(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】荷物運搬システム
(51)【国際特許分類】
B62B 3/04 20060101AFI20240312BHJP
B62B 5/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B62B3/04 C
B62B5/00 D
B62B5/00 F
B62B5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020151897
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】308024395
【氏名又は名称】荏原環境プラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】北井 豪太
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-69455(JP,A)
【文献】特開2000-34827(JP,A)
【文献】特開平10-140864(JP,A)
【文献】特開2020-121872(JP,A)
【文献】特開2011-111294(JP,A)
【文献】実開平2-102339(JP,U)
【文献】国際公開第02/087951(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3174344(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 1/00- 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車と、
床面の所定の位置に置かれた荷物の前面に接触する荷物ストッパと、
静止部材に固定された荷積み部材と、を備え、
前記台車は、
荷台と、
前記荷台の前端に取り付けられたスロープ部材と、
前記荷台に取り付けられたハンドルと、
前記ハンドルに回動可能に支持される荷押しアーム、および前記荷押しアームの前端に回転可能に支持される荷押しローラを有する荷押しアーム機構と、
前記荷台の後端を先端よりも上方に押し上げるジャッキ機構と、を備えており、
前記荷押しアームは、該荷押しアームが水平方向に延びるアーム待機位置から上方に回動可能であり、
前記荷押しローラは、
該荷押しローラが前記スロープ部材よりも先に前記荷物に接触するように、前記荷押しアームが
前記アーム待機位置にあるときに前記スロープ部材の先端よりも前方に突出する、荷物運搬システム。
【請求項2】
前記スロープ部材は、
前記床面に近接するか接触する前端と、
前記荷台の前端の上面に接続される後端と、
前記前端から前記後端まで所定の傾斜角度で傾斜する傾斜面と、を有する、請求項1に記載の荷物運搬システム。
【請求項3】
前記荷押しローラは、該荷押しローラの回転方向を、前記荷物を前記荷物ストッパを支点として上方に回動させる一方向に制限するワンウェイクラッチを有している、請求項1または2に記載の荷物運搬システム。
【請求項4】
前記荷台は、
2つの側方フレームと、
各側方フレームの前端部を接続する前フレームと、
各側方フレームの後端部を接続する後フレームと、
前記前フレームと前記後フレームの間に配置される複数のローラと、
前記複数のローラの回転方向を制限するギア機構と、を備えている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の荷物運搬システム。
【請求項5】
前記荷物ストッパは、所定の傾斜角度で傾斜する傾斜面を有しており、
前記傾斜面が前記床面に置かれた荷物の前面に接触する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の荷物運搬システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物運搬システムに関し、特に、重い荷物を台車を用いて運搬するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の社会情勢を鑑みて、企業は、女性の雇用を促進し、さらに女性従業者の地位向上を図ることを重要な命題の1つとしている。例えば、ダイオキシン類特別処置法などの影響もあり、従来は男性作業者が多かった廃棄物焼却施設でも、最近は、企業が作業環境の整備に取り組み、女性の作業者の数を増やしてきている。さらに、高齢化社会が進んだ影響で、従来は退職する年齢に到達している高齢者であっても、仕事を継続したり、新たな職場に採用されたりする機会が増えてきている。
【0003】
このような取り組みが社会全体で進んでいった結果、従来は(若い)男性作業者が行っていた大きな作業負担を伴う仕事を女性および高齢者が行う必要がでてきた。しかしながら、女性および高齢者と、男性との間の身体差を埋めることは難しい。例えば、女性および高齢者は、一般的に、男性よりも非力であるため、重い荷物を運搬する能力は、女性および高齢者よりも男性の方が高い。なお、男性であっても、非力なものが少なからずいる。そこで、非力な作業者であっても、台車を用いることで容易に荷物を運搬可能な様々な技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の荷物運搬技術では、荷物をパレットなどの仮置き台または台車に一旦載せる必要がある。例えば、特許文献1は、パレットとともに荷物を運搬可能なパレット付き台車を開示している。このパレット付き台車を用いて荷物を運搬する場合であっても、床面に置かれた荷物を一度はパレットに載せなければならない。そのため、非力な作業者にとっては重い荷物をパレットに載せる作業が困難となることがある。
【0006】
そこで、本発明は、非力な作業者であっても容易に荷物を運搬可能なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、台車と、床面の所定の位置に置かれた荷物の前面に接触する荷物ストッパと、静止部材に固定された荷積み部材と、を備え、前記台車は、荷台と、前記荷台の前端に取り付けられたスロープ部材と、前記荷台に取り付けられたハンドルと、前記ハンドルに回動可能に支持される荷押しアーム、および前記荷押しアームの前端に回転可能に支持される荷押しローラを有する荷押しアーム機構と、前記荷台の後端を先端よりも上方に押し上げるジャッキ機構と、を備えており、前記荷押しローラは、前記荷押しアームがアーム待機位置にあるときに前記スロープ部材の先端よりも前方に突出する、荷物運搬システムが提供される。
【0008】
一態様では、前記スロープ部材は、前記床面に近接するか接触する前端と、前記荷台の前端の上面に接続される後端と、前記前端から前記後端まで所定の傾斜角度で傾斜する傾斜面と、を有する。
一態様では、前記荷押しローラは、該荷押しローラの回転方向を、前記荷物を前記荷物ストッパを支点として上方に回動させる一方向に制限するワンウェイクラッチを有している。
【0009】
一態様では、前記荷台は、2つの側方フレームと、各側方フレームの前端部を接続する前フレームと、各側方フレームの後端部を接続する後フレームと、前記前フレームと前記後フレームの間に配置される複数のローラと、前記複数のローラの回転方向を制限するギア機構と、を備えている。
一態様では、前記荷物ストッパは、所定の傾斜角度で傾斜する傾斜面を有しており、前記傾斜面が前記床面に置かれた荷物の前面に接触する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、荷押しアーム機構を荷物ストッパと協働させることにより、台車を移動させるだけで荷物を床面からスロープ部材に載せることができる。さらに、台車を移動させて、スロープ部材上の荷物を荷積み部材に押し当てるだけで、該荷物を台車の荷台に載せることができる。荷台上の荷物を床面に降ろすときは、ジャッキ機構で荷台の後端を先端よりも上方に移動させ、荷台から荷物を床面に滑り落とす。したがって、非力な作業者であっても、荷物を所定の位置から所望の運搬位置まで搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る荷物運搬システムを模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示す荷物運搬システムの台車の荷台を模式的に示す上面図であり、
図2(b)は、
図1に示す荷物運搬システムの台車の荷台の左側面を模式的に示す図であり、
図2(c)は、
図1に示す荷物運搬システムの台車の荷台の右側面を模式的に示す図である。
【
図3】
図3(a)は、一実施形態に係る荷押しアーム機構を模式的に示す側面図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示す荷押しアーム機構の概略上面図である。
【
図4】
図4は、
図3(a)および
図3(b)に示す荷押しアームおよび荷押しローラを待避位置に移動させた状態を模式的に示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、荷物を台車の荷台に載せる各工程の模式図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、荷物を台車の荷台に載せる各工程の模式図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、荷物を台車の荷台に載せる各工程の模式図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、荷物を台車の荷台に載せる各工程の模式図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、荷物を台車の荷台に載せる各工程の模式図である。
【
図10】
図10(a)および
図11(b)は、荷物を台車の荷台から床面に移動させる各工程の模式図である。
【
図11】
図11は、荷物が台車から床面に降ろされた状態を示す模式図である。
【
図12】
図12は、他の実施形態に係る荷物運搬システムを模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係る荷物運搬システムを模式的に示す側面図である。
図2(a)は、
図1に示す荷物運搬システムの台車の荷台を模式的に示す上面図であり、
図2(b)は、
図1に示す荷物運搬システムの台車の荷台の左側面を模式的に示す図であり、
図2(c)は、
図1に示す荷物運搬システムの台車の荷台の右側面を模式的に示す図である。
図1に示す荷物運搬システムは、台車1を用いて、床面FLに置かれた荷物10を所望の運搬位置まで運搬するシステムである。なお、本明細書では、
図1に示す両矢印Aの方向を前後方向と定義し、
図2(a)に示す両矢印Bの方向を左右方向と定義する。
【0013】
本実施形態では、荷物10は、重量のある荷物であり、例えば、廃棄物焼却施設に付帯する廃熱ボイラーに使用される薬剤が貯められた薬剤容器である。このような薬剤容器は、例えば、約20kgの重量を有しており、倉庫などの保管設備内の所定の位置に貯蔵されている。薬剤を廃熱ボイラーで使用するときは、作業者は、保管設備内の所定の位置に置かれた薬剤容器を、薬剤ポンプや薬剤サービスタンクなどで構成される廃熱ボイラーの薬剤注入装置の近傍まで運搬する。この場合、薬剤注入装置の近傍が荷物10の所望の運搬位置である。本実施形態では、台車1の簡単な操作(例えば、台車1を荷物10に対して前進させる)だけで、床面に直接載置された薬剤容器(すなわち、荷物10)を台車1の荷台に載せることが可能である。
【0014】
図1に示すように、荷物運搬システムは、台車1と、床面FLの所定の位置に置かれた荷物10の前面に接触する荷物ストッパ11と、を含んでいる。荷物ストッパ11は、鉛直方向に対して斜めに傾斜する傾斜面を有しており、この傾斜面は、荷物10の前面と対向している。本実施形態では、荷物ストッパ11は、図示しない固定具を用いて、荷物10が置かれた床面FLに着脱自在に固定されている。このような固定具の例は、荷物ストッパ11の下面から延びるボルトが挙げられる。この場合、床面FLには、ボルトが係合可能な孔が形成される。一実施形態では、荷物ストッパ11の固定具は、床面FLに固着されるアンカーボルトであってもよい。あるいは、荷物ストッパ11は、接着剤を用いて床面FLに固定されていてもよい。
【0015】
図1に示す台車1は、荷台2と、荷台2の前端に取り付けられたスロープ部材5と、荷台2の後端から上方に延びるハンドル7と、荷台2の下面に取り付けられた複数の車輪8と、荷物10の後面を押すための荷押しアーム機構24と、荷台2の後端を先端よりも上方に持ち上げるジャッキ機構6と、を備えている。本実施形態では、車輪8は、荷台2の四隅にそれぞれ取り付けられている。
【0016】
図2(a)に示すように、荷台2は、2つの側方フレーム2a,2bと、側方フレーム2a,2bの前端部を接続する前フレーム2cと、側方フレーム2a,2bの後端部を接続する後フレーム2dと、を含むフレーム構造を有している。さらに、本実施形態では、荷台2は、前フレーム2cと後フレーム2dとの間に配置された複数のローラ12A,12Bを備えている。ローラ12A(第1ローラ)とローラ12B(第2ローラ)とは、交互に配列されている。ローラ12A,12Bは、後述するローラ回転制限装置30と協働して、荷物10を荷台2に載せるおよび降ろすときは、荷台2上での荷物10の移動を容易にし、荷台2に載せた荷物10を運搬するときは、荷台2上での荷物10の移動を防止するために用いられる。一実施形態では、ローラ12A,12Bを省略してもよい。この場合、荷台2は、例えば、2つの側方フレーム2a,2bと、前フレーム2cと、後フレーム2dとに支持される天板(図示せず)を有する。
【0017】
図1に示すように、スロープ部材5は、荷物10が載置された床面FLに近接するかまたは接触する先端5aと、先端5aから後端5bまで所定の傾斜角度で延びる斜面5cと、を有している。後端5bは、荷台2の前フレーム2cに固定されており、斜面5cの後端は、荷台2の上面に接続される。このような構成により、スロープ部材5から荷台2への荷物10の受け渡しがスムーズに行われる。なお、
図1に示すように、台車1を側方から眺めたときに、荷押しアーム機構24の前端は、スロープ部材5の前端5aよりも前方に突出している。
【0018】
スロープ部材5の左右方向の幅の大きさは、荷台2の左右方向の幅の大きさ(すなわち、一方の側方フレーム2aの外側面と、他方の側方フレーム2bの外側面との間の距離)と同一であってもよいし、小さくてもよい。一実施形態では、台車1は、荷台2の左右方向の幅よりも小さい幅を有する複数の(例えば、2つ、または3つの)スロープ部材5を有していてもよい。台車1が複数のスロープ部材5を有する場合は、複数のスロープ部材5は、好ましくは、互いに同一形状を有し、荷台2の前フレーム2cの左右方向に等間隔で配列される。
【0019】
本実施形態では、スロープ部材5は、該スロープ部材5を前後方向における断面で見たときに、斜面5cを長辺とする直角三角形の断面形状を有している。しかしながら、スロープ部材5の先端5a(すなわち、斜面5cの前端)が床面FLに近接するか接触し、スロープ部材5の後端(すなわち、斜面5cの後端)が荷台2の上面に接続されていれば、スロープ部材5の断面形状は任意である。
【0020】
図1、および
図2(a)乃至
図2(c)に示すように、台車1のハンドル7は、荷台2の後端部に固定される2本の柱16A,16Bと、柱16A,16Bの上部を接続する上棒18と、柱16A,16Bの下部を接続する下棒19と、を有している。本実施形態では、柱16A,16Bは、それぞれ、側方フレーム2a,2bの後端の上面に固定されており、鉛直方向に延びている。上棒18は、台車1を操作する作業者の持ち手として機能する。下棒19は、ハンドル7の強度および剛性を増加させる部材であるとともに、荷台2上の荷物10が該荷台2の後端から落下するのを防止するストッパとして機能する。一実施形態では、下棒19を省略してもよい。さらに、一実施形態では、ハンドル7は、上棒18と下棒19との間に配置された1つまたは複数の中間棒(図示せず)を有していてもよい。
【0021】
各ローラ12A,12Bの両端部は、側方フレーム2a,2bにそれぞれ配置された軸受に回転可能に支持されている。さらに、台車1は、ローラ12Aの回転方向を一方向に制限するとともに、ローラ12Bの回転を、ローラ12Aの回転方向とは逆の一方向に制限するローラ回転制限装置30を備える。以下では、側方フレーム2a,2bのそれぞれに設けられた複数のギア機構31A,31Bを含むローラ回転制限装置30が説明されるが、ローラ回転制限装置30の構成は、ローラ12A,12Bのそれぞれの回転方向を所望の回転方向に制限できる限り任意である。
【0022】
図2(b)に示すように、各ギア機構31Aは、ローラ12Aの回転軸に固定された爪付きギア33Aと、側方フレーム2aに回動自在に支持された回動爪34Aと、を備える。ローラ回転制限装置30は、さらに、複数の回動爪34Aに接続されるワイヤー36Aと、ワイヤー36Aの一方の端部が接続されるばね37Aと、ワイヤー36Aの他方の端部が接続される回転式ハンドル38Aと、を含んでいる。
【0023】
本実施形態では、ばね37Aの一端は、側方フレーム2aの後端の内面に固定されており、ばね37Aの他端は、ワイヤー36Aの一端に連結される。ワイヤー36Aは、側方フレーム2aの後端から前端まで延びた後で、再度、後端に向かって延びる。さらに、ワイヤー36Aは、ハンドル7の柱16Aの上端まで延びる。回転式ハンドル38Aは、柱16Aの上端に回動可能に取り付けられており、ワイヤー36Aの他端は回転式ハンドル36Aに連結される。
【0024】
各ギア機構31Aの爪付きギア33Aは略円盤状の形状を有するギア本体と、該ギア本体の径方向に対して斜めに、ギア本体の外周から延びる複数の爪とを有している。各ギア機構31Aの回動爪34Aは、ワイヤー36Aを介してばね38Aの付勢力により爪付きギア33Aの外周に押し付けられている。回転式ハンドル38Aを回転させると、ワイヤー36Aがばね38Aの付勢力に抗して引っ張られ、複数の回動爪34Aを同時に回動させることができる。
【0025】
図2(b)において、ローラ12Aが時計回り方向に回転しようとすると、回動爪34Aが爪付きギア33Aの爪に係合し、ローラ12Aの時計回り方向の回転が阻止される。一方で、ローラ12Aが反時計回りに回転しようとするときは、回動爪34Aが爪付きギア33Aの外周上(すなわち、爪の外面上)を滑るので、ローラ12Aの反時計回りの回転は許容される。回転式ハンドル38Aを回転させて、回動爪34Aと爪付きギア33Aの爪との係合が解除されるまでワイヤー36Aを引っ張ると、ローラ12Aが時計回りおよび反時計回りに自由に回転可能となる。
【0026】
ギア機構31Bは、上述したギア機構31Aと略同様の構成を有するが、ローラ12Bの回転方向を、ローラ12Aの回転方向とは逆方向に制限する点で異なる。
【0027】
図2(c)に示すように、各ギア機構31Bは、ローラ12Bの回転軸に固定された爪付きギア33Bと、側方フレーム2bに回動自在に支持された回動爪34Bと、を備える。ローラ回転制限装置30は、さらに、複数の回動爪34Bに接続されるワイヤー36Bと、ワイヤー36Bの一方の端部が接続されるばね37Bと、ワイヤー36Bの他方の端部が接続される回転式ハンドル38Bと、を含んでいる。
【0028】
本実施形態では、ばね37Bの一端は、側方フレーム2bの前端の内面に固定されており、ばね37Bの他端は、ワイヤー36Bの一端に連結される。ワイヤー36Bは、側方フレーム2bの前端から後端まで延びた後で、ハンドル7の柱16Bの上端まで延びる。回転式ハンドル38Bは、柱16Bの上端に回動可能に取り付けられており、ワイヤー36Bの他端は回転式ハンドル38Bに連結される。
【0029】
各ギア機構31Bの爪付きギア33Bは略円盤状の形状を有するギア本体と、該ギア本体の径方向に対して斜めに、ギア本体の外周から延びる複数の爪とを有している。爪付きギア33Bのギア本体に対する爪の延びる方向は、爪付きギア33Aのギア本体に対する爪の延びる方向とは正反対である。各ギア機構31Bの回動爪34Bは、ワイヤー36Bを介してばね38Bの付勢力により爪付きギア33Bの外周に押し付けられている。回転式ハンドル38Bを回転させると、ワイヤー36Bがばね38Bの付勢力に抗して引っ張られ、複数の回動爪34Bを同時に回動させることができる。
【0030】
図2(c)において、ローラ12Bが反時計回り方向に回転しようとすると、回動爪34Bが爪付きギア33Bの爪に係合し、ローラ12Bの反時計回り方向の回転が阻止される。一方で、ローラ12Bが時計回りに回転しようとするときは、回動爪34Bが爪付きギア33Bの外周上(すなわち、爪の外面上)を滑るので、ローラ12Bの時計回りの回転は許容される。回転式ハンドル38Bを回転させて、回動爪34Bと爪付きギア33Bの爪との係合が解除されるまでワイヤー36Bを引っ張ると、ローラ12Bが時計回りおよび反時計回りに自由に回転可能となる。
【0031】
次に、荷押しアーム機構24について説明する。荷押しアーム機構24は、荷物ストッパ11と協働して、荷物10を台車1のスロープ部材5に容易に載せるための機構である。
図3(a)は、一実施形態に係る荷押しアーム機構24を模式的に示す側面図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示す荷押しアーム機構24の概略上面図である。
図4は、
図3(a)および
図3(b)に示す荷押しアームおよび荷押しローラを待避位置に移動させた状態を模式的に示す図である。
【0032】
図3(a)および
図3(b)に示す荷押しアーム機構24は、荷押しアーム25A,25Bと、荷押しアーム25A,25Bの先端部に回転自在に支持される荷押しローラ26と、荷押しアーム25A,25Bを回動自在に支持するとともに、荷押しアーム25A,25Bをそれぞれ柱16A,16Bに連結するアーム支持部材21A,21Bと、を備える。本実施形態では、アーム支持部材21A,21Bは、それぞれ、略U字状の断面を有し、その凹部に、荷押しアーム25A,25Bの後部を収容可能になっている。
【0033】
本実施形態では、荷押しローラ26は、荷押しアーム25A,25Bの前部に両端部が連結されるローラシャフト45に回転自在に支持されている。さらに、荷押しローラ26は、その内部に配置されたワンウェイクラッチ46(
図3(b)参照)を有している。ワンウェイクラッチ46は、ローラシャフト45に対する荷押しローラ26の回転方向を一方向(
図3(a)に示す矢印方向)に制限する。
【0034】
台車1が荷物10から離れているときは、荷押しアーム25A,25Bは、アーム支持部材21A,21Bと平行に延びた状態で、該アーム支持部材21A,21Bに支持されている。以下では、アーム支持部材21A,21Bと平行に延びる荷押しアーム25A,25Bの位置を「アーム待機位置」と称することがある。
【0035】
荷押しアーム25Aは、アーム回動軸28Aを介してアーム支持部材21Aに回動自在に支持されている。荷押しアーム25Aは、該荷押しアーム25Aが水平方向に延びるアーム待機位置から上方に回動可能である。同様に、荷押しアーム25Bは、アーム回動軸28Bを介してアーム支持部材21Bに回動自在に支持されており、荷押しアーム25Bは、該荷押しアーム25Bが水平方向に延びるアーム待機位置から上方に回動可能である。
【0036】
アーム支持部材21Aは、その両側面に形成された貫通孔47A(
図4参照)を有しており、荷押しアーム25Aは、貫通孔47Aに対応する位置に貫通孔48A(
図4参照)を有している。荷押しアーム25Aがアーム待機位置にあるとき、貫通孔47Aおよび貫通孔48Aにはアームストッパ29Aが挿入されている。アームストッパ29Aによって、アーム支持部材21Aに対する荷押しアーム25Aの回動が阻止される。
【0037】
図示はしないが、アーム支持部材21Bも同様に、その両側面に形成された貫通孔を有しており、荷押しアーム25Bは、これら貫通孔に対応する位置に貫通孔を有している。荷押しアーム25Bがアーム待機位置にあるとき、これら3つの貫通孔にはアームストッパ29B(
図3(b)参照)が挿入されており、アームストッパ29Bによって、アーム支持部材21Bに対する荷押しアーム25Bの回動が阻止される。
【0038】
図4に示すように、アームストッパ29Aをアーム支持部材21Aおよび荷押しアーム25Aから引き抜き、さらに、アームストッパ29Bをアーム支持部材21Bおよび荷押しアーム25Bから引き抜くと、荷押しアーム25A,25Bおよび荷押しローラ26をアーム支持部材21A,21Bに対して回動させることができる。本実施形態では、アーム支持部材21Aの上面には複数の切り欠き22Aが形成されており、荷押しアーム25Aの下面には複数の切り欠き49Aが形成されている。アームストッパ29Aを切り欠き22Aおよび切り欠き49Aで挟むことにより、荷押しアーム25Aが下方に回動することが阻止される。同様に、アーム支持部材21Bの上面には複数の切り欠きが形成されており、荷押しアーム25Bの下面には複数の切り欠きが形成されており、アームストッパ29Bを荷押しアーム25Bの切り欠きおよびアーム支持部材21Bの切り欠きで挟むことにより、荷押しアーム25Bが下方に回動することが阻止される。
【0039】
図3(a)に示すように、柱16Aは、鉛直方向に配列された複数の貫通孔50Aを有している。アーム支持部材21Aは、貫通孔50Aに対応するように貫通孔を有しており、アーム支持部材21Aの貫通孔と柱16Aの貫通孔50Aを並べた状態で、固定ピン27Aをこれら貫通孔に挿入する。図示はしないが、柱16Bも、鉛直方向に配列された複数の貫通孔を有しており、アーム支持部材21Bは、柱16Bの貫通孔に対応するように貫通孔を有している。アーム支持部材21Bの貫通孔と柱16Bの貫通孔を並べた状態で、固定ピンをこれら貫通孔に挿入する。このような構成により、アーム支持部材21A,21Bを介して、荷押しアーム25A,25Bと荷押しローラ26とが柱16A,16Bに支持される。アーム支持部材21A,21Bが支持される柱16Aの貫通孔および柱16Bの貫通孔を変えることで、アーム待機位置にある荷押しアーム25A,25Bの鉛直方向の位置を荷物10の高さ(鉛直方向の大きさ)に応じて変えることができる。
【0040】
図1に戻り、ジャッキ機構6について説明する。
図1に示すジャッキ機構6は、ジャッキハンドル6aと、ピストンシリンダ6bと、ピストンシリンダ6bのピストンをシリンダに対して上下動させる作動流体(例えば、油)が貯留されるタンク6cと、を有する。ジャッキハンドル6aは、タンク6cに連結されており、ピストンシリンダ6bは作動流体配管を介してタンク6cに連結されている。
【0041】
ジャッキハンドル6aを操作することにより、タンク6cに貯留される流体によってピストンシリンダ6bのピストンが上下動する。例えば、ジャッキハンドル6aをタンク6cに対して前後方向に揺動させると、タンク6c内の流体の圧力が上昇して、ピストンシリンダ6bのピストンがシリンダに対して上昇する。ピストンシリンダ6bのピストンは、荷台2の後端に連結されており、ピストンの上昇によって、荷台2の後端が前端に対して上昇する。ジャッキハンドル6aをその軸心周りに回転させると、タンク6cが大気と連通し、該タンク6c内の流体の圧力が大気圧まで低下する。この動作によって、ピストンシリンダ6bのピストンがシリンダ内に収容され、その結果、台車1の荷台2の後端が下降する。
【0042】
図1に示す荷物運搬システムは、台車1の荷台2の後端に取り付けられたウエイト9を有している。ウエイト9は、荷物10がスロープ部材5に載ったときに、台車1が前方に倒れることを防止する。上記ジャッキ機構6のタンク6cは、ウエイト9内に配置されている。このような構成により、台車1をコンパクトに構成でき、さらに、作業者がタンク6cに接触して該タンク6cを破損してしまうことを防止できる。
【0043】
次に、
図5(a)乃至
図11を参照して、荷物運搬システムを用いて荷物10を所定の位置から所望の運搬位置まで運搬する方法を説明する。
図5(a)に示すように、荷物10は、該荷物10の前面が床面FLに固定された荷物ストッパ11に接触した状態で床面FLに置かれている。この状態で、作業者は、荷押しローラ機構24の荷押しローラ26が荷物10の後面に接触するように、台車1を荷物10に向けて移動させる。このとき、荷押しアーム25A,25Bは、アーム待機位置にある。荷押しローラ機構24の前端(すなわち、荷押しローラ26の前端)は、スロープ部材5の前端5aよりも前方に突出しているので、荷押しローラ26がスロープ部材5よりも先に荷物10の後面に接触する。
【0044】
図5(b)に示すように、さらに台車1を荷物10に向けて移動させると、荷押しローラ26が回転しつつ荷物10を荷物ストッパ11を支点として回動させる。荷押しローラ26の回転方向は、ワンウェイクラッチ46(
図3(b)参照)によって荷物10を上方に回動させる方向に制限されているため、荷物10の後面が容易に持ち上がるとともに、一旦回動した荷物10が床面FLへ落下することが防止される。台車1は、鉛直方向で見て、スロープ部材5の前端5aが荷物10の下方に位置するまで移動させられる。この状態まで台車1を移動させると、次の作業が開始される。
【0045】
アームストッパ29A、29Bを、アーム支持部材21Aおよび荷押しアーム25Aと、アーム支持部材21Bおよび荷押しアーム25Bとからそれぞれ引き抜く。この作業により、
図6(a)に示すように、荷押しアーム25A,25Bがアーム回動軸28A、28Bを支点として上方に回動するとともに、荷物10が自重で下方に回動させられ、その結果、スロープ部材5の前端5aが荷物10の下面と床面FLとの間に挿入される。
【0046】
図6(b)に示すように、スロープ部材5の前端5aが荷物10の下面と床面FLとの間に挿入されると、作業者は、荷押しアーム25A,25Bをさらに回動させて、荷押しローラ26を荷物10の後面から離間させる。荷押しローラ26がスロープ部材5に載った荷物10の後面から離れたときの荷押しアーム25A,25Bの位置が荷押しアーム25A,25Bのアーム待避位置である。
図4は、荷押しアーム25A,25Bをアーム待避位置に移動させた状態を示している。
【0047】
この状態で、
図7(a)に示すように、作業者は、台車1をさらに荷物10に向けて移動させる。荷物10の下面は、スロープ部材5の傾斜面5c上を滑り、荷物10は、
図7(b)に示すように、スロープ部材5の傾斜面5cに載せられる。
【0048】
次いで、
図8(a)に示すように、作業者は、台車1を荷物ストッパ11から離れるように移動させる。例えば、作業者は、台車1を後退させる。このように、荷押しアーム機構24と、荷物ストッパ11とを協働させることにより、台車1の前進といった簡易な台車1の操作で、重量のある荷物10を容易に床面FLからスロープ部材5上に移動させることができる。
【0049】
図8(b)に示すように、荷物運搬システムは、壁面などの静止部材に固定された荷積み部材60をさらに備える。荷積み部材60は、好ましくは、荷物ストッパ11の近傍に配置されている。本実施形態では、荷積み部材60は、静止部材である保管設備の壁面に固定された板体61と、板体61の先端に固定された弾性部材62と、を有している。板体61は、保管設備の壁面から水平方向に延びており、弾性部材62は、板体の端面上で左右方向に延びる円柱形状を有している。
【0050】
作業者は、台車1を荷積み部材60に向けて前進させることで、弾性部材62によってスロープ部材5上の荷物10を荷台2に向けて移動させる。荷物10は、スロープ部材5の傾斜面5cを斜め上方に移動していく。ある程度荷物10がスロープ部材5の傾斜面5c上を台車1の後端に向かって移動すると、荷物10は、
図9(a)に示すように、自重で荷台2上に載せられる。
【0051】
図9(b)に示すように、作業者が台車1を荷積み部材60に向けてさらに移動させると、荷物10は、荷積み部材60によって荷台2上を台車1の後端に向かって移動させられる。この際、作業者は、上述した回転式ハンドル38Aを回転させて、回動爪34Aと爪付きギア33Aの爪との係合を解除させる。この動作により、ローラ12Aは時計回り方向および反時計回り方向に回転可能となる。一方で、ローラ12Bは、ギア機構31Bによって時計回り方向の回転のみが許容されている。したがって、ギア機構31Bによって、荷物10の台車1の前端に向かう移動が阻止されるので、荷物10は、ローラ12A,12Bによって台車1の後端に向かう移動のみが許容される。このような構成により、荷物10を荷台2上で容易に台車1の後端に向かって移動させることができる。すなわち、台車1の前進といった簡易な台車1の操作で、重量のある荷物10を容易に台車1の奥まで押し込むことができる。
【0052】
次に、作業者は、回転式ハンドル38Aを逆方向に回転させて、ワイヤー36Aを緩めて、回動爪34Aを爪付きギア33Aの爪と係合させる。この動作によって、隣接するローラ12A,12Bの回転方向は互いに逆方向のみ許容される。その結果、荷台2上における荷物10の前後方向の移動が阻止されるので、作業者は、荷物10の荷台2からの落下を気にせずに、台車1を所望の運搬位置まで移動させることができる。
【0053】
台車1を所望の運搬位置まで移動させると、作業者は、
図10(a)に示すように、ジャッキ機構6のジャッキハンドル6aを前後方向に揺動させる。この動作によって、ジャッキ機構6のピストンシリンダ6bのピストンが上昇し、荷台2の後端が先端よりも上昇する。この際、作業者は、上述した回転式ハンドル38Bを回転させて、回動爪34Bと爪付きギア33Bの爪との係合を解除させる。この動作により、ローラ12Bは時計回り方向および反時計回り方向に回転可能となる。一方で、ローラ12Aは、ギア機構31Aによって反時計回り方向の回転のみが許容されている。したがって、ギア機構31Aによって、荷物10の後端に向かう移動が阻止されるので、荷物10は、ローラ12A,12Bによって台車1の先端に向かう移動のみが許容される。ジャッキ機構6によって、荷台2の上面は後端から先端に向かって下方に傾斜させられているので、
図10(b)に示すように、荷物10はローラ12A,12Bの回転によって容易に荷台2からスロープ部材5の傾斜面5cまで移動する。
【0054】
次いで、作業者は、台車1を後退させる。この動作によって、荷物10は自重によってスロープ部材5の傾斜面5c上を滑り落ちる。結果として、
図11に示すように、荷物10を所望の運搬位置に置くことができる。最後に、作業者は、ジャッキハンドル6aをその軸心周りに回転させて、ピストンシリンダ6bのピストンを下降させることにより、荷台2をその上面が水平となる初期位置に戻す。
【0055】
その後、作業者は、荷押しアーム25A、25Bをアーム待機位置に戻す。さらに、作業者は、好ましくは、アームストッパ29A、29Bをアーム支持部材21Aおよび荷押しアーム25Aと、アーム支持部材21Bおよび荷押しアーム25Bと、にそれぞれ挿入する。これにより、荷押しアーム25A,25Bの不意の回動が防止され、作業者の安全性が向上する。
【0056】
図12は、他の実施形態に係る荷物運搬システムを模式的に示す側面図である。本実施形態は、荷物ストッパ11および荷積み部材60の構成のみが上述した実施形態と異なる。特に説明しない本実施形態の構成は、上述した実施形態の構成と同様であるため、その重複する説明を省略する。
【0057】
図12に示す荷物ストッパ11は、床面FLに固定されるのではなく、保管設備の壁面などの静止部材に接触し、これにより、荷物ストッパ11の水平方向の移動が阻止される。具体的には、荷物ストッパ11は、静止部材に押し付けられる脚部11aを有する。脚部11aは、荷物10の前面が接触する傾斜面とは反対側の面に設けられており、床面FLと平行に延びる。
【0058】
図12に示す荷積み部材60は、鉛直方向における断面が略台形形状を有し、その背面が保管設備の壁面などの静止部材に固定される。背面とは反対側の表面の頂部は丸められている。このような構成により、作業者が荷積み部材60に衝突しても怪我などを負うことが防止される。
【0059】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0060】
1 台車
2 荷台
5 スロープ部材
6 ジャッキ機構
7 ハンドル
8 車輪
9 ウエイト
10 荷物
11 荷物ストッパ
12A,12B ローラ
16A,16B 柱
18 上棒
19 下棒
21A,21B アーム支持部材
24 荷押しアーム機構
25A,25B 荷押しアーム
26 荷押しローラ
27A,27B 固定ピン
28A,28B アーム回動軸
29A,29B アームストッパ
30 ローラ回転制限装置
31A,31B ギア機構
33A,33B 爪付きギア
34A,34B 回動爪
36A,36B ワイヤー
37A,37B ばね
38A,38B 回転式ハンドル