(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】軸方向駆動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 48/34 20120101AFI20240312BHJP
【FI】
F16H48/34
(21)【出願番号】P 2023516003
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016449
(87)【国際公開番号】W WO2022224441
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】矢口 裕
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-322240(JP,A)
【文献】特開2003-97905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の周りに回転可能な装置の内部のクラッチを外部から操作するアクチュエータであって、
前記軸の周りに並べられてそれぞれ前記軸に平行な向きに磁束を発生するべく向けられた複数の電磁コイルを備えた駆動ユニットと、
前記軸と同軸に配置され、軸方向に可動であって前記駆動ユニットに軸方向に対向するアーマチャと、
前記アーマチャに結合して軸方向の運動を前記クラッチへ伝えるプランジャと、
を備えたアクチュエータ。
【請求項2】
前記プランジャは前記軸に対して対称な円筒部を備え、前記円筒部は前記装置に摺動可能に嵌合する、請求項1のアクチュエータ。
【請求項3】
前記複数の電磁コイルのうちの少なくとも一は、他から独立してケーブルが引き出されている、請求項1のアクチュエータ。
【請求項4】
前記アーマチャを前記駆動ユニットから引き離す向きに付勢するスプリング、
をさらに備えた、請求項1のアクチュエータ。
【請求項5】
前記駆動ユニットは前記軸の周りに回り止めされている、請求項1のアクチュエータ。
【請求項6】
前記プランジャは前記アーマチャに対して回転可能に結合して前記クラッチと共に前記軸の周りを回転する、請求項1のアクチュエータ。
【請求項7】
前記複数の電磁コイルの間に、または前記複数の電磁コイルの一に代えて配置され、前記アーマチャが離れているか近接しているかを検出するセンサ、
をさらに備えた請求項1のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、デファレンシャル等の回転機械の内部のクラッチを外部から軸方向に駆動するアクチュエータに関し、特に寸法の増大なしにセンサ等を内蔵することができるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に使用される回転機械は、その機能を選択的に稼動および休止するために、しばしばクラッチを利用する。例えば所謂ロックアップデファレンシャルはドッグクラッチを内蔵し、通常時にはドッグクラッチは脱連結しており出力軸間の差動を許容し、外部のアクチュエータによりドッグクラッチを連結させると差動をロックする。アクチュエータには、油圧シリンダ、モータを利用したカム機構、あるいはソレノイドアクチュエータ等が利用されている。
【0003】
アクチュエータを作動させても、たまたまクラッチ歯同士が噛み合いに適当でない位置関係にある等の稀な条件において、クラッチが連結し損なうことがありうる。また潤滑油の粘性や磁化などによりクラッチ歯同士が一時的に固着することにより、脱連結が滞ることがありうる。すなわちアクチュエータのスイッチを入り切りすることとクラッチの連結/脱連結とは、対応するとは限らない。回転機械が不測の動作を起こすことを防止するべく、クラッチが連結しているか否かを検出する装置がしばしば追加的に必要である。
【0004】
特許文献1から3は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許出願公開2015-219944号
【文献】国際特許出願公開WO2018/109874A1
【文献】日本国特許出願公開2004-208460号
【発明の概要】
【0006】
上述の何れの技術によっても、アクチュエータの外部に一定の自由空間がなければ、検出装置を付加することはできない。また検出装置を回転機械のキャリアに固定する場合には、回転機械に対して検出装置をどのようにして精密に位置決めするかという問題が生じる。
【0007】
以下に開示するアクチュエータは、上述の問題に鑑みて創作されたものである。
【0008】
一局面によれば、軸の周りに回転可能な装置の内部のクラッチを外部から操作するアクチュエータは、前記軸の周りに並べられてそれぞれ前記軸に平行な向きに磁束を発生するべく向けられた複数の電磁コイルを備えた駆動ユニットと、前記軸と同軸に配置され、軸方向に可動であって前記駆動ユニットに軸方向に対向するアーマチャと、前記アーマチャに結合して軸方向の運動を前記クラッチへ伝えるプランジャと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、アクチュエータを備えたデファレンシャルの斜視図である。
【
図2】
図2は、アクチュエータを備えたデファレンシャルの断面立面図である。
【
図3】
図3は、クラッチ部材を含むアクチュエータの分解斜視図である。
【
図4】
図4は、クラッチ部材が組み込まれたデファレンシャルの斜視図である。
【
図5】
図5は、アクチュエータとその周囲の部材の断面立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。以下の説明および添付の請求の範囲において、特段の説明がなければ軸はクラッチの中心軸を意味し、通常には回転機械の回転軸とも一致する。図面は必ずしも正確な縮尺により示されておらず、従って相互の寸法関係は図示されたものに限られないことに特に注意を要する。
【0011】
主に
図1,2を参照するに、本実施形態によるアクチュエータ1は、例えばデファレンシャル3のごとき、軸Xの回りに回転する装置と組み合わせ、その内部のクラッチ5を外部から操作する目的に利用される。デファレンシャルに限らず、車両の動力伝達を担う何れの回転機械と組み合わせることもでき、その例は、トランスミッション、パワートランスファユニット(PTU)、あるいはカップリング装置であるが、必ずしもこれらに限られない。またクラッチ5は例えばドッグ歯を備えた所謂ドッグクラッチだが、クロークラッチ等の互いに噛合する構造によりトルクを伝達する形式のクラッチは好適に利用でき、あるいは摩擦クラッチを利用することもできるだろう。
【0012】
アクチュエータ1は、概して、駆動ユニット7と、軸方向に可動であって駆動ユニット7により吸引されるアーマチャ9と、アーマチャ9の軸方向の運動を伝えるプランジャ11と、プランジャ11により駆動されるクラッチ部材13と、を備える。クラッチ部材13は、この例ではサイドギア15と噛合するように構成されており、クラッチ部材13とサイドギア15との組み合わせがクラッチ5を構成する。もちろんサイドギア15に代えて、他の要素との組み合わせがクラッチ5を構成してもよい。
【0013】
デファレンシャル3は、例えばその外周にフランジ17Fを有するケーシング17を備え、フランジ17Fに固定されたリングギアを介してトルクを受容し、軸Xの周りに回転する。デファレンシャル3は、また、ケーシング17の内部にデファレンシャルギア組を備え、かかるギア組は受容したトルクを一対のサイドギアに差動的に出力する。クラッチ5が脱連結したときにはサイドギア間の差動が許容され、連結したときには差動がロックされる。図示の例においては、常時クラッチ5は脱連結しており、アクチュエータ1に電力を投入したときにクラッチ5が連結する。これとは逆に、アクチュエータ1に電力を投入したときにクラッチ5が脱連結する構成であってもよい。そのような構成は、例えば駆動ユニット7とアーマチャ9とを逆向きにすることにより、容易に実現できる。また駆動ユニット7とアーマチャ9とが逆向きであって、アクチュエータ1に電力を投入したときにクラッチ5が連結する構成も可能である。
【0014】
図1,2に組み合わせて
図3を参照するに、クラッチ部材13およびこれに結合したプランジャ11は、デファレンシャル3と共に軸Xの周りに回転可能だが、これらを除くアクチュエータ1、特に駆動ユニット7およびアーマチャ9は、軸Xの周りに回り止めされる。回り止めには任意の手段が利用できるが、図示された例では駆動ユニット7を収容するハウジング27がタブ33を備え、タブ33がキャリアの何れかに係合することにより、これらが回り止めされている。
【0015】
駆動ユニット7は、軸Xの周りに並べられた複数の電磁コイル21を備える。それぞれの電磁コイル21は、軸Xに並行な向きに磁束Fを発生するべく向けられている。
図3において電磁コイル21は周方向に隣接して描かれているが、相互に離れていてもよい。またその数は1を超えて任意である。その配置は非対称であってもよいが、好ましくは、複数の電磁コイル21が軸Xの周りに対称的に配置される。これは駆動力が偏るのを防ぐのに役立つ。
【0016】
磁束Fを効率よく引き出して導くべく、駆動ユニット7は、各電磁コイル21に対応して複数のコア23をさらに備える。
図3においては電磁コイル21とコア23とは別体のように見えるが、あるいはコア23に直接に電磁コイル21が巻かれて一体化していてもよい。複数のコア23を保持してハウジング27に対して固定するべく、円環状のプレート25を利用することができる。プレート25はコア23がそれぞれ嵌合する孔ないし窪みを備えて互いに結合し、あるいはコア23とプレート25は一体であってもよい。
【0017】
アクチュエータ1は、キャリアに対して回り止めされたハウジング27を好ましくは備える。少なくとも電磁コイル21およびコア23は好ましくはハウジング27に収容され、プレート25がハウジング27に被せられて係合することにより、その全体が回り止めされる。ハウジング27は、また、例えばケーシング17のボス部17Bに対して軸方向に抜け止めされており、電磁コイル21およびコア23も軸方向にも不動にされる。抜け止めのために、例えばボス部17Bに圧入されたリング35を利用できるが、必ずしもこれに限られない。複数の電磁コイル21の導線は集約されてケーブル29としてハウジング27外に引き出される。
【0018】
アーマチャ9は、軸X周りの円盤状の部材であって、全体的にあるいは部分的に磁性材よりなる。アーマチャ9は、軸Xと同軸に配置され、また駆動ユニット7に、特に例えばそのコア23に、軸方向に対向して、また近接して、配置される。好ましくはアーマチャ9もハウジング27に収容され、軸Xの周りに回り止めされるが、軸方向には可動にされる。ただしアーマチャ9は回転可能であってもよく、その場合にアーマチャ9は軸方向運動に加えて回転運動もしてもよい。アーマチャ9は、また、磁束Fを効率よく受容する構造を備えてもよく、それは例えば各コア23に対応してコア23に向けてそれぞれ突出したブロック部である。ブロック部のみが磁性材よりなり、他の部分は非磁性材よりなっていてもよい。
【0019】
容易に理解される通り、ケーブル29を通じて電力が投入されて電磁コイル21が励磁されると、磁束Fによりアーマチャ9が駆動ユニット7に引き寄せられ、以って軸方向に移動する。電力を切断したときにアーマチャ9を当初位置に戻すべく、例えばプレート25とアーマチャ9との間にスプリング19が介在してもよい。スプリング19は、アーマチャ9を駆動ユニット7から引き離す向きに付勢する。
【0020】
プランジャ11は、アーマチャ9とクラッチ部材13との間に介在してアーマチャ9の軸方向の運動をクラッチ部材13に伝える。
図1乃至3に組み合わせて
図5を参照するに、プランジャ11はその内周に、軸Xに対して対称的な、短い円筒部分11Cを備える。かかる円筒部分11Cはケーシング17のボス部17Bに摺動可能に嵌合し、以ってプランジャ11はケーシング17に対して位置決めされ、また軸方向に可動である。
【0021】
アーマチャ9とプランジャ11との間には、ベアリング31が介在してもよい。ベアリング31は、例えばプランジャ11の円筒部分11Cに嵌合し、例えばスナップリングによりこれに固定される。対応してアーマチャ9もその内周に短い円筒部分を備えることができ、ベアリング31はかかる円筒部分に嵌入し、例えばスナップリングによりこれに固定される。以ってアーマチャ9の軸方向の運動は双方向にプランジャ11に伝達されると共に、プランジャ11はアーマチャ9に対して相対的に回転可能である。
【0022】
ベアリング31にはスラストベアリングを適用できるが、印加されるスラスト力はそれほど大きくないので、一般的なボールベアリングを適用することができる。もちろんローラベアリングなど、他の形式のベアリングを利用してもよい。
【0023】
図3に組み合わせて
図4を参照するに、デファレンシャル3のケーシング17に対し、プランジャ11は外部だがクラッチ部材13は内部にある。クラッチ部材13は、例えばその内方の面にクラッチ5を構成するためのドッグ歯13Tを備える。その反対の面からは、一以上の脚13Lがそれぞれ軸方向に外方に延びる。脚13Lに対応してケーシング17は貫通孔37を備え、脚13Lはそれぞれ貫通孔37を通って外方に露出している。かかる脚13Lを利用して、プランジャ11とクラッチ部材13とが結合し、以って共に軸方向に移動し、また共に軸Xの周りに回転する。結合にはボルトが利用できるが、もちろん他の適宜の手段も利用できる。
【0024】
図2,3に組み合わせて主に
図5を参照するに、ケーブル29を通じて電力が投入されて電磁コイル21が励磁されると、磁束Fによりアーマチャ9が駆動ユニット7に引き寄せられ、これに駆動されてプランジャ11がクラッチ部材13を軸方向に移動して、クラッチ5を連結させる。電力を切断して磁束Fが消失すれば、主にスプリング19の作用によりプランジャ11が反対方向に駆動されて、クラッチ5は脱連結する。脱連結を促すべく、例えばサイドギア15とクラッチ部材13との間にスプリング41が追加的に介在してもよく、あるいはスプリング41がスプリング19に代替してもよい。
【0025】
これまでに説明した実施形態においては、電磁コイル21は軸方向に不動であってアーマチャ9が可動であり、アーマチャ9がプランジャ11を駆動するが、これに代えて電磁コイル21が可動であってプランジャ11を駆動してもよい。その場合には電磁コイル21に結合した適宜の部材、上述の実施形態で言えばコア23またはプレート25がプランジャ11に結合してもよいし、あるいはこれらとは独立した仲介部材が電磁コイル21とプランジャ11とを結合してもよい。これらの部材をコアと称するかアーマチャと称するかは便宜的である。
【0026】
本実施形態によれば、従来のソレノイド式アクチュエータと異なり、軸の周りを連続的に多数回周回する導線のごとき構造がない。複数の電磁コイル21は互いに独立しており、周方向に接する必要もないので、電磁コイル21間にそれぞれ他の要素を配置することができる。その一例は近接センサである。近接センサによりアーマチャ9が離れているか近接しているかを検出することにより、クラッチ5が連結しているか脱連結しているかを判断することができる。
【0027】
あるいは複数の電磁コイル21のうちの一以上の電磁コイル21Aを、アーマチャ9の位置を検出するのに利用してもよい。例えばアーマチャ9が接近するとき、また離脱するときには、電磁コイル21Aに起電力が生ずるので、それを検出してクラッチ5の連結/脱連結を判断することができる。このような検出の目的のために、かかる電磁コイル21Aからは、他の電磁コイル21から独立してケーブルが引き出されていてもよい。
【0028】
さらにあるいは、アーマチャ9の位置により電磁コイル21Aのインピーダンスが変化することを検出してもよい。また電磁コイル21Aに代えて、近接センサのごときセンサを設置してもよく、あるいは接触センサないしメカニカルスイッチを設置してもよい。
【0029】
いずれにせよ、クラッチ部材13と連動する部材、例えばアーマチャ9は、アクチュエータ1の内部にあり、またその位置を検出する装置もアクチュエータ1の内部に収容できる。結果として、クラッチ5が連結したか脱連結したかを検出する装置はアクチュエータ1の内部に収容することができ、その外部に検出装置を付加する必要がない。本実施形態は、アクチュエータ1の外部に一定の自由空間を必要とせず、コンパクトである。キャリアに検出装置を付加する必要がなく、またキャリアとアクチュエータ1との位置関係に、特段の精度を必要としない。アクチュエータ1の外形は従来のものと互換性があるので、本実施形態による装置は従来の装置と互換的に使用することができる。
【0030】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。