(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置及びこれを用いた浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造
(51)【国際特許分類】
B63B 35/38 20060101AFI20240312BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20240312BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20240312BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20240312BHJP
F03D 80/50 20160101ALI20240312BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B63B35/38 A
B63B35/00 T
F03D1/06 A
F03D13/25
F03D80/50
E04G21/16
(21)【出願番号】P 2020137520
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁
(72)【発明者】
【氏名】野又 政宏
(72)【発明者】
【氏名】新川 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】酒井 賢太
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2857615(EP,A1)
【文献】実開平5-61312(JP,U)
【文献】特開平6-316966(JP,A)
【文献】特開2014-173586(JP,A)
【文献】特開2004-11210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00
F03D 1/06
F03D 13/25
F03D 80/50
E04C 3/34
E04G 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型プレキャストコンクリート部材の内側において、内接する正多角形状線に沿って緊張ケーブルが張設されている円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置
であって、
前記内接する正多角形状線の各頂点位置に定着金具を固定し、隣接する定着金具間に緊張力を導入可能に緊張ケーブルを架け渡してあり、
前記定着金具が隣接する2方向の緊張ケーブルの定着部毎に2分割されているとともに、前記円筒型プレキャストコンクリート部材が周方向に同位置で分割された構造とされ、これら分割されたプレキャストコンクリート部材が周方向に接合されることにより円筒型に閉合されていることを特徴とする円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置。
【請求項2】
前記内接する正多角形状線は、正三角形状~正六角形の内のいずれかである請求項
1記載の円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置。
【請求項3】
前記内接する正多角形状線に沿って緊張ケーブルを張設した補強装置を一組としてプレキャストコンクリート部材の軸芯方向に所定間隔で複数設けてある請求項1
、2いずれかに記載の円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置。
【請求項4】
浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数のブレードからなる風車とから構成された浮体式洋上風力発電設備における前記浮体が、下部側がコンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げたコンクリート製浮体構造とされるとともに、上部側が鋼部材からなる鋼製浮体構造とされ、前記下部側のコンクリート製のプレキャスト筒状体に対して、請求項1~
3いずれかに記載の円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置が設けられていることを特徴とする浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒型プレキャストコンクリート部材のための補強装置及びこれを用いた浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主として水力、火力及び原子力発電等の発電方式が専ら採用されてきたが、近年は環境や自然エネルギーの有効活用の点から自然風を利用して発電を行う風力発電が注目されている。この風力発電設備には、陸上設置式と水上(主として海上)設置式とがあるが、沿岸域から後背に山岳地形をかかえる我が国の場合、沿岸域に安定した風が見込める平野が少ない状況にある。一方、日本は四方を海で囲まれており、海上は発電に適した風が容易に得られるとともに、設置の制約が少ないなどの利点を有する。そのため近年は、浮体式洋上風力発電設備やそのための浮体構造が多く提案されている。
【0003】
前記浮体構造としては、浮体を水面に浮かばせるポンツーン型浮体、浮体を水面下に沈めた状態で浮かばせるセミサブ型、釣り浮きのように起立状態で浮かせるスパー型とに大別される。
【0004】
前記スパー型浮体構造に関して、下記特許文献1には、浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数の風車ブレードとからなる洋上風力発電設備であって、前記浮体は、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部とからなるスパー型の浮体構造とした洋上風力発電設備(以下、スパー型浮体式洋上風力発電設備という。)が提案されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、上下の蓋体と、これらの間に連続的に設置された筒状のプレキャストコンクリートブロックとがPC鋼材で一体接合されてなる下部浮体と、該下部浮体にPC鋼材で一体接合された、上記プレキャストコンクリートブロックよりも小径なプレキャストコンクリートブロックと上蓋とからなる上部浮体とから構成され、下部浮体の下部内側に隔壁によって複数のバラストタンクが形成され、上部浮体の内側には隔壁によって複数の水密区画部が形成された洋上風力発電の浮体構造が提案されている。
【0006】
前記特許文献1、2のように、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げて一体化を図るコンクリート浮体構造部を備えた洋上風力発電設備の場合、前記コンクリート浮体構造部の組立てや運搬の際及び洋上風力発電設備の建て起こしの際などに、コンクリート浮体構造部に大きな曲げ応力が作用する。ここで、コンクリート浮体構造部は、設置後は両端がほぼ自由端とされた支持構造であるため、主に軸力が作用し、大きな曲げ応力は作用しない構造となっている。特に、プレキャスト筒状体として周方向に複数に分割された分割プレキャスト筒状体を接合した構造の場合、曲げに対する強度が弱く、組立てや運搬中及び建て起こし時に変形や破損が生じる危険性があった。
【0007】
従って、前記プレキャスト筒状体を補強するために、コンクリート製のプレキャスト筒状体内部に、例えば下記特許文献3に開示されるような補強用支保工(真円保持装置)を設けたり、下記特許文献4に開示されるように、プレキャスト筒状体の外周に、緊張力が導入されたアウターケーブルを周方向に沿って巻回することによって補強を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5274329号公報
【文献】特開2009-18671号公報
【文献】特開平10-280894号公報
【文献】特開2014-173586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記補強用支保工による方法の場合は、供用後に外部から水圧を受けた際、補強されている部位とそうでない部位とが同等の水圧を受けることになるが、補強されている部位は変形が拘束されているため、真円が保持できなくなるようないびつな応力集中が発生する可能性があった。また、海上での建て起し時に軸芯回りに回転した場合、作用方向が変化するためプレキャスト筒状体の変形を防止できなくなってしまうという問題(補強の方向が限定的)があるとともに、設置後に補強用支保工を取り外すことが困難であるなどの問題があった。
【0010】
一方、前記アウターケーブル方式の場合は、全周に亘って均等に補強ができているため、いびつな応力集中が起きないとともに、供用後に外水圧によってプレキャスト筒状体の外径が僅かに縮小することによって緊張力が弛緩するためプレキャスト筒状体に有害な応力が発生することはない。しかしながら、アウターケーブルはプレキャスト筒状体の外周に設置するものであるため、設置後は海中に位置することになるため、撤去することは実際上できないとともに、アウターケーブルの設置費用が高いなどの問題があった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、全周方向に亘って均等に補強できること、及び少なくとも設置後に取り外しが可能であるなどの利点を備えた円筒型プレキャスト部材の補強装置及びこれを用いた浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、円筒型プレキャストコンクリート部材の内側において、内接する正多角形状線に沿って緊張ケーブルが張設されている円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置であって、
前記内接する正多角形状線の各頂点位置に定着金具を固定し、隣接する定着金具間に緊張力を導入可能に緊張ケーブルを架け渡してあり、
前記定着金具が隣接する2方向の緊張ケーブルの定着部毎に2分割されているとともに、前記円筒型プレキャストコンクリート部材が周方向に同位置で分割された構造とされ、これら分割されたプレキャストコンクリート部材が周方向に接合されることにより円筒型に閉合されていることを特徴とする円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置が提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明は、円筒型プレキャストコンクリート部材の内側において、内接する正多角形状線に沿って緊張ケーブルが張設されている補強構造としたものである。
【0014】
各緊張ケーブルに緊張力を導入すると、正多角形の各頂点から2方向に緊張力が作用するが、これら緊張力の分力がプレキャストコンクリート部材に円周方向のプレスト力として導入されることになり全周方向に亘って均等に補強が成されるようになる。従って、プレスト力の導入によって曲げに対する強度が増し、組立て作業や運搬作業、建て起こしなどの際に、円筒型プレキャストコンクリート部材の変形や破損が防止できるようになる。
【0015】
また、前記補強装置は円筒型プレキャストコンクリート部材の内側に設けられるものであるため、浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造に適用した場合、洋上に浮かべた後でも取り外しが可能であり、再利用も可能となる。
【0016】
本発明では特に、前記内接する正多角形状線の各頂点位置に定着金具を固定し、隣接する定着金具間に緊張力を導入可能に緊張ケーブルを架け渡してあり、前記定着金具が隣接する2方向の緊張ケーブルの定着部毎に2分割されているとともに、前記円筒型プレキャストコンクリート部材が周方向に同位置で分割された構造とされ、これら分割されたプレキャストコンクリート部材が周方向に接合されることにより円筒型に閉合されている。
【0017】
緊張力の導入は、例えばケーブルの定着部分にターンバックル機構を設けることにより軸芯回りに回転させることにより伸縮調整可能とし、ケーブルに緊張力を導入することが可能となる。
【0018】
円筒型プレキャストコンクリート部材の寸法が大きく車両輸送が困難である場合、円筒型プレキャストコンクリート部材を周方向に複数に分割して製作し運搬を行う場合がある。このような場合は、前記定着金具が隣接する2方向の緊張ケーブルの定着部毎に2分割されているとともに、前記円筒型プレキャストコンクリート部材が周方向に同位置で分割された構造とし、これら分割されたプレキャストコンクリート部材が周方向に接合されることにより円筒型に閉合されている構造とする。周方向に閉合する前の弧状プレキャストコンクリート部材の状態でも、丁度弓の弦のように張設された緊張ケーブルによって弧状プレキャストコンクリート部材の状態でも補強が成されるようになる。
【0019】
請求項2に係る本発明として、前記内接する正多角形状線は、正三角形状~正六角形の内のいずれかである請求項1記載の円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置が提供される。
【0020】
上記請求項2記載の発明では、前記内接する正多角形状線の好適な範囲を示したものである。定着金具の設置数やケーブルの張設手間を考慮すると、前記内接する正多角形状線は、正三角形状~正六角形の内のいずれかとするのがバランス的に望ましい。
【0021】
請求項3に係る本発明として、前記内接する正多角形状線に沿って緊張ケーブルを張設した補強装置を一組としてプレキャストコンクリート部材の軸芯方向に所定間隔で複数設けてある請求項1、2いずれかに記載の円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置が提供される。
【0022】
上記請求項3記載の発明では、前記内接する正多角形状線に沿って緊張ケーブルを張設した補強装置を一組としてプレキャストコンクリート部材の軸芯方向に所定間隔で複数設けるようにしたものである。間隔は緊張ケーブルによる補強程度によって異ならせることが可能である。
【0023】
請求項4に係る本発明として、浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数のブレードからなる風車とから構成された浮体式洋上風力発電設備における前記浮体が、下部側がコンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げたコンクリート製浮体構造とされるとともに、上部側が鋼部材からなる鋼製浮体構造とされ、前記下部側のコンクリート製のプレキャスト筒状体に対して、請求項1~3いずれかに記載の円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置が設けられていることを特徴とする浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造が提供される。
【0024】
上記請求項4記載の発明は、本発明に係る円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置を浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造に適用した場合を示したものである。
【発明の効果】
【0025】
以上詳説のとおり本発明によれば、全周方向に亘って均等に補強できること、及び少なくとも設置後に取り外しが可能であるなどの利点を備えた円筒型プレキャスト部材の補強装置及びこれを用いた浮体式洋上風力発電設備におけるコンクリート製浮体構造が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】スパー型浮体式洋上風力発電設備1の側面図である。
【
図3】プレキャスト筒状体15を示す、(A)は縦断面図、(B)は平面図(B-B線矢視図)、(C)は底面図(C-C矢視図)である。
【
図4】プレキャスト筒状体15同士の緊結要領図(A)(B)である。
【
図5】下側コンクリート製浮体構造部4Aと上側鋼製浮体構造部4Bとの境界部を示す縦断面図である。
【
図6】本発明に係る補強装置2を下側コンクリート製浮体構造部4Aに適用した場合の横断面図である。
【
図7】その縦断面図(
図6のVII-VII線矢視図)である。
【
図8】(A)は定着金具31部分の拡大図(
図6のVIII部)で、(B)はその平面図である。
【
図9】緊張ケーブル30を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【
図10】補強装置2による補強メカニズムの説明図である。
【
図11】浮体4を海面に浮かべた場合のプレキャスト筒状体15への水圧作用状態図である。
【
図12】プレキャスト筒状体15の分割態様図である。
【
図13】分割された弧状型プレキャストコンクリート部材の仮置き状態図である。
【
図14】緊張ケーブル30の配置を正四角形状にした場合のプレキャスト筒状体15の横断面図である。
【
図15】緊張ケーブル30の配置を正六角形状にした場合のプレキャスト筒状体15の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0028】
〔スパー型浮体式洋上風力発電設備1〕
本発明の係る補強装置2を説明する前に、これを適用し得るスパー型浮体式洋上風力発電設備1について
図1~
図5に基づいて詳述する。
【0029】
前記スパー型洋上風力発電設備1は、
図1に示されるように、筒状形状の浮体4と、係留索5と、タワー6と、タワー6の頂部に設備されるナセル8及び複数のブレード9,9…からなる風車7とから構成されるものである。
【0030】
前記浮体4は、
図2に示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部4Aと、この下側コンクリート浮体構造部4Aの上側に連設された上側鋼製浮体構造部4Bとからなる。
【0031】
前記浮体4の中空部内には、水、砂利、細骨材又は粗骨材、金属粒などのバラスト材が投入又は排出可能とされ、浮力(喫水)が調整可能とされる。バラスト材の投入/排出は、本出願人が先に、特開2012-201217号公報において提案した流体輸送方法を採用することによって可能である。
【0032】
前記下側コンクリート浮体構造部4Aは、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…で構成されている。前記プレキャスト筒状体15は、
図3に示されるように、軸方向に同一断面とされる円形筒状のプレキャスト部材であり、それぞれが同一の型枠を用いて製作されるか、遠心成形により製造された中空プレキャスト部材が用いられる。
【0033】
壁面内には鉄筋20の他、周方向に適宜の間隔でPC鋼棒19を挿通するためのシース21、21…が埋設されている。このシース21、21…の下端部にはPC鋼棒19同士を連結するためのカップラーを挿入可能とするためにシース拡径部21aが形成されているとともに、上部には定着用アンカープレートを嵌設するための箱抜き部22が形成されている。また、上面には吊り金具23が複数設けられている。
【0034】
プレキャスト筒状体15同士の緊結は、
図4(A)に示されるように、下段側プレキャスト筒状体15から上方に延長されたPC鋼棒19、19…をシース21、21…に挿通させながらプレキャスト筒状体15,15を積み重ねたならば、アンカープレート24を箱抜き部22に嵌設し、ナット部材25によりPC鋼棒19に張力を導入し一体化を図る。また、グラウト注入孔27からグラウト材をシース21内に注入する。なお、前記アンカープレート24に形成された孔24aはグラウト注入確認孔であり、該確認孔からグラウト材が吐出されたことをもってグラウト材の充填を終了する。
【0035】
次に、
図4(B)に示されるように、PC鋼棒19の突出部に対してカップラー26を螺合し、上段側のPC鋼棒19、19…を連結したならば、上段となるプレキャスト筒状体15のシース21、21…に前記PC鋼棒19、19…を挿通させながら積み重ね、前記要領によりPC鋼棒19の定着を図る手順を順次繰り返すことにより高さ方向に積み上げられる。この際、下段側プレキャスト筒状体15と上段側プレキャスト筒状体15との接合面には止水性確保及び合わせ面の接合のためにエポキシ樹脂系などの接着剤28やシール材が塗布される。
【0036】
前記上側鋼製浮体構造部4Bは、相対的には下段側に位置する鋼製筒状体17と、相対的に上段側に位置する鋼製筒状体18とで構成されている。下段側の鋼製筒状体17は、下側部分はプレキャスト筒状体15と同一の外径寸法とされ、プレキャスト筒状体15に対して、ボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。鋼製筒状体17の上部は漸次直径を窄めた截頭円錐台形状を成している。
【0037】
上段側の鋼製筒状体18は、前記下段側の鋼製筒状体17の上部外径に連続する外径寸法とされる筒状体とされ、下段側の鋼製筒状体17に対してボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。これら鋼製筒状体17,18は、所定重量毎に分割した各鋼製リング10、10…によって構成され、各鋼製リング10、10…は周方向に溶接されることにより一体化されている。
【0038】
一方、前記タワー6は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。タワー6の外径と前記上段側鋼製筒状体18の外径とはほぼ一致しており、外形状は段差等が無く上下方向に連続している。図示例では、上段側鋼製筒状体18の上部に梯子13が設けられ、タワー6と上段側鋼製筒状体18とのほぼ境界部に周方向に歩廊足場14が設けられている。
【0039】
前記係留索5の浮体4への係留点Kは、
図1に示されるように、海面下であってかつ浮体4の重心Gよりも高い位置に設定してある。従って、船舶が係留索5に接触するのを防止できるようになる。また、浮体4の倒れ過ぎを抑えるように係留点に浮体4の重心Gを中心とする抵抗モーメントを発生させるため、タワー6の傾動姿勢状態を適性に保持し得るようになる。
【0040】
一方、前記ナセル8は、風車7の回転を電気に変換する発電機やブレードの角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。
【0041】
〔円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置2〕
次に、
図6~
図15に基づいて、本発明に係る円筒型プレキャストコンクリート部材の補強装置2について詳述する。ここで、「円筒型プレキャストコンクリート部材」は前記浮体4のプレキャスト筒状体15に対応する部材であるため、以下、「円筒型プレキャストコンクリート部材」を「プレキャスト筒状体15」に言い換えて説明を行う。
【0042】
前記プレキャスト筒状体15の補強装置2は、前記プレキャスト筒状体15の内側において、同一の横断面内で、内接する正三角形状線に沿って緊張ケーブル30、30…が張設されている構造としたものである。なお、前記正三角形状線の各頂点はプレキャスト筒状体15の内空円(コンクリート厚の内側の面)に接するようにしているが、必ずしも前記内空円に接する必要はなく、その前後(半径方向)にずれていても良い。具体的には、内空円より内側に概ね100mm内の仮想円に接していても良く、内空円より外側にはプレキャスト筒状体15の厚み範囲内の仮想円に接していれば良い。
【0043】
前記緊張ケーブル30を張設するには、内接する正三角形状線の各頂点位置に定着金具31、31…を固定し、隣接する定着金具31、31間に緊張力を導入可能に緊張ケーブル30を架け渡すようにすることが望ましい。
【0044】
前記定着金具31は、詳細には
図8(A)(B)に示されるように、底板32と、この底板32の上面中央部から立設するとともに、断面方向に沿って配向された定着板33と、前記底板32をボルト固定するためにプレキャスト筒状体15に埋設された4本のアンカーボルト34とから構成された金具である。なお、前記底板32の設置に当たっては、設置面を平面とするために調整モルタルが敷かれる。前記定着金具31は、前記内接する正多角形状線の各頂点位置に、前記定着板33をプレキャスト筒状体15の中心に向けるようにして配設される。
【0045】
一方、前記緊張ケーブル30は、詳細には
図9に示されるように、緊張側定着具35と、固定側定着具36と、これら緊張側定着具35と固定側定着具36とを連結するように設けられたケーブル37からなる。前記緊張側定着具35は、先端に前記定着金具31の定着板33にボルト連結される連結定着具35Aとスリーブ35Bとの間に両者に螺入させたねじ棒35Cによって連結された定着具であり、前記ネジ棒35Cをレンチなどで軸芯回りに回転させることにより伸縮調整が可能であり、前記緊張ケーブル30を前記定着金具31、31間に掛け渡した後に、ケーブル36に緊張力を導入可能となっている。
【0046】
前記ケーブル36としては、例えば亜鉛メッキなどの防錆処理を施したPC鋼より線を好適に使用することができるが、PC鋼線や異形PC鋼線、PC鋼棒なども使用することが可能である。
【0047】
図7に示されるように、前記内接する正三角形状線に沿って緊張ケーブル30、30…を張設した補強装置2を一組としてプレキャスト筒状体15の軸芯方向に所定の間隔Pで複数設けるようにする。本形態例では、1リング分のプレキャスト筒状体15に対して2組の補強装置2、2を設けるようにしている。この配置間隔については、補強の程度、すなわちプレキャスト筒状体15に導入するプレスト力によって異なり、設計によって決定することができる。
【0048】
以上のように構成された補強装置2によれば、
図10に示されるように、各緊張ケーブル30、30…に緊張力を導入すると、正三角形の各頂点から2方向に緊張力が作用するが、これら緊張力Tの分力(Tcosθ)がプレキャスト筒状体15に円周方向のプレスト力として導入されることになり全周方向に亘って均等に補強が成されることになる。従って、プレスト力の導入によって曲げに対する強度が増し、組立て作業や運搬作業、建て起こしなどの際に、プレキャスト筒状体15の変形や破損が防止できるようになる。
【0049】
また、海上に浮体4を浮かべた場合、プレキャスト筒状体15は、
図11に示されるように、全外周から中心方向に向かって水圧を受けることになる。その結果、プレキャスト筒状体15の外径が弾性変形によって僅かに縮小することによって緊張力が弛緩するため、プレキャスト筒状体15に有害な応力が発生することはない。さらに、前記補強装置2はプレキャスト筒状体15の内側に設けられるものであるため、海上に浮かべた後でも内部側から取り外しが可能であり、再利用が可能となる。
【0050】
ところで、上記形態例では、周方向に連続した1つのプレキャスト筒状体15を対象としたが、プレキャスト筒状体15の外径が大きい場合は、輸送上の理由から周方向に複数に分割された分割プレキャスト部材とされ、これら分割プレキャスト部材を別々に輸送した後、作業ヤードなどで周方向に接合して円形に閉合させる場合がある。このような場合は、
図12に示されるように、前記定着金具31が隣接する2方向の緊張ケーブル30、30の定着部毎に2分割された半割定着金具31A,31Bとするとともに、前記プレキャスト筒状体15が周方向に同位置で分割された構造とすることができる。この場合は、
図13に示されるように、周方向に閉合する前の弧状プレキャスト部材15A~15Cの状態でも、丁度弓の弦のように張設された緊張ケーブル30によって弧状プレキャスト部材15A~15Cの状態でも補強が成されるようになる。
【0051】
前記弧状プレキャスト部材15A~15Cは、輸送された後、作業ヤードなどで周方向に接合されることによって円形に閉合されることになるが、その接合構造としては、公知の接合構造を使用することが可能である。例えば、特開2009-235850号公報に開示される「プレキャストコンクリート部材の接合構造」が好適である。かかるプレキャストコンクリート部材の接合構造は、一方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋に接合された定着用埋込部材が埋設され、前記定着用埋込部材には開口を外部に臨ませたポケット状の切欠き溝が形成されるとともに、前記切欠き溝の形状と同形状で上下方向に沿ってコンクリートに切欠き溝が形成されることによって上下方向に連続する縦溝が形成され、他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が外部まで突出して設けられるとともに、この突出した鉄筋の先端部に前記ポケット状切欠き溝に嵌合される定着部材が固定され、前記他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面に突出して設けられた鉄筋の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の縦溝に沿って挿入してプレキャストコンクリート部材同士を連結するとともに、前記他方のプレキャストコンクリート部材の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の定着用埋込部材のポケット状切欠き溝部分に位置決めした状態で、隙間部分にグラウト材を充填することによって構成されるものである。この接合構造によれば、現場での溶接作業を不要とするとともに、使用するグラウト材の量を低減することにより、作業時間の短縮及び施工コストの削減ができ、かつ接合部の幅を小さくすることにより良好な外観とすることができる。
【0052】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、前記プレキャスト筒状体15の内側において、内接する正三角形状線に沿って緊張ケーブル30、30…が張設された補強装置2としたが、前記緊張ケーブル30は任意の正多角形状に沿って配置する構造とすることが可能である。しかし、現実的には内接する正多角形状線は、正三角形状~正六角形の内のいずれかとすることが望ましい。
図14は内接する正四角形状線に沿って緊張ケーブル30を張設した例であり、
図15は内接する正六角形状線に沿って緊張ケーブル30を張設した例である。正七角形以上とする場合は、定着金具31の設置数が増え過ぎるとともに、緊張ケーブル30の設置手間が多く掛かるようになり施工上も好ましくない。
【0053】
(2)上記形態例では、洋上風力発電設備の浮体に対して本発明を適用した場合について述べたが、本発明は前記浮体以外にも、プレキャストによる煙突やタワー状の構造物全般に対して適用が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…スパー型浮体式洋上風力発電設備、2…補強装置、4…浮体、4A…下側コンクリート製浮体構造部、4B…上側鋼製浮体構造部、5…係留索、6…タワー、7…風車、8…ナセル、9…ブレード、15…プレキャスト筒状体(円形型プレキャストコンクリート部材)、17・18…鋼製筒状体、19…PC鋼棒、30…緊張ケーブル、31…定着金具、35…緊張側定着具、36…固定側定着具、37…ケーブル