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7453154表面処理銅箔、キャリア付銅箔、銅張積層板及びプリント配線板
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】表面処理銅箔、キャリア付銅箔、銅張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/16 20060101AFI20240312BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20240312BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240312BHJP
   H05K 3/18 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C25D5/16
C25D5/10
H05K1/03 630H
H05K3/18 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020558136
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038866
(87)【国際公開番号】W WO2020105289
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018216720
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】加藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】松田 光由
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038716(WO,A1)
【文献】特許第6293365(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/006739(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179416(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/033917(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
H05K 1/03
H05K 3/10-3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の側に処理表面を有する表面処理銅箔であって、
前記処理表面に樹脂フィルムを熱圧着して前記処理表面の表面形状を前記樹脂フィルムの表面に転写し、エッチングにより前記表面処理銅箔を除去した場合に、残された前記樹脂フィルムの前記表面における、ISO25178に準拠して測定されるスキューネスSskが-0.以下となり、
前記樹脂フィルムがビスマレイミドトリアジン樹脂プリプレグであり、前記熱圧着が圧力4.0MPa、温度220℃で90分間行われる、表面処理銅箔。
【請求項2】
前記スキューネスSskが-1.7以上-0.以下である、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記エッチング後に残された前記樹脂フィルムの前記表面は、ISO25178に準拠して測定される山頂点の算術平均曲Spcが5000mm-1以上13000mm-1以下である、請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記エッチング後に残された前記樹脂フィルムの前記表面は、ISO25178に準拠して測定される山の頂点密度Spdが1.13×10mm-2以上1.50×10mm-2以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
前記エッチング後に残された前記樹脂フィルムの前記表面は、ISO25178に準拠して測定される極点高さSxpに対する、ISO25178に準拠して測定されるコア部の実体体積Vmcの比であるVmc/Sxpが0.39以上0.44以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
プリント配線板用の絶縁樹脂層に凹凸形状を転写するために用いられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
セミアディティブ法(SAP)によるプリント配線板の作製に用いられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項8】
キャリアと、該キャリア上に設けられた剥離層と、該剥離層上に前記処理表面を外側にして設けられた請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理銅箔とを備えた、キャリア付銅箔。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理銅箔又は請求項8に記載のキャリア付銅箔を備えた銅張積層板。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理銅箔又は請求項8に記載のキャリア付銅箔を用いて得られたプリント配線板。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理銅箔又は請求項8に記載のキャリア付銅箔を用いてプリント配線板を製造することを特徴とする、プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔、キャリア付銅箔、銅張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回路の微細化に適したプリント配線板の製造工法として、セミアディティブ法(SAP法)が広く採用されている。SAP法は、極めて微細な回路を形成するのに適した手法であり、その一例としてキャリア付粗化処理銅箔を用いて行われている。例えば、図1及び2に示されるように、粗化表面を備えた極薄銅箔10を、下地基材11aに下層回路11bを備えた絶縁樹脂基板11上にプリプレグ12とプライマー層13を用いてプレスして密着させ(工程(a))、キャリア(図示せず)を引き剥がした後、必要に応じてレーザー穿孔によりビアホール14を形成する(工程(b))。次いで、極薄銅箔をエッチングにより除去して、粗化表面プロファイルが付与されたプライマー層13を露出させる(工程(c))。この粗化表面に無電解銅めっき15を施した(工程(d))後に、ドライフィルム16を用いた露光及び現像により所定のパターンでマスキングし(工程(e))、電気銅めっき17を施す(工程(f))。ドライフィルム16を除去して配線部分17aを形成した(工程(g))後、隣り合う配線部分17a,17a間の不要な無電解銅めっき15をエッチングにより除去して(工程(h))、所定のパターンで形成された配線18を得る。
【0003】
このように粗化処理銅箔を用いたSAP法は、粗化処理銅箔自体はレーザー穿孔後にエッチングにより除去されることになる(工程(c))。そして、粗化処理銅箔が除去された積層体表面には粗化処理銅箔の粗化処理面の凹凸形状が転写されているので、その後の工程において絶縁層(例えばプライマー層13又はそれが無い場合にはプリプレグ12)とめっき回路(例えば配線18)との密着性を確保することができる。なお、工程(c)に相当する銅箔除去工程を行わないモディファイドセミアディティブ法(MSAP法)も広く採用されているが、ドライフィルム除去後のエッチング工程(工程(h)に相当)で銅箔層と無電解銅めっき層の2つの層をエッチングで除去しなければならないため、無電解銅めっき層1層のエッチング除去で済むSAP法よりもエッチングを深く行う必要がある。そのため、より多くのエッチング量を勘案して回路スペースを幾分狭くする必要が生じることから、MSAP法は微細回路形成性においてSAP法よりは幾分劣るといえる。すなわち、更なる微細な回路形成という目的においてはSAP法の方が有利である。
【0004】
ところで、ドライフィルム除去後のエッチング工程(工程(h)に相当)において、回路(例えば配線18)と絶縁層との界面部分がエッチングされ、その結果、回路の根元がえぐられるように浸食される「差し込み」と呼ばれる現象が発生することがある。この差し込みが発生すると、回路と絶縁層との密着力が低下し、回路剥がれの原因となる。
【0005】
一方、粗化粒子の形状を制御した粗化処理銅箔が知られている。例えば、特許文献1(特許第6293365号公報)には、複数の略球状突起を備えた粗化処理面を有する粗化処理銅箔において、略球状突起の平均高さを2.60μm以下とし、かつ、略球状突起の平均ネック径aaveに対する略球状突起の平均最大径baveの比bave/aaveを1.2以上とすることにより、SAP法に用いた場合に、優れためっき回路密着性のみならず、無電解銅めっきに対するエッチング性にも優れた表面プロファイルを積層体に付与可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6293365号公報
【発明の概要】
【0007】
近年、回路の更なる微細化に伴い、微細回路形成に有利なSAP法の採用が拡大している。この点、回路パターン幅が狭くなるにつれて、許容される差し込み幅も相対的に縮小するといえる。また、SAP法では、ドライフィルム除去後のエッチング工程において、無電解銅めっき層のみをエッチング除去すれば足りるため、電解銅ではなく無電解銅を選択的に除去可能なエッチング液を用いることができる。こうすることで、大部分が電解銅で構成された回路の細りを抑えることができる。したがって、微細回路形成性という点で、SAP法はMSAP法と比べてより一層有利といえる。一方、SAP法により形成された回路は最下部が無電解銅で構成されるため、上記エッチング液を用いた場合、差し込みがより発生しやすくなる。
【0008】
本発明者らは、今般、樹脂基材の表面に、ISO25178に準拠して測定されるスキューネスSskで規定される特有の表面プロファイルを付与することにより、SAP法における無電解銅めっき層のエッチング工程において、回路に生じうる差し込みの発生を効果的に抑制できるとの知見を得た。また、SAP法に用いた場合に、上記特有の表面プロファイルを樹脂基材に付与可能な、表面処理銅箔を提供できるとの知見も得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、SAP法に用いた場合に、無電解銅めっき層のエッチング工程において、回路に生じうる差し込みの発生を効果的に抑制できる表面プロファイルを樹脂基材に付与可能な、表面処理銅箔を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、少なくとも一方の側に処理表面を有する表面処理銅箔であって、
前記処理表面に樹脂フィルムを熱圧着して前記処理表面の表面形状を前記樹脂フィルムの表面に転写し、エッチングにより前記表面処理銅箔を除去した場合に、残された前記樹脂フィルムの前記表面における、ISO25178に準拠して測定されるスキューネスSskが-0.6以下となる、表面処理銅箔が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、キャリアと、該キャリア上に設けられた剥離層と、該剥離層上に前記処理表面を外側にして設けられた前記表面処理銅箔とを備えた、キャリア付銅箔が提供される。
【0012】
本発明の他の一態様によれば、前記表面処理銅箔又は前記キャリア付銅箔を備えた銅張積層板が提供される。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、前記表面処理銅箔又は前記キャリア付銅箔を用いて得られたプリント配線板が提供される。
【0014】
本発明の他の一態様によれば、少なくとも一方の表面が、ISO25178に準拠して測定されるスキューネスSskが-0.6以下である、樹脂基材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】SAP法を説明するための工程流れ図であり、前半の工程(工程(a)から工程(d))を示す図である。
図2】SAP法を説明するための工程流れ図であり、後半の工程(工程(e)から工程(h))を示す図である。
図3A】ISO25178に準拠して決定されるスキューネスSskを説明するための図であり、Ssk<0の場合の表面及びその高さ分布を示す図である。
図3B】ISO25178に準拠して決定されるスキューネスSskを説明するための図であり、Ssk>0の場合の表面及びその高さ分布を示す図である。
図4】ISO25178に準拠して決定される負荷曲線及び負荷面積率を説明するための図である。
図5】ISO25178に準拠して決定される突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1、及び突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2を説明するための図である。
図6】ISO25178に準拠して決定される極点高さSxpを説明するための図である。
図7】ISO25178に準拠して決定されるコア部の実体体積Vmcを説明するための図である。
図8A】MSAP法による回路形成の一例を示す工程流れ図であり、回路細りが生じることを説明するための図である。
図8B】SAP法による回路形成の一例を示す工程流れ図であり、差し込みが生じることを説明するための図である。
図9A】Ssk及びSpcが小さく、かつ、Spd及びVmc/Sxpが大きい樹脂レプリカ上に回路が形成された積層体における、差し込み発生前後の状態を示す断面模式図である。
図9B】Ssk及びSpcが大きく、かつ、Spd及びVmc/Sxpが小さい樹脂レプリカ上に回路が形成された積層体における、差し込み発生前後の状態を示す断面模式図である。
図10A図9Aの積層体における樹脂レプリカの凸部を抜き出した上で、凸部の高さ補正を行うことを示す図である。
図10B図9Bの積層体における樹脂レプリカの凸部を抜き出した上で、凸部の高さ補正を行うことを示す図である。
図11】差込量の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本発明を特定するために用いられる用語ないしパラメータの定義を以下に示す。
【0017】
本明細書において「スキューネスSsk」とは、ISO25178に準拠して測定される、高さ分布の対称性を表すパラメータである。この値が0の場合は、高さ分布が上下に対称であることを示す。また、図3Aに示されるように、この値が0より小さい場合は、細かい谷が多い表面であることを示す。一方、図3Bに示されるように、この値が0より大きい場合は、細かい山が多い表面であることを示す。スキューネスSskは、処理表面における所定の測定面積(例えば57074.677μmの二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0018】
本明細書において「山頂点の算術平均曲Spc」とは、ISO25178に準拠して測定される、表面の山頂点の主曲率の算術平均を表すパラメータである。この値が小さいことは、他の物体と接触する点が丸みを帯びていることを示す。一方、この値が大きいことは、他の物体と接触する点が尖っていることを示す。端的に言えば、山頂点の算術平均曲Spcは、レーザー顕微鏡にて測定可能な、コブの丸みを表すパラメータであるといえる。山頂点の算術平均曲Spcは、処理表面における所定の測定面積(例えば57074.677μmの二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0019】
本明細書において「山の頂点密度Spd」とは、ISO25178に準拠して測定される、単位面積当たりの山頂点の数を表すパラメータである。この値が大きいと他の物体との接触点の数が多いことを示唆する。山の頂点密度Spdは、処理表面における所定の測定面積(例えば57074.677μmの二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0020】
本明細書において「面の負荷曲線」(以下、単に「負荷曲線」という)とは、ISO25178に準拠して測定される、負荷面積率が0%から100%となる高さを表した曲線をいう。負荷面積率とは、図4に示されるように、ある高さc以上の領域の面積を表すパラメータである。高さcでの負荷面積率は図4におけるSmr(c)に相当する。図5に示されるように、負荷面積率が0%から負荷曲線に沿って負荷面積率の差を40%にして引いた負荷曲線の割線を、負荷面積率0%から移動させていき、割線の傾斜が最も緩くなる位置を負荷曲線の中央部分という。この中央部分に対して、縦軸方向の偏差の二乗和が最小になる直線を等価直線という。等価直線の負荷面積率0%から100%の高さの範囲に含まれる部分をコア部という。コア部より高い部分を突出山部といい、コア部より低い部分は突出谷部という。コア部は、初期磨耗が終わった後にほかの物体と接触する領域の高さを表す。
【0021】
本明細書において「極点高さSxp」とは、図6に示されるように、ISO25178に準拠して測定される、負荷面積率p%と負荷面積率q%の高さの差分を表すパラメータである。Sxpは、表面の中で特に高い山を取り除いた後の、表面の平均面と表面の高さの差分を表す。本明細書では、Sxpは、負荷面積率2.5%及び負荷面積率50%の高さの差分を表すものとする。極点高さSxpは、処理表面における所定の測定面積(例えば57074.677μmの二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0022】
本明細書において「突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1」とは、図5に示されるように、ISO25178に準拠して測定される、コア部の上部の高さと負荷曲線の交点における負荷面積率(すなわちコア部と突出山部をわける負荷面積率)を表すパラメータである。この値が大きいほど、突出山部が占める割合が大きいことを意味する。また、本明細書において「突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2」とは、図5に示されるように、ISO25178に準拠して測定される、コア部の下部の高さと負荷曲線の交点における負荷面積率(すなわちコア部と突出谷部をわける負荷面積率)を表すパラメータである。この値が大きいほど突出谷部が占める割合が大きいことを意味する。
【0023】
本明細書において「コア部の実体体積Vmc」とは、ISO25178に準拠して測定される、コア部の体積を表すパラメータである。Vmcは、図7に示されるように、突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2における実体体積と、突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1における実体体積との間の差を表す。コア部の実体体積Vmcは、処理表面における所定の測定面積(例えば57074.677μmの二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。本明細書では、突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1を10%、突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2を80%とそれぞれ指定して、コア部の実体体積Vmcを算出するものとする。
【0024】
本明細書において、電解銅箔の「電極面」とは電解銅箔作製時に陰極と接していた側の面を指す。
【0025】
本明細書において、電解銅箔の「析出面」とは電解銅箔作製時に電解銅が析出されていく側の面、すなわち陰極と接していない側の面を指す。
【0026】
表面処理銅箔
本発明による銅箔は表面処理銅箔である。この表面処理銅箔は、処理表面に樹脂フィルムを熱圧着して処理表面の表面形状を樹脂フィルムの表面に転写し、エッチングにより表面処理銅箔を除去した場合に、残された樹脂フィルム(以下、樹脂レプリカともいう)の表面(以下、転写表面ともいう)における、ISO25178に準拠して測定されるスキューネスSskが-0.6以下となるものである。
【0027】
前述したとおり、回路の更なる微細化の要求に伴い、微細回路形成に有利なSAP法の採用が拡大している。この点、回路パターン幅が狭くなるにつれて、許容される差し込み幅も相対的に縮小するといえる。すなわち、従来のパターン幅(例えば30μm)では許容されていた差し込み幅が、より微細な回路パターン幅(例えば10μm)においては、回路倒れのリスクが高まる等の理由により規格から外れることが起こりうる。
【0028】
また、SAP法は、MSAP法等の他の工法と比べて回路の微細化という点で有利であるものの、差し込み抑制という点に関しては不利になることがある。この点、例えばMSAP法による回路形成では、図8Aに例示されるように、樹脂基材112上に、キャリア付銅箔に由来する防錆層114及び電解銅層116が順に積層された積層体110を用意し(工程(i))、電解銅層116が残存したままの状態で、無電解銅めっき118を形成する。次いで、ドライフィルムにより所定のパターンでマスキングし、その後電気銅めっきを施して配線部分120を形成する(工程(ii))。このように、MSAP法では、樹脂基材112上に電解銅層116が残存しているため、隣り合う配線部分120,120間の不要部分のエッチング除去工程において、電解銅層116及び無電解銅めっき118の2つの層をエッチングで除去しなければならない。そのため、図8Aの工程(iii)に示されるように、得られた配線122には回路細りが生じやすい。その一方、MSAP法では、上述のとおり電解銅層116の完全除去を行わないことから、防錆層114が樹脂基材112及び配線122間に存在することになり、この防錆層114が差し込みの発生防止に寄与する。これに対して、SAP法による回路形成では、図8Bに例示されるように、樹脂基材112上に防錆層114及び電解銅層116が順に形成された積層体110の用意(工程(i))、電解銅層116の完全除去(工程(ii))、無電解銅めっき118の形成、ドライフィルムによるマスキング、及び電気銅めっきによる配線部分120の形成を順次行う(工程(iii))。このように、SAP法では、樹脂基材112上に電解銅層116が残存しないため、隣り合う配線部分120,120間の不要部分のエッチング工程において、無電解銅めっき118のみをエッチング除去すればよく、これにより得られた配線122の回路細りを抑えることができる。その上、SAP法では、電解銅ではなく無電解銅を選択的に除去可能なエッチング液を用いることが可能となるため、大部分が電解銅で構成された配線122の細りをより一層効果的に抑えることができる。そのため、回路の微細化に関して、SAP法はMSAP法等の他の工法と比較して有利であるといえる。しかしながら、図8Bの工程(iv)に示されるように、SAP法により形成された配線122は、最下部が無電解銅めっき118で構成されるため、無電解銅を選択的に除去可能なエッチング液を用いた場合、配線122と樹脂基材112との界面に差し込み124が発生しやすくなる。この点、電解銅層116上に防錆層114を設けた表面処理銅箔をSAP用銅箔として用いた場合でも、SAP法においては、電解銅層116をエッチングにより完全に除去するため、当該エッチングの際に防錆金属もエッチングされてしまう(図8Bの工程(ii)参照)。なお、図8A及び8Bにおいては、強調のために、防錆層114の厚さを大きく示しており、必ずしも実際の積層体における厚さの比を反映したものではない。このように、SAP法において、回路に生じうる差し込みを抑制することは容易なことではない。
【0029】
この点、本発明の表面処理銅箔をSAP法に用いることで、樹脂基材の表面にISO25178に準拠して測定されるスキューネスSskが-0.6以下という特有の表面プロファイルを付与することができる。こうすることにより、無電解銅めっき層のエッチング工程において、回路に生じうる差し込みの発生を効果的に抑制することが可能となる。樹脂基材表面が上記表面プロファイルを有することで回路に生じる差し込みを抑制できるメカニズムは必ずしも定かではないが、一つの要因として以下のようなものが挙げられる。すなわち、回路が形成される樹脂基材の表面(すなわち樹脂レプリカの転写表面)の凸部は、SAP法における無電解銅めっきのエッチング工程において、エッチング液の浸入を食い止める防護壁として機能する。そのため、この防護壁が厚いほど差し込みは生じにくくなるといえる。この点、前述したスキューネスSskの定義に基づけば、図9A及び9Bに示されるように、スキューネスSskが小さい樹脂レプリカ20(図9A参照)は、スキューネスSskが大きい樹脂レプリカ20(図9B参照)と比べて凸部20aの壁厚が厚くなるといえる(図中の丸印を付した箇所を参照)。したがって、樹脂レプリカのスキューネスSskを-0.6以下と十分小さくすることで、上記防護壁を厚くすることができ、それ故、回路22に生じる差し込みを効果的に抑制することができると考えられる。
【0030】
上記観点から、本発明の表面処理銅箔は、SAP法によるプリント配線板の作製に用いられるのが好ましい。別の表現をすれば、本発明の表面処理銅箔は、プリント配線板用の絶縁樹脂層に凹凸形状を転写するために用いるのが好ましいともいえる。
【0031】
本発明の表面処理銅箔は、少なくとも一方の側に処理表面を有する。処理表面は何らかの表面処理が施されている面であり、典型的には粗化処理面である。処理表面は、典型的には複数のコブ(例えば粗化粒子)を備えてなる。いずれにせよ、表面処理銅箔は両側に処理表面(例えば粗化処理面)を有するものであってもよいし、一方の側にのみ処理表面を有するものであってもよい。両側に処理表面を有する場合は、SAP法に用いた場合にレーザー照射側の面(絶縁樹脂に密着させる面と反対側の面)も表面処理されていることになるので、レーザー吸収性が高まる結果、レーザー穿孔性をも向上させることができる。
【0032】
本発明の表面処理銅箔は、処理表面に樹脂フィルムを熱圧着して処理表面の表面形状を樹脂フィルムの表面に転写し、エッチングにより表面処理銅箔を除去した場合に、残された樹脂フィルムの表面(すなわち樹脂レプリカの転写表面)におけるスキューネスSskが-0.6以下であり、好ましくは-1.7以上-0.6以下、より好ましくは-1.6以上-0.7以下、さらに好ましくは-1.5以上-0.9以下、特に好ましくは-1.5以上-1.1以下である。上記好ましい範囲内であると、SAP法のエッチング工程における差し込みの発生をより一層抑制しながら、表面処理銅箔の処理表面のコブを細長すぎない適度な形状に制御することができ、それにより表面処理銅箔におけるコブの折れや脱落等による粉落ちの発生を効果的に抑制することができる。樹脂フィルムは熱硬化性樹脂フィルムが好ましく、プリプレグの形態であってもよい。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱圧着は、表面処理銅箔の処理表面の凹凸形状を樹脂フィルムに転写可能な条件で行えばよく特に限定されない。例えば、圧力3.0MPa以上5.0MPa以下、温度200℃以上240℃以下、60分間以上120分間以下の条件で熱圧着を行うのが好ましい。
【0033】
本発明の表面処理銅箔は、上記エッチング後に残された樹脂フィルムの表面(すなわち樹脂レプリカの転写表面)が、山頂点の算術平均曲Spcが5000mm-1以上13000mm-1以下であるのが好ましく、より好ましくは7000mm-1以上13000mm-1以下、さらに好ましくは9000mm-1以上13000mm-1以下、特に好ましくは10000mm-1以上13000mm-1以下である。このような範囲内であると、表面処理銅箔の処理表面のコブを細長すぎない適度な形状に制御して、表面処理銅箔におけるコブの折れや脱落等による粉落ちの発生を効果的に抑制しつつ、SAP法のエッチング工程における差し込みの発生をより一層抑制することができる。差し込みの発生を抑制できる一つの要因としては、以下のようなものが挙げられる。すなわち、前述した山頂点の算術平均曲Spcの定義に基づけば、図9A及び9Bに示されるように、山頂点の算術平均曲Spcが小さい樹脂レプリカ20(図9A参照)は、山頂点の算術平均曲Spcが大きい樹脂レプリカ20(図9B参照)と比べて、凸部20aの頂点が平坦となる。その結果、差し込み防護壁として機能する凸部20aの壁厚が厚くなるためと考えられる。
【0034】
本発明の表面処理銅箔は、上記エッチング後に残された樹脂フィルムの表面(すなわち樹脂レプリカの転写表面)が、山の頂点密度Spdが1.13×10mm-2以上1.50×10mm-2以下であるのが好ましく、より好ましくは1.13×10mm-2以上1.40×10mm-2以下、さらに好ましくは1.14×10mm-2以上1.30×10mm-2以下、特に好ましくは1.15×10mm-2以上1.20×10mm-2以下である。このような範囲内であると、表面処理銅箔の処理表面のコブを適度な数に制御して粉落ちの発生を効果的に抑制しつつ、SAP法のエッチング工程における差し込みの発生をより一層抑制することができる。すなわち、前述のとおり、回路の差し込みは樹脂レプリカの凸部で食い止められるため、凸部が高頻度で存在する樹脂レプリカの方が、差し込みの進行を抑制できるといえる。この点、前述した山の頂点密度Spdの定義に基づけば、図9A及び9Bに示されるように、山の頂点密度Spdが大きい樹脂レプリカ20(図9A参照)は、山の頂点密度Spdが小さい樹脂レプリカ20(図9B参照)と比較して、凸部20aが高頻度で存在する。そのため、差し込みが発生した場合でも、その進行を早い段階で食い止めることができると考えられる。
【0035】
本発明の表面処理銅箔は、上記エッチング後に残された樹脂フィルムの表面(すなわち樹脂レプリカの転写表面)が、極点高さSxp(μm)に対するコア部の実体体積Vmc(mL/m)の比であるVmc/Sxpが0.39以上0.44以下であるのが好ましく、より好ましくは0.39以上0.43以下、さらに好ましくは0.39以上0.42以下、特に好ましくは0.39以上0.41以下、最も好ましくは0.39以上0.40以下である。このような範囲内であると、表面処理銅箔の処理表面のコブを細長すぎない適度な形状に制御して、表面処理銅箔におけるコブの折れや脱落等による粉落ちの発生を効果的に抑制しつつ、SAP法のエッチング工程における差し込みの発生をより一層抑制できる。その上、基材と回路との密着力を増大させることも可能となる。すなわち、前述のとおり、樹脂レプリカの凸部はエッチング液の浸入を食い止める防護壁として機能するところ、前述したコア部の実体体積Vmcの定義に基づけば、コア部の実体体積Vmcが大きいほど樹脂レプリカの凸部も大きくなり、差し込みがより一層抑制されるといえる。一方、前述したコア部の実体体積Vmc及び極点高さSxpの定義に基づけば、図10A及び10Bに示されるように、コア部の実体体積Vmcは、樹脂レプリカ20の凸部20aの高さにも依存するため、凸部20aの高さに関係するパラメータである極点高さSxpで除したVmc/Sxpを比較することにより、凸部20aの高さを一律に揃えた換算値として凸部20aの大きさを評価することができる。また、Vmc/Sxpを大きくする(例えば0.39以上)ことにより、回路22に食い込む樹脂レプリカ20の凸部20aの面積も大きくなる(すなわち回路22に囲まれて保持される樹脂量が多くなる)ため、アンカー効果の向上により、基材と回路との密着力も増大する。
【0036】
表面処理銅箔の製造方法
本発明による表面処理銅箔の好ましい製造方法の一例を説明するが、本発明による表面処理銅箔は、以下に説明する方法に限らず、樹脂フィルム表面に上述した表面プロファイルを付与できるかぎり、あらゆる方法によって製造されたものであってよい。
【0037】
(1)銅箔の準備
表面処理銅箔の製造に使用する銅箔として、電解銅箔及び圧延銅箔の双方の使用が可能である。銅箔の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上18μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上10μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上7μm以下、特に好ましくは0.5μm以上5μm以下、最も好ましくは0.5μm以上3μm以下である。銅箔がキャリア付銅箔の形態で準備される場合には、銅箔は、無電解銅めっき法及び電解銅めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び化学蒸着等の乾式成膜法、又はそれらの組合せにより形成したものであってよい。
【0038】
(2)表面処理(粗化処理)
銅粒子を用いて銅箔の少なくとも一方の表面を粗化する。この粗化は、粗化処理用銅電解溶液を用いた電解により行われる。この電解は2段階又は3段階のめっき工程を経て行われるのが好ましく、より好ましくは3段階のめっき工程を経て行われる。1段階目のめっき工程では、銅濃度5g/L以上20g/L以下、硫酸濃度30g/L以上200g/L以下、塩素濃度20mg/L以上100mg/L以下、及び9-フェニルアクリジン(9PA)濃度20mg/L以上80mg/L以下を含む硫酸銅溶液を用いて、液温20℃以上40℃以下、電流密度5A/dm以上25A/dm以下、時間2秒以上10秒以下のめっき条件で電着を行うのが好ましい。この1段階目のめっき工程は、2つの槽を用いて合計2回行ってもよいが、合計1回で完了させるのが好ましい。2段階目のめっき工程では、銅濃度65g/L以上80g/L以下及び硫酸濃度200g/L以上280g/L以下を含む硫酸銅溶液を用いて、液温45℃以上55℃以下、電流密度1A/dm以上10A/dm以下、時間2秒以上25秒以下のめっき条件で電着を行うのが好ましい。3段階目のめっき工程では、銅濃度10g/L以上20g/L以下、硫酸濃度30g/L以上130g/L以下、塩素濃度20mg/L以上100mg/L以下、及び9PA濃度100mg/L以上200mg/L以下を含む硫酸銅溶液を用いて、液温20℃以上40℃以下、電流密度10A/dm以上40A/dm以下、時間0.3秒以上1.0秒以下のめっき条件で電着を行うのが好ましい。特に、1段階目のめっき工程が9PA等の添加剤等を用いて行われるのが好ましく、1段階目のめっき工程における電気量Qと2段階目のめっき工程における電気量Qの合計電気量(Q+Q)が100C/dm以下となるように設定するのが好ましい。また、処理の均一化及び作業性の点から、1段階目のめっき工程における正極及び負極間の距離が45mm以上90mm以下とするのが好ましく、より好ましくは50mm以上80mm以下である。
【0039】
(3)防錆処理
所望により、粗化処理後の銅箔に防錆処理を施してもよい。防錆処理は、亜鉛を用いためっき処理を含むのが好ましい。亜鉛を用いためっき処理は、亜鉛めっき処理及び亜鉛合金めっき処理のいずれであってもよく、亜鉛合金めっき処理は亜鉛-ニッケル合金処理が特に好ましい。亜鉛-ニッケル合金処理は少なくともNi及びZnを含むめっき処理であればよく、Sn、Cr、Co等の他の元素をさらに含んでいてもよい。亜鉛-ニッケル合金めっきにおけるNi/Zn付着比率は、質量比で、1.2以上10以下が好ましく、より好ましくは2以上7以下、さらに好ましくは2.7以上4以下である。また、防錆処理はクロメート処理をさらに含むのが好ましく、このクロメート処理は亜鉛を用いためっき処理の後に、亜鉛を含むめっきの表面に行われるのがより好ましい。こうすることで防錆性をさらに向上させることができる。特に好ましい防錆処理は、亜鉛-ニッケル合金めっき処理とその後のクロメート処理との組合せである。
【0040】
(4)シランカップリング剤処理
所望により、銅箔にシランカップリング剤処理を施し、シランカップリング剤層を形成してもよい。これにより耐湿性、耐薬品性及び接着剤等との密着性等を向上することができる。シランカップリング剤層は、シランカップリング剤を適宜希釈して塗布し、乾燥させることにより形成することができる。シランカップリング剤の例としては、4-グリシジルブチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性シランカップリング剤、又は3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-3-(4-(3-アミノプロポキシ)ブトキシ)プロピル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性シランカップリング剤、又は3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性シランカップリング剤又はビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシシラン等のオレフィン官能性シランカップリング剤、又は3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル官能性シランカップリング剤、又はイミダゾールシラン等のイミダゾール官能性シランカップリング剤、又はトリアジンシラン等のトリアジン官能性シランカップリング剤等が挙げられる。
【0041】
キャリア付銅箔
本発明の表面処理銅箔は、キャリア付銅箔の形態で提供することができる。この場合、キャリア付銅箔は、キャリアと、このキャリア上に設けられた剥離層と、この剥離層上に処理表面(典型的には粗化処理面)を外側にして設けられた本発明の表面処理銅箔とを備えてなる。もっとも、キャリア付銅箔は、本発明の表面処理銅箔を用いること以外は、公知の層構成が採用可能である。
【0042】
キャリアは、表面処理銅箔を支持してそのハンドリング性を向上させるための層(典型的には箔)である。キャリアの例としては、アルミニウム箔、銅箔、表面を銅等でメタルコーティングした樹脂フィルムやガラス板等が挙げられ、好ましくは銅箔である。銅箔は圧延銅箔及び電解銅箔のいずれであってもよい。キャリアの厚さは典型的には200μm以下であり、好ましくは12μm以上35μm以下である。
【0043】
キャリアの剥離層側の面は、0.5μm以上1.5μm以下の十点表面粗さRzを有するのが好ましく、より好ましくは0.6μm以上1.0μm以下である。RzはJIS B 0601-1994に準拠して決定することができる。このような十点表面粗さRzをキャリアの剥離層側の面に付与しておくことで、その上に剥離層を介して作製される本発明の表面処理銅箔に望ましい表面プロファイルを付与しやすくすることができる。
【0044】
剥離層は、キャリアの引き剥がし強度を弱くし、該強度の安定性を担保し、さらには高温でのプレス成形時にキャリアと銅箔の間で起こりうる相互拡散を抑制する機能を有する層である。剥離層は、キャリアの一方の面に形成されるのが一般的であるが、両面に形成されてもよい。剥離層は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられ、中でもトリアゾール化合物は剥離性が安定し易い点で好ましい。トリアゾール化合物の例としては、1,2,3-ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’-ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H-1,2,4-トリアゾール及び3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。硫黄含有有機化合物の例としては、メルカプトベンゾチアゾール、チオシアヌル酸、2-ベンズイミダゾールチオール等が挙げられる。カルボン酸の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Zn、クロメート処理膜等が挙げられる。なお、剥離層の形成はキャリアの少なくとも一方の表面に剥離層成分含有溶液を接触させ、剥離層成分をキャリアの表面に固定されること等により行えばよい。キャリアの剥離層成分含有溶液への接触は、剥離層成分含有溶液への浸漬、剥離層成分含有溶液の噴霧、剥離層成分含有溶液の流下等により行えばよい。また、剥離層成分のキャリア表面への固定は、剥離層成分含有溶液の吸着や乾燥、剥離層成分含有溶液中の剥離層成分の電着等により行えばよい。剥離層の厚さは、典型的には1nm以上1μm以下であり、好ましくは5nm以上500nm以下である。
【0045】
表面処理銅箔としては、上述した本発明の表面処理銅箔を用いる。本発明の粗化処理は銅粒子を用いた粗化が施されたものであるが、手順としては、先ず剥離層の表面に銅層を銅箔として形成し、その後少なくとも粗化を行えばよい。粗化の詳細については前述したとおりである。なお、銅箔はキャリア付銅箔としての利点を活かすべく、極薄銅箔の形態で構成されるのが好ましい。極薄銅箔としての好ましい厚さは0.1μm以上7μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上3μm以下である。
【0046】
剥離層とキャリア及び/又は銅箔との間に他の機能層を設けてもよい。そのような他の機能層の例としては補助金属層が挙げられる。補助金属層はニッケル及び/又はコバルトからなるのが好ましい。補助金属層の厚さは、0.001μm以上3μm以下とするのが好ましい。
【0047】
銅張積層板
本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔はプリント配線板用銅張積層板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上記表面処理銅箔又は上記キャリア付銅箔を備えた銅張積層板が提供される。本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔を用いることで、SAP法に特に適した銅張積層板を提供することができる。この銅張積層板は、本発明の表面処理銅箔と、この表面処理銅箔の粗化処理面に密着して設けられる樹脂層とを備えてなるか、あるいは本発明のキャリア付銅箔と、このキャリア付銅箔における表面処理銅箔の粗化処理面に密着して設けられる樹脂層とを備えてなる。表面処理銅箔又はキャリア付銅箔は樹脂層の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。樹脂層は、樹脂、好ましくは絶縁性樹脂を含んでなる。樹脂層はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂層には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上200μm以下である。樹脂層は複数の層で構成されていてよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の樹脂層は予め表面処理銅箔の粗化処理表面に塗布されるプライマー樹脂層を介して表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔に設けられていてもよい。
【0048】
プリント配線板
本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔はプリント配線板の作製に用いられるのが好ましく、特に好ましくはセミアディティブ法(SAP)によるプリント配線板の作製に用いられる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、前述した表面処理銅箔又は上記キャリア付銅箔を用いてプリント配線板を製造することを特徴とする、プリント配線板の製造方法、あるいは前述した表面処理銅箔又は上記キャリア付銅箔を用いて得られたプリント配線板が提供される。本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔を用いることで、上述の表面プロファイルを積層体に付与することができ、プリント配線板製造の一工程であるエッチング工程において、差し込みを効果的に抑制することが可能となる。本態様によるプリント配線板は、樹脂層と、銅層とが積層された層構成を含んでなる。SAP法の場合には本発明の表面処理銅箔は図1の工程(c)において除去されるため、SAP法により作製されたプリント配線板は本発明の表面処理銅箔をもはや含まず、表面処理銅箔の粗化処理面から転写された表面プロファイルが残存するのみである。また、樹脂層については銅張積層板に関して上述したとおりである。いずれにしても、プリント配線板は公知の層構成が採用可能である。プリント配線板に関する具体例としては、プリプレグの片面又は両面に本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔を接着させ硬化した積層体とした上で回路形成した片面又は両面プリント配線板や、これらを多層化した多層プリント配線板等が挙げられる。また、他の具体例としては、樹脂フィルム上に本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔を形成して回路を形成するフレキシブルプリント配線板、COF、TABテープ等も挙げられる。さらに他の具体例としては、本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔に上述の樹脂層を塗布した樹脂付銅箔(RCC)を形成し、樹脂層を絶縁接着材層として上述のプリント基板に積層した後、表面処理銅箔を配線層の全部又は一部としてモディファイドセミアディティブ(MSAP)法、サブトラクティブ法等の手法で回路を形成したビルドアップ配線板や、表面処理銅箔を除去してセミアディティブ(SAP)法で回路を形成したビルドアップ配線板、半導体集積回路上へ樹脂付銅箔の積層と回路形成を交互に繰りかえすダイレクト・ビルドアップ・オン・ウェハー等が挙げられる。より発展的な具体例として、上記樹脂付銅箔を基材に積層し回路形成したアンテナ素子、接着剤層を介してガラスや樹脂フィルムに積層しパターンを形成したパネル・ディスプレイ用電子材料や窓ガラス用電子材料、本発明の表面処理銅箔に導電性接着剤を塗布した電磁波シールド・フィルム等も挙げられる。特に、本発明の表面処理銅箔ないしキャリア付銅箔はSAP法に適している。例えば、SAP法により回路形成した場合には図1及び2に示されるような構成が採用可能である。
【0049】
樹脂基材
本発明の好ましい態様によれば、少なくとも一方の表面が、ISO25178に準拠して測定されるスキューネスSskが-0.6以下である、樹脂基材が提供される。この樹脂基材は、本発明の表面処理銅箔の表面形状が転写された樹脂レプリカに相当するものである。したがって、上述した表面処理銅箔の表面形状が転写された樹脂レプリカの好ましい態様(スキューネスSsk、山頂点の算術平均曲Spc、山の頂点密度Spd、及び極点高さSxpに対するコア部の実体体積Vmcの比Vmc/Sxpの各パラメータ)は、本態様の樹脂基材にもそのまま当てはまる。樹脂基材は、樹脂、好ましくは絶縁性樹脂を含んでなる。樹脂基材はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂基材を構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂基材には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。樹脂基材の厚さは特に限定されないが、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上200μm以下である。樹脂基材は複数の層で構成されていてよい。本発明の樹脂基材はSAP法によるプリント配線板の作製における出発材料ないし中間製品として好ましく用いることができる。
【実施例
【0050】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0051】
例1~6
キャリア付銅箔及び樹脂レプリカの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0052】
(1)キャリアの作製
陰極として表面を#2000のバフで研磨したチタン製の電極を用意した。また、陽極としてDSA(寸法安定性陽極)を用意した。これらの電極を用い、銅濃度80g/L、硫酸濃度260g/Lの硫酸銅溶液に浸漬して、溶液温度45℃、電流密度55A/dmで電解し、厚さ18μmの電解銅箔をキャリアとして得た。
【0053】
(2)剥離層の形成
酸洗処理されたキャリアの電極面側を、CBTA(カルボキシベンゾトリアゾール)濃度1g/L、硫酸濃度150g/L及び銅濃度10g/LのCBTA水溶液に、液温30℃で30秒間浸漬し、CBTA成分をキャリアの電極面に吸着させた。こうして、キャリアの電極面の表面にCBTA層を有機剥離層として形成した。
【0054】
(3)補助金属層の形成
有機剥離層が形成されたキャリアを、硫酸ニッケルを用いて作製されたニッケル濃度20g/Lの溶液に浸漬して、液温45℃、pH3、電流密度5A/dmの条件で、厚さ0.001μm相当の付着量のニッケルを有機剥離層上に付着させた。こうして有機剥離層上にニッケル層を補助金属層として形成した。
【0055】
(4)極薄銅箔形成
補助金属層が形成されたキャリアを、銅濃度60g/L、硫酸濃度200g/Lの硫酸銅溶液に浸漬して、溶液温度50℃、電流密度5A/dm以上30A/dm以下で電解し、厚さ1.2μmの極薄銅箔を補助金属層上に形成した。
【0056】
(5)粗化処理
上述の極薄銅箔の析出面に対して粗化処理を行った。この粗化処理は、1段階目のめっきは2回に分けて行った。各段階のめっき工程では、表1に示す銅濃度、硫酸濃度、塩素濃度及び9-フェニルアクリジン(9PA)濃度を有する硫酸銅溶液を用い、表1に示す液温で、表2に示す電流密度及び時間で電着を行った。1段階目のめっき処理における正極及び負極間の距離は50mm以上80mm以下とした。こうして例1から例6までの6種類の粗化処理銅箔を作製した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
(6)防錆処理
得られたキャリア付銅箔の粗化処理層の表面に、亜鉛-ニッケル合金めっき処理及びクロメート処理からなる防錆処理を行った。まず、亜鉛濃度0.2g/L、ニッケル濃度2g/L及びピロリン酸カリウム濃度300g/Lの電解液を用い、液温40℃、電流密度0.5A/dmの条件で、粗化処理層及びキャリアの表面に亜鉛-ニッケル合金めっき処理を行った。次いで、クロム酸1g/L水溶液を用い、pH11、液温25℃、電流密度1A/dmの条件で、亜鉛-ニッケル合金めっき処理を行った表面にクロメート処理を行った。
【0060】
(7)シランカップリング剤処理
3-アミノプロピルトリメトキシシラン3g/Lを含む水溶液をキャリア付銅箔の銅箔側の表面に吸着させ、電熱器により水分を蒸発させることにより、シランカップリング剤処理を行った。このとき、シランカップリング剤処理はキャリア側には行わなかった。
【0061】
(8)銅張積層板の作製
キャリア付銅箔を用いて銅張積層板を作製した。まず、内層基板の表面に、樹脂フィルムとしてBT樹脂プリプレグ(三菱瓦斯化学株式会社製、GHPL-830NS、厚さ0.1mm)を介してキャリア付銅箔の極薄銅箔を積層し、圧力4.0MPa、温度220℃で90分間熱圧着した後、キャリアを剥離し、銅張積層板を作製した。
【0062】
(9)樹脂レプリカの作製
銅張積層板の表面の銅箔を硫酸・過酸化水素系エッチング液ですべて除去し、樹脂レプリカを得た。
【0063】
(10)樹脂レプリカの表面プロファイル測定
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X100)を用いた表面粗さ解析により、樹脂レプリカの転写面(粗化処理面の表面プロファイルが転写された面)の測定をISO25178に準拠して行った。具体的には、樹脂レプリカの転写面における面積57074.677μmの領域の表面プロファイルを上記レーザー顕微鏡にて対物レンズ倍率50倍で測定した。得られた樹脂レプリカの転写面の表面プロファイルに対して面傾き補正(自動)を前処理として行った後、レーザー法により解析して、各パラメータ(スキューネスSsk、山頂点の算術平均曲Spc、山の頂点密度Spd、極点高さSxpに対するコア部の実体体積Vmcの比Vmc/Sxp)を算出した。このとき、Sフィルター及びLフィルターのいずれも使用せずに数値を計測した。以上の操作を各例につき3回行い、平均値を各例における各パラメータの値とした。結果は表3に示されるとおりであった。
【0064】
(11)SAP評価用積層体の作製
樹脂レプリカに対し、脱脂、Pd系触媒付与、及び活性化処理を行った。こうして活性化された表面に無電解銅めっき(厚さ:1μm)を行い、SAP法においてドライフィルムが張り合わせられる直前の積層体(以下、SAP評価用積層体という)を得た。これらの工程はSAP法の公知の条件に従って行った。
【0065】
(12)SAP評価用積層体の評価
上記得られたSAP評価用積層体について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0066】
<差し込み評価>
SAP評価用積層体の表面にドライフィルムを貼り付け、露光、ドライフィルム除去、及び電解めっき等を行うことで、回路幅22μm、高さ22μm、長さ150μmの回路(この段階では、各回路の下部は無電解銅めっき層により電気的に接続している状態である)を形成した。得られた回路をエッチング液(荏原ユージライト株式会社製、SAC-700W3C)で処理することにより、回路間に残存している無電解銅めっき層を溶解除去し、各回路間を絶縁した。このときのエッチング量は、予め銅箔のエッチング速度を測定しておき、いわゆるジャストエッチングよりもさらに4μm相当をエッチングする、いわゆるオーバーエッチングの条件で行った。エッチング処理の後、回路を水洗して乾燥させた。光学顕微鏡を用いて回路の断面を観察し、差込量を求めた。具体的には、図11に示されるように、樹脂レプリカ20上に形成された回路22の上部幅x(μm)及び下部幅y(μm)を測定し、その差(x-y)を差込量(μm)とした。各例について2視野で測定を行い、平均値を各例の差込量とした。結果は表3に示されるとおりであった。
【0067】
<めっき回路密着性(剥離強度)>
SAP評価用積層体にドライフィルムを張り合わせ、露光及び現像を行った。現像されたドライフィルムでマスキングされた積層体にパターンめっきで銅層を析出させた後、ドライフィルムを剥離した。エッチング液(荏原ユージライト株式会社製、SAC-700W3C)で表出している無電解銅めっきを除去し、高さ20μm、幅10mmの剥離強度測定用サンプルを作成した。JIS C 6481(1996)に準拠して、評価用サンプルから銅層を剥離する際の、剥離強度を測定した。結果は表3に示されるとおりであった。
【0068】
【表3】
【0069】
表3から分かるように、例5はVmc/Sxpの値が大きいにも関わらず、剥離強度はそれほど上昇していない。この理由は、「粉落ち」が一つの要因であると考えられる。すなわち、粉落ちが発生すると、もはやアンカー効果は得られず剥離強度は低下する傾向が見られるが、Vmc/Sxpが大きすぎるときに粉落ちが起こる。例5は軽微な粉落ちが発生したため、やや低い剥離強度に留まっていると考えられる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11