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特許7453364耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度鋼及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240312BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240312BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C21D8/02 A
C22C38/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022525697
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 KR2020014670
(87)【国際公開番号】W WO2021091140
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2019-0139220
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-イル
(72)【発明者】
【氏名】ナ、 ヒュン-テク
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0074943(KR,A)
【文献】特開2000-297350(JP,A)
【文献】米国特許第06425963(US,B1)
【文献】特開2015-116596(JP,A)
【文献】特開2015-175004(JP,A)
【文献】特開2018-090896(JP,A)
【文献】特開平11-310852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C21D 8/02
C22C 38/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2
.3%、Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.001~0
.05%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:0.00
5~0.07%、Ti:0.005~0.11%を含み、残部Fe及び不可避不純物から
なり、
面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベ
イナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite)相
5%未満、残部フェライト相からなる微細組織を有し、疲労限度と降伏強度の比が0.1
5以上であり、降伏比が0.8以上である、耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度熱延鋼板
【請求項2】
前記熱延鋼板は酸洗鋼板であることを特徴とする、請求項1に記載の耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度熱延鋼板
【請求項3】
質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2
.3%、Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.001~0
.05%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:0.00
5~0.07%、Ti:0.005~0.11%を含み、残部Fe及び不可避不純物から
なる鋼スラブを1200~1350℃に再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブを下記[関係式1]を満たす仕上げ圧延温度(FDT)で仕
上げ熱間圧延することにより熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を450~650℃の冷却終了温度の範囲まで下記[関係式2]を満たす
冷却速度(CR)で冷却した後、巻き取る段階と、を含み、
巻取コイルをなす熱延鋼板の長さをLとするとき、
巻取コイルのヘッド部の0~L/5領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温
度の範囲をA1(550~650℃)に制御し、
巻取コイルのL/5~2L/3領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度
の範囲をA2(450~550℃)に制御し、
巻取コイルの2L/3~L領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範
囲をA3(550~650℃)に制御し、
前記A1-A2とA3-A2の値をそれぞれ100℃以上に制御し、並びに
前記熱延鋼板は、面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベイナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite)相5%未満、残部フェライト相からなる微細組織を有し、疲労限度と降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上であることを特徴とする、耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
Tn-50≦FDT≦Tn
Tn=730+92×[C]+70×[Mn]+45×[Cr]+780×[Nb]+5
20×[Ti]-80×[Si]-1.4×(t-5)
前記関係式1のC、Mn、Cr、Nb、Ti、Siは該当合金元素の質量%
前記関係式1のFDTは熱間圧延終了時点の熱延板の温度(℃)
前記関係式1のtは最終圧延板材の厚さ(mm)
[関係式2]
CR≧196-300×[C]+4.5×[Si]-71.8×[Mn]-59.6×[
Cr]+187×[Ti]+852×[Nb]
前記関係式2において、CRはFDT後に前記A2の平均冷却終了温度まで冷却する時
の冷却速度(℃/sec)
前記関係式2のC、Si、Mn、Cr、Ti、Nbは該当合金元素の質量%
【請求項4】
前記巻き取られた鋼板を常温~200℃の範囲の温度まで空冷することを特徴とする、
請求項3に記載の耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記熱延鋼板を450~650℃の冷却終了温度の範囲まで冷却した後、巻き取られた
鋼板に酸洗及び塗油する段階をさらに含む、請求項3に記載の耐久性に優れた高降伏比型
厚物高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記酸洗又は塗油された鋼板を450~740℃の温度範囲に加熱した後、溶融亜鉛め
っきする段階をさらに含む、請求項5に記載の耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記溶融亜鉛めっきは、マグネシウム(Mg):0.01~30質量%、アルミニウム
(Al):0.01~50質量%を含み、残部Znと不可避不純物からなるめっき浴を用
いて形成されることを特徴とする、請求項6に記載の耐久性に優れた高降伏比型厚物高強
熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に商用車のシャーシ部品のメンバー類及びホイールディスクに使用される厚さ5mm以上の高強度熱延鋼板の製造に関するものであって、より詳細には、引張強度が650MPa以上であり、剪断成形及びパンチ成形時に断面の品質に優れており、パンチ成形後の鋼板の疲労限度と鋼板の降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上を満たす高降伏比型高強度熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の商用車のシャーシ部品のメンバー類及びホイールディスクは、車両の特性上、高い剛性を確保するために厚さ5mm以上で、引張強度が440~590MPaの範囲の高強度熱延鋼板を使用していたが、最近は、軽量化及び高強度化のために引張強度650MPa以上の高強度鋼材を使用する技術が開発されている。また、軽量化の効率を高めるために、耐久性が確保される範囲内で部品を製造する際に剪断及び多数のパンチ成形を実施して製造する段階を経るが、剪断及びパンチ成形時に鋼板の打ち抜き部位に形成される微細な割れが部品の耐久寿命を短縮させる原因となっている。
【0003】
これに関して、従来は、通常のオーステナイト域の熱間圧延を経た後、高温で巻き取り、フェライト相を基地組織とし、析出物を微細に形成させる技術(特許文献1~2)が提示されるか、又は粗大なパーライト組織が形成されないように巻取温度をベイナイト相が基地組織として形成される温度まで冷却した後、巻き取る技術(特許文献3)などが提案された。また、Ti、Nbなどを活用して、熱間圧延中に未再結晶域で40%以上の大圧下を行ってオーステナイト結晶粒を微細化させる技術(特許文献4)も提案されている。
【0004】
しかし、上記のような高強度鋼を製造するために主に活用するSi、Mn、Al、Mo、Crなどの合金成分が上記熱延鋼板の強度を向上させるのに効果的であるため、商用車用厚物製品に必要となっている。ところが、合金成分が多く添加されると、微細組織の不均一を招き、剪断又はパンチ成形時に打ち抜き部位に発生しやすい微細な割れが、疲労環境で容易に疲労割れに伝播し、部品の破損を引き起こした。特に、厚さが厚くなるほど、製造時に鋼板の厚さ中心部は徐冷操業される確率が高く、組織の不均一性はさらに増大し、打ち抜き部における微細割れの発生が増加し、疲労環境で疲労割れの伝播速度も増加して耐久性が劣る。
【0005】
しかし、上述した従来技術は、高強度厚物材の疲労特性を考慮していない。また、厚物材の結晶粒を微細化し、析出強化効果を得るためには、Ti、Nb、Vなどの析出物形成元素を活用すると効果的である。ところが、上記析出物の形成が容易な500~700℃の高温で巻き取ったり、熱延後の冷却中に鋼板の冷却速度を制御したりしないと、厚物材の厚さ中心部の粗大な炭化物が形成され、これによって剪断面の品質が劣るようになる。さらに、熱間圧延中に未再結晶域で40%の大圧下を加えることは、圧延板の形状品質を劣らせ、設備の負荷をもたらすため、実際に適用するには困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本公開特許公報平5-308808号
【文献】日本公開特許公報平5-279379号
【文献】韓国登録公報第10-1528084号
【文献】日本公開特許公報平9-143570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、引張強度が650MPa以上であり、剪断成形及びパンチ成形時に断面の品質が優れ、パンチ成形後の鋼板の疲労限度と鋼板の降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上を満たす高降伏比型高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全般から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解する上で何らの困難もない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.3%、Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.11%、Fe及び不可避不純物を含み、面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベイナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite(マルテンサイト及びオーステナイト))相5%未満、残部フェライト相を含む微細組織を有し、疲労限度と降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上である、耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度鋼に関するものである。
【0010】
上記高強度鋼は酸洗鋼板であってもよい。
【0011】
また、本発明の他の側面は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.3%、Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.11%、Fe及び不可避不純物を含む鋼スラブを1200~1350℃に再加熱する段階と、上記再加熱された鋼スラブを下記[関係式1]を満たす仕上げ圧延温度(FDT)で仕上げ熱間圧延することにより熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を450~650℃の冷却終了温度の範囲まで下記[関係式2]を満たす冷却速度(CR)で冷却した後、巻き取る段階と、を含み、巻取コイルをなす熱延鋼板の長さをLとするとき、巻取コイルのヘッド部の0~L/5領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA1(550~650℃)に制御し、巻取コイルのL/5~2L/3領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA2(450~550℃)に制御し、巻取コイルの2L/3~L領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA3(550~650℃)に制御し、並びに上記A1-A2とA3-A2の値をそれぞれ100℃以上に制御することを特徴とする、耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度鋼の製造方法に関するものである。
【0012】
[関係式1]
Tn-50≦FDT≦Tn
Tn=730+92×[C]+70×[Mn]+45×[Cr]+780×[Nb]+520×[Ti]-80×[Si]-1.4×(t-5)
【0013】
上記関係式1のC、Mn、Cr、Nb、Ti、Siは該当合金元素の重量%
上記関係式1のFDTは熱間圧延終了時点の熱延板の温度(℃)
上記関係式1のtは最終圧延板材の厚さ(mm)
【0014】
[関係式2]
CR≧196-300×[C]+4.5×[Si]-71.8×[Mn]-59.6×[Cr]+187×[Ti]+852×[Nb]
【0015】
上記関係式2において、CRはFDT後に上記A2の平均冷却終了温度まで冷却する時の冷却速度(℃/sec)
上記関係式2のC、Si、Mn、Cr、Ti、Nbは該当合金元素の重量%
【0016】
上記高強度鋼は、面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベイナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite)相5%未満、残部フェライト相を含む微細組織を有し、疲労限度と降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上であることができる。
【0017】
上記2次冷却後に巻き取られた鋼板を酸洗及び塗油する段階をさらに含むことができる。
【0018】
上記酸洗又は塗油の後に鋼板を450~740℃の温度範囲に加熱してから、溶融亜鉛めっきする段階をさらに含むことができる。
【0019】
上記溶融亜鉛めっきは、マグネシウム(Mg):0.01~30重量%、アルミニウム(Al):0.01~50%及び残部Znと不可避不純物を含むめっき浴を用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
上述した構成の本発明によると、厚さ中心部の微細組織が、面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベイナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite)相5%未満、残部フェライト相からなり、疲労限度と降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上であり、引張強度が600MPa以上である高降伏比型厚物高強度鋼を効果的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例において、発明例5と比較例3の微細組織を観察した組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を説明する。本発明者らは、上述した従来技術の問題点を解決するために、微細組織が互いに異なる様々な成分を有する厚物圧延鋼材について、成分及び微細組織の特徴による剪断面における割れ分布と耐久性の変化を調べた。その結果、厚物熱延鋼板が優れた耐久性及び高降伏比を有するようにする方案を確認し、特に、厚さ中心部の微細組織において、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相が5%未満であるとき、剪断面の割れの発生がなく耐久性に優れていることを確認した。
【0023】
通常、コイルの形態で製造される熱延鋼板において、粗大な炭化物及びパーライト相は、約500~700℃の高温域で長時間保持されるときに形成されやすい。特に、熱間圧延の終了後、冷却過程で開始されるフェライト相変態が穏やかに進行する場合、未変態相には炭素の固溶量が増加するため、粗大な炭化物やパーライト組織を形成しやすい条件となる。さらに、コイルの内巻部は外巻部に比べて冷却速度が遅く、このような炭化物とパーライト組織がさらに発達するようになる。したがって、コイルの内巻部において、このような粗大な炭化物とパーライト組織の形成を抑制するためには、巻き取られたコイルを水冷のような強制冷却によって常温まで冷却する必要があるが、この場合には、冷却速度が速い外巻部と圧延板のエッジ部は、微細組織中にMartensite相やMA(Martensite and Austenite)相が形成されて不均一微細組織を形成するようになるため、高い降伏強度が得られにくくなり、剪断面の割れも増加するため好ましくない。したがって、コイルを強制冷却せずに粗大な炭化物及びパーライト組織の形成を抑制することができる方案が必要である。
【0024】
このために、本発明では、下記関係式1~2を提示するとともに、巻取コイルの外巻部と内巻部に該当する熱延鋼板の平均冷却終了温度の範囲を異なるように制御する方法を提示する。
【0025】
このような本発明の耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度鋼は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.3%、Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.11%、Fe及び不可避不純物を含み、面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベイナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite)相5%未満、残部フェライト相を含む微細組織を有し、疲労限度と降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上である。
【0026】
以下では、本発明の合金組成成分及びその含量の制限理由について説明する。一方、以下、鋼の合金成分において「%」は、他に規定しない限り「重量」を意味する。
【0027】
・C:0.05~0.15%
上記Cは、鋼を強化するのに最も経済的かつ効果的な元素であり、添加量が増加すると、析出強化効果又はベイナイト相の分率が増加して引張強度が増加する。また、熱延鋼板の厚さが増加すると、熱間圧延後の冷却中に厚さ中心部の冷却速度が遅くなり、Cの含量が大きい場合に粗大な炭化物やパーライトが形成されやすい。したがって、その含量が0.05%未満であると、十分な強化効果が得られにくく、0.15%を超えると、厚さ中心部にパーライト相や粗大な炭化物の形成により剪断成形性に劣り、耐久性が低下するという問題点があり、溶接性にも劣るようになる。したがって、本発明では、上記Cの含量は0.05~0.15%に制限することが好ましい。より好ましくは0.06~0.12%に制限することである。
【0028】
・Si:0.01~1.0%
上記Siは溶鋼を脱酸させ、固溶強化効果があり、粗大な炭化物の形成を遅らせて成形性を向上させるのに有利である。しかし、その含量が0.01%未満であると、固溶強化効果が小さく、炭化物の形成を遅らせる効果も少ないため成形性を向上させにくく、1.0%を超えると、熱間圧延時に鋼板表面にSiによる赤色スケールが形成され、鋼板表面の品質が非常に悪くなるだけでなく、延性と溶接性も低下するという問題がある。したがって、本発明では、Si含量を0.01~1.0%の範囲に制限することが好ましく、より好ましくは0.2~0.7%の範囲に制限することである。
【0029】
・Mn:1.0~2.3%
上記Mnは、Siと同様に鋼を固溶強化させるのに効果的な元素であり、鋼の硬化能を増加させて熱延後の冷却中にベイナイト相の形成を容易にする。しかし、その含量が1.0%未満であると、添加による上記効果が得られず、2.3%を超えると硬化能が大きく増加し、マルテンサイト相変態が起こりやすく、連鋳工程においてスラブの鋳造時に厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、熱延後の冷却時には、厚さ方向への微細組織を不均一に形成して剪断成形性及び耐久性に劣るようになる。したがって、本発明では、上記Mnの含量は1.0~2.3%に制限することが好ましい。より有利には1.1~2.0%の範囲に制限するものである。
【0030】
・Cr:0.005~1.0%、
上記Crは鋼を固溶強化させ、冷却時にフェライト相変態を遅らせて巻取温度でベイナイトの形成に寄与する役割を果たす。しかし、0.005%未満であると、添加による上記効果が得られず、1.0%を超えると、フェライト変態を過度に遅らせてマルテンサイト相の形成によって伸び率が劣るようになる。また、Mnと同様に厚さ中心部での偏析部が大きく発達し、厚さ方向の微細組織を不均一にして剪断成形性及び耐久性を劣らせる。したがって、本発明では、上記Crの含量を0.005~1.0%に制限することが好ましい。より好ましくは0.3~0.9%の範囲に制限することである。
【0031】
・P:0.001~0.05%
上記PはSiと同様に、固溶強化及びフェライト変態の促進効果を同時に有している。しかし、その含量が0.001%未満であると、多くの製造コストを要するため経済的に不利であり、強度を得るにも不十分であり、その含量が0.05%を超えると、粒界偏析による脆性が発生して成形時に微細な割れが発生しやすく、剪断成形性と耐久性を大きく悪化させる。したがって、上記Pは、その含量を0.001~0.05%の範囲に制御することが好ましい。
【0032】
・S:0.001~0.01%
上記Sは鋼中に存在する不純物であって、その含量が0.01%を超えると、Mn等と結合して非金属介在物を形成し、これにより鋼の切断加工時に微細な割れが発生しやすく、剪断成形性と耐久性を大きく低下させるという問題点がある。一方、その含量が0.001%未満であると、製鋼操業時に多くの時間を要するため生産性が低下する。したがって、本発明では、S含量を0.001~0.01%の範囲に制御することが好ましい。
【0033】
・Sol.Al:0.01~0.1%、
上記Sol.Alは主に脱酸のために添加する成分であり、その含量が0.01%未満であると、その添加効果が不足し、0.1%を超えると、窒素と結合してAlNが形成され、連続鋳造時にスラブにコーナークラックが発生しやすく、介在物の形成による欠陥が発生しやすい。したがって、本発明では、S含量を0.01~0.1%の範囲に制限することが好ましい。
【0034】
・N:0.001~0.01%
上記Nは、Cと共に代表的な固溶強化元素であり、Ti、Al等と共に粗大な析出物を形成する。一般的に、Nの固溶強化効果は炭素より優れているが、鋼中にNの量が増加するほど、靭性が大きく低下するという問題点がある。また、0.001%未満で製造するためには、製鋼操業時に多くの時間を要するため生産性が低下する。したがって、本発明では、N含量を0.001~0.01%の範囲に制限することが好ましい。
【0035】
・Ti:0.005~0.11%
上記Tiは代表的な析出強化元素であり、Nとの強い親和力により鋼中に粗大なTiNを形成する。TiNは、熱間圧延のための加熱過程で結晶粒の成長を抑制する効果がある。また、窒素と反応して残ったTiが鋼中に固溶して炭素と結合することにより、TiC析出物が形成され、鋼の強度を向上させるのに有用な成分である。しかし、Ti含量が0.005%未満であると、上記効果が得られず、Ti含量が0.11%を超えると、粗大なTiNの発生及び析出物の粗大化により成形時に耐衝突特性を劣らせるという問題点がある。したがって、本発明では、Ti含量を0.005~0.11%の範囲に制限することが好ましく、より有利には0.01~0.1%の範囲に制御することである。
【0036】
・Nb:0.005~0.06%
上記Nbは、Tiと共に代表的な析出強化元素であり、熱間圧延中に析出して再結晶の遅延による結晶粒の微細化効果により、鋼の強度と衝撃靭性の向上に効果的である。しかし、上記Nbの含量が0.005%未満であると、上述の効果が得られず、Nb含量が0.06%を超えると、熱間圧延中に過度な再結晶の遅延により延伸された結晶粒の形成及び粗大な複合析出物の形成によって成形性と耐久性を劣らせるという問題点がある。したがって、本発明では、Nb含量を0.005~0.06%の範囲に制限することが好ましく、より好ましくは0.01~0.06%の範囲に制限することである。
【0037】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、特にその全ての内容を言及しない。
【0038】
一方、本発明において高強度鋼は、面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベイナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite)相5%未満、残部フェライト相を含む微細組織を有する。もしパーライト相が5%以上であると、部品の剪断成形時に基地組織とパーライト相の界面での微細割れが発生しやすく、部品の耐久性に劣るようになる。そして、ベイナイト相が10%以上であると、鋼の強度が過度に増加し、延性が減少して成形性に劣る。また、MA相が5%以上であると、部品の剪断成形時に基地組織とMA相の界面での微細割れが発生しやすく、部品の耐久性に劣るようになる。
【0039】
さらに、本発明の高強度鋼は、疲労限度と降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上であることができる。
【0040】
次に、本発明の耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度鋼の製造方法について詳細に説明する。本発明の高強度鋼の製造方法は、上述したような組成成分を有する鋼スラブを1200~1350℃に再加熱する段階と、上記再加熱された鋼スラブを下記[関係式1]を満たす仕上げ圧延温度(FDT)で仕上げ熱間圧延することにより熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を450~650℃の冷却終了温度の範囲まで下記[関係式2]を満たす冷却速度(CR)で冷却した後、巻き取る段階と、を含み、巻取コイルをなす熱延鋼板の長さをLするとき、巻取コイルのヘッド部の0~L/5領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA1(550~650℃)に制御し、巻取コイルのL/5~2L/3領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA2(450~550℃)に制御し、巻取コイルの2L/3~L領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA3(550~650℃)に制御し、並びに、上記A1-A2とA3-A2の値をそれぞれ100℃以上に制御する。
【0041】
まず、本発明では、上記のような組成成分を有する鋼スラブを1200~1350℃の温度で再加熱する。このとき、上記再加熱温度が1200℃未満であると、析出物が十分に再固溶せず、熱間圧延後の工程において析出物の形成が減少し、粗大なTiNが残存するようになる。1350℃を超えると、オーステナイト結晶粒の異常粒成長により強度が低下するため、上記再加熱温度は1200~1350℃に制限することが好ましい。
【0042】
次いで、本発明では、上記再加熱された鋼スラブを下記[関係式1]を満たす仕上げ圧延温度(FDT)で仕上げ熱間圧延することにより熱延鋼板を製造する。
【0043】
[関係式1]
Tn-50≦FDT≦Tn
Tn=730+92×[C]+70×[Mn]+45×[Cr]+780×[Nb]+520×[Ti]-80×[Si]-1.4×(t-5)
【0044】
上記関係式1のC、Mn、Cr、Nb、Ti、Siは該当合金元素の重量%
上記関係式1のFDTは熱間圧延終了時点の熱延板の温度(℃)
上記関係式1のtは最終圧延板材の厚さ(mm)
【0045】
熱間圧延中、再結晶の遅延は、相変態時にフェライト相変態を促進して厚さ中心部に微細かつ均一な結晶粒を形成するのに寄与し、強度と耐久性を増加させることができる。また、フェライト相変態の促進により、冷却中に未変態相が減少し、粗大なMA相とマルテンサイト相の分率が減少するようになり、相対的に冷却速度が遅い厚さ中心部では、粗大な炭化物やパーライト組織が減少するようになって熱延鋼板の不均一組織が解消される。
【0046】
しかし、通常のレベルの熱間圧延では、厚さ5mm以上の厚さ材の厚さ中心部の微細組織を均一にすることが難しく、厚さ中心部における再結晶の遅延効果を得るために過度に低い温度で熱間圧延すると、変形された組織が圧延板の厚さの表層直下からt/4の位置で強く発達し、むしろ厚さ中心部との微細組織相の不均一性が増加し、これにより剪断変形やパンチ変形時に不均一部位で微細な割れが発生しやすくなり、部品の耐久性も劣らせるという問題がある。したがって、上記関係式1に示すように、厚物材に適合するように再結晶の遅延が開始される温度であるTn温度及びTn-50で熱間圧延が完了した場合にのみ、上記の効果を得ることができる。
【0047】
もしTnより高い温度で熱間圧延を終了すると、再結晶の遅延効果が減少し、中心部に粗大な結晶粒が形成されて均一な微細組織が得られにくく、Tn-50より低い温度で熱間圧延を終了すると、表層直下からt/4の位置に圧延方向に延伸された微細組織が発達して均一な微細組織が得られにくい。
【0048】
一方、熱間圧延は800~1000℃の範囲の温度で開始することが好ましい。もし1000℃より高い温度で熱間圧延を開始すると、熱延鋼板の温度が高くなり、結晶粒サイズが粗大となり、熱延鋼板の表面品質が劣るようになる。これに対し、熱間圧延を800℃より低い温度で行うと、過度な再結晶の遅延により延伸された結晶粒が発達して異方性が激しくなり、成形性も悪くなり、オーステナイト温度域以下の温度で圧延されると、不均一な微細組織がさらにひどく発達する可能性がある。
【0049】
そして、本発明では、上記熱延鋼板を450~650℃の冷却終了温度の範囲まで下記[関係式2]を満たす冷却速度(CR)で冷却した後、巻き取る。
【0050】
[関係式2]
CR≧196-300×[C]+4.5×[Si]-71.8×[Mn]-59.6×[Cr]+187×[Ti]+852×[Nb]
【0051】
上記関係式2において、CRはFDT後に上記A2の平均冷却終了温度まで冷却する時の冷却速度(℃/sec)
上記関係式2のC、Si、Mn、Cr、Ti、Nbは、該当合金元素の重量%
【0052】
本発明では、冷却終了温度、すなわち、巻取温度の範囲を450~650℃に制限することが好ましい。もし巻取温度が650℃を超えると、粗大なフェライト相とパーライト相が形成され、鋼の強度が不足すると同時に剪断品質も劣り、耐久性が悪くなるおそれがある。一方、450℃未満であると、マルテンサイト相とベイナイト相が過度に形成され、剪断成形性及びパンチ成形性と耐久性に劣るようになり、微細な析出物の形成が不足して降伏強度が減少する可能性がある。
【0053】
なお、このとき、本発明では、巻取コイルをなす熱延鋼板の長さをLとするとき、巻取コイルのヘッド部の0~L/5領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA1(550~650℃)に制御し、巻取コイルのL/5~2L/3領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA2(450~550℃)に制御し、巻取コイルの2L/3~L領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA3(550~650℃)に制御し、並びに、上記A1-A2とA3-A2の値をそれぞれ100℃以上に制御することを特徴とする。
【0054】
圧延板の厚さが5mmを超える場合には、熱間圧延後の冷却時に厚さ中心部の冷却速度が圧延板の厚さの表層直下からt/4の位置に比べて遅くなるため粗大なフェライト相が形成され、固溶Cが未変態の領域に残って粗大な炭化物とパーライト組織を形成するようになる。特に、粗大な炭化物及びパーライト組織は、巻き取られた後にさらに発達するようになるが、これは、巻き取られた後にコイル状態の冷却速度がさらに遅くなり、炭化物とパーライト組織が形成されやすい温度域で長時間保持されるためである。このような粗大な炭化物とパーライト組織の形成を抑制するためには、熱間圧延後の冷却時に、冷却終了温度を下げなければならないが、この場合には、ベイナイト相が形成され、微細な析出物の形成が遅れて高い降伏強度が得られない。また、MA相も形成され、パンチや剪断成形時に微細な割れが発生し、耐久性にも劣るようになる。
【0055】
したがって、本発明では、コイルの内巻部における冷却速度を高め、高温で保持される時間を減少させるために、熱間圧延後の冷却時に冷却終了温度を3つの領域に異ならせて設定する方案を提示する。すなわち、巻取コイルをなす熱延鋼板の長さをLとするとき、巻取コイルのヘッド部の0~L/5領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA1(550~650℃)に制御し、巻取コイルのL/5~2L/3領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA2(450~550℃)に制御し、巻取コイルの2L/3~L領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度の範囲をA3(550~650℃)に制御する。
【0056】
そして、上記A1-A2とA3-A2の値をそれぞれ100℃以上(好ましくは100℃以上150℃以下)に制御するが、このような平均冷却終了温度が100℃未満であると、上述の効果が得られにくい。また、平均温度の差が150℃を超えると、上記の効果はさらに増加せず、コイルの区間別温度を制御することも困難になる可能性がある。
【0057】
また、それぞれの冷却終了温度までの冷却速度は、適正レベルのフェライト相変態を誘導し、微細析出物の形成を促進するためには、上記関係式2を満たすようにしなければならない。ここで、冷却速度は、コイルの最も内巻部に該当する平均冷却終了温度であるA2とFDTとの差で求める。もし、冷却速度が関係式2を満たすことができず、ゆっくり冷却されると、粗大なフェライト相が形成されて炭化物が形成されたり、MA相が形成されたりしやすく、微細組織も不均一になって剪断成形の品質が劣るようになり、耐久性も悪くなるおそれがある。
【0058】
そして、本発明では、巻取コイルの領域を正確に3等分して設定していないが、これは、通常空冷されるコイル状態において、コイルのヘッド部から内巻部までの冷却速度はコイルの外巻部の冷却速度に比べて約1.5~3倍程度遅いためである。
【0059】
上述したような冷却条件等を同時に満たせば、適合な強度、成形性及び耐久性を有する厚物高強度熱延鋼板を得ることができる。これは、相対的に厚さ方向に均一かつ微細な微細組織を有するようにし、冷却速度が遅いコイルの内巻部及び厚さ中心部では粗大な炭化物やパーライト組織が減少するようになり、熱延鋼板の不均一組織が解消されるためである。また、冷却速度が速いコイルの外巻部とエッジ部では、MA相やマルテンサイト相が形成されて不均一な組織が形成されやすいが、本発明によりMA相とマルテンサイト相の形成を抑制することができる。
【0060】
したがって、本発明は、面積%で、直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含むパーライト相5%未満、ベイナイト相10%未満、MA(Martensite and Austenite)相5%未満、残部フェライト相を含む微細組織を有し、疲労限度と降伏強度の比が0.15以上であり、降伏比が0.8以上である耐久性に優れた高降伏比型厚物高強度鋼を提供することができる。
【0061】
その後、本発明では、上記巻き取られたコイルは常温~200℃の範囲の温度まで空冷されることができる。コイルの空冷とは、冷却速度0.001~10℃/hourで常温の大気中に冷却することを意味する。このとき、冷却速度が10℃/hourを超えると、鋼中の未変態相の一部がMA相に変態しやすく、鋼の剪断成形性及びパンチ成形性と耐久性に劣り、冷却速度を0.001℃/hour未満に制御するためには、別途の加熱及び保熱設備等を必要とし、経済的に不利である。好ましくは0.01~1℃/hourに冷却することがよい。
【0062】
あるいは、本発明では、上記2次冷却後、巻き取られた鋼板に酸洗及び塗油する段階をさらに含むことができる。そして、上記酸洗又は塗油された鋼板を450~740℃の温度範囲に加熱した後、溶融亜鉛めっきする段階をさらに含むこともできる。本発明では、上記溶融亜鉛めっきは、マグネシウム(Mg):0.01~30重量%、アルミニウム(Al):0.01~50%及び残部Znと不可避不純物を含むめっき浴を用いることができる。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。
【0064】
(実施例)
【表1】
【0065】
*表1において、合金成分の単位は重量%であり、残余成分はFe及び不可避不純物である。
【0066】
【表2】
【0067】
上記表1のような組成成分を有する鋼スラブを設けた。次いで、上記のように設けられた鋼スラブを表2のような条件で熱延、冷却及び巻き取り、巻き取られた熱延鋼板を製造した。そして巻取後に鋼板の冷却速度を1℃/hourに一定に保持した。
【0068】
一方、巻取コイルをなす熱延鋼板の長さをLとするとき、表2においてA1は巻取コイルのヘッド部の0~L/5領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度を、A2は巻取コイルのL/5~2L/3領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度を、A3は巻取コイルの2L/3~L領域をなす熱延鋼板の該当部に対する平均冷却終了温度を示す。そして、表2には関係式1~2の計算結果をそれぞれ示した。
【0069】
そして、下記表3には、発明例と比較例に該当する鋼の微細組織、機械的性質及び耐久性の評価結果を示した。ここで、YS、TS、YR、T-Elは、0.2%off-set降伏強度、引張強度及び破壊伸び率を意味し、JIS5号規格の試験片を圧延方向に対して直角方向に試験片採取して試験した結果である。
【0070】
さらに、本発明において耐久性は、パンチ成形部を有する試験片に対して引張/圧縮疲労試験によって求めた。具体的に、疲労試験片は全長さ250mm、幅45mm、ゲージlength部の幅30mm、曲率100mmの疲労試験片の中心部に直径10mmの穴をクリアランス12%の条件でパンチ成形を行って使用し、疲労試験条件はR(応力比)=-1、Sine waveform15Hzで試験した。疲労強度(SFatigue)は、上記疲労試験時に10サイクルを適用した時の強度で判断し、これを素材の降伏強度と比較して強度比(SFatigue/YS)で表すことで、鋼板の微細組織に応じて変化するパンチ部位の断面品質と耐久性の変化を確認した。
【0071】
また、鋼の微細組織は、熱延板の中心部で分析した結果であり、MA相の面積分率の測定はLeperaエッチング法でエッチングした後、光学顕微鏡とImage分析器を用い、1000倍率で分析した結果である。なお、フェライト(F)、ベイナイト(B)及びパーライト(P)の相分率は、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて3000倍と5000倍率で分析した結果から測定した。ここで、Fは、等軸晶状を有するポリゴナルフェライトであり、Bはベイナイト相と針状フェライト、ベイニティックフェライトなど、低温域で観察されるフェライト相を含む。また、Pはパーライト相と直径1μm以上の粗大な炭化物及び窒化物を含む。
【0072】
【表3】
【0073】
*表3において、Fはフェライト、Bはベイナイト、Mはマルテンサイト、Pはパーライトを示す。
【0074】
上記表1~3に示すように、本発明で提案した成分範囲と製造条件(関係式1~2及び冷却終了温度の範囲)を満たす発明例1~7はいずれも目標とする材質及び耐久性を均一に確保できることが分かる。
【0075】
これに対し、比較例1~2は、本発明で提示した関係式1を満たしていない場合である。具体的に、比較例1は、仕上げ熱延温度が関係式1で提示した範囲を超えた場合であって、鋼の中心部の微細組織が、粗大なフェライト相とパーライト相及びベイナイト相が混在した不均一な組織で形成され、パンチ断面部に微細割れが多数観察され、疲労特性に劣っていた。また、降伏強度と引張強度も目標に達していない。比較例2は、関係式1で提示した範囲以下の温度域で熱間圧延がなされた場合であって、低温域での熱間圧延により厚さ中心部で延伸された形態の結晶粒が形成され、これにより脆弱な粒界に沿って疲労破壊が容易に発生したと判断された。これは、パンチ成形時に厚さ中心部で形成された微細な割れが延伸されたフェライト結晶粒界に沿って発達したためである。
【0076】
そして、比較例3~5は、本発明で提案された熱延コイル位置別の冷却終了基準を満たしていない場合である。比較例3は、熱延コイル全体にわたって冷却終了温度が高い場合であって、結晶粒界で粗大な炭化物が多く観察され、パーライト組織も過度に発達した。このような理由により、疲労特性に劣っていた。
【0077】
比較例4は、熱延コイル全体にわたって冷却終了温度が低い場合であって、フェライト相分率が大きく減少し、冷却速度が遅い厚さ中心部においてもベイナイト相とMA相が形成され、降伏強度が低くて高降伏比が得られず、疲労特性にも劣ることを確認した。
【0078】
比較例5は、熱延コイルのヘッド部とテール部に該当する領域の冷却終了温度であるA1、A3に比べて熱延コイルの中間に該当する領域の冷却終了温度であるA2が高い場合である。この場合、厚さ中心部における微細組織はパーライト組織が発達しており、疲労特性にも劣っていることが現れた。これは、コイルの中間に該当する領域は、コイルのヘッド部と外巻部に比べて冷却速度が遅いため、A1、A3の温度を下げてもA2の温度が高いと、厚さ中心部におけるパーライト組織の形成を抑制しにくいためである。
【0079】
比較例6は、熱延後に熱延コイルのミッド部に該当する位置の冷却終了温度(A2)までの冷却速度(CR)の基準である関係式2を満たしていない場合である。このように冷却速度が遅いと、初期フェライト相変態時に粗大なフェライト相が形成され、不均一な微細組織を有するようになる。特に、結晶粒界を中心に粗大な炭化物が形成され、結晶粒内にはMA相が形成されるが、素材の厚さ方向にも不均一な微細組織が形成され、パンチ断面部において微細割れの形成が多くなるため、疲労特性に劣るようになる。
【0080】
比較例7は、冷却終了温度であるA1-A2及びA3-A2の温度差が100℃未満の場合であって、各領域の温度であるA1、A2、A3が本発明で提案したそれぞれの温度範囲を満たしていても、コイルの中間領域での冷却速度が遅くなって、厚さ中心部でパーライト組織の形成を抑制する効果がない。したがって、疲労特性に劣るようになった。
【0081】
比較例8は、本発明で提案した関係式1、関係式2及びコイルの中間部位における冷却終了温度(A2)の基準のどちらも満たしていない場合であって、不均一な微細組織の形成及びパーライト相の過度な形成により疲労特性に劣っていた。
【0082】
一方、比較例9~13は、本発明で提案した成分範囲を満たしていない場合である。比較例9は、炭素(C)の含量が本発明のC成分の範囲を超えた場合であって、厚さ中心部では、パーライトと粗大な炭化物が主に発達しており、表層部に行くほどMA相も増加する傾向を示し、疲労特性に劣る結果を示した。
【0083】
比較例10は、シリコン(Si)の含量が本発明の含量範囲を超えた場合であって、鋼板表面にスケール欠陥が激しく、粗大な炭化物及びパーライトの形成は大きく抑制されたが、MA相の形成が過度であった。また、Siの過度な添加により関係式1で算出された熱延温度が低温域に該当して圧延方向に延伸された微細組織も形成され、これにより疲労特性に劣っていた。
【0084】
比較例11は、マンガン(Mn)の含量が本発明のMn成分の範囲に達していない場合である。Mnは、固溶強化及び硬化能の増加によるベイナイト組織の形成により強度向上に寄与する合金成分であるが、比較例11は、Mnが不足して本発明で求められる目標強度を得ることが困難であった。比較例12は、Mnの含量が、本発明のMn成分の範囲を超えた場合であって、熱延板の中心部におけるMn偏析帯が激しく形成され、中心部ではパーライト組織が発達した。そして、硬化能の増加により表層部に行くほどMA相も増加し、パンチ断面部において割れが過度に形成され、疲労特性にも劣っている。比較鋼13は、Crの含量が本発明の成分範囲を超えた場合であり、鋼中のCrの役割がMnと同様の特性を示し、微細組織上の比較例11と同様の微細組織を示し、疲労特性にも劣っていた。
【0085】
図1は、本発明の実施例において、発明例5と比較例3の微細組織を観察した組織写真である。発明例5に比べて比較例3の鋼には、パーライト組織及び炭化物が形成されたことが確認できる。
【0086】
本発明は、上記実現例及び実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で製造されることができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須な特徴を変更せずとも他の具体的な形態で実施できることを理解することができる。したがって、上述した実現例及び実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解すべきである。
図1(a)】
図1(b)】