IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧

<>
  • 特許-推定装置および推定方法 図1
  • 特許-推定装置および推定方法 図2
  • 特許-推定装置および推定方法 図3
  • 特許-推定装置および推定方法 図4
  • 特許-推定装置および推定方法 図5
  • 特許-推定装置および推定方法 図6
  • 特許-推定装置および推定方法 図7
  • 特許-推定装置および推定方法 図8
  • 特許-推定装置および推定方法 図9
  • 特許-推定装置および推定方法 図10
  • 特許-推定装置および推定方法 図11
  • 特許-推定装置および推定方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】推定装置および推定方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/40 20240101AFI20240312BHJP
   B61L 27/60 20220101ALI20240312BHJP
【FI】
G06Q50/40
B61L27/60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020158246
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052076
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】中挾 晃介
(72)【発明者】
【氏名】國松 武俊
(72)【発明者】
【氏名】辰井 大祐
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 友晴
(72)【発明者】
【氏名】坂口 隆
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-030473(JP,A)
【文献】特開2008-062729(JP,A)
【文献】特開2012-242996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
B61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の移動経路で移動可能な分析対象の対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択嗜好を推定する推定装置であって、
前記対象駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記対象駅間の実改札内時間分布を生成する対象駅間分布生成手段と、
前記移動経路が1種類である援用駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記援用駅間の実改札内時間分布を生成する援用駅間分布生成手段と、
前記援用駅間の実改札内時間分布に基づいて、前記援用駅間について定められる列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成する乗車外分布生成手段と、
前記複数種類の移動経路別に、当該移動経路で前記対象駅間を移動した場合の前記対象駅間の列車乗車時間と、前記乗車外時間分布とに基づく推定改札内時間分布を生成する経路別推定分布生成手段と、
前記複数種類の移動経路別に生成した経路別の推定改札内時間分布を所与の合成割合で合成した合成推定改札内時間分布と、前記対象駅間の実改札内時間分布との差が所定の最小条件を満たす前記合成割合を算出することで、前記対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択可能性を推定する推定手段と、
を備える推定装置。
【請求項2】
前記複数種類の移動経路は、少なくとも、最早経路と乗換回避経路とを含む、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
所与の候補駅間における発駅の発列車の間隔に係る列車状況が前記対象駅間における発駅の発列車の間隔に係る列車状況と所定の類似条件を満たし、且つ、当該候補駅と前記対象駅とが所定の同規模条件を満たし、且つ、当該候補駅間の前記移動経路が1種類である候補駅間を選択することで、前記援用駅間を選択する援用駅間選択手段、
を更に備える請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
複数種類の移動経路で移動可能な分析対象の対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択嗜好をコンピュータが推定する推定方法であって、
前記コンピュータが、前記対象駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記対象駅間の実改札内時間分布を生成する対象駅間分布生成ステップと、
前記コンピュータが、前記移動経路が1種類である援用駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記援用駅間の実改札内時間分布を生成する援用駅間分布生成ステップと、
前記コンピュータが、前記援用駅間の実改札内時間分布に基づいて、前記援用駅間について定められる列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成する乗車外分布生成ステップと、
前記コンピュータが、前記複数種類の移動経路別に、当該移動経路で前記対象駅間を移動した場合の前記対象駅間の列車乗車時間と、前記乗車外時間分布とに基づく推定改札内時間分布を生成する経路別推定分布生成ステップと、
前記コンピュータが、前記複数種類の移動経路別に生成した経路別の推定改札内時間分布を所与の合成割合で合成した合成推定改札内時間分布と、前記対象駅間の実改札内時間分布との差が所定の最小条件を満たす前記合成割合を算出することで、前記対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択可能性を推定する推定ステップと、
を含む推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の利用者による移動経路の選択嗜好を推定する推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道の利用者が列車をどのように乗り継いで目的の駅まで移動しているのかを把握するための研究がなされている。例えば、利用者を対象にアンケート調査を実施することで利用者の列車の選択行動モデルを構築する技術(例えば非特許文献1,2を参照)や、利用者による速達列車や普通列車(各駅停車)の選択確率を推定する技術(例えば非特許文献3を参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】深澤ら,「都市鉄道における列車選択行動モデルの構築」,鉄道総研報告,Vol.29,No.6,Jun.2015
【文献】渡辺義大,「運転再開時における旅客の列車選択行動モデル」,鉄道総研月例発表会講演要旨,2015年6月
【文献】K.M.Kim.,「Predicting Express Train Choice of Metro Passengers from Smart Card Data」,Transportation Research Record:Journal of the Transportation Research Board,Vol.2544.Issue 1,pp.63-70,Jan.2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1,2の技術では、選択行動モデルの構築に用いるのが利用者に対する利用後のアンケート調査や仮想シナリオに対するアンケート調査の情報であった。そのため、実際に選択した、或いは、実際に選択する移動経路とは乖離しているおそれがあった。また、移動経路の選択嗜好を推定する手法として、非特許文献1,2に開示されている選択行動モデルとは異なる新たな手法が求められていた。また、非特許文献3の技術では、利用者が入場駅から出場駅まで列車を乗り換えずに移動することを推定の前提としており、途中で乗り換えが必要な移動経路の選択嗜好を推定するものではない。
【0005】
本発明の課題は、実際の駅の入出場データを用いて利用者による移動経路の選択嗜好を推定することが可能な技術を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
複数種類の移動経路で移動可能な分析対象の対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択嗜好を推定する推定装置であって、
前記対象駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記対象駅間の実改札内時間分布を生成する対象駅間分布生成手段(例えば、図5に示す対象駅間分布生成部177)と、
前記移動経路が1種類である援用駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記援用駅間の実改札内時間分布を生成する援用駅間分布生成手段(例えば、図5に示す援用駅間分布生成部179)と、
前記援用駅間の実改札内時間分布に基づいて、前記援用駅間について定められる列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成する乗車外分布生成手段(例えば、図5に示す乗車外分布生成部181)と、
前記複数種類の移動経路別に、当該移動経路で前記対象駅間を移動した場合の前記対象駅間の列車乗車時間と、前記乗車外時間分布とに基づく推定改札内時間分布を生成する経路別推定分布生成手段(例えば、図5に示す経路別推定分布生成部183)と、
前記複数種類の移動経路別に生成した経路別の推定改札内時間分布を所与の合成割合で合成した合成推定改札内時間分布と、前記対象駅間の実改札内時間分布との差が所定の最小条件を満たす前記合成割合を算出することで、前記対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択可能性を推定する推定手段(例えば、図5に示す推定部187)と、
を備える推定装置である。
【0007】
第1の発明によれば、複数種類の移動経路で移動可能な分析対象駅間の実改札内時間分布を生成するとともに、移動経路が1種類である援用駅間、すなわち、利用者が全て同じ移動経路で移動することになる駅間の実改札内時間分布を生成することができる。そして、援用駅間の実改札内時間分布から列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成し、分析対象駅間を各移動経路で移動した場合の列車乗車時間と、乗車外時間分布とから移動経路別に推定改札内時間分布を生成することができる。そして、移動経路別の推定改札内時間分布を所与の合成割合で合成した合成推定改札内時間分布と、対象駅間の実改札内時間分布との差が最小条件を満たす合成割合を算出することで、対象駅間を移動する利用者による当該対象駅間の移動経路の選択可能性を推定することができる。これによれば、実際の駅の入出場データを用いて、利用者による移動経路の選択嗜好を推定することが可能となる。
【0008】
また、第2の発明として、
前記複数種類の移動経路は、少なくとも、最早経路と乗換回避経路とを含む、
第1の発明の推定装置を構成してもよい。
【0009】
第2の発明によれば、その移動経路として最早経路と乗換回避経路を含む対象駅間について、利用者による最早経路と乗換回避経路とについての選択可能性を推定することができる。
【0010】
また、第3の発明として、
所与の候補駅間における発駅の発列車の間隔に係る列車状況が前記対象駅間における発駅の発列車の間隔に係る列車状況と所定の類似条件を満たし、且つ、当該候補駅と前記対象駅とが所定の同規模条件を満たし、且つ、当該候補駅間の前記移動経路が1種類である候補駅間を選択することで、前記援用駅間を選択する援用駅間選択手段(例えば、図5に示す援用駅間選択部175)、
を更に備える第1の発明の推定装置を構成してもよい。
【0011】
第3の発明によれば、移動経路が1種類である候補駅間の中から、その発駅の発列車の間隔が対象駅間における発駅の発列車の間隔と類似していて、且つ、その候補駅の規模が対象駅の規模と同規模である候補駅間を援用駅間として選択することができる。
【0012】
また、第4の発明は、
複数種類の移動経路で移動可能な分析対象の対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択嗜好を推定する推定方法であって、
前記対象駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記対象駅間の実改札内時間分布を生成する対象駅間分布生成ステップ(例えば、図12に示すステップS23)と、
前記移動経路が1種類である援用駅間に係る所与の入出場データに基づいて、前記援用駅間の実改札内時間分布を生成する援用駅間分布生成ステップ(例えば、図12に示すステップS25)と、
前記援用駅間の実改札内時間分布に基づいて、前記援用駅間について定められる列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成する乗車外分布生成ステップ(例えば、図12に示すステップS27)と、
前記複数種類の移動経路別に、当該移動経路で前記対象駅間を移動した場合の前記対象駅間の列車乗車時間と、前記乗車外時間分布とに基づく推定改札内時間分布を生成する経路別推定分布生成ステップ(例えば、図12に示すステップS29,S31)と、
前記複数種類の移動経路別に生成した経路別の推定改札内時間分布を所与の合成割合で合成した合成推定改札内時間分布と、前記対象駅間の実改札内時間分布との差が所定の最小条件を満たす前記合成割合を算出することで、前記対象駅間を移動する利用者による移動経路の選択可能性を推定する推定ステップ(例えば、図12に示すステップS43)と、
を含む推定方法である。
【0013】
第4の発明によれば、第1の発明と同様の効果を奏することができる推定方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】所定の駅間の利用者の改札内時間分布の一例を示す図。
図2】選択嗜好の推定を説明するための図。
図3】入出場データテーブルのデータ構成例を示す図。
図4】合成推定改札内時間分布と分析対象駅間の実改札内時間分布との差の算出を説明する図。
図5】推定装置の機能構成例を示すブロック図。
図6】候補駅間データのデータ構成例を示す図。
図7】候補駅間リストのデータ構成例を示す図。
図8】分析対象駅間データのデータ構成例を示す図。
図9】分析対象駅間リストのデータ構成例を示す図。
図10】援用駅間対応表のデータ構成例を示す図。
図11】推定装置が行うデータ登録に関する処理の流れを示すフローチャート。
図12】推定装置が行う選択嗜好の推定に関する処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。
【0016】
図1は、ある駅(入場駅)Saから入場して目的の駅(出場駅)Sbを出場することで駅間Sa,Sbを移動した鉄道の利用者の改札内時間分布(実改札内時間分布)を示す図である。ここで、入場駅Saでの入場時刻から出場駅Sbでの出場時刻までの時間を改札内時間という。この改札内時間は、鉄道の利用者が駅の自動改札を入出場することで収集される入出場データから求める。そして、実改札内時間分布は、駅間Sa,Sbに係る入出場データのそれぞれから求めた改札内時間を、所定の集計時間帯毎(図1では1分単位の集計時間帯毎)に集計したものである。
【0017】
ところで、駅間Sa,Sbを移動する際の移動経路は1つとは限らない。例えば、途中で快速列車等の停車駅の少ない列車に乗り換えるとか、別の路線の列車に乗り換える等すると到着時刻が変わる場合には、出場駅に最も早く到着する最早経路と、最早経路よりも到着は遅くなるものの少ない乗り換えで移動が可能な乗換回避経路との2種類が存在する。そして、駅間Sa,Sbに最早経路と乗換回避経路とが存在する場合、その実改札内時間分布には、例えば図1中に実線で示す最早経路で移動した利用者の改札内時間分布と、破線で示す乗換回避経路で移動した利用者の改札内時間分布とが混在している。
【0018】
そこで、本実施形態の推定装置10(図5を参照)は、該当する駅間に係る入出場データから最早経路および乗換回避経路の各経路で移動した利用者の改札内時間分布を推定して用い、当該駅間の利用者による最早経路および乗換回避経路の選択嗜好を推定する。以下、対象となる駅間、すなわち、最早経路および乗換回避経路の2種類の移動経路で移動可能な分析対象の対象駅間を、「分析対象駅間」という。
【0019】
図2は、本実施形態における選択嗜好の推定を説明するための図である。推定にあたっては先ず、(1)対象駅間分布生成処理を行い、分析対象駅間に係る入出場データに基づいて、分析対象駅間の実改札内時間分布を生成する。
【0020】
入出場データは、利用者毎に、入場駅を通って入場し、出場駅を出場したことを記録した実際のデータであり、例えば入出場データテーブル200として蓄積・記録される。例えば、入出場データテーブル200は、図3に示すように、対になる入場データと出場データとで構成される入出場データ201を蓄積したデータテーブルであり、個々の入出場データ201は、入場データとして入場駅、入場日付、および入場時刻を含み、出場データとして出場駅、出場日付、および出場時刻を含む。1つずつの入出場データ201は、利用者1人ずつのデータである。そして、対象駅間分布生成処理では、入出場データテーブル200に蓄積されている入出場データ201のうちの分析対象駅間に係る入出場データ201、すなわち、その入出場駅の組み合わせが分析対象駅間の入出場駅の組み合わせと一致する入出場データ201を用いる。本実施形態では、説明を簡単化するために、該当する入出場データ201の中から入場時刻が日中等のパターンダイヤの時間帯に属する入出場データ201を選び、選んだ入出場データ201毎に、入出場時刻から改札内時間を求める。そして、集計時間帯毎のデータ数を集計することで各集計時間帯における利用者数の割合を求め、実改札内時間分布を得る。
【0021】
また、図2に示すように、(1)対象駅間分布生成処理と同様の要領で(2)援用駅間分布生成処理を行い、分析対象駅間に対応する援用駅間に係る入出場データ201に基づいて、援用駅間の実改札内時間分布を生成する。すなわち、その入出場駅の組み合わせが援用駅間の入出場駅の組み合わせと一致する入出場データ201であって、所定のパターンダイヤの時間帯の入出場データ201毎に改札内時間を求め、各集計時間帯における利用者数の割合を求めて、実改札内時間分布を生成する。
【0022】
ここで、推定装置10は、事前に援用駅間選択処理を行うことで、分析対象駅間と援用駅間との対応関係を設定しておく。具体的には、援用駅間選択処理では、所与の候補駅間の中から以下の条件を満たす候補駅間を選択して、分析対象駅間に対応する援用駅間とする。すなわち、候補駅間における発駅の発列車の間隔に係る列車状況が分析対象駅間における発駅の発列車の間隔に係る列車状況と所定の類似条件を満たし、且つ、候補駅間の候補駅(当該候補駅間の入場駅と出場駅)と、分析対象駅間の対象駅(当該分析対象駅間の入場駅と出場駅)とが所定の同規模条件を満たし、且つ、移動経路が1種類である候補駅間を、援用駅間として選択する。
【0023】
1つ目の条件は、その発駅である入場駅を発車する発列車の間隔が分析対象駅間の発駅(入場駅)を発車する発列車の間隔と類似している候補駅間を選択するための条件である。例えば、類似条件は、「候補駅間および分析対象駅間における当該間隔の差が所定の閾値以内であること」等として設定される。本実施形態では、パターンダイヤの時間帯に属する入出場データ201を推定に用いるため、列車ダイヤデータ193(図5を参照)に従って当該時間帯における差を算出し、分析対象駅間との間で類似条件を満たす候補駅間を抽出する。
【0024】
2つ目の条件は、その入場駅および出場駅の規模が分析対象駅間の入場駅および出場駅の規模と同程度である候補駅間を選択するための条件である。同規模条件は、例えば、「候補駅間の入場駅および出場駅の規模ランクの組み合わせが分析対象駅間の入場駅および出場駅の規模ランクの組み合わせと等しいこと」等として設定される。本実施形態では、予め駅の敷地面積やホームの数、1日の利用者数等に基づく規模ランクが駅毎に定められており(図5に示す駅別規模ランクテーブル195)、この駅別規模ランクテーブル195を参照して、分析対象駅間との間で同規模条件(同じ規模ランクであること)を満たす候補駅間を抽出する。
【0025】
3つ目の条件は、その入場駅から出場駅までの移動経路が1種類である候補駅間を選択するための条件である。移動経路の種類とは、例えば、各駅停車の列車で移動する経路や、快速列車で途中のA駅まで乗車してそこから各駅停車の列車に乗り換える経路、といった、移動に関して選択する列車種別・乗換駅別のユニークな組み合わせのことである。本実施形態では、候補駅間について最早経路と乗換回避経路とを検索し、両者が同一の場合に、当該候補駅間の入場駅から出場駅までの移動経路が1種類であると推定する。本実施形態では、移動経路が1種類である駅間が候補駅間として登録されるようになっており、その中から類似条件を満たすとして抽出され、且つ、同規模条件を満たすとして抽出された候補駅間を、当該分析対象駅間についての援用駅間として選択する。該当する候補駅間が複数存在するときには、そのうちの何れか1つを援用駅間とすればよい。
【0026】
さて、前述のように、援用駅間は、移動経路が1種類の駅間であって、その入場駅における発列車の間隔やその入出場駅の規模が分析対象駅間と似た駅間とされる。そのため、援用駅間の利用者の改札内時間のうちの列車乗車時間以外の時間、つまり、ホームでの待ち時間や改札からホームに向かう時間、列車を降りてから改札に向かう時間といった、当該利用者が入場駅および出場駅の駅構内にいた時間(当該時間を「乗車外時間」という)が、分析対象駅間の利用者の乗車外時間と同程度と仮定できる。よって、援用駅間の実改札内時間分布から列車乗車時間を除いて乗車外時間分布とした上で、分析対象駅間の最早経路での列車乗車時間を加えることにより、分析対象駅間における最早経路に係る改札内時間分布を推定できる。また、同様の要領で、乗換回避経路に係る改札内時間分布を推定できる。
【0027】
そのため、推定装置10は、(3)乗車外分布生成処理を行い、援用駅間の実改札内時間分布に基づいて、当該援用駅間について定められる列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成する。具体的には、援用駅間の実改札内時間分布の横軸を改札内時間から乗車外時間に置き換えることで、乗車外時間分布を生成する。例えば、列車乗車時間が15分であったとする。その場合は、援用駅間の実改札内時間分布において横軸の改札内時間から15分を減算することで横軸を乗車外時間とした分布を、乗車外時間分布として生成する。
【0028】
続いて、(4)経路別推定分布生成処理を行い、最早経路および乗換回避経路の移動経路別に、当該移動経路で移動した場合の分析対象駅間の列車乗車時間と、乗車外時間分布とに基づいて推定改札内時間分布を生成する。
【0029】
具体的には、(4)-1として、最早経路に係る推定改札内時間分布(以下「最早経路推定分布」という)を生成する。例えば、推定した最早経路での分析対象駅間の列車乗車時間が20分であったとすると、乗車外分布において横軸の乗車外時間に20分を加算することで横軸を最早経路についての推定改札内時間とした分布を、最早経路推定分布として生成する。また、(4)-2として、乗換回避経路に係る推定改札内時間分布(以下「乗換回避経路推定分布」という)を生成する。例えば、推定した乗換回避経路での分析対象駅間の列車乗車時間が30分であったとすると、乗車外分布において横軸の乗車外時間に30分を加算することで横軸を乗換回避経路についての推定改札内時間とした分布を、乗換回避経路推定分布として生成する。
【0030】
続いて、(5)合成分布生成処理を行い、最早経路推定分布と乗換回避経路推定分布とを所与の合成割合で合成した合成推定改札内時間分布を生成する。例えば、図2に示すように、最早経路推定分布に0以上1以下の所定値αを乗じ、乗換回避経路推定分布に(1-α)を乗じて両者を加算し、合成推定改札内時間分布を生成する。本実施形態では、αの初期値を0とし、所定幅(例えば0.01)ずつ1まで値を増やしながら各αの値毎に合成推定改札内時間分布を生成する。
【0031】
その後は、(6)比率推定処理を行い、合成推定改札内時間分布と、分析対象駅間の実改札内時間分布との差が所定の最小条件を満たす合成割合を算出して、分析対象駅間の利用者による移動経路の選択比率を選択可能性として推定する。本実施形態では、例えば、「両分布の差が最小であること」を最小条件とし、該当する合成推定改札内時間分布の合成に用いた所定値αを取得することで、当該最小条件を満たす合成割合を算出する。そして、その合成割合(α:1-α)を、利用者による最早経路と乗換回避経路のそれぞれの選択比率として推定する。
【0032】
本実施形態では先ず、合成分布生成処理で生成した合成推定改札内時間分布のそれぞれについて、分析対象駅間の実改札内時間分布との差を求める。図4は、当該差の算出を説明する図であり、図2の(5)においてある所定値αを用いて生成した合成推定改札内時間分布を、(1)で生成した実改札内時間分布と重ねて示している。本実施形態では、合成推定改札内時間分布に係る利用者数の割合eと、分析対象駅間の実改札内時間分布に係る利用者数の割合rとの差e-rを横軸の改札内時間の集計時間帯毎に求め(例えば集計時間帯20分~21分についてであればe20-r20)、次式(1)に従って両分布の差を求める。
【数1】
【0033】
次に、求めた差が最小の合成推定改札内時間分布を選出する。そして、選出した合成推定改札内時間分布の生成に用いた所定値αに基づく比率(α:1-α)を、最早経路を選んだ利用者と乗換回避経路を選んだ利用者の比率として求めて、これを選択比率とする。
【0034】
[機能構成]
図5は、本実施形態における推定装置10の機能構成例を示すブロック図である。図5に示すように、推定装置10は、操作部110と、表示部130と、通信部150と、処理部170と、記憶部190とを備えたコンピュータである。
【0035】
操作部110は、例えば、タッチパネルや各種スイッチ等で実現される入力装置であり、操作入力に応じた操作信号を処理部170に出力する。表示部130は、例えばLCD等で実現される表示装置であり、処理部170からの表示信号に応じた表示を行う。通信部150は、例えば無線通信モジュールやルータ、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される有線或いは無線の通信装置であり、外部装置との間で通信を行う。
【0036】
処理部170は、例えばCPU等の演算装置で実現され、記憶部190に記憶されたプログラムやデータ、操作部110からの操作信号、通信部150を介して外部装置から受信したデータ等に基づいて推定装置10を構成する各部への指示やデータの転送を行い、推定装置10の動作を統括的に制御する。本実施形態では、処理部170は、入出場データ取得部171と、移動経路推定部173と、援用駅間選択部175と、対象駅間分布生成部177と、援用駅間分布生成部179と、乗車外分布生成部181と、経路別推定分布生成部183と、合成分布生成部185と、推定部187と、を備える。
【0037】
入出場データ取得部171は、入出場データテーブル200から入出場データ201を読み出して取得する。本実施形態では、入出場データテーブル200に蓄積された入出場データ201のうち、予め設定されるパターンダイヤの時間帯に属する入出場データ201を取得する。
【0038】
移動経路推定部173は、入出場データ取得部171によって取得された入出場データ201毎に、その利用者の入出場駅間の移動経路を推定する。本実施形態では、列車ダイヤデータ193に基づいて、推定対象の入出場データ201の入場駅、入場時刻、および出場駅からその入出場駅間の最早経路と乗換回避経路とを推定する。推定手法としては公知の手法を用いることができる。
【0039】
そして、移動経路推定部173は、推定した最早経路と乗換回避経路とが同一か否かに応じたデータの生成・追加を行う。両経路が同一の場合、入出場駅間の移動経路は1種類であると推定することができる。そこで、移動経路推定部173は、当該入出場駅間を援用駅間の候補駅間として、推定対象の入出場データ201と、最早経路および乗換回避経路として推定した移動経路とをもとに、候補駅間データ210を生成・追加する。図6は、1つの候補駅間データ210のデータ構成例を示す図である。図6に示すように、候補駅間データ210は、当該候補駅間を識別するための候補駅間番号211と、当該候補駅間の候補駅(入場駅/出場駅)213と、改札内時間215と、列車乗車時間217と、を含む。
【0040】
候補駅213には、推定対象の入出場データ201の入場駅と出場駅とが設定される。改札内時間215には、推定対象の入出場データ201の入場時刻から出場時刻までの時間が設定される。列車乗車時間217は、推定対象の入出場データ201に係る利用者の列車乗車時間であり、推定された移動経路で乗り継ぐ列車に基づいて設定される。
【0041】
また、移動経路推定部173は、候補駅間データ210の生成にあたって適宜候補駅間リスト231を更新する。具体的には、候補駅213とした入出場駅の組み合わせが候補駅間リスト231に設定されておらず、その候補駅間が未登録の場合に、当該候補駅間に候補駅間番号を割り振り、その入出場駅(つまり候補駅213)を対応付けて登録する。図7は、候補駅間リスト231のデータ構成例を示す図である。図7に示すように、候補駅間リスト231は、候補駅間番号毎に、その候補駅間の候補駅(入場駅/出場駅)を設定したデータテーブルである。
【0042】
一方、移動経路推定部173は、推定した最早経路と乗換回避経路とが異なる場合には、その入出場駅間を分析対象駅間として、推定対象の入出場データ201と、推定した最早経路および乗換回避経路とをもとに、分析対象駅間データ220を生成・追加する。図8は、1つの分析対象駅間データ220のデータ構成例を示す図である。図8に示すように、分析対象駅間データ220は、当該分析対象駅間を識別するための分析対象駅間番号221と、当該分析対象駅間の対象駅(入場駅/出場駅)223と、改札内時間225と、最早経路列車乗車時間227と、乗換回避経路列車乗車時間229と、を含む。
【0043】
対象駅223には、推定対象の入出場データ201の入場駅と出場駅とが設定される。改札内時間225には、推定対象の入出場データ201の入場時刻から出場時刻までの時間が設定される。最早経路列車乗車時間227は、推定対象の入出場データ201に係る利用者が最早経路を選択した場合の列車乗車時間であり、推定された最早経路で乗り継ぐ列車に基づいて設定される。乗換回避経路列車乗車時間229は、推定対象の入出場データ201に係る利用者が乗換回避経路を選択した場合の列車乗車時間であり、推定された乗換回避経路で乗り継ぐ列車に基づいて設定される。
【0044】
また、移動経路推定部173は、分析対象駅間データ220の生成にあたって適宜分析対象駅間リスト233を更新する。具体的には、対象駅223とした入出場駅の組み合わせが分析対象駅間リスト233に設定されておらず、その分析対象駅間が未登録の場合に、当該分析対象駅間に分析対象駅間番号を割り振り、その入出場駅(つまり対象駅223)を対応付けて登録する。図9は、分析対象駅間リスト233のデータ構成例を示す図である。図9に示すように、分析対象駅間リスト233は、分析対象駅間番号毎に、その分析対象駅間の対象駅(入場駅/出場駅)を設定したデータテーブルである。
【0045】
援用駅間選択部175は、援用駅間選択処理を行う機能部であり、分析対象駅間と援用駅間との対応関係を設定する。本実施形態では、移動経路推定部173によって新しく分析対象駅間が分析対象駅間リスト233に登録された場合に、候補駅間リスト231の候補駅間の中から当該分析対象駅間に対応する援用駅間を選択し、援用駅間対応表235にその対応関係を設定する。
【0046】
具体的には、候補駅間の中から、その入場駅(発駅)の発列車の間隔に係る列車状況が新しく登録した分析対象駅間における入場駅(発駅)の発列車の間隔に係る列車状況と所定の類似条件を満たし、且つ、その候補駅と対象駅とが所定の同規模条件を満たす候補駅間を選択することで、当該分析対象駅間に対応する援用駅間とする。図10は、援用駅間対応表235のデータ構成例を示す図である。図10に示すように、援用駅間対応表235は、分析対象駅間の分析対象駅間番号と、対応する援用駅間として選択された候補駅間の候補駅間番号とを対応付けたデータテーブルである。
【0047】
対象駅間分布生成部177は、対象駅間分布生成処理を行う機能部であり、分析対象駅間の入出場駅の組み合わせが対象駅223として設定された分析対象駅間データ220を参照し、その改札内時間225を集計時間帯毎に集計して、実改札内時間分布を生成する。
【0048】
援用駅間分布生成部179は、援用駅間分布生成処理を行う機能部であり、分析対象駅間に対応する援用駅間の入出場駅の組み合わせが候補駅213として設定された候補駅間データ210を参照し、その改札内時間215を集計時間帯毎に集計して、実改札内時間分布を生成する。
【0049】
乗車外分布生成部181は、乗車外分布生成処理を行う機能部であり、援用駅間の実改札内時間分布に基づいて、当該援用駅間について定められる列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成する。ここでの列車乗車時間は、例えば、援用駅間分布生成部179が援用駅間の実改札内時間分布を生成するのに参照した候補駅間データ210の列車乗車時間217の平均値を用いる。
【0050】
経路別推定分布生成部183は、経路別推定分布生成処理を行う機能部であり、最早経路で分析対象駅間を移動した場合の列車乗車時間と、乗車外時間分布とに基づいて最早経路推定分布を生成する。ここでの列車乗車時間は、例えば、対象駅間分布生成部177が分析対象駅間の実改札内時間分布を生成するのに参照した分析対象駅間データ220の最早経路列車乗車時間227の平均値を用いる。また、経路別推定分布生成部183は、乗換回避経路で分析対象駅間を移動した場合の列車乗車時間と、乗車外時間分布とに基づいて乗換回避経路推定分布を生成する。ここでの列車乗車時間は、例えば、対象駅間分布生成部177が分析対象駅間の実改札内時間分布を生成するのに参照した分析対象駅間データ220の最早経路列車乗車時間227の平均値を用いる。
【0051】
合成分布生成部185は、合成分布生成処理を行う機能部であり、最早経路推定分布と乗換回避経路推定分布とを所与の合成割合で合成した合成推定改札内時間分布を生成する。
【0052】
推定部187は、比率推定処理を行う機能部であり、合成推定改札内時間分布と、分析対象駅間の実改札内時間分布との差が所定の最小条件を満たす合成割合を算出することで、分析対象駅間を移動する利用者による最早経路および乗換回避回路の選択可能性として選択比率を推定する。
【0053】
記憶部190は、IC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク、光学ディスク等の記憶媒体により実現されるものである。記憶部190には、推定装置10を動作させ、推定装置10が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。本実施形態では、記憶部190には、推定プログラム191と、列車ダイヤデータ193と、駅別規模ランクテーブル195と、入出場データテーブル200と、候補駅間データ210と、分析対象駅間データ220と、候補駅間リスト231と、分析対象駅間リスト233と、援用駅間対応表235と、選択比率データ237とが格納される。
【0054】
推定プログラム191は、処理部170を入出場データ取得部171、移動経路推定部173、援用駅間選択部175、対象駅間分布生成部177、援用駅間分布生成部179、乗車外分布生成部181、経路別推定分布生成部183、合成分布生成部185、および推定部187として機能させるためのプログラムである。
【0055】
列車ダイヤデータ193は、分析対象駅間の入出場駅および援用駅間の入出場駅となり得る各駅に関する列車の列車ダイヤであり、各列車の駅毎の着発時刻等を格納する。
【0056】
駅別規模ランクテーブル195は、分析対象駅間の入出場駅および援用駅間の入出場駅となり得る全ての駅について、予め定められる規模ランクを格納する。
【0057】
選択比率データ237は、最早経路および乗換回避経路の選択比率の推定結果を、分析対象駅間毎に格納する。
【0058】
[処理の流れ]
本実施形態では、推定装置10は、入出場データ201に基づくデータ登録に関する処理と、登録したデータに基づく選択嗜好の推定に関する処理と、を行う。
【0059】
先ず、データ登録に関する処理について、図11を参照して説明する。本処理では先ず、入出場データ取得部171が、入出場データテーブル200からパターンダイヤの時間帯に属する新規の入出場データ201を取得する(ステップS1)。そして、取得した全ての入出場データ201を順次推定対象の入出場データ(以下「推定入出場データ」という)201として、ループAの処理を繰り返す(ステップS3~ステップS15)。
【0060】
すなわち、ループAでは先ず、移動経路推定部173が、列車ダイヤデータ193をもとに、推定入出場データ201を用いてその入出場駅間の最早経路を推定する(ステップS5)。また、移動経路推定部173は、列車ダイヤデータ193をもとに、推定入出場データ201を用いてその入出場駅間の乗換回避経路を推定する(ステップS7)。
【0061】
そして、移動経路推定部173は、ステップS5で推定した最早経路とステップS7で推定した乗換回避経路とが同一であれば(ステップS9:YES)、当該入出場駅間を援用駅間の候補駅間として、候補駅間データ210を生成・追加する(ステップS11)。またその際に、移動経路推定部173は、候補駅213とした入出場駅の組み合わせが候補駅間リスト231にないときには、当該入出場駅の組み合わせを候補駅間リスト231に登録する。
【0062】
一方、移動経路推定部173は、ステップS5で推定した最早経路とステップS7で推定した乗換回避経路とが異なる場合には(ステップS9:NO)、当該入出場駅間を分析対象駅間として、分析対象駅間データ220を生成・追加する(ステップS13)。またその際に、移動経路推定部173は、対象駅223とした入出場駅の組み合わせが分析対象駅間リスト233にないときには、当該入出場駅の組み合わせを分析対象駅間リスト233に登録する。そしてその場合には、援用駅間選択部175が、候補駅間リスト231の候補駅間の中から当該分析対象駅間に対応する援用駅間を選択して、その分析対象駅間番号と援用駅間番号とを対応付けて援用駅間対応表235に設定する(援用駅間選択処理;ステップS14)。
【0063】
そして、全ての新規の入出場データ201についてループAの処理を実行したならば、本処理を終える。
【0064】
次に、選択嗜好の推定に関する処理について、図12を参照して説明する。本処理では、分析対象駅間リスト233に登録されている全ての分析対象駅間を順次処理駅間として、ループBの処理を繰り返す(ステップS21~ステップS45)。
【0065】
すなわち、ループBでは先ず、対象駅間分布生成部177が、処理駅間の入出場駅の組み合わせが対象駅223として設定された分析対象駅間データ220のそれぞれから改札内時間225を読み出し、集計時間帯毎に集計して処理駅間の実改札内時間分布を生成する(対象駅間分布生成処理;ステップS23)。
【0066】
続いて、援用駅間分布生成部179が、援用駅間対応表235を参照して処理駅間に対応する援用駅間の入出場駅を読み出す。そして、援用駅間分布生成部179は、当該入出場駅の組み合わせが候補駅213として設定された候補駅間データ210のそれぞれから改札内時間215を読み出し、集計時間帯毎に集計して当該援用駅間の実改札内時間分布を生成する(援用駅間分布生成処理;ステップS25)。
【0067】
続いて、乗車外分布生成部181が、ステップS23で生成された援用駅間の実改札内時間分布に基づいて、当該援用駅間の列車乗車時間を除いた乗車外時間分布を生成する(乗車外分布生成処理;ステップS27)。
【0068】
続いて、経路別推定分布生成部183が経路別推定分布生成を行い、図11のステップS5において処理駅間に係る入出場データ201について推定された最早経路での移動に係る利用者の列車乗車時間を乗車外時間分布に加えて最早経路推定分布を生成するとともに(ステップS29)、図11のステップS7において処理駅間に係る入出場データ201について推定された乗換回避経路での移動に係る利用者の列車乗車時間を乗車外時間分布に加えて乗換回避経路推定分布を生成する(ステップS31)。
【0069】
続いて、合成分布生成部185が、合成割合を定める所定値αを0に初期化した上で(ステップS33)、最早経路推定分布と乗換回避経路推定分布とを所定値αに基づく合成割合で合成し、合成推定改札内時間分布を生成する(合成分布生成処理;ステップS35)。
【0070】
続いて、推定部187が、比率推定処理として、ステップS35で生成された合成推定改札内時間分布と、ステップS23で生成された処理駅間の実改札内時間分布との差を上記式(1)に従って算出する(ステップS37)。
【0071】
その後は、所定値αが1未満である間は(ステップS39:NO)、所定値αを所定量ずつ(例えば0.01ずつ)増やしながら(ステップS41)、合成推定改札内時間分布の生成(ステップS35)と、当該合成推定改札内時間分布と処理駅間の実改札内時間分布との差の算出(ステップS37)と、を繰り返す。そして、所定値αが1の場合には(ステップS39:YES)、推定部187が、比率推定処理として、ステップS37で算出された差が例えば最も小さい値となった合成推定改札内時間分布の合成に用いた所定値αから、処理駅間における利用者の最早経路および乗換回避経路の選択比率を推定する(ステップS43)。
【0072】
そして、全ての分析対象駅間についてループBの処理を実行したならば、本処理を終える。
【0073】
以上説明したように、本実施形態によれば、利用者が駅の自動改札を通ることで収集される入出場データを用いて、複数の移動経路で移動可能な分析対象駅間における利用者の当該移動経路の選択嗜好を推定することができる。具体的には、例えば、複数の移動経路が存在する場合に、乗換回数が多くても目的駅により早く到着することを優先して最早経路を選ぶ利用者と、到着が遅くなっても乗り換えの少ない移動経路を選ぶ利用者とがどの程度の割合で混在しているのか、移動経路の選択可能性を推定することが可能となる。
【0074】
なお、上記した実施形態では、移動経路が最早経路および乗換回避経路の2種類である駅間を分析対象駅間とする例を示したが、3種類以上の移動経路で移動可能な駅間について利用者による選択嗜好を推定する場合にも同様に適用が可能である。
【0075】
また、上記実施形態では、移動経路の選択比率(選択割合)を移動経路の選択可能性として推定することとして説明したが、特定の移動経路の選択比率のみを出力することとして、特定の移動経路の選択比率(選択確率)を選択可能性として推定・出力することとしてもよい。
【0076】
また、上記した実施形態では、日中等のパターンダイヤの時間帯に属する入出場データ201を用いて選択比率の推定を行う例を示したが、日中の時間帯を例えば12時台、13時台、14時台といった入場時間帯で区切り、入場時刻が各入場時間帯に属する入出場データ201をそれぞれ抽出して用いることで、入場時間帯毎に選択比率を推定する構成としてもよい。また、日中のパターンダイヤに限らず、他の時間帯についても同様に適用することも可能性である。
【符号の説明】
【0077】
10…推定装置
170…処理部
171…入出場データ取得部
173…移動経路推定部
175…援用駅間選択部
177…対象駅間分布生成部
179…援用駅間分布生成部
181…乗車外分布生成部
183…経路別推定分布生成部
185…合成分布生成部
187…推定部
190…記憶部
191…推定プログラム
193…列車ダイヤデータ
195…駅別規模ランクテーブル
200…入出場データテーブル
201…入出場データ
210…候補駅間データ
220…分析対象駅間データ
231…候補駅間リスト
233…分析対象駅間リスト
235…援用駅間対応表
237…選択比率データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12