(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】剥離方法および結晶性酸化物膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20240313BHJP
C30B 33/00 20060101ALI20240313BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240313BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20240313BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B33/00
C23C16/40
H01L21/365
H01L21/368 Z
(21)【出願番号】P 2019208400
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】大島 孝仁
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098166(JP,A)
【文献】特開2009-054815(JP,A)
【文献】特開2010-030877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0057865(US,A1)
【文献】特開2016-100592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/16
C30B 33/00
C23C 16/40
H01L 21/365
H01L 21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長面を有しており、かつコランダム構造を有している結晶成長用基板であって、前記結晶成長面に沿った第1の方向と、前記結晶成長面に沿い、かつ前記第1の方向に垂直または略垂直な方向である第2の方向とで、それぞれ異なる線熱膨張係数を有しており、前記第1の方向の線熱膨張係数が前記第2の方向の線熱膨張係数より大きい結晶成長用基板上に、剥離犠牲層を介して前記結晶成長用基板の主成分とは異なる主成分を含む結晶性酸化物膜を結晶成長により成膜するとともに、前記剥離犠牲層を用いて前記第2の方向から前記結晶性酸化物膜と前記結晶成長用基板とを剥離することを含む結晶性酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記結晶成長用基板が酸化物を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記結晶性酸化物膜がコランダム構造を有する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記結晶性酸化物膜が少なくとも酸化ガリウムを含む請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記剥離犠牲層が、前記結晶成長用基板のc軸方向に配列されている凹凸部を有している請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記凹凸部がストライプ状であり、前記結晶成長用基板のc軸方向に対して30°~150°の範囲内にある方向に延びている請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記凹凸部がストライプ状であり、前記結晶成長用基板のc軸方向に垂直な方向に対して0.2°~60°の範囲内にある方向に延びている請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
前記凹凸部のストライプが、それぞれ互いに平行となるように配置されている、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記凹凸部が、マスクを含む請求項5~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記凹凸部が凸部を有しており、前記凸部がマスクである、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記凹凸部が少なくとも2つ以上の凸部を有している、請求項8記載の製造方法。
【請求項12】
前記マスクが酸化物を含む、請求項
9または10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記結晶成長面がm面またはr面である請求項1~12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
結晶成長面を有しており、かつコランダム構造を有している結晶成長用基板であって、前記結晶成長面に沿った第1の方向と、前記結晶成長面に沿い、かつ前記第1の方向に垂直または略垂直な方向である第2の方向とで、それぞれ異なる線熱膨張係数を有している結晶成長用基板上に、剥離犠牲層を介して前記結晶成長用基板の主成分とは異なる主成分を含む結晶性酸化物膜を結晶成長により成膜するとともに、前記剥離犠牲層を用いて前記第2の方向から前記結晶性酸化物膜と前記結晶成長用基板とを剥離することを含む剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に有用な結晶性酸化物膜を得る剥離方法および前記結晶性酸化物膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga2O3)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。また、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての幅広い応用も期待されている。特に、酸化ガリウムの中でもコランダム構造を有するα―Ga2O3等は、非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶とすることによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInXAlYGaZO3(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し(特許文献9等)、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
しかしながら、酸化ガリウムは、最安定相がβガリア構造であるので、特殊な成膜法を用いなければ、準安定相であるコランダム構造の結晶膜を成膜することが困難であり、例えば、ヘテロエピタキシャル成長等に結晶成長条件が制約されることも多く、そのため、転位密度が高くなる傾向がある。また、コランダム構造の結晶膜に限らず、成膜レートや結晶品質の向上、クラックや異常成長の抑制、ツイン抑制、反りによる基板の割れ等においてもまだまだ課題が数多く存在している。このような状況下、現在、コランダム構造を有する結晶性半導体の成膜について、いくつか検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、ガリウム又はインジウムの臭化物又はヨウ化物を用いて、ミストCVD法により、酸化物結晶薄膜を製造する方法が記載されている。特許文献2~4には、コランダム型結晶構造を有する下地基板上に、コランダム型結晶構造を有する半導体層と、コランダム型結晶構造を有する絶縁膜とが積層された多層構造体が記載されている。また、特許文献5~7のように、ELO基板やボイド形成を用いて、ミストCVDによる成膜も検討されている。
特許文献8には、少なくとも、ガリウム原料と酸素原料とを用いて、ハライド気相成長法(HVPE法)により、コランダム構造を有する酸化ガリウムを成膜することが記載されている。また、特許文献10および11には、PSS基板を用いて、ELO結晶成長を行い、表面積は9μm2以上であり、転位密度が5×106cm-2未満の結晶膜を得ることが記載されている。しかしながら、酸化ガリウムは放熱性に課題があり、放熱性の課題を解消するには、例えば酸化ガリウムの膜厚を30μm以下に薄くする必要があるが、研磨工程が煩雑となり、コストが高くなるという問題があり、また、そもそも、研磨により薄くした場合には、膜厚分布を維持したまま大面積の酸化ガリウム膜を得ることが困難という問題を抱えていた。また、縦型デバイスとした場合の直列抵抗においても、十分に満足できるものではなかった。そのため、パワーデバイスとして酸化ガリウムの性能を存分に発揮するには、良質な酸化ガリウムの自立膜を容易に得ることが重要であり、良質な酸化ガリウムの自立膜を容易に得られる方法が待ち望まれていた。
なお、特許文献1~11はいずれも本出願人らによる特許または特許出願に関する公報であり、現在も検討が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5397794号
【文献】特許第5343224号
【文献】特許第5397795号
【文献】特開2014-72533号公報
【文献】特開2016-100592号公報
【文献】特開2016-98166号公報
【文献】特開2016-100593号公報
【文献】特開2016-155714号公報
【文献】国際公開第2014/050793号公報
【文献】米国公開第2019/0057865号公報
【文献】特開2019-034883号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、半導体装置等に有用なコランダム構造を有する結晶性酸化物の自立膜を工業的有利に得ることができる結晶性酸化物膜の製造方法および剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、結晶成長面を有しており、かつコランダム構造を有している結晶成長用基板であって、前記結晶成長面に沿った第1の方向と、前記結晶成長面に沿い、かつ前記第1の方向に垂直または略垂直な方向である第2の方向とで、それぞれ異なる線熱膨張係数を有しており、前記第1の方向の線熱膨張係数が前記第2の方向の線熱膨張係数より大きい結晶成長用基板上に、剥離犠牲層を介して前記結晶成長用基板の主成分とは異なる主成分を含む結晶性酸化物膜を結晶成長により成膜するとともに、前記剥離犠牲層を用いて前記第2の方向から前記結晶性酸化物膜と前記結晶成長用基板とを剥離することを含む結晶性酸化物膜の製造方法によれば、一定の方向からきれいに剥離が進み、コランダム構造を有する結晶性酸化物の自立膜が容易に得られることを知見し、このような方法が上記した従来の問題を一挙に解決し得ることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 結晶成長面を有しており、かつコランダム構造を有している結晶成長用基板であって、前記結晶成長面に沿った第1の方向と、前記結晶成長面に沿い、かつ前記第1の方向に垂直または略垂直な方向である第2の方向とで、それぞれ異なる線熱膨張係数を有しており、前記第1の方向の線熱膨張係数が前記第2の方向の線熱膨張係数より大きい結晶成長用基板上に、剥離犠牲層を介して前記結晶成長用基板の主成分とは異なる主成分を含む結晶性酸化物膜を結晶成長により成膜するとともに、前記剥離犠牲層を用いて前記第2の方向から前記結晶性酸化物膜と前記結晶成長用基板とを剥離することを含む結晶性酸化物膜の製造方法。
[2] 前記結晶成長用基板が酸化物を含む、前記[1]記載の製造方法。
[3] 前記結晶性酸化物膜がコランダム構造を有する前記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記結晶性酸化物膜が少なくとも酸化ガリウムを含む前記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記剥離犠牲層が、前記結晶成長用基板のc軸方向に配列されている凹凸部を有している前記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記凹凸部がストライプ状であり、前記結晶成長用基板のc軸方向に対して30°~150°の範囲内にある方向に延びている前記[5]記載の製造方法。
[7] 前記凹凸部がストライプ状であり、前記結晶成長用基板のc軸方向に垂直な方向に対して0.2°~60°の範囲内にある方向に延びている前記[5]記載の製造方法。
[8] 前記凹凸部のストライプが、それぞれ互いに平行となるように配置されている、前記[6]または[7]に記載の製造方法。
[9] 前記凹凸部が、マスクを含む前記[5]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 前記凹凸部が凸部を有しており、前記凸部がマスクである、前記[9]記載の製造方法。
[11] 前記凹凸部が少なくとも2つ以上の凸部を有している、前記[8]記載の製造方法。
[12] 前記マスクが酸化物を含む、前記[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 前記結晶成長面がm面またはr面である前記[1]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] 結晶成長面を有しており、かつコランダム構造を有している結晶成長用基板であって、前記結晶成長面に沿った第1の方向と、前記結晶成長面に沿い、かつ前記第1の方向に垂直または略垂直な方向である第2の方向とで、それぞれ異なる線熱膨張係数を有している結晶成長用基板上に、剥離犠牲層を介して前記結晶成長用基板の主成分とは異なる主成分を含む結晶性酸化物膜を結晶成長により成膜するとともに、前記剥離犠牲層を用いて前記第2の方向から前記結晶性酸化物膜と前記結晶成長用基板とを剥離することを含む剥離方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、半導体装置等に有用なコランダム構造を有する結晶性酸化物膜の自立膜を工業的有利に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施態様における製造工程の一部を説明する模式図である。
【
図2】本発明の実施態様における製造工程の一部を説明する模式図である。
【
図3】本発明の実施態様における製造工程の一部を説明する模式図である。
【
図4】本発明の実施態様における製造工程の一部を説明する模式図である。
【
図5】本発明の実施態様における用いられるハライド気相成長(HVPE)装置を説明する図である。
【
図6】本発明の実施態様における用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施態様における用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施態様における用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施態様における用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図10】本発明の実施態様における用いられる基板の表面上に形成された凹凸部の一態様を示す模式図である。
【
図11】本発明の実施態様における用いられる基板の表面上に形成された凹凸部と結晶成長層との関係を断面的に示す模式図である。
【
図12】本発明の実施態様における用いられる基板の表面上に形成された凹凸部とバッファ層と結晶成長層との関係を断面的に示す模式図である。
【
図13】本発明の実施態様における用いられるミストCVD装置を説明する図である。
【
図14】本発明の実施例において、自然剥離を生じさせるクラックを示す写真である。
【
図15】本発明の実施例において、ファセットの平坦さを示す顕微鏡写真である。
【
図16】本発明の参考例において、それぞれのファセットの平坦さを示す顕微鏡写真である。図中の数字はそれぞれの長尺形状を有する凹凸部の延びている方向とc軸とのなす角の角度(°)を示しており、上下の縦方向がc軸方向である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法および剥離方法はそれぞれ、結晶成長面を有しており、かつコランダム構造を有している結晶成長用基板であって、前記結晶成長面に沿った第1の方向と、前記結晶成長面に沿い、かつ前記第1の方向に垂直または略垂直な方向である第2の方向とで、それぞれ異なる線熱膨張係数を有しており、前記第1の方向の線熱膨張係数が前記第2の方向の線熱膨張係数より大きい結晶成長用基板上に、剥離犠牲層を介して前記結晶成長用基板の主成分とは異なる主成分を含む結晶性酸化物膜(以下、単に「結晶成長層」または「結晶膜」ともいう。)を結晶成長により成膜するとともに、前記剥離犠牲層を用いて前記第2の方向から前記結晶性酸化物膜と前記結晶成長用基板とを剥離することを含むことを特長とする。なお、前記の剥離は、前記結晶性酸化物膜と前記結晶成長用基板とを剥離すればそれでよく、前記剥離の際に、前記結晶性酸化物膜および前記結晶成長用基板の少なくともいずれかに前記剥離犠牲層等が付いていてもよいし、付いていなくてもよいが、本発明においては、前記結晶成長用基板に前記剥離犠牲層が付いているのが好ましい。
【0014】
(結晶成長用基板)
結晶成長用基板(以下、単に「結晶基板」または「基板」ともいう。)は、結晶成長面を有しており、かつコランダム構造を有している結晶成長用基板であって、前記結晶成長面に沿った第1の方向と、前記結晶成長面に沿い、かつ前記第1の方向に垂直または略垂直な方向である第2の方向とで、それぞれ異なる線熱膨張係数を有しており、前記第1の方向の線熱膨張係数が前記第2の方向の線熱膨張係数より大きい結晶成長用基板であれば特に限定されない。「略垂直」は、前記結晶成長面に沿った前記第1の方向に垂直な軸に対して、好ましくは約±40度の範囲内にある方向であり、より好ましくは約±20度の範囲内にある方向であり、最も好ましくは約±10度の範囲内にある方向である。「熱膨張係数」は、JISR1618に準拠して測定される値をいう。ここで、本発明において好適なサファイア基板の例を挙げると、例えば、m面サファイア基板である場合には、c軸方向を第1の方法とし、a軸方向を第2の方向とすることが好ましくなり、r面サファイア基板である場合には、略c軸方向(例えばc軸をr面に投影した方向)を第1の方法とし、略a軸方向(例えばa軸をr面に投影した方向)を第2の方向とすることが好ましくなる。
【0015】
前記結晶成長用基板は、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板であれば特に限定されず、公知の基板であってよい。前記結晶成長用基板は絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。前記結晶成長用基板は単結晶基板であってもよいし、多結晶基板であってもよい。なお、前記「主成分」とは、基板中の組成比で、前記結晶物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。前記コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、サファイア基板、α型酸化ガリウム基板、α型AlGaO基板などが挙げられる。
【0016】
本発明の実施形態においては、前記結晶基板が、m面サファイア基板またはr面サファイア基板であるのが好ましい。また、前記結晶基板はオフ角を有していてもよい。前記オフ角は、特に限定されないが、好ましくは0°~15°である。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmである。また、前記結晶基板の面積は、特に限定されないが、15cm2以上であるのが好ましく、100cm2以上であるのがより好ましい。
【0017】
また、本発明の実施形態の一つにおいては、前記基板が、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されているのが好ましく、このような凹凸部を前記剥離犠牲層として用いることにより、より効率的に、より高品質な結晶成長層を得ることができる。前記剥離犠牲層は前記凹凸部であってよく、前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凹凸部が周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましく、前記凹凸部が凸部からなるマスクであって、前記マスクが周期的かつ規則的にパターン化されているのが最も好ましい。前記凹凸部のパターンは特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ドット状またはストライプ状が好ましく、ドット状がより好ましい。なお、前記ドット状またはストライプ状は前記凸部の開口部の形状であってよい。また、凹凸部が周期的かつ規則的にパターン化されている場合には、前記凹凸部のパターン形状が、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの形状であるのが好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、ドットの格子形状を、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子形状にするのが好ましく、三角格子の格子形状にするのがより好ましい。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。
【0018】
なお、本発明においては、前記凹凸部がストライプ状であり、前記結晶成長用基板のc軸方向に対して30°~150°の範囲内にある方向に延びているのが好ましく、前記結晶成長用基板のc軸方向に垂直な方向に対して0.2°~60°の範囲内にある方向すなわち前記結晶成長用基板のc軸方向に垂直な方向に対して+0.2°~+60°の範囲内にある方向または-0.2°~-60°の範囲内にある方向に延びているのがより好ましく、前記結晶成長用基板のc軸方向に垂直な方向に対して20°~40°の方向すなわち前記結晶成長用基板のc軸方向に垂直な方向に対して+20°~+40°の範囲内にある方向または-20°~-40°の範囲内にある方向に延びているのが最も好ましい。このような好ましいストライプ状の凹凸部を前記剥離犠牲層として用いることにより、ファセットがより平坦であり、結晶成長がより高品質なものとすることができる。
【0019】
前記凸部の構成材料は、特に限定されず、公知のマスク材料であってよい。絶縁体材料であってもよいし、導電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよい。また、前記構成材料は、非晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。前記凸部の構成材料としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn等の酸化物、窒化物または炭化物、カーボン、ダイヤモンド、金属、これらの混合物などが挙げられる。より具体的には、SiO2、SiNまたは多結晶シリコンを主成分として含むSi含有化合物、前記結晶性酸化物半導体の結晶成長温度よりも高い融点を有する金属(例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等)などが挙げられる。なお、前記構成材料の含有量は、凸部中、組成比で、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。本発明においては、前記マスクが酸化物を含むのが好ましい。
【0020】
前記凸部の形成方法としては、公知の方法であってよく、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工手段などが挙げられる。本発明においては、前記凸部がストライプ状またはドット状であるのが好ましく、ドット状であるのがより好ましい。なお、前記ドット状またはストライプ状は前記凸部の開口部の形状であってよい。また、本発明においては、前記結晶基板が、PSS(Patterned Sapphire Substrate)基板であるのも好ましい。前記PSS基板のパターン形状は、特に限定されず、公知のパターン形状であってよい。前記パターン形状としては、例えば、円錐形、釣鐘形、ドーム形、半球形、正方形または三角形のピラミッド形等が挙げられるが、本発明においては、前記パターン形状が、円錐形であるのが好ましい。また、前記パターン形状のピッチ間隔も、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、100μm以下であるのが好ましく、1μm~50μmであるのがより好ましい。
【0021】
前記凹部は、特に限定されないが、上記凸部の構成材料と同様のものであってよいし、基板であってもよい。本発明においては、前記凹部が基板の表面上に設けられた空隙層であってもよい。前記凹部の形成方法としては、前記の凸部の形成方法と同様の方法を用いることができる。前記空隙層は、公知の溝加工方法により、基板に溝を設けることで、前記基板の表面上に形成することができる。空隙層の溝幅、溝深さ、テラス幅等は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、適宜に設定することができる。また、空隙層には、空気が含まれていてもよいし、不活性ガス等が含まれていてもよい。
【0022】
本発明においては、前記剥離犠牲層が、c軸方向に配列されている凹凸部を有しているのが好ましい。このような好ましい剥離犠牲層によれば、c軸方向に垂直または略垂直な方向から、自然剥離により適したクラックを生じさせることができ、より良質な結晶膜の自立膜を得ることが容易となる。
【0023】
以下、本発明において好適に用いられる基板の実施態様の一例を、図面を用いて説明するが、本発明はこれら基板に限定されるものではない。
【0024】
図6は、本発明における結晶基板の結晶成長面(m面)上に設けられた凹凸部の一態様を示す。
図6の凹凸部は、結晶基板1と、結晶成長面1a上の凸部2aとから形成されている凹凸部である。結晶基板1の結晶成長面1a上には、a軸方向に延びている複数の長尺状の凸部2aがc軸方向に配列されている。
図6に示すように、複数の凸部と凹部がストライプ状であり、かかるストライプがそれぞれa軸方向に延びて、それぞれのストライプがc軸方向に配列されている。なお、凸部2aは、SiO
2等のシリコン含有化合物やTiO
2等のチタン含有化合物からなり、フォトリソグラフィー等の公知の手段を用いて形成することができる。
【0025】
図7は、本発明における結晶基板の結晶成長面(m面)上に設けられたc軸方向に配列されている凹凸部の一態様を示す。
図7の凹凸部は、結晶基板1と凹部2bとから形成されている。凹部2bは、a軸方向に延びている複数の溝であり、当該複数の溝は、c軸方向に配列されている。なお、凹部2bは、公知の溝加工方法により形成することができる。
【0026】
また、
図8にも、本発明における結晶基板1の結晶成長面1a上に設けられた凹凸部の一態様を示す。
図8に示す複数の凹凸部は、
図7の凹部2bと比較して、凹部2bの間隔の幅が小さくなっている。つまり、凹部2bのテラス幅が、
図7では広くなっており、
図8では狭くなっている。
図8の凹部2bもまた、
図7の凹部と同様、公知の溝加工方法を用いて形成することができる。
【0027】
図9は、本発明における結晶基板(m面)の結晶成長面上に設けられたc軸方向に配列されている凹凸部の一態様を示している。
図9の凹凸部は、結晶基板1と、結晶成長面1a上に設けられた凸部2aとから形成されている。凸部2aはドット状のマスクであり、結晶基板1の結晶成長面1a上には、ドット状の凸部2aが周期的かつ規則的に配列されている。なお、凸部2aのドットはa軸方向にc軸方向よりも密に配列されている。また、凸部2aは、SiO
2等のシリコン含有化合物からなり、フォトリソグラフィー等の公知の方法を用いて形成することができる。
【0028】
図10は、本発明における結晶基板(m面)の結晶成長面上に設けられたc軸方向に配列されている凹凸部の一態様を示す。
図10は、凸部ではなく凹部2bを備えている。
図10の凹部は、結晶基板1と、マスク層4とから形成されている。マスク層4は、結晶基板1上に形成されており、ドット状に複数の穴が空いている。マスク層4のドット状の複数の穴からは結晶基板1が露出しており、結晶基板1の結晶成長面1a上にマスク層4のドット状の複数の穴が位置して複数の凹部2bが形成されている。マスク層4のドット状の穴はa軸方向にc軸方向よりも密に配列されている。なお、凹部2bは、フォトリソグラフィー等の公知の方法を用いて、マスク層4に穴を形成することにより得ることができる。また、マスク層4は、縦方向の結晶成長を阻害可能な層であれば特に限定されない。マスク層4の構成材料としては、例えば、SiO
2等のシリコン含有化合物などの公知の材料等が挙げられる。
【0029】
凹凸部の凸部の幅および高さ、凹部の幅および深さ、間隔などが特に限定されないが、本発明においては、それぞれが例えば約10nm~約1mmの範囲内であり、好ましくは約10nm~約300μmであり、より好ましくは約10nm~約1μmであり、最も好ましくは約100nm~約1μmである。
【0030】
次に、本発明の実施態様において好適に用いられる基板の表面上に形成された凹凸部と結晶成長層との関係を説明する。
図11は、本発明の実施態様において好適に用いられる、基板の表面上に形成された凹凸部と結晶成長層との関係を示す断面図である。
図11の結晶性積層構造体は、結晶基板1上に、凸部5が形成されており、さらに、エピタキシャル層8が結晶成長により形成されている。エピタキシャル層8は、凸部5により、コランダム構造を有する結晶性半導体が横方向にも結晶成長しており、このようにして得られたコランダム構造を有する結晶膜は、凹凸部のないコランダム構造を有する結晶膜に比べて全く異なる高品質の結晶膜となる。また、バッファ層を設けた場合の例を
図12に示す。
図12の結晶性積層構造体は、結晶基板1上に、バッファ層7が形成されており、バッファ層7上に凸部5が形成されている。そして、凸部5上に、エピタキシャル層8が形成されている。
図12の結晶性積層構造体も
図11と同様に、凸部5により、コランダム構造を有する結晶膜が、横方向に結晶成長しており、高品質のコランダム構造を有する結晶膜が形成されている。
【0031】
前記結晶成長層(以下、結晶基板上において横方向結晶成長を含む結晶成長により得られる結晶成長層を単に「横方向結晶成長層」ともいう。)は、例えば、結晶成長用基板上に、横方向結晶成長を含む結晶成長により形成することができる。「横方向結晶成長」は、通常、結晶成長基板に対して結晶成長面の結晶成長軸となる方向(すなわち結晶成長方向)ではない方向に結晶成長させることをいうが、本発明においては、結晶成長方向に対して、0.1°~178°の角度となる方向に結晶成長させるのが好ましく、1°~175°の角度となる方向に結晶成長させるのがより好ましく、5°~170°の角度となる方向に結晶成長させるのが最も好ましい。本発明においては、前記結晶成長層がコランダム構造を有するのが好ましく、前記結晶成長層が、結晶性酸化物を主成分として含むのも好ましい。また、本発明においては、前記結晶成長層が少なくともガリウムを含むのも好ましく、Ga2O3を含むのがより好ましい。本発明においては、半導体装置に有用な結晶膜が得られるので、前記結晶成長層(以下、「結晶膜」ともいう。)が半導体膜であるのが好ましく、ワイドバンドギャップ半導体膜であるのがより好ましい。なお、各結晶成長には、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されている基板を用いて、HVPEまたはミストCVD等のCVD法を適用することが好ましい。なお、基板上には溝を設けてもよいし、少なくとも基板の表面の一部を露出するELOマスク(以下、単に「マスク」ともいう。)を配置してもよく、その上に前記横方向成長を含む結晶成長でもって、前記結晶成長層を形成することができる。また、前記結晶膜の膜厚は、特に限定されないが、前記製造方法によれば、前記結晶膜の膜厚を容易に薄くすることができるので、例えば、前記結晶膜の熱伝導率が100W/m・K未満である場合、30μm以下であるのが好ましく、1μm~30μmであるのがより好ましい。
【0032】
以下、前記HVPE法を用いて、前記結晶成長層を形成する方法の一例を説明する。
【0033】
前記HVPE法の実施形態の一つとして、例えば、
図5に示すHVPE装置を用いて、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとし、ついで、前記金属含有原料ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の基板上に供給して成膜する際に、表面に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されている基板を用いて、反応性ガスを前記基板上に供給し、前記成膜を、前記反応性ガスの流通下で行うことが挙げられる。
【0034】
(金属源)
前記金属源は、金属を含んでおり、ガス化が可能なものであれば、特に限定されず、金属単体であってもよいし、金属化合物であってもよい。前記金属としては、例えば、ガリウム、アルミニウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明においては、前記金属が、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる1種または2種以上の金属であるのが好ましく、ガリウムであるのがより好ましく、前記金属源が、ガリウム単体であるのが最も好ましい。また、前記金属源は、気体であってもよいし、液体であってもよいし、固体であってもよいが、本発明の実施態様においては、例えば、前記金属としてガリウムを用いる場合には、前記金属源が液体であるのが好ましい。
【0035】
前記ガス化の方法は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の方法であってよい。本発明の実施態様においては、前記ガス化の方法が、前記金属源をハロゲン化することにより行われるのが好ましい。前記ハロゲン化に用いるハロゲン化剤は、前記金属源をハロゲン化できさえすれば、特に限定されず、公知のハロゲン化剤であってよい。前記ハロゲン化剤としては、例えば、ハロゲンまたはハロゲン化水素等が挙げられる。前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素等が挙げられる。また、前記ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記ハロゲン化に、ハロゲン化水素を用いるのが好ましく、塩化水素を用いるのがより好ましい。本発明においては、前記ガス化を、前記金属源に、ハロゲン化剤として、ハロゲンまたはハロゲン化水素を供給して、前記金属源とハロゲンまたはハロゲン化水素とをハロゲン化金属の気化温度以上で反応させてハロゲン化金属とすることにより行うのが好ましい。前記ハロゲン化反応温度は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、例えば、前記結晶成長用基板が、コランダム構造を有し、前記金属源の金属がガリウムであり、前記ハロゲン化剤が、HClである場合には、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。また、例えば、前記結晶成長用基板が、βガリア構造を有し、前記金属源がガリウムであり、前記ハロゲン化剤がHClである場合には、前記ハロゲン化反応温度は、500℃以上が好ましく、500℃~1100℃がより好ましく、600℃~110℃であるのが最も好ましい。前記金属含有原料ガスは、前記金属源の金属を含むガスであれば、特に限定されない。前記金属含有原料ガスとしては、例えば、前記金属のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物など)等が挙げられる。
【0036】
本発明の実施形態においては、金属を含む金属源をガス化して金属含有原料ガスとした後、前記金属含有原料ガスと、前記酸素含有原料ガスとを、前記反応室内の基板上に供給する。また、本発明の実施態様においては、反応性ガスを前記基板上に供給する。前記酸素含有原料ガスとしては、例えば、O2ガス、CO2ガス、NOガス、NO2ガス、N2Oガス、H2OガスまたはO3ガス等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記酸素含有原料ガスが、O2、H2OおよびN2Oからなる群から選ばれる1種または2種以上のガスであるのが好ましく、O2を含むのがより好ましい。なお、実施形態の一つとして、前記酸素含有原料ガスはCO2を含んでいてもよい。前記反応性ガスは、通常、金属含有原料ガスおよび酸素含有原料ガスとは異なる反応性のガスであり、不活性ガスは含まれない。前記反応性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、エッチングガス等が挙げられる。前記エッチングガスは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のエッチングガスであってよい。本発明の実施態様においては、前記反応性ガスが、ハロゲンガス(例えば、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガスまたはヨウ素ガス等)、ハロゲン化水素ガス(例えば、フッ酸ガス、塩酸ガス、臭化水素ガス、ヨウ化水素ガス等)、水素ガスまたはこれら2種以上の混合ガス等であるのが好ましく、ハロゲン化水素ガスを含むのが好ましく、塩化水素を含むのが最も好ましい。なお、前記金属含有原料ガス、前記酸素含有原料ガス、前記反応性ガスは、キャリアガスを含んでいてもよい。前記キャリアガスとしては、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガス等が挙げられる。また、前記金属含有原料ガスの分圧は特に限定されないが、本発明の実施態様においては、0.5Pa~1kPaであるのが好ましく、5Pa~0.5kPaであるのがより好ましい。前記酸素含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記金属含有原料ガスの分圧の0.5倍~100倍であるのが好ましく、1倍~20倍であるのがより好ましい。前記反応性ガスの分圧も、特に限定されないが、本発明の実施形態においては、前記金属含有原料ガスの分圧の0.1倍~5倍であるのが好ましく、0.2倍~3倍であるのがより好ましい。
【0037】
本発明の実施形態においては、さらに、ドーパント含有原料ガスを前記基板に供給するのも好ましい。前記ドーパント含有原料ガスは、ドーパントを含んでいれば、特に限定されない。前記ドーパントも、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記ドーパントが、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブおよびスズから選ばれる1種または2種以上の元素を含むのが好ましく、ゲルマニウム、ケイ素、またはスズを含むのがより好ましく、ゲルマニウムを含むのが最も好ましい。このようにドーパント含有原料ガスを用いることにより、得られる膜の導電率を容易に制御することができる。前記ドーパント含有原料ガスは、前記ドーパントを化合物(例えば、ハロゲン化物、酸化物等)の形態で有するのが好ましく、ハロゲン化物の形態で有するのがより好ましい。前記ドーパント含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記金属含有原料ガスの分圧の1×10-7倍~0.1倍であるのが好ましく、2.5×10-6倍~7.5×10-2倍であるのがより好ましい。なお、本発明の実施態様においては、前記ドーパント含有原料ガスを、前記反応性ガスとともに前記基板上に供給するのが好ましい。
【0038】
また、本発明の好適な実施態様としては、ミストCVDも好適に適用することができる。以下、図面を用いて、本発明の実施態様に好適に用いられるミストCVD成膜装置19を説明する。
図13の成膜装置19は、キャリアガスを供給するキャリアガス源22aと、キャリアガス源22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)源22bと、キャリアガス(希釈)源22bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、成膜室30と、ミスト発生源24から成膜室30までをつなぐ石英製の供給管27と、成膜室30内に設置されたホットプレート(ヒーター)28とを備えている。ホットプレート28上には、基板20が設置されている。
【0039】
そして、
図13に記載のとおり、原料溶液24aをミスト発生源24内に収容する。次に、基板20を用いて、ホットプレート28上に設置し、ホットプレート28を作動させて成膜室30内の温度を昇温させる。次に、流量調節弁23(23a、23b)を開いてキャリアガス源22(22a、22b)からキャリアガスを成膜室30内に供給し、成膜室30の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と、キャリアガス(希釈)の流量とをそれぞれ調節する。次に、超音波振動子26を振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを微粒子化させて霧化液滴24bを生成する。この霧化液滴24bが、キャリアガスによって成膜室30内に導入され、基板20まで搬送され、そして、大気圧下、成膜室30内で霧化液滴24bが熱反応して、基板20上に膜が形成する。
【0040】
本発明の実施形態においては、前記基板上に応力緩和層等を含むバッファ層を設けてもよい。なお、前記バッファ層は、室温において100W/m・K以上の熱伝導率を有しているのが好ましい。また、本発明の実施形態においては、前記基板が、表面の一部または全部に、前記バッファ層を有しているのが好ましい。前記バッファ層の形成方法は、特に限定されず、公知の方法であってよい。前記形成方法としては、例えば、スプレー法、ミストCVD法、HVPE法、MBE法、MOCVD法、スパッタリング法等が挙げられる。以下、前記バッファ層をミストCVD法により形成する好適な態様を、より詳細に説明する。
【0041】
前記バッファ層は、好適には、例えば、
図13に示すミストCVD装置を用いて、原料溶液を霧化または液滴化し(霧化工程)、得られた霧化液滴をキャリアガスを用いて前記基板まで搬送し(搬送工程)、ついで、前記基板の表面の一部または全部で、前記霧化液滴を熱反応させる(バッファ層形成工程)ことにより形成することができる。なお、本発明の実施態様においては、同様にして前記結晶成長層を形成することもできる。
【0042】
(霧化工程)
霧化工程は、前記原料溶液を霧化して前記霧化液滴を得る。前記原料溶液の霧化方法は、前記原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の方法であってよいが、本発明の前記実施形態においては、超音波を用いる霧化方法が好ましい。超音波を用いて得られた霧化液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。前記霧化液滴の液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1~10μmである。
【0043】
(原料溶液)
前記原料溶液は、霧化液滴化が可能なものであってミストCVDにより、前記バッファ層が得られる溶液であれば特に限定されない。前記原料溶液としては、例えば、霧化用金属の有機金属錯体(例えばアセチルアセトナート錯体等)やハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物等)の水溶液などが挙げられる。前記霧化用金属は、特に限定されず、このような霧化用金属としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記霧化用金属が、ガリウム、インジウムまたはアルミニウムを少なくとも含むのが好ましく、ガリウムを少なくとも含むのがより好ましい。原料溶液中の霧化用金属の含有量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは、0.001モル%~50モル%であり、より好ましくは0.01モル%~50モル%である。
【0044】
また、原料溶液には、ドーパントが含まれているのも好ましい。原料溶液にドーパントを含ませることにより、イオン注入等を行わずに、結晶構造を壊すことなく、バッファ層の導電性を容易に制御することができる。本発明の実施態様においては、前記ドーパントがスズ、ゲルマニウム、またはケイ素であるのが好ましく、スズ、またはゲルマニウムであるのがより好ましく、スズであるのが最も好ましい。前記ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm3以下の低濃度にしてもよいし、ドーパントを約1×1020/cm3以上の高濃度で含有させてもよい。本発明の実施態様においては、ドーパントの濃度が1×1020/cm3以下であるのが好ましく、5×1019/cm3以下であるのがより好ましい。
【0045】
原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明の実施態様においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水または水とアルコールとの混合溶媒であるのがより好ましく、水であるのが最も好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明の実施態様においては、超純水が好ましい。
【0046】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記霧化液滴を成膜室内に搬送する。前記キャリアガスは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0047】
(バッファ層形成工程)
バッファ層形成工程では、成膜室内で前記霧化液滴を熱反応させることによって、基板上に、前記バッファ層を形成する。熱反応は、熱でもって前記霧化液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば1000℃)以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、400℃~650℃が最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、バッファ層の厚みは、形成時間を調整することにより、設定することができる。
【0048】
上記のようにして、前記基板上の表面の一部または全部に、バッファ層を形成した後、該バッファ層上に、上記した好ましい横方向結晶成長層の形成方法または前記バッファ層の形成方法により、前記横方向結晶成長層を形成することにより、前記横方向結晶成長層におけるチルト等の欠陥をより低減することができ、膜質をより優れたものとすることができる。
【0049】
また、前記バッファ層は、特に限定されないが、本発明においては、金属酸化物を主成分として含んでいるのが好ましい。前記金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物などが挙げられる。発明においては、前記金属酸化物が、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有するのが好ましく、少なくともインジウムまたは/およびガリウムを含んでいるのがより好ましく、少なくともガリウムを含んでいるのが最も好ましい。本発明の成膜方法の実施形態の一つとして、バッファ層が金属酸化物を主成分として含み、バッファ層が含む金属酸化物がガリウムと、ガリウムよりも少ない量のアルミニウムを含んでいてもよい。ガリウムよりも少ない量のアルミニウムを含むバッファ層を用いることで、結晶成長を良好なものにするだけでなく、さらに、良好な高温成長も実現することができる。また、本発明の成膜方法の実施形態の一つとして、バッファ層が超格子構造を含んでいてもよい。超格子構造を含むバッファ層を用いることで、良好な結晶成長を実現するだけでなく、結晶成長時の反り等を抑制することもより容易になる。なお、ここで、「主成分」とは、前記金属酸化物が、原子比で、前記バッファ層の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。前記結晶性酸化物半導体の結晶構造は、特に限定されないが、本発明においては、コランダム構造であるのが好ましい。また、前記横方向結晶成長層と前記バッファ層とは、本発明の目的を阻害しない限り、それぞれ互いに主成分が同一であってもよいし、異なっていてもよいが、本発明においては、同一であるのが好ましい。
【0050】
本発明の前記実施形態においては、前記バッファ層が設けられていてもよい前記基板上に金属含有原料ガス、酸素含有原料ガス、反応性ガスおよび所望によりドーパント含有原料ガスを供給し、反応性ガスの流通下で成膜する。本発明においては、前記成膜が、加熱されている基板上で行われるのが好ましい。前記成膜温度は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。また、前記成膜は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非真空下、還元ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下および酸化ガス雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、常圧下、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明の前記実施形態においては、常圧下または大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0051】
前記横方向結晶成長層は、通常、結晶性金属酸化物を主成分として含む。前記結晶性金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物などが挙げられる。本発明においては、前記結晶性金属酸化物が、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有するのが好ましく、少なくともインジウムまたは/およびガリウムを含んでいるのがより好ましく、結晶性酸化ガリウムまたはその混晶であるのが最も好ましい。なお、本発明の実施形態における横方向結晶成長層において、「主成分」とは、前記結晶性金属酸化物が、原子比で、前記横方向結晶成長層の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。本発明の実施形態においては、前記基板として、コランダム構造を含む基板を用いて、前記成膜を行うことにより、コランダム構造を有する結晶成長膜を得ることができる。前記結晶性金属酸化物は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよいが、本発明の実施形態においては、単結晶であるのが好ましい。また、前記横方向結晶成長層の厚さの上限は特に限定されないが、例えば100μmであり、前記横方向結晶成長層の厚さの下限も特に限定されないが、3μmであるのが好ましく、10μmであるのがより好ましく、20μmであるのが最も好ましい。本発明においては、前記横方向結晶成長層の厚さが3μm~100μmであるのが好ましく、10μm~100μmであるのがより好ましく、20μm~100μmであるのが最も好ましい。
【0052】
本発明においては、前記横方向結晶成長層上にマスクとして前記凸部を形成するのが好ましい。このようにして、前記横方向結晶成長層上に前記マスクを形成することにより、結晶性を単に向上させるだけでなく、転位密度をより良好に低減し、さらに、結晶膜の大面積化を実現することができる。なお、前記マスクは前記凸部と同様であってよい。本発明においては、横方向結晶成長層が2以上の横方向結晶部を含んでおり、前記2以上の横方向結晶部上に前記マスクがそれぞれ配置されているのが好ましい。なお、前記の2以上の横方向結晶部は、前記横方向結晶成長において、2以上の横方向結晶成長部が形成されていき、それぞれの横方向結晶成長部同士が会合する前の2以上の横方向結晶部であってもよい。このようにして横方向結晶部上に前記マスクを設けることにより、横方向結晶での会合によって発生する熱応力による反りやクラック等を抑制することができる。前記の横方向結晶成長層上のマスクは、周期的かつ規則的にパターン化されているのが好ましく、前記の横方向結晶成長層上のマスクの間隔が、前記の基板上のマスクの間隔よりも短いのが好ましい。このような間隔とすることにより、熱応力等をより緩和させることができ、大面積でかつ優れた結晶性の結晶膜をより容易に得ることができる。なお、前記の横方向成長層上のマスクの間隔は、特に限定されないが、1μm~50μmであるのが好ましい。本発明においては、線熱膨張係数の小さい前記第2の方向から、前記凸部を用いて剥離するのがより透明でかつより良質な自立膜が得られるので好ましい。
【0053】
以下、図面を用いて、本発明の好適な製造方法をより詳細に説明する。
【0054】
図1に示すように、結晶成長用基板として、表面にELOマスクを形成する。なお、結晶成長用基板には、m面サファイア基板を用いる。
図1(a)は、結晶成長用基板1を示す。
図1(b)に示すとおり、結晶成長用基板1の結晶成長面上にELOマスク5を形成する。ELOマスク5は、特に限定されないが、ストライプ状またはドット状のパターンを有するのが好ましい。
図1(b)の結晶成長用基板を用いて、結晶成長層を形成し、
図1(c)の積層構造体を得る。積層構造体(c)は、ELOマスク5を表面に有している結晶成長用基板1上に結晶成長層(横方向結晶成長層)8が形成されており、結晶成長を続けることにより、
図2(d)のように、結晶成長用基板が剥離される。
図3(d)の剥離により、
図3(e)の結晶性酸化物膜を得る。このようにして得られた結晶性酸化物膜(e)は、自立膜として大面積化も可能でかつ良好な膜質を有しており、半導体特性に優れている。さらに、本発明においては、結晶性酸化物膜(e)を得た後、
図4に示すとおり、得られた結晶性酸化物膜(e)に支持体9を貼りつけ、積層構造体(f)とし、例えば、CMP等の常法に従い、積層構造体(f)の結晶性酸化物膜の剥離面に対し研摩を行い、
図4(g)の積層構造体(g)を得ることもでき、かかる積層構造体を結晶性酸化物膜として用いることもできる。
【0055】
本発明の製造方法により得られた結晶性酸化物膜は、特に、電極と半導体層とを少なくとも含む半導体装置に好適に用いることができ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。本発明においては、前記結晶性酸化物膜が半導体膜であり、前記半導体層として前記半導体膜が用いられているのが好ましい。前記結晶性酸化物膜を用いて形成される半導体装置としては、MISやHEMT等のトランジスタやTFT、半導体‐金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子が挙げられる。本発明においては、前記結晶性酸化物膜をそのまま半導体装置等に用いてもよいし、前記基板等から剥離する等の公知の方法を用いた後に、半導体装置等に適用してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
1.バッファ層の形成
1-1.成膜装置
本実施例では
図13に示す成膜装置19を用いた。
【0058】
1-2.原料溶液の作製
臭化ガリウム(GaBr3)0.1Mの水溶液に、臭化水素酸(HBr)20体積%を加え、これを原料溶液とした。
【0059】
1-3.成膜準備
上記1-2.で得られた原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。次に、基板20として、m面サファイア基板を用いて、ホットプレート28上に設置し、ホットプレート28を作動させて基板温度を550℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23a、23bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給装置22a、22bからキャリアガスを成膜室30内に供給し、成膜室30の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を1L/分に調節した。キャリアガスとして窒素を用いた。
【0060】
1-4.成膜
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを霧化させてミスト(霧化液滴)24bを生成させた。このミスト24bが、キャリアガスによって、供給管27内を通って、成膜室30内に導入され、大気圧下、550℃にて、基板20上でミストが熱反応して、基板20上に成膜した。成膜時間は1時間であった。得られた膜は、X線回折装置を用いて同定したところ、α-Ga2O3単結晶膜であった。
【0061】
2.マスクの形成
SOGをスピンコーターで塗布し、フォトリソグラフィー法を用いて、1-4.で得られたα-Ga
2O
3単結晶膜付きのm面サファイア基板上に、
図6に示すとおり、SiO
2の複数の長尺状のマスクをa軸に平行になるように、サファイア基板上面とストライプを形成するように配置(ストライプ配置)した。
【0062】
3.結晶性酸化物膜の結晶成長および自然剥離
上記1.と同様にして、
図13に示すミストCVD装置を用いて、ミストCVD法でもって、α―Ga
2O
3からなる結晶成長層を形成していき、a軸方向から発生したクラックによる自然剥離によってα―Ga
2O
3膜と結晶成長用基板とを剥離し、結晶性酸化物膜の自立膜を得た。得られた膜の評価は表1のとおり、良好なものであった。なお、実施例1と同様にして、実施例2および3ならびに比較例1および2につき、表1の条件にてそれぞれ剥離を実施し、評価した。なお、実施例2において、自然剥離を生じさせるクラックの写真がきれいに撮影できたので、これを
図14に示す。
図14中の矢印方向から剥離が進み、容易に自立膜が得られる。また、実施例3においては、ファセットがより平坦であり、結晶成長がより高品質なものとなったため、参考までに顕微鏡写真を
図15に示す。なお、実施例3に関し、c軸方向に対して60°の方向に延びるストライプのみならず、c軸方向に対して30°~150°の方向に延びているELOマスク(ストライプ配置)でも同様の傾向がみられ、c軸方向に垂直な方向に対して20°~40°の方向に延びているELOマスク(ストライプ配置)がとりわけファセット平坦性に優れていた。
【0063】
【0064】
(参考例)
実施例1および実施例3と同様にして、ELOマスクを、それぞれc軸方向に対して+60°の方向に延びるストライプ、c軸方向に対して垂直方向に延びるストライプ、c軸方向に対して-60°の方向に延びるストライプを作製し、α―Ga
2O
3膜を成膜し、自然剥離前の結晶成長におけるファセットの平坦性につき、評価した。顕微鏡写真を
図16に示す。
図16から明らかなとおり、c軸方向に対して+60°の方向に延びるストライプの場合と-60°の方向に延びるストライプの場合とでは、特に差はなく、c軸方向に対して±60°の方向に延びるストライプのいずれもが同様の非常に良好なファセット平坦性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の製造方法は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、特に、半導体装置等に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 結晶基板(結晶成長用基板)
1a 基板の表面(結晶成長面)
2a 凸部(剥離犠牲層)
2b 凹部(剥離犠牲層)
4 マスク層(剥離犠牲層)
5 剥離犠牲層(凸部マスク)
7 バッファ層
8 結晶成長層(横方向結晶成長層)
9 支持体
19 ミスト装置(成膜装置)
20 基板
21 サセプタ
22a キャリアガス供給装置
22b キャリアガス(希釈)供給装置
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 供給管
28 ヒータ
29 排気口
30 成膜室
50 ハライド気相成長(HVPE)装置
51 反応室
52a ヒータ
52b ヒータ
53a ハロゲン含有原料ガス供給源
53b 金属含有原料ガス供給管
54a 反応性ガス供給源
54b 反応性ガス供給管
55a 酸素含有原料ガス供給源
55b 酸素含有原料ガス供給管
56 基板ホルダ
57 金属源
58 保護シート
59 ガス排出部