(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】癌のバイオマーカーとしてのPD-ECGF
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240312BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240312BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/574 A
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022113650
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2020144291の分割
【原出願日】2016-03-10
【審査請求日】2022-08-12
(32)【優先日】2015-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】317002294
【氏名又は名称】フンダシオ インスティトゥト ディンベスティガシオ ビオメディカ デ ベイビジャ(イ デ イ ベ エ エレ エレ)
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO INSTITUT D‘INVESTIGACIO BIOMEDICA DE BELLVITGE(IDIBELL)
(73)【特許権者】
【識別番号】508232426
【氏名又は名称】インスティトゥト カタラ ドンコロジア
【住所又は居所原語表記】Avda. Gran Via de l’Hospitalet, 199-203, E-08908. L’Hospitalet de Llobregat, Barcelona Spain
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】カサノバ カサノバ、オリオル
(72)【発明者】
【氏名】ヒメネス バレリオ、ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】オチョア デ オルサ、マリア
(72)【発明者】
【氏名】ナバロ ペレス、バレンティ
(72)【発明者】
【氏名】バサニ、ニクラス
(72)【発明者】
【氏名】ベルダグエル、エレナ
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101993919(CN,A)
【文献】TAKAYAMA T; ET AL,HIGH LEVELS OF THYMIDINE PHOSPHORYLASE AS AN INDEPENDENT PROGNOSTIC FACTOR IN RENAL CELL CARCINOMA,JAPANESE JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY,OXFORD UNIVERSITY PRESS,2006年07月26日,VOL:36, NR:9,PAGE(S):564 - 569,http://dx.doi.org/10.1093/jjco/hyl063
【文献】TSUJI T; ET AL,PLATELET-DERIVED ENDOTHELIAL CELL GROWTH FACTOR EXPRESSION IS AN INDEPENDENT PROGNOSTIC FACTOR IN COLORECTAL CANCER PATIENTS AFTER CURATIVE SURGERY,EUROPEAN JOURNAL OF SURGICAL ONCOLOGY (EJSO),ELSEVIER,2004年04月,VOL:30, NR:3,PAGE(S):296 - 302,http://dx.doi.org/10.1016/j.ejso.2003.11.019
【文献】MORITA T; MATSUZAKI A; TOKUE A,QUANTITATIVE ANALYSIS OF THYMIDINE PHOSPHORYLASE AND DIHYDROPYRIMIDINE DEHYDROGENASE IN RENAL CELL CARCINOMA,ONCOLOGY : INTERNATIONAL JOURNAL OF CANCER RESEARCH AND TREATMENT,スイス,KARGER,2003年08月,VOL:65, NR:2,PAGE(S):125 - 131,http://dx.doi.org/10.1159/000072337
【文献】CHRISTINE BROSTJAN; ET AL,MONITORING OF CIRCULATING ANGIOGENIC FACTORS IN DENDRITIC CELL-BASED CANCER IMMUNOTHERAPY,CANCER,米国,AMERICAN CANCER SOCIETY,2003年09月29日,VOL:98, NR:10,PAGE(S):2291 - 2301,http://dx.doi.org/10.1002/cncr.11776
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/574
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における腎細胞癌(RCC)または結腸直腸癌の進行を予測するための方法であって、
(i)前記対象に由来する
、血液サンプル、血清サンプルおよび血漿サンプルからなる群より選択される生体液サンプル中のPD-ECGFタンパク質のレベルを決定することと、
(ii)(i)で得られたレベルを基準値と比較することと、
を含み、
前記対象に由来する
前記生体液サンプル中のPD-ECGFタンパク質のレベルが基準値と比較して増加している場合には、前記腎細胞癌(RCC)または結腸直腸癌が進行していることを示すものとし、
前記対象に由来する
前記生体液サンプル中のPD-ECGFタンパク質のレベルが基準値と比較して減少している場合には、前記腎細胞癌(RCC)または結腸直腸癌が進行していないことを示すものとする、
方法。
【請求項2】
前記生体液サンプルが、血漿サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腎細胞癌(RCC)または結腸直腸癌が、原発性腫瘍または転移癌である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記基準値が、健康な対象に由来する
、血液サンプル、血清サンプルおよび血漿サンプルからなる群より選択される生体液サンプルまたは腎細胞癌(RCC)または結腸直腸癌に罹患していない対象に由来する
、血液サンプル、血清サンプルおよび血漿サンプルからなる群より選択される生体液サンプルにおいて決定される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
PD-ECGFタンパク質のレベルが
、ELISAまたはウエスタンブロットによって決定される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
対象における腎細胞癌(RCC)または結腸直腸癌の進行の予測における
、前記対象に由来する、血液サンプル、血清サンプルおよび血漿サンプルからなる群より選択される生体液サンプル中のPD-ECGFタンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の分野に属し、特に、癌の診断および予後診断において有用なバイオマーカーに属し、ここで、対象由来のサンプル中のPD-ECGFバイオマーカーの変化するレベルが、対象における癌の診断または癌に罹患している対象の予後診断において有用である。
【背景技術】
【0002】
腎細胞癌(RCC)の発生率は、毎年着実に上昇している。この癌の生物学についての理解は、大幅に進展している。これらの進展により、進行した疾患を有する患者における新しい治療戦略が開発されている。
【0003】
米国特許第8029981B2号は、hypoxia-inducible protein-2(HIG2)のレベルを決定することを含む、RCCを診断する方法に関する。米国特許第7611839B2号は、elongation factor 1 alpha 2(EEF1A2)およびtoll-like receptor 2(TLR2)のレベルを決定することを含む、対象におけるRCCの診断を確認するための方法に関する。
【0004】
それにもかかわらず、RCCに関しては臨床診療におけるルーチン使用のためのバイオマーカーが未だに存在しない。特に過去10年において、RCCの予後診断に用いられる方法は変化していない。一般に、その治療法は組織学によって分類され、患者は、徴候の応答の見込みがないまま、潜在的に毒性のある治療法に曝され続ける。従って、RCCの診断および/または予後診断において有望なバイオマーカーを特定する必要が当技術分野では依然として存在する。
【0005】
世界的に見て、乳癌は、2番目に多い癌種(10.4%;肺癌の次)であり、5番目に多い癌死亡の原因(肺癌、胃癌、肝癌および結腸癌の次)である。世界中の女性の間で、乳癌は、最も多い癌死亡の原因である。1970年代から世界中で症例数が大幅に増加しており、これは、西洋社会の現代的な生活様式に部分的に起因する現象である。北米の女性の乳癌の発生率は、世界で最も高い。
【0006】
予後診断および/または治療における価値を有するいくつかの確立した乳房の分子マーカーには、ホルモン受容体(エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)を含む)、HER-2癌遺伝子、Ki-67およびp53が包含される。より最近になって特定された、乳癌における分子標的には、CXCR4、カベオリンおよびFOXP3が包含される。
【0007】
世界中で毎年655,000人が死亡している結腸直腸癌は、3番目に多い癌の形態であり、西洋社会において2番目に多い癌関連死の原因である。多くの結腸直腸癌は、結腸内の腺腫性ポリープから生じると考えられている。これらのきのこ形の腫瘍は通常、良性であるが、一部のものは、時間とともに癌に発達する可能性がある。大抵の場合、限局性結腸癌の診断は、結腸内視鏡検査による。
【0008】
外科的切除は、初期の結腸直腸癌(ステージI~III)に対する主要な治療法であり、治癒が期待できる手術の後の予後を評価するための最も強力なツールは、切除された検体の病理学的分析である。病理病期を決定するパラメータは、最も強力な術後転帰の予測因子であるが、他の臨床的特徴、分子的特徴および組織学的特徴が、病期とは無関係に予後に影響する可能性がある。ステージIVの疾患を有する患者において、予後は、遠隔転移性疾患の位置および程度に、より密接に関連している。
【0009】
癌胎児性抗原(CEA)のレベルは、結腸直腸癌において最も頻繁に使用される腫瘍マーカーである。このレベルは、予後を予測するために手術の前に調べることができ、処置に対する応答を評価するために治療の間に、または再発についてモニタリングするために治療の完了後に、用いることができる。CA19-9は、結腸直腸癌において上昇する可能性がある血中マーカーである。MSI(マイクロサテライト不安定性)は、より積極的な処置を必要とする可能性がある初期の結腸癌を特定するために、または、いくつかの癌種に関連する家族性の症候群のリスクがあるためにさらなる遺伝子検査を受けるべきである患者を特定するために、用いることができる。近年、血清miR-21が、結腸直腸癌における早期の診断および予後のバイオマーカーとして提唱されている(Toiyama et al.2013 J.Natl.Cancer Inst.105(12):849-859)。
【0010】
しかし、乳癌および結腸直腸癌は両方とも発生率が高いため、前記癌の応答についての診断マーカーおよび/または予測マーカーが当技術分野では引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本願の発明者等は、免疫組織化学、ELISAおよびウエスタンブロットによってPD-ECGFタンパク質の発現レベルを分析した。免疫組織化学によって分析したところ、非癌性組織サンプルではPD-ECGFは検出されなかった(12のうち0、0%)が、69人のRCC患者のうち67(97%超)の組織サンプルで、および乳癌患者由来の組織サンプルでは17のうち10(59%)で、PD-ECGFタンパク質が観察された。従って、組織サンプルのPD-ECGFの測定は、癌の検出、診断またはモニタリングのために使用され得る。
【0012】
さらに、治療の開始前の腫瘍におけるPD-ECGFのレベルを早期進行のリスクと相関させることにより示されるように、PD-ECGFの発現が、腎細胞癌および結腸直腸癌を有する患者における抗血管新生療法に対する応答の予測因子であるということを本願の発明者等は見出した(Kaplan-Meier検定およびGehan-Breslow-Wilcoxon検定、p<0.045)。従って、PD-ECGFの発現は、抗血管新生療法に対する応答の予測因子として、治療に対する癌の進行を予測する上で潜在的価値を有する。
【0013】
さらに、PD-ECGFと腫瘍進行についての有意なハザード比の解析により表されるように、PD-ECGFの血漿レベルが高い結腸直腸癌患者は、早期進行のリスクが有意に高かった(ハザード比、p<0.041)。従って、PD-ECGFの血漿中のタンパク質レベルは、抗血管新生療法に対する応答の予測因子として、治療に対する癌の応答を予測する上で潜在的価値を有する。
【0014】
これらの発見は、RCC、乳癌、結腸直腸癌および他の癌種を有する患者における検出、診断、疾患モニタリングならびに応答の予測のための新規のバイオマーカーとしてのPD-ECGFの使用を裏付ける。
【0015】
従って、第1の態様では、本発明は、対象における癌の診断のための方法であって、
(i)前記対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルを決定することと、
(ii)(i)で得られたレベルを基準値と比較することと、
を含み、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して増加している場合には、対象は癌と診断され、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して減少している場合には、対象は癌と診断されない、
方法に関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、癌に罹患している対象の抗血管新生療法に対する応答を予測するための方法であって、
(i)前記対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルを決定することと、
(ii)(i)で得られたレベルを基準値と比較することと、
を含み、
前記抗血管新生療法はドキソルビシン療法またはインターフェロン療法ではなく、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して増加している場合、それは、抗血管新生療法に対する悪い応答を示しており、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して減少している場合、それは、抗血管新生療法に対する良好な応答を示している、
方法に関する。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、対象における癌の診断および/または抗血管新生療法に対する癌患者の応答の決定におけるPD-ECGFの使用であって、前記抗血管新生療法はドキソルビシン療法またはインターフェロン療法ではない、使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】免疫組織化学により測定された、患者または健康な対象の腫瘍組織サンプルまたは非腫瘍組織サンプルのPD-ECGFタンパク質のレベル。
【
図2】免疫組織化学により測定された、RCC癌患者の腫瘍組織サンプルのPD-ECGFタンパク質のレベル。
【
図3】免疫組織化学により測定された、乳癌患者の腫瘍組織サンプルのPD-ECGFタンパク質のレベル。
【
図4】腫瘍組織のPD-ECGFの発現レベルと関連付けられた、RCC患者における無増悪生存のKaplan-Meier生存プロット。
【
図5】健康なドナーまたは癌患者の血漿サンプルの、ELISAにより測定されたPD-ECGFのタンパク質レベル。
【
図6】RCC癌患者の血漿サンプルの、ELISAにより測定されたPD-ECGFのタンパク質レベル。
【
図7】乳癌患者の血漿サンプルの、ELISAにより測定されたPD-ECGFのタンパク質レベル。
【
図8】結腸直腸癌患者の血漿サンプルの、ELISAにより測定されたPD-ECGFのタンパク質レベル。
【
図9】結腸直腸癌患者における腫瘍進行に対するPD-ECGFの血漿中のタンパク質レベルのハザード比の関連性。
【
図10】PD-ECGFの血漿レベルと関連付けられた、RCC患者における無増悪生存のKaplan-Meier生存プロット。
【
図11】PD-ECGFの発現が変化する結腸直腸腺癌患者のKaplan-Meier無病生存プロット。全て完全な腫瘍(7サンプル)。参照:Colorectal Adenocarcinoma(TCGA,Provisional)。
【
図12】PD-ECGFの発現が変化する膠芽腫患者のKaplan-Meier全生存プロット。全て完全な腫瘍(291サンプル)。参照:Brennan CW et al.,The somatic genomic landscape of glioblastoma.Cell.2013 Oct10;155(2):462-77。
【
図13】PD-ECGFの発現が変化する腎臓腎明細胞癌患者のKaplan-Meier全生存プロット。全て完全な腫瘍(413サンプル)。参照:Kidney Renal Clear Cell Carcinoma(TCGA,Provisional)。
【
図14】PD-ECGFの発現が変化する腎臓腎明細胞癌患者のKaplan-Meier無病生存プロット。全て完全な腫瘍(413サンプル)。参照:Kidney Renal Clear Cell Carcinoma(TCGA,Provisional)。
【
図15】PD-ECGFの発現が変化する腎臓腎明細胞癌患者のKaplan-Meier全生存プロット。全て完全な腫瘍(392サンプル)。参照:Cancer Genome Atlas Research Network.Comprehensive molecular characterization of clear cell renal cell carcinoma.,Nature.2013 Jul 4;499(7456):43-9。
【
図16】PD-ECGFの発現が変化する腎臓腎乳頭細胞癌患者のKaplan-Meier無病生存プロット。全て完全な腫瘍(161サンプル)。参照:Kidney Renal Papillary Cell Carcinoma(TCGA,Provisional)。
【
図17】PD-ECGFの発現が変化する肺腺癌患者のKaplan-Meier全生存プロット。全て完全な腫瘍(230サンプル)。参照:Lung Adenocarcinoma(TCGA,Provisional)。
【
図18】PD-ECGFの発現が変化する肺腺癌患者のKaplan-Meier無病生存プロット。全て完全な腫瘍(230サンプル)。参照:Lung Adenocarcinoma(TCGA,Provisional)。
【
図19】PD-ECGFの発現が変化する前立腺腺癌患者のKaplan-Meier無病生存プロット。全て完全な腫瘍(85サンプル)。参照:Taylor BS et al.,Integrative genomic profiling of human prostate cancer.Cancer Cell.2010 Jul 13;18(1):11-22。
【
図20】PD-ECGFの発現が変化する精巣胚細胞癌患者のKaplan-Meier全生存プロット。全て完全な腫瘍(149サンプル)。参照:Testicular Germ Cell Cancer(TCGA,Provisional)。
【
図21】PD-ECGFの発現が変化する胸腺腫患者のKaplan-Meier全生存プロット。全て完全な腫瘍(124サンプル)。参照:Thymoma(TCGA,Provisional)。
【
図22】PD-ECGFの発現が変化する胸腺腫患者のKaplan-Meier無病生存プロット。全て完全な腫瘍(124サンプル)。参照:Thymoma(TCGA,Provisional)。
【
図23】PD-ECGFの発現が変化する甲状腺乳頭癌患者のKaplan-Meier全生存プロット。全て完全な腫瘍(388サンプル)。参照:Cancer Genome Atlas Research Network.,Integrated genomic characterization of papillary thyroid carcinoma.Cell.2014 Oct 23;159(3):676-90。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本明細書で使用される場合、「抗血管新生療法(anti-angiogenic treatment)」または「抗血管新生療法(anti-angiogenesis treatment)」なる用語は、少なくとも1種の抗血管新生剤に基づく処置に関する。「抗血管新生剤(anti-angiogenic agent)」または「抗血管新生剤(anti-angiogenesis agent)」または「血管新生阻害剤」なる用語は、限定されるものではないが腫瘍血管新生を含む血管新生(例えば、血管を形成するプロセス)を標的とする作用物質に関する。これに関連して、阻害は、血管の形成を阻止すること、および血管の成長を停止または鈍化させること、を指し得る。
【0020】
「癌」なる用語は、制御されない細胞分裂(または生存もしくはアポトーシス抵抗性の増加)により、ならびに、隣接する他の組織に侵入し(浸潤)、リンパ管および血管を通って細胞が通常は位置することのない身体の他の領域に広がり(転移)、血流中を循環し、そして体内の他の場所の正常な組織に侵入する、という前記細胞の能力により、特徴付けられる疾患を指す。それらが浸潤および転移によって広がり得るかどうかに応じて、腫瘍は良性または悪性のいずれかに分類される。良性腫瘍は、浸潤または転移によって広がることのできない腫瘍であり、すなわち、良性腫瘍は局所的にしか増殖しない。一方、悪性腫瘍は、浸潤および転移によって広がることが可能な腫瘍である。癌に関連することが知られている生物学的プロセスには、血管新生、免疫細胞の浸潤、細胞遊走および転移が包含される。癌なる用語には、限定されるものではないが、肺癌、肉腫、悪性メラノーマ、胸膜中皮腫、膀胱癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、卵巣癌、肝細胞癌、乳癌、結腸直腸癌、腎臓癌、食道癌、腎上部癌(suprarenal cancer)、耳下腺癌、頭頸部癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、肝癌、中皮腫、多発性骨髄腫、白血病およびリンパ腫が包含される。本発明の特定の実施形態において、癌は、腎細胞癌(RCC)、乳癌または結腸直腸癌である。「乳癌」なる用語は、最も一般的には乳管の内壁または乳管に乳を供給する小葉に由来する、乳房細胞の任意の悪性の増殖性疾患に関する。管から生じる癌は、腺管癌として知られており、小葉から生じる癌は、小葉癌として知られている。「結腸癌」、「直腸癌」または「腸癌」としても知られている「結腸直腸癌」なる用語は、結腸もしくは直腸または虫垂における制御されない細胞増殖に由来する癌を指す。「腎臓癌」または「腎臓腺癌」としても知られている「腎細胞癌」なる用語は、(顆粒細胞と混ざっているか混ざっていない)明細胞癌、好色素性癌(chromophilic cancer)、腎臓のラブドイド腫瘍、嫌色素性癌、オンコサイト癌、集合管癌、移行上皮癌および肉腫様腫瘍を含む、腎臓の任意の組織に腫瘍細胞が見出される癌に関する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「診断」なる用語は、対象において可能性のある疾患を決定および/または特定しようとするプロセス(すなわち診断手順)およびこのプロセスによって到達した所見(すなわち診断所見)の両方を指す。そのため、それは、処置および予後についての医療上の決定を行うことを可能にする別個の異なるカテゴリーに個体の状態を分類する試みと見なすこともできる。特に、「癌の診断」なる用語は、対象において腫瘍の存在を特定または検出する能力に関する。当業者には理解されるように、この検出は、分析されるサンプルの100%において正しい、ということを求めるものではない。しかし、それは、統計的に有意な量の分析されるサンプルが正しく分類されることを必要とする。統計的に有意な量は、当業者であれば、種々の統計的手段を用いて確立できる。前記統計的手段の例示的で非限定的な例としては、信頼区間の決定、p値の決定、Studentのt検定またはFisherの判別関数等が挙げられる(例えば、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983を参照のこと)。信頼区間は、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1未満、0.05未満、0.01未満、0.005未満または0.0001未満である。本発明の教示は、好ましくは、分析される所定の群または集団の対象のうちの少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%において正しく診断することを可能にする。
【0022】
本明細書で使用される場合、「発現レベル」なる用語は、対象のサンプルにおける、遺伝子によって生産された遺伝子産物の測定可能な量を指し、ここで、遺伝子産物は、転写産物または翻訳産物であってよい。当業者には理解されるように、遺伝子の発現レベルは、前記遺伝子、または前記遺伝子によりコードされるタンパク質、のメッセンジャーRNAのレベルを測定することによって定量できる。本発明に関しては、PD-ECGFをコードする遺伝子の発現レベルは、前記遺伝子によりコードされるmRNAのレベルを測定することによって、または前記遺伝子によりコードされるタンパク質(すなわちPD-ECGFタンパク質)もしくはそのバリアントのレベルを測定することによって、決定できる。PD-ECGFタンパク質のバリアントには、タンパク質の機能が維持されるという条件で、タンパク質の全ての生理学的に適切な翻訳後化学修飾形態(例えば、グリコシル化、リン酸化、アセチル化等)が包含される。前記用語は、限定されるものではないが飼育動物と家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯類)、霊長類およびヒトを含む任意の哺乳動物種のPD-ECGFタンパク質を包含する。好ましくは、PD-ECGFタンパク質はヒトタンパク質である。
【0023】
本明細書で使用される「血小板由来内皮細胞増殖因子(plateled derived-endothelial cell growth factor)」または「PD-ECGF」なる用語は、「血小板由来内皮細胞増殖因子-1(plateled derived-endothelial cell growth factor-1)」、「ECGF-1」もしくは「ECGF1」、「グリオスタチン」、「血小板由来内皮細胞マイトジェン」、「チミジンホスホリラーゼ」または「TP」としても知られており、内皮分裂促進活性を示す血小板から最初に単離された細胞質タンパク質に関する。これは、45kDaの酸性非グリコシル化タンパク質であり、482アミノ酸の前駆体として合成され、この前駆体からN末端プロセシングにより作り出される。胎盤から単離された当該タンパク質は、そのN末端に5つの追加のアミノ酸を含む。PD-ECGFは、インビボでセリン残基がリン酸化され得るが、このリン酸化ステップの生物学的意義は不明である。PD-ECGFをコードするヒト遺伝子は、22番染色体上に位置し、Gene ID 1890が割り当てられている(NCBI GenBank、2014年3月1日更新)。PD-ECGFについて、いくつかの転写バリアントが報告されている:バリアント2、3および4と同じアイソフォーム1をコードする転写バリアント1(NCBI GenBankにおける受入番号NM_001113755.2);5’UTR内の別のスプライス部位を利用する転写バリアント2(NM_001953.4);バリアント1と比較して5’UTRが異なる転写バリアント3(NM_001113756.2);バリアント1と比較して5’UTR内の別のスプライス部位を利用する転写バリアント4(NM_001257988.1);および、バリアント1と比較して5’UTR内および3’コード領域内の別のスプライス部位を利用し、アイソフォーム2をコードする転写バリアント5であって、前記アイソフォーム2がアイソフォーム1と比較してC末端領域に追加のセグメントを有する、転写バリアント5(NM_001257989.1)。ヒトPD-ECGFのアミノ酸配列は、NCBI GenBankに受入番号AAB03344.2(482アミノ酸、2000年2月3日の時点でのバージョン)およびUniProtKB/Swiss-Prot受入番号P19971.2(2014年2月19日の時点でのUniprot version 167)で登録されている。
【0024】
本明細書で使用される場合、「抗血管新生療法に対する応答を予測する」なる用語は、抗血管新生療法を用いた治療的介入の後の医学的転帰の予測に関する。処置後の転帰は、例えば、不良もしくは良好な転帰(例えば、長期生存、全生存、疾患特異的生存、無増悪生存または無病生存の見込み)、再発、疾患進行、または死亡など、患者の進行についての任意の一般的な評価項目を用いて決定されてよい。当業者には理解されるように、応答の予測は、診断または評価される対象の100%で正しい必要はない(但し、そうであることが好ましい)。しかし、当該用語は、統計的に有意な割合の対象が、治療に応答した所与の転帰を伴う可能性が高いと特定され得ることを必要とする。対象が統計的に有意であるか否かは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、Studentのt検定、Mann-Whitney検定等、様々な周知の統計的評価手段を用いて当業者が、さらなる負担を伴うことなく、決定できる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、好ましくは0.05、0.025、0.001未満である。限定されるものではないが疾患進行のパラメータを含め、患者の応答を決定するために広く受け入れられている任意のパラメータが本発明において使用され得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、「基準値」なる用語は、対象または対象から採取したサンプルの臨床検査によって取得される値/データのための基準として使用される臨床検査値を指す。基準値または基準レベルは、絶対値、相対値、上限もしくは下限を有する値、値の範囲、算術平均値、中央値、平均値、または特定の対照もしくはベースラインの値と比較した値、であってよい。基準値は、例えば、試験される対象に由来するがより早い時点でのサンプルから取得された値など、個体のサンプルの値に基づいてよい。基準値は、実年齢を適合させたグループという対象の集団に由来するサンプルなど、多数のサンプルに基づいてよいか、または、試験されるサンプルを含むか含まないサンプルのプールに基づいてよい。好適な基準値は、癌の診断を決定するための、または抗血管新生療法で処置されている癌を有する対象の応答を予測するための、本発明の方法に関連して述べられる。
【0026】
本明細書で使用される場合、「サンプル」または「生体サンプル」なる用語は、対象から単離された生体物質を指す。生体サンプルは、RNAまたはタンパク質のレベルを検出するのに好適な任意の生体物質を含む。特定の実施形態において、サンプルは、研究中の対象に由来する遺伝物質(例えば、DNA、ゲノムDNA(gDNA)、相補DNA(cDNA)、RNA、ヘテロ核RNA(hnRNA)、mRNA等)を含む。サンプルは、例えば血液、唾液、血漿、血清、尿、脳脊髄液(CSF)、糞便、手術検体、生検から得られた検体、およびパラフィンに包埋された組織サンプルなど、任意の好適な組織または生体液から単離できる。サンプルを単離するための方法は、当業者には周知である。特に、生検からサンプルを得るための方法には、塊の大まかな分配(gross apportioning of a mass)、または顕微解剖または他の公知の細胞分離法が包含される。サンプルの保存および取り扱いを簡単にするために、サンプルを、ホルマリン固定およびパラフィン包埋することができるか、または、最初に凍結した後、急速凍結を可能にする超低温媒体に浸漬することによりOCT化合物などの低温凝固媒体(cryosolidifiable medium)中に包埋することができる。特定の実施形態において、本発明の方法に従う対象に由来するサンプルは、生体液サンプルである。特定の実施形態において、本発明の方法に従う対象に由来するサンプルは、血液、血清、血漿および組織サンプルからなる群より選択され、より好ましくは、血漿および組織サンプルからなる群より選択される。
【0027】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」なる用語は、哺乳動物として分類される全ての動物に関し、限定されるものではないが飼育動物と家畜、霊長類およびヒト(例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはげっ歯類)を包含する。好ましくは、対象は、任意の年齢、性別または人種の男性または女性のヒトである。
【0028】
本明細書で使用される場合、「処置」なる用語は、本明細書に記載されるような臨床状態に対する感受性の終結、防止、改善および/または低減を目的とする任意のタイプの治療を含む。好ましい実施形態において、処置なる用語は、予防的処置(すなわち、本明細書で定義されるような疾患または状態である臨床状態についての感受性を低減するための治療)に関する。従って、「処置」、「処置する」等の用語は、本明細書で使用される場合、所望の薬理学的および/または生理学的な効果を得ることを指し、ヒトを含む哺乳動物における病理学的な状態または疾患の任意の処置を包含する。この効果は、疾患またはその症状を完全または部分的に防止するという点で予防的であってよく、ならびに/または、疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用の部分的または完全な治癒という点で治療的であってよい。すなわち、「処置」には、(1)対象において疾患が発生または再発するのを防止すること、(2)疾患を阻害すること(その発症を阻止することなど)、(3)ホストが疾患またはその症状に苦しむことのないように疾患または少なくともそれに付随する症状を停止または終結させること(例えば喪失した機能、欠損した機能または欠陥のある機能を回復または修復するか非効率的なプロセスを刺激することによって、疾患またはその症状の退行を引き起こすことなど)、あるいは(4)炎症、疼痛および/または免疫不全など、疾患またはそれに付随する症状を軽減、緩和または改善すること(ここで、改善は、広い意味で使用され、パラメータの大きさの低減を少なくとも指す)が包含される。
【0029】
本発明の癌の診断方法
本発明の著者等は、組織サンプルを免疫組織化学によって分析したところ、非癌性組織サンプルではPD-ECGFの発現は検出されない(12のうち0、0%)が、69人のRCC患者のうち67(97%超)の組織サンプルで、および乳癌患者由来の組織サンプルでは16のうち9(56%)で、PD-ECGFタンパク質の発現が検出されるということを見出した(実施例1を参照のこと)。同様に、ELISAによって分析したところ、16人のRCC患者のうち14(87%超)の血漿サンプルで、乳癌患者由来の血漿サンプルでは16のうち11(69%)で、および結腸直腸癌患者由来の血漿サンプルでは58のうち52(90%)で、PD-ECGFの発現が観察された(実施例2を参照のこと)。
【0030】
従って、第1の態様では、本発明は、対象における癌の診断のための方法であって、
(i)前記対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルを決定することと、
(ii)(i)で得られたレベルを基準値と比較することと、
を含み、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して増加している場合には、対象は癌と診断され、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して減少している場合には、対象は癌と診断されない、
方法に関する。
【0031】
従って、本発明の診断方法の第1のステップでは、診断が決定されるべき対象に由来するサンプルにおいてPD-ECGFの発現レベルが決定される。PD-ECGFの発現レベルが決定されるサンプルは、潜在的腫瘍に由来する細胞を含む任意のサンプルであってよい。特定の実施形態において、潜在的腫瘍に由来する細胞を含むサンプルは、生体液サンプルである。特定の実施形態において、潜在的腫瘍に由来する細胞を含むサンプルは、潜在的腫瘍組織またはその一部である。より特定の実施形態において、前記潜在的腫瘍組織サンプルは、腎臓癌の診断が決定されるべき患者に由来する腎臓組織サンプル、または乳癌の診断が決定されるべき患者に由来する乳房組織サンプル、または結腸直腸癌の診断が決定されるべき患者に由来する結腸直腸組織サンプルである。前記サンプルは、従来の方法(例えば、生検、外科的切除または吸引)によって、関連する医療分野の当業者に周知の方法を用いることによって、得ることができる。生検からサンプルを得るための方法には、塊の大まかな分配、または顕微解剖または他の公知の細胞分離法(腎摘出および部分的腫瘍摘出を含む)が包含される。腫瘍細胞はさらに、穿刺吸引細胞診から得ることができる。サンプルの保存および取り扱いを簡単にするために、サンプルを、ホルマリン固定およびパラフィン包埋することができるか、または、最初に凍結した後、急速凍結を可能にする超低温媒体に浸漬することによりOCT化合物などの低温凝固媒体中に包埋することができる。
【0032】
別の実施形態において、PD-ECGFの発現レベルが決定されるサンプルは、診断が決定されるべき患者に由来する生体液である。好ましい実施形態において、生体液は、血液(特に末梢血)、血漿または血清から選択される。血液サンプルは、典型的には、動脈または静脈(通常は肘の内側部分または手の甲の静脈)を穿刺することによって抜き出され、血液サンプルは、気密性のあるバイアルまたはシリンジに回収される。微量法による分析のために、通常は踵または指の末節骨における毛細血管穿刺を行うことができる。血清は、全血サンプルから抗凝固剤の非存在下で、サンプルが凝固するようにサンプルを10分間静置した後、血清(上清)から細胞(沈殿物)を分離する目的で1,500rpmにて10分間、サンプルを遠心分離することによって得ることができる。次に、血漿サンプルを得るために、全血を抗凝固剤と接触させ、3,000rpmにて20分間、遠心分離する。前記遠心分離の沈殿物は有形成分に該当し、上清は血漿に該当する。得られた血清または血漿は、本発明の方法によるサンプル分析のために保存用チューブに移されてよい。
【0033】
本発明の診断方法の特定の実施形態において、PD-ECGFの発現レベルが決定されるサンプルは、血漿サンプルまたは組織サンプルである。特定の実施形態では、乳癌の診断が決定されるべき場合、血漿サンプルにおいて、または乳房組織サンプルにおいて、PD-ECGFの発現レベルが決定される。特定の代替的実施形態では、腎細胞癌(RCC)の診断が決定されるべき場合、血漿サンプルにおいて、または腎臓組織サンプルにおいて、PD-ECGFの発現レベルが決定される。別の特定の代替的実施形態では、結腸直腸癌の診断が決定されるべき場合、血漿サンプルにおいて、または結腸直腸組織サンプルにおいて、PD-ECGFの発現レベルが決定される。
【0034】
前述の通り、遺伝子の発現レベルは、当該遺伝子、または前記遺伝子によりコードされるタンパク質、または前記遺伝子によりコードされるタンパク質(すなわちPD-ECGFタンパク質)、またはそれらのバリアント、のメッセンジャーRNAのレベルを測定することによって定量できる。PD-ECGFタンパク質のバリアントには、タンパク質の機能が維持されるという条件で、タンパク質の全ての生理学的に適切な翻訳後化学修飾形態(例えば、グリコシル化、リン酸化、アセチル化等)が包含される。前記用語は、限定されるものではないが飼育動物と家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯類)、霊長類およびヒトを含む任意の哺乳動物種のPD-ECGFタンパク質を包含する。好ましくは、PD-ECGFタンパク質はヒトタンパク質である。
【0035】
遺伝子のmRNAレベルを測定するために、生体サンプルを処理して組織または細胞の構造を物理的、機械的または化学的に破壊し、細胞内成分を水溶液または有機溶液中に放出させて、さらなる分析のための核酸を調製してよい。核酸は、当業者に公知であり商業的に利用可能な手順によってサンプルから抽出される。次に、当技術分野で典型的な方法(例えば、Sambrook,J.,et al.,2001.Molecular cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,N.Y.,Vol.1-3)のいずれかによって凍結サンプルまたは新鮮なサンプルからRNAが抽出される。好ましくは、抽出プロセス中のRNAの分解を避けるように配慮がなされる。
【0036】
発現レベルは、ホルマリン固定されパラフィン包埋された組織サンプルから得られたmRNAを用いて決定できる。mRNAは、最初に脱パラフィンされる保管された病理サンプルまたは生検サンプルから単離されてよい。例示的な脱パラフィンの方法は、キシレンなどの有機溶媒でパラフィン化サンプルを洗浄することを伴う。脱パラフィンされたサンプルは、低級アルコールの水溶液で再水和できる。好適な低級アルコールには、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールが包含される。脱パラフィンされたサンプルは、例えば、濃度を減少させながら低級アルコール溶液を用いる連続的洗浄により再水和されてよい。あるいは、サンプルは、同時に脱パラフィンおよび再水和される。次に、サンプルが溶解され、サンプルからRNAが抽出される。サンプルはまた、切除された腫瘍など、新鮮な腫瘍組織から得ることもできる。特定の実施形態において、サンプルは、新鮮な腫瘍組織またはOCT包埋凍結組織から得ることができる。別の好ましい実施形態において、サンプルは、結腸内視鏡検査によって得ることができ、その後にパラフィン包埋できる。
【0037】
異なるサンプル間でmRNAの発現の値を標準化するために、試験サンプル中の目的のmRNAの発現レベルを対照RNAの発現と比較することが可能である。本明細書で使用される場合、「対照RNA」は、その発現レベルが腫瘍細胞において、非腫瘍原性細胞に対して変化しないか限られた量でしか変化しないRNAに関する。好ましくは、対照RNAは、ハウスキーピング遺伝子に由来するmRNAであり、ハウスキーピング遺伝子は、恒常的に発現され必須の細胞機能を果たすタンパク質をコードする。本発明における使用のための好ましいハウスキーピング遺伝子には、β-2-ミクログロブリン、ユビキチン、18-Sリボソームタンパク質、シクロフィリン、IPO8、HPRT、GAPDH、PSMB4、チューブリンおよびβ-アクチンが包含される。好ましい実施形態において、対照RNAは、GAPDH、IPO8、HPRT、β-アクチン、18-Sリボソームタンパク質またはPSMB4のmRNAである。
【0038】
一実施形態において、相対的な遺伝子発現の定量化は、内因性の対照としてGAPDH、IPO8、HPRT、β-アクチンまたはPSMB4を、キャリブレーターとして市販のRNA対照を用いて、比較閾値サイクル(Ct)法に従って算出される。最終的な結果は、式:2-(サンプルのΔCt-キャリブレーターのΔCt)に従って決定され、ここで、キャリブレーターとサンプルのΔCT値は、対照遺伝子の値から標的遺伝子のCt値を差し引くことによって決定される。
【0039】
mRNAレベルで遺伝子発現レベルを決定するのに好適な方法には、限定されるものではないが、qPCR、RT-PCR、RNA保護解析、ノーザンブロット、RNAドットブロット、in situハイブリダイゼーション、マイクロアレイ技術、タグを利用した方法(LongSAGEおよびSuperSAGEなどの変形を含む遺伝子発現の連続分析(SAGE)など)、マイクロアレイ、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)(Flow-FISH、qFiSHおよび二重融合FISH(D-FISH)などの変形を含む)等など、mRNAの発現レベルを決定するための標準的なアッセイが包含される。
【0040】
タンパク質レベルで遺伝子発現レベルを決定するのに好適な方法には、限定されるものではないが、前記遺伝子によりコードされるタンパク質(または抗原決定基を含むその断片)に特異的に結合する能力を有する抗体を用いることと、その後の、得られた抗体-抗原複合体の定量化など、タンパク質の発現レベルを決定するための従来の方法が包含される。特定の実施形態において、PD-ECGFのタンパク質レベルは、ウエスタンブロットもしくはウエスタントランスファー、ELISA(酵素結合免疫吸着測定)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、競合的EIA(競合的酵素免疫測定)、DAS-ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的手法および免疫組織化学的手法、特異的抗体を含むタンパク質のバイオチップもしくはマイクロアレイの使用に基づいた手法、または、ディップスティックなどの形式のコロイド沈殿に基づいたアッセイなど、タンパク質の発現レベルを決定するための標準的なアッセイを用いることによって定量できる。
【0041】
これらのアッセイにおいて利用される抗体は、例えば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマ上清またはモノクローナル抗体、抗体断片、Fv、Fab、Fab’およびF(ab’)2、ScFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびヒト化抗体であってよい。同時に、抗体は、標識されていてもいなくてもよい。使用できるマーカーの例示的ではあるが非排他的な例としては、放射性同位体、酵素、フルオロフォア、化学発光試薬、酵素の基質または補因子、酵素の阻害剤、粒子、着色剤等が挙げられる。本発明において用いることができる幅広い様々な周知のアッセイが存在し、これらは、非標識化抗体(一次抗体)および標識化抗体(二次抗体)を使用する。これらの手法には、ウエスタンブロットもしくはウエスタントランスファー、ELISA、RIA、競合的EIA、DAS-ELISA、免疫細胞化学的手法および免疫組織化学的手法、特異的抗体を含むタンパク質のバイオチップもしくはマイクロアレイの使用に基づいた手法、または、ディップスティックなどの形式のコロイド沈殿に基づいたアッセイが包含される。目的のタンパク質のレベルを検出および定量する他の方法には、アフィニティークロマトグラフィー、結合リガンドアッセイ(binding-ligand assay)等が包含される。
【0042】
一方、PD-ECGFタンパク質のレベルの決定は、アセンブルされた対象のサンプルを含む組織マイクロアレイ(TMA)を構築し、該当するタンパク質の発現レベルを免疫組織化学手法により決定することによって行うことができる。免疫染色強度は、方法の再現性を維持するために、2人以上の異なる病理学者によって評価され、一様で明確なカットオフ基準を用いてスコア付けされてよい。不一致は、同時に再評価することによって解決できる。簡潔に説明すると、免疫染色の結果は、腫瘍細胞における発現および各マーカーについての特定のカットオフを考慮に入れて、発現陰性(0)対発現陽性、および低発現(1+)対中程度の発現(2+)と高発現(3+)として記録できる。一般的な基準として、カットオフは、再現性を容易にするために、および可能であれば生物学的事象を翻訳するために、選択される。あるいは、免疫染色強度は、イメージング技術および自動化された方法(Rojo,M.G.et al.(Folia Histochem.Cytobiol.2009;47:349-54)またはMulrane,L.et al.(Expert Rev.Mol.Diagn.2008;8:707-25)に開示されるものなど)を用いることによって評価できる。
【0043】
あるいは、別の特定の実施形態において、PD-ECGFタンパク質のレベルは、ウエスタンブロットによって決定される。ウエスタンブロットは、変性条件下でのゲル電気泳動によって予め分離されメンブレン(一般的にはニトロセルロース)上に固定化されたタンパク質の、特異的抗体とのインキュベーションおよび現像システム(例えば化学発光)による検出に基づく。
【0044】
特定の実施形態において、本発明の診断方法において決定されるべきPD-ECGFの発現レベルは、PD-ECGFのタンパク質レベルとして決定される。より特定の実施形態において、PD-ECGFのタンパク質レベルは、ELISA、ウエスタンブロットまたは免疫組織化学によって決定される。
【0045】
本明細書で使用される場合、タンパク質(より具体的には酵素)の「活性レベル」なる用語は、特に単位時間あたりに変換される基質のモルとして測定される、酵素活性の尺度を指す。
【0046】
酵素の活性レベルを決定するためのアッセイは当業者に公知であり、これには、限定されるものではないが、初速度アッセイ、プログレス曲線アッセイ、遷移キネティクスアッセイ(transient kinetics assay)および緩和アッセイ(relaxation assay)が包含される。酵素活性の連続的アッセイには、限定されるものではないが、分光光度測定アッセイ、蛍光定量アッセイ、熱量測定アッセイ、化学発光アッセイ、光散乱アッセイおよびマイクロスケールのサーモフェレーシスアッセイ(microscale thermopheresis assay)が包含される。酵素活性の非連続的アッセイには、限定されるものではないが、放射測定アッセイおよびクロマトグラフィーアッセイが包含される。当業者には理解されるように、酵素活性に影響する可能性がある因子には、塩濃度、温度、pH、および基質濃度が含まれる。
【0047】
本発明の診断方法の第2のステップにおいて、診断が決定されるべき対象に由来するサンプルにおけるPD-ECGFの発現レベルは、基準値と比較される。
【0048】
対象における癌の診断のための本発明の方法に関しては、基準値は、健康な対象(すなわち、癌と診断されない対象)に由来するサンプルまたは癌と診断される対象に由来する非腫瘍組織サンプルにおいて決定されるPD-ECGFの発現レベルであり、好ましくは、基準値は、健康な対象または癌と診断されない対象に由来するサンプルにおいて決定されるPD-ECGFの発現レベルである。
【0049】
この基準値が確立されると、サンプル中で発現しているPD-ECGFのレベルを前記基準値と比較でき、従って「増加した」または「減少した」発現のレベルを割り当てることができる。例えば、基準値と比較して少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍または100倍超という、基準値を超える発現レベルの増加は、「増加した」発現レベルとみなされる。一方、基準値と比較して少なくとも0.9倍、0.75倍、0.2倍、0.1倍、0.05倍、0.025倍、0.02倍、0.01倍、0.005倍または0.005倍未満という、基準値を下回る発現レベルの減少は、「減少した」発現レベルとみなされる。
【0050】
従って、基準値と比較した場合に、診断が決定されるべき対象に由来するサンプルにおけるPD-ECGFの発現レベルの増加が観察されるのであれば、その対象は癌と診断される。あるいは、基準値と比較した場合に、診断が決定されるべき対象に由来するサンプルにおけるPD-ECGFの発現レベルの減少が観察されるのであれば、その対象は癌と診断されない。
【0051】
本発明による、抗血管新生療法に対する応答を予測するための方法
本発明の著者等は、癌患者において決定されたPD-ECGFのレベルが、抗血管新生療法による処置の後に患者が早期進行を示すというリスクとの統計的に有意な相関を示すということを見出した。従って、さらなる態様では、本発明は、癌に罹患しており抗腫瘍処置を受けている対象において処置に対する応答を予測するための方法であって、
(i)前記対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルを決定することと、
(ii)(i)で得られたレベルを基準値と比較することと、
を含み、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して増加している場合、それは、処置に対する癌患者の不良な応答を示しており、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して減少している場合、それは、処置に対する癌患者の良好な応答を示している、
方法に関する。
【0052】
特定の実施形態において、本発明は、癌に罹患している対象の抗血管新生療法に対する応答を予測するための方法であって、
(i)前記対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルを決定することと、
(ii)(i)で得られたレベルを基準値と比較することと、
を含み、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して増加している場合、それは、抗血管新生療法に対する悪い応答を示しており、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して減少している場合、それは、抗血管新生療法に対する良好な応答を示している、
方法に関する。
【0053】
より特定の実施形態において、本発明は、癌に罹患している対象の抗血管新生療法に対する応答を予測するための方法であって、
(i)前記対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルを決定することと、
(ii)(i)で得られたレベルを基準値と比較することと、
を含み、
前記抗血管新生療法はドキソルビシン療法またはインターフェロン療法ではなく、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して増加している場合、それは、抗血管新生療法に対する悪い応答を示しており、
対象に由来するサンプル中のPD-ECGFのレベルが基準値と比較して減少している場合、それは、抗血管新生療法に対する良好な応答を示している、
方法に関する。
【0054】
抗血管新生療法に対する応答を予測するための本発明の方法の第1のステップでは、処置に対する応答が予測されるべき癌に罹患している対象に由来するサンプルにおいてPD-ECGFの発現レベルが決定される。
【0055】
PD-ECGFの発現レベルが決定されるサンプルは、腫瘍に由来する細胞を含む任意のサンプルであってよい。特定の実施形態において、潜在的腫瘍に由来する細胞を含むサンプルは、生体液サンプルである。特定の実施形態において、腫瘍に由来する細胞を含むサンプルは、腫瘍組織またはその一部である。より特定の実施形態において、前記腫瘍組織サンプルは、腎臓癌の抗血管新生療法に対する応答が予測されるべき患者に由来する腎臓腫瘍組織サンプル、または乳癌の抗血管新生療法に対する応答が予測されるべき患者に由来する乳房腫瘍組織サンプル、または結腸直腸癌の抗血管新生療法に対する応答が予測されるべき患者に由来する結腸直腸腫瘍組織サンプルである。前記サンプルは、従来の方法(例えば、生検、外科的切除または吸引)によって、関連する医療分野の当業者に周知の方法であって本発明の診断方法に関連して前述された方法を用いることによって、得ることができる。一実施形態において、腫瘍細胞を含むサンプルは、原発性腫瘍のサンプルである。別の実施形態において、腫瘍は転移性腫瘍であり、PD-ECGFのレベルが決定されるサンプルは、転移癌に由来するサンプルである。
【0056】
別の実施形態において、PD-ECGFの発現レベルが決定されるサンプルは、処置に対する応答が予測されるべき癌に罹患している患者に由来する生体液である。好ましい実施形態において、生体液は、血液(特に末梢血)、血漿または血清から選択される。血液、血清および血漿のサンプルの取得のための方法は、当業者には公知であり、本発明の診断方法に関連して前述されている。
【0057】
抗血管新生療法に対する応答を予測するための本発明の方法の特定の実施形態において、PD-ECGFの発現レベルが決定されるサンプルは、血漿サンプルまたは組織サンプルである。特定の実施形態では、乳癌の抗血管新生療法に対する応答が予測されるべき場合、血漿サンプルにおいて、または乳房腫瘍組織サンプルにおいて、PD-ECGFの発現レベルが決定される。特定の代替的実施形態では、腎細胞癌(RCC)の抗血管新生療法に対する応答が予測されるべき場合、血漿サンプルにおいて、または腎臓腫瘍組織サンプルにおいて、PD-ECGFの発現レベルが決定される。別の特定の代替的実施形態では、結腸直腸癌の抗血管新生療法に対する応答が予測されるべき場合、血漿サンプルにおいて、または結腸直腸腫瘍組織サンプルにおいて、PD-ECGFの発現レベルが決定される。
【0058】
前述の通り、遺伝子の発現レベルは、当該遺伝子、または前記遺伝子によりコードされるタンパク質、または前記遺伝子によりコードされるタンパク質(すなわちPD-ECGFタンパク質)、またはそれらのバリアント、のメッセンジャーRNAのレベルを測定することによって定量できる。PD-ECGFタンパク質のバリアントは上述されており、ここに組み込まれる。
【0059】
mRNAレベルおよびタンパク質レベル(特にPD-ECGFのmRNAレベルおよびPD-ECGFのタンパク質レベル)に基づいて発現レベルを決定するための方法は、本発明の診断方法に関連して前述されており、ここに組み込まれる。
【0060】
特定の実施形態において、本発明の方法の抗血管新生療法に対する応答の予測において決定されるべきPD-ECGFの発現レベルは、PD-ECGFのタンパク質レベルとして決定される。より特定の実施形態において、PD-ECGFのタンパク質レベルは、ELISA、ウエスタンブロットまたは免疫組織化学によって決定される。
【0061】
特定の実施形態において、処置に対する応答の予測が本発明の方法によって決定されるべき癌に罹患している対象は、抗血管新生療法を受けており、ここで、癌の前記抗血管新生療法は、少なくとも1種の抗血管新生剤に基づく。
【0062】
本発明に従う抗血管新生剤および抗血管新生療法には、限定されるものではないが、ベバシズマブ(アバスチン;インビトロおよびインビボのアッセイ系においてヒトVEGFAに結合し、その生物学的活性を阻害する組換えヒト化モノクローナルIgG1抗体)などのモノクローナル抗体、ラニビズマブ(ルセンティス)などの抗体派生物、またはFab IMC 1121もしくはF200 Fabなどの抗体断片、またはVEGFによって刺激されるチロシンキナーゼを阻害する経口利用可能な小分子(ラパチニブ(タイケルブ)、スニチニブ(スーテント)、ソラフェニブ(ネクサバール)、アキシチニブおよびパゾパニブなど)を含む、抗VEGF剤;スラミンおよびその派生物、ペントサンポリサルフェート、セジラニブ、パゾパニブまたはBIBF 1120などの抗線維芽細胞増殖因子(抗FGF)剤;抗体EGF剤(セツキシマブ、ゲフィチニブまたはエルロチニブなど)および抗HGF剤(ARQ197、JNJ-38877605、PF-04217903、SGX523、NK4またはAMG102など);ならびに、アンジオスタチン、エンドスタチン、抗血管新生アンチトロンビンIIIまたはsFRP-4などの抗血管新生ポリペプチド、が包含される。
【0063】
さらなる抗血管新生剤には、マリマスタット;AG3340;COL-3、BMS-275291、サリドマイド、エンドスタチン、SU5416、SU6668、EMD121974、2-メトキシエストラジオール、カルボキシアミドトリアゾール、CMIOI(GBSトキシン)、ペントサンポリサルフェート、アンジオポエチン2(Regeneron)、ハービマイシンA、PNU145156E、16Kプロラクチン断片、リノマイド、サリドマイド、ペントキシフィリン、ゲニステイン、TNP470、エンドスタチン、パクリタキセル、アキュチン(accutin)、アンジオスタチン、シドフォビル、ビンクリスチン、ブレオマイシン、AGM-1470、血小板第4因子またはミノサイクリンが包含される。
【0064】
さらなる抗血管新生剤には、限定されるものではないがアンジオスタチン、エンドスタチン、抗血管新生アンチトロンビンIII、国際公開第2007115376号に記載されるようなsFRP-4、抗VEGF抗体(アニビズマブ(anibizumab)、ベバシズマブ(アバスチン)、Fab IMC 1121およびF200 Fabなど)を含む、血管新生を阻害することが可能なポリペプチドを表す抗血管新生ポリペプチドが包含される。
【0065】
さらなる抗血管新生剤には、ペガプタニブ、スニチニブ、パゾパニブ、ソラフェニブ、バタラニブおよびアフリベルセプト(VEGF-Trap)が包含される。
【0066】
さらなる抗血管新生剤には、ラムシルマブ(IMC-1121B)およびDC101(抗Flk-1 mAbとしても知られている)など、VEGFR2遮断抗体が包含される。
【0067】
特定の実施形態において、抗血管新生剤は、スニチニブ、ベバシズマブおよびDC101を含む群から選択される。
【0068】
一実施形態において、抗血管新生療法は、アントラサイクリン系抗生物質を含む処置ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、ドキソルビシンを含む処置ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、インターフェロンを含む処置ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、I型インターフェロンおよび/またはII型インターフェロンを含む処置ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、IFN-α、IFN-β、IFN-ε、IFN-κおよびIFN-ωを含む処置ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、IFN-γを含む処置ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、補助療法(すなわち、腫瘍の外科的切除の後のもの)である。一実施形態において、抗血管新生療法は、インターフェロンを含む補助療法ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、I型インターフェロンおよび/またはII型インターフェロンを含む補助療法ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、IFN-α、IFN-β、IFN-ε、IFN-κおよびIFN-ωを含む補助療法ではない。別の実施形態において、抗血管新生療法は、IFN-γを含む補助療法ではない。
【0069】
特定の作用物質の抗血管新生活性を決定するためのアッセイは、限定されるものではないが国際公開第2003086299号に記載されている。
【0070】
本発明の方法の応答の予測の第2のステップにおいて、抗血管新生療法に対する予測が決定されるべき癌に罹患している対象に由来するサンプルにおけるPD-ECGFの発現レベルは、基準値と比較される。
【0071】
抗血管新生療法による処置に対する対象における癌の応答の予測のための本発明の方法に関しては、好適な基準値は、抗血管新生療法による処置に対して良好な応答を示した癌を有するか有していた対象に由来するサンプルにおいて決定されたPD-ECGFの発現レベルであってよく、前記発現レベルは、患者が処置されていた時点で決定されたものである。別の実施形態において、基準値は、健康な患者(すなわち、治療に対する応答の予測が望まれる癌腫と診断されていない患者)におけるPD-ECGFのレベルである。
【0072】
この基準値が確立されると、サンプル中で発現しているPD-ECGFのレベルを前記基準値と比較でき、従って「増加した」または「減少した」発現のレベルを割り当てることができる。例えば、基準値と比較して少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍または100倍超という、基準値を超える発現レベルの増加は、「増加した」発現レベルとみなされる。一方、基準値と比較して少なくとも0.9倍、0.75倍、0.2倍、0.1倍、0.05倍、0.025倍、0.02倍、0.01倍、0.005倍または0.005倍未満という、基準値を下回る発現レベルの減少は、「減少した」発現レベルとみなされる。
【0073】
従って、基準値と比較した場合に、処置に対する応答の予測が決定されるべき癌に罹患している対象に由来するサンプルにおけるPD-ECGFの発現レベルの増加が観察されれば、それは、処置に対する不良な応答を示している。あるいは、基準値と比較した場合に、処置に対する応答の予測が決定されるべき癌に罹患している対象に由来するサンプルにおけるPD-ECGFの発現レベルの減少が観察されれば、それは、処置に対する良好な応答を示している。
【0074】
本発明の使用
別の態様では、本発明は、対象における癌の診断および/または抗血管新生療法に対する癌患者の応答の予測におけるPD-ECGFの使用に関する。より具体的には、本発明は、対象における癌の診断および/または抗血管新生療法に対する癌患者の応答の予測におけるPD-ECGFの使用であって、前記抗血管新生療法はドキソルビシン療法またはインターフェロン療法ではない、使用に関する。
【0075】
「癌の診断」および「抗血管新生療法に対する癌患者の応答の予測」なる用語は、上記で定義されており、本発明による使用に同等に適用可能である。好ましい実施形態において、癌は、腎細胞癌(RCC)、乳癌および結腸直腸癌からなる群より選択される。好ましい実施形態において、本発明による使用は、PD-ECGFポリペプチドの使用を含む。一実施形態において、PD-ECGFポリペプチドは、抗体またはアプタマーなど、PD-ECGFに特異的に結合することが可能な試薬を用いてそのレベルを決定することによって使用される。好ましい実施形態において、本発明による使用は、PD-ECGFポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用を含む。一実施形態において、PD-ECGFポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、特異的プライマーのセットまたはプローブなど、PD-ECGFをコードするポリヌクレオチドに特異的に結合することが可能な試薬を用いてそのレベルを決定することによって使用される。
【0076】
以下の実施例によって本発明を以下で説明するが、以下の実施例は、例示的なものに過ぎず、決して本発明の範囲を限定するものではないとみなされるべきである。
【実施例】
【0077】
実施例1:患者における癌の検出、診断およびモニタリングのための癌マーカーとしての組織PD-ECGFレベルの特定。免疫組織化学による、非癌性組織サンプルまたは腫瘍組織サンプルにおけるPD-ECGFのタンパク質レベルの決定。
【0078】
患者に由来する腫瘍において免疫検出によりPD-ECGFの発現を分析した。マウスモノクローナル抗チミジン(thymidime)ホスホリラーゼ[P-GF、44C]抗体を使用した(Abcam、ab3151)。
【0079】
結果は、以下のことを示した。
・12の非癌性組織において、PD-ECGFは検出されなかった。従って、癌患者において非癌性組織のPD-ECGFのレベルと腫瘍塊のPD-ECGFのレベルとの間には有意な差がある(Mann-Whitney検定、p<0.0001)(
図1)。
・免疫組織化学によって分析したところ、69人のRCC患者のうち67(97%超)の組織サンプルで、および乳癌患者由来の組織サンプルでは16のうち9(56%)で、PD-ECGFのタンパク質発現が観察された。
・PD-ECGFは種々の局在(膜、細胞質および核)を有し、これは、局在に応じた発現の種々の度合を評価することを可能にする。
・PD-ECGFは、各腫瘍の固有の特徴に依存した種々の発現レベルを示す。
【0080】
PD-ECGFの基底(処置前の)発現レベルを分析したところ、腫瘍は、おそらくは各腫瘍の固有の特徴に依存して、種々の基底発現レベルを示す(
図2および
図3)ということが観察された。
【0081】
実施例2:患者における癌の検出、診断およびモニタリングのための癌マーカーとしての血漿PD-ECGFレベルの特定。ELISAによる、血漿サンプルにおけるPD-ECGFのタンパク質レベルの決定。
【0082】
健康な対象および癌患者に由来する血漿においてELISAによりPD-ECGFの発現を分析した。ヒトチミジンホスホリラーゼ、TP ELISA Kit[CSB-E10814h]を使用した。
【0083】
結果は、以下のことを示した。
・癌患者と比較して、健康な対象では血漿PD-ECGFレベルは検出できなかった。定量的には、健康な対象のPD-ECGFレベルと癌患者におけるPD-ECGFの血漿レベルとの間には統計的に有意な差がある(Mann-Whitney検定、p=0.0013)(
図5)。
・ELISAによって分析したところ、16人のRCC患者のうち14(87%超)の血漿サンプルで、乳癌患者由来の血漿サンプルでは16のうち11(69%)で、および結腸直腸癌患者由来の血漿サンプルでは58のうち52(90%)で、PD-ECGFのタンパク質発現が観察された。
・PD-ECGFは、各患者の特徴に依存した種々の発現レベルを示す。
・PD-ECGFの基底発現レベルを分析したところ、患者は、おそらくは各患者の固有の特徴に依存して、種々の基底発現レベルを示す(
図6、
図7および
図8)ということが観察された。
【0084】
実施例3:免疫組織化学およびELISAによる、抗血管新生療法に対する応答の予測因子としてのPD-ECGFの特定。
【0085】
患者に由来する腫瘍において免疫検出によりPD-ECGFの発現を分析した。マウスモノクローナル抗チミジンホスホリラーゼ[P-GF、44C]抗体を使用した(Abcam、ab3151)。
【0086】
結果は、以下のことを示した。
・63人の患者に由来するRCC組織サンプルにおいてPD-ECGFを評価した。RCC患者においてPD-ECGFの組織レベルの高さと早期進行のリスクの高さとの間には有意な関連性がある(Kaplan-Meier検定とGehan-Breslow-Wilcoxon検定、p=0.045)(
図4)。
【0087】
一方で、患者に由来する血漿においてELISAによりPD-ECGFの発現を分析した。ヒトチミジンホスホリラーゼ、TP ELISA Kit[CSB-E10814h]を使用した。
【0088】
結果は、以下のことを示した。
・52人の患者に由来する結腸直腸癌血漿サンプルにおいてPD-ECGFを評価した。結腸直腸癌患者においてPD-ECGFの血漿レベルと早期進行のリスクとの間には、疾患進行におけるPD-ECGFのレベルについての有意なハザード比によって表される有意な関連性がある(ハザード比の事後確率を用いてデータを評価し、ハザード比が1より高い事後確率は0.041に相当した。これは、腫瘍進行とPD-ECGFのレベルとの間の関連性を示す)(
図9)。
・14人の患者に由来するRCC血漿サンプルにおいてPD-ECGFを評価した。RCC患者においてPD-ECGFの血漿レベルの高さと早期進行のリスクの高さとの間には有意な関連性がある(Kaplan-Meier検定とLog rank(Mantel-Cox)検定、p<0.07)(
図10)。
【0089】
従って、PD-ECGFの発現は、処置される患者における癌の進行を予測する上で潜在的価値を有する。これらの発見は、RCC、乳癌、結腸直腸癌および他の癌種のための処置に対する応答の予測価値を有する新規のバイオマーカーとしてのPD-ECGFの使用を裏付ける。
【0090】
実施例4:PD-ECGFの発現レベルと癌の予後
PD-ECGFの発現レベルと癌の予後との間の関係を分析するために、本願の発明者等は、cBioPortal for Cancer Genomics(www.cbioportal.org)を使用することにより、PD-ECGFの低発現または高発現を伴う癌患者に基づいてKaplan-Meier生存曲線を生成した(
図A-M)。
【0091】
以下のプロトコルに従って
図11~
図23を生成した:ウェブサイトwww.cbioportal.orgのホームページ上の「Query」を選択。Select Cancer Studyから「studies in cancer patients(
*)」を選択。「Select Genomic Profiles」において「mRNA Expression z-Scores(RNA Seq V2 RSEM)」のみを選択。「Enter Gene set」、「TYMP」を入力した後、「Submit」をクリック。Oncoprintが変化のパーセンテージ(以下の表1および表2を参照のこと)を示し、「Survival」タブをクリックすると全生存Kaplan-Meier推定(overall survival Kaplan-Meier Estimate)が表示される。
【0092】
【0093】
【0094】
結果は、以下のことを示した:
・PD-ECGFの変化を伴う結腸直腸腺癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも無病生存が悪い(
図11);
・PD-ECGFの変化を伴う膠芽腫の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも全生存が悪い(
図12);
・PD-ECGFの変化を伴う腎臓腎明細胞癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも全生存が悪い(
図13);
・PD-ECGFの変化を伴う腎臓腎明細胞癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも無病生存が悪い(
図14);
・PD-ECGFの変化を伴う腎臓腎明細胞癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも全生存が悪い(
図15);
・PD-ECGFの変化を伴う腎臓腎乳頭細胞癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも無病生存が悪い(
図16);
・PD-ECGFの変化を伴う肺腺癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも全生存が悪い(
図17);
・PD-ECGFの変化を伴う肺腺癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも無病生存が悪い(
図18);
・PD-ECGFの変化を伴う前立腺腺癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも無病生存が悪い(
図19);
・PD-ECGFの変化を伴う精巣胚細胞癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも全生存が悪い(
図20);
・PD-ECGFの変化を伴う胸腺腫の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも全生存が悪い(
図21);
・PD-ECGFの変化を伴う胸腺腫の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも無病生存が悪い(
図22);および
・PD-ECGFの変化を伴う甲状腺乳頭癌の症例では、PD-ECGFの変化を伴わない症例よりも全生存が悪い(
図23)。