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特許7453226低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物
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  • 特許-低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物 図1
  • 特許-低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物 図2
  • 特許-低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/42 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
C08G18/42 044
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021526747
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2019081288
(87)【国際公開番号】W WO2020099540
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】1830336-2
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】521209328
【氏名又は名称】インジェヴィティ・ユー・ケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INGEVITY UK LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス,スコット
(72)【発明者】
【氏名】ニール,ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】スコールズ,ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ビョルンバリ,ホーカン
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-014496(JP,A)
【文献】特表2000-516990(JP,A)
【文献】特開2015-178587(JP,A)
【文献】特開昭51-052493(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0187136(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物であって、
(a)少なくとも1つの1000~5000g/molの平均数分子量を有するA-B-Aタイプのブロック共重合体であって、前記ブロック共重合体は、ポリ(アルキレンオキシド)ジオールと、環状ラクトンまたは環状エーテルとの反応生成物であり、前記ポリ(アルキレンオキシド)ジオールは、前記ブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、前記環状ラクトンまたは環状エーテルは、前記ブロック共重合体の総分子量の30~70%の範囲で存在し、前記ブロック共重合体はペンダントアルキル基を備えた直鎖状骨格を含み、前記ポリ(アルキレン)オキシドユニットの分子量の少なくとも20%が前記直鎖状骨格におけるペンダントアルキル基として存在する、少なくとも1つの1000~5000g/molの平均数分子量を有するA-B-Aタイプのブロック共重合体と、
(b)少なくとも1つのジイソシアネート
との反応生成物を含み、
前記組成物が、30ショアA~80ショアAの範囲の硬度を有し、
前記反応生成物が、可塑剤がないときに、0.9:1~2:1のNCO:OH分子比で(a)と(b)とを反応させることによって形成される、組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのジイソシアネートは、前記ポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物の16.9~21.8質量%で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、(a)、(b)、さらに(c)60~600g/molの分子量を有するジオール鎖延長剤またはジアミン鎖延長剤の反応生成物であり、前記反応生成物が、0.9:1~2:1のNCO:OH分子比で、(a)、(b)および(c)を反応させることによって、可塑剤がないときに形成される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
NCO:OH分子比が、0.9:1~1.7:1の範囲にある、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
NCO:OH分子比が、0.95:1~1.5:1の範囲にある、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
NCO:OH分子比が、1:1~1.2:1の範囲にある、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリ(アルキレン)オキシドユニットの分子量の少なくとも25%が、前記直鎖における分岐として存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリ(アルキレン)オキシドジオールが、ポリ(プロピレン)グリコール、ポリ(ブチレンオキシド)ジオール、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記環状ラクトンがε-カプロラクトンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記環状エーテルが、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、またはメチルテトラヒドロフランである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記ジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記ジオール鎖延長剤が、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ジ-(ベータヒドロキシエチル)-ヒドロキシキノン、1,4-ジ-(ベータヒドロキシエチル)-ビスフェノールA、およびその混合物の群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項13】
前記ジアミン鎖延長剤が、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ジアミノベンゼン、3,3’-ジメトキシ-4,4-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、およびその混合物の群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリプロピレングリコールまたは前記ポリ(ブチレンオキシド)ジオールが、前記ブロック共重合体の総分子量の50~70質量%の範囲で存在する、請求項8に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は、製造されてから、相対湿度50%かつ23℃で保管されたとき、または4℃で保管されたとき、6ヶ月、ショアAが±5%以内として測定されるようにその軟質特性を維持する、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
低温硬度が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物を作製する方法であって、前記方法は、
(a)少なくとも1つの1000~5000g/molの平均数分子量を有するA-B-Aタイプのブロック共重合体であって、前記ブロック共重合体は、ポリ(アルキレンオキシド)ジオールと、環状ラクトンまたは環状エーテルとの反応生成物であり、前記ポリ(アルキレンオキシド)ジオールは、前記ブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、前記環状ラクトンまたは環状エーテルは、前記ブロック共重合体の総分子量の30~70%の範囲で存在し、前記ブロック共重合体はペンダントアルキル基を備えた直鎖状骨格を含み、前記ポリ(アルキレン)オキシドユニットの分子量の少なくとも20%が前記直鎖状骨格におけるペンダントアルキル基として存在する、少なくとも1つの1000~5000g/molの平均数分子量を有するA-B-Aタイプのブロック共重合体と、
(b)少なくとも1つのジイソシアネート
とを反応させるステップを含み、
前記組成物が、30ショアA~80ショアAの範囲の硬度を有し、
反応生成物が、可塑剤がないときに、0.9:1~2:1のNCO:OH分子比で(a)と(b)とを反応することによって形成される、方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのジイソシアネートは、前記ポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物の16.9~21.8質量%で存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、(a)、(b)、さらに(c)60~600g/molの分子量を有するジオール鎖延長剤またはジアミン鎖延長剤を反応させるステップをさらに含み、前記反応生成物が、0.9:1~2:1のNCO:OH分子比で、(a)、(b)および(c)を反応させることによって、可塑剤がないときに形成される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
ポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物が、
[B-A-] ここでnは>5であり、Aは少なくとも1つのA-B-Aタイプのブロック共重合体を示し、Bは少なくとも1つのジイソシアネートを示す、という構造を有する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
ポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物が、
[B-C-B-A-B-]-A ここでnは>4であり、Aは少なくとも1つのA-B-Aタイプのブロック共重合体を示し、Bは少なくとも1つのジイソシアネートを示し、Cはジオール鎖延長剤またはジアミン鎖延長剤を示す、という構造を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物を使用する方法であって、前記方法は、
a.請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物を提供するステップと、
b.熱可塑性ポリウレタン、高温キャストエラストマー、低温キャストエラストマー、微孔質ポリウレタン発泡体、水性または有機媒体へのポリウレタン分散剤、ポリウレタン接着剤、1または2成分ポリウレタンコーティング、付加製造またはポリウレタン封止剤としての加工の少なくとも1つにおいて、前記組成物を利用するステップ
とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
発明の分野。実用寿命の間、物品の耐久性を保証しながら、低イソシアネートシステムにおいて軟質性を維持するように設計されたポリオールに基づくポリウレタンエラストマー組成物が、ここに記載されている。
【背景技術】
【0002】
背景情報。ポリウレタンエラストマーは、加工が容易で融通の利く良好な機械的特性の組み合わせにより、非常に工業的重要性の高い多用途材料である。例えば、ポリウレタン材料は、従来の熱可塑技術によって加工され、キャスト加工(cast)されて熱硬化性材料を与え、ブロー加工(blown)されて微孔質発泡体を与え、または水性もしくは有機媒体に分散されることができ、すべてごくわずかな組成調整を伴う。
【0003】
ポリウレタンエラストマーは、典型的には、ポリオール(通常、ポリエステルアジペート、ポリカプロラクトンまたはポリエーテルジオール)、ジイソシアネート(通常、有機ジイソシアネート)、および短鎖ジオールまたはジアミン(鎖延長剤)から構成される。組成におけるジイソシアネート成分の割合は、主に、結果として生じるポリウレタン材料の硬度を規定する。
【0004】
ポリウレタン技術の1つのよく知られた制限は、軟質材料(75ショアA未満)を製造することにおける課題である。例えば、ジイソシアネート含有量を減らすこと(したがって、ポリオール含有量を増やすこと)は、はじめは軟質材料を与え得るが、ポリオールの準結晶性の性質により時間とともに硬度は増大する。したがって、製品は、軟質に作られることができるが、特に過酷な環境においては時間とともに著しく硬くなり得る。加工の課題もあり、軟質のポリウレタンは、経済的に実行可能な処理量を可能にするのに十分なほど急速に固化するという問題をしばしば有する。
【0005】
軟質のポリウレタン材料を調製することについて、いくつかの方法が開示されている。カナダ特許1 257 946号は、特定のフタル酸およびリン酸可塑剤の使用によって60~80ショアAの硬度を有するTPUを得ることを主張している。可塑剤は、低温硬化を引き起こす部分からの転移、周囲面の曇り、およびにおいの問題という不都合を有する。また、可塑化された製品は粘着性を有し、経時的に触り心地が不快になるという、ごくありふれた問題もある。多くの可塑剤、特にフタル酸系のものは、健康上の理由と同様に環境のためにも規制から外されようとしている。
【0006】
結晶化度を邪魔し、可塑剤の使用をせずに軟質性を維持するために、従来技術はポリオール成分としてランダム共重合体を導入することに注目してきた。US2008/0139774は、TPU形成における分岐ポリエステルアジペートの使用を主張している。これは、23℃(すなわち、室温)および冷蔵庫内で最大5日間、硬度が維持され得ることを教示している。WO2014/195211は、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールに由来する直鎖状ポリエステルポリオールに基づく30~55ショアAの硬度を有する可塑剤を含まないTPUを開示している。しかしながら、WO2014/195211に適用される標準試験体制によれば、非常に軟質のTPU形成の結果は、非常に短いライフスパンでの特性を示すのみである。
【0007】
ポリエステルアジペート技術を用いてランダム共重合体を製造することに多くの労力が注がれてきた。これが低温硬化を最小化する最良の戦略として認められる一方、軟質材料の維持は5日より長いものについて文献では実証されていなかった。製品はまた、耐久性プロファイルに乏しいという不都合を有し、縮合重合体からの残留酸が、水があるときに下流のポリウレタン製品をすばやく劣化させる。
【0008】
開環重合、特にカプロラクトンの開環は、ポリオールを調製するための化学的に異なる方法を提供する。そのプロセスは、少量の触媒があるときにすばやく進行し、pH中性であり、製品は無視できるほどの酸価を有する。
【0009】
環状単量体間の反応性のミスマッチにより、このような技術を用いてランダム共重合体を製造することには困難がある。しかしながら、この技術は、A-B-Aブロック共重合体を作製するのに便利な方法である。以前は、ブロック共重合体内にかなりの長さの「ホモ重合体(homopolymer)」が依然としてあるため、このような共重合体は軟質材料を製造するのに向いていないと思われていた。実際に、US6140453は、86ショアA以下のTPU形成におけるポリプロピレングリコールの共重合体の使用を教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特に身体に装着可能なプラスチック技術および自動車内部の部品への高い需要にもかかわらず、軟質ポリウレタン材料のための商業的に利用可能な解決方法は比較的少ない。進歩はしたが、軟質材料を与えることができ、より重要には特に変化する環状条件において材料の実用寿命の間、軟質性を維持する解決方法は、まだない。
【0011】
このような課題に十分に対処するためのポリウレタン技術が不足しているため、軟質プラスチック材料が要求されるときには、費用の高いフルオロエラストマー、加工が難しい(hard-to-process)シリコーンエラストマー、またはTPOなどの機械的特性に乏しい材料のいずれかが採用されてきた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
要約
驚くべきことに、および意外なことに、ポリプロピレングリコールおよびポリ(ブチレンオキシド)などのポリ(アルキレン)オキシドと、ε-カプロラクトンとの共重合体を低イソシアネート形成に用いて、約6ヶ月以上の間それらの軟質性を維持する軟質ポリウレタン材料を得ることができることが発見された。さらに、材料は、ポリエステルアジペート技術に基づくポリウレタンと比べて、加水分解劣化に対する優れた耐性を示す。Aブロックのより高い疎水性は、ポリエステルホモ重合体と比べてより良好な相分離をもたらし、ジイソシアネート結晶化の速度は増加し、したがって離型時間が改善する。加えて、製品は、低減された粘着性を示した、または粘着性を示さなかった。本願に記載されたようなポリウレタン材料は、ニッチなポリエステルアジペートに基づくポリウレタンと同様に、フルオロエラストマーおよびシリコーンエラストマーなどの材料に対する比較的安価な代替物を提供する。したがって、本記載は、低温硬化が低減されたポリウレタンまたはポリウレタン尿素組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】23℃での経時的な硬化の比較を示す図である。
図2】経時的なショアA硬化の比較を%で示す図である。
図3】直鎖状ポリオール鎖の分岐におけるB成分の分子量のパーセンテージの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本記載は、
a)少なくとも1つの1000~5000g/molの平均数分子量を有するA-B-Aタイプのブロック共重合体であって、前記ブロック共重合体は、ポリ(アルキレンオキシド)ジオールと、環状ラクトンまたは環状エーテルとの反応生成物であり、前記ポリ(アルキレンオキシド)ジオールは、ブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、前記環状ラクトンまたは環状エーテルは、ブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在する、少なくとも1つの1000~5000g/molの平均数分子量を有するA-B-Aタイプのブロック共重合体と、
b)少なくとも1つのジイソシアネート
との反応生成物を含む、組成物を提供する。
【0015】
ある実施形態では、組成物は、a)、b)、およびc)60~600g/molの分子量を有するジオール鎖延長剤またはジアミン鎖延長剤との反応生成物を含み、前記反応生成物は、0.9:1~2:1のNCO:OH分子比で、反応a)、b)およびc)によって、可塑剤がないときに形成される。
【0016】
ある実施形態では、本願に記載されるような組成物は、30~80ショアAの範囲の硬度、23℃および/もしくは4℃で6ヶ月後の<5%低温硬化、ならびに、70℃で水への沈下後の機械的特性(例えば、引張強度、極限伸び、弾性率、圧縮ひずみ)の保持の少なくとも1つ、またはその組み合わせを示す。
【0017】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、NCO:OH分子比は、0.9:1~1.7:1の範囲にある。
【0018】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、NCO:OH分子比は、0.95:1~1.5:1の範囲にある。
【0019】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、NCO:OH分子比は、1:1~1.2:1の範囲にある。
【0020】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、ブロック共重合体は、ポリ(アルキレン)オキシドユニットの分子量の少なくとも20%、または少なくとも25%の平均が、直鎖における分岐として存在する、分岐部を有する直鎖状骨格を含む。本願で用いられる「分岐(branching)」は、直鎖状骨格におけるペンダントアルキル基と理解される。
【0021】
いかなる特定の理論にも限定されないが、組成物の屈曲性部分(flexible portions)における分岐は結晶化を阻害し、これが、熱可塑性ウレタンが時間とともに硬化する主な原因であると考えられる。
【0022】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、ポリ(アルキレン)オキシドジオールは、ポリ(プロピレン)グリコール、ポリ(ブチレンオキシド)ジオール、およびその混合物からなる群から選択される一方、環状ラクトンは、ε-カプロラクトンである。本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、環状エーテルは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、およびその混合物からなる群から選択される。
【0023】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、およびその混合物からなる群から選択される。
【0024】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、ジオール鎖延長剤は、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ジ-(ベータヒドロキシエチル)-ヒドロキシキノン、1,4-ジ-(ベータヒドロキシエチル)-ビスフェノールA、およびその混合物の群から選択される。
【0025】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、ジアミン鎖延長剤は、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ジアミノベンゼン、3,3’-ジメトキシ-4,4-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、およびその混合物の群から選択される。
【0026】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、ブロック共重合体は、ポリプロピレングリコールとε-カプロラクトンとの反応生成物である。
【0027】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、ブロック共重合体は、ポリ(ブチレン)オキシドとε-カプロラクトンとの反応生成物である。
【0028】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、上記のa)にしたがうブロック共重合体の組成物は、1000~1500g/mol、1500~2500g/mol、2500~3500g/molおよび3500~5000g/molからなる群から選択される範囲における平均数分子量を有し、ポリ(アルキレンオキシド)ジオールがブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが30~70質量%の範囲で存在し、前記ポリ(アルキレンオキシド)ジオールは分岐しており、ポリ(アルキレンオキシド)ジオールの20~80質量%が直鎖における分岐として存在する。
【0029】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、上記のa)にしたがうブロック共重合体の組成物は、1000~5000g/molの範囲の平均数分子量を有し、ポリプロピレングリコールがブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが30~70mol%の範囲で存在する。
【0030】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、平均数分子量は、1000~1500g/mol、1500~2500g/mol、2500~3500g/molおよび3500~5000g/molからなる群から選択される範囲にあり得、ポリプロプレングリコールがブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが30~70mol%の範囲で存在する。
【0031】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、平均数分子量は、1000~1500g/mol、1500~2500g/mol、2500~3500g/molおよび3500~5000g/molからなる群から選択される範囲にあり得、ポリ(ブチレン)オキシドジオールがブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが30~70mol%の範囲で存在する。
【0032】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、上記のa)にしたがうブロック共重合体は、1800~2200g/molの平均数分子量を有し、ポリプロピレングリコールがブロック共重合体の総分子量の45~55質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが45~55質量%の範囲で存在する。
【0033】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、上記のa)にしたがうブロック共重合体は、2800~3200g/molの平均数分子量を有し、ポリプロピレングリコールがブロック共重合体の総分子量の65~70質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが30~35質量%の範囲で存在する。
【0034】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、上記のa)にしたがうブロック共重合体は、1800~2200g/molの平均数分子量を有し、ポリ(ブチレン)オキシドジオールがブロック共重合体の総分子量の45~55質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが45~55質量%の範囲で存在する。
【0035】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、上記のa)にしたがうブロック共重合体は、2800~3200g/molの平均数分子量を有し、ポリ(ブチレン)オキシドジオールがブロック共重合体の総分子量の65~70質量%の範囲で存在し、ε-カプロラクトンが30~35質量%の範囲で存在する。
【0036】
本記載は、特に、熱可塑性ポリウレタン、高温キャストエラストマー(hot cast elastomer)、低温キャストエラストマー(cold cast elastomer)、微孔質ポリウレタン発泡体、水性または有機媒体へのポリウレタン分散剤、ポリウレタン接着剤、1または2成分ポリウレタンコーティング、付加製造またはポリウレタン封止剤としての加工のための、冷間硬化特性が低減された重合体組成物の使用方法における、本発明の組成物の使用も提供する。重合体組成物は、以下の成分a)、b)、および任意にc)を含む:
a)は、1000~5000g/molの平均数分子量を有するA-B-Aタイプのブロック共重合体である。ブロック共重合体は、ポリ(アルキレンオキシド)ジオールと環状ラクトンまたは環状エーテルとの反応生成物であり、アルキレンオキシド重合体(A)は、アルキレンオキシド重合体(A)の分子量の少なくとも20質量%の平均が直鎖における分岐として存在する、分岐部を有する直鎖状骨格を確立するA-B-Aタイプのブロック共重合体の総分子量の30~70質量%を構成し、前記環状ラクトンまたは環状エーテルは、ブロック共重合体の総分子量の30~70質量%の範囲で存在し、
b)は、少なくとも1つのジイソシアネートであり、および任意に、
c)は、60~600の分子量を有するジオールまたはジアミン鎖延長剤である。
【0037】
反応生成物は、0.9:1~2:1のNCO:OH分子比で、反応a)、b)および任意にc)によって、可塑剤がないときに形成される。以下の構造を有する重合体組成物:
i) [-b)-a)] ここでは>5
または、任意には、
ii) [-b)-c)-b)-a)-b)]-a) ここでは>4
が得られる。前記重合体組成物は、製造されてから6ヶ月、ショアAが±5%以内として測定されるようにその軟質特性を維持する。
【0038】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、組成物は、熱可塑性ポリウレタン、高温キャストエラストマーまたは低温キャストエラストマーとして加工される。
【0039】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、組成物は、熱可塑性ポリウレタンまたは高温キャストエラストマーとして加工される。
【0040】
本願に記載される局面または実施形態のいずれかによれば、組成物は、付加製造における使用のためのエラストマーの熱可塑性フィラメントを製造するために使用される。従来技術の材料における結晶化は、付加製造における印刷工程のために用いられる印刷パラメータを見つけるおよび設定するのを面倒にし得るが、本願に記載されるような組成物は有利である。本願において比較例に開示されるような、時間とともに特性を変化させる材料は、特定の材料について標準的な印刷パラメータを利用することを不可能にする。しかしながら、本願に記載されるような組成物によれば、標準化された印刷パラメータが可能であり、印刷結果がより信頼性の高いものとなると同時にセットアップ時間が最小化されることができる。30~120ショアA、好ましくは60~120ショアAの範囲の組成物が有利である。
【0041】
例示の実施形態
例1~9
表1にしたがってポリウレタンエラストマー材料を調製するために、溶解された4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートに必須のポリオールがまず滴加され、80℃で2時間反応させた。これにより、約4%のNCOのポリウレタンプレ重合体が得られた。これに、97%化学量論または103イソシアネート指数(index)にしたがって1,4-ブタンジオールが加えられ、混合物は2分間ボルテックスミキサ(vortex mixer)を用いて均質化された。反応混合物は、その後、120℃で1時間コンディショニングされた、コーティングされた金属板の上へ注がれた。その後、離型され23℃まで冷却される前に、キャストシートが120℃で16時間オーブンに置かれた。例1~5は、型から容易に除かれ、粘着性は観察されなかった。
【0042】
例11および12
2.1kgの4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、0.4kgの1,4-ブタンジオール(150ppmのジラウリン酸ジブチルスズを含む)および7.5kgのブロック共重合体が、190~260℃の温度プロファイルおよび170℃のダイ温度で、二軸押出機で10kg/hの速度で連続的に混合された。押出物は、ウォーターバスで冷却され、空気によって冷却され、標準温度および湿度条件下で粒状にされた。小粒は、融点以上で圧縮されて6mmのTPUシートを形成した。
【0043】
【表1】
【0044】
分岐は、直鎖状骨格におけるペンダントアルキル基として理解されるべきである。
ポリウレタンエラストマー材料の初期硬度は、1日後、ASTM D 2240-15にしたがって決定された。23℃/50% R.H.のコンディショニングオーブンまたは4℃の冷蔵庫のいずれかに、シートが置かれた。硬度は、6ヶ月の期間にわたって測定された。
【0045】
軟質材料は、本発明の各例において直接的に製造され、6ヶ月の期間にわたって5%未満の硬度の上昇が見られた(例1~5および11)。対照的に、ポリカプロラクトンホモ重合体が用いられたとき、硬度は経時的に急速に増加した(例6および12)。ポリエステルアジペート(ランダム共重合体)が用いられたときも、硬度は急速に増加した(例7)。B成分の割合が共重合体の分子量の30質量%未満であったとき、硬度は急速に増加した(例8)。B成分が側鎖においてその分子量の25質量%未満のポリオールであったとき、硬度は急速に増加した(例9および10)。本発明の例は、高温キャスト製造プロセス(例1~5)および熱可塑性ポリウレタン(TPU)製造プロセス(例11)を介して調製された。
【0046】
【表2】
【0047】
本発明にしたがう組成物は、経時的にその軟質特性を維持することにおいて根本的な改善を示し、典型的な硬度は4%以下である。一方、従来技術にしたがう組成物は、6ヶ月の期間にわたって最良で18%以上、最悪で26%以上硬化する。
【0048】
図1および図2は、本発明にしたがう組成物と従来技術にしたがう組成物との間における経時的な硬度の差異をさらに示す。
【0049】
図3は、直鎖ポリオール鎖の分岐におけるB成分の分子量のパーセンテージの影響を示す。25質量%以上が分岐鎖に存在するとき、低温硬化は回避される(23℃で6ヶ月にわたって<5%)。
【0050】
本発明によって、格別の加水分解安定性を有する軟質ポリウレタン材料が製造された。インハウス法(in-house method)を用いて、ポリウレタンエラストマー試料が70℃で水に沈下され、引張特性が21日の期間にわたって測定された。本発明にしたがうカプロラクトン技術を用いて調製されたポリオールは、従来技術のポリエステルアジペートを上回る別個の利点を提供する。表3に結果が示される。
【0051】
【表3】
【0052】
比較例
ハードセグメント結晶化の程度は、ポリウレタン材料が結晶化し適時に離型されることができる製品を与える速度の指標である。このような情報は、新製品が商業的に実現可能なサイクル時間で製造されることができることを保証するのに役立つ。表4は、この発明の例のためのハードセグメントの融解エンタルピーが、ポリカプロラクトンホモ重合体がソフトセグメントとして用いられた場合の100倍以上大きく、商業的に利用可能な80ショアA材料と同じ桁であることを示す。
【0053】
Mettler Toledo DSC823eを用いて、毎分3℃の加熱速度で、熱分析が行われた。
【0054】
【表4】
【0055】
比較例。ポリカプロラクトンホモ重合体に基づく80ショアAポリウレタンエラストマーの融解エンタルピーは4J/gである。
【0056】
本発明にしたがう物品は、卓越した機械的特性を示す。このような機械的特性は、鎖延長剤の慎重な選択によって発明の範囲内でさらに改善され得る。
【0057】
表5は、本発明にしたがう異なる組成物の機械的特性を、商業的に利用可能なポリカプロラクトンホモ重合体を用いて調製された組成物と比較して示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に表される結果は、本発明にしたがって、表2A~2Dに表されるように、組成物の初期の軟質特性を経時的に保持することによって有用寿命を延ばすことが可能であることのみを示すものではない。商業的に利用可能なポリカプロラクトンホモ重合体が用いられた場合と同じレベルで、機械的特性-引張強度、極限伸びおよび弾性率など-ならびに粘弾性特性(ボールリバウンド弾性など)を維持することも可能である。このような機械的特性および粘弾性特性は、シリコーンエラストマー、フルオロエラストマーおよびTPOなどの比較技術を上回る別個の利点を提供する。
【0060】
実用寿命をとおして維持される材料の軟質性だけでなく、ポリカプロラクトン系化学の優れた耐久性によって材料の劣化が遅らされる。ポリカプロラクトンホモ重合体によって作られた物品によれば、これらの材料は、水、太陽光および工業的化学物質の影響に耐性を有し、低温および高温の極限の両方において性能を維持し、優秀な熱消散特性を有する。材料の増加した疎水性は、汚染耐性が重要である用途における使用に理想的である。低減された結晶化度は、実用寿命の間、最終物品におけるもやの形成を回避するという利点を有する。
【0061】
共重合体は、標準の商業的な技術を用いて容易に調製されることができる。すべての原材料は、マルチトン(multi-ton)量で製造される。共重合体は、低い融点(ポリカプロラクトン共重合体より低い)を有し、任意の現在のポリウレタン製造工程へ途切れずに組み込まれることができる。本発明は、ポリウレタン最終材料が標準的な熱可塑性製造装置を用いて容易に加工されることができるという比較技術を上回る追加の利点を有する。
図1
図2
図3