(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】走行経路設定システム及び走行経路設定方法
(51)【国際特許分類】
B64F 1/22 20240101AFI20240313BHJP
【FI】
B64F1/22
(21)【出願番号】P 2020083593
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 いずみ
(72)【発明者】
【氏名】水谷 友哉
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137521(JP,A)
【文献】特開2019-109695(JP,A)
【文献】特開2020-027321(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054443(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104875796(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0282565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64F 1/00- 5/60
G05D 1/00
G08G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機に対する地上支援作業を行う複数の地上支援装置の走行経路を設定する走行経路設定システムであって、
前記航空機の停止位置及び機種情報に基づいて、前記各地上支援装置の作業位置を決定する作業位置決定部と、
前記各地上支援装置の現在位置を取得する現在位置取得部と、
前記各地上支援装置の前記現在位置から前記作業位置に至るまでの走行経路を設定する経路設定部と、
を備え
、
前記経路設定部は、前記航空機を含む作業エリア内に設定された平面グリッドのマス単位で前記走行経路を設定することを特徴とする走行経路設定システム。
【請求項2】
前記経路設定部は、前記各地上支援装置を前記作業位置に移動させる順番を決定することを特徴とする請求項
1に記載の走行経路設定システム。
【請求項3】
前記経路設定部は、前記各地上支援装置に優先順位をつけ、当該優先順位に基づいて前記各地上支援装置を前記作業位置に移動させる順番を決定することを特徴とする請求項2に記載の走行経路設定システム。
【請求項4】
前記各地上支援装置の少なくとも進行方向前方に他の前記地上支援装置が進入できない予約領域を設定する予約領域設定部をさらに備えることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の走行経路設定システム。
【請求項5】
航空機に対する地上支援作業を行う複数の地上支援装置の走行経路を設定する走行経路設定方法であって、
前記航空機を含む作業エリア内に平面グリッドを設定する平面グリッド設定ステップと、
前記平面グリッド、前記航空機の停止位置及び機種情報に基づいて、前記各地上支援装置の作業位置を決定する作業位置決定ステップと、
前記各地上支援装置の現在位置を取得する現在位置取得ステップと、
前記各地上支援装置の前記現在位置から前記作業位置に至るまでの走行経路を前記平面グリッド
のマス単位で設定する経路設定ステップと、
を含む走行経路設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機に対する地上支援作業を行う複数の地上支援装置の走行経路を設定する走行経路設定システム及び走行経路設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空港には、航空機に対する種々の地上支援作業を行うため、複数の地上支援装置が配備されている。このような地上支援装置はGSE(Ground Support Equipment)と呼ばれており、GSEにはハイリフトローダ、ベルトローダ、給油車、トーイングトラクタ、空港電源車等の様々な種類がある。従来、GSEの操作を行う作業者は、自分の作業内容及びゲート番号等の作業場所を確認してから、GSEを運転して作業場所へと向かっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
航空機は、機種ごとに乗降口、貨物の搬出入口、給油口、電源口等の位置が異なる。このため、作業者がGSEを運転して作業対象となる航空機に到着しても、作業を円滑に進めるためには、具体的に航空機のどのあたりにGSEを停止させるべきか分からなくなることがあった。その結果、GSEを適切な作業位置まで移動させるのに時間がかかったり、他のGSEの作業の妨げになったりすることで、円滑な地上支援作業が行えなくなるおそれがあった。
【0004】
本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであり、地上支援装置で航空機に対する地上支援作業を行う際に、円滑な地上支援作業の遂行を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る走行経路設定システムは、航空機に対する地上支援作業を行う複数の地上支援装置の走行経路を設定する走行経路設定システムであって、前記航空機の停止位置及び機種情報に基づいて、前記各地上支援装置の作業位置を決定する作業位置決定部と、前記各地上支援装置の現在位置を取得する現在位置取得部と、前記各地上支援装置の前記現在位置から前記作業位置に至るまでの走行経路を設定する経路設定部と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る走行経路設定方法は、航空機に対する地上支援作業を行う複数の地上支援装置の走行経路を設定する走行経路設定方法であって、前記航空機を含む作業エリア内に平面グリッドを設定する平面グリッド設定ステップと、前記平面グリッド、前記航空機の停止位置及び機種情報に基づいて、前記各地上支援装置の作業位置を決定する作業位置決定ステップと、前記各地上支援装置の現在位置を取得する現在位置取得ステップと、前記各地上支援装置の前記現在位置から前記作業位置に至るまでの走行経路を前記平面グリッドに基づいて設定する経路設定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、航空機の停止位置及び機種情報に基づいて地上支援装置の作業位置が決定されるとともに、作業位置までの走行経路が自動で設定されるので、地上支援装置を正確且つ迅速に作業位置まで移動させることができる。したがって、円滑な地上支援作業の遂行が可能となる。
【0008】
本発明において、前記経路設定部は、前記航空機を含む作業エリア内に設定された平面グリッドに基づいて前記走行経路を設定することが好ましい。
【0009】
平面グリッドに基づいて走行経路を設定すれば、作業エリア内に地上支援装置の自動運転に必要となる白線やマーカー等がなくても、地上支援装置を自動運転で移動させることができる。
【0010】
本発明において、前記経路設定部は、前記各地上支援装置を前記作業位置に移動させる順番を決定することが好ましい。
【0011】
各地上支援装置の移動の順番を決定することによって、ある地上支援装置が他の地上支援装置の移動の邪魔になることを防止できる。
【0012】
本発明において、前記各地上支援装置の少なくとも進行方向前方に他の前記地上支援装置が進入できない予約領域を設定する予約領域設定部をさらに備えることが好ましい。
【0013】
このような予約領域を設定することによって、カメラやレーダー等を搭載していない地上支援装置であっても、他車との衝突を確実に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る走行経路設定システムを含む地上支援設備を示すブロック図である。
【
図2】停止中の航空機付近の様子を模式的に示す平面図である。
【
図3】GSEを作業位置まで移動させる際の一連の処理を示すフローチャートである。
【
図4】作業エリアに設定した平面グリッドを示す平面図である。
【
図5】GSEの作業位置の一例を示す平面図である。
【
図6】GSEの走行経路の一例を示す平面図である。
【
図7】GSEの予約領域の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る走行経路設定システムを備えた地上支援設備の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(地上支援設備)
図1は、本実施形態に係る走行経路設定システム3を含む地上支援設備1を示すブロック図である。
図2は、停止中の航空機100付近の様子を模式的に示す平面図である。地上支援設備1は、航空機100に対して地上支援作業を行うための設備であり、GSE管制システム2、走行経路設定システム3、及び、複数のGSE4を有して構成される。本明細書では、航空機100に地上支援作業を行う地上支援装置をGSE(Ground Support Equipment)と言う。地上支援作業には、乗客の乗降の補助、貨物及び手荷物の搬出入、燃料の補充、機内外の清掃、機内食の搬出入、機体設備の点検、除氷作業、航空機の移動、電源の提供等がある。
【0017】
GSE管制システム2は、空港に離発着する航空機100を管理する、図示しない航空管制システムと接続されている。航空管制システムは、空港に離発着予定の航空機100の機種、着陸予定時刻、離陸予定時刻等のフライトスケジュールを有している。GSE管制システム2は、航空管制システムからこれらの情報を受信し、GSE4の運行スケジュールや地上支援作業を行う作業者のスケジュールを生成し、スケジュールの管理を行う。GSE4の異常・故障や事故、作業の遅れ、作業者の不調等により、スケジュールに遅延が発生すると予想される場合、または、遅延が発生した場合、GSE管制システム2はGSE4または作業者のスケジュールを再度スケジューリングし直したりすることで、地上支援作業の遅れを補正する。GSE4の異常やスケジュールの遅延などは、GSE4に搭載された各種センサや、作業者が自身のスケジュール等を確認するために持ち歩いている作業者端末等からの情報を、GSE管制システム2で解析し判断する。
【0018】
GSE管制システム2は、空港の地図、航空機100の機種情報が含まれるGSE4の運行スケジュール等に関する情報を走行経路設定システム3に提供する。走行経路設定システム3については、後で詳細に説明するが、GSE4の走行経路を設定するのが主な機能である。各GSE4は、自動運転可能に構成されており、位置情報取得部41及び走行制御部42を有する。位置情報取得部41は、例えば、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)信号を受信して自車の位置情報を取得する。自車の位置情報は、GPS以外の測位方式を用いて取得してもよい。走行制御部42は、走行経路設定システム3から送られてきた走行経路及び位置情報取得部41で取得した自車の位置情報に基づいて、自車の走行制御を行う。
【0019】
GSE4は、走行経路設定システム3から送られてきた走行経路に従って走行し、目的地に到着すると、到着した旨を走行経路設定システム3及びGSE管制システム2へ送信する。これを受信することで、走行経路設定システム3及びGSE管制システム2は、GSE4が設定した経路通り、または、設定したスケジュール通りに目的地へ到着したかを判断することが可能である。さらに、GSE4が到着した旨を伝達するのは、走行経路設定システム3及びGSE管制システム2のどちらか一方でもよいし、走行経路設定システム3またはGSE管制システム2がGSE4の現在地を監視することで、GSE4が目的地に到着したことを確認してもよい。
【0020】
図2に示すように、航空機100は着陸後、空港ターミナルの所定のゲート101まで移動して停止する。停止中の航空機100に対して、複数のGSE4による地上支援作業が行われる。以下では、航空機100を含み、複数のGSE4による地上支援作業が行われるエリアを作業エリア102と呼ぶ。複数のGSE4は、所定の待機所104で待機している。各GSE4は、作業エリア102や待機所104の周りに設定されている通行路103を走行して、作業エリア102と待機所104との間を移動する。なお、各GSE4は、待機所104ではなく不図示のメンテナンス場や駐機場で待機していてもよいし、他の作業エリアから直接作業エリア102に移動してもよい。
【0021】
GSE4の一例としては、航空機100に給油を行う給油車4A、乗客の手荷物を機内に搬出入するベルトローダ4B、貨物を搬送するトーイングトラクタ4C、貨物(コンテナ)を機内に搬出入するハイリフトローダ4D、航空機100の乗降口とゲート101とを接続するボーディングブリッジ4E、4F等がある。
【0022】
ここで、地上支援作業を行う際には、給油車4Aであれば航空機100の給油口付近へ、ハイリフトローダ4Dであれば航空機100の貨物搬出入口付近へ向かう必要がある。ところが、航空機100の給油口、貨物搬出入口、乗降口、電源口等の位置は機種によって異なる。このため、各GSE4の具体的な作業位置がわからず、各GSE4が作業エリア102内で右往左往することで、各GSE4を作業位置まで移動させるのに時間がかかったり、あるGSE4が他のGSE4の作業の妨げになったりするおそれがあった。
【0023】
このような問題を解決するため、本実施形態では、走行経路設定システム3によってGSE4の作業位置を決定し、GSE4の現在位置から作業位置までの走行経路を設定するように構成されている。ある航空機100に対してどのGSE4で地上支援作業を行うかは、GSE管制システム2から送られてくる運行スケジュールによって予め決められている。以下、走行経路設定システム3の詳細について説明する。
【0024】
(走行経路設定システム)
走行経路設定システム3は、作業位置決定部31、現在位置取得部32、経路設定部33、及び、予約領域設定部34を有している。走行経路設定システム3は、GSE管制システム2及び各GSE4のそれぞれと通信可能に構成されている。
【0025】
作業位置決定部31は、航空機100の停止位置及び機種情報等に基づいて、作業エリア102内における各GSE4の作業位置を決定する。航空機100の停止位置は、GSE管制システム2から送られてきた空港の地図情報や機種情報等から決められる。現在位置取得部32は、各GSE4の現在位置を各GSE4の位置情報取得部41から取得する。経路設定部33は、各GSE4の現在位置から作業位置に至るまでの走行経路を設定する。予約領域設定部34は、各GSE4の少なくとも進行方向前方に他のGSE4が進入できない予約領域を随時設定する。以下では、走行経路設定システム3によって具体的にどのような処理を行うかについて説明する。
【0026】
図3は、GSE4を作業位置まで移動させる際の一連の処理を示すフローチャートである。まず、走行経路決定システム3の作業位置決定部31は、
図4に示すように、作業エリア102に平面グリッドGを設定する(ステップS11、平面グリッド設定ステップ)。平面グリッドGを設定する際には、GSE管制システム2から送られてきた空港の地図情報や航空機100の機種情報等から航空機100の停止位置が求められる。そして、ゲート101に停止している航空機100を含む作業エリア102に格子状の平面グリッドGが設定される。平面グリッドGの大きさやマスの細かさは、例えば航空機100の大きさに応じて変更するようにしてもよい。また、平面グリッドGは予め固定的に設定されていてもよい。
【0027】
続けて、走行経路決定システム3の作業位置決定部31は、各GSE4の作業位置を決定する(ステップS12、作業位置決定ステップ)。
図5には、作業位置の一例として、給油車4Aの作業位置P1及びハイリフトローダ4Dの作業位置P2を図示している。作業位置P1、P2は、航空機100の停止位置及び機種情報等に基づいて、平面グリッドGのマス単位で設定される。また、走行経路決定システム3の現在位置取得部32は、地上支援作業を行う各GSE4の現在位置を取得する(ステップS13、現在位置取得ステップ)。
【0028】
次に、走行経路決定システム3の経路設定部33は、地上支援作業を行う各GSE4の現在位置から作業位置までの走行経路を設定し、各GSE4に送信する(ステップS14、経路設定ステップ)。
図6には、走行経路の一例として、給油車4Aの走行経路R1及びハイリフトローダ4Dの走行経路R2を図示している。走行経路R1、R2は、平面グリッドGの設定エリアの外側においては、基本的に通行路103を通るように設定される。また、平面グリッドGの設定エリア内では、走行経路R1、R2はマス単位(
図6のハッチング参照)で設定される。
【0029】
自車の走行経路を受信した各GSE4は、設定された走行経路に沿って走行を開始する(ステップS21)。このとき、一斉に各GSE4が移動を開始すると、GSE4同士が干渉することがあるので、経路設定部33は、各GSE4の走行経路の設定時に各GSE4を移動させる順番も決定するのが好ましい。例えば、最初に給油車4Aを移動させ、給油車4Aが平面グリッドG内に進入したタイミングで、ハイリフトローダ4Dの移動を開始させるようにすれば、給油車4Aとハイリフトローダ4Dの干渉を防止できる。
【0030】
各GSE4の走行制御部42は、通行路103を走行している間は、走行レーンを示す白線等を認識することによって、一般的な手法で自動運転を実現することができる。しかしながら、作業エリア102には走行レーンを示す白線やマーカーはないし、航空機100の停止位置や機種によって走行経路は毎回変わるため、一般的な自動運転の手法を採用することは難しい。そこで、各GSE4は作業エリア102内、すなわち、平面グリッドGの設定エリア内に入ると、次のようにして自動運転を行う。
【0031】
各GSE4は、走行経路決定システム3から走行経路に関する情報を受け取る際に、平面グリッドGの座標情報も一緒に受け取る。各GSE4の走行制御部42は、平面グリッドGの設定エリア内を走行する際には、随時、自車の現在位置を取得し、平面グリッドGのどのマスにいるかを把握する。そして、次に進むべきマスを確認しながら走行経路に沿った走行を行う。
【0032】
平面グリッドGの設定エリア内でのGSE4同士の衝突を避けるため、走行経路決定システム3の予約領域設定部34は、各GSE4の少なくとも進行方向前方に他のGSE4が進入できない予約領域をマス単位で設定し、全てのGSE4に送信する(ステップS15)。
図7には、予約領域の一例として、給油車4Aの予約領域S1及びハイリフトローダ4Dの予約領域S2をハッチングで図示している。予約領域S1、S2は、進行方向の側方及び後方にも設定されているが、予約領域は少なくとも進行方向の前方に設定されていればよい。予約領域設定部34は、各GSE4の走行に応じて予約領域を随時更新し、その都度、全てのGSE4に更新された予約領域を送信する。
【0033】
各GSE4の走行制御部42は、平面グリッドGの設定エリア内の走行時に、自車の予約領域が他のGSE4の予約領域と重複していないかを確認する(ステップS22)。予約領域が重複していない場合は(ステップS22でNO)、走行経路に沿って走行を継続する(ステップS23)。一方、予約領域が重複している場合は(ステップS22でYES)、一時停止し(ステップS24)、他のGSE4との予約領域の重複が解消されるまで待機する。ここで、予約領域が重複した場合にどちらのGSE4を優先的に走行させるかは事前に決めておくことが好ましい。例えば、経路設定部33が優先順位を決めておくようにしてもよいし、走行速度が速いほうを先に走行させるようにしてもよい。なお、予約領域が重複した場合に、一時停止ではなく走行経路を再設定するようにしてもよい。
【0034】
各GSE4の優先順位について補足説明する。経路設定部33は、各GSE4に優先順位をつけることで、各GSE4を作業位置に移動させる順番を決定してもよい。例えば、次の作業エリア102まですぐに移動する必要があるGSE4の優先順位を高く設定してもよいし、道幅や車両の大きさ、他のGSE4の配置、作業手順の関係等から、先に作業位置へ向かう必要があるGSE4は優先順位を高く設定しておくことで、他のGSE4よりも優先的に作業位置へ向かうことが可能となる。
【0035】
また、複数種類のGSE4による共同作業(例えばハイリフトローダやコンテナローダと、貨物ドーリーを牽引しているトーイングトラクタとを用いた、航空機への貨物搬出入等)を行う場合は、先にどちらか一方のGSE4が作業位置に到着していたとしても、共同で作業を行うGSE4が到着しない限り、作業を開始できない場合がある。そのため、共同で作業を行うGSE4は優先順位を高く設定しておくことが好ましい。
【0036】
さらに、先に作業位置で作業していたGSE4が作業位置から退場しない限り、次に作業予定のGSE4が作業位置に到着できない場合(例えば、次に作業予定のパッセンジャステップが、コンテナローダが作業位置から退場しないと航空機の乗客乗降口に接近できない場合)、先に作業位置にいたGSE4の優先順位を高く設定し、速やかに退場できるようにしておくとよい。このほかにも、遠くの作業エリア102から次の作業エリア102へ移動する必要があるGSE4は、優先順位を高く設定しておいてもよい。
【0037】
また、GSE4に乗車する予定の作業者または乗車中の作業者によって、優先順位を設定してもよい。例えば、航空機への貨物の積み込み等の作業監督者のように、その作業者が作業位置にいないと作業が始められない人物が乗車中のGSE4は、優先順位を高く設定してもよい。このように、優先順位を割り振っておくことで、フライトスケジュールの変更や遅れの発生により、GSE管制システム2がGSE4と作業者のスケジュールを変更した場合に、GSE4の走行経路でGSE4同士がデッドロックを起こしたり、渋滞のような状態になってしまい、スケジュール通りにGSE4が運行できないような事態が生じたりすることを防ぐことができる。
【0038】
各GSE4は作業位置に到着したかどうかを確認し(ステップS25)、作業位置に到着したら(ステップS25でYES)、走行を停止して地上支援作業を開始する。一方、到着していなかったら(ステップS25でNO)、ステップS22~S25を繰り返しながら作業位置まで走行を継続する。
【0039】
(効果)
以上のように、本実施形態の走行経路設定システム3によれば、航空機100の停止位置及び機種情報に基づいてGSE4の作業位置が決定されるとともに、作業位置までの走行経路が自動で設定されるので、GSE4を正確且つ迅速に作業位置まで移動させることができる。したがって、円滑な地上支援作業の遂行が可能となる。
【0040】
本実施形態では、経路設定部33は、航空機100を含む作業エリア102内に設定された平面グリッドGに基づいて走行経路を設定する。平面グリッドGに基づいて走行経路を設定すれば、作業エリア102内にGSE4の自動運転に必要となる白線やマーカー等がなくても、GSE4を自動運転で移動させることができる。また、平面グリッドGのマス単位で走行経路を設定するので、各GSE4の大きさも考慮した走行経路の設定が容易である。
【0041】
本実施形態では、経路設定部33は、各GSE4を作業位置に移動させる順番を決定する。各GSE4の移動の順番を決定することによって、あるGSE4が他のGSE4の移動の邪魔になることを防止できる。
【0042】
本実施形態では、予約領域設定部34は、各GSE4の少なくとも進行方向前方に他のGSE4が進入できない予約領域を設定する。このような予約領域を設定することによって、カメラやレーダー等を搭載していないGSE4であっても、他車との衝突を確実に回避することができる。
【0043】
本実施形態の走行経路設定システム3は、GSE管制システム2と通信可能である。このため、航空管制システムからフライトスケジュールの変更を受け取ったGSE管制システム2は、滑走路やゲート101(作業エリア102)、航空機の機種変更、スケジュールの遅れ、作業内容の変更等に対し、都度GSE4や作業者のスケジューリングを行う。これによって、刻々と移り変わる空港内の状況に対して迅速に対応することが可能となる。また、GSE4のスケジュールも刻々と変化するが、本実施形態の走行経路設定システム3はGSE管制システム2と通信可能であるため、GSE管制システム2が作成、再検討したスケジュールを基に、GSE4の走行経路を状況に合わせて再検討することができる。また、GSE4の走行経路を検討する際、走行経路設定システム3側で作業者をどこで乗車・降車させるかについても検討してもよい。
【0044】
また、本実施形態のように、GSE管制システム2と走行経路設定システム3が接続していることで、上記のような航空機の変更等によるGSE4の変更に対応した走行経路を生成するだけでなく、作業者の変更による走行経路の変更にも対応できる。例えば、事故や体調不良等により、当初予定していた作業者が所定のGSE4に乗車できなくなった場合、GSE管制システム2は代わりの作業者を手配する。この場合、走行経路設定システム3は、代わりの作業者の現在地を作業者端末等で確認し、GSE4に変わりの作業者が乗車できるように走行経路を変更することが可能である。
【0045】
また、上記の作業者と同様に、GSE4にトラブル(故障や事故などの異常)が発生した場合、GSE管制システム2は代わりのGSE4を手配する。この場合も、走行経路設定システム3は、代わりに手配されたGSE4の現在地を確認し、GSE4の運行スケジュールに合わせて、走行経路を変更することが可能である。
【0046】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0047】
上記実施形態では、GSE4が自動運転可能に構成されているものとしたが、GSE4が自動運転可能であることは必須ではない。作業者がGSE4を運転する場合には、走行経路設定システム3が設定した走行経路に基づいて、ナビゲーション装置が作業者にナビゲーションを行うようにすればよい。また、ナビゲーション装置はGSE4に備え付けても、別の装置としてもよい。さらに、走行経路設定システム3が設定した走行経路を上述した作業者端末へ送信し、作業者端末をナビゲーション装置として活用してもよい。
【0048】
上記実施形態では、GSE管制システム2及び各GSE4とは別に走行経路設定システム3を設け、走行経路設定システム3が作業位置決定部31、現在位置取得部32、経路設定部33、及び、予約領域設定部34を有するものとした。しかしながら、走行経路設定システム3の機能部31~34が物理的にどこに設けられているかについて制限はなく、機能部31~34の少なくとも一部がGSE管制システム2やGSE4に組み込まれていてもよい。例えば、走行経路設定システム3全体が、GSE管制システム2の一部を構成するようにしてもよい。また、予約領域設定部34の機能を、GSE4の走行制御部42に持たせるようにしてもよい。この場合、各GSE4で設定された予約領域は、走行経路設定システム3を介して他のGSE4に送信されてもよいし、GSE4同士で直接送受信できるようにしてもよい。
【0049】
上記実施形態では、各GSE4を現在位置(待機位置)から作業位置まで移動させる場合について説明した。しかしながら、各GSE4が地上支援作業を終了した後、作業位置から待機位置へ戻るまでの走行経路を設定することも可能である。
【0050】
上記実施形態では、航空機100の周囲の作業エリア102に平面グリッドGを設定し、各GSE4の走行経路をマス単位で管理するものとした。しかしながら、平面グリッドGを利用することは必須ではなく、例えば、マス単位ではなく、平面座標系を作業エリア102に設定し、ダイクストラ法や行列式を用いたグラフ理論を利用して走行経路を設定するようにしてもよい。
【0051】
上記実施形態において、航空機100やボーディングブリッジ4E、4Fと重複するマスを予約領域として設定するとよい。ただし、航空機100の翼の下やボーディングブリッジ4E、4Fの下をGSE4が走行可能な場合はこの限りではない。この場合、走行経路設定システム3が、各GSE4の高さ情報(パッセンジャステップ、ベルトローダ、ハイリフトローダ等のように高さが変化するGSEの場合は現在の高さ情報)、ボーディングブリッジ4E、4Fの高さ情報、及び、航空機100の翼の高さ情報等を把握し、各GSE4が航空機100の翼の下やボーディングブリッジ4E、4Fの下を走行可能か否か判断するようにしてもよい。また、航空機100の翼や胴体部の下に給油口や電源口がある場合、給油車や空港電源車は必要に応じて航空機100の下を走行可能としておいてもよい。
【0052】
上記実施形態において、平面グリッドG内でエリアごとにGSE4の速度制限を決めておくようにしてもよい。こうすれば、航空機100からの距離に応じてGSE4に速度制限を設けている安全規格、例えばIATA(国際航空運送協会)が定めるISAGO(IATA's Safety Audit for Ground Operations)などに容易に対応することができる。
【0053】
上記実施形態において、走行中のGSE4に対して予約領域を設定するものとした。しかしながら、地上支援作業を行っている停止中のGSE4に対して、その周囲に予約領域を設定するようにしてもよい。
【0054】
また、貨物を搬送するトーイングトラクタのように、1~数台のドーリーを牽引するGSE4は、牽引しているドーリーの動作を車両後部のレーザセンサ等で監視しておき、平面グリッドGにドーリーの動作を反映しても、ドーリーに対しても予約領域を設定するようにしてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、予約領域の情報をすべてのGSE4で共有することとしたが、予約領域を設定されたGSE4から所定距離内のGSE4のみと情報を共有しても、同じ作業エリア102内のGSE4のみと情報を共有するようにしてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、GSE4にGPSと走行制御部42を設けて、GSE4が走行経路を自走するようにしたが、GSE4が自動・手動運転に関わらず、走行経路設定システム3がGSE4の現在地と走行経路を監視し、GSE4の現在地が指定した走行経路を逸脱した場合は、GSE4や作業者へ報知するようにしてもよい。さらに、作業者がGSE4に乗車している場合は、作業者端末が有するGPS信号とGSE4のGPS信号を比較し、GSE4のGPS信号に異常がないか、確認してもよい。
【符号の説明】
【0057】
3:走行経路設定システム
4:GSE(地上支援装置)
31:作業位置決定部
32:現在位置取得部
33:経路設定部
34:予約領域設定部