(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セルロースエステル組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 1/10 20060101AFI20240312BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20240312BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20240312BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08L1/10
C08K5/11
C08K5/103
C08J5/00 CEP
(21)【出願番号】P 2020121092
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】荻原 剛之
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-035814(JP,A)
【文献】国際公開第2019/156116(WO,A1)
【文献】特開2014-084343(JP,A)
【文献】特開2013-112821(JP,A)
【文献】特開2014-125513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースエステル、(B)アジピン酸エステル系化合物、及び(C)トリアセチン、を含有し、
(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計質量が100質量%であるとき、(B)成分の含有量が3~20質量%であり、(C)成分の含有量が2~17質量%であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が13~26質量%であり、残部が(A)成分である、セルロースエステル組成物。
【請求項2】
(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%であるとき、(B)成分の含有量が6~18質量%であり、(C)成分の含有量が2~15質量%であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が16~24質量%であり、残部が(A)成分である、請求項1記載のセルロースエステル組成物。
【請求項3】
(A)成分のセルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから選ばれるものである請求項1または2記載のセルロースエステル組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物からなる、成形品。
【請求項5】
ISO178に準拠した曲げ試験より算出される曲げ弾性率が2800MPa以上である、請求項4記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル組成物及び当該組成物の成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテートなどのセルロースエステルは一般的に熱可塑性が乏しいため、通常は可塑剤を含む組成物として使用されている。
特許文献1は、セルロースアセテート、クエン酸アセチルトリエチル、トリアセチンを含む組成物が記載されており、射出成形体の機械的特性の良いことが記載されている。
しかしながら、セルロースエステル組成物の射出成形時の流動性と、機械的強度のバランスが、まだ充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い流動性を有し、曲げ弾性率に優れた成形品が得られるセルロースエステル組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(A)セルロースエステル、(B)アジピン酸エステル系化合物、及び(C)トリアセチン、を含有し、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計質量が100質量%であるとき、(B)成分の含有量が3~20質量%であり、(C)成分の含有量が2~17質量%であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が13~26質量%であり、残部が(A)成分である、セルロースエステル組成物、その組成物の成形品を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセルロースエステル組成物は、高い流動性を有し、本発明のセルロースエステル組成物の成形品は高い曲げ弾性率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のセルロースエステル組成物、及びセルロースエステル組成物からなる成形品について詳細に説明する。
【0008】
(組成物)
<(A)成分>
組成物で用いる(A)成分のセルロースエステルは公知のものであり(例えば、特開2005-194302号公報に記載されているもの)、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等を挙げることができる。
その他、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロース等も挙げることができる。その中でもセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースアセテートブチレートが好ましい。
これらのセルロースエステルは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0009】
(A)成分のセルロースエステルは、本発明の好ましい一態様は平均置換度が2.7以下のセルロースアセテートである。
(A)成分のセルロースエステルの重合度は、本発明の好ましい一態様は粘度平均重合度が100~1000、本発明の別の好ましい一態様は100~500である。
【0010】
<(B)成分>
組成物で用いる(B)成分のアジピン酸エステル系化合物は、可塑剤として作用する成分であり、(C)成分と併用することで組成物の流動性と組成物の成形品の曲げ弾性率をより高めることができる。
(B)成分のアジピン酸エステル系化合物は、アジピン酸と芳香族アルコールとのエステル、アジピン酸と脂肪族アルコールとのエステル、並びにアジピン酸と芳香族アルコールおよび脂肪族アルコールとの混基エステルなどを挙げることができるが、本発明の好ましい一態様はアジピン酸と芳香族アルコールおよび脂肪族アルコールとの混基エステルの単独化合物または混合物である。
【0011】
アジピン酸と芳香族アルコールおよび脂肪族アルコールとの混基エステルとしては、ベンジルアルキルジグリコールアジペートが好ましく、ベンジルアルキルジグリコールアジペートを単独で使用してもよいし、ベンジルアルキルジグリコールアジペートを含むアジピン酸と芳香族アルコールとのエステルおよび/またはアジピン酸と脂肪族アルコールとのエステルの混合物を使用してもよい。
ベンジルアルキルジグリコールアジペートを含む混合物を使用するときは、ベンジルアルキルジグリコールアジペートの含有量が35質量%以上であるものを使用することができる。
ベンジルアルキルジグリコールアジペートのアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよいが、直鎖状のものを使用することができる。
また、本発明の好ましい一態様はアルキル基の炭素数が1~20である、本発明の別の好ましい一態様は1~8、本発明のさらに別の好ましい一態様は1~4である。
特に本発明の好ましい一態様は、直鎖状の炭素数1~4のアルキル基を有する、ベンジルメチルジグリコールアジペート、ベンジルエチルジグリコールアジペート、ベンジルn-プロピルジグリコールアジペート、及びベンジルn-ブチルジグリコールアジペートである。
【0012】
アジピン酸と脂肪族アルコールとのエステルとしては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジメトキシエトキシエチル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルなどを挙げることができる。
【0013】
アジピン酸と芳香族アルコールとのエステルとしては、アジピン酸ジフェニル、アジピン酸ジベンジル、アジピン酸ジクレジルおよびアジピン酸ジキシリルなどを挙げることができる。
【0014】
<(C)成分>
組成物で用いる(C)成分のトリアセチンは、1,2,3-トリアセトキシプロパンまたはグリセリン三酢酸とも呼ばれるグリセロールエステル系化合物(トリアシルグリセロール)である。
【0015】
組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%のとき、3~20質量%であり、本発明の好ましい一態様は4~18質量%、本発明の別の好ましい一態様は6~18質量%、本発明のさらに別の好ましい一態様は8~16質量%である。
(B)成分の含有量は、前記範囲の上限値より多いとブリードアウトが生じ、前記範囲の下限値より少ないと流動性が劣る。
【0016】
組成物中の(C)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%のとき、2~17質量%であり、本発明の好ましい一態様は2~15質量%、本発明の別の好ましい一態様は3~14質量%、本発明のさらに別の好ましい一態様は3~12質量%である。
(C)成分の含有量は、前記範囲の上限値より多いと流動性が劣り、前記範囲の下限値より少ないと成形品の曲げ弾性率が劣る。
【0017】
本発明の組成物中の(B)成分と(C)成分の合計含有量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%のとき、13~26質量%であり、本発明の好ましい一態様は15~24質量%、本発明の別の好ましい一態様は16~24質量%である。本発明の組成物は、前記範囲で(B)成分と(C)成分を含み、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量の残部として(A)成分を含有する。
(B)成分と(C)成分の合計含有量は、前記範囲の上限値より多いとブリードアウトが生じ、前記範囲の下限値より少ないと流動性が劣る。
【0018】
組成物は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂を含有することができる。
公知の熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などのポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂などを挙げることができる。
公知の熱可塑性樹脂の含有割合は、(A)成分のセルロースエステルとの合計量中、本発明の好ましい一態様は40質量%以下であり、本発明の別の好ましい一態様は20質量%以下である。
【0019】
組成物は、さらに充填剤を含有することができる。
充填剤としては、繊維状充填剤、非繊維状充填剤(粉粒状又は板状充填剤など)が含まれ、例えば、特開2005-194302号公報の段落番号0025~0032に記載のものを挙げることができる。
充填剤の含有割合は、(A)成分のセルロースエステル100質量部に対して、本発明の好ましい一態様は5~50質量部、本発明の別の好ましい一態様は5~40質量部、本発明のさらに別の好ましい一態様は5~30質量部である。
【0020】
組成物は、特開2005-194302号公報の段落番号0035~0042に記載のエポキシ化合物、段落番号0043~0052に記載の有機酸、チオエーテル、亜リン酸エステル化合物などの安定化剤を含有することができる。
【0021】
組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。
【0022】
組成物は、例えば、各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式又は湿式で混合して調製してもよい。
さらに、前記混合機で予備混合した後、一軸又は二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製する方法、加熱ロールやバンバリーミキサーなどの混練機で溶融混練して調製する方法を適用することができる。
【0023】
(成形品)
組成物は、射出成形、押出成形、多層押出成形、プレス成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形などによって各種成形品に成形することができる。
【0024】
成形品のISO178に準拠して求められる曲げ弾性率は、本発明の好ましい一態様は2800MPa以上であり、本発明の別の好ましい一態様は2900MPa以上であり、本発明のさらに別の好ましい一態様は3000MPa以上である。
【0025】
成形品のISO75に準拠して求められる熱変形温度(HDT)(高荷重1.8MPa,低荷重0.45MPa)は、高荷重のときの本発明の好ましい一態様は70~97℃、本発明の別の好ましい一態様は75~95℃であり、低荷重のときの本発明の好ましい一態様は98~120℃、本発明の別の好ましい一態様は100~118℃である。
【0026】
本発明のセルロースエステル組成物は、OA・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車などの輸送車両分野、家具・建材などの住宅関連分野、雑貨分野などの各パーツ、ハウジングなどに使用することができる。
【0027】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲で、適宜構成の付加、省略、置換及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0028】
実施例及び比較例
表1に示す(A)成分のセルロースエステル、(B)成分のアジピン酸エステル系化合物、(C)成分のトリアセチン、またはクエン酸エステル系化合物を、ヘンシェルミキサーを用いて、ミキサー内の摩擦熱で70℃以上となるように各組成物を攪拌混合した後、二軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス温度:210℃)に供給し、押し出してペレット化した。
得られたペレットを、射出成形機に供給して、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、成形サイクル60秒(射出20秒、冷却時間40秒)の条件で試験片を射出成形して、各評価試験に使用した。
【0029】
<使用成分>
(A)成分
セルロースエステル(酢酸セルロース):商品名「L50」、置換度2.5、粘度平均重合度180、(株)ダイセル製、
(B)成分
アジピン酸エステル系化合物:商品名「DAIFATTY-101」、大八化学工業(株)製
(C)成分
トリアセチン:商品名「DRA-150」、株式会社ダイセル製
<比較成分>
クエン酸エステル系化合物:商品名「シトロフレックス2」、森村商事株式会社
【0030】
<測定試験>
(曲げ弾性率)
ISO178に準拠した方法により曲げ弾性率を算出した。
(バーフロー長さ)
下記バーフロー金型を用いて、シリンダー温度220℃、射出圧力100MPaで射出成形し、その時の流動長を評価した。
バーフロー金型:競技場のトラック形の流路が掘られている金型。流路の断面形状は長方形であり、幅2cm,厚み2mm。流路の先端はオープンになっている。
(シャルピー衝撃強度)
ISO179/1eAに準拠して、シャルピー衝撃強度を測定した。
(熱変形温度(℃):HDT)
ISO75に準拠して、熱変形温度(HDT)を測定した。高荷重は1.8MPa、低荷重は0.45MPaである。
(メルトフローインデックス:MI)
ISO1133に準拠して、MIを測定した。
【0031】
【0032】
実施例1~5と比較例1~7から、(B)アジピン酸エステル系化合物と(C)成分のトリアセチンを使用することで、流動性(バーフロー長さ)を高いレベルで維持したまま、成形品の曲げ弾性率、衝撃強度、耐熱性をバランス良く備えたセルロースエステル組成物を得られることが確認できた。