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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ホットスタンプ製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20240312BHJP
   B21D 37/16 20060101ALI20240312BHJP
   B21D 37/18 20060101ALI20240312BHJP
   B21J 3/00 20060101ALI20240312BHJP
   B30B 15/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B21D22/20 A
B21D22/20 H
B21D37/16
B21D37/18
B21J3/00
B30B15/00 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023165881
(22)【出願日】2023-09-27
【審査請求日】2023-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 努
(72)【発明者】
【氏名】本井 進路
(72)【発明者】
【氏名】大渕 宏二
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-255085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20 - 24/00
B21D 37/16 - 37/18
B21J 3/00
B30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットスタンプ工程によりアルミメッキ鋼板から製品を製造する製造方法において、
高分子ポリマーの混合割合が1~25部(重量%)、水の混合割合が50~98部(重量%)、界面活性剤の混合割合が1~25部(重量%)となっている、引火性なく不揮発性である水溶性薬剤を用意し、
前記アルミメッキ鋼板に対向する金型の表面に、前記水溶性薬剤を塗布して後に、前記製品を製造し、
前記水溶性薬剤を前記金型の表面に塗布することにより、アルミメッキが前記金型に付着することを抑制若しくは防止するようにしたことを特徴とするホットスタンプ製品の製造方法。
【請求項2】
前記塗布が定期的に実施されるようになっている請求項1に記載のホットスタンプ製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ(熱間プレス)工程により鋼板から製品(部品を含む)を製造するホットスタンプ製品の製造方法に関し、特にアルミメッキ鋼板から製品を製造するに際し、ホットスタンプ金型へのアルミメッキの付着(凝着)を抑制若しくは防止することができるホットスタンプ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットスタンプ工程は、例えば図1に示すような工程となっている。即ち、先ず図1(A)に示す鋼板素材1を用意し、鋼板素材1を図1(B)に示すような加熱炉2に搬入して加熱(例えば900℃)すると共に、金型でプレス加工し、図1(C)に示すような成型・焼入れを行って成型品3とし、成型品3を適宜加工して、最終的に図1(D)に示すような製品4を得るようになっている。この場合、鋼板素材1として、鋼材の酸化スケール防止と耐食性向上のために、アルミメッキ鋼板が一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-146354号公報
【文献】WO2011/158818
【文献】WO2013/145229
【文献】特開2022-185340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここにおいて、素材鋼板にアルミメッキ鋼板を用いた場合、鋼板をオーステナイト変態温度(Ac3点)以上に加熱し、加熱された鋼板をプレス成型して焼入れするホットスタンプにおいては、図2(A)に示すようにホットスタンプの加熱炉で加熱してから搬送し、図2(B)に示すように凹凸の金型10及び11で焼入れ成型する。しかしながら、その成型時に、素材(鋼)の変形にアルミメッキ層が追従することができず、アルミメッキ層が鋼板から剥離してしまい、アルミメッキが金型の表面に強固に付着(凝着)する。図3(A)及び(B)は、実際にアルミメッキが金型に付着した状態を示している。アルミメッキが金型に付着すると、その付着物が以後の製品へ転写され、打痕傷といった図4(A)に示すような製品凹み、或いは図4(B)に示すひっかき傷のような外観傷(カジリ傷)が発生し、製品の品質不良を招く。製品の品質不良は、致命的な問題である。
【0005】
金型に付着した付着物(アルミメッキ)は強固であり、手で引っかいたり、布で拭き取るといった安易な作業では全く除去できず、グラインダで削り取るような機械作業で除去する必要がある。しかしながら、グラインダで削り取る場合、付着したアルミメッキと一緒に金型の表面も削り取ってしまうことも多く、高価な金型の摩耗、劣化の原因となっている。
【0006】
その対策として、一般的に、金型の表面にコーティング(例えばDLC(Diamond-Like Carbon), AlCrN, AlCrTi)を施すようにしているが、金型へのアルミメッキ付着の抑制効果は小さく、その上、成型によりコーティング層が図5に示すように剥離してしまう問題がある。更に、グラインダ等で付着物を除去しようとする際、コーティング層が損傷したり、剥離してしまうので、コーティングによる効果は極めて短期的なものとなっている。
【0007】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、ホットスタンプ工程において、アルミメッキ鋼板のアルミメッキの金型への付着(凝着)を容易にかつ効果的に抑制若しくは防止することが可能なホットスタンプ製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ホットスタンプ工程によりアルミメッキ鋼板から製品を製造する製造方法に関し、本発明の上記目的は、高分子ポリマーの混合割合が1~25部(重量%)、水の混合割合が50~98部(重量%)、界面活性剤の混合割合が1~25部(重量%)となっている、引火性なく不揮発性である水溶性薬剤を用意し、前記アルミメッキ鋼板に対向する金型の表面に、前記水溶性薬剤を塗布して後に、前記製品を製造し、前記水溶性薬剤を前記金型の表面に塗布することにより、アルミメッキが前記金型に付着することを抑制若しくは防止するようにすることにより達成され、前記塗布が定期的に実施されるようになっていることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のホットスタンプ製品の製造方法によれば、アルミメッキ鋼板ホットスタンプの金型の表面へ、高分子ポリマー、水及び界面活性剤で成る水溶性薬剤を塗布することにより、アルミメッキの金型への付着(凝着)を抑制若しくは防止することができ、製品の品質を向上することができると共に、グラインダ等で付着物を除去する工程も必要なく、高価な金型の摩耗や劣化を低減することができる。従って、製品製造の経済的なメリットも非常に大きい。
【0011】
アルミメッキの金型への付着抑制若しくは防止は、水溶性薬剤を金型表面の全面に噴霧器や手などで塗布するだけであり、極めて容易な作業で大きな効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ホットスタンプ工程の一例を示す模式的流れ図である。
図2】アルミメッキ鋼板の加熱・焼入れの様子を示す模式的流れ図である。
図3】アルミメッキの金型への付着例を示す画像図である。
図4】金型の付着物の製品転写の一例を示す画像図である。
図5】金型コーティングの剥離例を示す画像図である。
図6】本発明の前提となる概念を示す模式図である。
図7】本発明の原理を説明するための模式的流れ図である。
図8】本発明の効果を立証するための角頭絞り型金型の外観図である。
図9】本発明の効果を示す部品の外観図である。
図10】本発明に係る水溶性薬剤の組成を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、前述したアルミメッキの金型への付着(凝着)の要因は、アルミニウム(Al)が親水性であり、金型の材質である鉄(Fe)も親水性であることから(図6(A)参照)、図6(B)に示すように水素結合の作用によって、アルミメッキが鉄に付着していると想定している。この想定に基づき、アルミメッキの金型への付着を抑制若しくは防止するためには、図6(B)に示す水素結合を生じないようにすれば良いことを、多くの試行錯誤試験から発見した。
【0014】
このため、本発明者らは、金型表面に水溶性物質を層設すれば上記水素結合が阻害若しくは阻止されると想定し、水溶性物質として、安価で取得容易な、高分子ポリマーと、水と、界面活性剤との混合で成り、引火性なく不揮発性であると共に、アルミメッキに対して低摩擦係数となる潤滑性を有し、残渣膜の保持性が良好な水溶性薬剤を創作して試験した結果、顕著な効果を生じることを知見した。界面活性剤には、アニオン界面活性剤(陰イオン)、カチオン界面活性剤(陽イオン)、双性界面活性剤(両性)、ノニオン界面活性剤(非イオン)などがあるが、いずれでも良い。冷間プレス成型では一般的にプレス油が用いられるが、プレス油は引火性が強く、湯煙が発生することから、本発明に係る水溶性薬剤は、特に引火性のない水溶性の薬剤であることが必須条件である。
【0015】
本発明に係る水溶性薬剤は、下記混合比で生成されている。
【0016】
高分子ポリマー:1~25部(重量%)
水:50~98部(重量%)
界面活性剤:1~25部(重量%)

上記範囲の割合の混合攪拌により、本発明の水溶性薬剤は生成される。この範囲で調整しないと膜質や膜厚、潤滑効果に影響が出て、アルミメッキの金型への付着(凝着)の抑制性若しくは防止性、及び溶接性、脱脂性が損なわれてしまう。
【0017】
本発明では、図7(A)に示すように、金型30の表面の全面に、水溶性薬剤を噴霧器等で均一に塗布し、その後、図7(B)に示すように加熱された高温のパネル(鋼材)21及びアルミメッキ22で成る鋼板素材20を、加熱炉内の水溶性薬剤を塗布された金型30に搬送する。水溶性薬剤の塗布は、作業効率的には噴霧器による噴霧が望ましいが、手作業の刷毛等での塗布でも良い。
【0018】
高温の鋼板素材20が金型30に搬送されて来ると、金型30の表面に塗布された水溶性薬剤は、高温の鋼板素材20が近づくことで水分のみが蒸発し、高分子ポリマーと界面活性剤が残渣として残存し、図7(C)に示すように残渣膜40及び41を形成する。残渣膜40が、水素結合しようとするアルミメッキ22と金型30の鉄材を物理的に遮断することで、アルミメッキ22の金型30への付着を抑制若しくは防止することができる。
【0019】
残渣膜40の保持性が良ければ、長期にわたってホットスタンプ製品の品質を維持できて経済的であるため、水溶性薬剤に係る残渣膜40の保持性は重要である。保持性が悪いと、頻繁に水溶性薬剤の塗布を行わなければならない。保持性が良い場合であっても、塗布面の均一性、塗布量の適正化、残渣膜保持のため、定期的な水溶性薬剤の塗布が必要である。
【0020】
図8は、アルミメッキ付着評価用角頭絞り型金型の一例を示しており、本発明に係る水溶性薬剤を塗布された金型と、水溶性薬剤を塗布されていない金型とにより、12回のホットスタンプ工程を経た後の比較を、3次元測定機による付着(凸)の計測で行った。その結果、図9に示すように本発明の顕著な効果が確認された。即ち、水溶性薬剤の塗布無しの場合、塗布後の熱間プレス12回目には既に金型にアルミメッキが付着しているのに対し、水溶性薬剤の塗布有りの場合、塗布後に熱間プレスを12回繰り返しても、金型へのアルミメッキの付着は全く確認されなかった。
【0021】
上述のような効果を発揮する本発明に係る水溶性薬剤は、アルミメッキの金型への付着を抑制若しくは防止するが、スポット溶接性への影響を考慮する必要がある。スポット溶接(又は抵抗スポット溶接)とは、金属が持つ電力抵抗を利用して金属同士を繋ぎ合わせる方法であるが、高分子ポリマーの濃度が高いと、図10(A)に示すように成型品の残渣持ち出しが多くなり、通電阻害が大きくなり、スパッタを誘発して溶接性が悪化する。そこで、本発明では、スポット溶接性を確保するために高分子ポリマーに対し、水の混合比率を上げることでスポット溶接性を損ねず、スパッタ発生を防止する水溶性薬剤としている。即ち、高分子ポリマーの濃度が低いと、図10(B)に示すように成型品の残渣持ち出しが少なくなり、通電阻害も小さくなり、スパッタが誘発されることはない。そのため、高分子ポリマーと噴霧頻度のバランスが重要である。
【0022】
噴霧頻度が高いと残渣膜の保持性がアップすると共に、薬剤使用料(コスト)もアップする。高分子ポリマーの濃度は溶接性、残渣膜の保持性に影響し、低濃度の場合は、溶接性と残渣膜の保持性が悪化する。溶接性確保のために低濃度とした場合、残渣膜の保持性が低下するため、噴霧の頻度を上げる必要が生じる。このように、噴霧頻度と薬剤濃度のバランスは、溶接性と薬剤コストがトレードオフの関係となっており、溶接性にクライテリアが存在する。
【0023】
また、例えば車体の塗装工程における撥水は、撥水→脱脂不良→塗膜密着性の悪化→実車の耐食性低下→腐食→強度低下→安全性低下となり、車体の安全性を低下させるため、薬剤の塗布に伴い、特性として撥水性の有無を判定する必要がある。水溶性の高分子ポリマーを用いていることにより、成型品に付着した残渣が塗膜工程で脱脂され、塗膜性の悪化影響を抑えることができる。薬剤に添加される化合物としてフッ素、シリコンといった化合物が撥水性を示す傾向にあるが、撥水性の高いフッ化化合物、シリコン系の化合物は脱脂が困難になるため、本発明の水溶性薬剤には含まれていない。
【符号の説明】
【0024】
1,20 鋼板素材
2 加熱炉
3 成型品
4 製品
10、11、30,31 金型
40、41 残渣膜
【要約】
【課題】ホットスタンプ工程において、アルミメッキ鋼板のアルミメッキの金型への付着(凝着)を容易にかつ効果的に抑制若しくは防止することが可能なホットスタンプ製品の製造方法を提供する。
【解決手段】ホットスタンプ工程によりアルミメッキ鋼板から製品を製造するホットスタンプ製品の製造方法であって、アルミメッキ鋼板に対向する金型の表面に、引火性なく不揮発性である水溶性薬剤を塗布して後に、製品を製造する。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10