(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】シンチレーション検出器における位置決定およびエネルギー決定のための方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20240312BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20240312BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01T1/20 G
G01T1/161 C
G01T1/36 D
(21)【出願番号】P 2022521603
(86)(22)【出願日】2020-09-26
(86)【国際出願番号】 DE2020000222
(87)【国際公開番号】W WO2021073668
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】102019007136.0
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ラーヒェ・クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ビィ・ウェンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】シャー・ナディム・ヨーニ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527782(JP,A)
【文献】Rui Wang et al.,Absolute Gamma Source Positioning with Position-sensitive Scintillation Detector Arrays,2018 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference Proceedings (NSS/MIC),2018年11月
【文献】Ch.W. Lerche et al.,Fast circuit topology for spatial signal distribution analysis,2010 17th IEEE-NPSS Real Time Conference,2010年05月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G01T 1/161
G01T 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンチレーション検出器における位置決定およびエネルギー決定のための方法において、
シンチレーションイベントを生じさせる粒子の光変換エネルギーおよび光変換位置が、一つのシンチレーションイベントまたは複数のシンチレーションイベントにより放出されて光検出器により網羅的に収集されるシンチレーション光の分布から、反復計算を行なわない方法で式(6),(7)および(8)に従って計算され、
【数1】
であることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
最大信号となる光検出器の一つまたは複数の光検出器ピクセルインデックスn
maxが特定され、光検出器ピクセルn
maxの位置からの距離に応じて降順にシンチレータセグメントインデックスが保存されている数値テーブルから、1≦p≦M
relで最も関連性があるシンチレーションセグメントインデックス{m
1,…,m
p}が読み出され、FPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存され、式(6)に従って対数尤度を計算するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
検出確率μ
m,nが保存されている数値テーブルから、i∈1,...,tおよびj∈1,...,pとして最も関連性がある{m
1,…,m
p}×{q
ni,…,q
nt}組の確率μ
mj,niが読み出され、FPGAまたはCPUのレジスタに一時保存され、式(6)に従って対数尤度を計算するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法において、
近似された対数log
~
2(μ
mj,ni)が決定され、FPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存され、q
niが乗算され、式(6)により足し合わされることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、
確率μ
mj,niが式(6)により足し合わされ、その足し合わせにmax(q
ni)が乗算され、その結果がFPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法において、
【数2】
の足し合わせが最大となるシンチレーションセグメントインデックスm
MLが特定され、その値がFPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法において、
確率μ
mML,niが式(8)により足し合わされ、その結果がFPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の方法において、
エネルギーを正しく計算するための校正係数norm
mが保存されている数値テーブルからnorm
MLが読み出され、光検出器ピクセル信号の足し合わせ
【数3】
と乗算され、式(8)に従った確率μ
mML,niの足し合わせにより除算されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
FPGAに実装する場合に、前記除算が画像再構成コンピュータにおいて外部処理されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の方法において、
シンチレーションイベントは、ガンマ線光子、α線粒子、β線粒子、レプトン、X線光子または素粒子から構成される中間子、バリオンまたはイオンといった粒子の一群からなる粒子によって引き起こされることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレーション検出器における位置決定およびエネルギー決定のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレーション検出器は、さまざまな粒子検出器の基本的な構成要素であり、素粒子物理学およびニュートリノ物理学において、核医学(例えば、陽電子放出断層撮影(PET)またはコンプトンカメラおよび単一光子コンピュータ断層撮影(SPECT))において、放射線画像において、そして、放射線防御において使用される。シンチレーション検出器は主に、シンチレーションイベント(シンチレーション事象)を引き起こし得る例えばガンマ線光子、α線粒子またはβ線粒子などの粒子を検出するために使用される。基本的に、素粒子は、レプトンまたはガンマ線光子若しくはX線光子であることもあるし或いは素粒子から構成される中間子、バリオンまたはイオンなどの粒子であることもある。シンチレーション検出器はこのとき、必ずシンチレータと光検出器とで構成されている。ここで、シンチレータは、単結晶形態(例えばBGO、LSOなど)、多結晶形態(例えば高感度素子(Ultra Fast Ceramics))、液体形態(例えばキセノン)または気体形態(例えば高圧キセノン)で用いることができる。固体シンチレータは、単体の結晶として或いは全てまたは部分的にセグメント化された結晶として存在し得る。全てセグメント化されたシンチレータでは、一つ一つのシンチレーションセグメントは、シンチレータピクセルとも呼ばれる。一つ一つのシンチレーションセグメントは、通常、例えば、半透明、不透明または反射層によって互いに部分的または完全に光学的に分離されている。複数のシンチレーションセグメントから構成されるシンチレータは、シンチレータアレイまたはシンチレータマトリックスと呼ばれる。光検出器としては、光電子倍増管(PMT)、マルチチャネルプレート(MCP)、アバランシェフォトダイオード(APD)およびシリコン光電子倍増管(SiPM)が使用される。ここで、SiPMは、アナログ技術(aSiPM)またはデジタル技術(dSiPM)で構成することができる。
【0003】
シンチレーション検出器の多くの応用では、粒子のエネルギーを決定するだけでなく、粒子の到着時間、シンチレータが占める空間内での光変換の少なくとも2次元位置、理想的には3次元位置も決定する必要がある。
【0004】
二次元の位置を決定する場合、光変換位置は、光検出器の感光面に平行な平面内で決定される。以下の記述では、この二つの座標をx座標およびy座標と呼ぶ。三次元の光変換位置を決定する場合に加わる第三の座標は、一般には相互作用深さ(英語ではDepth of Interaction)と呼ばれ、以下の記述では、z座標と呼ぶ。
【0005】
多くの場合、粒子の到着時間の測定は、光検出器の先に接続された分析電子機器によって、例えば、閾値弁別器またはコンスタントフラクション弁別器またはこれら二つの組み合わせによって行われる。dSiPMの場合、一つ一つの光子の到着時間は、その先に接続された分析電子機器を用いることなく、そのまま光検出器内で測定され、測定データの処理にそのまま利用することができる。
【0006】
光変換位置を決定するには、位置敏感型の光検出器が必要である。これには、位置有感型光電子倍増管(PSPMT)、マイクロチャネルプレート(MCP)、APDアレイおよびSiPMアレイが用いられる。後者は、電子的に集積化されてモジュールにまとめられる独立した個々のSiPMまたはAPDのマトリックスから構成される。PSPMTは通常、セグメント化されたアノード、共通の光電陰極および集束ダイノードにより実用化されるので、一つ一つのアノード素子は、互いに無関係には動作しない。PSPMTおよびMCPのアノードセグメントと、SiPMアレイおよびAPDアレイの個々のSiPMおよびAPDとは、いずれも光検出器ピクセルと呼ばれる。
【0007】
一次ガンマ線光子とも呼ばれる入射ガンマ線光子は、光電効果、対生成またはコンプトン効果を介してシンチレータと相互作用する。光電効果では、一次ガンマ線光子のエネルギーは、完全にシンチレータの電子に受け渡され、その電子が次にシンチレータ材料を励起する。コンプトン効果では、一次ガンマ線光子のエネルギーの一部だけがシンチレータの電子に受け渡され、その電子が次にシンチレータ材料を励起する。ガンマ線光子は、残りのエネルギーを保っており、光電効果またはコンプトン効果を介してシンチレータともう一度相互作用する場合もある。このプロセスは、光電効果を介した相互作用で、その相互作用の際にガンマ線光子が消滅するか或いはガンマ線光子がそれ以上相互作用することなくシンチレータを後にするような相互作用をするようになるまで繰り返される。最後のイベント(事象)は、コンプトンエスケープと呼ばれる。複数の相互作用を伴うイベントは、コンプトンカスケードと呼ばれる。対生成では、陽電子と電子が生成され、一次ガンマ線光子のエネルギーは、完全にこれら両方の粒子に受け渡される。
【0008】
ガンマ線光子とは対照的に、電子、すなわち光電子とコンプトン電子および陽電子のシンチレータ内における到達距離は極めて短い(511keVの電子エネルギーの場合で≦150μm)。電子または陽電子によりシンチレータに放出されるエネルギーは、シンチレータの蛍光中心を励起し、その後、その蛍光中心が元の状態に戻り、そのときにシンチレーション光を短い時間の間に等方的に放出する。このとき、シンチレーション光子の数は、粒子、例えばガンマ線光子により相互作用の際に放出されるエネルギーにほぼ比例する。完全なコンプトンカスケードの場合、つまり、粒子が完全にシンチレータ内でシンチレーション光に変換され、コンプトンエスケープが発生しない場合、シンチレーション光子の総数は、それ故、一次粒子、例えばガンマ線光子のエネルギーに略比例する。ガンマ線光子から光電子またはコンプトン電子を経てエネルギーがシンチレータ結晶に受け渡され、それがシンチレーション光子に変換されるプロセスを光変換という。
【0009】
ちょうど一つの一次ガンマ線光子または粒子のエネルギーが一つ又は複数の光変換でシンチレーション光に変換されるイベント(事象)を以下ではシンチレーションイベント(シンチレーション事象)と呼ぶことにする。
【0010】
短い時間内に放出されるシンチレーション光若しくはシンチレーション光に比例した光検出器からの信号、例えば電圧、電流または電荷は、直接光検出器によって、或いは、下流側に接続された電子機器によって、いつも同じ或る定められた期間にわたって積分される。積分は、トリガー電子機器によって開始され、このトリガー電子機器が、シンチレーションパルスの立ち上がり時に急速に増加するシンチレーション光強度を閾値と比較(閾値弁別器)して、閾値を超えたときに積分を開始する。この閾値は、光検出器の熱雑音またはその他の雑音源と比較して十分大きく選択されることで、ノイズ信号により絶え間なくトリガーされることがないようになっている。デジタルSiPMでは、積分はそのままSiPM内でSiPMの活性化したマイクロセル(シングル・アバランシェ・フォトダイオード(Single Avalanche Photodiode)(SAPD)とも呼ばれる。)をカウントすることにより行なわれる。
【0011】
シンチレーション光は、等方的に放射されるので、シンチレーション光を全て検出するには、シンチレータを光検出器で全て取り囲まなければならないと言えるかもしれない。経済的な理由から及び技術的な実現性により、通常は、シンチレータの一側面のみが光検出器にカップリング(結合)されている。残りの側面は、レフレクタを用いて被覆され、このレフレクタがシンチレーション光子を反射することで、これらの光子が一つまたは複数の内部反射を経た後に光検出器に到達するようになっている。単体のシンチレータの場合であれ、セグメント化されたシンチレータ若しくはシンチレータアレイの場合であれ、いずれの場合も、光学カップリングされた光検出器、位置敏感型の光検出器または光検出器アレイの面内に、シンチレーション光子の等方的な放出と残りのシンチレータ表面での内部反射のために特徴的なシンチレーション光の分布が生じる。このシンチレーション光の分布は、xy平面内、つまり、光検出器の有感面に平行な面内において、光変換位置に最大値がある。この位置を以下の記述では、(xPK,yPK)と表すことにする。xy平面内の位置(xPK,yPK)からの光検出器ピクセルの距離が大きくなればなるほど、光検出器ピクセルにより検出可能なシンチレーション光量は少なくなる。(xPK,yPK)からの距離が十分に開くと、シンチレーション光量もゼロに向かって行く可能性がある。
【0012】
このシンチレーション光の分布から、ガンマ線光子のエネルギーと光変換位置を決定することができる。最も簡単なケースでは、シンチレーション光を透過させる材料層からなるライトガイドを挿入することにより、シンチレーション光の分布を容易に変えることができ、最適な光変換位置決定のための光検出器ピクセルの大きさにその分布を調整することができる。エネルギーと光変換位置を決定するためのアルゴリズムで最も広く用いられているものは、期待値を決定するというものであり、発明者であるハル・アンガー(Hal Anger)にちなんで、アンガー法とも呼ばれる。x方向にN
x個の光検出器ピクセルとy方向にN
y個の光検出器ピクセルを有する光検出器アレイの場合、この方法に従って、エネルギー〈E〉
Angerと光変換位置の二つの座標〈X〉
Angerおよび〈Y〉
Angerが次式により決定される:
【数1】
このときのq
ix,
iyは、使用される光検出器とその電気的出力回路に応じて、アナログ値若しくはデジタル値、活性化したマイクロセルまたはシングル・アバランシェ・ダイオード(SPAD)の数、電荷または電圧若しくは電流とすることができる。
エネルギーと光変換位置を決定するための数式1~3により記述される方法は、非特許文献1(Chen-Yi & Goertzen, 2013)により、重み付けされた信号w
ix,
iyq
ix,
iy(ここで、w
ix,
iyは個別に決定することができる。)で信号q
ix,
iyを置き換えることで改善ができる。
【0013】
式1~3を用いるかまたは非特許文献1に従ってエネルギーと光変換位置を決定することには、しかしながら二つの重大な欠点がある。第一に、光子の検出がポアソン過程であり、そのために信号q
ix,
iyがポアソン統計に従い、q
ix,
iyの統計的な測定誤差が、
【数2】
に比例することを考慮していない。これにより、光量が少ないと、〈X〉
Angerと〈Y〉
Angerの統計的な不確実性が大きくなる。第二に、光検出器アレイは、互いに完全に独立して動作する一つ一つの個別の光検出器ピクセルからなる。特に、一つ一つの各光検出器ピクセルの信号を時間積分するためのトリガー電子機器も、光検出器アレイの他の全ての光検出器ピクセルとは独立して動作する。同じことが、MCPとPSPMTにも当てはまり得る。シンチレーション光の分布との関係で、(x
PK,y
PK)から遠く離れた光検出器ピクセルの位置での検出可能な光量が、光検出器ピクセル(i
x,i
y)のための閾値に近い値になる可能性がある。このことが、信号q
ix,
iyのポアソン統計に起因して影響をもたらし、ポアソンゆらぎの影響を受けた信号が閾値の上にあるか下にあるかによって、(x
PK,y
PK)からの距離が大きい光検出器ピクセル(i
x,i
y)の信号の積分のトリガーが偶発的にかかる。シンチレーション光に比例する信号の積分が開始されないと、この光検出器ピクセルに関しては、信号がq
ix,
iy=0という結果になってしまう。これは、q
ix,
iy>0となる光検出器ピクセルの数が、シンチレーションイベントの度に異なり、その結果、数式2および数式3に従って計算される位置(〈X〉
Anger,〈Y〉
Anger)が著しい統計誤差を含み得る(非特許文献2(Lerche, et al., 2016))ことを意味する。非特許文献3(Schug, et al., 2015)では、この問題は、信号が無い光検出器ピクセル(つまり、積分されたシンチレーション光量がポアソンゆらぎのために閾値の下にあることで積分がトリガーされなかったピクセル)の信号q
ix,
iyが、同じシンチレーションイベントについてq
ix,
iy>0となる信号から線形に外挿される値で置き換えられることにより回避される。ただし、外挿された信号は、対応する光検出器ピクセルの実際のシンチレーション光量には対応しておらず、q
ix,
iy=0となる光検出器ピクセルの信号を最大で一つ外挿できる。
【0014】
式1~3に代わるシンチレーションイベントのエネルギーと位置の決定の方法は、非特許文献4(DeWitt, et al., 2010)、非特許文献5(Johnson-Williams, et al., 2010)、非特許文献6(Wang, et al., 2016)および非特許文献2に記述されているように、最尤(maximum likelihood)(ML)推定値を決定することである。非特許文献4、非特許文献5および非特許文献6には、単体のシンチレータにおけるシンチレーションイベントの2Dまたは3D位置を決定するための反復式のMLアルゴリズムが記述されており、それらは、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)に実装するのに適している。非特許文献4および非特許文献5に記載された実装では、光検出器ピクセル信号のポアソン分布がガウス分布で近似される。非特許文献2には、セグメント化されたシンチレータにおけるガンマ線光子やその他の粒子の2D位置とエネルギーを決定するための反復式のMLの実装化が記述されている。この最後の実装化に関しては、MLベースの(MLに基づく)アルゴリズムにより、信号がqix,iy>0となる、つまりデータが不完全な光検出器ピクセルに専ら基づいてシンチレーションイベントの位置とエネルギーを決定することが可能となるので、ポアソンゆらぎのためにqix,iy=0となる光検出器ピクセルが現れる可能性があるという上述した問題を効率的に解決できることを示すことができた。しかも、MLベースの方法を使用する場合、一つ一つの光検出器ピクセルの閾値を思い通りに引き上げることが可能である。これにより、一回のシンチレーションイベントについて、光検出器ピクセルが対応する閾値を超える値の信号を測定することが少なくなり、その結果、トリガーされる積分が全体的に少なくなり、このことが、シンチレーション検出器の全体的な不感時間(デッドタイム)を減らすことになる。一つの光検出器要素によって信号の積分がトリガーされた場合、その後は、積分が終了し且つ想定される後続のデータ処理のステップが完了するまで、それ以上の積分をトリガーすることができない。この間、それ以上のシンチレーションイベントを検出することができない。この時間を検出器の不感時間(デッドタイム)と呼ぶ。加えて、qix,iy=0の信号値は、データアクイジションユニット(データ取得ユニット)に転送されないので、それほど信号を伝送しなくて済む。これは、それらの信号が何の情報も含まず、それ故に伝送すべきデータ量が少なくなるからである。閾値を引き上げることは、式1~3に従った標準的な方法を用いては、位置とエネルギーの値の精度を下げることなくしては不可能である。
【0015】
アンガー法の最大の欠点は、ポアソンゆらぎのために、qix,iy=0となる光検出器ピクセルが発生する可能性があり、それがかなりの不正確な位置決定をもたらす可能性がある(非特許文献2)という既に上述した問題である。その上、信号qix,iyは、ポアソンゆらぎ以外のさらなる測定誤差を伴っている。この付加的な測定誤差の原因は、PSPMT、MCP、SiPMアレイまたはAPDアレイの製造時の公差であり、それが特に、固有の異なる信号増幅と、それに伴ったもともと同じシンチレーション光量の異なる信号強度とを通じて顕著となる。他の考えられ得る製造公差は、一つ一つの光検出器ピクセルを配置するときに発生する。つまり、重み付け係数として式1~3に入り込む光検出器ピクセルの位置(xix,yiy)もまた、製造公差のために誤差を伴うということである。製造公差は、例えば、僅かな、シンチレーションセグメントの大きさと粒子エネルギー単位あたりのシンチレータ光量(英語でLightyield(光子収率))のばらつき、シンチレータ表面の反射率のばらつき、光学カップリングの透過率のばらつき等、単体のシンチレータおよびセグメント化されたシンチレータの製造時にも発生する。これらの誤差原因とその他の誤差原因に起因して、式1~3を用いて決定したシンチレーションイベントのエネルギーおよび位置は誤差を伴っており、エネルギー〈E〉Angerと位置(〈X〉Anger,〈Y〉Anger)の決定に続いてそれらの補正を要する。その補正値は、各PSPMT、MCP、各SiPMアレイ、各APDアレイ、各単体のシンチレータおよび各セグメント化されたシンチレータについて、キャリブレーション測定により個別に決定しなければならず、しかも、コンポーネントが経年劣化の影響を受けるために、定期的に繰り返される必要がある。
【0016】
シンチレーションイベントのエネルギーと位置を決定するためにMLベースの方法を使用する場合、エネルギーおよび位置の参照値を有する数値テーブル(ルックアップテーブル(LUT))が必要である。この参照値テーブルに必要なキャリブレーションデータを組み込むことは、シンチレーション検出器ごとに独自の参照値テーブルを作成することにより可能である。ただし、必要な参照値テーブルは、従来のどのMLベースの方法においても非常に大きいため、完全なPETまたはSPECTスキャナの全てのシンチレーション検出器の参照値テーブルを、すばやくアクセスできるメモリ(例えばQDR-RAM、Ultra-RAM、BRAMおよびFPGAのフリップフリップおよびCPUとGPUのキャッシュ)に保存することができない。そのため、参照テーブルは、外部のSDRAMまたはDRAMのチップに保存する必要があるが、このことは、これらのメモリタイプの読み取り速度がかなり遅いために、シンチレーションイベントのエネルギーと位置の計算時間全体にはかなり不利に働く。
【0017】
加えて、シンチレーションイベントのエネルギーと位置を決定するための従来の公知のMLベースの方法のいずれも、反復的な定式化が行なわれている。これは、最終的な結果が出る前にアルゴリズムが複数回実行されなければならないことを意味する。事前に決めた終了条件(ほとんどの場合、所望の結果の精度が得られたかどうかで評価が行なわれる。)に基づいて、個々のシンチレーションイベントのそれぞれについてさらなる反復が必要であるかどうかが決定される。このように定義する結果、反復回数が個々のシンチレーションイベントに依存することになり、これがFPGAへの実装性と計算時間全体に不利に働く。代わりに、平均して最適な反復回数を事前に設定することもできる。これは、FPGA実装性を改善するものの、反復回数がそれほど最適でもない過剰な計算につながる。従来の公知のMLベースの方法(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6および非特許文献2)のいずれも、反復的なアルゴリズムの定式化に基づいているため、通常のPETまたはSPECTスキャナの全てのシンチレーションイベントを適正な時間内に適正なハードウェアコストで処理するには時間がかかりすぎる。先行技術に該当する人の全身用のPETスキャナの場合、検査する臓器と使用する放射性医薬品に応じて、1秒あたり200万から400万ものエネルギーと位置を決定しなければならない同時シンチレーションイベントが発生し得る。例えば、胸や頭などの器官に特化した専用のPETスキャナは、このレートが2倍になることもある。必要なデータ処理速度の速さのために、人用PETスキャナでは結局アンガーに基づく方法が使用されることが好ましいことになる。
【0018】
さらに、先行技術に該当するPETスキャナでは、最初に同時シンチレーションイベントが選別される。同時シンチレーションイベントが検出されないシンチレーションイベント、いわゆるシングルイベントは無視される。これにより、処理されるデータの量が著しく削減される。しかしながら、これにより、ランダム・コインシデンス補正および散乱補正といった他の必要な補正が困難になる。これらは、同時イベントとシングルイベントの全てを処理する場合に、より正確かつより簡単に決定されなければならない。先行技術に該当する人の全身用のPETスキャナの場合、検査する臓器と使用する放射性医薬品次第では、シングルベースのランダム・コインシデンス補正および散乱補正を可能にするためにエネルギーと位置が決定されなければならないシングルシンチレーションイベントは、1秒あたり4000万から8000万必要となる可能性がある。
【0019】
非特許文献5に示されている、単体のシンチレータのためのMLベースのアルゴリズムは、1秒あたり117000回のシンチレーションイベントとFPGAを処理できる。従って、同時処理プラットフォームには、この研究で挙げられたタイプのFPGAが最大4×106/117000≒44個必要になると考えられる。シングル処理プラットフォームには、最大80×106/117000≒684個のFPGAが必要になると考えられる。その結果、この実装では、費用効果の高いデータ処理のプラットフォームを構築することはできないであろう。
【0020】
非特許文献4に示されている単体のシンチレータのためのMLベースのアルゴリズムは、1秒あたり最大360000のシンチレーションイベントとFPGAを処理できる。従って、同時処理プラットフォームには、この研究で挙げられたタイプのFPGAが最大4×106/360000≒11の個必要になると考えられる。シングル処理プラットフォームには、最大80×106/360000≒223個のFPGAが必要になると考えられる。その結果、この実装では、費用効果の高いデータ処理のプラットフォームを構築することはできないであろう。
【0021】
非特許文献6に示されている単体のシンチレータのためのMLベースのアルゴリズムは、1秒あたり最大15×10
6のシンチレーションイベントとFPGAを処理できる。従って、同時処理プラットフォームには、この研究で挙げられたタイプのFPGAが最大4×10
6/15×10
6≒1個必要になると考えられる。シングル処理プラットフォームには、最大80×10
6/15×10
6≒6個のFPGAが必要になると考えられる。つまり、この実装では、費用効果の高いデータ処理のプラットフォームを構築することが可能にはなる。ただし、この実装では、先ず信号q
ix,
iyが数式4および5によりx軸とy軸に投影される:
【数3】
このように計算されたQ
ixとQ
iyからシンチレーションイベントのエネルギーと位置を十分正確に決定できるようにするために、q
ix,
iy>0を満たしていることがまたしても必要となる。その結果、光検出器ピクセルの個々の閾値は、全ての光検出器ピクセルについて積分がトリガーされるように十分な低さに設定されなければならない。上で述べたように、これにより検出器の不感時間が著しく増加することになる。
【0022】
非特許文献2に示されているセグメント化されたシンチレータのMLベースのアルゴリズムは、1秒あたり最大840000シンチレーションイベントをマルチCPUシステム(CPU=central processing unit(中央処理装置))において40スレッドで処理できる。従って、同時処理プラットフォームには、この研究で挙げられたタイプのデータ処理システムが最大4×106/1840000≒5個必要になると考えられる(非特許文献7(Schug, et al., 2016)および非特許文献8(Goldschmidt, et al., 2015)参照)。シングル処理プラットフォームには、最大80×106/840000≒95個のデータ処理システムが必要になると考えられる。この変形例のFPGA実装は提案されなかったが、上述の他のMLベースの方法におけるのと同様、高速のメモリアクセスに対する要求が高いことから、非常に困難であることは明らかである。従って、この実装では、費用効果の高いデータ処理のプラットフォームを構築することはできないであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【文献】Chen-Yi, L. & Goertzen, A., 2013. Improved event positioning in a gamma ray detector using an iterative position-weighted centre-of-gravity algorithm. Physics in Medicine & Biology, 58(14), p. 189
【文献】Lerche, C. W. et al., 2016. Maximum likelihood positioning and energy correction for scintillation detectors. Physics in Medicine & Biology, 61(4), p. 1650
【文献】Schug, D. et al., 2015. Data Processing for a High Resolution Preclinical PET Detector Based on Philips DPC Digital SiPMs. IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE, 62(3), p. 669
【文献】DeWitt, D. et al., 2010. Design of an FPGA-based algorithm for real-time solutions of statistics-based positioning. IEEE transactions on nuclear science, 57(1), pp. 71-77
【文献】Johnson-Williams, N. et al., 2010. Design of a Real Time FPGA-Based Three Dimensional Positioning Algorithm. IEEE Transactions on Nuclear Science, 58(1), pp. 26-33
【文献】Wang, Y. et al., 2016. An FPGA-Based Real-Time Maximum Likelihood 3D Position Estimation for a Continuous Crystal PET Detector. IEEE Transactions on Nuclear Science, 63(1), pp. 37-43
【文献】Schug, D. et al., 2016. Initial PET performance evaluation of a preclinical insert for PET/MRI with digital SiPM technology. Physics in Medicine & Biology, Volume 61, p. 2851-2878
【文献】Goldschmidt, B. et al., 2015. Software-based real-time acquisition and processing of PET detector raw data. IEEE transactions on biomedical engineering , 63(2), pp. 316-327
【文献】Gutierrez, R. & Valls, J., 2010. Low cost hardware implementation of logarithm approximation. IEEE Transactions on Very Large Scale Integration (VLSI) Systems, 19(12), pp. 2326-2330
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服することである。特に、医療および分子イメージング用のシンチレーション検出器における位置決定およびエネルギー決定のための正確且つ高速の方法を可能にして、PETカメラ、SPECTカメラまたはコンプトンカメラおよびシンチカメラを、高空間分解能、短い不感時間およびデータ処理ユニットに対する妥当なハードウェアパフォーマンス要件で実現しなければならない。この方法は、データが欠けていることに対する許容性と、シンチレーション検出器において通常発生する信号のポアソンゆらぎに対する許容性がなければならない。ここで、許容性があるとは、データが欠けていることによる位置決定誤差が小さく、データから再構築された画像におけるアーティファクトや画像ノイズにつながらないことを意味する。この方法は、光子の検出がポアソン過程であり、そのために、信号qix,iyがポアソン統計に従い、qix,iyの統計的な測定誤差が√qix,iyに比例することを考慮するものでなければならない。CPUまたはFPGAへのこの方法の実装は、PET、SPECTまたはシンチグラフィ検査で検出されたあらゆるシンチレーションイベントを、少ないCPUおよび/またはFPGAだけを使ってリアルタイムでしかもデータ取得中に位置特定できるように省リソース的なものでなければならない。光量が少ない場合には、一つ一つの光検出器ピクセルに関する大きな統計的不確実性が位置とエネルギーの値の精度に影響を及ぼさないことが必要である。一つ一つの光検出器ピクセルの閾値を引き上げても位置とエネルギーの値の精度が低くならないようにしなければならない。入射粒子の間違った位置特定と測定誤差を低減する必要がある。センサの製造時の製造公差は、位置とエネルギーの値の決定の際の不正確さを一層低下させることにつながらなければならない。アンガー法(〈E〉Angerおよび(〈X〉Anger,〈Y〉Anger))におけるようなエネルギーと位置の事後的な補正はもはや不要でなければならない。エネルギーと位置の決定にかかる計算時間は、最小限に抑えられる必要があり、エネルギーと位置は、反復計算を行なわない方法で決定されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1の前提部分おいて書きの構成を基礎にして、本発明の課題は、請求項1の特徴部の構成により解決される。
【0026】
従来技術の欠点は、本発明による方法で克服される。特に、医療および分子イメージング用のシンチレーション検出器における位置決定およびエネルギー決定のための正確且つ高速の方法が提供されることで、PETカメラ、SPECTカメラまたはコンプトンカメラおよびシンチカメラを、高空間分解能、短い不感時間およびデータ処理ユニットに対する適正なハードウェアパフォーマンス要件で提供する。この方法は、データが欠けていることに対する許容性と、シンチレーション検出器において通常発生する信号のポアソンゆらぎに対する許容性がある。この方法は、光子の検出がポアソン過程であり、そのために、信号qix,iyがポアソン統計に従い、qix,iyの統計的な測定誤差が√qix,iyに比例することを考慮するものである。この方法により、CPUまたはFPGAへの実装が可能になり、その実装が省リソース的なものであるため、PET、SPECTまたはシンチグラフィ検査で検出されたあらゆるシンチレーションイベントを、少ないCPUおよび/またはFPGAだけを使ってリアルタイムでしかもデータ取得中に位置特定できるようになる。光量が少ない場合には、一つ一つの光検出器ピクセルに関する大きな統計的不確実性が位置とエネルギーの値の精度に影響を及ぼすのを防ぐ。位置とエネルギーの値の精度が低くならないようにしながら、一つ一つの光検出器ピクセルのより高い閾値を実現できる。シンチレーションイベントをトリガーし得る入射粒子の間違った位置特定と測定誤差が低減する。シンチレーションイベントをトリガーし得る粒子は、例えば、ガンマ線光子またはX線光子、α線粒子またはβ線粒子であり得る。基本的に、素粒子は、レプトンまたはガンマ線光子若しくはX線光子であることもあるし或いは中間子、バリオンまたはイオンなどの素粒子から構成される粒子であることもある。これらを以下では粒子と呼ぶ。センサの製造時の製造公差は、位置とエネルギーの値の決定の際の不正確さを一層低下させることにつながる。エネルギーの追加の補正は不要となる。測定結果を評価するための計算時間は、最小限に抑えられる。エネルギーと位置は、反復計算を行なわない方法で決定される。
【0027】
本発明の有利な発展形態は、従属請求項に記載されている。
【0028】
以下に、本発明を一般的な形態で説明するが、このことを限定的に解釈すべきでない。
【0029】
本発明によれば、シンチレーション検出器における位置決定およびエネルギー決定のための方法が使えるようになり、この方法では、シンチレーションイベントのエネルギーと位置を決定するための反復計算を行なわない式(6),(7)および(8)に従うアルゴリズムが定められる。シンチレーションイベントは、本発明によれば、シンチレーションイベントを生じさせることのできる粒子、例えば、ガンマ線光子、X線光子、α線粒子またはβ線粒子によって生じさせられ得る。基本的に、素粒子は、レプトンまたは光子であることもあるし或いは素粒子から構成される中間子、バリオンまたはイオンなどの粒子であってもよい。
【数4】
【0030】
シンチレーションイベントを生じさせる粒子の光変換エネルギーおよび光変換位置は、一つのシンチレーションイベントまたは複数のシンチレーションイベントにより放出されて光検出器により網羅的に収集されるシンチレーション光の分布から、反復計算を行なわない方法で式(6),(7)および(8)に従って計算される。
【0031】
本発明により用いられる式(6)~(8)に従ったアルゴリズムは、反復を必要とせず、そのことが計算時間を短縮して速いデータ処理速度をもたらす。シンチレーション信号の基礎をなすポアソン統計が考慮されるとともに、xy平面内の光検出器ピクセルの位置を自由に選択することができ、デカルト格子上になくてもよい。この方法は、不完全なデータに対してロバストであるため、信号のない光検出器ピクセルが問題とならず、その結果、決定されたシンチレーションイベントのエネルギーおよび位置の値が高い精度であると同時に、シンチレーション検出器の不感時間を十分に短くすることができる。
【0032】
式(6)~(8)において、mMLは、シンチレーションが発生した可能性が最も高いシンチレーションセグメントのインデックスを表し、EMLは、シンチレーションイベントの最も確からしい総エネルギーを表し、qniは、光検出器アレイの信号を表し、その際、{n1,…,nt}についてだけqni>qthとなる光検出器ピクセル信号が存在し、t≦Nを満たす。ここで、tは、シンチレーションイベントごとに異なる大きさになる可能性があり、そのtの大きさは、光検出器ピクセルに対する閾値の設定によって影響され得る。光検出器ピクセルの大きさが(3~5mm)2且つシンチレーションセグメントの大きさが(1~3mm)2の場合、tが5から20の小さな値であると、式(6)~(8)による速い計算に有利である。光検出器ピクセルインデックスの順番は、MLベースの方法を用いた計算に関係がないため、光検出器ピクセルの番号付けは、それらの幾何学的配置を反映していなくてもよい。光検出器ピクセルは、上記アルゴリズムに関して自由に光検出器アレイの面内に配置することができ、特に、直交座標的な配置でNx=Nyを満たす必要はない。式(6)~(8)において、mj∈{m1,…,mp}は、式(6)~(8)により計算するために考慮されるシンチレーションセグメントのインデックスを表す。多くの場合、シンチレーションイベントは、シンチレータピクセルとも呼ばれるたった一つのシンチレーションセグメント内で完結するように起きる。このシンチレーションセグメントが、qni>0の信号が検出された光検出器ピクセルから離れるほど、このシンチレーションセグメントがシンチレーション光を放出する可能性は低くなる。その結果、xy平面内のシンチレーション光の分布の中心からの距離dに従ってシンチレーションセグメントのランキングリストを作成し、保存することができる。シンチレーション光の分布の中心はこのとき、最大信号qniとなる光検出器ピクセルの位置により決定される。このランキングリストは、光検出器ピクセルごとに事前に決定することさえ可能で、N・Mrel・[log2M]ビットのサイズを持つルックアップテーブル(LUT)に保存することもできる。ここで、Mrelは、関連性があるシンチレーションセグメントの数を表す。その数は、1≦Mrel≦Mの範囲内で自由に選択することができる。Mrelの値を大きくすると、より正確な結果が得られるものの、処理時間は長くなる。式(6)~(8)において、log~
2は、2を底とする対数の近似を表す。対数の近似は例えば、非特許文献9(Gutierrez & Valls, 2010)のように行なうことができ、その場合、平均相対誤差2%、平均絶対誤差0.11および固有の最大絶対誤差0.17の非常に低い精度で構わない。式(6)~(8)において、normmMLは、エネルギーを正しく計算するための校正係数を表し、μmj,niは、シンチレーションセグメントmjにおいて放出されるシンチレーション光子が光検出器ピクセルniにおいて検出される確率を表す。
【0033】
確率μ
m,nは、測定、シミュレーションまたは計算により事前に決定され、M・N・Pビットのサイズを持つルックアップテーブル(LUT,ドイツ語でWertetabelle(数値テーブル))に保存される。Pは、確率値の必要な精度、Mは、シンチレーション検出器で使用されるシンチレーションセグメントの総数、そしてNは、シンチレーション検出器で使用される光検出器ピクセルの総数を表す。Pは、検出器のタイプによって異なり、8ビットより大きい必要がある。校正係数norm
mは、測定、シミュレーションまたは計算により事前に決定され、M・Pビットのサイズを持つルックアップテーブル(LUT)に保存する必要がある。μ
m,nおよびnorm
mはここで、いくつかのシンチレーションイベントに亘って平均された、測定された光の分布
【数5】
から式(9)および(10)により、以下のように決定することができる。ここで、I^
m,nは、シンチレーションセグメントmでシンチレーションが起きたときの光検出器ピクセルnの平均光強度である。
【数6】
【0034】
必要なLUTは、外部ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)、同期ランダムアクセスメモリ(SRAM)、クアッドデータレート(QDR)、SRAMまたは同等のパフォーマンスのメモリ素子に保存することができる。
【0035】
M個のシンチレーションセグメントを備えたシンチレーション検出器とN個の光検出器ピクセルを備えた光検出器アレイからのt個の信号{q
ni,…,q
nt}のセット(ここで、信号{q
ni,…,q
nt}に対して:q
ni>0∀i∈1,...,t≦Nを満たす。)を前提としてE
MLとm
MLを決定するためには、以下の計算手順が必要である:
1.最大信号q
nmaxとなる光検出器ピクセルインデックスn
maxを特定する。最大信号q
nmaxとなる複数のピクセルがあるときは、一つだけを選択するか或いは二つで続行するかのいずれかとすることができる。n
maxおよびq
nmaxのいずれもFPGAまたはCPUのレジスタに一時保存される。
2.光検出器ピクセルn
maxの位置からの距離dに応じて降順にシンチレーションセグメントインデックスが保存されているLUTから、1≦p≦Mで最も関連性があるシンチレーションセグメントインデックス{m
1,…m
p}を読み出し、FPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存する。
3.検出確率μ
m,nが保存されているLUTから、関連性がある{m
1,…m
p}×{q
ni,…,q
nt}組の確率μ
mj,ni(ここで、i∈1,...,tおよびj∈1,...,p)を読み出し、FPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存する。
4.近似された対数log
~
2(μ
mj,ni)を決定し、q
niと一緒にして式(6)により足し合せ、FPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存する。
5.確率μ
mj,niを式(6)により足し合わせ、その足し合わせにmax(q
ni)を乗算し、FPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存する。
6.
【数7】
の足し合わせが最大となるシンチレーションセグメントインデックスm
MLを特定してFPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存する。
7.確率μ
mML,niを式(8)により足し合わせ、その結果をFPGAまたはCPUのメモリセルに一時保存する。
8.エネルギーを正しく計算するための校正係数norm
mが保存されているLUTからnorm
mMLを読み出し、光検出器ピクセル信号の足し合わせ
【数8】
と乗算し、確率μ
mML,niを足し合わせたもので除算する。FPGAに実装する場合、FPGAでの除算は多くのリソースを必要とするため、その除算を画像再構成コンピュータにおいて外部処理させることが有意である。商だけを送信することに代えて、被除数と除数をも送信するために追加されるデータ量は、無視できるほど小さい。
【0036】
ステップ1~8に従った計算は、反復的ではない。除算は必ずしも必要ではなく、乗算は最小限に抑えられている。非常に速くアクセスできる必要なメモリスペース(例えば、CPUにおけるキャッシュ、フリップフロップ、UltraRAM、BRAMまたはFPGA内の同等のもの)は、本発明により最小限に抑えられ、必要な全てのデータが市販のFPGAおよびCPUに収まる程度になる。さらに、CPUキャッシュ内またはFPGAフリップフロップ内またはFPGA、BRAM内またはFPGAUltraRAM内に収まりきらないデータの必要なデータ転送は、最小限に抑えられる。対数の計算には、非常に高速で近似的な実装を選択できる。これは、EMLとmMLの推定に高い精度が求められないためである。ステップ1~8に従った計算は、アンガー法(式(1)~(3))の実装よりもはるかにロバストで正確である。ステップ1~8に従った計算は、引用した全ての代替的なMLベースの方法よりもはるかに速い。特に、先行技術によるハイエンドCPUを用いると、1秒間に500万回のシンチレーションイベントに対してステップ1~8の実行が可能であるので、上述の80×106回のシンチレーションイベントには、たった16スレッドしか要らない。計算ステップ1~8のFPGA実装の場合、80×106回のシンチレーションイベントの処理がたった四つのハイエンドFPGAで可能である。
【0037】
MLベースのアルゴリズムを定式化することにより、特に、
図3で述べるように、CPUの並列オプション(複製)とFPGAの並列オプション(複製とパイプライン)を効果的に使用することが可能になる。乗算とlog
~
2(μ
mj,ni)の計算の並列化は、十分に高速で正確な計算にとって本質的に重要である。
【0038】
説明したMLベースのアルゴリズムは、立体的な単体のシンチレータが占める空間を有限個数の部分空間に分割(量子化)することにより単体のシンチレータを使用する場合にも利用することができる。立体的な単体のシンチレータの占める空間が、例えばH×B×Tの寸法で与えられていれば、高さをH/MHの長さ間隔でMH個に、幅をB/MBの長さ間隔でMB個に、奥行きをT/MTの長さ間隔でMT個に分割することができる。これらの3次元的な区間は、次にあたかも個々のシンチレーションセグメントのように扱われる。計算は、実際にセグメント化されたシンチレータに対する計算と同じようにして行なわれる。
【0039】
図は、シンチレーション検出器における位置決定およびエネルギー決定のための検出器とユニットを概略的な形で示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図2】シンチレーション検出器における信号の生成を示す図である。
【
図3】近似的な対数の計算と乗算のための並列化ユニットを示す図である。
【
図4】シンチレーションイベントのエネルギーと位置のML推定値を決定するためのユニットを示す図である。
【
図5】FPGAとCPUを同時に使用してエネルギーと位置に関するML推定値を決定するためのユニットを示す図である。
【
図6】CPUを使用してエネルギーと位置に関するML推定値を決定するためのユニットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、セグメント化された複数層のシンチレータ(1),(2)を備えるシンチレーション検出器の典型的な構成を示す。1層から4層までのセグメント化されたシンチレータが可能である。最下層のセグメント化されたシンチレータ(2)は、この簡単な例ではシンチレーション光を透過させる平行平面の材料層からなるライトガイド(3)を介して光検出器アレイ(4)に結合される。このとき、光検出器アレイは、PSMPT、MCP、SiPMアレイまたはAPDアレイとすることができる。ライトガイドの一般的な厚さは、検出器の大きさと、シンチレータおよび光検出器アレイの粒度とに応じて、0.1mm~2cmである。
【0042】
図2において、同じ装置構成要素は、前の図と同じ符号を有している。図には、セグメント化された単層のシンチレータが描かれている。セグメント化された多層のシンチレータとの相互作用深さ(英語でDepth of Interaction(相互作用の深さ))を測定するための三次元光変換位置を決定する多層シンチレーション検出器の動作態様は同類である。一つ一つのシンチレーションセグメントからのシンチレーション光(5)は、ライトガイド(3)によって光検出器アレイ(4)の有感面全体にわたって分散される(6)。光検出器アレイ(4)の光検出器ピクセルの閾値の設定q
thに応じて積分がトリガーされ、q
ix,
iy>q
thの信号(7)が光検出器または下流側に接続された電子機器により利用できるようになる。q
ix,
iy<q
thとなる信号は、エネルギーと位置の計算には用いられない。
【0043】
図3は、パイプライン動作(8)している複数の個別の乗算ユニットからなる、組み合わせ型並列乗算ユニットを示している。例えば、QDR、DRAM、SRAM等のメモリユニット(9)には、検出確率μ
m,nが永続的に保存される。この図では、一つ一つの検出確率μ
m,nの列番号は、光検出器ピクセルのインデックスnを示し、行番号は、シンチレーションセグメントのインデックスmを示す。これとは異なる割り当てによる実装も可能である。関連性がある検出確率μ
mj,niは、バッファ(11)(例えば、UltraRAM,BRAM,フリップフロップ,キャッシュなど)に格納され、log
~
2(μ
mj,ni)の計算と記憶のためのユニット(12)に出力される。光検出器ピクセル信号は、データインターフェース(13)を介して読み込まれ、t個の信号{q
ni,…,q
nt}からp個の複製がバッファ(14)に保存され、その際にメモリユニット(15)は信号値をちょうど一つ保持する。出力部(16)では、
【数9】
の値を読み出すことができる。
【0044】
図4において、同じ装置構成要素は、前の図と同じ符号を有している。この図は、シンチレーションイベントのエネルギーと位置についてのML推定値の決定を示している。(13)は、データインターフェースを表し、ここを介してt個の信号{q
ni,…,q
nt}を受信する。(17)は、最大の光検出器ピクセル値q
niとなる光検出器ピクセルインデックスn
iとその最大の光検出器ピクセル値q
niとを決定するユニットである。(20)は、光検出器ピクセルインデックスn
iに関して最も関連性があるp個のシンチレーションセグメントインデックス{m
1,…m
p}のインデックスを永続的に保存するための例えばQDR、DRAM、SRAMといったメモリユニットを表す。符号(19)は、
図3の組み合わせ型並列ユニット内でlog
~
2(μ
mj,ni)の値が決定されない場合に、log
~
2(μ
mj,ni)の値を決定するための任意選択的なユニットを表す。(20):
【数10】
の足し合わせを決定するユニット。(18)は、
図3に示すように、式(6)を計算するための組み合わせ型並列乗算ユニットである。(21)は、尤度が最大となるシンチレーションセグメントインデックスm
MLを決定するためのユニットである。複数のシンチレーションセグメントの尤度が同じになるようなら、尤度が最大となるシンチレーションセグメントインデックスの一つが選択される。(22)は、校正係数norm
mを永続的に保存するための例えばQDR、DRAM、SRAMといったメモリユニットを表す。(23)は、確率μ
mML,niの足し合わせを計算するためのユニットである。(24)は、光検出器ピクセル値q
niの足し合わせを計算するためのユニットである。(25)は、光検出器ピクセル値q
niの足し合わせと確率μ
mML,niの足し合わせから商を計算するためのユニットである。(26)は、最大尤度のシンチレーションセグメントインデックスm
MLの出力部である。(29)は、最も確からしいエネルギーE
MLの出力である。代替的に、出力部(28)を介して確率μ
mML,niの足し合わせと、出力部(27)を介して光検出器ピクセル値q
niの足し合わせとが出力されてもよく、除算(25)は、下流側に接続されたCPUに移すこともできる(FPGAベースの実装の場合)。
【0045】
図5は、FPGAユニット(31)とCPUユニット(32)を同時に使用する場合に、シンチレーション検出器(30)からシンチレーションイベントのエネルギーと位置についてのML推定値を決定する実装を示す。CPUユニット(32)は、コインシデンスの探索や画像再構成といったさらなる計算に必要である。
【0046】
図6は、CPUユニット(32)だけを使用する場合に、シンチレーション検出器(30)からの、シンチレーションイベントのエネルギーと位置についてのML推定値の実装を示す。CPUユニット(32)は、コインシデンスの探索や画像再構成といったさらなる計算に必要である。
【0047】
本発明は、例えば、以下の実施例に利用することができる:
1.PETまたはSPECTまたはシンチグラフィまたはコンプトンカメラ用のシンチレーション検出器であって、セグメント化された単層のシンチレータと、ライトガイドと、光検出器アレイ(PSPMT,MCP,APDアレイ,SiPMアレイ)と、さらに、FPGAおよびメモリを備えた電子機器と、からなり、FPGAには、計算ステップ1~8および乗算のユニットが
図3および
図4のように実装されているもの。
2.PETまたはSPECTまたはシンチグラフィまたはコンプトンカメラ用のシンチレーション検出器であって、セグメント化された多層のシンチレータと、ライトガイドと、光検出器アレイ(PSPMT,MCP,APDアレイ,SiPMアレイ)と、さらに、FPGAおよびメモリを備えた電子機器と、からなり、FPGAには、計算ステップ1~8および乗算のユニットが
図3および
図4のように実装されているもの。
3.PETまたはSPECTまたはシンチグラフィまたはコンプトンカメラ用のシンチレーション検出器であって、単層一体のシンチレータと、光検出器アレイ(PSPMT,MCP,APDアレイ,SiPMアレイ)と、さらに、FPGAおよびメモリを備えた電子機器と、からなり、FPGAには、計算ステップ1~8および乗算のユニットが
図3のように実装されているもの。
4.PETまたはSPECTまたはシンチグラフィまたはコンプトンカメラ用のシンチレーション検出器であって、単層一体のシンチレータと、ライトガイドと、光検出器アレイ(PSPMT,MCP,APDアレイ,SiPMアレイ)と、さらに、FPGAおよびメモリを備えた電子機器と、からなり、FPGAには、計算ステップ1~8および乗算のユニットが
図3および
図4のように実装されているもの。
5.上記1~4による実装において、全ての計算ステップ1~8がCPUに実装され、FPGAには実装されていないもの。
6.上記1~5による実装において、シンチレータの複数の側面に光検出器アレイが配設されているもの。セグメント化されたシンチレータでは、光検出器によりシンチレーション光を読み出すために
図1および
図2のように配向したときの下の側面と上の側面を用いることができる。単体のシンチレータでは、光検出器によりシンチレーション光を読み出すために六つ全ての側面を用いることができる。
【実施例1】
【0048】
一般的なPETスキャナにおいて発生するシンチレーションイベントと同時シンチレーションイベントの十分速い処理速度を可能にするのに重要なのは、反復計算を行なわないアルゴリズムを用いることである。それは、このアルゴリズムが、FPGAにおける効率的な実装を可能にし、それにより得られる並列化(例えば、処理パイプラインと処理インスタンスの複製)の手段を使用できるようになるからである。MLベースのアルゴリズムを用いることを優先すべきなのは、それにより、シンチレーション信号の基礎をなすポアソン統計が考慮されるとともに、xy平面内の光検出器ピクセルの位置を自由に選択することができ、アンガー法の場合のようにデカルト格子上にある必要がなくなるからである。
【0049】
MLベースのアルゴリズムを用いることをやはり優先すべきなのは、MLベースのアルゴリズムが不完全なデータに対してロバストだからであり、そのおかげで、信号のない光検出器ピクセルが問題とならず、その結果、決定されたシンチレーションイベントのエネルギーおよび位置の値が十分高い精度であると同時に、シンチレーション検出器の不感時間を十分に短くすることができる。不感時間を短くするために、大きなシンチレーション検出器ではさらに、セグメント化されたシンチレータを用いることが有利である。というのも、その場合には、検出器が占める空間全体にシンチレーション光が広がることができず、q
ix,
iy>q
thの値となる光検出器ピクセルがその数においても、xz平面内の位置においても制限されているからである。その結果、光検出器ピクセルを個別に走査すれば、一つのシンチレーション検出器内の複数の独立したシンチレーションイベントも読み出すことができる。これにより、シンチレーション検出器全体の不感時間が大幅に短縮される。N=N
x・N
y個の光検出器ピクセルを備え且つM=Σ
lM
l個のシンチレーションセグメントおよび第l(エル)層にM
l=M
l,x・M
l,y個のシンチレーションセグメントを有するセグメント化された単層または多層のシンチレータを備えた光検出器アレイ(PSPMT,SiPMアレイ,APDアレイ)からなるシンチレーション検出器について、シンチレーションイベントのエネルギーと位置を決定するための反復計算を行なわないMLベースのアルゴリズムは、以下のように与えることができる:
【数11】