(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】可撓止水継手
(51)【国際特許分類】
E03F 3/04 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
E03F3/04 Z
(21)【出願番号】P 2020012342
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000106955
【氏名又は名称】シバタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】西山 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】西本 安志
(72)【発明者】
【氏名】宇野 一也
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-063223(JP,U)
【文献】特開平11-350888(JP,A)
【文献】特開2000-027272(JP,A)
【文献】特開2013-011060(JP,A)
【文献】特開昭55-129689(JP,A)
【文献】特開昭55-123078(JP,A)
【文献】特開2001-164590(JP,A)
【文献】特開2018-40145(JP,A)
【文献】特開2001-200574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00-11/00
E01C 11/02
E01D 19/06
E02B 3/04-3/14
5/02
E02D 29/12
E21D 11/04
F16L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の構造体要素を接続して構築される構造体において、隣接する前記構造体要素間に跨って固定される可撓止水継手であって、
前記可撓止水継手は、止水性及び可撓性を有するシート状部材から成り、その幅方向の中間部に一方面側へ突出するように折り畳まれた折り畳み部を有する本体部と、前記本体部をその幅方向の両端部付近で隣接する前記構造体要素それぞれに固定する固定部材とを含み、
前記折り畳み部は、断面形状が半円形である少なくとも一つの湾曲部分を有し、前記湾曲部分における内周面の曲率半径が、前記湾曲部分における厚み寸法よりも大きく設定されており、
隣接する前記構造体要素は、互いに対向するそれぞれの端面の周縁部に傾斜面が設けられ、対向する前記傾斜面によって、隣接する前記構造体要素間に溝状の収納空間が形成され、
前記本体部は、前記折り畳み部が前記収納空間に収納されるように配置された状態で、前記固定部材によって隣接する前記構造体要素それぞれに固定される、可撓止水継手。
【請求項2】
前記構造体要素は、その内壁面と前記傾斜面との間に更に段差部を備え、
前記本体部は、前記段差部において、前記固定
部材により前記構造体要素に固定される、請求項1記載の可撓止水継手。
【請求項3】
前記固定部材は、前記本体部
の他方面側において、前記折り畳み部の少なくとも一部を覆う押さえ部材をさらに含む、請求項1又は請求項2記載の可撓止水継手。
【請求項4】
前記折り畳み部は、隣接する前記構造体要素が相対移動するまで、折り畳み状態を維持する仮止め手段を備える、請求項1から請求項3のいずれかに記載の可撓止水継手。
【請求項5】
複数個の構造体要素を接続して構築される構造体において、隣接する前記構造体要素間に跨って固定される可撓止水継手であって、
前記可撓止水継手は、止水性及び可撓性を有するシート状部材から成り、その幅方向の中間部に一方面側へ突出するように折り畳まれた折り畳み部を有する本体部と、前記本体部をその幅方向の両端部付近で隣接する前記構造体要素それぞれに固定する固定部材とを含み、
隣接する前記構造体要素は、互いに対向するそれぞれの端面の周縁部に傾斜面が設けられ、対向する前記傾斜面によって、隣接する前記構造体要素間に溝状の収納空間が形成され、
前記本体部は、前記折り畳み部が前記収納空間に収納されるように配置された状態で、前記固定部材によって隣接する前記構造体要素それぞれに固定され、
前記構造体要素における前記端面の一部から前記
構造体要素の内壁面の一部にわたる表面を覆う型枠を更に含み、
前記型枠は前記内壁面の一部を覆う水平部分とこの水平部分に連なって前記傾斜面を覆う傾斜部分とを有し、
前記本体部が前記型枠の表面に配置される
、可撓止水継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の構造体要素を接続して構築される構造体において、隣接する構造体要素間に跨って固定される可撓止水継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、地下空間を区画する函体を用いて開削トンネルを施工するに際し、複数の函体どうしの連結部分の継手として好適とされる可撓ゴム継手が記載されている。この可撓ゴム継手は、一対の金属枠体と、この枠体間に架設される止水ゴム部材とを備える。一対の金属枠体は、地下空間の壁に対して傾斜させて配置した一組の金属平板から成り、これにより断面略V字状の取付溝が形成される。止水ゴム部材は、断面略逆U字状の止水ゴム本体と、止水ゴム本体の基部から頂部側へ向かって伸びる一対のフランジ部とを一体に形成したものである。
【0003】
特許文献2には、上下水道等のコンクリート製地下構造物を、所定の大きさの単位ブロックとする構造体要素を複数個接続して構築するに際し、構造体要素どうしを水密的に接続するための接続構造が記載されている。この接続構造は、構造体要素各々の結合端面の内周側に枠体によって装着段差面が形成され、隣接する装着段差面間に跨って、弾性体で形成された可撓止水部材を水密的に装着すると共に、結合端面間に目地材を充填配設したものである。この構成により、構造体要素は、可撓止水部材を介して水密的に結合されると共に、その可撓性によって相対変位が許容されるようになっている。
【0004】
特許文献3には、河川を利用した取水・排水用樋管を、プレキャストコンクリートからなるボックスカルバートを連接することにより構成するにあたり、ボックスカルバートどうしの接続部分に配置される可撓止水継手が記載されている。この可撓止水継手は、ゴムや合成樹脂などの可撓性材料で短筒状に形成されたものであって、横断面方向の内側の中央部に折畳まれた伸縮部を有し、その両端部に取付け部が形成されている。そして、連続するボックスカルバートの隣接する側の内周端部に形成された段差部に埋設したアンカーボルトを利用して、ボックスカルバート間に取り付けられるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-164590号公報
【文献】特開2004-346592号公報
【文献】特開2013-11060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載の技術は隣接する構造体要素どうしの接続部分を止水するための継手構造に関し、いずれも継手部材の表面側が凹凸の多い比較的複雑な形状となっている。このため、例えば下水管に適用した場合に、排水やゴミが継手部分に溜まって蓄積し、流動抵抗を増大させて排水能率を低下させるおそれがある。
【0007】
又、特許文献1、2に記載の継手は、中間部にU字状の膨出部分を設けて、地盤変動等により隣接する構造体の間隔が拡大したときに、これに追従して伸張できるよう構成されている。しかしながら、特許文献1、2の技術では、継手部材に十分な伸張量が与えられているとは言えず、不等沈下のような大きい変動に対処することは難しい。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、構造体間の大きな相対移動に対応することが可能であって、表面側の凹凸形状が少ない可撓止水継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、複数個の構造体要素を接続して構築される構造体において、隣接する構造体要素間に跨って固定される可撓止水継手であって、可撓止水継手は、止水性及び可撓性を有するシート状部材から成り、その幅方向の中間部に一方面側へ突出するように折り畳まれた折り畳み部を有する本体部と、本体部をその幅方向の両端部付近で隣接する構造体要素それぞれに固定する固定部材とを含み、折り畳み部は、断面形状が半円形である少なくとも一つの湾曲部分を有し、湾曲部分における内周面の曲率半径が、湾曲部分における厚み寸法よりも大きく設定されており、隣接する構造体要素は、互いに対向するそれぞれの端面の周縁部に傾斜面が設けられ、対向する傾斜面によって、隣接する構造体要素間に溝状の収納空間が形成され、本体部は、折り畳み部が収納空間に収納されるように配置された状態で、固定部材によって隣接する構造体要素それぞれに固定されるものである。
【0010】
このように構成すると、可撓止水継手は、本体部によって、隣接する構造体要素間の接続部分を被覆して、この部分における漏水を防止する。本体部の折り畳み部を隣接する構造体要素間に形成された収納空間に収納させたので、本体部における構造体要素に面しない他方面を平坦にできる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、構造体要素は、その内壁面と傾斜面との間に更に段差部を備え、本体部は、段差部において、固定部材により構造体要素に固定されるものである。
【0012】
このように構成すると、可撓止水継手の本体部が、構造体要素の内壁面よりも凹んだ位置で固定される。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、固定部材は、本体部の他方面側において、折り畳み部の少なくとも一部を覆う押さえ部材をさらに含むものである。
【0014】
このように構成すると、押さえ部材によって、本体部の折り畳み部の少なくとも一部が、他方面側から覆われる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、折り畳み部は、隣接する構造体要素が相対移動するまで、折り畳み状態を維持する仮止め手段を備えるものである。
【0016】
このように構成すると、隣接する構造体要素が相対移動するまで、折り畳み部は、仮止め手段によって折り畳み状態が維持される。
【0017】
請求項5記載の発明は、複数個の構造体要素を接続して構築される構造体において、隣接する構造体要素間に跨って固定される可撓止水継手であって、可撓止水継手は、止水性及び可撓性を有するシート状部材から成り、その幅方向の中間部に一方面側へ突出するように折り畳まれた折り畳み部を有する本体部と、本体部をその幅方向の両端部付近で隣接する構造体要素それぞれに固定する固定部材とを含み、隣接する構造体要素は、互いに対向するそれぞれの端面の周縁部に傾斜面が設けられ、対向する傾斜面によって、隣接する構造体要素間に溝状の収納空間が形成され、本体部は、折り畳み部が収納空間に収納されるように配置された状態で、固定部材によって隣接する構造体要素それぞれに固定され、構造体要素における端面の一部から構造体要素の内壁面の一部にわたる表面を覆う型枠を更に含み、型枠は内壁面の一部を覆う水平部分とこの水平部分に連なって傾斜面を覆う傾斜部分とを有し、本体部が型枠の表面に配置されるものである。
【0018】
このように構成すると、型枠によって、構造体要素の端面の一部から、傾斜面を経て、内壁面の一部にわたる表面部分が形成される。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、可撓止水継手の本体部の中間部に折り畳み部を設けたので、隣接する構造体要素間の相対移動に対し、本体部が追従して展開することができる。このため、隣接する構造体要素の間で離隔や不等沈下が生じたとしても、可撓止水継手の止水性が損なわれない。本体部の折り畳み部を収納空間に収納し、反対面側を平坦にすることができる。このため、構造体を例えば下水管として利用した場合に、流路の形成面の凹凸が少なくなるので、排水やゴミの停留を低減できる。収納空間を形成するための傾斜面を設けたので、構造体要素をコンクリートで打設する場合、傾斜面部分は空気が停留しにくくなるため、空気溜まりの生成領域が縮小される。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、内壁面側に突出する部分を無くせるか又は少なくできるので、構造体を例えば下水管として利用した場合に、排水に対する流動抵抗が大きくなるのを抑制できる。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、折り畳み部が変形する際に他方面側へ突出するのを、抑え部材が抑止する。これにより、構造体を例えば下水管として利用した場合に、構造体要素間に相対移動が生じたときでも、流路の形成面の平坦性を維持できる。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、可撓止水継手の本体部を構造体要素に固定する際に、折り畳み部を下方に向けても仮止め手段によって折り畳み状態が保持され広がることがないので、本体部の固定作業が容易になる。
【0023】
請求項5記載の発明は、可撓止水継手の本体部を平滑性の高い型枠表面に配置するから、本体部と型枠との間の水密性を高めて、止水を確実にすることができる。型枠は傾斜面を含むから、構造体要素をコンクリートで打設する場合に発生する空気は傾斜面の領域には停留せず、上方へ移動する。型枠における裏面側に空気が停留する領域が、傾斜面以外の領域になるから、空気溜まりを減少させることができ、空気溜まりを通じた漏水のおそれを少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る可撓止水継手が適用される構造体の一部を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る可撓止水継手が適用される構造体の一部を示す断面図である。
【
図3】本発明に係る可撓止水継手の設置状況を示す断面図である。
【
図4】隣接する構造体要素が離隔方向に相対移動した場合における、本発明に係る可撓止水継手の変形状況を示す断面図である。
【
図5】隣接する構造体要素の間で不等沈下が発生した場合における、本発明に係る可撓止水継手の変形状況を示す断面図である。
【
図6】隣接する構造体要素の互いに対向するそれぞれの端面の周縁部に傾斜面を設けたことによる利点を説明する図であって、(A)は本発明に関するものであり、(B)は比較例に関するものである。
【
図7】隣接する構造体要素の接近方向に相対移動した場合における、本発明に係る可撓止水継手の変形状況を示す断面図である。
【
図8】本発明の異なる実施の形態による可撓止水継手の設置状況を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明に係る可撓止水継手が適用される構造体の一部を示す斜視図であり、
図2は本発明に係る可撓止水継手が適用される構造体の一部を示す断面図であり、
図3は本発明に係る可撓止水継手の設置状況を示す断面図である。
【0026】
図1及び
図2に示す構造体Sは、構造体要素1A(1B)としてボックスカルバートを用い、それらを複数個接続して構築した下水管である。構造体要素1A(1B)であるボックスカルバートは、プレキャストコンクリートから成る四角筒状体であり、その内壁面2が排水等を流動させる流路の形成面となっている。又、本例では、内壁面2と端面5との間に、段差部3及び傾斜面4が形成されている。
【0027】
本例では、
図3に示すように、構造体要素1A(1B)の端部に配設した型枠10A(10B)によって、端面5A(5B)の一部から内壁面2A(2B)の一部にわたる表面を覆うものとした。即ち、型枠10A(10B)は、内壁面2A(2B)から連なる垂直部分11A(11B)、水平部分12A(12B)、及び、傾斜部分13A(13B)を有し、これらの表面が段差部3A(3B)及び傾斜面4A(4B)を形成している。型枠10A(10B)は、樹脂塗装した鉄鋼等の金属製であり、コンクリートを打設する際に、構造体要素1A(1B)における端部側の一部を形成する成形型として機能する。型枠10A(10B)が傾斜部分13A(13B)を有することにより、構造体要素1A(1B)を接続して構造体を構築した際には、対向する傾斜面4A(4B)によって隣接する構造体要素1A(1B)間に断面V字状の収納空間6が形成される。又、隣接する構造体要素1A、1Bそれぞれの端面5A、5B間は、発泡樹脂、アスファルト瀝青材等を用いた目地材30を充填して、両者間を水密的に閉塞している。
【0028】
型枠10A(10B)は、水平部分12の適所に開孔(不図示)が形成され、開孔が形成された位置の裏面側に、ネジ孔を有するナット部材26A(26B)が溶接等で取着される。このナット部材26A(26B)には、屈曲部を有するアンカー部材27A(27B)が、螺合、溶接等の適宜手段で連結されている。ナット部材26A(26B)のネジ孔には、固定用ボルト23A(23B)が、水平部分12A(12B)の開孔を介して螺合される。構造体要素1A(1B)を製作するため、型枠10A(10B)を利用してコンクリートを打設すると、コンクリートに埋設されたアンカー部材27A(27B)の屈曲部が投錨効果を発揮して、型枠10A(10B)が構造体要素1A(1B)から脱落するのを防止する。尚、型枠10A(10B)における垂直部分11A(11B)の裏面側には、打設したコンクリートが流出するのを防止するための流動阻止材50A(50B)が配置されている。
【0029】
隣接する構造体要素1A、1B間に跨って固定される可撓止水継手20は、止水性及び可撓性を有するシート状部材から成り、その幅方向の中間部に一方面(裏面)側へ突出するように折り畳まれた折り畳み部21aを有する本体部21と、本体部21をその幅方向の両端部付近で隣接する構造体要素1A、1Bそれぞれに固定する固定部材とを含む。
【0030】
本例の固定部材は、型枠10A(10B)に固定したナット部材26A(26B)に螺合される固定用ボルト23A(23B)と、本体部21の他方面(表面)側において、折り畳み部21aの少なくとも一部を覆うことのできる長さを有する板状の押さえ部材25A(25B)とで構成される。固定用ボルト23A(23B)を、ワッシャ24A(24B)及び本体部21の表面上に配置した押さえ部材25A(25B)を貫通して、ナット部材26A(26B)に螺合させ締め付けることにより、本体部21の両端部付近それぞれが構造体要素1A(1B)それぞれに固定される。尚、対向する押さえ部材25A、25Bの間には間隙が形成される。この間隙の寸法は、隣接する構造体要素1A、1Bの各端面5A、5B間の距離以上に設定される。これにより、構造体要素1A、1Bどうしが接近方向へ位置変位したときに、押さえ部材25A、25Bどうしが衝突するのを避けることができる。
【0031】
本体部21は、止水性と可撓性とを備えるシート状部材で構成されるが、これには例えば、ゴムシートの内部に高強度繊維を埋設した構造のシート材料が使用される。このような構成のシート状部材は、ゴム材料が不透水性、耐薬品性及び耐候性を発揮し、高強度繊維が優れた耐引張強度を発揮するから、物理的にも化学的にも安定であり、下水管等を構成する構造体要素間の止水部材として好適である。本体部21は、本例では中間部を2回折り返して形成した折り畳み部21aを有する。折り畳み部21aは、本体部21の一方面側(裏面側)に突出するような折り返し状態に形成される。従って、折り畳み部21aは、本体部21の装着状態において、隣接する構造体要素1A(1B)間に形成される断面V字状の収納空間6に収納される。折り畳み部21aは、自然状態で折り畳み状態を維持できる仮止め手段を備える。これは例えば、折り畳み部21aにおける本体部21の表面どうしが互いに接する部分を例えばホットメルト等により接着した仮止め部21bである。仮止め部21bは、自然状態では折り畳み状態を維持し、本体部21に伸張方向の外力が作用したときには容易に分離する程度の比較的弱い接着力で接着されている。従って、構造体要素1A、1B間に離隔方向の位置変位が生じて本体部21が伸張方向へ引っ張られたときには、この位置変位に追従するように、仮止め部21bが分離して折り畳み部21aが展開する。尚、折り畳み部21aの折り返し回数及び折り返し幅は、構造体要素1A、1B間の予測される位置変位量に基づいて設定される。
【0032】
更に、本体部21には、固定用ボルト23A(23B)を挿通させる開孔(不図示)が形成されると共に、この開孔の周囲を囲む環状の凸部21cが形成される。この環状の凸部21cは、型枠10A(10B)の表面に当接して、開孔周囲の止水性を向上させる。
【0033】
更に本例では、本体部21の表面側に、保護シート22が積層される。この保護シート22は、本体部21よりも厚みが薄く、弾性的に容易に伸張できるものであり、例えば、ゴム、ポリエチレン等の合成樹脂、及び、内部に繊維等の補強材を埋設したゴムや合成樹脂等の材質で形成される。
【0034】
上述のように構成される可撓止水継手20の設置手順を以下に説明する。
図3を参照して、構造体を構築する構造体要素1A、1Bどうしは、例えば、コンクリート躯体内に予め配設した丸棒状の鋼材(不図示)どうしを連結する構造等の、公知の方法によって接続される。隣接する構造体要素1A、1B間は目地材30で充填される。可撓止水継手20は、その本体部21が、折り畳み部21aを収納空間6に収納させた姿勢で、対向する型枠10A、10Bそれぞれの表面上に配置される。このとき、折り畳み部21aが鉛直下方に向けられたとしても、その折り畳み状態は仮止め部21bによって維持され展開することがないので、施工作業を円滑に行うことができる。
【0035】
本体部21の上(表面側)には保護シート22が積層される。又、本体部21の端縁部に沿って、シールパッキン40A(40B)が配設される。そして、保護シート22の上に押さえ部材25A(25B)及びワッシャ24A(24B)を配置した後、固定用ボルト23A(23B)を、ワッシャ24A(24B)、押さえ部材25A(25B)、保護シート22、本体部21及び型枠10A(10B)を挿通させて、ナット部材26A(26B)に螺合させ締め付ける。これにより、本体部21が、型枠10A(10B)と押さえ部材25A(25B)とで挟持されて構造体要素1A(1B)それぞれに固定される。本体部21、型枠10A(10B)、及び押さえ部材25A(25B)は互いに平坦面で密接するから、優れた止水性能を発揮することができる。
【0036】
このように構成された可撓止水継手は、構造体が下水管の場合、構造体要素間の接続部分を覆って、管路内を流動する排水が外部へ漏出するのを阻止する。本体部における流路に面する表面側は凹凸の少ない形態であるため、排水やゴミが停留しにくく、排水の流動性を阻害するおそれが少ない。折り畳み部は本体部をその表面と平行な方向に沿って折り返して形成したものであるから、本体部の厚みを比較的薄くすることができる。このため、折り畳み部を収納する収納空間の高さを低くでき、型枠自体の高さ寸法を小さくして小型化することが可能となる。型枠を小型化できると、構造体要素をコンクリートで製作する際に型枠と鉄筋との干渉が減少するので、躯体設計の自由度が向上すると共に、鉄筋の配設作業が容易になる。又、型枠の小型化により、打設したコンクリートに対するバイブレータ処理を行い易くなる。
【0037】
本例では、型枠が傾斜面部分を有することにより、次のような利点を得ることができる。型枠は、コンクリートを打設して構造体要素を製作する際の成形型の一部として機能するが、その際、コンクリート中に発生する気泡が傾斜部分には停留しにくいため、空気溜まりを減少させることができる。傾斜部分には打設したコンクリートが流入しやすいから、コンクリートが型枠の裏面側へ充填されやすくなり、それだけ空気溜まりを生じさせにくい。更に、折り畳み部を収納する収納空間を凹溝状に形成する場合と比べて、型枠を軽量化することができる。
【0038】
更に又、本例の型枠は段差部を有することにより、可撓止水継手を構造体要素の内壁面よりも突出させないから、排水の流動性を良好に保つことができる。
【0039】
図4は、隣接する構造体要素が離隔方向に相対移動した場合における、本発明に係る可撓止水継手の変形状況を示す断面図である。
【0040】
図4を参照して、地盤変動等により隣接する構造体要素1A、1Bの位置が離隔方向へ相対変位し、両者間の間隔が拡大した場合、可撓止水継手20の本体部21には伸張方向の引っ張り力が作用する。これにより、仮止め部21bの接着状態が解除され、折り畳み部21aが展開可能となる。又、保護シート22は、その弾性により伸張することが可能である。従って、本体部21は、構造体要素1A、1Bの離隔に追従して折り畳み部21aを展開させることができるので、構造体要素1A、1B間に隙間が形成されたとしても、両者間を確実に止水して漏水を防止することができる。又、本例では、折り畳み部21aにおける折り返し量を十分に確保して伸張可能量を大きくできるから、従来よりも構造体要素1A、1Bの離隔量が大きくても対応可能である。折り畳み部21aが表面側の凹凸が少ない形態である上に、保護シート22により表面側の平坦性が維持されるので、構造体要素1A、1Bが離隔しても、排水の流動性に支障を与えない。
【0041】
図5は、隣接する構造体要素の間で不等沈下が発生した場合における、本発明に係る可撓止水継手の変形状況を示す断面図である。
【0042】
図5を参照して、地盤の不等沈下により隣接する構造体要素1A、1Bの相対位置が鉛直方向へ相対変位した場合、可撓止水継手20の本体部21には鉛直方向のずれ力が作用する。これにより、折り畳み部21aが変形し、鉛直方向の変位量が大きい場合は仮止め部21bの接着状態が解除され、折り畳み部21aが展開可能となる。このとき、本体部21における折り畳み部21aの表面側は押さえ部材25A、25Bによって覆われ、表面側へ突出するのが阻止されるから、表面形状が複雑になるのを回避できる。このとき、保護シート22は、その弾性により追従して変形することが可能である。従って、本体部21は、構造体要素1A、1Bの位置変位に追従して折り畳み部21aを変形及び展開させることができるので、構造体要素1A、1B間に大きな位置変位が生じたとしても、両者間を確実に止水して漏水を防止することができる。又、折り畳み部21aにより伸張可能量を大きくできるから、従来よりも大きな構造体要素1A、1Bの位置変位に対応可能である。更に、保護シート22が表面側形状の複雑化を回避して、排水の流動性が大きく損なわれるのを防止する。
【0043】
図6は、隣接する構造体要素の互いに対向するそれぞれの端面の周縁部に傾斜面を設けたことによる利点を説明する図であって、(A)は本発明に関するものであり、(B)は比較例である。即ち、
図6の(A)は、構造体要素1A、1Bの対向するそれぞれの端面5A、5Bの周縁部に傾斜面4A、4Bが形成されている場合を示し、(B)は、構造体要素1C、1Dの対向するそれぞれの端面5C、5Dが垂直面のみで形成されている場合を示している。尚、
図6では、説明に必要な構成だけを簡略化して示している。
【0044】
構造体要素が傾斜面部分を有することによる利点は次の通りである。
図6を参照して、隣接する構造体要素間に不等沈下が生じ、可撓止水継手20の本体部21が伸び切った状態を想定する。(A)と(B)とで本体部21の長さは等しく、固定用ボルト23A、23Bによる固定位置の水平間距離も等しいものとする。(A)では、隣接する構造体要素1A、1B間に不等沈下が生じたとき、本体部21は、傾斜面4A、4B間に形成された収納空間6を経由するように折れ曲がって伸張することができる。これに対し(B)では、本体部21は、沈下後の上位にある構造体要素1Cの角部の位置で折れ曲がった状態で伸張することになる。両者を比較すると、本体部21が伸び切った状態になっている時の(A)の沈下量L1は、同様の状態となっている時の(B)の沈下量L2よりも大きくなることが理解される。即ち本例のように、隣接する構造体要素それぞれに傾斜面を形成しておくことによって、可撓止水継手が対応し得る沈下量を増大させることができると言うことができる。これは別の見方をすると、隣接する構造体要素それぞれに傾斜面を形成しておくことによって、所定の沈下量に対応するために必要な可撓止水継手の最大長さ(伸びきった状態の長さ)を短縮化できると言うこともできる。
【0045】
図7は、隣接する構造体要素の接近方向に相対移動した場合における、本発明に係る可撓止水継手の変形状況を示す断面図である。
【0046】
図7を参照して、地盤変動で隣接する構造体要素1A、1Bが接近する方向へ相対変位した場合、可撓止水継手20の本体部21には圧縮方向の力が作用する。これにより、折り畳み部21aは拡径するように変形する。このとき、本体部21における折り畳み部21aの表面側は押さえ部材25A、25Bによって覆われ、表面側へ突出するのが阻止されるから、表面形状が複雑になるのを回避できる。但し保護シート22は、その弾性により多少表面側へ膨出するように変形するが、その影響は小さいと考えられる。このように構造体要素1A、1Bが接近方向に位置変位しても、本体部21はこれに追従するよう折り畳み部21aを変形させることができるので、構造体要素1A、1B間を確実に止水して漏水を防止することができる。
【0047】
但し、構造体要素1A、1Bが過度に接近すると、各端面5A、5B間に配置された目地材30が強く圧縮され、その反力で端面5A、5Bに損傷を与えるおそれがあると考えられる。しかるに本例では、端面5A、5Bと、本体部21を固定している固定用ボルト23A(23B)及びナット部材26A(26B)の位置との間に傾斜面4A,4Bが形成されており、この傾斜面4A、4Bどうしが、構造体要素1A、1Bが接近しても決して当接することはない。このため仮に、構造体要素1A、1Bの接近により端面5A、5B間に損傷を受けるような大きな圧縮力が作用したとしても、その影響が固定用ボルト23A(23B)及びナット部材26A(26B)の位置まで及ぶおそれがないから、可撓止水継手20の止水性能が損なわれることがない。すなわち、構造体要素1A、1Bの接近方向の位置変位に対しても、確実に漏水を防止することができるものである。
【0048】
図8は、本発明の異なる実施の形態による可撓止水継手の設置状況を示す断面図である。
【0049】
可撓止水継手の折り畳み部の形態は、本体部の一方面(裏面)側へ突出する形態であれば、折り返し方向は適宜変更することができる。
図8に示す可撓止水継手200は、本体部21の中間において、表面側から裏面側へ向かう方向に本体部21を複数回折り返して折り畳み部21dを形成したものである。この例においても、本体部21の表面側は凹凸の少ない形状となっている。又、仮止め部21eを設けることで、自然状態では折り畳み部21dの折り畳み状態が維持され、本体部21に引っ張り力が作用したときには折り畳み部21dが展開して伸張することが可能となっている。
【0050】
尚、前述の実施の形態では、本体部の表面側に押さえ部材を配置したが、これを省略してもよい。又、本体部の折り畳み部の仮止め部を省略してもよい。
【0051】
型枠に傾斜部分を設けたが、この部分を、断面が曲線を描く湾曲面としてもよい。又、型枠の段差部を省略してもよい。更には、構造体要素をコンクリートで打設した後、型枠を取り外すようにしてもよい。
【0052】
更に、本発明は、コンクリート製の構造体以外に、合成樹脂製、金属製の構造体に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
S…構造体
1A、1B…構造体要素
2、2A、2B…内壁面
3、3A、3B…段差部
4、4A、4B…傾斜面
5、5A、5B…端面
6…収納空間
10、10A、10B…型枠
11A、11B…垂直部分
12A、12B…水平部分
13A、13B…傾斜部分
20、200…可撓止水継手
21…本体部
21a、21d…折り畳み部
21b、21e…仮止め部
21c…凸部
22…保護シート
23A、23B…固定用ボルト
24A、24B…ワッシャ
25A、25B…押さえ部材
26A、26B…ナット部材
27A、27B…アンカー部材
30…目地材
40A、40B…シールパッキン
50A、50B…流動阻止材
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。