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特許7453158添加剤または補助溶剤としてのホスフィットを有する電解質、この電解質を有するリチウム二次電池、およびホスフィットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】添加剤または補助溶剤としてのホスフィットを有する電解質、この電解質を有するリチウム二次電池、およびホスフィットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240312BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240312BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020564631
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 DE2019200071
(87)【国際公開番号】W WO2020007425
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】102018116475.0
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599000142
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム ユーリッヒ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Forschungszentrum Juelich GmbH
【住所又は居所原語表記】Wilhelm-Johnen-Strasse, 52428 Juelich, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴォロディミル コツェル
(72)【発明者】
【氏名】ナターシャ フォン アスパン
(72)【発明者】
【氏名】ゲルト-フォルカー レシェンターラー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ヴィンター
(72)【発明者】
【氏名】オレシア シュトゥッブマン-カザコワ
(72)【発明者】
【氏名】イシドラ チェキッチ-ラスコヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヴェルケ
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0048622(US,A1)
【文献】特開2011-108454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0566-10/0569
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・ 少なくとも1つのリチウム塩、
・ 少なくとも1つの第1の有機溶剤および少なくとも1つの第2の有機溶剤、ここで、前記第1の有機溶剤は(40℃で)90を上回る誘電率を有し、且つ前記第2の有機溶剤は110℃を下回る沸点を有する、および
・ 少なくとも1つの式(I)のホスフィット:
【化1】
[式中、
1は完全または部分的にハロゲン置換された、直鎖または分枝鎖の 3 またはC 4 -アルキル基(但し、n-プロピル基は除く)であり、且つ、
2、R3、R4およびR5は互いに独立して、H、または非置換、または完全または部分的にハロゲン置換された、直鎖の1 またはC 2 -アルキル基から選択される]
を含む電解質。
【請求項2】
2がトリフルオロメチル基であり、且つR3、R4およびR5がHであることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
2、R3、R4およびR5がHであることを特徴とする、請求項1または2に記載の電解質。
【請求項4】
前記少なくとも1つのホスフィットが、有機溶剤の総質量に対して0.1~15質量%の割合で含有されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項5】
4.2Vを上回る電圧でのリチウム二次電池内での電解質の使用であって、前記電解質が以下:
・ 少なくとも1つのリチウム塩、
・ 少なくとも1つの第1の有機溶剤および少なくとも1つの第2の有機溶剤、ここで、前記第1の有機溶剤は(40℃で)90を上回る誘電率を有し、且つ前記第2の有機溶剤は110℃を下回る沸点を有する、および
・ 少なくとも1つの式(I)のホスフィット:
【化2】
[式中、
1は完全または部分的にハロゲン置換された、直鎖または分枝鎖の 3 またはC 4 -アルキル基(但し、n-プロピル基は除く)であり、且つ、
2、R3、R4およびR5は互いに独立して、H、または非置換、または完全または部分的にハロゲン置換された、直鎖の1 またはC 2 -アルキル基から選択される]
を含む、前記使用。
【請求項6】
・ カソード、
・ アノード、
・ セパレータ、および
・ 請求項1から4までのいずれか1項に記載の電解質
を含む、リチウム二次電池。
【請求項7】
電解質中でのホスフィットの割合が、有機溶剤の総質量に対して0.1~15質量%であることを特徴とする、請求項6に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加剤または補助溶剤としてのホスフィットを有する電解質、この電解質を有するリチウム二次電池、並びにホスフィットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの効率的な利用を実現し、エレクトロモビリティにおいて使用するために、エネルギー源および貯蔵媒体としての電池の重要性が近年非常に高まっている。しかし、得ようとされる目的を達成するためには、電池がさらに改善されなければならない。
【0003】
全ての種類の現在および将来のリチウム電池、リチウムイオン電池およびデュアルイオン電池において、電解質は、全ての他の使用される活物質および不活物質との相互作用に基づき、性能、寿命および安全性に関して中心的なキーとなる機能を有する。液体電解質は、電池の多数の化学的および技術的側面に著しい影響を及ぼす。その範囲は、伝導性(伝導塩の溶解力に基づく)から、電気化学的安定性、使用適性、易燃性および蒸気圧にわたり、電解質の膜形成特性にまで及び、前記特性はいわゆるアノード上での形成の場合「Solid Electrolyte Interface」(SEI)、もしくはカソード上での形成の場合「Cathode Electrolyte Interface」(CEI)に本質的な影響を及ぼす。
【0004】
各々の電池セルの中心成分としての液体電解質は、伝導塩、例えばLiPF6、および選択された直鎖および環状カーボネートからの混合物(一般に標準電解質と称される)からなる。
【0005】
そのような電解質の大きな弱点は、酸化安定性が低いこと、および可燃性が高いことである(Xu,K. Chem.Rev.2004,104(10),4.303~4.418)。
【0006】
酸化安定性は殊に、新たなカソード材料(5Vカソード)の開発により、より高い充電終止電圧が使用され、ひいてはエネルギー密度が高められる場合に大きな問題である(Xu,K., Chem.Rev.2014,114(23),11503~11618)。
【0007】
リチウム参照(Li/Li+)に対して4.3Vを超える充電終止電圧を使用する場合、カーボネートに基づく電解質の酸化性の分解がカソードで生じ、そのことは結果として容量の減少を高め、ひいては電池の寿命が減少する。
【0008】
カソードでの電解質の分解、およびそれに引き続く容量の減少を防止するための1つのアプローチは、電解質中での添加剤を使用することである(通常、0.1~5質量%の量)。このアプローチの利点は、電解質の主たる構造が保持されることである。添加剤の役割は、カソード上に保護層(CEI)を形成し、ひいては標準電解質の電解質の分解を防止もしくは低減することである(Xu,K., Chem.Rev.2014,114(23),11503~11618)。
【0009】
これについて、多くの様々な添加剤が従来技術から公知である。これは一方では、フッ素以外のヘテロ原子を含有しない部分的にフッ素化された有機化合物(Zheng,X.; Huang,T.; Pan,Y.; Wang,W.; Fang,G.; Ding,K.; Wu,M.,ACS Applied Materials&Interfaces 2017,9(22),18758~18765; Kim,S.; Kim,M.; Choi,I.; Kim,J.J., J.Power Sources 2016,336(Supplement C),316~324)、並びに追加的に以下のヘテロ原子を含有する部分的にフッ素化された有機化合物である: 窒素(例えばWang,L.; Ma,Y.; Li,Q.; Zhou,Z.; Cheng,X.; Zuo,P.; Du,C.; Gao,Y.; Yin,G., J.Power Sources 2017,361(Supplement C),227~236参照)、リン(例えばvon Aspern,N.; Roeser,S.; Rezaei Rad,B.; Murmann,P.; Streipert,B.; Moennighoff,X.; Tillmann,S.D.; Shevchuk,M.; Stubbmann-Kazakova,O.; Roeschenthaler,G.-V.; Nowak,S.; Winter,M.; Cekic-Laskovic,I., J.Fluor. Chem.2017,198(Supplement C),24~33; Tornheim,A. ; He,M.; Su,C.-C.; Zhang,Z., J.Electrochem. Soc.2017,164(1),A6366~A6372; Wagner,R.; Korth,M.; Streipert,B.; Kasnatscheew,J.; Gallus,D.R.; Brox,S.; Amereller,M.; Cekic-Laskovic,I.; Winter,M.,ACS Applied Materials&Interfaces 2016,8(45),30871~30878参照)、硫黄(例えばRong,H.; Xu,M.; Zhu,Y.; Xie,B.; Lin,H.; Liao,Y.; Xing,L.; Li,W., J.Power Sources 2016,332(Supplement C),312~321参照)、ホウ素(例えばWang,K.; Xing,L.; Zhu,Y.; Zheng,X.; Cai,D.; Li,W., J.Power Sources 2017,342(Supplement C),677~684参照)、ケイ素(例えばWang,K.; Xing,L.; Zhu,Y.; Zheng,X.; Cai,D.; Li,W., J.Power Sources 2017,342(Supplement C),677~684; Imholt,L.; Roeser,S.; Boerner,M.; Streipert,B.; Rad,B.R.; Winter,M.; Cekic-Laskovic,I.,Electrochim. Acta 2017,235(Supplement C),332~339参照)。
【0010】
さらにまた、有機金属に基づく(Imholt,L.; Roeser,S.; Boerner,M.; Streipert,B.; Rad,B.R.; Winter,M.; Cekic-Laskovic,I.,Electrochim.Acta 2017,235(Supplement C),332~339)、およびリチウム塩に基づく(例えばDong,Y.; Young,B.T.; Zhang,Y.; Yoon,T.; Heskett,D.R.; Hu,Y.; Lucht,B.L., ACS Applied Materials&Interfaces 2017,9(24),20467~20475参照)電解質添加剤も提案された。
【0011】
これらの添加剤を標準電解質に添加することによって容量の減少を低減できるが、完全に防ぐことができない。これら全ての添加剤は、標準電解質の前のカソードでの酸化の際に分解し、有効なCEIを形成する。このCEIによって、さらなる電解質の分解が防がれ、内部抵抗が低減し、カソードの構造安定性が改善し、ガスの形成およびカソード中にある金属の金属溶出が防がれ、カソード中の同様の大きさのイオン半径に基づくLi+イオンとNi2+イオンとのイオン混合を最小化できる。
【0012】
高い充電終止電圧の際の酸化性の分解の他に、カーボネートに基づく電解質の安全面、殊に可燃性は重要な問題である。通常使用される直鎖および環状のカーボネートは容易に引火し、例えば2016年のSamsung Galaxy Note 7の場合のように電池火災の発生についての報告が何度もある。この理由から、可燃性に関してより安全な電池を開発することが重要である。
【0013】
電解質用の新規の溶剤の開発の他に、添加剤としての難燃剤(<5質量%)または補助溶剤(>5質量%)を標準電解質に添加することができる(Xu,K.,Chem.Rev.2004,104(10),4303~4418; Xu,K., Chem.Rev.2014,114(23),11503~11618)。このアプローチの場合も、電解質の主たる構造は変わらない。
【0014】
効果的な難燃剤として、酸化数IIIまたはVのリン原子を含有する化合物が実証されている。酸化数Vのリン原子を有する化合物は、2つの下位グループに分けられ、一方ではホスフェート/ホスフィット、他方ではホスファゼンであり、それは複数のリン原子の他にさらに複数の窒素原子も含む。
【0015】
ホスフィット(酸化数III)およびホスフェート(酸化数V)を難燃剤として使用する場合、不燃性の電解質を得るためには高い割合(>20質量%)が必要であることが示されている(例えば、von Aspern,N.; Roeser,S.; Rezaei Rad,B.; Murmann,P.; Streipert,B.; Moennighoff,X.; Tillmann,S.D.; Shevchuk,M.; Stubbmann-Kazakova,O.; Roeschenthaler,G.-V.; Nowak,S.; Winter,M.; Cekic-Laskovic,I., J.Fluor.Chem.2017,198(Supplement C),24~33; Murmann,P.; Moennighoff,X.; von Aspern,N.; Janssen,P.; Kalinovich,N.; Shevchuk,M.; Kazakova,O.; Roeschenthaler,G.-H.; Cekic-Laskovic,I.; Winter,M., J.Electrochem.Soc.2016,163(5),A751~A757参照)。しかしながら、高い割合の難燃剤は、標準電解質に比して、電池のサイクル特性(性能および寿命)に悪い意味で影響する。これは主に、使用される難燃剤のグラファイトアノードに対する不混和性に起因する。
【0016】
この難燃剤のグラファイトアノードに対する不混和性を改善するために、水素原子をフッ素原子によって置き換えることが有効なアプローチとして知られている。このアプローチによって、電池のサイクル特性、ひいては寿命が、フッ素化されていない補助溶剤に対して明らかに改善され得る。しかしながら、標準電解質の性能および寿命は達成できていない(Murmann,P.; Moennighoff,X.; von Aspern,N.; Janssen,P.; Kalinovich,N.; Shevchuk,M.; Kazakova,O.; Roeschenthaler,G.-H.; Cekic-Laskovic,I.; Winter,M., J.Electrochem.Soc.2016,163(5),A751~A757; Moennighoff,X.; Murmann,P.; Weber,W.; Winter,M.; Nowak,S.,Electrochim.Acta 2017,246(Supplement C),1042~1051)。
【0017】
フッ素原子導入のさらなる利点は、これが可燃性への影響も有することであり、つまり、フッ素化された化合物は、フッ素化されていない化合物よりも原理的により良好に電解質の可燃性を低減できる。ただし、フッ素化された化合物の燃焼の化学は複雑であり、まだ完全には理解されていないので、フッ素化の程度は個々の化合物の易燃性についての結論を出すことができない(Murmann,N.von Aspern, P.Janssen, N.Kalinovich, M.Shevchuk, G.-V.Roeschenthaler, M.Winter, I.Cekic-Laskovic, J.Electrochem.Soc.2018,165,A1935~A1942; P.Murmann, X.Moenninghoff, N.von Aspern, P.Janssen, N.Kalinovich, M.Shevchuk, O.Kazakova, G.-V.Roeschenthaler, I.Cekic-Laskovic, M.Winter, J.Electrochem.Soc.2016,163,A715~A757)。
【0018】
難燃剤としてホスファゼンを使用することによって、その割合(5質量%)を劇的に低減して不燃性の液体電解質が得られ、その際、サイクルへ特性の悪影響は示されていない。さらに、これらの添加剤は、有効なCEIを形成するので、高電圧用途のためにも使用できる(Ji,Y.; Zhang,P.; Lin,M.; Zhao,W.; Zhang,Z.; Zhao,Y.; Yang,Y., J.Power Sources 2017,359(Supplement C),391~399; Xia,L.; Xia,Y.; Liu,Z., J.Power Sources 2015,278(Supplement C),190~196)。
【0019】
この二機能の用途は、ホスフィットおよびホスフェートについては知られていない。しかし、標準電解質内でのホスフィット/ホスフェートの割合を変えることによって、種々の用途が実現され得ることが既に示されている。低い割合(1質量%)の場合、ホスフィット/ホスフェートは高電圧添加剤として使用でき、高い割合(>20質量%)の場合、それらは難燃剤としてはたらく(von Aspern,N.; Roeser,S.; Rezaei Rad,B.; Murmann,P.; Streipert,B.; Moennighoff,X.; Tillmann,S.D.; Shevchuk,M.; Stubbmann-Kazakova,O.; Roeschenthaler,G.-V.; Nowak,S.; Winter,M.; Cekic-Laskovic,I., J.Fluor.Chem.2017,198(Supplement C),24~33)。しかしながら、この研究では、高いホスフィット/ホスフェート割合についての電気化学的測定は実施されていないので、電池の性能および寿命に関して述べることはできない。
【0020】
電気化学的エージング後に標準電解質を調べると、酸化数Vを有する異なるホスホランが分解生成物として観察された(Takeda,S.; Morimura,W.; Liu,Y.-H.; Sakai,T.; Saito,Y.,Rapid Commun.Mass Spectrom.2016,30(15),1754~1762; Weber,W.; Kraft,V.; Gruetzke,M.; Wagner,R.; Winter,M.; Nowak,S., J.Chromatogr.A 2015,1394(Supplement C),128~136)。この分解生成物が標準電解質に及ぼす影響を調査するために、溶剤、補助溶剤または添加剤としてのホスホランが調査され、電池の一般的な電気化学的性能への良い影響が示された。エチレンカーボネート(EC)と共に溶剤として使用する場合、酸化数IIIおよびVを有するホスホランが調査され、その際、アルキル基の末端基は0~3つのフッ素原子を有し得る。この系について、4.2V(vs.Li/Li+)の充電終止電圧でのLi/LMOセルにおいて、環状ホスフェートと同様に振る舞い、且つ難燃性溶剤であると仮定された(Narang,S.C.; Ventura,S.C.; Zhao,M.; Smedley,S.; Koolpe,G.; Dougherty,B.国際公開第1997/044842号(WO97/44842))。
【0021】
補助溶剤、例えば、フッ素原子を含有しないエチレンエチルホスフェート(EEP)を使用する場合、10質量%の添加によって電解質の可燃性を約50%低減できる。さらに、アノードおよびカソード上での保護膜の形成によって、標準電解質に対して、4.3V(vs.Li/Li+)の終電終止電圧でのサイクル特性の改善を達成できる(Gao,D.; Xu,J.B.; Lin,M.; Xu,Q.; Ma,C.F.; Xiang,H.F., RSC Adv.2015,5(23),17566~17571)。
【0022】
酸化数IIIを有する他のホスホランも補助溶剤もしくは添加剤として調査された。その際、アルキル基の長さおよびフッ素化度を変化させ、並びに環を1つまたは2つのアルキル鎖によって置換し、その際、ここでも長さおよびフッ素化度を変化させた。この場合、30質量%のホスホランを添加した際に、標準電解質に対して約30%の可燃性の減少が示された。0.001V~1.5Vでの半電池の定電流サイクルの場合、補助溶剤としてホスホランを含むセルは良好な充放電プロファイルを示した。ただし、達成された容量は、標準電解質の容量を明らかに下回っている。他方で、添加剤として使用する場合、標準電解質に対してより良好な容量を達成できた(米国特許第8062796号明細書(US8062796B2))。全電池での実験は実施されなかった。
【0023】
ただし、半電池の測定結果を全電池にそのまま転用することはできないことが知られている(V.Sharova, A.Moretti, T.Diemant, A.Varzi, R.J.Behm, S.Passerini, J.Power Sources(2018),375,43~52)。さらに、従来技術から、4.2Vまでの放電終止電圧を使用する場合、セルは、4.2Vを上回る放電終止電圧を使用する場合(高電圧用途)とは明らかに異なる挙動を示すことが知られている(J.Li, H.Liu, J.Xia, A.R.Cameron, M.Nie, G.A.Botton.J.R.Dahn, J.Electrochem.Soc.(2017),164,A655~A665; J.Li, S.L.Glazier, K.Nelson, X.Ma, J.Harlow, J.Paulsen, J.R.Dahn, J.Electrochem.Soc.(2018),165,A3195~A3204)。
【0024】
さらに、EEP(5質量%)が添加剤として、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:トリメチルホスフェート(6:2:2)からの電解質参照系に添加される場合、EEPによって誘導されるアノード上での保護層の形成によって、アノード上でのホスフェートの還元の問題を阻止でき、ひいては1.5V(vs.Li/Li)の充電終止電圧でのサイクル特性を改善できることが示されている(Ota,H.; Kominato,A.; Chun,W.-J.; Yasukawa,E.; Kasuya,S., J.Power Sources 2003,119(Supplement C),393~398)。
【0025】
さらに、高電圧用途のためにも、EEPを(1質量%の添加で)使用できる。この場合、セルを20℃で4.4V(vs.Li/Li+)までの10回の充電/放電サイクルについてサイクリングし、次いでセルを45℃で2時間保管し、引き続き4.6V(vs.Li/Li+)まで充電し、次いで60時間保持した。これにより、EEPはCEIを形成し、標準電解質に比して小さい内部抵抗を有することが示された(Tornheim,A.; He,M.; Su,C.-C.; Zhang,Z., J.Electrochem. Soc.2017,164(1),A6366~A6372)。しかしながら、この試験によって、高い充電終止電圧での頻繁な充電および放電がどのように電池の性能に作用するのかを示すことはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】国際公開第1997/044842号
【文献】米国特許第8062796号明細書
【非特許文献】
【0027】
【文献】Xu,K. Chem.Rev.2004,104(10),4.303~4.418
【文献】Xu,K., Chem.Rev.2014,114(23),11503~11618
【文献】Zheng,X.; Huang,T.; Pan,Y.; Wang,W.; Fang,G.; Ding,K.; Wu,M.,ACS Applied Materials&Interfaces 2017,9(22),18758~18765
【文献】Kim,S.; Kim,M.; Choi,I.; Kim,J.J., J.Power Sources 2016,336(Supplement C),316~324
【文献】Wang,L.; Ma,Y.; Li,Q.; Zhou,Z.; Cheng,X.; Zuo,P.; Du,C.; Gao,Y.; Yin,G., J.Power Sources 2017,361(Supplement C),227~236
【文献】von Aspern,N.; Roeser,S.; Rezaei Rad,B.; Murmann,P.; Streipert,B.; Moennighoff,X.; Tillmann,S.D.; Shevchuk,M.; Stubbmann-Kazakova,O.; Roeschenthaler,G.-V.; Nowak,S.; Winter,M.; Cekic-Laskovic,I., J.Fluor. Chem.2017,198(Supplement C),24~33
【文献】Tornheim,A. ; He,M.; Su,C.-C.; Zhang,Z., J.Electrochem. Soc.2017,164(1),A6366~A6372
【文献】Wagner,R.; Korth,M.; Streipert,B.; Kasnatscheew,J.; Gallus,D.R.; Brox,S.; Amereller,M.; Cekic-Laskovic,I.; Winter,M.,ACS Applied Materials&Interfaces 2016,8(45),30871~30878
【文献】Rong,H.; Xu,M.; Zhu,Y.; Xie,B.; Lin,H.; Liao,Y.; Xing,L.; Li,W., J.Power Sources 2016,332(Supplement C),312~321参照
【文献】Wang,K.; Xing,L.; Zhu,Y.; Zheng,X.; Cai,D.; Li,W., J.Power Sources 2017,342(Supplement C),677~684
【文献】Imholt,L.; Roeser,S.; Boerner,M.; Streipert,B.; Rad,B.R.; Winter,M.; Cekic-Laskovic,I.,Electrochim. Acta 2017,235(Supplement C),332~339
【文献】Dong,Y.; Young,B.T.; Zhang,Y.; Yoon,T.; Heskett,D.R.; Hu,Y.; Lucht,B.L., ACS Applied Materials&Interfaces 2017,9(24),20467~20475
【文献】Murmann,P.; Moennighoff,X.; von Aspern,N.; Janssen,P.; Kalinovich,N.; Shevchuk,M.; Kazakova,O.; Roeschenthaler,G.-H.; Cekic-Laskovic,I.; Winter,M., J.Electrochem.Soc.2016,163(5),A751~A757
【文献】Moennighoff,X.; Murmann,P.; Weber,W.; Winter,M.; Nowak,S.,Electrochim.Acta 2017,246(Supplement C),1042~1051
【文献】Murmann,N.von Aspern, P.Janssen, N.Kalinovich, M.Shevchuk, G.-V.Roeschenthaler, M.Winter, I.Cekic-Laskovic, J.Electrochem.Soc.2018,165,A1935~A1942
【文献】P.Murmann, X.Moenninghoff, N.von Aspern, P.Janssen, N.Kalinovich, M.Shevchuk, O.Kazakova, G.-V.Roeschenthaler, I.Cekic-Laskovic, M.Winter, J.Electrochem.Soc.2016,163,A715~A757
【文献】Ji,Y.; Zhang,P.; Lin,M.; Zhao,W.; Zhang,Z.; Zhao,Y.; Yang,Y., J.Power Sources 2017,359(Supplement C),391~399
【文献】Xia,L.; Xia,Y.; Liu,Z., J.Power Sources 2015,278(Supplement C),190~196
【文献】Takeda,S.; Morimura,W.; Liu,Y.-H.; Sakai,T.; Saito,Y.,Rapid Commun.Mass Spectrom.2016,30(15),1754~1762
【文献】Weber,W.; Kraft,V.; Gruetzke,M.; Wagner,R.; Winter,M.; Nowak,S., J.Chromatogr.A 2015,1394(Supplement C),128~136
【文献】Gao,D.; Xu,J.B.; Lin,M.; Xu,Q.; Ma,C.F.; Xiang,H.F., RSC Adv.2015,5(23),17566~17571
【文献】V.Sharova, A.Moretti, T.Diemant, A.Varzi, R.J.Behm, S.Passerini, J.Power Sources(2018),375,43~52
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【文献】J.Li, S.L.Glazier, K.Nelson, X.Ma, J.Harlow, J.Paulsen, J.R.Dahn, J.Electrochem.Soc.(2018),165,A3195~A3204
【文献】Ota,H.; Kominato,A.; Chun,W.-J.; Yasukawa,E.; Kasuya,S., J.Power Sources 2003,119(Supplement C),393~398
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従って、本発明は、リチウム二次電池のためにこれまでに知られた電解質をさらに改善し、殊に可燃性を低減し、且つ/または高電圧用途の際にも電池の性能を改善するという課題に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0029】
発明の概要
本発明によれば、この課題は、
・ 少なくとも1つのリチウム塩、
・ 少なくとも1つの第1の有機溶剤および少なくとも1つの第2の有機溶剤、ここで、前記第1の有機溶剤は(40℃で)90を上回る誘電率を有し、且つ前記第2の有機溶剤は110℃を下回る沸点を有する、および
・ 少なくとも1つの式(I)のホスフィット:
【化1】
[式中、
1は、n-プロポキシ基、イソ-プロポキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンタフルオロプロポキシ基、n-トリフルオロプロポキシ基、イソ-ヘキサフルオロプロポキシ基、またはtert-ノナフルオロブトキシ基であり、且つ
2、R3、R4およびR5は、互いに独立してH、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメチル基で置換されたC2~C6-アルキル基から選択される]
を含む電解質によって解決される。
【0030】
n-プロポキシ基はH3C-CH2-CH2-O-基であると理解され、イソ-プロポキシ基は[CH32-CH-O-基であると理解され、tert-ブトキシ基は[CH33-C-O-基であると理解され、n-ペンタフルオロプロポキシ基はF3C-CF2-CH2-O-基であると理解され、n-トリフルオロプロポキシ基はF3C-CH2-CH2-O-基であると理解され、イソ-ヘキサフルオロプロポキシ基は[CF32-CH-O-基であると理解され、tert-ノナフルオロブトキシ基は[CF33-C-O-基であると理解される。
【0031】
本発明による電解質は明らかに低減された易燃性を有する。
【0032】
その際、低減された易燃性を達成するために、従来技術から公知の化合物よりも少ない量のホスフィット添加剤しか必要とされない。これによって、15質量%の添加剤の割合で不燃性を達成でき、これに対し、同等の効果のために、従来技術においては少なくとも30質量%の添加剤の割合が必要である(米国特許第8062796号明細書(US8062796B2))。
【0033】
低減された易燃性は殊に、例えば化合物PFPOEPi-1CF3において実現されるように、ホスフィット環をトリフルオロメチルエチレン基で置換することによって達成できる。
【0034】
以下で、下記の略語を使用する:
【化2】
【0035】
燃焼時間>20秒/gを有する場合、物質が可燃性であるとみなされる。燃焼時間6~20秒/gの場合、難燃性であり、<6秒/gが不燃性であると言われる。
【0036】
「通常領域」は、4.2Vまでの遮断電圧と理解でき、「高電圧領域」は4.2Vを上回る電圧、殊に4.5Vの電圧と理解できる。
【0037】
「改善されたサイクル挙動」、「有利なサイクル挙動」、または「良いサイクル挙動」は、同数の充放電サイクルの場合にセルの容量が比較的高く保持されることと理解される。
【0038】
さらに、本発明による電解質は改善されたサイクル可能性を示す。これは殊に、R1が脂肪族の非置換基である添加剤を使用する場合、および4.2Vを上回るサイクリングの場合に該当する。これまで、示された構造を有するホスフィット、またはジオキサホスホランの高電圧領域(4.2Vを上回る)における利用は知られていなかった。
【0039】
さらに、フッ素化されていないホスフィットを用いて、意外にも有利なサイクル結果が達成できることも判明した。これまで、従来技術においてはフッ素化を用いてサイクリングを改善することが試みられてきた。
【0040】
全電池における測定が実施されるので、本発明による化合物が、カソードにおいてもアノードにおいてもよいサイクル挙動のために寄与することを示すことができる。
【0041】
有利には、R1はn-プロポキシ基、イソ-プロポキシ基、またはtert-ブトキシ基である。
【0042】
好ましい実施態様において、R1はtert-ブトキシ基である。
【0043】
有利には、R1はn-ペンタフルオロプロポキシ基である。
【0044】
好ましい実施態様において、R2はトリフルオロメチル基であり、且つR3、R4およびR5はHである。
【0045】
他の実施態様において、R2、R3、R4およびR5はHである。
【0046】
好ましい実施態様において、前記少なくとも1つのホスフィットは有機溶剤の総質量に対して0.1~15質量%の割合で含有される。
【0047】
本発明はさらに、4.2Vを上回る電圧でのリチウム二次電池内の電解質の使用であって、該電解質が以下:
・ 少なくとも1つのリチウム塩、
・ 少なくとも1つの第1の有機溶剤および少なくとも1つの第2の有機溶剤、ここで、前記第1の有機溶剤は(40℃で)90を上回る誘電率を有し、且つ前記第2の有機溶剤は110℃を下回る沸点を有する、および
・ 少なくとも1つの式(I)のホスフィット:
【化3】
[式中、
1は完全または部分的にハロゲン置換された、直鎖または分枝鎖のC2~C20-アルキル基であり、且つ、
2、R3、R4およびR5は互いに独立して、H、または非置換、または完全または部分的にハロゲン置換された、直鎖または分枝鎖のC1~C20-アルキル基から選択される]
を含む、前記使用に関する。
【0048】
本発明はさらに、
・ カソード、
・ アノード、
・ セパレータ、および
・ 請求項1から7までのいずれか1項に記載の電解質
を含むリチウム二次電池に関する。
【0049】
有利には、電解質中でのホスフィットの割合は、有機溶剤の総質量に対して0.1~15質量%である。
【0050】
前記少なくとも1つのホスフィットは好ましくは、有機溶剤の総質量に対して1~30質量%の割合で含有される。
【0051】
有利には、前記リチウム塩は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウム-ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミド(LiN(CF3SO22)、リチウム-ビス(オキサラト)ボレート(LiB[C242)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF224)、硝酸リチウム(LiNO3)、リチウム-トリ-ペルフルオロエチルペルフルオロホスフェート(LiPF3(CF2CF33)、リチウム-ビス-ペルフルオロエチルスルホニルイミド(C4F10LiNO42)、リチウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CF3SO2NLiSO2CF3)、リチウム-ビス(フルオロスルホニル)イミド(F2NO42Li)、リチウム-トリフルオロメタンスルホンイミド(C26LiNO42)およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0052】
本発明の好ましい実施態様において、前記第1の有機溶剤は、エチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトンおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0053】
本発明のさらに好ましい実施態様において、前記第2の有機溶剤は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、それらの脂肪族エステル誘導体およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0054】
有利には、前記第1の有機溶剤および前記第2の有機溶剤は、5:1~1:5、さらに好ましくは2:1~1:2、特に好ましくは1:1の比で存在する。
【0055】
本発明はさらに、
カソード、
アノード、
セパレータ、および
本発明による電解質
を含むリチウム二次電池に関する。
【0056】
その際、「二次電池」との用語は、本発明に関して、あらゆる再充電可能な蓄電体を含むと理解される。
【0057】
有利には、カソード活物質はLiMO2型(M=Mn、Co、Ni)またはLiMPO4型(M=Ni、Mn、Co)のリチウム・マンガン・ニッケル酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト混合酸化物、およびxLiMnO3-(1-x)LiMO2型(M=Ni、Mn、Co、且つ0<x<1)のリチウムを多く含む遷移金属酸化物から選択される材料からなる。
【0058】
好ましい実施態様において、リチウム二次電池は、リチウム金属、グラファイト、ケイ素、およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる群から選択される材料からなる。
【0059】
本発明の1つの実施態様において、有機電解質中のホスフィットの割合は、有機溶剤の総質量に対して1~5質量%である。この場合、本発明によるホスフィットは添加剤としても用いられる。
【0060】
本発明の他の実施態様において、有機電解質中のホスフィットの割合は、有機溶剤の総質量に対して10~30質量%である。従って、この場合、本発明によるホスフィットは補助溶剤としてはたらく。
【0061】
本発明はさらに、式(I)のホスフィットの製造方法であって、ワンポット反応で、第1の段階においてハロゲン化リン(III)、有利には塩化リン(III)を、ビシナルジオールと、塩基、有利にはトリエチルアミンの存在下で反応させて、2-ハロゲン-1,3-ジオキサホスホランをもたらし、且つ引き続き、第2の段階において、塩基、有利にはトリエチルアミンの存在下でアルコールを用いてエステル化を行って、式(I)のホスフィットをもたらす、前記方法に関する。
【0062】
ワンポット合成において初めてうまく製造できた提案されたホスフィットを、リチウム二次電池の電解質用の添加剤もしくは補助溶剤として多面的に使用できることを示すことができた。この場合、電解質中でのホスフィットの濃度を正しく選択することで用途が決まる。
【0063】
充電終止電圧>4.4V(vs.Li/Li+)で添加剤(<5質量%)として使用する場合、カソード上に有効なCEIの形成が生じ、サイクル特性を明らかに改善できる。従って、容量の減少が低減されるので、電池の寿命を標準電解質に対して少なくとも100サイクルだけ改善できる。
【0064】
本発明による電解質において使用されるホスフィットのための本発明による合成方法は、塩基、例えば好ましい溶剤としてのTHF中のピリジンまたはトリエチルアミンの存在下で、ハロゲン化リン(III)(好ましくはPCl3)およびビシナルジオールから出発する。生じる2-ハロゲン化1,3-ジオキサホスホランを、ワンポット合成の第2の段階において、塩基、好ましくはTHF中のトリエチルアミンの存在下でアルコールを用いてエステル化する。
【0065】
さらに、高濃度(10~15質量%)のホスフィットを選択することによって電池を改善できる。この場合、電解質の可燃性を完全に抑えることができる。さらに、ホスフィットの添加によって、充電終止電圧4.2V(vs.Li/Li+)の際に標準電解質に対してサイクル特性を明らかに改善できる。そこから、より長寿命且つより安全な電池がもたらされる。
【0066】
さらなる実施態様において、ホスフィット(I)はトリメチルシリル基で置換されている。トリメチルシリル置換された化合物を添加する場合、サイクル特性を改善できる。理論によって制限されるものではないが、トリメチルシリル基は、中間体として形成されたフッ化水素を受け止め、そうでなければ生じる電池の損傷を、そのことによって回避すると推測される。
【0067】
本発明はさらに、0.1V~4.2Vでの電解質中でのPFPOEPi-1CF3の使用に関する。
【0068】
本発明は、4.2Vまたは4.2V未満の電圧でのリチウム二次電池中での電解質の使用であって、前記電解質が以下:
・ 少なくとも1つのリチウム塩、
・ 少なくとも1つの第1の有機溶剤および少なくとも1つの第2の有機溶剤、ここで、前記第1の有機溶剤は(40℃で)90を上回る誘電率を有し、且つ前記第2の有機溶剤は110℃を下回る沸点を有する、および
・ 少なくとも1つの式(I)のホスフィット:
【化4】
[式中、
1は、n-ペンタフルオロプロポキシ基であり、
2はトリフルオロメチル基であり、且つ
3、R4およびR5は水素である]
を含む、前記使用にも関する。
【0069】
化合物(I)を電解質に添加することによって、有利なサイクル挙動を可能にすることができる。
【0070】
発明の詳細な説明
さらなる利点は、添付の図面並びに以下の実施例から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1図1は、エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネート(1:1)中で1MのLiPF6を有する電解質のSET(自己消失時間; Self-Extinguishing Time)試験の結果の図を示す。ここで、500μlの調査されるべき電解質をガラス繊維フィルタGF/C(Whatman Separator)(φ 25mm)に施与した。これを測定装置に設置し、次いで「自己消失時間」を、UV-Vis検出器を用いて測定した。
【実施例
【0072】
製造例
2-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)-4 (トリフルオロメチル)-1,3,2-ジオキサホスホランの製造(スキーム1)
【化5】
【0073】
全ての反応段階は乾燥溶媒中のアルゴン雰囲気下で行われた。
【0074】
15.0g(0.12mol、1eq.)の3,3,3-トリフルオロプロパン-1,2-ジオール(X.J. Wang et al./Electrochemistry Communications 12(2010)386~389)を、NEt3(23.3g、0.24mol、2eq.)と反応させ、0℃でCH2Cl2/Et2O(10:1)(250ml)中PCl3溶液(16.4g、0.12mol、1eq.)にゆっくりと滴下する。氷浴を取り除き、反応混合物を室温にした。反応の経過を31P-NMRで追跡した。48時間後、反応が完了し、その際、2-クロロ-4-(トリフルオロメチル)-1,3,2-ジオキサホスホランの信号が172.78ppm(約70%)で観察された。その生成物を、シュレンクフリット(Umkehrfritte)を用いてアルゴン下でろ過し、残留物をエーテルで後に洗浄し、ろ液を精製せずにさらに反応させた。18.0g(0.12mol、1eq.)の2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノールをNEt3(12.12g、0.12mol、1eq.)と共にろ液に滴下した(室温、Ar)。反応の経過を31P-NMRで追跡した。24時間後、反応が完了した。2-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)-4-(トリフルオロメチル)-1,3,2-ジオキサホスホランの2つのジアステレオマーおよび約30%の副生成物が観察された。その反応溶液を、シュレンクフリットを用いてアルゴン下でろ過して、残留物をエーテルで後に洗浄し、溶剤を除去し、残留物を蒸溜した(52mbar)。
【0075】
2-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)-4-(トリフルオロメチル)-1,3,2-ジオキサホスホラのジアステレオマー混合物ン(スキーム2)は無色の粘性の液体であり、沸点(Sdp.)44℃(52mbar)である。収量: 5.3g、0.016mol=14%
【化6】
【0076】
【数1】
【0077】
適用例
高電圧用途のための本発明による電解質の挙動を調査するために、エチレンカーボネート(EC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)(1:1)中で1MのLiPF6を有する電解質を、1つの場合ではホスフィットを添加せずに、他の場合では記載された量のホスフィット(質量%)を添加して、グラファイト/NCM111セルにおいて、それぞれ記載された電圧(vs.Li/Li+)で試験した。セパレータとして、微孔質セラミック被覆フィルム(商品名Separion、Evonik Industries AG社から入手可能)を使用した。セルをCレート0.1Cで、引き続きCレート0.5Cでそれぞれ3サイクル、以下に記載する電圧でフォーメーションした。Cレートは、容量Cに対する電池の充電(または放電)電流を記載する。それぞれ3時間の定電圧段階がフォーメーションサイクルに組み込まれている。引き続き、セルをCレート1Cでサイクリングした。4.5Vでの測定結果を表1に示す。
【0078】
以下の表において、冒頭の行の「電解質添加」は、使用された電解質に添加物として添加されたホスフィットの質量%でのパーセント割合を記載し、「80% SOH」は、130サイクルの80%の容量保持率をパーセントで記載し(それぞれ達成されたサイクルは括弧内に述べる)、「効率[%]」は最初のサイクル効率をパーセントで記載し、且つ「保持率[%]」は100サイクル後の容量の保持率をパーセントで記載する。
【0079】
【表1】
【0080】
さらなる測定を4.2Vで実施し、これを表2に記載する。
【0081】
【表2】
【0082】
ホスフィットが電解質の難燃性に及ぼす影響を試験するために、EC:EMC(1:1)中1MのLiPF6を有する本発明による電解質で、SET(自己消失時間)試験を実施した(図1)。試験された電解質の体積は500μlであった。検出器として、UV-VISを使用した。
【0083】
表3において、2~5行目に、SET試験で調べられた時間を(秒で)記載する。該測定は、表の冒頭の行に記載されるパーセント割合(質量%)の、左の行に記載される化合物を用いた、1M混合物のLiPF6 EC:EMC(1:1)に関する。記載されたホスフィットの割合は0から15質量%までに達した。「-」で示された欄については、測定が実施されなかった。
【0084】
【表3】
【0085】
可燃性の明らかな低減は、10質量%のホスフィット含有率から既に記録されている。15質量%のホスフィットの含有率の場合、電解質は添加されたホスフィットに依存して難燃性~不燃性として格付けできた。
【0086】
先述の説明において、特許請求の範囲において、並びに図面において開示された本発明の特徴は、個別でも、あらゆる任意の組み合わせでも、その種々の実施態様において本発明を実現するために必須であり得る。
図1