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  • 特許-フィルタ及びこれを用いた排水方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】フィルタ及びこれを用いた排水方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 29/13 20060101AFI20240313BHJP
   B01D 29/11 20060101ALI20240313BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20240313BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B01D29/14 B
B01D29/14 A
B01D29/10 501C
B01D29/10 530A
D04B1/18
E02D17/20 106
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019222287
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021090903
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2020-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】505136457
【氏名又は名称】中野産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】中野 壮人
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】松井 裕典
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-333761(JP,A)
【文献】特開2005-40038(JP,A)
【文献】登録実用新案第3169598(JP,U)
【文献】国際公開第2019/163709(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217290(WO,A1)
【文献】特開2018-119348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D17/00-17/20
D04B1/00-1/28
B01D25/00-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水パイプを地中に埋設することによる排水方法であって、当該排水パイプは、排水パイプ側面に多数の孔を有するものであり、排水パイプ外部にフィルタを被覆した状態で埋設するものであり、前記フィルタは、少なくとも一部にポリウレタン弾性糸をその他の繊維でカバリングしたカバリング糸を使用した、靴下編み機であるハイゲージ丸編み機により得られた筒状又は袋状の丸編物、あるいは、少なくとも一部にポリウレタン弾性糸をその他の繊維でカバリングしたカバリング糸とその他の繊維とを、靴下編み機であるハイゲージ丸編み機により交編した筒状又は袋状の丸編物からなるフィルタであって、フィルタの長さと外周の比が3以上であり、上記ポリウレタン弾性糸は、10~280デニールであることを特徴とする排水方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ及びこれを用いた排水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路、山の斜面、河川周辺の崖等においては、土砂の流出や土砂崩れを防ぐために、排水機構を備える場合が多い。また、盛り土を行った場所においても、この盛り土の土砂崩れを防ぐための排水機構を有することとなる。土砂の流出や土砂崩れは、土砂が多量の水を含むこととなった場合に、発生しやすい。これを抑制するため、土砂中の水を排水する機構が知られている。
このような方法として、種々の方法が知られているが、土砂中に孔を設けたパイプ(図4)を埋設し、このようなパイプを通じて法面の土砂中の水を排出することが一般的に行われている。
【0003】
より具体的には、パイプを斜めに埋設してパイプを通じて排水する方法(図2参照)や、垂直方向のパイプを埋設し、地下に貯水部を設け、更に、この貯水部から外部へと水を排出する方法(図3)等、多くの方法が知られている。
【0004】
これらのいずれの方法においても、孔を設けたパイプを使用するものである。このようなパイプは、土砂中のサイズの大きい石等によって閉塞してしまい、つまりを生じることで、上述した効果を充分に発揮できなくなる場合がある。
【0005】
更に、土壌中に埋設したパイプを掘り起こして交換することは、非常に大きな労力を要する作業となる。このため、このような交換を行うことは困難であり、仮に行うとしても頻繁に行うことはできない。したがって、上述した問題を生じることなく長期間使用しても上述した問題を生じることのない法面の排水方法が求められている。このため、フィルタを使用して、このような問題を改善する試みが行われている。
【0006】
特許文献1には、法面の排水方法の検討において、筒状フィルタを用いることが記載されている。しかし、ここで使用する筒状フィルタは不織布からなるものであることから、短期間でフィルタ詰まりを生じて、水を良好に除去できなくなってしまい、充分に機能を達成することができなくなる。
【0007】
特許文献2には、筒状のフィルタを固液分離の濾過装置のフィルタとして使用することが記載されている。しかし、当該文献の記載は工作機械における濾過用フィルタとしての使用であり、排水方法に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-209519号公報
【文献】特開2013-13872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記に鑑み、土壌の排水のために埋設するパイプにおいて使用することができるフィルタを提供することを目的とする。更に、このようなフィルタを用いた排水方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、排水パイプを地中に埋設することによる排水方法であって、当該排水パイプは、排水パイプ側面に多数の孔を有するものであり、排水パイプ外部にフィルタを被覆した状態で埋設するものであり、前記フィルタは、少なくとも一部にポリウレタン弾性糸をその他の繊維でカバリングしたカバリング糸を使用した、靴下編み機であるハイゲージ丸編み機により得られた筒状又は袋状の丸編物、あるいは、少なくとも一部にポリウレタン弾性糸をその他の繊維でカバリングしたカバリング糸とその他の繊維とを、靴下編み機であるハイゲージ丸編み機により交編した筒状又は袋状の丸編物からなるフィルタであって、フィルタの長さと外周の比が3以上であり、上記ポリウレタン弾性糸は、10~280デニールであることを特徴とする排水方法である。
【0011】
本発明は、パイプを地中に埋設することによる排水方法であって、
当該パイプは、パイプ側面に多数の孔を有するものであり、
パイプ外部に上述したフィルタを被覆した状態で埋設するものであることを特徴とする排水方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、耐久性、優れた濾過性能を有するフィルタを使用するものであることから、優れた排水性能、長期にわたる性能の低下のない排水方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のフィルタの長さ、外周を示す模式図である。
図2】本発明の排水方法の一例を示す模式図である。
図3】本発明の排水方法の一例を示す模式図である。
図4】本発明の排水方法において使用される樹脂パイプの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、法面の排水方法において、使用するパイプを少なくとも一部に弾性繊維を使用した筒状又は袋状の編物からなるフィルタで覆うものとすることに特徴とするものである。
少なくとも一部にウレタン弾性繊維を使用した筒状又は袋状の編物からなるフィルタは、ストッキングやタイツ等に一般に使用されるものと同様の編地を使用するものである。
このような編物からなるフィルタは、その編み目によって濾過対象液に含まれる所定の大きさ以上の固体を分離することができる。
【0015】
また、フィルタを弾性繊維によって伸縮自在に形成することにより、分離した固体である濾塊によりフィルタが目詰まりしてきた場合にも、安定した濾過機能を長期間に亘って発揮することができる。すなわち、フィルタの目詰まりの進行にともなってフィルタが膨張するので、フィルタの編み目が拡大して、濾過機能の低下や流量の低下を軽減することができる。
【0016】
また、排水に用いるパイプは、孔を設けて孔を通じて水が流入し、これによって土中から水を排出するものである。しかし、長期間使用するうちに、土砂中の石等が詰まりを生じることによって機能しなくなることがあった。このため、パイプの外面を筒状又は袋状のフィルタで被覆することによって、固形物のパイプ内への流入を防ぐことが行われている。
【0017】
このようなフィルタとして本発明のウレタン弾性繊維を使用した筒状又は袋状の編物からなるフィルタを使用すると、伸縮可能であることから、パイプ上に密着させて被覆させることができる。このため、隙間を生じにくく、隙間から固形物が流入するという問題も生じにくい。
【0018】
本発明のフィルタは、筒状又は袋状の形状を有するものである。すなわち、両端部が開口している筒状又は筒状の一方の口が閉塞した状態の袋状のものである。これらのいずれの形状であってもよいが、筒状のものであることがより好ましい。
【0019】
本発明のフィルタは、径が3~70cmであることが好ましい。上記下限は、5cmであることがより好ましい。上記上限は、50cmであることがより好ましく、30cmであることがより好ましく、15cmであることがさらに好ましい。径は、一般に埋設されるパイプと同様のサイズであることが好ましく、埋設されるパイプの径に応じて適宜設定することができる。
【0020】
本発明のフィルタは、長さが20cm以上であることが好ましい。30cm以上であることがより好ましく、50cm以上であることがさらに好ましい。長さについても、埋設されるパイプと同様のサイズであることが好ましく、埋設されるパイプの径に応じて適宜設定することができる。なお、長さの上限は特に限定されるものではなく、埋設されるパイプと同様のサイズとすることができる。また、フィルタを縫い合わせたり、貼付したりすることでより長いフィルタとして使用するものであってもよい。このように、上限は特に限定されるものでないが、10m以下であることが好ましく、5m以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のフィルタは、長さ/外周の比が、3以上であることが好ましい。すなわち、長さが非常に大きいものであることが好ましい。本発明のフィルタは、土壌中に埋設して使用される排水パイプを被覆する目的で使用されるものである。したがって、このような形状に合わせた形状を有することが好ましい。
なお、長さと外周については、図1において模式図として示した。
【0022】
本発明で使用する少なくとも一部に弾性体を使用した繊維素材を一部又は全部に使用して得られた編物の編み方としては特に限定されず、丸編みであっても、横編みであってもよいが、筒状、袋状に効率的にできることから、丸編物であることが好ましい。上記編物としては、弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維によって得られた編地(A-1)、弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維によって得られた編地(A-2)、弾性糸とその他の繊維とを交編した編地(A-3)等を使用することができる。
【0023】
弾性糸としては特に限定されるものではないが、耐久性、強度、コスト等の観点からみて、ポリウレタン弾性糸を使用することが最も好ましい。
以下、これらについて、より具体的に説明する。
【0024】
(弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維によって得られた編地(A-1))
ここでの複合繊維は、一部に弾性糸を使用し、これをその他の繊維と組み合わせた複合糸を使用した編地である。ここで、組み合わせるその他の繊維としては特に限定されず、ポリアミド繊維、絹、ポリエステル繊維、綿糸、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維)などを使用することが好ましい。これらのなかでも、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維を使用することが特に好ましく、ポリエステル繊維を使用することが最も好ましい。ここでいうポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維、ポリブチレンテレフタレートからなる繊維等を挙げることができる。
【0025】
複合糸の複合方法としては特に限定されず、カバリング糸、弾性糸と仮撚加工糸との引き揃え糸等の公知の任意のものを使用することができる。なかでも、強度や加工性等の観点から弾性糸にその他の繊維を巻きつけることで得られたカバリング糸を使用することが特に好ましい。
【0026】
カバリング弾性糸を構成する弾性糸としては特に限定されず、例えば、5~510デニールのものを使用することができる。上記下限は、10デニールであることがより好ましく、上記上限は280デニールであることがより好ましい。
【0027】
カバリング糸は、シングルカバリング、ダブルカバリングのいずれであってもよい。
より具体的には、例えば、弾性糸に、ポリエステルなどの合成繊維のフィラメント数の多いハイマルチタイプ(1フィラメントが1.2デシテックスより細い糸)をカバリングしたシングルカバーリングヤーン(SCY22dWN70/48、50/144、75/144、75/72デニール/本数等)を挙げることができる。また、弾性繊維に、2本の合成繊維の糸をカバリングしたダブルカバーリングヤーン(DCY)であってもよい。なお、繊維としては、一般的に広く使用されているポリウレタン弾性繊維を使用することが好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば、ポリエーテルエステル弾性繊維を用いてもよい。また、弾性繊維の糸を合成繊維の糸でカバリングすることにより、加工粉によって編み目の破損や損傷が短時間で発生するのを防止することができる。
【0028】
(弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維によって得られた編地(A-2))
一部に弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維は、市販されたものが存在し、これらを好適に使用することができる。例えば、ポリアミドとポリウレタンのコンジュゲート繊維、ポリエステルとポリウレタンのコンジュゲート繊維等を挙げることができる。このようなコンジュゲート繊維のコンジュゲートタイプとしては特に限定されず、サイドバイサイド型、芯鞘型等のものを使用することができる。このようなコンジュゲート繊維としては、KBセーレン社製のシデリア(商品名)等、市販のものを使用することができる。
【0029】
(糸とその他の繊維とを交編した編地(A-3))
糸を上述したような複合糸やコンジュゲート糸として使用するのでなく、それ自体を単糸として使用し、その他の繊維と交編したものであってもよい。このような交編の方法としては特に限定されず、公知の任意の編み組織とすることができる。
【0030】
(その他の繊維素材の併用について)
上述した(A-1)~(A-3)のようなそれぞれの編地においては、弾性糸とその他の繊維とを組み合わせて複合化した複合繊維、弾性体を構成単位とするコンジュゲート繊維、糸を2種以上組み合わせて使用するものであってもよいし、一部その他の繊維を組み合わせて使用するものであってもよい。その他の繊維としては特に限定されず、ポリアミド繊維、絹、ポリエステル繊維、綿糸、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維)などを使用することができる。
【0031】
(フィルタの製造方法)
本発明のフィルタは、公知の編み機によって製造することができ、丸編物の場合は丸編み機によって製造することができる。すなわち、一般的な方法で筒状に編むことで得ることができる。袋状フィルタとする場合は、端部をミシン縫いする方法等によって袋状とすることができる。
【0032】
より具体的には例えば、靴下編み機であるハイゲージ丸編み機(4インチ:400針)により袋状の編地とされたものを挙げることができる。なお、編地は、天笠(無地)編み、針抜き編みなどを単独もしくは組み合わせて編むことができる。
【0033】
本発明のフィルタが横編物である場合、通常の横編み機によって製造することができる。
【0034】
本発明の排水方法は、排水パイプを上述したようなフィルタによって被覆し、これを土中に埋設することによって行うものである。
上記排水パイプは、合成樹脂製であることが好ましい。上記排水パイプは、筒状の表面に多数の透水孔が形成されて内外が連通された有孔管材によるものである。この様な形状を有することによって、透水孔から水を取り込むことができる。
【0035】
上記排水パイプは特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル等の熱可塑性素材の合成樹脂を加熱溶融してノズルから直径約1~6mm(標準径2mm)の一定径の紐状に押し出し、所定の方法で透水孔を形成させたものなどを使用することができる。
【0036】
本発明の排水方法は、排水パイプを埋設する方法による排水方法において広く一般的に適用することができる。
【実施例
【0037】
(実施例1)
口径4インチの丸編みにて筒状丸編物を得た。得られた筒状物は、直径7cmであり、長さ4mであった。
【0038】
実施例の筒状フィルタによって、図4に示したような孔を有する直径7cmの樹脂製のパイプ上を覆い、この状態で土砂中に埋設し、水分除去機能についてのテストを行った。
その結果、本発明のフィルタは、耐久性に優れ長期間の使用にわたって土砂がパイプ中に侵入することを防ぐことができた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の筒状又は袋状のフィルタは、土壌における排水機構の排水パイプ用フィルタとして使用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1、3 パイプ
2 排水経路
4 貯水部


図1
図2
図3
図4