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特許7453053ゴム材料物性予測システム、およびゴム材料物性予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ゴム材料物性予測システム、およびゴム材料物性予測方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20240312BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20240312BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240312BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20240312BHJP
   G06N 5/04 20230101ALI20240312BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240312BHJP
【FI】
G16C20/30
C08K5/54
C08L21/00
G06N3/08
G06N5/04
G06N20/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020078269
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2021174294
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】大江 裕彰
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/006550(WO,A1)
【文献】特開2020-038493(JP,A)
【文献】国際公開第2019/048965(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/025045(WO,A1)
【文献】纐纈敏也,トーヨータイヤ、ゴム材料基盤技術を進化・・・材料データベース/AI活用のMI技術を採用,[online],2020年04月22日,1-2ページ,[検索日:2023年10月2日], <URL:https://response.jp/article/2020/04/22/333899.html>
【文献】データ化学工学研究室,分子設計・化学構造設計の概要と研究の方向性(化合物データベース利用),[online],2019年05月31日,1-8ページ,[検索日:2023年10月2日], <URL:https://datachemeng.com/moleculardesign/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00 - 99/00
G06N 5/04
G06N 3/08
G06N 20/00
C08L 21/00
C08K 5/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料の化学構造を数値情報として定量化する構造定量化処理部と、
定量化された化学構造が入力層に入力されて物性を出力層から出力する学習型の物性予測演算モデルを有し、前記構造定量化処理部により定量化された化学構造を前記入力層に入力し、前記ゴム材料の物性を算出する物性予測処理部と、
を備え、
前記物性予測演算モデルは、外部データベースに蓄積されたシラン化合物の化学構造および性状データに基づいて予備的に学習された際の重みづけを初期値とし、ゴム材料の化学構造および物性によって学習されていることを特徴とするゴム材料物性予測システム。
【請求項2】
前記ゴム材料の物性に基づいて、前記物性予測演算モデルに関する再帰演算によってゴム材料の化学構造を生成する再帰演算処理部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のゴム材料物性予測システム。
【請求項3】
前記物性予測演算モデルは、前記ゴム材料の複数の物性をマルチタスクによって算出することを特徴とする請求項1または2に記載のゴム材料物性予測システム。
【請求項4】
ゴム材料物性予測システムが、ゴム材料の化学構造を数値情報として定量化する構造定量化処理ステップと、
ゴム材料物性予測システムが、定量化された化学構造が入力層に入力されて物性を出力層から出力する学習型の物性予測演算モデルを有し、前記構造定量化処理ステップにより定量化された化学構造を前記入力層に入力し、前記ゴム材料の物性を算出する物性予測処理ステップと、
を備え、
前記物性予測演算モデルは、外部データベースに蓄積されたシラン化合物の化学構造および性状データに基づいて予備的に学習された際の重みづけを初期値とし、ゴム材料の化学構造および物性によって学習されていることを特徴とするゴム材料物性予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の物性を予測するシステム、およびゴム材料物性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両に装着されるタイヤ等に用いられるゴム材料は、主要原料であるポリマーに補強剤、各種薬剤が添加された複合材料であり、新たなゴム材料の物性を予測することにより研究開発の効率化を図ることができる。
【0003】
特許文献1には従来のゴム材料の性能の予測方法が開示されている。この予測方法は、個々の材料の分子に関する情報を含む第1データと、複数種類のゴム状弾性体の材料の配合割合を含む第2データと、第2データの各ゴム状弾性体に対応する加硫条件を含む第3データと、第2データの各ゴム状弾性体に対応する第1性能を含む第4データとの関係を示す近似応答関数を構築する工程、及び、近似応答関数と、評価対象のゴム状弾性体の材料の配合割合と、加硫条件と、分子に関する情報とに基づいて、評価対象のゴム状弾性体の第1性能を計算する工程を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-147460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたゴム材料の性能予測では、性能に関係する分子の情報として平均分子量や分子量分布等が用いられているが、ゴム材料の物性に対して化学構造中のどのような成分が寄与して物性が変わるかを把握して物性を予測することは困難であった。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ゴム材料の化学構造に基づいて物性を予測することができるゴム材料物性予測システムおよびゴム材料物性予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様はゴム材料物性予測システムである。ゴム材料物性予測システムは、ゴム材料の化学構造を数値情報として定量化する構造定量化処理部と、定量化された化学構造が入力層に入力されて物性を出力層から出力する学習型の物性予測演算モデルを有し、前記構造定量化処理部により定量化された化学構造を前記入力層に入力し、前記ゴム材料の物性を算出する物性予測処理部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明の別の態様はゴム材料物性予測方法である。ゴム材料物性予測方法は、ゴム材料の化学構造を数値情報として定量化する構造定量化処理ステップと、定量化された化学構造が入力層に入力されて物性を出力層から出力する学習型の物性予測演算モデルを有し、前記構造定量化処理ステップにより定量化された化学構造を前記入力層に入力し、前記ゴム材料の物性を算出する物性予測処理ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム材料の化学構造に基づいて物性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係るゴム材料物性予測システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】Morganアルゴリズムによる構造定量化の一例を示す模式図である。
図3】物性予測演算モデルの構成を示す模式図である。
図4】物性予測演算モデルにおける学習の一例を示す図表である。
図5】物性予測演算モデルの学習処理の手順を示すフローチャートである。
図6】実施形態2における予備学習段階の物性予測演算モデルの構成を示す模式図である。
図7】予備学習を行った場合の物性予測演算モデルの交差検証の結果を示す図表である。
図8】実施形態3に係るゴム材料物性予測システムの機能構成を示すブロック図である。
図9】再帰演算処理部による演算を説明するための模式図である。
図10】再帰演算処理部による化学構造の生成処理の手順を示すフローチャートである。
図11】再帰演算処理部によって生成した化学構造の一例を示す図表である。
図12】シングルタスクとマルチタスクによる学習における相関係数の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図12を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るゴム材料物性予測システム100の機能構成を示すブロック図である。ゴム材料物性予測システム100は、記憶装置10、構造定量化処理部20および物性予測処理部30を備え、例えばタイヤ等に用いられるゴム材料の物性を予測する。ゴム材料物性予測システム100は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。ゴム材料物性予測システム100における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0013】
記憶装置10は、例えばSSD(Solid State Drive)、ハードディスク、CD-ROM、DVD等によって構成される記憶装置である。記憶装置10には、複数のゴム材料の化学構造および物性が記憶されている。また、記憶装置10には、さらに作成される新たなゴム材料の化学構造が入力されて記憶され、当該ゴム材料の物性の予測に供される。例えば、記憶装置10にはシラン化合物を含む化学構造を持ち物性が既知のゴム材料の情報を記憶しており、ゴム材料物性予測システム100は、新たに作成されるシラン化合物を含む化学構造を持つゴム材料の物性を予測するものである。
【0014】
ゴム材料の物性は、硬度Hs、100%伸び時の引張応力S(100%)、および損失正接tanδ等である。例えば、損失正接は、温度0℃、60℃等において計測された値を代表値として用いる。後述するように、物性予測処理部30ではゴム材料の化学構造および物性を用いて学習型の演算モデルに学習させるため、記憶装置10にはより多くのゴム材料に対する既知の化学構造および物性が記憶されていることが好ましい。
【0015】
既知のゴム材料の化学構造および物性は、外部データ装置90から取得されてもよい。外部データ装置90は、例えばインターネット等の通信ネットワークで接続されており、外部データ装置90が保有するデータベースに蓄積されたゴム材料の化学構造および物性をゴム材料物性予測システム100で利用する。
【0016】
構造定量化処理部20は、Morganアルゴリズム等の手法を用いて、ターゲットとなるゴム材料の化学構造を数値情報に変換し定量化する。図2は、Morganアルゴリズムによる構造定量化の一例を示す模式図である。図2に示す構造定量化では、まずSMILES(Simplified Molecular Input Line Entry Syntax)による線形表記に基づいてゴム材料の分子構造を表す。
【0017】
線形表記された分子構造に対して、Morganアルゴリズムを適用し、分子内の原子の優先順位を付け、符号化されたフィンガープリントを出力する。構造定量化処理部20は、ゴム材料の化学構造を0または1からなる8192ビットの符号化列による数値情報に変換して定量化している。フィンガープリントのビット数は、ゴム材料の構造が重複することなく表現されていれば任意の数であって良い。
【0018】
物性予測処理部30は、物性予測演算モデル31および更新処理部32を備え、既知のゴム材料の化学構造および物性に基づいて物性予測演算モデル31を学習させ、作成される新たなゴム材料の物性を予測する。物性予測演算モデル31は、ニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。図3は、物性予測演算モデル31の構成を示す模式図である。物性予測演算モデル31は、例えばDNN(Deep Neural Network)型であり、入力層41、隠れ層42および出力層43を備え、構造定量化処理部20により定量化された化学構造を入力層41に入力し、ゴム材料の物性を算出して、出力層43から出力する。
【0019】
物性予測演算モデル31は、入力層41から隠れ層42へ、隠れ層42から出力層43へ重みづけを用いた線形演算等を実行する全結合のパスによって結び付けられている。隠れ層42は、複数層のノードで構成されており、各層が全結合のパスによって接続されている。図3に示す例では、入力層41のノード数が8192個であり、出力層43のノード数が4個となっている。隠れ層42は、3層構成とし、各層におけるノード数を256としているが、層の数およびノード数はこれに限られるものではなく任意の数であってもよい。
【0020】
出力層43の各ノードには、ゴム材料の物性として、硬度Hs、100%伸び時の引張応力S(100%)、0℃での損失正接tanδ(0℃)および60℃での損失正接tanδ(60℃)が出力される。
【0021】
物性予測演算モデル31は、既知のゴム材料の化学構造およびその物性に基づいて学習させることができる。更新処理部32は、化学構造に基づいて物性予測演算モデル31により算出した物性と、教師データとして与えられる物性とを比較し、例えば逆拡散演算により、各ノード間の重みづけを修正して物性予測演算モデル31の学習を繰り返す。
【0022】
図4は物性予測演算モデル31における学習の一例を示す図表である。図4においては、交差検証を5回実行しており、各K=1~5の5ケースによる学習について損失関数としての平均二乗誤差を算出し、各ケースの平均値を求めている。物性予測演算モデル31による予測精度は、データベース内のデータを学習用と予測用に分割し、それぞれにモデルを適用することで確認される。交差検証によって平均的に良い結果を出力する物性予測演算モデル31は、全てのデータに対して良好な演算結果を出力すると考えられる。
【0023】
次にゴム材料物性予測システム100の動作について説明する。図5は、物性予測演算モデル31の学習処理の手順を示すフローチャートである。構造定量化処理部20は、記憶装置10からランダムに読み出したゴム材料の化学構造に基づいて符号化されたフィンガープリントを生成し出力する(S1)。物性予測処理部30は、構造定量化処理部20により生成されたフィンガープリントを物性予測演算モデル31の入力層41へ入力し、物性予測演算モデル31によりゴム材料の物性を予測する(S2)。
【0024】
ステップS2では、上述のように交差検証等の手法を用いており、記憶装置10からランダムに読み出した複数のゴム材料に対して学習を繰り返して検証を行い、予測した物性と既知の物性との平均二乗誤差等を算出し、各ケースの平均値を求める。
【0025】
物性予測処理部30は、既知の物性値に対して所定範囲内を予め定めて目標値(目標範囲)とし、交差検証によって平均的に良い結果を出力する物性予測演算モデル31によって予測した物性が、目標値を満たすか否かを判定する(S3)。
【0026】
ステップS3によって、物性予測演算モデル31によって予測した物性が、目標値を満たす場合(S3:YES)、処理を終了する。一方、物性予測演算モデル31によって予測した物性が、目標値を満たさない場合(S3:NO)、ステップS1に戻って処理を繰り返す。
【0027】
ゴム材料物性予測システム100は、学習によって物性予測演算モデル31を構築し、作成される新たなゴム材料の化学構造に基づいて、当該ゴム材料の物性を予測することができる。ゴム材料物性予測システム100は、ゴム材料の開発過程で検討される新たな化学構造を物性予測処理部30へ入力することで物性を予測することができ、ゴム材料開発の効率を向上することができる。
【0028】
(実施形態2)
実施形態2に係るゴム材料物性予測システム100は、外部データ装置90から既知のゴム材料の化学構造および物性を取得して予備的に物性予測演算モデル31の学習を実行し、学習した物性予測演算モデル31を実施形態1で説明した演算モデルの学習に転用する。図6は、実施形態2における予備学習段階の物性予測演算モデル31の構成を示す模式図である。
【0029】
外部データ装置90としては、化合物データを蓄積したPubChemやZINCなどの外部データベースを利用し、当該外部データベースに掲載されている化合物情報を抽出する。図6に示す予備学習段階の例では、シラン化合物の化学構造、並びに、性状を表すトポロジカル極性表面積(TPSA:Topological Polar Surface Area)、オクタノール水分配比率(logP)および構造複雑性(Complexity)を外部データベースから抽出する。
【0030】
ゴム材料物性予測システム100の構造定量化処理部20は、実施形態1と同様に、外部データベースに掲載されている化合物の化学構造に基づいてフィンガープリントを作成する。物性予測処理部30は、構造定量化処理部20で作成したフィンガープリントを物性予測演算モデル31の入力層41に入力し、物性予測演算モデル31の学習を実行する。物性予測演算モデル31は、出力層43は、トポロジカル極性表面積、オクタノール水分配比率および化学構造複雑性を出力層43から出力する。更新処理部32は、物性予測演算モデル31により予測した化合物の性状と、教師データである外部データベースに掲載されている化合物の性状データとを比較し、例えば逆拡散演算により、各ノード間の重みづけを修正して物性予測演算モデル31の学習を繰り返す。
【0031】
ゴム材料物性予測システム100は、外部データベースに掲載されている化合物情報に基づいて予備学習によって得られた物性予測演算モデル31の各ノードに関する重みづけを初期値として物性予測演算モデル31に与え、実施形態1で説明した物性予測演算モデル31の学習を実行する。
【0032】
図7は予備学習を行った場合の物性予測演算モデル31の交差検証の結果を示す図表である。物性予測演算モデル31の交差検証は、実施形態1と同様であり、予備学習を経て物性予測演算モデル31を学習させることで、ゴム材料の物性予測における平均二乗誤差の平均値を小さくすることができ、予測精度の向上を図ることができる。
【0033】
ゴム材料物性予測システム100は、外部データベースに掲載された化合物の性状データと物性とは化学構造に基づく一定の関係性を有しているため、外部データベースを利用した予備学習を経て物性予測演算モデル31を学習させることによって、ゴム材料の物性予測の精度を向上することができる。
【0034】
(実施形態3)
実施形態3に係るゴム材料物性予測システム100は、物性予測演算モデル31を利用し、再帰演算によって物性に最も近くなるであろう化学構造を求める。図8は実施形態3に係るゴム材料物性予測システム100の機能構成を示すブロック図である。ゴム材料物性予測システム100は、再帰演算処理部50を有するほか、実施形態1と同様に構成される。
【0035】
再帰演算処理部50は、物性予測演算モデル31の最も物性の特徴を表す層を符号化情報として利用することで物性に基づいて化学構造を求める。再帰演算処理部50は、化学構造を予測するモデルとして、例えばRNN(Recurrent Neural Network)およびLSTM(Long Short-Term Memory)等を使用し、入力を可変にして過去の出力結果を学習に適用する。
【0036】
図9は、再帰演算処理部50による演算を説明するための模式図である。再帰演算処理部50で用いるRNNの最初の入力は、物性予測演算モデル31の最終層であり、LSTMブロックによって3文字列情報を出力する。再帰演算処理部50は、出力された3文字列情報のうち最も確率の高いものを再度学習させる。再帰演算処理部50は、入力の最初の2文字を固定して、さらにLSTMブロックによって3文字列を出力し、これを最大出力になるまで繰り返し、3文字列情報を結合してSMILESによる線形表記を作成する。再帰演算処理部50は、SMILESによる線形表記を作成することで、ゴム材料の物性に最も近くなるであろう化学構造を出力することになる。
【0037】
図10は、再帰演算処理部50による化学構造の生成処理の手順を示すフローチャートである。再帰演算処理部50は、RNNを用いてSMILESによる化学構造の線形表記を作成する(S11)。再帰演算処理部50は、ステップS11によって生成された線形表記による化学構造が有効な化合物を示しているか否かを判定し(S12)、有効な化合物であれば(S12:YES)、処理を終了する。ステップS12において、有効な化合物ではない場合(S12:NO)、ステップS11に戻って処理を繰り返す。
【0038】
図11は、再帰演算処理部50によって生成した化学構造の一例を示す図表である。所望の物性を入力した際の予測物性と、SMILESによる線形表記された化学構造を出力している。上述のように、出力された化学構造が有効な化合物を示しているか否かが判定される。
【0039】
ゴム材料物性予測システム100は、再帰演算によって物性に最も近くなるであろう化学構造を求めことにより、ゴム材料の開発過程で検討されるべき新たな化学構造を提案することができ、ゴム材料開発の効率を向上することができる。
【0040】
上述の各実施形態に係るゴム材料物性予測システム100は、外部データベースによる物性予測演算モデル31の予備学習をマルチタスク形式で実行し、さらに物性予測演算モデル31の学習をマルチタスク形式で実行している。
【0041】
物性予測演算モデル31による予備学習では、シラン化合物の性状を表すトポロジカル極性表面積(TPSA)、オクタノール水分配比率(logP)および構造複雑性(Complexity)を個々に演算するシングルタスクではなく、3つの性状を1つの演算モデルで求めるマルチタスク形式としている。また、予備学習の有無に拠らず、物性予測演算モデル31におけるゴム材料の物性に関する学習では、硬度Hs、100%伸び時の引張応力S(100%)、損失正接tanδ(0℃)および損失正接tanδ(60℃)を個々に演算するシングルタスクではなく、4つの物性を1つの演算モデルで求めるマルチタスク形式としている。
【0042】
図12はシングルタスクとマルチタスクによる学習における相関係数の一例を示す図表である。図12に示すようにマルチタスクによる予備学習によって、相関係数であるR-sq(二乗値)が大きくなり、物性予測演算モデル31による化合物の性状予測の精度を向上させることができる。同様に、物性予測演算モデル31の学習についてもマルチタスクによる学習を実行することによって、物性予測の精度を向上させることができる。
【0043】
また、ゴム材料物性予測システム100は、外部データベースによる物性予測演算モデル31の予備学習、さらに予備学習を経た物性予測演算モデル31の学習をマルチタスク形式で実行することによって物性予測の精度を向上させることができる。尚、物性予測演算モデル31の外部データベースに基づく予備学習、並びに、予備学習の有無に関わらずゴム材料の化学構造および物性に基づく物性予測演算モデル31の学習をシングルタスク形式で実行してもよい。
【0044】
次に実施形態に係るゴム材料物性予測システム100の特徴について説明する。
実施形態に係るゴム材料物性予測システム100は、構造定量化処理部20および物性予測処理部30を備える。構造定量化処理部20は、ゴム材料の化学構造を数値情報として定量化する。物性予測処理部30は、定量化された化学構造が入力層41に入力されて物性を出力層43から出力する学習型の物性予測演算モデル31を有し、構造定量化処理部20により定量化された化学構造を入力層41に入力し、ゴム材料の物性を算出する。これにより、ゴム材料物性予測システム100は、ゴム材料の化学構造に基づいてゴム材料の物性を予測することができる。
【0045】
また、物性予測演算モデル31は、外部データベースに蓄積されたシラン化合物の化学構造および性状データに基づいて予備的に学習された際の重みづけを初期値とし、ゴム材料の化学構造および物性によって学習されている。これにより、ゴム材料物性予測システム100は、ゴム材料の物性予測の精度を向上することができる。
【0046】
また、ゴム材料の物性に基づいて、物性予測演算モデル31に関する再帰演算によってゴム材料の化学構造を生成する再帰演算処理部50を更に備える。これにより、ゴム材料物性予測システム100は、ゴム材料の開発過程で検討されるべき新たな化学構造を提案することができる。
【0047】
また、物性予測演算モデル31は、ゴム材料の複数の物性をマルチタスクによって算出する。これにより、ゴム材料物性予測システム100は、物性予測の精度を向上させることができる。
【0048】
ゴム材料物性予測方法は、構造定量化処理ステップおよび物性予測処理ステップを備える。構造定量化処理ステップは、ゴム材料の化学構造を数値情報として定量化する。物性予測処理ステップは、定量化された化学構造が入力層41に入力されて物性を出力層43から出力する学習型の物性予測演算モデル31を有し、構造定量化処理ステップにより定量化された化学構造を入力層41に入力し、ゴム材料の物性を算出する。このゴム材料物性予測方法によれば、ゴム材料の化学構造に基づいてゴム材料の物性を予測することができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0050】
20 構造定量化処理部、 30 物性予測処理部、 31 物性予測演算モデル、
41 入力層、 43 出力層、 50 再帰演算処理部、
100 ゴム材料物性予測システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12