(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】乗り物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
B60N2/58
(21)【出願番号】P 2019209762
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郷詩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 淳一
(72)【発明者】
【氏名】竹田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】森岡 桃子
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-331046(JP,A)
【文献】特開2010-246645(JP,A)
【文献】特開平11-140742(JP,A)
【文献】特開平05-148730(JP,A)
【文献】特開2013-185267(JP,A)
【文献】特開2015-217877(JP,A)
【文献】特開2012-017536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格となるシートフレームと、
該シートフレーム上に載置するクッションパッドと、
乗り物用表皮材
と、を備えた乗り物用シートであって、
前記乗り物用表皮材の一部が織物から構成され、
前記織物が、ヨコ多重織によって形成されるヨコ朱子織物であ
って、
前記シートフレーム又は前記クッションパッドに取り付けられ、着座者のために可動する可動部を備え、
前記織物が、前記シートフレーム又は前記クッションパッドにおいて前記可動部が取り付けられた部分及び周辺部分に対応する位置とは異なる位置に配置されていることを特徴とする乗り物用
シート。
【請求項2】
前記織物が、ヨコ2重織によって形成される8枚ヨコ朱子織物であることを特徴とする請求項1に記載の乗り物用
シート。
【請求項3】
前記織物が、単一の織組織から形成されており、
前記ヨコ朱子織物の柄が、前記単一の織組織及び前記ヨコ2重織から形成されていることを特徴とする請求項2に記載の乗り物用
シート。
【請求項4】
前記織物が、ポリエステル繊維から構成される断面略三角形状の糸を用いて形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の乗り物用
シート。
【請求項5】
前記織物のヨコ糸の太さが100~200デニール(d)であって、
前記織物のヨコ糸の撚り回数が150~450回/mであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の乗り物用
シート。
【請求項6】
JIS L1096(2010) C法(テーバ形法)に準じた耐テーバ摩耗性試験によって前記織物の表面を1000回摩耗したときの等級判定が3級以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の乗り物用
シート。
【請求項7】
前記織物が、ポリエステル繊維から構成される糸を用いて形成されており、
前記織物における平均表面摩擦係数(MIU)と平均摩擦係数の変動(MMD)との比を示すMIU/MMDが、絹織物におけるMIU/MMDと同等以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の乗り物用
シート。
【請求項8】
前記ヨコ朱子織物の柄による織組織の段差が70μm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の乗り物用
シート。
【請求項9】
前記クッションパッドの表面には、前記乗り物用表皮材の端末を吊り込むための表皮吊り込み溝が形成され、
前記織物が、前記クッションパッドの表面において前記表皮吊り込み溝とは異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項
1乃至8のいずれか1項に記載の乗り物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物用表皮材及び乗り物用シートに係り、特に、織物から構成される乗り物用表皮材及び乗り物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗り物用シートの中には、シート本体の意匠性を高めて高級感を醸し出すために、シート本体の被覆材となる表皮材が織物から構成されているシートが存在する。
織物から構成される表皮材の一例として、特許文献1、2に記載の車両用表皮材が挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の表皮材は、車両用シートに用いられる皮革製の表皮材であって、シート本体の意匠性を確保しながらも、シートクッション及びシートバックが互いに接触することで発生する擦れ音を抑制すべく、表皮材の一部が織物で構成されている。
詳しく述べると、シートクッション及びシートバックが互いに接触する表皮材の部分を織物で構成することで、皮革同士の擦れ音を抑制することができる。
また、平織物や綾織物ではなく朱子織物(特に8枚ヨコ朱子織物)を採用することで耐摩耗性には劣るものの、優れた意匠性を確保することができる。
【0004】
特許文献2に記載の表皮材は、車両用内装材に用いられ、織物からなる表皮材である。織物(特に平織物)を採用することで軽量化を図りながらも、織物の物性値を検討することで車両用途に必要な引張り強度や引き裂き強度、耐摩耗性を確保した表皮材を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-246645号公報
【文献】特表2014-184607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の表皮材では、平織物や綾織物ではなく朱子織物(8枚ヨコ朱子織物)を採用することで、表皮材の意匠性を向上させているものの耐摩耗性に劣ってしまう虞があった。特に車両用シートに用いられる表皮材の場合には、着座者との繰り返しによる接触に伴って織物の表面状態が変化してしまうため、耐摩耗性を高める必要があった。
また、特許文献2の表皮材では、平織物を採用することで軽量化を図り、また耐摩耗性を確保すべく織物の物性値を限定しているところ、織物から構成される表皮材の意匠性をより高めることが求められていた。
そのため、織物から構成される表皮材の意匠性を向上させながらも、乗り物用途に適した耐摩耗性を確保した乗り物用表皮材が要望されていた。
特に、表皮材の意匠性を高めて高級感を醸し出すために、絹織物(例えば、西陣織物)と同等の触感や光沢感を持ちながら、絹織物よりも耐摩耗性を向上させた乗り物用表皮材が求められていた。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、意匠性を向上させながら、耐摩耗性を確保した乗り物用表皮材及び乗り物用シートを提供することにある。
本発明の他の目的は、絹織物(例えば、西陣織物)と同等の触感や光沢感を持ちながら、絹織物よりも耐摩耗性を向上させた乗り物用表皮材及び乗り物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明の乗り物用シートによれば、骨格となるシートフレームと、該シートフレーム上に載置するクッションパッドと、乗り物用表皮材と、を備えた乗り物用シートであって、前記乗り物用表皮材の一部が織物から構成され、前記織物が、ヨコ多重織によって形成されるヨコ朱子織物であって、前記シートフレーム又は前記クッションパッドに取り付けられ、着座者のために可動する可動部を備え、前記織物が、前記シートフレーム又は前記クッションパッドにおいて前記可動部が取り付けられた部分及び周辺部分に対応する位置とは異なる位置に配置されていること、により解決される。
上記構成により、意匠性を向上させながら、耐摩耗性を確保した乗り物用シートを実現することができる。
詳しく述べると、織物がヨコ多重織によって形成されるヨコ朱子織物であるため、ヨコ糸の本数を増やすことができ、ヨコ朱子織物の柄を浮き出させることができる。また、ヨコ糸の本数を増やすことで厚地にすることができ、耐摩耗性を高めることができる。
また上記構成により、表皮材のうち織物で構成された部分が、可動部の動きによる引張力の影響を受けにくくなるため、織物の劣化を抑制できる。
【0009】
このとき、前記織物が、ヨコ2重織によって形成される8枚ヨコ朱子織物であると良い。
上記構成により、ヨコ朱子織のヨコ糸を浮かせている本数(交錯点までの本数)を7本に設定することができ、例えば5枚ヨコ朱子織物よりも光沢感を増すことができ、12枚ヨコ朱子織物よりも耐摩耗性を高めることができる。
【0010】
このとき、前記織物が、単一の織組織から形成されており、前記ヨコ朱子織物の柄が、前記単一の織組織及び前記ヨコ2重織から形成されていると良い。
上記構成により、織物が柄を有するため、柄なしの織物よりも意匠性を高めることができる。また、当該柄による織組織の段差が一般的な柄付きの織物よりも小さくなるため、耐摩耗性を高めることができる。
【0011】
このとき、前記織物が、ポリエステル繊維から構成される断面略三角形状の糸を用いて形成されていると良い。
上記構成により、絹糸よりも耐摩耗性を高めることができ、また断面三角形状の絹糸に近い形状を採用することで、絹糸のような光沢感を持たせることができる。
【0012】
このとき、前記織物のヨコ糸の太さが100~200デニール(d)であって、前記織物のヨコ糸の撚り回数が150~450回/mであると良い。
上記のように織物のヨコ糸の太さ、ヨコ糸の撚り回数を設定することで、好適な光沢感及び触感を得ることができる。すなわち、絹織物に近い光沢感や触感を持たせることができる。
【0013】
このとき、JIS L1096(2010) C法(テーバ形法)に準じた耐テーバ摩耗性試験によって前記織物の表面を1000回摩耗したときの等級判定が3級以上であると良い。
上記構成により、意匠性を向上させながらも、乗り物用途に好適な耐摩耗性を備えた乗り物表皮材を実現することができる。
【0014】
このとき、前記織物が、ポリエステル繊維から構成される糸を用いて形成されており、前記織物における平均表面摩擦係数(MIU)と平均摩擦係数の変動(MMD)との比を示すMIU/MMDが、絹織物におけるMIU/MMDと同等以上であると良い。
上記構成により、絹織物により近い触感を備えた乗り物用表皮材を実現することができる。
【0015】
このとき、前記ヨコ朱子織物の柄による織組織の段差が70μm以下であると良い。
上記構成により、ヨコ朱子織物が柄を有するため、柄なしのヨコ朱子織物よりも意匠性を高めることができる。また、当該柄による織組織の段差が一般的な柄付きの織物よりも小さく設定されているため、耐摩耗性を高めることができる。
【0017】
このとき、前記クッションパッドの表面には、前記乗り物用表皮材の端末を吊り込むための表皮吊り込み溝が形成され、前記織物が、前記クッションパッドの表面において前記表皮吊り込み溝とは異なる位置に配置されていると良い。
上記構成により、表皮材のうち織物で構成された部分が、表皮端末の吊り込みによる引張力の影響を受けにくくなるため、織物の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、意匠性を向上させながら、耐摩耗性を確保した乗り物用シートを実現することができる。詳しく述べると、ヨコ糸の本数を増やすことでヨコ朱子織物の柄を浮き出させることができる。また、ヨコ糸の本数を増やすことで耐摩耗性を高められる。
また上記発明によれば、光沢感を増すことができ、耐摩耗性を高められる。
また上記発明によれば、絹糸よりも耐摩耗性を高めることができ、絹糸のような光沢感を持たせられる。
また上記発明によれば、絹織物に近い光沢感や触感を持たせられる。
また上記発明によれば、乗り物用途に好適な耐摩耗性、絹織物により近い触感を備えた乗り物表皮材を実現できる。
また上記発明によれば、柄による織組織の段差が一般的な柄付きの織物よりも小さく設定されているため、耐摩耗性を高められる。
また上記発明によれば、表皮端末の吊り込みによる引張力の影響を受けにくくなり、また可動部品の動きによる引張力の影響を受けにくくなるため、織物の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態の乗り物用シートの斜視図である。
【
図2】乗り物用シートの部分断面図であって、シートフレームを示す図である。
【
図3】表皮材の一部を構成する織物の積層構造を示す図である。
【
図4A】乗り物用シートの変形例1を示す正面図である。
【
図4B】乗り物用シートの変形例2を示す正面図である。
【
図5A】8枚ヨコ朱子織物の一部を拡大した概略図である。
【
図5B】8枚ヨコ朱子織物の一部を拡大した組織図である。
【
図5C】8枚ヨコ朱子織物の一部を拡大した断面図である。
【
図7】ポリエステル繊維の糸、絹糸、及び本実施形態のポリエステル繊維の糸それぞれの断面図を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る乗り物用シートについて、
図1-
図7を参照しながら説明する。
本実施形態は、織物から一部構成される表皮材(乗り物用表皮材)を備えた乗り物用シートであって、織物が単一の織組織から形成されており、ヨコ2重織によって形成される柄付きのヨコ朱子織物であることを特徴とする乗り物用シートの発明に関するものである。
なお、乗り物用シートのシートバックに対して乗員が着座する側がシート前方側となる。
【0021】
本実施形態の乗り物用シートSは、
図1、
図2に示すように、シートバック1と、シートクッション2と、ヘッドレスト3と、アームレスト4とを備えるシート本体と、シートクッション2に対してシートバック1を回動可能に連結するとともに、シートバック1の回動動作をロックするリクライニング装置5と、シートバック1に対してアームレスト4を回動可能に連結するとともに、アームレスト4の回動動作をロックするアームロック装置6と、から主に構成されている。
【0022】
シートバック1は、
図1、
図2に示すように、着座者の背中を後方から支持する背もたれ部であって、骨格となるバックフレーム1aにクッションパッド10を載置して表皮材20で被覆されて構成されている。
シートクッション2は、着座者を下方から支持する着座部であって、骨格となるクッションフレーム2aにクッションパッド2bを載置して表皮材2cで被覆されて構成されている。
ヘッドレスト3は、着座者の頭を後方から支持する頭部であって、芯材となるヘッドレストピラー3aにクッションパッド3bを載置して表皮材3cで被覆されて構成されている。
アームレスト4は、着座者の腕を下方から支持する腕部であって、骨格となるアームレストフレーム4aにクッションパッド4bを載置して表皮材4cで被覆されて構成されている。
【0023】
リクライニング装置5は、着座者のために可動する「可動部」に相当し、シートバック1の回動動作をロックするためのリクライニング本体5aと、シートバック1の回動軸となるバック回動軸5bと、シートバック1のロック状態を解除するために操作される不図示の操作レバーと、当該操作レバー及びリクライニング本体5aを連結する不図示の連結ケーブルと、から主に構成されている。
アームロック装置6は、同様に「可動部」に相当し、アームレスト4の回動動作をロックするためのアームロック本体6aと、アームレスト4の回動軸となるアーム回動軸6bと、アームレスト4のロック状態を解除するために操作される不図示のアーム操作レバーと、当該アーム操作レバー及びアームロック本体6aを連結する不図示の連結ケーブルと、から主に構成されている。
【0024】
クッションパッド10は、発泡ウレタン等からなるシートバック1のクッション材であって、
図1に示すように、クッションパッド10の表面上のうち、シート幅方向の左右側方部分には、上下方向に延びる第1表皮吊り込み溝11と、左右の第1表皮吊り込み溝11を連結するようにシート幅方向に延びる第2表皮吊り込み溝12とがそれぞれ形成されている。
表皮吊り込み溝11,12は、表皮材20の端末を吊り込むための断面略U字形状の溝であって、第1表皮吊り込み溝11が、シートバック1をシート幅方向においてバック中央部1Aと、バックサイド部1Bとに区画するように配置されている。また、第2表皮吊り込み溝12が、シートバック1の上下方向の略中央部分に配置されている。
なお、シートクッション2のクッションパッド2bの表面上にも同様にして不図示の表皮吊り込み溝が形成されている。
【0025】
表皮材20は、
図1に示すように、伸縮性を有する皮革材料等からなり、シートバック1のクッションパッド10を表面側から被覆可能な形状に形成されている。
詳しく述べると、表皮材20は、複数から構成され、表皮吊り込み溝11,12に対応する位置で互いに縫製されて連結されている。
表皮材20の一部が皮革材料ではなく織物30から構成されている。
【0026】
表皮材20(織物30)の裏面には、
図3に示すように、シート本体の着座感を向上させるとともに、表皮材20の耐摩耗性を高めるべく、発泡材21を介して基布材22が全体にわたって貼り付けられている。
発泡材21は、軟質ウレタンフォーム等の軟質発泡材料であって、基布材22は、布材料等から形成されている。
発泡材21が溶融されることで、表皮材20の裏面に基布材22を貼り付けることができる。
【0027】
織物30は、
図1に示すように、表皮材20の一部として構成され、シートバック1の左右のバックサイド部1Bにおいて上方部分の前面に配置されており、着座者の左右の肩口又は肩口周辺に相当する位置に配置されている。
そのため、織物30が、シートバック1のバック中央部1Aに配置されている場合と比較して、着座者に接触し難い位置に配置されることになり、織物30の表面が摩耗することを抑制することができる。
【0028】
上記構成において、織物30が、シート本体においてリクライニング装置5及びアームロック装置6が取り付けられた部分に対応する位置とは異なる位置に配置されている。
また、織物30が、クッションパッド10の表面において表皮吊り込み溝11,12とは異なる位置に配置されている。
そのため、表皮材20のうち織物30で構成された部分が、表皮端末の吊り込みによる引張力の影響を受けにくくなるため、かつ、可動部品の動きによる引張力の影響を受けにくくなるため、織物の劣化を抑制することができる。
【0029】
<その他の実施形態>
上記実施形態において、
図1に示すように、織物30が、シートバック1の左右のバックサイド部1Bの上方部分に配置されているところ、特に限定されることなく変更可能である。
例えば、
図4Aに示すように、乗り物用シートSの意匠性を高めるために、織物30が、シートバック1のバック中央部1Aの前面に配置されていても良い。
また例えば、
図4Bに示すように、織物30が、シートバック1の左右のバックサイド部1Bの前面と、シートクッション2の左右のクッションサイド部2Bの前面とに配置されていても良い。
そのほか、織物30が、ヘッドレスト3に取り付けられていても良いし、アームレスト4に取り付けられていても良い。
【0030】
上記実施形態において、
図1に示すように、織物30が、リクライニング装置5及びアームロック装置6(可動部)が取り付けられた部分を避けて配置されているところ、その他の可動部についても避けるように配置されていると良い。
着座者のために可動する「その他の可動部」としては、例えば、シートフレームSaに取り付けられ、シート本体の高さ位置を調整する「ハイトリンク装置」や、着座者に向けて空気を送風する「ブロア装置」や、車両の衝突時にエアバッグを膨出展開させて着座者を保護するための「サイドエアバッグ装置」等が挙げられる。
そのほか、クッションパッド2b,10に取り付けられ、着座者の生体情報を検出する「検出センサ(圧力センサ)」や、シート本体の温度を調整可能な「シートヒータ」や、シート本体の形状を調整するために膨縮可能な「エアセル装置」等が挙げられる。
【0031】
上記実施形態では、具体例として自動車に用いられる乗り物用表皮材(乗り物用シート)について説明したが、特に限定されることなく、電車、バス等の乗り物用表皮材のほか、飛行機、船等の乗り物用表皮材としても利用することができる。
また上記実施形態では、具体例として乗り物用シートに用いられる表皮材について説明したが、特に限定されることなく、乗り物用内装部品に用いられる表皮材としても利用することができる
【0032】
<織物の織組織について>
織物30は、
図5A-
図5Cに示すように、「ヨコ2重織」によって形成される「8枚ヨコ朱子織物」であって、「単一の織組織」から形成されている。
また、織物30の柄が、単一の織組織及びヨコ2重織から形成されており、具体的には
図6に示すように、織組織の段差が比較的小さい「青海波文様」となっている。
【0033】
「ヨコ朱子織物」とは、平織物及び綾織物よりもタテ糸とヨコ糸の交差が少なく、ヨコ糸の浮きが多くなる織り方で形成された織物であって、タテ糸とヨコ糸が交差している部分が隣接しないように規則的に飛ばして織られたものである。
糸の交差が多い平織物と比較したときに織物の表面が滑らかで柔軟性があり、また綾織物と比較したときにより光沢感がある織物となる。
ヨコ糸を浮かせている本数(タテ糸とヨコ糸が交差している部分までの本数)によって、例えば5枚ヨコ朱子織物、8枚ヨコ朱子織物、12枚ヨコ朱子織物と分類されており、8枚ヨコ朱子織物の場合には、ヨコ糸を7本浮かせて8本目に交差している部分を形成する。
なお、ヨコ糸を浮かせている本数が多くなるほど光沢感が増し、触感が良くなるものの、耐摩耗性が劣ってくる。
【0034】
「ヨコ朱子織物」の1区間の単位組織を示す完全組織について説明すると、タテ糸とヨコ糸が交差している部分が規則正しく連続しないように飛ばして織られている(この飛ばし方を「朱子の飛び数」と呼んでいる)。
詳しく述べると、タテ糸の本数を1及び公約数を持たない2つの数に分けて、これら2つの数を「朱子の飛び数」として描いたときに、8枚ヨコ朱子織物の朱子の飛び数は「3」又は「5」になる。
【0035】
織物30は、朱子の飛び数が「3」に設定された「8枚ヨコ朱子織物」として形成されており、
図5A,
図5Bに示すように、3飛8枚ヨコ朱子の組織図を描くことができる。
3飛8枚ヨコ朱子の組織図では、8つの交差している部分が、ヨコ糸方向にタテ糸3本ずつ離れて規則正しく配置されている。
そのため、8枚ヨコ朱子織物では、交差している部分同士がスジ状につながりにくく(朱子線が表面に表れにくく)、意匠性に優れた織物になる。
【0036】
織物30は、「ヨコ2重織」によって形成されている。
具体的には
図5Cに示すように、タテ糸を1本、ヨコ糸を2本用いてヨコ糸が2重になるように形成されている(このとき、2本目のヨコ糸を接結糸と呼んでいる)。
そのため、異なる色からなる2本のヨコ糸を交替で浮かせながら織り上げることで、織物30が単一の織組織から形成されているものの、織物30の柄を形成することができる。
また、ヨコ糸の本数を増やしていることで耐摩耗性を高めることができる。
【0037】
<織物の物性について>
本実実施形態の織物30は、「ポリエステル繊維」から構成される「断面略三角形状」の糸を用いて形成されていると好ましい。
「ポリエステル繊維」としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリプロピレン(PP)、ポリ乳酸(PLA)等が挙げられる。
織物30は、
図7に示すように、一般的なポリエステル繊維の糸の断面形状とは異なり、絹糸の断面形状に近づけた断面略三角形状を有している。
詳しく述べると、一般的なポリエステル繊維の糸の場合には断面円形状を有しており、絹糸の場合には角部が丸みを付けた断面三角形状を有しているところ、織物30の糸では、絹糸のように角部が丸みを付けた断面略三角形状を有している。
上記のように、ポリエステル繊維の糸を採用することで絹糸よりも耐摩耗性を高めることができ、また断面三角形状の絹糸に近い形状を採用することで、絹糸のような光沢感を持たせた織物30になることが確認されている。
【0038】
本実施形態の織物30の「ヨコ糸の太さ」は、75~200デニール(d)であって、好ましくは100~150デニール(d)であって、織物30の「ヨコ糸の撚り回数」が150~450回/mとなっていると好ましい。
一般に糸の太さを太くすることで、また糸の撚り回数を大きくすることで光沢感が弱くなっていくところ、上記ように、絹糸の太さに近い糸の太さを採用することで、またヨコ糸の撚り回数を最適化することで、絹織物(例えば、西陣織物)に近い光沢感や触感を持たせた織物30になることが確認されている。
なお、「タテ糸の太さ」及び「タテ糸の撚り回数」は、特に限定されることなく変更可能であるが、好ましくはタテ糸の太さが75~200デニール(d)、タテ糸の撚り回数が0~700回/mであると好ましい。
【0039】
本実施形態の織物30は、ヨコ朱子織物の柄による「織組織の段差」が70μm以下となっていると好ましい。
上記のように、織物30が柄を有するため、柄なしのヨコ朱子織物よりも意匠性を高めることができる。また、当該柄による織組織の段差が一般的な柄付きの織物よりも小さく設定されているため、耐摩耗性を高められることが確認されている。
【0040】
本実施形態の織物30では、JIS L1096(2010) 8.19.3 C法(テーバ形法)に準じた耐テーバ摩耗性試験によって織物30の表面を1000回摩耗したときの等級判定が「3級以上」となっていると好ましい。
また、織物30における平均表面摩擦係数MIUと平均摩擦係数の変動MMDとの比を示す「MIU/MMD」が、絹織物(例えば、西陣織物)におけるMIU/MMDと同等又は同等以上となっていると好ましい。
上記構成により、絹織物(例えば、西陣織物)と同等の触感を持ちながら、絹織物よりも耐摩耗性を向上させた織物30になることが確認されている。
なお、「平均表面摩擦係数MIU」とは、表面の滑り易さを示す指標値であって、「平均摩擦係数の変動MMD」は、表面のざらつき感や凹凸感を示す指標値である。「MIU/MMD」を算出することで対象物の表面の触感を評価することができ、MIU/MMDの数値が大きい程、表面の触感が良好であることを示している。
【実施例】
【0041】
以下、本発明における織物30の実施例について詳しく説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0042】
<耐テーバ摩耗性試験>
「糸の太さ」が異なる無地(タテ糸1本、ヨコ糸1本)の5枚ヨコ朱子織物、8枚ヨコ朱子織物、12枚ヨコ朱子織物を実施例として、JIS L1096(2010) 8.19.3 C法(テーバ形法)に準じた耐テーバ摩耗性試験を行った。
また、「織組織の段差」が異なる柄あり(ヨコ2重織(タテ糸1本、ヨコ糸2本))の8枚ヨコ朱子織物を実施例として、上記耐テーバ摩耗性試験を行った。
なお、その他の物性(物性値)としては、上述した織物30の物性の範囲内で設定した。
【0043】
試験条件として、摩耗輪CS-10、荷重4.9N、摩耗回数1000回に設定した。
各実施例における摩耗後の試験片を観察し、下記の判断基準に従って等級を判定した。
5級:摩耗前と比較して織物の表面状態に変化がない状態
4級:表面にやや毛羽立ちがある状態
3級:表面に毛羽立ちがある状態
2級:表面に毛羽立ちが多く、糸が細くなっている状態
1級:糸切れがある状態
本試験結果を下記表1、表2に示す。
【表1】
【表2】
【0044】
上記表1の試験結果から、「織組織」について、ヨコ糸を浮かせている本数を増やしていく程、耐摩耗性に劣ってくることが分かった。また「糸の太さ」について、摩耗後の試験片を観察したときに、等級判定は同じであるものの「糸の太さ」が細くなる程、表面に毛羽立ちが多くなっており、耐摩耗性に劣ってくることが分かった。
上記表2の試験結果から、ヨコ朱子織物の柄による「織組織の段差」が大きくなってくる程、耐摩耗性に劣ってくることが分かった。
上記表1、表2の試験結果から、「織組織」が柄あり(ヨコ2重織)の5枚ヨコ朱子織(単一組織)又は8枚ヨコ朱子織(単一組織)であって、「織組織の段差」が75μm以下であって、「糸の太さ」が75デニール以上であれば、耐テーバ摩耗性試験による等級判定が「3級以上」となる可能性が高いことが確認された。
【0045】
<触感評価試験>
次に、「糸の太さ」が異なるポリエステル繊維の断面略三角形状の糸を実施例として、上記触感評価試験を行った。
また、「糸の撚り回数」が異なるポリエステル繊維の断面略三角形状の糸を実施例として、上記触感評価試験を行った。
なお、その他の物性としては、上述した織物30の糸の物性の範囲内で設定した。
【0046】
試験条件として、カトーテック製のKES-SE摩擦感テスターを用いて、平均表面摩擦係数(MIU)及び平均摩擦係数の変動(MMD)を測定し、織物表面の触感を示す指標値「MIU/MMD」を算出した。
具体的には、実施例の糸を専用板に50mm幅となるように均一に巻き付けたものを試験片とし、当該試験片の表面を測定した。
なお、コントロールとして、絹糸についても同様に試験を行った。
本試験結果を下記表3、表4に示す(N=3)。
【表3】
【表4】
【0047】
上記表3の試験結果から、「糸の太さ」を大きくしていく程、糸の表面の触感が劣ってくることが分かった。また「糸の太さ」が200デニール以下(特に、100~200デニール)であれば、絹織物の絹糸の触感と同等又は同等以上になってくることが分かった。
上記表4の試験結果から、「糸の撚り回数」を大きくしていく程、糸の表面の触感が劣ってくることが分かった。また「糸の撚り回数」が450回/m以下であれば、絹織物の絹糸の触感値と同等又は同等以上になってくることが分かった。なお、「糸の撚り回数」が500回/mであっても、絹糸の触感に近いものになることが分かった。
【0048】
<光沢性評価試験>
次に、「糸の撚り回数」が異なるポリエステル繊維の断面略三角形状の糸を実施例として、上記光沢性評価試験を行った。
また、「糸の捲縮率」が異なるポリエステル繊維の断面略三角形状の糸を実施例として、上記触感評価試験を行った。
なお、その他の物性としては、上述した織物30の糸の物性の範囲内で設定した。
【0049】
試験条件として、村上色彩技術研究所製のゴニオフォトメーターGP-200を用いて、実施例の糸に対して60度入射角で白色光を当てて、正反射の反射強度(鏡面反射強度)、対比光沢度をそれぞれ測定した。
具体的には、実施例の糸を40mm×50mmの紙製板に均一に巻き付けたものを試験片とし、当該試験片に対して60度入射角で白色光を当てた。
なお、コントロールとして、絹糸についても同様に試験を行った。
本試験結果を下記表5、表6に示す(N=3)。
【表5】
【表6】
【0050】
上記表5の試験結果から、「糸の撚り回数」を大きくしていく程、糸の鏡面反射強度が低くなり、光沢が弱くなっていくことが分かった。また「糸の撚り回数」が400回/mであれば、絹織物の絹糸の光沢と同等になってくることが分かった。
上記表6の試験結果から、「糸の捲縮率」を大きくしていく程、糸の鏡面反射強度が低くなり、光沢が弱くなっていくことが分かった。
【符号の説明】
【0051】
S 乗り物用シート
Sa シートフレーム
1 シートバック
1A バック中央部
1B バックサイド部
1a バックフレーム
2 シートクッション
2A クッション中央部
2B クッションサイド部
2a クッションフレーム
2b クッションパッド
2c 表皮材
3 ヘッドレスト
3a ヘッドレストピラー
3b クッションパッド
3c 表皮材
4 アームレスト
4a アームレストフレーム
4b クッションパッド
4c 表皮材
5 リクライニング装置(可動部)
5a リクライニング本体
5b バック回動軸
6 アームロック装置(可動部)
6a アームロック本体
6b アーム回動軸
10 クッションパッド
11 第1表皮吊り込み溝
12 第2表皮吊り込み溝
20 表皮材(乗り物用表皮材)
21 発泡材
22 基布材
30 織物