジロダイト(Argurodite)型結晶構造の硫化物系固体電解質が提案されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、全固体電池においては、その適用分野が急速に拡大しており、例えば大きな電流値での放電が求められる用途への適用も考えられることから、これに応え得るように出力特性を高めることが求められる。
また、当該全固体電池を使用した全固体電池システムにおいても、全固体電池の能力が最大限使用できるようにすることが求められる。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高容量で出力特性に優れた全固体電池のシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の全固体電池のシステムは、前記全固体電池に対し、2.8Vの電圧を上限とする充電を行い、前記全固体電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有し、前記正極は、正極活物質、固体電解質および導電助剤を含有する正極合剤の成形体を有し、 前記正極活物質はリチウムコバルト酸化物を含有し、
前記固体電解質は下記一般式(1)
Li7-xPS6-xClyBrz (1)
〔前記一般式(1)中、x=y+z、1.0<x≦1.8、0.1≦z/y≦10.0である〕で表される硫化物系固体電解質であり、
前記正極合剤における前記正極活物質の含有量が50~80質量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高容量で出力特性に優れた全固体電池のシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の全固体電池のシステムに用いる全固体電池の一例を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の全固体電池のシステムに用いる全固体電池は、正極活物質、固体電解質および導電助剤を含有する正極合剤の成形体を有する正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有している。
【0015】
そして、本発明で使用する全固体電池においては、正極活物質としてリチウムコバルト酸化物を使用している。リチウムコバルト酸化物は真密度が高く、作動電位が高いため、正極活物質として用いることで体積当たりのエネルギー密度を高くすることができる。また、前記正極の固体電解質には、出力特性の高い特定の固体電解質(一般式(1)で表される)を使用する。更に、正極合剤中の正極活物質の含有量は特定量とし、高容量で高出力なバランスのとれた全固体電池を得ることが出来る。
【0016】
(正極)
全固体電池の正極は、正極活物質、固体電解質および導電助剤などを含む正極合剤の成形体を有するものであり、例えば、前記成形体のみからなる正極や、前記成形体と集電体とが一体化してなる構造の正極などが挙げられる。
【0017】
本発明においては、正極活物質にはリチウムコバルト酸化物を使用する。
【0018】
リチウムコバルト酸化物は、一般組成式(2)で表されるものを採用することが出来る。
LixCoyMzO2 (2)
〔前記一般式(2)中、Mは、Al、Mg、Ni、Mn、Na、Fe、Cu、Zr、Ti、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Ba、Nb、Si、Zn、Mo、V、Sn、Sb、Ta、Ge、Cr、K、SおよびErよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<0.1である〕
【0019】
このように、CoサイトやLiサイトに置換される元素を含むことで充放電時におけるリチウムコバルト酸化物の膨張収縮を抑制をすることが出来、充放電を繰り返すような場合でも、リチウムコバルト酸化物と固体電解質との接触が良好に維持され、内部抵抗を低く保ち得ることから出力特性を向上させることが出来る。
【0020】
特に、一般式(2)においてAlはCoサイトに置換される元素であり、MgやNiはLiサイトに置換される元素であり、ともに充電時におけるリチウムコバルト酸化物の膨張量を小さくする作用を有している。
【0021】
正極活物質には、リチウムコバルト酸化物のみを使用してもよく、リチウムコバルト酸化物と他の正極活物質とを併用してもよい。リチウムコバルト酸化物と併用し得る他の正極活物質としては、従来から知られているリチウムイオン二次電池に正極活物資として用いられているものと同様の、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質が挙げられる。ただし、正極活物質にリチウムコバルト酸化物と他の正極活物質とを併用する場合、全正極活物質中の、リチウムコバルト酸化物の割合を、60質量%以上とすることが好ましい。なお、正極活物質の全てをリチウムコバルト酸化物としてもよいため、全正極活物質中のリチウムコバルト酸化物の好適含有量の上限値は、100質量%である。
【0022】
正極活物質の平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。なお、正極活物質は一次粒子でも一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。平均粒子径が前記範囲の正極活物質を使用すると、固体電解質との界面を多くとれるため、電池の負荷特性がより向上する。
【0023】
本明細書でいう正極活物質の平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」など)を用いて、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(d50)を意味している。
【0024】
正極合剤における正極活物質の含有量は、50質量%以上であり80質量%以下である。 正極合剤における正極活物質の含有量は、多ければ多いほど容量が高くなるように思えるが、一方で正極活物質は充放電に伴って膨張収縮が生じ、そのたびに正極活物質と固体電解質との接点を維持することが出来ず出力特性が低下してしまうことがある。これは全固体電池に特有の問題である。
そこで、正極活物質に体積当たりのエネルギー密度が高いリチウムコバルト酸化物を用い、且つ正極合剤中における正極活物質の含有量を特定量以下にすると、高容量で高出力の全固体電池とできることを発明者らは見出した。
正極合剤における正極活物質の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、また、70質量%以下であることが好ましい。
そして、後述する一般式(1)で表される硫化物系固体電解質を正極の固体電解質として用いることで出力特性が相乗的に向上させることが出来る。
【0025】
正極活物質は、その表面に、固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有している。
【0026】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、正極活物質と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、TiおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbO3などのNb含有酸化物、Li3PO4、Li3BO3、Li4SiO4、Li4GeO4、LiTiO3、LiZrO3などが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、Nb含有酸化物を使用することが好ましく、LiNbO3を使用することがより好ましい。
【0027】
反応抑制層は、正極活物質:100質量部に対して0.1~1.0質量部で表面に存在することが好ましい。この範囲であればリチウムコバルト酸化物と固体電解質との反応を良好に抑制し、負荷特性の低下を防止することができる。
【0028】
正極活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法などが挙げられる。
【0029】
正極の固体電解質には、一般式(1)で表される硫化物系固体電解質を使用する。
【0030】
Li7-xPS6-xClyBrz (1)
〔前記一般式(1)中、x=y+z、1.0<x≦1.8、0.1≦z/y≦10.0である〕
一般式(1)で表される固体電解質は、全固体電池に使用可能な固体電解質の中でも特にイオン伝導性に優れており、電池の出力特性の向上に寄与することが出来る。また、正極のみならず、負極および固体電解質層にもこれを使用することで、電池の出力特性が更に向上する。
【0031】
正極には、一般式(1)で表される硫化物系固体電解質のみを使用してもよいが、当該硫化物系固体電解質と共に他の固体電解質も使用することができる。当該硫化物系固体電解質と併用可能な固体電解質としては、水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが挙げられる。
【0032】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH4、LIBH4と下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBH4とアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbiF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
酸化物系固体電解質としては、例えば、Li7La3Zr2O12、LiTi(PO4)3、LiGe(PO4)3、LiLaTiO3などが挙げられる。
【0034】
ただし、正極合剤に使用する固体電解質の全量中の、硫化物系固体電解質以外の固体電解質の割合は、30質量%以下とすることが好ましい。
【0035】
正極合剤における固体電解質の含有量は、全固体電池の出力特性をより高め、さらに、より高容量とする観点から、全固体電池用正極の正極合剤の成形体において、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、また、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
正極の導電助剤には、カーボンブラックなどの炭素材料を使用することができる。中でも、導電助剤として繊維状カーボンと粒状カーボンとを併用することで、正極合剤の成形体内で良好な導電ネットワークを形成できるようにしており、これにより、正極合剤の成形体として電池の高容量化を図りつつ、優れた負荷特性の確保も可能としている。
全固体電池用正極の導電助剤として導電助剤として繊維状カーボンと粒状カーボンとを併用する時、使用する繊維状カーボンは、繊維長と繊維径(繊維の直径)との比が、20以上のものであることが好ましい。繊維状カーボンの繊維長は、3~600μmであることがより好ましく、また、繊維径は、1~300nmであることが更に好ましい。
【0037】
本明細書でいう繊維状カーボンの繊維長および繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、カーボンを30000倍で観察した画像において、輪郭が確認できる繊維を50個選択し、選択した繊維について二点間法で粒径を測定し、全繊維の平均値(数平均)を算出することで求められる値である。
【0038】
繊維状カーボンの具体例としては、気相成長炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどが挙げられる。繊維状カーボンには、前記例示のもののうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
全固体電池用正極の導電助剤として導電助剤として繊維状カーボンと粒状カーボンとを併用する時の粒状カーボンは、一次粒子の状態で、最長径の長さと最短径の長さとの比が、1~1.3のものであることが好ましい。また、粒状カーボンの平均粒子径は、10nm~1000nmであることが好ましい。
【0040】
本明細書でいう粒状カーボンの一次粒子の粒子径は、以下のようにして求められる値である。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、カーボンを30000倍で観察した画像において、輪郭が確認できる粒子を50個選択し、選択した粒子について二点間法で最長径および最短径を測定する。そして、粒状カーボンの最長径は、測定した全最長径の平均値(数平均)であり、最短径は、測定した全最短径の平均値(数平均)である。また、粒状カーボンの平均粒子径は、前記のようにして求めた最長径(全最長径の平均値)である。
【0041】
粒状カーボンの具体例としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン(単層グラフェン、多層グラフェン)などの高結晶性の炭素材料;カーボンブラックなどの低結晶性の炭素材料;などが挙げられる。
【0042】
全固体電池用正極の導電助剤として導電助剤として繊維状カーボンと粒状カーボンとを併用する時、粒状カーボンとしては、親水性部分を10質量%以上の割合で含むものを使用することが好ましい。親水性部分を10質量%以上の割合で含む粒状カーボンを使用することで、正極合剤の成形体の空隙率を低くて密度を大きくすることがより容易となる。また、後述するように、粒状カーボンは繊維状カーボンと複合体を形成していることがより好ましいが、親水性部分を10質量%以上の割合で含む粒状カーボンを使用することで、繊維状カーボンとの複合体形成もより容易となる。
【0043】
本明細書でいう粒状カーボンにおける「親水性部分」は、以下の通りである。pH=11のアンモニア水溶液:20mLに粒状カーボン:0.1gを添加して1分間の超音波照射を行い、得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させる。このときに沈殿せずに液相部分(上澄み液)に分散している部分が、「親水性部分」に該当する。
【0044】
また、本明細書でいう「親水性部分」の粒状カーボン全量中の割合は、以下の方法によって求められる値である。前記固相部分の沈殿後の前記液から上澄み液を除去し、残りの部分を乾燥させて、乾燥後の固体の重量を測定する。得られた重量を最初に添加した粒状カーボンの重量:0.1gから差し引いた値が、上澄み液中に分散している「親水性部分」の重量となる。そして、「親水性部分」の重量を最初に添加した粒状カーボンの重量:0.1gで除して百分率で表した値が、「親水性部分」の粒状カーボン全量中の割合に該当する。
【0045】
なお、親水性部分の割合が10質量%以上の粒状カーボンの場合、正極合剤の成形性をより高める観点から、一次粒子の平均粒子径が、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、一方、親水性部分の割合を高めやすいことから、親水性部分の割合が10質量%以上の粒状カーボンの場合の一次粒子の平均粒子径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。
【0046】
リチウムイオン二次電池などの電池の電極において、導電助剤として一般に使用されている黒鉛やカーボンブラック、カーボンナノチューブなどの導電性カーボンは、親水性部分の割合が5質量%以下である。このような導電性カーボンの粒子に酸化処理を施すことにより、ヒドロキシ基やカルボキシ基、エーテル結合などが導入され、また、カーボンの共役二重結合が酸化されて単結合となり、部分的に炭素間結合が切断されることで、親水性部分が生成するため、親水性部分の割合が前記の値を満たす粒状カーボンを得ることができる。
【0047】
親水性部分の割合が前記の値を満たす粒状カーボンの粒子のより具体的な製造方法としては、例えば、空隙を有するカーボン原料(多孔質炭素粉末、ケッチェンブラック、空隙を有するファーネスブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなど)を使用し、これを酸(硝酸、硝酸硫酸混合物、次亜塩素酸水溶液など)で処理した後、遷移金属化合物(遷移金属のハロゲン化物、遷移金属の無機塩、遷移金属の有機塩など)と混合し、この混合物をメカノケミカル反応させ、反応後の生成物を非酸化雰囲気下(窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下など)で加熱し、加熱後の生成物から遷移金属化合物や遷移金属化合物の反応生成物を酸で溶解させるなどして除去し、洗浄および乾燥する方法が挙げられる。
【0048】
また、前記の空隙を有するカーボン原料を前記の遷移金属化合物と混合し、これを酸化雰囲気下(空気下などの酸素含有雰囲気下)で加熱し、加熱後の生成物から遷移金属化合物や遷移金属化合物の反応生成物を酸で溶解させるなどして除去し、洗浄および乾燥する方法によっても、親水性部分の割合が前記の値を満たす粒状カーボンを得ることができる。
【0049】
なお、親水性部分の割合が前記の値を満たす粒状カーボンの製造方法および条件の詳細は、国際公開第2015/133586号に開示されており、その記載に従って製造すればよい。
【0050】
なお、繊維状カーボンは凝集しやすく、正極合剤の調製時に正極活物質などと混合しても解砕されずに凝集したままで存在することが多い。このような電極合剤を用いると、凝集した繊維状カーボンが嵩高いために、空隙が少なく密度が大きい正極合剤の成形体を形成し難くなる。よって、繊維状カーボンは粒状カーボンと複合化した複合体として使用することが好ましい。繊維状カーボンは粒状カーボンと複合体を形成していると、繊維状カーボンの表面に付着している粒状カーボンによって繊維状カーボンの凝集が抑制される。これにより、例えば空隙率が低く、密度が大きい正極合剤の成形体の形成が容易となる。
【0051】
繊維状カーボンと粒状カーボンとの複合体は、後述するように、繊維状カーボンと粒状カーボンとを乾式混合することによって得ることができる。
【0052】
正極合剤の成形体で「繊維状カーボンと粒状カーボンとの複合体」を使用しているか否かは、例えば、粒状カーボンが前述した低結晶性のものである場合、以下の方法で判断できる。電池から正極合剤の成形体を取り出し、顕微ラマン分光法で正極の断面をマッピング測定(測定範囲:80×80μm、2μmステップ)する。繊維状カーボンおよび粒状カーボンは、いずれも1340cm-1および1590cm-1の位置にピークが観測されるが、繊維状カーボンは1340cm-1のピーク強度が粒状カーボンと比べ1/10~1/5程度である。よって、繊維状カーボンと粒状カーボンとが別個に存在している場合には、1340cm-1のピーク強度を観測することで、どちらのカーボンであるかを判別することができる。そして、繊維状カーボンと粒状カーボンが複合体を形成している場合には、1340cm-1のピーク強度が粒状カーボンと比べ1/3~3/4程度となるため、観察しているカーボンが繊維状カーボンと粒状カーボンの複合体であることを判別できる。
【0053】
全固体電池用正極における正極合剤の成形体において、繊維状カーボンと粒状カーボンとの割合は、繊維状カーボンの凝集をより良好に抑制する観点から、繊維状カーボン100質量部に対して、粒状カーボンが、10質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましい。また、導電助剤全体の比表面積を制限して、正極合剤の成形体での硫化物系固体電解質の酸化をより良好に抑制する観点からは、繊維状カーボンと粒状カーボンとの割合は、繊維状カーボン100質量部に対して、粒状カーボンが、100質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。
【0054】
正極合剤の成形体から繊維状カーボンと粒状カーボンの割合は以下の方法で判別することができる。電池から電極積層体を取り出して、精密ナイフで正極合剤の成形体のみを分離する。分離した正極合剤の成形体をイオン交換水中に入れた後、ここにイオン交換水と同量のトルエンを加えて超音波処理を施す。この処理を施した液は、粒状カーボンを含む水相と、繊維状カーボンを含むトルエン相とに分離する。この液から水相とトルエン相とを分液する。これによって得られた水相について、50,000Gの遠心加速度で遠心分離を行い、上澄みをイオン交換水で置換する操作を3回繰り返した後に、残った試料を乾燥させて固形分を回収し、その質量Y(mg)を測定する。次に、質量Yを測定した固形分について、空気雰囲気下で熱重量(TG)分析を行い、120℃から700℃にかけての質量の変化量を求め、これを正極合剤中の粒状カーボンの質量Z(mg)とする。
【0055】
これによって得られたトルエン層について50,000Gの遠心加速度で遠心分離を行い、上澄みをトルエンで置換する操作を3回繰り返した後に、残った試料を乾燥させて固形分を回収し、その質量(mg)を測定する。次に、質量Wを測定した固形分について、空気雰囲気下で熱重量(TG)分析を行い、120℃から800℃にかけての質量の変化量を求め、これを正極合剤中の繊維状カーボンの質量X(mg)とする。
【0056】
さらに、YからZを引いて正極合剤中の正極活物質の質量P(mg)を算出することができる。
【0057】
全固体電池用正極の正極合剤の成形体において、導電助剤の総量は、1~10質量%であることが好ましい。
【0058】
正極合剤には、樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは正極合剤中において抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、正極合剤においては、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合にはその含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。正極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0059】
正極に集電体を使用する場合、その集電体としては、アルミニウムやステンレス鋼などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0060】
正極合剤の成形体は、例えば、正極活物質、固体電解質および導電助剤、さらには非膣用に応じて添加されるバインダなどを混合して調製した正極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。
【0061】
集電体を有する正極の場合には、前記のような方法で形成した正極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0062】
正極合剤の成形体の厚み(集電体を有する正極の場合は、集電体の片面あたりの正極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、正極合剤の成形体の厚みは、通常、2000μm以下である。
【0063】
(負極)
全固体電池の負極は、負極活物質であるリチウムチタン酸化物、固体電解質および導電助剤などを含む負極合剤の成形体を有するものであり、例えば、前記成形体のみからなる負極や、前記成形体と集電体とが一体化してなる構造の負極などが挙げられる。
【0064】
リチウムチタン酸化物としては、例えば、下記一般組成式(3)で表されるものが挙げられる。
【0065】
Li[Li1/3-aM1
sTi5/3-tM2
t]O4 (3)
【0066】
前記一般組成式(3)中、M1は、Na、Mg、K、Ca、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、M2は、Al、V、Cr、Fe、Co、Ni、Zn、Ym、Zr、Nb、Mo、TaおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦s<1/3、0≦t<5/3である。
【0067】
すなわち、前記一般組成式(3)で表されるリチウムチタン酸化物においては、Liのサイトの一部が元素M1で置換されていてもよい。ただし、前記一般組成式(3)において、元素M1の比率を表すsは、1/3未満であることが好ましい。前記一般組成式(3)で表されるリチウムチタン酸化物において、Liは元素M1で置換されていなくてもよいため、元素M1の比率を表すsは0でもよい。
【0068】
また、前記一般組成式(3)で表されるリチウムチタン酸化物において、元素M2はリチウムチタン酸化物の電子伝導性を高めるための成分であり、元素M2の比率を表すtが、0≦t<5/3である場合には、その電子伝導性向上効果を良好に確保することができる。
【0069】
負極活物質には、リチウムイオン二次電池などで使用されているリチウムチタン酸化物以外の負極活物質を、リチウムチタン酸化物とともに使用することもできる。ただし、負極活物質全量中のリチウムチタン酸化物以外の負極活物質の割合は、30質量%以下であることが好ましい。
【0070】
負極合剤における負極活物質の含有量は、全固体電池の出力特性を高め、さらに、より高容量とする観点から、40質量%以上であり、45質量%以上であることが好ましく、また、60質量%以下であり、55質量%であることが好ましい。
【0071】
負極の固体電解質には、硫化物系固体電解質を使用するのが好ましい。硫化物系固体電解質は、全固体電池に使用可能な固体電解質の中でも特にイオン伝導性に優れており、前記の通り、負極のみならず、正極および固体電解質層にもこれを使用することで、電池の出力特性が向上する。
【0072】
硫化物系固体電解質には、正極に使用し得る固体電解質として先に例示したものと同じものを使用することがより好ましい。
【0073】
負極には、硫化物系固体電解質のみを使用してもよいが、硫化物系固体電解質と共に他の固体電解質も使用することができる。硫化物系固体電解質と併用可能な固体電解質としては、正極に使用し得るものとして先に例示したものと同じ水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが挙げられる。
【0074】
ただし、負極合剤に使用する固体電解質の全量中の、硫化物系固体電解質以外の固体電解質の割合は、30質量%以下とすることが好ましい。
【0075】
負極合剤における固体電解質の含有量は、全固体電池の出力特性をより高め、さらに、より高容量とする観点から、負極活物質の含有量を100質量部としたときに、50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることがさらに好ましく、また、130質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましく、110質量部以下であることがさらに好ましい。
【0076】
負極の導電助剤には、カーボンブラックなどの炭素材料を使用することができる。負極合剤における導電助剤の含有量は、全固体電池の出力特性をより高め、さらに、より高容量とする観点から、負極活物質の含有量を100質量部としたときに、10質量部以上であることが好ましく、12質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましく、また、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、22質量部以下であることがさらに好ましい。
【0077】
負極合剤には、樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは負極合剤中においても抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、負極合剤においても、正極合剤と同様に、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合にはその含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。負極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0078】
負極に集電体を用いる場合、その集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0079】
負極合剤の成形体は、例えば、負極活物質、固体電解質および導電助剤、さらには非膣用に応じて添加されるバインダなどを混合して調製した負極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。
【0080】
集電体を有する負極の場合には、前記のような方法で形成した負極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0081】
負極合剤の成形体の厚み(集電体を有する負極の場合は、集電体の片面あたりの正極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。なお、電池の出力特性は、一般に正極や負極を薄くすることで向上しやすいが、本発明によれば、負極合剤の成形体が200μm以上と厚い場合においても、その出力特性を高めることが可能である。よって、本発明においては、負極合剤の成形体の厚みが例えば200μm以上の場合に、その効果がより顕著となる。そして、本発明においては、正極合剤の成形体の厚みが200μm以上であり、かつ負極合剤の成形体の厚みが200μm以上である場合に、その効果が特に顕著となる。また、負極合剤の成形体の厚みは、通常、3000μm以下である。
【0082】
(固体電解質層)
全固体電池の固体電解質層における固体電解質にも、硫化物系固体電解質を使用するのが好ましい。硫化物系固体電解質は、全固体電池に使用可能な固体電解質の中でも特にイオン伝導性に優れており、前記の通り、固体電解質層のみならず、正極および負極にもこれを使用することで、電池の出力特性が向上する。
【0083】
硫化物系固体電解質には、正極に使用し得る固体電解質として先に例示したものと同じものを使用することがより好ましい。
【0084】
固体電解質層には、硫化物系固体電解質のみを使用してもよいが、硫化物系固体電解質と共に他の固体電解質も使用することができる。硫化物系固体電解質と併用可能な固体電解質としては、正極に使用し得るものとして先に例示したものと同じ水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが挙げられる。
【0085】
ただし、固体電解質層に使用する固体電解質の全量中の、硫化物系固体電解質以外の固体電解質の割合は、30質量%以下とすることが好ましい。
【0086】
固体電解質層は、固体電解質を溶媒に分散させて調製した固体電解質層形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行うことで形成することができる。
【0087】
固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0088】
固体電解質層の厚みは、15~300μmであることが好ましい。
【0089】
(電極体)
正極と負極とは、固体電解質層を介して積層した積層電極体や、さらにこの積層電極体を巻回した巻回電極体の形態で、電池に用いることができる。
【0090】
なお、電極体を形成するに際しては、正極と負極と固体電解質層とを積層した状態で加圧成形することが、電極体の機械的強度を高める観点から好ましい。
【0091】
(電池の形態)
本発明の全固体電池の一例を模式的に表す断面図を
図1に示す。
図1に示す電池1は、外装缶40と、封口缶50と、これらの間に介在する樹脂製のガスケット60で形成された外装体内に、正極10、負極20、および正極10と負極20との間に介在する固体電解質層30が封入されている。
【0092】
封口缶50は、外装缶40の開口部にガスケット60を介して嵌合しており、外装缶40の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット60が封口缶50に当接することで、外装缶40の開口部が封口されて素子内部が密閉構造となっている。
【0093】
外装缶および封口缶にはステンレス鋼製のものなどが使用できる。また、ガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0094】
全固体電池の形態は、
図1に示すような、外装缶と封口缶とガスケットとで構成された外装体を有するもの、すなわち、一般にコイン形電池やボタン形電池と称される形態のものに限定されず、例えば、樹脂フィルムや金属-樹脂ラミネートフィルムで構成された外装体を有するものや、金属製で有底筒形(円筒形や角筒形)の外装缶と、その開口部を封止する封止構造とを有する外装体を有するものであってもよい。
【0095】
本発明の全固体電池は、従来から知られている二次電池と同様の用途に適用し得るが、有機電解液に代えて固体電解質を有していることから耐熱性に優れており、高温に曝されるような用途に好ましく使用することができる。
【0096】
<全固体電池のシステム>
本発明の全固体電池のシステムは、本発明の全固体電池と充電装置とを備えており、前記全固体電池に対し、前記充電装置により加えられる電圧の上限値が2.8V以下(好ましくは2.5V以上)となる条件で充電するものである。これによりかかるシステムに使用する全固体電池が高容量で良好な出力特性を発揮させることができる。本発明の全固体電池のシステムに係る充電装置については、終止電圧を2.8V以下(好ましくは2.5V以上)とする条件で全固体電池の充電を実施可能なものであればよく、従来から知られている全固体電池用の充電装置、例えば、定電流充電後に定電圧充電を行うことのできる充電装置や、パルス充電を行うことのできる充電装置などを使用することができる。
【0097】
本発明の全固体電池のシステムは、従来から知られている二次電池や二次電池のシステムと同様の用途に適用し得るが、有機電解液に代えて固体電解質を有していることから耐熱性に優れており、高温に曝されるような用途に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0099】
実施例1
<正極の作製>
一次粒子の平均粒子径が200nmで、2nm以下の細孔を有するカーボンブラック:9質量部と、Co(CH3COO)2・4H2O:99.6質量部と、LiOH・H2O:32質量部とを蒸留水中で混合し、1時間攪拌した後、混合液をろ過してカーボンブラックを含む混合物を得た。
【0100】
次に、前記混合物にLiOH・H2O:30質量部を加え、エバポレーターを用い、空気中250℃で30分間加熱して、カーボンブラックにリチウムコバルト化合物が担持された複合体を得た。この複合体を、濃度98%の濃硫酸、濃度70%の濃硝酸および濃度30%の塩酸の体積比が1:1:1の混合水溶液に投入し、超音波を照射させて複合体中のリチウムコバルト化合物を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。
【0101】
前記混合水溶液によるリチウムコバルト化合物の溶解と、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返すことにより、リチウムコバルト化合物を完全に取り除き、10質量%以上の割合で親水性部分を含む粒状カーボンを得た。得られた粒状カーボンは、一次粒子の状態で最長径の長さと最短径の長さとの比が1.1で、粒状カーボンの一次粒子の平均粒子径が200nmであった。
【0102】
カーボンナノチューブ〔昭和電工社製「VGCF(商品名)」,繊維状カーボン,繊維長と繊維径との比が30以上〕と、前記粒状カーボンとを、遊星ボールミルを用いて、質量比で2:1の割合で60分間乾式混合して、繊維状カーボンと粒状カーボンとの複合体を得た。
【0103】
平均粒子径5μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2(正極活物質)と、平均粒子径が3μmのアルジロダイト型構造を有する硫化物固体電解質(Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8)と、前記繊維状カーボンと粒状カーボンとの複合体(導電助剤)とを、質量比で65:31:4の割合で混合して、正極合剤を調製した。
次に、前記正極合剤:110mgを直径:10mmの粉末成形金型に入れ、プレス機を用いて加圧成形を行い、円柱形状の正極合剤成形体よりなる正極を作製した。なお、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の表面のLiNbO3からなる層の量は、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して0.5質量部であった。
【0104】
<固体電解質層の形成>
次に、前記粉末成形金型内の前記正極合剤成形体の上に、前記硫化物固体電解質:15mgを投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、前記正極合剤成形体の上に固体電解質層を形成した。
【0105】
<負極の作製>
平均粒子径7μmのチタン酸リチウム(Li4Ti5O12、負極活物質)と前記硫化物固体電解質と導電助剤であるカーボンナノチューブ〔昭和電工社製「VGCF」(商品名)〕とを質量比で50:41:9の割合で混合し、よく混練して負極合剤を調製した。次に、前記負極合剤:140mgを前記粉末成形金型内の前記固体電解質層の上に投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、前記固体電解質層の上に負極合剤成形体よりなる負極を形成することにより、正極、固体電解質層および負極が積層された積層体を作製した。
【0106】
住友電工株式会社製の銅製発泡基材〔銅製のセルメット(商品名)、厚み:1mm、空孔率:97%〕を6mmφの大きさに打ち抜き、ステンレス鋼製の封口缶の内底面上に配置し、その上に前記正極/固体電解質層/負極の積層体を負極が前記基材側となるようにして重ね、更に、前記と同じ大きさに打ち抜いた住友電工株式会社製のアルミニウム製発泡基材〔アルミニウム製のセルメット(商品名)、厚み:1mm、空孔率:97%〕を前記積層体の正極の上に載せた後、ステンレス鋼製の外装缶をかぶせて封止を行うことにより、扁平形全固体電池を作製した。
この扁平型全固体電池について充放電装置(電池を充電および放電させるための装置)と組み合わせて、充電上限電圧を2.6Vとする全固体電池のシステムを構成した。
【0107】
実施例2
正極合剤における正極活物質と硫化物系固体電解質と導電助剤との比率を、質量比で50:44:6に変更した以外は実施例1と同様にして扁平形全固体電池を作製し、この扁平型全固体電池を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池のシステムを構成した。
【0108】
実施例3
正極合剤における正極活物質と硫化物系固体電解質と導電助剤との比率を、質量比で80:18:2に変更した以外は実施例1と同様にして扁平形全固体電池を作製し、この扁平型全固体電池を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池のシステムを構成した。
【0109】
実施例4
実施例1と同様にして、扁平型全固体電池を作成した。この扁平型全固体電池について充放電装置(電池を充電および放電させるための装置)と組み合わせて、充電上限電圧を2.8Vとする全固体電池のシステムを構成した。
【0110】
実施例5
正極合剤における正極活物質を、平均粒子径5μmでのLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2(表面にLiNbO3からなる層を有さないもの)を使用した以外は、実施例1と同様にして扁平形全固体電池を作製した。この扁平型全固体電池を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池のシステムを構成した。
【0111】
比較例1
正極合剤における正極活物質と硫化物系固体電解質と導電助剤との比率を、質量比で45:49:6に変更した以外は実施例1と同様にして扁平形全固体電池を作製した。この扁平型全固体電池を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池のシステムを構成した。
【0112】
比較例2
正極合剤における正極活物質と硫化物系固体電解質と導電助剤との比率を、質量比で85:13:2に変更した以外は実施例1と同様にして扁平形全固体電池を作製した。この扁平型全固体電池を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池のシステムを構成した。
【0113】
比較例3
正極合剤における固体電解質にLi7.0PS5.4Cl1.2を使用した以外は実施例1と同様にして扁平形全固体電池を作製した。この扁平型全固体電池を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池のシステムを構成した。
【0114】
比較例4
実施例1と同様にして、扁平型全固体電池を作成した。この扁平型全固体電池について充放電装置(電池を充電および放電させるための装置)と組み合わせて、充電上限電圧を3.0Vとする全固体電池のシステムを構成した。
【0115】
実施例および比較例の全固体電池のシステムについて、下記の方法で初期容量測定および出力特性評価を行った。
【0116】
<初期容量測定>
実施例および比較例の各全固体電池のシステムについて、0.02Cの電流値で電圧がそれぞれの全固体電池のシステムにおける充電上限値電圧なるまで定電流充電し、続いて電流値が0.002Cになるまで定電圧充電を行い、その後に0.02Cの電流値で電圧が1Vになるまで放電させて、そのときの放電容量(初期容量)を測定した。
【0117】
<出力特性評価>
実施例および比較例の各全固体電池のシステムについて、初期容量測定時と同じ条件で定電流充電および定電圧充電を行い、その後に0.2Cの電流値で電圧が1Vになるまで放電させて、このときの放電容量(0.2C放電容量)を測定した。
【0118】
そして、各電池について、0.2C放電容量を初期容量で除した値を百分率で表して容量維持率を求め、出力特性を評価した。
【0119】
<貯蔵後の出力特性評価>
実施例および比較例の各全固体電池のシステムについて、初期容量測定時と同じ条件で定電流充電および定電圧充電を行って初期容量測定を行い、その後それぞれの全固体電池のシステムにおける全固体電池を85℃で5時間貯蔵した。その後に各電池の温度を室温に戻してから、その後に0.2Cの電流値で電圧が1Vになるまで放電させて、このときの放電容量(貯蔵後0.2C放電容量)を測定した。
そして、各電池について、貯蔵後の0.2C放電容量を初期容量で除した値を百分率で表して貯蔵後の出力特性を評価した。
【0120】
【0121】
表1に示す通り、正極合剤中の正極活物質の量を特定範囲にし、正極の固体電解質に特定組成の硫化物系固体電解質を用いることで、出力特性および容量の高い全固体電池となり、また本発明の全固体電池のシステムにおいて充電上限電圧を特定することでその全固体電池が高容量で良好な出力特性を発揮させることが出来ることがわかる。
【符号の説明】
【0122】
1 全固体電池
10 正極
20 負極
30 固体電解質層
40 外装缶
50 封口缶
60 ガスケット