(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】液体培地の調製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20240312BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240312BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N1/00 F
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020554981
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043031
(87)【国際公開番号】W WO2020091041
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-31
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】平 就介
(72)【発明者】
【氏名】須澤 敏行
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/091023(WO,A1)
【文献】特開2018-068279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
C12P1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末培地を酸素存在下で溶媒に溶解する工程を含む、液体培地の調製方法であって、
酸素を含む気体を前記溶媒中にスパージする操作を含む、液体培地の調製方法。
【請求項2】
前記粉末培地が銅またはその誘導体を含む、請求項1に記載の液体培地の調製方法。
【請求項3】
前記銅またはその誘導体が、銅の単体、酸化物、塩またはその水和物である、請求項2に記載の液体培地の調製方法。
【請求項4】
前記銅またはその誘導体が、硫酸銅(II)五水和物、塩化銅(II)二水和物、塩化銅(I)もしくは硝酸銅(II)三水和物またはこれらの混合物である請求項2または3に記載の液体培地の調製方法。
【請求項5】
システイン、シスチンまたはそれらの誘導体を添加する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体培地の調製方法。
【請求項6】
前記溶媒を撹拌する操作を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の液体培地の調製方法。
【請求項7】
前記粉末培地を酸素存在下で前記溶媒に溶解する工程の後に、更に膜ろ過の工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の液体培地の調製方法。
【請求項8】
前記膜ろ過に用いるろ過膜の孔径が1nmから100μmである、請求項7に記載の液体培地の調製方法。
【請求項9】
前記溶媒又は前記液体培地中の溶存酸素濃度を測定する工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体培地の調製方法。
【請求項10】
前記液体培地の調製前または調製中に、前記溶媒又は前記液体培地中の溶存酸素濃度を測定する工程を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の液体培地の調製方法。
【請求項11】
前記液体培地の調製時において、前記溶媒が飽和溶存酸素量の20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の酸素を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の液体培地の調製方法。
【請求項12】
前記溶媒の量が10~10000Lである、請求項1~
11のいずれか1項に記載の液体培地の調製方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の調製方法により調製された液体培地を用いる細胞の培養方法。
【請求項14】
前記細胞がポリペプチドを発現する細胞である、請求項13に記載の細胞の培養方法。
【請求項15】
前記ポリペプチドが抗体である、請求項14に記載の細胞の培養方法。
【請求項16】
前記細胞が動物細胞である、請求項13~15のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
【請求項17】
前記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項
16に記載の細胞の培養方法。
【請求項18】
前記細胞が遺伝子組換え細胞である、請求項13~
17のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
【請求項19】
所望のポリペプチドを発現する細胞を、請求項1~12のいずれか1項に記載の調製方法により調製された液体培地中で培養し、培養物中に該ポリペプチドを生産蓄積させ、該培養物から該ポリペプチドを採取することを特徴とする、ポリペプチドの製造方法。
【請求項20】
前記ポリペプチドが抗体である、請求項19に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項21】
前記細胞が動物細胞である、請求項19または20に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項22】
前記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項21に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項23】
前記細胞が遺伝子組換え細胞である、請求項20~22のいずれか1項に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項24】
ポリペプチドを発現する細胞を培養する工程において、請求項1~12のいずれか1項に記載の調製方法により調製された液体培地を使用する、該ポリペプチド由来のバリアントの生成を制御する方法。
【請求項25】
前記ポリペプチドが抗体である、請求項24に記載のバリアントの生成を制御する方法。
【請求項26】
前記バリアントが、C末端プロリンがアミド化された抗体である、請求項25に記載のバリアントの生成を制御する方法。
【請求項27】
前記細胞が動物細胞である、請求項24~26のいずれか1項に記載のバリアントの生成を制御する方法。
【請求項28】
前記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項27に記載のバリアントの生成を制御する方法。
【請求項29】
前記細胞が遺伝子組換え細胞である、請求項24~28のいずれか1項に記載のバリアントの生成を制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体培地の調製方法、該調製方法により調製された液体培地、該調製方法により調製された液体培地を用いる細胞の培養方法、該培養方法を用いた所望の品質を有するポリペプチドの製造方法および該製造方法を用いて製造される所望の品質を有するポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生理活性物質、中でもポリペプチド、糖蛋白質または抗体を有効成分として含む、種々のバイオ医薬品が認可され、さらに多くの候補物質が開発中である。
【0003】
低分子医薬品と比較してバイオ医薬品の製造コストが高いことは、医薬産業における課題である。これまでに、細胞培養に用いられる液体培地において、一部成分の補強、新規成分の追加や高濃度化などの液体培地の改良により、バイオ医薬品の生産性向上を達成し、コスト削減を図る取り組みがなされてきている。細胞培養に用いられる液体培地には、細胞増殖及びバイオ医薬品の有効成分である生理活性物質の産生に必要な複数の栄養分を十分量含有している必要がある。一般的に、細胞培養に用いられる液体培地には、成分として、アミノ酸類、核酸類、糖類、脂質類、ビタミン類、金属類、無機塩類およびそれらの誘導体等が含まれ、これらの成分が液体培地中に溶解した状態で細胞に利用され、細胞の増殖、生存および生理活性物質の生産に利用される。
【0004】
細胞培養に用いられる液体培地の組成または成分の一部は、産生されるバイオ医薬品の有効成分の品質に影響を与えることが知られている。バイオ医薬品としての目標品質を満たすため、バイオ医薬品の有効成分の品質に影響する培地成分の特定または組成の最適化が液体培地の開発において重要である。特に、細胞培養に用いられる液体培地に含まれる金属類は極めて微量である一方で、生産される生理活性物質の生産性または品質に影響することが報告されている(非特許文献1)。例えば、細胞培養に用いられる液体培地に含まれる銅の濃度が細胞増殖もしくは生産性、または産生される抗体の品質に影響を与えることが知られている(非特許文献2)。
【0005】
このような背景から、バイオ医薬品の生産性を向上させ、所望の品質のバイオ医薬品を生産させるために、生理活性物質の生産に最適な液体培地を調製することに対する要求は増している。
【0006】
一方、バイオ医薬品を製造する上では、細胞を用いた培養を適切に実施し、製品の安全性を確保するために、細胞培養に用いられる培地の無菌性を担保する必要がある。このため、液体培地を培養に利用するに際し、例えば0.2μmの孔径を有する膜でろ過すること等により無菌性を確保することが一般的に行われる。最近では、微生物除去だけでなくマイコプラズマ除去を目的とした0.1μm膜を用いたろ過工程の利用が推奨され、潜在的ウイルスを除去可能なろ過膜の開発も進められるようになってきている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】D. Bruhlmann et al., Biotechnology Progress, 2015, 31, 615-629
【文献】T. Kaschak et al., mAbs, 2011, 6, 577-583
【文献】R. J. Hay et al., Nature, 1989, 339, 487-488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液体培地は粉末培地を溶媒に溶解させて調製されるが、溶解工程において培地成分の一部が溶媒に溶解していないと、その不溶成分はろ過工程で除去されることになる。従って、液体培地の調製工程においては、培地の組成がろ過工程の前後で変化しないように、ろ過工程の前に、培地成分を溶媒に効果的に溶解させなければならない。
【0009】
本発明者らは、特に大規模に液体培地の調製を行うと、溶媒への培地成分の溶解性が低下し、ろ過前後で培地の成分が変化することを見出した。また、大規模に調製された液体培地を用いてポリペプチドの製造を行うと、ポリペプチド由来の不純物であるバリアントの量が増加することを初めて見出した。
【0010】
すなわち本発明は、培地成分を溶媒に効果的に溶解させた液体培地の調製方法、該調製方法により調製された液体培地、該調製方法により調製された液体培地を用いる細胞の培養方法、該培養方法を用いた所望の品質を有するポリペプチドの製造方法および該製造方法を用いて製造される所望の品質を有するポリペプチドに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、所望の量の成分を含む培地の調製方法を鋭意検討した。その結果、液体培地の調製工程において、培地調製時の酸素濃度を制御することで、効果的に培地成分を溶媒中に溶解させ、所望の成分および量を含む液体培地を調製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下に関する。
1.粉末培地を酸素存在下で溶媒に溶解する工程を含む、液体培地の調製方法。
2.前記粉末培地が銅またはその誘導体を含む、前記1に記載の液体培地の調製方法。
3.前記銅またはその誘導体が、銅の単体、酸化物、塩またはその水和物である、前記2に記載の液体培地の調製方法。
4.前記銅またはその誘導体が、硫酸銅(II)五水和物、塩化銅(II)二水和物、塩化銅(I)もしくは硝酸銅(II)三水和物またはこれらの混合物である前記2または3に記載の液体培地の調製方法。
5.システイン、シスチンまたはそれらの誘導体を添加する工程を含む、前記1~4のいずれか1に記載の液体培地の調製方法。
6.以下の(i)および(ii)から選ばれる少なくともいずれか1つの操作を含む、前記1~5のいずれか1に記載の液体培地の調製方法;
(i)酸素を含む気体を上面通気させ、前記気体と前記溶媒とを接触させる操作、および
(ii)前記酸素を含む気体を前記溶媒中にスパージする操作。
7.前記溶媒を撹拌する操作を含む、前記1~6のいずれか1に記載の液体培地の調製方法。
8.前記粉末培地を酸素存在下で前記溶媒に溶解する工程の後に、更に膜ろ過の工程を含む、前記1~7のいずれか1に記載の液体培地の調製方法。
9.前記膜ろ過の前後で前記液体培地中の銅濃度が実質的に変化しないことを特徴とする、前記8に記載の液体培地の調製方法。
10.前記膜ろ過に用いるろ過膜の孔径が1nmから100μmである、前記8または9に記載の液体培地の調製方法。
11.前記溶媒又は前記液体培地中の溶存酸素濃度を測定する工程を含む、前記1~10のいずれか1に記載の液体培地の調製方法。
12.前記液体培地の調製前または調製中に、前記溶媒又は前記液体培地中の溶存酸素濃度を測定する工程を含む、前記1~11のいずれか1に記載の液体培地の調製方法。
13.前記液体培地の調製時において、前記溶媒が飽和溶存酸素量の20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の酸素を含む、前記1~12のいずれか1に記載の液体培地の調製方法。
14.前記溶媒の量が10~10000Lである、前記1~13のいずれか1に記載の液体培地の調製方法。
15.前記1~14のいずれか1に記載の調製方法により調製された液体培地。
16.前記15に記載の液体培地を用いる細胞の培養方法。
17.前記細胞がポリペプチドを発現する細胞である、前記16に記載の細胞の培養方法。
18.前記ポリペプチドが抗体である、前記17に記載の細胞の培養方法。
19.前記細胞が動物細胞である、前記16~18のいずれか1に記載の細胞の培養方法。
20.前記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、前記19に記載の細胞の培養方法。
21.前記細胞が遺伝子組換え細胞である、前記16~20のいずれか1に記載の細胞の培養方法。
22.所望のポリペプチドを発現する細胞を、前記15に記載の液体培地中で培養し、培養物中に該ポリペプチドを生産蓄積させ、該培養物から該ポリペプチドを採取することを特徴とする、ポリペプチドの製造方法。
23.前記ポリペプチドが抗体である、前記22に記載のポリペプチドの製造方法。
24.前記細胞が動物細胞である、前記22または23に記載のポリペプチドの製造方法。
25.前記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、前記24に記載のポリペプチドの製造方法。
26.前記細胞が遺伝子組換え細胞である、前記22~25のいずれか1に記載のポリペプチドの製造方法。
27.前記22~26のいずれか1に記載の製造方法を用いて製造されたポリペプチド。
28.ポリペプチドを発現する細胞を培養する工程において、前記15に記載の液体培地を使用する、該ポリペプチド由来のバリアントの生成を制御する方法。
29.前記ポリペプチドが抗体である、前記28に記載のバリアントの生成を制御する方法。
30.前記バリアントが、C末端プロリンがアミド化された抗体である、前記29に記載のバリアントの生成を制御する方法。
31.前記細胞が動物細胞である、前記28~30のいずれか1に記載のバリアントの生成を制御する方法。
32.前記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、前記31に記載のバリアントの生成を制御する方法。
33.前記細胞が遺伝子組換え細胞である、前記28~32のいずれか1に記載のバリアントの生成を制御する方法。
【発明の効果】
【0013】
驚くべきことに本発明者らは、細胞培養用液体培地の調製方法において、粉末培地を酸素存在下で溶媒に溶解する工程を含むことで、培地調製時の酸素濃度を制御して、効果的に培地成分を溶媒中に溶解させ、所望の成分および量を含む液体培地を調製できることを初めて見出した。さらに本発明者らは、得られた所望の成分および量を含む液体培地を細胞培養に使用し、所望の品質を有するポリペプチドを製造できることを見出した。
【0014】
すなわち本発明により、培地成分を溶媒中に効果的に溶解させる液体培地の調製方法、該調製方法により調製された液体培地、該調製方法により調製された液体培地を用いる細胞の培養方法、該培養方法を用いた所望の品質を有するポリペプチドの製造方法および該製造方法を用いて製造される所望の品質を有するポリペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、粉末培地を水に添加後、空気を通気しながら所定の時間撹拌することにより調製された培地の銅濃度を示す。
図1Aにおいて、黒い棒グラフはろ過前の培地の銅濃度、白い棒グラフはろ過後の培地の銅濃度を示す。
【
図1B】
図1Bは、粉末培地を水に添加後、窒素を通気しながら所定の時間撹拌することにより調製された培地の銅濃度を示す。
図1Bにおいて、黒い棒グラフはろ過前の培地の銅濃度、白い棒グラフはろ過後の培地の銅濃度を示す。
【
図2】
図2は、各溶存酸素濃度条件で調製された液体培地の銅濃度を示す。黒い棒グラフはろ過前の培地の銅濃度、白い棒グラフはろ過後の培地の銅濃度を示す。
【
図3】
図3は、各溶存酸素濃度条件で調製された液体培地を用いて抗体生産細胞の培養を行い、得られた抗体のBasic Peaksの割合を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、粉末培地を酸素存在下で溶媒に溶解する工程を含む、液体培地の調製方法に関する。
【0017】
本発明における培地は、市場で入手可能な培地から適宜選択でき、また2種類以上の培地を混合してもかまわない。さらに文献に記載された公知の培地等も選択できる。これらの培地に所望の栄養因子を適宜選択して添加することもできる。さらに、所望の栄養因子を適宜選択した成分で培地を構成してもかまわない。
【0018】
本発明における培地は、合成培地、半合成培地または天然培地のいずれでもよい。例えば、基礎培地、血清含有培地、無血清培地、動物由来成分を含まない培地、無蛋白質培地または完全合成培地等が挙げられ、好ましくは無血清培地、無蛋白質培地または完全合成培地が挙げられる。
【0019】
本発明における基礎培地としては、例えば、RPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association, 199, 519 (1967)]、EagleのMEM培地[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変MEM (DMEM)培地[Virology, 8, 396 (1959)]、199培地[Proceeding of the Society for the Biological Medicine, 73, 1 (1950)]、F12培地(LTI社製)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 53, 288 (1965)]、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM培地)[J. Experimental Medicine, 147, 923 (1978)]、EX-CELL(登録商標)302培地、EX-CELL(登録商標)325培地(SAFCバイオサイエンス社製)、CHO-S-SFMII培地(インビトロジェン社製)、などの市販培地、またはこれらの改変培地や混合培地等が挙げられ、好ましくはRPMI1640培地、DMEM培地、F12培地、IMDM、EX-CELL(登録商標)302培地またはハイブリドーマSFM培地(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0020】
本発明における血清含有培地としては、例えば、基礎培地に、ウシ、ウマ等の哺乳類動物血清、ニワトリ等の鳥類動物血清、ブリ等の魚類動物血清、または、上記血清の分画物の内、1種以上の血清、または血清分画物を添加したものが挙げられる。
本発明における無血清培地としては、基礎培地に、血清の代替物である栄養因子、生理活性物質等を添加させたものが挙げられる。
【0021】
本発明における動物由来成分を含まない培地において、動物由来成分の代わりに添加される物質としては、遺伝子組換え法で製造された生理活性物質、加水分解物または動物由来原料を含まない脂質等が挙げられる。
【0022】
本発明における無蛋白培地としては、例えば、ADPF培地(Animal derived protein free medium、ハイクローン社製)、CD-Hybridoma培地(インビトロジェン社製)、CD-CHO培地(インビトロジェン社製)、IS-CD-CHO培地(アーバイン・サイエンティフィック社製)、EX-CELL(登録商標)CD-CHO培地(SAFCバイオサイエンス社製)等が挙げられる。
【0023】
本発明における培地としては、例えば、微生物培養用の培地、昆虫細胞培養用の培地、酵母細胞培養用の培地、植物細胞培養用の培地または動物細胞培養用の培地等が挙げられ、好ましくは動物細胞培養用の培地が用いられる。
【0024】
本発明における細胞培養用の培地としては、細胞培養に適した培地であればいずれも用いることができるが、好ましくは動物細胞培養用の培地が挙げられ、さらに好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養用の培地が挙げられる。
【0025】
本発明における培地としては、特に制限はないが、例えば、拡大培養培地、基本(初発)培地、フィード(流加)培地または還流用培地等が挙げられる。
【0026】
本発明における粉末培地は、粉末形態で存在する培地であればいずれも用いることができる。本発明における粉末培地には顆粒形態で存在する培地も含まれる。
【0027】
本発明における粉末培地の製造方法は特に限定はないが、好ましくは、乾燥成分のディスクミル、ボールミル、ピンミル等のような混合プロセスによる製造方法、または事前に作られた液体培地の凍結乾燥による製造方法等が挙げられる。
【0028】
本発明における顆粒形態で存在する粉末培地の製造方法は特に限定されないが、Advanced Granulation Technology(登録商標)等が挙げられる。また、細粒化した成分に、更に天然糊料、合成糊料、糖類、及び油脂類からなる群から選択された少なくとも1種類の素材を溶解した溶液を噴霧し乾燥させる工程が含まれてもよい。
【0029】
本発明における液体培地としては、特に限定されるものではないが、好ましくは細胞等を培養することができる培地が挙げられる。本発明における液体培地は、粉末培地を溶媒に溶解することにより調製される。
【0030】
液体培地を調製するために用いられる溶媒は、粉末培地が溶解すればいずれも用いることができるが、例えば水、または予め栄養因子および/もしくは緩衝成分等を含む水溶液等が挙げられる。また、液体培地をさらに溶媒として用いることもできる。
【0031】
液体培地を調製するために用いられる溶媒の量としては、目的のポリペプチドの生産に必要な所望の量の液体培地を調製するために適した量であれば特に限定されないが、所望の培養スケールまたは培養容器の大きさに応じて、10L~10000Lの範囲で調製する。
【0032】
本発明における栄養因子は、糖類などの炭素源、アミノ酸などの窒素源が含まれ、特に糖類、アミノ酸、ビタミン、脂質、核酸、生理活性物質、脂肪酸、有機酸、蛋白質、加水分解物または金属もしくはその塩等が挙げられる。また、これらの化合物は、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩もしくはアンモニウム塩等の塩及び/または例えば水和物等の溶媒和物を形成していてもよい。
【0033】
本発明における糖類は、単糖、オリゴ糖、多糖のいずれでもよく、特に限定されない。さらにデオキシ糖、ウロン酸、アミノ糖または糖アルコール等の糖誘導体も含まれる。例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、リボース、アラビノース、リブロース、エリトロース、エリトルロース、グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン、セドヘプツロース、マルトース、ラクトースまたはスクロース等が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0034】
本発明におけるアミノ酸としては、特に限定されないが、例えば、L-アラニン(Ala)、L-アルギニン(Arg)、L-アスパラギン(Asn)、L-アスパラギン酸(Asp)、L-システイン(Cys)、L-グルタミン酸(Glu)、L-グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、L-ヒスチジン(His)、L-イソロイシン(Ile)、L-ロイシン(Leu)、L-リジン(Lys)、L-メチオニン(Met)、L-フェニルアラニン(Phe)、L-プロリン(Pro)、L-セリン(Ser)、L-スレオニン(Thr)、L-トリプトファン(Trp)またはL-バリン(Val)等が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。また、シスチン等の多量体を用いてもよい。ペプチドまたはその多量体として添加してもよく、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、L-アラニル-L-システインまたはグルタチオン等が挙げられる。
【0035】
本発明におけるビタミンとしては、特に限定されないが、例えば、d-ビオチン、D-パントテン酸、コリン、葉酸、myo-イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミンまたはDL-α-トコフェロール等が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0036】
本発明における脂質としては、特に限定されないが、例えば、コレステロール、リノール酸またはリノレイン酸等が挙げられる。
【0037】
本発明における生理活性物質としては、特に限定されないが、例えば、インシュリン、トランスフェリン、血清アルブミンまたは増殖因子を含む血清分画物等が挙げられる。これらの生理活性物質には遺伝子組換え技術または化学合成技術を用いて製造された生理活性物質も含まれる。
【0038】
本発明における加水分解物としては、特に限定されないが、例えば、大豆、小麦、米、えんどう豆、綿実、魚または酵母抽出物等の加水分解物または抽出物等が挙げられる。具体的にはSOY HYDROLYSATE UF(SAFC Bioscience社製、カタログ番号:91052-1K3986、または91052-5K3986)等が挙げられる。
【0039】
本発明における金属としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、バナジウム、銅、カドミウム、ルビジウム、コバルト、ジルコニウム、ゲルマニウム、ニッケル、スズ、クロムまたはケイ素等が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0040】
本発明における緩衝成分としては、特に限定されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸等が挙げられる。
【0041】
本発明における粉末培地または液体培地の成分には、銅、システイン、シスチンおよび/またはそれらの誘導体が含まれることが好ましい。
【0042】
本発明における銅またはその誘導体としては、特に限定されないが、銅の単体、酸化物、および塩またはその水和物が挙げられる。銅の酸化物としては例えば酸化銅(I)または酸化銅(II)が挙げられる。銅の塩としては、例えばシアン化銅(I)、硫酸銅(II)五水和物、塩化銅(II)二水和物、塩化銅(I)または硝酸銅(II)三水和物などが挙げられ、硫酸銅(II)五水和物、塩化銅(II)二水和物、塩化銅(I)または硝酸銅(II)三水和物が好ましい。
【0043】
銅またはその誘導体は、調製された液体培地中の濃度が1ng/mL~1μg/mL、好ましくは1~100ng/mL、より好ましくは5ng/mL~50ng/mLになるように添加される。
【0044】
本発明におけるシステインまたはそれらの誘導体としては、特に限定されないが、L-システイン、システイン塩酸塩、システイン塩酸塩一水和物、アセチルシステイン、グルタチオンなどが挙げられる。
【0045】
本発明におけるシスチンまたはそれらの誘導体としては、特に限定されないが、L-シスチン、シスチン二塩酸塩、L-シスチン二ナトリウム塩などが挙げられる。
【0046】
システイン、シスチンまたはそれらの誘導体は、調製された液体培地中の濃度が例えば1μg/mL~10mg/mLになるように添加される。
【0047】
システイン、シスチンまたはそれらの誘導体は、その他の成分を含む粉末培地に添加した後、溶媒に溶解してもよいし、システイン、シスチンまたはそれらの誘導体を、その他の成分を含む粉末培地と別に溶媒に添加してもよい。システイン、シスチンまたはそれらの誘導体を、その他の成分を含む粉末培地と別に溶媒に添加する場合、システイン、シスチンまたはそれらの誘導体を、その他の成分を含む粉末培地より先に添加してもよいし、後に添加してもよい。
【0048】
本発明の液体培地の調製において、酸素は、粉末培地を溶解させる容器の上面の空隙から酸素を含む気体を上面通気させ、該気体と溶媒または調製される液体培地を接触させることで供給してもよいし、酸素を含む気体を溶媒中または調製される液体培地中にスパージすることで供給してもよい。
【0049】
前記酸素を含む気体としては、酸素を含有する限り特に限定されないが、例えば、純酸素、酸素と他の気体との混合物または空気などが挙げられる。前記酸素を含む気体が酸素と他の気体との混合物である場合、他の気体としては窒素、アルゴン、ヘリウムまたは二酸化炭素などが挙げられる。これらのうち1種類以上の気体と酸素を任意の混合比率で調製し供給する。
【0050】
本発明の液体培地の調製時において、供給される酸素の濃度または量としては、例えば銅等の培地成分が十分溶解し、沈殿を発生しない量であれば特に限定はないが、溶媒または調製される液体培地が飽和溶存酸素量の20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%上、99%以上または100%の酸素を含むように調整することが好ましい。より好ましくは、飽和溶存酸素量の20%以上、さらに好ましくは40%以上になるように維持する。
【0051】
溶媒または調製される液体培地中に含まれる酸素の量を維持する方法としては、連続的または断続的に酸素を含む気体を供給する方法が挙げられる。
【0052】
本発明の液体培地の調製時には、溶媒または調製される液体培地は、酸素存在下で静置または撹拌される。保持または撹拌は、例えば銅等の粉末培地が完全に溶解しその濃度が安定に維持できる期間行う。具体的には10分~10日間であり、好ましくは30分~24時間、より好ましくは30分~6時間の範囲で行う。
【0053】
撹拌により粉末培地及び酸素を溶媒に溶解させることができる。前記攪拌は、撹拌翼を、例えば1~200rpmの速度で回転させることにより行われる。また、酸素を含む気体を溶媒または調製される液体培地の下面から通気することによる、自発的な混合によっても、粉末培地及び酸素を溶解させることができる。
【0054】
本発明の液体培地の調製時における酸素の供給量は、例えば1リットルあたりの溶媒または調製される液体培地に対して1~500mL/分であり、好ましくは10~100mL/分である。溶媒または調製される液体培地に供給される酸素の濃度または量は、液体培地の調製前または調製中に、溶媒または調製される液体培地に含まれる溶存酸素濃度を、光学式またはポーラログラフ式などで測定することで容易に制御することが可能である。溶存酸素濃度を測定しながら、酸素濃度が適切に調節されていることを確認することで、銅等の粉末培地の溶解を判断することが可能である。
【0055】
本発明の液体培地の調製において、粉末培地を溶媒に一度に添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよい。また、溶媒を張り込んだ培地調製用容器に粉末を投入して溶解させてもよいし、培地調製用容器に先に粉末を投入した後に溶媒を添加してもよい。
【0056】
調製された液体培地の用途は特に限定されるものではないが、更にろ過膜を用いてろ過した後に細胞培養に供することが出来る。すなわち、本発明の液体培地の調製方法は、粉末培地を酸素存在下で溶媒に溶解する工程後に、更に膜ろ過の工程を含んでもよい。
【0057】
膜ろ過の方法としては、処理する液体培地を圧力により多孔質膜を透過させ、溶液中の微生物、成分、粒子または夾雑物等の望まない物質を除去する方法であれば、特に限定されないが、好ましくは、精密ろ過法、限外ろ過法、透析法、電気透析法または逆浸透法、更に好ましくは、精密ろ過法、限外ろ過法または透析法が挙げられる。特に好ましくは、精密ろ過法が挙げられる。
【0058】
本発明おける膜としては、特に限定されないが、好ましくは、精密ろ過膜、限外ろ過膜、透析膜、電気透析膜または逆浸透膜が挙げられる。更に好ましくは、精密ろ過膜、限外ろ過膜または透析膜が挙げられる。特に好ましくは、精密ろ過膜が挙げられる。
【0059】
膜ろ過に用いるろ過膜の孔径としては、液体培地を無菌化することができれば、特に限定されないが、好ましくは1nmから100μmであり、さらに好ましくは、5nmから10μmであり、より好ましくは10nmから1μmである。特に好ましくは、0.1μmから0.5μmである。
【0060】
本発明に用いる膜の材質としては、特に限定されないが、例えば、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル-ポリアクリロニトリル共重合体、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、セラミックス、ポリビニルアルコール、ポリビニルデンジフルオライド、セルロースの酢酸-硝酸混合エステル、ポリテトラフルオロエチレン、アルミナ、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、テトラフルオロエチレン等またはそれらの誘導体等が挙げられる。好ましくは、ポリエーテルスルホンまたはポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0061】
ポリエーテルスルホンまたは、その誘導体を用いたろ過膜の具体例としては、Millipore Express(登録商標) PLUS Membrane Filters(孔径:0.22μmまたは0.45μm)(Millipore社製)、Millipore Express SHC カートリッジ フィルター(Millipore社製)、Millipore Express SHR カートリッジ フィルター (Millipore社製)、スーポアEBV(Pall社製)、スーポア EKV(Pall社製、カタログ番号:AB3EKV7PH4)、スーポアライフ200(Pall社製)、ザルトポア(登録商標)2(膜構造:2層膜、孔径:0.2+0.1、0.45+0.2、または0.8+0.45μm)(sartorius stedim biotech社製)、ザルトポア(登録商標)2 XLG(膜構造:2層膜、孔径:0.8+0.2μm)(sartorius stedim biotech社製)、ザルトポア(登録商標)2 XLI(膜構造:2層膜、孔径:0.35+0.2μm)(sartorius stedim biotech社製)、ザルトポア2 ハイフロー(sartorius stedim biotech社製)またはPESメンブレンカートリッジフィルター TCS(孔径:0.20、または0.45μm)(ADVANTEC社製)等が挙げられる。
【0062】
ポリフッ化ビニリデンまたは、その誘導体を用いたろ過膜の具体例としては、Durapre(登録商標) Membrane Filters(孔径:0.10、0.22、0.45、0.65、または5.0mm)(Millipore社製)、Durapore II Hydrophilic Filter Cartridge GV(Millipore社製)、Durapore II Hydrophilic Filter CartridgeVV(Millipore社製)、フロロダイン(登録商標)II-DFLP(Pall社製)、フロロダインII-DBLP(Pall社製)、フロロダインII-DJLP(Pall社製)、ウルチポアVF-DV20(Pall社製)またはウルチポアVF-DV50(Pall社製)等が挙げられる。
【0063】
ポリエーテルスルホンまたはその誘導体とポリフッ化ビニリデンまたはその誘導体を組み合わせたろ過膜の具体例としては、Fluorodyne(登録商標) EX Grade EDF Membrane Filter Cartridge(Pall社製、カタログ番号:AB3UEDF7PH4)等が挙げられる。
【0064】
ポリエーテルスルホンまたは、ポリフッ化ビニリデン以外の膜材質を用いたろ過膜としては、Omnipore (登録商標) Membrane Filters(孔径:0.1、0.2、0.45、1.0、5.0、または10μm)(Millipore社製)、MF-Millipore(登録商標) Membrane Filters(孔径:0.025、0.05、0.1、0.22、0.3、0.45、0.65、0.8、1.2、3、5、または8μm)(Millipore社製)、Nylon Membrane Filters(孔径:0.20、または5.0μm)(Millipore社製)、ウルチポアN66(孔径:0.2、または0.45μm)(Pall社製)、ポジダイン(登録商標)(孔径:0.10、0.20、0.3、または0.45μm)(Pall社製)、バラファインVFSP(孔径:0.2、または0.45μm)(Pall社製)、バラファインVFSE(孔径:0.02、0.1、または0.2μm)(Pall社製)、バラファイン VFSG(孔径:0.02、0.1、または0.2μm)(Pall社製)、ザルトロン(sartorius stedim biotech社製)、アセテートメンブレンカートリッジフィルター TCR(孔径:0.20、0.45、または8.0μm)(ADVANTEC社製)またはユミクロンカートリッジフィルター(孔径:0.2、0.4、0.6、0.9、または2.5μm)(ユアサメンブレンシステム社製)等が挙げられる。
【0065】
また、本発明に用いるろ過膜としては、例えば、マイレクス(Millex)フィルターユニット (Millipore社製、カタログ番号:SLGV033RS)の様に、1枚からなるろ過膜構造を取ってもよく、また、0.5/0.2μm Express SHC Disk W/Typar(Millipore社製、カタログ番号:HGEP02550)の様に1枚以上のプレフィルターが付属されることにより、2層以上の構造の膜または2枚以上の膜を組合せてもよい。
【0066】
本発明において調製される液体培地は、膜ろ過の前後で液体培地中の成分濃度が実質的に変化しないことを特徴とする。膜ろ過の前後で液体培地中の成分濃度が実質的に変化しないとは、具体的には例えば、該成分が銅である場合、膜ろ過前の液体培地中の銅濃度に対する膜ろ過後の液体培地中の銅濃度の比率が、好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.8~1.2、さらに好ましく最も好ましくは0.9~1.1であることをいう。
【0067】
また、本発明は前記調製された液体培地を用いる細胞の培養方法に関する。
【0068】
本発明における細胞としては、真核細胞および原核細胞のいずれでもよく、例えば、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類、昆虫類もしくは植物等由来の細胞、細菌、大腸菌もしくは枯草菌等の微生物、細菌、大腸菌もしくは枯草菌等微生物由来の細胞、または酵母等もしくは酵母等由来の細胞が挙げられる。好ましくは哺乳類に属する動物細胞、より好ましくはヒトもしくはサル等の霊長類に由来する動物細胞またはマウス、ラットもしくはハムスター等のげっ歯類に由来する動物細胞、最も好ましくはチャイニーズハムスター卵巣組織由来であるCHO細胞が挙げられる。
【0069】
本発明における哺乳類に属する細胞としては、好ましくは骨髄腫細胞、卵巣細胞、腎臓細胞、血球細胞、子宮細胞結合組織細胞、乳腺細胞、胚性網膜芽細胞またはこれらの細胞に由来する細胞等が挙げられるが、より好ましくは骨髄腫細胞、骨髄腫細胞に由来する細胞、卵巣細胞または卵巣細胞に由来する細胞から選ばれる細胞が挙げられる。
【0070】
例えば、ヒト細胞株であるHL-60(ATCC No.CCL-240)、HT-1080(ATCC No.CCL-121)、HeLa(ATCC No.CCL-2)、293(ECACC No.85120602)、Namalwa(ATCC CRL-1432)、Namalwa KJM-1[Cytotechnology, 1, 151 (1988)]、NM-F9(DSM ACC2605、国際公開2005/017130号)もしくはPER.C6(ECACC No.96022940、米国特許第6855544号明細書)、サル細胞株であるVERO(ATCC No.CCL-1651)及びCOS-7(ATCC No.CRL-1651)、マウス細胞株であるC127I(ATCC No.CRL-1616)、Sp2/0-Ag14(ATCC No.CRL-1581)もしくはNIH3T3(ATCC No.CRL-1658)NS0(ATCC No.CRL-1827)、ラット細胞株であるY3 Ag1.2.3.(ATCC No.CRL-1631)、YO (ECACC No.85110501)もしくはYB2/0(ATCC No.CRL-1662)、ハムスター細胞株であるCHO細胞もしくはBHK21(ATCC No.CRL-10)、またはイヌ細胞であるMDCK(ATCC No.CCL-34)等が挙げられる。
【0071】
鳥類に属する細胞としては、例えばニワトリ細胞株SL-29 (ATCC No.CRL-29)等が挙げられる。魚類に属する細胞としては、例えばゼブラフィッシュ細胞株ZF4(ATCC No.CRL-2050)等が挙げられる。昆虫類に属する細胞としては、例えば蛾 (Spodoptera frugiperda)細胞株Sf9(ATCC No.CRL-1711)等が挙げられる。また、ワクチン製造に使用される初代培養細胞としては、例えば、初代サル腎細胞、初代ウサギ腎細胞、初代ニワトリ胎児細胞、初代ウズラ胎児細胞等が挙げられる。
【0072】
本発明におけるCHO細胞としては、チャイニーズハムスター (Cricetulus griseus)の卵巣組織から樹立された株化細胞であればいかなる細胞も包含される。その具体的な例としては、Journal of Experimental Medicine, 108, 945 (1958)、Proc. Natl. Acad.Sci. USA, 60, 1275 (1968)、Genetics, 55, 513 (1968)、Chromosoma, 41, 129 (1973)、Methods in Cell Science, 18, 115 (1996)、Radiation Research, 148, 260 (1997)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216 (1980)、Proc. Natl.Acad. Sci. 60, 1275 (1968)、Cell, 6, 121 (1975)またはMolecular Cell Genetics, Appendix I,II, 883-900等の文献に記載されているCHO細胞を挙げることができる。また、ATCC(The American Type Culture Collection)に登録されているCHO-K1株(ATCC No.CCL-61)、DUXB11株(ATCC CRL-9096)、Pro-5株(ATCC CRL-1781)、CHO/dhfr-(ATCC No.CRL-9096)、市販のCHO-S株 (Lifetechnologies社 Cat#11619)、CHO/DG44[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216 (1980)]またはこれら株を様々な培地に馴化させた亜株なども具体的な例として挙げることができる。
【0073】
また、本発明における細胞としては、物質を生産する能力の有無は特に限定されず、例えば、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより得られたiPS細胞等の幹細胞、ヒトを含む哺乳動物ドナーから採取した精子もしくは卵子細胞、または物質を産生する細胞の他、物質を産生するようになった融合細胞等が挙げられる。特に好ましくは、物質を産生する細胞、または物質を産生するようになった融合細胞等が挙げられる。更に好ましくは、物質を産生する動物細胞または物質を産生するようになった動物由来の融合細胞等が挙げられ、例えば、所望の物質が抗体である場合には、B細胞等の抗体産生細胞と骨髄腫細胞との融合細胞であるハイブリドーマ等が挙げられる。また、変異処理により物質を産生するようになった細胞または物質の発現量を上昇させるような変異処理を施した細胞等も本発明の細胞に含まれる。
【0074】
本発明における変異処理により物質を産生するようになった細胞としては、例えば、所望の物質を生産出来るようにする為に、修飾酵素等に変異を導入した細胞等が挙げられる。例えば、所望の物質が糖蛋白質である場合に、該糖蛋白質中の糖鎖の構造を変化させるために、種々の糖鎖修飾酵素に変異が導入された細胞等が挙げられる。
【0075】
さらに、本発明における物質を産生する細胞としては、所望の物質が産生出来ればいずれの細胞であってもよく、例えば、該物質の生産に関与する遺伝子を含む組換え体ベクターで形質転換された細胞も含まれる。該形質転換された細胞は、例えば該物質の生産に関与するDNAとプロモーターを含む組換え体ベクターを、宿主となる細胞に導入することによって得ることができる。
【0076】
本発明における物質の生産に関与する遺伝子としては、例えば、ペプチド、ポリペプチド、蛋白質、糖蛋白質または抗体等の物質をコードするDNA、物質の生合成に関わる酵素または蛋白質をコードするDNA等が挙げられる。
【0077】
本発明におけるプロモーターとは、細胞中で機能するものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のイミディエイトアーリー(IE)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーターまたはSRαプロモーター等が挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサー等をプロモーターと共に用いてもよい。
【0078】
本発明における組換え体ベクターは、所望のベクターを用いて調製できる。ベクターとしては、細胞中で機能するものであればいずれも用いることができ、例えば、pcDNAI、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107[日本国特開平3-22979号公報、Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、pAS3-3(日本国特開平2-227075号公報)、pcDM8[Nature, 329, 840 (1987)]、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103[J. Biochem., 101, 1307 (1987)]またはpAGE210等が挙げられる。
【0079】
本発明における宿主となる細胞への組換え体ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることが出来、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法(日本国特開平2-227075号公報)またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)、Virology, 52, 456 (1973)]等が挙げられる。
【0080】
本発明における形質転換細胞としては、例えば、抗GD3ヒト型キメラ抗体を生産する形質転換細胞7-9-51(FERM BP-6691)、抗CCR4キメラ抗体を生産する形質転換細胞KM2760(FERM BP-7054)、抗CCR4ヒト化抗体を生産する形質転換細胞KM8759(FERM BP-8129)及びKM8760(FERM BP-8130)、709 LCA-500D(FERM BP-8239)、抗IL-5受容体α鎖キメラ抗体を生産する形質転換細胞KM7399(FERM BP-5649)、抗IL-5受容体α鎖ヒト型CDR移植抗体を生産する形質転換細胞KM8399(FERM BP-5648)及びKM9399(FERM BP-5647)、抗GM2ヒト型CDR移植抗体を生産する形質転換細胞KM8966(FERM BP-5105)、KM8967(FERM BP-5106)、KM8969(FERM BP-5527)、KM8970(FERM BP-5528)、抗CD20抗体を生産する形質転換株Ms704-CD20(FERM BP-10092)及びアンチトロンビンIIIを生産する形質転換細胞Ms705-pKAN-ATIII(FERM BP-8472)等が挙げられる。
【0081】
本発明における細胞を培養する方法としては、例えば、バッチ培養、リピートバッチ培養、ローリングシード培養、フェドバッチ培養またはパーフュージョン培養等、用いる細胞に適した方法が挙げられ、好ましくはフェドバッチ培養が用いられる。通常pH6~8、30~40℃等の条件下で、例えば、フェドバッチ培養では3~20日間、パーフュージョン培養では3~60日間、培養を行う。また、培養中必要に応じて、ストレプトマイシンまたはペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。なお、溶存酸素濃度制御、pH制御、温度制御、攪拌等は通常の細胞の培養に用いられる方法を用いることが出来る。
【0082】
本発明における培養方法の培養量は、細胞培養用プレートを用いた通常0.1mL~10mLのごく微量な培養量でも、三角フラスコ等を用いた通常10~1000mLの少量の培養量でも、ジャー等の培養槽等を用いた通常1~20000Lの商用生産に用いることが出来る大量の培養量でも、いかなる培養量でもよい。
【0083】
また、本発明は、所望のポリペプチドを発現する細胞を、前記調製された液体培地中で培養し、培養物中に該ポリペプチドを生産蓄積させ、該培養物から該ポリペプチドを採取することを特徴とする、ポリペプチドの製造方法、または該製造方法を用いて製造されたポリペプチドに関する。
【0084】
本発明におけるポリペプチドとしては、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればいかなるものでもよいが、好ましくは真核細胞由来のポリペプチドが挙げられ、さらに好ましくは動物細胞由来のポリペプチド、例えば、哺乳動物細胞由来のポリペプチドが挙げられる。また、本発明のポリペプチドとしては、例えば、所望のポリペプチドと他のポリペプチドとを融合させた融合ペプチド等の人工的に改変されたポリペプチドであってもよいし、部分断片からなるポリペプチドであってもよい。例えば、生理活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0085】
本発明におけるポリペプチドとしては、例えば、蛋白質、糖蛋白質、抗体またはこれらの部分断片からなるポリペプチド等が挙げられる。
【0086】
本発明のポリペプチドとしては、例えば、酵素の活性を調節するポリペプチドまたは酵素の構造を保持するポリペプチド等も含まれる。酵素の活性を調節するポリペプチドとしては、具体的には、糖蛋白質のアゴニストまたはアンタゴニストとして機能するポリペプチド等が挙げられる。アゴニストとしては、糖蛋白質の活性を亢進する活性を有するポリペプチドであればいかなるものでもよく、具体的には、ソマトスタチン誘導体、ソマトロビン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、グルカゴン、インスリン、インスリン様成長因子または性腺刺激ホルモン等が挙げられる。アンタゴニストとしては、糖蛋白質の活性を抑制する活性を有するポリペプチドであればいかなるものでもよく、具体的には、ペグビソマトン等が挙げられる。
【0087】
本発明における蛋白質または糖蛋白質としては、例えば、エリスロポイエチン(EPO)[J. Biol. Chem., 252, 5558 (1977)]、トロンボポイエチン(TPO)[Nature, 369 533 (1994)]、組織型プラスミノーゲンアクチベータ、プロウロキナーゼ、トロンボモジュリン、アンチトロンビンIII、プロテインC、プロテインS、血液凝固因子VII、血液凝固因子VIII、血液凝固因子IX、血液凝固因子X、血液凝固因子XI、血液凝固因子XII、プロトロンビン複合体、フィブリノゲン、アルブミン、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、上皮増殖因子 (EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子、アクチビン、骨形成因子、幹細胞因子(SCF)、顆粒球コロニ-刺激因子(G-CSF)[J. Biol. Chem., 258, 9017 (1983)]マクロファ-ジコロニ-刺激因子(M-CSF)[J. Exp. Med., 173, 269 (1992)]、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF)[J. Biol. Chem., 252, 1998 (1977)]、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン-2(IL-2)[Science, 193, 1007 (1976)]、インターロイキン6、インターロイキン10、インターロイキン11、インターロイキン-12(IL-12)[J. Leuc. Biol., 55, 280 (1994)]、可溶性インターロイキン4受容体、腫瘍壊死因子α、DNaseI、ガラクトシダーゼ、αグルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、ヘモグロビン、トランスフェリンもしくはこれらの誘導体またはこれらの部分断片等が挙げられる。
【0088】
本発明における抗体としては、抗原結合活性を有する抗体であればいかなるものでもよく、例えば、腫瘍関連抗原を認識する抗体もしくはその抗体断片、アレルギーもしくは炎症に関連する抗原を認識する抗体もしくはその抗体断片、循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体もしくはその抗体断片、自己免疫疾患に関連する抗原を認識する抗体もしくはその抗体断片、またはウイルスもしくは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体もしくはその抗体断片等が挙げられる。
【0089】
本発明における腫瘍関連抗原としては、CD1a、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CD9、CD10、CD13、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD30、CD32、CD33、CD38、CD40、CD40 ligand(CD40L)、CD44、CD45、CD46、CD47、CD52、CD54、CD55、CD56、CD59、CD63、CD64、CD66b、CD69、CD70、CD74、CD80、CD89、CD95、CD98、CD105、CD134、CD137、CD138、CD147、CD158、CD160、CD162、CD164、CD200、CD227、adrenomedullin、angiopoietin related protein 4(ARP4)、aurora、B7-H1、B7-DC、integrin、bone marrow stromal antigen 2(BST2)、CA125、CA19.9、carbonic anhydrase 9(CA9)、cadherin、cc-chemokine receptor(CCR)4、CCR7、carcinoembryonic antigen(CEA)、cysteine-rich fibroblast growth factor receptor-1(CFR-1)、c-Met、c-Myc、collagen、CTA、connective tissue growth factor(CTGF)、CTLA-4、cytokeratin-18、DF3、E-catherin、epidermal growth facter receptor(EGFR)、EGFRvIII、EGFR2(HER2)、EGFR3(HER3)、EGFR4(HER4)、endoglin、epithelial cell adhesion molecule(EpCAM)、endothelial protein C receptor(EPCR)、ephrin、ephrin receptor(Eph)、EphA2、endotheliase-2(ET2)、FAM3D、fibroblast activating protein(FAP)、Fc receptor homolog 1(FcRH1)、ferritin、fibroblast growth factor8(FGF8)、FGF8 receptor、basic FGF(bFGF)、bFGF receptor、FGF receptor(FGFR)3、FGFR4、FLT1、FLT3、folate receptor、frizzled homologue 10(FZD10)、frizzled receptor 4(FZD-4)、G250、G-CSF receptor、ganglioside(GD2、GD3、GM2もしくはGM3等)、globo H、gp75、gp88、GPR-9-6、heparanase I、hepatocyte growth factor (HGF)、HGF receptor、HLA antigen(HLA-DR等)、HM1.24、human milk fat globule(HMFG)、hRS7、heat shock protein 90(hsp90)、idiotype epitope、insulin-like growth factor(IGF)、IGF receptor(IGFR)、interleukin(IL-6もしくはIL-15等)、interleukin receptor(IL-6RもしくはIL-15R等)、integrin、immune receptor translocation associated-4(IRTA-4)、kallikrein 1、KDR、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KS1/4、lamp-1、lamp-2、laminin-5、Lewis y、sialyl Lewis x、lymphotoxin-beta receptor(LTBR)、LUNX、melanoma-associated chondroitin sulfate proteoglycan(MCSP)、mesothelin、MICA、Mullerian inhibiting substance type II receptor(MISIIR)、mucin、neural cell adhesion molecule(NCAM)、Necl-5、Notch1、osteopontin、platelet-derived growth factor(PDGF)、PDGF receptor、platelet factor-4(PF-4)、phosphatidylserine、Prostate Specific Antigen(PSA)、prostate stem cell antigen(PSCA)、prostate specific membrane antigen(PSMA)、Parathyroid hormone related protein/peptide(PTHrP)、receptor activator of NF-kappaB ligand(RANKL)、receptor for hyaluronic acid mediated motility(RHAMM)、ROBO1、SART3、semaphorin 4B(SEMA4B)、secretory leukocyte protease inhibitor(SLPI)、SM5-1、sphingosine-1-phosphate、tumor-associated glycoprotein-72(TAG-72)、transferrin receptor(TfR)、TGF-beta、Thy-1、Tie-1、Tie2 receptor、T cell immunoglobulin domain and mucin domain 1(TIM-1)、human tissue factor(hTF)、Tn antigen、tumor necrosis factor(TNF)、Thomsen-Friedenreich antigen(TF antigen)、TNF receptor、tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand(TRAIL)、TRAIL receptor(DR4もしくはDR5等)、system ASC amino acid transporter 2(ASCT2)、trkC、TROP-2、TWEAK receptor Fn14、type IV collagenase、urokinase receptor、vascular endothelial growth factor(VEGF)、VEGF receptor(VEGFR1、VEGFR2もしくはVEGFR3等)、vimentinまたはVLA-4等が挙げられる。
【0090】
本発明における抗体としては、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれでもよく、抗体のクラスとしては、イムノグロブリンG(IgG)、イムノグロブリンA(IgA)、イムノグロブリンE(IgE)、及びイムノグロブリンM(IgM)が挙げられるが、好ましくはIgGである。更にIgGのサブクラスとしては、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4が挙げられる。
【0091】
本発明における抗体には、抗体の一部分を含む部分断片等が含まれ、例えば、Fab(Fragment of antigen binding)、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(single chain Fv、scFv)及びジスルフィド安定化抗体 (disulfide stabilized Fv、dsFv)、または抗体のFc領域を含む融合蛋白質等が挙げられる。
【0092】
本発明における抗体としては、例えば、動物に抗原を免疫し、免疫された動物の脾臓細胞より作製したハイブリドーマ細胞が分泌する抗体、または遺伝子組換え技術により作製された抗体が含まれる。遺伝子組換え技術により作製された抗体は、例えば、抗体遺伝子を挿入した抗体発現ベクターを、宿主である細胞へ導入することにより取得することができる。具体的には例えば、ハイブリドーマが生産する抗体、ヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体等を挙げることができる。
【0093】
本発明におけるヒト型キメラ抗体としては、ヒト以外の動物の抗体重鎖可変領域 (以下、重鎖はH鎖、可変領域はV領域として、それぞれHVまたはVHとも称す)及び抗体軽鎖可変領域(以下、軽鎖はL鎖として、それぞれLVまたはVLとも称す)と、ヒト抗体の重鎖定常領域(以下、定常領域はC領域として、CHとも称す)及びヒト抗体の軽鎖定常領域(以下、CLとも称す)とからなる抗体が挙げられる。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスターまたはラビット等、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなる動物も用いることができる。
【0094】
ヒト型キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産するヒト以外の動物細胞由来のハイブリドーマよりVH及びVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CH及びヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主となる細胞へ導入することにより発現させ、得ることができる。
【0095】
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと称す)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3またはhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0096】
本発明におけるヒト化抗体としては、例えば、ヒト以外の動物の抗体のVH及びVLのヒト型相同性決定領域(Complementarity Determining Region、以下、CDRと称す)のアミノ酸配列をヒト抗体のVH及びVLの適切な位置に移植して作製されたCDR移植抗体等が挙げられる。
【0097】
CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVH及びVLのCDR配列を任意のヒト抗体のVH及びVLのCDR配列に移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCH及びヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してCDR移植抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主となる細胞へ導入することにより発現させ、得ることができる。
【0098】
CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3またはhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスまたはλクラスのものを用いることができる。
【0099】
本発明におけるヒト抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルス等を感染させ、不死化およびクローニングして得られる、ヒト抗体を産生するリンパ球を培養および精製し、得ることができる。
【0100】
また、本発明におけるヒト抗体は、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、scFv等の抗体断片をファージ表面に発現させたヒト抗体ファージライブラリーを得、該ライブラリーより、固相化した抗原に対する結合活性を指標にして、抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収し、該抗体断片より、2本の完全なH鎖及び二本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へ変換することで得ることが出来る。
【0101】
さらに、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれたヒト抗体産生トランスジェニック動物動物から、通常のヒト以外の哺乳動物で行われているハイブリドーマ作製方法等により得られるヒト抗体産生ハイブリドーマからも得ることができる。具体的には、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞をマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニックマウスを得、ヒト抗体産生ハイブリドーマを取得することができる。
【0102】
ヒト抗体産生ハイブリドーマより、VL及びVHをコードするcDNAを取得し、適宜上述の方法等により野生型 (以下、WTと記載する)の1以上のアミノ酸残基をCys残基に置換させたヒト抗体のCL及びCHをコードするDNAを有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入し、宿主となる細胞へ導入することにより発現させ、ヒト抗体を得ることができる。
または、ヒト抗体産生ハイブリドーマより、VL及びVHをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCL及びCHをコードするDNAを有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入し、さらに適宜上述の方法等によりWTの1以上のアミノ酸残基をCys残基に置換してヒト抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、ヒト抗体を得ることもできる。
【0103】
ヒト抗体に用いるWTのCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、好ましくはhIgGクラスのものが用いられ、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3またはhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0104】
本発明における抗体としては、例えば、以下の抗体が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0105】
腫瘍関連抗原を認識する抗体としては、例えば、抗GD2抗体[Anticancer Res., 13, 331 (1993)]、抗GD3抗体[Cancer Immunol. Immunother., 36, 260 (1993)]、抗GM2抗体[Cancer Res., 54, 1511 (1994)]、抗HER2抗体[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 4285 (1992)、米国特許第5725856号明細書]、抗CD52抗体[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 4285 (1992)]、抗MAGE抗体[British J. Cancer, 83, 493 (2000)]、抗HM1.24抗体[Molecular Immunol., 36, 387 (1999)]、抗副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)抗体[Cancer, 88, 2909 (2000)]、抗bFGF抗体、抗FGF-8抗体[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 9911 (1989)]、抗bFGFR抗体、抗FGF-8R抗体[J. Biol. Chem., 265, 16455 (1990)]、抗IGF抗体[J. Neurosci. Res., 40, 647 (1995)]、抗IGF-IR抗体[J. Neurosci. Res., 40, 647 (1995)]、抗PSMA抗体[J. Urology, 160, 2396 (1998)]、抗VEGF抗体[Cancer Res., 57, 4593 (1997)]、抗VEGFR抗体[Oncogene, 19, 2138 (2000)、国際公開第1996/30046号]、抗CD20抗体[Curr. Opin. Oncol., 10, 548 (1998)、米国特許第5736137号明細書]、抗CD10抗体、抗EGFR抗体(国際公開第1996/402010号)、抗Apo-2R抗体(国際公開第1998/51793号)、抗ASCT2抗体(国際公開第2010/008075号)、抗CEA抗体[Cancer Res., 55 (23 suppl): 5935s-5945s, (1995)]、抗CD38抗体、抗CD33抗体、抗CD22抗体、抗EpCAM抗体または抗A33抗体等が挙げられる。
【0106】
アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体としては、例えば、抗インターロイキン6抗体[Immunol. Rev., 127, 5 (1992)]、抗インターロイキン6受容体抗体[Molecular Immunol., 31, 371 (1994)]、抗インターロイキン5抗体[Immunol. Rev., 127, 5(1992)]、抗インターロイキン5受容体抗体、抗インターロイキン4抗体[Cytokine, 3, 562 (1991)]、抗インターロイキン4受容体抗体[J. Immunol. Methods, 217, 41 (1998)]、抗腫瘍壊死因子抗体[Hybridoma, 13, 183 (1994)]、抗腫瘍壊死因子受容体抗体[Molecular Pharmacol., 58, 237 (2000)]、抗CCR4抗体[Nature, 400, 776, (1999)]、抗ケモカイン抗体(Peri et al., J. Immunol. Meth., 174, 249, 1994)または抗ケモカイン受容体抗体[J. Exp. Med., 186, 1373 (1997)]等が挙げられる。
【0107】
循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体としては、例えば、抗GPIIb/IIIa抗体[J. Immunol., 152, 2968 (1994)]、抗血小板由来増殖因子抗体[Science, 253, 1129 (1991)]、抗血小板由来増殖因子受容体抗体[J. Biol. Chem., 272, 17400 (1997)]、抗血液凝固因子抗体[Circulation, 101, 1158 (2000)]、抗IgE抗体、抗αVβ3抗体またはα4β7抗体等が挙げられる。
【0108】
ウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体としては、抗gp120抗体[Structure, 8, 385 (2000)]、抗CD4抗体[J. Rheumatology, 25, 2065 (1998)]、抗CCR5抗体または抗ベロ毒素抗体[J. Clin. Microbiol., 37, 396 (1999)]等が挙げられる。
【0109】
本発明のポリペプチドの製造方法としては、例えば、細胞内にポリペプチドを生産させる直接発現方法または細胞外にポリペプチドを分泌生産させる方法(モレキュラー・クローニング第2版)等を用いることができる。
【0110】
本発明のポリペプチドは、ポールソンらの方法[J. Biol. Chem., 264, 17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 8227 (1989)、Genes Develop., 4, 1288 (1990)]、日本国特開平5-336963号公報または国際公開第1994/23021号等に記載の方法を利用することにより、宿主細胞外へ積極的に分泌させることができる。即ち、遺伝子組換えの手法を用いて、所望のポリペプチドのN末端にシグナルペプチドを結合させた形で発現させることにより、所望のポリペプチドを宿主細胞外に積極的に分泌させることが出来る。
【0111】
また、日本国特開平2-227075号公報に記載されている、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いた遺伝子増幅系を利用することにより、ポリペプチドの生産量を上昇させることもできる。
【0112】
本発明の方法により製造されるポリペプチドは、例えば、通常のポリペプチドの単離精製法等を用いて単離精製することが出来る。
【0113】
所望のポリペプチドが細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザーまたはダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常のペプチドまたは蛋白質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-セファロースFF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、プロテインA、プロテインG等を含むレジンを用いたアフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法または等電点電気泳動等の電気泳動法等を、単独あるいは組み合わせて用いることにより、粗精製標品または精製標品を得ることができる。
【0114】
所望のポリペプチドが細胞外に分泌された場合には、培養上清に該ポリペプチドを回収することができる。即ち、該培養物を上述と同様の遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上述と同様の単離精製法を用いることにより、粗精製標品または精製標品を得ることができる。
【0115】
また、本発明は、ポリペプチドを発現する細胞を培養する工程において、前記調製された液体培地を使用する、該ポリペプチド由来のバリアントの生成を制御する方法に関する。
本発明におけるポリペプチド由来のバリアントとしては、特に限定されないが、例えば、所望のポリペプチド由来の修飾体、糖化体、酸化体、ハイマンノース体等の糖鎖修飾体、重合体または分解物等が挙げられる。
【0116】
例えば、液体培地中の銅の存在下において、ペプチジルグリシンαーアミド化モノオキシゲナーゼにより、アミド化されたプロリンが生成することが知られている(K.A. Johnson et al., Anal Bochem 2007)。また、ハイマンノース体、糖化体、酸化体、重合体、分解物等も液体培地中の銅の濃度により制御可能なバリアントである[Tailoring Recombinant Protein Quality by Rational Media DesignBiotechnol. Prog. 31 (3), 615-629, 2015]。
【0117】
本発明の調製された液体培地を用いることで、これらのバリアントの生成量、含有量が任意の含有率で調節でき、例えば液体培地中の銅の濃度により変化する所望のポリペプチド由来のバリアントの生成を制御することができる。
【0118】
本発明におけるポリペプチド由来のバリアントの量は、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる分離方法を用いて測定することができる。例えば、陽イオン交換カラムクロマトグラフィーにより抗体を分析する場合、通常、主ピークより早く溶出されるピークは、pI値が低い酸性バリアントを含み、酸性ピーク(以後acidic peaksとも称する)と呼ばれる。また、主ピークより後に溶出される成分はpI値が高い塩基性バリアントを含み、塩基性ピーク(以後basic peaksとも称する)と呼ばれる。
【0119】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0120】
[実施例1]培地調製時の酸素の有無による銅濃度への影響
粉末培地を含む液体培地調製時における、培地中の酸素濃度の、調製ろ過後の培地中の銅濃度への影響を評価した。
【0121】
培地調製は以下の手順により行った。
まず2つの調製容器に純水をそれぞれ加えた。一方には下面から空気を通気して、溶存酸素濃度を飽和させた。もう一方は下面から窒素を通気して、溶存酸素を系外へ排除した。これらにアミノ酸、金属塩、ビタミン等を含む粉末培地A(富士フイルム和光純薬工業社製)6.645g/L、L(+)-グルタミン(SIGMA社製)0.510g/L、SOY HYDROLYSATE UF(SAFC Bioscience社製)1.250g/L、PLURONIC F-68 10% Solution(Thermo Fidher Scientific社製)10.0mL/L、塩化ナトリウム(富田製薬社製)2.535g/L、粉末培地B(Thermo Fidher Scientific社製)8.137g/L、粉末培地C(Thermo Fidher Scientific社製)0.125mL/Lおよび粉末培地D(Thermo Fidher Scientific社製)6.768g/Lを添加し、約60分間攪拌した。さらに2.380g/Lの炭酸水素ナトリウム(関東化学社製)を加えて、約10分間攪拌した後、純水を加え2.5Lとした。
【0122】
次に、調製した液体培地について、空気もしくは窒素を通気しながら攪拌を続け、攪拌0分後、60分後、180分後に調製中の培地を採取し、孔径0.1μmのフィルターでろ過を行った。ろ過前およびろ過後の培地中の銅濃度をICP-MS(Agilent Technologies社)を用いて分析した。
【0123】
その結果、
図1(A)に示すように、空気を通気した調製培地では攪拌を続けてもフィルターろ過前およびろ過後の銅濃度は変化が見られず、攪拌180分後のろ過前銅濃度が11.5ng/mLに対して、ろ過後の銅濃度は10.9ng/mLであった。一方、
図1(B)に示すように、窒素を通気して酸素を除去した状態で調製した培地では、撹拌180分後のろ過前の銅濃度が11.4ng/mLに対して、ろ過後の銅濃度は6.6ng/mLとなり約半分の濃度に低下することが明らかとなった。
【0124】
以上から、培地調製時に溶存酸素濃度が低いとフィルターろ過後の培地中の銅濃度が低下することを明らかにした。
【0125】
[実施例2]培地中の銅を溶解させるための酸素供給量の評価
粉末培地を含む液体培地調製時における培地中の溶存酸素濃度の、調製ろ過後の培地中の銅濃度に与える影響を評価した。
【0126】
培地調製は以下の手順により行った。
【0127】
まず4つの調製容器に純水を加えた。1つには下面から空気を通気し、溶存酸素濃度を飽和させた。他の3つは窒素と酸素の混合ガスを通気して溶存酸素濃度をそれぞれ40%、20%または0%にした。そしてそれぞれの調整容器に、溶存酸素濃度が維持されるよう空気、または窒素と酸素の混合ガスを通気し続けながらアミノ酸、金属塩、ビタミン等を含む粉末培地A(富士フイルム和光純薬工業社製)6.645g/L、L(+)-グルタミン(SIGMA社製) 0.510g/L、SOY HYDROLYSATE UF(SAFC Bioscience社製) 1.250g/L、PLURONIC F-68 10% Solution(Thermo Fidher Scientific社製) 10.0mL/L、塩化ナトリウム(富田製薬社製) 2.535g/L、粉末培地B(Thermo Fidher Scientific社製) 8.137g/L、粉末培地C(Thermo Fidher Scientific社製) 0.125mL/Lおよび粉末培地D(Thermo Fidher Scientific社製)6.768g/Lを添加し、約60分間攪拌した。さらに2.380g/Lの炭酸水素ナトリウム(関東化学社製)を加えて、約10分間攪拌した後、純水を加え2.5Lとした。
【0128】
次に、調製した液体培地について、溶存酸素濃度が維持されるように空気、または窒素と酸素の混合ガスを通気しながら攪拌を続け、原料投入240分後に調製中の培地を採取し、孔径0.1μmのフィルターでろ過を行った。ろ過前およびろ過後の培地中の銅濃度をICP-MS(Agilent Technologies社)を用いて分析した。
【0129】
結果を
図2に示す。調製培地の溶存酸素濃度が0%の条件ではろ過後培地の銅濃度は1.4ng/mLだったのに対して、溶存酸素濃度が20%、40%および100%(大気飽和状態)の条件ではろ過後培地の銅濃度はそれぞれ8.5、12.0および10.9ng/mLになった。
【0130】
以上の結果から、培地調製時に溶存酸素濃度が40%よりも低くなるとフィルターろ過後の培地中の銅濃度が低下することを明らかにした。
【0131】
[実施例3]培地中銅濃度と産生抗体の品質との関係
培地調製中の溶存酸素濃度によってろ過後の培地中の銅濃度が変化した培地を用いて、調製された抗体の品質を確認し、濃度依存的にバリアントの含量を調整できることを明らかにした。
【0132】
実施例2で調製した4種類の液体培地を用いてIgG型モノクローナル抗体を産生するCHO細胞の培養を行い、抗体を調製した。培地調製と分析は以下の手順により行った。
【0133】
抗体遺伝子を組み込んだCHO細胞を、実施例3で調製したそれぞれの培地に播種し、アミノ酸およびブドウ糖などの添加物を加えながらフェドバッチ培養を行い、目的の抗体を産生させた。培養終了後に細胞を除去して、培養上清を回収して抗体を精製した。精製した抗体は陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを用いて高速液体クロマトグラフィーにてバリアントを検出した。陽イオン交換クロマトグラフィーによって検出されたバリアントの内、塩基性バリアントを含むピーク(basic peaks)について、培地中の銅濃度との相関を比較した。
【0134】
結果を
図3に示す。溶存酸素濃度を100%(大気飽和状態)、40%および20%に維持して調製した培地(各培地中の銅濃度:それぞれ10.9、12.0および8.5 ng/mL)を用いた場合、basic peaksの割合はそれぞれ13.0%、13.5%および12.4%であり、大きな違いはなかった。一方で、溶存酸素濃度を0%に維持して調製した培地(培地中の銅濃度:1.4ng/mL)を用いた場合、basic peaksの割合は10.0%まで低下した。
【0135】
以上から、培地調製中の溶存酸素濃度が変動することでろ過後培地の銅濃度が変動し、銅濃度依存的に動物細胞によって産生される抗体のbasic peaksの割合が低下すること、および銅濃度に応じてbasic peaksの割合を調節できることを明らかにした。
【0136】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2018年11月2日付けで出願された米国仮出願(US62/754793)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明により、銅およびシステイン、シスチンまたはそれらの誘導体を含む粉末培地を溶媒に溶解する際に膜ろ過の前後で液体培地中の銅濃度が実質的に変化しない調製方法が提供された。該調製方法により調製された液体培地、該調製方法により調製された液体培地を用いる細胞の培養方法、該培養方法を用いた生理活性物質の製造方法、該製造方法を用いて製造される生理活性物質、該調製方法により調製された液体培地を膜ろ過する方法、溶存酸素の供給量を調節することで銅が膜ろ過で除去されない方法又は、液体培地を調製し、膜ろ過し、および該液体培地を用いて細胞を培養し、生理活性物質を製造する方法が提供された。