(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】冷媒搬送用ホース
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
F16L11/08 B
(21)【出願番号】P 2023538308
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2022022108
(87)【国際公開番号】W WO2023007940
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2021124601
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】齋田 知秀
(72)【発明者】
【氏名】若林 健太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-286829(JP,A)
【文献】特開2001-235068(JP,A)
【文献】特開2018-025236(JP,A)
【文献】特開平10-274362(JP,A)
【文献】国際公開第2021/054058(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/073375(WO,A1)
【文献】特開平06-294484(JP,A)
【文献】特開平03-049937(JP,A)
【文献】特開2013-155793(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137712(WO,A1)
【文献】特開平05-254006(JP,A)
【文献】特開2004-217803(JP,A)
【文献】特開2002-293372(JP,A)
【文献】国際公開第2021/149421(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/153079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置された内面層および外面層と、前記内面層と前記外面層との間に同軸上に積層された補強層とを備えた冷媒搬送用ホースにおいて、
前記内面層
の全体が、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性樹脂
の少なくとも一方からなり、
前記外面層
の全体が、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物からなり、
前記内面層と前記外面層とが異なる材料により形成されていて、
前記内面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物または前記熱可塑性樹脂の温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.05cm3・mm/(m2・day・mmHg)以下であり、
前記外面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物の温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数が10.0g・mm/(m2・24h)以下であり、
前記内面層の層厚が0.4mm以上1.6mm以下、前記外面層の層厚が0.2mm以上1.8mm以下であり、
前記外面層を形成している材料の10%モジュラスが、前記内面層を形成している材料の10%モジュラスよりも小さく、
前記補強層が有機繊維により構成されていて、前記有機繊維のホース軸心に対する傾斜角度が49°以上61°以下に設定されている冷媒搬送用ホース。
【請求項2】
前記内面層が、前記熱可塑性樹脂組成物からな
り、この熱可塑性樹脂組成物はマトリックスにナイロン6、ドメインに変性ブチルを含み、前記外面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物はマトリックスにナイロン12、ドメインに変性ブチルを含む請求項1に記載の冷媒搬送用ホース。
【請求項3】
前記内面層が、前記熱可塑性樹脂組成物からなり、この熱可塑性樹脂組成物および前記外面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物はそれぞれ、ドメインを50体積%以上含む請求項1に記載の冷媒搬送用ホース。
【請求項4】
前記有機繊維が、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、PBO繊維、ビニロン繊維またはレーヨン繊維であり、
前記補強層は層厚が0.2mm以上1.2mm以下、編組構造で1層またはスパイラル構造で2層である請求項2または3に記載の冷媒搬送用ホース。
【請求項5】
前記内面層の層厚が0.8mm以下、前記外面層の層厚が0.6mm以下、前記補強層の層厚が0.2mm以上1.2mm以下、前記内面層を形成している材料および前記外面層を形成している材料の10%モジュラスがそれぞれ、10.0MPa以下である請求項1に記載の冷媒搬送用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒搬送用ホースに関し、さらに詳しくは、特に、自動車に搭載されるエアコンディショナーに使用される冷媒搬送用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に関しては、二酸化炭素排出量の削減などの規制に起因して、軽量化が最も重要な課題の1つになっている。これに伴い、自動車に搭載されるエアコンディショナーに使用される冷媒搬送用ホースにも軽量化が要請される。ホースを軽量化するために、内面層や外面層を薄くすると、ホースにより搬送される冷媒に対する耐透過性(耐冷媒透過性)、ホース外部の水分に対する耐透過性(耐水分透過性)を確保するには不利になる。そこで、内面層や外面層をゴムよりも耐透過性に優れている樹脂に置き換えることにより、軽量化しつつ十分な耐透過性を確保することが可能になる。樹脂層で構成されたホースは種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
自動車に搭載されるエアコンディショナーは、限られた狭いスペースに設置されるので、冷媒搬送用ホースは、良好な柔軟性を有していて狭いスペースであっても取付け易い仕様であることが望ましい。ところが、耐透過性を重視して内面層や外面層を単純に樹脂に置き換えると、ホースの柔軟性を損なうことになる。
【0004】
特許文献1で提案されているホースでは、搬送流体(燃料や冷媒など)に対する耐透過性を確保するとともにホースの柔軟性を確保するために、特定種類の樹脂からなる海相と特定種類の樹脂からなる針状の島相との海島構造の樹脂層が採用されている。しかしながら、このような構成であると、さらにホース外部の水分に対する耐透過性を確保するには、使用できる樹脂の種類が極めて限定され、或いは、搬送流体およびホース外部の水分に対する耐透過性を確保するために樹脂層の層厚を大きくする必要がある。その結果、ホースの柔軟性が損なわれ、ホースの軽量化にも不利になる。それ故、ホースで搬送される冷媒およびホース外部の水分に対する耐透過性を向上させ、かつ、軽量で良好な柔軟性を有する冷媒搬送用ホースを得るには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ホースで搬送される冷媒およびホース外部の水分に対する耐透過性に優れ、かつ、軽量で良好な柔軟性を有する取扱い性に優れた冷媒搬送用ホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の冷媒搬送用ホースは、同軸上に配置された内面層および外面層と、前記内面層と前記外面層との間に同軸上に積層された補強層とを備えた冷媒搬送用ホースにおいて、前記内面層の全体が、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性樹脂の少なくとも一方からなり、前記外面層の全体が、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物からなり、前記内面層と前記外面層とが異なる材料により形成されていて、前記内面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物または前記熱可塑性樹脂の温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.05cm3・mm/(m2・day・mmHg)以下であり、前記外面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物の温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数が10.0g・mm/(m2・24h)以下であり、前記内面層の層厚が0.4mm以上1.6mm以下、前記外面層の層厚が0.2mm以上1.8mm以下であり、前記外面層を形成している材料の10%モジュラスが、前記内面層を形成している材料の10%モジュラスよりも小さく、前記補強層が有機繊維により構成されていて、前記有機繊維のホース軸心に対する傾斜角度が49°以上61°以下に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記内面層が前記熱可塑性樹脂組成物または前記熱可塑性樹脂で形成され、前記外面層が前記熱可塑性樹脂組成物で形成されていて、前記補強層が前記有機繊維で構成されているので、ホースの軽量化を図るには有利になる。また、前記外面層が前記熱可塑性樹脂組成物で形成されているので、前記外面層が熱可塑性樹脂で形成される場合に比してホースの柔軟性を向上させるには有利になる。
【0009】
前記内面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物または前記熱可塑性樹脂の酸素透過係数が上述した範囲内にあるので、ホースで搬送される冷媒に対して実用上十分な耐透過性を確保することができる。前記外面層を形成している前記熱可塑性樹脂組成物の水蒸気透過係数が上述した範囲内にあるので、ホース外部の水分に対して実用上十分な耐透過性を確保することができる。
【0010】
さらに、前記補強層が有機繊維により構成されているので、ホースの軽量化に益々有利になっている。また、前記有機繊維のホース軸心に対する傾斜角度が49°以上61°以下に設定されているので、内圧によるホースの寸法変化が抑制されて内面層の優れた耐媒体透過性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の冷媒搬送用ホースが使用されている自動車用エアコンディショナーを模式的に示す説明図である。
【
図2】
図2は本発明の冷媒搬送用ホースを一部切り欠いて例示する説明図である。
【
図4】
図4は冷媒搬送用ホースの別の実施形態を一部切り欠いて例示する説明図である。
【
図5】
図5はホースの曲げ剛性(柔軟性)の測定方法を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の冷媒搬送用ホースを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように、本発明の冷媒搬送用ホース1(以下、ホース1という)は、自動車に搭載されるエアコンディショナー5(以下、エアコン5という)に使用される。具体的にはホース1は、エアコン5の構成機器5a、5b、5cの間に設置されて、それぞれの構成機器5a、5b、5cに冷媒Rtを循環させる循環経路を形成する。
【0014】
エアコン5は限られた狭いスペースに設置されるので、ホース1は屈曲した状態で構成機器5a、5b、5cに取り付けられることが多く、曲率が大きな屈曲状態になることもある。また、エアコン5の設置スペースは、エンジン稼働時には70℃以上の高温環境下になることもある。ホース1の使用内圧は例えば1.5MPa以上4MPa以下、内径は例えば8mm以上25mm以下である。
【0015】
冷媒Rtとしては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフ
ィン(HFO)、炭化水素、二酸化炭素、アンモニアなどを例示できる。HFCとしてはR410A、R32、R404A、R407C、R507A、R134aなどが挙げられ、HFOとしてはR1234yf、R1234ze、1233zd、R1123、R1224yd、R1336mzzなどが挙げられ、炭化水素としてはメタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、イソブタン、ヘキサフルオロプロパン、ペンタンなどが挙げられる。
【0016】
図2、
図3に例示するように、ホース1は内面層2、補強層4、外面層3が内周側から順に同軸上に積層されて構成されている。図中の一点鎖線CLは、ホース1の軸心を示している。この実施形態では、ブレード構造の補強層4が採用されているが、後述する
図4に例示する実施形態のようにスパイラル構造を採用することもできる。
【0017】
内面層2は、ホース1の最内周側に配置されていて冷媒Rtが直接接触する。そのため、内面層2には冷媒Rtに対する耐透過性、耐久性等を考慮して適切な材料が採用される。この実施形態では、内面層2は、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Aで形成されている。内面層2は、熱可塑性樹脂Dで形成することもできる。内面層2は、熱可塑性樹脂組成物Aまたは熱可塑性樹脂Dで形成された層の単層構造であっても、熱可塑性樹脂組成物Aで形成された層と熱可塑性樹脂Dで形成された層とが積層された複層構造でもよい。
【0018】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂Dは、温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.05cm3・mm/(m2・day・mmHg)である。この酸素透過係数は、0.03cm3・mm/(m2・day・mmHg)以下であることがより好ましく、0.02cm3・mm/(m2・day・mmHg)以下であることがさらに好ましい。
【0019】
この酸素透過係数が高過ぎると、ホース1の中の冷媒Rtがホース1を構成する材料中に浸透して、ホース外部に漏出し易くなる。内面層2として、酸素透過係数が上述した範囲の材料を用いることで、冷媒Rtのホース外部(流路外部)への漏出を効果的に防止する。即ち、実用上十分な耐冷媒透過性(冷媒Rtの透過し難さ)を確保し易くなる。この酸素透過係数は、規定の温度(本発明では21℃)および湿度(本発明では50%)の条件下で、圧力1mmHgあたり、面積1m2あたりで厚さが1mmでの1日に透過する酸素量として定義される。
【0020】
内面層2の層厚は例えば、0.4mm以上1.6mm以下が好ましい。この層厚が0.4mm未満では耐冷媒透過性を確保するのが難しく、1.6mm超ではホース1の軽量化および柔軟性を確保するのが難しくなる。ホース1の十分な軽量化および柔軟性を確保するには、内面層2の層厚は0.8mm以下がより好ましい。
【0021】
外面層3には外気の水分に対する耐透過性、耐候性等を考慮して適切な材料が採用される。この実施形態では、外面層3は、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Bで形成されている。熱可塑性樹脂組成物Bの温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数は、10.0g・mm/(m2・24h)以下である。この水蒸気透過係数は、8.0g・mm/(m2・24h)以下であることがより好ましく、5.0g・mm/(m2・24h)以下であることがさらに好ましい。
【0022】
この水蒸気透過係数が高過ぎると、外気中の湿気がホース1に浸透し、エアコン5の内部で水分の凍結が発生する原因となる。外面層3として、水蒸気透過係数が上述した範囲の材料を用いることで、ホース外部の水分のホース内部(流路内部)への侵入を効果的に防止する。即ち、実用上十分な耐水分透過性(水分の透過し難さ)を確保し易くなる。この水蒸気透過係数は、規定の温度(本発明では60℃)および湿度(本発明では100%)の条件下で、面積1m2あたりで厚さが1mmでの24時間に透過する水蒸気量として定義される。
【0023】
外面層3の層厚は例えば、0.2mm以上1.8mm以下が好ましい。この層厚が0.2mm未満では耐水分透過性を確保するのが難しく、1.8mm超ではホース1の軽量化および柔軟性を確保するのが難しくなる。ホース1の十分な軽量化および柔軟性を確保するには、外面層3の層厚は0.6mm以下がより好ましい。ホース1の柔軟性を向上させるには、内面層2の層厚を小さくするよりも、外面層3の層厚を小さくするほうが効果的なので、外面層3の層厚を内面層2の層厚よりも小さくするとよい。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物A、熱可塑性樹脂Dの温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数は、熱可塑性樹脂組成物Bの酸素透過係数より小さいことが好ましい。これにより、冷媒Rtの流路外部への漏出量を最小限に抑えるには有利になり、冷媒Rtに起因する補強層4や外面層3の材料の物性低下を抑えるにも有利になる。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物Bの温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数は、熱可塑性樹脂組成物A、熱可塑性樹脂Dの水蒸気透過係数よりも小さいことが好ましい。これにより、ホース外部の水分のホース内部への侵入量を最小限に抑えるには有利になり、水分に起因する補強層4や内面層2の材料の物性低下を抑えるにも有利になる。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物Aのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂Dは、熱可塑性樹脂組成物A、熱可塑性樹脂Dの酸素透過係数が上述した範囲内にあれば限定されないが、好ましくは、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコールおよびポリケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物Bのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂組成物Bの水蒸気透過係数が上述した範囲内にあれば限定されないが、好ましくは、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリケトンおよびポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0028】
ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンMXD6などが挙げられるが、その中でもナイロン6が好ましい。
【0029】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられるが、その中でもポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0030】
ポリビニルアルコールとしては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、その中でもエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0031】
ポリケトンとしては、ケトン-エチレンコポリマー、ケトン-エチレン-プロピレンターポリマーなどが挙げられるが、好ましくはケトン-エチレン-プロピレンターポリマーである。
【0032】
ポリオレフィンは、無水マレイン酸等の官能基を有する変性ポリオレフィン系樹脂を少なくとも一部に含んでもよい。またポリオレフィンは、単独または複数の組み合わせでもよい。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリヘプテン、ポリオクテン、エチレン・α-オレフィン系共重合体、ポリ-4-メチルペンテン-1系樹脂、プロピレン・α-オレフィン系共重合体などが挙げられるが、好ましくはポリプロピレンである。
【0033】
熱可塑性樹脂組成物Aのドメインを構成するエラストマーは、熱可塑性樹脂組成物Aの酸素透過係数が上述した範囲内にあれば限定されないが、好ましくは、オレフィン系エラストマーおよびブチル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0034】
熱可塑性樹脂組成物Bのドメインを構成するエラストマーは、熱可塑性樹脂組成物Bの水蒸気透過係数が上述した範囲内にあれば限定されないが、好ましくは、オレフィン系エラストマーおよびブチル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0035】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などが挙げられるが、その中でも無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体が好ましい。
【0036】
ブチル系エラストマーとしては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体などが挙げられるが、その中でもハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムが好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂組成物Aは、マトリックスにナイロン6を、ドメインに変性ブチルゴムを含むことが最も好ましい。ナイロン6のマトリックスと変性ブチルゴムのドメインからなる熱可塑性樹脂組成物を内面層2に用いることにより、優れた耐冷媒透過性および柔軟性を確保するには一段と有利になる。また、熱可塑性樹脂Dは、ナイロン6を含むことが最も好ましく、これにより、優れた耐冷媒透過性を確保するには有利になる。
【0038】
熱可塑性樹脂組成物Bは、マトリックスにナイロン12を、ドメインに変性ブチルゴムを含むことが最も好ましい。なお、変性ブチルゴムとは、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムをいう。ナイロン12のマトリックスと変性ブチルゴムのドメインからなる熱可塑性樹脂組成物を外面層3に用いることにより、優れた耐水分透過性および柔軟性を確保するには一段と有利になる。
【0039】
尚、酸素透過係数は、例えば、材料中のマトリックスを構成する熱可塑性樹脂の種類と、ドメインを構成するエラストマーの含有量を増減することで変化する。そこで、この熱可塑性樹脂の種類として耐冷媒透過性に優れたものを選択し、このエラストマーの含有量を制御することで酸素透過係数を上述した所望の範囲内にすることができる。水蒸気透過係数は、例えば、材料中のマトリックスを構成する熱可塑性樹脂の種類と、ドメインを構成するエラストマーの含有量を増減することで変化する。そこで、この熱可塑性樹脂の種類として耐水分透過性に優れたものを選択し、このエラストマーの含有量を制御することで水蒸気透過係数を上述した所望の範囲内にすることができる。
【0040】
補強層4は、
図2、
図3に例示するように内面層2の外周面に有機繊維4fが積層されて構成されている。有機繊維4fのホース軸心CLに対する傾斜角度a(編組角度a)は49°以上61°以下に設定されていて、反対向きに傾斜する有機繊維4fが編組されることで補強層4が形成されている。補強層4は1層に限らず、複数層にすることもできる。補強層4の積層数や有機繊維4fの材質はホース1に要求される耐圧性等を考慮して決定される。
【0041】
ホース1の軽量化を考慮すると、編組構造の補強層4では1層にすることが好ましい。補強層4の層厚は例えば0.2mm以上2.0mm以下が好ましく、ホース1の軽量化および柔軟性を確保するには、1.2mm以下がより好ましい。
【0042】
有機繊維4fの編組角度aが49°未満および61°超であると、ホース1に内圧が作用した際にホース寸法(半径および長さ)の変化が大きくなる。これに伴い、内面層2の寸法も変化し、層厚が小さくなって耐冷媒透過性が悪化したり、不要な変形や亀裂が生じるリスクが高くなる。そのため、編組角度aは49°以上61°以下に設定され、54°以上56°以下に設定されることがより好ましい。
【0043】
有機繊維4fとしては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、PBO繊維、ビニロン繊維またはレーヨン繊維が用いられる。有機繊維4fは、モノフィラメントでも複数本のフィラメントを撚り合わせたマルチフィラメントでもよい。
【0044】
図4に例示するホース1の実施形態では、有機繊維4fが内面層2の外周面にスパイラル状に巻き付けられて形成されている。有機繊維4fのホース軸心CLに対する傾斜角度a(編組角度a)は49°以上61°以下に設定されている。スパイラル構造の補強層4の場合、基本的に偶数層の補強層4が積層され、上下に隣り合って積層された補強層4の有機繊維4fどうしは反対向きの傾斜になる。ホース1の軽量化を考慮すると、スパイラル構造の補強層4では2層にすることが好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂組成物A、Bの温度25℃における10%モジュラスは、10.0MPa以下が好ましく、6.0MPa以下がより好ましい。10%モジュラスが10.0MPa以下であると、ホース1の柔軟性を確保するには有利になる。10%モジュラスは、JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に規定されている方法に準拠して測定される値である。
【0046】
本発明では、一般的な熱可塑性樹脂ではなく、海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物A、Bを用いることにより、ホース1の優れた柔軟性を実現している。熱可塑性樹脂組成物A、Bの10%モジュラスは、熱可塑性樹脂組成物A、Bに含まれるエラストマーの含有量(換言すればドメインの体積比率)を変えることにより制御できる。熱可塑性樹脂組成物A、Bは、ドメインを50体積%以上含むことが好ましく、50体積%以上80体積%以下含むことがより好ましく、65体積%以上75体積%以下含むことがさらに好ましい。ドメインの割合がこの範囲内にあることで、優れた耐冷媒透過性および耐水分透過性を維持しつつホース1の優れた柔軟性を実現できる。
【0047】
ホース1の柔軟性を向上させるには、ホース1の曲げ中心(中立面)により近くの位置にある内面層2の曲げ剛性を低くするよりも、中立面からより遠い位置にある外面層を形成している熱可塑性樹脂組成物Bの10%モジュラスが、内面層2を形成している熱可塑性樹脂組成物A、熱可塑性樹脂Dの10%モジュラスよりも小さいことが好ましい。
【0048】
即ち、内面層2が熱可塑性樹脂組成物Aで形成されている仕様の方が、熱可塑性樹脂Dで形成されている仕様よりも、ホース1の柔軟性を向上させるには有利になる。尚、外面層3が熱可塑性樹脂組成物Bで形成されている仕様であれば、内面層2が熱可塑性樹脂Dで形成されている仕様であっても、実用上十分なホース1の柔軟性を確保することが可能になる。このように外面層3が柔軟性に富む(曲げ剛性が低い)熱可塑性樹脂組成物Bにより形成されることがホース1の柔軟性を向上させるには非常に効果的である。
【0049】
内面層2は主成分が熱可塑性樹脂組成物Aまたは熱可塑性樹脂Dであり、外面層3は主成分が熱可塑性樹脂組成物Bであるが、内面層2、外面層3の上述した特性を損なわない範囲でその他の成分を含むことができる。例えば、熱可塑性樹脂組成物A、Bおよび熱可塑性樹脂Dの押出加工性の改善のために、公知の加工助剤、粘度安定剤を含むことが好ましい。
【0050】
このホース1は、内面層2が軽量で上述した範囲の酸素透過係数を有する熱可塑性樹脂組成物Aまたは熱可塑性樹脂Dで形成されているので、ホース1で搬送される冷媒Rtに対して実用上十分な耐透過性を確保することができる。また、外面層3が軽量で上述した範囲の水蒸気透過係数を有して柔軟性に富む熱可塑性樹脂組成物Bで形成されているので、ホース外部の水分に対して実用上十分な耐透過性を確保することができる。そして、外面層3が熱可塑性樹脂組成物Bで形成されているので、外面層3が一般的な熱可塑性樹脂で形成される場合に比してホース1の柔軟性を向上させるには有利になる。
【0051】
加えて、補強層4が有機繊維4fで構成されているので、ホース1の軽量化を図るには益々有利になっている。さらには、有機繊維4fのホース軸心に対する傾斜角度が49°以上61°以下に設定されているので、ホース1に大きな内圧が作用してもホース寸法の変化が十分に抑制されて、内面層2による良好な耐冷媒透過性を維持することができる。
【0052】
このホース1は、内面層2、外面層3、補強層4が上述の特定されたすべての仕様を具備することで、冷媒Rtおよびホース外部の水分に対する耐透過性に優れ、かつ、軽量で良好な柔軟性を有して優れた取扱い性を実現している。エアコン5の狭い設置スペースでは構成機器5a、5b、5cの配置は予め決定されているので、柔軟性に優れたホース1であると、ホース1の取り回しが容易になり、取扱い性が格段に向上する。
【0053】
ホース1の冷媒Rtに対する実用上十分な耐透過性とは、ホース1の冷媒透過量が3kg/(m2・year)以下であることであり、1.5kg/(m2・year)以下が好ましく、1.0kg/(m2・year)以下がより好ましい。冷媒透過量が多過ぎると、ホース1中の冷媒Rtがホース1を構成する材料中を浸透し、ホース1の外部に漏出し易くなる。ホース1の冷媒透過量は、規定の温度(80±2℃)の条件下でホース1の内表面積1m2あたりの1年間の冷媒Rt(フロンHFO-1234yf)の透過量として定義される。
【0054】
ホース1の外表面積1m2あたりの質量は、例えば3000g/m2以下であり、好ましくは2000g/m2以下であり、より好ましくは1700g/m2以下である。ホース1の外表面積1m2あたりの質量をこの範囲内にすることで、十分な軽量化を図ることができる。
【0055】
ホース1の外部の水分に対する実用上十分な耐透過性とは、ホース1の水分透過量が、3.0mg/(240h・cm2)以下であることであり、1.6mg/(240h・cm2)以下が好ましく、1.0mg/(240h・cm2)以下がより好ましい。この水分透過量が多過ぎると、外気中の湿気がホース1の中に浸透し、エアコン5の内部での水分の凍結が発生する原因となる。ホース1の水分透過量は、規定の温度(50℃)および湿度(相対湿度95%)の条件下でホース1の内表面積1cm2あたりの240時間の水分透過量として定義される。
【0056】
内面層2と補強層4の間および/または補強層4と外面層3の間に接着層を介在させることは任意であるが、介在させることが好ましい。接着層はウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、変性シリコン系接着剤、酸変性ポリオレフィン系接着剤などにより形成することができる。
【0057】
ホース1の製造方法は特に限定されず、公知の一般的な製造方法を用いることができる。例えば、内面層2の材料を押出成形によってチューブ状にして内面層2を形成し、その内面層2の外周面に有機繊維4fを編組して補強層4を形成する。次いで、外面層3の材料を押出成形によってチューブ状にして外面層3を形成して補強層4の外周面を被覆する。
【実施例】
【0058】
表1に示すように、仕様を異ならせた12種類のホース(実施例1~7、比較例1~5)の試験サンプルSについて、下記に示す「耐冷媒透過性」、「耐水蒸気透過性」、「柔軟性」、「軽量化」を評価した。それぞれの試験サンプルSの内径は12mmで共通である。評価結果は表1に示す。
【0059】
【0060】
表1中の実施例5の内面層の材料(D+A1)は、材料Dにより形成された層の外周面に材料A1により形成された層を積層した2層構造であることを意味し、その層厚0.7mmの内訳は材料Dにより形成された層が0.3mm、材料A1により形成された層が0.4mmである。また、比較例1の内面層の材料(C+ゴム1)は、材料Cにより形成された層の外周面に材料ゴム1により形成された層を積層した2層構造であることを意味し、その層厚1.6mmの内訳は材料Cにより形成された層が0.2mm、材料ゴム1により形成された層が1.4mmである。
【0061】
表1中の材料A1、A2、A3、B1、B2、B3、C、D、E、F、ゴム1、ゴム2の主要配合を表2に示す。これら配合には必要に応じて適宜、公知汎用の添加剤を加えている。
【0062】
【0063】
[酸素透過係数]
それぞれの試験サンプルSの材料から切り出したシート状の試験片を、MOCON社製OXTRAN1/50を用いて、温度21℃および相対湿度50%の条件下で測定した。
【0064】
[水蒸気透過係数]
それぞれの試験サンプルSの材料から切り出したシート状の試験片を、GTRテック株式会社製水蒸気透過試験機を用いて、温度60℃および相対湿度100%の条件下で測定した。
【0065】
[耐冷媒透過性]
SAE J2064 AUG2015に準拠して測定を行った。長さ1.07mのそれぞれの試験サンプルSの中に、試験サンプルSの内容積1cm3あたり70%±3%の冷媒(HFO-1234yf)を封入した。この試験サンプルSを80℃の雰囲気下に25日放置し、25日期間中の最後の所定期間(5日間~7日間)での1日あたりの質量の減少量(冷媒透過量)[kg/day]を測定し、この減少量を試験サンプルSの内表面積で除した数値を、1年間あたりの数値に換算することで、冷媒透過量[kg/(m2・year)]を算出した。冷媒透過量の数値が小さい程、耐冷媒透過性に優れていることを意味する。この数値が3以下であれば、実用上十分な耐冷媒透過性を有していると評価できる。表1ではこの数値が3以下の場合を〇、この数値が3超の場合を×で示した。
【0066】
[耐水分透過性]
50℃のオーブンに5時間放置したそれぞれの試験サンプルSを用い、この試験サンプルSの内容積の80%に相当する体積の乾燥剤を試験サンプルSの中に充填し、密封した。この試験サンプルSを温度50℃、相対湿度95%の雰囲気下に放置し、120時間後から360時間後の乾燥剤の質量の増加量を測定し、240時間分の質量の増加量を試験サンプルSの内表面積で除して、水分透過量[mg/(240h・cm2)]を算出した。水分透過量の数値が小さい程、耐水分透過性に優れていることを意味する。この数値が3以下であれば、実用上十分な耐水分透過性を有していると評価できる。表1ではこの数値が3以下の場合を〇、この数値が3超の場合を×で示した。
【0067】
[柔軟性]
図5に例示するように、それぞれの試験サンプルSに対して、長手方向一方端部をクランプなどの固定具によって固定し、固定位置から所定長さL(120+ホース外径/2)×π[mm]だけ離間した他方端部にバネ秤を取り付けて引張り、破線で示す状態から実線で示す状態に試験サンプルSを半円弧状に屈曲させる。そして、ホース内側半径Rが120mmの屈曲状態において水平方向に引っ張っているバネ秤によって計測される引張力Fを評価指標とした。この引張力Fの値が小さい程、試験サンプルSは屈曲し易くて柔軟性に優れていることを意味する。この引張力Fが20N以下であれば、実用上十分な柔軟性を有していると評価できる。表1ではこの引張力Fが20N以下の場合を〇、この引張力Fが20N超の場合を×で示した。
【0068】
[軽量化]
比較例1の試験サンプルSの単位長さ当たりの質量を基準の100として、それぞれの試験サンプルSを指数で評価した。指数の値が小さい程、単位長さ当たりの質量が小さくて軽量化に優れていることを意味する。そして、この指数の値が75以下であれば、軽量化に優れていると評価できる。表1ではこの指数の値が75以下の場合を〇、この指数の値が75超の場合を×で示した。
【0069】
[総合判定]
耐冷媒透過性、耐水蒸気透過性、柔軟性、軽量化のすべての評価項目において基準を満たす性能を有している場合を〇、それ以外の場合を×で示した。
【0070】
表1の結果から、実施例1~7は、耐冷媒透過性、耐水蒸気透過性、柔軟性、軽量化のすべての評価項目において基準を満たす性能を有していて、実用上十分な性能を有していることが分かる。
【符号の説明】
【0071】
1 冷媒搬送用ホース
2 内面層
3 外面層
4(4a、4b) 補強層
4f 有機繊維
5 エアコンディショナー(エアコン)
5a、5b、5c 構成機器
Rt 冷媒