(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】リング形状磁石、リング形状磁石の製造方法、及びそれに使用する金型
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240313BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20240313BHJP
H01F 1/08 20060101ALI20240313BHJP
H01F 1/113 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 A
H01F7/02 E
H01F1/08 130
H01F1/113
(21)【出願番号】P 2020156126
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】599139903
【氏名又は名称】テスラム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 幸夫
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-035721(JP,B1)
【文献】特開2002-313625(JP,A)
【文献】特開2002-209364(JP,A)
【文献】特開2002-134315(JP,A)
【文献】特開昭54-009794(JP,A)
【文献】特開2018-142635(JP,A)
【文献】特開平05-175037(JP,A)
【文献】特開2004-071853(JP,A)
【文献】特開2014-027030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00- 7/34
G01D 5/00- 5/252
G01D 5/39- 5/62
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 7/00- 7/02
H01F 13/00
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
H02K 1/17
H02K 1/27- 1/2798
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状磁石が内円側に配置されたリング形状のキャビティの中でリング形状を有する磁石を成形する方法であり、
前記キャビティは、該キャビティの内円側に設けられる非磁性材からなるスリーブと、前記キャビティの外円側に設けられる非磁性材からなる外枠との間に形成され、
前記円柱形状磁石は、
前記スリーブの内側に単一の前記円柱形状磁石が配置され、円柱形状の径方向に着磁されたものであるリング形状磁石の製造方法。
【請求項2】
リング形状磁石の成形及び着磁は、金型内で同時に行われるものであり、製造されるリング形状磁石はボンド磁石である請求項1に記載のリング形状磁石の製造方法。
【請求項3】
リング形状のキャビティと、
該キャビティの内円側に設けられる非磁性材からなるスリーブと、
該スリーブの内側に配される単一の円柱形状磁石と
、前記リング形状のキャビティの外円側に設けられる外枠とを有する金型であり、
円柱形状磁石は、円柱形状の径方向に着磁されており、
前記
外枠は非磁性材で構成された金型。
【請求項4】
前記円柱形状磁石は、着磁方向に交差する方向における対向した両端部が削られた形状であり、
着磁方向における長さに対する着磁方向に交差する方向における長さの比が0.8以上である請求項3に記載の金型。
【請求項5】
リング形状を有する磁石であり、
磁石の内部に生じる磁束線は円周方向で左右対称なパターンであり、
リング形状磁石の軸方向における長さの半分の位置においてリング形状磁石の内円側の空間部と外円側の空間部との磁束密度を測定した場合、リング形状磁石の内円側の空間部における磁束密度に比して、リング形状磁石の外円側の空間部における磁束密度が小さ
く、外縁側の空間部における磁束密度は、1~15mTであり、内縁側の空間部における磁束密度は50~70mTであるリング形状磁石。
【請求項6】
リング形状磁石の内径に対するリング形状磁石の軸方向における長さの比が0.2以上である請求項5に記載のリング形状磁石。
【請求項7】
軸方向における長さの半分の位置における断面上に、内円側の空間部の直径の半分の大きさの円形の測定領域を設定し、
前記測定領域において求めた前記内円側の空間部の中心の磁束密度に対する変化の割合が60%以下である請求項5又は6に記載のリング形状磁石。
【請求項8】
リング形状磁石は、主成分として磁石粉末と樹脂バインダーとを含有するボンド磁石である請求項5ないし7のいずれかに記載のリング形状磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング形状磁石、リング形状磁石の製造方法、及びそれに使用する金型に関する。
【背景技術】
【0002】
任意の装置の部材の角度を検知する目的で磁気式の回転角の検出器が利用されている。特許文献1には、磁気式回転角度検出器においては、磁石又は磁石部から磁気検出素子に作用する磁束密度が一様となるような空間領域が必要である旨が記載されている。また、前記空間領域は極力大きくする必要があるとされている。その理由として、磁気検出素子は、面積を有するため、磁石又は磁石部から磁気検出素子に作用する磁界の強度及び方向が一様になるようにすることが必要であるとされている。また、磁石部に対する検出部の組付け位置の誤差などがある場合でも、規定の精度で安定した回転角の検出が可能なようにするために、上記の領域の面積は、極力大きくする必要があるとされている。特許文献1の発明では、そのような検出器を得るために、板状の磁石において、局所的又は段階的に厚みを変化させた磁石を採用している。
【0003】
特許文献2には、磁性材料からなるヨークと、このヨークに対して密着される内部を円形にくりぬいたマグネットとからなる磁気回路を備える角度検出器が記載されている。円形のマグネットは、半径方向に着磁するとされている。この角度検出器によれば、比較的に広い範囲にわたって一様な磁界を形成することができるとされている。
【0004】
非特許文献1では、内円側の空間部の磁束密度が一様なリング形状磁石であるハルバッハ配列リング形状磁石が記載されている。前記磁石は、8個の磁石片を貼り合わせた構造を備えている。特許文献3には、非特許文献1の磁石よりも、多くの磁石をリング状に配置し、リング状の磁石の軸方向にも磁石を貼り合わせたリング形状の磁石が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-160037号公報
【文献】特開昭61-75213号公報
【文献】特開2006-294851号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Halbach,K., Design of permanent magnet multipole magnets with oriented rare earth cobalt material, Nuclear Instrument and Methods, vol. 169, 1980, pp.1-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁石単独で内円側の空間部の磁束密度が一様なリング形状磁石を作製するためには、
図10に示すように、半周で磁化方向が一回転するように環状に配置された複数の磁石片1(ハルバッハ配列リング形状磁石)が必要である。なお、
図10において白抜の矢印は着磁方向を示す。また、単体のリング形状磁石を使用して、内円側の空間部の磁束密度が一様なリング形状磁石を作製するためには、
図11に示すように、リング形状磁石2の外周にヨークと呼ばれる軟磁性材料からなるリング形状の軟磁性部材3を密着固定する必要があり、さらに、前記単体のリング形状磁石2の配向および着磁には強力な磁界発生装置を必要とする。上述のハルバッハ配列リング形状磁石、又は上述のヨークと単体のリング形状磁石とからなる構造体は、製造上極めて能率が悪いという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、簡易な方法で製造することが可能であり、内円側の空間部における磁束密度の均一性を制御可能なリング形状磁石と、その製造方法と、それに使用する金型とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
円柱形状磁石が内円側に配置されたリング形状のキャビティの中でリング形状を有する磁石を成形する方法であり、前記円柱形状磁石は、円柱形状の径方向に着磁されたものであるリング形状磁石の製造方法により上記の課題を解決する。
【0010】
また、リング形状のキャビティと、該キャビティの内円側に設けられる非磁性材からなるスリーブと、該スリーブの内側に配される円柱形状磁石とを有する金型であり、円柱形状磁石は、円柱形状の径方向に着磁されており、前記リング形状のキャビティの外円側は非磁性材で構成された金型により、上記の課題を解決する。
【0011】
また、リング形状を有する磁石であり、磁石の内部に生じる磁束線は円周方向で左右対称なパターンであり、リング形状磁石の軸方向における長さの半分の位置においてリング形状磁石の内円側の空間部と外円側の空間部との磁束密度を測定した場合、リング形状磁石の内円側の空間部における磁束密度に比して、リング形状磁石の外円側の空間部における磁束密度が小さいリング形状磁石により、上記の課題を解決する。
【0012】
上記の製造方法において、リング形状磁石の成形及び着磁は、金型内で同時に行われるものであり、製造されるリング形状磁石はボンド磁石であることが好ましい。
【0013】
上記の金型において、前記円柱形状磁石は、着磁方向に交差する方向における対向した両端部が削られた形状であり、着磁方向における長さに対する着磁方向に交差する方向における長さの比が0.8以上であることが好ましい
【0014】
上記のリング形状磁石において、リング形状磁石の内径に対するリング形状磁石の軸方向における長さの比が0.2以上であることが好ましい。
【0015】
上記のリング形状磁石において、軸方向における長さの半分の位置における断面上に、内円側の空間部の直径の半分の大きさの円形の測定領域を設定し、前記測定領域において求めた前記内円側の空間部の中心の磁束密度に対する磁束密度の変化の割合が60%以下であることが好ましい。
【0016】
上記のリング形状磁石は、主成分として磁石粉末と樹脂バインダーとを含有するボンド磁石であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な方法で製造することが可能であり、内円側の空間部における磁束密度の均一性を制御可能なリング形状磁石と、その製造方法と、それに使用する金型とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】リング形状磁石の成形に使用する金型の一例を示す断面図。
【
図2】リング形状磁石の一例と磁束密度の測定領域を示す平面図。
【
図3】
図2のリング形状磁石を軸方向に沿って切断した断面図。
【
図4】金型に配置する円柱形状磁石の一例と、生じる磁束線とを示す正面図。
【
図5】金型に配置する円柱形状磁石の他の例を示す正面図。
【
図6】リング形状磁石の磁束線と磁束密度の測定位置を示す正面図(実施例1)。
【
図7】リング形状磁石の磁束密度の測定結果と解析結果とを示す表。
【
図8】金型に配置した円柱形状磁石の変形が磁束密度に及ぼす影響を示すグラフ(実施例2)。
【
図9】リング形状磁石の軸方向における長さとリング形状磁石の内径との比が磁束密度に及ぼす影響を示すグラフ(実施例3)。
【
図10】従来のハルバッハ配列のリング形状磁石を示す正面図。
【
図11】従来のリング形状磁石とヨークとからなる構造体を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、説明する。以下に示す例は、本発明のリング形状磁石、その製造方法、又は金型の限られた例に過ぎない。本発明の技術的範囲は、以下の例示に限定されるものではない。
【0020】
図2及び
図3にリング形状磁石の一実施形態を示す。リング形状磁石9は、内円と外円を持つ円筒状に成形した形状を有する。リング形状磁石9は、円筒内に空間部10を備えており、円筒外に空間部11を備える。円筒内又は円筒内寄りの位置のことを内円側、円筒外又は円筒外寄りの位置のことを外円側という。後述するキャビティ、及びスリーブについても同様である。
図3に示したように、空間部10は、リング形状磁石の軸方向、すなわち
図2及び
図3のz方向に延在する形状である。
【0021】
リング形状磁石9は、圧縮成形、射出成形、押出成形等の方法を用いて成形することができる。以下では、射出成形を用いた場合について説明する。
【0022】
射出成形では、ボンド磁石を製造することができる。射出成形では、磁石粉末とバインダーとの混合物を主成分として用いる。磁石粉末は、Nd-Fe-B系希土類磁石、Sm-Fe-N系希土類磁石、Sm-Co系希土類磁石、Sr系フェライト磁石、Ba系フェライト磁石、Sr-La-Co系フェライト磁石、Ca-La-Co系フェライト磁石などのいずれでもよく、それらの磁石粉末は異方性でも等方性でもよい。またそれらの磁石を2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0023】
バインダーは、磁石粉末間の接着剤として働くものであり、特に限定されないが、樹脂バインダーが適している。特にボンド磁石の射出成形では、熱可塑性樹脂が適している。熱可塑性樹脂としては、6ナイロン、12ナイロン、PPS等が挙げられる。市販されているボンド磁石用射出成形材料を使ってもよい。例えばメイト株式会社製ボンド磁石用射出成形材料でHMシリーズ、RNIシリーズ、RSIシリーズ、HNIシリーズあるいは住友金属鉱山株式会社製ボンド磁石用の射出成形材料でWellmax-S3、S4、S5等が好ましい。
【0024】
射出成形を行う際には、磁性粉末、及びバインダーを含有するボンド磁石用の材料を加熱して溶融し、金型のキャビティ内に供給し、その後、冷却して成形体であるリング形状磁石を取り出す。
【0025】
図1にリング形状磁石の成形に用いる金型の一例を示す。金型4は、ボンド磁石の材料が充填可能なリング形状のキャビティ6と、キャビティ6の内円側に配される非磁性材からなるスリーブ7と、スリーブ7の内円側に配され、円柱形状の径方向に着磁された円柱形状磁石8と、キャビティ6の外円側に配される非磁性材の外枠5とを有する。キャビティ6においては、円柱形状の径方向に着磁された円柱形状磁石8の円周側に発生する磁界がかかっている。
図1において、円柱形状磁石8上に配置した白抜きの矢印は、円柱形状磁石8の着磁方向を示す。溶融したボンド磁石の材料は、キャビティ6に充填されると、前記磁界によって配向、又は着磁されるのと同時に成形される。磁粉として異方性磁粉を含むボンド磁石の材料を使用した場合は、磁粉が配向および着磁され、成形される。磁粉として等方性磁粉だけを含むボンド磁石の材料を使用した場合は着磁だけされ、成形される。
【0026】
金型4におけるスリーブ7は、キャビティ6の中の磁束密度の強度を小さくするので不要と思われる。しかし、スリーブ7を設置しないと円柱形状磁石8の摩耗や成形するリング形状磁石の寸法精度を悪くするので必要である。また、成形するリング形状磁石9の内円側の空間部の磁束密度の一様性の向上あるいは前記磁束密度の強度を強くしたい場合は、薄いほうが良い。例えば、スリーブの厚みは、0.5~4mmにすることができる。スリーブ7の材質が磁性材料の場合、円柱形状磁石8から発生する磁束線がスリーブ7に集中し、キャビティ6内の磁束密度が小さくなり、さらに、磁束線のパターンが変わるので非磁性材料が望ましい。非磁性材料としては、例えば、非磁性鋼材、セラミックス、又は非磁性超硬合金が挙げられる。
【0027】
また、金型4おける外枠5は、
図2の例のように成形されたリング形状磁石9を単独で使用する場合、非磁性材料が適している。外枠5を軟磁性材料にすると、キャビティ7から磁束線が外枠5に漏れることにより、成形されたリング形状磁石9の外円側の空間部11に磁束が漏れる。そして、リング形状磁石9の内円側の空間部12の磁束密度の一様性が悪くなる。外枠5の材質はスリーブ7と同様な材料を使うことができる。
【0028】
リング形状磁石9の内円側の空間部の磁束密度の一様性は、磁束密度の変化で評価することができる。具体的な磁束密度の変化の測定方法を以下にて説明する。
【0029】
図2に、射出成形したリング形状磁石9を実線で示し、その磁束密度の測定領域12を円形の破線で示す。リング形状磁石9の軸方向における測定領域12は、リング形状磁石9の軸方向における長さ、すなわち
図2の円形断面に垂直な方向(z方向)における長さの半分の位置における断面上に、リング形状磁石9の内円側の空間部10の直径の半分の長さを直径とする円形の測定領域12を設定した。ガウスメーターとホールプローブを用いて、着磁方向であるY軸方向における磁束密度を測定した。
図3に
図2のリング形状磁石を軸方向に沿って切断した断面図及び前記測定領域12などの位置関係を示す。リング形状磁石9の内円側の円形の空間部の中心13を測定の基準値として、磁束密度の測定領域12内で磁束密度を測定し、基準値との差の絶対値を、基準値で割った値を磁束密度の変化の割合(%)とし、その最大値で評価した。前期磁束密度の変化の割合(%)が小さいほど磁束密度の一様性が高いことを意味する。
【0030】
図4に金型4に配置する円柱形状磁石8aと、磁界解析による磁束線を示す。円柱形状磁石8aは、円柱形状の径方向、すなわち円柱を軸方向に交差する方向に切断した際の円断面における半径方向に着磁されており、外円側の空間部において、円周方向に磁束線が見られる。円柱形状磁石8aには、成形するリング形状磁石9の配向、又は着磁を強くするため、強力な磁気特性およびその温度特性が求められる。例えば、Nd-Fe-B系異方性焼結磁石あるいはSm-Co系異方性焼結磁石などが使用される。円柱形状磁石8aの形状は、
図4に示したような、真円に限定されるものではない。円柱形状磁石を固定するなどの目的で、
図5に示すような形状としてもよい。
図5の円柱形状磁石8bは、着磁方向に交差する方向における対向した円柱形状の両端部が削られた形状を有する。断面が真円から変形するほど、成形されたリング形状磁石の内円側の空間部12における磁束密度の一様性が損なわれる傾向がある。
【0031】
図5はリング形状の射出成形ボンド磁石の成形金型4に設置される変形の円柱形状磁石8bおよびスリーブ7aを示したものである。円柱形状磁石8bにおいて、着磁方向の長さに対する着磁方向に交差する方向の長さの比(円柱形状磁石8bの着磁方向に交差する方向の長さ/着磁方向の長さ)が小さいと、成形されたリング形状磁石の内円側の空間12の前記磁束密度の変化が大きくなる傾向がある。このため、着磁方向の長さに対する着磁方向に交差する方向の長さの比は、0.8以上が望ましい。前記比の上限値は、特に限定されないが、例えば、1.5以下、又は1以下にすることができる。
【0032】
リング形状磁石9の形状は、内円は円形が適しているが、都合によっては楕円形などにしてもよい。外円は形状が変化しても磁束線は内円側に集中するので、大きく磁気特性に影響しない。これに対して、リング形状磁石9の内円の直径に対する高さの比(リング形状磁石の高さ/内径)は、内円空間の磁束密度の変化に大きく影響する。前記比は大きい方がよいが、使用面から0.1以上が望ましい。特に回転角度検出器などの用途に使用するためには、内円側の空間部の磁束密度が極めて一様なリング形状磁石9が必要で、前記比は0.2以上が望ましい。前記比の上限値は、特に限定されないが、例えば、2以下にすることができる。
【0033】
前記磁束密度の変化の割合は60%以下が望ましい。特に、回転角度検出器などの用途に使用するためには、内円側の空間部の磁束密度が極めて一様なリング形状磁石が必要で、前記磁束密度の変化の割合は30%以下が望ましい。前記磁束密度の変化の割合の下限値は、特に限定されないが、例えば、5%以上である。
【0034】
図4の円柱形状磁石8aを配置した
図1の金型4を用いて成形したリング形状磁石9は、リング形状磁石9の内円側の空間部12の磁束密度が一様である。リング形状磁石9の内部では、磁束線が円周方向で左右対称なパターンを持つ。また、リング形状磁石9の内部における磁束密度は、
図6に示したように、外円側に比して内円側が強い。このように、リング形状磁石9における磁束線は、金型に配置している
図4の円柱形状磁石8aの外周の磁束線に類似した傾向を示す。
【0035】
リング形状磁石9は、リング形状磁石9の外円側の空間部11への磁束の漏れが非常に少ない特徴を有しており、リングの内円側における磁束密度に比して、リングの外円側の空間部における磁束密度が小さい。前記空間部11への磁束密度の漏れが大きいと、内円側の空間部12の磁束密度の変化が大きくなる。このため、リング形状磁石の軸方向における長さの半分の位置で測定した前記磁束密度の漏れが、外円側の空間部11に比して、内円側の空間部10においてより小さくなる方がよい。例えば、外円側の空間部における磁束密度は、1~15mTであり、内円側の空間部における磁束密度は、50~70mTにすることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて、より具体的に説明する。
【0037】
[実施例1]
以下に示す方法で、リング形状磁石9を製造した。具体的には、
図1に示す金型4を使用した。キャビティ6の寸法は以下の通りである。すなわち、外枠の内径が22mmであり、スリーブの外径が15mmであり、リング形状磁石の軸方向における長さが15mmである。これにより、外径22mm、内径15mm、軸方向における長さ(高さ)15mmのリング形状磁石が製造される。
【0038】
円柱形状磁石8の材質は、Nd-Fe-B系異方性焼結磁石(信越化学株式会社製N41TU)である。円柱形状磁石の形状は、外径13mmであり、軸方向における長さは17mmであり、径方向に着磁されている。スリーブ7の厚さ1mmであり、スリーブ7の材質は、非磁性超硬合金(冨士ダイス株式会社FUJILLOY、M70)である。外枠5は、内径は上述の通り22mmであり、外径は28mmであり、軸方向における長さは15mmである。外枠5の材質は、非磁性鋼(日立金属株式会社製HPM75)である。また、金型の上下面は、非磁性鋼(日立金属株式会社製HPM75)を使用し、キャビティ6の高さ方向の上下の蓋とした。リング形状磁石9の主成分として、異方性フェライト磁粉とPPS樹脂との混合物(メイト株式会社製ボンド磁石用射出成形材料、HMシリーズHM-1616)を使用した。射出成形の条件は、シリンダー温度を210~250℃、金型を100℃とした。
【0039】
成形されたリング形状磁石の内円側の空間の中心13の磁束密度は60mTで、上述の測定方法で測定した磁束密度の変化の割合は10%以内であった。
図6に成形されたリング形状磁石9を磁界解析した結果を示す。矢印を含む線は磁束線を示し、矢印は磁束密度の方向を示す。磁束線の間隔は磁束密度の強さを表す。
図6に示した通り、リング形状磁石9の内円側の空間部12の磁束密度は一様である。リング形状磁石9の内部の磁束密度は、内円側が強く、磁束線は円周方向で左右対称なパターンを示し、金型4に配置した
図4に示す円柱形状磁石8aの外周の磁束線と類似の傾向がみられる。リング形状磁石の外円側の空間部11への磁束の漏れを測定すると、リング形状磁石9の軸方向における長さの半分の位置、換言すると高さ7.5mmの位置の外円側の空間部11において、
図2におけるX方向、及びY方向共に磁束密度は5mT以下で極めて少なかった。
【0040】
次に、
図6に示すA点、B点、C点、D点、又はE点に銅線を巻いて磁束密度を測定すると共に、有限要素法による電磁気解析により磁束密度を解析した。測定結果を
図7に示す。A点、又はE点は、円柱形状磁石8の着磁方向に直角な方向にある。B点、又はD点は円柱形状磁石8の着磁方向と45°となる方向にある。C点は円柱形状磁石8の着磁方向と同じ方向にある。
【0041】
磁束密度の測定と解析には、
図7に示したように、3種のリング状磁石を準備した。磁石Aは、外径22mm、内円15mmの断面が真円のリング形状磁石である。磁石Bは、磁石Aの外円側を削って、外径18.5mm、内径15mmとした断面が真円のリング形状磁石である。磁石Cは、磁石Aの内円側を削って、外径22mm、内径18.5mmとした断面が真円のリング形状磁石である。磁石Bの測定は、
図7に示したように、磁石の内円側における磁束密度を知る目的で行った。磁石Cの測定は、
図7に示したように、磁石の外円側における磁束密度を知る目的で行った。
【0042】
測定は、フラックスメーターを用いて、C点を0にリセットして、移動してA点、B点、D点、及びE点において測定した。さらに、リングの断面積からA点、B点、C点、D点、及びE点の磁束密度の実測値を算出した。
図7における解析値と実測値とは、互いに近い値を示し、成形されたリング形状磁石9は、内部の磁束密度は内円側が強く、磁束線は円周方向で左右対称なパターンを示すことが示唆される。また、
図7のカッコ内の数値は、
図6に示した磁束線の数を示す。
【0043】
[実施例2]
次に、リング形状磁石9において、金型中の円柱形状磁石の形状を、
図5から
図6のように変形させた場合に、リング形状磁石の内円側の空間部12の磁束密度に及ぼす影響を調べた。
【0044】
スリーブ7aと円柱形状磁石8bの形状を変更して、複数のリング形状磁石9を成形した。リング形状磁石の製造方法は、使用する円柱形状磁石を変更した点以外は、実施例1と同様にした。
図8はその結果をまとめた。横軸は、円柱形状磁石の変形の割合を示したものであり、着磁方向の長さに対する着磁方向に交差する方向の長さの比(円柱形状磁石8bの着磁方向に直角方向の長さ/着磁方向の長さ)を示す。縦軸は、上述と同様の測定方法で測定した磁束密度の変化の割合(%)の最大値を示す。
図8のグラフから明らかなように、前記比が0.8以上において磁束密度の変化は10%以内に抑えることができる。
【0045】
[実施例3]
次に、以下のようにして、リング形状磁石において、軸方向における長さ(mm)と内径(mm)の大きさとの関係が、リング形状磁石の内円側の空間部12の磁束密度に及ぼす影響を調べた。
【0046】
金型4及び円柱形状磁石8aなどの軸方向における長さを変えた点以外は、実施例1と同様の方法によって、複数のリング形状磁石を作製した。
図9にその結果をまとめた。横軸は、リング形状磁石9の内径に対する高さの比(リング形状磁石の高さ/内径)を示す。縦軸は、上述と同様の測定方法で測定した磁束密度の変化の割合(%)の最大値を示す。前記比が0.1において磁束密度の変化の割合は60%であった。また、前記比が0.2以上のリング磁石では、30%以内の磁束密度の変化に抑えることができた。
【0047】
上記のリング形状磁石、金型、製造方法によれば、製造方法を簡易にして、内円側の空間部の磁束密度の均一さを所望の程度に制御することができる。これらを利用して、回転角度検出器などに求められる磁束密度が均一な磁石も提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 磁石片(従来例)
2 リング形状磁石(従来例)
3 軟磁性部材(従来例)
4 金型
5 外枠
6 キャビティ
7 スリーブ
7a スリーブ
8 円柱形状磁石
8a 円柱形状磁石
8b 円柱形状磁石
9 リング形状磁石
10 内円側の空間部
11 外円側の空間部
12 測定領域
13 空間部の中心
A、B、C、D、E 銅線を巻く位置