IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セメント急結剤、及びセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20240312BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240312BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240312BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240312BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C04B22/08 Z
C04B28/02
C04B22/14 B
C04B22/14 A
C04B22/10
C04B22/06 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020072463
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021169385
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-11-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】江 詩唯
(72)【発明者】
【氏名】荒野 憲之
(72)【発明者】
【氏名】室川 貴光
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-086989(JP,A)
【文献】特開2006-016261(JP,A)
【文献】特開2007-137745(JP,A)
【文献】国際公開第2013/077378(WO,A1)
【文献】特開平10-265247(JP,A)
【文献】特開平08-091896(JP,A)
【文献】特開平06-115986(JP,A)
【文献】特開2018-177597(JP,A)
【文献】特開昭63-112448(JP,A)
【文献】特開昭55-121932(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0025613(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3CaO・Al(CA)を含むCA含有粉末と、
12CaO・7Al(C12)を含むC12含有粉末と、を含む、
セメント急結剤であり、
前記C12の非晶質化率が、50質量%以上であり、
前記C A含有粉末及び前記C 12 含有粉末の少なくとも一方のブレーン比表面積が2,000cm /g~9,000cm /gである、セメント急結剤。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント急結剤であって、
前記CA含有粉末は、主成分として前記CAを含み、前記C12含有粉末は、主成分としてC12を含む、セメント急結剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメント急結剤であって、
前記セメント急結剤に含まれる前記CA含有粉末及び前記C12含有粉末の合計を100質量%としたとき、CAの含有量は、1質量%以上40質量%以下である、セメント急結剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント急結剤であって、
前記セメント急結剤に含まれる前記CA含有粉末及び前記C12含有粉末の合計を100質量%としたとき、MgOの含有量が、5質量%以下である、セメント急結剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント急結剤であって、
下記の手順で得られる、温度上昇率が2.6以上5.0以下である、セメント急結剤。
(手順)
室温20℃、相対湿度90%の環境下、当該セメント急結剤20g、及び水100gを30秒混合して、120gのサンプルを、プラスチック製容器中に作製する。作製直後の前記サンプルの初期温度をTとし、作製後から30分後の温度をT30としたとき、前記温度上昇率について、式(T30-T)/Tから算出する。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセメント急結剤であって、
前記CAの非晶質化率が、60質量%以下である、セメント急結剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のセメント急結剤であって、
硫酸カルシウム、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれる一又は二以上を含む、セメント急結剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセメント急結剤であって、
粉末状の、セメント急結剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のセメント急結剤と、
セメントと、を含む、セメント組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のセメント組成物であって、
吹付け材料に用いる、セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント急結剤、及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでセメント急結剤について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、吹付け材料中の急結剤について、カルシウムアルミネートとしてC12を含むものが記載されている(表3中のCAb、CAe等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2005/019131号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の急結剤において、急結性及び吹付け性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
セメント急結剤中のカルシウムアルミネート成分として、通常、凝結までの時間が短い点で急結性に優れる12CaO・7Al(C12)が単独で使用されることが多い。
しかしながら、本発明者の検討によれば、C12を単独で使用した場合、初期凝結が比較的遅いため、例えば吹付け材料に適用したときにリバウンドが発生する恐れがあることが判明した。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、セメント急結剤において、CA含有粉末とC12含有粉末とを含む混合物を用いることによって、セメント組成物に用いたときの急結性及び吹付け性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
3CaO・Al(CA)を含むCA含有粉末と、
12CaO・7Al(C12)を含むC12含有粉末と、を含む、
セメント急結剤が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
上記のセメント急結剤と、セメントと、を含む、セメント組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セメント組成物に用いたときの急結性及び吹付け性に優れたセメント急結剤、及びセメント組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態のセメント急結剤を概説する。
【0010】
セメント急結剤は、3CaO・Al(CAと略記)を含むCA含有粉末と、12CaO・7Al(C12と略記)を含むC12含有粉末と、を含む。
【0011】
このセメント急結剤は、セメントコンクリートを形成するために用いる急結剤に使用される。ここで、セメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、又はコンクリートを総称するものである。
【0012】
本発明者の知見によれば、セメント急結剤において、CA含有粉末とC12含有粉末とを含む混合物を用いることによって、セメント組成物に用いたときの急結性及び吹付け性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
詳細なメカニズムは定かでないが、C12は反応率の増進に優れており、一方のCAはC12よりも反応速度が早いため、これらを併用することによって、凝結までの時間が短くなり、初期凝結が比較的早くなることでリバウンドの発生が抑制されるため、急結性と吹付け性とのバランスを図ることができる、と考えられる。
【0014】
本発明者は、次のサンプルA~Cを作製し、これを用いて、以下の手順で温度上昇を経時的に測定した。
(セメント急結剤)
・セメント急結剤A:CA高含有クリンカの粉砕品
・セメント急結剤B:非晶質C12高含有クリンカの粉砕品
・セメント急結剤C:サンプルA、Bの混合品(サンプルA:サンプルBの混合比が質量換算で15:85)
(手順)
・室温20℃、相対湿度90%の環境下、セメント急結剤A~C20g、及び水100gを30秒混合して、120gのサンプルA~C(ペースト)を、プラスチック製容器中に作製した。混合にはスパチュラを用いた。
・作製直後の各サンプルA~Cの初期温度をTとし、調整後からX分後の温度をTとしたとき(Xは1~30のいずれかの整数でよい。)、温度上昇率について、式(T-T)/Tから算出した。温度測定には、サンプルA~Cに熱電対を差し、その温度変化を1分おきに計測した。
【0015】
上記の手順で得られた温度上昇率の結果、5分経過後の(T-T)/Tは、サンプルAがサンプルBよりも大きい値であった。このことから、CAはC12よりも初期凝結が早いことが推察される。また、5分経過後の(T-T)/Tは、サンプルCは、サンプルAと同程度かそれ以上であった。このことから、CAとC12とを併用することで、初期凝結の効果が得られることが推察される。
一方、30分経過後の(T30-T)/Tは、サンプルCが、サンプルA及びサンプルBの両方よりも高い値を示した。このことから、CAとC12とを併用することで、優れた急結性の効果が得られることが推察される。
【0016】
本実施形態のセメント急結剤において、上記の手順で得られるT、T30を用い、式(T30-T)/Tから算出される温度上昇率の下限は、例えば、2.6以上、好ましくは2.7以上、より好ましくは2.9以上である。これにより、急結性を向上できる。上記温度上昇率の上限は、特に限定されないが、例えば、5.0以下でもよく、4.5以下でもよい。
【0017】
本実施形態によれば、急結性及び吹付け性に優れたセメント急結剤を実現できる。
【0018】
セメント凝結剤は、CA含有粉末とC12含有粉末とを含む混合物で構成されており、C12の含有分の一部をCAで適切な範囲内で置換可能である。2種の粉末を用いることで、一つのクリンカ中の鉱物組成の組成比率を調整する場合と比べて、比較的容易にかつ安定的に置換比率を制御できる。このため、セメント急結剤の急結性及び吹付け性を安定的に発揮させることができる。
【0019】
本実施形態のセメント急結剤は、各種の用途に用いることができるが、例えば、吹付け用急結剤として、コンクリートの吹付けに使用する吹付け材料を構成成分の一部に使用してもよい。
【0020】
以下、本実施形態のセメント急結剤を詳述する。
【0021】
セメント急結剤は、カルシウムアルミネート系粉末として、CA含有粉末とC12含有粉末とを含む混合物からなる組成物である。この組成物は、20℃で固形状でもよく、全体が粉末状で構成されてもよい。
組成物中、CA含有粉末及びC12含有粉末の少なくとも一方は、一又は二以上の種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
A含有粉末は、CAを含むクリンカの粉砕物で構成されてもよい。
【0023】
A含有粉末は、例えば、主成分としてCAを含んでもよい。主成分とは、CA含有粉末中のCAの含有量が、質量換算で、50質量%以上、好ましくは70質量%、より好ましくは95質量%であることを意味する。含まれるCAは結晶質で構成される。
【0024】
A含有粉末は、SiOやB、Pなどを含むCA近似組成の非晶質を含んでもよく、又はこれを含まないように構成されてもよい。
A含有粉末中のCAの非晶質化率は、質量換算で、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、20%以下がより一層好ましい。これにより初期凝結性を高めることができる。
【0025】
A含有粉末中のCaO/Alは、モル比で、例えば、2.2~3.5、好ましくは2.3~3.4である。このモル比がこの範囲内とすることで、優れた急結性が得られる。
【0026】
12含有粉末は、C12を含むクリンカの粉砕物で構成されてもよい。
【0027】
12含有粉末は、例えば、主成分としてC12を含んでもよい。主成分とは、C12含有粉末中のC12の含有量が、質量換算で、50質量%以上、好ましくは70質量%、より好ましくは90質量%であることを意味する。
【0028】
12含有粉末は、C12の非晶質を含んでもよい。C12含有粉末中のC12の非晶質化率は、質量換算で、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上がより一層好ましい。これにより初期凝結性を高めることができる。
【0029】
12含有粉末中のCaO/Alは、モル比で、例えば、1.8~2.5、好ましくは1.9~2.4である。このモル比がこの範囲内とすることで、非晶質化率を高くでき、優れた初期凝結が得られる。
【0030】
セメント急結剤の対応の一つとしては、主成分としてCAを含みCA含有粉末と、主成分としてC12を含むC12含有粉末とを含むように構成されてもよい。
【0031】
セメント急結剤中、CAの含有量の下限は、CA含有粉末及びC12含有粉末100質量%中、例えば、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。これにより、吹付け性を向上できる。一方、CAの含有量の上限は、CA含有粉末及びC12含有粉末100質量%中、例えば、40質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。これにより、急結性の低下を抑制できる。
【0032】
A含有粉末及びC12含有粉末は、発明の効果を損なわない範囲で、CAやC12以外のその成分を含んでもよい。その成分として、例えば、SiO、Fe、MgO、TiO、ZrO、MnO、P、NaO、KO、LiO、硫黄、フッ素、及び塩素等の一又は二以上が挙げられる。その他の成分は、CA含有粉末及びC12含有粉末中、例えば、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下でもよい。
【0033】
この中でも、MgOの含有量の上限は、CA含有粉末及びC12含有粉末100質量%中、例えば、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。これにより、CAを含むクリンカ、やC12を含むクリンカの合成過程において、その焼成温度を比較的広い範囲を採用できることから、収率や製造安定性を向上できる。MgOの含有量の下限は、特に限定されず、0質量%でもよい。
【0034】
A含有粉末及びC12含有粉末の少なくとも一方の粉末度は、特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積で、例えば、2,000cm/g~9,000cm/g、好ましくは3,000cm/g~8,000cm/gである。
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0035】
A含有粉末及びC12含有粉末の少なくとも一方の平均粒子径は、例えば、1μm~50μm、好ましくは5μm~20μmである。
本明細書中、平均子粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置などにより求めることができる。
【0036】
A含有粉末及びC12含有粉末の含有量は、セメント急結剤100質量%に対して、例えば、20質量%~70質量%、好ましくは30質量%~60質量%である。
【0037】
セメント急結剤は、カルシウムアルミネート系粉末として、CA及びC12以外の他のカルシウムアルミネート(CaO成分とAl成分とを主体とする化合物)、金属などを含んでもよい。
他のカルシウムアルミネートは、CA含有粉末又はC12含有粉末中に含まれていてもよいが、これらの粉末以外の他の粉末として含まれていてもよい。
他のカルシウムアルミネートは、結晶質又は非晶質のいずれを含んでもよく、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
セメント急結剤中やカルシウムアルミネート系粉末中の各鉱物組成の含有量は、一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕したサンプルを粉末X線回折法で生成鉱物組成を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物組成を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物組成量を計算によって求めることもできる。
【0039】
A含有粉末やC12含有粉末の製造方法は、例えば、CaO原料、Al原料を含む原料混合物を、例えば、キルンにより焼成する工程を含んでもよい。
【0040】
CaO原料として、工業原料として市販されているものを使用してもよいが、例えば、石灰石、石炭灰、生石灰、消石灰、及びアセチレン発生屑からなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。この中でも、消石灰を用いてもよい。
【0041】
Al原料として、工業原料として市販されているものを使用してもよいが、例えば、ボーキサイト、水酸化アルミニウム、及びアルミ残灰からなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。アルミ残灰は水酸化アルミニウムを主体としてもよい。
この中でも、ボーキサイトを用いてもよい。これにより、カルシウムアルミネート系粉末中に含まれるMgOの含有量を低減できる。
【0042】
これらの原料を、焼成後に所定の鉱物組成割合となるように調合し混合粉砕し、原料混合物を得る。
【0043】
混合粉砕の方法は、特に限定されるものではなく、乾式粉砕法又は湿式粉砕法を適用することができ、湿式粉砕法の場合は、その後造粒するために脱水処理を施す必要がある。また、原料に生石灰を用いる場合は、乾式で行うことが望ましい。
また原料の仕込み割合を調整することで、カルシウムアルミネート系粉末のCaO/Alモル比を制御できる。
【0044】
焼成温度は、例えば、1,200℃~1,600℃でもよく、1,300℃~1,550℃でもよい。上記下限値以上とすることで、不純物の発生を抑制できる。上記上限値以下とすることで、化合物が溶融してしまうことを抑制できる。
焼成には、電気炉やロータリーキルンなどのキルンを使用できる。
【0045】
焼成によって、原料成分を焼成してなる焼塊(クリンカ)が得られる。クリンカは、公知の方法で粉砕し粉砕物としてもよい。
以上により、CA含有粉末やC12含有粉末が得られる。
【0046】
セメント急結剤は、硫酸カルシウム、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。
【0047】
セメント急結剤は、強度発現性を向上させる助剤として、硫酸カルシウムを含んでもよい。
硫酸カルシウムは、無水石膏、半水石膏、及び二水石膏等の石膏が挙げられる。硫酸カルシウムには、天然で産出する天然石膏や、産業副産物として得られる排脱石膏や弗酸副生無水石膏等が用いられてもよい。これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。中でも、付着強度の発現性の観点から、無水石膏を用いてもよい。
【0048】
セメント急結剤中の硫酸カルシウムの含有量は、CA含有粉末及びC12含有粉末の100質量部に対して、例えば、10質量部~100質量部、好ましくは20質量部~80質量部である。
【0049】
セメント急結剤は、強度発現性を向上させる助剤として、アルカリ金属硫酸塩を含んでもよい。
アルカリ金属硫酸塩は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、硫酸ナトリウムとして、中性無水ボウ硝を用いてもよい。
【0050】
セメント急結剤中のアルカリ金属硫酸塩の含有量は、CA含有粉末及びC12含有粉末の100質量部に対して、例えば、10質量部~100質量部、好ましくは20質量部~80質量部である。
【0051】
セメント急結剤は、初期凝結の促進を補助する助剤として、アルカリ金属炭酸塩を含んでもよい。
アルカリ金属炭酸塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び重炭酸ナトリウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用可能である。
【0052】
セメント急結剤中のアルカリ金属炭酸塩の含有量は、CA含有粉末及びC12含有粉末の100質量部に対して、例えば、1質量部~50質量部、好ましくは3質量部~20質量部である。
【0053】
セメント急結剤は、初期凝結の促進を補助する助剤として、水酸化カルシウムを含んでもよい。
水酸化カルシウムとしては、市販の消石灰や、カルシウムカーバイドからアセチレンを発生させる際に副生するカーバイド滓などが挙げられる。これらの1種又は2種以上が使用可能である。
【0054】
セメント急結剤は、凝結速度を増進する助剤として、硫酸アルミニウムを含んでもよい。硫酸アルミニウムとしては、特に限定されるものではなく市販されているものが使用でき、0~18水塩であることが好ましい。特に、硫酸アルミニウムは無水塩になると、溶解速度が小さくなるので、凝結特性を向上させる効果が小さくなる。そのため、有水塩(水和数18以下の有水塩)を使用することが好ましく、貯蔵安定性を考慮すると、8水塩を含むことがより好ましい。
【0055】
ミョウバンは、セメントモルタルやセメントコンクリートの配合した直後からの流動性消失を促進することや、1日程度の強度発現性を促進するために有効である。ミョウバンとしては特に限定されないが、例えば、カリミョウバン、クロムミョウバン、鉄ミョウバン、アンモニウムミョウバン、ナトリウムミョウバン、天然ミョウバン等いずれのミョウバンも使用、併用が可能である。特にセメントモルタルやセメントコンクリート流動性を消失するものとして、カリミョウバン、ナトリウムミョウバン、アンモニウムミョウバンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0056】
セメント急結剤中の水酸化カルシウムの含有量は、CA含有粉末及びC12含有粉末の100質量部に対して、例えば、1質量部~50質量部、好ましくは3質量部~20質量部である。
【0057】
また、セメント急結剤は、pH調整剤、分散剤、安定化剤、防凍剤、水溶性促進剤、AE剤、減水剤、AE減水剤、凝結遅延剤、増粘剤、繊維、及び微粉等の添加剤を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で含んでもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
セメント急結剤は、CA含有粉末、及びC12含有粉末、必要に応じて、上記の成分を混合することにより得られる。
【0059】
本実施形態のセメント組成物は、上記のセメント急結剤と、セメントと、を含む。
【0060】
セメント急結剤の使用量は、使用する目的により異なるが、通常、セメント100質量部中、例えば、1~20質量部、好ましくは3~10質量部でもよい。
【0061】
セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰などを原料として製造された廃棄物利用セメント、いわゆるエコセメント(R)、及び石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、並びに、アルミナセメント、サルフォアルミネートセメント、石灰石焼成粘土セメント(LC3)等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
水の使用量は特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント急結剤とからなるセメント組成物に対して、水/セメント組成物比が、例えば、25~70質量%程度であり、30~60質量%でもよい。
【0063】
混練方法は、一般に用いられる方法で、特に限定されるものではない。混合装置としては、既存のいかなる撹拌装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、オムニミキサー、V型ミキサー、ヘンシェルミキサー、及びナウターミキサー等が使用可能である。
【0064】
混合は、それぞれの材料を施工時に混合してもよいし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0065】
セメント組成物の養生方法は特に限定されるものではなく、一般に行われる常温・常圧養生、蒸気養生、高温・高圧蒸気養生、及び加圧養生等のいずれの養生方法も適用可能である。
【0066】
セメント組成物は、さらに、砂や砂利などの骨材、繊維物質、膨張材、急硬材、凝結調整剤、減水剤、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、水和熱抑制剤、高分子エマルジョン、ベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土鉱物、ゼオライト、ハイドロタルサイト、及びハイドロカルマイト等のイオン交換体、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩、リン酸塩、並びに、ホウ酸等のうちの一種又は二種以上のその他の混和材、を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0067】
セメント組成物の一つの態様として、例えば、道路、鉄道及び導水路等のトンネルにおいて、露出した地山面へ吹付ける吹付け材料に使用できる。
【0068】
本実施形態の吹付工法としては、乾式吹付工法も施工できるが、粉塵量を低減する観点から、セメント急結剤を使用する前に予め水をセメントコンクリート側に加えて混練りした湿式吹付工法を使用することが好ましい。
【0069】
湿式吹付工法としては、セメント、細骨材、粗骨材、及び水を加えて混練して吹付コンクリートとしたものを空気圧送し、途中にY字管を設け、その一方から急結剤供給装置によりセメント急結剤を空気圧送し、合流混合して急結性湿式吹付コンクリートとしたものを吹付ける方法が挙げられる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0071】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0072】
<CA含有粉末1>
CaO原料(石灰石)、Al原料(ボーキサイト)を表1に示すCaO/Alモル比となるように配合し、混合粉砕して混合原料を得た。
粉体状の混合原料を白金るつぼに入れ、電気炉にて1,350℃で30分間焼成し、炉外に取り出し、クリンカを合成した。
ボールミルを用いて、合成したクリンカをブレーン比表面積で6,000cm/g、平均粒子径で5μmとなるように粉砕して、表1に示す鉱物割合となるCA含有粉末1(クリンカの粉末物)を作製した。CA含有粉末中、CAの結晶質の含有率が90質量%であり、MgOの含有率は0質量%であった。
【0073】
<CA含有粉末2>
試薬1級のCaCOとAlとをCaO/Alモル比が3/1となる割合で混合し、混合粉砕して混合原料を得た。
粉体状の混合原料を白金るつぼに入れ、電気炉にて1,350℃で30分間焼成し、炉外に取り出し、クリンカを合成した。
ボールミルを用いて、合成したクリンカをブレーン比表面積で6,000cm/g、平均粒子径で5μmとなるように粉砕して、表1に示す鉱物割合となるCA含有粉末2(クリンカの粉末物)を作製した。
【0074】
<C12含有粉末1>
CaO原料(石灰石)、Al原料(ボーキサイト)を表1に示すCaO/Alモル比となるように配合し、混合粉砕して混合原料を得た。
粉体状の混合原料を白金るつぼに入れ、電気炉にて1,350℃で30分間焼成し、炉外に取り出し、クリンカを合成した。
ボールミルを用いて、合成したクリンカをブレーン比表面積で6,000cm/g、平均粒子径で5μmとなるように粉砕して、表1に示す鉱物割合となるC12含有粉末1(クリンカの粉末物)を作製した。C12含有粉末中、C12の非晶質の含有率が93質量%であり、MgOの含有率は質量0%であった。
【0075】
<C12含有粉末2>
試薬1級のCaCOとAlとをCaO/Alモル比が12/7となる割合で混合し、混合粉砕して混合原料を得た。
粉体状の混合原料を白金るつぼに入れ、電気炉にて1,350℃で30分間焼成し、炉外に取り出し、クリンカを合成した。
ボールミルを用いて、合成したクリンカをブレーン比表面積で6,000cm/g、平均粒子径で5μmとなるように粉砕して、表1に示す鉱物割合となるC12含有粉末2(クリンカの粉末物)を作製した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1中、急結剤組成物中の鉱物組成の割合(質量部)は、蛍光X線を用いて定量した化学組成の結果と、粉末X線回折による同定結果とに基づいて算出した。
【0078】
<セメント急結剤の作製>
表2に示す成分を、表2に示す配合割合で混合して、セメント急結剤を作製した。
【0079】
【表2】
【0080】
表1、2中、CA:3CaO・Al、C12:12CaO・7Alを表す。
表2中の配合成分は以下の通り。
・硫酸カルシウム:天然石膏
・硫酸ナトリウム:中性無水ボウ硝
・炭酸ナトリウム:NaCO、市販品
・水酸化カルシウム:消石灰
【0081】
得られたセメント急結剤について、以下の評価項目に基づいて評価を行った。
【0082】
<セメント組成物の作製>
各実施例・比較例のセメント急結剤、セメント、水、砂を20℃の室内で混合して、セメントと急結剤からなるセメント組成物100質量部中の急結剤の配合量=7質量部、水/セメント組成物の配合比=1/1(質量比)、セメント組成物/砂の配合比=1/3(質量比)となるモルタル(セメント組成物)を作製した。
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
水:水道水
砂:JIS標準砂
【0083】
<プロクター貫入抵抗値>
ASTM C 403「貫入抵抗によるコンクリートの凝結時間試験方法」に準拠し、セメント組成物モルタルに急結剤を混合した直後から10分まで、1分ごとにプロクター貫入抵抗値(kN)を測定した。結果を表2に示す。
10分までに、プロクター貫入抵抗値が450kNに達する場合を◎、10分後のプロクター貫入抵抗値が450kN未満150kN以上の場合を○、10分後のプロクター貫入抵抗値が150kN未満の場合を×との基準に基づいて、セメント急結剤の急結性を評価した。
【0084】
<吹きつけ評価>
各材料の単位量を、セメント400kg/m、細骨材1,058kg/m、粗骨材711kg/m、及び水200kg/mとして吹付コンクリートを作製し、シンテック社コンクリート圧送機「MKW-25SMT」により、10m/hの速度で圧送した。長さ10mの3インチ耐圧ホースの後に取付けたY字管から圧縮空気を挿入して、長さ10mの2.5インチマテリアルホースで吹付コンクリートを空気搬送し、その先に取付けたY字管から急結剤添加装置「NATMクリート」を用いて、上記で得られたセメント急硬剤を搬送し、吹付コンクリート中のセメント100質量部に対して7質量部となるように、吹付コンクリートに混合して、急結性吹付コンクリートとし、これをノズルから平面状の吹付面に対して吹付けた。ノズルと吹付面との距離を2.0cmとした。
このとき、吹付面からの急結性吹付コンクリートのリバウンド(跳ね返りの程度)について観察した。
急結性吹付コンクリートのリバウンドが無いか、実用上問題ない範囲の場合を○とし、作業性を低下する程度にリバウンドが発生する場合を×として、セメント急結剤の吹きつけ性について評価した。
【0085】
実施例1~4のセメント急結剤は、比較例1と比べて吹きつけ性に優れており、比較例2を比べて急結性に優れることが示された。