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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
B01D39/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022533005
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026245
(87)【国際公開番号】W WO2022003965
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】田代 希
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-139661(JP,A)
【文献】特開2017-013068(JP,A)
【文献】特開2014-221456(JP,A)
【文献】特開2010-094580(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171165(WO,A1)
【文献】特開2016-097336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00 - 39/20
D21H 13/00 - 13/50
D04H 1/00 - 18/04
B01D 46/00 - 46/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を含む湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、
該濾材は、カチオン性のバインダー樹脂、ノニオン性又はカチオン性のフッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、かつ、アニオン性の界面活性剤を含まず、
前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が30/70~80/20の範囲にあることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記濾材に含まれる前記バインダー樹脂、前記フッ素樹脂及び前記界面活性剤を合計した固形分質量含有率は、濾材全体に対して2~12%であることを特徴とする請求項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記湿式不織布は、前記ガラス繊維として、繊維径が1~10μmのガラスウール繊維、繊維径が1μm未満のガラスウール繊維及び繊維径が4~30μmのチョップドガラス繊維を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記濾材がバインダー繊維を更に含み、前記濾材に含まれる前記バインダー繊維の配合率は、濾材中の繊維の全繊維質量に対して、30質量%以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
ガラス繊維を含むスラリーを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを形成する工程と、
前記湿潤状態のシートを、カチオン性のバインダー樹脂、ノニオン性又はカチオン性のフッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、かつ、アニオン性の界面活性剤を含まず、前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が30/70~80/20の範囲にある水性分散液に含浸する工程と、
前記水性分散液に含浸した湿潤状態のシートを乾燥して、乾燥シートを得る工程と、を有することを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体、液晶、食品工業向けのクリーンルーム、ビル空調又は空気清浄機などに設置されるエアフィルタに用いられるエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中のサブミクロン又はミクロン単位の粒子を捕集除去するためには、一般的に、エアフィルタ用濾材を備えたエアフィルタが用いられる。エアフィルタは捕集可能な粒子径、捕集効率によって粗塵用フィルタ、中性能フィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタに分類され、後者になるほどより高性能となる。
【0003】
エアフィルタ用濾材の濾過性能を示す特性として、圧力損失及び捕集効率がある。圧力損失が高いほど、通風のために必要なエネルギー消費量が増加するとともにフィルタのランニングコストが高くなるため、圧力損失が低く且つ粒子の捕集効率が高い濾材が望ましい。この観点より示される濾過性能の指標としては、数1の式で定義されるPF値がある。尚、透過率[%]=100-捕集効率[%]であり、高いPF値を有する濾材が望ましい。
【数1】
【0004】
エアフィルタ用濾材に求められる他の物性としては、撥水性が挙げられる。撥水性が低いと、濾材をエアフィルタユニットに加工する際に使用するシール剤が染み込む問題がある。又、十分な撥水性があることで、気温の変化による結露や湿度の高い空気が通風した際に水滴により濾材の孔を塞ぐ問題の発生を防ぐことができる。
【0005】
更にエアフィルタ用濾材に求められる物性としては、剛度及び強度が挙げられる。剛度が低いと、通風時のたわみによりプリーツの山同士が接触し、圧力損失が上昇する恐れがある。又、強度が低いと、濾材をエアフィルタユニットにプリーツ加工する際や通風して使用する際に、濾材の割れや裂けが発生する恐れがある。そのため、実用上十分な剛度及び強度を濾材に付与する必要がある。しかしながら、濾材に用いるガラス繊維は自己接着性を持たず、剛度及び強度が不十分であるため、バインダー樹脂、バインダー繊維等のバインダーが一般的に使用される。なかでも剛度と強度を共に付与できるバインダー樹脂を使用することが望ましいが、濾材にバインダー樹脂を付着させると、バインダーの皮膜が、濾材の細孔を目詰まりさせて圧力損失を上昇させたり、大きな表面積を有するガラス繊維のネットワーク構造を被覆して粒子捕集を阻害したりすることにより、PF値が低くなる場合があった。
【0006】
エアフィルタ用濾材のPF値を向上させる方法としては、エアフィルタ用濾材に4級アンモニウム塩であるカチオン性界面活性剤を付与する方法(例えば、特許文献1を参照。)、バインダー樹脂と硫酸エステル塩若しくはスルホン酸塩のいずれか一方又は両方からなる界面活性剤に加えてフッ素系撥水剤を付与する方法(例えば、特許文献2を参照。)、バインダー樹脂とパーフルオロアルキル化合物を含有するフッ素系界面活性剤と撥水剤を付与する方法(例えば、特許文献3を参照。)が提案されている。
【0007】
PF値を更に向上する方法として全融型バインダー繊維と芯鞘型バインダー繊維とを付与する方法(例えば、特許文献4を参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010‐94580号公報
【文献】特開2014‐221456号公報
【文献】特開2017‐42762号公報
【文献】特開2018‐38983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の通り、エアフィルタ用濾材のPF値を向上させる方法として特許文献1~3の技術が提案されているが、更なるPF値及び撥水性の向上が求められている。
【0010】
また、特許文献4に開示された方法は、十分な強度は得られるものの剛度が十分でない問題があった。
【0011】
前記の通り、エアフィルタ用濾材には、実用上十分な剛度、強度及び撥水性を有しながら高いPF値を有することが求められているが、従来の技術では、これらの特性、特には十分な剛度、PF値及び撥水性を得られなかった。したがって、本開示の課題は、実用上十分な剛度及び強度を有しながら高いPF値及び撥水性を有するエアフィルタ用濾材を提供すること及びその濾材を容易な製法で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を含む湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、該濾材は、カチオン性のバインダー樹脂、ノニオン性又はカチオン性のフッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、かつ、アニオン性の界面活性剤を含まず、前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が30/70~80/20の範囲にあることを特徴とする。カチオン性のバインダー樹脂でガラス繊維を結着させるに際して、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を前記の割合で共にガラス繊維に吸着させることにより、実用上十分な剛度及び強度を有しながら、高いPF値及び撥水性を有するエアフィルタ用濾材が得られる。また、ガラス繊維は負の表面電荷を有するため、フッ素樹脂がガラス表面により吸着しやすくなり、撥水効果が向上する。
【0014】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記濾材に含まれる前記バインダー樹脂、前記フッ素樹脂及び前記界面活性剤を合計した固形分質量含有率は、濾材全体に対して2~12%であることが好ましい。濾材の十分な剛度及び強度と高PF値との両立が可能となる。
【0015】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記湿式不織布は、前記ガラス繊維として、繊維径が1~10μmのガラスウール繊維、繊維径が1μm未満のガラスウール繊維及び繊維径が4~30μmのチョップドガラス繊維を含むことが好ましい。高PF値及び高強度が得られやすくなる。
【0016】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記濾材がバインダー繊維を更に含み、前記濾材に含まれる前記バインダー繊維の配合率は、濾材中の繊維の全繊維質量に対して、30質量%以下であってもよい。バインダー樹脂の強度付与効果を補助する。
【0017】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、ガラス繊維を含むスラリーを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを形成する工程と、前記湿潤状態のシートを、カチオン性のバインダー樹脂、ノニオン性又はカチオン性のフッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、かつ、アニオン性の界面活性剤を含まず、前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が30/70~80/20の範囲にある水性分散液に含浸する工程と、前記水性分散液に含浸した湿潤状態のシートを乾燥して、乾燥シートを得る工程と、を有することを特徴とする。これにより、実用上十分な剛度及び強度を有しながら高いPF値及び撥水性を有するエアフィルタ用濾材が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によって、実用上十分な剛度及び強度を有しながら高いPF値及び撥水性を有するエアフィルタ用濾材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】フッ素樹脂/界面活性剤の固形分質量比率と0.10~0.15μmのPF値との関係を表したグラフである。
図2】フッ素樹脂/界面活性剤の固形分質量比率と撥水性との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0021】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を含む湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材であり、濾材は、カチオン性のバインダー樹脂、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、フッ素樹脂と界面活性剤との固形分質量比率が30/70~80/20の範囲にある。又、濾材の製造工程において、カチオン性のバインダー樹脂、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、フッ素樹脂と界面活性剤との固形分質量比率が30/70~80/20の範囲にある水性分散液を、ガラス繊維を含むスラリーを湿式抄紙法によりシート化した湿潤状態のシートに含浸させる。含浸によってガラス繊維にフッ素樹脂と界面活性剤が共に吸着する。次に含浸したシートを乾燥させる。このような工程を経た濾材は、ガラス繊維が均一に分散してガラス繊維同士の凝集が防止され、濾材の表面積が大きくなる。加えて、界面活性剤により含浸液の表面張力が低くなることで、濾材の表面や細孔がバインダー樹脂により塞がれる問題が抑えられるため、バインダー樹脂のみを含浸させた場合よりも高いPF値を有する濾材が得られる。
【0022】
本実施形態におけるフッ素樹脂とカチオン性の界面活性剤の濾材中の固形分質量比率(フッ素樹脂/界面活性剤)は30/70~80/20の割合であり、より好ましくは40/60~80/20の割合である。この質量比率とすることで、高いPF値(例えば、11以上)と、高い撥水性(例えば、508mm水柱高以上)の両方を有するエアフィルタ用濾材を得ることができる。フッ素樹脂の質量比率が30よりも低く界面活性剤の質量比率が70よりも高いと、フッ素樹脂がガラス繊維に十分吸着しないためPF値と撥水性が低くなり、フッ素樹脂の質量比率が80も高く界面活性剤の質量比率が20よりも低いと、界面活性剤がガラス繊維に十分吸着しないためPF値が低くなる。
【0023】
本実施形態で用いるフッ素樹脂は、分子内にフルオロアルキル基を含有する樹脂であり、フッ素原子によりもたらされる反撥力により、撥水性、撥油性、非粘着性等の特性を有するものである。撥水剤、撥油剤又は防汚剤として市販されているパーフルオロアルキル基含有樹脂からなる水性エマルジョンタイプ又は水性ディスパージョンタイプのものを用いることが好ましい。フッ素樹脂はノニオン性又はカチオン性が好ましく、ガラス繊維に吸着しやすいカチオン性のフッ素樹脂がより好ましい。ガラス繊維は負の表面電荷を有するため、フッ素樹脂がガラス表面により吸着しやすくなり、撥水効果が向上する。ここでいうカチオン性とは、フッ素樹脂自体又は乳化剤等がカチオン性であり、水中に分散されたフッ素樹脂のコロイド粒子が正の表面電荷を有することを意味する。カチオン性のフッ素樹脂を用いることにより、水中において負の表面電荷を有するガラス繊維に吸着しやすくなる。
【0024】
本実施形態で用いる界面活性剤は、カチオン性のものから選択される。カチオン性界面活性剤としては、例えば1~3級アミン塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。本実施形態では、濾材がカチオン性の界面活性剤を含んでいれば、本発明の効果を妨げない範囲において、ノニオン性の界面活性剤がさらに含まれていても構わない。
【0025】
本実施形態においては、エアフィルタ用濾材に必要とされる剛度及び強度を付与するために、バインダー樹脂が使用され、カチオン性のバインダー樹脂から選択される。ここでいうカチオン性とは、バインダー樹脂自体又は乳化剤等がカチオン性であり、水中に分散されたバインダー樹脂のコロイド粒子が正の表面電荷を有することを意味する。カチオン性のバインダー樹脂を用いることにより、ガラス繊維の表面を効率的に被覆できるため、剛度及び強度の向上と撥水性の発現との両立が可能である。一方で、アニオン性のバインダー樹脂を用いると、ガラス繊維の表面を効率的に被覆することによる効果が得られない上に、本実施形態で用いるカチオン性のフッ素樹脂及び/又はカチオン性の界面活性剤と混合した場合に凝集を起こしやすく、使用が難しい。バインダー樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリスチレンブタジエン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂であり、これらを含む水性分散液が用いられる。尚、本実施形態で用いるフッ素樹脂は、前記の通りフッ素原子による反撥力のために強度付与に対する効果が小さいため、ここでいうバインダー樹脂には含まれない。
【0026】
濾材中におけるバインダー樹脂、フッ素樹脂及び界面活性剤を合計した固形分質量含有率は、濾材全体に対して2~12%であることが好ましく、4~9%がより好ましい。これらの成分の含有率が2%よりも低いと強度が十分に発現せず、含有率が12%よりも高いとPF値が低くなる。
【0027】
本実施形態におけるエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を含む湿式不織布からなる。ガラス繊維は高い剛性を有しているため、濾材内において、空気が通過するために必要な空隙を十分に維持することができ、高いPF値を得ることができる。ガラス繊維としてはガラスウール繊維とチョップドガラス繊維を使用することができる。ここで言うガラスウール繊維は、火焔延伸法又はロータリー法により延伸されて製造される、繊維径がある程度の分布幅を有する不定形で不連続なウール状のガラス繊維である。繊維径の範囲は一般的に約0.1~約10μmであり、ある程度の分布幅を有することから繊維径の値は一般的に平均繊維径として表され、本実施形態において用いているガラスウール繊維の繊維径も平均繊維径である。一方で、チョップドガラス繊維は、所定の直径を有する口金から紡糸された連続したガラス繊維を所定の繊維長に切断した定形で直線状のガラス繊維であり、繊維径の範囲は一般的に約4~約30μm、繊維長の範囲は一般的に約1.5~約25mmである。本実施形態の濾材において、繊維径が細く不定形のガラスウール繊維は、捕集効率を高くするとともに濾材中の空隙を保持する効果を有する。繊維径が太く直線状のチョップドガラス繊維は、フィルタユニットの加工時及び使用時に必要とされる強度及び剛度を付与する効果を有するが、濾材の製造中に繊維が水平方向に堆積しやすいため、チョップドガラス繊維の配合比率が高いと、濾材の密度を高くする傾向にある。本実施形態において、ガラス繊維としてチョップドガラス繊維を用いる場合、チョップドガラス繊維の配合率は、濾材中の繊維の全繊維質量に対して、1~50質量%が好ましく、3~30%質量%がより好ましく、5~10質量%が更に好ましい。
【0028】
本実施形態においては、ガラスウール繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、0.1~10μmで あることが好ましく、0.2~7μmであることがより好ましい。又、高いPF値を得るためには、ガラス繊維の少なくとも一部が繊維径1μm未満のガラス繊維であることが好ましい。
【0029】
本実施形態においては、バインダー樹脂の強度付与効果を補助する目的で、バインダー繊維を用いることができる。バインダー繊維は、ガラス繊維を含むスラリーに添加され、溶融接着、水素結合、物理的な絡み合い等により強度を付与する繊維であり、本実施形態の効果を損なわない範囲で自由に選択される。例を挙げると、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維等である。本実施形態においては、これらの中でも溶融接着バインダー繊維を用いることが好ましい。溶融接着バインダー繊維の形態としては、溶融する部分と溶融しない部分とが隣り合わせで複合化されたサイドバイサイド型バインダー繊維や、溶融しない芯部と溶融する鞘部を有する芯鞘型バインダー繊維や、全体が溶融してガラス繊維等の主体繊維同士の接着に寄与する全融型バインダー繊維などがある。バインダー繊維の配合率は、濾材中の繊維の全繊維質量に対して、0~30質量%が好ましく、0~20質量%がより好ましく、0~10質量%が更に好ましい。溶融接着バインダー繊維は、サイドバイサイド型バインダー繊維、芯鞘型バインダー繊維及び全融型バインダー繊維のうち、いずれか一種をエアフィルタ用濾材に含ませる形態のほか、2種又は3種を含ませてもよい。2種を含ませる例としては、サイドバイサイド型バインダー繊維と芯鞘型バインダー繊維の組み合わせ、サイドバイサイド型バインダー繊維と全融型バインダー繊維の組み合わせ、又は芯鞘型バインダー繊維と全融型バインダー繊維の組み合わせがある。
【0030】
本実施形態では、濾材がバインダー繊維を更に含み、濾材に含まれるバインダー繊維、バインダー樹脂、フッ素樹脂及び界面活性剤の固形分質量含有率は、濾材全体に対して0%以上30%以下であってもよい。本実施形態では、濾材がバインダー樹脂を含むため、バインダー繊維は必須ではないが補助剤として濾材に含まれていてもよい。ただし、濾材に含まれるバインダー繊維、バインダー樹脂、フッ素樹脂及び界面活性剤の固形分質量含有率が30%を超えると、PF値を下げ、濾材の難燃性を低下させる場合がある。
【0031】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造工程においては、原料繊維を水中で分散して原料スラリーを得て、これを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを得る。分散及び抄紙に用いる水は、酸性であることが好ましく、pH2~4であることがより好ましい。酸性下で分散及び抄紙を行うことにより、ガラス繊維の分散が容易になるほか、湿紙強度を高くすることができ、操業が容易になる。
【0032】
本実施形態にかかわる濾材の製造工程では、前記の方法で得られた湿潤状態のシートに、カチオン性のバインダー樹脂、フッ素樹脂、カチオン性の界面活性剤を含む水性分散液を含浸させ、シートを乾燥することでエアフィルタ用濾材が得られる。乾燥前のシートにバインダー樹脂、フッ素樹脂及び界面活性剤を含浸させることにより、本発明の効果を高めることができる。シートの乾燥は、抄紙機においては、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥機、手抄装置においては、ロータリードライヤー、循環乾燥機等を用いて、例えば、100~170℃、より好ましくは120~160℃の温度にて乾燥させることが好ましい。
【0033】
本実施形態においては、バインダー樹脂、フッ素樹脂及び界面活性剤水性分散液に対して、本発明の効果を妨げない範囲で、消泡剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【実施例
【0034】
以下に本発明について具体的な実施例を示して説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。尚、例中の「部」は、原料スラリー中の繊維の固形分質量比率、又は含浸液中の成分の固形分質量比率を示し、原料スラリーにおいては全ての繊維の合計量を100部とし、含浸液においてはバインダー樹脂を100部とした。バインダー樹脂を含まない含浸液については、合計を100部とした。又、例中の「%」は、含浸液中の成分の固形分質量濃度、又は濾材中の成分の固形分質量含有率を示す。
【0035】
<実施例1>
平均繊維径0.65μmのガラスウール(B-06-F、Unifrax Co.製)を60部、平均繊維径2.44μmのガラスウール(B-26-R、Unifrax Co.製)を30部、平均繊維径6μm、カット長6mmのチョップドガラス繊維(EC-6-6-SP、Unifrax Co.製)10部をテーブル離解機にてpH3.0の酸性水を用いて離解し、原料スラリーを得た。次に、カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)1.5部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)3.5部及び水を混合して固形分濃度1.8%に調製した含浸液を湿紙に含浸付与させ、130℃のロータリードライヤーを用いて乾燥させ、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0036】
<実施例2>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)2部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)3部及び水を混合して固形分濃度1.8%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0037】
<実施例3>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)3部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)2部及び水を混合して固形分濃度1.5%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0038】
<実施例4>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)4部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)1部及び水を混合して固形分濃度1.2%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0039】
<実施例5>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、ノニオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E550D、AGC(株)製)2部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)3部及び水を混合して固形分濃度1.8%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は4.0%であった。
【0040】
<実施例6>
平均繊維径0.65μmのガラスウール(B-06-F、Unifrax Co.製)を60部、平均繊維径2.44μmのガラスウール(B-26-R、Unifrax Co.製)を12部、平均繊維径6μm、カット長6mmのチョップドガラス繊維(EC-6-6-SP、Unifrax Co.製)10部、カット長5mmの芯/鞘がポリエステル/ポリエステルである芯鞘バインダー繊維(メルティ4080、ユニチカ(株)製)18部をテーブル離解機にてpH3.0の酸性水を用いて離解した以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.1%であった。
【0041】
<実施例7>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)2部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)3部及び水を混合して固形分濃度4.8%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は11.8%であった。
【0042】
<比較例1>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)及び水を混合して固形分濃度0.40%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.5%であった。
【0043】
<比較例2>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)5部及び水を混合して固形分濃度2.0%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0044】
<比較例3>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)1部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)4部及び水を混合して固形分濃度2.0%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0045】
<比較例4>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)4.5部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)0.5部及び水を混合して固形分濃度1.1%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0046】
<比較例5>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)5部及び水を混合して固形分濃度1.1%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.5%であった。
【0047】
<比較例6>
カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)60部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)40部及び水を混合して固形分濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.23%であった。
【0048】
<比較例7>
含浸の工程を除いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/mのエアフィルタ用濾材を得た。
【0049】
<比較例8>
カチオン性バインダー樹脂(ボンコートSFC-54、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)3部、アニオン性界面活性剤(ハイテノール330T、第一工業製薬(株)製)2部及び水を固形分濃度1.5%となるように混合したところ凝集物を発生した。そのため、この含浸液を用いたエアフィルタ用濾材は作製しなかった。
【0050】
<比較例9>
アニオン性バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、カチオン性フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)3部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)2部及び水を固形分濃度1.5%となるように混合したところ凝集物を発生した。そのため、この含浸液を用いたエアフィルタ用濾材は作製しなかった。
【0051】
実施例及び比較例において得られたエアフィルタ用濾材の評価は、以下に示す方法を用いて行った。
【0052】
<圧力損失>
圧力損失は、有効面積100cmのエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の差圧として、マノメーター(マノスターゲージWO81、(株)山本電機製作所製)を使用して測定した。
【0053】
<透過率>
透過率は、ラスキンノズルで発生させた多分散ポリアルファオレフィン(PAO)粒子を含む空気が有効面積100cmのエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の上流及び下流のPAO粒子の個数をレーザーパーティクルカウンター(KC-18、リオン(株)製)を用いて測定し、上流と下流の粒子数の比から求めた。対象粒子径は0.10~0.15μmとした。
【0054】
<PF値>
PF値は、圧力損失及び粒子透過率の値から、数1に示す式を用いて計算した。対象粒子径は0.10~0.15μmとした。
【0055】
<ガーレー剛度>
ガーレー剛度は、ガーレーステフネステスター(熊谷理機工業(株)製)を用いて、試験幅1inch、試験長2inchの条件で測定した。
【0056】
<引張強度>
引張強度は、オートグラフAGX-S((株)島津製作所製)を用いて試験幅1inch、試験長100mm、引張速度15mm/minの条件で測定を行った。
【0057】
<撥水性>
撥水性は、MIL-STD-282に準拠して測定を行った。
【0058】
前記の方法で行ったエアフィルタ用濾材の評価結果を表1及び表2に示した。又、実施例1~4及び比較例2~5の結果を用いて、フッ素樹脂/界面活性剤の固形分質量比率と0.10~0.15μmのPF値、撥水性の関係を表したグラフを、各々、図1及び図2に示した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1~4によれば、カチオン性のバインダー樹脂を含み、且つカチオン性のフッ素樹脂とカチオン性の界面活性剤を30/70~80/20の範囲の比率で含む場合、実用上十分な強度及び剛度と、高いPF値(11以上)及び撥水性(508mm水柱高以上)を有する濾材を得ることができた。実施例5によれば、ノニオン性のフッ素樹脂を含む場合においては、撥水性が実施例2と比べて若干低いものの、同様の特徴を有する濾材を得ることができた。すなわち、カチオン性のフッ素樹脂を用いた実施例2がより好ましいことが分かった。実施例6によれば、バインダー繊維を使用した場合においては、実施例2と比べてPF値が若干低いものの、高い強度と剛度を有する濾材を得ることができた。実施例7によれば、含浸成分の付着量を約12%まで高めた場合においては、実施例2と比べてPF値が若干低いものの、高い強度と剛度と撥水性を有する濾材を得ることができた。
【0062】
比較例1によれば、フッ素樹脂及び界面活性剤を含まない場合、PF値が低かった。比較例2によれば、フッ素樹脂を含まない場合、PF値及び撥水性が低かった。比較例3によれば、フッ素樹脂の配合比率が低い場合、PF値及び撥水性が低かった。比較例4によれば、界面活性剤の配合比率が低い場合、PF値が低かった。比較例5によれば、界面活性剤を含まない場合、PF値が低かった。比較例6によれば、バインダー樹脂を含まない場合、剛度及び強度が低かった。比較例7によれば、含浸成分を全く含まない場合、剛度及び強度が低く、撥水性が全く得られなかった。比較例8によれば、界面活性剤をアニオン性にした場合、薬品同士の相性により凝集を起こしたため、濾材を作製できなかった。比較例9によれば、バインダー樹脂をアニオン性にした場合、薬品同士の相性により凝集を起こしたため、濾材を作製できなかった。


図1
図2