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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】歯科用治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/40 20170101AFI20240312BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61B 18/12 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61C5/40
A61C19/04 A
A61B18/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020195973
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2022084239
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2022-02-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 智朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 恭平
(72)【発明者】
【氏名】的場 一成
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-515398(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0039226(US,A1)
【文献】特開2011-193907(JP,A)
【文献】特表2012-507385(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122307(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/053532(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0003226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/40
A61C 19/04
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科治療部位に高周波電流を通電する歯科用治療装置であって、
前記歯科治療部位に配置される電極を保持する保持部と、
前記電極に高周波電流を通電する電源部と、
前記高周波電流を連続通電する期間、または連続通電を休止期間で分けた前記高周波電流の期間を通電期間とし、1回の前記通電期間と次の1回の前記通電期間との間に前記高周波電流を前記電極に通電させることを停止する期間を停止期間として前記電源部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記通電期間または前記休止期間で分けられた前記通電期間の一部の期間が前記停止期間よりも短い期間となるように前記電源部を制御し、複数の前記停止期間を前半の前記停止期間と後半の前記停止期間とに分けた場合、前記前半の前記停止期間を前記後半の前記停止期間に比べて長くする、歯科用治療装置。
【請求項2】
前記通電期間または前記休止期間で分けられた前記通電期間の一部の期間の各々の長さは、200ms以下であり、
前記停止期間の長さは、400ms以上である、請求項1に記載の歯科用治療装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記通電期間を繰り返す場合に各々の期間の長さを徐々に減少させる、請求項1または請求項2に記載の歯科用治療装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記通電期間を繰り返す場合に各々の電流値を徐々に大きくする、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項5】
前記歯科治療部位は、根管であり、
根管内の前記電極の先端の位置を電気的に測定する根管長測定部をさらに備え、
前記制御部は、前記休止期間または前記停止期間に根管長測定用の測定信号を前記電極に通電させる制御を前記根管長測定部に対して行なう、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記根管長測定部で測定した前記電極の先端の位置に基づいて、前記電極に通電させる高周波電流の電流値、前記通電期間、前記通電期間の回数、および休止期間のうち少なくとも一つの制御を前記電源部に対して行なう、請求項に記載の歯科用治療装置。
【請求項7】
前記電源部から前記電極に通電される電流値を検出する検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記検出部で検出した電流値に基づいて、前記電極に通電させる高周波電流の電流値、前記通電期間、前記通電期間の回数、および休止期間のうち少なくとも一つの制御を前記電源部に対して行なう、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項8】
前記電源部から前記電極に通電される電流値を検出する検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記検出部で検出した電流値と高周波電流を通電させた複数の通電する期間との積が所定値以上となるように、前記電極に通電させる高周波電流の電流値、前記通電期間、前記通電期間の回数、および休止期間のうち少なくとも一つの制御を前記電源部に対して行なう、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項9】
前記高周波電流の周波数は、300kHz以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項10】
前記高周波電流の累積通電期間は、1秒以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療部位に高周波電流を通電する歯科用治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、歯髄を除去するため、あるいは根尖の炎症を抑えるために歯の根管治療が行われる場合がある。従来の根管治療では、リ-マ、ファイルを用いて根管を切削拡大し、根管内の汚染組織や汚染物質を取り除いたうえで、根管内に薬を充填する治療が行われていた。
【0003】
しかし、根管の形状は複雑で、歯の種類によっても人よっても形状が異なる。そのため、根管治療においては、リ-マ、ファイルを用いて根管の切削拡大が困難な部分があり、根管拡大ができない部分には起炎因子が残ったままとなり、術後に炎症が生じる場合があった。
【0004】
そこで、特許文献1では、根管の内部に高周波電子パルスを印加する歯科用の医療機器が開示されている。当該医療機器では、針形の電極(たとえば、ファイル)を根管に挿し込み、針の先端が根尖に達したときに高周波電子パルスを印加して歯髄などを焼灼する。
【0005】
また、特許文献2では、歯の根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療を行う歯科用治療装置が開示されている。当該歯科用治療装置では、根尖の位置を測定する測定器と通信する歯科器具に、根管に挿入される電極が含まれている。さらに、当該歯科器具は、電気パルスを印加するユニットと通信することができる。そのため、当該歯科用治療装置は、根管に挿入された電極を介して根管に電気パルスを印加することができ、印加した電気パルスによって根管内の起炎因子、細菌などを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4041165号公報
【文献】国際公開第2008/114244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、歯科用治療装置で根管に高周波電流を通電する場合、高周波電流を通電する位置、通電する電流値および通電する期間などが適切でないと、高周波電流の通電による痛みを患者が訴えることがある。特に麻酔処置を施さない場合はその傾向が顕著である。患者が高周波電流の通電による痛みを訴えないように麻酔を行った上で根管に高周波電流を通電することもできるが、高周波電流を通電する毎に麻酔を行う手間が増える問題があった。そのため、麻酔を行わずに、歯科用治療装置で根管に高周波電流を通電する場合も多い。
【0008】
麻酔を行わずに、歯科用治療装置で根管に高周波電流を通電する場合、患者が高周波電流の通電による痛みを訴えないように、神経が存在する組織に神経が反応する電流値以上の高周波電流が流れないように、最適の電流値を選んで施術を行うことも考えられる。しかし、高周波を通電する目的は、感染組織や汚染物質の焼灼であるので、通常は神経が反応する電流値以上の高周波電流が通電され、患者が高周波電流の通電による痛みを訴えることが頻繁に生じる問題があった。また、歯科用治療装置で高周波電流を通電する部位によっては、当該通電する部位の温度上昇が問題になる場合もあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、患者が痛みを訴えない高周波電流の通電を行うこと、および通電する部位の過度の温度上昇を防止することが可能な歯科用治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る歯科用治療装置は、歯科治療部位に高周波電流を通電する歯科用治療装置であって、歯科治療部位に配置される電極を保持する保持部と、電極に高周波電流を通電する電源部と、高周波電流を連続通電する期間、または連続通電を休止期間で分けた高周波電流の期間を通電期間とし、1回の通電期間と次の1回の通電期間との間に高周波電流を前記電極に通電させることを停止する期間を停止期間として前記電源部を制御する制御部と、を備え、制御部は、通電期間または休止期間で分けられた通電期間の一部の期間が停止期間よりも短い期間となるように電源部を制御し、複数の停止期間を前半の停止期間と後半の停止期間とに分けた場合、前半の停止期間を後半の停止期間に比べて長くする
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る歯科用治療装置では、通電操作において、1回の通電する期間と次の1回の通電する期間とに停止期間を設けるので、患者が痛みを訴えない高周波電流の通電を行うこと、および通電する部位の過度の温度上昇を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る歯科用治療装置の外観図を示す。
図2】実施の形態1に係る歯科用治療装置の構成を示すブロック図である。
図3】歯の根管を説明するための概略図である。
図4】実施の形態1に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
図5】実施の形態2に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
図6】実施の形態2の変形例に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
図7】実施の形態3に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
図8】実施の形態3に係る歯科用治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る歯科用治療装置の外観図を示す。図2は、実施の形態1に係る歯科用治療装置の構成を示すブロック図である。図3は、歯の根管を説明するための概略図である。歯の根管を切削拡大する根管治療は、人により根管が湾曲している程度や根管が石灰化して閉塞している状況などが異なっており、非常に難しい治療である。図3に示す歯900は、大臼歯であり、1つの歯に複数の根管901が含まれている。このような複雑な形状の根管をすべて治療するのは困難である。特に、リ-マ、ファイルなどの切削工具を用いて根管を切削拡大することが困難な部分が存在し、当該部分で根管を切削拡大できずに根管内に歯髄、起炎因子が残ったままになると、術後に炎症が生じる場合があった。
【0014】
そこで、歯科用治療装置では、根管の内部に電極を差し込み、当該電極に高周波電流を通電する治療が行われている。この治療は、人体、特に歯、その中でも根管、歯周組織、骨に高周波電流を通電することで、通電されている部位、特に電極近傍、および電流密度が高い部分が高周波電流によるジュール熱で焼灼し、起炎因子、細菌などを低減させる。なお、この治療で完全に殺菌できなくてもよく、歯髄や肉芽を熱変性させて、壊死、失活させることができればよい。また、この治療は、EMAT(Electro-Magnetic Apical Treatment)とも呼ばれ、文献(例えば、坂東直樹、富永敏彦、湯本浩通、住友孝史、平尾早希、平尾功治、松尾敬志、「電磁波照射の歯内療法への応用-EMAT (Electro-Magnetic Apical Treatment)」、2011年、歯内療法誌、第32巻、p.184-200)などに開示がある。当該開示では、治療前、治療後に患部に高周波電流を通電することで、歯科治療部位の起炎因子、細菌などを低減できて予後の経過が極めて良好であると報告されている。
【0015】
しかし、歯科用治療装置で根管に高周波電流を通電する場合、高周波電流を通電する位置、通電する電流値および通電する期間などが適切でないと、高周波電流の通電による痛みを患者が訴えることがある。患者が高周波電流の通電による痛みを訴えないように麻酔を行った上で根管に高周波電流を通電することもできるが、高周波電流を通電する毎に麻酔を行う手間が増える問題があった。そのため、麻酔を行わずに、歯科用治療装置で根管に高周波電流を通電する場合も多い。
【0016】
麻酔を行わずに、歯科用治療装置で根管に高周波電流を通電する場合、患者が高周波電流の通電による痛みを訴えないような電流値は極めて小さいので組織に対する焼灼効果は望めない。高周波を通電する目的は、感染組織や汚染物質の焼灼であるので、通常は神経が反応する電流値以上の高周波電流が通電され、患者が高周波電流の通電による痛みを訴えることが頻繁に生じる問題があった。
【0017】
そこで、実施の形態1に係る歯科用治療装置10では、使用者がファイル11に高周波電流を通電する通電操作を継続している場合(例えば、フートスイッチ16を踏み込んでいる場合)に、1回の通電する期間(例えば、フートスイッチ16を1回操作したことによる通電する期間)が単純に連続して繰り返されるのではなく、1回の通電する期間と、次の1回の通電する期間との間に高周波電流をファイル11に通電させることを停止する停止期間を設けている。これにより、歯科用治療装置10では、1回の通電する期間が単純に連続して繰り返される場合に比べ、患者が痛みを訴えない高周波電流の通電を行うこと、および通電する部位の過度の温度上昇を防止することができる。なお、停止期間には、ファイル11に高周波電流を通電しない期間であり、フートスイッチ16を操作してない期間を含めてもよい。
【0018】
以下、具体的に、実施の形態1に係る歯科用治療装置10の構成について説明する。まず、歯科用治療装置10は、図1に示すように、切削工具であるファイル11(図2参照)に高周波電流を通電するユニット12と、ファイル11を保持するためのファイルホルダ13と、を備えており、ファイルホルダ13の先端に取り付けられたファイル11に対して高周波電流を通電することができる。なお、本開示では、ファイルホルダ13の先端にファイル11を取り付け当該ファイル11が歯科治療部位に配置される電極であると説明するが、ファイルホルダ13とファイル11とが一体となった構成でもよい。
【0019】
ファイルホルダ13は、略棒状の筐体によって形成され、ファイル11の金属部分を保持することができる。ファイルホルダ13は、ファイル11の金属部分を保持することでファイルとユニット12とを電気的に接続することができる。ユニット12には、表示部14、設定操作部15が設けられているとともに、フートスイッチ16および受動電極22が接続されている。
【0020】
ユニット12は、図2に示すように、表示部14、設定操作部15の他に、高周波信号発生回路19、検出部20、制御回路21、根管長測定回路23、およびスイッチSW1~スイッチSW2が設けられている。
【0021】
設定操作部15は、歯科用治療装置10の動作を設定するために設けられた設定ボタンである。設定操作部15では、ファイル11に通電する高周波電流の電流値、周波数、通電期間、表示部14の表示設定などを設定可能である。ここで、通電期間とは、高周波電流の通電操作を1回行った場合に通電する時間であり、1回の通電する期間ともいう。なお、1回の通電する期間を複数回の連続通電する期間に分割して行う場合、複数に分割した連続通電する期間の和が高周波電流の累積通電期間である。
【0022】
フートスイッチ16は、高周波電流の通電を操作するために設けられた操作部であり、使用者が踏み込むことで制御回路21から高周波信号発生回路19に制御信号が送信される。高周波信号発生回路19は、受信した制御信号に基づき、設定操作部15で設定した高周波電流をファイル11に通電する。つまり、使用者がフートスイッチ16を踏み込んでいる間、1回の通電する期間が繰り返される。
【0023】
高周波信号発生回路19は、ファイル11と受動電極22との間に、例えば周波数が300kHz~1000kHzで、電流値が20mA~200mA(根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲)の高周波電流を通電する。もちろん、高周波信号発生回路19が発生することができる高周波電流は、上記の周波数および電流値に限定されない。この高周波信号発生回路19から出力される高周波電流の電流値、周波数、通電期間などは、設定操作部15を操作することによって設定できる。設定操作部15で設定した高周波電流の電流値を高周波信号発生回路19が出力できるように、制御回路21が検出部20で検出した電流値に基づいて、高周波信号発生回路19を制御している。ただし、制御回路21が検出部20で検出した電流値に基づいて、高周波信号発生回路19を制御しないのであれば、歯科用治療装置10に検出部20を設けなくてもよい。なお、高周波電流を通電する際は、ファイル11が根管901内に挿入され、その先端が、例えば根尖903付近の組織に当てられ、受動電極22が歯肉902や口唇904等、患者の体の一部に当てられる。つまり、ファイルホルダ13は、歯科治療部位に配置される電極であるファイル11を保持する保持部であり、高周波信号発生回路19は、当該電極に高周波電流を通電する電源部である。
【0024】
検出部20は、高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電した場合に、実際にファイル11に流れた電流値を検出する電流検出器である。制御回路21は、検出部20で検出した電流値に基づいて、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値の制御を高周波信号発生回路19に対して行う。制御回路21は、ハードウェア構成として、例えば、CPU(Central Processing Unit)、当該処理をCPUで実行させるためのプログラムやデータ等を記憶する記憶部、CPUのワークエリアとして機能するRAM(Random Access Memory)、主に画像処理を行うGPU(Graphics Processing Unit)、周辺機器との信号の整合性を保つための入出力インターフェイス等が設けられている。記憶部には、制御回路21の内部に設けられた不揮発性メモリ等の記憶装置、ネットワークを介して接続される記憶装置などが含まれる。
【0025】
次に、高周波信号発生回路19からファイル11に通電する高周波電流の波形について説明する。図4は、実施の形態1に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。なお、図4に示す図は概念図であり、図示している波数は実際の高周波の波数とは異なる。使用者は、高周波電流の通電位置を決定し、当該通電位置でフートスイッチ16を操作することで高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電させる。高周波信号発生回路19からは、図4に示すように1回の通電する期間SPにおいて高周波電流がファイル11に通電される。この期間SPは、使用者がフートスイッチ16を踏み込んでいる間、繰り返される。なお、この期間SPが通電期間に対応する。
【0026】
期間SPには、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲の電流値(例えば、30mA~50mA)の高周波電流を連続通電させる期間TPと、高周波電流をファイル11に通電させることを休止する休止期間TC1とを含む。具体的に、高周波信号発生回路19は、期間TPとして例えば0.07秒(70ms)の連続通電を行い、その後休止期間TC1として例えば0.03秒(30ms)を開けて、次の期間TPとして例えば0.07秒(70ms)の連続通電を行う。通常、連続通電する期間TPと休止期間TC1とは、止血効果や組織の凝固効果、焼灼効果などの作用に応じて各々の期間が決定される。高周波信号発生回路19は、通電操作において、1回の通電する期間SPの間に、連続通電する期間TPと休止期間TC1との期間(合計0.1秒(100ms))をN回(例えば、10回)繰り返す。歯科用治療装置10では、使用者がフートスイッチ16を1回踏み込むことで約1秒間(休止期間TC1を含む)、高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流が通電する。なお、高周波電流の累積通電期間は、1秒以上であることが好ましい。
【0027】
図4では、使用者がフートスイッチ16を踏み込んでいるので、通電操作において、1回の通電する期間SP後、次の1回の通電する期間SPとなる動作が繰り返され、この間には、高周波電流をファイル11に通電させることを停止する停止期間TC2が設けてある。停止期間TC2は、休止期間TC1より長い期間が設定される。停止期間TC2として例えば0.4秒(400ms)が設定される。歯科用治療装置10では、通電操作において、1回の通電する期間SP毎に、停止期間TC2を設けることで、患者が痛みを訴えない高周波電流の通電を行うこと、および通電する部位の過度の温度上昇を防止することができる。ここで、期間SPは、通電操作において、1回の通電する期間で、期間TPは、期間SPに含まれる期間で、連続通電する期間で、休止期間TC1は、連続通電する期間TPの間に設けられる期間で、停止期間TC2は、1回の通電する期間SPの間に設けられる期間である。
【0028】
患者が高周波電流の通電による痛みを感じる期間は、高周波電流を連続通電させる期間TPであり、この期間TPを停止期間TC2より短くすることが好ましい。図4では、期間TPとして例えば0.07秒(70ms)とした場合、停止期間TC2の2倍以上の例えば0.14秒(140ms)とすることが好ましい。また、高周波電流を連続通電させる期間TPを200ms以下とすることで痛みを感じる期間を短くしつつ、停止期間TC2を400ms以上としてもよい。さらに、1回の通電する期間SPを停止期間TC2より短くすることが好ましい。
【0029】
さらに、歯科用治療装置10には、根管長測定回路23を備えている。根管長測定回路23は、根管長測定用信号をファイル11と受動電極22との間に流してファイル11の先端位置を測定する。具体的に、根管長測定回路23は、ファイル11と受動電極22との間に2つの異なる周波数の電圧を印加することで、それぞれのインピーダンスの値を求め、その2つの値(実際にはインピーダンスの値に対応する電圧や電流の値)の差分や比等から、根尖903からのファイル11の先端位置を特定する。なお、根管長測定の測定方法は、このようなものに限られるものではなく、従来、提案されている測定方法を含む種々の技術を利用することが可能である。根管長測定の際においても、受動電極22は、歯肉902や口唇904等、患者の体の一部に当てられる。
【0030】
スイッチSW1は、ファイル11と、高周波信号発生回路19または根管長測定回路23との間の電気的接続を切り替えるために設けられている。また、スイッチSW2は、受動電極22と、高周波信号発生回路19または根管長測定回路23との間の電気的接続を切り替えるために設けられている。
【0031】
スイッチSW1およびスイッチSW2の切り替えは、設定操作部15からの入力情報に基づいて制御回路21により実現される。具体的に、制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電する場合、ファイル11および受動電極22を高周波信号発生回路19に接続されるようにスイッチSW1およびスイッチSW2を制御する。また、制御回路21は、根管長測定用信号をファイル11と受動電極22との間に流す場合、ファイル11および受動電極22が根管長測定回路23に接続されるようにスイッチSW1およびスイッチSW2を制御する。実施の形態1では、設定操作部15で設定した動作モードに応じて、スイッチSW1およびスイッチSW2を制御してファイル11および受動電極22の接続先を切り替える。また、制御回路21は、休止期間TC1または停止期間TC2にファイル11および受動電極22が根管長測定回路23に接続されるようにスイッチSW1およびスイッチSW2を制御して、根管長測定回路23でファイル11の先端位置を測定する。なお、スイッチSW1およびスイッチSW2の切り替えは、フートスイッチ16のオン・オフ操作に連動してもよい。
【0032】
実施の形態1では、スイッチSW1およびスイッチSW2によって高周波信号発生回路19と根管長測定回路23とを電気的に分離している。したがって、高周波電流がファイル11へ出力されている間、根管長測定回路23は、スイッチSW1およびスイッチSW2によりファイル11および受動電極22から電気的に切断されている。そのため、高周波電流が根管長測定回路23に通電することがなく、高周波電流によって根管長測定回路23が故障することを抑制することができる。
【0033】
また、実施の形態1では、根管長測定回路23によりファイル11の先端位置が根尖からどの位置にあるかを知ることができる。そのため、使用者は、根管長測定回路23で根管内でのファイル11の先端位置が高周波電流を通電する位置に到達したことを確認したうえで、設定操作部15を操作して根管長測定モードから高周波通電モードに切り替えることができる。歯科用治療装置10では、適切な位置でファイル11の先端位置を保持した状態で高周波電流をファイル11に通電することができる。もちろん、歯科用治療装置10は、根管長測定回路23を設けずに高周波電流をファイル11に通電する構成のみであってもよく、別の根管長測定器でファイル11の先端位置を確認して高周波電流をファイル11に通電してもよい。
【0034】
制御回路21は、根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置に基づいて、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値、連続通電する期間TP、連続通電する期間TPの回数、および休止期間TC1のうち少なくとも一つの制御を高周波信号発生回路19に対して行ってもよい。
【0035】
表示部14は、例えば液晶ディスプレイで構成されており、高周波信号発生回路19でファイル11に通電している電流値、根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置などを表示し、歯科用治療装置10の使用者に必要な情報を報知する報知部として機能している。表示部14は、例えば、検出部20で検出される電流値が根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲外となった場合、通電している高周波電流の電流値が当該根管治療に必要な電流値の範囲外である旨の情報を報知してもよい。なお、表示部14は、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、発光ダイオード等で構成されていてもよい。また、報知部は、表示部14以外に、図示していないランプ、スピーカなどであってもよく、ランプの点灯で使用者に報知したり、スピーカからブザー音を出力して使用者に報知したりしてもよい。
【0036】
このように、実施の形態1に係る歯科用治療装置10は、歯科治療部位(例えば、根管など)に高周波電流を通電する歯科用治療装置である。歯科治療部位に配置されるファイル11を保持するファイルホルダ13と、ファイル11に高周波電流を通電する高周波信号発生回路19と、通電操作において、1回の通電する期間SPと、次の1回の通電する期間SPとの間に高周波電流をファイル11に通電させることを停止する停止期間TC2を設ける制御を高周波信号発生回路19に対して行なう制御回路21と、を備える。なお、高周波電流の累積通電する期間は、1秒以上であることが好ましい。
【0037】
このように構成することで、実施の形態1に係る歯科用治療装置10は、1回の通電操作で通電する期間SPの間に停止期間TC2を設けるので、患者が痛みを訴えない高周波電流の通電を行うこと、および通電する部位の過度の温度上昇を防止することができる。
【0038】
また、制御回路21は、1回の通電する期間SPに複数の連続通電する期間TPを含め、隣接する二つの期間TPの間を、高周波電流をファイル11に通電させることを休止する休止期間TC1で分ける制御を高周波信号発生回路19に対して、用途に応じて行なってもよい。これにより、歯科用治療装置10は、1回の通電する期間SPを短い期間TPでさらに分けることで高周波電流の連続通電による痛みを患者が感じないように通電を行うこと、および通電する部位の過度の温度上昇を防止することができる。
【0039】
さらに、複数の期間TPの各々の長さは、停止期間TC2よりも短いことが好ましい。例えば、複数の期間TPの各々の長さは、200ms以下であり、停止期間TC2の長さは、400ms以上であることが好ましい。
【0040】
また、歯科用治療装置10は、根管内のファイル11の先端の位置を電気的に測定する根管長測定回路23をさらに備え、制御回路21は、根管長測定用の休止期間TC1または停止期間TC2に測定信号をファイル11に通電させる制御を根管長測定回路23に対して行なってもよい。これにより、歯科用治療装置10は、ファイル11に高周波電流を通電する通電期間中であっても、ファイル11の先端の位置を測定することができる。さらに、制御回路21は、根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置に基づいて、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値、連続通電する期間TP、連続通電する期間TPの回数、および休止期間TC1のうち少なくとも一つの制御を高周波信号発生回路19に対して行なってもよい。
(実施の形態2)
実施の形態1では、各々の期間SPの長さが同じで、各々の停止期間TC2の長さも同じとしてファイル11に高周波電流を通電する歯科用治療装置10について説明した。実施の形態2に係る歯科用治療装置では、各々の期間SPの長さが異なる、また各々の停止期間TC2の長さが異なるとしてファイルに高周波電流を通電する歯科用治療装置について説明する。なお、実施の形態2において、実施の形態1で説明した歯科用治療装置10の構成と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。
【0041】
まず、各々の停止期間TC2の長さが異なる場合の高周波信号発生回路19からファイル11に通電される高周波電流の波形について説明する。図5は、実施の形態2に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。なお、図5に示す図は概念図であり、図示している波数は実際の高周波の波数とは異なる。また、図5に示す期間SPでは、図4で示した期間SPと異なり期間TPおよび休止期間TC1を図示していないが、同じように期間TPおよび休止期間TC1を含んでいてもよい。
【0042】
使用者は、根管長測定回路23に基づいて高周波電流の通電位置を決定し、当該通電位置でフートスイッチ16を操作することで高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電させる。高周波信号発生回路19からは、図5に示す期間SP、高周波電流をファイル11に通電する。期間SPの通電では、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲の電流値(例えば、30mA~50mA)の高周波電流を通電させる。なお、高周波信号発生回路19は、定電圧回路を含み、定電圧制御でファイル11に高周波電流を通電する。さらに、高周波信号発生回路19は、定電流回路で構成される場合もあり、定電流制御でファイル11に高周波電流を通電してもよい。
【0043】
さらに、歯科用治療装置10では、患者が高周波電流の通電による痛みを訴えないように、次の期間SPの通電を行う前に高周波電流をファイル11に通電させることを停止する停止期間TC2aを設けている。図5では、複数の期間SPの各々の長さは、同じである。歯科用治療装置10では、さらに次の期間SPの通電を行う前に高周波電流をファイル11に通電させることを停止する停止期間TC2bを設けている。停止期間TC2bは停止期間TC2aに比べて短く設定してある。図5では、3つの期間SPとその間に設けられた2つの停止期間しか図示されていないが、複数の停止期間がある場合に前半の停止期間と後半の停止期間とに分け、前半の停止期間が後半の停止期間に比べて長くなるように制御回路21が制御している。例えば、図5に示す1回目の停止期間TC2aを前半の停止期間、2回目の停止期間TC2bを後半の停止期間とした場合、1回目の停止期間TC2aを2回目の停止期間TC2bより長く設定する。そして、1回目の停止期間TC2aは、患者が使用者に痛みを感じていることを訴えることができる程度の長さとし、例えば、0.5秒以上としてもよい。
【0044】
次に、各々の期間SPの長さが異なる場合の高周波信号発生回路19からファイル11に通電される高周波電流の波形について説明する。図6は、実施の形態2の変形例に係る歯科用治療装置10のファイル11に通電する電流の波形を示す図である。図6では、1回の通電操作で通電する期間SPa~SPcに通電される高周波電流の波形が図示されている。制御回路21は、期間SPa~SPcを順に繰り返す場合に各々の期間の長さを徐々に減少させ、期間SPa~SPcを順に繰り返す場合に各々の電流値を徐々に大きくなるように制御している。なお、図6に示す波形では、停止期間TC2bは停止期間TC2aに比べて短く設定してあるが、これに限られず同じ長さの停止期間TC2を設定してもよい。また、図6に示す期間SPa~SPcでは、図4で示した期間SPと異なり期間TPおよび休止期間TC1を図示していないが、同じように期間TPおよび休止期間TC1を含んでいてもよい。
【0045】
図6では、例えば、制御回路21は、期間SPa~SPcを順に繰り返す場合に各々の期間の長さを徐々に減少させており、最初の期間SPaに比べ2番目の期間SPbが短くなり、さらに3番目の期間SPcが短くなるように高周波電流をファイル11に通電する。また、制御回路21は、期間SPa~SPcを順に繰り返す場合に各々の電流値を徐々に大きくして、最初の期間SPaの電流値に比べ2番目の期間SPbの電流値が大きくなり、さらに3番目の期間SPcの電流値が大きくなるように高周波電流をファイル11に通電してもよい。さらに、制御回路21は、複数の停止期間のうち、最初の停止期間TC2aが次の停止期間TC2bに比べて長くなるように高周波電流をファイル11に通電する。停止期間を長くすることで患者が痛み感じないように高周波電流を通電することができるとともに、高周波電流を通電することによる蓄熱も防止することができる。だたし、図6に示す波形のように停止時間を長くすると治療全体の期間が長くかかる。
【0046】
このように、実施の形態2に係る歯科用治療装置10は、制御回路21が、複数の停止期間を前半の停止期間TC2aと後半の停止期間TC2bとに分けた場合、前半の停止期間TC2aを後半の前記停止期間TC2bに比べて長くすることが好ましい。これにより、歯科用治療装置10は、患者が痛み感じないように高周波電流を通電することができるとともに、高周波電流を通電することによる蓄熱も防止することができる。また、制御回路21は、複数の期間SPa~SPcを順に繰り返す場合に各々の期間の長さを徐々に減少させてもよい。さらに、制御回路21は、複数の期間SPa~SPcを順に繰り返す場合に各々の電流値を徐々に大きくしてもよい。
(実施の形態3)
実施の形態1では、設定操作部15で予め設定してある電流値の高周波電流をファイル11に通電する歯科用治療装置10について説明した。実施の形態3は、ファイル11に通電する高周波電流の電流値の制御について詳しく説明する。なお、実施の形態3において、実施の形態1で説明した歯科用治療装置10の構成と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。
【0047】
根管に挿入される電極は、電流を通電することにより電極表面に絶縁膜が形成される場合がある。特に、高周波電流の通電中に電極から火花が飛ぶなどした場合、電極表面が変性する可能性が高く、この電極表面の変性により電極の導電特性が変化するだけでなく、電極表面に絶縁膜が形成されることがある。絶縁膜が電極の表面に形成されると電極の抵抗値が大きくなり、電極に流れる電流値が低下して根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値を確保できずに本来の治療効果が得られないことがある。ここで、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値とは、歯科治療部位に配置した電極に高周波電流を通電して本来の治療効果が得られる電流値の範囲であり、当該範囲より小さい電流値では十分に治療効果が得られず、逆に範囲より大きい電流値では歯周組織などを損傷させる可能性がある。
【0048】
さらに、根管に挿入される電極には、血液やタンパク質などが付着して凝固する場合がある。電極に血液やタンパク質などが付着して凝固すると電極の抵抗値が大きくなり、電極に流れる電流値が低下して当該根管治療に必要な電流値を確保できずに本来の治療効果が得られない。また、電極を挿入した根管の状況に応じて根管のインピーダンスが変化するため、当該根管治療に必要な電流値より大きい電流値が流れたり、当該根管治療に必要な電流値より小さい電流値しか流せなかったりすることがある。例えば、根尖孔が大きい、導電性の薬液で根管内が満たされる、あるいは、根管内の異物が高周波電流により焼け落ちるなどの場合、根管のインピーダンスが低くなるので、当該根管治療に必要な電流値より大きい電流値の電流が流れる。また、歯周組織は、乾燥すると一般的にインピーダンスは高くなるので、当該根管治療に必要な電流値より小さい電流値しか流せなくなる。
【0049】
そのため、実施の形態3に係る歯科用治療装置10では、本格的な通電を行う前に、より小さい電流値を予備電流として通電し、その電流値に応じて本格的な通電において根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の高周波電流を通電することができるように制御を行っている。図7は、実施の形態3に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。図7では、予備的な通電を行う期間TP1の後、本格的な通電期間である期間SPを複数回繰り返す波形が図示されている。
【0050】
歯科用治療装置10は、図7に示すように期間TP1で検出した予備電流の電流値に基づいて、期間SP内において高周波電流を連続通電させる期間TP2でファイル11に通電する高周波電流の電流値を決定する。図7では、予備的な通電を行う期間TP1の後、本格的な通電期間である期間SPが設けられた後、次の期間SPの波形が図示されている。制御回路21は、複数の期間TP2の各々の期間の長さが、同じであり、複数の期間TP2の各々の期間の長さが、休止期間TC1よりも長くなるように期間SPを制御している。さらに、制御回路21は、期間SPと次の期間SPとの間に、高周波電流をファイル11に通電させることを停止する停止期間TC2を設けるように制御している。なお、停止期間TC2は、休止期間TC1よりも長くする。
【0051】
制御回路21は、ファイル11から受動電極22に至る経路が通常時のインピーダンスであると仮定した場合に、予備電流の電流値がファイル11に通電されるように高周波信号発生回路19の電圧を制御する。そして、高周波信号発生回路19からファイル11に予備電流を通電するために予備電圧を印加し、ファイル11から受動電極22に至る経路のインピーダンスが通常時から変化した場合、検出部20で検出される電流値は、想定した予備電流の電流値に対して差が生じる。なお、ファイル11から受動電極22に至る経路のインピーダンスは、ファイル11の表面に形成される絶縁膜の有無、ファイル11の表面への血液やタンパク質などの付着の有無、根管のインピーダンスなどによって変化する。
【0052】
制御回路21は、予備電流をファイル11に流したときに検出部20で検出した電流値に基づいて、期間TP2の通電において高周波信号発生回路19からファイル11に流れる高周波電流の電流値が所定の範囲内となるように制御する。つまり、想定した予備電流の電流値と検出部20で検出した電流値との差や比に応じて、制御回路21は、ファイル11に流れる高周波電流の電流値が所定の範囲内となる最適な電圧を変更して高周波信号発生回路19に印加する。つまり、制御回路21は、ファイル11に流れる高周波電流の電流値が所定の範囲内となるように高周波信号発生回路19に印加する電圧を最適化している。ここで、所定の範囲とは、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲で、当該所定の範囲内に含まれるとは、症状に応じて(1)所定値以上、(2)所定値以下、(3)第1の所定値以上、かつ第2の所定値(>第1の所定値)以下の3通り場合が考えられる。一般的に、(3)第1の所定値以上、かつ第2の所定値(>第1の所定値)以下を使用する場合が多い。なお、ファイル11に流れる高周波電流の電流値は、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値に限定されるものではない。また、制御回路21は、予備電流の電流値と検出部20で検出した電流値と比較を差で行うと説明したが、比などの他の比較方法で行ってもよい。
【0053】
このように、制御回路21は、期間TP2で通電する電流値を、予備電流の検出結果でフィードバック制御を行っている。制御回路21は、期間SPで高周波電流の電流値をフィードバック制御している場合に、検出部20で検出した電流値が変化して所定の範囲を外れた場合、表示部14に電流値が所定の範囲を外れた旨の表示を行ってもよい。例えば、根管内の異物が外れ、検出部20で検出した電流値が、60mA、90mA、80mAと変化した場合、表示部14は、電流値が所定の範囲を外れた警告表示を表示する。なお、検出部20で検出される電流値が所定の範囲内であっても所定の割合(例えば±30%程度)以上に変化した場合、通電している高周波電流の電流値が急激に変化した旨の情報を、表示部14に表示してもよい。もちろん、制御回路21は、電流値が所定の範囲を外れた場合、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲となるように高周波信号発生回路19に印加する電圧を制御してもよい。
【0054】
次に、実施の形態3に係る歯科用治療装置10においてファイル11に通電する高周波電流の通電期間の制御についてフローチャートを用いて説明する。図8は、実施の形態3に係る歯科用治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。まず、使用者が、根管長測定回路23に基づいて高周波電流の通電位置を決定し、当該通電位置でフートスイッチ16を操作すると、制御回路21は、高周波信号発生回路19からファイル11に期間TP1、予備電流を通電する(ステップS101)。
【0055】
次に、制御回路21は、予備電流をファイル11に流したときに検出部20で検出した電流値に基づき、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲(以下、所定の範囲ともいう)内となる高周波電流の電流値をファイル11に通電するための高周波信号発生回路19の電圧値を決定する(ステップS102)。具体的に、制御回路21は、検出部20で検出した電流値と、その時の高周波信号発生回路19に印加されている電圧値から根管のインピーダンスを算出し、当該根管のインピーダンスにおいてファイル11に通電する電流値が所定の範囲内の電流値となる高周波信号発生回路19の電圧値を決定する。
【0056】
制御回路21は、予備的な通電を行う期間TP1経過後、高周波信号発生回路19からファイル11への通電を休止期間TC1、休止する(ステップS103)。なお、制御回路21は、休止期間TC1中に高周波通電モードから根管長測定モードに切り替えて、ファイル11の先端の位置を測定してもよい。つまり、制御回路21は、休止期間TC1に測定信号をファイル11に通電させる制御を根管長測定回路23に対して行なってもよい。
【0057】
制御回路21は、期間TP2で高周波電流を通電した回数をカウントするために通電回数カウンタC1のカウントを1加算する(ステップS104)。制御回路21は、期間TP2、高周波信号発生回路19からファイル11にステップS102で決定した電圧値を高周波信号発生回路19に印加することで、所定の範囲内の電流値を高周波信号発生回路19からファイル11に通電する(ステップS105)。制御回路21は、ステップS102で決定した電圧値を高周波信号発生回路19に印加したときに検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の電流値か否かを判断する(ステップS106)。
【0058】
検出した電流値が所定の範囲内の電流値である場合(ステップS106でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタC1がN1(例えば、10回)以上か否かを判断する(ステップS107)。通電回数カウンタC1がN1回以上でない場合(ステップS107でNO)、制御回路21は、処理をステップS101に戻し、休止期間TC1と期間TP2との制御を繰り返す。制御回路21は、処理をステップS101に戻す際に、図示していないが休止期間TC1を設けている。なお、通電回数カウンタC1がN1回以上でない場合(ステップS107でNO)、制御回路21は、処理をステップS103に戻し、休止期間TC1と期間TP2との制御を繰り返すようにしてもよい。一方、通電回数カウンタC1がN1回以上である場合(ステップS107でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタC1をリセットしてカウンタを0(ゼロ)にする(ステップS108)。
【0059】
ステップS106に戻って、検出した電流値が所定の範囲内の電流値でない場合(ステップS106でNO)、制御回路21は、通電している高周波電流の電流値が所定の範囲外である旨の情報を表示部14に表示する(ステップS110)。具体的に、制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電中に根管内の異物が外れ、検出部20で検出した電流値が所定の範囲(30mA~50mA)から60mA、90mA、80mAと変化した場合、表示部14に「所定の範囲外」の文字を表示したり、画面の背景色を黄色にしたりするなどが考えられる。報知部としてスピーカが設けられていれば、警告音で通電している高周波電流の電流値が所定の範囲外である旨の情報を使用者に報知してもよい。
【0060】
次に、制御回路21は、ステップS102で決定した電圧値を高周波信号発生回路19に印加した場合であっても、検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さいか否かを判断する(ステップS111)。検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さい場合(ステップS111でYES)、制御回路21は、再度、高周波電流をファイル11に通電する処理が必要な旨の情報を表示部14に表示する(ステップS112)。具体的に、制御回路21は、表示部14に「再通電」の文字を表示したり、画面の背景色を黄色にして明滅させたりするなどが考えられる。報知部としてスピーカが設けられていれば、警告音で再通電を行う必要がある旨の情報を使用者に報知してもよい。
【0061】
さらに、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい通電期間を計時する(ステップS113)。図8に示すフローチャートでは、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さくなった時点で高周波電流をファイル11に通電する処理を停止するのではなく、休止期間TC1と期間TP2との制御をN1回繰り返した後に停止する。そのため、制御回路21は、繰り返し回数N1回のうち、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい期間TP2が何回生じたのかで最小電流値より小さい期間TP2を計時することができる。最小電流値より小さい期間TP2を計時することで、制御回路21は、再度通電を行う場合にステップS113で計時した期間だけ再度通電すればよい。もちろん、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さくなった時点で高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する場合、制御回路21は、ステップS113後に処理をステップS108の処理に移行してもよい。ここで、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さいと判断できる場合とは、通電中に根管内の環境が変化して、根管のインピーダンスが高くなり所定の範囲内の最小電流値より小さい電流値が流れてしまった場合である。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を大きくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最小電流値以上となるように制御してもよい。
【0062】
ステップS111に戻って、検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さくない場合(ステップS111でNO)、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きいと判断できるので、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する(ステップS115)。なお、制御回路21では、ステップS115のように、本格的な通電が開始されてから検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きくなった場合、通電を停止させるが、予備的な通電中に検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きくなった場合、そもそも本格的な通電を開始させない。制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止した旨の情報を表示部14に表示する(ステップS116)。具体的に、制御回路21は、表示部14に「停止」の文字を表示したり、画面の背景色を赤色にして明滅させたりするなどが考えられる。報知部としてスピーカが設けられていれば、警告音で通電を停止した旨の情報を使用者に報知してもよい。ここで、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きいと判断できる場合とは、通電中に根管内の環境が変化して、根管のインピーダンスが低くなり所定の範囲内の最大電流値より大きい電流値が流れてしまった場合である。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を小さくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最大電流値以下となるように制御してもよい。
【0063】
実施の形態3に係る歯科用治療装置10では、休止期間TC1と期間TP2とをN1回繰り返す期間SPをN2回(例えば5回)繰り返して、ファイル11に高周波電流を通電する。そのため、制御回路21は、ステップS108で通電回数カウンタC1をリセットした後、期間SPの回数をカウンタする期間回数カウンタC2がN2回以上か否かを判断する(ステップS117)。期間回数カウンタC2がN2回以上でない場合(ステップS117でNO)、制御回路21は、高周波信号発生回路19からファイル11への通電を停止期間TC2、停止する(ステップS118)。制御回路21は、高周波電流を通電した通電期間の回数をカウントするために期間回数カウンタC2のカウントを1加算する(ステップS119)。
【0064】
制御回路21は、ステップS119で期間回数カウンタC2のカウントを行った後、処理をステップS104に戻し、休止期間TC1と期間TP2との制御を繰り返す。一方、期間回数カウンタC2がN2回以上である場合(ステップS117でYES)、制御回路21は、期間回数カウンタC2をリセットしてカウンタを0(ゼロ)にして(ステップS120)、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する。
【0065】
このように、実施の形態3に係る歯科用治療装置10では、制御回路21が、検出部20で検出した電流値に基づいて、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値、連続通電する期間TP2、連続通電する期間TP2の回数、および休止期間TC1のうち少なくとも一つの制御を高周波信号発生回路19に対して行なう。これにより、歯科用治療装置10は、様々な状況の変化に対しても、歯科治療部位に配置されるファイル11に所定の範囲の電流値の高周波電流を通電することができる。
(変形例)
前述の実施の形態に係る歯科用治療装置10は、高周波信号発生回路19からファイル11に通電される電流値を検出する検出部20を設けて、制御回路21が、検出部20で検出した電流値と高周波電流を連続通電させた複数の期間TP2との積が所定値以上となるように、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値、高周波電流をファイル11に連続通電させる期間TP2、高周波電流をファイル11に連続通電させる期間TP2の回数(個数)、および休止期間TC1のうち少なくとも一方の制御を高周波信号発生回路19に対して行なってもよい。
【0066】
さらに、前述の実施の形態に係る歯科用治療装置10は、人が高周波電流の通電による痛みをより感じ難くするためには高周波電流の周波数を300kHz以上とすることが好ましい。
【0067】
また、前述の実施の形態に係る歯科用治療装置10は、高周波信号発生回路19からファイル11に通電される期間SPを複数に分割すると説明したが、肉芽を焼灼する期間を期間SPから分割してもよい。肉芽表面だけを焼灼できれば、その後の肉芽焼灼はさほど痛みを感じないことから、歯科用治療装置10は、表面的な肉芽焼灼ができる期間のみ期間SPから分割してもよい。例えば、期間SPを、例えば0.2秒通電、0.8秒休止、0.2秒通電、0.8秒休止とシーケンシャルに通電した後、0.6秒連続して通電するように分割してもよい。
【0068】
歯科用治療装置は、前述の実施の形態で説明したような、ファイル11を取り付けるファイルホルダ13を有し、根管長測定と、高周波電流を通電することができる構成に限定されず、治療工具をモータ駆動する構成、治療工具を超音波で駆動する構成などと組み合わせてもよい。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
10 歯科用治療装置、11 ファイル、12 ユニット、13 ファイルホルダ、14 表示部、15 設定操作部、16 フートスイッチ、17 モータ、18 モータ駆動回路、19 高周波信号発生回路、20 検出部、21 制御回路、22 受動電極、23 根管長測定回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8