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特許7453501スチールコード接着用ゴム組成物及びコンベヤベルト
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  • 特許-スチールコード接着用ゴム組成物及びコンベヤベルト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】スチールコード接着用ゴム組成物及びコンベヤベルト
(51)【国際特許分類】
   C09J 109/00 20060101AFI20240313BHJP
   C09J 107/00 20060101ALI20240313BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240313BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20240313BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240313BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20240313BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240313BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240313BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20240313BHJP
   C08K 5/02 20060101ALI20240313BHJP
   C08K 5/47 20060101ALI20240313BHJP
   B65G 15/34 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C09J109/00
C09J107/00
C09J11/06
C09J11/04
C09J11/08
C08L7/00
C08L9/00
C08K5/098
C08K3/06
C08K5/02
C08K5/47
B65G15/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019182798
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021059631
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】鄒 徳慶
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-043851(JP,A)
【文献】特開2006-176580(JP,A)
【文献】特開2006-312744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08L 7/00- 21/02
B65G 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムを少なくとも含むゴム成分と、
有機酸コバルト塩と、
硫黄と、
カルボキシ基を有するロジン類、脂肪酸、ハロゲン化パラフィン、及び、酸無水物基を有する、イソプレンの重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物Xと
加硫促進剤とを含有し、
前記有機酸コバルトが有するカルボキシイオン、前記ロジン類が有する前記カルボキシ基、前記脂肪酸が有するカルボキシ基、前記ハロゲン化パラフィンが有するハロゲン原子、及び、前記イソプレンの重合体が有する前記酸無水物基の合計量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.02~0.50モル当量であり、
前記加硫促進剤が、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、及び2-メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ゴム成分100質量部に対する前記加硫促進剤の含有量が、0.0質量部超0.5質量部未満である、スチールコード接着用ゴム組成物。
ただし、前記合計量を算出するにあたり、前記酸無水物基のモル当量数を2倍する。
【請求項2】
更に、フェノール樹脂を含有する、請求項1に記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
【請求項3】
前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対し、4.0質量部を超える、請求項1又は2に記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
【請求項4】
亜鉛メッキスチールコードを接着させるために使用される、請求項1~のいずれか1項に記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のスチールコード接着用ゴム組成物を用いて形成されたコンベヤベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチールコード接着用ゴム組成物及びコンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチールコードに対する接着性能等の向上を目的とするゴム組成物が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、亜鉛メツキスチールコード表面に高級脂肪酸エステルを塗着した後、ジエン系ゴム100重量部、1分子当りカルボキシル基又は水酸基を1~10個有する液状ゴム3~7重量部、有機コバルト塩1~6重量部、ハロゲン含有有機化合物3重量部以上及び硫黄2~4重量部を含有するゴム組成物を密着し、熱処理により一体化する、亜鉛メツキスチールコードとゴム組成物との接着方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-49043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者は特許文献1を参考にして、ゴム組成物を調製しこれをスチールコード接着用ゴム組成物として評価したところ、このようなゴム組成物から得られるゴムとスチールコードとの間の耐水接着性について改善の余地があることが明らかとなった。
そこで、本発明は、耐水接着性に優れる、スチールコード接着用ゴム組成物を提供することを目的とする。なお、本発明において耐水接着性は耐湿接着性を含むものとする。
また、本発明は、耐水接着性に優れるコンベヤベルトを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジエン系ゴムを少なくとも含むゴム成分と、有機酸コバルト塩と、硫黄と、水、カルボキシ基又は酸無水物基を有する有機酸、及び、ハロゲン原子を有するハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物Xとを含有し、上記有機酸コバルトが有するカルボキシイオン、上記水によるプロトン、上記有機酸が有する上記カルボキシ基又は上記酸無水物基、及び、上記ハロゲン化物が有する上記ハロゲン原子の合計量が、上記ゴム成分100質量部に対して、0.02~0.50モルであり、上記ゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量が、0.0~1.0質量部である、スチールコード接着用ゴム組成物(ただし、上記合計量を算出するにあたり、上記酸無水物基のモル数を2倍する。)によって、ゴム組成物から得られるゴムとスチールコードとの間の耐水接着性が向上しうることを見出した。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0006】
[1] ジエン系ゴムを少なくとも含むゴム成分と、
有機酸コバルト塩と、
硫黄と、
水、カルボキシ基又は酸無水物基を有する有機酸、及び、ハロゲン原子を有するハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物Xとを含有し、
上記有機酸コバルトが有するカルボキシイオン、上記水によるプロトン、上記有機酸が有する上記カルボキシ基又は上記酸無水物基、及び、上記ハロゲン化物が有する上記ハロゲン原子の合計量が、上記ゴム成分100質量部に対して、0.02~0.50モルであり、
上記ゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量が、0.0~1.0質量部である、スチールコード接着用ゴム組成物。
ただし、上記合計量を算出するにあたり、上記酸無水物基のモル数を2倍する。
[2] 上記加硫促進剤の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対し、0.0~0.8質量部である、[1]に記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
[3] 上記加硫促進剤の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対し、0.0質量部を超え、
上記加硫促進剤が、ベンゾチアゾール系加硫促進剤を含む、[1]又は[2]に記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
[4] 更に、フェノール樹脂を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
[5] 上記硫黄の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対し、4.0質量部を超える、[1]~[4]のいずれかに記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
[6] 亜鉛メッキスチールコードを接着させるために使用される、[1]~[5]のいずれかに記載のスチールコード接着用ゴム組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のスチールコード接着用ゴム組成物を用いて形成されたコンベヤベルト。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスチールコード接着用ゴム組成物は、耐水接着性に優れる。
また、本発明のコンベヤベルトは、耐水接着性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明のコンベヤベルトの一例を模式的に表す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその製造方法について特に制限されない。例えば、従来公知の方法が挙げられる。
本明細書において、耐水接着性がより優れることを、本発明の効果がより優れるということがある。
【0010】
[スチールコード接着用ゴム組成物]
本発明のスチールコード接着用ゴム組成物(本発明の組成物)は、
ジエン系ゴムを少なくとも含むゴム成分と、
有機酸コバルト塩と、
硫黄と、
水、カルボキシ基又は酸無水物基を有する有機酸、及び、ハロゲン原子を有するハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物Xとを含有し、
上記有機酸コバルトが有するカルボキシイオン、上記水によるプロトン、上記有機酸が有する上記カルボキシ基又は上記酸無水物基、及び、上記ハロゲン化物が有する上記ハロゲン原子の合計量が、上記ゴム成分100質量部に対して、0.02~0.50モルであり、
上記ゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量が、0.0~1.0質量部である、スチールコード接着用ゴム組成物である。
ただし、上記合計量を算出するにあたり、上記酸無水物基のモル数を2倍する。
【0011】
本発明の組成物は上記のような構成をとるため、所望の効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
まず、本発明の組成物は加硫促進剤を含まない又は加硫促進剤の含有量が少ないことによって、スチールコードの表面上の本発明の組成物における競争反応(硫黄に対する加硫促進剤又は有機酸コバルトとの反応)では、硫黄と有機酸コバルトが有するコバルトとが反応する確率が高くなると考えられる。
【0012】
また、本発明において、有機酸コバルトが有するカルボキシイオン、水によるプロトン、有機酸が有するカルボキシ基又は酸無水物基、及び、ハロゲン化物が有するハロゲン原子の合計量が、ゴム成分100質量部に対して、0.02~0.50モルであることによって、スチールコードの表面の金属酸化物(例えば酸化亜鉛等)を還元(除去)する効率が高い。
上記のように、本発明の組成物とスチールコードの表面との反応効率が向上することによって、本発明は耐水接着性に優れると本発明者は推測する。
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0013】
<ゴム成分>
本発明の組成物は、ジエン系ゴムを少なくとも含むゴム成分を含有する。
【0014】
<ジエン系ゴム>
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴムは、ジエン系モノマーを重合して得られるポリマーであれば特に制限されない。
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム(例えばスチレンブタジエン共重合体ゴム)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム(CR)が挙げられる。
但し上記ジエン系ゴムは、化合物Xとしての、カルボキシ基若しくは酸無水物基を有する有機酸、又は、ハロゲン原子を有するハロゲン化物を含まない。
【0015】
上記ジエン系ゴムとしては、本発明の効果により優れ、耐久性に優れると言う観点から、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム(例えばスチレンブタジエン共重合体ゴム)が好ましく、天然ゴム及び芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム(なかでもスチレンブタジエン共重合体ゴム)の組合せ、イソプレンゴム(IR)がより好ましい。なお、上記ジエン系ゴムは、後述する酸無水物基を有する(液状)ポリイソプレンを含まない。
【0016】
・天然ゴム
上記天然ゴム(NR)は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0017】
・イソプレンゴム
上記イソプレンゴムはイソプレンのホモポリマーであれば特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0018】
・スチレンブタジエン共重合体ゴム
上記スチレンブタジエン共重合体ゴムは、スチレンとブタジエンとの共重合体であれば特に制限されない。
【0019】
(スチレンブタジエン共重合体ゴムの結合スチレン量)
上記スチレンブタジエン共重合体ゴムの結合スチレン量は、本発明の効果により優れ、後述する上記スチレンブタジエン共重合体ゴムのガラス転移温度が低くなるという観点から、上記スチレンブタジエン共重合体ゴム全量に対して、5~40質量%であることが好ましく、10~30質量%がより好ましい。
【0020】
(スチレンブタジエン共重合体ゴムのビニル量)
上記スチレンブタジエン共重合体ゴムのブタジエンによるビニル量(1,2-ビニル結合量)は、本発明の効果により優れ、後述する上記スチレンブタジエン共重合体ゴムのガラス転移温度が低くなるという観点から、スチレンブタジエン共重合体ゴムが有するブタジエンによる繰り返し単位の総量に対して、5~30質量%であることが好ましく、5~20質量%がより好ましい。
本発明において、上記スチレンブタジエン共重合体ゴムが有する、上記結合スチレン量と上記ビニル量は、1H-NMRで測定することができる。
【0021】
(スチレンブタジエン共重合体ゴムの重量平均分子量)
スチレンブタジエン共重合体ゴムの重量平均分子量は特に制限されない。例えば、20万~300万とできる。
本発明において、スチレンブタジエン共重合体ゴムの重量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値である。
【0022】
(S-SBR)
上記スチレンブタジエン共重合体ゴムは、その製造方法について特に制限されない。例えば、溶液重合によるスチレンブタジエン共重合体ゴム(S-SBR)、乳化重合によるスチレンブタジエン共重合体ゴム(E-SBR)が挙げられる。なかでも、上記スチレンブタジエン共重合体ゴムは、本発明の効果により優れるという観点から、S-SBRを含むことが好ましい。
【0023】
S-SBRは、スチレンとブタジエンとを有機溶媒中で触媒の存在下で共重合させることによって製造されるSBRであれば特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
【0024】
上記ゴム成分のすべて又は一部が、ジエン系ゴムであればよい。上記ゴム成分のすべてが、ジエン系ゴムであることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
上記ジエン系ゴムの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、70~100質量部が好ましい。
上記ゴム成分が、上記天然ゴム及び上記スチレンブタジエン共重合体ゴムを含む場合、上記天然ゴムの含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、20~80質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましい。
上記スチレンブタジエン共重合体ゴムの含有量は、上記ゴム成分100質量部から上記天然ゴムの含有量を除いた量とできる。
【0025】
上記ゴム成分が、ジエン系ゴム以外のゴムを含む場合、ジエン系ゴム以外のゴムとしては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のような非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0026】
上記ジエン系ゴムの重量平均分子量は、10万以上であればよい。
本発明において、上記ジエン系ゴムの重量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値とすることができる。
【0027】
<有機酸コバルト塩>
本発明の組成物に含有される有機酸コバルト塩は、有機酸とコバルトで形成される塩であれば特に制限されない。
【0028】
(有機酸)
上記有機酸コバルト塩を形成する有機酸としては、例えば、カルボキシ基を有する化合物が挙げられる。上記カルボキシ基は有機基に結合することができる。上記有機基は特に制限されない。例えば、炭化水素基が挙げられる。上記炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組合せが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状、これらの組合せが挙げられる。脂肪族炭化水素基は不飽和結合を有してもよい。
【0029】
(カルボキシイオン)
上記有機酸コバルト塩を形成する有機酸がカルボキシ基を有する化合物である場合、上記有機酸コバルト塩が有するカルボキシイオン(-COO-)は、有機酸コバルトが有する有機酸のカルボキシイオンである。
上記有機酸コバルト塩を形成する有機酸がカルボキシ基を有する化合物である場合、上記有機酸コバルト塩が有するカルボキシ基が、カルボキシイオン(-COO-)となる。
【0030】
(コバルトイオン)
上記有機酸コバルト塩において上記カルボキシイオンのような、(酸による)アニオンの対イオンは、有機酸コバルト塩が有するコバルトイオン(例えば、Co2+、Co3+)である。
【0031】
上記有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、オクチル酸コバルト、ネオデカン酸コバルトのような、ホウ素を含まない有機酸コバルト;
下記式(1)で表されるネオデカン酸ホウ酸コバルトのようなコバルトボロン錯体などが挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
上記有機酸コバルト塩は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ネオデカン酸ホウ酸コバルトが好ましく、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸ホウ酸コバルトがより好ましく、ネオデカン酸ホウ酸コバルトを含むことが更に好ましい。
【0034】
上記有機酸コバルト塩中のコバルトの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、0.22~1.20質量部であることが好ましく、0.25~0.80質量部であることがより好ましく、0.30~0.70質量部が更に好ましい。
【0035】
<硫黄>
本発明の組成物は硫黄を含有する。上記硫黄は特に制限されない。例えば、硫黄単体が挙げられる。
【0036】
(硫黄の含有量)
上記硫黄の含有量は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、2.1~8.0質量部であることが好ましく、3.5~5.0質量部がより好ましく、4.0質量部を超え4.5質量部以下が更に好ましい。
【0037】
<化合物X>
本発明の組成物は、水、カルボキシ基又は酸無水物基を有する有機酸、及び、ハロゲン原子を有するハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物Xを含有する。
【0038】
(水)
上記水は特に制限されない。例えば、組成物中に水を添加することができる。
水は解離してプロトンを発生させることができる。
【0039】
(有機酸)
化合物Xとしての有機酸は、カルボキシ基(-COOH)又は酸無水物基を有する化合物である。
【0040】
・カルボキシ基
上記有機酸が有するカルボキシ基は解離してプロトンを発生させることができる。
【0041】
・酸無水物基
酸無水物基は、2つのカルボキシ基から1つの水を除いて形成される基(-CO-O-CO-)である。
1個の酸無水物基は、加水分解して、カルボキシ基(-COOH)を2個発生させることができ、上記カルボキシ基は解離してプロトンを発生させることができる。
【0042】
酸無水物基としては、例えば、下記式(1)で表される基が挙げられる。
【化2】

式(1)中、*は結合点を表す。
【0043】
上記カルボキシ基又は酸無水物基は、有機基に結合することができる。上記有機基は特に制限されない。
【0044】
上記有機酸は、低分子化合物、高分子化合物のいずれであってもよい。
【0045】
・カルボキシ基を有する有機酸
カルボキシ基を有する有機酸としては、例えば、ロジン類、脂肪酸が挙げられる。
【0046】
(ロジン類)
ロジン類は、カルボキシ基を有する化合物である。
ロジン類としては、例えば、ロジン、ロジン誘導体が挙げられる。
ロジンは、松脂を蒸留して得られる天然樹脂の1種である。
ロジンとしては、例えば、松材から蒸留等で得られるガムロジン、ウッドロジン、トールロジンが挙げられる(製造上で分類される種類)。
また、上記ロジンは、一般的に、アビチエン酸のような樹脂酸(カルボキシ基を有し、不飽和結合を有してもよい、縮合脂環式炭化水素化合物)の混合物である。上記ガムロジン等のロジンの種類によって、上記樹脂酸の構成が異なる。
【0047】
ロジン誘導体(ロジンの変性体)しては、例えば、アビチエン酸のような樹脂酸の、重合体(二量体)、不均斉化ロジン、マレイン化ロジンのような酸変性ロジン、アルデヒド変性ロジン、水素添加ロジンが挙げられる。
ロジン類は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、ガムロジンが好ましい。
【0048】
・ロジン類の軟化点
上記ロジン類の軟化点は、本発明の効果により優れるという観点から、40~130℃であることが好ましく、50~100℃がより好ましい。
ロジン類の軟化点は、JIS K5902-1969に準じて測定することができる。
【0049】
・ロジン類の酸価
上記ロジン類の酸価は、50mgKOH/g以上とすることができる。
上記ロジン類の酸価は、本発明の効果により優れるという観点から、50~200mgKOH/gであることが好ましく、80~180mgKOH/gがより好ましい。
ロジン類の酸価は、JIS K2501:2003に準じて測定することができる。
【0050】
・ロジン類の分子量
上記ロジン類の分子量は、本発明の効果により優れるという観点から、200~1000であることが好ましく、250~400がより好ましい。
ロジン類の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
なおロジン類は一般的に混合物であるため、上記ロジン類の分子量は平均値であってもよい。
【0051】
ロジン類は粘着付与剤として一般的に使用されうるものを使用することができる。
ロジン類としては、市販品を用いることができる。具体的には、例えば、荒川化学工業株式会社製のガムロジン又はウッドロジン、ハリマ化成グループ株式会社製のトールロジン、Hercules社製の水素添加ロジン等が挙げられる。
【0052】
上記ロジン類の含有量は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、3~10質量部であることが好ましい。
【0053】
(脂肪酸)
脂肪酸は、カルボキシ基を有する脂肪族炭化水素化合物である。
上記カルボキシ基に結合する脂肪族炭化水素基は特に制限されない。例えば、直鎖状、分岐状、環状の脂肪族炭化水素基、又はこれらの組合せが挙げられる。上記脂肪族炭化水素基は不飽和結合を有してもよい。脂肪酸としては、カルボキシ基を有し、不飽和結合を有してもよい、直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素が好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0054】
上記脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、トール油脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸)が挙げられる。
上記脂肪酸は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、ステアリン酸が好ましい。
なお、脂肪酸は、ロジン類を含まない。
【0055】
上記脂肪酸の含有量は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、0.5~2.5質量部であることが好ましい。
【0056】
(酸無水物基を有する有機酸)
酸無水物基を有する有機酸としては、例えば、無水マレイン酸変性されたポリイソプレンのような酸無水物基を有するポリマー;
無水マレイン酸、無水フタル酸のような低分子の酸無水物が挙げられる。
酸無水物基を有するポリマーは、室温(23℃)条件下において液状であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
酸無水物基を有する有機酸は、本発明の効果により優れるという観点から、酸無水物基を有するポリイソプレンが好ましく、酸無水物基を有する液状ポリイソプレンがより好ましく、無水マレイン酸変性された液状ポリイソプレンが更に好ましい。
酸無水物基を有するポリイソプレン(液状であってもよい。以下同様)の骨格は、単独重合体、共重合体のいずれであってもよい。
酸無水物基を有するポリイソプレンの骨格としては、例えば、イソプレンの単独重合体;スチレン-イソプレン共重合体、ブタジエン-イソプレン共重合体のような共重合体が挙げられる。
酸無水物基を有するポリイソプレンは、例えば、上記骨格が上記酸無水物基によって変性されていてもよく、また、イソプレンと上記酸無水物基を導入しうるモノマーとを少なくとも含む単量体を共重合させた共重合体であってもよい。
上記酸無水物基は、上記骨格と直接又は有機基を介して結合できる。上記有機基は特に制限されない。
【0057】
上記酸無水物基を有する有機酸は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、3~10質量部であることが好ましい。
【0058】
上記有機酸が高分子化合物である場合(例えば、酸無水物基を有する有機酸が高分子化合物である場合)、その重量平均分子量は、10万未満とすることができ、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、2.0万~7.0万であることが好ましく、3.0万~5.0万がより好ましい。
本発明において、上記高分子化合物の重量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値とできる。
【0059】
なお、本発明において、カルボキシ基と酸無水物基とを有する化合物は、カルボキシ基を有する有機酸、酸無水物基を有する有機酸のいずれかに属することができる。
【0060】
上記有機酸は、本発明の効果により優れるという観点から、ロジン類、脂肪酸、酸無水物基を有するポリマーが好ましく、ロジン類、酸無水物基を有するポリイソプレンがより好ましい。
【0061】
(ハロゲン化物)
化合物Xとしてのハロゲン化物は、ハロゲン原子を有する化合物である。
上記ハロゲン原子としては、例えば、塩素、臭素が挙げられる。
上記ハロゲン原子は、プロトンによる引き抜きによってハロゲン化水素を発生させることができる。上記ハロゲン化水素は、系内の酸性を強めることができ、本発明の効果により優れるので好ましい。
【0062】
上記ハロゲン化物としては、例えばハロゲン化パラフィンが挙げられる。なかでも、塩素化パラフィンが好ましい。
上記塩素化パラフィンは、塩素を有するパラフィンであれば特に制限されない。例えば、平均で炭素数26の鎖状飽和炭化水素化合物であって、該化合物中の水素原子の全部又は一部が塩素原子で置換されているものが挙げられる。
上記塩素化パラフィンが有する塩素量は、塩素化パラフィン全量に対して、例えば、40~80質量%が好ましい。
【0063】
上記ハロゲン化物がハロゲン化パラフィンである場合、その数平均分子量は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、500~5000であることが好ましく、1000~2000がより好ましい。
本発明において、ハロゲン化物(ハロゲン化パラフィン)の数量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値とできる。
【0064】
上記ハロゲン化物の含有量は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、3~8質量部であることが好ましい。
【0065】
(化合物Xの組合せ)
上記化合物Xは、本発明の効果により優れるという観点から、カルボキシ基を有する有機酸、酸無水物基を有する有機酸、及び、ハロゲン化物を含むことが好ましく、ロジン類、脂肪酸、酸無水物基を有するポリマー及びハロゲン化パラフィンを含むことがより好ましい。
また、上記化合物Xは、上記組合せに対して更に水を含有することが好ましい。
【0066】
<官能基の含有量>
本発明において、上記有機酸コバルトが有する(有機酸の)カルボキシイオン、上記化合物Xとしての、上記水によるプロトン、上記有機酸が有する上記カルボキシ基又は上記酸無水物基、及び、上記ハロゲン化物が有する上記ハロゲン原子の合計量は、上記ゴム成分100質量部に対して、0.02~0.50モルである。
本明細書において、上記有機酸コバルトが有する(有機酸の)「カルボキシイオン」、上記水による「プロトン」、上記有機酸が有する「カルボキシ基」又は「酸無水物基」、及び、上記ハロゲン化物が有する「ハロゲン原子」を、まとめて、「官能基」と称する場合がある。
ただし、上記官能基の合計量を算出するにあたり、酸無水物基のモル数を2倍するものとする。
上記官能基の合計量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、0.1~0.3モルが好ましい。
【0067】
<加硫促進剤>
本発明の組成物において、上記ゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量は0.0~1.0質量部である。
【0068】
本発明の組成物に使用され得る加硫促進剤は、硫黄による加硫が可能なゴム組成物に使用され得る加硫促進剤であれば特に制限されない。
上記加硫促進剤としては、例えば、アルデヒド-アンモニア系、アルデヒド-アミン系、チオウレア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系、キサントゲン酸塩系、これらの混合物が挙げられる。
なお、一般的にチアゾール系以外の加硫促進剤に分類されている加硫促進剤がチアゾール骨格を有する場合、本明細書において、上記のような加硫促進剤を、チアゾール系加硫促進剤に分類するものとする。
【0069】
本発明の組成物が加硫促進剤を含有する場合、上記加硫促進剤は、耐水接着性により優れるという観点から、チアゾール系加硫促進剤を含むことが好ましく、ベンゾチアゾール系加硫促進剤を含むことがより好ましい。
チアゾール系加硫促進剤は、チアゾール骨格を有する加硫促進剤であれば特に制限されない。チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、ベンゾチアゾール骨格を有するベンゾチアゾール系加硫促進剤が挙げられる。
【0070】
・ベンゾチアゾリルスルフィド基を有する加硫促進剤
上記ベンゾチアゾール系加硫促進剤としては、例えば、ベンゾチアゾリルスルフィド基を有する加硫促進剤が挙げられる。
【0071】
上記ベンゾチアゾリルスルフィド基は、例えば、下記構造で表すことができる。なお、下記構造において、ベンゾチアゾリル環における水素原子が置換基で置換されていてもよい。置換基は特に制限されない。
【化3】
【0072】
上記構造で表される上記ベンゾチアゾリルスルフィド基において、環構造を構成していない硫黄原子は、例えば、-SH(メルカプト基);(ポリ)スルフィド結合、スルフェンアミド結合(例えば-S-NH-、-S-N<)のような連結基(例えば2価又は3価の連結基);例えば亜鉛のような金属又はナトリウムのようなアルカリ金属と塩を構成することができる。
【0073】
上記ベンゾチアゾリルスルフィド基が上記連結基を有する場合、上記連結基に更に結合する基は特に制限されない。例えば、酸素、窒素、硫黄のようなヘテロ原子を有してもよい炭化水素基が挙げられる。上記炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基(直鎖状、分岐状、環状を含む。)、芳香族炭化水素基、ヘテロ環、これらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
上記ベンゾチアゾリルスルフィド基における環構造を構成していない硫黄原子がスルフェンアミド結合を構成する場合(スルフェンアミド結合を有するベンゾチアゾール系加硫促進剤)としては、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-第三ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドが挙げられる。
【0075】
本発明の組成物が加硫促進剤を含有する場合、上記加硫促進剤(又はベンゾチアゾール系加硫促進剤)は、耐水接着性により優れるという観点から、メルカプト基若しくはポリスルフィド結合を有するベンゾチアゾール、又は、金属若しくはアルカリ金属と塩を形成するメルカプトベンゾチアゾールを含むことが好ましい。
【0076】
上記メルカプト基を有するベンゾチアゾールとしては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール(下記構造)が挙げられる。
【化4】
【0077】
ポリスルフィド結合を有するベンゾチアゾールとしては、例えば、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(下記構造)のような、ジスルフィド結合を有するベンゾチアゾールが挙げられる。
【化5】
【0078】
金属又はアルカリ金属と塩を形成するメルカプトベンゾチアゾールとしては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩(下記構造)、
【化6】
【0079】
2-メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩(下記構造)が挙げられる。
【化7】
【0080】
本発明の組成物が加硫促進剤を含有する場合、上記加硫促進剤(又はベンゾチアゾール系加硫促進剤)は、耐水接着性により優れるという観点から、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩が好ましく、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィドがより好ましい。
【0081】
<加硫促進剤の含有量>
本発明において、加硫促進剤の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、0.0~1.0質量部である。
上記加硫促進剤の含有量は、耐水接着性により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、0.0~0.8質量部が好ましく、0.0質量部以上0.5質量部未満がより好ましく、0.0~0.4質量部が更に好ましい。
なお、本発明の組成物が加硫促進剤を含有する場合、上記加硫促進剤の含有量は上記ゴム成分100質量部に対して0.0質量部を超える量であればよい。
【0082】
(フェノール樹脂)
本発明の組成物は、更に、フェノール樹脂を含有することができる。
本発明の組成物は、耐水接着性により優れるという観点から、更に、フェノール樹脂を含有することが好ましい。
【0083】
フェノール樹脂としては、一般にゴム組成物に配合可能なものを使用できる。上記フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒドとの反応によって得られる樹脂及びその変性物を含むことができる。フェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノールまたはレゾルシン等を例示することができる。また、アルデヒドとしては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒドまたはフルフラール等を例示することができる。
なお、本発明の組成物は、フェノール樹脂の硬化剤を含有しないことが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0084】
上記フェノール樹脂の含有量は、本発明の効果により優れ、耐久性に優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、2~8質量部であることが好ましい。
【0085】
(カーボンブラック)
本発明の組成物は、更に、カーボンブラックを含有することができる。
上記カーボンブラックは特に制限されない。
なかでも、上記カーボンブラックは、本発明の効果により優れるという観点から、HAF級カーボンブラック、ISAF級カーボンブラックが好ましく、HAF級カーボンブラックがより好ましい。
【0086】
(カーボンブラックの窒素吸着比表面積)
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、本発明の効果により優れるという観点から、60~120m2/gが好ましく、65~95m2/gがより好ましい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K 6217-2:2017「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定できる。
【0087】
(カーボンブラックの含有量)
上記カーボンブラックの含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、35~75質量部であることが好ましく、40~70質量部がより好ましい。
【0088】
(老化防止剤)
本発明の組成物は、更に、老化防止剤を含有することができる。
老化防止剤は特に制限されない。例えば従来公知の老化防止剤が挙げられる。
【0089】
上記老化防止剤の含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、1.0質量部以上であることが好ましい。
上記老化防止剤の含有量の上限は、上記ゴム成分100質量部に対して、5.0質量部以下とできる。
【0090】
(酸化亜鉛)
本発明の組成物は更に酸化亜鉛を含有することができる。上記酸化亜鉛は特に制限されない。
【0091】
(酸化亜鉛の含有量)
上記酸化亜鉛の含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記ゴム成分100質量部に対して、5.0質量部以上であることが好ましい。
上記酸化亜鉛の含有量の上限は、上記ゴム成分100質量部に対して、20質量部以下とできる。
【0092】
本発明の組成物は、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、上記必須の成分に加え、更に、例えば、カーボンブラック以外の充填剤、オイル等の添加剤を含有できる。
【0093】
本発明の組成物は、上記必須成分、必要に応じて使用することができる、加硫促進剤、フェノール樹脂、カーボンブラック等を、ロールミル又はバンバリーミキサーなどを用いて混合することによって、製造することができる。
【0094】
本発明の組成物は、例えば、スチールコード(具体的には例えば亜鉛メッキスチールコード)を接着させるために使用することができる。
本発明の組成物をスチールコード(例えば亜鉛メッキスチールコード)とともに用いて、例えば加硫することによって、加硫ゴムとスチールコードとを有する複合体を得ることができる。上記複合体において加硫ゴムとスチールコードとは接着することができる。
【0095】
上記スチールコードとしては、例えば、スチールコード;スチールコードを亜鉛メッキしたものが挙げられる。
上記スチールコードは、本発明の効果により優れ、防錆性に優れるという観点から、亜鉛メッキされたものが好ましい。
上記スチールコード(亜鉛メッキされたスチールコードを含む。以下同様)の例えば素線径又はコード径などは、適宜選択できる。上記スチールコードは、その表面が未処理のものであってもよい。
【0096】
本発明の組成物を加硫する際の温度は、例えば140~160℃程度とできる。
【0097】
本発明の組成物は、例えば、コンベヤベルトの製造に好適に用いることができる。本発明の組成物をコンベヤベルトの製造に用いる場合、本発明の組成物は、コンベヤベルトを構成する部材として例えば、スチールコードをコートするコートゴム層(例えばクッションゴム及び/又はタイゴム)を形成することが好ましい。スチールコードをコートする1層のコートゴム層が、クッションゴム及びタイゴムの両方の機能を有してもよい。
【0098】
クッションゴムとしては、例えば、コンベヤベルトがカバーゴム層を有する場合、上記カバーゴム層と隣接するゴムが挙げられる。
タイゴムとしては、例えば、コンベヤベルトを例えば端部で接続しうるゴムが挙げられる。タイゴムによる接続によってコンベヤベルトを、長く及び/又はエンドレス化することができる。
【0099】
[コンベヤベルト]
次に、本発明のコンベヤベルトについて以下に説明する。
本発明のコンベヤベルトは、本発明のスチールコード接着用ゴム組成物を用いて形成されたコンベヤベルトである。
【0100】
本発明のコンベヤベルトは、スチールコードを有することが好ましい態様として挙げられる。上記スチールコードは、本発明の効果により優れるという観点から、スチールコードを亜鉛メッキしたものが好ましい。
【0101】
本発明のコンベヤベルトに使用されるスチールコード接着用ゴム組成物は、本発明の組成物であれば特に制限されない。
本発明の組成物は、本発明の効果により優れるという観点から、スチールコードをコートするコートゴム層(例えばクッションゴム及び/又はタイゴム)を形成することが好ましい。
本発明のコンベヤベルトは、更に、カバーゴム層を有することが好ましい態様の1つとして挙げられる。上記カバーゴム層を形成しうるゴム組成物は特に制限されない。
本発明の組成物によりコートゴム層がタイゴムである場合、上記コートゴム層にはカバーゴム層が隣接しても隣接しなくてもよい。
【0102】
本発明のコンベヤベルトについて添付の図面を用いて以下に説明する。本発明のコンベヤベルトは添付の図面に制限されない。
図1は本発明のコンベヤベルトの一例を模式的に表す断面斜視図である。
図1において、コンベヤベルト1は、両表面にカバーゴム層6を有し、カバーゴム層6の間に、スチールコード2とコートゴム層4を有する。コートゴム層4はスチールコード2をコートする。コートゴム層4は本発明のスチールコード接着用ゴム組成物で形成されることが好ましい。
【実施例
【0103】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0104】
<組成物の製造>
下記第1表の各成分を同表に示す組成(質量部)で用いた。
まず、下記第1表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、バンバリーミキサーで混合し、次に、得られた混合物に硫黄および加硫促進剤を第1表に示す量で加えてこれらをロールを用いて混合して、各組成物を製造した。
【0105】
なお、第1表の「有機酸コバルト塩1」欄において、上段の値は有機酸コバルト塩の正味の量であり、下段の値は上記有機酸コバルト塩中のコバルト含有量である。
また、第1表の「官能基の合計量(モル)」欄の値は、第1表に記載された、有機酸コバルト塩が有する有機酸の(含有量に対応する)カルボキシイオンのモル数(以下「(含有量に対応する)」点について同様)、化合物X1-1-1のカルボキシ基のモル数、化合物X1-1-1のカルボキシ基のモル数、化合物X1-2-1の酸無水物基のモル数の2倍、及び化合物X2-1のハロゲン原子のモル数の合計量(モル)を示す。
【0106】
<<評価>>
上記のとおり製造された各組成物を用いて以下の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0107】
<耐水接着性>
耐水接着性をゴム付きで評価した。
・評価方法
デシケータ中に保管して防塵防湿処理を施してある直径4.1mmの亜鉛メッキスチールコードに、上記のとおり製造された各組成物を15mmの厚さに付与して、各組成物とスチールコードとの複合体(スチールコードは組成物中に埋まっている状態)とし、上記複合体をプレス成型機を用いて153℃、面圧2.0MPaの条件下で20分間加圧加硫して、試験体(ゴム/亜鉛メッキスチールコード複合体)を作製した。上記試験体において、ゴム表面からスチールコードが突出している箇所のゴムとスチールコードとの境目を蜜ロウでシールし、温度50℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽内で3週間放置した。その後、室温(23℃)条件下で各試験体からスチールコードを引き抜く引き抜き試験を行った。上記引き抜き試験は、DIN22131に準拠して行った。
引き抜き試験後、引き抜かれたスチールコードの状態を確認し、初期のスチールコードの表面積に対する引き抜き後のスチールコード表面に残存するゴムの被覆面積の割合(ゴム被覆率、%)を算出した。上記のとおり算出されたゴム被覆率をゴム付きとして第1表に示した。
【0108】
・評価基準
本発明において、上記ゴム付き(ゴム被覆率)が70%を超える場合、耐水接着性に優れると評価した。
上記ゴム付きが70%以下である場合、耐水接着性が劣ると評価した。
上記ゴム付きが70%より大きいほど、耐水接着性により優れると評価した。
【0109】
【表1】
【0110】
第1表に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
(ジエン系ゴム)
・ジエン系ゴム1(NR):天然ゴム。TSR20
・ジエン系ゴム2(SBR):溶液重合スチレンブタジエン共重合体ゴム。商品名タフデン 2000R(旭化成社製)。ガラス転移温度-70℃。重量平均分子量32万、結合スチレン量27質量%、ビニル量9質量%
【0111】
(有機酸コバルト塩)
・有機酸コバルト塩1(ナフテン酸コバルト10%):ナフテン酸コバルト。コバルト含有量10質量%。商品名「ナフテン酸コバルト 10%」、DIC CORPORATION社製。分子量593。1分子当たり個のカルボキシイオンを有する。(ナフテン酸コバルト中のコバルト含有量は10質量%)。
【0112】
(化合物X)
・化合物X1-1-1(有機酸、カルボキシ基)
ロジン類(ガムロジン):中国ロジン WW、荒井化学工業株式会社製。分子量289。1分子当たり1個のカルボキシ基を有する。軟化点:65℃、酸価:162mgKOH/g
・化合物X1-1-2(有機酸、カルボキシ基)
ステアリン酸:ステアリン酸YR(日油社製)分子量284。1分子当たり1個のカルボキシ基を有する。
【0113】
・化合物X1-2-1(有機酸、酸無水物基)
液状ポリイソプレン(LIR-403):クラレ社製LIR-403。重量平均分子量34000。酸無水物基を有するポリイソプレン(下記構造)。室温(23℃)の条件下で液状。
【化8】

上記式中、nは3であり、m+nは上記重量平均分子量に対応する値とできる。
上記液状ポリイソプレンは、1分子当たり3.0個の酸無水物基を有するので、1分子当たり6.0個のカルボキシ基を有することとなる。
【0114】
・化合物X2-1(ハロゲン化物、ハロゲン原子)
塩素化パラフィン:塩素化パラフィン(塩素含有量70質量%)。エンパラ 70S、味の素ファインテクノ社製。数平均分子量1156。
【0115】
(フェノール樹脂)
・フェノール樹脂:スミライト レジン PR-175、住友デュレズ株式会社
【0116】
・HAF級カーボンブラック:キャボットジャパン株式会社製シヨウブラック N330T(窒素吸着比表面積74m2/g)
【0117】
・老化防止剤(OD-3):下記式で表されるp,p′-ジオクチルジフェニルアミン。ノンフレックスOD-3、精工化学社製。
【化9】
【0118】
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
【0119】
(加硫促進剤)
・加硫促進剤1(DM):ベンゾチアゾール系加硫促進剤。ジベンゾチアジルジスルフィド(下記構造)。サンセラー DM-PO、(三新化学工業株式会社製)
【化10】
【0120】
・硫黄:金華印油入微粉硫黄(鶴見化学工業社製)
【0121】
第1表に示す結果から明らかなように、所定の官能基の含有量が特定の範囲を外れる比較例1は、耐水接着性が劣った。
加硫促進剤の含有量が所定の範囲を超える比較例2は、耐水接着性が劣った。
【0122】
これに対して、本発明の組成物は、耐水接着性に優れた。
【符号の説明】
【0123】
1 コンベヤベルト
2 スチールコード
4 コートゴム層
6 カバーゴム層
図1