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特許7453173マネージャ、車両制御方法及び車両制御プログラム、並びに、マネージャを備えた車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】マネージャ、車両制御方法及び車両制御プログラム、並びに、マネージャを備えた車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/06 20060101AFI20240312BHJP
   B60W 30/20 20060101ALI20240312BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20240312BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240312BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20240312BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240312BHJP
   F16H 63/40 20060101ALI20240312BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240312BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B60W50/06
B60W30/20
B60W10/10
B60W10/06
B60W10/184
F16H61/02
F16H63/40
F02D29/02 Z
B60T7/12 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021044507
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143795
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宣之
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊介
(72)【発明者】
【氏名】福川 将城
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032894(JP,A)
【文献】特開2014-088066(JP,A)
【文献】特開2020-138641(JP,A)
【文献】特開2020-128117(JP,A)
【文献】国際公開第2020/152977(WO,A1)
【文献】特開2008-055994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 50/16
B60W 10/00 ~ 10/30
F16H 61/00 ~ 61/02
F16H 63/40 ~ 63/50
F02D 29/00 ~ 29/02
B60T 7/12 ~ 8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ADASアプリケーション機能を実装した複数の電子制御ユニットから複数の第1の行動計画を受け付ける第1の受付部と、
前記複数の第1の行動計画を調停する調停部と、
調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに出力する第1の出力部とを備え、
前記第1の受付部は、前記複数の電子制御ユニットから前記第1の行動計画を受け付けると共に、前記複数の電子制御ユニットから前記第1の行動計画より後の第2の行動計画とを受け付ける、マネージャ。
【請求項2】
前記第1の出力部は、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムがある場合、前記動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムに対する運動要求を事前に出力する、請求項1に記載のマネージャ。
【請求項3】
前記第1の出力部は、前記第2の行動計画に基づいて、前記動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムに対する運動要求を事前に出力する、請求項2に記載のマネージャ。
【請求項4】
前記第1の出力部は、前記アクチュエータシステムの応答性情報に基づいて、前記動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムに対する運動要求を事前に出力する、請求項2または3に記載のマネージャ。
【請求項5】
前記応答性情報を記憶する記憶部を備える、請求項4に記載のマネージャ。
【請求項6】
前記応答性情報を前記アクチュエータシステムから受け付ける第2の受付部を備える、請求項4に記載のマネージャ。
【請求項7】
前記応答性情報がOTAにより更新可能である、請求項5に記載のマネージャ。
【請求項8】
前記ADASアプリケーション機能を実装した電子制御ユニットに対して、前記第2の行動計画を要求する第2の出力部を備える、請求項1に記載のマネージャ。
【請求項9】
プロセッサと、メモリと、記憶装置とを備えるコンピュータが実行する車両制御方法であって、
ADASアプリケーション機能を実装した複数の電子制御ユニットから複数の第1の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の電子制御ユニットから前記第1の行動計画より後の第2の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の第1の行動計画を調停するステップと、
調停結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配するステップとを含む、車両制御方法。
【請求項10】
プロセッサと、メモリと、記憶装置とを備えるコンピュータが実行する車両制御プログラムであって、前記コンピュータに、
ADASアプリケーション機能を実装した複数の電子制御ユニットから複数の第1の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の電子制御ユニットから前記第1の行動計画より後の第2の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の第1の行動計画を調停するステップと、
調停結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配するステップとを実行させる、車両制御プログラム。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載のマネージャを備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されたアクチュエータを制御するためのマネージャ、車両制御方法及び車両制御プログラム、並びに、マネージャを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライバーの運転を支援する運転支援システムからの要求に基づいて、車両に搭載されたアクチュエータを制御する制御装置として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載の制御装置は、車両の横方向の運動に関する要求を運転支援システムから受け付け、受け付けた要求を1以上のアクチュエータに配分する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-032893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に搭載された複数のアクチュエータの中には、応答性が遅いものがある。運転支援システムからの要求を即時に実現しようとしても、アクチュエータの応答遅れにより、システムからの要求通りの車両制御が行われない場合があり、改善の余地があった。
【0005】
それ故に、本開示は、運転支援システムの行動計画に対するアクチュエータの応答遅れを改善可能なマネージャ、車両制御方法及び車両制御プログラム、並びに、マネージャを備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るマネージャは、ADASアプリケーション機能を実装した複数の電子制御ユニットから複数の第1の行動計画を受け付ける第1の受付部と、複数の第1の行動計画を調停する調停部と、調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、運動要求をアクチュエータに出力する第1の出力部とを備え、第1の受付部は、複数の電子制御ユニットから第1の行動計画を受け付けると共に、複数の電子制御ユニットから第1の行動計画より後の第2の行動計画とを受け付ける。
【0007】
また、本開示は、上記マネージャに対応する特徴を備えた車両制御方法及び車両制御プログラム、並びに、マネージャを備えた車両を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、運転支援システムの行動計画に対するアクチュエータの応答遅れを改善可能なマネージャ、車両制御方法及び車両制御プログラム、並びに、マネージャを備えた車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る車両制御システムの概略構成を示すブロック図
図2図1に示したマネージャの機能ブロック図
図3】参考例に係るアクチュエータの制御方法を示す図
図4】実施形態に係るマネージャが行うアクチュエータの制御方法を示す図
図5】実施形態に係るマネージャが行う制御処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【0011】
図1に示す車両制御システムは、車両の運動を制御するためのシステムであり、複数のECU1a~1cと、マネージャ10と、アクチュエータシステム2及び3とを備える。
【0012】
ECU1a~1cは、ADAS(Advanced Driver Assistance System)アプリケーション機能を実装した電子制御ユニットであり、ADASアプリケーションを実行することにより、自動運転や自動駐車、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシスト、衝突軽減ブレーキ等の車両の運転支援機能を実現する装置である。ECU1a~1cは、CPU等のプロセッサと、メモリと、ADASアプリケーションを記憶する不揮発性メモリとを有する。ECU1a~1cは、各種の車両制御機能を実行するために、第1の行動計画と、第1の行動計画より後の(将来の)第2の行動計画とをマネージャ10に出力する。行動計画は、車両の前後方向の運動を表す情報として、例えば、前後加速度(要求加速度)を含む。また、行動計画は、車両の横方向の運動を表す情報を含んでいても良く、横方向の運動を表す情報としては、舵角、ヨーレート、曲率半径等を使用することができる。尚、図1においては、説明を簡略化するため、3つのECU1a~1cを示しているが、ADASアプリケーション機能を実装したECUの数は限定されず、2以下または4以上であっても良い。
【0013】
マネージャ10は、ECU1a~1cから出力された行動計画を調停し、調停結果に基づいて少なくとも1つのアクチュエータシステムに運動要求を分配する。マネージャ10は、他のECUと独立のECUとして構成されても良いし、他のいずれかのECUに搭載されても良いし、他のいずれかのECUと一体に構成されても良いマネージャ10の詳細は後述する。
【0014】
アクチュエータシステム2は、パワートレイン(PT)及びパワートレインを制御するパワートレインECUとを含む。パワートレインECUは、マネージャ10から出力される運動要求に基づいてパワートレインに発生させる制駆動力を制御する。尚、本明細書において、「制駆動力」は、制動力と駆動力の総称として用いる。制動力は、負の駆動力である。
【0015】
アクチュエータシステム3は、ブレーキ(BRK)及びブレーキを制御するブレーキECUとを含む。ブレーキECUは、マネージャ10から出力される運動要求に基づいてブレーキに発生させる制動力を制御する。
【0016】
図2は、図1に示したマネージャの機能ブロック図である。
【0017】
マネージャ10は、受付部11と、調停部12と、算出部13と、出力部14と、記憶部15とを備える。
【0018】
受付部11は、ECU1a~1cから第1の行動計画とこれより後の第2の行動計画とを受け付ける。受付部11は、複数の第1の行動計画及び複数の第2の行動計画を受け付け可能である。
【0019】
調停部12は、受付部11が受け付けた複数の第1の行動計画及び複数の第2の行動計画を調停する。調停部12は、調停処理として、例えば、所定の選択基準に基づいて、受け付けた複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択したり、受け付けた複数の行動計画に基づいて制御の許容範囲を設定したりする。
【0020】
算出部13は、調停部12による調停結果に基づいて、アクチュエータシステム2及び3の一方または両方に対する運動要求を算出する。例えば、算出部13は、調停により選択された第1の行動計画に含まれる前後加速度(要求加速度)を用いて、パワートレインの目標駆動力及びブレーキの目標制動力を算出する。算出部13は、目標駆動力に代えてドライブシャフトの目標駆動トルクを算出しても良いし、目標制動力に代えてブレーキの制動トルクを算出しても良い。算出部13は、第1の行動計画として受け付けた要求加速度を実現するための運動要求(目標制駆動力)の算出にあたり、フィードフォワード(FF)制御及びフィードバック(FB)制御を行う。算出部13は、要求加速度に基づいて算出した目標制駆動力をFF項として用い、FB項を加味することによって、アクチュエータシステム2及び/または3に出力する目標制駆動力を算出する。
【0021】
出力部14は、算出部13によって算出された運動要求をアクチュエータシステム2及び3の少なくとも一方に分配する。出力部14は、受付部11が受け付けた第1の行動計画及び第2の行動計画に基づいて、第2の行動計画を達成するためにアクチュエータシステムの動作状態を切り替える必要があるか否かを判定する。例えば、出力部14は、第1の行動計画として受け付けた要求加速度と、第2の行動計画として受け付けた最終要求加速度との差異や、要求加速度及び最終要求加速度のそれぞれの符号に基づいて、パワートレインアクチュエータシステムが駆動力を発生させている状態と駆動力を発生させていない状態(制動力を発生させている状態を含む)との間の切り替えの要否、ブレーキアクチュエータシステムが制動力を発生させている状態と制動力を発生させていない状態との間の切り替えの要否を判定する。アクチュエータシステムの動作状態を切り替える必要がある場合、出力部14は、算出部13が算出した運動要求を、動作状態を切り替える必要があるアクチュエータシステムに対して事前に出力する。出力部14が行う処理の詳細は後述する。
【0022】
記憶部15は、アクチュエータシステム2及び3のそれぞれの応答性情報を記憶する。応答性情報は、例えば、各アクチュエータシステムの応答遅れ時間DTである。応答遅れ時間DTは、各アクチュエータシステムに運動要求(目標制駆動力)を出力してから、制駆動力が発生するまでの時間として定義することができる。応答遅れ時間DTは、車種毎に予め実験等で求めた値でも良いし、一律の固定値であっても良いし、他のパラメータと関係付けたマップとして保持されていても良い。
【0023】
図3は、参考例に係るアクチュエータシステムの制御方法を示す図である。
【0024】
図3(a)は、ADASアプリケーション機能を実装したECUから行動計画として出力される要求加速度の経時変化を示す。図3(a)の例では、車両の要求加速度が時刻t2において正に転じ、時刻t3に最終要求加速度に到達する。
【0025】
図3(b)は、図3(a)に示す行動要求を実現するための目標制動力(負の駆動力)の経時変化を示す。要求加速度の増加に対応して、目標制動力は、図3(b)に示すように、時刻t1から時刻t2まで線形に減少し、時刻t2以降において目標制動力はゼロとなる。
【0026】
図3(c)は、図3(a)に示す行動要求を実現するための目標制駆動力の経時変化を示す。図3(c)において、短破線は、要求加速度に基づいて算出される目標制駆動力(FF項)を表し、長破線は、FF項及びFB項を加味した目標駆動力(アクチュエータシステムへの出力値)を表す。
【0027】
フューエルカットの実行等によりパワートレインアクチュエータシステムの発生駆動力が、アクセルペダルが踏み込まれていないときの駆動力(以下、「アクセル全閉駆動力」)という)以下である状態で、アクセル全閉駆動力より大きい目標駆動力が発生した場合を想定する。パワートレインアクチュエータシステムの応答性が悪いために、長破線で示す目標駆動力に対してパワートレインアクチュエータシステムによる駆動力(実線)の発生には、応答遅れ時間DT分の遅延が生じる。パワートレインアクチュエータシステムの応答遅れにより発生駆動力が不足すると、フィードバック制御により目標駆動力が高く調整されるため、その後、パワートレインアクチュエータシステムの発生駆動力が急に増加する。パワートレインアクチュエータシステムの発生駆動力が急増すると、目標駆動力が低く調整されるため、その後、パワートレインアクチュエータシステムの発生駆動力が遅れて減少する。以降、フィードバック制御に伴い、目標駆動力(長破線)及び発生駆動力(実線)は交互に増減を繰り返す。
【0028】
この結果、図3(d)に示すように、ADASアプリケーションから行動要求として出力された要求加速度に対して、車両の実加速度の増減が発生し、実加速度の収束に時間を要するため、乗り心地の悪化を招く可能性がある。
【0029】
これに対して、本実施形態に係るマネージャ10は、ECU1a~1cから第1の行動計画及びこれより後の第2の行動計画を受け付け可能であるため、第1の行動計画及び第2の行動計画を用いて、アクチュエータシステムの応答遅れの改善を図ることができる。マネージャ10は、第1の行動計画と、これより後の(将来の)第2の行動計画に基づいて、動作状態を切り替える必要のあるアクチュエータシステムがあるか否かを判定する。マネージャ10は、動作状態を切り替える必要のあるアクチュエータシステムがある場合、動作状態を切り替える必要のあるアクチュエータシステムに対する運動要求を事前に出力することにより、切替先のアクチュエータシステムの応答遅れを解消する。以下、図4を参照しながら、本実施形態に係るマネージャ10の制御を説明する。
【0030】
図4は、実施形態に係るマネージャが行うアクチュエータシステムの制御方法を示す図である。
【0031】
図4(a)は、マネージャ10の受付部11が第1の行動計画として受け付ける要求加速度の経時変化と、第2の行動計画として受け付ける最終要求加速度とを示す。図4(a)の例では、図3(a)の例と同様に、車両の要求加速度が時刻t2において正に転じ、時刻t3に最終要求加速度に到達する。第2の行動計画は、第1の行動計画よりも所定時間後のものであれば良く、第1の行動計画と第2の行動計画との時間差は適宜設定することができる。例えば、マネージャ10の受付部11は、時刻tにおいて、第1の行動計画として要求加速度aを受け付けると共に、第1の行動計画より時間Tだけ後の第2の行動計画として時刻t3の最終要求加速度a’とを受け付けることができる。
【0032】
図4(b)は、図4(a)に示す行動要求を実現するための目標制動力(負の駆動力)の経時変化を示す。要求加速度の増加に対応して、目標制動力は、図4(b)に示すように、時刻t1から時刻t2まで線形に減少し、時刻t2以降において目標制動力はゼロとなる。
【0033】
図4(c)は、図4(a)に示す行動要求を実現するための目標駆動力の経時変化を示す。図4(c)において、図3(c)において、細実線は、要求加速度に基づいて算出される目標駆動力(FF項)を表す。短破線で表される目標駆動力(FF項・先出し)は、要求加速度に基づいて算出される目標駆動力(FF項)を、目標駆動力(FF項)より所定時間前に先出ししたものである。言い換えれば、短破線の目標駆動力(FF項・先出し)は、細実線の目標駆動力(FF項)を所定時間だけ横軸負方向にシフトしたものに相当する。長破線は、目標駆動力(FF項・先出し)にFB項を加味した目標駆動力を表す。
【0034】
マネージャ10の算出部13は、第1の行動計画に基づいて、要求加速度に基づく目標駆動力(FF項)を算出する(図4(c)の細実線)。図4(a)に示す最終要求加速度を実現するためには、パワートレインアクチュエータシステムが制動力を発生している状態から駆動力を発生する状態へと動作状態を変化させる必要がある。そこで、マネージャ10の出力部14は、応答性の悪いパワートレインアクチュエータシステムに対して、算出部13が算出した目標駆動力を、アクチュエータシステムの応答遅れ時間DTだけ先出しする(図4(c)の短破線で示す目標駆動力(FF項・先出し))。フューエルカットの実行等によりパワートレインアクチュエータシステムの発生駆動力がアクセル全閉駆動力以下である状態で、アクセル全閉駆動力より大きい目標駆動力が発生した場合、パワートレインアクチュエータシステムの応答性が悪いために、パワートレインアクチュエータシステムによる駆動力の発生に遅延が生じる。しかしながら、パワートレインアクチュエータシステムに出力する目標駆動力(長破線の目標駆動力(FF項+FB項))は、要求駆動力に基づいて算出される目標駆動力(FF項)を所定時間だけ前にシフトした目標駆動力(FF項・先出し)に基づいて算出されるものであり、予めパワートレインアクチュエータシステムの応答遅れ時間DTが加味されている。したがって、要求加速度に基づいて算出される目標駆動力(FF項)に対する発生駆動力(太実線)の不足を低減できる。この制御により、パワートレインアクチュエータシステムの発生駆動力と目標駆動力との差が小さくなるので、フィードバック制御に伴うパワートレインアクチュエータシステムの発生駆動力の増減を抑制することができる。
【0035】
この結果、図4(d)に示すように、ADASアプリケーションから第1の行動要求として出力された要求加速度に対して、車両の実加速度の増減を抑制し、実加速度の収束性を改善できるので、乗り心地を向上させることができる。
【0036】
図5は、実施形態に係るマネージャが行う制御処理を示すフローチャートである。図5の制御処理は、ADASアプリケーション機能の実行中に繰り返し実行される。
【0037】
ステップS1において、受付部11は、第1の行動計画としての要求加速度と、第2の行動計画としての最終要求加速度とをECU1a~1cから受け付ける。受付部11が第1の行動計画及び第2の行動計画を受け付けると、調停部12が調停処理を行い、調停結果に基づいて、算出部13がアクチュエータシステム2及び3に対する運動要求を算出する。その後、ステップS2に進む。
【0038】
ステップS2において、算出部13は、要求加速度と最終要求加速度とに差異があるか否かを判定する。ステップS2において、出力部14は、要求加速度及び最終要求加速度の差異が所定の閾値以上である場合に、差異があると判定しても良い。ステップS2の判定がYESの場合、処理はステップS3に進み、それ以外の場合、処理はステップS7に進む。
【0039】
ステップS3において、算出部13は、アクチュエータシステム2または3の動作状態の切り替えが必要であるか否かを判定する。この判定は、例えば、要求加速度及び最終要求加速度との差異や符号の同一性に基づいて行うことができる。ステップS3の判定がYESの場合、処理はステップS4に進み、それ以外の場合、処理はステップS7に進む。尚、ステップS2の判定前に、既にステップS4及びS6の処理が実行されている場合がある。したがって、ステップS2でNOと判定された場合、ステップS7に進んでも良い。
【0040】
ステップS4において、算出部13は、要求加速度が最終要求加速度に到達する予測時間から、アクチュエータシステムの応答遅れ時間(DT)前に到達したか否かを判定する。ステップS4の判定がYESの場合、処理はステップS7に進み、それ以外の場合、処理はステップS5に進む。
【0041】
ステップS5において、算出部13は、ステップS1で算出部13が算出した運動要求(目標制駆動力のFF項)を、要求加速度に基づいて特定される動作状態の切り替え予測時刻から所定時間だけ前にシフトした目標制駆動力(FF項・先出し)を算出する。所定時間には、上述したアクチュエータシステムの応答遅れ時間DTを用いることが好ましい。その後、処理はステップS6に進む。
【0042】
ステップS6において、算出部13は、ステップS5またはステップS7で算出された目標制駆動力にFB項を加味した、出力用の目標制駆動力を算出する。出力部14は、算出部が算出した目標制駆動力を、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムに出力する。その後、処理はステップS1に進む。
【0043】
図5に示した制御処理を行うことにより、要求加速度及び最終要求加速度に基づいて、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムがあると判定される場合に、アクチュエータシステムの動作遅れを加味して、目標制駆動力を事前に出力することができる。これによって、要求加速度に対する実加速度の追従性を向上させ、乗り心地の悪化を抑制することができる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係るマネージャ10は、ADASアプリケーション機能を実装したECU1a~1cから、第1の行動計画及びこれより後の第2の行動計画を受け付ける。これにより、マネージャ10は、将来の行動計画を把握することができるため、アクチュエータシステムの応答遅れを加味した制御を行うことが可能となる。
【0045】
また、出力部14は、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムがある場合、当該動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムに対する運動要求を事前に出力する。これにより、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムの応答性が悪い場合でも、アクチュエータシステムによる制駆動力の発生遅延を抑制できる。
【0046】
また、出力部14は、第2の行動計画として受け付けた将来の要求加速度(最終要求加速度)に基づいて、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムに対する運動要求を事前に出力する。これにより、将来の第2の行動計画を超えた運動要求を出力することを抑制できる。
【0047】
また、出力部14は、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムの応答性情報に基づき、動作状態の切り替えが必要なアクチュエータシステムに対して運動要求を事前出力するタイミングを制御する。これにより、アクチュエータシステムの動作特性に応じて適切に応答遅れを抑制できる。
【0048】
(その他の変形例)
上記の実施形態においては、マネージャが有する記憶部に応答性情報を記憶している例を説明したが、応答性情報をアクチュエータシステムから受け付ける第2の受付部を設けても良い。第2の受付部がアクチュエータシステムから受け付けた応答性情報は、記憶部に記憶させても良い。
【0049】
また、マネージャが有する記憶部に応答性情報を記憶させる場合、記憶部の応答性情報をOTA(Over the Air)により更新可能であっても良い。例えば、アクチュエータシステムのECUが有するソフトウェアがOTAにより更新され、機能改善が図られることが考えられる。アクチュエータシステムのソフトウェアの更新により、アクチュエータシステムの応答性が変化する場合には、マネージャの記憶部に記憶される応答性情報も更新することが好ましい。この場合、マネージャがセンタのサーバと通信を行うことにより更新データをダウンロードしても良いし、車両全体のソフトウェア更新を制御するOTAマスタがサーバと通信を行うことにより更新データをダウンロードし、OTAマスタがマネージャに更新データを転送しても良い。
【0050】
また、上記の実施形態においては、ADASアプリケーション機能を実装したECUが第1の行動計画及びこれより後の第2行動計画をマネージャに出力する例を説明した。ADASアプリケーション機能を実装したECUが将来の第2の行動計画を自発的に出力するように設計されていない場合は、ADASアプリケーション機能を実装した電子制御ユニットに対して第2の行動計画を要求する出力部(第2の出力部)をマネージャに設けても良い。
【0051】
上記の実施形態で例示したマネージャの機能は、プロセッサ(CPU)とメモリと記憶装置とを備えるコンピュータが実行する車両制御方法、当該コンピュータに実行させる車両制御プログラム、車両制御プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な非一時的記憶媒体として実現することも可能である
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示はアクチュエータシステムを制御するためのマネージャ及びこれを備えた車両に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1a~1c ECU
2、3 アクチュエータシステム
10 マネージャ
11 受付部
12 調停部
13 算出部
14 出力部
15 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5