IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キョーセラ ティキティン オーユーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】MEMS共振器の構成
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/24 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
H03H9/24 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020541700
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 FI2019050087
(87)【国際公開番号】W WO2019155120
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】20185113
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520071814
【氏名又は名称】キョーセラ テクノロジーズ オーユー
【住所又は居所原語表記】Tietotie 3 02150 Espoo Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤーッコラ アンッティ
(72)【発明者】
【氏名】オヤ アールネ
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0038431(US,A1)
【文献】特表2017-531947(JP,A)
【文献】特表2014-507096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0121682(US,A1)
【文献】特表2008-527857(JP,A)
【文献】特表2008-545333(JP,A)
【文献】特表2011-507454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0093361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・ 支持構造と、
・ 前記支持構造に懸架され、幅方向に隣接した複数のビーム状の部分要素を備える共振器要素と、
・ 前記共振器要素を共振モードで励起するアクチュエータと、を備え
・ 前記部分要素は、1以外のアスペクト比を有する1つ以上の基本要素に長さ方向に分割可能であるような寸法であり、前記基本要素はそれぞれ基本共振モードに対応し、
・ 前記部分要素はそれぞれ、該部分要素の長さ方向において、面内長さ伸張共振モードで共振するように構成され、
・ 前記部分要素は、前記共振器要素の幅方向の両側部において、前記部分要素の共振モードの節点から前記支持構造に懸架され、
・ 前記部分要素は、
・ 前記基本要素が矩形配列構成であり、各基本要素が単一の配列位置を使用し、
・ 前記共振器要素の前記共振モードが集団共振モードである、
ように、長さ方向における両端部の非節点にある接続要素によって互いに機械的に結合され、互いに配置され、
・ 前記矩形配列構成の少なくとも1つの配列位置は基本要素に使用されていない、
微小電子機械共振器。
【請求項2】
少なくとも1つの使用されていない配列位置は、前記矩形配列構成の外周位置に配置され、前記矩形配列構成の1つ、2つ、または4つの角、および/または前記矩形配列構成の側面に配置され、非矩形の共振器要素を形成する、請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
少なくとも1つの使用されていない配列位置は、内側の配列位置に配置され、前記矩形配列構成の1つまたは2つの対称軸上の配列位置に配置され、中空の共振器要素を形成する、請求項1または2に記載の共振器。
【請求項4】
前記少なくとも1つの使用されていない配列位置は、前記共振器要素の駆動および/または検知のために前記共振器要素に機能的に結合された変換回路を備える、請求項1から3のいずれかに記載の共振器。
【請求項5】
前記少なくとも1つの使用されていない配列位置は、前記共振器要素に機能的に結合された垂直または水平の電気ビアを備える、請求項1から4のいずれかに記載の共振器。
【請求項6】
前記少なくとも1つの使用されていない配列位置は、電気接点端子を備える、請求項1から5のいずれかに記載の共振器。
【請求項7】
前記共振器要素は、前記少なくとも1つの使用されていない配列位置において前記支持構造に懸架される、請求項1から6のいずれかに記載の共振器。
【請求項8】
少なくとも2つの異なるタイプの前記部分要素があり、第1タイプは第1の数の基本要素に対応する第1の長さを有し、第2タイプは第2の数の基本要素に対応する第2の長さを有し、前記第2の長さおよび前記第2の数は、前記第1タイプの前記第1の長さおよび前記第1の数の整数分数である、請求項1から7のいずれかに記載の共振器。
【請求項9】
前記共振器要素は、前記第1タイプの2つの部分要素の間に配置された前記第2タイプの少なくとも1つ部分要素を備える、請求項8に記載の共振器。
【請求項10】
前記共振器要素は、前記第1タイプの前記2つの部分要素から前記支持構造に懸架される、請求項9に記載の共振器。
【請求項11】
前記共振器要素は、前記第2タイプの前記部分要素の2つと、前記第1タイプの前記2つの部分要素とによって画定される空隙を有し、前記支持構造は前記空隙内に少なくとも部分的に配置され、前記共振器要素は前記空隙内で前記支持構造に懸架される、請求項10に記載の共振器。
【請求項12】
前記共振器要素は、前記第2タイプの前記部分要素の1つと、前記第1タイプの前記2つの部分要素とによって画定される窪みを有し、前記支持構造は前記窪み内に延在するように少なくとも部分的に配置され、前記共振器要素は前記窪み内で前記支持構造に懸架される、請求項10に記載の共振器。
【請求項13】
前記部分要素はそれぞれ、前記基本共振モードで、または前記基本共振モードのオーバートーンモードで共振するように構成される、請求項1から12のいずれかに記載の共振器。
【請求項14】
前記基本共振モードは基本長さ伸張共振モードであり、前記基本要素は1より大きい長さ対幅アスペクト比を有する、請求項1から13のいずれかに記載の共振器。
【請求項15】
前記部分要素は、中間ゾーンによって部分的に互いに離間され、前記中間ゾーンはそれぞれ、少なくとも1つの細長いトレンチと、前記トレンチに接し、前記部分要素を互いに機械的に結合する少なくとも2つの接続要素とを備える、請求項1から14のいずれかに記載の共振器。
【請求項16】
前記部分要素および前記接続要素は、少なくとも2×1019cm-3の平均不純物濃度でドープされた単一のシリコン結晶で形成される、請求項1から15のいずれかに記載の共振器。
【請求項17】
前記共振器要素は、[100]結晶方向が前記矩形配列構成の主軸に沿って、具体的には前記部分要素の長さ方向に沿って配向されているか、または前記長さ方向から25度未満、具体的には15度未満ずれているシリコン結晶体を含む、請求項1から16のいずれかに記載の共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小電子機械(Microelectromechanical System:MEMS)共振器に関する。
【発明の背景】
【0002】
等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance:ESR)としても知られる電気機械抵抗は、共振器の重要な性能パラメータである。従来の水晶結晶と比べると、ESRは圧電駆動されるビーム(梁型)共振器、例えば長さ伸張(Length-Extensional:LE)共振器において特に高くなりがちである。これは長さ対幅アスペクト比が1より大きい場合のみ、すなわち幅より長さのほうが大きいビームにおいて、ビーム共振器に基本LEモードが存在することができ、長さ対幅アスペクト比がNより大きいビーム共振器においてN次オーバートーンLEモードが存在することができるからである。LEモードのESRは、ビームの幅が大きくなると低減されるため、ESRをより低くするためにはより幅の広いビームが好ましいであろう。しかしながら、LEモードの存在をアスペクト比によって制限すると、ESRの下限値が設定される。
【0003】
MEMS共振器設計におけるさらなる課題は、共振器の周波数が温度変化に影響されないようにすること、すなわち温度補償である。単結晶シリコンで製作されたビーム共振器は、一般的に、シリコン結晶に十分に強いドーピングを施し、下層のシリコン結晶の結晶方向に対して適切にビームを形成および配向し、共振モードを適切に選択することによって温度補償することができる。ドーピングによる温度補償は、国際出願公開公報第2012/110708号においてより詳しく説明されている。
【0004】
ビームは、例えば長さ伸張(LE)共振モードで振動することができる。このモードでは、主にビームの長さ方向に動きが生じる。共振器ビームが[100]結晶方向に向けられ、n型ドーパントを十分に高いドーピング濃度でドープされた場合、LEモードは、ゼロまたは正の1次周波数温度係数(Temperature Coefficient of Frequency:TCF)という望ましい特性を有する。シリコンが正のTCFを有すると、負のTCFを有する材料をさらに用いることができ(これは例えば圧電駆動目的で必要とされる場合がある)、複合LEモード共振器の全体的なTCFをゼロにすることができる。
【0005】
ビーム共振器は、LEモードの代わりに屈曲モードまたはねじりモードで励起することができる。しかしながら、これらのモードでも、ESRおよび温度補償に関連する同様の問題がある。
【0006】
低いESRと低い温度依存性を同時に得ようとする場合に、特に問題が生じる。長さ対幅アスペクト比が1より小さい、すなわち比較的幅の広いビームを有する圧電駆動式共振器の一部は、同じ周波数の水晶結晶と同等の、比較的ESRレベルが低い共振モードに対応できる。例えば、Ho et al, 「HIGH-ORDER COMPOSITE BULK ACOUSTIC RESONATORS(高次複合バルク音響共振器)」, MEMS 2007, Kobe, Japan, 21-25 January 2007、およびKuypers J., 「High Frequency Oscillators for Mobile Devices(モバイルデバイス用高周波発振器)」, in H. Bhugra, G. Piazza (eds.), Piezoelectric MEMS Resonators, Microsystems and Nanosystems, DOI 10.1007/978-3-319-28688-4_15, pp 335-385には、下層のシリコン結晶の[110]方向にビームを配向した場合、ESRの低いそのような共振器設計が可能であることが示されている。ただしそのような共振モードは、例えばLEモードよりも温度依存性が高いため、圧電駆動式共振器における利用可能性が低い。
【0007】
MEMS共振器設計に関するさらなる課題には、共振器の品質係数を可能な限り高く維持すると共に、製造コストを削減するために共振器の設置面積を可能な限り小さくすることがある。
【0008】
前述の要求を可能な限り多く同時に満たす、改善された共振器が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、前述の問題を克服することである。具体的な目的は、設計の自由度がより高い新規な共振器構造を提供することであり、具体的には、品質係数(Q値)が高い、および/または設置面積が小さい共振器を達成することである。
【0010】
別の目的は、等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance:ESR)が低い共振器を実現することである。
【0011】
目的の1つは、単一のビーム(梁型)形状よりも高い設計の自由度と、ビーム共振器の利点とを同時にもたらす共振器を実現することである。具体的な目的は、周波数の温度依存性が低い共振器を実現することである。
【0012】
これらの目的は、本明細書および請求の範囲に記載に従って達成される。
【0013】
一態様によると、支持構造と、前記支持構造に懸架され、互いに離間して配置された複数の部分要素を備える共振器要素とを備える微小電子機械共振器が提供される。前記共振器要素を共振モードで励起するアクチュエータも提供される。本発明によると、前記部分要素は、1以外のアスペクト比を有する1つ以上の基本要素に一方向に分割可能であるような寸法であり、前記基本要素はそれぞれ基本共振モード(または同じ基本共振モード)に対応する。さらに、前記部分要素は、前記基本要素が矩形配列構成で配置され、各基本要素が単一の配列位置を使用し、前記共振器要素の前記共振モードが前記基本要素によって定まる集団共振モードであるように、接続要素によって互いに結合され、互いに配置される。また、前記配列構成の少なくとも1つの配列位置は基本要素に使用されていない。
【0014】
したがって、共振する基本要素すべてによって、各部分要素における集団共振モードが定まり、前記部分要素の結合により、共振器要素全体の集団共振モードが確実になる。前記配列構成により、1つ以上の隣接する基本要素にそれぞれ対応する1つ以上の部分を取り除いても、集団共振は消失しない。したがって、新しい設計が利用可能になっても、前記共振器の所望の特性が維持される。
【0015】
具体的には、前記部分要素の前記長さ対幅アスペクト比は1より大きく、前記部分要素はビーム要素である。前記部分要素の長さに応じて、前記部分要素は、全体として、前記基本モードまたはそのオーバートーンで共振する。前記基本モードは、例えば長さ伸張モード、ねじりモード、または屈曲モードにすることができる。
【0016】
本発明は大きな利点をもたらす。結合された部分要素、したがって、使用されている配列位置によって画定される共振器要素全体は、集団共振モードで共振可能であり、これによって共振器の出力周波数が明確になる。接続要素による結合には、周波数スプリッティングおよび複数の共振モードの発生が回避されるという効果がある。使用されていない配列位置は、例えば、固定や電気ビア、表面回路や接触パッドなどの共振器の他の機能的構成要素に使用することができる。したがって、共振器の性能を損なうことなく設計の自由度が向上する。
【0017】
この設計の自由度を活用し、共振器の外装形状を変更して、例えば、共振器の中央における固定や、電気接点のための空間を設けることができる。中央固定により損失が最小、品質係数が最大になり、電気接点により、矩形ダイシングを用いる場合に共振器構成要素の面積が最小になる。これらの方式については後半で詳細に説明する。
【0018】
当該共振器は、少なくとも、長さ伸張モード、屈曲モード、およびねじりモードに対応可能である。また、複数の部分要素を用いることで、共振器要素の面積を広げてESRを低減すると共に、これらのモードの利点を維持することができる。
【0019】
重要なことに、本発明はドーピングベースの(固有の)温度補償に対応している。つまり、共振器要素をシリコンウェハ上で、その結晶方向に適切に配向することで、当該共振器要素における周波数の温度依存性、すなわちTCFの絶対値が低減される。
【0020】
前述の利点は、圧電駆動の場合に特に重要である。圧電駆動を用いる場合、一般的にESRを低減する必要がある。さらに、共振器要素のシリコン体上に配置された圧電アクチュエータ材料層はTCFに影響を及ぼす。この場合、シリコン体のTCFの過補償が有益である。
【0021】
したがって本発明は、実践的な手法で従来技術の制限を克服し、新しいタイプの共振器を実現できる。
【0022】
従属請求項は、本発明の選択された実施形態に対するものである。
【0023】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの使用されていない配列位置は、前記配列の外周位置に配置される。実際には、使用されていない単数または複数の位置は、例えば前記配列の1つ、2つ、または4つの角、および/または前記配列の側面にあってもよい。結果として、非矩形の外装形状が形成される。固定位置に対する前記共振器の対称性が維持されることが好ましい。
【0024】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの使用されていない配列位置は、内側の配列位置に配置され、中空の共振器要素を形成する。空隙は、前記配列の1つまたは2つの対称軸上に配置することができる。少なくとも固定位置に対する前記共振器の対称性が維持されることが好ましい。
【0025】
前記少なくとも1つの使用されていない配列位置は、例えば以下のものに用いることができる。
・ 前記共振器要素の駆動および/または検知のために前記共振器要素に機能的に結合された変換回路、例えば前記共振器を駆動する発振器回路、および/または
・ 前記共振器要素に機能的に接続された電気ビアまたは回路、例えば、前記共振器の密閉されたウェハレベルパッケージ(Wafer-Level Package:WLP)の内部を、当該パッケージの外部または当該パッケージの内部回路もしくは外部回路に接続するビア、および/または
・ 例えば構成要素を機能させるためのワイヤを接続するための電気接点端子、および/または
・ 前記共振器要素を懸架するための支持構造および固定要素。
【0026】
いくつかの実施形態において、少なくとも2つの異なるタイプの前記部分要素があり、第1タイプは第1の数の基本要素に対応する第1の長さを有し、第2タイプは第2の数の基本要素に対応する第2の長さを有し、前記第2の長さおよび前記第2の数は、前記第1タイプの前記第1の長さおよび前記第1の数の整数分数である。前記第2タイプの前記部分要素は、前記第1タイプの2つの部分要素間に配置することができる。これによって、例えば、前記第1タイプの前記2つの部分要素から前記共振器を固定するための空間が設けられる。
【0027】
さらにいくつかの実施形態において、前記共振器要素は、前記第2タイプの2つの部分要素と前記第1タイプの2つの部分要素によって画定される空隙を有する。前記支持構造は、前記空隙内に延在するように配置することができ、前記共振器要素は前記空隙内で前記支持構造に懸架される。
【0028】
あるいは、前記共振器要素は、前記第2タイプの1つ以上の部分要素と前記第1タイプの前記2つの部分要素によって画定される窪みを有してもよい。前記支持構造は前記窪み内に延在するように少なくとも部分的に配置され、前記共振器要素は前記窪み内で前記支持構造に懸架される。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記共振器要素は、前記共振器要素の幅方向における両側面において、前記部分要素の前記共振モードの節点から前記支持構造に懸架される。あるいは、または加えて、前記共振器要素は、2つの部分要素間の前記支持構造に、節点から、好ましくは前記共振器要素の幅方向と長さ方向の両方において対称に懸架されてもよい。前記2つの部分要素は、隣接する部分要素でなくてもよく、一般的に隣接する要素ではなく、1つ以上の部分要素(および介在するトレンチ)の幅に相当する距離で離間される。
【0030】
一般的に、前記部分要素はそれぞれ、前記基本共振モードで、または前記基本共振モードのオーバートーンモードで共振するように構成される。また、前記接続要素は集団共振モードをもたらすように、前記部分要素の前記共振モードの非節点に配置される、これによって、共振ピークが複数発生しなくなり、前記共振器の出力信号がクリアになる。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記基本共振モードは基本長さ伸張共振モードであり、前記基本要素は1より大きい長さ対幅アスペクト比を有する。長さ伸張(Length-Extensional:LE)モードは、ESRの最小化および温度補償に特に適切である。
【0032】
いくつかの実施形態において、各部分要素は面内長さ伸張共振モードで共振するように構成される。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記基本共振モードは、基本ねじり共振モードまたは基本屈曲共振モード、例えば面内屈曲共振モードである。この場合も、前記基本要素は1より大きい長さ対幅アスペクト比を有してもよい。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記部分要素は、中間ゾーンによって互いに離間され、前記中間ゾーンは、前記部分要素の間にある前記接続要素によって画定される、1つ以上のトレンチを含む。トレンチの数は、前記部分要素が共振するように構成されたオーバートーンモードの次数に対応する。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記部分要素および前記接続要素は、少なくとも2×1019cm-3、例えば少なくとも1020cm-3の平均不純物濃度でドープされた単一のシリコン結晶で形成される。これは特に、前記シリコン結晶の[100]結晶方向を前記配列構成の主軸に(25度の精度で)沿って、一般的には前記部分要素の長さ方向に沿って配向することと組み合わせると、低ESRを達成すると同時に共振器の効率的な温度補償も可能になる。
次に、本発明の実施形態、およびそれらの利点を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】基本要素で形成された、すべて使用されている共振器配列構成の上面図を示している。
図2】基本要素で形成された、すべて使用されている共振器配列構成の上面図を示している。
図3】基本要素で形成された、すべて使用されている共振器配列構成の上面図を示している。
図4】基本要素で形成された、すべて使用されている共振器配列構成の上面図を示している。
図5】基本要素で形成された、すべて使用されている共振器配列構成の上面図を示している。
図6】支持構造に懸架された共振器要素の上面図を示している。
図7図7Aは単一のビーム共振器、図7Bは従来の手法で幅方向に拡張されたビーム、および図7Cは本発明による共振器要素を示している。
図8図8Aは、2次LEモード用に設計された、ある共振器構成の上面図を示している。図8Bは、図8Aに示す共振器要素の一部分のモード形状図を示している。
図9図9Aは、基本(1次)LEモード用に設計された、ある共振器構成の上面図を示している。図9Bは、図9Aに示す共振器要素の一部分のモード形状図を示している。
図10】複数のモード次数に対する、ビームアスペクト比(幅対長さ)の関数としてのモード周波数のグラフを示している。
図11】例示的な高次(9次オーバートーン)モードの共振器要素構成の上面図を示している。
図12】中空であり中央で固定された、図11に示す構成の変形の上面図を示している。
図13】非矩形の、図11に示す構成の変形を示している。
図14図14Aから図14Dは、中央で固定された中空の共振器要素、分割された共振器要素、および非矩形の共振器要素の例をさらに示している。
図15A図15Aは、図8Aに示す圧電結合式2次オーバートーンモード共振器において測定された広域周波数範囲のアドミタンスのグラフを示している。
図15B図15Bは、図15Aに示す主共振のアドミタンスのグラフの詳細を示している。
図15C図15Cは、図8Aに示す共振器において測定された周波数対温度曲線を示している。
図16A】複数分岐、幅結合の共振器プレートの上面図を示している。
図16B】長手方向に結合された共振器プレートの上面図を示している。
図17図17Aから図17Eは、長手方向に結合された部分要素間において可能な、様々な可撓性接続要素の形状を示している。
図18図18Aから図18Cは、様々な長手方向結合位置の例を示している。
図19図19Aから図19Dは、長手方向結合用の可撓性接続要素のさらなる例を示している。
【実施形態の詳細説明】
【0037】
〔定義〕
【0038】
「節点」とは、本明細書において、振動モード形状における一点であり、その点における振動の平均振幅が当該振動モード形状の最大振幅の20%未満である。
【0039】
「非節点」(すなわち「節点から外れている点」)とは、振動モード形状における一点であり、その点における振動の平均振幅が当該振動モード形状の最大振幅の20%以上である。
【0040】
「長さ」および「長手方向」という用語は、本明細書において、LEモードの主な伸び方向、ねじりモードのねじり軸、または屈曲モードの主な屈曲変位に垂直な軸に平行な面内方向を指すために特に用いられる。「幅」および「横手方向」は、前述の面内方向に直交する面内方向を指す。
【0041】
アスペクト比は、要素または部分要素の面内寸法の比率を指す。「有効アスペクト比」とは、共振器要素の個々の部分要素(ビーム)のアスペクト比に対し、複数の部分要素を含む共振器要素全体のアスペクト比を指す。
【0042】
「トレンチ」とは、共振器要素内の空間であって、隣接する部分要素が互いに移動できるようにして、部分要素において所望のモードを発生させるための空間である。「細長い」トレンチとは、要素が対応するように構成されているモードに応じて、アスペクト比が3以上、例えば5以上、さらに10以上であるトレンチである。
【0043】
「接続要素」とは、互いに離間した2つの部分要素を互いに機械的に接続する任意の部材である。接続要素は、部分要素を幅方向に結合してもよく、共振器要素内のトレンチあるいは空隙または窪みを、その長手方向端部で制限する。この場合、接続要素は通常、基本的に剛性の要素である。あるいは、部分要素を長さ方向に結合してもよい。この場合は通常、接続要素は可撓性の要素であり、例えば共振中に弾性変形可能なC形状またはS形状の要素である。一般的に、接続要素は共振器要素の単結晶構造の一部であり、共振器要素の外形とその中のトレンチを、既知のMEMS微細加工方法によってパターニングすることで作成される。
【0044】
「基本(共振)モード」とは、1次共振モード(「1次オーバートーン」ともいう)を指す。より高次のオーバートーンモードは、いくつかの基本モードから成る。
【0045】
「基本要素」とは、基本共振モードを有する共振器の矩形面内部分である。基本要素は、端部結合構成で長手方向に連続的に接続することも(すなわち、そこで励起されるモードの形状によって定まるビームの「仮想」要素)、隙間で離間して可撓性の接続要素によって接続することもできる。次数がNであるより高次のオーバートーンモードは、長手方向に端部結合されたN個の基本要素で生じる複数の基本モードと見なすことができる。
【0046】
「集団共振モード」とは、関連する特定の実体におけるすべての基本要素が同じ基本共振モードで共振し、基本的に同じ周波数と、同じまたは180度ずれた位相とを有する複合共振モードを指す。共振器要素全体の集団共振モードでは、共振器要素を構成する各部分要素が、1次の長さ伸張共振モード、ねじり共振モード、もしくは屈曲共振モード、またはそのより高次のオーバートーンモードを有する。この場合、共振器要素は、同じ基本モードに対応する、一般的に同じサイズの基本要素に分割可能である。
【0047】
典型的な実施形態では、共振器のすべての基本要素が矩形配列構成で配置される。「使用されている」配列位置には基本要素が存在する。「空いている」配列位置には共振材料が存在しない。
【0048】
「中空の」共振器要素形状とは、共振器要素内の少なくとも1つの配列位置が空いている形状を意味する。空隙は、固定領域および/または電気接点領域として用いてもよい。部分要素間にある所望の共振モードを可能にする隙間(トレンチ)は、本文脈においては空隙と見なさない。
【0049】
矩形共振器要素は、外周のすべての基本要素配列位置が使用されている要素である。非矩形要素は、少なくとも1つの外周配列位置が空いている。
【0050】
「整数分数」(部分要素の長さが関連する場合)は、分数N/Mを意味する。ここでNとMは両方とも正の整数であり、N<Mである。例えば、本発明の実施形態における3次オーバートーン部分要素の長さは、5次オーバートーン部分要素の整数分数3/5である。
【0051】
ビーム要素における様々な次数の長さ伸張(LE)バルク音波モードが従来技術において知られてる。そのようなモードでは、要素(部分要素)は、主に1つの軸に沿って伸び縮みする。この軸上には1つ以上の節点がある。対称形の要素において、および要素の長手方向両端が自由端である(支持構造に固定されていない)一般的なケースにおいて、節点は要素の長さに沿って対称に位置する。同様に、ねじりモード形状、面内屈曲モード形状、および面外屈曲モード形状が従来技術において知られている。
【0052】
「温度補償された」要素は、本明細書において、要素に構成されている機械的動作に適切な当該要素の弾性特性における温度への依存性が、現在のドーピングレベルで、少なくともいくつかの温度範囲においてそのようなドーピングなしの場合よりも低いことを意味する。一般的に、温度補償は、材料特性、幾何学的特性、結晶方位関連の特性、およびモード形状の選択によって達成される。ドーピング濃度は、2×1019cm-3以上、例えば1020cm-3以上にすることができる。ドープ剤は、リンやホウ素などの、n型ドープ剤であってもp型ドープ剤であってもよい。温度補償は、本明細書において、いわゆる「過補償」も網羅する。すなわち、圧電変換器層、および/または他の何らかの層が要素と結合されたときに、共振器の合計TCFがドーピングなしの場合よりも小さくなるように、そのような要素のTCFを正にすることである。
〔選択された実施形態の説明〕
【0053】
以下において、全体的な共振器の構造と機能について、まず、すべて使用されている配列共振器を参照して説明し、次に、1つ以上の配列位置が使用されていない構成に特に注目して説明する。前者を参照して説明する原理は後者にも当てはまることに注意されたい。また、前述の、少なくとも2×2(具体的には、対称性を維持できるようにするために少なくとも3×2)の配列サイズを有するすべて使用されている共振器はいずれも、基本要素の1つ以上を取り除き、残りの基本要素の結合を維持することで、本発明に従うように変更することができる。
【0054】
一般的に、本明細書において説明する共振器要素は、アスペクト比が1より大きい、特にNより大きい複数の部分要素を含んでもよい。ここでNは、当該要素において励起される集団モードのオーバートーン次数(すなわち、モード次数)である。
【0055】
共振器要素における部分要素の数は、共振器要素の幅方向に2以上、例えば2から50にすることができ、長さ方向に1以上、一般的に1から8、例えば2から8にすることができる。
【0056】
長さ方向における基本要素の数は、部分要素において励起されるモード次数に対応し、1から20、例えば2から12にすることができる。
【0057】
低ESRを達成するための、共振器要素の長さ対幅アスペクト比は、一般的に2未満である。いくつかの実施形態において、アスペクト比は1未満である。
【0058】
以下に、主に長さ伸張モードに言及して本発明の詳細な実施形態を記載し、本発明の実現可能性および利点を説明するために実験データも提示するが、同じ原理をねじりモードおよび屈曲モードにも適用できる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態において、長さ伸張モード共振器が提供される。該共振器は、支持構造と、シリコン共振器要素とを備え、前記シリコン共振器要素は、その節点において前記支持構造に懸架され、長さおよび幅を有する。該共振器要素は、中間ゾーンによって部分的に互いに離間された少なくとも2つの部分要素を備え、各中間ゾーンは、少なくとも1つの細長いトレンチと、前記トレンチに接し、当該部分要素の非節点において前記部分要素を互いに機械的に結合する少なくとも2つの接続要素とを備える。これにより、部分要素が強力に結合されるため、明確な共振モードおよび共振周波数における単一要素としての要素全体の動作が確実になる。アクチュエータは、少なくとも1つの細長いトレンチの長手方向と平行に、共振器要素を長さ伸張共振モードで励起するように構成される。
【0060】
いくつかの実施形態において、共振器要素はドープされたシリコン体を備える。また、シリコン体の[100]結晶方向を共振器要素の長さ伸張方向に沿って配向するか、前記方向から25度未満、具体的には15度未満ずらすことができる。加えて、共振器のシリコン体を少なくとも2×1019cm-3、例えば少なくとも1020cm-3の平均不純物濃度にドープすることにより、低ESRを達成すると同時に共振器の温度補償が可能になる。
【0061】
いくつかの実施形態において、共振器要素は、幅方向に併設された3つ以上の部分要素に分割される。これにより、共振器のESRを低く保つと同時に、LEモードに対応する能力と、効率的な温度補償の可能性を維持することができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの中間ゾーン、好ましくはすべての中間ゾーンに、少なくとも2つのトレンチおよび3つの接続要素がある。これは、例えば、特定の高次のLEオーバートーン専用の共振器要素を作成する際に用いることができる。
【0063】
部分要素のアスペクト比は、部分要素の数を比較的少なくし、トレンチが使用する相対面積を小さくし、本発明の利点を最大限にするために、一般的に2:1から10:1の範囲となるように選択される。しかしながら、本発明はより大きいアスペクト比の部分要素でも有効である。
【0064】
図1は、1次以上のLEモード(オーバートーン)における発振に対応する共振器要素を示している。この要素は、幅方向に沿って並設された3つの部分要素11A、11B、および11Cを備える。隣接する部分要素11A/11B、11B/11Cは、当該部分要素間で、当該部分要素の長手方向端部に、または端部近くに配置された2つの接続要素12AB/14AB、12BC/14BCによってそれぞれ結合されている。接続要素12ABと14ABの間にはトレンチ13AB、および接続要素12BCと14BCの間にはトレンチ13BCがある。これらのトレンチによって、部分要素11A、11B、および11CはLEモード振動中に幅方向に伸びることができる。直線的に並ぶ接続要素12AB、14AB、およびトレンチ13ABによって第1中間ゾーンが画定され、接続要素12BC、14BC、およびトレンチ13BCの並びによって第2中間ゾーンが画定される。
【0065】
図1の各部分要素が1次モード、すなわち基本モードで駆動される場合、共振器要素は、すべて使用されている矩形3×1基本モード配列を形成する。
【0066】
接続要素12AB/14AB、12BC/14BCは、LE振動モードの節点には配置されず、部分要素の振動端の、または振動端近くの非節点に配置される。これにより、要素全体が、集団LEモードで共振できる一式の強く結合された共振器となることに注目されたい。
【0067】
この要素は、固定具19A、19Bを用いて、当該要素の長手方向外縁の中間点から懸架される。固定具の数は3以上であってもよい。一般的な構成では、固定具は要素の横手方向中央軸に、または当該軸対称に配置される。
【0068】
図2は、2次LEモード振動に適切な実施形態を示している。ここでは、部分要素21A、21B、21Cの間にそれぞれ3つの接続要素22AB/24AB/26AB、22BC/24BC/26BCと、2つのトレンチ23AB/25AB、23BC/25BCがある。この構成により、部分要素が2次LEモードおよびより高次の他のモードにおいて幅方向に伸びることができる。図2の共振器要素は、矩形3×2基本モード配列を形成している。
【0069】
各部分要素は幅Wおよび長さLを有する。これらの幅と長さは、異なる要素間で同じであってもよいが、同じである必要はない。接続要素は各部分要素ペア間で同じ位置に配置する必要はなく、および/または部分要素および/またはトレンチは完全な矩形である必要はなく、それらの一部または全部は、例えば先細り形状であってもよいことにも注目されたい。これらの変形により、例えば共振器要素のTCFを調整することができる。これは、個々のビームのアスペクト比は個々のビームのTCF、ひいては共振器要素全体のTCFに影響を及ぼすからである。また、ビームの寸法と形状、および接続要素の場所、寸法、数を調整することにより、さらに自由度が増す。これは、寄生モードの周波数を、その悪影響を最小限にできる最適な周波数に設定するために用いることができる。
【0070】
図3は、類似していない中間ゾーンによって離間された4つの部分要素31Aから31Dを含む例を示している。外側の2つの部分要素31A/31B、31C/31Dそれぞれの間には、2つのトレンチ33AB/35AB、33CD/35CDと、3つの接続要素32AB/34AB/36AB、32CD/34CD/36CDがあり、中央の部分要素31B/31Cの間には、1つのトレンチ33BCと2つの接続要素32BC/34BCがある。他の構成ももちろん可能である。図3の共振器要素は、(変形)矩形4×2基本モード配列を形成している。
【0071】
図4は、中間ゾーン48AB、48BCが介在する3つの部分要素41A、41B、41Cを備える実施形態を示している。各中間ゾーンには4つの接続要素と3つのトレンチが、部分要素の長さに沿って対称に配置されている。図4の共振器要素は、矩形3×3基本モード配列を形成している。
【0072】
図5は、図2を参照して説明したものと同様の、中間ゾーン58ABから58DEによって離間された5つの部分要素51Aから51Eを備える変形を示している。要素の合計幅Wは、この例では要素の長さより大きく、要素の長さは部分要素の長さLと等しい。図5の共振器要素は、矩形5×2基本モード配列を形成している。
【0073】
一般的な実装において、部分要素の各ペアの間にある少なくとも1つのトレンチは、LEモードの節点を中心として配置される。
【0074】
要素がLEモードに対応できるようにするために、部分要素間の各中間ゾーンにおけるトレンチの合計長さは、要素の合計長さLの大部分を占めるようにするべきである。いくつかの実施形態において、この部分は50%以上、例えば75%以上である。いくつかの実施形態において、この部分は90%以上である。
【0075】
一般的な構成において、トレンチ幅は10μm以下、好ましくは、製作方法において可能な限り狭くして、トレンチの面積を最小にする。
【0076】
いくつかの実施形態において、トレンチおよび接続要素は、周波数スプリッティングや複数の同時共振モードの発生を回避するような寸法および配置にされる。この場合、A. Jaakkola, et al, 「Experimental study of the effects of size variations on piezoelectrically transduced MEMS resonators(圧電変換式MEMS共振器のサイズバリエーションの影響に関する実証研究)」, Proc. IEEE International Frequency Control Symposium, 2010, pp. 410-414, http://dx.doi.org/10.1109/FREQ.2010.5556299の原理に従うことができる。
【0077】
いくつかの例において、共振モードは基本モードであり、アスペクト比は2から4である。例えば2.6から3.4であってもよい。いくつかの例において、共振モードは2次モード以上であり、アスペクト比は3から10である。例えば2次モードで4.0から8.0であってもよい。
【0078】
図6は、懸架された共振器要素を示している。支持構造60は、外側の部分要素の長手方向の外側側面における節点にある固定具69を除いたすべての位置にある隙間によって、共振器要素61から離間されている。これによって、共振器要素61は、前述のようにLEモードで自由に振動できる。
【0079】
前述の各実施形態において、各部分要素について少なくとも1つ、一般的には2つ以上の接続要素が、要素が共振するように構成される共振モードの非節点に配置される。これにより、複数の部分要素が確実に結合され、連なって振動する。
【0080】
最後に、図7Aから図7Cは、従来の共振器に対する本共振器の違いを示している。図7Aは、2つの自由端を有する高アスペクト比の単一ビームを示している。図7Bは、幅方向に拡張され、事実上の矩形プレートになっているビームを示している。そのような共振器はより低いESRを有し、[110]方向で用いることができるが、[100]結晶方向に配向するとLEモードで機能しないため、温度補償することができない。図7Cは、本発明の一実施形態による共振器要素を示している。この手法は、要素の側面が[100]結晶方向に配向されても機能し、図7Bにおける[110]方向のプレートと同様の低ESRを有する。
【0081】
図8Aは、2次LEオーバートーン共振モードに対応できる共振器を示している。この共振器の共振器要素は、複数(ここでは11)の部分要素で形成されている。各部分要素は、連なって配置された2つの細長いトレンチによって隣接する部分要素から離間され、3つの接続要素によって隣接する部分要素と接続されている。図示する共振器プレートの寸法が326μm×180μmである場合、共振周波数はほぼ40MHzである。図8Aの共振器要素は、矩形11×2基本モード配列を形成している。
【0082】
図8Bは、FEMソフトウェアによってシミュレーションされた、図8Aの形状のLEモード共振モード形状を示している。対称であるため、共振器全体の半分のみを示している。灰色の影付き部分は、各位置における合計変位を示している。図示されるように、各部分要素は同じ集団モードで共振する。2次(および他の偶数次の共振)において、モード形状は対称ではなく、部分要素の一端が縮み、他端が伸びる。
【0083】
図9Aは、基本LE共振モードに対応できる別の共振器を示している。共振器プレートの寸法が300μm×180μmである場合、共振周波数はほぼ20MHzである。図9Aの共振器要素は、矩形5×1基本モード配列を形成している。
【0084】
図9Bは、FEMソフトウェアによってシミュレーションされた、図9Aの形状における東南の対称な4分の1部分におけるLEモード共振モード形状を示している。
【0085】
図10は、幅対長さアスペクト比をほぼゼロ(極めて薄いビーム)から1まで変化させたビーム(ここでは部分要素に相当する)のモード周波数のグラフを示している。点線は、基本LEモード(LE1)およびオーバートーンモードLE2からLE4を示している。LExモード分枝に沿って、パラメータLによって定められた方向のLExモードが、点線領域のみに存在する。
【0086】
図11は、複数(19)の部分要素111Aを備える高次(9次)オーバートーン長さ伸張共振器要素の例を示している。これらの部分要素は幅方向に積層され、長手方向の両側面における節点から固定要素119によって固定されている。例えば、約120MHzで振動する共振器を形成するには、要素の寸法を225μm×170μmに設定することができる。
【0087】
図12は、図11に類似した構成であるが、共振器の中央に空隙118を設けることによって、すなわち、部分要素の中央の基本要素のいくつか(この場合、5×3の基本要素)を「取り除く」ことにより、共振器の中央で固定要素129を用いて固定されている。したがって、得られる構造は、異なる長さを有する2タイプの部分要素121A、121Bを備える。短いほうの部分要素121Bの長さは、長いほうの要素121Aの長さの整数分数である。外装形状が変更されてもプレートの集団共振モード特性は維持されることが分かっている。
【0088】
一般的に、本共振器の設計では、複合共振器の所望の(集団)モード特性を失うことなく、所望の基本要素を(好ましくは対称に)取り除くことができる。この場合、中央に空隙があってもLE共振モード特性が維持されるため、有利である。中央における固定に関しては、共振器要素に影響を及ぼす可能性のあるパッケージ応力を最小にする観点から、有益である。中央における固定は、低音響損失の観点からも有益である。これにより、共振器のQ値が向上する。本発明による構造の高い対称性により、損失が低減される。
【0089】
図13は、共振器プレートの角の基本要素が取り除かれた、非矩形形状の例を示している。この場合も、得られる構造は、異なる長さを有する2タイプの部分要素131A、131Bを備える。この場合も、外装形状が変更されてもプレートの集団共振モード特性は維持される。空きになったゾーン113は、例えば、構成要素の電気的相互接続および/またはビアに用いることができる。
【0090】
したがって、一般的なダイシング加工では複数の構成要素を含むウェハがそれぞれ単一の構成要素を含む矩形部分に切断されることを考慮すると、図12および図13で例示したような中空および/または非矩形共振器要素は、共振器構成要素の設置面積を最小にすることができるため有益である。共振器領域が占めない領域は、固定または内部接続もしくは外部接続の目的に用いることができる(これらは単に可能性のある用途を挙げたのみである)。図12および図13の実施形態を組み合わせて、中空かつ非矩形の共振器要素を設けることもできる。
【0091】
図11から図13の共振器要素は、矩形19×11基本モード配列を形成している。図11の各配列位置はすべて使用されているが、図12および図13には空いている配列位置がある。
【0092】
図14A図12に類似しているが、より低い周波数(オーバートーン3)用に構成された実施形態を示している。この実施形態における空隙148Aは、1つの部分要素におけるすべての基本要素を「取り除き」、空隙148Aの長手方向端部で長い接続要素147Aを用いることにより設ける。固定要素149Aによる中央固定が施される。
【0093】
図14Bはさらなる変形を示しており、図14Aの長い接続要素147Aが省略され、共振器が事実上、2要素の共振器となり、1つの要素がそれぞれ現在説明しているような種類の要素である。図14Aの設計のように、周囲の基板への固定に、裏側または上のウェハへの構造的な接触が不要であるため、加工が単純な形状である。共振器の2つの要素間で集団モードが存在するようにするには、それらの要素の相互の結合が弱すぎないように固定を行う必要がある(弱すぎると、製造過程の欠陥により、2つの異なるピークが生じる可能性がある)。
【0094】
図14Cおよび図14Dは、図14A図14Bの利点を組み合わせた実施形態を示しており、中央の固定と、アクチュエータへの容易な電気的アクセスの両方を設け、弱い結合という潜在的な問題を克服している。図14Cの構成では、1つの複合モードが存在するように、1つの長い接続要素147Cと、中央固定ゾーンに延在する支持構造148Cと、要素の対辺の固定要素149Cとを用いて左側と右側を結合している。図14Dの実施形態は図14Cの実施形態と同様であるが、ここでは、部分要素141Dを含み、長さが他の部分要素141Cの整数分数である1つの完全な基本要素によって、十分な結合が達成され、確実にされている。
【0095】
図14Aから図14Dの共振器要素は、矩形11×3基本モード配列を形成しており、図14Aから図14Cでは空いている配列位置が3つあり、図14Dでは空いている配列位置が2つある。(結合強さによっては、図14Bの実施形態は2つの5×1配列と見なすこともできる)。
【0096】
全般的に、いくつかの実施形態において、図12図13図14Dのように、少なくとも2つの異なるタイプの部分要素がある。第1タイプは第1の長さを有し、第2タイプは第1の長さの整数分数である第2の長さを有する。これは、異なるタイプの部分要素を、集団基本共振モードの異なるオーバートーンモードで励起するためである。
【0097】
いくつかの例において、図12および図14Dのように、第2(短い)タイプである少なくとも1つの部分要素は、第1(長い)タイプである2つの部分要素の間に配置される。これによって、中央固定のための空間が確保される。例えばこの場合、共振器要素は、第2タイプの部分要素の両側にある第1タイプの2つの部分要素から支持構造に懸架される。
【0098】
いくつかの例において、図12の例のように、共振器要素は、2つ以上の第2タイプの部分要素と2つの第1タイプの部分要素とによって画定される空隙を有する。支持構造はこの空隙内に少なくとも部分的に配置され、共振器要素はこの空隙内で支持構造に懸架される。したがって、共振器要素は中央で固定され、横面で固定位置を取り囲む。
【0099】
いくつかの実施形態において、図14Dに示す実施形態のように、共振器要素は、1つ以上の第2タイプの部分要素と2つの第1タイプの部分要素とによって画定される窪み(すなわち、横方向の凹部)を有する。支持構造はこの窪み内に延在するように少なくとも部分的に配置され、共振器要素はこの窪み内で支持構造に懸架される。
【0100】
空隙構成と窪み構成の両方によって、中央の固定を達成することができる。これは共振器の損失を最小にするために用いることができる。空隙構成は完全に対称な共振器を達成できるという利点を有する。一方、窪み構成では、一般的に圧電駆動層を含む共振器表面への電気的アクセスがより容易になる。窪み構成により、ウェハ内のシリコン貫通ビアを完全に回避することができる。空隙構成では、空隙の領域にウェハ内のシリコン貫通ビアを配置することがきる。
【0101】
図15Aは、図8Aの共振器に相当する、圧電結合された2次オーバートーンモード共振器において測定された広域周波数範囲のアドミタンスのグラフを示している。この共振器は、ウェハ上にSi/AlN/Mo材料をそれぞれ28/1/0.3μmの厚さで積層して作成されている。42MHzの主要モードが正確に励起されることが推定できる。すなわち、わずかな寄生共振モード(例えば18MHz)しか存在せず、これらは主要モードよりもかなり弱く結合されている。
【0102】
図15Bは、図15Aの設計(「11ビーム」と表示)における主共振のアドミタンスのグラフと、図15Aと同様であるが結合されたビーム要素数が少ない共振器(「7ビーム」および「3ビーム」と表示)における主共振のグラフの詳細を示している。測定結果へのフィッティングによって得られた共振器品質係数Q、並列容量C、および等価直列抵抗R(=ESR)が、3つのケースすべてに対して示されている。これらの数値は、結合されたビーム要素の数に比例して共振器幅が増加した場合、ESRがいかに減少するかを示している。
【0103】
図15Cは、図15Aの共振器(「積層LEビームオーバートーン2」と表示)において測定された周波数対温度曲線と、国際出願公開公報第2018/002439号に記述されているものに類似の複合WE-ラーメ(WE-Lame)モード共振器の同じ特性を示している。いずれの共振器も、7×1019cm-3のn型ドーピングを施した同様のウェハ上に作成されている。前者の共振器の線形温度係数TCF1は、後者の共振器の同じパラメータより約4単位高いことが分かる。したがって、より高い過補償が得られる。これには、例えば、圧電駆動の目的でより厚いAlN層を用いて、温度補償設計を達成することができるという利点がある。
【0104】
図16Aは、側部同士で結合された短い部分要素からなる4つの分岐を有し、各分岐は中央の支持要素に節点で固定される共振器要素構成を示している。各分岐要素は6×1基本モード配列共振器要素であり、部分要素間に非節点内部結合部を有している。
【0105】
図16Aのある変形(詳細は図示しない)において、分岐間の集団共振を確実にするために、中央要素を共振部分要素とし、中央部分要素への分岐の結合部を非節点としてもよい。これにより、13×2基本モード配列が形成される。
【0106】
図16Bは、11列の基本モード部分要素を3行備える、長手方向に結合された共振器プレートの上面図を示している。各行は、可撓性の長手方向接続要素を用いて、その両端で他の行に結合されている。各行は、前述のように、剛性の接続要素を用いて内部で結合されている。11×3基本要素配列が形成されている。
【0107】
図17Aから図17Eは、長手方向に結合された部分要素間において可能な、様々な可撓性接続要素の形状を示している。図16Bの構成にも用いられた、側面接続可能である形状の「C」形状が図17Aに示されている。端部接続可能な形状が、図17Bから図17Eに示されている。これらは、端部接続可能な、図17BのC形状、図17C図17DのS形状、および図17Eの傾斜I形状を示している。図示したもの以外の他の可撓性形状や変形が可能であることは理解されるであろう。
【0108】
図18Aから18Cは、共振器プレートレベルにおける様々な長手方向結合の選択肢の例を模式的に示している。図示されるように、長手方向結合部は、任意の構成、好ましくは対称構成で、例えば図17Bから図17Eの要素(図18Aから図18Cには詳細に図示されない接続要素)を用いて、長手方向要素間に直接配置することができる。
【0109】
前述の例に示したように、同じ列内の部分要素を端部間接続する代わりに、またはそれに加えて、列境界を越えて幅方向に延在する長い要素を用いて、異なる列の部分要素を接続することができる(図示しない)。
【0110】
図19Aから図19Dは、それぞれ少なくとも1つのT型分岐を有する可撓性接続要素のさらなる例を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0111】
【文献】国際出願公開公報第2012/110708号
【文献】国際出願公開公報第2018/002439号
【非特許文献】
【0112】
【文献】Ho et al, 「HIGH-ORDER COMPOSITE BULK ACOUSTIC RESONATORS(高次複合バルク音響共振器)」, MEMS 2007, Kobe, Japan, 21-25 January 2007
【文献】Kuypers J., 「High Frequency Oscillators for Mobile Devices(モバイルデバイス用高周波発振器)」, in H. Bhugra, G. Piazza (eds.), Piezoelectric MEMS Resonators, Microsystems and Nanosystems, DOI 10.1007/978-3-319-28688-4_15, pp 335-385
【文献】A. Jaakkola, et al, 「Experimental study of the effects of size variations on piezoelectrically transduced MEMS resonators(圧電変換式MEMS共振器のサイズバリエーションの影響に関する実証研究)」, Proc.IEEE International Frequency Control Symposium, 2010, pp. 410-414, http://dx.doi.org/10.1109/FREQ.2010.5556299
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図17
図18
図19