(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20240313BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240313BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240313BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08K3/26
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2020065846
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】北村 臣将
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306965(JP,A)
【文献】特開2013-072004(JP,A)
【文献】特開2014-162810(JP,A)
【文献】特開2015-013974(JP,A)
【文献】特開2008-303325(JP,A)
【文献】特開2011-219560(JP,A)
【文献】特開2015-232114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを30~200質量部、および無機充填材を前記シリカに対し0.7~2.5質量%配合してな
り、
前記無機充填材は、石灰化した海藻である
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記無機充填材が、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種を含むことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項
1または2に記載のゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、耐摩耗性を低下させることなく粘弾性バランスが改善されたゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりやラベリング制度を受けて、当業界では低燃費タイヤが上市されている。従来より、空気入りタイヤの転がり抵抗性はtanδ(60℃)が指標とされ、このtanδ(60℃)を低減するとともに、ウェット性能および耐摩耗性を両立するには、高シリカ配合や小粒径のシリカを配合する等の手法が用いられている。
シリカはゴムに対する親和性が乏しく、分散性の改善が重要となる。そこで
図1に示すように、ゴムにシランカップリング剤を添加し、ゴム混合中にシリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤とを反応させシリカを分散させる手法があるが、未反応のシラノール基が残存し、所望の効果が得られないという問題点がある。
【0003】
また、
図2に示すように例えば脂肪酸亜鉛塩のような添加剤を加えるとシラノール基と反応しOH基が減少するが、シリカ表面のシラノール基の大部分を消失させるには亜鉛量を増大させる必要があるため、ゴム加硫時に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0004】
なお、下記特許文献1には、本発明の実施例に使用される石灰化した海藻が開示されている。しかし、特許文献1は皮膚外用剤に関するものであり、本発明とは技術分野が異なる。また、石灰化した海藻をゴム組成物に配合し、耐摩耗性を低下させることなく粘弾性バランスを改善しようとする技術思想は何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐摩耗性を低下させることなく粘弾性バランスが改善されたゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムに対し、シリカおよび無機充填材を特定量で配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0008】
すなわち本発明は、ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを30~200質量部、および無機充填材を前記シリカに対し0.7~2.5質量%配合してなることを特徴とするゴム組成物を提供するものである。
また本発明は、前記無機充填材が、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種を含むことを特徴とする前記ゴム組成物を提供するものである。
また本発明は、前記無機充填材は、石灰化した海藻であることを特徴とする前記ゴム組成物を提供するものである。
また本発明は、前記ゴム組成物を使用した空気入りタイヤを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを30~200質量部、および無機充填材を前記シリカに対し0.7~2.5質量%配合してなることを特徴としているので、耐摩耗性を低下させることなく粘弾性バランスが改善されたゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
本発明では、無機充填材に含まれるミネラル分が、
図1に示すようなシリカ表面の未反応のシラノール基をキャップすることができ、これによりゴム中のシリカの分散性が良好となり、上記所望の効果を発現することができる。
また、無機充填材がカルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種を含む形態によれば、上記のシリカ表面の未反応のシラノール基のキャップがさらに良好に行われるとともに、
図2に示すような亜鉛化合物が添加されている場合は、亜鉛と当該元素の少なくとも2種とがイオン交換して亜鉛が放出され、これがゴムの架橋に関与して本発明の上記効果をさらに高めるものと推察される。
また、無機充填材が石灰化した海藻である形態によれば、該海藻はカルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種を多く含むことから、少量の配合で上記のシリカ表面の未反応のシラノール基のキャップをさらに良好に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ゴム中の、シリカ表面の未反応のシラノール基を説明するための模式図である。
【
図2】ゴム中の、シリカ表面の未反応のシラノール基が亜鉛によりキャップされる状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0013】
(シリカ)
本発明に使用されるシリカとしては、具体的には、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シリカは、ウェット性能向上の観点から、CTAB吸着比表面積が100~300m2/gであるのが好ましく、120~200m2/gであるのがさらに好ましい。
なお、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面への臭化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0014】
(無機充填材)
本発明で使用される無機充填材は、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種を含むことが好ましく、この条件を満たす無機充填材としては、例えばクレーや下記で説明する石灰化した海藻等が挙げられる。
【0015】
クレーの成分分析(SEM-EDX)の一例としては、主な成分として(質量%)、
C:15%
O:56%
Si:14%
K:3.6%
Al:10%
Fe:1.3%
を含むものであり、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種を含んでいる。
【0016】
また、前記石灰化した海藻としては、特許文献1に開示されているように、海藻が海中のミネラル成分を吸着して得られるものであり、例えば、紅藻類海藻の石灰質残渣であり、好ましくはサンゴモ科海藻の石灰質残渣である。
【0017】
サンゴモ科海藻としては、例えば、Lithothamnium corallioides、Phymatolithon calcareum、Lithothamnium glacialeなどが挙げられる。これらのサンゴモ科海藻は、冷たく穏やかな海に豊富にある海藻であり、このサンゴモ科海藻が枯れた後に残る石灰質残渣は、90質量%以上が無機質であり、主に炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムからなる。
【0018】
石灰化した海藻は、海底より浚渫された状態でも使用できるが、砂や貝殻などの夾雑物が含まれることから、これらの一部又は全部を、海水や真水などで洗浄することや、篩別、手作業により選別することなどの上記夾雑物を除去する方法を単独又は2種以上を組合せて、上記夾雑物が除去されたものであることが好ましい。また、石灰化した海藻は、例えば、海底より浚渫された状態から夾雑物を取り除き、さらに過酸化水素水処理や加熱処理などで殺菌し、乾燥したものであることがより好ましい。石灰化した海藻は、加工性の観点から、粉砕及び粉末化されたものであることがさらに好ましい。
【0019】
該粉末を得るための石灰化した海藻の乾燥手段は特に限定されないが、例えば、水分を含む石灰化した海藻を、日干しや熱風乾燥などにより乾燥することにより乾燥物を得ることができる。乾燥の程度は、石灰化した海藻の水分含有量が十分に低下したことが確認されるまでの程度であればよく、例えば、水分含有量が10wt%以下、好ましくは5wt%以下となるまでの程度である。
【0020】
粉末化の方法としては、例えば、当業者が通常用いる方法であるボールミル、ハンマーミル、ローラーミルなどにより、石灰化した海藻を粉砕及び粉末化する方法が挙げられるが、これらに限定されない。乾燥と粉末化の順序を入れ替えて、乾燥前の石灰化した海藻を予め粉砕しておき、この粉砕物を乾燥して粉末とすることもできる。
【0021】
このような石灰化した海藻の粉末は市販されているものでもよく、例えば、AQUAMIN(MARIGOT社)、海藻カルシウムIT-1(太陽化学株式会社製)、アクアミネラル(日本バイオコン株式会社製)等が挙げられる。
【0022】
石灰化した海藻の粉末の比表面積は、4.0~13.0m2/gが好ましく、6.0~12.0m2/gがさらに好ましい。このような比表面積を有することで、ゴム組成物の混練中に粉末がさらに崩壊して微細化しやすくなり、シリカ表面の未反応のシラノール基を良好にキャップできる効果を奏する。なお、該粉末の粒径は、0.05μm~50μmが好ましい。
【0023】
石灰化した海藻、例えばアクアミネラル(日本バイオコン社)の成分分析(SEM-EDX)の一例としては、主な成分として(質量%)、
C:16%
O:53%
Ca:28%
Mg:約3%
を含むものであり、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種を含んでいる。
【0024】
本発明で使用される無機充填材において、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種は、11~45質量%含まれているのが好ましく、14~45質量%含まれているのがさらに好ましい。
【0025】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを30~200質量部、および無機充填材を前記シリカに対し0.7~2.5質量%配合してなることを特徴とする。
ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカの前記配合量が30質量部未満では、ゴム組成物の機械的特性や耐摩耗性が悪化し、逆に200質量部を超えると加工性が悪化する。
シリカに対し、無機充填材の前記配合量が0.7質量%未満では、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができず、逆に2.5質量%を超えると耐摩耗性が低下する。とくに無機充填材として石灰化した海藻を使用した場合、その配合量がシリカに対して2.5質量%を超えると、ゴム中の良好な分散が得られない。
【0026】
前記シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、30~150質量部が好ましい。
前記無機充填材の配合量は、シリカに対し、0.9~2.5質量%が好ましい。
【0027】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛;カーボンブラック;各種充填剤;老化防止剤;可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
なお、シランカップリング剤を配合する場合、ジエン系ゴムとシランカップリング剤とを混練した後、無機充填材を配合し、混練するのが好ましい。
【0028】
本発明では通常の混練条件によって、無機充填材に含まれる、好ましくはカルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも2種が、シリカ表面の未反応のシラノール基をキャップすることが可能となる。
【0029】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに適しており、空気入りタイヤの、トレッド、とくにキャップトレッドに適用するのがよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0031】
実施例1~4および比較例1~3
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、無機充填材、加硫促進剤および硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、次いでそこに無機充填材を投入して混練し、ゴムをミキサー外に放出して室温冷却した。次いで、該ゴムを同ミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0032】
E’(20℃):JIS K6394に準拠し、東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメータを用い、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、20℃における貯蔵弾性率E’(20℃)を求めた。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が大きいほど貯蔵弾性率が高いことを意味する。
【0033】
tanδ(60℃):JIS K6394に準拠して60℃で試験した。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が小さいほど転がり抵抗性が低いことを意味する。
【0034】
なお、前記E’(20℃)/tanδ(60℃)の値が大きいほど、粘弾性バランスに優れ、高硬度および低転がり抵抗性を両立できることを意味する。
【0035】
耐摩耗性:岩本製作所株式会社製のランボーン摩耗試験機を用い、荷重5kg(49N)、スリップ率25%、時間4分、室温の条件にて測定し摩耗減量を求めた。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
【0036】
結果を表1に併せて示す。
【0037】
【0038】
*1:SBR(日本ゼオン株式会社製Nipol 1739、スチレン量40質量%、油展量=SBR100質量部あたり37.5質量部)
*2:BR(日本ゼオン株式会社製Nipol BR1220)
*3:シリカ(ローディア社製Zeosil 1165MP、CTAB比表面積=159m2/g)
*4:カーボンブラック(キャボットジャパン株式会社製ショウブラックN339)
*5:石灰化した海藻(日本バイオコン株式会社製アクアミネラルT、平均粒径=5μm、比表面積=8.1m2/g)
*6:酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種)
*7:ステアリン酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸)
*8:老化防止剤(Solutia Europe社製Santoflex 6PPD)
*9:ワックス(大内新興化学工業株式会社製パラフィンワックス)
*10:アロマオイル(昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S)
*11:シランカップリング剤(Evonik Degussa社製Si69、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
*12:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*13:加硫促進剤1(大内新興化学工業株式会社製ノクセラーCZ-G)
*14:加硫促進剤2(住友化学株式会社製ソクシノールD-G)
*15:クレー(山陽クレー社製カタルポY-K)
【0039】
表1の結果から、実施例1~4のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを30~200質量部、および無機充填材を前記シリカに対し0.7~2.5質量%配合してなることを特徴としているので、比較例1に比べて、耐摩耗性を低下させることなく粘弾性バランスが改善されていることが分かる。
これに対し、比較例2は、無機充填材の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、各種特性が改善されなかった。
比較例3は、無機充填材の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、ゴム中の分散性が悪化し、tanδ(60℃)および耐摩耗性が改善されなかった。