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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】蛍光体、波長変換体、及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20240312BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240312BHJP
【FI】
C09K11/64
H01L33/50
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022533845
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2021023010
(87)【国際公開番号】W WO2022004406
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020115728
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020115729
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020115732
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/003076(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175385(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/185415(WO,A1)
【文献】特開2018-070736(JP,A)
【文献】特開2007-189254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiBaAlSi12で示される結晶、又はLiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物を含有する蛍光体であり、
Cu-Kα線を用いて測定した当該蛍光体のX線回折パターンにおいて、回折角2θが31.3°以上31.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとし、回折角2θが29.8°以上30.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとしたとき、
、Iが、0<I/I≦0.050を満たす、蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体であって、
波長600nmの光に対する拡散反射率が92.0%以上である、蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光体であって、
波長500nmの光に対する拡散反射率が80.0%以上である、蛍光体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
波長405nmの励起光を当該蛍光体に照射したとき、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、y値が0.575≦y≦0.590を満たす、蛍光体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
波長405nmの励起光を当該蛍光体に照射したとき、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、x値が0.240≦x≦0.260を満たす、蛍光体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
レーザー回折散乱法で測定される当該蛍光体の体積頻度粒度分布において、50%となる粒子径をD50としたとき、
D50が、1μm以上30μm以下である、蛍光体。
【請求項7】
請求項6に記載の蛍光体であって、
レーザー回折散乱法で測定される当該蛍光体の体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径をD10、90%となる粒子径をD90としたとき、
((D90-D10)/D50)が、1.00以上5.00以下である、蛍光体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
波長405nmの励起光を当該蛍光体に照射したとき、得られる発光スペクトルにおいて、ピーク波長が500nm以上530nm以下の範囲にあり、半値幅が50nm以上80nm以下である、蛍光体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
波長405nmの光に対する吸収率が、75%以上である、蛍光体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
波長600nmの光に対する吸収率が、10.0%以下である、蛍光体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
波長700nmの光に対する吸収率が、7.0%以下である、蛍光体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
当該蛍光体が、組成式BaLiEuSiAlで表され、式中の組成比a、b、c、d、e、x、yが、
a+b+c+d+e+x+y=1
0.05≦a≦0.1v
0.025≦b≦0.08
0.00001≦c≦0.05
0.2≦d≦0.4
0.03≦e≦0.1
0.45≦x≦0.6
0.002≦y≦0.03
の条件を満たす範囲の組成で表される、蛍光体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
前記LiBaAlSi12 で示される結晶は、斜方晶系の結晶であり、空間群Pnnmの対称性を持ち、
格子定数a、b、cが、
a=1.409±0.05nm
b=0.489±0.05nm
c=0.806±0.05nm
の範囲の値である、蛍光体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の蛍光体であって、
当該蛍光体中の酸素量が、3.0重量%以下である、蛍光体。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の蛍光体を含む、波長変換体。
【請求項16】
請求項15に記載の波長変換体を備える、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体、波長変換体、及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでLiBaAlSi12系蛍光体について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、470nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定な蛍光体としてLiBaAlSi12系蛍光体が記載されている(特許文献1の段落200)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/003076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のLiBaAlSi12系蛍光体において、発光特性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許文献1の表6に示されるように、LiBaAlSi12系蛍光体の製造過程において、主相とともに、焼成時に様々な種類の副相も生成される。組成成分によっては、副相が、LiBaAlSi12系蛍光体の発光特性を低下させる恐れがある。
【0006】
本発明者はさらに検討したところ、LiBaAlSi12系蛍光体について、特許文献1に記載されていない異相を見出し、その異相の主相に対する存在比を適切に制御することにより、蛍光体の発光特性を高められることが分かった。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、かかる特定の異相の存在比として、Cu-Kα線を用いて測定した当該蛍光体のX線回折パターンにおいて、回折角2θが31.3°以上31.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとし、回折角2θが29.8°以上30.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとしたとき、I/Iを指標とすることによって、蛍光体の発光特性について安定的に評価できること、そして、I/Iを所定値以下とすることで、発光特性に優れた蛍光体を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、
LiBaAlSi12で示される結晶、又はLiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物を含有する蛍光体であり、
Cu-Kα線を用いて測定した当該蛍光体のX線回折パターンにおいて、回折角2θが31.3°以上31.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとし、回折角2θが29.8°以上30.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとしたとき、
、Iが、0<I/I≦0.050を満たす、蛍光体が提供される。
【0008】
また本発明によれば、上記の蛍光体を含む、波長変換体が提供される。
【0009】
また本発明によれば、上記の波長変換体を備える、発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発光特性に優れた蛍光体、それを用いた波長変換体、及び発光装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の蛍光体を概説する。
【0012】
蛍光体は、LiBaAlSi12で示される結晶、又はLiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物を含有する。
この蛍光体は、Cu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて、回折角2θが31.3°以上31.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとし、回折角2θが29.8°以上30.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとしたとき、I、Iが、0<I/I≦0.050を満たすように構成される。
【0013】
本発明者の知見によれば、回折角2θが31.3°以上31.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとし、回折角2θが29.8°以上30.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をIとしたときの、I/Iを指標とすることによって、蛍光体の発光特性について安定的に評価できることが見出された。さらに、そのようにして見出された指標I/Iを上記上限値以下とすることによって、蛍光体の発光特性を向上できることが判明した。
【0014】
本実施形態の蛍光体においては、回折角2θが31.3°以上31.6°以下の範囲内にある最大ピークを、蛍光体中の主相であるLiBaAlSi12に由来するピークとする。
回折角2θが29.8°以上30.6°以下の範囲内にあるピークは、蛍光体中の異相であるBaAlSiに帰属されるピークが含まれている。
主相に対する特定の異相の存在比を適切に制御することにより、蛍光体の発光特性を高められる。
【0015】
また、本実施形態の蛍光体の一例は、波長600nmの光に対する拡散反射率が92.0%以上となるように構成されてもよい。
本発明者の知見によれば、600nm拡散反射率を指標とすることによって、特定の異相の含有度合いについて安定的に評価できることが見出された。さらに、そのようにして見出された指標600nm拡散反射率を上記下限値以上とすることによって、蛍光体の発光特性を向上できることが判明した。
【0016】
蛍光体において、波長600nmの光に対する拡散反射率の下限が、例えば、92.0%以上、好ましくは92.5%以上、より好ましくは93.0%以上である。これにより、蛍光体の発光特性を向上させることができる。一方、波長600nmの光に対する拡散反射率の上限は、特に限定されないが、99.9%以下としてもよい。
【0017】
また、蛍光体において、波長500nmの光に対する拡散反射率の下限が、例えば、80.0%以上、好ましくは81.0%以上、より好ましくは84.5%以上である。これにより、蛍光体の発光特性を向上させることができる。一方、波長500nmの光に対する拡散反射率の上限は、特に限定されないが、99.5%以下としてもよい。
【0018】
また、本実施形態の蛍光体の一例は、波長405nmの励起光を当該蛍光体に照射したとき、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、y値が0.575≦y≦0.590を満たすように構成されてもよい。
本発明者の知見によれば、CIE-xy色度図におけるy値を指標とすることによって、特定の異相の含有度合いについて安定的に評価できることが見出された。さらに、そのようにして見出されたCIE-xy色度図におけるy値を上記下限値以上とすることによって、蛍光体の発光特性を向上できることが判明した。
【0019】
波長405nmの励起光を蛍光体に照射したとき、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、y値が、例えば、0.575≦y≦0.590、好ましくは0.578≦y≦0.590、より好ましくは0.580≦y≦0.588を満たす。y値をこのような範囲ないとすることにより、蛍光体の発光特性を向上させることができる。
【0020】
また、波長405nmの励起光を蛍光体に照射したとき、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、x値が、例えば、0.240≦x≦0.260、好ましくは0.242≦x≦0.258、より好ましくは0.245≦x≦0.255を満たす。x値をこのような範囲内とすることにより、蛍光体の発光特性を向上させることができる。
【0021】
本実施形態では、たとえば蛍光体に含まれる各成分の種類や配合量、蛍光体の調製方法等を適切に選択することにより、上記ピーク強度比I/I、波長600nmの光に対する拡散反射率、及び波長500nmの光に対する拡散反射率、およびCIE-xy色度図におけるy値、x値を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、蛍光体の原料として、不純物酸素量が比較的少ない窒化アルミニウムや窒化ケイ素を使用すること、焼成容器としてモリブデン、タンタル、タングステンなどの高融点金属製容器を使用すること等が、上記ピーク強度比I/I、波長600nmの光に対する拡散反射率、及び波長500nmの光に対する拡散反射率、およびCIE-xy色度図におけるy値、x値を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0022】
詳細なメカニズムは定かでないが、蛍光体の原料成分中に含まれる酸素量を低減することや、蛍光体の焼成時に焼成容器と反応を抑制することによって、蛍光体中に生じる、BaAlSi等の副相(副生成分)の発生量を低く抑えられる、と考えられる。
【0023】
本実施形態によれば、波長250nm以上480nm以下の光によって効率よく励起され、波長500nm以上530nm以下に発光ピーク波長を有する青緑色発光蛍光体を提供できる。
【0024】
本実施形態の蛍光体を含む波長変換体は、照射された光(励起光)を変換して、励起光とは異なる波長範囲に発光ピークを有する光を発光する部材で構成される。この波長変換体は、例えば、500nm以上530nm以下の波長範囲に発光ピークを有する光を発光してもよい。
【0025】
波長変換体は、蛍光体からのみで構成されてもよく、蛍光体が分散した母材を含んでもよい。母材としては、公知のものを使用できるが、例えば、ガラス、樹脂、無機材料などが挙げられる。波長変換体は、本実施形態の蛍光体以外の公知の蛍光体を一または二以上含んでもよい。
【0026】
本実施形態の蛍光体を備える発光装置は、波長変換体を備える。
このような発光装置の一例は、発光素子と、発光素子から照射された光を変換して発光する蛍光体を含む波長変換体と、を備える。このような波長変換体は、その形状が特に限定されず、プレート状に構成されてもよく、例えば、発光素子の一部または発光面全体を封止するように構成されてもよい。
【0027】
発光装置としては、例えば、青色発光ダイオードや紫外線発光ダイオード等と組み合わせたLED素子、液晶TV用バックライトやプロジェクタ等の光源装置、画像表示装置、照明装置、信号装置等が挙げられる。
【0028】
以下、本実施形態の蛍光体を詳述する。
【0029】
蛍光体は、LiBaAlSi12で示される結晶、又はLiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物を含有する。蛍光体は、無機化合物のみからなるものであっても、この無機化合物を一部に含有したものであってもよい。
この無機化合物は、蛍光体中の母材を構成してもよい。この場合、無機化合物の含有量は、蛍光体中、重量換算で、例えば、50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0030】
LiBaAlSi12 で示される結晶は、斜方晶系の結晶であり、空間群Pnnmの対称性を持つ。
また、LiBaAlSi12 で示される結晶中、格子定数a、b、cが、a=1.409±0.05nm、b=0.489±0.05nm、c=0.806±0.05nm、の範囲の値であることが好ましい。このような範囲内とすることで、発光特性に優れた蛍光体を実現できる。
【0031】
蛍光体が、組成式BaLiEuSiAlで表され、
式中の組成比a、b、c、d、e、x、yが、
a+b+c+d+e+x+y=1
0.05≦a≦0.1
0.025≦b≦0.08
0.00001≦c≦0.05
0.2≦d≦0.4
0.03≦e≦0.1
0.45≦x≦0.6
0.002≦y≦0.03
の条件を満たす範囲の組成で表されてもよい。
このような組成を有することにより、発光特性に優れた蛍光体を実現できる。
【0032】
蛍光体は、波長が405nmの励起光が照射されたとき、蛍光スペクトルにおいて、500nm以上530nm以下、好ましくは505nm以上525nm以下、より好ましくは510nm以上520nm以下の波長範囲に発光ピークを有する。
【0033】
波長が405nmの励起光が照射されたときの、蛍光体の蛍光スペクトルにおいて、発光ピークの半値幅が、例えば、50nm以上80nm以下、好ましくは60nm以上75nm以下、より好ましくは68nm以上71nm以下である。半値幅を上記範囲内とすることで、発光強度を向上できる。
【0034】
蛍光体において、波長405nmの光に対する吸収率が、例えば、75%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは87%以上である。これにより、蛍光体の発光効率を高められる。
【0035】
蛍光体において、波長600nmの光に対する吸収率が、例えば、10.0%以下、好ましくは9.5%以下、より好ましくは9.0%以下である。これにより、蛍光体の発光効率を高められる。
【0036】
蛍光体において、波長700nmの光に対する吸収率が、例えば、7.0%以下、好ましくは6.5%以下、より好ましくは6.0%以下である。これにより、蛍光体の発光効率を高められる。
【0037】
蛍光体中の酸素量が、例えば、3.0重量%以下、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.1重量%以下である。これにより、蛍光体の発光特性を一層高められる。
【0038】
以下、本実施形態の蛍光体の製造方法について説明する。
【0039】
蛍光体の製造方法の一例は、LiBaAlSi12で示される結晶構造を有するLiBaAlSi12系結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物の組成を構成する各元素を含む原料混合物を得る混合工程と、原料混合物を焼成する焼成工程と、を含んでもよい。
【0040】
Li元素を含む原料としては、Liを含む、金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、及び酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物等が挙げられる。
Ba元素を含む原料としては、Baを含む、金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、及び酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物等が挙げられる。
Al元素を含む原料としては、Alを含む、金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、及び酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物等が挙げられる。
Si元素を含む原料としては、Siを含む、金属、酸化物、窒化物、酸窒化物、から選ばれる単体または2種以上の混合物等が用いられる。
【0041】
Eu元素を含む原料としては、Euを含む、金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、及び酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物等が用いられる。
【0042】
結晶中のBaの一部はSrでの置換が可能であるので、Sr元素を含む炭酸塩、酸化物、窒化物、炭化物、水素化物、ハロゲン化物、珪化物、金属等も原料混合物として用いてもよい。
【0043】
原料混合物は、例えば、Liの窒化物、Baの窒化物、Alの窒化物、Siの窒化物、Euの窒化物又は酸化物を含むものを用いてもよい。これにより、焼成時における反応促進させることができる。
【0044】
原料を混合する方法は、特に限定されないが、たとえば、乳鉢、ボールミル、V型混合機、遊星ミルなどの混合装置を用いて十分に混合する方法がある。
【0045】
焼成工程は、上述した原料混合物を、例えば、電気炉等の焼成炉で焼成してもよい。
焼成雰囲気は、窒素ガスが好ましい。
【0046】
焼成工程における焼成温度は、焼成工程終了後の未反応原料の低減、主成分の分解抑制の観点から、適当な温度範囲が選択される。
焼成工程における焼成温度の下限は、1500℃以上が好ましく、1600℃以上がより好ましく、1700℃以上がさらに好ましい。一方、焼成温度の上限は、2200℃以下が好ましく、2000℃以下がより好ましく、1900℃以下がさらに好ましい。
【0047】
焼成雰囲気ガスの圧力は、焼成温度に応じて選択されるが、通常0.1MPa以上10MPa以下の範囲の加圧状態である。工業的生産性を考慮すると0.5MPa以上1MPa以下とすることが好ましい。
【0048】
焼成工程における焼成時間は、未反応物の低減、生産性の向上の観点から、適当な時間範囲が選択される。
焼成時間の下限は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。また、焼成時間の上限は、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましく、16時間以下がさらに好ましい。
【0049】
以上により、焼成工程後の反応生成物(焼成物)が得られる。
【0050】
本実施形態の蛍光体の製造方法は、焼成工程後の反応生成物(焼成物)を、粉砕して粉砕物を得る粉砕工程をさらに含んでもよい。
【0051】
焼成工程により得られる焼成物の状態は、原料配合や焼成条件によって、粉体状、塊状と様々である。解砕・粉砕工程及び/又は分級操作工程によって、焼成物を、所定のサイズの粉体状にできる。
なお、上記の他に、蛍光体の分野で公知の工程を追加してもよい。
【0052】
粉体状の蛍光体について、レーザー回折散乱法を用いて測定した体積頻度粒度分布において、累積値が50%となる粒子径をD50、累積値が10%となる粒子径をD10、累積値が90%となる粒子径をD90とする。
【0053】
D50は、例えば、1μm以上30μm以下、好ましくは5μm以上25μm以下、より好ましくは10μm以上20μm以下である。上記の範囲内とすることで、発光特性のバランスを図ることができる。
【0054】
((D90-D10)/D50)の下限は、例えば、1.00以上、好ましくは1.20以上、より好ましくは1.30以上である。一方、((D90-D10)/D50)の上限は、5.00以下、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.80以下である。上記の範囲内とすることで、発光特性のバランスを図ることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0056】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
(蛍光体の製造)
表1に示す原料混合物の配合比に従い、窒化リチウム(LiN、マテリオン社製)、窒化バリウム(BaN、太平洋セメント社製)、不純物酸素量が0.8重量%の窒化アルミニウム(AlN、トクヤマ製、Eグレード)、不純物酸素量が1.2wt%の窒化ケイ素(Si、宇部興産社製、E10グレード)、及び酸化ユーロピウム(Eu、信越化学工業社製、RUグレード)を秤量し、窒素雰囲気のグローブボックス中で瑪瑙製乳棒と乳鉢とを用いて5分間混合を行い、粉末状の原料混合物を得た。
次いで、原料混合物を、タンタル製のるつぼに投入した。
原料混合物が入ったるつぼを、黒鉛抵抗加熱方式の電気炉に入れ、油回転ポンプ及び油拡散ポンプにより焼成雰囲気を圧力として1×10-1Pa以下の真空とし、室温から600℃まで毎時500℃の速度で加熱し、600℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を0.9MPaとし、毎時300℃で1800℃まで昇温し、8時間焼成を行った。
得られた焼成物を、乳鉢で粉砕後、目開き45μmの篩で篩分け(分級処理)を行い、篩通過分を回収して、粉体状の蛍光体(蛍光体粒子)を得た。
【0058】
[実施例2]
表1に示す原料混合物の配合比に従い、窒化ケイ素として、Si(宇部興産社製、E10グレード)を窒素雰囲気中、2000℃8時間の条件で加熱処理し、不純物酸素量を0.4重量%にしたものを使用した以外は、実施例1と同様にして、粉体状の蛍光体(蛍光体粒子)を得た。
【0059】
[実施例3]
表1に示す原料混合物の配合比に従い、窒化バリウムとして、Ba(マテリオン社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、粉体状の蛍光体(蛍光体粒子)を得た。
【0060】
[比較例1]
表1に示す原料混合物の配合比に従い、アルミニウム源として、窒化アルミニウム以外に、一部に、Al(大明化学製、TM-DARグレード)を使用した以外は、実施例1と同様にして、粉体状の蛍光体(蛍光体粒子)を得た。
【0061】
[比較例2]
表1に示す原料混合物の配合比に従い、窒化ホウ素焼結体製のるつぼを使用した以外は、実施例1と同様にして、粉体状の蛍光体(蛍光体粒子)を得た。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
得られた蛍光体について、以下の項目について評価を行った。
【0065】
[蛍光測定]
(蛍光ピーク強度、ピーク波長、半値幅)
ローダミンBと副標準光源により補正を行った蛍光分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、F-7000)を用いて、蛍光ピーク強度測定を行った。測定には、光度計に付属の固体試料ホルダーを使用し、波長405nmの励起光を照射し、発光スペクトルを得た。比較例1のピーク強度を100とした時の相対蛍光ピーク強度、ピーク波長の位置、ピーク波長における半値幅を表2に示す。
【0066】
(吸収率)
得られた蛍光体の吸収率を、分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定し、以下の手順で算出した。
蛍光体の粉末を凹型セルの表面が平滑になるように充填し、積分球を取り付けた。この積分球に、発光光源から405nm、600nm、700nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光を励起源として、蛍光体の試料に照射し、励起反射光のスペクトル測定を行った。その際、設定波長の-5nm~+10nmの波長範囲のスペクトルから励起反射光フォトン数(Qref)を算出した。
試料部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)を取り付けて、波長405nm、600nm、700nmの励起光のスペクトルを、それぞれ測定した。その際、設定波長の-5nm~+10nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
各波長の励起光について、以下の式により吸収率を算出した。
吸収率=(Qex-Qref)/Qex×100
【0067】
[拡散反射率]
拡散反射率は、日本分光社製紫外可視分光光度計(V-650)に積分球装置(ISV-722)を取り付けて測定した。標準反射板(スペクトラロン)でベースライン補正を行い、蛍光体粉末を充填した固体試料ホルダーを取り付けて、220~800nmの波長範囲で拡散反射スペクトルを測定し、500nm、及び600nmの各波長の光に対する拡散反射率を読み取った。
【0068】
[色度]
色度xは上記の吸収率を測定する方法において、蛍光体粉末試料に対して、405nmの波長に分光した単色光を照射して得られる蛍光スペクトルデータの415nmから780nmの範囲の波長域データからJIS Z 8724:2015に準じ、JIS Z 8781-3:2016で規定されるXYZ表色系におけるCIE色度座標x値(色度x)及びy値(色度y)を算出した。
【0069】
[組成分析]
得られた蛍光体に対してBa、Li、Al、Si及びEu含有量は、アルカリ融解法により、粉末を溶解させた後、ICP発光分光分析装置(リガク社製CIROS-120)により、測定した。
蛍光体に含まれる各成分のmol比を表2に示す。
また、酸素含有量は酸素窒素分析装置(堀場製作所製、EMGA-920)により測定した。
【0070】
[粒度分布測定]
粉体状の蛍光体の粒子径分布を、レーザー回折・散乱法の粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LC13 320)で測定した。測定溶媒には水を使用した。分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウムを0.05重量%加えた水溶液に少量の蛍光体粉末を投入し、ホーン式の超音波ホモジナイザー(出力300W、ホーン径26mm)で分散処理を行い、粒子径分布を測定した。得られた体積頻度粒度分布曲線から、10体積%径(D10)、50体積%径(D50)、90体積%径(D90)を求め、得られた値から粒子径分布のスパン値((D90-D10)/D50)を求めた。
【0071】
[XRD測定]
各実施例・各比較例の蛍光体について、粉末X線回折装置(製品名:UltimaIV、リガク社製)を用いて、下記の測定条件で回折パターンを測定した。
(測定条件)
X線源:Cu-Kα線(λ=1.54184Å)、
出力設定:40kV・40mA
測定時光学条件:発散スリット=2/3°
散乱スリット=8mm
受光スリット=開放
回折ピークの位置=2θ(回折角)
測定範囲:2θ=20°~70°
スキャン速度:2度(2θ)/sec,連続スキャン
走査軸:2θ/θ
試料調製:粉末状の蛍光体をサンプルホルダーに載せた。
ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値とした。
【0072】
(結晶相の比率)
実施例1~3で得られた蛍光体について、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折測定(XRD測定)を実施し、いずれもLiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する蛍光体が主生成物として得られていることを確認した。
同様の手法で副生成物の同定を行った後、各生成物の重量割合をリートベルト解析により算出した。
【0073】
(格子定数)
LiBaAlSi12で示される結晶の格子定数は、X線回折の結果をPnnmの空間群でリートベルト解析して求めた。
【0074】
(蛍光強度比)
XRD回折分析パターンの結果、2θが31.3°~31.6°の範囲、2θが29.8°~30.6°の範囲に、実施例1~3、及び比較例1、2の蛍光体においてピークが観察された。
2θが31.3°~31.6°の範囲の最大ピークが、LiBaAlSi12に対応し、2θが29.8°~30.6°の範囲の最大ピークが、BaAlSiに対応することが確認された。
2θが31.3°~31.6°の範囲のピーク最大強度をIとし、回折角2θが29.8°~30.6°の範囲のピーク最大強度をIとしたときの、I/Iを算出した。
【0075】
実施例1~3の蛍光体は、比較例1、2と比べて、蛍光強度が高い結果を示したことから、発光特性に優れることが分かった。
【0076】
この出願は、2020年7月3日に出願された日本出願特願2020-115728号、2020年7月3日に出願された日本出願特願2020-115729号および2020年7月3日に出願された日本出願特願2020-115732号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。