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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】内面被覆チューブ
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/26 20060101AFI20240313BHJP
   C23C 16/515 20060101ALI20240313BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20240313BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C23C16/26
C23C16/515
H05H1/46 A
A61M25/00 610
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020036032
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021138987
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 表面技術協会第139回講演大会予稿集に掲載 表面技術協会第139回講演大会にて発表 表面技術協会第140回講演大会予稿集に掲載 表面技術協会第140回講演大会にて発表 OUS(岡山理科大学)フォーラム2019アブストラクト集に掲載 OUS(岡山理科大学)フォーラム2019にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】310001067
【氏名又は名称】ストローブ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕一
(72)【発明者】
【氏名】中谷 達行
(72)【発明者】
【氏名】國次 真輔
(72)【発明者】
【氏名】大澤 晋
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 大樹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰宏
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-501069(JP,A)
【文献】特開2018-145478(JP,A)
【文献】特開2008-230880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/26
C23C 16/515
H05H 1/46
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが200mm以上の可撓性のチューブ本体と、
前記チューブ本体の内表面全体に形成された、sp2結合及びsp3結合した炭素-炭素並びに炭素-水素結合を有するポリマーライクカーボン膜とを備え、
前記ポリマーライクカーボン膜は、表面における酸素隣接炭素の全炭素に対する割合が12at%以上25at%以下であり、
前記チューブ本体の50mmずつ離れた3点以上の位置における、前記酸素隣接炭素の全炭素に対する割合の変動係数が18%以下であり、
前記酸素隣接炭素の少なくとも一部は、カルボキシル基を形成している、内面被覆チューブ。
【請求項2】
前記ポリマーライクカーボン膜は、前記チューブ本体の50mmずつ離れた3点以上の位置における厚さの変動係数が15%以下である、請求項1に記載の内面被覆チューブ。
【請求項3】
前記チューブ本体の内径は、0.8mm以上、10mm以下である、請求項1又は2に記載の内面被覆チューブ。
【請求項4】
内部圧力を調整可能なチャンバ内に、非導電性の長尺細管を配置し、炭化水素を含む原料ガスを供給した状態において、前記長尺細管の内部にプラズマを発生させて、前記長尺細管の内壁面にsp2結合及びsp3結合した炭素-炭素並びに炭素-水素結合を有するポリマーライクカーボン膜を形成する成膜工程と、
前記ポリマーライクカーボン膜を成膜した前記長尺細管内に酸素原子を含むガスを供給した状態において、前記長尺細管の内部にプラズマを発生させて、前記ポリマーライクカーボン膜の表面に酸素原子を導入する酸素原子導入工程とを備え、
前記長尺細管は、一方の端部に放電電極が配置され、他方の端部は開放された状態で、前記チャンバ内に配置し、
前記プラズマは、放電電極と、前記長尺細管から離間して設けられた対向電極との間に断続的にバイアスを印加して発生させる、内面被覆チューブの製造方法。
【請求項5】
前記酸素原子導入工程におけるプラズマの照射時間は1秒以上、5秒以下である、請求項4に記載の内面被覆チューブの製造方法。
【請求項6】
前記ポリマーライクカーボン膜は、表面における表面における酸素隣接炭素の全炭素に対する割合が12at%以上25at%以下であり、
前記長尺細管の50mmずつ離れた3点以上の位置における、前記酸素隣接炭素の全炭素に対する割合の変動係数が18%以下であり、
前記酸素隣接炭素の少なくとも一部は、カルボキシル基を形成している、請求項4又は5に記載の内面被覆チューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内面被覆チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性の樹脂チューブは、取り扱いが容易であるため、様々な分野で用いられており、医療や食品の分野においても、種々の液体の移送に樹脂チューブが用いられている。樹脂チューブ内を流れる液体によっては、液体中の成分と樹脂チューブとの相互作用が問題となる場合がある。特に、血液を流すチューブの場合には、種々の血液成分の作用により樹脂チューブが閉塞するという問題がある。
【0003】
樹脂チューブの閉塞を避けるために、樹脂チューブの内表面を改質して、樹脂チューブと血液成分との相互作用を低減することが検討されている。平板やボトルのような形状の場合、プラズマ照射等のいわゆるドライメソッドによる表面の改質を容易に行うことができる。しかし、長尺のチューブの場合、ドライメソッドでは内部まで改質することが困難であり、コーティング等のウエットメソッドによる表面改質が行われている。しかし、ウエットメソッドによる表面改質は時間の面及び均一性の面で問題が多く、ドライメソッドによる表面改質が求められている。
【0004】
ドライメソッドによる表面改質として、樹脂チューブ内において、炭化水素のプラズマを発生させ、樹脂チューブの内表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成することが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6506787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の樹脂チューブ内に形成されたDLC膜は、C-C結合及びC-H結合によって形成されており、生体適合性の点で十分ではない。
【0007】
本開示の課題は、樹脂チューブの内表面により生体適合性に優れた被覆を、より均一に形成できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の内面被覆チューブは、長さが200mm以上の可撓性のチューブ本体と、チューブ本体の内表面全体に形成されたポリマーライクカーボン膜とを備え、ポリマーライクカーボン膜は、表面における酸素隣接炭素の全炭素に対する割合が12at%以上、25at%以下 であり、チューブ本体の50mmずつ離れた3点以上の位置における、酸素隣接炭素の全炭素に対する割合の変動係数が18%以下であり、酸素隣接炭素の少なくとも一部は、カルボキシル基を形成している。
【発明の効果】
【0009】
本開示の内面被覆チューブは、内面にカルボキシル基を有するポリマーライクカーボン膜を均一に有しており、チューブ内面の生体適合性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る内面被覆チューブを示す断面図である。
図2】成膜装置の一例を示す模式図である。
図3】各チューブのC1sピークを比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本実施形態の内面被覆チューブ100は、チューブ本体101と、チューブ本体101の内面全体に形成されたポリマーライクカーボン膜102とを備えている。
【0012】
チューブ本体101は、継ぎ目のない可撓性のチューブである。チューブ本体101の長さに特に制限はないが、カテーテル等の医療用機器に用いる観点から、チューブ本体101は長さが好ましくは100mm以上、より好ましくは200mm以上である。内面被覆のしやすさの観点からは、チューブ本体101は長さが好ましくは5000mm以下、より好ましくは2000mm以下である。チューブ本体101の太さも特に制限されないが、内面被覆のしやすさ及び種々の医療用機器に用いる観点から、チューブ本体101の内径は好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1.0mm以上、好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下、さらに好ましくは6mm以下である。
【0013】
チューブ本体は、円筒形状に巻き取ることができる可撓性であればよく、その材質は特に限定されない。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリ乳酸やその共重合体などの生分解性ポリマー、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ラテックスゴム、アクリル樹脂、シリコーン、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)及び非延伸ポリテトラフルオロエチレン等からなるチューブとすることができる。
【0014】
内面被覆であるポリマーライクカーボン膜102は、国際標準化機構(ISO)による規格化が進められている炭素を含む膜である。本実施形態においてポリマーライクカーボン膜102の含まれる炭素原子は、炭素-炭素(C-C)結合を形成している炭素隣接炭素と、炭素-水素(C-H)結合を形成している水素隣接炭素と、炭素-酸素(C-O)結合を形成している酸素隣接炭素とを含む。C-C結合及びC-H結合は、sp2結合したもの及びsp3結合をしたものを含む。C-O結合の少なくとも一部はカルボキシル基を形成している。
【0015】
ポリマーライクカーボン膜102の表面における酸素隣接炭素原子の全炭素原子に対する割合は、チューブ内全体にわたって12at%以上、好ましくは15at%以上、25at%以下、好ましくは23at%以下である。酸素隣接炭素原子の割合をこのような値とすることにより、ポリマーライクカーボンとしての物性を保ちつつ、生体適合性を向上させることができる。なお、酸素隣接炭素原子の割合は、実施例において示すように、X線光電分光(XPS)法により求めることができる。
【0016】
チューブ本体101の内壁におけるポリマーライクカーボン膜102の膜厚は特に限定されないが、カテーテルの内面の摩擦係数を低減する観点からは、好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上である。また、剥離等を防止する観点からは好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0017】
チューブ本体101内に形成するポリマーライクカーボンの硬度(HIT)は、チューブの変形に対する追随性を確保する観点から好ましくは3GPa以下、より好ましくは1GPa以下である。また、ポリマーライクカーボン膜としての機能を確保する観点から、好ましくは0.1GPa以上、より好ましくは0.2GPa以上である。
【0018】
チューブ本体101の内面に形成されたポリマーライクカーボン膜102は、チューブ内全体にわたって均一に形成されている。具体的には、互いに50mm以上離れた3点以上の位置における、ポリマーライクカーボン膜の酸素隣接炭素の割合の変動係数(CV:標準偏差/平均値×100%)は、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下である。
【0019】
また、ポリマーライクカーボン膜102は、チューブ内全体にわたって厚さが一定に形成されている。具体的には、互いに50mm以上離れた3点以上の位置における、ポリマーライクカーボン膜102の厚さの変動係数は、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下である。なお、ポリマーライクカーボン膜102の厚さは、実施例において示すように、顕微分光法により求めることができる。
【0020】
本実施形態の内面被覆チューブ100は、以下のような成膜装置を用いて形成することができる。図2は、ポリマーライクカーボン膜102の成膜装置を示している。成膜装置200は、内部に成膜対象の長尺細管であるチューブ本体101を収容するチャンバ201を有している。チャンバ201には、真空排気部210と、チャンバ201内にガスを供給するガス供給部215とが接続されており、内部の圧力を調整することができる。また、電力を供給する電源部220が接続されており、チャンバ201内にプラズマを発生させることができる。
【0021】
本実施形態において、真空排気部210は、真空ポンプ212とバルブ213とを有している。本実施形態において、ガス供給部215は、複数のボンベ216と、ボンベ216の切り替えを行う流路切り替え部218と、マスフローコントローラ217とを有している。本実施形態においてガス供給部215は、流路切り替え部218を有しており、成膜用ガスの供給と表面改質用ガスの供給とを切り替えることができる。本実施形態において、電源部220は、電圧発生器221と増幅器222とを有しており、放電電極225と対向電極との間に交流電圧を印加する。対向電極は、接地電極であり、チャンバ201の内壁となっている。
【0022】
チャンバ201内に配置されたチューブ本体101の一方の端部を、放電電極225の位置に配置し、他方の端部は開放状態とする。チャンバ201内を減圧した後、ガス供給部215から炭化水素を含む成膜用ガスを供給し、交流電圧を放電電極225と対向電極であるチャンバ201の内壁との間に印加する。交流電圧の印加により放電電極225の周囲において温度が上昇する。これによりチューブ本体101内の圧力が、チューブ本体101外よりも若干低くなり、放電電極225付近において炭化水素のプラズマが発生する。チューブ本体101の他端は解放されているため、生成したプラズマはチューブ本体101内を解放端側へ移動し、チューブ本体101内の全体にプラズマが発生する。これによって、チューブ本体101の内壁面に未改質ポリマーライクカーボン膜が形成される。
【0023】
次に、ガス供給部215を切り替えて、酸素を含む表面改質用ガスを供給し、チューブ本体101内を流れるガスを成膜用ガスから表面改質用ガスに置換する。この後、交流電圧を放電電極225と対向電極であるチャンバ201の内壁との間に印加し、チューブ本体101内に酸素のプラズマを発生させる。これにより、未改質ポリマーライクカーボン膜にカルボキシル基が導入され、ポリマーライクカーボン膜が得られる。
【0024】
チャンバ201内を原料ガスで十分に置換する観点から、成膜前にチャンバ内を一旦1×10-3Pa~5×10-3Pa程度まで減圧することが好ましい。原料ガスに含まれる炭化水素は、通常のCVD法において用いられる、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン及びベンゼン等を用いることができ、取り扱いの観点からメタンが好ましい。また、原料ガスには、テトラメチルシラン等の有機ケイ素化合物や、ヘキサメチルジシロキサン等の酸素含有有機ケイ素系化合物を気化させて用いることもできる。原料ガスは、必要に応じてアルゴン、ネオン及びヘリウム等の不活性ガスにより希釈して供給することができ、取り扱いの観点からアルゴンにより希釈することが好ましい。希釈する場合、炭化水素と不活性ガスとの比率は、10:1~10:5程度とすることが好ましい。
【0025】
チューブ本体内に均一に未改質ポリマーライクカーボン膜を形成する観点から、成膜用ガスを供給した状態で、チャンバ201内の圧力は5Pa~200Pa程度とすることが好ましい。また、成膜ガスのフローレートは50sccm~200sccm程度とすることができる。
【0026】
成膜の際に放電電極225に印加するバイアス電圧は、1kV~20kV程度とすることができる。放電電極の損傷や温度上昇を避ける観点から10kV以下とすることが好ましい。交流電圧の周波数は、1kHz~50kHz程度とすることが好ましい。交流電圧は、温度上昇を抑える観点から、断続的に加えるパルスバイアスとすることが好ましい。交流をバースト波とする場合には、パルス繰り返し周波数を3pps~50pps程度とすることが好ましい。チューブ本体101の内径、成膜時間、交流印加電圧等にもよるが、パルス繰り返し周波数を30pps程度以下とすることによりチューブ温度を200℃以下とすることができる。成膜速度を高くしたい場合には、パルス繰り返し周波数を高くし、温度上昇を抑えたい場合はパルス繰り返し周波数を低くすればよい。
【0027】
放電を安定させ、未改質ポリマーライクカーボン膜の密着性を得るために、放電電極225にオフセット負電圧を印加することが好ましい。オフセット電圧は0~3kV程度とすることができる。
【0028】
成膜時間は、必要な膜厚が得られるようにすればよく、チューブ本体101の内径、交流電圧、パルス繰り返し周波数等の成膜条件に応じて最適な値を選択すればよいが、生産性の観点からは好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは10分以下である。
【0029】
表面改質の際には、チューブ本体101内を表面改質ガスとするために、一旦成膜ガスの供給を止めて1×10-3Pa~5×10-3Pa程度まで減圧することが好ましい。この後、表面改質ガスを50sccm~200sccm程度のフローレートで供給して、チャンバ201内の圧力を5Pa~200Pa程度として、酸素プラズマを発生させることが好ましい。
【0030】
表面改質ガスは、純酸素とすることができるが、必要に応じてアルゴン、ネオン及びヘリウム等の不活性ガスにより希釈して供給することができる。希釈する場合、純酸素と不活性ガスとの比率は、10:1~10:5程度とすることが好ましい。
【0031】
表面改質の際に放電電極225に印可するバイアス電圧等の条件は、成膜の場合と同様にすることができる。酸素プラズマによる処理時間は、改質を十分に行う観点から好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1秒以上、未改質ポリマーライクカーボン膜の分解を抑える観点から好ましくは6秒以下、より好ましくは5秒以下である。
【0032】
本開示の表面被覆チューブは、内面の全体がカルボキシル基を含むポリマーライクカーボン膜により均一に被覆されており、各種口径の人工血管、カバードステント・チューブステント・カテーテル・シース等の血管内治療・内視鏡治療関連の筒状樹脂構造物(血管、尿管、胆管・膵管、腹腔、胸腔等の治療に関わり、生体内に一時的もしくは長期的に留置を目的としたすべての筒状樹脂構造物)、人工心肺回路および透析時のチューブ回路等の体外血液循環回路、点滴回路等の体内に留置を目的としない筒状樹脂構造物を用いたすべての医療用機器に用いることができる。また、医療機器に限らず、内面の平滑性及び親水性が要求される種々の分野において使用することができる。
【実施例
【0033】
<装置>
図2に示す成膜装置により、試料の内壁面に炭素質膜を形成した。チャンバ201は、直径が200mmで、長さが500mmのステンレス容器とした。チャンバ201には真空排気部210及びガス供給部215が接続されており、電源部220は、電圧発生器221(IWATSU製SG-4104)と増幅器222(NF Corporation製HVA4321)とにより構成した。放電電極225は、直径6mm、長さ70mmのステンレス電極とした。ガス供給部215は、ボンベ116としてメタンガスのボンベと酸素のボンベとを有し、これらを切り替えて供給できる構成とした。バルブの開度及びガス供給量を制御することにより、チャンバ201内の圧力を調整した。
【0034】
<成膜>
内径が4mmで長さが500mmのシリコンチューブに成膜を行った。成膜ガスはCH4とし、流量は96.2ccm(室温)とし、チャンバ内の圧力は39.06Paとした。成膜の際のバイアス電圧は5kVとし、周波数は10kHzとした。交流電圧の印加は、パルス繰り返し周波数が10pps又は30ppsとなるように断続的に、20分間行った。なお、成膜の際には増幅器により2kVのオフセットを印加した。
【0035】
<表面改質>
未改質ポリマーライクカーボン膜を成膜した後、チューブ内に供給するガスを表面改質ガスに切り替え、3秒間プラズマを発生させた。表面改質ガスは酸素ガスとした。プラズマの発生条件は、成膜の際と同じにした。
【0036】
<膜組成の分析>
ポリマーライクカーボン膜の組成はX線光電子分光(XPS)測定により評価した。XPS測定には日本電子社製JPS-9200Sを用いた。XPS測定の条件は、試料に対する検出角度を90度とし、X線源にはMgを用い、X線照射エネルギーを100Wとした。
【0037】
ナロースキャンにより得られたO1sピーク、C1sピーク及びSi2pピークの強度比から相対感度係数を用いて半定量分析を行い、膜表面における炭素原子、酸素原子及びシリコン原子の存在比率を求めた。また、C1sピークをフィッティングによりC-C、C-H、C-O、及びO=C-Oの4成分に分離し、C-O及びO=C-Oの面積強度を酸素隣接炭素の割合、C-Cの面積強度を炭素隣接炭素の割合、C-Hの面積強度を水素隣接炭素の割合とし、これらの比から酸素隣接炭素の全炭素原子に対する割合を算出した。なお、フィッティングには、ガウス-ローレンツ関数(比0.7)を用いた。C-C及びC-Hは284.7eVと285.4eVの2つのピークが存在すると仮定し、C-Oピークは286.5eV、O=C-Oピークは288.3eVであると仮定して波形分離を行った。
【0038】
<膜厚の測定>
チューブ内表面に形成されたポリマーライクカーボン膜の膜厚は、顕微分光膜厚計(大塚電子製、OPTM-F2)により測定したチューブ内表面の反射率から算出した。対物レンズは可視屈折5倍を用い、スポット径はφ40μmとした。チューブ内表面の反射率は、チューブを切断して内表面を露出させた状態で測定した。
【0039】
シリコーンチューブ表面には粗さ層が存在し、ポリマーライクカーボン膜は粗さ層に入り込み粗さ層を形成しているというモデルを構築し、粗さ層に入り込んだ部分を含めたポリマーライクカーボン膜の膜厚を算出した。なお、基材であるシリコーンチューブの屈折率n及び消失係数kは、EMA_mixモデルを適用してカーブフィッティングにより算出した。
【0040】
<表面粗さ(Ra)の測定>
白色干渉計(Zygo社製、NewView5320)により撮影した画像を用いて算術平均表面粗さ(Ra)を測定した。撮影倍率は100倍とし、バックグラウンド除去処理として、Cylinderによる基板形状の除去と、FFT auto High pass処理によるうねり成分の除去を行った。クラック及び欠陥部を除いた平坦部のラインデータ(長さ50μm)におけるRaを測定した。
【0041】
<膜硬度の測定>
ポリマーライクカーボン膜の硬度(HIT)は、ナノインデンテーション法により測定した。チューブ内に所定サイズに切断したシリコンウエハを配置して、チューブ内面と共にシリコンウエハの表面にポリマーライクカーボンを成膜し、シリコンウエハ表面のポリマーライクカーボン膜について硬度を測定した。測定には、ナノインデンター(Hysitron社製、Nanoindenter TI950)を用いた。
【0042】
<接触角の測定>
ポリマーライクカーボン膜表面の水に対する接触角を接触角測定装置(DropMaster500、協和界面科学株式会社)を用いて測定した。チューブを切断して内表面を露出させ、治具を用いて平坦に伸ばした状態で測定を行った。測定は10点について行い、平均値を求めた。
【0043】
-未改質ポリマーライクカーボン膜の評価-
内径4mmで、長さ400mmのシリコーンチューブの内面にポリマーライクカーボン膜を形成した。未成膜のシリコーンチューブ及び成膜したシリコーンチューブの表面における炭素原子、酸素原子及びシリコン原子の組成比を求めた。また、平行平板型の高周波プラズマ発生装置(アドテックプラズマテクノロジー社製)内にシリコーンチューブを配置して炭化水素プラズマを発生させた場合についても、炭素原子、酸素原子及びシリコン原子の組成比を求めた。
【0044】
未成膜のシリコーンチューブ(ブランク)のチューブ内表面の炭素原子、酸素原子及びシリコン原子の組成比は、それぞれ53.4at%、22.8at%、及び23.8at%であった。
【0045】
平行平板型のプラズマ発生装置により処理したシリコーンチューブの内表面における、チューブ端から50mm、100mm、150mm、200mm、250mm、300mm及び350mmの位置の炭素原子、酸素原子及びシリコン原子の組成比は表1に示すようになった。
【0046】
チューブ内表面における平均の組成比は、炭素53.3±1.2at%、酸素22.8±0.6at%、シリコン24.0±1.0at%であった。いずれの位置においても、炭素原子の比率がブランクにおける値よりも若干低下しており、チューブ内表面にポリマーライクカーボン膜は形成されていない。一方、チューブ外表面においては、炭素66.4at%、酸素18.5at%、シリコン15.1at%となり、炭素原子の比率がブランクよりも上昇しており、チューブ外表面にのみポリマーライクカーボン膜が形成されていることが示された。
【0047】
図2に示す装置により処理したシリコーンチューブ(実施例)の内表面における、チューブ端から50mm、100mm、150mm、200mm、250mm及び300mmの位置の炭素原子、酸素原子及びシリコン原子の組成比は表1に示すようになった。なお、図2に示す装置の場合、成膜時にシリコーンチューブ内に放電電極225が挿入されているため、電極の先端の位置から150mm離れた位置をチューブ端(0mm)とした。チューブ内表面における平均の組成比は、炭素72.0±0.8at%、酸素15.9±0.5at%、シリコン12.1±0.5at%であった。いずれの位置においても、炭素原子の比率がブランクにおける値よりも大きく上昇しており、チューブ内表面にポリマーライクカーボン膜が形成されている。また、炭素原子の比率のばらつきはほとんど無く、チューブ内表面に均一なポリマーライクカーボン膜が形成されている。なお、酸素原子及びシリコン原子は、シリコーンチューブに由来するものである。
【0048】
白色干渉計により求めた表面粗さ(Ra)は、平行平板の装置により成膜した場合は、未処理の場合(0.010μm)とほぼ同じ(平均値で0.009μm)であったが、図2に示す装置により成膜した場合には、平滑性が向上(平均値で0.005μm)しており、チューブ内表面に均一にポリマーライクカーボン膜が形成されている。
【0049】
表1には、顕微分光法により求めたポリマーライクカーボン膜の膜厚も示している。表1に示すように、膜厚の平均値は68.5±6.1nmであり、変動係数(CV)は9.1%であった。また、50mmずつ離れた3点以上の位置における変動係数も15%を越えることはなかった。チューブ内の全体にわたってほぼ一定の膜圧のポリマーライクカーボン膜が形成されている。また、得られた膜の押込硬さ(HIT)は0.46±0.05GPaであり、Sp2結合が多いポリマーライクカーボン膜が形成されていると推定される。
【0050】
【表1】
【0051】
-改質ポリマーライクカーボン膜の評価-
未改質のポリマーライクカーボン膜に図2に示す装置により2秒間酸素プラズマを照射した際のO1sピークの面積強度から求めた酸素原子の存在比率を表2に示す。チューブ端から50mm、100mm、150mm、200mm、250mm及び300mmのいずれの位置においても、表1に示す未改質ポリマーライクカーボン膜の場合と比べ改質したポリマーライクカーボン膜では酸素原子の存在比率が上昇しており、酸素原子がポリマーライクカーボン膜に導入されている。
【0052】
図3は、成膜していないブランク、未改質ポリマーライクカーボン膜及び改質ポリマーライクカーボン膜のC1sピークを示している。ブランク及び未改質ポリマーライクカーボン膜と比べて改質ポリマーライクカーボン膜では、C-O結合及びO=C-O結合が存在する場合にピークが生じる高エネルギー側にテールが拡がっている。このため、ブランク及び未改質ポリマーライクカーボン膜では、炭素原子と結合した酸素原子はわずかしか含まれておらず、改質ポリマーライクカーボン膜では高い割合で酸素原子が炭素原子と結合した状態となっており、そのうちの少なくとも一部はカルボキシル基を形成している。
【0053】
表2には改質ポリマーライクカーボン膜における、チューブ端から50mm、100mm、150mm、200mm、250mm及び300mmの各位置の酸素隣接炭素の全炭素原子に対する割合を示す。すべての測定点における酸素隣接炭素の割合の平均値は19.1at%であり変動係数は9.0%であった。また、50mmずつ離れた3点以上の位置における変動係数の最大値は12.5%であり18%を越えることはなく、チューブ内に均一に酸素隣接炭素が導入されている。
【0054】
酸素プラズマを照射した場合の表面粗さ(Ra)の値は、照射していない場合と比べて大きく変化しておらず、酸素プラズマ照射による表面の粗面化はほとんど生じていない。
【0055】
【表2】
【0056】
表3には、酸素プラズマの照射時間と接触角との関係を示す。酸素プラズマを5秒照射することにより、未成膜のシリコーンチューブ表面及び酸素プラズマ未照射のポリマーライクカーボン膜表面と比べて水に対する接触角が大きく低下して親水化している。酸素プラズマ照射時間が10秒になると、接触角の上昇が認められた。これは、酸素プラズマによりポリマーライクカーボン膜がダメージを受け、下地のシリコーンチューブの影響を受けるようになるためであると考えられる。
【0057】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示の内面被覆チューブは、内面にカルボキシル基を有するポリマーライクカーボン膜が均一に形成されており、血液等が流れるチューブとして有用である。
【符号の説明】
【0059】
100 内面被覆チューブ
101 チューブ本体
102 ポリマーライクカーボン膜
200 成膜装置
201 チャンバ
210 真空排気部
212 真空ポンプ
213 バルブ
215 ガス供給部
216 ボンベ
217 マスフローコントローラ
218 流路切り替え部
220 電源部
221 電圧発生器
222 増幅器
225 放電電極
図1
図2
図3