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特許7453049異常予兆監視システム、異常予兆監視方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】異常予兆監視システム、異常予兆監視方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
G05B23/02 R
G05B23/02 301Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020076677
(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2021174195
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 昌基
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-20937(JP,A)
【文献】特開2018-190245(JP,A)
【文献】特開2020-42692(JP,A)
【文献】特開2020-35407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの機器に関する複数の状態量の検出値を複数のセンサから取得する検出値取得部と、
前記機器が正常であることが既知の期間に取得された複数の前記センサの検出値を含む所定の正常データを基準として、前記検出値取得部によって取得された複数の前記センサの検出値に異常な検出値が含まれている場合、前記異常な検出値として検出された状態量と、前記機器の異常予兆の原因と、の間の所定の対応関係に基づいて、前記機器の異常予兆の原因を推定する第1異常原因推定部と、
前記異常な検出値に加えて、前記機器において未検出である所定の未検出状態量が異常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因、及び/又は、前記未検出状態量が正常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因を推定する第2異常原因推定部と、
前記第1異常原因推定部及び前記第2異常原因推定部の推定結果に基づいて、前記未検出状態量を仮定した場合の追加効果を計算する追加効果計算部と、を備えるとともに、
前記第1異常原因推定部によって推定された前記機器の異常予兆の原因と、前記第2異常原因推定部によって推定された前記機器の異常予兆の原因と、の間の相違点を、前記追加効果として、前記未検出状態量とともに表示手段に表示させる表示制御部を備えること
を特徴とする異常予兆監視システム。
【請求項2】
前記第2異常原因推定部によって前記機器の異常予兆の原因が推定される際、複数の前記センサのうち少なくとも一つの検出値の大きさ、及び/又は、前記機器の駆動に用いられる所定の指令値の大きさと整合するように、前記未検出状態量の異常・正常のうち一方が仮定されること
を特徴とする請求項1に記載の異常予兆監視システム。
【請求項3】
複数種類の前記未検出状態量が、前記機器の異常予兆の原因に対応付けられるとともに、前記機器の異常予兆に対する感度の高さにも対応付けられ、
前記表示制御部は、前記相違点を前記表示手段に表示させる際、複数種類の前記未検出状態量のそれぞれの感度の高さを示す情報も併せて前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の異常予兆監視システム。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記相違点を前記表示手段に表示させる際、前記未検出状態量に対応する所定のセンサの追加を提案する旨も併せて前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の異常予兆監視システム。
【請求項5】
前記第2異常原因推定部は、前記未検出状態量が異常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因、及び、前記未検出状態量が正常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因の両方を推定し、
前記表示制御部は、前記未検出状態量が異常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因と、前記未検出状態量が正常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因と、の間の相違点も併せて前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の異常予兆監視システム。
【請求項6】
プラントの機器に関する複数の状態量の検出値を複数のセンサから取得する検出値取得ステップと、
前記機器が正常であることが既知の期間に取得された複数の前記センサの検出値を含む所定の正常データを基準として、前記検出値取得ステップで取得された複数の前記センサの検出値に異常な検出値が含まれている場合、前記異常な検出値として検出された状態量と、前記機器の異常予兆の原因と、の間の所定の対応関係に基づいて、前記機器の異常予兆の原因を推定する第1異常原因推定ステップと、
前記異常な検出値に加えて、前記機器において未検出である所定の未検出状態量が異常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因、及び/又は、前記未検出状態量が正常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因を推定する第2異常原因推定ステップと、
前記第1異常原因推定ステップ及び前記第2異常原因推定ステップの推定結果に基づいて、前記未検出状態量を仮定した場合の追加効果を計算する追加効果計算ステップと、を含むとともに、
前記第1異常原因推定ステップで推定された前記機器の異常予兆の原因と、前記第2異常原因推定ステップで推定された前記機器の異常予兆の原因と、の間の相違点を、前記追加効果として、前記未検出状態量とともに表示手段に表示させる表示制御ステップを含むこと
を特徴とする異常予兆監視方法。
【請求項7】
請求項6に記載の異常予兆監視方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常予兆監視システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの機器の異常予兆の原因を推定する技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。すなわち、特許文献1には、プラントの計測値を取得して、正常時計測値データベースに格納された正常時計測値と比較して異常パラメータを推定する異常パラメータ推定部と、物理モデルを用いて異常パラメータから故障機器を推定する故障機器推定部と、を備える機器状態監視システムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-9080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、発電プラントでは、機器の圧力・温度・流量といった複数の状態量が検出されるが、これらの状態量は主に発電プラントの稼働に用いられるものであり、機器の異常予兆の監視を行うには十分でないことが多い。具体例を挙げると、発電プラントに設けられるポンプにおいて、ポンプにおける流体の圧力・温度・流量は、発電プラントの稼働に影響するため、その検出値が取得されることが多い。
【0005】
一方、ポンプの振動は、発電プラントの稼働には特に影響しないため、ポンプに振動センサが設置されないことが多い。このような未検出状態量(例えば、ポンプの振動の変位)が存在している場合、ポンプ等の機器の異常予兆の原因を十分に絞り込めない可能性がある。機器の異常予兆の原因を絞り込むために、未検出状態量を用いて、機器の異常予兆の原因推定結果を提示する技術については、特許文献1には記載されていない。
【0006】
そこで、本発明は、未検出状態量を用いて、機器の異常予兆の原因推定結果を提示する異常予兆監視システム等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明は、プラントの機器に関する複数の状態量の検出値を複数のセンサから取得する検出値取得部と、前記機器が正常であることが既知の期間に取得された複数の前記センサの検出値を含む所定の正常データを基準として、前記検出値取得部によって取得された複数の前記センサの検出値に異常な検出値が含まれている場合、前記異常な検出値として検出された状態量と、前記機器の異常予兆の原因と、の間の所定の対応関係に基づいて、前記機器の異常予兆の原因を推定する第1異常原因推定部と、前記異常な検出値に加えて、前記機器において未検出である所定の未検出状態量が異常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因、及び/又は、前記未検出状態量が正常であると仮定した場合の前記機器の異常予兆の原因を推定する第2異常原因推定部と、前記第1異常原因推定部及び前記第2異常原因推定部の推定結果に基づいて、前記未検出状態量を仮定した場合の追加効果を計算する追加効果計算部と、を備えるとともに、前記第1異常原因推定部によって推定された前記機器の異常予兆の原因と、前記第2異常原因推定部によって推定された前記機器の異常予兆の原因と、の間の相違点を、前記追加効果として、前記未検出状態量とともに表示手段に表示させる表示制御部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、未検出状態量を用いて、機器の異常予兆の原因推定結果を提示する異常予兆監視システム等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る異常予兆監視システムの機能ブロック図である。
図2】第1実施形態に係る異常予兆監視システムにおいて、ポンプに関する時系列データの例を示す説明図である。
図3】第1実施形態に係る異常予兆監視システムにおいて、各センサの検出値の異常度の例を示す説明図である。
図4】第1実施形態に係る異常予兆監視システムのパラメータ異常検知部による異常検知結果の例を示す説明図である。
図5】第1実施形態に係る異常予兆監視システムの物理モデルデータベースの例を示す説明図である。
図6A】第1実施形態に係る異常予兆監視システムのパラメータ状態模擬部によって、ポンプの振動の検出値が異常であると模擬された場合の説明図である。
図6B】第1実施形態に係る異常予兆監視システムにおいて、パラメータ異常検知部による検知結果に、パラメータ状態模擬部による模擬の結果を組み込んだデータの説明図である。
図7】第1実施形態に係る異常予兆監視システムの診断結果出力装置の画面表示例である。
図8】第1実施形態に係る異常予兆監視システムで実行される処理のフローチャートである。
図9A】第2実施形態に係る異常予兆監視システムのパラメータ状態模擬部によって、ポンプの振動の検出値が正常であると模擬された場合の説明図である。
図9B】第2実施形態に係る異常予兆監視システムにおいて、パラメータ異常検知部による検知結果に、パラメータ状態模擬部による模擬の結果を組み込んだデータの説明図である。
図10】第2実施形態に係る異常予兆監視システムの診断結果出力装置の画面表示例である。
図11】第4実施形態に係る異常予兆監視システムの物理モデルデータベースの例を示す説明図である。
図12】第4実施形態に係る異常予兆監視システムの診断結果出力装置の画面表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係る異常予兆監視システム100の機能ブロック図である。
異常予兆監視システム100は、プラント200の機器(例えば、ポンプ21)の異常予兆の有無を監視するシステムである。ここで、機器の「異常予兆」とは、機器の異常が生じる前触れである。また、プラント200の種類として、発電プラント(原子力発電等)の他、化学プラント、製造プラント、水処理プラント等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0011】
なお、異常予兆監視システム100は、1つの装置で構成されてもよいし、また、信号線やネットワークを介して、複数の装置(サーバ等)が所定に接続された構成であってもよい。以下では、異常予兆監視システム100の説明に先立って、異常予兆の監視対象の一つであるポンプ21について説明し、さらに、ポンプ21に関する状態量を検出する各センサについて説明する。
【0012】
図1に示すポンプ21は、所定の流体を圧送する機器であり、プラント200に設けられている。その他、図示はしないが、プラント200(例えば、発電プラント)には、タービンや発電機、復水器といったさまざまな機器が設けられている。
【0013】
図1の例では、ポンプ21に関する複数の状態量を検出するセンサとして、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33が設けられている。圧力センサ31は、ポンプ21から吐出される流体の圧力を検出するセンサであり、ポンプ21の吐出側の配管k1に設けられている。温度センサ32は、ポンプ21から吐出される流体の温度を検出するセンサであり、配管k1に設けられている。流量センサ33は、ポンプ21から吐出される流体の流量を検出するセンサであり、配管k1に設けられている。
【0014】
圧力センサ31の検出値は、配線w1を介して、次に説明する検出値取得装置1(検出値取得部)に出力される。同様に、温度センサ32や流量センサ33の検出値も、配線w2,w3を介して、検出値取得装置1に出力される。なお、ポンプ21の吐出側に代えて(又は吐出側とともに)、ポンプ21の吸入側の配管k2に所定のセンサ(図示せず)を設けるようにしてもよい。
【0015】
<異常予兆監視システムの構成>
図1に示すように、異常予兆監視システム100は、検出値取得装置1と、時系列データ記憶部2と、正常時データベース3と、パラメータ異常検知部4と、物理モデルデータベース5と、第1異常原因推定部6と、を備えている。また、異常予兆監視システム100は、前記した構成の他に、パラメータ状態模擬部7と、第2異常原因推定部8と、追加効果計算部9と、表示制御部10と、診断結果出力装置11(表示手段)と、を備えている。
【0016】
検出値取得装置1は、ポンプ21(プラント200の機器)に関する複数の状態量(圧力・温度・流量)の検出値を圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33から取得する装置である。そして、検出値取得装置1は、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33の時々刻々の検出値と、その検出値を取得した日付・時刻と、各センサの識別情報と、を対応付けた所定の時系列データを時系列データ記憶部2に格納する。なお、検出値取得装置1として、例えば、所定のプロセス計算機が用いられる。
時系列データ記憶部2には、検出値取得装置1によって取得された所定の時系列データが格納される。このような時系列データ記憶部2として、磁気ディスク装置、光ディスク装置、半導体記憶装置等が用いられる。
【0017】
図2は、ポンプに関する時系列データの例を示す説明図である(適宜、図1も参照)。
図2に示す「日時」は、検出値取得装置1が、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33の検出値を取得した日時である。なお、図2では簡略化して、「日時」の欄に日付のみを記載しているが、実際には、各検出値が取得された日付・時刻が時系列データに含まれている。
【0018】
例えば、2000年8月1日には、ポンプ21の吐出側の圧力が7.21[MPa]、温度が270.1[℃]、流量が500[kg/s]となっているが、これは、2000年8月1日の所定時刻に取得された検出値の一つである。実際には、2000年8月1日において、所定時間ごと(0.1秒ごと、数秒ごと、数分ごと等)に各検出値が取得され、時系列データ記憶部2に格納される。なお、2000年8月2日以後の各検出値についても同様である。
【0019】
また、図2に示す「圧力」の各検出値には、圧力センサ31の識別情報が対応付けられている。同様に、「温度」の各検出値には温度センサ32の識別情報が対応付けられ、また、「流量」の各検出値には流量センサ33の識別情報が対応付けられている。
【0020】
図1に示す正常時データベース3には、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33の時々刻々の検出値と、その検出値を取得した日付・時刻と、各センサの識別情報と、が対応付けられた時系列データが、所定の正常データとして格納されている。この正常データは、ポンプ21が正常であることが既知の期間に取得された各センサの検出値を含んでいる。
【0021】
パラメータ異常検知部4は、前記した正常データを基準として、検出値取得装置1によって取得された圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33の検出値(時系列データ記憶部2に格納されている時系列データ)に異常な検出値が含まれているか否かを判定する。なお、「パラメータ」という文言は、圧力・温度・流量といった「状態量」と同義である。また、パラメータ異常検知部4における処理の開始に先立って、正常時データベース3に所定の正常データが予め格納されているものとする。
【0022】
パラメータ異常検知部4は、時系列データ記憶部2から所定の時系列データ(図2参照)を読み込むとともに、正常時データベース3から正常データを読み込む。そして、正常データの分布を基準として、時系列データ記憶部2における時々刻々の時系列データの異常度を算出する。この「異常度」は、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33の各検出値の異常の度合いを示す数値である。
【0023】
パラメータ異常検知部4は、各検出値(図2参照)のそれぞれについて、例えば、正常データを基準とするマハラノビス距離を算出し、このマハラノビス距離を異常度として用いる。具体例を挙げると、図2の時系列データでは、2000年8月1日における圧力センサ31の検出値が7.21[MPa]となっている。パラメータ異常検知部4は、この7.21[MPa]について、圧力センサ31の検出値の正常データに基づき、マハラノビス距離を算出し、このマハラノビス距離を圧力の異常度として用いる。
【0024】
なお、他の日時における圧力センサ31の各検出値についても同様であり、また、温度センサ32や流量センサ33の各検出値についても同様である。つまり、本実施形態の例では、パラメータ異常検知部4が、3つの状態量(圧力・温度・流量)のそれぞれについて、個別に異常度を算出するようにしている。
【0025】
そして、所定のセンサ(例えば、圧力センサ31)の検出値の異常度が所定閾値未満である場合、パラメータ異常検知部4は、そのセンサの検出値は正常であると判定する。一方、所定のセンサ(例えば、圧力センサ31)の検出値の異常度が所定閾値以上である場合、パラメータ異常検知部4は、そのセンサの検出値は異常であると判定する。前記した所定閾値は、各センサの検出値が異常であるか否かの判定基準となる閾値であり、予め設定されている。本実施形態では、一例として、異常度に関する所定閾値の大きさが1.0である場合について説明する。
【0026】
図3は、各センサの検出値の異常度の例を示す説明図である。
なお、図3の各セルは、時系列データに関する図2の各セルに対応している。また、図3の例では、枠線G1で示すように、2000年8月4日、8月5日、8月6日における温度の異常度が1.0(所定閾値)以上になっている。これらの日付の温度検出値が、正常時の分布を基準として、大幅に高くなったからである(図2参照)。なお、図3では簡略化しているが、例えば、2000年8月4日の所定時刻から温度の異常度が1.0を超えた後、所定時間以上(図3の例では、8月5日、8月6日を含む2日以上)、この状態が継続しているものとする。
【0027】
一方、図3の例では、ポンプ21の吐出側の圧力・流量については、各日時の異常度が全て1.0未満になっている。また、2000年8月1日~8月3日の期間では、ポンプ21の吐出側の温度の異常度も1.0未満になっている。
【0028】
図4は、パラメータ異常検知部による異常検知結果の例を示す説明図である。
なお、図4の各セルは、時系列データに関する図2の各セルや、異常度に関する図3の各セルに対応している。また、図4の例では、枠線G2で示すように、2000年8月4日、8月5日、8月6日において、ポンプ21の吐出側における温度の異常が検知されている。
【0029】
このように、ポンプ21の検出値に異常な検出値が含まれていた場合(図4の枠線G2を参照)、パラメータ異常検知部4は、第1異常原因推定部6及び第2異常原因推定部8に所定のデータを出力する。前記した所定のデータには、異常な検出値が取得されたセンサの識別情報(状態量に対応)と、異常な検出値が取得された日時と、が含まれている。
【0030】
図1に示す物理モデルデータベース5は、所定の状態量(例えば、図4に示す「温度」)に異常があった場合、その状態量に基づいて、ポンプ21の異常予兆の原因を推定する際に用いられる。
【0031】
図5は、物理モデルデータベース5の例を示す説明図である(適宜、図1も参照)。
図5の例では、所定のセンサの検出値が異常である場合を〇印で示す一方、センサの検出値が正常である場合を空欄にしている。物理モデルデータベース5は、異常が検知された状態量(〇印)と、ポンプ21の異常予兆の原因と、の対応関係を示すデータベースであり、ポンプ21の種類・機能・特性に基づいて、予め設定されている。また、プラント200に含まれる機器ごとに、所定の物理モデルデータベース5が予め設定されている。
【0032】
例えば、図1に示すプラント200では、ポンプ21の吐出側の圧力・温度・流量が検出される一方、ポンプ21の振動(図5も参照)は特に検出されていない。これは、ポンプ21の振動を検出せずとも、プラント200の稼働には特に支障がないからである。したがって、ポンプ21には、振動センサ(図示せず)が設置されていないことが多い。ただし、ポンプ21に何らかの異常予兆が生じた場合、ポンプ21の振動を検出することで、異常予兆の原因を絞り込めることがある。
【0033】
そこで、第1実施形態では、ポンプ21に関して、圧力・温度・流量の異常の有無(図4参照)に基づく異常予兆の原因推定結果と、さらにポンプ21の振動が異常であると仮定した場合の異常予兆の原因推定結果と、の相違点をユーザに提示するようにしている。これが、第1実施形態の主な特徴の一つである。
【0034】
図1に示す第1異常原因推定部6は、所定の正常データを基準として、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33の検出値のうち少なくとも一つに異常な検出値が含まれている場合、異常な検出値として検出された状態量と、ポンプ21(機器)の異常予兆の原因と、の間の所定の対応関係(図5参照)に基づいて、ポンプ21の異常予兆の原因を推定する。
【0035】
図4の例では、2000年8月4日以後にポンプ21の吐出側の「温度」が異常になっている。前記したように、「温度」の異常は、パラメータ異常検知部4によって検知される。このように所定の状態量の異常が検知された場合、第1異常原因推定部6は、物理モデルデータベース5(図5参照)を参照し、ポンプ21の異常予兆の原因を推定する。なお、第1異常原因推定部6の処理には、未検出パラメータ(未検出状態量)であるポンプ21の「振動」(図5参照)は、特に用いられない。
【0036】
例えば、ポンプ21の吐出側の「温度」が異常である一方、「圧力」及び「流量」は正常である場合(図4の2000年8月4日以後)、第1異常原因推定部6は、次の処理を行う。すなわち、第1異常原因推定部6は、物理モデルデータベース5(図5参照)に基づき、ポンプ21の異常予兆の原因が、「ポンプ軸受摩耗」又は「ポンプシール摩耗」であると推定する。そして、第1異常原因推定部6は、ポンプ21の異常予兆の原因の推定結果を、追加効果計算部9に出力する。なお、第1異常原因推定部6から追加効果計算部9に出力されるデータには、ポンプ21の異常予兆の原因の他、異常予兆の原因を推定する根拠となった状態量(センサの識別情報)も含まれている。
【0037】
図1に示すパラメータ状態模擬部7は、ポンプ21において未検出である所定の未検出状態パラメータ(例えば、ポンプ21の「振動」:図5参照)が異常であると仮定する機能を有している。なお、正常時データベース3(図5参照)にポンプ21の「振動」が含まれている一方、実際には、ポンプ21の「振動」の検出値が取得されていないことに基づき、ポンプ21の「振動」が未検出パラメータであることが特定される。
【0038】
図6Aは、パラメータ状態模擬部によって、ポンプの振動の検出値が異常であると模擬された場合の説明図である(適宜、図1も参照)。
図6Aの例では、ポンプ21の吐出側の圧力・温度・流量のいずれも正常であった2000年8月1日~8月3日の期間では(図4参照)、パラメータ状態模擬部7によって、未検出パラメータであるポンプ21の振動が正常であったと模擬されている。このように、実際に検出される圧力・温度・流量の検出値が全て正常であるときには、ポンプ21の振動も正常であると模擬される。
【0039】
一方、ポンプ21の温度の異常が検知された2020年8月4日以後では(図4参照)、パラメータ状態模擬部7によって、未検出パラメータであるポンプ21の振動の異常が模擬される。このように、パラメータ異常検知部4によって所定の状態量(例えば、ポンプ21の温度)の異常が検知された場合、パラメータ状態模擬部7によって、ポンプ21の振動の異常が模擬されるようにしてもよい。なお、パラメータ状態模擬部7によって生成されるデータの形式は、パラメータ異常検知部4で生成されるデータ(図4参照)の形式と同様である。
【0040】
ちなみに、ポンプ21の温度等が異常であった場合、パラメータ状態模擬部7が、未検出パラメータを「異常」と模擬するか(第1実施形態)、それとも、未検出パラメータを「正常」と模擬するかは(第2実施形態)、予め設定されている。
【0041】
図1に示す第2異常原因推定部8は、異常な検出値(図4の例では、ポンプ21の吐出側の温度)に加えて、ポンプ21(機器)において未検出である所定の未検出パラメータ(未検出状態量:図6Aの例では、ポンプ21の「振動」)が異常であると仮定した場合のポンプ21の異常予兆の原因を推定する。
【0042】
図6Bは、パラメータ異常検知部による検知結果に、パラメータ状態模擬部による模擬の結果を組み込んだデータの説明図である。
図6Bに示す圧力・温度・流量の正常/異常は、パラメータ異常検知部4による検知結果であり、図4と同様である。一方、図6Bに示す振動の正常/異常は、パラメータ状態模擬部7による模擬の結果であり、図6Aと同様である。このように、第2異常原因推定部8(図1参照)は、パラメータ異常検知部4による検知結果と、パラメータ状態模擬部7による模擬の結果と、を組み合わせた所定のデータに基づいて、ポンプ21の異常予兆の原因を推定する。
【0043】
図6Bの例では、2020年8月4日以後、枠線G3,G4で示すように、ポンプ21の吐出側の温度、及び、ポンプ21の振動に異常がある(振動については仮定である)。第2異常原因推定部8は、物理モデルデータベース5(図5参照)を参照し、ポンプ21の異常予兆の原因は、「ポンプ軸受摩耗」であると推定する。そして、第2異常原因推定部8は、ポンプ21の異常予兆の原因の推定結果を、追加効果計算部9に出力する。なお、第2異常原因推定部8から追加効果計算部9に出力されるデータには、ポンプ21の異常予兆の原因の他、異常予兆の原因を推定する根拠となった未検出パラメータの種類を示す情報が含まれている。
【0044】
追加効果計算部9は、第1異常原因推定部6によって推定されたポンプ21(機器)の異常予兆の原因と、第2異常原因推定部8によって推定されたポンプ21の異常予兆の原因と、を比較する。そして、追加効果計算部9は、第1異常原因推定部6の推定結果と、第2異常原因推定部8の推定結果と、の相違点を、未検出パラメータ(例えば、ポンプ21の「振動」)が検出された場合の追加効果として特定する。ここで、「追加効果」とは、未検出パラメータを検出した仮定した場合に、ポンプ21の異常予兆の原因をさらに絞り込めるという意味である。
【0045】
前記した例では、第1異常原因推定部6によって、ポンプ21の異常予兆の原因が、「ポンプ軸受摩耗」又は「ポンプシール摩耗」であると推定される(図4図5参照)。一方、ポンプ21の振動(未検出パラメータ)が異常であるという仮定に基づき、第2異常原因推定部8によって、ポンプ21の異常予兆の原因が、「ポンプ軸受摩耗」であると推定される(図5図6B参照)。追加効果計算部9は、例えば、第1異常原因推定部6の推計結果から、第2異常原因推定部8の推定結果を差し引くことで、未検出パラメータを加えた場合の追加効果を計算する。そして、追加効果計算部9は、追加効果の計算結果を表示制御部10に出力する。
【0046】
なお、追加効果の計算結果には、異常予兆の原因の絞り込みに関する追加効果の他に、この追加効果に対応する状態量(例えば、ポンプ21の振動)も含まれている。また、前記した追加効果の他、第1異常原因推定部6や、第2異常原因推定部8の推定結果も併せて表示制御部10に出力されるようにしてもよい。
【0047】
表示制御部10は、追加効果計算部9の計算結果等を診断結果出力装置11に出力し、診断結果出力装置11の表示を所定に制御する。すなわち、表示制御部10は、第1異常原因推定部6によって推定されたポンプ21(機器)の異常予兆の原因と、第2異常原因推定部8によって推定されたポンプ21の異常予兆の原因と、の間の相違点を、未検出パラメータ(未検出状態量:例えば、ポンプ21の振動)とともに診断結果出力装置11(表示手段)に表示させる。
【0048】
診断結果出力装置11は、例えば、ディスプレイであり、表示制御部10による制御によって、追加効果計算部9の計算結果を所定に表示させる。なお、診断結果出力装置11が追加効果計算部9の計算結果を表示する他、音声を所定に出力するようにしてもよい。
【0049】
図7は、診断結果出力装置の画面表示例である。
図7の例では、2000年8月4日にポンプ21の吐出側の温度について異常が検知されたことが、診断結果出力装置11に表示されている。そして、実際に設置されている各センサの検出値に基づき、ポンプ21の異常予兆の原因推定結果として、「ポンプ軸受摩耗」及び「ポンプシール摩耗」が挙げられている。
【0050】
また、図7の例では、ポンプ21の「振動」が異常であることを確認できた場合には、ポンプ21の異常予兆の原因を「ポンプ軸受摩耗」に絞り込めることが表示されている。この部分が、ポンプ21の「振動」(未検出状態量)を検出することによる追加効果である。これによって、ポンプ21に振動センサ(図示せず)を新たに設置すれば、今後、ポンプ21の異常予兆の原因を絞り込める可能性が高いことをユーザが把握できる。
【0051】
<異常予兆監視システムにおける処理>
図8は、異常予兆監視システムで実行される処理のフローチャートである(適宜、図1も参照)。
ステップS101において、正常データの取得・記憶が行われる。すなわち、ポンプ21を含む各機器が正常に稼働していることが既知である所定の期間での各センサの検出値が、検出値取得装置1によって取得され、さらに、時系列データ記憶部2に記憶される。
【0052】
ステップS102において、各センサの検出値の取得・記憶が行われる(検出値取得ステップ)。すなわち、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33を含む各センサの検出値が、検出値取得装置1によって取得され、さらに、時系列データ記憶部2に記憶される。
【0053】
ステップS103において、パラメータ(状態量)の異常を検知したか否かが判定される。すなわち、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33の検出値に異常な検出値が含まれているか否かが、パラメータ異常検知部4によって判定される。ステップS103においてパラメータの異常が検知されていない場合(S103:No)、異常予兆監視システム100における処理は、ステップS102に戻る。一方、ステップS103においてパラメータの異常が検知された場合(S103:Yes)、異常予兆監視システム100における処理は、ステップS104に進む。
【0054】
ステップS104では、機器に異常予兆ありと判定される。例えば、機器の一つであるポンプ21に異常予兆ありと、パラメータ異常検知部4によって判定される。
次に、ステップS105において、異常予兆の原因が推定される(第1異常原因推定ステップ)。すなわち、第1異常原因推定部6が、物理モデルデータベース5を参照し、パラメータ異常検知部4の検知結果に基づいて、ポンプ21の異常予兆の原因を推定する。
【0055】
ステップS106において、未検出パラメータ(未検出状態量)の異常が模擬される。例えば、ポンプ21の振動が未検出パラメータである場合には、パラメータ状態模擬部7によって、ポンプ21の振動に異常があると模擬(仮定)される。
次に、ステップS107において、未検出パラメータの異常の模擬後において、異常予兆の原因が推定される(第2異常原因推定ステップ)。すなわち、第2異常原因推定部8が、物理モデルデータベース5を参照し、パラメータ異常検知部4の検知結果、及び、未検出パラメータの異常の模擬結果に基づいて、ポンプ21の異常予兆の原因を推定する。
【0056】
ステップS108において、未検出パラメータの追加効果が算出される。例えば、未検出パラメータとしてポンプ21の振動を追加した場合、ポンプ21の異常予兆の原因が具体的にどのように絞り込めるのか(つまり、追加効果)が、追加効果計算部9によって算出される。
ステップS109において、診断結果が出力される(表示制御ステップ)。すなわち、ステップS108で算出された追加効果が、表示制御部10によって、診断結果出力装置11に出力される。
ステップS109の処理を行った後、異常予兆監視システム100における一連の処理が終了する(END)。
【0057】
なお、ポンプ21に振動センサ(図示せず)が追加で設置された場合、その後の所定期間でプラント200が正常に稼働していることが確認されたときには、その所定期間の振動センサの検出値を含めた所定の正常データが、正常時データベース3に格納される。
【0058】
<効果>
第1実施形態によれば、ポンプ21の異常予兆の監視に用いられる複数のパラメータ(圧力・温度・流量・振動)のうち、所定の未検出パラメータ(振動)が異常であるとの仮定に基づき、ポンプ21の異常予兆の原因が推定される。そして、未検出パラメータを含めない場合と、未検出パラメータを含めた場合と、で異常予兆の原因推定結果が比較され、その比較結果が提示される。
【0059】
これによって、ユーザは、所定のセンサを新たに設置して、未検出パラメータを検出するようにした場合、異常予兆の原因がどのように絞り込めるのかを把握できる。したがって、プラント200の保全作業の合理化を行う際、各機器にどのようなセンサを新たに設置すべきかをユーザが検討しやすくなる。また、例えば、ポンプ21の振動を検出する振動センサ(図示せず)を新たに設けることで、その後に同様の異常予兆が生じた場合、その異常予兆の原因が絞り込まれるため、保守点検の作業が行いやすくなる。
【0060】
また、ポンプ21に新たに振動センサを設置しない場合でも、ポンプ21の振動を作業員が定期的に点検するといったように、診断結果出力装置11に提示された所定のデータを、プラント200の保守点検の作業を見直す際の判断材料に用いることができる。
【0061】
なお、物理モデルデータベース5(図3参照)の情報のみでも、所定の未検出パラメータと、異常予兆の原因と、の関係を管理者が把握することは可能ではある。しかしながら、一つの機器に対して、複数の未検出パラメータが存在することもあり、また、プラント200には多数の機器が存在するため、全ての組合せを管理者が検討するのには多大な労力を要する。また、例えば、発電プラントでは、機器の異常予兆が生じることが稀であるため、未検出パラメータに対応する多数のセンサの全てを設けることが望ましいとは、必ずしもいえない。
【0062】
これに対して、第1実施形態によれば、ポンプ21等の機器に異常予兆が生じた場合に、未検出パラメータを異常と仮定したときの異常予兆の原因推定結果が提示される。これによって、ユーザ(管理者)は、今後、同様の異常予兆が生じた場合に備えて、具体的にどのようなセンサを追加することが有効であるかを容易に把握できる。
【0063】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、ポンプ21等の機器に関して異常な検出値が存在する場合、パラメータ状態模擬部7によって、未検出パラメータが正常であると模擬(仮定)される点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他(異常予兆監視システム100の構成等:図1参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0064】
図9Aは、第2実施形態に係る異常予兆監視システムのパラメータ状態模擬部によって、ポンプの振動の検出値が正常であると模擬された場合の説明図である(適宜、図1を参照)。
なお、第1実施形態の図4と同様に、2020年8月4日以後において、ポンプ21の吐出側の温度の異常が検知されたものとする。このような場合でも、図9Aに示すように、パラメータ状態模擬部7は、未検出パラメータであるポンプ21の振動が正常であるとの模擬(仮定)を行う。
【0065】
そして、第2異常原因推定部8は、異常な検出値(例えば、ポンプ21の吐出側の温度)に加えて、ポンプ21(機器)において未検出である所定の未検出パラメータ(未検出状態量:図9Aの例ではポンプ21の「振動」)が正常であると仮定した場合のポンプ21の異常予兆の原因を推定する。
【0066】
図9Bは、パラメータ異常検知部による検知結果に、パラメータ状態模擬部による模擬の結果を組み込んだデータの説明図である。
図9Bの例では、2020年8月4日以後、枠線G5で示すように、ポンプ21の吐出側の温度が異常であるが、その一方で、ポンプ21の吐出側の圧力・流量・振動は正常になっている(振動については仮定である)。そして、第2異常原因推定部8は、物理モデルデータベース5(図5参照)を参照し、ポンプ21の異常予兆の原因は、「ポンプシール摩耗」であると推定する。
【0067】
図10は、診断結果出力装置の画面表示例である。
図10の例では、ポンプ21の「振動」が正常であることを確認できた場合には、ポンプ21の異常予兆の原因を「ポンプシール摩耗」に絞り込めることが表示されている。この部分が、ポンプ21の「振動」(未検出状態量)を検出することによる追加効果である。
【0068】
<効果>
第2実施形態によれば、未検出パラメータが「正常」であると仮定した場合、異常予兆の原因がどのように絞り込まれるのかをユーザが把握できる。したがって、プラント200の保全作業の合理化等を行う際、各機器にどのようなセンサを新たに設置すべきかをユーザが検討しやすくなる。
【0069】
≪第3実施形態≫
第3実施形態では、未検出パラメータが異常であると模擬するか、それとも、未検出パラメータが正常であると模擬するかを、パラメータ状態模擬部7が、各センサの検出値に基づいて決定する点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他(異常予兆監視システム100の構成等:図1参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0070】
図1に示すパラメータ状態模擬部7は、未検出パラメータであるポンプ21の振動が「異常」であると仮定するか、それとも、ポンプ21の振動が「正常」であると仮定するかを、次のようにして決定する。例えば、ポンプ21の駆動源であるモータ(図示せず)の回転速度指令値が非常に小さい(つまり、所定値以下である)場合や、このモータへの出力電力が非常に小さい場合には、ポンプ21の振動に異常が生じることはほとんどない。このような場合、パラメータ状態模擬部7は、未検出パラメータであるポンプ21の振動は正常であると仮定する。
【0071】
また、ポンプ21の駆動源であるモータ(図示せず)の回転速度指令値が非常に小さい場合には、通常、ポンプ21の流量も非常に小さい。したがって、流量センサ33の検出値が所定値以下である場合、パラメータ状態模擬部7が、未検出パラメータであるポンプ21の振動が正常であると仮定するようにしてもよい。
その他にも、ポンプ21の駆動源であるモータの回転速度指令値、及び、各センサの検出値のそれぞれの大きさに基づいて、パラメータ状態模擬部7が、ポンプ21の振動の正常・異常のうちいずれかを仮定するようにしてもよい。
【0072】
すなわち、第2異常原因推定部8によってポンプ21(機器)の異常予兆の原因が推定される際、圧力センサ31、温度センサ32、及び流量センサ33のうち少なくとも一つの検出値の大きさ、及び/又は、ポンプ21の駆動に用いられる所定の指令値の大きさと整合するように、未検出パラメータ(未検出状態量)の異常・正常のうち一方が仮定されるようにしてもよい。
【0073】
<効果>
第3実施形態によれば、ポンプ21のモータ(図示せず)の回転速度指令値や、流量センサ33の検出値の大きさと整合するように、未検出パラメータであるポンプ21の振動の異常・正常のいずれかが仮定される。したがって、ポンプ21に振動センサ(図示せず)を新たに設置した場合、ポンプ21の異常予兆の原因が具体的にどのように絞り込まれるのかをユーザに適切に提示できる。
【0074】
<第4実施形態>
第4実施形態は、物理モデルデータベース5A(図11参照)において、ポンプ21の異常予兆に対する未検出パラメータ(例えば、ポンプ21の振動や音)の感度の高さが対応付けられている点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他(異常予兆監視システム100の構成等:図1参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0075】
図11は、第4実施形態に係る異常予兆監視システムの物理モデルデータベース5Aの例を示す説明図である(適宜、図1を参照)。
図11の例は、ポンプ21の「音」に関する情報が物理モデルデータベース5Aに含まれている点が、第1実施形態(図5参照)とは異なっている。また、ポンプ21の「音」の欄に記載した三角印は、ポンプ21の異常予兆の検知において、ポンプ21の「振動」よりも「音」の方が感度が低い(異常予兆を検知する確率が低い)ことを示している。換言すると、ポンプ21の「音」よりも「振動」の方が感度が高い(異常予兆を検知する確率が高い)という情報が、物理モデルデータベース5Aに予め含まれている。
【0076】
このように、複数種類の未検出パラメータ(未検出状態量)が、ポンプ21(機器)の異常予兆の原因に対応付けられるとともに、ポンプ21の異常予兆に対する感度の高さにも対応付けられている。なお、ポンプ21の異常予兆に対する未検出パラメータの感度の高さを示す情報は、ポンプ21の「振動」と「音」との相対的な感度の高さの大小関係であってもよいし、また、ポンプ21の異常予兆に対する感度を所定に数値化したものであってもよい。
【0077】
図12は、診断結果出力装置の画面表示例である。
図12の例では、ポンプ21の異常予兆の原因をさらに絞り込むには、ポンプ21の振動の検出が「とても有効」であるのに対し、ポンプ21の音の検出は「少し有効」であることが表示されている。このように、「とても有効」や「少し有効」といった表示も、ポンプ21の異常予兆に対する感度の高さの表示という事項に含まれる。
【0078】
このように、表示制御部10は、第1異常原因推定部6の推定結果と第2異常原因推定部8の推定結果との相違点を診断結果出力装置11(表示手段)に表示させる際、複数種類の未検出パラメータ(未検出状態量)のそれぞれの感度の高さを示す情報も併せて診断結果出力装置11(表示手段)に表示させる。
【0079】
<効果>
第4実施形態によれば、例えば、ポンプ21の異常予兆の原因を絞り込むための複数種類の未検出パラメータ(振動、音)をユーザに提示できる。また、それぞれの未計測パラメータについて、ポンプ21の異常予兆に対する感度を示すことで、新たに所定のセンサを設置する際の判断材料をユーザに提示できる。
【0080】
≪変形例≫
以上、本発明に係る異常予兆監視システム100について各実施形態による説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、第1実施形態では、第1異常原因推定部6の処理(図8のS105)が行われた後、第2異常原因推定部8の処理(S107)が行われる場合について説明したが、これらの処理の順序が逆であってもよい。また、第1異常原因推定部6の処理(S105)と、第2異常原因推定部8の処理(S107)と、が並行して行われてもよい。
【0081】
また、表示制御部10が、第1異常原因推定部6の推定結果と第2異常原因推定部8の推定結果との相違点を診断結果出力装置11(表示手段)に表示させる際、未検出パラメータ(未検出状態量)に対応する所定のセンサの追加を提案する旨も併せて診断結果出力装置11(表示手段)に表示させるようにしてもよい。これによって、ユーザは、具体的にどのようなセンサを追加すればよいのかを把握できる。なお、所定のセンサを追加する場合の設置箇所を示す情報も併せて、表示制御部10が診断結果出力装置11に表示させるようにしてもよい。
【0082】
また、各実施形態は、適宜に組み合わせることが可能である。例えば、未検出パラメータ(未検出状態量)が異常であると仮定する第1実施形態と、未検出パラメータが正常であると仮定する第2実施形態と、を適宜に組み合わせてもよい。そして、異常な検出値(例えば、ポンプ21の吐出側の温度)に加えて、ポンプ21(機器)において未検出である所定の未検出パラメータが異常であると仮定した場合のポンプ21の異常予兆の原因、及び/又は、未検出パラメータが正常であると仮定した場合のポンプ21の異常予兆の原因を第2異常原因推定部8が推定するようにしてもよい。これによって、未検出パラメータを検出するようにした場合、異常予兆の原因がどのように絞り込まれるのかをユーザが把握できる。
【0083】
また、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせ、異常予兆監視システム100において、次の処理が行われるようにしてもよい。すなわち、第2異常原因推定部8は、未検出パラメータ(未検出状態量)が異常であると仮定した場合のポンプ21(機器)の異常予兆の原因、及び、未検出パラメータが正常であると仮定した場合のポンプ21の異常予兆の原因の両方を推定する。そして、表示制御部10は、未検出パラメータが異常であると仮定した場合のポンプ21の異常予兆の原因と、未検出パラメータが正常であると仮定した場合のポンプ21の異常予兆の原因と、の間の相違点も併せて診断結果出力装置11(表示手段)に表示させる。これによって、未検出パラメータを検出するようにした場合、異常予兆の原因がどのように絞り込まれるのかをユーザが多角的に把握できる。
その他、例えば、第2実施形態と第4実施形態を組み合わせてもよいし、また、第3実施形態と第4実施形態とを組み合わせてもよい。
【0084】
また、各実施形態では、パラメータ異常検知部4が、マハラノビス距離に基づいて、ポンプ21に関する状態量(圧力・温度・流量)の異常を検知する場合について説明したが、これに限らない。例えば、ポンプ21の吐出側の圧力が、予め設定された所定範囲から外れた場合、パラメータ異常検知部4が、圧力の異常を検知するようにしてもよい。なお、ポンプ21の吐出側の温度・流量についても同様である。また、マハラノビス距離の他、周知のクラスタリングといった統計的な手法に基づいて、パラメータ異常検知部4が、ポンプ21に関する状態量の異常を検知するようにしてもよい。
【0085】
また、各実施形態では、ポンプ21の圧力・温度・流量が検出される他、未検出パラメータとしてポンプ21の振動が用いられる場合について説明したが、ポンプ21に関する状態量(例えば、圧力・温度・流量・振動)は、適宜に変更可能である。また、未検出パラメータとして、検出精度がそれほど高くないパラメータや、データが不足しがちなパラメータが用いられてもよい。また、プラント200に含まれる他の機器の異常予兆の原因推定にも、各実施形態を適用できる。この場合において、機器ごとに所定の物理モデルデータベース5(図5参照)が予め設定されるものとする。
【0086】
また、第1実施形態では、物理モデルデータベース5(図5参照)において、ポンプ21の圧力・温度・流量・振動の異常の有無の組合せに、ポンプ21の異常予兆の原因が予め対応付けられている場合について説明したが、これに限らない。たとえば、ポンプ21から吐出される流体の圧力が異常に低く、さらに、ポンプ21の流量が異常に低い場合には、配管漏れ(図5参照)が生じているといったように、正常データを基準とする状態量の検出値の大小関係を示す情報を物理モデルデータベース5に含めるようにしもよい。
【0087】
また、パラメータ異常検知部4や第1異常原因推定部6の他、パラメータ状態模擬部7、第2異常原因推定部8、追加効果計算部9、表示制御部10等の処理が、コンピュータの所定のプログラムとして実行されてもよい。前記したプログラムは、通信回線を介して提供することもできるし、CD-ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。また、正常時データベース3や物理モデルデータベース5が、コンピュータの記憶手段(図示せず)に格納されてもよい。
【0088】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、前記した各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、前記した各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0089】
1 検出値取得装置(検出値取得部)
2 時系列データ記憶部
3 正常時データベース
4 パラメータ異常検知部
5,5A 物理モデルデータベース(所定の対応関係)
6 第1異常原因推定部
7 パラメータ状態模擬部
8 第2異常原因推定部
9 追加効果計算部
10 表示制御部
11 診断結果出力装置(表示手段)
21 ポンプ(機器)
31 圧力センサ(センサ)
32 温度センサ(センサ)
33 流量センサ(センサ)
100 異常予兆監視システム
200 プラント
S102 検出値取得ステップ
S105 第1異常原因推定ステップ
S107 第2異常原因推定ステップ
S109 表示制御ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12