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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ラマンマーカー
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/36 20140101AFI20240312BHJP
   B42D 25/24 20140101ALI20240312BHJP
   B42D 25/27 20140101ALI20240312BHJP
   B42D 25/29 20140101ALI20240312BHJP
   B42D 25/333 20140101ALI20240312BHJP
   B42D 25/26 20140101ALI20240312BHJP
   B42D 25/28 20140101ALI20240312BHJP
   B42D 25/355 20140101ALI20240312BHJP
   B42D 25/324 20140101ALI20240312BHJP
【FI】
B42D25/36
B42D25/24
B42D25/27
B42D25/29
B42D25/333
B42D25/26
B42D25/28
B42D25/355
B42D25/324
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021543282
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020051404
(87)【国際公開番号】W WO2020152160
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】19382045.3
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513246436
【氏名又は名称】ファブリカ、ナシオナル、デ、モネダ、イ、ティンブレ-レアル、カサ、デ、ラ、モネダ
【氏名又は名称原語表記】FABRICA NACIONAL DE MONEDA Y TIMBRE-REAL CASA DE LA MONEDA
(73)【特許権者】
【識別番号】512245997
【氏名又は名称】コンセホ スペリオル デ インベスティガシオネス シエンティフィカス
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【住所又は居所原語表記】OTT,C/Serrano,n117,E-28006 Madrid Spain
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト、ムーレ、アロジョ
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、フランシスコ、フェルナンデス、ロサノ
(72)【発明者】
【氏名】ビクトル、フエルテス、デ、ラ、ジャーベ
(72)【発明者】
【氏名】エスター、エンリケス、ペレス
(72)【発明者】
【氏名】ビセンテ、ガルシア、フエス
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522330(JP,A)
【文献】特表2018-521171(JP,A)
【文献】特開平11-256151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0185156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/36
B42D 25/24
B42D 25/27
B42D 25/29
B42D 25/333
B42D 25/26
B42D 25/28
B42D 25/355
B42D 25/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(i)以下の成分:
(a)ケイ素及び酸素の供給源;
(b)アルミニウムの供給源;及び
(c)Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源
を含む混合物を準備する工程であって、前記供給源(a)、(b)及び(c)が、同じ材料又は異なる材料に由来する、前記工程;
(ii)場合により、前記工程(i)の混合物に対して機械的処理を実施して混合物を得る工程;並びに
(iii)前記工程(i)又は(ii)の混合物に対して熱処理を実施する工程であって、前記熱処理が加熱プロセス及び冷却プロセスを含み、前記加熱プロセスが、700℃~1250℃の温度で、0.05時間~10時間実施され、前記冷却プロセスが、室温に達するまで0.1~50℃/分の冷却速度で実施される工程
を含む方法によって得ることができるセキュリティマーカーであって、
前記セキュリティマーカーが、以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス;並びに
・前記ガラス状マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含み、且つ、
前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域が存在し、且つ、
前記結晶性粒子が、ナノ粒子の集合体又は凝集体であって、前記ナノ粒子の平均粒径が1~50nmである前記ナノ粒子の集合体又は凝集体からなり、且つ、
前記第1の結晶相の前記結晶性粒子が、正長石、玻璃長石、微斜長石、曹微斜長石、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、バナルシ石、亜灰長石、灰長石、白榴石、霞石、方沸石、灰霞石、藍方石、青金石、黝方石、葉長石、方ソーダ石及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料によって形成される、前記セキュリティマーカー。
【請求項2】
以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス;並びに
・前記ガラス状マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含むセキュリティマーカーであって、
前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域が存在し、且つ、
前記結晶性粒子が、ナノ粒子の集合体又は凝集体であって、前記ナノ粒子の平均粒径が1~50nmである前記ナノ粒子の集合体又は凝集体からなり、且つ、
前記第1の結晶相の前記結晶性粒子が、正長石、玻璃長石、微斜長石、曹微斜長石、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、バナルシ石、亜灰長石、灰長石、白榴石、霞石、方沸石、灰霞石、藍方石、青金石、黝方石、葉長石、方ソーダ石及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料によって形成される、前記セキュリティマーカー。
【請求項3】
前記工程(i)の混合物及び/又は前記セキュリティマーカーの前記ガラス状マトリックスが、Na、K、Ca、Fe、Ti、Zn、Al、B、Ba、Mg、Sr及びCsからなる群から選択される少なくとも1種の元素又は2種以上の元素の組み合わせをさらに含む、請求項1に記載のセキュリティマーカー。
【請求項4】
前記セキュリティマーカーの前記ガラス状マトリックスが、Na、K、Ca、Fe、Ti、Zn、Al、B、Ba、Mg、Sr及びCsからなる群から選択される少なくとも1種の元素又は2種以上の元素の組み合わせをさらに含む、請求項2に記載のセキュリティマーカー。
【請求項5】
前記第1の結晶相の前記結晶性粒子が、正長石、玻璃長石、微斜長石、曹微斜長石、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、バナルシ石、亜灰長石、灰長石、白榴石、霞石、方沸石、灰霞石及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料によって形成される、請求項1~のいずれか一項に記載のセキュリティマーカー。
【請求項6】
前記セキュリティマーカーが第2の結晶相を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のセキュリティマーカー。
【請求項7】
前記第2の結晶相が、酸化セリウム、酸化ユーロピウム又はそれら両方の混合物を含み、且つ、前記第2の結晶相が、500nm超の平均粒径を有する結晶性粒子の形態である、請求項に記載のセキュリティマーカー。
【請求項8】
前記第1の結晶相の前記結晶性粒子の平均粒径が、400nm未満である、請求項1~のいずれか一項に記載のセキュリティマーカー。
【請求項9】
前記第1の結晶相が、5~10重量%で存在する、請求項1~のいずれか一項に記載のセキュリティマーカー。
【請求項10】
前記結晶性粒子が、ケイ素及びアルミニウムを3:1~1:1の比率で含む、請求項1~に記載のセキュリティマーカー。
【請求項11】
前記セキュリティマーカーが、20μm未満の直径を有する粒子によって形成される粉末状態である、請求項1~10のいずれか一項に記載のセキュリティマーカー。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のセキュリティマーカーを作製する方法であって、以下の工程:
(i)以下の成分:
(a)ケイ素及び酸素の供給源;
(b)アルミニウムの供給源;及び
(c)Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源
を含む混合物を準備する工程であって、前記供給源(a)、(b)及び(c)が、同じ材料又は異なる材料に由来する、前記工程;
(ii)場合により、前記工程(i)の混合物に対して機械的処理を実施して混合物を得る工程;並びに
(iii)前記工程(i)又は(ii)の混合物に対して熱処理を実施する工程であって、前記熱処理が加熱プロセス及び冷却プロセスを含み、前記加熱プロセスが、700℃~1250℃の温度で、0.05時間~10時間実施され、前記冷却プロセスが、室温に達するまで0.1~50℃/分の冷却速度で実施される工程
を含む、前記方法。
【請求項13】
前記工程(i)の混合物が、ランタニド又は希土類の供給源をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
セキュリティ要素、セキュリティ文書、セキュリティ物品又は価値のあるオブジェクトを認証するためのセキュリティマーカーの使用であって、
前記セキュリティマーカーが、
- 以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス;並びに
・前記ガラス状マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含み、且つ、
前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域が存在する、セキュリティマーカーであるか、或いは、
- 以下の工程:
(i)以下の成分:
(a)ケイ素及び酸素の供給源;
(b)アルミニウムの供給源;及び
(c)Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源
を含む混合物を準備する工程であって、前記供給源(a)、(b)及び(c)が、同じ材料又は異なる材料に由来する、前記工程;
(ii)場合により、前記工程(i)の混合物に対して機械的処理を実施して混合物を得る工程;並びに
(iii)前記工程(i)又は(ii)の混合物に対して熱処理を実施する工程であって、前記熱処理が加熱プロセス及び冷却プロセスを含み、前記加熱プロセスが、700℃~1250℃の温度で、0.05時間~10時間実施され、前記冷却プロセスが、室温に達するまで0.1~50℃/分の冷却速度で実施される工程
を含む方法によって得ることができるセキュリティマーカーであって、以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス;並びに
・前記ガラス状マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含み、且つ、前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域が存在する、セキュリティマーカーである、前記使用。
【請求項15】
請求項14に記載のセキュリティマーカーを含むセキュリティ物品。
【請求項16】
請求項14に記載のセキュリティマーカーを含むセキュリティ文書。
【請求項17】
請求項14に記載のセキュリティマーカーを含むセキュリティ要素。
【請求項18】
請求項14に記載のセキュリティマーカーを含む価値のあるオブジェクト。
【請求項19】
請求項14に記載のセキュリティマーカーを含む、セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素、或いは価値のあるオブジェクトを作製する方法であって、
前記方法が、前記セキュリティマーカーの組み込みを含み、
前記組み込みが、
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトを作製するために使用される材料を製造している間に、
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトに付加される付加物の一部として、或いは、
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトの表面に対して実施される、前記方法。
【請求項20】
請求項14に記載のセキュリティマーカーを含む、セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素、或いは価値のあるオブジェクトの真正性を判定する方法であって、
(i)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトに、600~1100nmの波長を有する単色レーザー光を照射する工程、
(ii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルを測定して、前記セキュリティマーカーの存在を判定する工程、及び
(iii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルが、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲においてラマン信号を含むか否かを検証し、且つ、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における前記ラマン信号をデコンボリューションし、次いで、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における前記デコンボリューションされたラマン信号が、半分の強度における幅が90cm-1未満である少なくとも2つのラマンバンドを含むか否かを検証する工程
を含む、前記方法。
【請求項21】
ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における前記ラマン信号が、100~1000cm-1のラマンシフト範囲において得られた最も強い強度のラマン信号の強度値よりも少なくとも0.5倍大きい強度値を有するか否かを検証する、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティ文書(security document)、セキュリティ物品(security article)及び価値のあるオブジェクト(object of value)の認証又は偽造防止のためのマーカーの分野に関する。より具体的には、本発明は、ラマンマーカーの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
文書の偽造を妨げるための様々なセキュリティ要素(security element)の使用は、それらの検出用の特別なツール、例えば、分光法、例えば、UV-VIS吸収分光法、蛍光発光分光法、IR分光法又はラマン分光法の使用を必要とする。セキュリティ文書又はセキュリティ物品の真正性を認定するために、顔料又は発光物質が使用されてきた。しかしながら、これらの物質には、光学遷移(吸収及び放出)の量が限られているため、制限がある。
【0003】
ラマン分光法は、強い単色光(例えば、レーザー光)が材料に当たった後に生成される光子の非弾性散乱に基づいている。したがって、エネルギーは、入射光と材料との間で伝達され、その結果、入射光のエネルギーは、ラマンシフトとして定義されるエネルギーに変化する。ラマンシフトは、システムの振動モードに関する情報を提供する。ラマン信号強度は、結晶構造又は分子内の電子の分極率に比例する。ラマン効果は、サンプルを励起する光子の非弾性散乱の一形態である。ラマン効果は、サンプルに到達する光子の10~10個ごとに1つ見られ、したがって、その測定に分光計が必要である効果である。ラマン分光法は、分子を特定し、分子内結合を試験するために使用される。固体物理学では、固体の振動モードを決定するために使用される。
【0004】
様々な有機化合物が、例えば特許文献US5324567又はUS5718754において、ラマンマーカーとして提案されている。しかしながら、上記有機化合物の使用は完全に安全というわけではない。これは、それらの合成に適した手段が利用可能であるならば、それらの構造の開示は、それらを複製することを可能にし、システムが非常に偽造されやすくなるためである。特許文献EP2714419は、2種類のナノ粒子を組み合わせたラマンマーカーを開示しており、そのラマンシフトは、上記ナノ粒子の凝集状態に依存し、それにより、特定を可能にする。特定の凝集状態、その結果のラマンシフトを再現する際の困難にもかかわらず、それらを形成する無機化合物が特徴的なラマンスペクトルを示すため、その凝集状態に基づくマーカーが特定され得る。さらに、当技術分野の文献、例えば、特許文献WO2010/135351は、ラマン及び金属コーティングにおける活性核を記載している。これらの金属元素は、スペクトル自体に影響を与えることなくラマン信号の増幅器として使用されるため、活物質の量を減らすことができるという事実を除いて、セキュリティシステムとしての改善を伴わない。
【0005】
したがって、セキュリティ文書の偽造を妨げる新しい構成及び方法を開発する明白な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、ラマンセキュリティマーカーを開発した。
【0007】
したがって、本発明の第1の態様は、以下の工程:
(i)以下の成分:
(a)ケイ素及び酸素の供給源;
(b)アルミニウムの供給源;及び
(c)Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源
を含む混合物を準備する工程であって、前記供給源(a)、(b)及び(c)が、同じ材料又は異なる材料に由来する、前記工程;
(ii)場合により、前記工程(i)の混合物に対して機械的処理を実施して混合物を得る工程;並びに
(iii)前記工程(i)又は(ii)の混合物に対して、500℃~1500℃の温度で、0.1分間~50時間、熱処理を実施する工程
を含む方法によって得ることができるセキュリティマーカーであって、
前記セキュリティマーカーが、以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス(glassy matrix);並びに
・前記ガラス状マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含み、且つ、
前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域(interface)が存在する、前記セキュリティマーカーに関する。
【0008】
本発明の別の態様は、以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス;並びに
・前記マトリックスに埋め込まれた(embedded)結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含むセキュリティマーカーであって、
前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域が存在する、前記セキュリティマーカーに関する。
【0009】
本発明のさらなる態様は、本発明のセキュリティマーカーを作製する方法であって、以下の工程:
(i)以下の成分:
(a)ケイ素及び酸素の供給源;
(b)アルミニウムの供給源;及び
(c)Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源
を含む混合物を準備する工程であって、前記供給源(a)、(b)及び(c)が、同じ材料又は異なる材料に由来する、前記工程;
(ii)場合により、前記工程(i)の混合物に対して機械的処理を実施して混合物を得る工程;並びに
(iii)前記工程(i)又は(ii)の混合物に対して、500℃~1500℃の温度で、0.1分間~50時間、熱処理を実施する工程
を含む、前記方法に関する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、セキュリティ要素、セキュリティ文書、セキュリティ物品又は価値のあるオブジェクトを認証するための、本発明のセキュリティマーカーの使用に関する。
【0011】
さらなる態様は、本発明のセキュリティマーカーを含む、セキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素に関する。
【0012】
別のさらなる態様は、セキュリティ部門(security sector)における本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素の使用に関する。
【0013】
さらなる態様は、本発明のセキュリティマーカーを含む価値のあるオブジェクトに関する。
【0014】
別のさらなる態様は、本発明において規定されるセキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトを作製する方法であって、
前記方法が、前記セキュリティマーカーの組み込みを含み、
前記組み込みが、
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトを作製するために使用される材料を製造している間に、
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトに付加される付加物の一部として、或いは、
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトの表面に対して
実施される、前記方法に関する。
【0015】
別のさらなる態様は、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定する方法であって、
(i)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトに、600~1100nmの波長を有する単色レーザー光を照射する工程、及び
(ii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルを測定して、請求項1~8のいずれか一項に記載のセキュリティマーカーの存在を判定する工程
を含む、前記方法に関する。
【0016】
別のさらなる態様は、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定するシステムであって、
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトが配置されるポジショナー、
・入射光レーザービームからの光を、前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトの一部に焦点合わせして照射することを可能にするレンズアレイ、
・ラマンスペクトルマルチチャネル検出器、
・前記マルチチャネル検出器に到達するレーザー光であって、放射レーザー源から直接生じるレーザー光を遮蔽するフィルタ、及び
・場合により、ラマンスペクトルの処理に適合した手段、好ましくは、前記スペクトルのラマン信号のデコンボリューションに適合した手段
を含む、前記システムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、サンプル(a)S1~S3、(b)S4~S5及び(c)S6~S8に対して得られたラマンスペクトルである。
図2図2は、(a)及び(b)においてサンプルS1、(c)及び(d)においてS2並びに(e)及び(f)においてS3に対する電子顕微鏡画像である。
図3図3は、サンプルS6~S8に対するディフラクトグラムである。
図4図4は、サンプルS10の透過型電子顕微鏡写真である。
図5図5は、サンプル(a)S9~S13及び(b)S14~S16に対して得られたラマンスペクトルである。
図6図6は、サンプルS17~S20に対して得られたラマンスペクトルである。
図7図7は、異なる時間で粉砕されたサンプル:(a)においてS21~S24及び(b)においてS25~S28に対して得られたラマンスペクトルである。
図8図8は、サンプル(a)S29~S30、(b)S31~S32、(c)S33~S34及び(d)S35~S36に対して得られたラマンスペクトルである。
図9図9は、(a)においてサンプルS32及び(b)においてサンプルS36に対する走査型電子顕微鏡写真である。
図10図10は、サンプル(a)S37及びS38、(b)S43~S46及び(c)S59~S62に対して得られたラマンスペクトルである。
図11図11は、サンプルS60~S62に対するX線ディフラクトグラムである。
図12図12は、サンプルS61に対する走査型電子顕微鏡写真である。
図13図13は、サンプル(a)S63~65、(b)S64及びS71並びに(c)S63及びS77~S78に対して得られたラマンスペクトルである。
図14図14は、サンプル(a)S38、(b)Sll、(c)S1、(d)S4、(d)S35及び(f)S36に対するデコンボリューションされたラマンスペクトルである。
図15図15は、セキュリティラベル(a)及びセキュリティマーカーを含むセキュリティラベル(b~d)のラマンスペクトルである。
図16図16は、コート紙(a)及び本発明のセキュリティマーカーを含むコート紙(b)のラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
特に明記しない限り、本明細書において使用されるすべての科学用語は、この説明が意図される当業者によって一般的に理解される意味を有する。本発明において、単数形は、他に示されない限り、複数形を含む。
【0019】
本発明者らは、少なくともケイ素及び酸素を含むガラス状マトリックスを含む材料のラマンスペクトルであって、平均粒径が500nm未満である長石又は準長石の結晶性粒子が埋め込まれており、結晶性粒子とガラス状マトリックスとの間に境界領域が存在し、上記材料が500℃~1500℃の温度で0.1分間~50時間の熱処理を含む所与の方法によって得ることができる、上記ラマンスペクトルが、単色レーザーが照射された場合に、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において、特定の特性を有するラマン信号を有し、このラマン信号は明確に検出及び特定され得ることを見出した。さらに、上記ラマン信号を分析又はデコンボリューションして、位置、半値幅、及び相対強度を有する2つ又は3つ以上のラマンバンドのセットを含む、各マーカーに特徴的な単一のラマンパターンを得、これをデジタル化し、デジタル化された一意のコードに変換することが可能であることが見出された。さらに、これらのラマンマーカーは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を有しており、これはセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素における検出を可能にする。追加の利点は、本発明のラマンマーカーが、セキュリティ文書へのそれらの組み込みに適した固体の白色粒子の形態であり得ることである。したがって、本発明のセキュリティマーカーは、特定の熱処理後に得ることができる材料及び特定のミクロ組織(microstructure)(結晶相、アモルファス相及び境界領域の組み合わせ)の特定の組み合わせについてのみ得ることができる特定のラマンスペクトルを示す。
【0020】
本発明者らは、上記セキュリティマーカーのミクロ組織の変更により、そのラマンスペクトルの特性、特に1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号の特性を変化させ得ること(これはこのセキュリティマーカーの偽造が極めて困難であることを意味する)を見出した。さらに、ラマンマーカーにオプションの第2の結晶相が存在すると、そのラマンスペクトルを変更し得ることも見出された。例えば、独自のラマンスペクトルを有する材料からできた第2の結晶相を追加すると、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における主要なラマン信号に加えて、ラマンスペクトルに追加のバンドを有するセキュリティマーカーを取得することができる。したがって、この組み合わせの使用は、上記材料の複製がより複雑であることを考えると、文書のセキュリティのさらなる改善を意味する。
【0021】
セキュリティマーカー
したがって、本発明の第1の態様は、以下の工程:
(i)以下の成分:
(a)ケイ素及び酸素の供給源;
(b)アルミニウムの供給源;及び
(c)Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源
を含む混合物を準備する工程であって、前記供給源(a)、(b)及び(c)が、同じ材料又は異なる材料に由来する、前記工程;
(ii)場合により、前記工程(i)の混合物に対して機械的処理を実施して混合物を得る工程;並びに
(iii)前記工程(i)又は(ii)の混合物に対して、500℃~1500℃の温度で、0.1分間~50時間の熱処理を実施する工程
を含む方法によって得ることができるセキュリティマーカーであって、
前記セキュリティマーカーが、以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス;並びに
・前記マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含み、且つ、
前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域が存在する、前記セキュリティマーカーに関する。
【0022】
本発明における「混合物」という用語は、少なくとも2種の異なる材料の物理的な組み合わせ又は組成物を指す。上記混合物が複数の材料からなる場合、それは好ましくは固体状態である。
【0023】
本発明の文脈において、化学元素に関する「供給源」という用語は、その組成物中に上記化学元素を含む化学材料又は化合物を指す。全く同一の材料又は化合物が、いくつかの化学元素の供給源として機能し得る。例えば、長石鉱物(feldspar mineral)は、ケイ素と、酸素と、アルミニウムと、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素との供給源として機能し得る。すなわち、それは、記載されているように、本発明の方法の工程(i)の供給源(a)、(b)及び(c)として機能し得る。
【0024】
「ガラス状(glassy)」という用語は、当技術分野で知られているように、それらの原子構造において長周期の結晶秩序を示さない無機材料又は化合物を指す。ガラス状材料の非限定的な例はガラスである。
【0025】
本発明において、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における「顕著なラマン信号」とは、当技術分野で知られているようにバックグラウンドノイズが上記スペクトルから除去された場合に、100~1000cm-1のラマンシフト範囲における同一サンプルに対するラマン信号に対応するラマン信号の少なくとも0.5倍の範囲にある強度を有する信号として定義される。
【0026】
好ましい実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、異なる材料に由来し、少なくとも上記の材料のうちの1種は鉱物である。
【0027】
好ましい実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、異なる材料に由来し、少なくとも上記の材料のうちの1種はガラス状材料である。
【0028】
より特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)並びにアルミニウムの供給源(b)は、全く同一の材料;好ましくはアルミノケイ酸カルシウム;より好ましくはカオリン;さらにより好ましくは、SiO、Al及びKOを含む酸化物当量(equivalent oxide)で表される組成を有するカオリン;さらにより好ましくは、45~60%のSiO、35~45%のAl及び0.1~1.5%のKOを含む酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するカオリン;さらにより好ましくは、55.5%のSiO、42.5%のAl及び1.2%のKOを含む酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するカオリンである。
【0029】
好ましい実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)及びアルミニウムの供給源(b)は、アルミノケイ酸カルシウム;より好ましくはカオリン;さらにより好ましくは、SiO、Al及びKOを含む酸化物当量で表される組成を有するカオリン;さらにより好ましくは、45~60%のSiO、35~45%のAl及び0.1~1.5%のKOを含む酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するカオリン;さらにより好ましくは、55.5%のSiO、42.5%のAl及び1.2%のKOを含む酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するカオリンであり、かつ、供給源(c)は、炭酸カルシウムである。より好ましい実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)並びにアルミニウムの供給源(b)はカオリンであり、かつ、供給源(c)は炭酸カルシウムであり、ここで、カオリンの重量パーセントは50~90%、好ましくは60~80%である。
【0030】
好ましい実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、
・SiO、Al及びKOを含む酸化物当量で表される組成を有するカオリン;好ましくは、45~60%のSiO、35~45%のAl及び0.1~1.5%のKOを含む酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するカオリン;さらにより好ましくは、55.5%のSiO、42.5%のAl及び1.2%のKOを含む酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するカオリン、並びに
・SiO、SrO、NaO、KO及びAlを含む酸化物当量で表される組成を有するフリット;好ましくは、35~55%のSiO、5~15%のSrO、1.5~3.5%のNaO、1~2%のKO及び10~30%のAlを含む酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するフリット;さらにより好ましくは、51.6%のSiO、8%のSrO、2.7%のNaO、1.4%のKO及び21.1%のAlの酸化物当量の重量%で表される化学組成を有するフリット
の混合物である。
【0031】
より好ましい実施形態において、カオリンは、1~20%、好ましくは5~15%の重量パーセントで混合物中に見出され得る。
【0032】
特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)は、ガラス状材料、好ましくはガラス;より好ましくは、ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス;さらにより好ましくは、SiO、NaO、CaO及びAlを含む酸化物当量で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、50~80%のSiO、5~10%のNaO、5~10%のCaO及び1~10%のAlを含む酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、69.7%のSiO、12.4%のNaO、7.22%のCaO、5.45%のAl、4.06%のMgO、0.5%のKO、0.31%のKO、0.13%のB3、0.12%のFe及び0.1%未満の存在量を有するその他の少量の酸化物の酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラスである。
【0033】
より特定の実施形態において、アルミニウムの供給源(b)は、酸化アルミニウム、好ましくはアルミナ(Al)、より好ましくはα-Al、Al(OH)、γ-アルミナである。特定の実施形態において、アルミニウムの供給源(b)はナノ粒子材料である。
【0034】
特定の実施形態において、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、Na、K又はCaの少なくとも1種の元素を含む無機材料、より好ましくは、炭酸塩、酸化物、又はNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩である。
【0035】
より特定の実施形態において、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物である。
【0036】
より特定の実施形態において、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の炭酸塩である。
【0037】
より特定の実施形態において、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩である。
【0038】
より特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)及びNa、K、及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、ガラス;より好ましくは、ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス;さらにより好ましくは、SiO、NaO、CaO及びAlを含む酸化物当量で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、50~80%のSiO、5~10%のNaO、5~10%のCaO及び1~10%のAlを含む酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、69.7%のSiO、12.4%のNaO、7.22%のCaO、5.45%のAl、4.06%のMgO、0.5%のKO、0.31%のKO、0.13%のB3、0.12%のFe及び0.1%未満の存在量を有するその他の少量の酸化物の酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラスである。
【0039】
より特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、ガラス;より好ましくは、ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス;さらにより好ましくは、SiO、NaO、CaO及びAlを含む酸化物当量で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、50~80%のSiO、5~10%のNaO、5~10%のCaO及び1~10%のAlを含む酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、69.7%のSiO、12.4%のNaO、7.22%のCaO、5.45%のAl、4.06%のMgO、0.5%のKO、0.31%のKO、0.13%のB3、0.12%のFe及び0.1%未満の存在量を有するその他の少量の酸化物の酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラスである。
【0040】
別の特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)は酸化ケイ素であり、アルミニウムの供給源(b)は酸化アルミニウムであり、かつ、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は炭酸ナトリウムであり、好ましくは、炭酸ナトリウム及び酸化アルミニウムは、質量パーセントで10~20%であり、炭酸ナトリウムは、質量パーセントで50~70%である。
【0041】
より特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、テクトケイ酸塩(tectosilicate)、より好ましくは長石、さらにより好ましくは結晶性長石である。本発明に適した長石の非限定的な例は、ナトリウム長石及びカリウム長石である。
【0042】
より具体的な実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、正長石(orthoclase)、玻璃長石(sanidine)、微斜長石(microcline)、曹微斜長石(anorthoclase)、曹長石(albite)、灰曹長石(oligoclase)、中性長石(andesine)、曹灰長石(labradorite)、バナルシ石(banalsite)、亜灰長石(bytownite)、灰長石(anorthite)、白榴石(leucite)、霞石(nepheline)、方沸石(analcime)、(Na,Ca)7-8(AlSi24)(COSO1,5-2・5HOである灰霞石(cancrinite)、(Na,Ca)4-8AlSi(O,S)24(SO,Cl)1-2である藍方石(hauyne)、(Na,Ca)7-8(Al,Si)12(O,S)24[(SO),Cl,(OH)]である青金石(lazurita)、NaAlSi24SO・HOである黝方石(nosean)、LiAlSi10である葉長石(petalite)、NaAlSi24Clである方ソーダ石(sodalite)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料である。
【0043】
本発明に適した長石型のテクトケイ酸塩の非限定的な例は、アルカリ長石、好ましくは、その組成にカリウムを含むアルカリ長石、より好ましくは、正長石、玻璃長石、微斜長石及び曹微斜長石である。
【0044】
本発明に適した長石型のテクトケイ酸塩の非限定的な例は、その組成物中にナトリウム及びカルシウムを含む斜長石(plagioclase)、好ましくは、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、バナルシ石、亜灰長石及び灰長石である。
【0045】
本発明に適した準長石型のテクトケイ酸塩の非限定的な例は、それらの組成にカリウムを含む単純な準長石、好ましくは白榴石、霞石及び方沸石である。
【0046】
本発明に適した準長石型のテクトケイ酸塩の非限定的な例は、複雑な準長石、例えば、(Na,Ca)7-8(AlSi24)(COSO1,5-2・5HOである灰霞石、(Na,Ca)4-8AlSi(O,S)24(SO,Cl)1-2である藍方石、(Na,Ca)7-8(Al,Si)12(O,S)24[(SO),Cl,(OH)]である青金石(lazurite)、NaAlSi24SO・HOである黝方石、LiAlSi10である葉長石及びNaAlSi24Clである方ソーダ石である。
【0047】
より特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、ナトリウム長石、好ましくは、SiO、Al及びNaOを含む酸化物当量で表される組成のナトリウム長石、より好ましくは、50~70%のSiO、15~25%のAl及び15~25%のNaOを含む酸化物当量の重量%で表される組成を有するナトリウム長石である。
【0048】
より具体的な実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)、アルミニウムの供給源(b)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、カリウム長石であり、好ましくは、SiO、Al及びKOを含む酸化物当量で表される組成のナトリウム長石、より好ましくは、50~70%のSiO、15~25%のAl及び15~25%のKOを含む酸化物当量の重量%で表される組成を有するナトリウム長石である。
【0049】
より特定の実施形態において、ケイ素及び酸素の供給源(a)並びにNa、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源(c)は、ガラス;より好ましくは、ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス;さらにより好ましくは、SiO、NaO、CaO及びAlを含む酸化物当量で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、50~80%のSiO、5~10%のNaO、5~10%のCaO及び1~10%のAlを含む酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラス;さらにより好ましくは、69.7%のSiO、12.4%のNaO、7.22%のCaO、5.45%のAl、4.06%のMgO、0.5%のKO、0.31%のKO、0.13%のB3、0.12%のFe及び0.1%未満の存在量を有するその他の少量の酸化物の酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラスであり、かつ、アルミニウムの供給源(b)は酸化アルミニウム、好ましくはAlである。さらにより特定の実施形態において、ガラス/アルミナの重量比は、90/10~10/90、好ましくは25/75~75/25である。
【0050】
好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(i)は、以下の成分:
・ガラス、より好ましくは、ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス、さらにより好ましくは、SiO、NaO、CaO及びAlを含む酸化物当量で表される組成を有するガラス、さらにより好ましくは、50~80%のSiO、5~10%のNaO、5~10%のCaO及び1~10%のAlを含む酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラス、さらにより好ましくは、69.7%のSiO、12.4%のNaO、7.22%のCaO、5.45%のAl、4.06%のMgO、0.5%のKO、0.31%のKO、0.13%のB3、0.12%のFe及び0.1%未満の存在量を有するその他の少量の酸化物の酸化物当量の重量%で表される組成を有するガラス;
・ランタニド酸化物、好ましくは、酸化ユーロピウム、酸化セリウム又はそれらの両方の組み合わせ、より好ましくはCeO;及び
・場合により、酸化アルミニウム
を含む混合物を提供することである。
【0051】
より特定の実施形態において、ランタニド酸化物は、1~30%、好ましくは4~20%の重量パーセントである。
【0052】
特定の実施形態において、工程(i)の混合物は、ランタニド又は希土類の供給源、好ましくは、ランタニド又は希土類の酸化物、より好ましくは、酸化セリウム、酸化ユーロピウム又はそれらの両方の混合物をさらに含む。
【0053】
特定の実施形態において、工程(i)の混合物は、セリウム、好ましくは酸化セリウム(CeO)をさらに含む。
【0054】
特定の実施形態において、工程(i)の混合物は、ユーロピウム、好ましくは酸化ユーロピウム(Eu)をさらに含む。
【0055】
本発明の文脈において、「機械的処理」又は「コンディショニング(conditioning)」は、破砕プロセス(grinding process)及び/若しくは粉砕プロセス(milling process)、又は破砕プロセス若しくは粉砕プロセスの組み合わせを指し、上記プロセスは、好ましくは、固体粒子の粒径を所与の範囲の粒径に減少させるために使用される。本発明の機械的処理に適した破砕プロセス及び/又は粉砕プロセスは、当業者に知られているプロセスのいずれかから選択することができる。上記プロセスの非限定的な例は、粉砕器によって、例えば遊星ミル又はジョークラッシャーなどによって実行されるプロセスである。本発明の機械的処理に適した粉砕器の非限定的な例は、リングクラッシャー、例えば、特に、炭化タングステンリングクラッシャー、ジェットミル又はボールミル若しくはマイクロボールミルである。
【0056】
より特定の実施形態において、工程(ii)の機械的処理は、粉砕、好ましくはボールミル中での粉砕からなる。
【0057】
本発明の文脈において、「熱処理」という表現は、加熱プロセス及び場合により冷却プロセスを指す。特に、500℃~1500℃の温度での加熱プロセスを指す。熱処理は、例えば、加圧下での従来の加熱方法、例えば、炉、マッフルなどによって、又はその他の方法、例えば、スパークプラズマ焼結(SPS)によって実施され得る。
【0058】
特定の実施形態において、工程(iii)の熱処理は、500℃~1500℃、好ましくは600℃~1300℃、より好ましくは700℃~1250℃の温度で実施される。より特定の実施形態において、工程(iii)の熱処理は、所望の温度に達するまで連続速度(continuous rate)、好ましくは0.1~50℃/分の加熱速度、より好ましくは1~40℃/分の加熱速度、さらにより好ましくは5~30℃/分の加熱速度で加熱する工程を含む。別のより特定の実施形態において、工程(iii)の熱処理は、室温に達するまで連続速度、好ましくは0.1~50℃/分の冷却速度、より好ましくは1~40℃/分の冷却速度、さらにより好ましくは5~30℃/分の冷却速度で冷却する工程を含む。
【0059】
特定の実施形態において、工程(iii)の熱処理は、圧力下、好ましくは5~100MPaの圧力値、より好ましくは10~50MPaの圧力値で実施される。
【0060】
特定の実施形態において、工程(iii)の熱処理は、0.01~50時間、好ましくは0.02~30時間、より好ましくは0.03~20時間、さらにより好ましくは0.05~10時間の時間で実施される。
【0061】
より特定の実施形態において、工程(iii)の熱処理は、圧力下、好ましくは10~200MPaの圧力下、好ましくは約50MPaの圧力下におけるスパークプラズマ焼結(SPS)技術によって実施される。
【0062】
より特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーを作製する方法は、工程(ii)において得られた材料を機械的処理する工程(iv)、好ましくは粉砕工程を含む。この工程は、その特定の実施形態のそれぞれにおいて工程(ii)について記載された工程と同様であり、工程(ii)の前又は後に実施され得る。
【0063】
ガラス状マトリックス(glassy matrix)
本発明の文脈において、「ガラス状マトリックス」という表現は、少なくともケイ素元素及び酸素元素を含み、かつ、その状態がガラス状、又は言い換えればアモルファスであるマトリックスを指す。本発明のガラス状マトリックスにおいて、ケイ素は、4個の酸素原子に配位することができ、上記酸素原子は、四面体の頂点に位置し、上記四面体は、分離され、且つ/或いは、1つ又は複数の四面体によって形成され得るリングを形成し、好ましくは、その大部分において、3つ及び4つの四面体からなるリングを形成する。本発明のガラス状マトリックスは、工程(i)の混合物を形成する1種又は2種以上の供給源(a)、(b)又は(c)からもたらされ得るか、又は本発明のセキュリティマーカーを得る方法の工程(iii)の熱処理中に形成され得る。
【0064】
特定の実施形態において、本発明のマーカーのガラス状マトリックスは、Na、K、Ca、Fe、Ti、Zn、Al、B、Ba、Mg、Sr及びCs;好ましくは、Al、Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素又は2種以上の元素の組み合わせをさらに含む。
【0065】
特定の実施形態において、本発明のマーカーのガラス状マトリックスは、2質量%~99質量%、より好ましくは3質量%~98質量%、さらにより好ましくは10質量%~90質量%で存在する。
【0066】
第1の結晶相
本発明の文脈において、「結晶相」という表現は、当技術分野で理解されるように、高度に秩序化された様式で配置された原子を含み、かつ、3次元空間に広がる繰り返しパターンを形成する材料、好ましくは、長石構造又は準長石構造を有する材料を指す。
【0067】
本発明のセキュリティマーカーは、その構成中に少なくとも第1の結晶相及び場合により2種以上の結晶相を含む。セキュリティマーカーは、本発明のガラス状マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相を含み、上記粒子は長石構造又は準長石構造を有し、上記粒子の平均粒径は500nm未満である。好ましくは、上記粒子は長石又は準長石である。
【0068】
特定の実施形態において、本発明の結晶性粒子は、500nm未満、好ましくは400nm未満、好ましくは350nm未満、より好ましくは5~300nm、より好ましくは7~280nm、さらにより好ましくは10~250nmの平均粒径を有する。
【0069】
特定の実施形態において、本発明の第1の結晶相の結晶性粒子は、500nm未満、好ましくは400nm未満、好ましくは350nm未満、より好ましくは5~300nm、より好ましくは7~280nm、さらにより好ましくは10~250nmの平均粒径を有する。
【0070】
特定の実施形態において、本発明の第2の結晶相の結晶性粒子は、500nm未満、好ましくは400nm未満、好ましくは350nm未満、より好ましくは5~300nm、より好ましくは7~280nm、さらにより好ましくは10~250nmの平均粒径を有する。
【0071】
本発明の文脈において、結晶粒子の「平均粒径」という表現は、結晶粒子の代表的なサンプルについて、当技術分野で知られている様々な方法を使用して測定された直径の分布曲線の中央値として計算された直径の値を指す。平均粒径は、例えば、走査型又は透過型電子顕微鏡法によって少なくとも100個の粒子、好ましくは少なくとも300個の粒子の直径を決定することにより、結晶性粒子の代表的なサンプルについて測定された直径の分布曲線の中央値として直径の値を計算することによって計算され得る。
【0072】
本発明の文脈において、「長石」という表現は、その端成分が当技術分野で知られている正長石(KAlSi)、灰長石(CaAlSi)及び曹長石(NaAlSi)によって形成される三成分系において見られる組成を含むアルミノケイ酸塩を主成分とする材料を指し、アルカリ長石(Na1-XAlSi、Xは0~1に含まれる数)、斜長石(NaCa1-XAl2-XSi2+X、Xは0~1に含まれる数)及びそれらの混合物を含む。
【0073】
本発明の文脈において、第1の結晶相に関する「準長石」という表現は、長石に類似しているが、構造が異なり、シリカ含有量が長石よりも約3分の1少ない組成を有する材料を指す。長石と同様に、準長石はシリカ四面体リングによって形成されるが、各リングには多数の四面体がある。例えば、霞石(NaAlSiOR)の構造は、シリカ及びアルミニウムの四面体の6員環によって形成される。
【0074】
本発明に適した長石又は準長石の非限定的な例は、正長石、玻璃長石、微斜長石、曹微斜長石、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、バナルシ石、亜灰長石、灰長石、白榴石、霞石、方沸石、灰霞石、藍方石、青金石、黝方石、葉長石、方ソーダ石及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料、好ましくは、正長石、玻璃長石、微斜長石、曹微斜長石、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、バナルシ石、亜灰長石、灰長石、白榴石、霞石、方沸石、灰霞石及びそれらの組み合わせから選択される材料である。
【0075】
本発明の結晶性粒子は、固体粒子であり得るか、或いは粒子又はナノ粒子の集合体(aggregate)又は凝集体(agglomerate)によって形成され得、それらは、好ましくは粒子又はナノ粒子の集合体又は凝集体、より好ましくはナノ粒子の集合体又は凝集体からなり、上記ナノ粒子の平均粒径は、1~50nmである。
【0076】
本発明の文脈において、本発明のマーカーの結晶性粒子に関して「埋め込まれている(embedded)」という用語は、上記粒子が、集合状態、凝集状態又は分散状態のいずれであれ、本発明のガラス状マトリックスによって完全に囲まれ得るという事実を指す。
【0077】
特定の実施形態において、本発明の結晶性粒子は長石であり、好ましくは、それらは斜長石構造を有する粒子であり、より好ましくは、曹長石の割合が60%超の斜長石である。
【0078】
特定の実施形態において、本発明の結晶性粒子はアルカリ長石である。それらは、好ましくは、灰長石構造を有する粒子である。
【0079】
特定の実施形態において、本発明の結晶性粒子は準長石である。それらは好ましくは霞石構造を有する粒子である。
【0080】
特定の実施形態において、本発明の結晶性粒子は、3:1~1:1、好ましくは3:1~2:1、より好ましくは約3:1、さらにより好ましくは3:1の比率でケイ素及びアルミニウムを含む。
【0081】
より特定の実施形態において、本発明の第1の結晶相は、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、さらにより好ましくは5~10重量%の割合である。
【0082】
境界領域(interface)
本発明のセキュリティマーカーは、境界領域を含む。好ましくは、境界領域は、第1の結晶相を形成する結晶性粒子とガラス状マトリックスとの間に存在する。本発明の文脈において、「境界領域」という用語は、2つの異なる相の間に含まれる空間領域であって、物理的及び化学的性質が、一方の相に対応する物理的及び化学的性質から、他方の相の物理的及び化学的性質の特徴まで変化する、例えば結晶相からガラス相まで変化する、空間領域を意味すると理解される。例えば、結晶相とガラス相との間に存在する境界領域は、結晶相の単純結晶格子(primitive crystalline cell)と同様の数単位から数十単位の単純結晶格子を含み得る。本発明者らは、本発明の境界領域が、本発明の初期混合物に対して、500℃~1500℃の温度で0.1分間~50時間にわたって実施される熱処理中に形成されることを見出した。驚くことに、本発明者らは、ミクロ組織における境界領域の存在が、材料に特徴的なラマン信号に関連しているようであることを見出した。
【0083】
特定の理論に拘束されることはないが、本発明者らは、本発明のセキュリティマーカーを得る方法の工程(ii)の熱処理が、ガラス状マトリックスに埋め込まれている結晶性粒子によって形成される第1の結晶相の形成をもたらし、ここで、境界領域が結晶性粒子とガラス状マトリックスとの間に存在し、それによって、特に本発明の結晶性粒子が500nm未満の平均粒径を有する場合に、特徴的なラマンスペクトルを生じさせることを見出した。
【0084】
第2の結晶相
本発明のセキュリティマーカーは、場合により、第2の結晶相、好ましくは、100~1000cm-1のスペクトルのラマンシフト範囲に存在するラマン信号を有する第2の結晶相を含む。好ましくは、第2の結晶相は金属酸化物である。第2の結晶相は、単一の酸化物又は二重酸化物(single or double oxide)を含み得、ここで、上記の酸化物は、500nm超、好ましくは1ミクロン超の平均粒径を有する粒子の形態である。
【0085】
特定の実施形態では、単一の酸化物又は二重酸化物は、結晶性の三斜晶系、単斜晶系、斜方晶系、正方晶系、六方晶系又は立方晶系から選択される結晶構造を有し、様々な結晶相、例えば、非限定的な方法で、オーリビリウス、タングステンブロンズ、コランダム、クリストバライト、石英、スピネル、フルオライト、ガーネット、イルメナイト、ペロブスカイト、ルチル、ジルコン及びウルツァイトを形成する。
【0086】
より特定の実施形態において、本発明の第2の結晶相は、酸化ケイ素(SiO)、好ましくは石英を含む。
【0087】
特定の実施形態において、本発明の第2の結晶相は、ケイ酸ジルコニウム(ZrSiO)を含む。
【0088】
より特定の実施形態において、本発明の第2の結晶相は、酸化ケイ素(SiO)、ケイ酸ジルコニウム(ZrSiO)又は酸化ランタニド、好ましくは酸化ケイ素(SiO)、ケイ酸ジルコニウム(ZrSiO)、酸化セリウム、酸化ユーロピウム又は上記酸化物の組み合わせを含む。
【0089】
特定の実施形態において、第2の結晶相は、ランタニド酸化物又は希土類酸化物、好ましくは酸化セリウム、酸化ユーロピウム又は両方の混合物を含む。
【0090】
特定の実施形態において、本発明のランタニド酸化物は、好ましくは酸化セリウム(CeO)である。
【0091】
特定の実施形態において、本発明のランタニド酸化物は、好ましくは酸化セリウム(Eu)である。
【0092】
特定の実施形態において、本発明の第2の結晶相は、500nm超、好ましくはミクロン超、より好ましくは2マイクロメートル超、さらにより好ましくは5マイクロメートル超の平均粒径を有する結晶性粒子の形態である。
【0093】
好ましい実施形態において、本発明の第2の結晶相は、特徴的なラマンスペクトルを有する材料を含む。
【0094】
特定の理論に拘束されることはないが、本発明者らは、第2の結晶相の存在が、セキュリティマーカーのラマンスペクトルを変更することを可能にすることを見出した。特に、特徴的なバンドを備えるラマンスペクトルを有する材料から生じる第2の結晶相の追加により、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲の主なラマン信号に加えて、追加のバンドを有するセキュリティマーカーを得ることが可能である。したがって、この組み合わせの使用は、材料の複製が複雑さを増すことを考えると、文書のセキュリティのさらなる改善を示す。
【0095】
本発明のセキュリティマーカーは、場合により、その構成中に第3又はそれ以上の結晶相を含む。
【0096】
本発明のセキュリティマーカーの第2又はそれに続く結晶相は、本発明のセキュリティマーカーを作製する方法の任意の工程において、及びそれを作製する方法の後でさえも追加され得る。
【0097】
特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは無色又は白色、好ましくは白色である。
【0098】
本発明の別の態様は、以下の成分:
・少なくともケイ素元素及び酸素元素を含むガラス状マトリックス;並びに
・前記マトリックスに埋め込まれた結晶性粒子によって形成された第1の結晶相であって、前記結晶性粒子が長石又は準長石であり、前記結晶性粒子の平均粒径が500nm未満である、前記第1の結晶相
を含むセキュリティマーカーであって、
前記結晶性粒子と前記ガラス状マトリックスとの間に、境界領域が存在する、前記セキュリティマーカーに関する。
【0099】
特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは粉末状態であり、好ましくは、100μm未満の直径を有する粒子によって形成され、より好ましくは、50μm未満の直径を有する粒子によって形成され、さらにより好ましくは、20μm未満の直径を有する粒子によって形成される。
【0100】
特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは、無機顔料である第3の結晶相を含む。
【0101】
セキュリティマーカーの作製方法
さらなる態様において、本発明は、本発明のセキュリティマーカーを作製する方法であって、以下の工程:
(i)以下の成分:
(a)ケイ素及び酸素の供給源;
(b)アルミニウムの供給源;及び
(c)Na、K及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の供給源
を含む混合物を準備する工程であって、前記供給源(a)、(b)及び(c)が、同じ材料又は異なる材料に由来してもよい、前記工程;
(ii)場合により、前記工程(i)の混合物に対して機械的処理を実施して混合物を得る工程;並びに
(iii)前記工程(i)又は(ii)の混合物に対して、500℃~1500℃の温度で0.1分間~50時間、熱処理を実施する工程
を含む、前記方法に関する。
【0102】
より特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーを作製する方法は、工程(ii)で得られた材料を機械的処理する工程(iv)、好ましくは粉砕工程を含む。この工程は、その特定の実施形態のそれぞれにおいて、工程(i)について記載された工程と同様である。工程(iv)は、本発明の工程(iii)の前又は後に実施され得る。
【0103】
本発明のセキュリティマーカーを作製する方法は、その工程及び用語のそれぞれについて上で定義されたすべての特定の実施形態を含む。
【0104】
セキュリティマーカーの使用
本発明の一態様は、セキュリティ要素、セキュリティ文書、セキュリティ物品又は価値のあるオブジェクト、好ましくはセキュリティ文書又はセキュリティ物品、より好ましくはセキュリティ文書を認証するための、その特定の実施形態のいずれかにおいて上記で定義されたセキュリティマーカーの使用に関する。
【0105】
特定の実施形態は、セキュリティ要素を認証するための、その特定の実施形態のいずれかにおいて上で定義されたセキュリティマーカーの使用に関する。
【0106】
特定の実施形態は、セキュリティ文書を認証するための、その特定の実施形態のいずれかにおいて上で定義されたセキュリティマーカーの使用に関する。
【0107】
特定の実施形態は、セキュリティ物品を認証するための、その特定の実施形態のいずれかにおいて上で定義されたセキュリティマーカーの使用に関する。
【0108】
特定の実施形態は、価値のあるオブジェクトを認証するための、その特定の実施形態のいずれかにおいて上で定義されたセキュリティマーカーの使用に関する。
【0109】
本発明において、認証という用語は、セキュリティ要素、セキュリティ文書、セキュリティ物品又は価値のあるオブジェクトを形成する材料の起源、それらの製造プロセス及び/又はそれらの流通手段又は流通経路を追跡するものとして解釈され得る。
【0110】
価値のあるオブジェクト、セキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素
【0111】
追加の態様において、本発明は、その特定の実施形態のいずれかにおいて上記で定義されたセキュリティマーカーを含むセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素に関する。追加の態様は、本発明のセキュリティマーカーを含む価値のあるオブジェクトに関する。特定の実施形態において、セキュリティマーカーは、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素に固定化可能である。
【0112】
したがって、本発明の文脈において、「セキュリティ要素」という用語は、特定の実施形態のいずれかにおいて上記で定義されたセキュリティマーカーを含む要素を指す。セキュリティ要素の非限定的な例は、セキュリティペーパー(security paper)、セキュリティスレッド(security thread)、セキュリティファイバー(security fiber)、セキュリティインク、透かし、触覚効果物(tactile effect)、セルロースストリップ、接着剤層、ラッカー、パッチ、プランシェット、ホログラム、顔料、プラスチックシート、ポリマー基材又はそれらの組み合わせ、好ましくは、セキュリティペーパー、セキュリティスレッド、セキュリティファイバー及びセキュリティインクである。本発明のセキュリティマーカーは、セキュリティ文書又はセキュリティ物品に直接組み込み可能であり、或いは、セキュリティマーカーを含むセキュリティ要素を組み込むことによってセキュリティ文書又はセキュリティ物品に組み込み可能である。さらに、本発明のセキュリティマーカーは、価値のあるオブジェクトに直接組み込み可能であり、或いは、セキュリティマーカーを含むセキュリティ要素を組み込むことによって価値のあるオブジェクトに組み込み可能である。すなわち、本発明のセキュリティ要素は、セキュリティ物品、セキュリティ文書又は価値のあるオブジェクトに組み込み可能である。
【0113】
本発明の文脈において、「物品」という用語は、通商(trade)で使用される商品又は物を意味すると理解される。本発明の文脈において、「セキュリティ物品」という用語は、先行する特定の実施形態のいずれかで定義された本発明のセキュリティマーカーを含む物品を指す。セキュリティ物品の非限定的な例は、個人又は製品の識別及びアクセスのためのデバイス、銀行カード、支払いデバイス、宝くじ及び運が左右するゲームのための券、セキュリティシール、通貨及び記念メダル、好ましくは銀行カード、パスポート、宝くじ券、通貨及び記念メダルである。
【0114】
「セキュリティ物品」は、本発明の「セキュリティ文書」及び/又は「セキュリティ要素」を含み得る。「セキュリティ物品」の非限定的な例は、セキュリティ文書(識別データ、ビザの内側のページ(inside pages for visas)などを含むページ)を含むパスポートであり、ひいてはセキュリティ要素(例えば、パスポートブックの継ぎ目の蛍光糸)を含むパスポートである。ひいては、上記の「セキュリティ文書」(データを含むページ)は、セキュリティ要素(紙パルプの蛍光繊維、内側のページに対するセキュリティスレッド、印刷インク、接着されたホログラフィックフィルムなど)を含み得る。
【0115】
本発明の文脈において、「セキュリティ文書」という用語は、ポリマー基材又は紙基材と、上述の特定の実施形態のいずれかで定義された本発明のセキュリティマーカーとを含む文書を指す。セキュリティ文書の非限定的な例は、セキュリティペーパー、身分証明書、紙幣、小切手、切手(stamp)、判が押された紙(stamp-impressed paper)、ラベル及びチケット、好ましくはセキュリティペーパー及び紙幣である。本発明の「セキュリティ文書」は、本発明の「セキュリティ要素」を含み得る。
【0116】
本発明の文脈において、「価値のあるオブジェクト」という用語は、先行する特定の実施形態のいずれかで定義される本発明のセキュリティマーカーを含む、市場で高い経済的価値を有する物品、オブジェクト又は商品を指す。価値のあるオブジェクトの非限定的な例は、宝石、芸術作品、医薬品、衣類、皮革製品、車両のスペアパーツ及び特別税の対象となる製品(例えば、タバコ及びアルコール)、好ましくは、宝石、芸術作品、衣類、皮革製品、歴史的遺物、古物、希少本、電子部品、限定版のオブジェクト(すなわち、潜在的なコレクターの間で希少性又は独占性の感覚を生み出すことを意図した、マスター画像の印刷物などの少量のアイテム、例えば、限定版のアートワーク)、コレクターアイテム(すなわち、珍しいため、美しいため又は特別な関心があるため、コレクターによって評価されるオブジェクト)及び車両のスペアパーツである。「価値のあるオブジェクト」は、本発明の「セキュリティ要素」を含み得る。
【0117】
本発明の文脈において、「セキュリティ物品及び/又は文書」という表現は、「セキュリティ物品」及び/又は「セキュリティ文書」を意味すると理解される。同様に、「セキュリティ要素、物品及び/又は文書」という表現は、「セキュリティ要素、セキュリティ物品及び/又はセキュリティ文書」を意味すると理解される。本発明が、その特定の実施形態のいずれかにおける本発明のセキュリティ要素、セキュリティ物品若しくはセキュリティ文書又は価値のあるオブジェクトを指す場合、それらすべてを一緒に又は別個に指す。
【0118】
セキュリティ要素
特定の実施形態において、本発明は、特定の実施形態のいずれかにおいて上記で定義されたセキュリティマーカーを含むセキュリティ要素、特に、セキュリティマーカーがセキュリティ要素に固定化されている場合のセキュリティ要素に関する。セキュリティ要素の非限定的な例は、セキュリティペーパー、セキュリティスレッド、セキュリティファイバー、セキュリティインク、透かし、触覚効果物、セルロースストリップ、接着剤層、ラッカー、パッチ、プランシェット、ホログラム、セキュリティ顔料又はセキュリティ物質、プラスチックシート及びポリマー基材である。セキュリティ要素は、本発明のセキュリティマーカーを含み、セキュリティマーカーは、セキュリティ要素の構成の一部であり得る。
【0119】
さらに、本発明のセキュリティ要素は、それを認証するための異なる製品に、例えば、価値のあるオブジェクト及び/又はセキュリティ物品若しくは文書などに組み込まれ得る。
【0120】
すなわち、価値のあるオブジェクト、セキュリティ物品又はセキュリティ文書は、本発明のセキュリティ要素を含み得る。例えば、価値のあるオブジェクト、セキュリティ物品又はセキュリティ文書は、セキュリティ要素が価値のあるオブジェクト、セキュリティ物品又はセキュリティ文書の主要部(mass)に又はその表面に見出されるように、セキュリティ要素を含み得る。
【0121】
しかしながら、ラマン分光法が基本的に表面領域に対してよく反応することを考えると、本発明のセキュリティ要素は、好ましくは、セキュリティ文書又はセキュリティ物品の表面に組み込まれる。
【0122】
特定の実施形態において、本発明のセキュリティ要素は、ホログラム、セキュリティインク又はプラスチックシートから選択される。
【0123】
本発明のセキュリティマーカー又は本発明のセキュリティ要素は、それが組み込まれている価値のあるオブジェクト、セキュリティ文書又はセキュリティ物品の特定の位置にランダムに分散又は固定させることができる。上記位置は、価値のあるオブジェクト、セキュリティ文書又はセキュリティ物品の表面に沿って、或いは価値のあるオブジェクト、セキュリティ文書又はセキュリティ物品を形成する層の異なる深度に分散させることができる。
【0124】
特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカー又は本発明のセキュリティ要素は、それが組み込まれる価値のあるオブジェクト、セキュリティ物品又はセキュリティ文書の特定の位置に、好ましくは、その表面及び/又は深度に沿った異なる位置にある。セキュリティマーカー又はセキュリティ要素が、価値のあるオブジェクト、セキュリティ物品又はセキュリティ文書の異なる位置に、さらに異なる測定により(even with a different metering)配置されるように、価値のあるオブジェクト、セキュリティ物品又はセキュリティ文書は、本発明のセキュリティマーカー又は本発明のセキュリティ要素を含み得る。したがって、その検出をさらに妨げることができる。
【0125】
したがって、本発明のセキュリティマーカー又はセキュリティ要素は、それを含む価値のあるオブジェクト、セキュリティ文書又はセキュリティ物品にセキュリティ機能を提供し、上記機能は様々な性質のものであり得、ただし、その目的はセキュリティ文書又はセキュリティ物品の改ざんを妨げること、或いは、それらの認証を容易にすることである。本発明のセキュリティマーカー又はセキュリティ要素はまた、それを含む価値のあるオブジェクト、セキュリティ文書又はセキュリティ物品へのトレーサビリティ機能を提供する。すなわち、価値のあるオブジェクト、セキュリティ文書又はセキュリティ物品における本発明のセキュリティマーカー又はセキュリティ要素の存在の検証は、それを形成する材料の起源及び/又はその製造プロセスを追跡することを可能にする。
【0126】
これらのセキュリティ要素は、当業者に知られている通常の方法に従って、本発明のセキュリティマーカーから作製され得る。
【0127】
本発明の特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは、セキュリティ物品又はセキュリティ文書のコーティングの一部として、好ましくはセキュリティ文書のコーティングの一部として、付着する(deposit)。
【0128】
本発明の特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは、繊維の形態を有する支持体に、好ましくは、セルロース繊維又は合成繊維の支持体に、より好ましくは天然セルロース繊維に、より好ましくは綿繊維に付着する。これにより、セキュリティペーパーを形成する繊維自体の一部として組み込み可能なセキュリティ繊維が提供される。特定の実施形態において、本発明のセキュリティ文書は、本発明のセキュリティマーカーを含むセキュリティファイバーを含むセキュリティペーパーである。
【0129】
好ましい実施形態において、特定の実施形態のいずれかにおいて上記で定義されたセキュリティマーカーを含むセキュリティ要素は、セキュリティファイバー、好ましくはポリマーセキュリティファイバーである。
【0130】
別の特定の実施形態において、セキュリティマーカーは、支持粒子上に付着し、次いで、支持粒子は、インクの配合物に組み込まれ、その結果、セキュリティインクを生じる。
【0131】
別の特定の実施形態において、セキュリティ要素は、上記で定義されたセキュリティマーカーを含むセキュリティインクである。
【0132】
セキュリティマーカーの粒子の平均粒径が5μm未満の場合、セキュリティマーカーは透明な微粒子、又はセキュリティ要素として使用されるインクの一部である実際の粒子に付着し得る。本発明で定義された方法を除いて、肉眼で又は従来の方法を使用してそれらが検出される可能性のない文書の一部にそれらを使用して、画像を印刷し得る。さらに、バイナリ画像及びバーコードの色を定義するために使用されるインクが同じ化学組成を有していることを考慮すると、その他の特性評価技術を使用してこれらの画像の存在を区別することは不可能である。したがって、特定の画像が、例えば、紙幣の数字の上に描かれ得、この画像は、適切なラマン装置のみを使用して検出可能である。
【0133】
セキュリティマーカーが、有色、例えば、白色である場合、最終的なインクの変化を考慮して、このマーカーを同じように使用することができる。
【0134】
インクを使用する特定のケースにおいて、セキュリティ要素は、特定のラマンスペクトルを示すという明確な特性を有する材料によって形成されるだけでなく、特定のコード、すなわち、2次元画像、アナグラム又はバイナリコード(例えば、バーコード)を生成することもできる。この方法では、セキュリティ要素がセキュリティ文書の明確に定義された領域に配置されているため、セキュリティ要素の検出が簡単になる。
【0135】
さらに、上記で定義されたセキュリティ要素は、好ましくはセキュリティ部門において、セキュリティ物品又はセキュリティ文書をマーキングするために使用され得る。
【0136】
セキュリティ物品又はセキュリティ文書
本発明は、上記の特定の実施形態のいずれかにおいて定義された本発明のセキュリティマーカー又は本発明のセキュリティ要素、好ましくはセキュリティマーカーを含むセキュリティ物品又はセキュリティ文書に関する。
【0137】
本発明によれば、セキュリティ物品又はセキュリティ文書という用語は、それらの起源、したがってそれらの真正性を保証する特定の特性を有する物品又は文書を指す。これらのセキュリティ物品又はセキュリティ文書には、行政及びその公的機関によって使用されるセキュリティ物品又はセキュリティ文書のすべて、及び市民と企業とのグループ間を大規模に循環する民間部門で使用されるセキュリティ物品又はセキュリティ文書が含まれ、識別、認証又は偽造防止の手段又はデバイスが含まれる。
【0138】
好ましくは、セキュリティ文書又はセキュリティ物品は、身分証明書(例えば、IDカード、パスポート、許可証など)及び価値のある文書(例えば、紙幣、小切手、切手、証明書など)から選択される。好ましくは、セキュリティ物品又はセキュリティ文書は、セキュリティペーパー、身分証明書、紙幣、小切手、切手、判が押された紙、ラベル及びチケット、より好ましくはセキュリティペーパーから選択される。
【0139】
特定の実施形態において、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素は、印刷ラベル、粘着性セキュリティラベル、セキュリティペーパー及びセキュリティインクから選択される。
【0140】
より特定の実施形態において、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素は、セキュリティマーカーを含むセキュリティラベルであり、ここで、セキュリティマーカーは、上記セキュリティラベルの表面上に配置されており、好ましくは印刷されている。
【0141】
より特定の実施形態において、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素は、セキュリティマーカーを含むセキュリティペーパーであり、ここで、セキュリティマーカーは、セキュリティペーパーの主要部に又は表面に、好ましくは主要部に、より好ましくは、セキュリティファイバー又はセルロースストリップの主要部の形成部分に、さらにより好ましくは、セキュリティファイバーの主要部の形成部分に配置されている。
【0142】
より特定の実施形態において、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素は、セキュリティマーカーを含むセキュリティペーパーであり、ここで、セキュリティマーカーは、セキュリティペーパーの主要部に又は表面に、好ましくは表面に、より好ましくは、ポリマー層の一部を形成する表面に配置されており、好ましくは、上記層はコーティング又はガム状(gumming)である。
【0143】
より特定の実施形態において、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素は、セキュリティマーカーを含むインクである。
【0144】
価値のあるオブジェクト
本発明は、上記の特定の実施形態のいずれかにおいて定義された本発明のセキュリティマーカー又は本発明のセキュリティ要素を含む価値のあるオブジェクトに関する。
【0145】
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトを作製する方法
【0146】
本発明の一態様は、記載のセキュリティマーカーを含む、本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素(その具体的な請求項のいずれかにおいて記載のように)或いは本発明の価値のあるオブジェクトを作製する方法であって、
前記方法が、前記セキュリティマーカーの組み込みを含み、
前記組み込みが、
(i)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトを作製するために使用される材料を製造している間に、
(ii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトに付加される付加物の一部として、或いは、
(iii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトの表面に対して
実施される、前記方法に関する。
【0147】
特定の実施形態は、上記で定義されたセキュリティマーカーを含む、上記で定義されたセキュリティ物品、セキュリティ文書或いは価値のあるオブジェクトを作製する方法であって、
前記方法が、前記セキュリティマーカーの組み込みを含み、
前記組み込みが、
(i)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書又は前記価値のあるオブジェクトを作製するために使用される材料を製造している間に、
(ii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書又は前記価値のあるオブジェクトに付加される付加物の一部として、或いは、
(iii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書又は前記価値のあるオブジェクトの表面に対して
実施される、前記方法に関する。
【0148】
特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは、上記の方法(i)~(iii)のいずれかに従って、セキュリティ物品、セキュリティ要素、セキュリティ文書又は価値のあるオブジェクトに組み込まれる固有のセキュリティ構成の一部であり得る。
【0149】
本発明のセキュリティマーカーは、乾燥充填剤(dry filler)としてセキュリティ文書の紙パルプに付加され得る。しかしながら、測定技術は基本的に表面領域によく反応することを考慮すると、それは好ましくは、その表面に接着若しくは印刷されるか、又は表面コーティングの一部であるセキュリティ要素に添加される添加剤として文書の表面に組み込まれる。それはまた、ポリマーフィルム、例えば、ポリビニルアルコールフィルムに組み込まれ得、例えば、これは、セキュリティ物品又はセキュリティ文書をカバーすることができる。それはまた、セキュリティ文書の印刷に使用されるインクに組み込まれ得、触覚マーキング要素(tactile marking element)、画像、図、凡例又はバーコードの一部にすることができる。これにより、セキュリティ文書又はセキュリティ物品には、本発明のセキュリティマーカーに対応するラマンスペクトル(又はコード)が提供される。
【0150】
本発明の特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは、基材の主要部に又は表面に繊維の形態で付着する。したがって、セキュリティマーカーをセルロース繊維又は合成繊維、好ましくは天然セルロース繊維、より好ましくは綿繊維に付着させることが可能であり、その結果、セキュリティペーパーペーパーを形成する繊維自体の一部として、セキュリティペーパー又はセキュリティ文書に直接組み込まれ得るセキュリティファイバーが提供される。
【0151】
別の特定の実施形態において、本発明のセキュリティマーカーは微粒子上に付着し、次いで、微粒子は、顔料の形態で又はインクの実際の配合物で紙パルプに組み込まれ、その結果、セキュリティ要素について上記のようにセキュリティインクを形成する。
【0152】
特定の実施形態において、セキュリティ文書又はセキュリティ物品に組み込まれる本発明のセキュリティマーカーのパーセンテージは、セキュリティ文書、セキュリティ物品又は価値のあるオブジェクトの総重量に対して、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは1重量%未満であり、かつ、0.005重量%超である。この低濃度は、当技術分野で使用される技術、例えば、化学分析、X線回折、分光技術などを使用することによるセキュリティマーカーの組成の識別を妨げる。
【0153】
本発明のセキュリティマーカーは常に活性状態であり、それを特徴付けるラマンスペクトル(電磁波又はその他の外部の電場、磁場、光照射野若しくは温度場の適用、特に600~1100nmの波長の単色レーザー光の適用、好ましくは785nmレーザーの適用による1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における特徴的なラマン信号)に対応するバンドを示さないことはあり得ない。
【0154】
同様に、本発明のセキュリティマーカーに含まれる材料のラマン応答は、それらが不可欠な部分であるセキュリティ文書、セキュリティ物品、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトを損なわずには変更され得ない。したがって、セキュリティ構成は、永続的であること、及び、非活性化の影響を受けないことを特徴とする。
【0155】
本発明のセキュリティマーカーは、安定した材料によって形成され、一般に、酸化プロセス又は水和プロセスの影響を受けない。しかしながら、環境から保護するために、不活性材料の層によりコーティングされる場合がある。セキュリティマーカーは、ポリマー又はその他の有機材料によりコーティングされて、例えば、紙の繊維への付着を改善したり、インクの一部である場合の透過性を向上させたりすることもできる。
【0156】
本発明に記載のセキュリティマーカーは、安全なコーディングシステム(coding system)を有し、セキュリティ物品、セキュリティ文書又は価値のあるオブジェクトを効果的にマーキングすることを可能にする。本発明に記載のセキュリティマーカーは、好ましくは永続的であり、非活性化の影響を受けにくく、そのような目的のために設計された検出システムの使用を必要とするコード化された応答を有する。
【0157】
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトを作製する方法は、一般的又は別個の方法において、上記セキュリティ物品、上記セキュリティ文書、上記セキュリティ要素又は上記価値のあるオブジェクトを作製することに関する。
【0158】
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定する方法
別の態様において、本発明は、セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定する方法であって、前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルを測定して、本発明のセキュリティマーカーの存在を判定する工程を含む、前記方法に関する。
【0159】
特定の実施形態において、本発明は、特定の実施形態のいずれかにおける本発明のセキュリティマーカーを含む、セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定する方法であって、
(i)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトに、600~1100nmの波長を有する単色レーザー光を照射する工程、及び
(ii)前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルを測定して、本発明のセキュリティマーカーの存在を判定する工程
を含む、前記方法に関する。
【0160】
特定の実施形態において、本発明に適した単色レーザー光は、600~1100nmの波長範囲で、好ましくは700~800nmの波長範囲で、より好ましくは785nmである。
【0161】
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトに到達する単色レーザー光は、本発明のセキュリティマーカーと相互作用し、上記セキュリティマーカーは、入射放射線の周波数以外の周波数である放射線を放出する。セキュリティマーカーによって放出される上記放射線は、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲にある顕著なラマン信号を含むラマン分光法によって検出され得る1つ又は複数のラマン信号である。好ましくは、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲にある上記ラマン信号は、バンドをデコンボリューションするのに適した手段を使用して、複数のバンドに分解され得る。上記ラマン信号は、上記セキュリティ物品、上記セキュリティ文書、上記セキュリティ要素又は上記価値のあるオブジェクトに使用される特定のセキュリティマーカーに固有かつ特有であり、したがって、セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの認証に使用するための参照と見なされる。
【0162】
特定の実施形態において、特定の実施形態のいずれかにおける本発明のセキュリティマーカーを含む、セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定する方法は、
(a)上記セキュリティ物品、上記セキュリティ文書、上記セキュリティ要素又は上記価値のあるオブジェクトに、600~1100nmの波長を有する単色レーザー光を照射する工程、及び
(b)上記セキュリティ物品、上記セキュリティ文書、上記セキュリティ要素又は上記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルを測定して、本発明のセキュリティマーカーの存在を判定する工程
を含む。
【0163】
好ましい実施形態において、単色レーザー光の波長は、700~1000nm、好ましくは約785nmである。
【0164】
好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される本発明のセキュリティマーカーの存在の判定は、以下の工程:
・上記セキュリティ物品、上記セキュリティ文書、上記セキュリティ要素若しくは上記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルが、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号を含むか否かを検証する工程;
・上記セキュリティ物品、上記セキュリティ文書、上記セキュリティ要素若しくは上記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルが、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1波長範囲におけるラマン信号を含むか否かを検証し、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号をデコンボリューションし、次いで、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲に存在する上記デコンボリューションされたラマン信号が、半分の強度における幅が90cm-1未満である少なくとも2つのラマンバンドを含むか否かを検証する工程、及び/又は
・完全なラマンスペクトルを、本発明のセキュリティマーカーの参照ラマンスペクトルと比較する工程
のうちの1つ又は複数を含む。
【0165】
より好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される本発明のセキュリティマーカーの存在の判定は、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における顕著なラマン信号の存在又は不存在を確認する工程からなる。この方法では、yes/no応答が返される。
【0166】
本発明の文脈において、「顕著なラマン信号」は、所与の強度を有するラマン信号を意味すると理解される。特定の実施形態において、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における顕著なラマン信号は、1000~2250cm-1のラマンシフト領域におけるラマンモード強度(Raman mode intensity)を有し、これは、100~1000cm-1のラマンシフト領域におけるラマン信号の強度よりも少なくとも0.5倍、好ましくは少なくとも1倍大きい、より好ましくは少なくとも2倍大きい。
【0167】
より好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される本発明のセキュリティマーカーの存在の判定は、以下の工程:
・前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルが、1000~2250cm-1のラマンスペクトルのラマンシフト範囲においてラマン信号を含むか否かを検証する工程;及び
・場合により、1000~2250cm-1のラマンスペクトルのラマンシフト範囲に存在する前記ラマン信号をデコンボリューションし、次いで、1000~2250cm-1のラマンスペクトルのラマンシフト範囲に存在する前記デコンボリューションされたラマン信号が、半分の強度における幅が90cm-1未満である少なくとも2つのラマンバンドを含むか否かを検証する工程
を含む。
【0168】
さらにより好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される本発明のセキュリティマーカーの存在の判定は、以下の工程:
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルが、1000~2250cm-1のラマンスペクトルのラマンシフト範囲においてラマン信号を含むか否かを検証し、場合により、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号が、100~1000cm-1の範囲において得られた最も強いラマン信号の強度値よりも少なくとも0.5倍大きい強度値を有するか否かを検証する工程;及び
場合により、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号をデコンボリューションし、次いで、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるデコンボリューションされたラマン信号が、半分の強度における幅が90cm-1未満である少なくとも2つのピークを含むか否かを検証する工程
を含む。
【0169】
より好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される本発明のセキュリティマーカーの存在の判定は、完全なラマンスペクトルを完全な参照ラマンスペクトルと比較する工程を含み、ここで、参照ラマンスペクトルは、本発明のセキュリティマーカーのラマンスペクトルに対応する。
【0170】
さらにより好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される比較は、完全なラマンスペクトルを完全な参照ラマンスペクトルと比較する工程からなり、ここで、参照ラマンスペクトルは、本発明のセキュリティマーカーのラマンスペクトルに対応し、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号の存在及び特性が特に比較され、好ましくは、1000~2250cm-1波長範囲におけるラマン信号の半値幅及び形状が比較される。1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号の特定の特性を比較するために、ラマン信号の分解、例えば、ラマン信号のデコンボリューションを実施することが可能である。
【0171】
さらにより好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される比較は、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号の存在及び特性を比較する工程を含む。好ましくは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号の幅及び形状が比較される。
【0172】
より特定の実施形態において、参照ラマンスペクトルは、本発明のセキュリティマーカーのラマンスペクトルであり、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号を含む。
【0173】
好ましくは、本発明のセキュリティマーカーの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号は、本発明のセキュリティマーカーのラマンスペクトルの100~1000cm-1の範囲で得られる最も強いラマン信号の強度値よりも少なくとも0.5倍大きく、より好ましくは少なくとも1倍大きく、さらにより好ましくは少なくとも2倍大きい強度値を有する。特定の実施形態において、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における前記ラマン信号は、100~1000cm-1の範囲で得られる最も強いラマン信号よりも強い強度を有するラマンバンド又はピークを含む。
【0174】
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性が確認される前に、以下の条件:
・1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における顕著なラマン信号の有無、並びに、場合により、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号が、100~1000cm-1の範囲において得られた最も強いラマン信号の強度値よりも少なくとも0.5倍大きい強度値を有するか否か、及び場合により、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号のデコンボリューションが、半分の強度における幅が90cm-1未満である少なくとも2つのラマンピークを含むか否か、或いは、
・工程(b)において得られたラマンスペクトルがセキュリティマーカーの参照ラマンスペクトルと一致するか否か、又は事前に設定された制限内にあるか否か
の1つ又は複数を検証する。
【0175】
別の特定の実施形態によれば、単色レーザー光が、セキュリティ要素、セキュリティ文書、セキュリティ物品又は価値のあるオブジェクトに当たった後に得られるラマンスペクトルはコード(code)を表す。好ましくは、コードは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号を含み、より好ましくは、それは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号を、別の一連の定義されたラマン信号、好ましくはセキュリティマーカーの第2の結晶相に特徴的なラマン信号とともに含む。
【0176】
好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(b)において実施される本発明のセキュリティマーカーの存在の判定は、以下の工程:
・セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルが、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号を含むか否かを検証し、場合により、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号が、100~1000cm-1の範囲で得られた最も強いラマン信号の強度値よりも少なくとも0.5倍大きい強度値を有するか否かを検証する工程;
・ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号をデコンボリューションし、デコンボリューションされたラマンピークのセットを生成する工程;
・1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるデコンボリューションされたラマンピークのセットに対して英数字値(alphanumerical value)を割り当てる工程;及び
・上記英数字値を、本発明のセキュリティマーカーの確立された1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるデコンボリューションされたラマンピークのセットに割り当てられた英数字値と比較する工程
を含む。
【0177】
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定するシステム
セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトのラマンスペクトルを得るために、単色光、例えば、600~1100nmの波長、好ましくは785nmで発光するレーザーを含む検出システムを使用することができる。ラマン信号の強度が任意の材料の蛍光発光強度よりも数桁小さく、入射光レーザーの強度よりもはるかに弱いことを考慮すると、放出光を検出するために検出システムが必要であり、レーザー光を遮蔽することができるフィルタを使用する必要がある。さらに、検出システムは、異なる周波数又は波長においてラマン信号の強度を取得するための単色光分光器と、適切な光学システムとを含む。
【0178】
本発明の一態様は、上記で定義された本発明のセキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの真正性を判定するシステムであって、
・前記セキュリティ文書、前記セキュリティ物品、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトが配置されるポジショナー、
・単色レーザー光の放射源からの光を、前記セキュリティ物品、前記セキュリティ文書、前記セキュリティ要素又は前記価値のあるオブジェクトの一部に焦点合わせして照射することを可能にするレンズアレイ、
・ラマンスペクトルマルチチャネル検出器、
・前記マルチチャネル検出器に到達するレーザー光であって、放射レーザー源から直接生じる前記レーザー光を遮蔽するフィルタ、及び
・場合により、ラマンスペクトルの処理に適合した手段、好ましくは、前記スペクトルのラマン信号のデコンボリューションに適合した手段
を含む、前記システムに関する。
【0179】
特定の実施形態において、ラマンスペクトルを検出するための検出システムはコンパクトであり、すべての要素が適切に整列されていることを保証する。そのために、顕微鏡を使用することができる。これにより、励起レーザー光が顕微鏡のレンズを通過し、同じ対物レンズを使用して散乱信号が取得される。低倍率(5倍又は10倍)の顕微鏡対物レンズを使用して、直径約1mmの領域のラマンスペクトルを測定することができる。ラマンスペクトルを得るこの方法は、本発明のセキュリティマーカーがセキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトの特定の領域に配置されている場合に適している。セキュリティマーカーが特定の領域に配置されていない場合、セキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクト上を移動するためのシステムを含めることができ、その結果、ラマン信号マッピングによって同様に特定され得る。
【0180】
好ましい実施形態において、ラマンスペクトルを検出するために使用される検出システムは、マルチチャネル検出器を含む。このタイプの検出器を使用すると、ラマンスペクトルを1回で得ることができ、時間をかけて周波数又は波長のスキャンを実施する必要がなくなり、ラマンスペクトルの確認が容易になり、必要なラマンピークを非常に短時間で特定することができる。したがって、このタイプの検出器を使用すると、セキュリティ物品、セキュリティ文書又はセキュリティ要素を高速で認証することができる。
【0181】
好ましい実施形態において、システムは、単色レーザー光、好ましくは600~1100nmの波長範囲での単色レーザー光、より好ましくは785nmでの単色レーザー光の放射源を含む。
【0182】
好ましい実施形態において、マルチチャネル検出器は、一般にCCDとして知られている検出器である。
【0183】
特定の実施形態において、本発明のシステムは、ラマンスペクトルを処理するため、好ましくは、スペクトルの信号をデコンボリューションするために適合された手段を含む。
【0184】
別の特定の実施形態において、このシステムは、
・1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における顕著なラマン信号の有無、並びに、場合により、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号が、100~1000cm-1の範囲において得られた最も強いラマン信号の強度値よりも少なくとも0.5倍大きい強度値を有するか否か、及び場合により、ラマンスペクトルの1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号のデコンボリューションが、半分の強度における幅が90cm-1未満である少なくとも2つのピークを有するか否か、或いは、
・工程(b)において得られたラマンスペクトルがセキュリティマーカーの参照ラマンスペクトルと一致するか否か、又は事前に設定された制限内にあるか否か
を検証することを可能にするデバイスをさらに含み、したがって、分析されたセキュリティ物品、セキュリティ文書、セキュリティ要素又は価値のあるオブジェクトが、本発明のセキュリティマーカーを含むか否かを検証する。
【0185】
本発明に記載のセキュリティマーカーがバイナリ画像又はバーコードに使用される場合、検出システムは、光学焦点システム(optical focus system)、適切な画像化システム、及び各インクに対応するラマンピークの波長のみの通過を可能にする2種のフィルタを含む。この場合、上記の画像はセキュリティドキュメントの明確に定義された領域にあるため、測定はこの領域でのみ行われる。
【実施例
【0186】
本発明は、以下の実施例によって以下に説明されるが、これらは単に例示と見なされる必要があり、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【0187】
実施例1:灰長石相である長石の結晶化を含むラマンマーカーの合成
一連のサンプルS1~S8は、灰長石相である長石[CaAlSi]の結晶を含む様々な熱処理によって合成された。
【0188】
サンプルを合成するために、カオリン(AlSi(OH))の初期混合物(M1と呼ばれる)を、以下のようにCaCOを使用して作製した。カオリン又はカオリナイト又はカオリナイト粘土を出発材料として使用し、上記材料は、平均粒子の粒径値d50=13.2μmを有し、かつ、55.5%のSiOと42.5%のAlと1.2%のKOと全体の重量が1重量%未満のTiO、Fe、P、MgO、PbOである残りの微量成分との強熱減量(loss on ignition)を差し引いた後の酸化物当量の重量%で表される化学組成を有する粉砕された鉱物である。初期試薬は前処理に供されていなかった。
【0189】
混合物M1を、以下の成分:
・9.28gのカオリン;
・3.60gのCaCO;及び
・無水エタノールの1/3の体積量
の懸濁液から調製し、これを、無水エタノール媒体(純度99.9%)にイットリアで安定化されたジルコニアを含む組成物とともに直径2mmのボールを使用して3時間の摩擦粉砕(attrition milling)によって処理した。粉砕後、500μmのメッシュサイズの開口部を有するメッシュによってミリングボールを除去し、得られた懸濁液を高剪断速度(IKA Ultraturrax T50)、10000rpmで10分間分散させた。得られた懸濁液を60℃で2時間オーブン乾燥させ、10gの粉末状物質を得て、これを100μmのメッシュサイズの開口部を有するメッシュを使用してふるいにかけ、混合物M1を得た。
【0190】
サンプルS1~S8を得るために、混合物M1に対して以下の熱処理を実施した。
【0191】
熱処理1
上記の混合物(M1)に対して5℃/分の加熱及び冷却速度を使用して、1180℃で2時間熱処理を行った。発火している(ignited)混合物M1をエタノールとイットリアで安定化されたジルコニアのボールミルとを使用して3時間、摩擦により粉砕し、次いで、60℃で4時間オーブン乾燥させ、100μmのメッシュサイズの開口部を有するメッシュを使用してふるいにかけ、合成灰長石と呼ばれるCaAlSiOの合成物を得た。この合成物を、40MPaの圧力によってNanetti型一軸プレス装置でプレスし、異なる時間及び温度:
・1220℃で6分間(S1と呼ばれるサンプルを生成)、
・1220℃で6分間、次いで、1000℃で50時間(S2)、及び
・1000℃で50時間(S3)
で焼結し、直径2cm及び厚み2mmのディスクを形成させた。
【0192】
熱処理2
反応焼結を、上記の粉砕された混合物(M1)に対して、1220℃で6時間(S4)及び1150℃で50時間(S5)実施した。
【0193】
熱処理3
SPS(スパークプラズマ焼結)法を使用して、DR.SINTER SPS-1050-C炉によって上記の混合物(M1)を焼結した。この方法は、電気パルスによって熱処理を行うことからなり、20℃/分以上の速度でサンプルを急速に加熱することができる。焼結は、100MPaの圧力を使用して、900℃で10分間(S6)、1000℃で10分間(S7)及び1000℃で2時間(S8)実施された。
【0194】
サンプルS1~S8のラマンスペクトルを図1に示す。すべてのサンプルS1~S8には、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲に顕著なラマン信号がある(図1a、b及びc)。図1に示す結果から、サンプルS1~S5について1000~2250cm-1のラマンシフト範囲で得られたラマンバンドの強度値は、0~1000cm-1で得られた信号の強度値よりも大きいことがわかる。より具体的には、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲で得られた信号の強度値と250~500cm-1の範囲の信号の強度との割合/比率(ratio/proportion)は、サンプルS1~S5及びS6~S8について、それぞれ8.7~13.4及び0.8~2.2の範囲にある。
【0195】
サンプルS1~S3の走査型電子顕微鏡(FESEM Hitachi S-4700)画像を図2に示す。図2は、サンプルS1~S3のミクロ組織が、100~200nmの粒子によって形成された結晶領域で構成されていることを示しており、この結晶領域は、ナノメートルサイズの構造要素(図2a、d及びf)で構成されており、ガラス状の領域に集合している。サンプルS1~S3はさらに、結晶相とガラス相との間に境界領域を有する。さらに、ガラス相/結晶相の比率は、サンプルS1~S3のそれぞれで異なるため、異なる境界領域の体積を生じる。この特徴的なミクロ組織は、上記サンプルの1000~2250cm-1のラマン信号に関連している。
【0196】
図3のサンプルS6~S8のX線回折(CuKα線を備えるBruker D8 Advance、40kV及び40mA)によって得られたディフラクトグラムは、サンプルS6に灰長石(A)、石英(S)及びCaCO(C)の結晶相並びにS7及びS8にゲーレナイト(gehlenite)(G)及び灰長石の存在を示した。
【0197】
したがって、本実施例は、それらのラマンスペクトル中に1000~2250cm-1の強い信号を有するマーカーを得ることを示す。これらのマーカーS1~S8は、同じ化学組成で、ミクロ/ナノ組織における結晶相、ガラス相及び境界領域の比率が異なるため、ラマンスペクトル中に1000~2250cm-1の顕著な信号を示すが、信号の強度と、1000~2250cm-1におけるそれを形成するラマンバンドの相対位置とが異なる。
【0198】
実施例2:曹長石相の長石の結晶化を含むラマンマーカーの合成
一連のサンプルS9~S16を、曹長石相の長石の結晶(公称組成NaAlSi)を含む様々な熱処理によって合成した。
【0199】
フリット及びカオリン(実施例1に記載)によって形成された混合物M2から、サンプルS9~S11を作製した。サンプルの作製に使用されるフリットは、表1に記載の組成を有し、セラミックフリットを得るのに一般的に使用される方法に対応する、アルミナるつぼにおける炉内において1500℃超で鉱物の混合物を溶融することによって作製された。溶融塊を水中で急激に冷却した。その結果、断片化したガラス状の材料になる。
【0200】
【表1】
【0201】
混合物M2の調製において、180グラムのフリットを、磁器製ジャー高速ミル(porcelain jar rapid mill)において粉砕することにより、20グラムのカオリンと混合した。この粉砕は、直径1~2cmのアルミナボールを使用して、液体媒体(固体の比率に対して0.4重量%の水及びカルボン酸からなる100g)中で、20分間実施された。粉砕後、ミリングボールを除去し、得られた懸濁液を63μmのメッシュを通じてふるいにかけ、乾燥残留物の3重量%未満である廃棄物を得た。得られた懸濁液を80℃で6時間オーブン乾燥した。乾燥粉末を、100μmのメッシュサイズの開口部を有するメッシュを使用してふるいにかけ、混合物M2を得た。
【0202】
混合物M2を水に分散させ、エアレスガンにより標準の磁器支持体に沈着させ、厚み600μmの層を生成させ、乾燥させた。次いで、標準的なセラミックタイルの急速焼成窯(ceramic tile rapid fire kiln)中で、合計55分間かつ1220℃の最高温度に達してから6分間である総焼成サイクルで(with a total firing cycle duration of 55 minutes and reaching a maximum temperature of 1220℃ for 6 minutes)焼成した。このサンプルはサンプルS9と呼ばれる。
【0203】
混合物M2を、一軸プレス装置において、直径2cm、厚み2mmのディスクの形態に40MPaでプレスし、サンプルS9について記載されたのと同じサイクルで焼結し、セラミックサンプルに対応するサンプルS10を得た。サンプルS10をタングステンカーバイドミルで粉砕して、d50が10μm未満である値を有する粒径に到達させ、サンプルSl1を得た。
【0204】
サンプルS12~S13は、フリット、カオリン(実施例1に記載)及び酸化ユーロピウム(Eu)からなる混合物M3から作製された。混合物M3は、混合物M2に記載の方法に従って調製された。この場合、混合物の計量中に、粒子の粒径d50=3μm、純度99.5%であるEuの固形分に関して1重量%余分に添加し、混合物M3を得た。サンプルS10の対応する方法と同様の方法に従って、混合物M3からサンプルS12を作製した。サンプルS12をタングステンカーバイドミルで粉砕して、d50が10μm未満である値を有する粒子の粒径に到達させ、サンプルS13を作製した。
【0205】
サンプルS9~S13は、60重量%の曹長石組織の結晶相かつ20~150nmの粒径の結晶を示すことを特徴としている。サンプル中に、体積で3~20%のガラス相の存在が測定された。図4は、曹長石の結晶がガラス状マトリックスに埋め込まれ、分散しているサンプルS10の透過型電子顕微鏡画像を示している。ガラス相は結晶性粒子の表面と接触しており、境界領域を生成する。この境界領域において、結晶構造及びガラス相は、両方の物質の熱膨張係数の相違のために熱処理中に生成される構造応力を維持する。この構造応力は、境界領域における結晶格子の変形を引き起こし、振動モードの極性化に影響を与える。
【0206】
0~300℃の範囲におけるサンプルS10の熱膨張係数CTEは、膨張率測定(Netzsch水平膨張計)によって決定され、その値は5.9×10-6-1であった。この値は、存在する両方の物質の混合物に対応する値よりも小さい。通常、60%の曹長石を含む斜長石に対するCTE値は、14×10-6-1であり、ナトリウム-アルミニウムガラスに対するCTE値は8.6×10-6-1である。曹長石が大部分を占める斜長石のナノ結晶とガラス相とを組み合わせたサンプルのCTEが低いのは、両方の相の間にある境界領域の存在に起因し、これにより、熱処理の冷却工程中に発生する構造応力が緩和する。
【0207】
NaCO、Al及びSiOの混合物M4から、サンプルS14~S16を作製した。以下の成分:
・2.02gのNaCO
・1.94gのAl(99% Sigma Aldrich);
・6.87gのSiO;及び
・無水エタノール(99.9%)の1/3の体積量
を含む初期組成物を使用して、混合物M1の方法と同様の方法に従って、この混合物を調製した。
【0208】
混合物M4から作製されたプレスディスクに対して、1000℃、1100℃及び1200℃において様々な熱処理を実施して、それぞれ、サンプルS14、S15及びS16を得た。サンプルS14~S16の熱処理では、温度を2時間維持し、加熱及び冷却速度は5℃/分であった。
【0209】
サンプルS9~S16に対して測定されたラマンスペクトルの結果を図5a及び5bに示す。すべてのサンプルS9~S16は、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において高強度のラマン信号を有する。サンプルS9~S13の組成は同じであるが、熱処理及び粉砕工程における両方のバリエーションにより、ラマンスペクトルの形状に変化を引き起こす(図5b)。焼結されていない粉末(S11及びS13)に対応するラマンスペクトルは、よりブロードで曖昧なバンドを有する。1000~2250cm-1の波長範囲におけるサンプルS9~S13のラマンスペクトルは、灰長石相を含むサンプルのラマンスペクトルとは異なっている。1000~2250cm-1のラマンシフト範囲で得られた信号の強度値と250~500cm-1の範囲における信号の強度値との割合/比率は、S10及びS12について2.1~3.6であり、焼結サンプルS11及びS13について4.2~7.6である。
【0210】
本実施例は、Euを含むラマンマーカーが、ラマン構造及び振動モード領域において三二酸化物Euの構造に対応するラマンバンドを有していることを示している(図5a)。さらに、Eu3+カチオンの存在は、追加の特徴的なフォトルミネッセンス信号を生成する。したがって、希土類の組み込みは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるシフト信号へのラマン分光法による追加の信号、又はラマンマーカーの性質を決定する追加の発光信号を提供する。
【0211】
したがって、本実施例は、1000~2250cm-1の強いラマン信号を有し、ガラス相に埋め込まれた曹長石の結晶化を含むマーカーが得られることを示している。この実施例は、様々な熱処理及び組成が、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲で得られるラマンバンドにおける変動をどのように引き起こすかをさらに示している。
【0212】
実施例3:ナトリウム長石及び/又はカリウム長石型の原材料からのラマンマーカーの合成
【0213】
鉱物由来のカリウム長石及びナトリウム長石から一連のサンプルS17~S36を作製した。表2は、出発物質に存在する主要元素のそれぞれの酸化物当量の重量%を単位として組成をまとめたものである。残りの元素は、含有量が1重量%未満の少量の元素である。
【0214】
【表2】
【0215】
出発長石(それぞれナトリウム長石及びカリウム長石)を以下のように粉砕することによって、サンプルS17及びS18を得た。長石を、直径1~2cmのアルミナボール磁器製ジャー高速ミルにおいて、65重量%の固形分濃度を有する水性媒体中で20分間粉砕した。得られたセラミックスリップ(ceramic slip)を60℃で24時間オーブン乾燥させ、より小さな粒径の粒子凝集体によって形成された直径のd50が15μm未満である粒子によって形成されたサンプルS17及びS18を得た。サンプルS17及びS18のラマンスペクトル(図6)は、蛍光バックグラウンドシグナルを有し、1000~2250cm-1のラマンシフト領域にラマンバンドを有しない。これは、デコンボリューションされると、90cm-1未満の半値幅を示す。それらのミクロ組織に関して、サンプルS17及びS18がガラス相のない長石結晶相を有することが電子顕微鏡によって観察された(図示せず)。したがって、サンプルS17及びS18は、アルミニウムカチオンが長石構造の位置T(0)に位置する傾向がある長石結晶相鉱物を代表するであろう。これらのサンプルは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲においてラマン信号を示さない。
【0216】
粉末状の粉砕サンプルS17及びS18を1100℃で2時間熱処理し(加熱速度10℃/分及び炉に従った冷却速度で5時間)、それぞれサンプルS19及びS20を得た。サンプルS19及びS20について図6に示すラマンスペクトルは、1000~2250cm-1のシフト範囲にラマンピークを有するラマン信号を示す。蛍光の寄与を差し引いた後、250~500cm-1のラマンシフト範囲における構造及び振動モードに対応するラマンモードの強度に対する、1000~2250cm-1のラマン領域及びシフトにおけるモードの強度比は、サンプルS19及びS20についてそれぞれ1.3及び2.5、すなわち、上記の実施例からの灰長石を含むサンプルよりも低い強度比であった。
【0217】
さらに、最初のナトリウム長石及びカリウム長石を、遊星ミル(Fritsch Pulverisette 6)において、20mmのWCボール及びモルタル(mortar)を使用して300rpmで1、1.5、2及び4時間粉砕し、ナトリウム長石について一連のサンプルS21、S22、S23、及びS24、それぞれを得、それらのラマンスペクトルを図7aに示した。ナトリウム長石サンプルについてS25、S26、S27及びS28を、それぞれ、1、1.5、2及び4時間粉砕し、それらのラマンスペクトルを図7bに示す。サンプルS21~S28は、粒子の粒径の減少を特徴とし、d50が10μm未満である粒子を有し、1μm未満の粒径を有する粒子を10%の比率で有する。同様に、サンプルS21~S28は、出発長石の結晶相に対応するX線回折ディフラクトグラム及びガラス相の不存在を示すことを特徴とする。図7のラマンスペクトルには、蛍光バックグラウンドシグナルがあり、1000~2250cm-1のラマンシフト領域に定義されたラマンバンドが存在しない。すぐ前の実施例で見られるように、ラマン信号がデコンボリューションされると、それらは90cm-1未満の半値幅を示さないことに注意する必要がある。したがって、結晶性の長石材料から出発することによって、この試験は、1000~2250cm-1のラマンシフト領域で顕著なラマン信号を生成するように機械的処理によりそのミクロ組織を変更することは不可能であることを示した。
【0218】
サンプルS22を、1000℃及び1100℃の最大処理温度で10時間、10℃/分の加熱及び冷却速度で熱処理に供し、サンプルS29及びS31を得た。サンプルS24と同様に、それを900℃及び1000℃で10時間処理して、サンプルS30及びS32を得た。サンプルS27を1000℃及び1100℃で10時間処理して、サンプルS33及びS35を得た。サンプルS29を900℃及び1000℃で10時間処理して、サンプルS34及びS36を得た。サンプルS29及びS30のラマンスペクトルを図8aに、サンプルS31及びS32のラマンスペクトルを図8bに、サンプルS33及びS34のラマンスペクトルを図8cに、サンプルS35及びS36のラマンスペクトルを図8dに示す。
【0219】
図8に示すように、サンプルS29~S36のラマンスペクトルは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において強いラマン信号を有する。さらに、1000~2250cm-1に位置するラマンバンドと0~1000cm-1に位置するラマンバンドとの間の強度比は、サンプルS29、S31、S33及びS35のラマンスペクトルについて、4.5~7.2の範囲であり、サンプルS30、S32、S34及びS36のラマンスペクトルについて9.9~11.3の範囲である。したがって、焼結温度が低下するにつれて強度比が増加することを見出すことができる。図8では、組成と、サンプルの作製に続く熱処理とに影響を受けやすい熱処理を受けたサンプルの場合、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において、強度とラマンバンドの形状とに変化があることを見出すことができる。
【0220】
それらのミクロ組織に関して、サンプルS29~S36は、ガラス相に埋め込まれた50~200nmで構成される粒子の粒径を有する長石結晶相を含む。したがって、本実施例は、高エネルギーの機械的粉砕処理及び熱処理の後に得られた、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲においてラマン信号を有するナトリウム長石及びカリウム長石からセキュリティマーカーを得ることを示している。
【0221】
サンプルS19~S20及びS29~S36は、ガラス相に埋め込まれた長石結晶相を含み、上記ガラス相は、実施される熱処理に応じて、20重量%~80重量%の重量パーセントである。さらに、上記サンプル中の長石結晶相は、サブマイクロメートル範囲、1000nm未満であり、サイズは10nm~500nmである。ガラス状マトリックスに対する長石構造を有するナノメートル相の比率、ガラス状マトリックス中のそれらの分散状態、及び長石相ナノ組織のサイズは、出発材料の機械的プロセス、化学組成、及びサンプルが供される熱処理に依存する。例として、図9は、サンプルS32及びS36のミクロ-ナノ組織を示し、これらは、1000℃で10時間処理され、WCミルでそれぞれ1.5時間及び4時間粉砕されたカリウム長石鉱物に基づいている。サンプルS32のミクロ-ナノ組織(図9a)は、ガラス状マトリックスに凝集して埋め込まれた20~500nmの粒径の粒子を含む。サンプルS36のミクロ-ナノ組織(図9b)は、ガラス状マトリックスに分散した10~400nmの粒径の粒子を含む。これらの2つのサンプルは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を有する。
【0222】
これらの結果は、ミクロ組織の特性、例えば、結晶化度及びガラス相マトリックス中の結晶相の分布が、ラマン信号の特性を変更することを示す。したがって、サンプルの化学組成及びそれらの熱処理の調節は、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲においてマーカーのラマン信号を変更することを可能にする。
【0223】
【表3】
【0224】
実施例4:アルミナ及びケイ素-ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラスからのマーカーの合成
ケイ素-ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス、ケイ素-ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス及びナノアルミナ(S39~S50)、並びにケイ素-ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス及びγ-アルミナ(S51~S62)から、一連のサンプルを様々な比率において作製した。サンプルの組成は、以下の例に従って出発混合物中の各化合物の重量%を指す。例えば、90/10ガラス/ナノアルミナは、90グラムの粉砕されたガラスと10グラムのナノアルミナとの割合を示す。顕微鏡スライド型の平面試料の形態のサンプルS37に対応するケイ素-ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラスは、蛍光X線(XRF)によって得られる組成であって、69.7 SiO;12.4 NaO;7.22 CaO;5.45 Al;4.06 MgO;0.5 KO;0.31 ZrO;0.13 B;0.12 Fe及び存在が0.1%未満であるその他の少量の酸化物を含む酸化物当量の%で表される組成を示す。サンプルS37を高エネルギーWCボールミルで1時間粉砕して、粒子の粒径d50が20μm未満である粉末形態のサンプルS38を得た。純度が99.9%であり、粒径d50が80nmであるα-Al相のナノメートル粉末をナノアルミナとして使用した。純度が99.9%であり一次粒子の粒径が20nmであるγ-A1相として使用し、直径10~20μmの球状凝集体を形成した。両方のアルミナは結晶相であり、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を示さないことを特徴とする。
【0225】
サンプルS37を900℃で熱処理すると、上記サンプルは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を示す。
【0226】
PA66タイプのナイロンジャーと直径1mmのセリウムにより安定化されたジルコニアボールとを使用して、ミキサー/ミル8000で乾式粉砕することによって、混合物を得た。粉砕プロセスを30分間維持して、混合物M5を得た。100μmメッシュを使用して混合物をふるいにかけてボールを除去し、得られた粉末を3℃/分の加熱及び冷却速度で熱処理に供した。表4は、組成と、各サンプルが受けた機械的及び/又は熱処理と、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における顕著なラマン信号の存在をまとめたものである。
【表4】
【0227】
サンプルS39~S62のスペクトルは顕著な1100~2250cm-1のラマン信号を示す。
【0228】
図10aは、サンプルS37~S38のラマンスペクトルを示す。顕著なラマン信号が1100~2250cm-1のスペクトルに示されているが、この信号のデコンボリューション後、この信号は、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における、半値幅が90cm-1超であるラマンモードを示す。したがって、上記ラマン信号のこの特性は、サンプル(ガラス相)に秩序が不存在であることに対応していると考えられる。
【0229】
例として、S44~S46のラマンスペクトルを図10bに示し、サンプルS59~S62のラマンスペクトルを図10cに示す。上記例のラマンスペクトルは、1100~2250cm-1の顕著なラマン信号のデコンボリューションが、90cm-1超の半値幅を有するラマンモードと、90cm-1未満の半値幅を有するラマンモードとの組み合わせを示すことを特徴とする。この組み合わせは、ガラス相に対応する秩序が存在しない領域と、結晶性粒子に対応する秩序が存在する領域との存在の結果である。
【0230】
すべてのサンプル(S39~S62)をX線回折(DRX)によって分析したが、図11は、例として、サンプルS60~S61のX線ディフラクトグラムのみを示し、ディフラクトグラムのガラス質のハローを特徴とするガラス相と共存している3つの結晶相の存在を示している。結晶相は、初期混合物の未反応粒子によるアルミナAlと、霞石及び曹長石(長石)として特定されている2種のケイ酸アルミニウムとである。したがって、これらのサンプルは、曹長石(長石型)などの結晶構造を有する相とガラス状マトリックスに埋め込まれた霞石構造(準長石型)を有する相との共存を含む。
【0231】
結果が示すように、サンプルS39~S62は、熱処理中にガラス状マトリックス中に形成された長石結晶相及び準長石型の結晶相が、初期材料に対応する結晶相残留物とともに共存していることを示している。長石及び準長石の結晶相はガラス状マトリックスに分散しており、粒子の粒径は40~400nmである。例として、図12は、結晶相が存在しないガラス相領域と共存しているガラス状マトリックスに分散している40~400nmの粒径の結晶粒子によって形成されたミクロ組織を有するサンプルS61の走査型電子顕微鏡画像を示している。
【0232】
結果は、ガラスの1000~2250cm-1の波長範囲におけるラマン信号のバンド(サンプルS37及びS38、図10a)が、ガラスをナノメートルのアルミナと混合して熱処理を実施すると変化することを示す(図10b)。特に、図10bは、1313cm-1に現れる明確な狭いバンドと、1345~1395cm-1の範囲に現れる別の明確なバンドを示す。さらに、Alの比率、アルミナの反応性、及び熱処理の温度/時間は、ラマン応答に影響を与えることが見出された。一般に、中間のガラス/アルミナ組成(25/75、50/50及び75/25)の場合、及び900~1000℃の焼結温度では、より狭く、より明確なバンドが現れる。
【0233】
したがって、本実施例の結果は、ケイ素-ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラスと、酸化アルミニウム又はアルミナの異なる供給源とから、熱処理後に得られる1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における顕著なラマン信号を示すマーカーを得ることを示している。さらに、この結果は、組成及び/又は熱処理を変更することによってラマン信号を変更することが可能であることを示している。さらに、ミクロ組織(ガラス相及びナノ結晶粒子)の変更により、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲で得られるラマン信号、特にラマン強度及びシフトを調節できることが見出された。これは、サンプルで得られたラマンスペクトルがデコンボリューションされている場合に特に関係がある。
【0234】
実施例5:希土類酸化物と組み合わせたラマンマーカーの合成
ケイ素-ナトリウム-カルシウム-アルミニウムガラス(S38)と酸化セリウム(サンプルS63:CeO、純度99.9%、粒子の粒径d50=2.2μm)と酸化ユーロピウム(サンプルS64:実施例2で使用された酸化ユーロピウム(Eu))とから、異なる比率で一連のサンプル(S65~S66)を作製した。70重量%の75/25ガラス/ナノアルミナ混合物と30重量%のS63との組成物も調製し、熱処理後、サンプルS77及びS78を生成した。すべての混合物を、実施例4に記載の混合物M5と同様に調製した。表5は、組成と熱処理をまとめたものである。
【0235】
【表5】
【0236】
結果は、サンプルS65~S78のラマンスペクトルが1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を示すことを示している。図13は、サンプルS65、S71及びS77~S78のラマンスペクトルと、希土類酸化物S63及びS64のスペクトルを示している。希土類のラマンスペクトルは、結晶構造のラマンモードに対応する100~1000cm-1のラマンシフトを有するラマンバンドを示す(図13)。さらに、サンプルS63は、サンプルS64とは異なり、1000~2250cm-1の発光信号に関連するラマンモードを示す。
【0237】
希土類酸化物とガラスS38とを含み、熱処理されたサンプル(サンプルS65~S78)のミクロ組織は、ガラス状マトリックスに埋め込まれている実施例3のサンプルと同様に、寸法が500nm未満の結晶性粒子を含むことを特徴とすることに留意されたい。それぞれ5質量%の酸化セリウム及び酸化ユーロピウムを含むサンプルS65及びS71のラマンスペクトル(図13a及び13b)は、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を示す。このスペクトルにおいて、各希土類酸化物に特徴的なラマン信号は観察されない。しかしながら、1000~2250cm-1におけるガラスと同様のラマン信号と、霞石型の準長石結晶相の結晶の存在及び曹長石の長石結晶の存在に関連している1313cm-1のラマンバンドが、観察される。
【0238】
希土類酸化物の割合が高いサンプルでは、熱処理が長石型及び準長石型の相形成においてすべての希土類を消費するのに十分ではなく、その結果、得られたラマンスペクトルは、結晶相の存在に対応するラマンバンドに加えて、希土類酸化物のラマンバンドを示すことが見出された。例として、表5に記載されているサンプルS77及びS78のラマンスペクトルは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を示す(図13c)。サンプルS77及びS78のラマン信号と、対応する希土類酸化物に対応するサンプルS63のラマン信号とを比較すると(図13c)、希土類酸化物に特徴的なバンドが、サンプルS77及びS78の1000~2250cm-1のラマンシフト範囲では現れないが、S63の特徴的な強度比を保持していない変更されたバンドが現れることが観察され得ることに注意されたい。さらに、サンプルS77~S78は、本発明のマーカーに特徴的なラマンバンドを示し、これは希土類酸化物に対応するラマンバンドと区別可能であることを指摘しておかなければならない。
【0239】
したがって、本実施例は、ガラス状マトリックス、長石又は準長石の結晶相、及び希土類酸化物によって形成された第2の結晶相を含む、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を有する固有のラマンマーカーを得ることを示している。第2の結晶相の追加は、そのマーカーのラマン信号を変更することを可能にし、さらに、特徴的なラマン信号を示す材料の添加は、例えば、希土類酸化物の発光信号の決定によって、第2の検証を実行することを可能にすることが実証された。
【0240】
実施例6:本発明のラマンマーカーのラマンスペクトルのデコンボリューション
実施例1~5に記載された異なるサンプルのラマンスペクトルが得られると、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において上記実施例で得られたサンプルについて得られたラマン信号を、スペクトルを統合するラマンバンドのデコンボリューションによるラマン信号の計量化学的分析によって分析した。
【0241】
デコンボリューションは2つの工程で実施された。最初に、主に蛍光の寄与に関連するラマンスペクトルのノイズを減少させた。これは、スペクトル全体のベースラインを差し引くことによって実施された。ノイズを差し引いた後、1000~2250cm-1のラマンシフト領域におけるラマン信号の強度を各サンプルについて評価した。特に、1000~2250cm-1のラマンシフト領域におけるラマンモードの強度比が、100~1000cm-1のラマンシフト領域におけるラマン信号の強度の1.5倍以上である場合、上記ラマン信号は顕著なラマン信号と見なされた。
【0242】
次いで、ラマン信号のノイズが除去されると、ラマンモードをデコンボリューションした。デコンボリューションプロセスでは、存在する様々なラマンバンドの最大値が特定され、ガウス型関数、ローレンツ型関数又は疑似フォークト型関数(ガウス関数及びローレンツ関数の線形結合)を使用してフィッティングされる。デコンボリューションプロセスが実施されると、結果として得られるラマンバンドは、より大きな強度を有するラマンバンドに関して正規化される。次いで、それらの位置、強度、半分の強度での幅(半値幅とも呼ばれる)及びより大きな強度(相対強度)を有するラマンバンドに対する残りのラマンバンドの相対強度を算出した。本実施例6において、ラマンスペクトルのデコンボリューションは、データ表現プログラムOriginの数学的ツールを使用して反復プロセスを通じて算出された。
【0243】
図14は、様々なサンプルについて1000~2250cm-1のラマンシフト領域におけるデコンボリューションされたラマン信号を示す。サンプルS38(粉砕されたガラス材料)についてのデコンボリューションの結果は、半値幅が90cm-1より大きい値を有することを特徴とする3つのラマンバンドによって形成された包絡線信号(envelope signal)を示す(図14a及び表6)。
【0244】
【表6】
【0245】
ガラス相に埋め込まれた曹長石の結晶相を含むサンプルSllのラマン信号のデコンボリューション(図14b)は5つのバンドを示し、そのうちの4つ(表7)は90cm-1未満の半値幅を示し、さらにそのうちの2つは20cm-1未満であった。サンプルSllのガラス相に埋め込まれた結晶相の存在は、ガラス材料に対応するバンドに対してデコンボリューションされたバンドを狭くする(図14a)。
【0246】
【表7】
【0247】
同様に、サンプルS1(図14c及び表8)、S4(図14d及び表9)、S35(図14e及び表10)並びにS36(図14f及び表11)のラマンスペクトルをデコンボリューションした。デコンボリューションされたラマンスペクトルは、サンプルS1、S4、S35及びS36について、半値幅が90cm-1未満の少なくとも2つのラマンピークを示すことが観察された。
【0248】
さらに、上記サンプルのデコンボリューションされたラマンスペクトルは、以下の特徴:3つ又は4つ以上のデコンボリューションされたラマンピーク;ラマンシフト値に関して互いに最も近い2つのピークのラマンシフト値の差が0.5cm-1以上である2つ又は3つ以上のデコンボリューションされたピーク;又はピーク相対強度値における2つ又は3つ以上の相違のうちの少なくとも1つを示す。
【0249】
本試験は、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるラマン信号が、上記ラマン信号をデコンボリューションすることによって、異なるサンプルに対して区別され得ることを実証することを可能にする。したがって、各セキュリティマーカーは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲における一意のデコンボリューションされたラマンピーク/バンドパターンを有する。このバンドパターンは、組成、熱処理及びその後の処理を変更して本発明のセキュリティマーカーを得ることによって調節され得る。
【0250】
1000~2250cm-1のラマンシフト範囲におけるデコンボリューションされたラマンピークのセットの分析に基づいて、計算手段において上記マーカーをデジタル化する目的で、各マーカーに対して一意のキーを確立することができるアドホックアルゴリズムによって英数字値を規定することができる。それにより、材料の構造の振動モードに対応しないスペクトルに対応するセキュリティマーカーのデジタル化が可能になるため、当技術分野のその他のマーカーに対して利点が得られる。
【0251】
【表8】
【0252】
【表9】
【0253】
【表10】
【0254】
【表11】
【0255】
サンプルの特性評価
前述の実施例のサンプルを、当技術分野で知られている様々な技術によって以下のように特徴付けた。
【0256】
スパークプラズマ焼結(SPS)によって作製されたサンプルをDR.SINTER SPS-1050-C装置により、900~1000℃、10分~2時間、圧力50MPaで作製した。
【0257】
本発明のサンプルのラマンスペクトルは、100~2500cm-1で測定された。上記のスペクトルは、波長785nmの赤色レーザーと、B&W Tek,Incブランドのi-Raman装置とを使用して、0.5~10秒の積分時間で装置の最大出力(350mW)の7~90%である出力パーセンテージで測定された。
【0258】
X線回折測定は、Bragg-Brentano構成のBruker AXS D8 Advance回折計(λ放射=1.5418A)により、20~60°の2θ値、0.05°の測定ステップ、1秒の積分時間で行われた。
【0259】
電界放出走査型電子顕微鏡測定は、20Kvで動作するHitachi S-4700装置により行われた。サンプルを金属組織学的に研磨し、5%酸性HF溶液を使用して2~5秒間隔で化学的にエッチングし、次いで、蒸留水で洗浄した。上記サンプルは固体状態で観察された。
【0260】
粉砕操作は、摩擦粉砕又はSPEX SamplePrep LLC高エネルギーボールミル8000Dミキサーミルモデルにおいて、20分間の粉砕操作で実施された。Fritsch Pulverisette 6モデルの高エネルギー遊星ミルも使用され、300rpmで動作させた。
【0261】
X線蛍光測定は、PANalytical MagicX装置(PW-2424)において0.3000gのサンプルと5.5gのLiを溶融することによって作製された「ビーズ」の形態で行われた。
【0262】
一部のサンプルの化学組成は、強熱減量を差し引いた後の酸化物当量の重量%で表される。
【0263】
50値は、様々な既知の技術、例えば、顕微鏡法又は粒度分布法によって、粒子のかなりのサンプル(例えば、50個超の粒子)の測定から得られた粒子径分布の中央値から計算される。平均粒子の粒径は、MALVER MARTERSIZE装置を使用したレーザー粒度分布測定によって決定された。
【0264】
実施例7:印刷によるセキュリティラベルへのセキュリティマーカーの組み込みの例
この実施例は、Stork製のシルクスクリーン印刷機と、Stork製のシルクスクリーンと、円網抄紙機(round paper machine)で製造された天然セルロースベースの繊維組成を有する紙と、固形分40重量%のセキュリティマーカーの分散粒子の懸濁液を得るために水性媒体に包含されたセキュリティマーカー(S4)を含むインクとを使用して実施された。
【0265】
示された設備及び材料の主な特徴を以下に詳細に記載する。
【0266】
印刷機の条件
乾燥トンネル温度:145℃
機械速度:70m/分
吸引速度:2500rpm
吹き出し速度:2400rpm
乾燥後の紙の残留水分:6.5%
【0267】
シルクスクリーンの条件
参照コード:RSI900
発色度(development):25 2/8”
メッシュ:105
開口エリア:15%
厚み:105ミクロン
幅:910mm
【0268】
インクの条件
インクの商品名:WB RAMAN 50/50 R-47236シルクスクリーン印刷インク
架橋剤の商品名:P/IRIDESCENT R-27877添加剤
架橋剤添加後のインクの粘度:20秒CP4
印刷用インクの粘度:18秒CP4
【0269】
紙の主な条件
繊維組成:綿100%セルロース
坪量:90g/m
厚み:115ミクロン
フェルト面のベントセン平滑度:700mL/分未満
織物面(fabric side)のベントセン平滑度:800mL/分未満
ベントセン空隙率:20~40mL/分
折り目付け後のベントセン空隙率:140mL/分未満
コッブ値:40~70g/cm
灰分:5%未満
不透明度:84%
【0270】
実施方法
印刷機が起動して設定された機械条件に到達し、シルクスクリーンが配置され、巻き取りシャフトに紙のリールが配置され、機械回路に紙のウェブが分配されると、インクに対して架橋剤を1.5重量%の割合で、同じ20kgのインクドラム内で穏やかな撹拌条件下でインクを架橋剤と混合させた。成分の完全な分散が保証されると、ドラムの内容物を印刷機のインクウェルにポンプで送り、紙をシルクスクリーンに配置し、片面に設定されたグラフィックデザインに従ってスクリーンの穴を通じてインクの印刷を開始し、紙の最終的な水分、インクの粘度及び印刷プロセス全体の機械条件を制御する。
【0271】
図15は、印刷されたサンプルから得られたラマンスペクトルを示す。
【0272】
実施例8:粘着性のセキュリティラベル紙のコーティングにおけるセキュリティマーカーの使用
この実施例は、粘着性のセキュリティラベルのオフセット印刷技術においてコート紙を使用するために特に示されている以下の調合法に従って、事前に作製されたコーティングスリップが供給されているエアナイフコーティング機を使用して実施される。
ミネラルフィラー:80%の炭酸カルシウム(参照:Specialty Minerals製のAlbacar HOスラリー)及び20%のカオリン(参照:Imerys製のSupragloss 95)で50部のスリップを取得
合成バインダー:10部のブタジエンスチレンラテックス(参照:BASF製のStyronal D-517)
合成コバインダー:2部(参照:BASF製のAcronal 700L)
増粘剤:1部のカルボキシメチルセルロース
不溶化剤:1部(参照:BASF製のBasocoll OV)
添加剤:1部の水酸化ナトリウム
固形分40重量%のセキュリティマーカーの分散粒子の懸濁液を得るために、水性媒体に包含されたセキュリティマーカー(S4)の代表的なサンプルの水性分散液:1部
水:100部までの残り
【0273】
コーティングに使用される粘着紙は、以下の特徴を有する。
総坪量:200g/m
シリコン処理された支持体の坪量:82g/m
粘着剤の坪量:20g/m
表面の繊維組成:機械パルプからの100%セルロース
【0274】
コーティング機の条件
乾燥トンネル温度:145℃
機械速度:150m/分
乾燥後の紙の残留水分:6.5%
コート紙の特性:
総坪量:220g/m
コーティング層の坪量:20g/m
コーティング面のベック平滑度:200秒
灰分:20%
不透明度:84%
【0275】
実施方法
コーティング機が起動して設定された機械条件に到達し、巻き戻しシャフトに紙のリールが配置され、機械回路に紙のウェブが分配されると、コーティングスリップをエアナイフコーティング機のトレイに量り入れ、リールが完成するまで、設定された機械条件に従ってコーティングプロセスを開始する。コーティングプロセスの後、紙のリールは、設定された平滑度に達するまでカレンダー処理され、セキュリティラベルのシート又はリール印刷の後続のプロセスに必要な形式に裁断する。
【0276】
実施例9:パスポートを印刷するためのセキュリティペーパーの主要部にランダムに適用されたセキュリティマーカーの使用
この実施例は、様々な化学製品、例えば、消泡剤、電荷保持剤(charge retention agent)、色定着剤、ミネラルフィラー(例えば、二酸化チタン又はケイ酸アルミナ)、顔料染料、イオン及びpH調整剤、並びに乾燥抵抗性樹脂(例えば、カルボキシメチルセルロース)(これらはすべて、製造される紙の特性に応じて特定の量で添加されるが、これらの量は、セキュリティマーカーで達成されるべき特性とは関係ないため、記載しない)とともに、円網抄紙機と、事前の製造プロセスで適切に漂白及び精製されたセルロース繊維の水性分散液とを使用して実行され、使用された水の量に対して約3重量%の濃度(consistency)又は濃度(concentration)を有し、pH7~8である製紙用ベースパルプを確認した。
【0277】
実施例7及び8に記載のセキュリティマーカー(S4)の水溶液もまた、1000kgの希釈タンクで調製した。セキュリティマーカーを、抄紙機のヘッドインク(machine head ink)に量り入れた。次いで、ポリアミド-エピクロロヒドリンベースの耐水樹脂を紙パルプに添加した。次いで、セルロース繊維及び化学添加剤のこの塊全体を、抄紙機のヘッドインクから円網(round shape)に送り、ここで、プレス、乾燥、接着及びその後の乾燥及びカレンダー処理のプロセスの後に、最終的な紙のシートを形成する紙の層が形成された。次いで、これらの手段で製造された紙は、パスポートの印刷に使用された。
【0278】
これらの条件で製造された紙の主な特徴は、以下の通りである。
坪量:87.2g/m
厚み:102ミクロン
ベントセン空隙率:14mL/分
白色度:75.3%
不透明度:90.6%
【0279】
実施例10:パスポートを印刷するためのセキュリティペーパーの主要部の適切な配置に適用されるセキュリティマーカーの使用
この実施例は、様々な化学製品、例えば、消泡剤、電荷保持剤、色定着剤、ミネラルフィラー(例えば、二酸化チタン又はケイ酸アルミナ)、顔料染料、イオン及びpH調整剤、並びに乾燥抵抗性樹脂(例えば、カルボキシメチルセルロース)(これらはすべて、製造される紙の特性に応じて特定の量で添加されるが、これらの量は、セキュリティマーカーで達成されるべき特性とは関係ないため、記載しない)とともに、円網抄紙機と、事前の製造プロセスで適切に漂白及び精製されたセルロース繊維の水性分散液とを使用して実行され、使用された水の量に対して約3重量%の濃度又は濃度を有し、pH7~8である製紙用ベースパルプを確認する。実施例7及び8に記載のセキュリティマーカー(S4)の水溶液もまた、セキュリティマーカーがその位置に適切に配置されていることの視覚的確認を容易にするために赤色顔料染料(BASFによって供給されるCarmin Levanyl GZ)と混合された50kg希釈タンクに入れられる。セキュリティマーカーは、抄紙機のシート形成領域に配置されたP-Jet計量バルブを通じて、紙基材を構成する2枚のシートが結合されるポイントで量り入れる。次いで、ポリアミド-エピクロロヒドリンベースの耐水樹脂を紙パルプに添加する。次いで、セルロース繊維及び化学添加剤のこの塊全体を、抄紙機のヘッドインクから円網に送り、ここで、プレス、乾燥、接着及びその後の乾燥及びカレンダー処理のプロセスの後に、最終的な紙のシートを形成する紙の層が形成される。
【0280】
絞り弁(metering valve)の調整条件は以下の通りである。
ノズル径:400ミクロン
周波数:50Hz
パルス:2ミリ秒
動作圧力:5.95バール
材料の圧力:1.77バール
【0281】
これらの条件で製造された紙の主な特徴は、以下の通りである。
坪量:87.02g/m
厚み:104ミクロン
灰分:4.71%
【0282】
実施例11:パスポートを印刷するためのセキュリティペーパーの表面に適用されるセキュリティマーカーの使用
この実施例は、様々な化学製品、例えば、消泡剤、電荷保持剤、色定着剤、ミネラルフィラー(例えば、二酸化チタン又はケイ酸アルミナ)、顔料染料、イオン及びpH調整剤、並びに乾燥抵抗性樹脂(例えば、カルボキシメチルセルロース)(これらはすべて、製造される紙の特性に応じて特定の量で添加されるが、これらの量は、セキュリティマーカーで達成されるべき特性とは関係ないため、記載しない)とともに、円網抄紙機と、事前の製造プロセスで適切に漂白及び精製されたセルロース繊維の水性分散液とを使用して実行され、使用された水の量に対して約3重量%の濃度又は濃度を有し、pH7~8である製紙用ベースパルプを確認する。
【0283】
次いで、ポリアミド-エピクロロヒドリンベースの耐水樹脂を紙パルプに添加する。これも強力なカチオン性であり、セルロース繊維及びそれ自体と共有結合を形成して、紙に特定の耐水性レベルを付与するために必要なポリマー格子を形成し得る。
【0284】
次いで、セルロース繊維及び化学添加剤のこの塊全体を、抄紙機のヘッドインクから円網に送り、ここで、プレス及び乾燥プロセスの後に紙の層が形成される。
【0285】
乾燥後、紙を接着エリアに移し、ポリビニルアルコールベースの接着剤(参照:Air Products&Chemical製のAirvol 103)の希釈液が入ったトレイに浸漬する。水性媒体に包含されているセキュリティマーカーの代表的なサンプル(S4)の水溶液100mLを、接着剤100リットルごとに添加し、固形分5重量%を有するセキュリティマーカーの分散粒子の懸濁液を得る。
【0286】
紙の絶対水分量が5%になるまで、紙を乾燥させてカレンダー処理する。これらの手段により製造された紙を、パスポートの印刷に使用する。
【0287】
実施例12:セキュリティペーパーの主要部に含めるための、セキュリティファイバーの主要部におけるセキュリティマーカーの使用
この実施例は、ポリマー材料のチップ(chip)が計量される円形セクションを備えた計量ホッパーと、セキュリティマーカー(S4)の代表的なサンプルが、ポリマーの総重量に対して0.1重量%~4重量%で計量されるピストンメーターと、マドック型ミキサー及びスピニングヘッドを備えた単軸押出機と、空冷システムと、繊維のテンパリング又はテンシングシステム(fiber tempering or tensing system)と、カッターとで構成されるプラスチック材料押出機を使用して実施された。使用する際の主なプロセスパラメータ及びこの押出機の構成パラメータを以下に示す。
【0288】
押出機のスクリューの構成
スクリュー径:5cm
供給エリアのスクリュー長:50cm
圧縮エリアのスクリュー長:30cm
計量エリアのスクリュー長:20cm
ブレード角:17.65°
スレッドピッチ:5cm
シリンダーとスクリューとの間のギャップ:0.5cm
計量チャネルの深度:0.25cm
供給チャネルの深度:0.75cm
シリンダーの外径:7.01cm
シリンダーの内径:5.01cm
ミキサーの長さ:10cm
スピニングヘッドの穴の数:50
穴の直径:0.15mm
【0289】
押出機のプロセスパラメータ
シリンダーに沿った温度範囲:120~185℃
スピニングヘッド出口における繊維流量:10L/h
生産速度:18.3m/s(7.5kg繊維/時間)
圧力:70バール
冷却エリア:1.8m
【0290】
ポリマー材料の特性
組成:LyonDellBasell製のポリプロピレン(参照:HM560R)
チップ密度:0.91g/cm
溶融温度:145℃
メルトフローインデックス:25g/10分(230℃/2.16kg)
【0291】
セキュリティファイバーの特徴
厚み:0.02mm
長さ:3mm
【0292】
実施方法
押出機が、示された構成で、示されたプロセスパラメータで起動され、設定された機械条件に達するようにコーティングし、ポリプロピレンチップを加熱されたホッパーに供給した。押出機の供給エリアと圧縮エリアとの間に配置された垂直ピストンメーターを使用することにより、セキュリティマーカーを導入した。材料は、スクリューに沿って移動するにつれて徐々に混合され、プレスされ、ホッパー内の大気圧から始まり、ノズルを通じて出口部まで加圧される。ミキサーに到達する前に、成分はメッシュ又はフィルタを通過した。ミキサーを通過後、材料は最大圧力にさらされ、小さな円形の開口を備えたスピニングヘッド又はスピナレットを通過し、連続した糸が製造される。
【0293】
糸を得ると、それらを気流によって冷却し、次いで、テンシングユニットに供給する駆動ローラーによって回収する。このユニットでは、糸はその結晶構造を、フィラメントの軸の方向に整列させ、次いで乾燥チャンバーの末端にあるローラーが、スピニングヘッドの出口部のローラーよりも4倍速い速度で回転することによって糸を伸ばすことができる。
【0294】
次いで、別のローラーが、糸を切断機へ送り、そこで、固定ナイフのセットが糸を特定の長さ(3~3.4mm)に切断し、最終的な繊維を生成する。
【0295】
記載されたセキュリティマーカーを備えたポリプロピレン繊維のラマンスペクトルが、記載されたサンプルについて測定された(図示せず)。
【0296】
実施例13:IDカード用のポリマー基材シルクスクリーン印刷インクに適用されるセキュリティマーカーの使用
この例は、Stork及びThiemeが共同で製造した紫外線乾燥のシルクスクリーン印刷機と、Storkが製造したRotaplateシルクスクリーンと、ポリエステルベースのポリマー基材と、Arzubialdeが製造したシルクスクリーン印刷インクと、40重量%の固形分を有するセキュリティマーカーの分散粒子の懸濁液を得るために水性媒体に包含されているセキュリティマーカー(S4)の代表的なサンプルとを使用して実施された。
【0297】
示された設備及び材料の主な特徴を以下に詳細に説明する。
【0298】
用紙の両面の印刷機の条件
機械速度:4000枚/時間
乾燥条件:60%
【0299】
Rotaplateシルクスクリーンの条件:125W
メッシュ:125hpi
厚み:120ミクロン
開口エリア:43%
直径:140ミクロン
【0300】
虹色インク及び添加剤の条件
インクの商品名:WB RAMAN 50/50R-47236シルクスクリーン印刷インク
印刷用インクの粘度:120秒CP4
【0301】
ポリマー基材の主な条件
組成:PPG Industries製のポリエステル(参照:Teslin SP 1000)
厚み:200ミクロン
【0302】
実施方法
印刷機が起動して設定された機械条件に到達し、シルクスクリーンが配置され、ポリエステルの基材が配置されると、上記の実施例(実施例7及び8)で記載されたセキュリティマーカーの水溶液100mLが事前に添加されているシルクスクリーン印刷インクの混合物が、インクウェルにポンプで送られる。次いで、片面に設定されたグラフィックデザインに従って、スクリーンの穴を通じてインクの印刷が開始され、インクの粘度及び印刷プロセス全体の機械条件を制御する。
【0303】
実施例14:切手を印刷するための紙のコーティングされた層に適用されるセキュリティマーカーの使用
この実施例は、得られたコーティングの種類及び特性が、郵便切手用のグラビア印刷技術でのコート紙の使用について特に示されているように、以下の調合法に従って事前に作製されたコーティングスリップが供給されているフィルムプレスコーティング機を使用して実施された。
合成バインダー:12部のブタジエンスチレンラテックス(参照:EOCポリマー製のL-8000)
合成コバインダー:2部(参照:BASF製のAcronal 700L)
増粘剤:1部のカルボキシメチルセルロース
不溶化剤:1部(参照:BASF製のBasocoll OV)
添加剤:1部の水酸化ナトリウム
上記のセキュリティマーカーの水溶液(実施例7及び8):1部
水:100部までの残り
【0304】
コーティングに使用される支持紙(support paper)は、以下の特性を有する。
総坪量:90g/m
厚み:120マイクラ
繊維組成:機械パルプからの100%セルロース
【0305】
コーティング機の条件
乾燥トンネル温度:150℃
機械速度:170m/分
乾燥後の紙の残留水分:5.5%
【0306】
コート紙の特徴
総坪量:110g/m
コーティング層の坪量:20g/m
コーティング面のベック平滑度:1800秒
灰分:15%
不透明度:80%
【0307】
実施方法
コーティング機が起動して設定された機械条件に到達し、巻き戻しシャフトに紙のリールが配置され、紙のウェブが機械回路に広げられると、コーティングスリップは、紙と接触しているシリンダーの供給トレイに量り入れ、リールが完成するまで、設定された機械条件に従ってコーティングプロセスが開始される。
【0308】
コーティングプロセスの後、紙のリールは、設定された平滑度に達するようにカレンダー処理され、郵便切手のシート又はリール印刷の後続のプロセスに必要な形式に裁断する。図16は、本発明のセキュリティマーカーなし(a)及び本発明のセキュリティマーカーあり(ここで、このセキュリティマーカーは、コーティングされた層(b)に位置する)のコート紙について得られたラマンスペクトルを示す。図16bに見られるように、本発明のセキュリティマーカーを含むコート紙のラマンスペクトルは、1000~2250cm-1のラマンシフト範囲において顕著なラマン信号を有する。上記セキュリティマーカーがセキュリティ物品、セキュリティ要素又はセキュリティ文書、この場合は紙のコーティング層に組み込まれると、本発明のセキュリティマーカーに関連するラマン信号を検出し得ることがそれによって証明された。
【0309】
実施例15:ガム引きされた(gummed)納税印紙又はセキュリティラベルを印刷するための紙のガム引き層に適用されるセキュリティマーカーの使用
この実施例は、ガム引きされた納税印紙又はセキュリティラベルのオフセット印刷技術にガム引き紙を使用するために特に示されている、事前に調整された再湿潤性ガム組成物(re-wettable gum composition)が供給されるフィルムプレスコーティング機を使用して実行される。
【0310】
使用する再湿潤性ガム組成物は、ポリ酢酸ビニルに基づいている(参照:Henkel Adhesives&Technologies製のA-4524を使用)。上記のセキュリティマーカー(S4)(実施例7及び8)の水溶液1リットルと、下記の色素の1部を3部の水と混合することによって事前に調製された1400グラムの緑色食用色素(参照:Clariant製のVerde Carta DAM Liquido)とを、ガム組成物の各1000kgタンクに添加する。
【0311】
ガム引きに使用される支持紙は、以下の特徴を有する。
総坪量:95g/m
厚み:98ミクロン
繊維組成:機械パルプからの100%セルロース
【0312】
コーティング機の条件
乾燥トンネル温度:130℃
機械速度:140m/分
乾燥後の紙の残留水分:5.5%
【0313】
ガム引き紙の特徴
総坪量:105g/m
コーティング層の坪量:10g/m
再湿潤性ガム接着剤:25gF/mm
灰分:10%
不透明度:80%
【0314】
実施方法
再湿潤性ガムを適用するために使用されるコーティング機が起動して設定された機械条件に到達し、巻き戻しシャフトに紙のリールが配置され、紙のウェブが機械回路に広げられると、ガムスリップ(gum slip)を、紙と接触しているシリンダーの供給トレイに量り入れ、リールが完成するまで、設定された機械条件に従ってガム引きプロセス(gumming process)が開始される。
【0315】
ガム引き処理後、紙のリールは、ゴム引きされた税印紙又はセキュリティラベルのシート又はリール印刷の後続のプロセスに必要な形式に裁断する。
【0316】
実施例16:法定通貨の紙幣を印刷するためのセキュリティペーパーの主要部中に挿入するための、セルロースストリップの表面に適用されるセキュリティマーカーの使用
この実施例は、Grave製のグラビア印刷機と、Artcylにより製造されZirabaによりエッチングされたグラビアシリンダーと、Miquel y Costas製の天然セルロースベースの繊維組成を有する紙と、Arzubialde製のグラビア印刷インクと、とりわけ実施例7及び8に記載されたセキュリティマーカー(S4)の水性溶液とを使用して実施される。
【0317】
示された設備及び材料の主な特徴を以下に詳細に記載する。
【0318】
用紙の両面の印刷機の条件
乾燥トンネル温度:45℃
機械速度:80m/分
リール張力:150N
Heliofun(帯電防止システム):60%
【0319】
グラビアシリンダーの状態
エッチングタイプ:化学
ライン解像度:90本/cm
セルの深度:34ミクロン
テーブル:510mm
直径:24”=194.02mm
【0320】
インクの条件
インクの商品名:WB RAMAN 50/50 R-47236
インクの粘度:32秒CP4
適用用ワニスの粘度:32秒CP4
【0321】
セキュリティペーパーの主な条件
繊維組成:100%セルロース
坪量:18g/m
厚み:30ミクロン
ベントセン空隙率:144mL/分
不透明度:25%
【0322】
実施方法
印刷機が起動して設定された機械条件に到達し、グラビアシリンダーが配置され、巻き戻しシャフトに紙のリールが配置され、機械回路に紙のウェブが広げられると、インクを100mLのセキュリティマーカー水溶液と混合する。成分の完全な分散が保証されると、ドラムの内容物が印刷機のインクウェルにポンプで送られる。紙は印刷シリンダー上に配置され、片面の紙へのインクの印刷を開始し、紙の最終的な水分、インクの粘度、及び印刷プロセス全体の機械条件を制御する。プロセスの終了後、リールは室温(23℃及び50%RH)で24時間の最小成熟時間の間、静置される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16