(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】水系塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20240313BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240313BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D133/14
(21)【出願番号】P 2020044692
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】四ツ▲柳▼ 雄太
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-189713(JP,A)
【文献】特開2009-262001(JP,A)
【文献】特表2009-516638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂エマルションおよびカルボジイミド硬化剤を含有し、
前記アクリル系樹脂エマルションは、水酸基価が40~115mgKOH/g、ガラス転移温度が0~75℃
、酸価が10~30mgKOH/gであり、
(前記カルボジイミド硬化剤の有するカルボジイミド基のモル数)/(前記アクリル系樹脂エマルションの有するカルボキシ基のモル数)で表される比である硬化剤当量が0.01~0.4であることを特徴とする水系塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の金属材料に対して、防食、意匠性向上等の為、塗装が施される。用いられる塗料としては、従前、付着性等に優れることから溶剤系塗料がよく利用されている。また、塗装法として、下塗り、中塗り、上塗りと重ね塗りすることも通常である。
しかしながら、環境問題等の視点からは溶剤系塗料は好ましくなく、水系塗料への置換が望まれている。また、塗装工程の簡易化、短縮化、耐水性も望まれている。
そこで、特許文献1にはアクリル系エマルジョンが配合された水系塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記水系塗料では金属材料に対する付着性が充分なものではなかった。また、乾燥に際しては160℃で20分間のような高温長時間を要するものであった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、金属材料への付着力が高く、また、塗装工程の簡易化を図ることのできる耐水性のある水系塗料を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水系塗料は、アクリル系樹脂エマルションおよびカルボジイミド硬化剤を含有し、アクリル系樹脂エマルションは、水酸基価が40~115mgKOH/g、ガラス転移温度が0~75℃であり、硬化剤当量が0.01~0.4であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属材料への付着力が高く、また、塗装工程の簡易化を図ることのできる耐水性のある水系塗料を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の水系塗料はアクリル系樹脂エマルションおよびカルボジイミド硬化剤を含有する。
本発明のアクリル系樹脂エマルションは、粒子径が40~1000nmの範囲にあるアクリル樹脂を含む高分子粒子が水溶媒中に分散しているものである。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸を含む繰り返し単位からなるポリマーを含む。ここで、(メタ)アクリル酸はアクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
本発明のアクリル系樹脂エマルションは、アクリル樹脂エマルション、アクリルシリコーン樹脂エマルション、アクリルウレタン樹脂エマルション、アクリルスチレン樹脂エマルション、酢酸ビニル-アクリル樹脂エマルション、アクリル-フッ素樹脂エマルション等が使用でき、これらの1種または2種以上を使用することができる。
中でも、堅牢性、耐水性の優れたアクリル樹脂エマルション、アクリルシリコーン樹脂エマルションが好ましく用いられる。
【0008】
アクリル系樹脂エマルションは、水酸基価が40~115mgKOH/gである。60mgKOH/g以上であればより好ましい。他方、100mgKOH/g以下であることがより好ましい。水酸基価が下限値以上であることで塗膜の付着性を高められる。また、上限値以下であることで塗膜の耐水性を高められる。
アクリル系樹脂エマルションは、ガラス転移温度が0~75℃である。5℃以上であればより好ましい。また、70℃以下であればより好ましい。下限値以上であれば堅牢な塗膜硬度が得られる。上限値以下であれば塗膜の付着性に優れる。
アクリル系樹脂エマルションは、酸価が10~30mgKOH/gであることが好ましい。12mgKOH/g以上であればより好ましく、15mgKOH/g以上であれば更に好ましい。他方、25mgKOH/g以下であることがより好ましく、16mgKOH/g以下であればより更に好ましい。酸価が下限値以上であることで塗膜の付着性をより高められる。また、上限値以下であることで塗膜の耐水性を高められる。
水系塗料中に占めるアクリル系樹脂エマルションの樹脂固形分は、10~70質量%が好ましい。10質量%未満であると、塗装作業性に劣り、必要な膜厚を形成しにくくなり、塗膜性能が低下してしまう。70質量%を超えると水系塗料の粘度が高くなり、平滑性が低下し、塗膜外観が損なわれるおそれがある。
【0009】
カルボジイミド硬化剤は、カルボジイミド基(―N=C=N―)を少なくとも1つ有する化合物であれば特に限定されない。中でもカルボジイミド基(―N=C=N―)を分子内に2つ以上有する化合物が好ましい。公知のポリカルボジイミドを用いることができる。
カルボジイミド硬化剤は、その硬化剤当量が0.01~0.4となるように配合される。0.1以上であればより好ましい。また、0.2以下であればより好ましい。硬化剤当量が下限値以上であれば塗膜の耐水性を高められる。また、上限値以下であればアクリル系樹脂エマルションの凝集力を抑制し金属材料に対する付着性を高められる。即ち、付着性を高めるにはアクリル系樹脂エマルションの酸価は高い方が好ましいが、これが却って凝集し易くなって塗膜の剥離要因となりかねない。しかし、この硬化剤当量の上限を規定しておくことにより凝集を抑制し、付着力の低下を防止できる。
また、一般に硬化剤当量を低めにしておくと耐水性の低下を招きかねないが、本発明のように硬化剤としてカルボジイミド系であれば、耐水性の低下を防ぐことができる。
【0010】
本発明の水系塗料には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて他の成分を含んでいても良い。例えば、公知の、消泡剤、粘性調整剤、造膜助剤、凍結抑止剤、分散剤、湿潤剤、水溶性樹脂、浸透助剤、防腐剤、表面調整剤、艶消剤、ゲル化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤、着色顔料、体質顔料、輝度顔料、遮熱顔料、寒水石、着色石、着色ビーズ、艶消ビーズ、着色樹脂チップ等のエマルション塗料に相溶しない意匠材が挙げられる。
尚、水系塗料の具体的な形態は、特に制限されるものではないが、透明性を有するクリア塗料の形態であることが好ましい。クリア塗料の形態であると、塗布する際のベース層となる被塗面のデザインを損なわない為、トップクリアコートとして適用範囲を広げることができる。
【0011】
本発明の水系塗料は、アクリル系樹脂エマルションおよびカルボジイミド硬化剤、その他必要な成分を所定量配合して混合することで製造できる。
【0012】
本発明の水系塗料は、金属材料を対象に一液型塗料として使用することができる。
塗布後には焼付処理を施すことが好ましく、その際の塗膜の焼付温度としては70℃以上とすることが好ましい。70℃未満の場合、塗膜の硬化が不十分となり耐水性が低下するおそれがある。他方、200℃以下であることが好ましい。200℃を越えると塗膜の樹脂が熱劣化してしまうおそれがある。焼付け時間としては焼付温度に応じるが5~30分間が好適である。
【実施例】
【0013】
本実施例は、アクリル系樹脂エマルションおよびカルボジイミド硬化剤を含有する水系塗料の各種性能を評価したものである。
<アクリル系樹脂エマルションの製造方法>
(アクリル系樹脂エマルション(A―1))
攪拌機、冷却器、温度計を備え加温、冷却が可能な重合装置中に、脱イオン水60質量部、サンノールNP-2030(ライオン(株)製アニオン系乳化剤、有効成分30%)6.7質量部を入れ、液面下に窒素ガスを40ml/分の割合で15分間吹き込んだ後、攪拌をしながら内温を80℃まで昇温した。
別の容器にメタクリル酸メチル74質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル16質量部、アクリル酸n-ブチル8.5質量部、アクリル酸1.5質量部を混合し、α-メチルスチレンダイマー1質量部を混合し、次いで、10質量部のサンノールNP-2030とレオコールTD-300(ライオン(株)製ノニオン系乳化剤、有効成分100%)5質量部、脱イオン水35質量部を加え、ワーリングブレンダー(DYNAMIC CORPORATION OF AMERICA製、LB10S型)に入れ、5000rpmで10分間高速攪拌を行い、均一な乳化状態のプレエマルション(以下PE液と略す)を作成し、15分間窒素バブリングを行った。
作成したPE液5質量部を重合容器内へ入れ、内温が安定した時点で過硫酸ナトリウム0.2質量部を脱イオン水1質量部に溶解したものを重合容器内へ投入し、攪拌状態で1時間放置した。
1時間経過後から、PE液の残りと過硫酸ナトリウム2質量部を脱イオン水10質量部に溶解したものを攪拌中の重合容器の内温を80℃に維持しながら、3時間かけて重合容器中に滴下し、滴下完了後、内温を80℃に2時間維持して反応を完結した。
反応完結後、冷却を行い、エマルションのpHが8.5になるようにジメチルエタノールアミンを加え、さらに、固形分が40%となるように脱イオン水を加えてアクリル系樹脂エマルションを得た。
このアクリル系樹脂エマルション(A-1)の組成等を表1示す。
モノマー組成を表1に示す通りに変更した以外は、(A-1)と同様な方法でアクリル系樹脂エマルション(A-2)~アクリル系樹脂エマルション(A-6)を作製した。
【0014】
【0015】
MMA:メタクリル酸メチル
2HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
nBA:アクリル酸nブチル
AA:アクリル酸
【0016】
<水系塗料の製造方法>
表2および表3に示す配合にて混合撹拌し、実施例1~13及び比較例1~11の水系塗料を調製した。
尚、表2および表3は、「造膜助剤」以外は固形分(質量%)で表記している。
表2および表3において、使用した各材料は以下の通りである。
アクリル系樹脂エマルションB:ポリトロンR5118(固形分39%、旭化成株式会社製)
アクリル系樹脂エマルションC:バーノックWE-304(固形分45%、DIC株式会社製)
アクリル系樹脂エマルションD:バーノックWE-306(固形分45%、DIC株式会社製)
アクリル系樹脂エマルションE:アクリセットEF-006(固形分53%、株式会社日本触媒製)
アクリル系樹脂エマルションF:バーノックWE-317(固形分45%、DIC株式会社製)
造膜助剤:テキサノール(EASTMAN CHEMICAL社製)
粘性調整剤:アデカノールUH-420(有効成分30%、株式会社ADEKA製)
硬化剤A(イソシアネート硬化剤):バーノックDMW5500(有効成分80%、NCO含有量13.5%、DIC株式会社製)
硬化剤B(エポキシ硬化剤):デナコールEX521(有効成分100%、当量183、ナガセケムテックス株式会社製)
硬化剤C(カルボジイミド硬化剤):カルボジイミドV-02(有効成分40%、当量590、日清紡ケミカル株式会社製)
【0017】
<水系塗料の性能評価>
実施例1~13、比較例1~10の水系塗料を、ドライ膜厚が10μmとなるように金属基材(真鍮)にエアスプレーで塗布した。各水系塗料を塗布した後、110℃の乾燥温度で5分間乾燥したものを試験体とし、各評価を行った。評価結果を表2、表3に示した。
「堅牢度」
プラスチック棒で、荷重500g、スピード1cm/秒の条件で表面を擦り、塗膜外観を下記基準により評価した。
評価基準(外観/目視)
〇:塗膜に欠けが無い
△:塗膜に長さが2mm以下の欠けが1か所見られる
×:塗膜に欠けが2か所以上みられる
【0018】
「初期外観および初期付着性」
下記の評価基準により塗膜の初期外観の目視評価を行った。
評価基準(外観/目視)
○:無色透明である
×:濁り、艶引けなどが確認できる
また、水系塗料の金属基材への付着性を評価する為、JIS K 5600-5-6を参考に、付着試験を行った。具体的には、上記試験体の塗膜表面にカッターナイフで、幅1mm間隔の碁盤目状(5マス×5マスの計25マス目)を形成するように切れ込みを入れた。この面にセロハンテープを貼り、爪で強くこすって密着させた後、一気にセロハンテープを剥がし付着性を評価した。結果を以下の評価基準にて評価した。
評価基準(付着性試験)
○:剥離なし
△:剥離面積が10%未満
×:剥離面積が10%以上
【0019】
「耐沸騰水性」
試験体を沸騰水に10分間浸漬し、取り出した直後の塗膜外観を評価した。さらに塗膜を23℃で1時間乾燥させて、塗膜外観および上記付着性試験を行い下記基準により評価した。
評価基準(外観/目視)
○:初期と変化無し
△:取り出し直後に濁りが確認できる
×:濁り、艶引けなどが確認できる
評価基準(付着性試験)
○:剥離なし
△:剥離面積が10%未満
×:剥離面積が10%以上
【0020】
「耐溶剤性」
試験体をパークロロエチレンに20分間浸漬した後に、塗膜を23℃で1時間乾燥させて、塗膜外観を下記基準により評価した。
評価基準(外観/目視)
○:初期と変化無し
△:わずかに黄変がみられる
×:シワ、剥離がみられる
【0021】
「防食性試験」
金属基材に対する防食性をJIS K5600-7-1:1999塩水噴霧試験を参考に行った。具体的には、塩水噴霧試験機に試験体を24時間入れた後の塗膜外観を下記基準により評価した。
評価基準(外観/目視)
○:初期と変化無し
×:錆などが見られる
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
本実施例の水系塗料であれば110℃×5分間の簡易・短縮化された焼付処理でありながら、金属基材に対して高い付着性を示した。また、高温や塩水に対しても高い耐水性を発揮した。さらに堅牢度や耐溶剤性にも優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の水系塗料は、一液型塗料として使用することができ、使用勝手の良いものである。
本発明の水系塗料は、種々の金属材料に対して用いることができる。例えば、真鍮、アルミニウム、銅、銅合金、アルミニウム合金等に対して好適であり、これらの金属を使った、家電製品、電気機器、自動車部品、ファスナー、金属サッシ、建築部材等の各種の部品の使用に適切である。