(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ネジ締付システム、ネジ締付チューニング方法、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20240313BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B25B23/14 630D
B25B23/14 610B
B25B23/14 610K
B25B21/02 Z
(21)【出願番号】P 2020038466
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】500285923
【氏名又は名称】株式会社エスティック
(74)【代理人】
【識別番号】100125117
【氏名又は名称】坂田 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100086933
【氏名又は名称】久保 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 聡
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-205575(JP,A)
【文献】特開2017-056534(JP,A)
【文献】特開2009-291867(JP,A)
【文献】特開2012-152834(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043535(WO,A1)
【文献】特開2001-179646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
B25B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ締めの対象物を回転させる出力軸と、
前記出力軸を回転させるネジ締付駆動手段と、
パルス状でありかつ
使用者によって指定された特定の電流値までピークが漸次増大する電流を前記ネジ締付駆動手段へ供給する電流供給手段と、
前記ネジ締付駆動手段による締付トルクが
第一の特定のトルク値を超えた場合
または前記締付トルク
のピークの平均変化率が前記使用者によって指定された所定の値を超えた場合に、前記特定の電流値
を小さくなるよう
に調整し、ネジ締めを開始してから
前記使用者によって指定された特定の時間が経過するまでの時間帯に前記締付トルクが
前記使用者によって指定された第二の特定のトルク値に達しなかった場合
に、前記特定の電流値
を大きくなるよう
に調整する、調整手段と、
を有することを特徴とするネジ締付システム。
【請求項2】
前記調整手段は、前記特定の電流値を第一の値だけ大きくなるように調整した後、ネジ締めを再び行った際に前記締付トルクが前記
第一の特定のトルク値を超えまたは前記平均変化率が前記所定の値を超えた場合は、前記特定の電流値を前記第一の値未満の値だけ小さくなるように調整し、前記特定の電流値を
当該第一の値未満の値である第二の値だけ小さくなるように調整した後、ネジ締めを再び行った際に前記時間帯に前記締付トルクが前記
第二の特定のトルク値に達しなかった場合は、前記特定の電流値を前記第二の値未満の値だけ大きくなるように調整する、
請求項
1に記載のネジ締付システム。
【請求項3】
ネジ締めの際に特定の異常が発生した場合に、セッティングを改めるように促すメッセージを出力するメッセージ出力手段、を有する、
請求項
1または請求項2に記載のネジ締付システム。
【請求項4】
前記メッセージ出力手段は、ネジ締めの際に前記出力軸が所定の角度未満で回転し終えた場合に、前記メッセージとして、前記対象物をセットし直すように促すメッセージを出力する、
請求項
3に記載のネジ締付システム。
【請求項5】
前記特定の電流値が一定の値に収束しても、前記締付トルクが前記
第一の特定のトルク値を超え、前記平均変化率が前記所定の値を超え、または前記時間帯に前記締付トルクが前記
第二の特定のトルク値に達しない場合に、セッティングを改めるように促すメッセージを出力する
第二のメッセージ出力手段、を有する、
請求項
1ないし請求項
4のいずれかに記載のネジ締付システム。
【請求項6】
所定の回数、前記特定の電流値が調整されても、前記締付トルクが前記
第一の特定のトルク値を超え、前記平均変化率が前記所定の値を超え、または前記時間帯に前記締付トルクが前記
第二の特定のトルク値に達しない場合に、セッティングを改めるように促すメッセージを出力する
第二のメッセージ出力手段、を有する、
請求項
1ないし請求項
4のいずれかに記載のネジ締付システム。
【請求項7】
ネジ締めごとの前記締付トルクの遷移を表示する締付実績表示手段を有する、
請求項1ないし請求項
6のいずれかに記載のネジ締付システム。
【請求項8】
ネジ締めの対象物を回転させる出力軸と、前記出力軸を回転させるネジ締付駆動手段と、パルス状
の電流を前記ネジ締付駆動手段へ供給する電流供給手段と、を有するネジ締付装置をチューニングするネジ締付チューニング方法であって、
前記電流供給手段によって、前記電流として、使用者によって指定された特定の電流値までピークが漸次増大する電流を前記ネジ締付駆動手段へ供給し、
前記ネジ締付駆動手段による締付トルクが
第一の特定のトルク値を超えた場合
および前記締付トルク
のピークの平均変化率が前記使用者によって指定された所定の値を超えた場合に、前記特定の電流値
を小さくなるよう
に調整し、ネジ締めを開始してから
前記使用者によって指定された特定の時間が経過するまでの時間帯に前記締付トルクが
前記使用者によって指定された第二の特定のトルク値に達しなかった場合
に、前記特定の電流値
を大きくなるよう
に調整する調整処理を実行する、
ことを特徴とするネジ締付チューニング方法。
【請求項9】
前記締付トルクのピークが前記時間帯に前記
第二の特定のトルク値に達するようになるまで前記調整処理を繰り返し実行する、
請求項
8に記載のネジ締付チューニング方法。
【請求項10】
前記調整処理においては、前記特定の電流値を第一の値だけ大きくなるように調整した後、ネジ締めを再び行った際に前記締付トルクが前記
第一の特定のトルク値を超えまたは前記平均変化率が前記所定の値を超えた場合は、前記特定の電流値を前記第一の値未満の値だけ小さくなるように調整し、前記特定の電流値を第二の値だけ小さくなるように調整した後、ネジ締めを再び行った際に前記時間帯に前記締付トルクが前記
第二の特定のトルク値に達しなかった場合は、前記特定の電流値を前記第二の値未満の値だけ大きくなるように調整する、
請求項
9に記載のネジ締付チューニング方法。
【請求項11】
ネジ締めの対象物を回転させる出力軸と、前記出力軸を回転させるネジ締付駆動手段と、パルス状でありかつ
使用者によって指定された特定の電流値までピークが漸次増大する電流を前記ネジ締付駆動手段へ供給する電流供給手段と、を有するネジ締付装置をチューニングするコンピュータプログラムであって、
前記ネジ締付駆動手段による締付トルクが
第一の特定のトルク値を超えた場合
および前記締付トルク
のピークの平均変化率が前記使用者によって指定された所定の値を超えた場合に、前記特定の電流値
を小さくなるよう
に調整する処理をコンピュータに実行させ、ネジ締めを開始してから
前記使用者によって指定された特定の時間が経過するまでの時間帯に前記締付トルクが
前記使用者によって指定された第二の特定のトルク値に達しなかった場合
に、前記特定の電流値
を大きくなるよう
に調整する処理を前記コンピュータに実行させる、
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要求通りに締付トルクが得られるようにネジ締付装置をチューニングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場の生産ラインにおけるワークのネジ締めのためにネジ締付装置が用いられている。ネジ締付装置として、漸次増大する締付トルクをネジに断続的に与えるインパクト式のネジ締付装置(特許文献1)、締付トルクを連続的に与える連続式またはダイレクト式のネジ締付装置などが用いられる。
【0003】
インパクト式のネジ締付装置は、パルス状でありかつ漸次増大する電流を電動式のモータに流すことによって、漸次増大する締付トルク発生させる。
【0004】
要求通りに締付トルクが得られるようにこのような電流を流すためには、パルスの発生を継続させる時間、パルスの間隔、デューティ比、および電流の増加率などのパラメータを設定する必要がある。
【0005】
従来は、使用者(オペレータ)が、これらのパラメータそれぞれに仮の値を与えてネジ締めを行い、その際の締付トルクの波形を目視し、主観的な判断に基づいて仮の値を増減させる。そして、要求される時間内に理想的な締付トルクを発生できるようになるまでこの一連の作業を繰り返すことによって、これらのパラメータを設定している。要求される締付時間および締付トルクの精度は、ワーク、安全性能、納期、その他種々の条件によって変わり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-1676号公報
【文献】特開2011-73137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のパラメータは専門的なものである。よって、最適なトルク波形がどのようなものなのか、最適なトルク波形を得るにはどのパラメータをどのように変更すればよいのかを理解するには、専門的な知識および豊富な経験が必要である。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑み、インパクト式のネジ締付装置を従来よりも容易にチューニングすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係るネジ締付システムは、ネジ締めの対象物を回転させる出力軸と、前記出力軸を回転させるネジ締付駆動手段と、パルス状でありかつ使用者によって指定された特定の電流値までピークが漸次増大する電流を前記ネジ締付駆動手段へ供給する電流供給手段と、前記ネジ締付駆動手段による締付トルクが第一の特定のトルク値を超えた場合または前記締付トルクのピークの平均変化率が前記使用者によって指定された所定の値を超えた場合に、前記特定の電流値を小さくなるように調整し、ネジ締めを開始してから前記使用者によって指定された特定の時間が経過するまでの時間帯に前記締付トルクが前記使用者によって指定された第二の特定のトルク値に達しなかった場合に、前記特定の電流値を大きくなるように調整する、調整手段と、を有する。
【0010】
好ましくは、前記調整手段は、前記特定の電流値を第一の値だけ大きくなるように調整した後、ネジ締めを再び行った際に前記締付トルクが前記第一の特定のトルク値を超えまたは前記平均変化率が前記所定の値を超えた場合は、前記特定の電流値を前記第一の値未満の値だけ小さくなるように調整し、前記特定の電流値を当該第一の値未満の値である第二の値だけ小さくなるように調整した後、ネジ締めを再び行った際に前記時間帯に前記締付トルクが前記第二の特定のトルク値に達しなかった場合は、前記特定の電流値を前記第二の値未満の値だけ大きくなるように調整する。
【0011】
または、ネジ締めの際に特定の異常が発生した場合に、セッティングを改めるように促すメッセージを出力するメッセージ出力手段、を有する。
【0012】
または、前記メッセージ出力手段は、ネジ締めの際に前記出力軸が所定の角度未満で回転し終えた場合に、前記メッセージとして、前記対象物をセットし直すように促すメッセージを出力する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、インパクト式のネジ締付装置を従来よりも容易にチューニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ネジ締付システムの全体的な構成の例を示す図である。
【
図2】ネジ締付装置およびパーソナルコンピュータそれぞれのハードウェア構成の例を示す図である。
【
図3】電流指令信号の波形および電流指令信号に基づいて生じる出力軸の回転の回転速度ならびに締付トルクの例を示す図である。
【
図4】コントローラおよびパーソナルコンピュータそれぞれの機能的構成の例を示す図である。
【
図7】締付情報解析の処理の流れの例を示すフローチャートである。
【
図8】目標レベル自動調整の処理の流れの例を示すフローチャートである。
【
図9】目標レベル自動調整の処理の流れの例を示すフローチャートである。
【
図10】チューニング中における目標電流レベルなどの遷移の例を示す図である。
【
図11】パーソナルコンピュータの全体的な処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【
図12】パーソナルコンピュータの全体的な処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、ネジ締付システム1の全体的な構成の例を示す図である。
図2は、ネジ締付装置2およびパーソナルコンピュータ5それぞれのハードウェア構成の例を示す図である。
図3は、電流指令信号61の波形および電流指令信号61に基づいて生じる出力軸33の回転の回転速度VTならびに締付トルクTQの例を示す図である。
【0016】
図1に示すネジ締付システム1は、ネジ締付装置2およびパーソナルコンピュータ5によって構成され、ワークに応じて自動的に出力のチューニングを行い、ワークのネジ締めを行う。例えば、製品291の部位292にナット293を締め付ける。
【0017】
ネジ締付装置2は、ナットまたはボルトなどのネジを締め付けたり緩めたりする。主に自動でネジを締め付けたり緩めたりするために用いられるものは、一般に「ナットランナ」または「自動締結機」と呼ばれることがある。
【0018】
本実施形態では、特開2002-1676号公報または特開2011-73137号公報に記載されるような、インパクト式のネジ締付装置がネジ締付装置2として用いられる。したがって、ネジ締付装置2の詳しい構造および機能についてはこれら公報を参照することができる。
【0019】
ネジ締付装置2は、ネジ締付装置本体3およびコントローラ4によって構成される。ネジ締付装置本体3は、
図2に示すように、モータ31、減速装置32、出力軸33、トルクセンサ34、および角度センサ35などによって構成される。
【0020】
モータ31は、コントローラ4から供給される電流によって減速装置32を介して出力軸33を回転させる回転駆動源である。モータ31として、DCブラシレスモータ、ステッピングモータ、またはACサーボモータなどが用いられる。
【0021】
減速装置32は、モータ31を減速させる装置であるが、モータ31の回転力を間歇的な衝撃力に変換する衝突エネルギ発生機構でもある。出力軸33は、先端にネジが嵌合し、モータ31により回転することによってネジを回転させる。
【0022】
トルクセンサ34は、モータ31の動作中、モータ31によるネジの締付トルクTQを常時検出し、検出した締付トルクTQを示すトルク検出信号62をコントローラ4へ送信する。本実施形態では、モータ31の出力するトルクのうち、出力軸33に発生するトルクつまり負荷であるネジを締め付けるトルクを直接的に締付トルクTQとして検出する。したがって、トルク検出信号62は、減速装置32に発生する衝撃(インパクト)によってネジに加えられる実際の締付トルクTQの波形を表す。
【0023】
角度センサ35は、モータ31の動作中、出力軸33が回転した回転角度θおよび出力軸33が回転する回転速度VTを常時検出し、検出した回転角度θを示す角度検出信号63および検出した回転速度VTを示す速度検出信号64をコントローラ4へ送信する。ネジも出力軸33とともに回転するので、回転角度θは、ネジの回転した角度でもある。
【0024】
コントローラ4は、パーソナルコンピュータ5から与えられたデータまたはネジ締付装置本体3からのフィードバックに基づいてネジ締付装置2を制御する。本実施形態では、特に、モータ31へ流す電流(印加電流)を調整することによって、モータ31の回転速度を制御する。
【0025】
コントローラ4は、メイン演算部41、メインメモリ42、補助記憶装置43、入出力インタフェース44、電源部45、インバータ46、およびゲートドライブ47などによって構成される。
【0026】
メインメモリ42は、コントローラ4のメインのRAM(Random Access Memory)である。補助記憶装置43は、ハードディスクまたはフラッシュメモリなどの記憶装置であって、オペレーティングシステムおよび制御プログラム40などの種々のコンピュータプログラムがインストールされている。これらのコンピュータプログラムは必要に応じてメインメモリ42にロードされる。
【0027】
メイン演算部41は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサであって、メインメモリ42にロードされたコンピュータプログラムを実行する。
【0028】
入出力インタフェース44は、パーソナルコンピュータ5との間で通信を行う。入出力インタフェース44として、RS-232C、USB、またはイーサネット(登録商標)などの規格の通信ボードが用いられる。
【0029】
電源部45は、例えばAC100ボルトの交流電力を整流し、適当な種々の電圧の直流電力に変換する。インバータ46は、電源部45から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ31へ供給する。
【0030】
制御のために、メイン演算部41は、ゲートドライブ47に対して電流指令信号61として、
図3(A)に示すようなパルス信号を与える。パルスの振幅は、モータ31の印加電流の量の多さを表わしており、本実施形態では、電流レベルLVを表わしている。「電流レベルLV」は、モータ31に流すことができる電流のリミット(以下、「最大電流」と記載する。)の何パーセントの電流をモータ31に流すかを意味する。したがって、電流レベルLVの最大値は「100」ポイントである。
【0031】
パルスの周期TPおよびデューティ比DRは、ともに一定であり、所定の初期値に設定されている。周期TPは、パルス動作時間Ta+パルス休止時間Tb、であり、デューティ比DRは、パルス動作時間Ta/周期TP、である。使用者は、パルス動作時間Taおよびパルス休止時間Tbを変更することができるが、後述する方法で目標電流レベルLVgのチューニングが上手く行かない場合に変更するのが望ましい。
【0032】
パルスの振幅すなわち電流レベルLVは、徐々に大きくなり、目標電流の量に対応する目標電流レベルLVgに達した後は一定になる。目標電流が供給されたときにネジ締めの目標の締付トルクが生じるのが、理想的である。本実施形態では、i番目(1≦i≦(K-1))の電流レベルLVは、(LVg/K)×i、であり、K番目以降の電流レベルLVは、LVgである。このように、電流指令信号61にはK段階の電流レベルLVが含まれる。以下、「K」を「段階数」と記載する。段階数Kは、パルスが徐々に上昇する区間(スロープ)の長さを定義している、とも言える。段階数Kの代わりにスロープの長さが予め設定されていてもよい。この場合は、スロープの長さ、パルス動作時間Ta、およびパルス休止時間Tbから段階数Kを算出し、1つのパルス当たりのピークの上昇量を算出すればよい。使用者は、段階数Kまたはスロープの長さも変更することができるが、パルス動作時間Taおよびパルス休止時間Tbと同様、チューニングが上手く行かない場合に変更するのが望ましい。
【0033】
ゲートドライブ47は、電流指令信号61に基づいて電流がモータ31へ供給されるようにインバータ46を制御する。すると、電流指令信号61が例えば
図3(A)のような信号である場合は、
図3(B)に示すような回転速度VMでモータ31が回転し、
図3(C)に示すような締付トルクTQが発生する。
【0034】
パーソナルコンピュータ5は、使用者がコントローラ4に対してネジ締付装置本体3の設定用の値を与えたりネジ締付装置本体3の現在または過去の状態を確認したりするための装置である。
【0035】
パーソナルコンピュータ5は、
図2に示すように、メイン演算部51、メインメモリ52、補助記憶装置53、入出力インタフェース54、ディスプレイ55、キーボード56、およびポインティングデバイス57などによって構成される。
【0036】
メインメモリ52は、パーソナルコンピュータ5のメインのRAMである。補助記憶装置53は、オペレーティングシステムおよび設定用プログラム50などの種々のコンピュータプログラムがインストールされている。
【0037】
メイン演算部51は、CPUなどのプロセッサであって、メインメモリ52にロードされたコンピュータプログラムを実行する。
【0038】
入出力インタフェース54は、コントローラ4の入出力インタフェース44と同じ規格の通信ボードであって、コントローラ4との間で通信を行う。ディスプレイ55は、後述する種々の画面を表示する。キーボード56およびポインティングデバイス57は、使用者が後述する種々の値およびコマンドなどを入力するために用いられる。
【0039】
制御プログラム40および設定用プログラム50によると、ネジ締めの目標の締付トルクおよび所要時間に合わせて目標電流レベルLVgを自動的にチューニングすることができる。以下、この仕組みについて、特定の製品291の特定の部位292に特定のナット293(
図1参照)を締め付ける際の調整を行う場合を例に説明する。なお、製品291の部位292へのナット293の締付の目標トルクを「目標締付トルクTQg」と記載する。ネジ締付装置本体3が締付を開始してからの経過時間を「締付時間TM」と記載する。
【0040】
図4は、コントローラ4およびパーソナルコンピュータ5それぞれの機能的構成の例を示す図である。
【0041】
制御プログラム40は、
図4に示すパラメータ記憶部401、締付制御部402、エラー検出部403、締付情報記憶部404、および締付情報通知部405などを実現するためのソフトウェアモジュールを有する。なお、パラメータ記憶部401ないし締付情報通知部405の全部または一部を回路などのハードウェアによって実現してもよい。
【0042】
設定用プログラム50は、パラメータ入力部501、パラメータ記憶部502、調整条件入力部503、解析条件入力部504、パラメータ通知部505、締付情報解析部506、ログ記憶部507、パラメータ調整部508、および履歴画面表示部509などを実現するためのソフトウェアモジュールを有する。
【0043】
〔準備〕
図5は、チューニング画面7の例を示す図である。
【0044】
パラメータ入力部501は、ワークの締付条件に関する種々のパラメータの値の入力を次のように受け付ける。
【0045】
パラメータ入力部501は、
図5のようなチューニング画面7をディスプレイ55に表示させる。そして、テキストボックス71a~71hにワークの締付条件に関するパラメータの値を入力する。
【0046】
テキストボックス71aには、テキストボックス71aには目標締付トルクTQgの値が入力される。ネジ締付装置本体3による締付トルクTQが目標締付トルクTQgに達した場合に締付が終了する。
【0047】
テキストボックス71bには、締付トルク上限TQmax1の値が入力される。締付トルクTQが締付トルク上限TQmax1を超えた場合に、「締付トルク上限エラー」というエラーが検出される。
【0048】
テキストボックス71cには、締付時間上限TMmax1の値が入力される。締付時間TMが、締付トルクTQが目標締付トルクTQgに到達することなく締付時間上限TMmax1を超えた場合に、「締付時間上限エラー」というエラーが検出される。
【0049】
テキストボックス71dには、目標電流レベルLVg(
図3(A)参照)の初期値が入力される。
【0050】
テキストボックス71eおよび71fには、それぞれ、パルス休止時間Tbの値およびパルス動作時間Taの値が入力される。
【0051】
テキストボックス71gには、スロープ時間TMsが入力される。スロープ時間TMsは、前述のスロープの長さであって、電流指令信号61のパルスのピークが目標電流レベルLVgに達するまでの締付時間TMである。つまり、
図3(A)に示す1番目のパルスが立ち上がる時点から丸数字1のパルスが立ち上がる時点までの時間である。
【0052】
テキストボックス71hには、締付角度下限θ1が入力される。回転角度θが締付角度下限θ1に達することなく締付時間TMが締付時間上限TMmax1に達した場合に、「締付角度下限エラー」というエラーが検出される。このエラーは、ネジが本来の軸に対して傾いた状態で回転したために正しく締め付けられなかった場合に発生しやすい。つまり、異常の一種であると言える。
【0053】
パラメータ入力部501は、テキストボックス71a~71hに入力された値を受け付け、これらの値を示す締付条件データ6Aを生成してパラメータ記憶部502に記憶させる。
【0054】
さらに、使用者は、テキストボックス72a~72cおよびテキストボックス73aにも値を入力する。
【0055】
テキストボックス72aには、トルク許容変化率TRaが入力される。トルク検出信号62の複数のパルスのうちの最後の2つのパルス(
図3(C)の丸数字1および2のパルス)のピーク同士の平均変化率(丸数字1から丸数字2までの区間の傾き)がトルク許容変化率TRaを超えた場合に、「トルク変化率NG」が解析結果として得られる。以下、この平均変化率を「トルク変化率TR」と記載する。
【0056】
テキストボックス72bには、締付時間許容上限TMmax2が入力される。締付所要時間TM2が締付時間許容上限TMmax2を超えた場合に、「締付時間許容上限NG」が解析結果として出力される。「締付所要時間TM2」は、締付を開始してから終了するまでの時間(締付時間TM)である。
【0057】
テキストボックス72cには、締付時間許容下限TMmin2が入力される。締付所要時間TM2が締付時間許容下限TMmin2を下回った場合に、「締付時間許容下限NG」が解析結果として出力される。
【0058】
使用者は、テキストボックス72bおよびテキストボックス72cそれぞれに締付時間許容上限TMmax2および締付時間許容下限TMmin2を入力することによって、締付を開始してから目標締付トルクTQgが得られるまでの好適な時間の幅を指定することができる。
【0059】
テキストボックス73には、目標電流レベルLVgを調整する際の、目標電流レベルLVgを上下させるポイント数(以下、「ステップレベルLVa」と記載する。)の初期値が入力される。
【0060】
調整条件入力部503は、テキストボックス73に入力された値を受け付け、この値を示す調整条件データ6Bを生成する。
【0061】
解析条件入力部504は、テキストボックス72a~72cに入力された値を受け付け、これらの値を示す解析条件データ6Cを生成する。
【0062】
なお、各製品の部位ごとにネジ締めの目標締付トルクTQgを示すデータベースを予め用意しておき、使用者が部位を選択するとその部位に対応する目標締付トルクTQgがデータベースから読み出されテキストボックス71aにデフォルトで入力されるようにしてもよい。同様に、テキストボックス71b~71h、72a~72c、73にも、各パラメータの標準的な値がデフォルトで入力されるようにしてもよい。そして、テキストボックス71a~71h、72a~72c、73のそれぞれにデフォルトで入力された値を使用者が必要に応じて入力し直すことができるようにしてもよい。
【0063】
そのほか、レベル下限値LV_lowおよびレベル上限値LV_highそれぞれに所定の値が予め設定される。例えば、レベル下限値LV_lowおよびレベル上限値LV_highそれぞれに「0」および「101」が予め設定される。これらの値も使用者が任意に設定できるように設定用プログラム50を構成してもよい。レベル下限値LV_lowおよびレベル上限値LV_highの意味は、後述する。
【0064】
パラメータ通知部505は、モニタ開始ボタン74aが押されると、パラメータ記憶部502から締付条件データ6Aを読み出してコントローラ4へ送信する。
【0065】
締付条件データ6Aは、コントローラ4において受信されると、パラメータ記憶部401に記憶される。
【0066】
〔調整〕
図6は、電流指令信号61の例を示す図である。
図7は、締付情報解析の処理の流れの例を示すフローチャートである。
図8~
図9は、目標レベル自動調整の処理の流れの例を示すフローチャートである。
【0067】
使用者は、ネジ締付装置本体3の出力軸33の先端とナット293(
図1参照)とを嵌合させ、ネジ締付装置本体3またはコントローラ4に設けられているスイッチをオンにする。
【0068】
すると、
図4の締付制御部402は、パラメータ記憶部401から締付条件データ6Aを読み出し、締付条件データ6Aに示される特性を有する信号を電流指令信号61としてゲートドライブ47へ与える。例えば、締付条件データ6Aにパルス動作時間Ta、パルス休止時間Tb、スロープ時間TMs、および目標電流レベルLVgとしてそれぞれ「10」、「40」、「300」、および「70」が示される場合は、
図6のような信号が電流指令信号61としてゲートドライブ47に与えられる。
【0069】
ゲートドライブ47は、電流指令信号61に従ってインバータ46を制御する。これにより、インバータ46からモータ31に電流が供給される。
【0070】
すると、ネジ締付装置本体3において、インバータ46から供給される電流によってモータ31(
図2参照)が回転し、それに伴って出力軸33が回転して締付トルクTQが発生し、ナット293が締め付けられる。
【0071】
トルクセンサ34は、発生した締付トルクTQを検出し、検出結果をトルク検出信号62としてコントローラ4へ送信する。
【0072】
角度センサ35は、出力軸33の回転角度θおよび回転速度VTを検出し、それぞれの検出結果を角度検出信号63および速度検出信号64としてコントローラ4へ送信する。
【0073】
なお、トルク検出信号62、角度検出信号63、および速度検出信号64は、リアルタイムでコントローラ4へ送信される。
【0074】
コントローラ4において、トルク検出信号62、角度検出信号63、および速度検出信号64が受信されると、締付情報記憶部404に記憶される。
【0075】
締付制御部402は、トルク検出信号62に示される締付トルクTQが、締付条件データ6Aに示される目標締付トルクTQgに達したら、電流指令信号61をゲートドライブ47へ与えるのを終了する。これにより、ネジ締付装置本体3のモータ31への電流の供給が終了し、締付が終了する。しかし、電流指令信号61を与えてから電流の供給および締付が終了するまでに若干のタイムラグがあるので、締付が終了した時点の締付トルクTQが目標締付トルクTQgよりも大きくなることがある。以下、締付の開始時から終了時までの締付トルクTQの最大値を「最大締付トルクTQm」と記載する。
【0076】
また、締付制御部402は、締付トルクTQが目標締付トルクTQgに達することなく締付時間TMが所定の時間(例えば、締付時間上限TMmax1)を上回った場合も、電流指令信号61をゲートドライブ47へ与えるのを終了する。
【0077】
エラー検出部403は、トルク検出信号62および角度検出信号63に基づいてネジ締めのエラーを例えば次のように検出する。
【0078】
エラー検出部403は、最大締付トルクTQmが、締付条件データ6Aに示される締付トルク上限TQmax1を超えた場合に、締付トルク上限エラーを検出する。
【0079】
または、締付時間TMが、締付条件データ6Aに示される締付時間上限TMmax1を超えたにも関わらず、最大締付トルクTQmが目標締付トルクTQgに達しなかった場合に、締付時間上限エラーを検出する。
【0080】
または、締付時間TMが、締付条件データ6Aに示される締付時間上限TMmax1を超えたにも関わらず、角度検出信号63に示される回転角度θが、締付条件データ6Aに示される締付角度下限θ1に達しなかった場合に、締付角度下限エラーを検出する。
【0081】
そして、エラー検出部403は、検出したエラーのエラーコードを示すエラーデータ6Dを締付情報記憶部404に記憶させる。所定のタイミングになるまで(例えば、ネジ締付装置本体3のモータ31への電流の供給の終了するまで)にエラーを検出しなかった場合は、「エラーなし」のコードを示すデータをエラーデータ6Dとして締付情報記憶部404に記憶させる。
【0082】
このように、締付情報記憶部404には、トルク検出信号62、角度検出信号63、速度検出信号64、およびエラーデータ6Dが記憶される。
【0083】
締付情報通知部405は、トルク検出信号62、角度検出信号63、速度検出信号64、およびエラーデータ6Dが締付情報記憶部404に記憶されると、これらの信号およびデータを締付情報記憶部404から読み出してパーソナルコンピュータ5へ送信する。
【0084】
パーソナルコンピュータ5において、トルク検出信号62、角度検出信号63、速度検出信号64、およびエラーデータ6Dが受信されると、締付情報解析部506およびログ記憶部507によって次の処理が実行される。
【0085】
締付情報解析部506は、エラーデータ6Dに「エラーなし」のコードが示される場合に、トルク検出信号62を解析することによって、直近に行われた締付の合否を判定する。この際に、解析条件データ6Cに示されるトルク許容変化率TRa、締付時間許容上限TMmax2、および締付時間許容下限TMmin2が適宜、参照される。以下、締付情報解析部506の処理の流れを、
図7を参照しながら説明する。
【0086】
締付情報解析部506は、トルク検出信号62に示されるトルクカーブ(
図3(C)のような締付トルクTQの遷移を表わすカーブ)に基づいてトルク変化率TRを算出する(
図7の#801)。そして、トルク変化率TRがトルク許容変化率TRa以下であれば(#802でYes)、トルク変化率の要求を満たしていると判定する(#803)。つまり、トルク変化率が「合格」であると、判定する。トルク変化率TRがトルク許容変化率TRaを上回っていれば(#802でNo)、トルク変化率の要求を満たしていないと判定する(#804)。つまり、トルク変化率が「不合格」であると、判定する。
【0087】
さらに、締付情報解析部506は、締付所要時間TM2を算出する(#805)。締付所要時間TM2は、締付の開始から終了までの時間なので、トルク検出信号62に基づいて算出すればよい。つまり、例えば、トルク検出信号62がネジ締付装置本体3から送信され始めてから送信し終わるまでの期間を特定し、この期間を締付所要時間TM2として算出してもよい。または、電流指令信号61に基づいて算出してもよい。つまり、例えば、締付制御部402が電流指令信号61を送信し始めてから送信し終えるまでの期間を特定し、この期間を締付所要時間TM2として算出してもよい。電流指令信号61は締付条件データ6Aから生成されるので、締付所要時間TM2を締付条件データ6Aに基づいて算出することもできる。
【0088】
そして、締付情報解析部506は、締付所要時間TM2が締付時間許容上限TMmax2を超えていれば(#806でYes)、「締付時間許容上限NG」と判定する(#807)。締付所要時間TM2が締付時間許容下限TMmin2を下回っていれば(#808でYes)、「締付時間許容下限NG」と判定する(#809)。「締付時間許容上限NG」および「締付時間許容下限NG」は、締付時間の要求を満たしていないこと、つまり、締付時間が「不合格」であることを意味する。
【0089】
締付所要時間TM2が締付時間許容下限TMmin2以上でありかつ締付時間許容上限TMmax2以下である場合は(#806でNo、#808でNo)、締付時間の要求を満たしていると判定する(#810)。つまり、締付時間が「合格」であると、判定する。
【0090】
一方、ログ記憶部507は、トルク検出信号62、角度検出信号63、速度検出信号64、およびエラーデータ6Dを、これらを受信した日時と対応付けられて締付結果データ6Fとしてログ記憶部507に記憶する。締付情報解析部506によって締付の合否が判定された場合は、その結果すなわちステップ#802~#804の判定結果(トルク変化率の合否)およびステップ#806~#810の判定結果(締付時間の合否)を示す合否データ6Eも締付結果データ6Fに含ませて記憶する。さらに、パラメータ記憶部502から締付条件データ6Aを読み出し、締付結果データ6Fに含ませて記憶する。この締付条件データ6Aは、後に説明するように各パラメータの設定値の復元のために用いられる。
【0091】
パラメータ調整部508は、エラーデータ6Dにエラーコードが示される場合および締付情報解析部506によってトルク変化率または締付時間が不合格であると判定された場合に、目標電流レベルLVgを調整する調整処理を行う。調整処理は、
図8~
図9に示す手順で行われる。
【0092】
エラーデータ6Dにエラーコードが示され(
図8の#821でYes)、そのエラーコードが「締付トルク上限エラー」を表わす場合は(#822でYes)、目標電流レベルLVgを下げる処理(レベルダウン処理)を行う(
図9の#833~#836)。または、そのエラーコードが「締付時間上限エラー」を表わす場合は(#822でNo、#823でYes)、目標電流レベルLVgを上げる処理(レベルアップ処理)を行う(#829~#832)。
【0093】
または、エラーデータ6Dに「エラーなし」のコードが示される場合は(#821でNo)、トルク変化率が「不合格」であると締付情報解析部506によって判定されたならば(#824でYes)、レベルダウン処理を行う(#833~#836)。または、「締付時間許容上限NG」であると判定されたならば(#824でNo、#825でYes)、レベルアップ処理を行う(#829~#832)。または、「締付時間許容下限NG」であると判定されたならば(#824でNo、#825でNo、#826でYes))、レベルダウン処理を行う(#833~#836)。
【0094】
パラメータ調整部508は、レベルアップ処理を次のように実行する。パラメータ調整部508は、レベル下限値LV_lowに目標電流レベルLVgを代入する(#829)。目標電流レベルLVgとステップレベルLVaとの合計値がレベル上限値LV_high未満である場合は(#830でYes)、目標電流レベルLVgを、ステップレベルLVaだけ上がるように更新する(#831)。つまり、この合計値が目標電流レベルLVgとして新たに示されるように、パラメータ記憶部502に記憶される締付条件データ6Aを更新する。そうでない場合は(#830でNo)、目標電流レベルLVgを、目標電流レベルLVgおよびレベル上限値LV_highの平均値に更新する(#832)。つまり、この平均値が目標電流レベルLVgとして新たに示されるように締付条件データ6Aを更新する。なお、ステップレベルLVaは、調整条件データ6Bに示される。(LVg+LV_high)が2で割り切れない場合は、小数点以下を切り上げてもよい。
【0095】
パラメータ調整部508は、レベルダウン処理を次のように実行する。パラメータ調整部508は、レベル上限値LV_highに目標電流レベルLVgを代入する(#833)。目標電流レベルLVgからステップレベルLVaを引いた値(差分値)がレベル下限値LV_lowよりも大きい場合は(#834でYes)、目標電流レベルLVgを、ステップレベルLVaだけ下がるように更新する(#835)。つまり、この差分値が目標電流レベルLVgとして新たに示されるように締付条件データ6Aを更新する。そうでない場合は(#834でNo)、目標電流レベルLVgを、目標電流レベルLVgおよびレベル下限値LV_lowの平均値に更新する(#836)。つまり、この平均値が目標電流レベルLVgとして新たに示されるように締付条件データ6Aを更新する。なお、(LVg+LV_low)が2で割り切れない場合は、小数点以下を切り捨ててもよい。
【0096】
ところで、エラーが検出されずかつトルク変化率も締付時間も合格である場合は(#821でNo、#824でNo、#825でNo、#826でNo)、パラメータ調整部508は、
図8~
図9の処理を終了してもよいが、レベルダウン処理を実行したほうが目標電流レベルLVgをより好適に調整できることがある。そこで、パラメータ調整部508は、レベルダウン処理を実行するか否かを問い合わせるダイアログボックスを表示させ(#827)、使用者が「はい」ボタンを押した場合に限り(#828でYes)、もう一度、レベルダウン処理を実行してもよい(#833~#836)。ただし、その結果、エラーが生じまたは不合格になった場合は、合格の際の値に目標電流レベルLVgを戻せばよい。
【0097】
また、締付角度下限エラーは、上述の通り、ネジが本来の軸に対して傾いているために生じると考えられる。したがって、目標電流レベルLVgを調整しても解消しないと考えられる。そこで、パラメータ調整部508は、エラーデータ6Dに示されるエラーコードが締付角度下限エラーを表わす場合は(#823でNo)、目標電流レベルLVgを更新せず、「ネジが正しくセットされていない可能性があります。正しくセットし直し、もう一度やり直してください。」のようなメッセージをエラーコードとともにディスプレイ55に表示させる(#837)。
【0098】
ステップ#829ではレベル下限値LV_lowに目標電流レベルLVgを代入し、ステップ#833ではレベル上限値LV_highに目標電流レベルLVgを代入した。このように、レベル下限値LV_lowおよびレベル上限値LV_highは、それぞれ、以前に目標電流レベルLVgとして設定された値の下限値および条件値を示している。
【0099】
したがって、調整の結果、目標電流レベルLVgがレベル上限値LV_highに達した場合は、目標電流レベルLVgが一定の値に収束し、以前に同じ電流レベルLVで締付を行ったことがあることが分かる。つまり、締付および調整をこのまま繰り返しても使用者の要求する条件を満たすように目標電流レベルLVgを定められないことが分かる。レベルアップ処理の際に小数点以下を切り上げず残す場合も、目標電流レベルLVgが一定の値に収束する。
【0100】
図4に戻って、パラメータ通知部505は、パラメータ記憶部502に記憶されている締付条件データ6Aが更新されると、締付条件データ6Aをパラメータ記憶部502から読み出し、コントローラ4へ送信する。これにより、新たな目標電流レベルLVgがコントローラ4へ通知される。
【0101】
すると、コントローラ4において、パラメータ記憶部401に記憶されている前回の締付条件データ6Aが削除され、パーソナルコンピュータ5から新たに送信されてきた締付条件データ6Aがパラメータ記憶部401に記憶される。
【0102】
ただし、目標電流レベルLVgがレベル上限値LV_highに達した場合は、パラメータ通知部505は、締付条件データ6Aを送信する代わりに、パラメータの値の変更を促すメッセージをエラーコードとともにディスプレイ55に表示させてもよい。この場合は、使用者は、モニタ終了ボタン74cを押すことによってチューニングを中止し、テキストボックス71a~71h、72a~72c、73に入力されている値を適宜変更し、チューニングを最初からやり直す。
【0103】
なお、締付条件データ6Aを更新する処理は、使用者が所定の操作を行った場合に実行されるようにしてもよい。例えば、更新するか否かを問い合わせるダイアログボックスをディスプレイ55に表示させ、使用者が「はい」ボタンを押した場合に更新し、「いいえ」ボタンを押した場合は更新しないようにしてもよい。
【0104】
〔再調整〕
図10は、チューニング中における目標電流レベルLVgなどの遷移の例を示す図である。
【0105】
使用者は、ナット293を緩めるなどして、部位292へナット293を締め付ける前の状態に戻しておく。そして、使用者がスイッチをオンにすると、ネジ締付装置本体3、コントローラ4、およびパーソナルコンピュータ5それぞれの各部において、「調整」で説明した処理が再度、実行される。
【0106】
なお、コントローラ4において、締付条件データ6Aを新たに受信すると、パラメータ記憶部401は、前回の締付に係る締付条件データ6Aを削除し、受信した締付条件データ6Aを新たに記憶する。これにより、更新後の目標電流レベルLVgに基づいて新たな締付が行われる。
【0107】
また、トルク検出信号62、角度検出信号63、および速度検出信号64を新たに受信すると、締付情報記憶部404は、前回の締付に係るトルク検出信号62、角度検出信号63、速度検出信号64、およびエラーデータ6Dを削除し、受信したトルク検出信号62、角度検出信号63、および速度検出信号64を新たに記憶する。これにより、新たな信号に基づいてエラーの検出が行われる。そして、エラーデータ6Dがエラー検出部403によって新たに生成されると、締付情報記憶部404は、前回の締付に係るエラーデータ6Dを削除し、生成されたエラーデータ6Dを新たに記憶する。その後、これらの信号およびデータが締付情報記憶部404から読み出され、パーソナルコンピュータ5へ送信される。
【0108】
ここで、目標電流レベルLVgの遷移の一例を、
図10を参照しながら説明する。
図10のステップ#201のように、レベル上限値LV_highおよびレベル下限値LV_lowの初期値として、それぞれ、「101」および「0」が設定されているものとする。また、使用者によって目標電流レベルLVgの初期値として「82」が設定され、ステップレベルLVaとして「10」が設定されたものとする。
【0109】
ステップ#201の各値に基づいて締付が実行された結果、コントローラ4によって締付トルク上限エラーが検出されると(#202)、パラメータ調整部508は、
図9のステップ#833~#836で説明した手順でレベルダウン処理を実行する(#203)。
【0110】
すなわち、パラメータ調整部508は、レベル上限値LV_highに目標電流レベルLVgの値を設定する(丸数字1)。目標電流レベルLVgとステップレベルLVaとの差が「72」であってレベル下限値LV_lowつまり「0」よりも大きいので、目標電流レベルLVgをこの差つまり「72」に更新する(丸数字2)。
【0111】
更新後の目標電流レベルLVgつまり「72」に基づいて締付が実行された結果、コントローラ4によって締付トルク上限エラーが検出されると(#204)、パラメータ調整部508は、もう一度、レベルダウン処理を実行する(#205)。
【0112】
すなわち、パラメータ調整部508は、レベル上限値LV_highに目標電流レベルLVgの値を設定する(丸数字3)。目標電流レベルLVgとステップレベルLVaとの差が「62」であってレベル下限値LV_lowつまり「0」よりも大きいので、目標電流レベルLVgをこの差つまり「62」に更新する(丸数字4)。
【0113】
更新後の目標電流レベルLVgつまり「62」に基づいて締付が実行された結果、コントローラ4によって締付時間許容上限NGが検出されると(#206)、パラメータ調整部508は、
図9のステップ#829~#832で説明した手順でレベルアップ処理を実行する(#207)。
【0114】
すなわち、パラメータ調整部508は、レベル下限値LV_lowに目標電流レベルLVgの値を設定する(丸数字5)。目標電流レベルLVgとステップレベルLVaとの和が「72」であってレベル上限値LV_highつまり「72」未満ではないので、目標電流レベルLVgを、目標電流レベルLVgとレベル上限値LV_highとの平均値つまり「67」に更新する(丸数字6)。
【0115】
更新後の目標電流レベルLVgつまり「67」に基づいて締付が実行された結果、コントローラ4によって締付時間許容下限NGが検出されると(#208)、パラメータ調整部508は、レベルダウン処理を実行する(#209)。
【0116】
すなわち、パラメータ調整部508は、レベル上限値LV_highに目標電流レベルLVgの値を設定する(丸数字7)。目標電流レベルLVgとステップレベルLVaとの差が「57」であってレベル下限値LV_lowつまり「62」以下なので、目標電流レベルLVgを目標電流レベルLVgとレベル下限値LV_lowとの平均値に更新する(丸数字8)。ただし、平均値が「64.5」なので、小数点以下を切り捨てた値すなわち「64」に目標電流レベルLVgを更新してもよい。
【0117】
更新後の目標電流レベルLVgつまり「64」または「64.5」に基づいて締付が実行された結果、エラーが検出されず、かつ、トルク変化も締付時間も合格になったら(#210)、パラメータ調整部508は、目標電流レベルLVgの調整を終了する。なお、
図8~
図9のステップ#827~#828で説明したように使用者の操作に応じてさらに調整を続けてもよい。
【0118】
図4に戻って、履歴画面表示部509は、締付の履歴をチューニング画面7(
図5参照)の詳細ウィンドウ75およびトルクウィンドウ76によって使用者に次のように提示する。
【0119】
締付結果データ6Fが新たにログ記憶部507に記憶されるごとに、履歴画面表示部509は、その締付結果データ6Fに示される各項目の値が追加されるように詳細ウィンドウ75を更新する。さらに、その締付結果データ6Fに含まれるトルク検出信号62に基づいて締付トルクTQの遷移の折れ線グラフが追加されるようにトルクウィンドウ76を更新する。
【0120】
詳細ウィンドウ75には各回の締付の締付結果データ6Fごとに「線表示」のチェックボックスが配置されている。チェックボックスがオンであれば、そのチェックボックスに対応する締付結果データ6Fに含まれるトルク検出信号62に係る折れ線グラフがトルクウィンドウ76に表われ、オフであれば隠される。つまり、使用者は、折れ線グラフごとに表示および非表示を任意に切り換えることができる。
【0121】
モニタ終了ボタン74cが押されると、目標電流レベルLVgのチューニングを終了する。そして、保存ボタン74dが押されると、モニタ開始ボタン74aが押されてからモニタ終了ボタン74cが押されるまでにログ記憶部507に記憶された締付結果データ6Fが共通のチューニング識別子と対応付けられる。チューニング識別子として、例えば、ワークの識別子用いられる。または、使用者が任意に与えた名称をチューニング識別子として用いてもよい。
【0122】
その後、読込ボタン74eが押されると、履歴画面表示部509は、チューニング識別子のリストを表示させる。そして、使用者によって選択されたチューニング識別子に対応する締付結果データ6Fをすべてログ記憶部507から読み出し、これらの締付結果データ6Fに示される値などが表われるように詳細ウィンドウ75およびトルクウィンドウ76を更新する。
【0123】
さらに、これらの締付結果データ6Fのうちのいずれかが使用者によって選択されて設定ボタン74bが押されると、選択された締付結果データ6Fに含まれる締付条件データ6Aがパラメータ記憶部502に記憶されるとともに、この締付条件データ6Aに示される値がテキストボックス71a~71hに入力された状態にパラメータ入力部501によって入力される。その後、モニタ開始ボタン74aが押されると、上述の通り、この締付条件データ6Aがコントローラ4へ送信される。このように、使用者は、ログを参照しながら過去の設定値を復元し、コントローラ4へ適用することができる。また、復元された設定値を適宜、調整することもできる。なお、閉ボタン74fが押されると、チューニング画面7が閉じられる。
【0124】
図11~
図12は、パーソナルコンピュータ5の全体的な処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【0125】
次に、設定用プログラム50による全体的な処理の流れを、
図11~
図12のフローチャートを参照しながら説明する。
【0126】
パーソナルコンピュータ5は、設定用プログラム50に従って、
図11~
図12に示す手順で処理を実行する。
【0127】
パーソナルコンピュータ5は、設定用プログラム50の起動後、所定のコマンドが入力されるとチューニング画面7(
図5参照)を表示する(
図11の#111)。
【0128】
パーソナルコンピュータ5は、テキストボックス71a~71h、72a~72c、73に目標電流レベルLVgなどの値が入力されると、これらの値を受け付けて締付条件データ6A、調整条件データ6B、および解析条件データ6Cを生成する(#112~114)。そして、モニタ開始ボタン74aが押されたら(#115でYes)、締付条件データ6Aをコントローラ4へ送信する(#116)。
【0129】
その後、ネジ締付装置2において締付が実行されると、ネジ締付装置2からパーソナルコンピュータ5へトルク検出信号62、角度検出信号63、速度検出信号64、およびエラーデータ6Dが送信される。パーソナルコンピュータ5は、これらの信号およびデータを受信すると(#117でYes)、エラーデータ6Dに「エラーなし」のコードが示されていれば(#118でNo)、締付の合否を判定する処理を行う(#119)。この処理の手順は、前に
図7で説明した通りである。
【0130】
パーソナルコンピュータ5は、さらに、目標電流レベルLVgを調整する処理を行う(#120)。この処理の手順は、前に
図8~
図9で説明した通りである。
【0131】
ステップ#118~#120の処理と並行してまたは前後して、パーソナルコンピュータ5は、今回の締付の結果が示されるようにチューニング画面7の詳細ウィンドウ75およびトルクウィンドウ76を更新するとともに(#121)、最新の締付条件データ6A、受信した信号およびデータ、ならびに合否の判定結果のデータ(合否データ6E)を締付結果データ6Fとして記憶する(#122)。
【0132】
また、ステップ#120において目標電流レベルLVgを調整した場合は(#123でYes)、調整後の目標電流レベルLVgがレベル上限値LV_high未満であれば(#124でYes)、更新後の締付条件データ6Aをネジ締付装置2へ送信する(#125)。そして、ステップ#117以降の処理を再び実行する。
【0133】
しかし、調整後の目標電流レベルLVgがレベル上限値LV_highに達していれば(#124でNo)、上述の通り、使用者の要求する条件を満たすように目標電流レベルLVgを定めることができない。そこで、パーソナルコンピュータ5は、更新後の締付条件データ6Aを送信せず、パラメータの値の変更を促すメッセージをエラーコードとともに表示する(
図12の#126)。
【0134】
ステップ#117~#124の処理およびネジ締付装置2での締付が繰り返されることによって、使用者の要求するトルク精度および締付時間の要求に目標電流レベルLVgが徐々に近づく。
【0135】
モニタ終了ボタン74cが押され(#127でYes)、保存ボタン74dが押されたら(#128でYes)、パーソナルコンピュータ5は、モニタ開始ボタン74aが押されてからモニタ終了ボタン74cが押されるまでの間に記憶した締付結果データ6Fを、共通のチューニング識別子と対応付ける(#129)。
【0136】
または、読込ボタン74eが押されたら(#130でYes)、パーソナルコンピュータ5は、チューニング識別子のリストを表示し、選択されたチューニング識別子に対応する締付結果データ6Fすべてを読み出し(#131)、これらの締付結果データ6Fに示される値などが表われるように詳細ウィンドウ75およびトルクウィンドウ76を更新する(#132)。さらに、これらの締付結果データ6Fのうちのいずれか1つが選択され設定ボタン74bが押されると(#133でYes)、パーソナルコンピュータ5は、選択された締付結果データ6Fに含まれる締付条件データ6Aを復元する(#134)。つまり、締付条件データ6Aに示される値がテキストボックス71a~71hに入力された状態にチューニング画面7を更新する。
【0137】
または、閉ボタン74fが押されたら(#135でYes)、パーソナルコンピュータ5は、チューニング画面7を閉じる。または、設定用プログラム50を終了する。
【0138】
本実施形態によると、締付をネジ締付装置2に繰り返し行わせることによって、使用者の要求を満たすように目標電流レベルLVgをチューニングすることができる。つまり、インパクト式のネジ締付装置に関する知識に乏しい者であってもネジ締付装置2を従来よりも容易にチューニングすることができる。
【0139】
また、従来は使用者が主観的にパラメータを設定していたので締付トルクにバラツキが生じやすかったが、本実施形態によると、特定のアルゴリズムに基づいて目標電流レベルLVgを調整するので、チューニングの質を一定にすることができる。
【0140】
さらに、使用者は、オートチューニングの過程のエビデンスを、今後、目標電流レベルLVgの初期値としてどれくらいの値を指定すればよいのかを判断する際の基準とすることができる。これにより、使用者の知識および技能を従来よりも効率的に向上させることができる。
【0141】
本実施形態では、締付結果データ6Fがパーソナルコンピュータ5に記憶されたが、パーソナルコンピュータ5の外部へ送信されるようにしてもよい。
【0142】
本実施形態では、パーソナルコンピュータ5は、チューニング中に目標電流レベルLVgがレベル上限値LV_highに達した場合に、パラメータの値の変更を促すメッセージを表示したが、締付およびレベル上限値LV_highの調整のルーチンを所定の回数(例えば、5回)繰り返し実行された場合にも表示してもよい。
【0143】
本実施形態では、モータ31の印加電流の量が電流レベルLVによって指定されたが、電流値によって指定できるようにしてもよい。
【0144】
本実施形態では、コントローラ4は、締付トルク上限エラー、締付時間上限エラー、および締付角度下限エラーの3つのエラーを検出したが、他のエラーを検出してもよい。
【0145】
例えば、締付トルク下限TQmin1の値を使用者に入力させるようにチューニング画面7を構成し、締付時間TMが締付時間上限TMmax1を超えても締付トルクTQが締付トルク下限TQmin1に達しなかった場合に、パーソナルコンピュータ5が「締付トルク下限エラー」というエラーを検出してもよい。
【0146】
または、締付角度上限θ2を使用者に入力させるようにチューニング画面7を構成し、回転角度θが締付角度上限θ2を超えた場合にパーソナルコンピュータ5が「締付角度上限エラー」というエラーを検出してもよい。
【0147】
図4に示したコントローラ4およびパーソナルコンピュータ5それぞれの機能を1台の装置で実現してもよい。または、コントローラ4の一部の機能をパーソナルコンピュータ5に設けてもよい。例えば、エラー検出部403をパーソナルコンピュータ5に設けてもよい。または、パーソナルコンピュータ5の一部の機能をコントローラ4に設けてもよい。例えば、締付情報解析部506をコントローラ4に設けてもよい。
【0148】
その他、ネジ締付システム1、ネジ締付装置2、ネジ締付装置本体3、コントローラ4、およびパーソナルコンピュータ5それぞれの構成、処理内容、処理順序、データの構成などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0149】
1 ネジ締付システム
293 ナット(対象物)
31 モータ(ネジ締付駆動手段)
32 減速装置(ネジ締付駆動手段)
33 出力軸
41 メイン演算部(調整手段、電流供給手段)
45 電源部(電流供給手段)
46 インバータ(電流供給手段)
47 ゲートドライブ(電流供給手段)
402 締付制御部(電流供給手段)
55 ディスプレイ(メッセージ出力手段、締付実績表示手段)
508 パラメータ調整部(調整手段)
509 履歴画面表示部(締付実績表示手段)