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特許7453118硬質粒子、摺動部材、及び焼結合金の製造方法
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  • 特許-硬質粒子、摺動部材、及び焼結合金の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】硬質粒子、摺動部材、及び焼結合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240312BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20240312BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240312BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240312BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240312BHJP
   F01L 3/02 20060101ALI20240312BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C22C38/00 304
C22C27/04 102
B22F1/00 T
C22C33/02 B
B22F9/08 A
F01L3/02 F
C22C30/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020171796
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063501
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220435
【氏名又は名称】株式会社ファインシンター
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】鴨 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕作
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕太
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-040458(JP,A)
【文献】特開2017-137535(JP,A)
【文献】特開2001-295004(JP,A)
【文献】特開2019-173970(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110923620(CN,A)
【文献】特開2016-216762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 27/04
B22F 1/00
C22C 33/02
B22F 9/08
F01L 3/02
C22C 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr:5~20質量%、
W:2~19質量%、
Mo:25~40質量%、
Ni:10~22質量%、
Mn:10質量%以下、
C:2.0質量%以下、
Si:2.0質量%以下
Fe:20質量%以上、及び、
残部:不可避不純物
からなる、硬質粒子。
【請求項2】
Cr:5~10質量%、
W:3~15質量%、
Mo:25~35質量%、
Ni:15~20質量%、
Mn:6質量%以下、
C:1.4質量%以下、
Si:1.4質量%以下、
Fe:20質量%以上、及び、
残部:不可避不純物からなる、請求項1に記載の硬質粒子。
【請求項3】
Fe粒子と、Cu粒子と、グラファイト粒子を含む基地形成用粒子と
前記基地形成用粒子中に分散している請求項1又は2に記載の硬質粒子
とを含む混合粉末の成形体の焼結体である摺動部材であって、前記混合粉末100質量%に対し、前記硬質粒子の配合量は5~50質量%であり、Cuの配合量は2~12質量%であり、グラファイトの配合量は0.6~2.0質量%であり、かつ前記硬質粒子はガスアトマイズ粉である摺動部材
【請求項4】
前記硬質粒子は、La:0.5~5質量%を含有する、請求項に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記硬質粒子は、La:0.5~2.0質量%を含有する、請求項に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記混合粉末は、第2の硬質粒子を含有し、
前記第2の硬質粒子は、
Mo:60~70質量%、
Si:2.0質量%以下、及び、
残部:Fe及び不可避不純物からなる、請求項3~のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項7】
バルブシートである、請求項3~のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項8】
焼結合金の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の硬質粒子と、Fe粒子と、Cu粒子と、グラファイト粒子を含む基地形成用粒子とを含む混合粉末を作製する、混合粉末作製工程と、
前記混合粉末を金型で成形して成形体を得る、成形体作製工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、
を含み、前記混合粉末100質量%に対し、前記硬質粒子の配合量は5~50質量%であり、Cuの配合量は2~12質量%であり、グラファイトの配合量は0.6~2.0質量%であり、かつ前記硬質粒子はガスアトマイズ粉である、焼結合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質粒子、摺動部材、及び焼結合金の製造方法に関する。更に詳細には、内燃機関の摺動部材、特にバルブシートとなりうる、耐摩耗性に優れた焼結合金を得るための硬質粒子、当該硬質粒子を用いて得られる摺動部材、及び摺動部材となりうる焼結合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンバルブシート(以下、単に「バルブシート」という)は、バルブが閉じた際にバルブに際に密着することで、燃焼室の圧力を確保する役割を果たすものである。このようなバルブシートは、高温かつ低酸化な厳しい摺動環境に曝されるなかで、高い耐摩耗性が要求される。
【0003】
そして、耐摩耗性に優れたバルブシートとしては、硬質粒子が添加された鉄基焼結合金による焼結バルブシートが知られている。中でも、CoMo系硬質粒子を用いて、これをFe-C系の基地に分散させた鉄基焼結合金から形成されたバルブシートは、耐摩耗性と製造性の両者を確保できることが知られている。
【0004】
しかしながら、CoMo系硬質粒子は、Coを用いることから高コストとなり、また、調達リスクも懸念される。そこで、Coを含まない硬質粒子にて、高い摩耗性を発現するバルブシートの実現が望まれていた。
【0005】
これに対して、特許文献1においては、Mo:20~35質量%、Cr:3~15質量%、Mn:3~15質量%、C:1.0質量%未満、残部は不可避的不純物とFeからなる、FeMo系硬質粒子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-115197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、FeMo系硬質粒子は、従来のCoMo系硬質粒子と比較して、Fe-C系基地との焼結性に劣るため、FeMo系硬質粒子をFe-C系の基地に分散させた鉄基焼結合金から形成されたバルブシートは、加工時及び作動時に、硬質粒子が基地から脱落してしまい、耐摩耗性が低下する場合があった。
【0008】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、基地との焼結性に優れ、耐摩耗性に優れた摺動部材となりうる焼結合金が得られるFeMo系の硬質粒子、当該硬質粒子を含む摺動部材、及び当該硬質粒子を含む焼結合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った。そして、Mo中の拡散が速いCr及びWを、Niと同時に存在させた硬質粒子とすれば、焼結合金を作製したときに、基地との焼結性が向上されるとともに、製造性が確保できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0010】
《態様1》
Cr:5~20質量%、
W:2~19質量%、
Mo:25~40質量%、
Ni:10~22質量%、
Mn:10質量%以下、
C:2.0質量%以下、
Si:2.0質量%以下、及び、
残部:Fe及び不可避不純物
からなる、硬質粒子。
《態様2》
Cr:5~10質量%、
W:3~15質量%、
Mo:25~35質量%、
Ni:15~20質量%、
Mn:6質量%以下、
C:1.4質量%以下、
Si:1.4質量%以下、及び、
残部:Fe及び不可避不純物からなる、態様1に記載の硬質粒子。
《態様3》
Feを主成分とする基地、及び前記基地中に分散している態様1又は2に記載の硬質粒子を有する、摺動部材。
《態様4》
前記基地100質量%に対して、Cu:2~12質量%を含有する、態様3に記載の摺動部材。
《態様5》
前記硬質粒子は、La:1~5質量%を含有する、態様4に記載の摺動部材。
《態様6》
前記基地は、第2の硬質粒子を含有し、
前記第2の硬質粒子は、
Mo:60~70質量%、
Si:2.0質量%以下、及び、
残部:Fe及び不可避不純物からなる、態様3~5のいずれか一態様に記載の摺動部材。
《態様7》
バルブシートである、態様3~6のいずれか一態様に記載の摺動部材。
《態様8》
焼結合金の製造方法であって、
態様1又は2に記載の硬質粒子と、基地形成用粒子とを含む混合粉末を作製する、混合粉末作製工程と、
前記混合粉末を金型で成形して成形体を得る、成形体作製工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、
を含む、焼結合金の製造方法。
《態様9》
前記硬質粒子は、水アトマイズ粉であり、
前記基地形成用粒子は、フラックス粉末を含む、
態様8に記載の焼結合金の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のFeMo系硬質粒子は、Coを含まないため、コストを低減できるとともに、材料調達のリスクを抑制することができる。
【0012】
また、本発明のFeMo系硬質粒子は、基地との焼結性に優れるため、得られる焼結合金からバルブシート等を形成した場合に、加工時及び作動時に、硬質粒子が基地から脱落して耐摩耗性が低下することを抑制することができる。
【0013】
更に、本発明の硬質粒子を用いて形成されたバルブシート等は、作動時に硬質粒子の表面に酸化膜を形成しやすいため、摺動相手となる金属への凝着による摩耗を抑制することができる。
【0014】
ここで、一般に、硬質粒子の基地への焼結性と、粒子表面の容易酸化性とは、トレードオフの関係にある。しかしながら、本発明の硬質粒子によれば、両者をバランスよく実現することができる。
【0015】
したがって、本発明の硬質粒子によれば、焼結合金を作製するときの焼結性と、バルブシート等の作動時の表面酸化性とを、同時に両立させることができ、硬質粒子の基地から脱落による摩耗と、摺動相手への凝着による摩耗との両者について、抑制することができる。その結果、本発明の硬質粒子によれば、得られる焼結合金について、高いレベルでの耐摩耗性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例及び比較例で作製した焼結合金によるバルブシートの耐摩耗性試験に用いた装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0018】
<<硬質粒子>>
本発明の硬質粒子は、必須成分として、Cr、W、Mo、及びNiを含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる。
【0019】
本発明の硬質粒子は、Mo中の拡散が速いCr及びWを、Niと同時に存在させることで、焼結合金を作製する場合に、基地との焼結性を向上できるとともに、製造性を確保することができる。
【0020】
本発明の硬質粒子は、FeMo系硬質粒子であり、Coを実質的に含まない。このため、コストを低減できるとともに、材料調達のリスクを抑制することができる。
【0021】
<硬質粒子の平均粒径>
本発明の硬質粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、50μm以上250μmであってよい。この範囲であれば、硬質粒子を様々な用途に適用することができる。
【0022】
ここで、本明細書における「平均粒径」とは、少なくとも200個以上の硬質粒子について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、面積に等しい真円を等面積円としたときの円相当径を求め、それらの円相当径により算出した数平均値である。
【0023】
硬質粒子の平均粒径は、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、75μm以上、又は80μm以上あってよく、225μm以下、200μm以下、175μm以下、150μm以下、125μm以下、又は100μm以下であってよい。
【0024】
<各成分>
本発明の硬質粒子は、必須成分として、Cr、W、Mo、Ni、及びFeを含有し、任意成分として、Mn、C、Si、及びLaを含む。
【0025】
(Cr:5~20質量%)
本発明の硬質粒子は、必須成分として、Crを5~20質量%、好ましくは5~10質量%含む。
【0026】
Crは、主にCr炭化物を形成し、硬質粒子の硬さを高めて耐摩耗性を改善する。また、硬質粒子を用いて合金を作製する際に、焼結による硬質粒子の溶融を抑制する。また、Crは、後記するMoにおける拡散が速いため、硬質粒子を用いて焼結合金を作製する際に、基地との焼結性を向上させる。
【0027】
Cr含有量が5質量%未満の場合には、硬質粒子の耐摩耗性が低下するとともに、焼結の際の硬質粒子の溶融抑制効果が低下する。一方、Cr含有量が20質量%を超える場合には、硬質粒子が過度に硬くなり、硬質粒子を用いた焼結合金の製造性が低下するとともに、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、摺動相手への攻撃性を高めてしまう。
【0028】
硬質粒子におけるCrの含有量は、8質量%以上、10質量%以上、12質量%以上、又は15質量%以上であってよく、18質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下、であってよい。
【0029】
(W:2~19質量%)
本発明の硬質粒子は、必須成分として、Wを、2~19質量%、好ましくは3~15質量%含む。
【0030】
Wは、硬質粒子の硬さを高めて耐摩耗性を改善する。また、Wは、後記するMoにおける拡散が速いため、硬質粒子を用いて焼結合金を作製する際に、基地との焼結性を向上させる。
【0031】
W含有量が2質量%未満の場合には、硬質粒子の耐摩耗性が低下するとともに、合金を作製する際の基地との焼結性向上の効果が見られなくなる。一方、W含有量が19質量%を超える場合には、硬質粒子が過度に硬くなり、硬質粒子を用いた焼結合金の製造性が低下するとともに、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、摺動相手への攻撃性を高めてしまう。
【0032】
硬質粒子におけるW含有量は、3質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、18質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は8質量%以下であってよい。
【0033】
(Mo:25~40質量%)
本発明の硬質粒子は、必須成分として、Moを、25~40質量%、好ましくは25~35質量%含む。
【0034】
Moは、主にMo炭化物を形成し、硬質粒子の硬さを高めて耐摩耗性を改善する。また、硬質粒子の表面にMo酸化膜を形成して、硬質粒子を用いた焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、摺動相手となる金属への凝着による摩耗を抑制し、耐摩耗性を改善する。
【0035】
Mo含有量が25質量%未満の場合には、硬質粒子の耐摩耗性が低下する。一方、Mo含有量が40質量%を超える場合には、硬質粒子が過度に硬くなり、硬質粒子を用いた焼結合金の製造性が低下するとともに、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、摺動相手への攻撃性を高めてしまう。
【0036】
硬質粒子におけるMo含有量は、28質量%以上、30質量%以上、33質量%以上、又は35質量%以上であってよく、38質量%以下、35質量%以下、33質量%以下、30質量%以下であってよい。
【0037】
(Ni:10~22質量%)
本発明の硬質粒子は、必須成分として、Niを、10~22質量%、好ましくは15~20質量%含む。
【0038】
Niは、硬質粒子の硬さを高めて耐摩耗性を改善する。また、Niは、後記するMoにおける拡散が速いため、硬質粒子を用いて焼結合金を作製する際に、基地との焼結性を向上させる。
【0039】
Ni含有量が10質量%未満の場合には、硬質粒子の耐熱性が低下して耐摩耗性が低下するとともに、合金を作製する際の基地との焼結性が低下する。一方、Ni含有量が22質量%を超える場合には、硬質粒子の硬さが低下して耐摩耗性が低下する。
【0040】
硬質粒子におけるNi含有量は、13質量%以上、14質量%以上、又は15質量%以上であってよく、20質量%以下、19質量%以下、又は18質量%以下であってよい。
好ましくは、7.0mass%以下である。
【0041】
(Mn:10質量%以下)
本発明の硬質粒子は、Mn含有率が、10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。
【0042】
Mnは、硬質粒子を用いて焼結合金を作製する際に、基地との焼結性を向上させる。
【0043】
Mn含有量が10質量%を超える場合には、硬質粒子を用いて焼結合金を作製する際に、基地との焼結性が低下する。一方、Mn含有量が少なすぎると、耐摩耗性が低下する。
【0044】
硬質粒子におけるMn含有量は、8質量%以下、6質量%以下、4質量%以下、又は2質量%以下、あるいは含有していなくてもよく、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上であってよい。
【0045】
(C:2.0質量%以下)
本発明の硬質粒子は、C含有率が、2.0質量%以下、好ましくは1.4質量%以下である。
【0046】
Cは、主にMo炭化物を形成し、硬質粒子の硬さを高めて耐摩耗性を改善する。
【0047】
C含有量が2.0質量%を超える場合には、硬質粒子が過度に硬くなり、硬質粒子を用いた焼結合金の製造性が低下するとともに、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、摺動相手への攻撃性を高めてしまう。
【0048】
硬質粒子におけるC含有量は、1.8質量%以下、1.6質量%以下、1.4質量%以下、1.2質量%以下、又は1.0質量%以下であってよく、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は0.7質量%以上であってよい。
【0049】
(Si:2.0質量%以下)
本発明の硬質粒子は、Si含有率が、2.0質量%以下、好ましくは1.4質量%以下である。
【0050】
Siは、主に珪化物を形成し、硬質粒子の硬さを高めて耐摩耗性を改善する。
【0051】
Si含有量が2.0質量%を超える場合には、硬質粒子が過度に硬くなり、硬質粒子を用いた焼結合金の製造性が低下するとともに、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、摺動相手への攻撃性を高めてしまう。一方、Si含有量が少なすぎると、粒子の硬さが低くなりすぎて、硬質粒子として機能を発揮することが困難となる。
【0052】
硬質粒子におけるSi含有量は、1.8質量%以下、1.6質量%以下、1.4質量%以下、1.2質量%以下、又は1.0質量%以下であってよく、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は0.7質量%以上であってよい。
【0053】
(La:0.5~5質量%)
本発明の硬質粒子は、任意成分として、La:0.5~5質量%を含んでいてもよい。好ましくは、0.52.0質量%含んでいてもよい。
【0054】
Laは、硬質粒子を用いて焼結合金を製造する際に、後記するCuを、焼結促進の目的で混合粉末に適用する場合に、硬質粒子の成分として含まれていることが好ましい。したがって、混合粉末にCuを適用しない場合には、Laは、硬質粒子の成分として含まれていなくてもよい。
【0055】
一般に、硬質粒子の基地への焼結性と、粒子表面の容易酸化性とは、トレードオフの関係にある。したがって、焼結合金を作製するための混合粉末にCuを適用すると、焼結は促進されるものの、焼結性とトレードオフの関係にある、粒子表面への酸化膜の形成性は低下することとなり、その結果、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、多摩耗性が低下する。
【0056】
これに対して、焼結合金を作製するための混合粉末にCuを適用する場合に、硬質粒子が、La:0.5~5質量%を含んでいれば、トレードオフの関係にある、硬質粒子の基地への焼結性と粒子表面への酸化膜の形成性とをバランスよく実現することができ、焼結性を確保しつつ耐摩耗性の低下を抑制することができる。
【0057】
La含有量が0.5質量%未満の場合には、上記の効果が不十分となる。一方、La含有量が5質量%を超える場合には、合金を作製する際の基地との焼結性が低下する。
【0058】
硬質粒子におけるLaの含有量は、1.5質量%以上、2.0質量%以上、2.5質量%以上、又は3.0質量%以上であってよく、4.5質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、又は3.0質量%以下であってよい。
【0059】
(残部:Fe及び不可避不純物)
本発明の硬質粒子は、上記の必須成分の残部として、Fe及び不可避不純物を含む。
【0060】
Feは、硬質粒子の鉄粉への拡散性を向上させる役割を果たす。したがって、Fe含有量が少なすぎると、硬質粒子を用いた焼結合金を製造する際に、硬質粒子の鉄粉への拡散性が低下し、硬質粒子を含む焼結体から硬質粒子が脱落しやすくなる。その結果、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、耐摩耗性が低下する。また、例えば、硬質粒子におけるFe含有量が20質量%を下回る場合には、硬質粒子を用いた焼結合金の製造性が低下する。
【0061】
一方、Fe含有量が過剰になると、硬質粒子の耐熱性及び耐摩耗性が著しく低下する。
【0062】
硬質粒子におけるFe含有量は、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上であってよい。
【0063】
<硬質粒子の製造方法>
本発明の硬質粒子の製造方法は、特に限定されるものではない。公知の製法を適用することができ、例えば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、プラズマ回転電極法、真空アトマイズ法等が挙げられる。
【0064】
<硬質粒子の用途>
本発明の硬質粒子は、剛性が要求される各種用途に、好適に用いることができる。用途は特に限定されないが、例えば、本発明の硬質粒子を含む混合粉末を焼結させることで、耐摩耗性の高い焼結合金を作製することができる。
【0065】
更に、得られた焼結合金は、その耐摩耗性から、各種の摺動部材に好適に用いることができ、例えば、自動車のエンジンバルブシート等、高温かつ低酸化な厳しい摺動環境に曝されつつ、高い耐摩耗性が要求される用途に対しても、好適に用いることができる。
【0066】
<<焼結合金の製造方法>>
本発明の焼結合金の製造方法は、上記した本発明の硬質粒子を含む焼結合金を製造する方法である。そして、混合粉末作製工程と、成形体作製工程と、焼結工程と、を含む。
【0067】
<混合粉末作製工程>
混合粉末作製工程は、上記した本発明の硬質粒子と、焼結合金としたときに基地となる基地形成用粒子とを含む混合粉末を作製する工程である。
【0068】
作製する混合粉末は、上記した本発明の硬質粒子を含んでいれば、基地形成用粒子となる成分は特に限定されるものではない。基地形成用粒子としては、例えば、黒鉛(グラファイト)粒子、及び鉄粒子を含む粉末とすることが好ましい。
【0069】
((硬質粒子))
硬質粒子の配合量は、混合粉末の合計量を100質量%としたときに、5~50質量%とすることが好ましく、10~45質量%、15~40質量%であってもよい。
【0070】
混合粉末において硬質粒子の配合量が5質量%未満の場合には、本発明の焼結合金の製造方法によって得られる焼結合金の焼結性及び耐摩耗性が十分ではなくなる。一方、硬質粒子の配合量が50質量%を超える場合には、焼結合金の製造性が低下する。
【0071】
((基地形成用粒子))
(黒鉛(グラファイト)粒子)
黒鉛(グラファイト)粒子は、基地形成用粒子となる。黒鉛(グラファイト)粒子の配合量は、混合粉末の合計量を100質量%としたときに、0.6~2.0質量%とすることが好ましく、0.7~1.8質量%、0.8~1.6質量%、1.0~1.4質量%であってもよい。
【0072】
黒鉛(グラファイト)粒子の配合量が0.6質量%未満の場合には、本発明の焼結合金の製造方法によって得られる焼結合金中にフェライトが多くなり、耐摩耗性が低下する。一方、黒鉛(グラファイト)粒子の配合量が2.0質量%を超える場合には、硬いセメンタイトが出現し、焼結合金の製造性が低下する。
【0073】
(鉄粒子)
鉄粒子は、基地形成用粒子となる。鉄粒子は、本発明の焼結合金の作製方法にて作製される焼結合金において、基地の大部分を形成するものである。鉄粒子としては、例えば、純鉄粉や低合金鋼粉末を使用することができる。
【0074】
鉄粒子の配合量は、特に限定されるものではなく、混合粉末の合計量を100質量%としたときに、混合粉末の他の成分の残部を鉄粒子とすることができる。
【0075】
(Cu)
混合粉末作製工程で作製する混合粉末には、基地形成用粒子として、任意に、Cuを配合してもよい。Cuは、銅粉末として使用することができる。
【0076】
Cuは、硬質粒子を用いて焼結合金を製造する際に、焼結促進の効果を発揮する。
【0077】
しかしながら一般に、硬質粒子の基地への焼結性と、粒子表面の容易酸化性とは、トレードオフの関係にある。したがって、焼結合金を作製するための基地形成用粒子としてCuを適用すると、焼結は促進されるものの、焼結性とトレードオフの関係にある、粒子表面への酸化膜の形成性は低下することとなる。その結果、焼結合金からバルブシート等の摺動部材を形成したときに、多摩耗性が低下する。
【0078】
そこで、焼結促進の目的で基地形成用粒子として混合粉末にCuを添加する場合には、上述したように、La:1~5質量%を含む硬質粒子を適用することが好ましい。硬質粒子として、La:1~5質量%を含んでいる粒子を、Cuとともに適用すれば、焼結性を確保しつつ耐摩耗性の低下を抑制することができる。
【0079】
Cuの配合量は、混合粉末の合計量を100質量%としたときに、2~12質量%であってよく、2~10質量%であってもよく、3~8質量%であってもよく、3~5質量%であってもよい。
【0080】
Cuの配合量が2質量%未満の場合には、Cuを添加する効果が不十分となり、焼結促進が得られにくくなる。一方、Cuの配合量が12質量%を超える場合には、得られる焼結合金の耐摩耗性及び製造性が低下する。
【0081】
(第2の硬質粒子)
混合粉末作製工程で作製する混合粉末には、基地形成用粒子として、任意に、第2の硬質粒子を配合してもよい。第2の硬質粒子を配合することで、得られる焼結合金の耐摩耗性を、更に向上することができる。
【0082】
第2の硬質粒子としては、例えば、Mo:60~70質量%、Si:2.0質量%以下であり、残部がFe及び不可避不純物からなる、硬質粒子であってもよい。
【0083】
また、第2の硬質粒子の平均粒径は、1μm以上50μm未満であってよい。この範囲であれば、本発明の硬質粒子の平均粒径と比較して小さく、重複しないことから、第2の硬質粒子を配合する効果が明確となる。
【0084】
第2の硬質粒子の配合量は、混合粉末の合計量を100質量%としたときに、1~5質量%であってよく、1~4質量%であってもよく、2~3質量%であってもよい。
【0085】
第2の硬質粒子の配合量が1質量%未満の場合には、第2の硬質粒子を添加する効果が不十分となり、耐摩耗性の向上が得られにくくなる。一方、第2の硬質粒子の配合量が5質量%を超える場合には、混合粉末の流れが悪くなり、焼結合金の製造性が低下する。
【0086】
<成形体作製工程>
成形体作製工程では、混合粉末作製工程で作製した混合粉末を、金型で成形して成形体を得る。
【0087】
混合粉末から成形体を成形する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、圧粉成形等が挙げられる。
【0088】
また、成形体の形状や大きさ等についても、特に限定されるものではない。最終的に得られる焼結体の用途に応じて、適宜決定することができる。
【0089】
<焼結工程>
焼結工程では、成形体作製工程で作製した成形体を焼結して、焼結体を得る。そして、得られる焼結体は、焼結合金となる。
【0090】
成形体を得るための混合粉末に、基地形成用粒子として黒鉛(グラファイト)粒子及び鉄粒子を含む場合には、焼結工程では、成形体における黒鉛(グラファイト)粒子のCが、硬質粒子及び鉄粒子に拡散しながら焼結する。その結果、耐摩耗性及び焼結性の両者を兼ね備えた鉄基焼結合金を作製することができる。
【0091】
<本発明の焼結合金の製造方法の実施形態>
本発明の焼結合金の製造方法が適用できる好適な態様としては、例えば、混合粉末に配合する本発明の硬質粒子を、水アトマイズ法により製造された水アトマイズ粉とし、混合粉末に、基地形成用粒子としてフラックス粉末を含有させる態様が挙げられる。
【0092】
水アトマイズ法により作製された水アトマイズ粉は、ガスアトマイズ法等によって作製されたガスアトマイズ粉と比較して、安価ではあるものの、粉末製造時に粉末表面が酸化されやすい傾向にあるため、基地との焼結性に劣る。
【0093】
しかしながら、混合粉末に、基地形成用粒子としてフラックス粉末を含有させることで、得られる焼結体の焼結性を向上させることができる。
【0094】
フラックス粉末としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ化カリウム(KF)-フッ化アルミニウム(A1F)系のフックス粉末であれば、焼結時に酸化膜を除去する機能を有することから、より効果を高めることができる。
【0095】
フラックス粉末の配合量は、混合粉末の合計量を100質量%としたときに、0.2~1.5質量%であってよく、0.2~1.0質量%であってもよく、0.3~0.8質量%であってもよい。
【0096】
フラックス粉末の配合量が0.2質量%未満の場合には、フラックス粉末を添加する効果が不十分となり、水アトマイズ粉を用いた場合の基地との焼結性向上効果が得られにくくなる。一方、フラックス粉末の配合量が1.5質量%を超える場合には、混合粉末の流れが悪くなり、焼結合金の製造性が低下する。
【0097】
<焼結合金の用途>
本発明の焼結合金の製造方法によって得られる焼結合金は、Feを主成分とする基地を有し、本発明の硬質粒子が基地中に分散している構造を有する。
【0098】
本発明の焼結合金の製造方法によって得られる焼結合金は、耐摩耗性が要求される各種用途に、好適に用いることができる。用途として特に限定されるものではないが、例えば、各種の摺動部材として好適に用いることができる。
【0099】
更に、本発明の焼結合金の製造方法によって得られる焼結合金は、例えば、自動車のエンジンバルブシート等、高温かつ低酸化な厳しい摺動環境に曝されつつも、高い耐摩耗性が要求される用途に、好適に用いることができる。
【実施例
【0100】
以下、実験結果を示して、本発明を更に詳細に説明する。
【0101】
《実施例1~13、比較例1~8》
<硬質粒子の作製>
表1に示す組成となるよう秤量した原料を用い、ガスアトマイズ法又は水アトマイズ法によって粉末を作製し、得られた粉末を44~250μmに分級して、硬質粒子として用いた。硬質粒子の平均粒径は、100μmであった。
【0102】
【表1】
【0103】
<焼結合金の作製>
(混合粉末作製工程)
表1に示す組成となるように、以下の材料を用いた混合粉末を作製した。各混合粉末には、潤滑剤として、混合粉末の合計量を100質量%としたときに、0.8質量%のステアリン酸亜鉛を配合した。
・黒鉛粒子:グラファイト粒子(CPB-S、日本黒鉛工業)
・鉄粒子:還元鉄粉(JIP255M-90、JFEスチール)
・Cu粒子:アトマイズ銅粉(Cu-At-G-100、福田金属箔粉工業)
・フラックス:NOCOLOK FLUX、SOLVAY
・第2の硬質粒子:平均粒径25μmのFeMo粒子(Mo:65質量%、Si:1質量%。残部:Fe)
【0104】
(成形体作製工程)
上記で作製した混合粉末を、型に充填し、面圧784MPaで加圧成形し、成形体を作製した。
【0105】
(焼結工程)
上記で作製した成形体を、窒素雰囲気において1100℃で30分間焼結し、焼結合金となるシートを作製した。
【0106】
<焼結体の評価>
実施例及び比較例で作製した焼結合金を、バルブシートとして用いて、図1に示す装置により、以下の試験方法による耐摩耗性試験に付した。結果を、表1に示す。
【0107】
(試験方法)
実施例及び比較例で得られた焼結合金を、バルブシート3として用いて、エンジンバルブ1の摺動部に配置した。プロパンガスバーナー5を加熱源にし、バルブフェース2と、バルブシート3との摺動部を、プロパンガス燃焼雰囲気とした。バルブシート3の温度を300℃に制御し、スプリング6により、バルブフェース2とバルブシート3との接触時に18kgfの荷重を付与して、2000回/minの割合で、バルブフェース2とバルブシート3とを接触させて、8時間の摩耗試験を行った。
【0108】
摩耗試験後、基準位置Pからのバルブ沈み量を測定した。このバルブ沈み量は、エンジンバルブ1がバルブシート3と接触することによって、双方が摩耗した摩耗量(摩耗深さ)に相当し、実施例2を1.0とした時の摩耗比を表1に記す。
図1