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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】スタッド接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
B23K20/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020005348
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021112746
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】西島 進之助
(72)【発明者】
【氏名】武田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藥師神 豊
(72)【発明者】
【氏名】三浦 教昌
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-192356(JP,A)
【文献】特開平11-307596(JP,A)
【文献】特開2008-142739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0158113(US,A1)
【文献】特開2008-080383(JP,A)
【文献】特開昭59-083615(JP,A)
【文献】特開2014-237843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物とスタッドとを接合するスタッド接合方法であって、
前記被接合物の表面に前記スタッドを接触させて加圧するとともに、前記被接合物と前記スタッドとの接合界面に超音波振動を印加して、前記被接合物と前記スタッドとを接合すること、
前記超音波振動を停止した後、前記加圧を保持すること
超音波振動手段により前記スタッドを振動させて、接合界面に前記超音波振動を印加することを含み、
前記被接合物は、Zn系めっき層を有する鋼板である、スタッド接合方法。
【請求項2】
前記被接合物は、その表面に無機系被膜または有機系被膜を有する、請求項1に記載のスタッド接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
被接合物とスタッドとを超音波振動を用いて接合するスタッド接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の構造物においては、鋼板などの被溶接材の表面にスタッド(例えば、ピン、ボルト、ネジ)を取り付ける方法として、スタッド溶接による接合方法が知られている。スタッド溶接においては、スタッドの先端に設けた突起を被溶接部の表面に押し当てて、両者の間にアークを発生させた後、スタッドを被溶接材へ押し付ける。発生したアーク熱により両者の接合部を溶融させて溶接が行われる。図6の(a)および(b)にスタッド溶接を行った後の様子を示す。(a)は、スタッド溶接をした後の状態を示し、(b)は、拭き取り作業を行った後の状態を示す。スタッド2と被溶接材21とが溶融した瞬間にスパッタ22が発生する。図6の(a)に示すように、当該スパッタは、溶接時のガス放出によりスタッド2の周辺に飛散して、被溶接材21の表面に付着する。そのため、図6の(b)に示すように、スタッド溶接を行った後は、被溶接材21の表面に付着したスパッタ22を拭き取って除去する必要があった。しかし、スパッタの拭き残し23が生じて、溶接部の外観を損なうことがあった。
【0003】
上記の問題を解決するため、特許文献1、2のような方法が提案されている。特許文献1は、スパッタに相当するスラグを容易に除去するための方法が開示されている。スタッド溶接を行う前に、溶接部の外周にスラグ付着防止液を塗布して液付着部を形成する。溶接によって飛散したスラグは、液付着部に浮遊するので、溶接後に液付着部を除去することでスラグを取り除くことができる。
【0004】
特許文献2は、スパッタ飛散を一定範囲に留める方法が開示されている。母材表面にスタッド溶接するボルトの溶接面よりも広い面を持ちかつ周辺の母材表面よりもわずかに低い凹みを形成し、この凹みにボルト溶接する。発生したスパッタは、凹み内に留まるので、スタッド周辺へのスパッタ飛散を防止することができる。
【0005】
しかし、特許文献1のスタッド溶接方法は、溶接を行う前に、被溶接材の表面にスラグ付着防止液を塗布する必要があり、溶接後にスラグ付着防止液を拭き取る必要がある。特許文献2のスタッド溶接方法は、溶接を行う前に、母材に凹みを設ける加工を施す必要がある。そのため、特許文献1、2の方法はいずれも、溶接に伴う作業工程が多くなることを避けられない。
【0006】
また、家電、自動車、建材等の分野において、耐食性を備えた素材として、亜鉛、亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金などのめっき層を有する亜鉛系めっき鋼板が広く使用されている。スタッド溶接は、アーク熱によってスタッド接合部を溶接するので、スタッド接合部の周囲のめっき層が溶融し、図6の(b)に示すように、当該めっき層の剥離24が生じた。そのため、溶接した後、当該めっき層の剥離部分を補修する必要があった。
【0007】
さらに、亜鉛系めっき鋼板の耐食性や耐かじり性を向上させるために、亜鉛系めっき層の表面に無機系被膜または有機系被膜を設けた表面処理鋼板が使用されている。当該無機系被膜または有機系被膜が電気的に絶縁性である場合、その表面処理鋼板には溶接するのに十分な通電性を持っていない。そのため、スタッド溶接を適用したときは、あらかじめスタッドの先端に設けられた突起によって表面処理鋼板の被膜を破壊し、十分な通電性を確保する必要があった。あるいは、スタッドを接合する箇所の絶縁性被膜をあらかじめ除去する前処理を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-155139号公報
【文献】特開2013-176799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようにスタッド溶接は、溶接後の作業に手間と時間が掛かっていた。そこで、溶接に代わって、作業効率の良いスタッド接合方法が求められていた。
【0010】
本発明は、作業効率が向上したスタッド接合方法を提供することを目的とする。さらに、めっき層を備えた被接合物に適用した場合には、スタッド周辺のめっき層の剥離が抑制されるスタッド接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、溶接による接合方法に代えて、超音波振動を用いることにより、溶接方法に付随するスパッタ飛散やめっき層剥離などの課題が解消され、実用的な接合強度を有するスタッド接合部が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下の実施形態を含むものである。
【0012】
(1)被接合物とスタッドとを接合するスタッド接合方法であって、前記被接合物の表面に前記スタッドを接触させて加圧するとともに、前記被接合物と前記スタッドとの接合界面に超音波振動を印加して、前記被接合物と前記スタッドとを接合すること、前記超音波振動を停止した後、前記加圧を保持することを含む、スタッド接合方法。
【0013】
(2)超音波振動手段により前記スタッドを振動させて、接合界面に前記超音波振動を印加する、(1)に記載のスタッド接合方法。
【0014】
(3)前記被接合物は、その表面に無機系被膜または有機系被膜を有する、(1)または(2)に記載のスタッド接合方法。
【0015】
(4)前記被接合物は、Zn系めっき層を有する鋼板である、(1)~(3)のいずれかに記載のスタッド接合方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶接方法の場合に生じたスパッタ飛散が起きない。また、めっき層を有する被接合物については、溶接方法の場合に生じためっき層の剥離が起きない。そのため、スパッタ除去やめっき層補修といった接合後の作業を行う必要がないので、接合作業を効率的に行うことができる。また、絶縁性被膜を有する被接合物を使用したときは、溶接方法で行われる被膜除去の前処理を必要としないので、接合作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るスタッド接合方法の実施形態を説明するための模式図である。
図2】超音波振動装置のホーンの接触面の形状を示す図である。
図3】本発明に係るスタッド接合方法の別の実施形態を説明するための模式図であり、(a)は、ホーンの保持部のネジ構造によってスタッドボルトを固定する形態を示し、(b)は、ナットの締め込みによってスタッドボルトをホーンの保持部に固定する形態を示す。
図4】実施例における接合強度の測定方法を説明するための模式図である。
図5】実施例における投入エネルギーと接合強度との関係を示す図である。
図6】従来の溶接によるスタッド接合状態を模式的に示した図であり、(a)は、溶接後の拭き取り作業を行う前の状態を示し、(b)は、拭き取り作業を行った後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。本発明は、以下の説明に限定されるものではない。
【0019】
(スタッド接合方法)
本発明に係るスタッド接合方法は、前記被接合物の表面に前記スタッドを接触させて加圧するとともに、前記被接合物と前記スタッドとの接合界面に超音波振動を印加して、前記被接合物と前記スタッドとを接合することを特徴とする。
【0020】
超音波接合の原理は、次のとおりである。2つの被接合材を重ねて、両者の接触界面に圧力を加えて超音波振動させることにより、接触界面において互いに擦り合い、酸化皮膜や付着物が除去されて清浄な面が露出する。さらに摩擦による発熱によって加熱域が形成される。その結果、接触界面において物質拡散やアンカー効果が生じて、2つの被接合物が接合される。
【0021】
本発明に係るスタッド接合方法は、被接合物の表面にスタッドを接触させて、被接合物およびスタッドの両者を超音波接合装置の工具で挟持する。本発明の実施形態を図1に示す。図1に示すように、被接合物1を超音波接合装置の工具3(ホーン)で支持し、スタッド2を工具4(アンビル)で支持する。被接合物1およびスタッド2を加圧しながら、ホーン3により超音波振動が水平の振動方向7で被接合物1へ印加されると、ホーン3の動きに伴って、被接合物1とスタッド2との接合界面に反力が発生し、当該反力により接合界面で摩擦が起きる。この摩擦の発熱によって加熱域が形成され、被接合物とスタットとが接合される。
【0022】
本発明に係るスタッド接合方法は、超音波接合装置の工具の配置を上記の実施形態と逆にして、スタッドをホーンで支持し、被接合物をアンビルで支持して、スタッドを振動させることにより被接合物との接合界面に超音波振動を印加してもよい。スタッドの支持手段としては、例えば、図3の(a)、(b)に示すように、ホーン3の保持部8の挿入口30にスタッドボルト30を挿入し、スタッドボルト30を機械的に固定することによりホーン3で支持することができる。被接合物1のアンビルによる支持方法は、図示を省略した。
【0023】
(超音波振動手段)
図1に示すように被接合物を振動させる場合、超音波振動を付与する工具であるホーンは、ホーンの振動を被接合物へ確実に伝えるため、図2に示すように、ホーン3が被接合物1と接触する接触面5には、角錐状または円錐状の突起6を多数設けることが好ましい。当該突起6が被接合物1の表面に食い込んで被接合物1を把持し、被接合物1を所定方向へ振動させることができる。
【0024】
図3の(a)、(b)に示すようにスタッドを振動させる場合は、スタッドとの接触面積を確保するため、ホーンの保持部によりスタッドを機械的な支持手段で挟持することが好ましい。図3の(a)、(b)は、スタッドとしてスタッドボルト30を使用した例である。ホーン3の保持部8には、スタッドボルト30を挿入する挿入口9が設けられている。図3の(a)の保持部8は、当該挿入口9の内面が雌ねじ状の構造を有しており、当該挿入口9に挿入されたスタッドボルト30の雄ねじ部と噛み合って、スタッドボルト30をホーン3に固定させる。図3の(b)は、当該挿入口9の内面が筒状であって、当該挿入口9の両端から突出したスタッドボルト30の雄ねじ部に対して両側からナット31を締め込んで、スタッドボルト30をホーン3に固定させる。このような支持手段は、図2に示すホーン接触面5の突起6の摩耗をともなわないので、ホーンの消耗が軽減される。
【0025】
本実施形態では、超音波接合の条件として、周波数を20kHz、振幅を48μm、振動開始時の加圧力を500Nで行うことができる。
【0026】
(振動停止後のホーン保持時間)
本発明に係るスタッド接合方法は、超音波振動を停止した後、加圧を保持することを含むことが好ましい。超音波振動を停止すると、摩擦熱の発生も停止するので、接合部が冷却される。本実施形態では、振動を停止した後、超音波振動を発生する工具(ホーン)の押圧による加圧状態を0.3秒以上で保持することが好ましく、0.5秒以上、1.0秒以上で保持することがより好ましい。振動停止後の加圧の保持時間が過小であると、十分な接合強度を備えた接合部が得られない。これは、振動停止後の冷却時間が接合部のめっき層の凝固に影響することによると推測される。他方、長時間で保持すると、接合強度へほとんど影響しなくなるから、作業性を考慮し、保持時間は、5.0秒以下であればよい。
【0027】
(投入エネルギー)
本実施形態の超音波接合における投入エネルギーは、超音波振動装置が使用した電力(W)と超音波振動を印加した時間(s)との積により算出される。投入エネルギーは、振幅、加圧力、被接合物の種類や厚みなどの条件に応じて、適宜選択できる。投入エネルギーが過少であると、十分な摩擦熱が得られないので、接合強度が不足する。投入エネルギーが過大であると、一時接合されても印加された振動によって再び離れる。そのため、適した範囲で加振することが好ましく、300~575Jの範囲を挙げることができる。
【0028】
(接合強度)
本実施形態に係るスタッド接合方法により得られた接合部の接合強度は、本明細書では、引張試験で得られた最大荷重(単位:kN)の数値で示した。
【0029】
(被接合物)
被接合物の形態は、特に限定されない。板材、形材、管材などに適用できる。板材であることが好ましい。板厚が0.4~2.3mmの鋼板に適用してもよい。
【0030】
被接合物の素材は、特に限定されない。鋼材であることが好ましい。炭素鋼の冷延鋼板や熱延鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、あるいは、それらをプレス加工により成形して組み立てられた構造物や、溶接により組み立てられた形鋼等の構造部材や構造物であってもよい。鉄系材料から組み立てられた鋳造物または鍛造物、切削加工および粉末冶金などにより成形された金属素形材でもよい。
【0031】
被接合物の鋼板にめっきが施されている場合は、少なくともZn(亜鉛)を含有するめっき鋼板に適用することが好ましい。例えば、亜鉛めっき鋼板、Zn-Al合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg-Si合金めっき鋼板、Al-Zn合金めっき鋼板などを使用することができる。
【0032】
(無機系被膜または有機系被膜)
被接合物は、その表面に無機系被膜または有機系被膜を有することが好ましい。次のような皮膜を用いることができる。
【0033】
無機系皮膜は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの酸素酸塩、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのリン酸塩およびバルブメタルのフッ化物からなる群から選択される1種または2種以上の化合物(以下、「バルブメタル化合物」ともいう。)を含むものが好ましい。バルブメタルとは、その酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属をいう。バルブメタルとしては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、SiおよびAlからなる群から選択される1種または2種以上の金属が挙げられる。バルブメタル化合物としては、公知のものを用いてよい。
【0034】
無機系皮膜は、バルブメタルの可溶性フッ化物を含んでいてもよい。可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩を含んでいてもよい。可溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩に含まれる金属の例には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mnが含まれる。難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩に含まれる金属の例には、Al、Ti、Zr、Hf、Znが含まれる。
【0035】
有機系皮膜を構成する有機樹脂は、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、これらの樹脂の組み合わせ、これらの樹脂の共重合体または変性物などを使用することができる。有機系皮膜の中にバルブメタル化合物を分散させて含有させることもできる。特に、柔軟性に優れる点でウレタン系樹脂による皮膜が好ましい。
【0036】
(スタッド)
スタッドは、ピン、ボルト、ネジなどの形態を有するものを使用することができる。スタッドの素材としては、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、軟鋼などを使用してもよい。
【0037】
本発明に係るスタッド接合方法は、スタッド溶接のように接合時にスパッタが発生しないので、接合した後にスパッタを除去する作業を省略することができる。
【0038】
また、被接合物がめっき層を有する場合、スタッドの接合部は、めっき層と接合している。さらに、スタッド接合部の周辺におけるめっき層の剥離を抑制することができる。そのため、スタットボルト周辺のめっき後補修も必要でない。
【0039】
本発明に係るスタッド接合方法は、超音波振動によって引き起こされる摩擦が接合面の被膜を除去し、表面状態を浄化する作用がある。そして、浄化された接合面が摩擦熱によって加熱され、接合界面領域で原子拡散や組織改変が生じて接合部が形成される。そのため、被接合物が絶縁性被膜を有する場合は、絶縁性被膜を除去する前処理を必要としない。また、スタッド先端に突起を設ける必要もないので、接合工程の簡略化やスタッドのコスト削減が可能となる。
【実施例
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
被接合物として、日鉄日新製鋼株式会社製の溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(ZAM(登録商標))の表面にクロムフリーの絶縁性の無機系被膜を形成した表面処理鋼板を用いた。当該めっき鋼板は、板厚が0.6mmであり、基材の鋼組成が質量%でC:0.194%、Si:0.005%、Mn:0.680%、P:0.014%、S:0.007%、残部:Feであった。機械的性質は、降伏応力(YS)が315MPa、引張強さ(TS)が451MPa、伸び(EL)が38%、ビッカース硬さが144HVであった。めっき層の組成は、6質量%Alおよび3質量%Mgを含有するZn合金であり、めっき付着量が片面90g/mであった。
【0042】
被接合物の表面処理鋼板から、長さ60mm、幅35mmのサンプル(以下、「試験材」という。)を切り出した。
【0043】
スタッドは、A1050のアルミニウム製のスタッドボルトを用いた。スタッドボルトの寸法は、M6×長さ20mmであった。
【0044】
A1050の引張強さが80MPaであり、M6スタッドボルトの谷部の直径がΦ4.9mmである。よって、本実施例で使用したスタッドボルトの母材が破断するときの引張荷重は、(4.9÷2)×π×80の式により、約1.5kNと算出される。
【0045】
(超音波接合試験)
【0046】
日本エマソン社製の超音波接合装置を用いて超音波接合試験を行った。図1に示すように、表面処理鋼板の試験材(被接合物1)を超音波接合装置のホーン3に接触させるとともに、スタッドボルト(スタッド2)をアンビル4によって支持した。ホーンの接触面5は、図2に示すように、ホーン3により被接合物1を所定方向へ振動させるため、四角錐状の突起6を5mm×10mmの大きさの領域に備えていた。当該突起6を断面視すると、ほぼ90°の角度の先端を有する直角2等辺三角形が並んでおり、先端同士の間隔が0.8mmの形状を呈していた。ホーン3の接触面5の当該突起6が被接合物1の表面に食い込んで被接合物1を把持した。
【0047】
その後、ホーンの加圧力が500Nに達すると、周波数20kHzの超音波振動を付与して被接合物1を水平方向に振動させた。被接合物1とスタッドボルトは、接合界面において互いに擦り合って、接合された試験体(以下、「接合試験体」という。)が得られた。超音波振動を印加した時間は、0.5~0.8sとした。
【0048】
超音波振動を停止した後は、試験材に対する加圧を一定時間で保持した(この時間を「保持時間」という。)。本実施例では、保持時間を、0s、0.5s、1.0s、5.0sで行った。また、投入エネルギーを300J~600Jの範囲で変化させて、300J、400J、520J、575J、580J、600Jで行った。
【0049】
(接合強度)
接合試験体は、図4に示す引張試験装置10を用いて、垂直方向の引張試験が行われた。引張速度を5mm/minで行い、接合試験体が破断する最大荷重(kN)を求めた。
【0050】
接合試験体18におけるスタッドボルト20は、接合界面と反対側の一端を上側把持具12により把持した。当該上側把持具12は、その中央に雌ねじが切られた凹部を有しており、接合試験体18のスタッドボルト20を当該凹部にねじ込んで上側把持具12に取り付けた。当該上側把持具12は、上側引張治具11と結合されていた。他方、試験材19は、接合界面側の表面に下側把持具14の係止部15を配置した。当該下側把持具14は、試験材19の接合界面と反対側の表面に対向して支持部17を備えており、当該係止部15と当該支持部17とを連結部16で連結し、当該支持部17は、下側引張治具13と結合されていた。当該上側引張治具11および当該下側引張治具13を引っ張って試験が行われた。
【0051】
本実施例は、上記のせん断引張試験で得られた最大荷重の測定値を用いて、接合試験体の接合強度(kN)を評価した。
【0052】
(接合部の外観観察)
スタッドボルトの接合部の周囲において、スパッタの有無と、めっき層の剥離の有無を目視で調べた。
【0053】
振動停止後の保持時間と投入エネルギーによる影響を調べた結果を表1に示す。また、表1における接合試験体No.1~No.4の各数値をプロットして曲線で結んだグラフを図5に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
接合試験体No.1~No.4は、本発明例に相当する。いずれも接合部の周囲には、スパッタが認められず、めっき層の剥離が認められなかった。なお、接合試験体の試験材は、めっき層の上に絶縁性の無機系皮膜を有する表面処理鋼板である。試験材の絶縁性皮膜は、超音波振動が接合界面に付与されたことにより、接合界面から排除されていた。
【0056】
接合試験体No.1~No.4の接合強度は、表1および図5に示すように、投入エネルギーの増大にともない、接合強度が上昇した。保持時間の増大にともない、接合強度が上昇した。
【0057】
投入エネルギーを575Jで超音波接合を行った接合試験体No.4は、保持時間が1.0s、5.0sであるときに1.28kN、1.31kNの接合強度が得られた。それに対し、本実施例で用いたスタッドボルトは、上述したように、その母材が破断されるときの引張強度が約1.5kNであると推定された。接合試験体No.4の当該接合強度は、スタッドボルトの母材強度に比して、それぞれ85%、87%に相当する。このように、本発明に係るスタッド接合方法は、接合強度の点で実用性を有することを確認できた。
【0058】
さらに、接合後の接合部周囲には、スパッタが残存しておらず、めっき層の剥離が生じていなかったことから、接合後に被接合物の表面を補修する必要が無いことを確認することができた。
【0059】
また、絶縁性被膜を備えためっき鋼板であっても、良好な接合を行うことができたことから、従来のスタッド溶接のように溶接前に絶縁性被膜を除去する必要が無いことを確認することができた。
【0060】
<実施例2>
接合試験体のスタッドボルトの接合界面において、めっき層が残存する厚さは、スタッドボルトの中心位置が最も少ないと考えられる。そこで、スタッドボルト中心位置で、測長顕微鏡により残存するめっき層の厚さ(μm)を測定した。この結果を表2に示す。参考例は、接合前の表面処理鋼板のめっき厚さを示す。接合試験体の残存するめっき層の厚さを参考例のめっき厚さで除して残存率(%)を算出した。
【0061】
【表2】
【0062】
接合試験体No.11~No.14は、本発明例に相当する。表2に示すように、投入エネルギーの増加にともない、接合後は、接合界面のめっき層の厚みが低減した。しかし、めっき層が20%以上で残存していたので、接合界面において必要な耐食性を維持できると考えられる。
【0063】
<実施例3>
表面処理鋼板のめっき層を溶融亜鉛めっき(GI)へ変更し、実施例1の接合試験体No.4と同様の接合条件を適用して、保持時間を5sで接合試験体No.31を作製した。実施例1と同様の手順で、接合試験体No.31の接合強度を測定した。
【0064】
接合試験体No.31は、1.24kNの接合強度を示した。この数値は、接合試験体No.4の接合強度(1.31kN)とほぼ同じレベルにあり、Alスタッドボルトの母材強度の推定値(1.5kN)と比べて約83%の高い接合強度であった。
【0065】
<実施例4>
実施例1の溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の表面に無機系皮膜を形成しない当該めっき鋼板を用いて、実施例1の接合試験体No.4と同様の接合条件を適用して、保持時間1.0sおよび5.0sで接合試験体No.41を作製した。実施例1と同様の手順で、接合試験体No.41の接合強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
接合試験体No.41は、保持時間1.0sで1.30kNの接合強度を示し、保持時間5.0sで1.29kNの接合強度を示した。これらの数値は、接合試験体No.4の接合強度(1.28kN、1.31kN)とほぼ同じレベルにあった。絶縁性被膜を有しないめっき鋼板において高い接合強度が得られることを確認できた。
【0068】
<実施例5>
めっき層を有しない被接合物により超音波接合試験を行った。試験材は、SPCC(冷間圧延鋼板)を用いた。スタッドは、軟鋼製のスタッドボルト(M6×長さ20mm)を用いた。それ以外は、実施例1と同じ接合条件を適用して、保持時間1.0sで接合試験体No.51~No.54を作製した。実施例1と同様の手順で、接合試験体No.51~No.54の接合強度を測定した。その結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
めっき層を有しない鋼板に対して軟鋼製スタッドボルトを使用した場合、表4に示すように、接合試験体No.51~No.54は、投入エネルギーの増大にともない、接合強度が上昇した。接合試験体No.53およびNo.54は、1.53kNおよび1.67kNの接合強度を示した。これらの数値は、軟鋼製スタッドボルトの母材強度の推定値(4kN)よりも低いけれども、実施例1のAlスタッドボルトによる接合強度を上回っており、実用的な接合製品が得られることを示した。
【0071】
以上によれば、本発明に係るスタッド接合方法は、絶縁性被膜を有するめっき鋼板、絶縁性被膜を有しないめっき鋼板、被膜を有しない鋼板のいずれにおいても良好な接合性が得られ、さらに、接合後の補修作業を簡略あるいは省略することができるという有用な作用効果を有している。
【符号の説明】
【0072】
1 被接合物
2 スタッド
3 ホーン
4 アンビル
5 ホーン接触面
6 突起
7 振動方向
8 ホーンの保持部
9 挿入口
10 引張試験装置
11 上側引張治具
12 上側把持具
13 下側引張治具
14 下側把持具
15 係止部
16 連結部
17 支持部
18 接合試験体
19 試験材
20 スタッドボルト
21 被溶接材
22 スパッタ
23 スパッタの拭き残し
24 めっき層の剥離
30 スタッドボルト
31 ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6