(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】統合的分子診断システム(iMDx)およびデング熱のための方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240313BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240313BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240313BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20240313BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240313BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240313BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N15/10 Z
C12Q1/04
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2019519700
(86)(22)【出願日】2017-10-11
(86)【国際出願番号】 US2017056139
(87)【国際公開番号】W WO2018071541
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-13
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】リー ルーク ピー
(72)【発明者】
【氏名】ソン ジュンホ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】天野 貴子
【審判官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0312699(US,A1)
【文献】国際公開第2016/115542(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/044532(WO,A1)
【文献】特表2013-545475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-42
C12N15/00-90
C12Q1/00-70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプルのポイントオブケア診断のためのマイクロ流体チップの形態の統合的分子診断システムであって、
前記マイクロ流体チップ内の第1の位置にあるサンプル入口であり、血液サンプルを受け入れるように構成された、サンプル入口と、
前記マイクロ流体チップ上の第2の位置に位置する血漿分離チャンバであり、前記血液サンプルを受け入れて血漿から赤血球を分離するように前記サンプル入口と流体連通している、血漿分離チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第3の位置に位置する光熱溶解チャンバであり、
前記光熱溶解チャンバは、前記分離された血漿を受け入れ
るように前記血漿分離チャンバと流体連通し
、前記光熱溶解チャンバの表面に金属膜を備え、前記金属膜は、前記分離された血漿からのRNA抽出のための光熱変換を行うように構成されている、光熱溶解チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第4の位置に位置する光PCRキャビティであり、
前記光PCRキャビティは、前記抽出RNAを受け入れて前記分離された血漿中の
前記抽出RNAを増幅するように構成され
、前記光PCRキャビティは、前記光PCRキャビティの表面に第2の金属膜を備え、第2の金属膜は、前記抽出RNAのPCR増幅のための光熱変換を行うように構成されている、光PCRキャビティと
を含む、システム。
【請求項2】
前記血液サンプルがウイルスを含み、
前記光熱溶解チャンバが、前記ウイルスのRNAを抽出するように構成されており、かつ
光PCRキャビティを使用するウイルスRNAの増幅が、前記分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記光PCRキャビティが、前記
分離された血漿を保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記
抽出RNAが、標的核酸
である、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記金属
膜が金を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記金属膜がLED駆動の光熱加熱デバイスとして機能する、請求項
1に記載のシステム。
【請求項7】
前記第2の金属
膜が、LED駆動の光熱加熱デバイスとして機能する金
膜を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記光PCRキャビティと流体連通している前記マイクロチップ上の第5の位置に位置する流体ポンピング機構をさらに含み、
前記流体ポンピング機構は、前記入口か
ら前記血液サンプルを引き込
み、前記システムを通って前記光PCRキャビティに前記分離された血漿を提供するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
血液サンプルのポイントオブケア診断のための方法であって、
マイクロ流体チップの入口で血液サンプルを受け入れるステップと、
前記入口と流体連通している、前記マイクロ流体チップ内の分離チャンバ内で血漿から赤血球を分離するステップと、
前記マイクロ流体チップ内に前記分離チャンバと流体連通して位置する光熱溶解チャンバ内に前記分離された血漿を受け入れ
るステップであって、前記光熱溶解チャンバは、前記光熱溶解チャンバの表面に金属膜を備え、前記金属膜は、前記分離された血漿
からのRNA抽出
のための光熱変換を行う
ように配置されている、ステップと、
前記マイクロ流体チップ内に前記光熱溶解チャンバと流体連通して位置する光PCRキャビティ内に前記分離された血漿を受け入れて前記分離された血漿中の前記抽出RNAを増幅するステップ
であって、前記光PCRキャビティは、前記光PCRキャビティの表面に第2の金属膜を備え、第2の金属膜は、前記抽出RNAのPCR増幅のための光熱変換を行うように構成されている、ステップと
を含む、方法。
【請求項10】
血漿から赤血球を分離するステップが、溶血せずに行われる、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記血液サンプルがウイルスを含み、
RNA抽出を行うステップが、前記分離された血漿を加熱して光熱溶解により前記ウイルスからウイルスRNAを抽出するステップを含み、
前記抽出RNAを増幅するステップが、LED駆動の高速光キャビティPCRによって前記抽出ウイルスRNAを増幅することにより、前記分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するステップを含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
光熱溶解およびRNA増幅がLED駆動である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記光PCRキャビティが、前記
分離された血漿を保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、請求項
9に記載の方法。
【請求項14】
前記
抽出RNAが、標的核酸
である、請求項
12に記載の方法。
【請求項15】
前記金属
膜が金を含む、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記金
膜がLED駆動のプラズモン加熱デバイスとして機能する、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記光PCRキャビティと流体連通している前記
マイクロ流体チップ上に位置する流体ポンピング機構によって、血液が、前記入口か
ら受動的に引き込まれ
、前記マイクロ流体チップを通って前記光PCRキャビティに前記分離された血漿を提供する、請求項
9に記載の方法。
【請求項18】
血液サンプルのポイントオブケア診断のためのマイクロ流体チップの形態の統合的分子診断システムであって、
前記マイクロ流体チップ内の第1の位置にあるサンプル入口であり、血液サンプルを受け入れるように構成された、サンプル入口と、
前記マイクロ流体チップ上の第2の位置に位置する血漿分離チャンバであり、前記血液サンプルを受け入れて血漿から赤血球を分離するように前記サンプル入口と流体連通している、血漿分離チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第3の位置に位置
し、前記分離された血漿を受け入れ
るように前記血漿分離チャンバと流体連通している
光熱溶解チャンバであり、前記光熱溶解チャンバは、前記光熱溶解チャンバの表面に金属膜を備え、前記金属膜は、前記分離された血漿からのRNA抽出のための光熱変換を行うように構成されている、光熱溶解チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第4の位置に位置する光PCRキャビティであり、前記
抽出RNAを
受け入れて前記分離された血漿中の前記抽出RNAを増幅するように構成された、光PCRキャビティと
を含み、
前記光PCRキャビティが、前記
分離された血漿を保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備え
、前記光PCRキャビティが、前記複数のチャンバ壁の少なくとも1つのチャンバ壁の表面に第2の金属膜を備え、第2の金属膜が、前記抽出RNAのPCR増幅のための光熱変換を行うように構成されている、システム。
【請求項19】
前記血液サンプルがウイルスを含み、
前記光熱溶解チャンバが、前記ウイルスのRNAを抽出するように構成されており、かつ
光PCRキャビティを使用するウイルスRNAの増幅が、前記分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するように構成されている、請求項
18に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている2016年10月11日に出願された米国特許仮出願第62/406,694号に対する優先権およびその利益を主張する。
連邦政府の資金提供を受けた研究または開発に関する記載
該当なし
コンピュータプログラム付録の参照による組み込み
該当なし
著作権保護を受ける資料の通知
本特許文書中の資料の一部は、米国およびその他の国の著作権法の下で著作権保護を受ける場合がある。著作権の権利所有者は、米国特許商標庁の公開されているファイルまたは記録に表される通りに第三者が本特許文書または本特許開示を複製することに異議を唱えないが、それ以外はすべての著作権を留保する。著作権所有者は、これに限定されないが、米国特許法施行規則§1.14に従う権利を含め、本特許文書を秘密裏に保持しておく権利のいずれも本明細書によって放棄しない。
【0002】
本開示の技術は一般に、診断システムおよび方法に関し、より詳細には、ウイルス感染症のポイントオブケア診断のためのオンチップ検出システムに関する。
【背景技術】
【0003】
デング熱(DF)は、DENVウイルスによって引き起こされる発熱性熱帯病である。このプラスセンスの11kb ssRNAウイルスはフラビウイルス(Flaviviridae)科に属し、4つの血清型DEN-1、DEN-2、DEN-3およびDEN-4を包含する。異なる血清型が同じ症状(およびゲノムの60~75%)を共有するが、1つの型を捕らえても、他の3つの型に対する免疫を人に与えない。一方、ある地域で以前に発生していない血清型の出現は、デング熱の流行(vague)と同義であることが多い。
DFは蚊媒介性疾患(蚊属:ヤブカ(Aedes))であり、これは、主に熱帯諸国におけるその有病率を説明する。毎年、推定50~100百万のDFの症例があり、さらに重症型のDFの500’000の症例がある。未治療の場合、重症のDFの死亡率はおよそ20%であるが、患者が医療を受けているときは0.1%未満に低下させることができる。
したがって、血漿漏出および他の重篤なDFの症状の注意深い監視を可能にするために、他の発熱を誘発する疾患に対してDFを診断することが医療従事者にとって極めて重要である。さらに、DFと他の熱性疾患とを識別することは、DFの発生を監視するために、かつリスクがある人々に適切な措置を講じるために重要である。
【0004】
診断法では、可能性がある血流中の標的には、次の3つの異なるカテゴリーが存在する:ウイルス自体、感染細胞により産生されたタンパク質(NS1)、および感染に反応して人体により産生されたタンパク質(IgM、IgGなど)。NS1、IgMおよびIgGは、一次感染であるか、二次感染であるかによって非常に異なる濃度および分析感度を有する。したがって、最も速いウイルスRNA検出法:リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により、ウイルス自体を標的にすることが重要である。
過去20年の間に、DENVの血清型をオフチップで検出するために、いくつかのRT-PCR法が開発された。しかし、公開された方法の評価は、感度不足および/または特異性の欠如を示し、方法の80%について改善が必要である。最近では、いくつかのアッセイが商業化され、83.3~100%の間の感度および100%の特異性を示した。しかし、それらは、臨床現場または病院においてのみ実施されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本開示の目的は、ポイントオブケアにおける血液サンプル中のRT-PCRによりウイルスRNAを検出する分子診断プラットホームである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の技術は、ポイントオブケアにおけるデング熱の検出のための統合的分子診断システム(iMDx)を対象とする。1つの実施形態において、全血からのデングウイルスの選択的分離のための血漿分離、RNA抽出のためのデングウイルスのLED駆動の光熱溶解、およびデングウイルスRNAの増幅のためのLED駆動の高速光キャビティPCRが、単一のデバイス内にオンチップで統合されている。これらの構成要素を統合することにより、臨床的に意義のあるデングウイルス濃度と同等の優れた検出限界で、デング熱の診断の時間、コストおよびステップを大幅に削減することができる。併せて、デング熱のポイントオブケア診断のための高感度、高速かつ低コストのiMDxも得ることができる。
本技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用するウイルス粒子の核酸増幅、またはループ介在等温増幅(LAMP)などの等温増幅、およびリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)によるポイントオブケアにおけるデング熱の検出のために容易に使用することができる。また、本技術を使用して、HIV、エボラおよび西ナイルウイルスなどの任意のウイルス性疾患を検出することができる。
本明細書に記載の技術の別の態様を本明細書の以下の部分で説明するが、詳細な説明は、本技術の好ましい実施形態を十分に開示するためのものであり、それらを制限しない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本明細書に記載の技術は、例示のみを目的とする以下の図面を参照することによってさらに詳しく理解されるであろう。
【
図1A】本明細書による、デング熱などの疾患の検出のための統合的分子診断システム(iMDx)の概略斜視図である。
【
図1B】
図1AのiMDxシステムの個々の層の概略斜視図である。
【
図2A】デングウイルスの熱溶解温度に応じた、抽出RNAと、熱溶解デングウイルス粒子(VP)との間のRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)の比較を示すプロットである。熱溶解を所与の温度で10分間実施した。
【
図2B】熱溶解時間に応じたRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)の変化を示すプロットである。
【
図2C】RT-qPCRの反応容量における血漿のパーセントに応じたリボヌクレアーゼ阻害剤ありとなしのRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)の比較を示すプロットである。
【
図2D】デングウイルスの熱溶解時の血漿のパーセントに応じたRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)の変化を示すプロットである。
【
図3】デングウイルスの熱溶解時の異なるパーセントの血漿での熱溶解デングウイルスのRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)をまとめたプロットである。
【
図4A】異なる濃度のデングウイルス粒子をスパイクした血漿を使用したRT-qPCRのリアルタイム蛍光強度を示すプロットである。従来の遠心分離法および本明細書によるオンチップ血漿分離デバイスにより血漿(blood plasms)を分離した。
【
図4B】異なる方法を使用して調製された血漿を使用したRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)をまとめたプロットである。
【
図4C】本明細書によるオンチップ血漿分離デバイスおよび従来の遠心分離法により分離された血漿を使用したRT-qPCR時の産物の生成を示す2%アガロースゲルの結果の画像である。
【
図5A】異なる濃度のデングウイルス粒子をスパイクした血漿を使用したRT-qPCRのリアルタイム蛍光強度を示すプロットである。従来の遠心分離法および本明細書のオンチップ血漿分離デバイスにより血漿を分離した。
【
図5B】異なる方法を使用して調製された血漿を使用したRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)をまとめたプロットである。
【
図5C】本明細書のオンチップ血漿分離デバイスおよび従来の遠心分離法により分離された血漿を使用したRT-qPCR時の産物の生成を示す2%アガロースゲルの結果の画像である。
【
図6】異なる濃度のデングcDNA鋳型を使用した高速光キャビティPCRによる産物の生成を示す2%アガロースゲルの結果の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1A~
図6は、ポイントオブケアにおけるデング熱(DF)の高速かつ高感度の診断のための技術を対象とする。本技術の1つの特定の利点は、最小限のステップの核酸増幅による統合的オンチップサンプル調製および検出を使用してデング熱を検出するためのサンプルツーアンサー(sample-to-answer)分子診断システムを提供することである。別の利点には、資源が限られた状況での高速、高感度かつ低コストの診断が含まれ得る。システムおよび方法は、デング熱の高速かつ高感度の検出に特に適しているが、本明細書の技術を使用して、他の病状、ならびにこれらに限定されないが、エボラ、HIVおよび西ナイルウイルスなどの任意のウイルス性疾患を検出することができると理解される。
ここで
図1Aおよび
図1Bを参照すると、
図1Aは、デング熱などの疾患の検出のための統合的分子診断システム10(iMDx)の概略斜視図を示し、
図1Bは、
図1AのiMDxシステムの個々の層の概略斜視図を示す。
【0009】
iMDxシステム10は、結合層14aおよび14bによって互いに接着された上層12、中層16および底層18から構成される多層チップを備える。1つの実施形態において、上層12、中層16および底層18は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリマーを含み、結合層は、3つの層12、16および18のそれぞれを適切に結合する指定のパターンにしたがってレーザ切断された感圧接着剤(PSA)、例えば、両面感圧接着剤(dsPSA)を含む。しかし、当技術分野において利用可能な他のポリマーまたは材料を適宜使用することができると理解される。そのような実施形態において、上層12および中層16はそれぞれ厚さ1mmおよび2mmに射出成形されており、底層18は0.8mm厚にレーザ切断されている。
【0010】
サンプル血液は、入口20でiMDxシステム10内に投与される。標的ウイルスを含む血漿は、溶血しない血漿分離法を使用して、分離区画22によりまず分離される。次いで、分離された血漿は、LED駆動の光熱溶解によりウイルスからウイルスRNAを抽出するために、加熱区画34により加熱される。オンチップ熱溶解を使用することにより、ウイルスRNAを抽出する時間、コストおよびステップが、従来のオフチップRNA抽出キットと比べて大幅に削減される。最後に、抽出ウイルスRNAがオンチップLED駆動高速光キャビティPCR区画24によって増幅される。区画22、24および34のそれぞれは、層12、16および18内のフィーチャにより可変的に形成され、その詳細を以下の本文において説明する。
【0011】
血液入口20は、上層12内の第1の開口部40と、底層18により画定された底面を有する受け入れウェルを形成する中層16内の貫通孔60とを備える。各結合層14aおよび14b内の開口部50および70は、層間の流体連通を可能にする。貫通孔60は、孔60と孔62との間の接続チャネル61により、中層16内の貫通孔62と流体連通している。貫通孔62は、血液分離区画22のための第2の受け入れウェルを形成する。
【0012】
1つの実施形態において、血液分離は、中層16と上層12との間(結合層14b内の開口部54の上方)に配置されたフィルタ52により実現する。フィルタは、赤血球の上行を制限する孔径(例えば、0.4μm)を有する多孔質材料(例えば、ポリエステル)を含み、したがって、濾過された血漿を区画22内に供給する。代替の実施形態において、他の濾過構成が、フィルタ52と組み合わせて、またはフィルタ52の代わりに使用されてもよい。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている2016年2月8日に出願された米国特許出願第15/017,851号に記載のものと同様の重力による沈降(gravity induced sedimentation)に基づく、懸濁液スキミング(suspension skimming)機構を使用するマイクロクリフ(micro-cliff)構造42を血漿分離区画22が含んでもよい。全血中の血漿と血球との分離は、タンパク質検出および核酸分析の両方にとって極めて重要であり得る。例えば、赤血球中のヘモグロビンは、その不透明性のために、光学的読み取りを不明瞭にする可能性がある。キレート化する特性がサンプル中のイオン濃度を乱し、したがってポリメラーゼ活性を阻害するため、ヘモグロビンは周知のNA増幅阻害物質でもある。
【0013】
次いで、分離された血漿は、上層12内および中層16内それぞれの開口部63および65を経由して、加熱区画34の中層16内に形成された保持ウェル64まで進む。好ましい実施形態において、加熱区画34は、底層18の上面に配置された金属層として形成されたオンチップ加熱要素82を備える。加熱要素82は、要素82に電流を供給するために、電源(例えば、図示されていないバッテリー)に接続されてもよい。好ましい実施形態において、分離された血漿は、チャネル66およびインジケータ26と共にLED駆動の光熱溶解によりウイルスからウイルスRNAを抽出するために、中層16内の光キャビティとしての加熱区画34により加熱される。LED/光キャビティのさらなる詳細は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許番号PCT/US2016/044255およびPCT/US2016/013732を参照して見出すことができる。
【0014】
光キャビティPCR増幅を行うために、その上に血液が引き込まれる中層16内のチャンバ68とチャネル66は連通している。PCR増幅区画24は、底層18の上面に配置された金属層として形成されたオンチップ加熱要素84を備える。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている2017年7月13日に出願された米国出願第15/649,328号に開示されているLED駆動のプラズモン加熱デバイスおよび方法と同様の、プラズモン光熱による光熱変換(plasmonic photothermal light-to-heat conversion)を促進するLEDを加熱要素84が形成するように、PCR増幅区画24およびチャンバ68がマイクロ流体熱サイクルチャンバとして構築されてもよい。
【0015】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用するウイルス粒子の核酸増幅に加えて、ループ介在等温増幅(LAMP)などの等温増幅、またはリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)のために増幅区画が構成されてもよいと理解される。
好ましい実施形態において、光熱溶解および標的核酸のPCR増幅のための光キャビティを形成するために、加熱要素82、84は、電子ビーム蒸着により堆積させた金薄膜を備える。結合層14b内のカットアウト72および74は、各光キャビティに開口部を与える。
血液成分の定量的なデジタル検出の形態でサンプル分析するためのサンプルのデジタル処理のためのPCR増幅区画24と流体連通させるために、複数のチャネル30が上層12内に配置されている。iMDxシステム10を使用して取得されたデータは、費用のかかる熱サイクラー、マイクロプレート分光光度計または他の複雑なリーダが与え得るデータと同等である。しかし、iMDxシステム10は、構築および実施に数ドルしかかからない。1つの実施形態において、終点の結果を読み取ることにより、蛍光を発する陽性ウェル数を計数して、濃度データを得ることが可能である。単純な蛍光および陽性ウェルの終点計数は、フィルタを備えたスマートフォン(図示せず)により行うことができる。
【0016】
最後に、上層12内の凹部44内、ならびに中層14a、16および14b内それぞれの長方形のカットアウト56、65および76内にキャビティ32が形成されてもよい。キャビティ32は、チャネル30と連通しており、入口20から様々なオンチップ区画を経由してサンプルを引き込むために使用される、流体を偏らせる(fluid biasing)デバイスもしくはポンプ(図示せず)を備える、または収容するように構成されている。
これら3つの構成要素(分離区画22、加熱区画34およびPCR増幅区画24)を単一のデバイス内に統合することにより、ポイントオブケア試験のためのチップデバイス上のサンプルツーアンサーラボが得られる。
【実施例】
【0017】
(例1)
まず、デングウイルスからウイルスRNAを抽出するための熱溶解の温度および時間を
図2Aおよび
図2Bに示す通り最適化した。熱溶解の温度が上昇し、時間が増加するにつれて、特定の温度(50℃)および時間(10分)で閾値(C
t)は低下するが、熱溶解のC
tは依然として抽出RNAより高い。これは、デングウイルスのホルムアルデヒド不活性化によって引き起こされるRNA損傷に起因し得る。RT-qPCR時および熱溶解時の血漿のパーセントの影響を
図2Cおよび
図2Dに示す通り調査した。20%の血漿で、反応時にリボヌクレアーゼ阻害剤が含まれていたが、RT-qPCRが著しく阻害され、高い閾値サイクルを示した。また、熱溶解時の血漿のパーセントが高くなるにつれて、閾値が高くなる。したがって、感度を損なわずに単一ステップのデング熱オンチップ検出を実現するためには、熱溶解時ならびにRT-PCR時の血漿の最大パーセントは、これらの結果に基づいて、およそ10%である。
図3は、熱溶解時の血漿のパーセントに応じた、デングウイルスの熱溶解により抽出されたウイルスRNAのRT-qPCRの閾値サイクル(C
t)の概要を示す。血漿の増加と共に閾値サイクルは増加するが、検量線は良好なR
2値を示す。
【0018】
(例2)
全血からの選択的なデングウイルス分離を調査するために、従来のオフチップ遠心分離およびオンチップ血漿分離デバイスを使用して、異なる濃度のデングウイルスを含む全血漿を分離した。血漿分離後、ウイルスRNAを抽出し、RT-qPCRを実施した。
図4Aは、デングウイルスのRT-qPCRのリアルタイム蛍光強度を示す。オンチップ法により分離された血漿を使用したRT-qPCRは、
図4Bに示す通り、従来の遠心分離法により調製された血漿と同様の閾値サイクルを示す。
図4Cは、2%アガロースゲルの結果を示し、異なる濃度のデングウイルスを含む血漿を使用したRT-qPCR時の特定のPCR産物の生成が確認される。ウイルス粒子の回収は、iMDx 10のプラスチック面の表面パッシベーションを最適化することによってさらに改善することができる。
【0019】
(例3)
2つの金薄膜(10nm厚および120nm厚)を備えた光キャビティチャンバ内のオンチップLED駆動光熱溶解も
図5に示す通り実施した。ウイルスRNAを抽出するために、異なる濃度のデングウイルスを含む血漿を熱処理した。比較する目的で、オフチップ熱溶解のために、Bio-Rad PCR熱サイクラーを使用した。
図5Bおよび
図5Cに示す通り、オンチップLED駆動光熱溶解は、オフチップ熱溶解と同様の結果を示し、このオンチップ熱溶解が、ポイントオブケアにおけるサンプルツーアンサー分子診断デバイスのためにデングウイルスからウイルスRNAを効果的に抽出することができることを示す。
最後に、
図6に示す通り、デングcDNAを増幅するためにLED駆動の高速光キャビティPCRを使用した。10nm厚および120nm厚を有する光キャビティをPCRのために使用した。デングcDNA鋳型の増幅が、10
3~10
6copies/mLの範囲の濃度で首尾よく実証された。
本明細書の説明から、以下が含まれるがこれらに限定されない複数の実施形態を本開示が包含することを理解されたい。
【0020】
1.血液サンプルのポイントオブケア診断のためのマイクロ流体チップの形態の統合的分子診断システムであって、マイクロ流体チップ内の第1の位置にあるサンプル入口であり、血液サンプルを受け入れるように構成された、サンプル入口と、マイクロ流体チップ上の第2の位置に位置する血漿分離チャンバであり、血液サンプルを受け入れて血漿から赤血球を分離するようにサンプル入口と流体連通している、血漿分離チャンバと、マイクロ流体チップ上の第3の位置に位置する光熱溶解チャンバであり、分離された血漿を受け入れて分離された血漿のRNA抽出を行うように血漿分離チャンバと流体連通している、光熱溶解チャンバと、マイクロ流体チップ上の第4の位置に位置する光PCRキャビティであり、分離された血漿中のRNAを増幅するように構成された、光PCRキャビティとを含む、システム。
【0021】
2.血液サンプルのポイントオブケア診断のための方法であって、マイクロ流体チップの入口で血液サンプルを受け入れるステップと、入口と流体連通している、マイクロ流体チップ内の分離チャンバ内で血漿から赤血球を分離するステップと、マイクロ流体チップ内に分離チャンバと流体連通して位置する光熱溶解チャンバ内に分離された血漿を受け入れて分離された血漿のRNA抽出を行うステップと、マイクロ流体チップ内に光熱溶解チャンバと流体連通して位置する光PCRキャビティ内に分離された血漿を受け入れて分離された血漿中の抽出RNAを増幅するステップとを含む、方法。
【0022】
3.血液サンプルのポイントオブケア診断のためのマイクロ流体チップの形態の統合的分子診断システムであって、マイクロ流体チップ内の第1の位置にあるサンプル入口であり、血液サンプルを受け入れるように構成された、サンプル入口と、マイクロ流体チップ上の第2の位置に位置する血漿分離チャンバであり、血液サンプルを受け入れて血漿から赤血球を分離するようにサンプル入口と流体連通している、血漿分離チャンバと、マイクロ流体チップ上の第3の位置に位置する光熱溶解チャンバであり、分離された血漿を受け入れて分離された血漿のRNA抽出を行うように血漿分離チャンバと流体連通している、光熱溶解チャンバと、マイクロ流体チップ上の第4の位置に位置する光PCRキャビティであり、分離された血漿中のRNAを増幅するように構成された、光PCRキャビティとを含み、光PCRキャビティが、血液サンプルを保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、システム。
【0023】
4.デング熱のポイントオブケア診断のための統合的分子診断システムであって、血液サンプル中の全血からのデングウイルスの選択的分離のためのオンチップ血漿分離チャンバと、デングウイルスのRNA抽出のためのオンチップLED駆動光熱溶解チャンバと、デングウイルスRNAの増幅のためのオンチップLED駆動高速光PCRキャビティとを含む、システム。
5.デング熱のポイントオブケア診断のための方法であって、溶血しない血漿分離を使用して、デングウイルスを含む血漿を分離するステップと、分離された血漿を加熱してLED駆動の光熱溶解によりウイルスからウイルスRNAを抽出するステップと、オンチップLED駆動高速光キャビティPCRによって、抽出ウイルスRNAを増幅するステップとを含む、方法。
【0024】
6.血液サンプルがウイルスを含み、光熱溶解チャンバが、ウイルスのRNAを抽出するように構成されており、かつ光PCRキャビティを使用するウイルスRNAの増幅が、分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するように構成されている、実施形態1から5まで、または実施形態7から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
7.光PCRキャビティが、血液サンプルを保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、実施形態1から6までのいずれか1項に記載のシステム。
【0025】
8.光PCRキャビティが、標的核酸のPCR増幅のために分離された血漿を加熱するように構成された金属薄膜を光キャビティの表面に備える、実施形態1から7まで、または実施形態9から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
9.金属薄膜が金を含む、実施形態1から8まで、または実施形態10から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
10.金薄膜がLED駆動の光熱加熱デバイスとして機能する、実施形態1から9まで、または実施形態11から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
11.光熱溶解チャンバが、光熱溶解を行うために分離された血漿を加熱するように構成された第2の金属薄膜を光熱溶解チャンバの表面に備える、実施形態1から10まで、または実施形態12から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
【0026】
12.第2の金属薄膜が、LED駆動の光熱加熱デバイスとして機能する金薄膜を含む、実施形態1から11まで、または実施形態13から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
13.光PCRキャビティと流体連通しているマイクロチップ上の第5の位置に位置する流体ポンピング機構をさらに含み、流体ポンピング機構は、入口から光PCRキャビティに血液サンプルを引き込むように構成されている、実施形態1から12まで、または実施形態14から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
14.血漿から赤血球を分離するステップが、溶血せずに行われる、実施形態1から13まで、または実施形態15から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
15.血液サンプルがウイルスを含み、RNA抽出を行うステップが、分離された血漿を加熱して光熱溶解によりウイルスからウイルスRNAを抽出するステップを含み、抽出RNAを増幅するステップが、LED駆動の高速光キャビティPCRによって、抽出ウイルスRNAを増幅することにより、分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するステップを含む、実施形態1から14まで、または実施形態16から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
【0027】
16.光熱溶解およびRNA増幅がLED駆動である、実施形態1から15まで、または実施形態17から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
17.光PCRキャビティが、血液サンプルを保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、実施形態1から16まで、または実施形態18から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
18.光PCRキャビティおよび光熱溶解チャンバそれぞれが、標的核酸のPCR増幅のために分離された血漿を加熱するように構成され、かつ光熱溶解を行うために分離された血漿を加熱するように構成された金属薄膜を備える、実施形態1から17まで、または実施形態19から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
19.金属薄膜が金を含む、実施形態1から18まで、または実施形態20から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
【0028】
20.金薄膜がLED駆動のプラズモン加熱デバイスとして機能する、実施形態1から19まで、または実施形態21から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
21.光PCRキャビティと流体連通している流体マイクロチップ上に位置する流体ポンピング機構によって、血液が、入口から光PCRキャビティに受動的に引き込まれる、実施形態1から20まで、または実施形態22から24までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
22.血液サンプルがウイルスを含み、光熱溶解チャンバが、ウイルスのRNAを抽出するように構成されており、かつ光PCRキャビティを使用するウイルスRNAの増幅が、分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するように構成されている、実施形態1から21まで、または実施形態23もしくは24のいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
23.光PCRキャビティが、血液サンプルを保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、実施形態1から22まで、または実施形態24のいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
24.光PCRキャビティが、光熱溶解および標的核酸のPCR増幅のための光キャビティを形成するための一対の金薄膜を備える、実施形態1から23までのいずれか1項に記載のシステムまたは方法。
【0029】
本明細書において使用されるとき、単数の用語「a」、「an」および「the」は、文脈により特に明確に定められていない限り、複数の指示対象を含む。単数の対象物への言及は、明示的にそのように記載されていない限り、「ただ1つ」を意味するものではなく、「1つまたは複数」を意味するものである。
本明細書において使用されるとき、「組(set)」という用語は、1つまたは複数の対象物の集合を指す。したがって、例えば、1組の対象物は、単一の対象物または複数の対象物を含み得る。
本明細書において使用されるとき、「実質的に」および「約」という用語は、わずかなばらつきを表し、説明するために使用される。事象または状況と共に使用されるとき、これらの用語は、事象または状況が正確に発生する場合の例、ならびに事象または状況がほぼ正確に発生する場合の例を指し得る。数値と共に使用されるとき、これらの用語は、その数値の±10%以下、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下または±0.05%以下のばらつきの範囲を指し得る。例えば、「実質的に」整列した(“substantially” aligned)は、±10°以下、例えば、±5°以下、±4°以下、±3°以下、±2°以下、±1°以下、±0.5°以下、±0.1°以下または±0.05°以下の角度のばらつきの範囲を指し得る。
【0030】
さらに、量、比および他の数値は、場合によって、本明細書において範囲形式で提示されることがある。そのような範囲形式は、利便性と簡潔さから使用されると理解されるべきであり、範囲の限界値として明示的に指定されている数値を含むだけでなく、その範囲内に包含されるすべての個々の数値または部分範囲も、それぞれの数値および部分範囲が明示的に指定されている場合と同様に含むと柔軟に理解されるべきである。例えば、約1~約200の範囲内の比は、明示的に記載されている約1および約200の限界値を含むが、約2、約3および約4などの個々の比、ならびに例えば、約10~約50、約20~約100などの部分範囲も同様に含むと理解されるべきである。
本明細書の説明は多くの詳細を含むが、これらは、本開示の範囲を限定するものと解釈すべきではなく、単に、本発明に好ましい実施形態の一部の例示を提供するものと解釈すべきである。したがって、本開示の範囲は、当業者には明らかになるであろう他の実施形態を完全に包含することを理解されたい。
【0031】
当業者に既知の開示されている実施形態の要素のすべての構造的および機能的な均等物は、参照により本明細書に明示的に組み込まれ、本特許請求の範囲により包含されるものである。さらに、本開示の要素、構成要素または方法ステップは、要素、構成要素または方法ステップが特許請求の範囲に明示的に記載されているかに関わらず、公開専用であることを意図しない。本明細書における請求項の要素は、要素が、「のための手段(means for)」という語句を使用して明示的に記載されていない限り、「ミーンズプラスファンクション」要素と解釈されるべきではない。本明細書における請求項の要素は、要素が、「のためのステップ(step for)」という語句を使用して明示的に記載されていない限り、「ステッププラスファンクション」要素と解釈されるべきではない。
次に、本発明のまた別の好ましい態様を示す。
1. 血液サンプルのポイントオブケア診断のためのマイクロ流体チップの形態の統合的分子診断システムであって、
前記マイクロ流体チップ内の第1の位置にあるサンプル入口であり、血液サンプルを受け入れるように構成された、サンプル入口と、
前記マイクロ流体チップ上の第2の位置に位置する血漿分離チャンバであり、前記血液サンプルを受け入れて血漿から赤血球を分離するように前記サンプル入口と流体連通している、血漿分離チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第3の位置に位置する光熱溶解チャンバであり、前記分離された血漿を受け入れて前記分離された血漿のRNA抽出を行うように前記血漿分離チャンバと流体連通している、光熱溶解チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第4の位置に位置する光PCRキャビティであり、前記分離された血漿中のRNAを増幅するように構成された、光PCRキャビティと
を含む、システム。
2. 前記血液サンプルがウイルスを含み、
前記光熱溶解チャンバが、前記ウイルスのRNAを抽出するように構成されており、かつ
光PCRキャビティを使用するウイルスRNAの増幅が、前記分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するように構成されている、上記1に記載のシステム。
3. 前記光PCRキャビティが、前記血液サンプルを保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、上記1に記載のシステム。
4. 前記光PCRキャビティが、標的核酸のPCR増幅のために前記分離された血漿を加熱するように構成された金属薄膜を前記光キャビティの表面に備える、上記1に記載のシステム。
5. 前記金属薄膜が金を含む、上記4に記載のシステム。
6. 金薄膜がLED駆動の光熱加熱デバイスとして機能する、上記4に記載のシステム。
7. 前記光熱溶解チャンバが、光熱溶解を行うために前記分離された血漿を加熱するように構成された第2の金属薄膜を前記光熱溶解チャンバの表面に備える、上記1に記載のシステム。
8. 前記第2の金属薄膜が、LED駆動の光熱加熱デバイスとして機能する金薄膜を含む、上記7に記載のシステム。
9. 前記光PCRキャビティと流体連通している前記マイクロチップ上の第5の位置に位置する流体ポンピング機構をさらに含み、
前記流体ポンピング機構は、前記入口から前記光PCRキャビティに前記血液サンプルを引き込むように構成されている、上記1に記載のシステム。
10. 血液サンプルのポイントオブケア診断のための方法であって、
マイクロ流体チップの入口で血液サンプルを受け入れるステップと、
前記入口と流体連通している、前記マイクロ流体チップ内の分離チャンバ内で血漿から赤血球を分離するステップと、
前記マイクロ流体チップ内に前記分離チャンバと流体連通して位置する光熱溶解チャンバ内に前記分離された血漿を受け入れて前記分離された血漿のRNA抽出を行うステップと、
前記マイクロ流体チップ内に前記光熱溶解チャンバと流体連通して位置する光PCRキャビティ内に前記分離された血漿を受け入れて前記分離された血漿中の前記抽出RNAを増幅するステップと
を含む、方法。
11. 血漿から赤血球を分離するステップが、溶血せずに行われる、上記10に記載の方法。
12. 前記血液サンプルがウイルスを含み、
RNA抽出を行うステップが、前記分離された血漿を加熱して光熱溶解により前記ウイルスからウイルスRNAを抽出するステップを含み、
前記抽出RNAを増幅するステップが、LED駆動の高速光キャビティPCRによって前記抽出ウイルスRNAを増幅することにより、前記分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するステップを含む、上記10に記載の方法。
13. 光熱溶解およびRNA増幅がLED駆動である、上記12に記載の方法。
14. 前記光PCRキャビティが、前記血液サンプルを保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、上記10に記載の方法。
15. 前記光PCRキャビティおよび光熱溶解チャンバそれぞれが、標的核酸のPCR増幅のために前記分離された血漿を加熱するように構成され、かつ光熱溶解を行うために前記分離された血漿を加熱するように構成された金属薄膜を備える、上記13に記載の方法。
16. 前記金属薄膜が金を含む、上記15に記載の方法。
17. 金薄膜がLED駆動のプラズモン加熱デバイスとして機能する、上記16に記載の方法。
18. 前記光PCRキャビティと流体連通している前記流体マイクロチップ上に位置する流体ポンピング機構によって、血液が、前記入口から前記光PCRキャビティに受動的に引き込まれる、上記10に記載の方法。
19. 血液サンプルのポイントオブケア診断のためのマイクロ流体チップの形態の統合的分子診断システムであって、
前記マイクロ流体チップ内の第1の位置にあるサンプル入口であり、血液サンプルを受け入れるように構成された、サンプル入口と、
前記マイクロ流体チップ上の第2の位置に位置する血漿分離チャンバであり、前記血液サンプルを受け入れて血漿から赤血球を分離するように前記サンプル入口と流体連通している、血漿分離チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第3の位置に位置する光熱溶解チャンバであり、前記分離された血漿を受け入れて前記分離された血漿のRNA抽出を行うように前記血漿分離チャンバと流体連通している、光熱溶解チャンバと、
前記マイクロ流体チップ上の第4の位置に位置する光PCRキャビティであり、前記分離された血漿中のRNAを増幅するように構成された、光PCRキャビティと
を含み、
前記光PCRキャビティが、前記血液サンプルを保持するように構成された複数のチャンバ壁により画定された少なくとも1つのマイクロ流体熱サイクルチャンバを備える、システム。
20. 前記血液サンプルがウイルスを含み、
前記光熱溶解チャンバが、前記ウイルスのRNAを抽出するように構成されており、かつ
光PCRキャビティを使用するウイルスRNAの増幅が、前記分離された血漿中のウイルスRNAを増幅するように構成されている、上記19に記載のシステム。