(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】液状急結剤、吹付けコンクリート
(51)【国際特許分類】
C04B 22/14 20060101AFI20240312BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240312BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240312BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20240312BHJP
C04B 103/10 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C04B22/14 A
C04B22/06 Z
C04B28/02
E21D11/10 D
C04B103:10
(21)【出願番号】P 2022153727
(22)【出願日】2022-09-27
【審査請求日】2023-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】三島 俊一
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111499248(CN,A)
【文献】特開昭61-040853(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148523(WO,A1)
【文献】特開2014-152058(JP,A)
【文献】特開2018-030731(JP,A)
【文献】国際公開第2022/097495(WO,A1)
【文献】特開2002-053356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムがAl
2O
3換算で9.0~15.0質量%、硫黄がSO
3換算で22.0~35.0質量%含有され、透過光を用いた光学顕微鏡観察による分散粒子のHeywood平均径が3~30μmであ
り、
前記分散粒子が不溶解分の硫酸アルミニウムを含む液状急結剤。
【請求項2】
アルミニウムがAl
2
O
3
換算で9.0~14.0質量%、硫黄がSO
3
換算で22.0~33.0質量%含有され、
透過光を用いた光学顕微鏡観察による分散粒子のHeywood平均径が3~30μmである液状急結剤。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の液状急結剤を含む吹付けコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状急結剤及び吹付けコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために、急結剤をコンクリートに混合した急結性コンクリートの吹付け工法が用いられている。この工法は、掘削工事現場に設置した計量プラントで材料を計量混合して吹付けコンクリートを調製し、ポンプで圧送、途中で合流管の他方から圧送した急結剤と混合し、地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
【0003】
吹付け工法に使用される急結剤は大きく分類すると、カルシウムアルミネートやアルカリ金属アルミン酸塩等を主成分とする粉体急結剤と、アルカリ金属アルミン酸塩や硫酸アルミニウムなどを主成分とする液状急結剤の2種類が挙げられる。
【0004】
近年では、トンネル建設現場等に従事する作業者の健康確保の観点から、吹付け時の粉塵量が少なく、アルカリ薬傷の懸念がないアルミニウム塩を主成分とする酸性の液状急結剤の使用が望まれている。
【0005】
一方で、液状急結剤は、粉体急結剤と比較して急結性が低い課題があった。そこで、急結性改善策として、例えば特許文献1に示されるような硫酸イオン濃度を高めることによって強度を改善させる対策がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のような硫酸イオン濃度の高い液状急結剤は、液中に不安定な析出物が生成したり、液がゲル化したり、懸濁粒子が沈降したりする場合があった。硫酸アルミニウムの水に対する溶解度は20℃で27質量%であり、共存する溶質や液温によって変動するが、溶解度以上の硫酸アルミニウムを含有する液状急結剤は、分散状態の硫酸アルミニウム粒子(分散粒子)が沈降する等して貯蔵安定性が低くなり、製造直後の性状を保持することが難しい課題があった。特に、現場で施工する際には、製造直後、具体的には、製造から1日経過後までの間で良好な貯蔵安定性が必要とされる。
【0008】
以上より、本発明は、優れた急結性及び強度発現性を有し、製造直後の貯蔵安定性が良好な液状急結剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような課題を踏まえて鋭意検討を行った結果、所定のアルミニウムと硫黄濃度を有し、析出粒子の粒径を所定の粒度分布範囲内に制御した液状急結剤が、上記の課題を解決できることを見出だし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0010】
[1] アルミニウムがAl2O3換算で9.0~15.0質量%、硫黄がSO3換算で22.0~35.0質量%含有され、透過光を用いた光学顕微鏡観察による分散粒子のHeywood平均径が3~30μmである液状急結剤。
[2] [1]に記載の液状急結剤を含む吹付けコンクリート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた急結性及び強度発現性を有し、製造直後の貯蔵安定性が良好な液状急結剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書における「%」は特に規定しない限り質量基準とする。
【0013】
[1.液状急結剤]
本実施形態に係る液状急結剤は、液状急結剤の質量を100%とすると、アルミニウムがAl2O3換算で9.0~15.0%、硫黄がSO3換算で22.0~35.0%含有されている。
【0014】
アルミニウムがAl2O3換算で9.0%未満では、急結性が不足してしまい、15.0%を超えると、液状急結剤の粘度が高くなり吹付ノズルへの送液が不安定となって急結性や強度発現性が低下してしまう場合がある。急結性、強度発現性及び貯蔵安定性をより高める観点から、9.5~14.5%が好ましく、10.0~14.0%がさらに好ましい。
液状急結剤中のAl2O3換算のアルミニウム濃度は、JISK1423硫酸アルミニウム(硫酸バンド)に記載の方法に準拠して測定することができる。
【0015】
硫黄がSO3換算で22.0%未満では、急結性が不足してしまい、35.0%を超えると、液状急結剤の粘度が高くなり吹付ノズルへの送液が不安定となって急結性や強度発現性が低下する場合がある。急結性、強度発現性及び貯蔵安定性をより高める観点から、23.0~34.0%が好ましく、24.0~33.0%がより好ましい。
SO3換算の硫黄濃度は、イオンクロマトグラフィーなどにより測定することができる。
【0016】
本実施形態の液状急結剤は、透過光を用いた光学顕微鏡観察による分散粒子のHeywood平均径が3~30μmの範囲にある。
本発明者らは、既述の各成分の濃度とともに、当該分散粒子のHeywood平均径の範囲が、急結性及び強度発現性を良好にしながら、分散粒子の分散安定性(貯蔵安定性)に重要であるとの知見を得た。すなわち、分散粒子のHeywood平均径が3μm未満であると、液状急結剤の粘度が高くなり吹付ノズルへの送液が不安定となって急結性や強度発現性が低下する場合がある。また、本実施形態の液状急結剤を安定して製造すること(生産性)を考慮すると、分散粒子のHeywood平均径は3μm以上が好ましい。分散粒子のHeywood平均径が30μmを超えると、貯蔵安定性、急結性、及び強度発現性のいずれかが低下してしまう。
Heywood平均径は3~25μmであることが好ましく、5~20μmであることがより好ましい。
なお、液状急結剤中に存在する分散粒子とは、主に、過飽和状態に硫酸アルミニウムが析出した粒子である。
【0017】
透過光を用いた光学顕微鏡観察による分散粒子のHeywood平均径は、得られた粒子径データを画像解析式粒度分布測定ソフト「Mac-View Ver.4」で解析し、選択粒子と同一の面積をもつ円の直径に換算したHeywood径を300個測定し、その平均値を平均径とする。具体的には、実施例に記載の方法で測定することが好ましい。
【0018】
なお、一般的な平均径の測定には、レーザ回折・散乱法等が挙げられるが、本実施形態では不適切である。本実施形態の液状急結剤は、硫酸アルミニウムが過飽和状態にあり、不溶解分の硫酸アルミニウムが分散粒子となって存在する。レーザ回折・散乱法では、過飽和状態での測定は不可能で、濃度を薄める必要があるが、そうすると不溶解分の硫酸アルミニウムが溶解してしまい、正確な粒径測定ができない。これに対して、当該Heywood平均径では、本実施形態の液状急結剤中の分散粒子の粒径をより正確に測定することができる。
【0019】
ここで、Heywood平均径を3~30μmに調整するには、原料を溶媒(例えば、水又は水及び硫酸の混合液)に混合して撹拌する際に、後述のような高速で高いせん断力を加える必要がある。これにより、Heywood平均径を3~30μmとし、良好な分散状態が得られやすくなる。
また、析出している分散粒子の量(濃度)や粘度も当該平均径に影響する場合がある。例えば、Al2O3換算濃度やSO3換算濃度が高いものほど分散粒子の量が多くなり、粘度も高くなるため、反応槽内での液状急結材の攪拌や粒子の粉砕に支障が生じ、結果としてHeywood平均径が大きくなりやすい。
【0020】
液状急結剤のpHは、より良好な貯蔵安定性の観点から、2~4であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。当該pHは、必要に応じて、硫酸やアルカリを適宜添加することで、所望の範囲調整できる。
【0021】
貯蔵期間中の分離防止の観点から、本実施形態に係る液状急結剤には、例えば、ベントナイト、セピオライト、アタパルジャイト等の粘度鉱物をさらに含有することが好ましい。なかでも、独特の鎖状構造を有する含水珪酸マグネシウムであるセピオライトがより好ましい。
【0022】
液体急結合材中の粘土鉱物は、0.5~2.0%であることが好ましく、1.0~1.5%であることがより好ましい。0.5~2.0%であることで、良好な貯蔵安定性を確保することができる。なお、粘土鉱物の平均粒子径は0.5~20μmが好ましく、1~10μmがより好ましい。粘土鉱物の平均粒子径はレーザ回折法により測定することができる。
粘土鉱物の含有量は、メンブレンフィルターを用いた吸引ろ過法で測定できる。分離された固相はアルミニウム化合物を含む可能性があることから純水を用いて十分に洗浄して、純水に対して溶解度の小さい粘土鉱物だけを分離する必要がある。
【0023】
液状急結剤の粘度は、液状急結剤の分離防止、吹付コンクリートノズルへの送液、コンクリート中への分散、コンクリートの急結性の観点から、200~3,000mPa・sであることが好ましく、500~2,500mPa・sであることがより好ましい。200mPa・s以上であることで、液相と固相の分離を抑制し、3,000mPa・s以下であることで、ポンプを用いた定量供給がしやすくなり、コンクリート中への分散性や急結力を良好にすることができる。
当該粘度は、既述の粘土鉱物を添加する等して調整したり、Heywood平均径を制御して調製したりすることができる。
【0024】
本実施形態の液状急結剤は、良好な急結性と強度発現性の観点から、アミン系化合物を含むことが好ましい。アミン系化合物としては、エタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノール、ジイソプロパピルアミン等が挙げられる。なかでも、ジエタノールアミンがより良好な急結性と強度発現性の観点から好ましい。
【0025】
液状急結剤中のアミン系化合物は、0.5~5.0%であることが好ましく、1.0~4.0%であることがより好ましい。0.5~5.0%であることで、より良好な急結性と強度発現性が得られやすくなる。アミン系化合物の含有量は、高速液体クロマトグラフ分析法などにより測定することができる。
【0026】
液状急結剤は、既述の成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、種々の添加剤を含有させることができる。例えば、セメントの凝結や強度増進成分として知られている硝酸及びその塩、ギ酸及びその塩、アルカリ、フッ素等が挙げられる。
【0027】
液状急結剤における全アルカリ量R2O(Rはアルカリ金属)は、作業者の安全性の観点から、1.0%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。また、0%以上であってもよい。
なお、液状急結剤中の全アルカリ量R2Oは、原子吸光法により測定することができる。また、全アルカリ量R2Oは、原料中の全アルカリ量R2Oが低いものを適宜使用することで調整することができる。
【0028】
本実施形態の液状急結剤の有効成分濃度は、急結性、強度発現性、および貯蔵安定性の観点から、34~45%であることが好ましく、36~43%であることがより好ましい。
なお、ここでいう「有効成分濃度」とは、Al2O3換算のアルミニウム濃度と、SO3換算での硫黄濃度との合計濃度(%)をいう。また、「有効成分量」といった場合は、Al2O3換算のアルミニウムと、SO3換算での硫黄との合計量をいう。
【0029】
以上のような液状急結剤は、例えば、硫酸アルミニウム、各種ミョウバン、水酸化アルミニウム等のアルミニウム含有原料や硫黄含有原料を適宜選択し、これらと任意の粘度鉱物やアミン系化合物等を、20~80℃の温度範囲で1~6時間、硫酸や水等とともに混合撹拌することによって得ることができる。
【0030】
ここで、上記混合撹拌方法としては、高速で高いせん断力で混合撹拌する方法を適用する。具体的に好適な撹拌装置としては、ハイシェアミキサーが挙げられる。ハイシェアミキサーとは、回転軸に取り付けられたローターが、精密機械加工された撹拌ヘッドの内側で高速回転し、その強力な吸引効果によってタンク底面にある溶液や固形分が撹拌ヘッド内に呼び込まれ、撹拌ヘッド内に呼び込まれた溶液は、ローターの生み出す遠心力によってワークヘッド外周に向かって振り出され、ローター先端ブレード部と撹拌ヘッド内縁に設けられた精密なクリアランスによって、粒子の粉砕効果を生み出すミキサーである。高速で高いせん断力を加えられた溶液は撹拌ヘッドに加工された窓から外側に押し出され、この循環がタンク内で繰り返されることから、溶液の高度な均質化を可能とする特徴がある。これにより、本実施形態にかかるHeywood平均径とすることができる。
ハイシェアミキサーとしては、例えば、Silverson社製ハイシェアバッチミキサーAX5シリーズ等を使用することができる。
またワークヘッドの形状や拡販ブレードも粒子サイズの制御に非常に重要である。ワークヘッドには、標準丸形、角孔型、乳化用、軸流ヘッド、スロット型などがあるが、本実施形態では、標準型、角孔型、乳化型を用いることが好ましい。
【0031】
なお、高速で高いせん断力を行える条件であれば、ハイシェアミキサーに限定されるものではなく、一般的な高速ミキサーを用いることもできる。
【0032】
高速で高いせん断力で混合撹拌する際のローター回転数は、1,300~10,000rpmであることが好ましく、4,000~8,000rpmであることがより好ましい。撹拌時間は、回転数にもよるが60~200分程度が好ましい。撹拌時間が同じ場合、撹拌の回転数が高くなるほど、Heywood平均径が小さくなる傾向がある。
【0033】
[2.吹付けコンクリート]
本実施形態に係る吹付けコンクリートは、既述の本発明の液状急結剤を含む。
本発明の液状急結剤は単独で用いてもよいし、カルシウムアルミネートを主成分とした粉体急結剤と併用してもよい。
【0034】
吹付けコンクリートは、実際的にはセメントを用いるが、当該吹付けコンクリートに用いるセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱などの各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)を挙げることができる。
【0035】
吹付けコンクリートは、実際的には骨材を用いるが、当該骨材は特に限定されるものではなく、吸水率が低くて、骨材強度が高いものが好ましい。骨材の最大寸法は、吹付けできれば特に限定されるものではない。細骨材としては、川砂、山砂、海砂、石灰砂、及び珪砂などが使用可能であり、粗骨材としては、川砂利、山砂利、及び石灰砂利などが使用可能であり、砕砂、砕石も使用可能である。
【0036】
液状急結剤の配合量は、コンクリート中のセメント100質量部に対して、液状急結剤中の有効成分量が3~12質量部となるようにすることが好ましく、5~10質量部となるようにすることがより好ましい。
【0037】
液状急結剤を、セメントを含むコンクリートに混合する方法としては、特に限定はなく、例えば、液状急結剤をY字管等の混合管を使用してコンクリートと混合する方法、二重管を使用してコンクリートと混合する方法等がある。
これらの方法により吹付けコンクリートとした後は、吹付け対象物に吹付け処理が施される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実験例1]
<液状急結剤の調製>
粉末硫酸アルミニウム、硫酸、水酸化アルミニウムをAl2O3換算のアルミニウム濃度及びSO3換算での硫黄濃度が表1に示す量となるように各種原料を調整し、50℃で所定量の水と混合し、1Lの液状急結剤を作製した。
なお、混合には、高速ミキサー(ハイスピード)又はハイシェアミキサー(ハイシェア)を用いた。具体的な混合条件は下記のとおりである。
【0040】
<使用原料>
・水:純水
・粉末硫酸アルミニウム:13~16水塩、工業用品市販品
・硫酸:工業用市販品
・水酸化アルミニウム:工業用市販品
【0041】
<ミキサー>
高速ミキサー:スリーワンモーター攪拌機、回転速度及び撹拌時間は表に示すとおりとした。
ハイシェアミキサー:Silverson社製ハイシェアバッチミキサーL5M-A、攪拌ヘッドEmulsor Screen、回転速度及び撹拌時間は表に示すとおりとした。
【0042】
得られた液状急結剤について、下記のような各種測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
<Heywood平均径の測定>
調製した液状急結剤における析出粒子の粒度分布測定は以下に示す方法で定量した。なお、測定時の液状急結剤の温度は、20℃とした。
・観察装置:金属顕微鏡 BX-51 オリンパス製
・観察手法:スライドガラスに液状急結剤を10μL滴下、その上にカバーガラスを載置して検鏡試料を調製した。その後、透過光による観察(撮影)を実施した。
・粒度分布解析:撮影した写真を用いて、画像解析式粒度分布測定ソフト「Mac-View Ver.4」で解析した。粒子径は選択粒子と同一の面積をもつ円の直径に換算したHeywood径で換算した。測定粒子数は、300個とし、その平均を求めた。
【0044】
<密度>
メスシリンダー100mlに試料を充填して質量を計測し、質量を体積で除した値を密度とした。
<pH>
市販のpHメータにより、液状急結剤のpHを測定した。
【0045】
<粘度>
Brookfield社製回転粘度計を用い、スピンドルS63、回転速度20rpmの条件下で、30℃における粘度を測定した。
【0046】
<凝結試験・圧縮強度試験>
普通ポルトランドセメント700質量部と、表乾砂2100質量部を基本配合とし、調製した液状急結剤は有効成分量で28質量部(セメント100質量部に対して4.0質量部)を水350質量部と一緒に添加した。なお水の量は液状急結剤に含まれる水分を考慮して調整した。低速で10秒、高速で10秒練り混ぜた後に型詰および成形し、凝結試験・圧縮強度試験を行った。
試験は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠し、始発時間及び終結時間ならびに各材齢(12時間、1日、7日、28日)における圧縮強度を計測した。試験は20℃で実施した。結果を下記表1に示す。
【0047】
<貯蔵安定性試験(分離抵抗性)>
調整した液状急結剤を透明1,000ml容器に充填して20℃環境下で静置し、液状急結材の状態を評価した。スリーワンモーター攪拌機を用いて300rpmで再攪拌し、容器の底に沈殿が見られないものを○、沈殿が見られるものを×とした。評価は充填して1日後に実施した。「1日後」は、製造直後に現場で再攪拌すれば現場施工型の急結材として使用可能か判断するためのものである。結果を下記表1に示す。
【0048】
【0049】
[実験例2]
<吹付けコンクリートの調製>
セメント400kg、水200kg、細骨材1100kg、粗骨材(新潟県姫川水系6号砕石、密度2.67g/cm3)716kgのコンクリートを調製した。このコンクリート中のセメント100質量部に対して、液状急結剤を10質量部で混合し、吹付けコンクリートを調製した。なお、試験は30℃環境で実施した。
液状急結剤としては、実験No.2-1では実験No.1-3で調製した液状急結剤を使用し、実験No.2-2では実験No.1-7で調製した液状急結剤を使用した。
得られた吹付けコンクリートを用いて、圧縮強度試験(初期、長期)を行った。また、付着性の試験も行った。これらの試験結果を表2に示す。
【0050】
・初期強度:JSCE-G561に準じて型枠に吹付けて、材齢10分、3時間、1日時点での引き抜き強度より、圧縮強度に換算し、初期強度を測定した
・長期強度:JSCE-F561に準じて型枠に吹付け、JIS A1107に準じて材齢28日時点でコアを採取して、圧縮強度を測定した。
・付着性:吹付けた量(A)と吹き付け面から跳ね返ったり落下したりしたコンクリートの重量(B)を定量して、リバウンド率(B/A)から付着性を評価した。リバウンド率が15%未満である場合を◎とし、15~30%を〇とし、30%を超える場合を×とした。
【0051】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の液状急結剤は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルや、法面等において露出した地山面へ吹付けるセメントコンクリート等に対して好適に使用できる。
【要約】
【課題】優れた急結性及び強度発現性を有し、製造直後の貯蔵安定性が良好な液状急結剤を提供する。
【解決手段】アルミニウムがAl2O3換算で9.0~15.0質量%、硫黄がSO3換算で22.0~35.0質量%含有され、透過光を用いた光学顕微鏡観察による分散粒子のHeywood平均径が3~30μmである液状急結剤である。
【選択図】なし