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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/20 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
H01S5/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020058453
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158269
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】大山 浩市
(72)【発明者】
【氏名】樽見 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼本 貴一
(72)【発明者】
【氏名】姜 海松
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/119131(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/016453(WO,A1)
【文献】特開2012-009650(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0123317(US,A1)
【文献】特開平06-188510(JP,A)
【文献】特開2013-004855(JP,A)
【文献】特開2010-267731(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109560465(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する半導体発光素子であって、
第1導電型の第1クラッド層(2)と、
前記第1クラッド層上に配置された活性層(3)と、
前記活性層上に配置された第2導電型の第2クラッド層(4)と、
前記第2クラッド層と電気的に接続される上部電極(7)と、
前記第1クラッド層と電気的に接続される下部電極(8)と、を備え、
前記第1クラッド層、前記活性層、前記第2クラッド層が積層された部分が光導波路(10)を構成しており、
前記光導波路は、2次モード以上の光の伝搬が可能とされた幅を有する第1導波路(11)および第2導波路(12)と、前記第1導波路と前記第2導波路との間に配置され、前記第1導波路および前記第2導波路より幅が広くされた多モード干渉光導波路(13)とを有し、
前記活性層の面方向と交差する交差方向において、前記第1導波路と対向しつつ、少なくとも前記第1導波路を2次モード以上で伝搬する光を損失させる第1光損失層(21)が配置され、前記第2導波路と対向しつつ、少なくとも前記第2導波路を2次モード以上のモードで伝搬する光を損失させる第2光損失層(22)が配置されている半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1光損失層は、前記交差方向において、前記第1導波路を挟むように配置されており、
前記第2光損失層は、前記交差方向において、前記第2導波路を挟むように配置されている請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第1光損失層および前記第2光損失層は、前記活性層上に配置されている請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1光損失層および前記第2光損失層は、一部が前記活性層内に配置されている請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1光損失層および前記第2光損失層は、全体が前記活性層より前記第1クラッド層側に配置されている請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記第1光損失層および前記第2光損失層は、前記第2クラッド層と同じ材料を含んで構成されている請求項1ないし5のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記第1光損失層および前記第2光損失層は、金属で構成されている請求項1ないし5のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記第1導波路および前記第2導波路は、幅が4μm以上とされている請求項1ないし7のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記交差方向において、前記第1光損失層と前記第1導波路との間隔(L1)、および前記第2光損失層と前記第2導波路との間隔(L2)は、1.5μm以下とされている請求項1ないし8のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記交差方向において、前記第1光損失層と前記第1導波路との間隔、および前記第2光損失層と前記第2導波路との間隔は、1.1μm以下とされている請求項9に記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記交差方向において、前記第1光損失層と前記第1導波路との間隔(L1)、および前記第2光損失層と前記第2導波路との間隔(L2)は、0.7μm以上とされている請求項1ないし10のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記第1導波路および前記第2導波路の幅に対する前記多モード干渉光導波路の幅の比率が1.35以上とされている請求項1ないし11のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項13】
前記多モード干渉光導波路は、複数備えられている請求項1ないし12のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる幅の導波路を有する半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、異なる幅の導波路を有する半導体発光素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、この半導体発光素子は、第1導波路および第2導波路と、第1導波路と第2導波路との間に配置され、第1導波路および第2導波路より幅が広くされた多モード光干渉導波路とを備えている。なお、第1導波路および第2導波路は、光の伝搬モードとして1次モードまでを許容する幅とされている。
【0003】
これによれば、例えば、導波路が第1導波路および第2導波路の幅で一定とされている場合と比較して、第3導波路の幅が広くされているため、低消費電力化を図ることができると共に、レーザ光の高出力化を図ることができる。
【0004】
また、第1導波路および第2導波路は、1次モードまでを許容する幅とされているが、多モード干渉光導波路により、第1導波路および第2導波路を伝搬する1次モードの光がフィルタリングされる。このため、上記のような半導体発光素子では、0次モード(すなわち、基本モード)の光に基づくシングルモードのレーザ光が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/016453号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現状では、シングルモードのレーザ光を出力しつつ、さらなる低消費電力化およびレーザ光の高出力化を図りたいという要望がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、シングルモードのレーザ光を出力しつつ、さらなる低消費電力化およびレーザ光の高出力化を図ることのできる半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1では、レーザ光を出力する半導体発光素子であって、第1導電型の第1クラッド層(2)と、第1クラッド層上に配置された活性層(3)と、活性層上に配置された第2導電型の第2クラッド層(4)と、第2クラッド層と電気的に接続される上部電極(7)と、第1クラッド層と電気的に接続される下部電極(8)と、を備えている。そして、第1クラッド層、活性層、第2クラッド層が積層された部分が光導波路(10)を構成しており、光導波路は、2次モード以上の光の伝搬が可能とされた幅を有する第1導波路(11)および第2導波路(12)と、第1導波路と第2導波路との間に配置され、第1導波路および第2導波路より幅が広くされた多モード光干渉導波路(13)とを有し、活性層の面方向と交差する交差方向において、第1導波路と対向しつつ、第1導波路を2次モード以上で伝搬する光を損失させる第1光損失層(21)が配置され、第2導波路と対向しつつ、第2導波路を2次モード以上のモードで伝搬する光を損失させる第2光損失層(22)が配置されている。
【0009】
これによれば、第1導波路および第2導波路を2次モード以上の光の伝搬を許容する幅としている。そして、第1光損失層および第2光損失層を配置して2次モード以上の光を損失させることにより、第1導波路および第2導波路を伝搬する光のモードとして0次モードが支配的となるようにしている。このため、シングルモードのレーザ光を出力しつつ、光導波路の面積を増加させることができる。したがって、この半導体発光素子によれば、シングルモードのレーザ光を出力しつつ、さらに、低消費電力化およびレーザ光の高出力化を図ることができる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態における半導体発光素子の断面図である。
図2図1に示す半導体発光素子の平面模式図である。
図3】実効屈折率と導波路幅との関係を説明するための図である。
図4A】第1導波路を光が0次モードで伝搬する際の電界に関するシミュレーション結果を示す図である。
図4B】第1導波路を光が1次モードで伝搬する際の電界に関するシミュレーション結果を示す図である。
図4C】第1導波路を光が2次モードで伝搬する際の電界に関するシミュレーション結果を示す図である。
図5】MMI幅比と、透過損失差との関係に関するシミュレーション結果を示す図である。
図6】活性層の面方向と交差する交差方向における第1導波路と第1光損失層との間隔と、伝搬損失との関係に関するシミュレーション結果を示す図である。
図7】第1実施形態における半導体発光素子および従来の半導体発光素子と、面積および漏洩損失との関係を示す図である。
図8】第2実施形態における半導体発光素子の断面図である。
図9】第3実施形態における半導体発光素子の断面図である。
図10】第4実施形態における半導体発光素子の平面模式図である。
図11】第5実施形態における半導体発光素子および外部共振器を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の半導体発光素子100について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、半導体発光素子100としての半導体レーザを例に挙げて説明する。半導体発光素子100は、図1に示されるように、N型のGaAs(ガリウムヒ素)やInP(インジウムリン)等で構成される基板1を備えている。そして、基板1上には、N型のAlGaAs(アルミニウムガリウムヒ素)等で構成される第1クラッド層2が配置されている。第1クラッド層2上には、第1クラッド層2、後述する第2クラッド層4および絶縁膜6より屈折率が高くされた活性層3が配置されている。
【0014】
活性層3上には、P型のAlGaAs等で構成される第2クラッド層4が配置されている。なお、第2クラッド層4は、活性層3上の全面に配置されておらず、活性層3上に部分的に配置されている。本実施形態では、第2クラッド層4は、活性層3上において、基板1の面方向における一方向を長手方向として延設されている。そして、このような半導体発光素子100では、第1クラッド層2、活性層3、第2クラッド層4が積層された部分にて光導波路10が構成される。つまり、本実施形態の光導波路10は、第2クラッド層4の長手方向が当該光導波路10の長手方向となるように構成されている。
【0015】
ここで、本実施形態の光導波路10は、第2クラッド層4の幅が調整されることにより、図2に示されるように、第1導波路11および第2導波路12と、第1導波路11および第2導波路12より幅が広くされた多モード干渉光導波路(以下では、単にMMIともいう)13とを有する構成とされている。
【0016】
なお、ここでの幅とは、光導波路10の長手方向に沿った方向と直交する方向の長さであって、基板1の面方向に沿った方向の長さのことである。言い換えると、幅とは、光導波路10の長手方向と直交する方向の長さであって、基板1、第1クラッド層2、活性層3、第2クラッド層4の積層方向と直交する方向の長さのことである。つまり、図2中では、紙面上下方向に沿った方向の長さが幅となる。また、図1は、図2中のI-I線に沿った断面図であるが、第2導波路12を含む断面構成も同様となる。そして、MMI13を含む断面構成は、特に図示しないが、第2クラッド層4の幅が異なると共に、後述する第1光損失層21が配置されていない以外は、図1と同様である。
【0017】
第1導波路11および第2導波路12は、MMI13を挟むように配置されている。つまり、本実施形態のMMI13は、1入力かつ1出力型の1×1-MMI13とされている。また、第1導波路11および第2導波路12の幅は、2次モード以上の光の伝搬を許容する長さとされている。本実施形態の半導体発光素子100における具体的な作動については後述するが、図3に示されるように、上記のように光導波路10を構成した場合、導波路幅が4μm以上となると2次モードの光も伝搬可能となる。このため、第1導波路11および第2導波路12は、4μm以上とされており、本実施形態では、6μmとされている。
【0018】
MMI13は、上記のように、第1導波路11および第2導波路12よりも幅が広くされており、本実施形態では、10μmとされている。本実施形態では、具体的には後述するが、第1導波路11および第2導波路12の幅に対するMMI13の幅の比率(以下では、単にMMI幅比ともいう)が1.35以上とされている。なお、第1導波路11の幅に対するMMI13の幅の比率とは、MMI13の幅/第1導波路11の幅である。第2導波路12の幅に対するMMI13の幅の比率とは、MMI13の幅/第2導波路12の幅である。また、MMI13における幅方向と直交する方向の長さ(以下では、MMI13の長手方向の長さともいう)は、本実施形態では、300μmとされている。
【0019】
なお、本実施形態では、光導波路10における長手方向の全体の長さ(すなわち、共振器長)が1000μmとされている。つまり、第1導波路11と第2導波路12との光導波路10における長手方向の長さの和は、700μmとされている。
【0020】
第2クラッド層4上には、図1に示されるように、P型のGaAs等で構成されるキャップ層5が形成されている。
【0021】
また、活性層3上には、第1光損失層21および第2光損失層22が配置されている。第1光損失層21は、図2に示されるように、2つ備えられており、活性層3の面方向と交差する方向(以下では、単に交差方向ともいう)において、第1導波路11と対向しつつ、第1導波路11を挟むように配置されている。第2光損失層22は、2つ備えられており、交差方向において、第2導波路12と対向しつつ、第2導波路12を挟むように配置されている。なお、交差方向においてとは、言い換えると、第1クラッド層2、活性層3、第2クラッド層4の積層方向から視たときということもでき、第1導波路11、第2導波路12、MMI13が配列される平面と交差する方向においてということもできる。
【0022】
また、第1光損失層21および第2光損失層22は、本実施形態では、図1に示されるように、活性層3からの高さが第2クラッド層4とキャップ層5とを積層した高さと同じとされている。第1光損失層21および第2光損失層22は、それぞれ幅が5μmとされている。
【0023】
そして、活性層3上には、第2クラッド層4、キャップ層5、第1光損失層21および第2光損失層22を覆うように、酸化膜等で構成される絶縁膜6が配置されている。なお、絶縁膜6は、第2クラッド層4およびキャップ層5と、第1光損失層21および第2光損失層22との間の部分を埋め込むように配置されている。そして、絶縁膜6には、キャップ層5の一部を露出させるようにコンタクトホール6aが形成されている。絶縁膜6上には、コンタクトホール6aを通じてキャップ層5と電気的に接続されることにより、第2クラッド4層と電気的に接続される上部電極7が配置されている。また、基板1のうちの第1クラッド層2と反対側の裏面側には、基板1を介して第1クラッド層2と電気的に接続される下部電極8が配置されている。
【0024】
ここで、第1光損失層21は、本実施形態では、第1光損失層21と光導波路10との間に挟まれる部分の屈折率より高い材料を含んで構成されている。第2光損失層22は、本実施形態では、第2光損失層22と光導波路10との間に挟まれる部分の屈折率より高い材料を含んで構成されている。つまり、本実施形態では、第1光損失層21および第2光損失層22は、絶縁膜6よりも屈折率の高い材料で構成されている。
【0025】
具体的には、本実施形態の第1光損失層21および第2光損失層22は、活性層3上に配置されている。このため、第1光損失層21および第2光損失層22は、活性層3上に配置されると共に絶縁膜6よりも屈折率の高い第2クラッド層4と同じ材料を含んで構成されている。なお、第2クラッド層4を構成するAlGaAsの屈折率は、約3.3であり、絶縁膜6を構成する酸化膜の屈折率は、約1.44である。
【0026】
より詳しくは、本実施形態の第1光損失層21および第2光損失層22は、活性層3からの高さが第2クラッド層4とキャップ層5とを積層した高さと同じとされている。このため、本実形態の第1光損失層21および第2光損失層22は、第2クラッド層4と同じ高さに存在する部分が第2クラッド層4と同じ材料で構成され、キャップ層5と同じ高さに存在する部分がキャップ層5と同じ材料で構成されている。
【0027】
なお、図1中の交差方向における第1光損失層21と第1導波路11との間隔L1、および第2光損失層22と第2導波路12との間隔L2等については、具体的に後述する。
【0028】
また、半導体発光素子100は、図2に示されるように、光導波路10の長手方向と交差する相対する端面に低反射膜31および高反射膜32が配置されている。具体的には、出射面となる端面に低反射膜31が配置され、反射面となる端面に、低反射膜よりも反射率が高い高反射膜32が配置されている。そして、本実施形態では、第1導波路11は、MMI13よりも出射面側に配置され、第2導波路12は、MMI13よりも反射面側に配置されている。なお、図2は、断面図ではないが、理解をし易くするため、低反射膜31および高反射膜32にハッチングを施してある。
【0029】
以上が本実施形態における半導体発光素子100の基本的な構成である。なお、本実施形態では、N型が第1導電型に相当し、P型が第2導電型に相当している。次に、第1光損失層21および第2光損失層22と、第1導波路11および第2導波路12との具体的な配置関係について、説明する。
【0030】
まず、上記のような半導体素子における基本的な作動について説明する。上記のような半導体発光素子100は、上部電極7と下部電極8との間に電圧が印加されると、N型の第1クラッド層2からP型の第2クラッド層4に向かって電子が移動すると共に、P型の第2クラッド層4からN型の第1クラッド層2に向かって正孔が移動する。そして、半導体発光素子100では、正孔と電子とが光導波路10で再結合することによって光が発生する。また、半導体発光素子100には、低反射膜31および高反射膜32が配置されている。このため、光導波路10で発生した光は、低反射膜31と高反射膜32との間を往復しながら誘導放出を発生させ、増幅されることで出射面からレーザ光として出力される。
【0031】
この場合、本実施形態の第1導波路11および第2導波路12は、2次モード以上の光の伝搬を許容する幅とされている。このため、第1導波路11および第2導波路12では、光が0次モード、1次モード、または2次モード以上の高次モードとして伝搬する。
【0032】
ここで、第1導波路11を光が0次モード、1次モード、2次モードで伝搬する際の電界について、図4A図4Cを参照しつつ説明する。なお、特に図示しないが、第2導波路12を光が0次モード、1次モード、2次モードで伝搬する際の電界についても同様である。また、図4A図4Cは、図1の断面に相当する部分のシミュレーション結果を示す図である。
【0033】
図4Aに示されるように、第1導波路11を光が0次モードとして伝搬する場合、電界は、第1導波路11の中央部が高くなることが確認される。これに対し、図4Bに示されるように、第1導波路11を光が1次モードとして伝搬する場合、電界は、第1導波路11の幅方向における両端側に高くなる部分が構成されることが確認される。そして、図4Cに示されるように、第1導波路11を光が2次モードとして伝搬する場合、光が1次モードとして伝搬する場合と比較して、電界は、さらに、第1導波路11の幅方向における両端側に高くなる部分が構成されることが確認される。
【0034】
なお、特に図示しないが、第1導波路11を光が3次モード以上のモードで伝搬する場合も同様に、電界は、第1導波路11の幅方向における両端側に高くなる部分が構成される。但し、光が3次モード以上で伝搬する場合、光が2次モードで伝搬する場合と比較して、電界は、さらに、第1導波路11の幅方向における両端側に高くなる部分が構成される。
【0035】
また、図4図4Cに示されるように、電界は、第1導波路11よりも幅方向に広がることが確認される。そして、電界は、光の伝搬するモードが大きくなるほど幅方向への広がりが大きくなることが確認される。つまり、電界は、光が0次モードで伝搬する場合を基準とすると、1次モードで伝搬する場合、2次モードで伝搬する場合の順に幅方向への広がりが大きくなる。なお、特に図示しないが、第1導波路11を光が3次モード以上の伝搬する場合も同様に、電界は、モードが大きくなるほど幅方向への広がりが大きくなる。
【0036】
そして、本実施形態では、交差方向において、第1導波路11を挟むように、高屈折率である第1光損失層21が配置されている。このため、第1導波路11を伝搬する2次モード以上の光が第1光損失層21に吸収されるように第1光損失層21を配置することにより、少なくとも2次モードで伝搬する光の損失を大きくすることができる。
【0037】
ここで、まず、第1導波路11および第2導波路12を1次モードで伝搬する光は、MMI13で透過損失が発生する。具体的には、図5に示されるように、MMI幅比が1より大きくなると、1次モードで伝搬する光の透過損失が大きくなり、0次モードで伝搬する光の透過損失と1次モードで伝搬する光の透過損失との差が大きくなり始める。そして、本発明者らの検討によれば、MMI幅比が1.35以上になると、透過損失差が1cm-1となることが確認される。なお、図5中の透過損失差は、0次モードで伝搬する光の透過損失から1次モードで伝搬する光の透過損失を減算した値である。また、図5は、第1光損失層21および第2光損失層22を備えない半導体発光素子100を用いたシミュレーション結果である。
【0038】
このため、本実施形態では、MMI幅比は、1.35以上とされている。これにより、第1導波路11を1次モードで伝搬する光がMMI13を透過し難くなり、第1導波路11および第2導波路12を伝搬する光として、1次モードよりも0次モードが支配的となるようにできる。なお、透過損失差を1cm-1とすることの効果は、後述する。
【0039】
また、本発明者らは、第1光損失層21と第1導波路11との間隔L1についても詳細な検討を行い、図6に示される結果を得た。なお、第2光損失層22と第2導波路12との間隔L2についても同様である。また、図6は、上記のように、第1導波路11の幅を6μmとした場合のシミュレーション結果を示す図である。
【0040】
すなわち、図6に示されるように、2次モードで伝搬する光の伝搬損失は、第1導波路11と第1光損失層21との間隔L1を狭くするほど2次モード以上の光が第1光損失層21に吸収されるため、大きくなる。この場合、上記半導体発光素子100では、間隔L1が1.5μm以下となると2次モードの伝搬損失が0次モードの伝搬損失より大きくなることが確認される。そして、間隔L1が1.1μm未満になると、2次モードの伝搬損失と0次モードの伝搬損失との差が1cm-1より大きくなることが確認される。したがって、本実施形態では、間隔L1および間隔L2は、1.5μm以下とされている。
【0041】
ここで、「電子情報通信学会論文誌C-1、Vol,J73-C-1 NO.5、pp.216-225」等の文献には、異なるモードの光の利得差が1cm-1以上である場合、安定的に、損失が小さいモードの光に基づくレーザ光を出力できることが報告されている。なお、利得差とは、導波路を構成する材料に起因する利得差から損失差を減算した値である。そして、本実施形態では、第1、第2導波路11、12およびMMI13が同じ材料で構成されているため、ここでの利得差は、損失差となる。
【0042】
したがって、本実施形態では、上記のように、MMI幅比が1.35以上とされている。また、間隔L1および間隔L2が1.1μm以下とされている。これにより、安定的に0次モードの光に基づくレーザ光を出力できる。
【0043】
但し、0次モードとして伝搬する光の透過損失と1次モードとして伝搬する光の透過損失とは、MMI幅比が1より大きければ1次モードとして伝搬する光の透過損失の方が大きくなる。そして、MMI幅比が1より大きければ、0次モードの光が支配的となることで0次モードの光に基づくシングルモードのレーザ光を出力できる。このため、MMI幅比は、少なくとも1より大きくされていればよい。
【0044】
同様に、0次モードとして伝搬する光の伝搬損失と2次モードとして伝搬する光の伝搬損失とは、間隔L1および間隔L2が1.5μm以下であれば、2次モードとして伝搬する光の伝搬損失の方が大きくなる。そして、間隔L1および間隔L2が1.5μm以下であれば、0次モードの光が支配的となることで0次モードの光に基づくシングルモードのレーザ光を出力できる。このため、間隔L1および間隔L2は、少なくとも1.5μm以下とされていればよい。
【0045】
また、図4Aに示されるように、第1導波路11を0次モードとして光が伝搬する場合においても、電界は、第1導波路11よりも幅方向に広がる。そして、図6に示されるように、間隔L1を短くし過ぎると、第1導波路11を0次モードとして伝搬する光も第1光損失層21に吸収される。つまり、間隔L1を短くし過ぎると、0次モードの光の伝搬損失も大きくなる。このため、第1光損失層21および第2光損失層22は、0次モードの光を吸収し難い位置に配置されることが好ましく、間隔L1および間隔L2が0.7μm以上となるように配置されることが好ましい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態では、第1導波路11および第2導波路12を2次モード以上の光の伝搬を許容する幅としており、第1導波路11および第2導波路12を1次モードの光まで許容する場合と比較して、幅を長くしている。そして、第1光損失層21および第2光損失層22を配置して2次モード以上の光を損失させることにより、第1導波路11および第2導波路12を伝搬する光のモードとして0次モードが支配的となるようにしている。このため、0次モードの光に基づくシングルモードのレーザ光を出力しつつ、光導波路10の面積を増加させることができる。したがって、本実施形態の半導体発光素子100によれば、シングルモードのレーザ光を出力しつつ、低消費電力化およびレーザ光の高出力化を図ることができる。
【0047】
例えば、本実施形態の半導体発光素子100では、上記のように、光導波路10は、共振器長が1000μmとされ、MMI13の長手方向の長が300μmとされ、第1導波路11および第2導波路12の長手方向の長さの和が700μmとされている。また、MMI13は、幅が10μmとされ、第1導波路11および第2導波路12は、幅が6μmとされている。このため、本実施形態の半導体発光素子100では、図7に示されるように、光導波路10の面積が7200μmとなる。これに対し、第1導波路11および第2導波路12の幅を1次モードの光が伝搬可能な長さとして、2次モードの光が発生し始める4μmとした従来の半導体発光素子(以下では、単に従来の半導体発光素子ともいう)では、光導波路10の面積が5800μmとなる。つまり、本実施形態の半導体発光素子100では、面積を増加できる。
【0048】
この場合、従来の半導体発光素子では、漏洩損失が0.44cm-1となる。一方、本実施形態の半導体発光素子100では、光導波路10の面積を増加できるため、光の閉じ込め性を向上でき、漏洩損失を0.37cm-1とできる。したがって、本実施形態の半導体発光素子100によれば、低消費電力化およびレーザ光の高出力化を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態では、第1導波路11および第2導波路12は、活性層3上に配置され、第2クラッド層4と同じ材料を含んで構成されている。このため、第1導波路11および第2導波路12を第2クラッド層4を構成する際に同時に形成することができ、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、第1導波路11および第2導波路12の幅に対するMMI13の幅の比率が1.35以上とされている。このため、第1導波路11および第2導波路12を伝搬する1次モードの光がMMI13を透過し難くなり、0次モードが支配的となるようにできる。このため、さらに0次モードの光に基づくシングルモードのレーザ光を出力し易くなる。
【0051】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、第1光損失層21および第2光損失層22を配置する場所を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
本実施形態の半導体発光素子100では、図8に示されるように、活性層3のうちの第1導波路11となる部分と異なる部分から第1クラッド層2に渡って凹部41が形成されている。なお、凹部41は、交差方向において、第1導波路11を挟むように形成されている。
【0053】
そして、第1光損失層21は、凹部41を埋め込むように配置されている。つまり、本実施形態の第1光損失層21は、一部が活性層3内に位置するように配置されている。また、本実施形態の第1光損失層21は、導体であるアルミニウム等の金属によって構成されている。
【0054】
なお、図8は、図2中のI-I線に沿った断面図に相当している。また、特に図示しないが、第2光損失層22は、第1光損失層21と同様に、交差方向において第2導波路12を挟むように形成された凹部41内に配置されていると共に、第1光損失層21と同様に金属によって構成されている。
【0055】
このような半導体発光素子100としても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、上記第1実施形態で参照した図4A図4Cに示されるように、電界は、第1導波路11を構成する活性層3を中心に広がって構成されるが、第2クラッド層4側よりも第1クラッド層2側への広がりが大きい。このため、活性層3を含む部分に第1光損失層21および第2光損失層22を配置することにより、活性層3上に第1光損失層21および第2光損失層22を配置する場合と比較して、2次モードとして伝搬する光の損失を大きくし易くできる。
【0056】
なお、本実施形態では、第1光損失層21および第2光損失層22が金属で構成されている。このため、第1導波路11を2次モード以上で伝搬する光は、電界が第1光損失層21に吸収されることによって損失する。同様に、第2導波路12を2次モード以上で伝搬する光は、電界が第2光損失層22に吸収されることによって損失する。
【0057】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対し、第1光損失層21および第2光損失層22を配置する場所を変更したものである。その他に関しては、第2実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0058】
本実施形態の半導体発光素子100では、図9に示されるように、活性層3のうちの第1導波路11となる部分と異なる部分から第1クラッド層2に渡って凹部42が形成されている。なお、凹部42は、交差方向において、第1導波路11を挟むように形成されている。但し、凹部42は、上記第2実施形態と比較すると、深さが深くされている。
【0059】
そして、第1光損失層21は、凹部42に配置されることによって活性層3よりも基板1側に配置されている。なお、本実施形態では、第1光損失層21は、凹部42を埋め込むように配置されておらず、全体が活性層3よりも基板1側に位置するように凹部42に配置されている。そして、凹部42内には、絶縁膜6が入り込んだ状態となっている。
【0060】
なお、図9は、図2中のI-I線に沿った断面図に相当している。また、特に図示しないが、第2光損失層22は、第1光損失層21と同様に、全体が活性層3よりも基板1側に位置するように、凹部42に配置されている。
【0061】
このような半導体発光素子100としても、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、光導波路10の構成を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0063】
本実施形態の半導体発光素子100では、図10に示されるように、光導波路10は、第1導波路11、第2導波路12、第3導波路14、2つのMMI13を有する構成とされている。そして、2つのMMI13の間に第3導波路14が配置されている。また、一方のMMI13を挟んで第3導波路14と反対側に第1導波路11が配置され、他方のMMI13を挟んで第3導波路14と反対側に第2導波路12が配置されている。
【0064】
第3導波路14は、第1導波路11および第2導波路12と同じ構成とされており、2次モード以上の光の伝搬を可能な幅とされ、本実施形態では、6μmとされている。各MMI13は、上記第1実施形態と同様に幅が10μmとされているが、光導波路10における長手方向に沿った方向の長さがそれぞれ300μmとされている。
【0065】
そして、本実施形態の半導体発光素子100では、交差方向において、第3導波路14を挟むように、第3光損失層23が配置されている。第3光損失層23は、第1光損失層21および第2光損失層22と同様に、活性層3上に配置され、第2クラッド層4と同じ材料を含んで構成されている。また、第3光損失層23は、第3導波路14との間隔L3が、第1光損失層21と第1導波路11との間隔L1、および第2光損失層22と第2導波路12との間隔L2と等しくされている。
【0066】
このように、MMI13を複数備える構成としても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
(第4実施形態の変形例)
上記第4実施形態の変形例について説明する。例えば、上記第4実施形態において、第3導波路14は、複数備えられ、各第3導波路14が2つのMMI13をそれぞれ接続するように備えられていてもよい。また、上記第4実施形態において、MMI13は、2つではなく、さらに複数備えられていてもよい。すなわち、上記第4実施形態は、Nを整数とすると、複数のN×N-MMI13を備える構成とされていてもよい。
【0068】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態の構成を半導体発光素子100としての半導体光増幅器に適用したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0069】
本実施形態の半導体発光素子100は、図11に示されるように、低反射膜31が配置される端面に対して第1導波路11が斜めとなるように配置され、第1導波路11と低反射膜31との間の反射率が低くされた半導体光増幅器とされている。そして、当該低反射膜31が配置される端面の近傍には、第1導波路11から出力される光が入力可能となる位置に、外部共振器110が備えられている。これにより、本実施形態では、半導体発光素子100および外部共振器110によってレーザ光が出力される。
【0070】
このように、半導体発光素子100として半導体光増幅器を構成するようにしても、第1光損失層21および第2光損失層22が配置されていることにより、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0072】
例えば、上記各実施形態において、第1クラッド層2がP型とされ、第2クラッド層4およびキャップ層5がN型とされていてもよい。
【0073】
また、上記各実施形態において、第1光損失層21は、1つのみ備えられ、交差方向において、第1導波路11を挟むように配置されていなくてもよい。同様に、第2光損失層22は、1つのみ備えられ、交差方向において、第2導波路12を挟むように配置されていなくてもよい。
【0074】
そして、上記第1実施形態において、第1光損失層21および第2光損失層22は、活性層3からの高さが第2クラッド層4とキャップ層5とを積層した高さと同じとされていなくてもよい。例えば、第1光損失層21および第2光損失層22は、活性層3からの高さが第2クラッド層4とキャップ層5とを積層した高さより低くされていてもよい。つまり、第1光損失層21および第2光損失層22の高さは適宜変更可能である。
【0075】
また、上記第1実施形態において、第1導波路11および第2導波路12は、長手方向に沿って幅が一定とされていなくてもよく、部分的に幅が狭くされた細幅部を有する構成とされていてもよい。例えば、第1導波路11および第2導波路12は、長手方向における端部において、幅が次第に狭くされるテーパ部で構成される細幅部が形成されていてもよい。この場合、細幅部は、例えば、1次モード以下の光の伝搬のみを許容する幅とされていてもよい。
【0076】
さらに、上記第2、第3実施形態において、第1光損失層21および第2光損失層22は、金属ではなく、第2クラッド層4を含む材料を用いて構成されていてもよい。
【0077】
また、上記第2実施形態において、第1光損失層21および第2光損失層22は、一部が活性層3内に配置されるのであれば、活性層3上に位置する部分を有する構成とされていてもよい。
【0078】
そして、上記各実施形態を適宜組み合わせることもできる。例えば、上記第2、第3実施形態を上記第4実施形態に組み合わせ、第1、第2光損失層21、22の配置場所を変更しつつ、複数のMMI13を有する構成としてもよい。また、上記第2、第3実施形態を上記第5実施形態に組み合わせ、第1、第2光損失層21、22の配置場所を変更した半導体光増幅器を構成するようにしてもよい。さらに、上記第4実施形態を上記第5実施形態に組み合わせ、複数のMMI13を有する半導体光増幅器を構成するようにしてもよい。そして、上記実施形態を組み合わせたもの同士をさらに組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
2 第1クラッド層
3 活性層
4 第2クラッド層
7 上部電極
8 下部電極
10 光導波路
11 第1導波路
12 第2導波路
13 MMI(多モード光干渉導波路)
21 第1光損失層
22 第2光損失層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11