(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240312BHJP
C08L 25/16 20060101ALI20240312BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L25/16
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2023046726
(22)【出願日】2023-03-23
【審査請求日】2023-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 庸祐
(72)【発明者】
【氏名】村田 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 直也
(72)【発明者】
【氏名】金谷 浩貴
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113482(JP,A)
【文献】特開2021-008587(JP,A)
【文献】特開2021-188008(JP,A)
【文献】特開昭61-266443(JP,A)
【文献】特開2010-270255(JP,A)
【文献】特開2018-090724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、粘着付与剤とを含み、
前記粘着付与剤は、イソプロペニルトルエンに由来する構成単位を含み、かつ、C5留分に由来する構成単位を実質的に含まない重合体であって、
前記粘着付与剤の軟化点は、85℃以上
136℃以下であり、
前記粘着付与剤の重量平均分子量が、1910以下であり、
前記粘着付与剤のz平均分子量は、4000未満である、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記重合体は、インデンに由来する構成単位を含み、
前記重合体において、インデンに由来する構成単位が、35モル%以下である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤは、ゴム成分と、粘着付与剤とを含むタイヤ用ゴム組成物を用いて製造されることが知られている。
【0003】
このようなタイヤ用ゴム組成物として、例えば、SBR(スチレン-ブタジエン共重合体ゴム)と、芳香族ビニル化合物とC5留分との共重合体樹脂とを含む競技用タイヤトレッドゴム組成物が、提案されている(例えば、特許文献1の実施例2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、安全性の面で、タイヤには、制動性能を示すウェットグリップ性の向上(濡れた路面でのブレーキ性能)が求められる。
【0006】
本発明は、イソプロペニルトルエンに由来する構造単位を含み、かつ、C5留分に由来する構造単位を、実質的に含まない重合体であり、軟化点およびz平均分子量が所定の割合である粘着付与剤を用いることで、ウェットグリップ性に優れるタイヤを製造するためのタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、ゴム成分と、粘着付与剤とを含み、前記粘着付与剤は、イソプロペニルトルエンに由来する構成単位を含み、かつ、C5留分に由来する構成単位を実質的に含まない重合体であって、前記粘着付与剤の軟化点は、85℃以上150℃以下であり、前記粘着付与剤のz平均分子量は、4000未満である、タイヤ用ゴム組成物である。
【0008】
本発明[2]は、前記重合体は、インデンに由来する構成単位を含み、前記重合体において、インデンに由来する構成単位が、35モル%以下である、上記[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物を含んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、粘着付与剤を含む。粘着付与剤は、イソプロペニルトルエンに由来する構造単位を含み、かつ、C5留分に由来する構造単位を、実質的に含まない重合体である。粘着付与剤の軟化点が85℃以上150℃以下である。粘着付与剤のz平均分子量が、4000未満である。そのため、ウェットグリップ性に優れるタイヤを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、粘着付与剤を含まないタイヤ用ゴム組成物に対するピーク温度シフト値と、粘着付与剤を含まないタイヤ用ゴム組成物に対するピーク値の比率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、粘着付与剤とを含む。
【0012】
<ゴム成分>
ゴム成分としては、例えば、ジエン系ゴムが挙げられる。
【0013】
ジエン系ゴムとして、例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、および、クロロプレンゴム(CR)が挙げられる。
【0014】
ゴム成分として、好ましくは、スチレンブタジエンゴム(SBR)が挙げられる。
【0015】
ゴム成分は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0016】
ゴム成分の含有割合は、ゴム成分および粘着付与剤の総量100質量部に対して、例えば、70質量部以上、好ましくは、80質量部以上、また、例えば、95質量部以下、好ましくは、90質量部以下である。
【0017】
<粘着付与剤>
粘着付与剤は、イソプロペニルトルエンに由来する構造単位を含み、かつ、C5留分に由来する構造単位を、実質的に含まない重合体である。
【0018】
このような重合体は、重合成分を重合してなる。
【0019】
重合成分は、必須成分として、イソプロペニルトルエンを含む。
【0020】
また、重合成分は、C5留分を、実質的に含まない。
【0021】
C5留分は、石油の精製および/または分解によって得られる。また、C5留分は、常圧下における沸点範囲が通常-15℃以上45℃以下の留分であって、例えば、共役二重結合を含まない炭素数5の不飽和脂肪族炭化水素、および、共役二重結合を含む炭素数5の不飽和脂肪族炭化水素を含む。
【0022】
共役二重結合を含まない炭素数5の不飽和脂肪族炭化水素として、例えば、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、および、2-ペンテンが挙げられる。
【0023】
共役二重結合を含む炭素数5の不飽和脂肪族炭化水素として、例えば、イソプレン、1,3-ペンタジエン、および、シクロペンタジエンが挙げられる。
【0024】
重合成分は、他の成分(イソプロペニルトルエンおよびC5留分を除く成分)を含むこともできる。他の成分として、例えば、α-メチルスチレン、インデン、ビニルトルエン、および、不飽和脂肪族炭化水素(C5留分を除く。)が挙げられる。
【0025】
不飽和脂肪族炭化水素(C5留分を除く。)は、イソプロペニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン、および、ビニルトルエンと共重合可能な成分であって、例えば、C4留分が挙げられる。
【0026】
C4留分は、石油の精製および/または分解によって得られる。また、C4留分は、常圧下における沸点範囲が通常-15℃以上45℃以下の留分であって、例えば、共役二重結合を含まない炭素数4の不飽和脂肪族炭化水素、および、共役二重結合を含む炭素数4の不飽和脂肪族炭化水素を含む。
【0027】
共役二重結合を含まない炭素数4の不飽和脂肪族炭化水素として、例えば、1-ブテン、イソブテン、2-ブテンが挙げられる。
【0028】
共役二重結合を含む炭素数4の不飽和脂肪族炭化水素として、例えば、1,3-ブタジエンが挙げられる。
【0029】
他の成分として、好ましくは、インデンが挙げられる。すなわち、好ましくは、重合体として、イソプロペニルトルエンとインデンとの共重合体が挙げられる。
【0030】
他の成分は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0031】
また、重合成分を構成するモノマーの全部または一部は、化石燃料由来またはバイオマス由来であってもよい。
【0032】
化石燃料とは、石油、石炭、天然ガス、シェールガスまたはそれらの組合せが挙げられる。バイオマスとは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣である。
【0033】
そして、重合体は、フリーデル-クラフツ触媒の存在下で、重合成分を重合することにより得られる。
【0034】
フリーデル-クラフツ触媒としては、例えば、フェノール錯体(例えば、ボロントリフロライドフェノラート錯体)が挙げられる。
【0035】
フリーデル-クラフツ触媒の配合割合は、重合成分100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、また、例えば、1質量部以下である。
【0036】
重合条件として、重合温度は、例えば、-50℃以上、また、例えば、50℃以下である。重合時間は、例えば、10分以上、また、例えば、10時間以下である。
【0037】
また、上記反応は、溶剤の存在下、または、無溶剤で実施する。上記反応は、好ましくは、溶剤の存在下で実施する。
【0038】
溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類、および、アルキルエステル類が挙げられる。溶剤として、好ましくは、芳香族炭化水素類が挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、および、キシレンが挙げられる。芳香族炭化水素類として、好ましくは、トルエンが挙げられる。
【0039】
溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0040】
これにより、重合体(重合体の溶液)が得られる。このような重合体として、好ましくは、イソプロペニルトルエンの単独重合体、および、イソプロペニルトルエンとインデンとの共重合体が挙げられる。重合体として、より好ましくは、イソプロペニルトルエンとインデンとの共重合体が挙げられる。
【0041】
重合体の溶液において、その固形分濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、また、例えば、70質量%以下、好ましくは、60質量%以下である。
【0042】
このような重合体において、イソプロペニルトルエンに由来する構成単位は、例えば、65モル%以上、好ましくは、70モル%以上、より好ましくは、80モル%以上、さらに好ましくは、90モル%以上、また、例えば、100モル%以下、好ましくは、95モル%以下である。
【0043】
また、このような重合体において、他の成分(イソプロペニルトルエンおよびC5留分を除く成分)に由来する構成単位は、例えば、0%以上、好ましくは、5モル%以上、また、例えば、35モル%以下、好ましくは、30モル%以下、より好ましくは、20モル%以下、さらに好ましくは、10モル%以下である。
【0044】
とりわけ、他の成分がインデンである場合には、重合体は、インデンに由来する構成単位を含む。重合体において、インデンに由来する構成単位は、例えば、ウェットグリップ性を向上させる観点から、35モル%以下、好ましくは、30モル%以下、より好ましくは、20モル%以下、さらに好ましくは、10モル%以下、また、例えば、1モル%以上、好ましくは、5モル%以上である。
【0045】
また、上記したように、重合体は、C5留分に由来する構成単位を実質的に含まない。具体的には、重合体において、インデンに由来する構成単位は、例えば、3モル%以下、好ましくは、1モル%以下、より好ましくは、0.1モル%以下である。
【0046】
なお、上記構成単位の割合は、13C-NMRスペクトルにより測定することができる。
【0047】
重合体の軟化点は、85℃以上、また、150℃以下、好ましくは、140℃以下、より好ましくは、130℃以下、さらに好ましくは、110℃以下、とりわけ好ましくは、90℃以下である。
【0048】
上記軟化点が、上記範囲内であれば、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0049】
一方、上記軟化点が、上記範囲外であれば、ウェットグリップ性が低下する。
【0050】
なお、上記軟化点は、環球法(JIS K2207に準拠)により測定することができる。
【0051】
重合体の数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で、例えば、400以上、好ましくは、500以上、また、例えば、2000以下、好ましくは、1200以下、より好ましくは、1000以下、さらに好ましくは、900以下、とりわけ好ましくは、700以下である。
【0052】
上記数平均分子量(Mn)が、上記範囲内であれば、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0053】
また、重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で、例えば、500以上、好ましくは、800以上、また、例えば、5000以下、好ましくは、3000以下、より好ましくは、2000以下、さらに好ましくは、1700以下、とりわけ好ましくは、1500以下、最も好ましくは、1000以下である。
【0054】
上記重量平均分子量(Mw)が、上記範囲内であれば、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0055】
また、重合体のz平均分子量(Mz)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で、4000未満、好ましくは、3000以下、より好ましくは、2600以下、さらに好ましくは、2000以下、とりわけ好ましくは、1500以下、最も好ましくは、1200以下、また、例えば、500以上、好ましくは、700以上、より好ましくは、1000以上である。
【0056】
上記z平均分子量(Mz)が、上記範囲内であれば、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0057】
一方、上記z平均分子量(Mz)が、上記上限以上であれば、ウェットグリップ性が低下する。
【0058】
また、重合体において、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、例えば、1.10以上、好ましくは、1.30以上、また、例えば、2.00以下、好ましくは、1.80以下、より好ましくは、1.60以下、さらに好ましくは、1.40以下である。
【0059】
上記比が、上記範囲内であれば、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0060】
粘着付与剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0061】
粘着付与剤の含有割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、15質量部以上、また、例えば、35質量部以下、好ましくは、25質量部以下である。
【0062】
<添加剤>
タイヤ用ゴム組成物は、必要により、適宜の割合で添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、老化防止剤、顔料、充填材、防黴剤、および、加工助剤が挙げられる。
【0063】
<タイヤ用ゴム組成物の調製>
タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、粘着付与剤と、必要により配合される添加剤とを配合し、混練することにより得られる。
【0064】
また、タイヤ用ゴム組成物は、公知の溶剤で希釈することもできる。また、上記重合体の重合において、溶剤の存在下で、重合成分を重合する場合には、その溶剤を、そのまま用いることもできる。
【0065】
タイヤ用ゴム組成物が希釈される場合において、その固形分濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、また、例えば、70質量%以下、好ましくは、60質量%以下である。
【0066】
<作用効果>
タイヤ用ゴム組成物は、粘着付与剤を含む。粘着付与剤は、イソプロペニルトルエンに由来する構造単位を含み、かつ、C5留分に由来する構造単位を、実質的に含まない重合体である。粘着付与剤の軟化点が85℃以上150℃以下である。粘着付与剤のz平均分子量が、4000未満である。そのため、ウェットグリップ性に優れるタイヤを製造できる。
【0067】
詳しくは、タイヤ用ゴム組成物に粘着付与剤を配合しても、粘着付与剤の分散性が不十分であれば、ウェットグリップ性を向上できない。
【0068】
一方、このタイヤ用ゴム組成物は、所定の処方、所定の軟化点および所定のz平均分子量を有するため、分散性を向上できる。その結果、タイヤの動的変形時にゴムの運動性を阻害し、エネルギー損失を大きくできる観点から、ウェットグリップ性を向上することができる。
【0069】
なお、上記分散性の評価については、後述する実施例において詳述する。
【0070】
そして、このようなタイヤ用ゴム組成物によれば、ウェットグリップ性に優れるタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0072】
<成分の詳細>
各実施例および各比較例で用いた略語の詳細を以下に記載する。
SSBR:溶液重合ポリスチレンブタジエンゴム(ENEOSマテリアル社製、商品名「SL552」)
IPT:イソプロペニルトルエン
IND:インデン
αMS:α-メチルスチレン
St:スチレン
C5:C5留分
【0073】
<粘着付与剤(重合体)の製造>
製造例1
攪拌翼を備えた実容量1270mlのオートクレーブの1段目に、重合成分(イソプロペニルトルエンおよびインデン)および脱水精製したトルエンの混合物(重合成分/トルエン=1/1(容量比))と、フリーデル-クラフツ触媒(脱水精製したトルエンで10倍に希釈したボロントリフロライドフェノラート錯体(フェノール1.7倍当量))とを連続的に供給し、5℃で重合反応させた。イソプロペニルトルエンとインデンとの質量比(イソプロペニルトルエン/インデン)は75/25とし、重合成分およびトルエンの混合物の供給量は1.0リットル/時間、フリーデル-クラフツ触媒の供給量は90ミリリットル/時間とした。これにより、反応混合物を得た。
【0074】
次いで、反応混合物を2段目のオートクレーブに移送し、25℃で重合反応を続けさせた。そして、1段目および2段目のオートクレーブ中での合計滞留時間が2時間になった時点で、連続的に反応混合物をオートクレーブから排出し、滞留時間の3倍となった時点で1リットルの反応混合物を採取して重合反応を終了させた。重合終了後、採取した反応混合物に1規定のNaOH水溶液を添加し、触媒残渣を脱灰させた。さらに、反応混合物を多量の水で5回洗浄した後、エバポレーターで溶媒および未反応重合成分を減圧留去して、イソプロペニルトルエンとインデンとの共重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。
【0075】
製造例2
製造例1と同様の手順に基づいて、イソプロペニルトルエンとインデンとの共重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合温度を5℃に変更し、イソプロペニルトルエンとインデンとの質量比(イソプロペニルトルエン/インデン)を60/40に変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、120ミリリットル/時間に変更した。
【0076】
製造例3
製造例1と同様の手順に基づいて、イソプロペニルトルエンの単独重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合温度を5℃に変更し、重合成分をイソプロペニルトルエンのみに変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、82ミリリットル/時間に変更した。
【0077】
製造例4
製造例1と同様の手順に基づいて、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合温度を25℃に変更し、重合成分をα-メチルスチレンおよびスチレン(α-メチルスチレン/スチレン=60/40(質量比))に変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、75ミリリットル/時間に変更した。
【0078】
製造例5
製造例1と同様の手順に基づいて、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合温度を5℃に変更し、重合成分をα-メチルスチレンおよびスチレン(α-メチルスチレン/スチレン=60/40(質量比))に変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、56ミリリットル/時間に変更した。
【0079】
製造例6
製造例1と同様の手順に基づいて、α-メチルスチレンの単独重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合温度を5℃に変更し、重合成分をα-メチルスチレンのみに変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、56ミリリットル/時間に変更した。
【0080】
製造例7
製造例1と同様の手順に基づいて、イソプロペニルトルエンの単独重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合温度を5℃に変更し、重合成分をイソプロペニルトルエンのみに変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、85ミリリットル/時間に変更した。
【0081】
製造例8
製造例1と同様の手順に基づいて、イソプロペニルトルエンの単独重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合温度を20℃に変更し、重合成分をイソプロペニルトルエンのみに変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、65ミリリットル/時間に変更した。
【0082】
製造例9
製造例1と同様の手順に基づいて、イソプロペニルトルエンとC5留分との共重合体である重合体(粘着付与剤)を得た。但し、重合成分をイソプロペニルトルエンとC5留分とに変更し、フリーデル-クラフツ触媒の供給量を、105ミリリットル/時間に変更した。
【0083】
<タイヤ用ゴム組成物の調製>
実施例1~実施例3および比較例1~比較例7
表2の記載に基づいて、ゴム成分と、粘着付与剤とを配合して、ラボプラストミル[型式4C150、(株)東洋精機製作所製]により、温度160℃、ローター回転数40rpmで約5分間混練した。これにより、タイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0084】
<評価>
[各成分の構成単位]
各製造例の重合体における各成分の構成単位を、以下の条件に基づいて、13C-NMRスペクトルの解析により求めた。その結果を表1に示す。
{条件}
装置:ブルカーバイオスピン社製AVANCEIII cryo-500型核磁気共鳴装置
測定核:13C(125MHz)
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:45°(5.00μ秒)
ポイント数:64k
測定範囲:250ppm(-55~195ppm)
繰り返し時間:5.5秒
積算回数:128回
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1(体積比))
試料濃度:60mg/0.6mL
測定温度:120℃
ウインドウ関数:exponential(BF:1.0Hz)
ケミカルシフト基準:δδシグナル29.73ppm
【0085】
[軟化点]
各製造例の重合体について、JIS K2207に準拠し、環球法により測定した。その結果を表1に示す。
【0086】
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)およびMw/Mn]
各製造例の重合体について、以下の測定条件に基づき、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および、z平均分子量(Mz)を測定し、また、Mw/Mnを算出した。その結果を表1に示す。
{測定条件}
装置:GPC HLC-8320(東ソー社製)
溶剤:テトラヒドロフラン
カラム:TSKgel G7000×1、TSKgel G4000×2、TSKgel G2000×1(何れも東ソー社製)
流速:1.0ml/分
試料:20mg/mL テトラヒドロフラン溶液
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器
注入量:50μl
【0087】
[粘弾性]
各実施例および各比較例のタイヤ用ゴム組成物をSUS製型枠に、所定量充填し、加熱盤150℃に設定した手動熱プレス機(神藤金属工業所製PEWR-30)を用いて、ゲージ圧9MPaで4分間加圧した後、20℃に設定した冷却盤に移し替え、ゲージ圧9MPaで圧縮して3分間冷却した。これにより、長さ65mm×幅65mm×厚み2mmの測定用プレスシートを作製した。次いで、測定用プレスシートから、幅3mmの寸法に打ち抜き加工し、試験片を作製した。
【0088】
試験片に対して、レオメーター(アイティー計測制御社製DVA-225)を使用して、引張モード、周波数1Hz、歪設定0.05%、昇温速度3℃/分の条件で、-100~200℃の温度分散におけるtanδピーク温度、tanδピーク値および-30℃におけるtanδピーク値を測定した。その結果を表2に示す。
【0089】
併せて、粘着付与剤を配合しないタイヤ用ゴム組成物(以下、無添加と称する場合がある。)に対する、粘着付与剤を配合する実施例および比較例のtanδピーク温度およびtanδピーク値の変化を算出した。具体的には、無添加に対するピーク温度シフト値(各実施例および各比較例のtanδピーク温度-比較例1のtanδピーク温度)および無添加に対するピーク値の比率(各実施例および各比較例のtanδピーク値/比較例1のtanδピーク値)を算出した。その結果を表2に示す。
【0090】
<考察>
図1に、無添加に対するピーク温度シフト値と無添加に対するピーク値の比率との関係を示す。
【0091】
図1において、右側へ向かうほど、無添加に対するピーク温度シフト値が大きくなる。無添加に対するピーク温度シフト値が大きくなると、分散性が不均一であれば、粘着付与剤単体由来のブロードなtanδピークが高温側に観測される。そのため、分散性が不均一の場合、添加量に応じたピーク温度シフト値が減少するため、粘着付与剤の分散性に優れるとわかる。
【0092】
また、
図1において、上側へ向かうほど、無添加に対するピーク値の比率が、1に近くなる。分散性が不均一であれば、粘着付与剤単体由来のブロードなtanδピークが高温側に観測される。そのため、無添加に対するピーク値の比率は、その割合に応じて減少してしまうため、無添加に対するピーク値の比率が、1に近くなると、粘着付与剤の分散性に優れるとわかる。
【0093】
すなわち、
図1において、右上側へ向かうほど(具体的には、
図1において斜線部で示す領域であれば)、粘着付与剤の分散性が向上するとわかる。
【0094】
そして、粘着付与剤の分散性が向上すれば、タイヤの動的変形時にゴムの運動性を阻害し、エネルギー損失を大きくする観点から、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0095】
図1によれば、所定の処方、所定の軟化点および所定のz平均分子量を有する所定の粘着付与剤を用いる実施例1~実施例3は、所定の粘着付与剤を用いない比較例1~比較例7よりも、右上側に位置するとわかる。このことから、所定の粘着付与剤を用いる実施例1~実施例3は、所定の粘着付与剤を用いない比較例1~比較例7よりも、粘着付与剤の分散性が向上し、ウェットグリップ性を向上させることができるとわかる。
【0096】
また、タイヤにおける104(10の4乗)~106(10の6乗)Hzの領域の変形は、路面の細かい凹凸による変形に相当することが知られています。その周波数領域は粘弾性において時間・温度換算則にて温度換算した場合、低温側と考えられます。また、-30~-15℃付近でのtanδがタイヤでの湿潤路面での摩擦力と相関があることが文献で報告されています。そのため、-30℃におけるtanδピーク値が高いと、ウェットグリップ性を向上させることができる。
【0097】
そして、所定の粘着付与剤を用いる実施例1~実施例3は、所定の粘着付与剤を用いない比較例1~比較例6よりも、-30℃におけるtanδピーク値が高い。このことから、実施例1~実施例3は、比較例1~比較例6よりも、ウェットグリップ性に優れるとわかる。
【0098】
【0099】
【要約】 (修正有)
【課題】イソプロペニルトルエンに由来する構造単位を含み、かつ、C5留分に由来する構造単位を、実質的に含まない重合体であり、軟化点およびz平均分子量が所定の割合である粘着付与剤を用いることで、ウェットグリップ性に優れるタイヤを製造するためのタイヤ用ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、粘着付与剤とを含む。粘着付与剤は、イソプロペニルトルエンに由来する構成単位を含み、かつ、C5留分に由来する構成単位を実質的に含まない重合体である。粘着付与剤の軟化点は、85℃以上150℃以下である。粘着付与剤のz平均分子量は、4000未満である。
【選択図】なし