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  • 特許-磁気粘性流体及び機械装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】磁気粘性流体及び機械装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/44 20060101AFI20240312BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01F1/44
F16D63/00 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024505198
(86)(22)【出願日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2023039518
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022185268
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 裕久
(72)【発明者】
【氏名】落合 明
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-33222(JP,A)
【文献】特開2016-213301(JP,A)
【文献】特表2006-521693(JP,A)
【文献】国際公開第23/8359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/44
F16D 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子と、基油とを含む磁気粘性流体であって、
前記基油が、エステル系基油と、非極性基油とを含み、
前記基油の非極性指数が10~45の範囲である、磁気粘性流体。
【請求項2】
前記エステル系基油が、ヒンダードエステル及び二塩基酸エステルから選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項3】
炭素数が10~24のアルキル基を有するアルキルベンゼン、及び/または、炭素数が10~24のアルキル基を有するアルキルナフタレンを更に含む、請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項4】
シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体と、シリコーンオイルとを更に含む、請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気粘性流体を用いた機械装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体及び機械装置に関する。特に、機械装置の物体間に作用する摩擦力を制御するために用いる磁気粘性流体及びその磁気粘性流体を用いた機械装置に関する。機械装置の一例として、ブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパ等が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性(Magneto Rheological:MR)流体は、磁化可能な金属粒子である磁性粒子を分散媒中に分散させた流体である。磁気粘性流体は、磁場の作用がないときには分散媒中に磁性粒子がランダムに浮遊しており、流体として機能する。一方、磁場を作用させたときには、磁気粘性流体は、磁性粒子が多数のクラスターを形成して増粘することで、内部応力が増大する。
【0003】
磁気粘性流体は、上述の内部応力の増大によって剛体のように機能し、せん断流れや圧力流れに対して抗力を示す。このような特性を有するため、磁気粘性流体は、ブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置等において、物体間に作用する摩擦力を制御するために利用されている。
【0004】
このため、磁気粘性流体に磁場を作用させているとき(励磁時)のせん断流れや圧力流れに対する抗力(以下、「励磁時の抗力」とも言う)は大きいほうが好ましい。なお、励磁時の抗力は、トルク値、粘度、またはせん断応力等を測定することにより評価されている。本明細書においては、励磁時の抗力を、励磁時の粘度を測定することにより、評価している。
【0005】
磁気粘性流体には、上述の励磁時の抗力をはじめとした各種の特性がある。近年、磁気粘性流体の分散媒を調製することで、磁気粘性流体の各種特性の向上を実現する技術が開発されている。このような技術として、特許文献1には、モノエステル、磁性粒子、分散剤、及びレオロジーコントロール剤を配合した磁気粘性流体組成物が開示されている。そして、このような構成によれば、磁場オフ時では低粘度でありながら、蒸発量が抑制され、低温時の流動性に優れた磁気粘性流体組成物を提供することができると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、分散媒の比重、及び動粘度を所定の範囲に制御し、且つ、磁性粒子の平均一次粒子径、密度、及び質量割合を所定の範囲に制御した磁気粘性流体が開示されている。そして、このような構成によれば、分散媒の動粘度を変えることなく、磁性粒子の沈降を大幅に抑えることができる磁気粘性流体を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-92119号公報
【文献】特開2021-163969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気粘性流体が用いられる、ブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置等において、Oリング、オイルシール、パッキンなどのシール材としてゴムが使用されている。このとき、ゴムが磁気粘性流体と接触するが、磁気粘性流体に含まれる分散媒によってゴムは当該接触部分から劣化することがある。Oリング、オイルシール、パッキンなどのシール材に用いられているゴムが劣化すると、機械装置の故障に繋がる。
【0009】
このため、磁気粘性流体には、励磁時の抗力の向上のみならず、ゴムの劣化を抑制する特性(以下、耐ゴム特性とも言う)も求められる。しかしながら、従来、励磁時の抗力の向上、及び、耐ゴム特性の向上を両立させる技術は無かった。
【0010】
本発明は以上の点に着目し成されたもので、励磁時の抗力の向上、及び、耐ゴム特性の向上を両立させた磁気粘性流体及び機械装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するため、以下の(1)~(5)のように特定される。
(1)磁性粒子と、基油とを含む磁気粘性流体であって、
前記基油が、エステル系基油と、非極性基油とを含み、
前記基油の非極性指数が10~45の範囲である、磁気粘性流体。
(2)前記エステル系基油が、ヒンダードエステル及び二塩基酸エステルから選択される少なくとも一種である、前記(1)に記載の磁気粘性流体。
(3)炭素数が10~24のアルキル基を有するアルキルベンゼン、及び/または、炭素数が10~24のアルキル基を有するアルキルナフタレンを更に含む、前記(1)または(2)に記載の磁気粘性流体。
(4)シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体と、シリコーンオイルとを更に含む、前記(1)~(3)のいずれかに記載の磁気粘性流体。
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の磁気粘性流体を用いた機械装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、励磁時の抗力の向上、及び、耐ゴム特性の向上を両立させた磁気粘性流体及び機械装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1~4、7~14、比較例1~3における、表1及び表2の非極性指数とNBRの硬度変化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の磁気粘性流体及び機械装置の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
なお、本明細書中、数値範囲を表す「~」は、その上限値及び下限値としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も上限値と同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。
また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率または含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率または含有量を意味する。
【0016】
(磁気粘性流体)
本実施形態に係る磁気粘性流体は、磁性粒子と、基油とを含み、磁性粒子が基油中に分散したコロイド状の流体である。当該基油はエステル系基油と、非極性基油とを含んでいる。磁気粘性流体中の磁性粒子は、励磁前では基油中に浮遊しており、磁場を印加(励磁)すると磁界に沿ってクラスター化する。基油はクラスター化する際の抵抗になる。エステル系基油は合成油であり、鉱油等に比べ分子構造が一定であるため、磁場を印加させた際に、磁性粒子とエステル系基油との間の物理抵抗が低減される。その結果、理想的なクラスターが造作されることになり、磁気特性が増大する。しかしながら、磁性粒子の沈降安定性のためエステル系基油は極性を有する必要があるが、極性を有するエステル系基油はそのほとんどがゴムを膨潤させる傾向にある。これに対し、本実施形態に係る磁気粘性流体は、磁性粒子が基油中に分散し、当該基油がエステル系基油と、ゴムを収縮する特性を有する非極性基油とを含んでいるため、励磁時の抗力の向上、及び、耐ゴム特性の向上を両立させることができる。
【0017】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる基油は、エステル系基油及び非極性基油を含む。エステル系基油はゴムを膨潤させる特性を有しており、非極性基油はゴムを収縮させる特性を有している。これらの相反する特性を有するエステル系基油及び非極性基油を混合することで、磁気粘性流体に含まれるエステル系基油と非極性基油からなる非極性指数を所定の範囲に調整することができ、それによって磁気粘性流体に接触するゴムの劣化を良好に抑制することができる。
【0018】
なお、非極性指数は、下記式(A)に従って算出される。
非極性指数={(炭素原子数×分子量)/(エステル基の数×100)}×{(エステル系基油の含有量)/(エステル系基油の含有量+非極性基油の含有量)} … (A)
(上記式(A)中、「炭素原子数」はエステル系基油を構成する炭素原子の数を表し、「分子量」はエステル系基油の分子量を表し、「エステル基の数」はエステル1分子が有するエステル基の数を表す。)
【0019】
ここで、本発明において、「ゴムの劣化」とは、磁気粘性流体と所定時間接触することにより、ゴムの硬度変化率の絶対値が5%を超えて大きくなること、を示す。本実施形態に係る磁気粘性流体において、非極性指数は10~45の範囲であり、15~40の範囲であることが好ましく、20~40の範囲であることがより好ましい。非極性指数を45以下とすることで、ゴムの劣化を抑制することができ、非極性指数を10以上とすることで、磁性粒子の沈降抑制効果を向上させると共に、励磁時の抗力の向上を図ることができる。なお、ゴムの硬度変化率の算出方法については後述する。
また、本発明において劣化を抑制することができるゴムは、特に限定されないが、アクリロニトリルブタジエンゴム(以下、「NBR」とも言う)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。このうち、NBRは、ブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置等において、Oリング、オイルシール、パッキンなどのシール材として特に好適に用いられるゴムであり、本発明に係る磁気粘性流体の対ゴム特性が特に良好に発揮される。
【0020】
以下、本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる各成分について説明する。
【0021】
1.磁性粒子
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる磁性粒子は、目的とする透磁率に応じて選択することができる。例えば、マグネタイト、カルボニル鉄、γ酸化鉄、マンガンフェライト、コバルトフェライト、またはこれらと亜鉛、ニッケルとの複合フェライトやバリウムフェライト等の強磁性酸化物;鉄、コバルト、希土類等の強磁性金属;窒化金属;センダスト(登録商標)、パーマロイ(登録商標)、スーパーマロイ(登録商標)等の各種合金等が挙げられる。これらの中でも、保磁力が小さく透磁率が大きい軟磁性材料である点でカルボニル鉄が好ましい。カルボニル鉄は、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)の熱分解により製造される高純度の金属粒子である。
なお、磁性粒子は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
本実施形態に係る磁気粘性流体では、外部から磁場が加えられたとき分散した磁性粒子が磁場の方向に配向して鎖状のクラスターを形成することにより、増粘し、その流動特性や降伏応力が変化する。このような挙動を示すように磁性粒子の平均粒子径は定められる。具体的には、0.1~100μmの範囲であることが好ましく、1~80μmの範囲であることがより好ましく、5~60μmの範囲であることが更により好ましく、10~50μmの範囲であることが更により好ましく、10~40μmの範囲であることが最も好ましい。磁性粒子の形状は、分散が容易になるため、球状、またはほぼ球状であることが好ましい。
なお、磁性粒子の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定される平均一次粒子径である。
【0022】
磁性粒子の含有率は、本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して、30~90質量%の範囲であることが好ましい。磁性粒子の含有率を本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して、30~90質量%の範囲とすることにより、磁場を作用させたときに必要な抗力が得られるとともに、磁性粒子の分散性を維持できるため流体としても機能する。当該磁性粒子の含有率は、40~85質量%の範囲であるのがより好ましく、45~80質量%の範囲であるのが更により好ましく、50~75質量%の範囲であるのが最も好ましい。
【0023】
2.基油
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる基油は、エステル系基油と非極性基油と、所望により添加される特定のアルキルベンゼンとアルキルナフタレンとを含むものである。エステル系基油と非極性基油、特定のアルキルベンゼンとアルキルナフタレンについて以下、詳説する。
【0024】
2-1.エステル系基油
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるエステル系基油は極性を有する基油であり、エステル系基油は、エステル基(-C(=O)-O-)を有するエステル基含有化合物である。エステル系基油としては、例えば、モノエステル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル(ジエステル)、ポリオキシアルキレングリコールエステル等が挙げられる。これらのエステル系基油は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
このうち、モノエステルとしては、例えば炭素数12~30のモノエステルが好ましく、例えば、2-エチルヘキシルラウレート、2-エチルヘキシルパルミテート、n-ブチルステアレートなどが挙げられる。ポリオールエステルとは、多価アルコール(ポリオール)と、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸とのエステルをいう。ポリオールエステルとしては、例えば、ヒンダードエステルが挙げられる。
【0026】
2-1-1.ヒンダードエステル
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるエステル系基油として、ヒンダードエステルを例に挙げて詳細に説明する。ヒンダードエステルは、分子内に四級炭素を一つ以上有し、かつ当該四級炭素の少なくとも一つにメチロール基が1~4個結合してなるヒンダードポリオールと、脂肪族モノカルボン酸とのエステルである。
【0027】
ヒンダードポリオールとして、例えば、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール(PE)、ジペンタエリスリトール(DPE)、ネオペンチルグリコール(NPG)、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール(MPPD)等が挙げられる。
これらのヒンダードポリオールの中では、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが、得られるヒンダードエステルの引火点が高くなるため好ましく、トリメチロールプロパンが、得られるヒンダードエステルの流動点が低くなるためより好ましい。
【0028】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数5~15の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。このモノカルボン酸のアシル基は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。脂肪族モノカルボン酸として、例えば、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、ミリストレイン酸、ソルビン酸、サビニン酸等が挙げられる。これらの脂肪族モノカルボン酸は、エステル化の際、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数は5~12の範囲であることがより好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数を5以上とすると、得られるヒンダードエステルの引火点が高くなるためより好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数を15以下とすると、得られるヒンダードエステルの溶解度パラメータを向上させることができる点でより好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数は6~10の範囲であることが更により好ましく、7~9の範囲であることが最も好ましい。
なお、上記の脂肪酸の炭素数には、該脂肪酸が有するカルボキシ基(-COOH)の炭素原子も含まれる。
【0029】
2-1-2.二塩基酸エステル
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるエステル系基油として、二塩基酸エステルを例に挙げて詳細に説明する。
【0030】
二塩基酸エステルとしては、炭素原子数2~10のジカルボン酸と炭素原子数1~10のアルコールとのエステルを挙げることができる。
炭素原子数2~10のジカルボン酸として、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、2-メチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。
炭素原子数1~10のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、イソノニルアルコール、デシルアルコール及びイソデシルアルコール等が挙げられる。上記の二塩基酸エステルの中では、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アゼライン酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOZ)、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOS)等の炭素原子数6~10のジカルボン酸と炭素原子数4~10のアルコールとのエステルである二塩基酸エステルが好ましい。これらのジカルボン酸とアルコールは、それぞれ、エステル化の際、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
なお、特に言及しない限り、本発明において脂肪族ジカルボン酸の炭素数には、当該脂肪族ジカルボン酸が有するカルボキシ基(-COOH)の炭素原子も含まれる。二塩基酸エステルは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0031】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるエステル系基油は、40℃における動粘度が、50.0mm2/s以下であることが好ましく、10.0~50.0mm2/sの範囲であることがより好ましく、10.0~40.0mm2/sの範囲であることが最も好ましい。エステル系基油の40℃における動粘度を50.0mm2/s以下とすることにより、磁性粒子を分散させることが容易となる点でより好ましい。
なお、動粘度は、JIS K2283:2000(動粘度試験方法)に準拠して測定される動粘度である。
【0032】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるエステル系基油は、引火点が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
基油の引火点が、200℃以上であれば、消防法上の基油組成物の分類が第3石油類から第4石油類となるため、危険物取扱量(指定数量)を増加させることができる点でより好ましい。なお、引火点は、JIS K2265-4:2007(クリーブランド開放(COC)法)に準拠して測定される引火点である。
【0033】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるエステル系基油は、流動点が-10℃以下であるのが好ましく、-20℃以下であるのがより好ましく、-30℃以下であるのが特に好ましく、-50℃以下であるのが最も好ましい。流動点が-10℃以下であると低温流動性に優れる点でより好ましい。なお、流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定される流動点である。
【0034】
エステル系基油の溶解度パラメータは8.5~12.0(cal/cm31/2の範囲であることが好ましく、8.8~11.0(cal/cm31/2の範囲であることがより好ましく、9.0~10.0(cal/cm31/2の範囲であることが最も好ましい。溶解度パラメータを8.5(cal/cm31/2以上とすることで、エステル系基油と後述するシリコーンオイルとを非相溶性とすることができる点でより好ましい。溶解度パラメータを12.0(cal/cm31/2以下とすると、エステル系基油の耐熱性を向上させることができる点でより好ましい。
なお、溶解度パラメータ(SP値)は、Fedorsらが提案した方法「Polymer Engineering and Science,14,147-154(1974)参照」に従って計算することができる。すなわち、次式(B)に基づき計算することができる。
SP値δ=(Σ△e/Σ△v)1/2 … (B)
(上記式(B)中、△eは、25℃における各原子または原子団の蒸発エネルギーであり、△vは、同温度における各原子または原子団のモル容積である。)
【0035】
2-2.非極性基油
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる非極性基油は、炭素と水素のみからなる非極性の油剤であり、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリαオレフィン(PAO)、αオレフィン、合成ナフテン油、ポリブテン油などが挙げられる。これらの中で、ポリαオレフィンが耐熱性に優れ、高い粘度指数を有するため好ましい。これらの非極性基油は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0036】
このうち、ナフテン系鉱油としては、シクロヘキサン環、ビシクロヘプタン環およびビシクロオクタン環より選ばれる環を有する化合物が好ましく挙げられる。
【0037】
ポリαオレフィンは、少なくとも一種のαオレフィンを重合度2~10の範囲で重合することにより得られるポリαオレフィンまたはその水素化物である。
ポリαオレフィンは、αオレフィンの単独重合体であってもよく、二種以上のαオレフィンの共重合体であってもよく、これらの水素化物であってもよい。
【0038】
原料としてのαオレフィンは、直鎖であってもよく、分岐を有していてもよいが、直鎖であることが好ましい。αオレフィンの炭素数は、特に限定されないが、例えば、8~12であることが好ましく、10であることがより好ましい。炭素数が8~12である直鎖のαオレフィンとしては、1-オクテン(炭素数:8)、1-ノネン(炭素数:9)、1-デセン(炭素数:10)、1-ウンデセン(炭素数:11)、1-ドデセン(炭素数:12)が挙げられる。原料であるαオレフィンの炭素数が8~12であると、得られるポリαオレフィンの引火点が高くなり、低温領域での流動性に優れるため好ましい。
【0039】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる非極性基油の含有率は、基油の非極性指数が10~45の範囲になるようにその上限値及び下限値を制御する。当該非極性基油の含有率は、通常3~20質量%の範囲から適宜設定することができ、好ましくは4~15質量%であり、より好ましくは4~10質量%である。
【0040】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる非極性基油は、40℃における動粘度が、50.0mm2/s以下であることが好ましく、10.0~50.0mm2/sの範囲であることがより好ましく、10.0~40.0mm2/sの範囲であることが最も好ましい。非極性基油の40℃における動粘度を50.0mm2/s以下とすることにより、磁性粒子を分散させることが容易となる点でより好ましい。
なお、動粘度は、エステル系基油と同様の方法により測定される動粘度である。
【0041】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる非極性基油は、引火点が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
基油の引火点が、200℃以上であれば、消防法上の基油組成物の分類が第3石油類から第4石油類となるため、危険物取扱量(指定数量)を増加させることができる点でより好ましい。なお、引火点は、エステル系基油と同様の方法により測定される引火点である。
【0042】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる非極性基油は、流動点が-10℃以下であるのが好ましく、-20℃以下であるのがより好ましく、-30℃以下であるのが特に好ましく、-50℃以下であるのが最も好ましい。流動点が-10℃以下であると低温流動性に優れる点でより好ましい。なお、流動点は、エステル系基油と同様の方法により測定される流動点である。
【0043】
本発明の磁気粘性流体には、本発明の効果を損なわない範囲で、エステル系基油及び非極性基油に加えて、更に別の基油を含有してもよい。エステル系基油及び非極性基油以外に含まれる基油としては、高級脂肪酸、高級アルコール、多価アルコール、エーテル系基油等が挙げられる。
【0044】
2-3.炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルベンゼン、炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルナフタレン
本実施形態に係る磁気粘性流体は、炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルベンゼン、及び/または、炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルナフタレンを含むことが好ましい。アルキルベンゼンとアルキルナフタレンとは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。アルキルベンゼン及びアルキルナフタレンは、それぞれ磁気粘性流体の潤滑性を向上させる潤滑補助剤として機能する。また、アルキルベンゼン及びアルキルナフタレンとエステル系基油とは、いずれも極性を有し、相溶しやすい。
【0045】
炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルベンゼンは、1つのベンゼン環に炭素数が10~24であるアルキル基が結合した芳香族炭化水素である。当該アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。また、アルキル基は、ベンゼン環に1つ結合してもよいし、複数結合してもよい。アルキルベンゼンとしては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、テトラアルキルベンゼン等が挙げられる。アルキルベンゼンの有するアルキル基は、炭素数10~20が好ましく、炭素数12~18がより好ましく、炭素数13~18が更により好ましい。
アルキルベンゼンとしては、アルキル基がベンゼン環に1~4個結合したものが好ましい。また、アルキルベンゼンとしては、ベンゼン環に結合したアルキル基の合計炭素数が10~40のものが好ましく、アルキル基の合計炭素数が10~30のものがより好ましく、アルキル基の合計炭素数が10~20のものが更により好ましい。
当該アルキル基としては、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルベンゼンは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
本実施形態に係る磁気粘性流体に用いる炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルベンゼンの具体例としては、上述のように潤滑補助剤として機能するものであれば特に限定されないが、例えば、デシルベンゼン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ヘキサデシルベンゼン、ヘプタデシルベンゼン、オクタデシルベンゼン、ノナデシルベンゼン、イコシルベンゼン、ヘンイコシルベンゼン、ドコシルベンゼン、トリコシルベンゼン、テトラコシルベンゼン等が挙げられる。
【0046】
炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルナフタレンは、1つのナフタレン環にアルキル基が結合した芳香族炭化水素である。当該アルキル基としては、上記のアルキルベンゼンに結合したアルキル基と同様のものが挙げられる。炭素数が10~24であるアルキル基は、ナフタレン環に1つ結合してもよいし、複数結合してもよい。
アルキルナフタレンの有するアルキル基は、炭素数10~24が好ましく、炭素数12~18がより好ましく、炭素数13~18が更により好ましい。アルキルナフタレンとしては、炭素数が10~24であるアルキル基がナフタレン環に1~4個結合したものが好ましい。
炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルナフタレンは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
本実施形態に係る磁気粘性流体に用いるアルキルナフタレンの具体例としては、上述のように潤滑補助剤として機能するものであれば特に限定されないが、例えば、デシルナフタレン、ウンデシルナフタレン、ドデシルナフタレン、トリデシルナフタレン、テトラデシルナフタレン、ヘプタデシルナフタレン、ヘキサデシルナフタレン、オクタデシルナフタレン、ノナデシルナフタレン、イコシルナフタレン、ヘンイコシルナフタレン、ドコシルナフタレン、トリコシルナフタレン、テトラコシルナフタレン等が挙げられる。
【0047】
炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルベンゼンまたは炭素数が10~24であるアルキル基を有するアルキルナフタレンを単独で含む場合は当該含有量の含有率の下限値、または、アルキルベンゼン及びアルキルナフタレンをいずれも含む場合はそれらの合計量の含有率が、本実施形態に係る磁気粘性流体の基油全量に対して5質量%以上であることが好ましく、5~25質量%の範囲であることがより好ましく、10~25質量%の範囲であることが更により好ましく、10~20質量%の範囲であることが最も好ましい。当該含有率を5質量%以上とすることで、磁気粘性流体の潤滑性をより向上させることができ、さらに磁気粘性流体の極性をより向上させることができる。当該含有率を25質量%以下とすることで、相対的にエステル系基油の含有量が低下し過ぎることを抑制し、磁性粒子の沈降抑制効果が低下することを抑制することができる。
【0048】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる基油は、40℃における動粘度が、50.0mm2/s以下であることが好ましく、10.0~40.0mm2/sの範囲であることがより好ましい。基油の40℃における動粘度を50.0mm2/s以下とすることにより、磁性粒子を分散させることが容易となる点でより好ましい。
なお、動粘度は、エステル系基油と同様の方法により測定される動粘度である。
【0049】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる基油は、引火点が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
基油の引火点が、200℃以上であれば、消防法上の基油組成物の分類が第3石油類から第4石油類となるため、危険物取扱量(指定数量)を増加させることができる点でより好ましい。なお、引火点は、エステル系基油と同様の方法により測定される引火点である。
【0050】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる基油は、エステル系基油と、非極性基油と、所望により添加される特定のアルキルベンゼンとアルキルナフタレンとを含む。この場合の引火点は、引火点混合指数(Flash-Point Blending Index;略してFPI)から算出された引火点を意味する。以下、単に「引火点」といった場合にはこのことを意味する。
【0051】
引火点を算出するための引火点混合指数は、Hydrocarbon Processing & Petroleum Refiner,June 1963,Vol.42,No.6に記載の引火点混合指数表により求められる。例えば、引火点190°F(87.8℃)のオイルAと引火点330°F(165.6℃)のオイルBとを容量比30:70で混合した場合の混合物の引火点は、以下のように算出する。上記文献に記載の引火点混合指数表に基づくと、オイルAのFPIは30、オイルBのFPIは1.0となる。各オイルのFPIにより混合物のFPIを算出すると、「混合物FPI=(30/100)×(30)+(70/100)×(1.0)=9.7」である。このFPI9.7を引火点混合指数に当てはめると、FPI9.7に相当する引火点は、約230°F(110℃)と推定することができる。
【0052】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる基油は、流動点が-10℃以下であるのが好ましく、-20℃以下であるのがより好ましく、-30℃以下であるのが特に好ましく、-50℃以下であるのが最も好ましい。流動点が-10℃以下であると低温流動性に優れる点でより好ましい。なお、流動点は、エステル系基油と同様の方法により測定される流動点である。
【0053】
本実施形態に係る磁気粘性流体における基油の含有率は、本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して10質量%以上であることが好ましく、10~70質量%の範囲であることがより好ましく、20~70質量%の範囲であることが更により好ましく、20~60質量%の範囲であることが最も好ましい。基油の含有率を10質量%以上とすることで、磁性粒子を分散させることができ、流動性も向上させることができる。基油の含有率を70質量%以下とすることで、励磁時の磁気特性を向上させることができる点でより好ましい。
【0054】
3.シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体、シリコーンオイル
本実施形態に係る磁気粘性流体は、シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体と、シリコーンオイルとを更に含むことが好ましい。このような構成によれば、磁気粘性流体の励磁時の抗力がより向上する。
より具体的には、磁性粒子は基油中で分散している。磁性粒子は陽イオン性を有しているため、シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体を吸着している。また、シリコーンオイルは、表面エネルギーが小さく、溶解度パラメータの大きいエステル系基油に溶解せずに分散している。さらに、シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体と、シリコーンオイルは、双方がSiを有しているため親和性が高く、シリコーンオイルは、シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体を吸着した磁性粒子を取り囲んだ状態で存在しているものと推測している。
この状態で、磁場を印加させると、シリコーンオイルで取り囲まれた磁性粒子同士が速やかに結合しクラスター化する。シリコーンオイルが磁性粒子の周囲に存在していることにより、磁性粒子の過度の凝集が抑制されている。このため、磁場を印加させて抗力(粘度)を測定する場合には、せん断力が生じるものの、クラスターが崩壊することがなく、その抗力が安定しているものと推測している。
【0055】
<シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体>
シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体としては、例えば、ゼオライト、シリカ、層状ケイ酸塩等が挙げられる。これらの中で、耐摩耗性を考慮すると、ゼオライトが好ましい。シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。天然産、合成品の何れも用いることができる。
【0056】
ゼオライトとは、陰イオン性を有する結晶性の多孔質アルミノケイ酸塩の骨格と、この骨格に吸着した陽イオン性の金属元素Mとで構成される。より具体的には、四面体構造であるSiO4とAlO4を基本構造単位とし、これらが3次元的に連結することで細孔(空隙)を有する結晶を形成し、この空隙に結晶水や陽イオン性の金属元素Mが吸着した構造をしたものである。ゼオライトの結晶構造は、特に限定されず、具体的にはA型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、ベータ型ゼオライト、ZSM-5、ZSM-11、シリカライト、フェリエライト、モルデナイト、クリノプチロライト、ポーリンガイト等が挙げられる。
【0057】
層状ケイ酸塩とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で層状に積み重なった結晶構造をとるケイ酸塩化合物である。層状ケイ酸塩は、層全体に負電荷をもっている場合が多く、その負電荷を中和するために層間に大型の陽イオンが入り込む。層電荷が小さいので、この陽イオンは、溶液中の陽イオンと交換可能であり、陽イオン交換性を有している。層状ケイ酸塩として、例えば、スメクタイト族(ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト)、バーミキュライト、カオリン族(カオリナイト、ハロイサイト、クリソタイル、アメサイト)、雲母族(白雲母、黒雲母、鉄雲母、金雲母、白水雲母、ソーダ雲母、シデロフィライト、イーストナイト、ポリリシオ雲母、トリリシオ雲母、リチア雲母、チンワルド雲母、マーガライト、イライト、海縁石)、タルク、パリゴルスカイト、セピオライト、マガディアイト、カネマイト、ケニヤアイト、合成フッ素雲母等が挙げられる。これらの中で、イオン交換容量の大きさの観点から、スメクタイト族、バーミキュライト、合成フッ素雲母が好ましい。
【0058】
シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体の陽イオン交換容量は、30meq/100g以上であることが好ましく、30~400meq/100gの範囲であることがより好ましく、60~350meq/100gの範囲であることが更により好ましく、60~300meq/100gの範囲であることが更により好ましく、60~150meq/100gの範囲であることが最も好ましい。
シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体の陽イオン交換容量として、モルデナイトは260meq/100g、合成フッ素雲母は120meq/100g、スメクタイト族は60~150meq/100g、モンモリロナイトは80~150meq/100g、バーミキュライトは100~150meq/100gである。
【0059】
シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体の含有率は、本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して0.8質量%以上であることが好ましく、0.8~4.0質量%の範囲であることがより好ましく、1.0~3.5質量%の範囲であることが更により好ましく、1.3~3.0質量%の範囲であることが最も好ましい。含有率を0.8質量%以上とすることで、磁場を印加していない状態で磁性粒子の凝集を抑制できる点でより好ましい。含有率を4.0質量%以下とすることで、磁場を印加させた際に、磁性粒子のクラスターを適切に形成できる点でより好ましい。
【0060】
<シリコーンオイル>
シリコーンオイルは、エステル系基油と非相溶性のものであれば、特に制限なく用いることができる。シリコーンオイルは、ストレートシリコーンオイルと、変性シリコーンオイルとに大別される。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルが挙げられる。反応性シリコーンオイルは、例えば、アミノ変性タイプ、エポキシ変性タイプ、カルボキシ変性タイプ、カルビノール変性タイプ、メタクリル変性タイプ、メルカプト変性タイプ、フェノール変性タイプ等の各種シリコーンオイルが挙げられる。非反応性シリコーンオイルは、ポリエーテル変性タイプ、メチルスチリル変性タイプ、アルキル変性タイプ、高級脂肪酸エステル変性タイプ、親水性特殊変性タイプ、高級脂肪酸含有タイプ、フッ素変性タイプ等が挙げられる。この中で、ジメチルシリコーンオイル、フッ素変性タイプのシリコーンオイルが表面エネルギーが小さいため好ましく、入手容易性を考慮するとジメチルシリコーンオイルがより好ましい。
【0061】
シリコーンオイルの含有率の下限値は、本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、0.5~3.0質量%であることがより好ましく、1.0~2.5質量%であることが最も好ましい。含有率を0.5質量%以上とすることで、シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体が付着した磁性粒子を取り囲むことができる点でより好ましい。含有率を3.0質量%以下とすることで、磁性粒子の分散性の低下を防止できる点でより好ましい。
【0062】
シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体とシリコーンオイルの配合比は質量比で2:8~8:2の範囲であると好ましく、3:7~7:3の範囲であるとより好ましい。
2:8~8:2の範囲であると励磁時の抗力の経時安定性を向上させることができる点でより好ましい。
【0063】
エステル系基油とシリコーンオイルとの溶解度パラメータの差の絶対値は、1.3(cal/cm31/2以上であることが好ましく、1.5(cal/cm31/2以上であることがより好ましく、1.8(cal/cm31/2以上であることが特に好ましい。エステル系基油とシリコーンオイルとの溶解度パラメータの差の絶対値が、1.3(cal/cm31/2以上であると、エステル系基油とシリコーンオイルとの非相溶性を向上させることができる点でより好ましい。
【0064】
<その他の成分>
本実施形態に係る磁気粘性流体は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記した各成分に加えて、目的に応じて、さらに種々のその他の成分を併用してもよい。
その他の成分としては、例えば、耐摩耗剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、流動性向上剤、沈降抑制剤、流動点降下剤、極圧剤、さび止め剤、酸化防止剤、腐食防止剤、金属不活性剤、消泡剤等が挙げられる。
【0065】
耐摩耗剤としては、例えば、スルフィド類、スルフォキシド類、スルホン類、チオホスフィネート類等の硫黄系化合物、塩素化炭化水素等のハロゲン系化合物、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、リン酸トリクレジル等の有機金属系化合物等が挙げられる。
耐摩耗剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0066】
分散剤は、磁性粒子の基油への分散性を向上させるために添加され、公知の低分子系分散剤や高分子系分散剤等が挙げられる。分散剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0067】
粘度調整剤としては、例えば、ひまし油、水添ひまし油、脂肪酸アミド、蜜ロウ、カルナバワックス、ベンリジデンソルビトール、金属石鹸、酸化ポリエチレン、硫酸エステル系アニオン活性剤、ポリオレフィン、(メタ)アクリル酸エステル、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
粘度調整剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0068】
流動性向上剤としては、変性シリコーンオイルが挙げられる。例えば、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコール等により変性したものが挙げられる。なお、変性シリコーンオイルは、エステル系基油と相溶するものであってもよい。流動性向上剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0069】
<磁気粘性流体の粘度>
本実施形態に係る磁気粘性流体の励磁前の粘度は、40℃において0.02~1.0Pa・sの範囲であることが好ましく、0.03~0.6Pa・sの範囲であることがより好ましい。なお、励磁前の粘度の測定条件は以下の通りである。
磁気測定オプションを装着したTAインスツルメント社製レオメータDHR-2の試験用プレートに磁気粘性流体を3ml注入し、40℃の雰囲気下100μmギャップ20回転にて粘度(Pa・s)を測定する。
【0070】
<磁気粘性流体の磁気特性>
上述のとおり、本実施形態に係る磁気粘性流体は、励磁時の抗力が大きいという特性を有する。励磁時の抗力が大きいとは、本発明の磁気粘性流体において、磁性粒子の磁気粘性流体総量における含有率が64~67質量%の場合の以下の条件下における励磁時の粘度の最大値が、230Pa・s以上であることをいう。また、励磁時の粘度の最大値が、230Pa・s以上であることが好ましく、240Pa・s以上であることがより好ましい。
また、上述のように、シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体とシリコーンオイルとを更に含むことで、優れた励磁時の抗力の経時安定性(粘度経時安定性)が得られる。励磁時の抗力の経時安定性(粘度経時安定性)に優れるとは、後述する安定化率Bが80%以上であることをいう。また、安定化率Aが70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
励磁時の粘度は、励磁前の粘度を測定した装置と同じ測定装置を用い、同じ温度雰囲気下において、測定開始後5秒後に直流0.8Tの磁場を印加し、測定開始後215秒後にその磁場の印加を停止し、磁場を印加している210秒間の粘度をいう。
安定化率A(%)は、次式に基づき算出される。
安定化率A(%)=(安定化時間A/全印加時間)×100
なお、安定化時間Aとは、励磁時の粘度の最大値の95~100%に相当する印加時間を示す。
安定化率B(%)は、次式に基づき算出される。
安定化率B(%)=(安定化時間B/全印加時間)×100
なお、安定化時間Bとは、励磁時の粘度の最大値の90~100%に相当する印加時間を示す。
【0071】
(磁気粘性流体の製造方法)
本実施形態に係る磁気粘性流体の製造方法は、特に限定されない。例えば、磁性粒子と、エステル系基油と、非極性基油、更に必要であれば、アルキルナフタレン、シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体、シリコーンオイル及び所望により添加されるその他の成分を、各所定量、ホモジナイザー、ビーズミル、メカニカルミキサー等の高せん断力が与えられる処理機で混合する方法が挙げられる。このとき、エステル系基油及び非極性基油を、エステル系基油及び非極性基油からなる非極性指数が所定の範囲となるように混合する。なお、磁気粘性流体の製造においては必要に応じ加温または冷却してもよい。
【0072】
(磁気粘性流体を用いた機械装置)
本実施形態に係る磁気粘性流体は、物体間に作用する摩擦力を制御するためのブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置に適用することができる。このような構成によれば、各種機械装置において磁気粘性流体が良好な励磁時の抗力を備え、且つ、磁気粘性流体と接触するゴムの劣化を良好に抑制することができる。
【実施例
【0073】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0074】
<実施例1~14、比較例1~3>
表1~3に示す各成分を、その記載の質量比に基づきビーカーに入れ、セイコーアドバンス社製の万能型振動撹拌機AD-MIXを用いて40Hzにて室温で5分間撹拌し、磁気粘性流体を製造した。表1~3に示す各成分の原料を以下に示す。
(A)磁性粒子
(a1)カルボニル鉄(平均粒子径D50=6.0μm)
(B)エステル系基油
<ヒンダードエステル>
(b1)トリメチロールプロパントリオクタン酸エステル(SP値:9.1(cal/cm31/2、40℃における動粘度16.0mm2/s、引火点260℃、流動点-57℃)
<二塩基酸エステル>
(b2)セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)(SP値:8.9(cal/cm31/2、40℃における動粘度11.3mm2/s、引火点228℃、流動点-66℃)
(b3)アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(SP値:8.9(cal/cm31/2、40℃における動粘度7.8mm2/s、引火点205℃、流動点-68℃)
(b4)アジピン酸ジイソデシル(SP値:8.9(cal/cm31/2、40℃における動粘度14.2mm2/s、引火点232℃、流動点-63℃)
(C)非極性基油
(c1)ポリαオレフィン(1-デセンの3量体、40℃における動粘度:17.2mm2/s、引火点222℃、流動点-68℃)
(D)アルキルナフタレン
(d1)炭素数16~18のアルキル基を有するモノアルキルナフタレン(40℃における動粘度:37.0mm2/s、引火点221℃、流動点-25℃以下)
(E)シロキサン結合を有する無機陽イオン交換体
(e1)ゼオライト(結晶構造:モルデナイト系、陽イオン交換容量:160~190meq/100g)
(F)シリコーンオイル
(f1)ジメチルシリコーンオイル(SP値:7.2(cal/cm31/2、40℃における動粘度:37.8mm2/s)
【0075】
<耐ゴム特性の評価>
実施例1~14、比較例1~3に係る磁気粘性流体において、磁性粒子を除いた溶液を耐ゴム特性評価用溶液として準備した。各溶液を、それぞれ500ccビーカーに300ml投入した。また、別途、AS-ONE社製NBRを幅×長さ×厚み=10mm×60mm×5mmの短冊状に切り出した。
次に、各耐ゴム特性評価用溶液を100℃に加熱した対流式オーブン(アドバンテスト社製DRF633TA)に入れ、24時間放置した後、上述の短冊状のNBRを、上述のビーカー内に入れ、試験用検体とした。
当該試験用検体を当該対流式オーブンに入れてから480時間経過後にビーカーを取り出し、磁気粘性流体に浸漬したNBRを取り出して、日本製紙クレシア社製キムワイプ(登録商標)S200を使用してNBR表面の油分を取り除いた。そして、当該NBRの硬度(加熱後硬度)を、後述の方法で測定した。また、ビーカー内に入れる前の短冊状のNBRの硬度(初期硬度)も同様の方法にて測定した。
・硬度の測定:デューロメーター:新潟精機社製DUROMETER ADM-Eにより、JIS K 6253に準拠して測定した。
実施例1~14、比較例1~3に係る試験用検体は、それぞれ3サンプル準備し、いずれも同条件にて上述の耐ゴム特性の評価を実施し、それら3サンプルにおけるNBRの硬度の測定結果の平均を算出した。当該算出結果を表1及び表2に示す。
【0076】
次に、後述の式で、硬度変化率を算出した。当該算出結果を表1及び表2に示す。
・硬度変化率={(加熱後硬度-初期硬度)/初期硬度}×100(%)
なお、表1及び表2に記載されている硬度変化率の「-」は伸縮を示し、「+」は膨潤していることを示す。
【0077】
<励磁前の粘度、及び励磁時の粘度の評価>
磁気測定オプションを装着したTAインスツルメント社製レオメータDHR-2の試験用プレートに実施例1~7及び比較例1~2の磁気粘性流体を3ml注入し、40℃の雰囲気下100μmギャップ20回転にて粘度(Pa・s)を測定し、励磁前の粘度を測定した。励磁時の粘度も同じ測定装置を用い、40℃の雰囲気下で次の測定条件に基づき測定した。
磁場の励磁条件:測定開始後5秒後に直流0.8Tの磁場を印加し、測定開始後215秒後にその磁場の印加を停止した。
実施例1~7、比較例1~2に係る磁気粘性流体は、上述のように、それぞれ3サンプル準備し、いずれも同条件にて上述の励磁前の粘度、及び励磁時の粘度の評価を実施し、それら3サンプルにおけるNBRの励磁前の粘度、及び励磁時の粘度の測定結果の平均を算出した。当該算出結果を表3に示す。
経時安定性は、次式に基づき算出される安定化率A(%)、安定化率B(%)により評価した。当該算出結果を表3に示す。
安定化率A(%)=(安定化時間A/全印加時間)×100
なお、安定化時間Aとは、励磁時の粘度の最大値の95~100%に相当する印加時間を示す。
安定化率B(%)=(安定化時間B/全印加時間)×100
なお、安定化時間Bとは、励磁時の粘度の最大値の90~100%に相当する印加時間を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
実施例1~14は、いずれも磁性粒子と、基油とを含む磁気粘性流体であり、基油がエステル系基油と、非極性基油とを含み、基油の非極性指数が10~45の範囲であった。このため、実施例1~7では励磁時の粘度の最大値が、230Pa・s以上であり、良好な励磁時の抗力を示すことがわかる。また、実施例1~14ではNBRについて硬度変化率の絶対値がいずれも5%未満であり、良好な耐ゴム特性を有していた。
さらに、実施例1~7では安定化率Bが80%以上であり、良好な励磁時の抗力の経時安定性を有していた。
一方、比較例1~3は、磁気粘性流体が非極性基油を含有していないため、NBRについて硬度変化率が9%以上であり、耐ゴム特性が不良であった。
図1は、実施例1~4、7~14、比較例1~3における、表1及び表2の非極性指数とNBRの硬度変化率との関係を示すグラフを示す。図1のグラフから、基油の非極性指数が10~45の範囲であると、硬度変化率が5%以下となり、良好な耐ゴム特性を有することがわかる。
【要約】
励磁時の抗力の向上、及び、耐ゴム特性の向上を両立させた磁気粘性流体及び機械装置を提供する。磁性粒子と、基油とを含む磁気粘性流体であって、基油が、エステル系基油と、非極性基油とを含み、基油の非極性指数が10~45の範囲である、磁気粘性流体。
図1