(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】中空コアファイバの製造方法および中空コアファイバ用プリフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20240312BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C03B37/012 A
G02B6/02 466
(21)【出願番号】P 2022502575
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2020070016
(87)【国際公開番号】W WO2021009239
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-23
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstr.12-14, 63450 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル ローゼンベアガー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヒューナーマン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン トロマー
(72)【発明者】
【氏名】カイ シュースター
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ヴァイマン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ガンツ
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/169487(WO,A1)
【文献】特開2017-014099(JP,A)
【文献】特開平07-109136(JP,A)
【文献】特表2008-540321(JP,A)
【文献】特表2018-533042(JP,A)
【文献】特開2008-029920(JP,A)
【文献】KOSOLAPOV, A. F. et al.,Hollow-core revolver fibre with a double-capillary reflective cladding,Quantum Electron.,英国,IOP Publishing Ltd.,2016年03月29日,Vol. 46, No. 3,pp. 267-270,DOI: 10.1070/QEL15972
【文献】JASION, Gregory T. et al.,Fabrication of tubular anti-resonant hollow core fibers: modelling, draw dynamics and process optimization,Opt. Express,米国,Optica Publishing Group,2019年06月04日,Vol. 27,No. 15,pp. 20567-20582,DOI: 10.1364/OE.27.020567
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00-40/04
G02B 6/02-6/10
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ前記中空コアを取り囲む内部のクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法であって、
(a)
被覆管内部ボアおよび被覆管長手方向軸を有する被覆管(21)を提供する工程であって、前記被覆管長手方向軸に沿って、内側および外側によって画定された被覆管壁(22)が延在する、工程と、
(b)
複数の管状の反共振要素プリフォーム(24)を提供する工程と、
(c)
前記反共振要素プリフォーム(24)を前記被覆管壁(22)の前記内側の目標位置に配置して、中空のコア領域と内部のクラッド領域とを有する一次プリフォーム(23)を形
成する工程と、
(d)前記一次プリフォーム(23)を
前記中空コアファイバに延伸する工程、または前記一次プリフォーム(23)を、
前記中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工する工程と、
を含み、
前記さらに加工する工程では、
(i)延伸、
(ii)コラップス、
(iii)コラップスおよび同時延伸、
(iv)追加のクラッド材料のコラップス、
(v)追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi)追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される、製造方法において、
それぞれが少なくとも1つのARE外管(24a)と、任意の少なくとも1つのARE内管(24b)とを有する反共振要素プリフォーム(24)が提供され、前記ARE外管(24a)および/またはARE内管(24b)は、成形工具を用いずに垂直方向線引き法に基づいて作製され
、
前記垂直方向線引き法は、
(aa)シリンダ長手方向軸(2)および外側シリンダ面ならびに内側シリンダ面を有する、ガラス製の出発中空シリンダ(4)を提供する工程と、
(bb)前記出発中空シリンダ(4)が、長手方向軸(2)を垂直方向に配向させて、第1の加熱ゾーン長L
H1
を有する第1の加熱ゾーン(3)に連続的に供給され、いくつかの領域内において軟化され、軟化された領域から、成形工具を用いずに、中間シリンダ(12)が引き出される、第1延伸工程と、
(cc)前記中間シリンダ(12)、または前記中間シリンダ(12)から延伸によって得られる延伸された中間シリンダが、第2の加熱ゾーン長L
H2
を有する第2の加熱ゾーンに連続的に供給され、いくつかの領域内において軟化され、軟化された領域から、成形工具を用いずに、外径T
a
および内径T
i
、ただし、L
H2
<L
H1
、かつT
a
/T
i
<1.5、を有する連続管が引き出される、第2延伸工程と、
(dd)前記連続管を切断して、ARE外管(24a)またはARE内管(24b)にする工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記工程(aa)による前記出発中空シリンダ(4)の提供は、少なくとも90mmの外径C
a、内径C
i、および2.8未満の直径比C
a/C
iを有する出発中空シリンダ最終寸法を調整するために、前記シリン
ダ面を機械加工することを含むことを特徴とする、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記出発中空シリンダ(4)の前記シリン
ダ面の機械加工は、切断加工、フライス加工、穴あけ加工、研削加工、ホーニング加工および/または研磨加工によって行われることを特徴とする、請求項
2記載の方法。
【請求項4】
前記外径C
aは、少なくとも150m
mに調整されることを特徴とする、請求項
2記載の方法。
【請求項5】
前記外径C
a
は、少なくとも180mmに調整されることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記連続管は、7~35mmの範囲の外径T
aを備えるように線引きされることを特徴とする、請求項
1記載の方法。
【請求項7】
前記第1の加熱ゾーン長L
H1は、少なくとも200m
mであり、前記第2の加熱ゾーン長L
H2は、最大で140m
mであることを特徴とする、請求項
1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記第1の加熱ゾーン長L
H1
は、150~400mmであり、前記第2の加熱ゾーン長L
H2
は、50~140mmであることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記連続管の壁厚は、0.2~2mmの間の
値に調整され、直径比T
a/T
iは、1.02~1.14の範囲の
値に調整されることを特徴とする、請求項
1から
6のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記連続管の壁厚は、0.22~1.2mmの間の値に調整され、直径比T
a
/T
i
は、1.04~1.08の範囲の値に調整されることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記連続管の壁厚は、0.2~2mmの間の
値に調整され、直径比T
a/T
iは、1.05~1.5の範囲の
値に調整されることを特徴とする、請求項
1から
6のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記連続管の壁厚は、0.22~1.2mmの間の値に調整され、直径比T
a
/T
i
は、1.14~1.35の範囲の値に調整されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
引出し比が、延伸プロセスの合計において、38~78の範囲の値に調整されることを特徴とする、請求項
1から
6のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記ARE外管(24a)または前記ARE内管(24b)は外
側面を有し、前記垂直方向線引き法の終了後は、前記外
側面は、0.005mmより大きい粒子を含まず、前記ARE外管(24a)または前記ARE内管(24b)は、2重量ppbよりも低いタングステン濃度を有するシリカガラスからなることを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ前記中空コアを取り囲む内部のクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのためのプリフォームの製造方法であって、
(a)
被覆管内部ボアおよび被覆管長手方向軸を有する被覆管(21)を提供する工程であって、前記被覆管長手方向軸に沿って、内側および外側によって画定された被覆管壁(22)が延在する、工程と、
(b)
複数の管状の反共振要素プリフォーム(24)を提供する工程と、
(c)
前記反共振要素プリフォーム(24)を前記被覆管壁(22)の前記内側の目標位置に配置して、中空のコア領域と内部のクラッド領域とを有する一次プリフォーム(23)を形
成する工程と、
(d)前記一次プリフォーム(23)を
前記中空コアファイバ用の二次プリフォームに任意でさらに加工する工程と、
を含み、
前記さらに加工する工程では、
(i)延伸、
(ii)コラップス、
(iii)コラップスおよび同時延伸、
(iv)追加のクラッド材料のコラップス、
(v)追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi)追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される、製造方法において、
それぞれが少なくとも1つのARE外管(24a)と、オプションとしての少なくとも1つのARE内管(24b)とを有する反共振要素プリフォーム(24)が提供され、前記ARE外管(24a)および/またはARE内管(24b)が、成形工具を用いずに垂直方向線引き法に基づいて作製され
、
前記垂直方向線引き法は、
(aa)シリンダ長手方向軸(2)および外側シリンダ面ならびに内側シリンダ面を有する、ガラス製の出発中空シリンダ(4)を提供する工程と、
(bb)前記出発中空シリンダ(4)が、長手方向軸(2)を垂直方向に配向させて、第1の加熱ゾーン長L
H1
を有する第1の加熱ゾーン(3)に連続的に供給され、いくつかの領域内において軟化され、軟化された領域から、成形工具を用いずに、中間シリンダ(12)が引き出される、第1延伸工程と、
(cc)前記中間シリンダ(12)、または前記中間シリンダ(12)から延伸によって得られる延伸された中間シリンダが、第2の加熱ゾーン長L
H2
を有する第2の加熱ゾーンに連続的に供給され、いくつかの領域内において軟化され、軟化された領域から、成形工具を用いずに、外径T
a
および内径T
i
、ただし、L
H2
<L
H1
、かつT
a
/T
i
<1.5、を有する連続管が引き出される、第2延伸工程と、
(dd)前記連続管を切断して、ARE外管(24a)またはARE内管(24b)にする工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含み、かつ中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバの製造方法に関し、この製造方法は、
(a)被覆管内部ボアおよび被覆管長手方向軸を有する被覆管を提供する工程であって、長手方向軸に沿って、内側および外側によって画定された被覆管壁が延在する、工程と、
(b)管状の反共振要素プリフォームを提供する工程と、
(c)中空のコア領域と内部のクラッド領域とを有する一次プリフォームを形成しながら、反共振要素プリフォームを被覆管壁の内側の目標位置に配置する工程と、
(d)一次プリフォームを中空コアファイバに延伸するか、または一次プリフォームを、中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工する工程と、
を含み、
さらに加工する工程では、
(i)延伸、
(ii)コラップス、
(iii)コラップスおよび同時延伸、
(iv)追加のクラッド材料のコラップス、
(v)追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi)追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される。
【0002】
さらに本発明は、ファイバの長手方向軸に沿って延びる中空コアと、複数の反共振要素を含む、中空コアを取り囲むクラッド領域とを有する反共振中空コアファイバのためのプリフォームの製造方法に関し、この製造方法は、
(a)被覆管長手方向軸を有する被覆管を提供する工程であって、被覆管長手方向軸に沿って、内側および外側によって画定された被覆管壁が延在する、工程と、
(b)管状の反共振要素プリフォームを提供する工程と、
(c)中空のコア領域と内部のクラッド領域とを有する一次プリフォームを形成しながら、反共振要素プリフォームを被覆管壁の内側の目標位置に配置する工程と、
(d)一次プリフォームを中空コアファイバ用の二次プリフォームに任意でさらに加工する工程と、
を含み、
任意でさらに加工する工程では、
(i)延伸、
(ii)コラップス、
(iii)コラップスおよび同時延伸、
(iv)追加のクラッド材料のコラップス、
(v)追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi)追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行される。
【背景技術】
【0003】
中実材料から作製される従来のシングルモード光ファイバは、低屈折率のガラスからなるクラッド領域により取り囲まれたガラス製のコア領域を有している。このとき、光の伝搬は、コア領域とクラッド領域間の全反射に基づいている。しかし、導波光と中実材料の相互作用は、データ伝送時の遅延時間の増大や、エネルギー放射線に対する損傷のしきい値の相対的低下に結びついている。
【0004】
これらの欠点は、コアがガスまたは液体を充填した真空の空洞部からなる「中空コアファイバ」によって回避されるか、または軽減される。中空コアファイバでは、光とガラスの相互作用が中実コアファイバの場合よりも減少する。コアの屈折率はクラッドの屈折率よりも小さいため、全反射による光の伝搬は不可能であり、通常光はコアからクラッドに漏れ出ると考えられる。光の伝搬の物理的メカニズムに応じて、中空コアファイバは、「フォトニックバンドギャップファイバ」と「反共振反射ファイバ」に区別される。
【0005】
「フォトニックバンドギャップファイバ」では、中空コア領域が、小さな中空チャネルを周期的に配置したクラッドによって取り囲まれている。クラッド内の中空チャネルの周期的構造には、半導体技術に依る「フォトニックバンドギャップ」と呼ばれる効果があり、これにより、クラッド構造に散乱する特定の波長領域の光はブラッグ反射に基づいて中心の空洞部で構造的に干渉するため、クラッド内で横方向に広がることはできない。
【0006】
「反共振中空コアファイバ」(「antiresonant hollow-core fibers」;ARHCF)と呼ばれる中空コアファイバの実施形態では、中空のコア領域が内部のクラッド領域によって取り囲まれており、いわゆる「反共振性要素」(または「反共振要素」;略号:「AREs」)の中に配置されている。中空コア周辺に均等に分散された反共振要素の壁は、反共振に作動されるファブリ・ペロー空洞として機能し、この空洞は入射光を反射し、ファイバコアに通すことができる。
【0007】
このファイバ技術により、光減衰を軽減することができ、透過スペクトルが非常に広くなり(紫外線または赤外線の波長帯域でも)、データ伝送時の遅延時間も小さくなる。
【0008】
中空コアファイバの潜在的用途は、データ伝送、材料加工などに用いる高性能ビーム制御、モーダルフィルタリング、特に超紫外線波長帯域から赤外線波長帯域までのスーパーコンティニウムを発生させる非線形光学の分野にある。
【0009】
従来技術
反共振中空コアファイバの欠点は、高次モードが自動的に抑制されないため、長い伝達距離にわたって純粋なシングルモードにならないことが多く、出力光線の品質が悪化することにある。
【0010】
Francesco Poletti「Nested antiresonant nodeless hollow core fiber」;Optics Express,Vol.22,No.20(2014);DOI:10.1364/OE 22.023807の文献では、反共振要素が単純な単一構造要素として形成されているのではなく、互いに入れ子になった(英語:nested)複数の構造要素から構成されたファイバ設計が提案されている。入れ子になった反共振要素は、高次コアモードがクラッドモードに位相整合されて抑制されるが、基本コアモードは抑制されないように設計されている。これにより、基本コアモードの伝搬が常に保証され、限定された波長帯域にわたって中空コアファイバを効率的にシングルモードにすることができる。
【0011】
効率的なモード抑制は、伝搬光の中心波長の他に、中空コアの半径および反共振要素内で入れ子になっているリング構造の直径差といったファイバ設計の構造パラメータにも左右される。
【0012】
EP3136143A1から、コアが基本モード以外に別のモードも伝搬することができる反共振中空コアファイバ(「バンドギャップのない中空コアファイバ」と呼ばれる)が公知である。この目的のため、コアは、反共振モードと高次モードの位相整合を提供する「非共振要素」を有する内部クラッドによって取り囲まれている。中空コアファイバの製造は、いわゆる「スタック&ドロー法」によって行われ、そこでは出発要素を軸平行の集合体になるように並べ、固定することによってプリフォームを形成し、続いてそのプリフォームを延伸する。ここでは、内側断面が六角形の被覆管が使用され、被覆管の内縁部には、いわゆる「AREプリフォーム」(反共振要素プリフォーム)が6個固定される。このプリフォームを2段階に分けて線引きすることによって中空コアファイバを形成する。
【0013】
国際特許出願2018/169487A1から、反共振中空コアファイバのプリフォーム製造方法が公知であり、ここでは第1のクラッド領域が多数のロッドから構成され、第2のクラッド領域は、外側の被覆管によって取り囲まれている多数の管から構成されている。ロッド、管、被覆管は「スタック&ドロー」法によって接合され、プリフォームが形成される。プリフォームを延伸する前に、プリフォーム端部に封止材を塗布して封止が行われる。封止材としては、例えばUV接着剤が使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
反共振中空コアファイバや、特に入れ子になっている構造要素を持つそのようなファイバは複雑な内部形状を有するため、これを正確かつ再現可能に製造することは困難である。さらに、共振条件または反共振条件を満たすには伝搬させる光の動作波長の大きさに僅かな寸法許容差があっても許されないため、このことは一層困難なものとなる。目標形状からの逸脱は、ファイバプリフォームの構成時にその原因が作られるおそれがあるが、ファイバ線引きプロセス時にも縮尺に沿わない不適切な変形によって生じる可能性がある。
【0015】
公知の「スタック&ドロー」法では、多数の要素が正確な位置に接合されなければならない。例えば、冒頭に述べた文献から公知の「NANF」設計の中空コアファイバを製造するには、それぞれが反共振要素外管(略号:ARE外管)からなる6つの反共振要素プリフォームと、ARE外管の内側クラッド面の片側に溶接されている反共振要素内管(略号:ARE内管)とを被覆管の内側に取り付けなければならない。
【0016】
小さい減衰値と広範な伝播範囲を実現するためには、反共振要素の壁の均等な壁厚の他に、被覆管内部における反共振要素の方位角位置も重要である。このことは、「スタック&ドロー」法では簡単に実現できない。本発明の目的は、従来の製造方法の制限を回避して、反共振中空コアファイバを低コストで実現する製造方法を提供することである。
【0017】
特に本発明の目的は、反共振中空コアファイバと反共振中空コアファイバのプリフォームの製造方法を提供することであり、本方法によって、構造要素の高い精密性とファイバ内での反共振要素の正確な位置決めを、十分に安定的で再現可能な仕方で達成することが可能となる。
【0018】
さらに、必要な構造精度、特に反共振要素の均等な壁厚および規定の方位角位置への正確な位置決めが容易に達成できない従来の「スタック&ドロー」法の欠点をできる限り回避しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
反共振中空コアファイバを製造するための方法に関して、この課題は、冒頭に述べたような方法から出発して、本発明によれば、それぞれが少なくとも1つのARE外管と、任意で少なくとも1つのARE内管とを有する反共振要素プリフォームが提供され、ARE外管および/またはARE内管が、成形工具を用いずに垂直方向線引き法に基づいて作製されることによって解決される。
【0020】
反共振中空コアファイバ製造の出発点は、ここでは、「一次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームである。一次プリフォームの製造は、反共振要素プリフォームの被覆管との取り付けおよび接続を含む。一次プリフォームを延伸することによって中空コアファイバを形成することができるが、通常は、この一次プリフォームをさらに加工して、ここでは「二次プリフォーム」と呼ばれるプリフォームを作製する。必要に応じて、この二次プリフォームを延伸することにより中空コアファイバが作られる。代替的に、一次プリフォームまたは二次プリフォームを、構成部品の同軸集合体を形成しながら、1つまたは複数の外層シリンダにより取り囲み、この同軸集合体を直接延伸して中空コアファイバを形成する。この場合、一般的な「プリフォーム」という用語は、中空コアファイバが最終的に線引きされる構成部品または構成部品の同軸集合体の名称と理解される。
【0021】
プリフォームの製造は、複数の工程を含み、これらの工程では、中空コアファイバの出発要素が製造され、相互に位置決めされ、また少なくとも1つの熱成形工程を含む。各出発要素は、その目標形状からある程度逸脱し、位置決めおよび成形の各工程では、必然的に形状誤差が生じ、それら誤差が蓄積されて、完成したプリフォームでは絶対的な形状誤差が生じる。特に、ガラスの熱成形では、加熱ゾーンの温度プロファイルが、理想的な、通常は円筒対称の温度プロファイルから僅かに逸脱しただけで、不所望で再現性のない変形が生じる場合がある。
【0022】
一次プリフォームを製造するために、本発明による方法に従って複数の反共振要素が提供されて使用され、それらの反共振要素のうちの少なくとも一部、好ましくはすべてが、成形工具を用いない垂直方向線引き法で作製される。
【0023】
・成形工具とは、ここでは例えば、成形ノズル、成形マンドレル、または成形を目的とした変形プロセス時に高温のガラス塊と直接的に接触する他のガラス吹きツールと解される。この種の成形工具は、例えばタングステンのような高温耐性のある材料から構成されており、ガラス内に不純物をもたらすことが多い。さらに、この種の成形工具は、高温のガラス塊との接触によって、引き出される連続ガラスの表面に損傷をもたらす恐れがある。
【0024】
本発明による方法は、非接触式の成形法、すなわち成形工具を使用しない成形法であるため、これらの欠点はすべて回避される。純度が高くて表面の損傷が少ないという特徴を有するARE内管またはARE外管が得られる。特に、2重量ppbよりも低いタングステン濃度を有するシリカガラスからなるARE外管またはARE内管が得られる。
【0025】
・出発シリンダを延伸するための公知の方式では、出発シリンダの長手方向軸を水平に配向させて、加熱ゾーンにおいて成形が行われる。この種の水平方向線引き法は、特に、長い管を延伸するために使用される。この場合、例えば金属、グラファイトまたはSiCから加熱ゾーンにおいて形成される粒子が、重力によって、高温のガラス塊に容易に到達してしまう恐れがある。この種の粒子は、光学的特性(吸収率、屈折率)も、機械的特性(気泡または粒子)も劣化させ、ファイバ線引きプロセス時に、通常の場合、ファイバの破断をもたらす。
【0026】
本発明による垂直方向線引き法では、加熱ゾーンにおいて形成される粒子が、重力のため、延伸された連続管の側方に落下するので、この作用は生じない。粒子の含有率が小さいという特徴を有するARE外管またはARE内管が得られる。
【0027】
特に、垂直方向線引き法の終了後は、0.005mmより大きいサイズの粒子を含まない外側クラッド面を備えたARE外管またはARE内管が得られる。
【0028】
全体として、(粒子汚染度が低いことによって)破断耐性がより高く、また幾何精度が改善されたARE外管およびARE内管を実現することができ、このことは、改善された減衰特性および帯域幅性能の向上にも寄与する。構成部品は、壁厚において0.1mmよりも小さい寸法偏差で製造することができる。
【0029】
方法の特に好適な変形形態では、垂直方向線引き法は、
(aa)シリンダ長手方向軸および外側シリンダクラッド面ならびに内側シリンダクラッド面を有する、ガラス製の出発中空シリンダを提供する工程と、
(bb)出発中空シリンダが、長手方向軸を垂直方向に配向させて、第1の加熱ゾーン長LH1を有する第1の加熱ゾーンに連続的に供給され、その第1の加熱ゾーン内において、領域毎に軟化され、軟化された領域から、成形工具を用いずに、中間シリンダが引き出される工程と、
(cc)中間シリンダ、または中間シリンダから延伸によって得られる延伸された中間シリンダが、長手方向軸を垂直方向に配向させて、第2の加熱ゾーン長LH2を有する第2の加熱ゾーンに連続的に供給され、その第2の加熱ゾーン内において、領域毎に軟化され、軟化された領域から、成形工具を用いずに、外径Taおよび内径Ti、ただし、LH2<LH1、かつTa/Ti<1.5、を有する連続管が引き出される工程と、
(dd)連続管を切断して、ARE外管またはARE内管にする工程と、
を含む。
【0030】
ここで、延伸プロセスは、少なくとも2段階で行われ、また少なくとも2つの異なる線引き装置において行われる。この際に使用される線引き装置は、特に加熱ゾーンの長さが異なる。垂直方向において一定の温度プロファイルを有する加熱ゾーンとは、温度が公称目標値内にある加熱された長さ部分であると解される。垂直方向において一定ではない温度プロファイルを有する加熱ゾーンの場合、加熱ゾーンは、摂氏で測定された温度が最大の線引き温度の少なくとも90%となる長手方向軸区間である。
【0031】
・第1の延伸工程における比較的長い加熱ゾーンは、成形される出発シリンダの体積部内の均一な半径方向の温度分布に寄与し、高い材料スループットを実現する。第1の加熱ゾーン長LH1は、少なくとも200mmであり、好ましくは250~400mmである。
【0032】
・第2の延伸工程における比較的短い加熱ゾーンは、成形される中間シリンダの軸方向における急峻な温度勾配をもたらす。この結果、比較的質量が小さく、比較的短い引き出し円錐部が生じる。軟化される質量が比較的小さいことから、この質量の固有振動が低減され、結果として、引き出される連続管における寸法偏差がより小さくなる。第2のより短い加熱ゾーン長LH2は、最大で180mmであり、好ましくは50~150mmである。
【0033】
2段階の延伸方法の特に有利な変形形態では、工程(aa)による出発中空シリンダの提供は、少なくとも90mmの外径Ca、内径Ci、および2.8未満の直径比Ca/Ciを有する出発中空シリンダ最終寸法を調整するためのシリンダクラッド面の機械加工を含む。
【0034】
出発中空シリンダのシリンダクラッド面の機械加工は、好ましくは、切断加工、穴あけ加工、フライス加工、研削加工、ホーニング加工および/または研磨加工を用いた、切削加工によって行われる。
【0035】
これらの加工技術は、熱や圧力を使用する、中空シリンダを製造するためのその他の周知の成形技術と比べ、より正確で極めて微細な構造を提供し、ノズル、プレスまたは鋳造型などの成形工具による表面の汚れを回避することができる。
【0036】
出発シリンダとして、少なくとも90mm、好適には少なくとも150mm、特に好適には少なくとも180mmの外径Caを有する比較的大きい中空シリンダが使用される。直径比Ca/Ciは、出発シリンダの壁厚についての尺度である。
【0037】
出発シリンダは、少なくとも1つの中間シリンダを製造する中間ステップを経て、7~25mmの範囲の外径Taを有する連続管に線引きされる。
【0038】
方法の第1の変形形態では、連続管の壁厚は、好ましくは0.2~2mmの間の値、好適には0.22~1.2mmの間の値に調整され、直径比Ta/Tiは、1.02~1.14の範囲の値、好ましくは1.04~1.08の範囲の値に調整される。
【0039】
方法の第2の変形形態では、連続管の壁厚は、好ましくは0.2~2mmの間の値、好適には0.22~1.2mmの間の値に調整され、直径比Ta/Tiは、1.02~1.14の範囲の値、好ましくは1.04~1.08の範囲の値に調整される。
【0040】
特に、引き出された連続管の可能な限り平滑な内側表面に関して、引出し比が、延伸プロセスの合計において、38~7800の範囲の値に調整される場合には有利であることがわかった。
【0041】
ここで、引出し比とは、引き出された連続管と出発シリンダの総横断面積の比率であると解される。これは、成形プロセスの強度/度合いについての尺度である。大きい出発シリンダを使用することによって、より高い生産性も達成することができる。
【0042】
引き出された連続管の内壁の品質は、成形プロセスの強度に依存することがわかった。集中的な成形プロセスによって、より良好で平滑な内側表面が得られる傾向が高い。
【0043】
非接触式の垂直方向線引き法は、一次プリフォームの被覆管の製造にも有利に使用することができる。被覆管は、好ましくは20~70mmの範囲の直径、好適には30~60mmの範囲の外径によって特徴付けられている。これは、比較的大きい外径である。従来技術では、一次プリフォームの外径は、通常の場合、4~6mmであった。これでは、中空コアファイバを工業規模で製造することはほぼ不可能である。
【0044】
プリフォームの直径が大きくなるにつれ、存在する絶対的な形状誤差は、ファイバ線引き時に、より大きくスケールダウンされるので、基本的には、中空コアファイバのより精密な製造が実現される。直径が大きくなるほど、延伸時のトラッキング速度が緩慢になり、プリフォームの各軸方向部材が加熱ゾーンの高温にさらされる時間が長くなる。しかしながら、延伸時のトラッキング速度が過度に遅いと、反共振要素プリフォームの構造要素が変形する。直径が20mmより短い場合、プリフォームの熱慣性が低いので、加熱ゾーンにおいて場合によっては生じる温度変動の補償がより困難になる。
【0045】
好適な方法の変形例では、反共振要素プリフォームの配置、および/または一次プリフォームの延伸、および/または中空コアファイバの線引きが、非晶質SiO2粒子含有の封止材または接合材を使用した固定措置および/または封止措置を含んでいる。
【0046】
封止または固定に使用される封止材または接合材には、例えば分散液に取り込まれた非晶質SiO2粒子が含まれている。この材料は、接合すべき面または封止すべき面の間に塗布され、使用時は通常ペースト状である。低温で乾燥させると、分散液が部分的または完全に取り除かれ、材料が硬化する。封止材または接合材、および特に乾燥後に得られる硬化したSiO2含有封止材または接合材は、固定および圧縮の要件を満たしている。乾燥に必要な温度は300℃以下であり、これによりプリフォームの寸法安定性の維持が促進され、熱による悪影響が回避される。例えばプリフォームを中空コアファイバに延伸する際に、800℃周辺の高温まで加熱すると、封止材または接合材のさらなる熱凝固が生じるため、曇りガラスや透明ガラスの形成にも適している。このことは焼結やガラス化によって生じるが、この場合、曇りガラスへの焼結は、完全に透明になるまでガラス化するよりも比較的低い温度および/または短い加熱時間で済む。従って、封止材または接合材は加熱によって完全に圧縮することができ、熱成形プロセスでの加熱によってガラス化が可能である。
【0047】
熱成形プロセスでは封止材または接合材は分解されず、不純物をほとんど放出しない。従って、これは熱成形プロセス時の温度安定性と純度によって特徴付けられ、異なる熱膨張率による変形を回避する。
【0048】
封止材および接合材は、一次プリフォームの延伸時および/または中空コアファイバの線引き時に、反共振要素プリフォームの開放端および/または反共振要素プリフォームの個々の構造要素および/または管要素の間にある、場合によっては生じる環状の隙間を封鎖するためにも有利に使用することができる。
【0049】
このようにして、一次プリフォームおよび/または二次プリフォームの個々の構成部品は、延伸時またはファイバ線引きプロセス時にさまざまな内圧を受ける可能性がある。
【0050】
被覆管の内側クラッド面におけるプリフォームの位置決めの精度は、被覆管の内側および/または被覆管の外側および/またはARE外管内側および/またはARE外管外側が切削加工によって、特に穴あけ加工、フライス加工、研削加工、ホーニング加工および/または研磨加工によって形成されることによって改善される。
【0051】
これらの加工技術は、熱や圧力を使用するその他の周知の変形技術と比べ、より正確で極めて微細な構造を提供し、ノズル、プレスまたは鋳造型などの成形工具による表面の汚れを回避することができる。
【0052】
機械的な切削加工は、好適には、反共振要素プリフォームに被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造を設けることによる、反共振要素プリフォームの目標位置の領域における被覆管の内側の構造化も含む。この長手方向構造は、例えば、被覆管内壁における長手方向スリットおよび/または長手方向溝を含み、それらは、被覆管長手方向軸に平行に延び、また好適には、穴あけ加工、鋸加工、フライス加工、切断加工、または研磨加工によって形成される。
【0053】
被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造は、反共振要素プリフォームの位置決めの補助として利用される。これにより、反共振要素プリフォームが被覆管の内側の規定位置に配置されやすくなる。
【0054】
被覆管の内側クラッド面におけるプリフォームの位置決めの精度は、構造要素の端面側の上端が位置決めテンプレートを用いて目標位置に位置決めされる場合に改善される。
【0055】
位置決めテンプレートは、例えば、被覆管内部ボアに突出し、かつ半径方向外側に向けられた複数の保持アームの形態の保持要素が設けられているシャフトを有する。
【0056】
保持要素の構造的に規定された星形配置は、各目標位置における反共振要素プリフォームの正確な位置決めおよびその固定を容易にし、例えば上述の封止剤や接合材を用いた固定を容易にする。この場合、位置決めテンプレートは、好適には被覆管端面の領域にのみ使用され、好適には両方の被覆管端面の領域に使用される。
【0057】
さらに、上記の工程(d)による一次プリフォームの延伸時に、および/または上記の工程(e)による中空コアファイバの線引き時に、シリカガラスからなるプリフォームの複数の構成部品を一緒に加熱および軟化させると有用であることがわかった。プリフォームの構成部品のうちの少なくとも一部のシリカガラスは、シリカガラスの粘度を低下させる少なくとも一種のドーパントを含む。
【0058】
一次プリフォームの構成部品は、被覆管と、その被覆管内に配置された反共振要素プリフォームとを含む。二次プリフォームは、追加のクラッド材料を含み、この追加のクラッド材料は、例えば、1つまたは複数の外層シリンダの形態で提供され、一次プリフォームにコラップスされるか、または一次プリフォームと共に中空コアファイバへと線引きされる。
【0059】
シリカガラスの粘度を低下させるドーパントとしては、好ましくは、フッ素、塩素および/または水酸基が使用される。
【0060】
ドーピングは、隣接するプリフォーム構成部品の熱膨張係数を適合させて、応力を回避することができるか、または応力を低減させることができる。またドーパントは、隣接するプリフォーム構成部品の安定性を優先させて、プリフォーム構成部品の熱安定性を低減するために使用することもできる。
【0061】
つまり例えば、被覆管のシリカガラスが、1250℃の測定温度において、(粘度をdPa・s単位の対数値で表す場合)追加されたクラッド材料のシリカガラスよりも少なくとも0.5dPa・sだけ高い粘度、好ましくは少なくとも0.6dPa・sだけ高い粘度を有する場合には、好適であることがわかった。
【0062】
特に、中空コアファイバの低い光減衰と広い光学的伝送帯域幅に関しては、反共振要素が中空コアの周りに奇数対称に配置されている場合は特に有利であることが証明されている。
【0063】
好適な方法では、管状の構造要素が提供され、そのうちの少なくとも一部は0.2~2mmの範囲の壁厚を有し、好ましくは0.25~1mmの範囲の壁厚を有することによって、被覆管におけるプリフォームの位置決め精度をさらに改善する。このとき、被覆管は外径が90~250mmの範囲のもの、好ましくは外径が120~200mmの範囲のものが提供される。これらの構成部品はそれぞれ少なくとも1mの長さがあり、反共振要素を形成するための比較的容積の大きな構造要素である。これにより、取扱いが容易になる。さらに、被覆管と構造要素を垂直に配置することで、構造要素の端面側の上端がそれぞれ目標位置に位置決めおよび固定されている場合には、例えば、また好適には上記で詳細に説明した封止材または接合材を使用して、またそれらに加えて、またはそれらの代わりに、上記で詳細に説明した位置決めテンプレートを用いて位置決めおよび固定されている場合には、構造要素長手方向軸の平行性および垂直方向の整列を重力がサポートする。
【0064】
中空コアファイバの製造に関して、上述の課題は、冒頭に述べたような方法から出発して、本発明によれば、それぞれが少なくとも1つのARE外管と、任意の少なくとも1つのARE内管とを有する反共振要素プリフォームが提供され、ARE外管および/またはARE内管が、成形工具を用いずに垂直方向線引き法に基づいて作製されることによって解決される。
【0065】
一次プリフォームを製造するために、本発明による方法に従って複数の反共振要素が提供され使用され、それらの反共振要素のうちの少なくとも一部、好ましくはすべてが、成形工具を用いない垂直方向線引き法において作製される。この方式は、中空コアファイバの精密な製造を実現する。プリフォームを製造するための措置は、中空コアファイバの製造に関連して上記に詳しく説明されており、それらの説明がここに引用される。
【0066】
定義
これまでに述べた明細書の個々の工程と用語について、以下に補足的に定義する。これらの定義は本発明の明細書の構成要素である。以下の定義のいずれかと残りの明細書との間で実質的な矛盾がある場合、残りの明細書の中で言及していることが優先される。
【0067】
反共振要素
反共振要素は、中空コアファイバの単純な構造要素または入れ子構造要素であってよい。これは、中空コアの方向から見て負の曲率(凸部)を持つか、曲率を持たない(平面、直線)少なくとも2つの壁を有している。通常、反共振要素は動作光に対して透明な材料、例えばガラス(特にドープしたSiO2またはドープしないSiO2)、プラスチック(特にポリマー)、複合材料または結晶材料からなる。
【0068】
反共振要素プリフォーム/反共振要素前段階
反共振要素プリフォームとは、主にファイバ線引きプロセスにおける単純な線引きによって中空コアファイバ内で反共振要素になる構成部品またはプリフォームの構成部品である。反共振要素前段階とは、変形によって初めて反共振要素プリフォームまたは直接的に反共振要素になる構成部品またはプリフォームの構成部品である。反共振要素プリフォームは、単純な構成部品または入れ子になっている構成部品であってよく、これに追加的に位置決め補助を固定することができる。反共振要素プリフォームは、もともと一次プリフォームの中に存在する。
【0069】
入れ子の反共振要素プリフォームは、中空コアファイバの中で入れ子になっている反共振要素を形成する。これは、1本の外管と、外管の内部ボア内に配置されている少なくとも1つのさらなる構造要素とから構成されている。さらなる構造要素は、外管の内側クラッド面に接しているさらなる管であってよい。外管は「反共振要素外管」または略して「ARE外管」と呼ばれ、さらなる管は「反共振要素内管」または略して「ARE内管」または「入れ子になっているARE内管」とも呼ばれる。
【0070】
入れ子になっているARE内管の内部ボアの中には、反共振要素プリフォームが何重にも入れ子になっている場合、少なくとも1つのさらなる構造要素、例えば入れ子になっているARE内管の内部クラッド面に接する第3の管を配置してもよい。
【0071】
反共振要素プリフォームが何重にも入れ子になっている場合は、ARE外管の中に配置されている複数の管を区別するため、必要に応じて「入れ子になっている外側のARE内管」と「入れ子になっている内側のARE内管」とが区別される。
【0072】
シリンダ形の反共振要素プリフォームおよびそれらのシリンダ形構造要素に関連する「断面」という用語は、常に、それぞれのシリンダ長手方向軸に対して垂直の断面を示し、特に指定がない限り、管状構成部品における外部輪郭の断面を示すものである(内部輪郭の断面ではない)。
【0073】
一次プリフォームのさらなる加工により、とりわけ熱成形処理により、元の反共振要素プリフォームが初期形状に対して変化した形状で存在する中間製品を作ることができる。ここでは、変化した形状も同様に反共振要素プリフォームまたは反共振要素前段階と呼ぶ。
【0074】
プリフォーム/一次プリフォーム/二次プリフォーム/コアプリフォーム(ケーン)
プリフォームは、反共振中空コアファイバが線引きされる構成部品である。これには、一次プリフォームまたは一次プリフォームのさらなる加工によって作製される二次プリフォームがある。一次プリフォームは、少なくとも1本の被覆管と、その中に緩くまたは堅固に固定された状態で収納されている、反共振要素のためのプリフォームまたは前段階とからなる集合体であってよい。一次プリフォームを、中空コアファイバが線引きされる二次プリフォームにさらに加工することは、
(i)延伸、
(ii)コラップス、
(iii)コラップスおよび同時延伸、
(iv)追加のクラッド材料のコラップス、
(v)追加のクラッド材料のコラップスとそれに続く延伸、
(vi)追加のクラッド材料のコラップスおよび同時延伸、
のうち1つ以上の熱成形プロセスが一回または反復して実行されることを含む。
【0075】
文献においてコアプリフォーム(英語:ケーン、Cane)とは、一次プリフォームのコラップスおよび/または延伸によって得られるプリフォームである。通常、コアプリフォームは、中空コアファイバの線引き前または線引き時に追加のクラッド材料により覆われる。
【0076】
延伸/コラップス
延伸では、一次プリフォームが長く伸ばされる。この延伸は、同時コラップスなしで行ってよい。延伸は一定の縮尺に従って行うことができるため、例えば一次プリフォームの構成部品の形状および配置は延伸した最終製品に反映されている。しかし、延伸では、一次プリフォームが寸法どおりに線引きされず、幾何形状が変化する可能性もある。
【0077】
コラップスでは内部ボアを狭くしたり、管状構成部品間の環状の隙間を塞いだり、狭くしたりする。このコラップスは、通常、延伸と平行して行われる。
【0078】
中空コア/内部クラッド領域/外部クラッド領域
少なくとも1つの被覆管と、その中に緩くまたは堅固に固定された状態で収納されている反共振要素のプリフォームまたは前段階とからなる集合体を、ここでは「一次プリフォーム」とも呼ぶ。この一次プリフォームは、中空コアとクラッド領域から構成される。このクラッド領域は、例えば集合体へのコラップスによって形成された「外部クラッド領域」が存在しており、これらのクラッド領域を区別する必要がある場合は、「内部クラッド領域」とも呼ばれる。「内部クラッド領域」と「外部クラッド領域」という名称は、中空コアファイバや一次プリフォームのさらなる加工によって得られる中間製品の該当する領域に対しても使用される。
【0079】
「管内側」という名称は「管の内部クラッド面」の同義語としても用いられ、「管外側」という名称は「管の外部クラッド面」の同義語としても用いられる。管に関連した用語「内部ボア」は、内部ボアが穴あけ作業によって形成されたことを意味するものではない。
【0080】
切削加工
加工物を分離加工するための機械的製造方式であり、特に旋盤加工、切断加工、穴あけ加工、鋸加工、フライス加工または研磨加工を意味する。この加工により、被覆管長手方向軸の方向に延びる長手方向構造が得られ、これは反共振要素プリフォームの位置決め補助として用いられる。長手方向構造は被覆管内側からアクセスできるようになっており、被覆管壁全体を通って外側まで延びていてもよい。
【0081】
粒度および粒度分布
SiO2粒子の粒度および粒度分布は、D50値に基づき特徴付けられる。この値は、SiO2粒子の累積量を粒度に応じて示す粒度分布曲線から読み取られる。粒度分布は、それぞれのD10値、D50値、D90値に基づき特徴付けられることが多い。このとき、D10値はSiO2粒子の累積量の10%に達しない粒度を示し、対応して、D50値およびD90はSiO2粒子の累積量の50%または90%に達しない粒度を示す。粒度分布は、ISO13320に準拠した散乱光およびレーザー回折分光法によって検出される。
【0082】
実施例
以下に、実施例に基づき、図を用いて本発明を詳しく説明する。図面は概略的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】中空コアファイバのためのプリフォームを製造するための、被覆管と、その被覆管内に位置決めされて固定された反共振要素プリフォームとを含む一次プリフォームの半径方向の断面図を示す。
【
図2】垂直方向線引き法に基づいて、工具を用いずにAREA外管およびAREA内管を製造する際に使用される装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
中空コアファイバまたは中空コアファイバのためのプリフォームの製造では、多数の構成部品を相互に接続しなければならない。さらに、熱成形プロセスを実行する場合、プリフォームに存在している隙間やチャネルを封止することは有益である。独国特許出願公開第102004054392A1から公知のように、接合または封止には、SiO2ベースの封止材または接合材が使用される。このとき、シリカガラス粉粒体の湿式製粉によって、D50値が約5μmおよびD90値が約23μmによって特徴付けられる粒度分布を有する非晶質SiO2粒子を含む水性スラリーが生成される。このベーススラリーに、約5μmの中等度の粒度を持つ非晶質SiO2粒子が混合される。接合材として使用されるスラリーは、90%の固形物含有量を有し、少なくとも99.9重量%はSiO2から構成されている。
【0085】
図1は、被覆管壁22を有する被覆管21を含む一次プリフォーム23を概略的に示し、被覆管壁22の内側クラッド面には、事前に規定された方位角位置において、反共振要素プリフォーム24が、この実施例では6個のプリフォーム24が均等な間隔で固定されており、図示していない別の好適な実施形態では、奇数個のプリフォームが存在する。
【0086】
被覆管21は、シリカガラス製であり、1000mmの長さ、27mmの外径、20mmの内径を有する。反共振要素プリフォーム24は、ARE外管24aおよびARE内管24bが互いに入れ子になった構造要素の集合体として存在する。ARE外管24aは、6.2mmの外径を有し、ARE内管24bは、2.5mmの外径を有する。両方の構造要素(24a;24b)の壁厚は等しく、0.3mmである。従って、直径比は、ARE外管では1.107であり、ARE内管では、1.315である。ARE外管24aとARE内管24bの長さは、被覆管の長さに対応する。
【0087】
被覆管21の内壁における反共振要素プリフォーム24の固定は、SiO2ベースの接合材25を用いて行われる。
【0088】
接合材25は、被覆管の内側クラッド面において、端面の領域に局所的に塗布され、反共振要素プリフォーム24は、それら個々の反共振要素プリフォーム24のための保持アームが構造的に規定されて星形に配置されている位置決めテンプレートを使用して、接合材25の上に載置される。位置決めテンプレートは、ここでは、被覆管の両端部付近の領域に限定されている。
【0089】
この方式によって、被覆管21と反共振要素プリフォーム24との間で正確で再現可能な接続が行われる。固定のためには、低温で接合材25が硬化されれば十分であり、それによって、周囲領域が強く加熱され、これにより反共振要素プリフォーム24が変形するのが回避される。
【0090】
乾燥に必要な温度は300℃以下であり、これによりプリフォームの寸法安定性の維持が促進され、熱による悪影響が回避される。例えば、プリフォームを中空コアファイバに延伸する際に、800℃付近の高温まで加熱すると、封止材または接合材25のさらなる熱凝固が生じるため、曇りガラスや透明ガラスの形成にも適している。このことは焼結やガラス化によって生じるが、この場合、曇りガラスへの焼結は、完全に透明になるまでガラス化するよりも比較的低い温度および/または短い加熱時間で済む。従って、封止材または接合材25を加熱によって完全に圧縮することができ、熱成形プロセスでの加熱によってガラス化が可能である。この際、封止材または接合材がシリカガラスのような特性を示す。つまり、封止材または接合材は、粘性になり、また変形可能になる。
【0091】
一次プリフォーム23は、シリカガラスからなる外層シリンダにより覆われ、外層シリンダは、被覆管1にコラップスされ、それと同時に、管集合体が延伸されて二次プリフォームが形成される。外層シリンダは、63.4mmの外径および17mmの壁厚を有する。
【0092】
コラップスプロセスおよび延伸プロセスでは、被覆管1と外層シリンダの同軸配置体が、長手方向軸を垂直に配向させて、温度制御された加熱ゾーンに下から案内され、その加熱ゾーン内で、同軸配置体の上端からゾーン毎に軟化される。
【0093】
加熱ゾーンは、±0.1℃の制御精度で1600℃の目標温度に維持される。これによって、熱成形プロセスにおける温度変動を±0.5℃未満に抑えることができる。
【0094】
コラップスプロセスおよび延伸プロセスにおいて形成された二次プリフォームは、約50mmの外径と、外側クラッドおよび内側クラッドからなる、合わせて16.6mmのクラッド壁厚とを有する。反共振要素プリフォームの最大壁厚変動(最大値-最小値)は4μm未満である。続いて、二次プリフォームが線引きされて、反共振中空コアファイバが形成される。
【0095】
以下の表は、変形プロセス(コラップスおよび延伸)の前(BEFORE)および後(AFTER)での、異なる外径における引出しパラメータを示す。
【表1】
【0096】
加熱ゾーンは、100mmの長さを有する。例えば、90mmの外径および10mmの壁厚を有する被覆管は、加熱ゾーンへの5mm/minの送り速度では、27.6g/min、15mm/minの送り速度では、83g/minのスループットが得られる。送り速度が15mm/minの場合、25mmの外径および1mmの壁厚を有する管では、2.49g/minのスループットが得られる。
【0097】
プリフォームにおける反共振要素プリフォームの壁厚の最大偏差は、いずれの実施例においても約4μmである。プリフォームからは、200μm~230mmの外径を有する中空コアファイバが線引きされ、反共振要素の壁厚が決定された。
【0098】
図2に示した装置は、ドープされていないシリカガラスからなる出発シリンダ4を、工具を用いずに延伸して、中間シリンダを形成するために使用される。
【0099】
出発シリンダ4の外壁は、#80の砥石が設けられた円筒研磨機を用いて粗く研磨され、これによって所定の目標外径が実質的に得られる。続いて、外側クラッド面が、NC円筒研磨機を用いて精密に研磨される。そのようにして得られた管の内側クラッド面は、#80のホーニング砥石が設けられたホーニングマシンを用いて全体的にホーニングされ、その際、平滑度が連続的に高められ、#800のホーニング砥石により最終的な処理が行われる。続いて、出発シリンダ4が、30%のフッ酸エッチング液内で短時間エッチングされる。このようにして、200mmの外径および70mmの内径を有する出発シリンダ4が製造される。続いて、この出発シリンダ4が、
図2に示した装置における垂直方向線引き法によって延伸されて中間シリンダ12が形成される。
【0100】
装置は、垂直に配向された、グラファイト製の抵抗加熱管1を含み、この抵抗加熱管1は、横断面が円形の加熱室3を包囲する。加熱管1は、240mmの内径、260mmの外径、200mmの長さを有する環状要素から構成されている。加熱管1は、本来の加熱ゾーンを包囲する。加熱管1の両側は、55mmの幅の延長ピース5を用いて延長されている。この延長ピースは、250mmの内径および280mmの外径を有するグラファイト管からなる。加熱ゾーンの内部容積Vcは約8140mm3である。
【0101】
(上部延長ピース5の上縁における)上部検出面の高さE1には、出発シリンダ1の表面温度を検出するパイロメータ6が配置されている。(下部延長ピース5の下縁における)下部検出面の高さE2には、延伸された連続管シリンダ12の表面温度を検出するパイロメータ7が配置されている。パイロメータ6および7の温度測定値、ならびにパイロメータ16によって測定された加熱管1の温度は、それぞれコンピュータ8に供給される。
【0102】
出発シリンダ4の上端は、溶接接続部9を介してシリカガラス保持管10に接続されており、出発シリンダ4は、このシリカガラス保持管10によって水平方向および垂直方向に変位可能である。
【0103】
出発シリンダ4は、その長手方向軸が加熱管1の中心軸2と可能な限り同軸に延在するように配向される。出発シリンダ4は、(その下端から始まって)加熱室3に一定の送り速度で上方から送られ、加熱室3内で軟化される。軟化した領域から、中間シリンダ連続管12が垂直方向に下に向かって、引き出し円錐部11を形成しながら引き出される。その際、中間シリンダ連続管12は、同様にコンピュータ8に接続されている壁厚測定器14に沿って案内され、線引きプロセス中、引き出された連続管12の壁厚を記録して、コンピュータ8によって評価することができる。出発シリンダ4および中間シリンダ連続管12の連続した内部ボアには、参照番号13が付されている。管引出し速度は、引出し装置15によって検出され、コンピュータ8を介して調整される。
【0104】
垂直方向に配置された加熱管1内では、200mmの外径および75mmの内径を有するシリカガラス出発シリンダ4が、その長手方向軸が加熱管1の中心軸2と同軸になるように位置調整される。出発シリンダ4は、加熱ゾーン3において、2,200℃を上回る温度に加熱され、所定の送り速度でもって排出される。形成される引き出し円錐部11から、シリカガラス連続管12が制御された線引き速度により、40mmの公称外径、30mmの内径(壁厚:5mm)に中間シリンダとして引き出される。中間シリンダは、平滑に溶融しており、粒子を含まない表面を示す。
【0105】
中間シリンダは、第2の延伸装置内での第2の延伸工程において、AREA外管またはAREA内管を製造するための出発シリンダとして使用される。このために使用される第2の線引き装置は、
図2の線引き装置と同じであるが、加熱ゾーンの長さおよび内径が実質的に異なる。加熱ゾーン(加熱管)は、120mmの内径、140mmの外径、100mmの長さを有する。