(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素のN-末端領域に特異的に結合する抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/40 20060101AFI20240313BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240313BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240313BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240313BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240313BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240313BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240313BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240313BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240313BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240313BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240313BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240313BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C07K16/40 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 P
A61P35/00
A61P35/04
A61P9/00
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P37/04
A61P43/00 105
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2021514393
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(86)【国際出願番号】 KR2019011998
(87)【国際公開番号】W WO2020060156
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】10-2018-0111046
(32)【優先日】2018-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521486170
【氏名又は名称】ザイメディ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Zymedi Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、スンフン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ナム フン
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502672(JP,A)
【文献】特表2012-500256(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0040583(KR,A)
【文献】特表2013-532965(JP,A)
【文献】特表2020-534273(JP,A)
【文献】Nature Chemical Biology,2013年,Vol.10, pp.29-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)アミノ酸配列SYDMSを含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X
1IX
2X
3X
4X
5GX
6X
7YYADSVKGを含み、ここで、X
1はA又はVであり、X
2は、S、D又はGであり、X
3はY、P、S又はAであり、X
4は、D、Q、L又はYであり、X
5は、N、M、S、又はGであり、X
6はN、R又はPであり、X
7は、T、V、I、又はSである重鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X
8ALDFDYを含み、ここで、X
8は、M又はLである重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む重鎖可変領域(VH)及び
(b)(i)アミノ酸配列TGSSSNIGSNYVTを含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X
9NX
10X
11RPSを含み、ここで、X
9は、D、S又はRであり、X
10はS又はNであり、X
11はN又はQである軽鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X
12SFSDELGAYVを含み、ここで、X
12は、A又はSである軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素(KRS、Lysyl-tRNAsynthetase)のN-末端領域に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記(a)重鎖可変領域(VH)は、配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号3、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、及び配列番号118からなる群から選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2);及び、配列番号5及び配列番号25からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記(b)軽鎖可変領域(VL)は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号9、配列番号27、及び配列番号29からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2);及び、配列番号13及び配列番号15からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体又はその抗原結合断片は、
i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号13で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
ii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
iii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号118で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号13で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
iv)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号118で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
v)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号17で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
vi)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号19で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
vii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
viii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号23で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
ix)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号27で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
x)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号29で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
xi)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号25で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
xii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号25で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号27で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;又は
xiii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号25で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号29で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
を含むことを特徴とする、請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号89、配列番号93、配列番号95、配列番号97、配列番号99、配列番号101、配列番号103及び配列番号105からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む重鎖(HC);及び、配列番号107、配列番号109、配列番号111、配列番号113、及び配列番号115からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC);を含むことを特徴とする、請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体又はその抗原結合断片は、
配列番号89で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号107で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号89で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号93で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号107で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号93で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号95で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号97で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号99で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号101で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号103で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号103で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号113で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号103で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号115で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号105で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号105で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号113で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号105で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号115で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号99で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;又は
配列番号103に表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
を含むことを特徴とする、請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体は、IgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDからなる群から選ばれ、前記抗原結合断片は、ディアボディ、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、Fv、及びscFvからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗原結合断片は、配列番号61、配列番号63、配列番号65、配列番号67、配列番号69、配列番号71、配列番号73、配列番号75、配列番号77、配列番号79、配列番号81、配列番号83、配列番号85、及び配列番号87からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を符号化するポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項11】
請求項10記載の組換え発現ベクターで形質転換された細胞。
【請求項12】
(a)請求項
10記載の組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換する段階;
(b)前記形質転換された宿主細胞を培養して抗体又はその抗原結合断片を生産する段階;及び
(c)前記宿主細胞で生産された抗体又はその抗原結合断片を収得する段階
を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素のN-末端に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を製造する方法。
【請求項13】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む癌及び癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む癌又は癌転移診断用組成物。
【請求項15】
前記抗体は、野生型ヒトIgG Fc領域のFc変異体を含むポリペプチドであって、前記Fc変異体は、配列番号126で表示される野生型ヒトIgG1 Fc領域のL117A、L118A、T182A、P212G、又は配列番号138で表示されるヒトIgG4 Fc領域のT179Aである1以上の追加のアミノ酸置換を含み、前記ポリペプチドは野生型IgG Fc領域を含むポリペプチドに比べてADCC/CDC機能が減少するポリペプチドを含むことを特徴とする、請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項16】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項17】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物。
【請求項18】
前記免疫細胞の移動関連疾患は、心血管疾患、線維化疾患、炎症性疾患、及びアルポート症候群(Alport syndrome)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項16又は17記載の組成物。
【請求項19】
癌及び癌転移の予防又は抑制用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項20】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を含む組成物の有効量を、これを必要とするヒトを除く個体に投与することを特徴とする、癌及び癌転移の予防又は抑制方法。
【請求項21】
癌又は癌転移診断用製剤を製造するための請求項1の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項22】
a)癌転移が疑われるヒトを除く個体(被検体)から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体に請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現レベルを正常対照群と比べて、KRS蛋白質の発現レベルが増加する場合に、癌及び癌転移が発生したと診断する段階を含む、癌又は癌転移の診断方法。
【請求項23】
免疫細胞の移動関連疾患の治療用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項24】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を含む組成物の有効量を、これを必要とするヒトを除く個体に投与することを特徴とする、免疫細胞の移動関連疾患の治療方法。
【請求項25】
免疫細胞の移動関連疾患の診断用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項26】
a)免疫細胞の移動関連疾患が疑われるヒトを除く個体から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体に請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現量を正常対照群と比べて、KRSの発現量が増加する場合には、免疫細胞の移動関連疾患であると診断する段階
を含む、免疫細胞の移動関連疾患の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年9月17日に出願された韓国特許出願第10-2018-0111046号に基づく優先権を主張し、前記明細書全体は参照により本出願に援用する。
【0002】
本発明は、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素のN-末端領域に特異的に結合する抗体に関するものであり、より詳細には、本明細書で記載される特定のCDR(相補性決定部位)配列を有する細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素(KRS、Lysyl-tRNAsynthetase)のN-末端領域に特異的に結合し、親和性、及び安定性が高い抗体、又はその断片及び前記抗体、又はその断片を有効成分として含む組成物の、癌、癌転移、又は免疫細胞の移動関連疾患の予防、治療又は診断での使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
最近の研究を通じて、一般的に細胞質(cytosol)に存在するヒトのKRS(リシル-tRNA合成酵素、lysyl-tRNA synthetase)が原形質膜(細胞膜)に移動(translocation)されて原形質膜に存在する67LR(67-kDaラミニン受容体)と相互作用することにより、腫瘍(又は癌)細胞の移動を促進し、癌の転移(metastasis)に影響を与えることが究明された(非特許文献1~2)。ヒトのKRS(Genbank Accession No. NP_005539.1等)は、N-末端延長(N-terminal extension、1-72)、アンチコドン結合ドメイン(anticodon-binding domain、73-209)及び触媒ドメイン(catalytic domain、220-597)を含む。ヒトのKRSは、蛋白質の合成に必須な酵素であり、一般的に細胞質のマルチ-tRNA合成複合体(multi-tRNA synthetase complex、MSC)の中に存在する。しかし、ラミニン(laminin)信号後のp38MAPKは、T52残基でKRSをリン酸化させ、KRSは細胞膜に移動して、ユビキチン媒介分解から67LRを保護する。また、細胞膜に移動されたKRSは癌転移に関わる67LRを安定化させた上、これと相互作用をすることにより癌転移(cancer metastasis)を促進することが報告された。
【0004】
一方、N-末端延長(N-ext)の末端残基40個が欠失されたMyc-KRS41-597(ΔN)が原形質膜に位置(localize)されないという事実は、KRS N-ext領域が、KRSが細胞膜に移動(translocation)するのに必須な領域であることを示す。また、癌転移に関して、67LRとの相互作用において、具体的にKRS N-ext領域がこれらの結合に関与することが公知された。このような事実を治療や診断目的で利用するためには、KRS蛋白質を構成する1以上のドメイン領域の特性に応じて、蛋白質内の目的とする特定な位置(特にKRS N-ext)を特異的に標的化(targeting)することが必要なことが実情である。これに対して、本発明者は、ARSにも結合する交差反応を示さないKRS N-末端に特異的に結合する抗体(特許文献1)を作製した。
【0005】
しかしながら、従来のKRS N-末端を目標とする抗体の親和性が完全なIgG形態の様々な抗体の親和性に比べて低レベルである。よって、KRS N-末端により高い親和性を有する抗体を作製する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国特許出願番号10-2018-0035446号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Dae Gyu Kim et al., Chemical inhibition of prometastatic lysyl-tRNA synthetase-laminin receptor interaction, Nat Chem Biol. 2014 Jan; 10(1): 29-34.
【文献】Dae Gye Kim et. al. Interaction of two translational components, lysyl-tRNA synthetase and p40/37LRP, in plasma membrane promotes laminin-dependent cell migration, FASEB J. (2012)26, 4142-4159.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[発明の詳細説明]
[技術的課題]
これに対して、本発明者は、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に特異的に結合する従来の抗体より、KRS N-末端領域に対する結合親和性が高い抗体を作製するために、従来の抗体の軽鎖可変領域と重鎖可変領域を改変して、本発明を完成した。
従って、本発明の目的は、
(a)(i)アミノ酸配列SYDMSを含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X1IX2X3X4X5GX6X7YYADSVKGを含み、ここで、X1はA又はVであり、X2は、S、D又はGであり、X3はY、P、S又はAであり、X4は、D、Q、L又はYであり、X5は、N、M、S、又はGであり、X6はN、R又はPであり、X7は、T、V、I、又はSである重鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X8ALDFDYを含み、ここで、X8は、M又はLである重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む重鎖可変領域(VH)及び
(b)(i)アミノ酸配列TGSSSNIGSNYVTを含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X9NX10X11RPSを含み、ここで、X9は、D、S又はRであり、X10はS又はNであり、X11はN又はQである軽鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X12SFSDELGAYVを含み、ここで、X12は、A又はSである軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素(KRS、Lysyl-tRNAsynthetase)のN-末端領域に特異的に結合する抗体又はその断片を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチド、これを含む組換え発現ベクター、前記ベクターで形質転換された細胞を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、
(a)前記組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換する段階;
(b)前記形質転換された宿主細胞を培養して抗体又はその断片を生産する段階;及び
(c)前記宿主細胞で生産された抗体又はその断片を収得する段階
を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素のN-末端に特異的に結合する抗体又はその断片を製造する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物を提供することである。
【0012】
また、本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として構成される癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物を提供することである。
【0013】
また、本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として本質的に構成される癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む免疫細胞の移動関連疾患の予防、又は治療用組成物を提供することである。
【0015】
また、本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として構成される免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療用組成物を提供することである。
【0016】
また、本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として本質的に構成される免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療用組成物を提供することである。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物を提供することである。
【0018】
また、本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として構成される免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物を提供することである。
【0019】
また、本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として本質的に構成される免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物を提供することである。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、癌及び癌転移の予防又は抑制用製剤を製造するために、前記抗体又はその断片の使用を提供することである。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、癌及び癌転移の予防又は抑制方法を提供することである。
【0022】
本発明のさらに他の目的は、癌又は癌転移診断用製剤を製造するために、前記抗体又はその断片の使用を提供することである。
【0023】
本発明のさらに他の目的は、
a)癌転移が疑われる個体(被検体)から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体に前記抗体又はその断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現レベルを正常対照群と比べて、KRS蛋白質の発現レベルが増加する場合に、癌及び癌転移が発生したと診断する段階を含む、癌や癌転移の診断方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらに他の目的は、免疫細胞の移動関連疾患の治療用製剤を製造するために、前記抗体又はその断片の使用を提供することである。
【0025】
本発症のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、免疫細胞の移動関連疾患の治療方法を提供することである。
【0026】
本発明のさらに他の目的は、免疫細胞の移動関連疾患の診断用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供することである。
【0027】
本発明のさらに他の目的は、
a)免疫細胞の移動関連疾患が疑われる個体から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体に前記抗体又はその断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現量を正常対照群と比べて、KRSの発現量が増加する場合には、免疫細胞の移動関連疾患であると診断する段階
を含む、免疫細胞の移動関連疾患の診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記のような目的を果すために、本発明は、
(a)(i)アミノ酸配列SYDMSを含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X1IX2X3X4X5GX6X7YYADSVKGを含み、ここで、X1はA又はVであり、X2は、S、D又はGであり、X3はY、P、S又はAであり、X4は、D、Q、L又はYであり、X5は、N、M、S、又はGであり、X6はN、R又はPであり、X7は、T、V、I、又はSである重鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X8ALDFDYを含み、ここで、X8は、M又はLである重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む重鎖可変領域(VH)及び
(b)(i)アミノ酸配列TGSSSNIGSNYVTを含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X9NX10X11RPSを含み、ここで、X9は、D、S又はRであり、X10はS又はNであり、X11はN又はQである軽鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X12SFSDELGAYVを含み、ここで、X12は、A又はSである軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素(KRS、Lysyl-tRNAsynthetase)のN-末端領域に特異的に結合する抗体又はその断片を提供する。
【0029】
本発明の他の目的を果すために、本発明は、抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチド、これを含む組換え発現ベクター、前記ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0030】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、
(a)前記組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換する段階;
(b)前記形質転換された宿主細胞を培養して抗体又はその断片を生産する段階;及び
(c)前記宿主細胞で生産された抗体又はその断片を収得する段階
を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素のN-末端に特異的に結合する抗体又はその断片を製造する方法を提供する。
【0031】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物を提供する。
【0032】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として構成される癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物を提供する。
【0033】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として本質的に構成される癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物を提供する。
【0034】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0035】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として構成される免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0036】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として本質的に構成される免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0037】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物を提供する。
【0038】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として構成される免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物を提供する。
【0039】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として本質的に構成される免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物を提供する。
【0040】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、癌及び癌転移の予防又は抑制用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0041】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、前記抗体又はその断片を含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、癌及び癌転移の予防又は抑制方法を提供する。
【0042】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、癌又は癌転移診断用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0043】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、
a)癌転移が疑われる個体(被検体)から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体に前記抗体又はその断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現レベルを正常対照群と比べて、KRS蛋白質の発現レベルが増加する場合に、癌及び癌転移が発生したと診断する段階を含む、癌や癌転移の診断方法を提供する。
【0044】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、免疫細胞の移動関連疾患の治療用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0045】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、前記抗体又はその断片を含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、免疫細胞の移動関連疾患の治療方法を提供する。
【0046】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、免疫細胞の移動関連疾患の診断用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0047】
本発明のさらに他の目的を果すために、本発明は、
a)免疫細胞の移動関連疾患が疑われる個体から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体に前記抗体又はその断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現量を正常対照群と比べて、KRSの発現量が増加する場合には、免疫細胞の移動関連疾患であると診断する段階
を含む、免疫細胞の移動関連疾患の診断方法を提供する。
【0048】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0049】
本発明において、「細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素(KRS)のN-末端領域"は、細胞内で生成されたKRSが移動して、細胞膜(又は原形質膜)に位置するとき、細胞外(extracellular)領域に、又は細胞膜表面に露出される特定な配列を意味するものであり、通常、KRS N-末端の1~72個のアミノ酸領域の一部又は全長配列を意味することもある。また、KRS N-末端領域は、種間配列類似性が存在し、特に配列番号117で表示されるアミノ酸配列を含むことを特徴として扱える。
【0050】
本発明において、「KRS」はリシル-tRNA合成酵素として公知されている全長ポリペプチド、又はN-末端領域(N-末端延長)を含む任意のKRS断片配列を意味する。本発明に係る抗体やその断片は、前述したように、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域を特異的に検出するので、前述したKRS全長ポリペプチド又はN-末端領域を含む任意のKRS断片の配列を検出することができる。前記KRSの具体的な配列は、配列番号117で表示されるポリペプチドを含むものであって、当業界にリシル-tRNA合成酵素として公知されているものに限って、特に限定されない。一例として、本発明のKRSは、ヒト(homosapiens)由来のものであって、NCBI(Genbank)Accession No. NP_005539.1等で公知されたものを含み、マウス(Musmusculus)由来のものであって、NCBI(Genbank)Accession No. NP_444322.1等で公知されたものを含み、ラット(Rattusnorvegicus)由来のものであって、NCBI(Genbank)Accession No. XP_006255692.1等で公知されたものを含み、他にも下記の配列情報も参照できるが、これに限定されない:XP_005004655.1(guinea-pig:Caviaporcellus)、XP_021503253.1(gerbil、Merionesunguiculatus)、XP_002711778.1(rabbit、Oryctolaguscuniculus)、XP_536777.2(dog、Canislupusfamiliaris)、XP_003126904.2(swine、Susscrofa)、XP_011755768.1(monkey、Macacanemestrina)、XP_008984479.1(marmoset、Callithrixjacchus)、XP_019834275.1(cow、Bosindicus)、XP_511115.2(chimpanzee、Pantroglodytes)。最も好ましくは、NCBI(Genbank)Genbank Accession No. NP_005539.1で公知されたものでもある。
【0051】
本発明において、「抗体(antibody)」は、免疫グロブリン(immunoglobulin、Ig)とも呼ばれ、抗原に選択的に作用して、生体の免疫に関与する蛋白質の総称である。自然の中で発見された全抗体(whole antibody)は、一般的に1以上のドメインからなるポリペプチドである軽鎖(lightchain、LC)と重鎖(heavychain、HC)の二対で構成され、これらのHC/LCの二対構造を基本単位とする。哺乳類の抗体を構成する重鎖の種類は、ギリシャ文字のα、δ、ε、γ及びμで表示できる5つのタイプがあり、重鎖の種類に応じて、それぞれIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM等の他の種類の抗体を構成する。哺乳類の抗体を構成する軽鎖の種類は、λとκで表示できる二種類がある。
【0052】
抗体の重鎖と軽鎖は、構造的にアミノ酸配列の可変性により、可変領域と不変領域に区分される。重鎖の不変領域は、抗体の種類によって、CH1、CH2、及びCH3(IgA、IgD、及びIgG抗体)、及びCH4(IgE及びIgM抗体)等の3つ又は4つの重鎖不変領域で構成され、軽鎖は1つの不変領域であるCLで構成されている。重鎖と軽鎖の可変領域は、それぞれ重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)のいずれかのドメインで構成されている。軽鎖と重鎖は、それぞれの可変領域と不変領域が並んで配置され、1つの共有二硫化結合(disulfide bond)によって連結され、軽鎖と結合した二分子の重鎖は、2つの共有二硫化結合を通じて連結されて全体抗体の形態を形成する。全体抗体は、重鎖及び軽鎖の可変領域を通じて抗原に特異的に結合し、全体抗体は2つの重鎖及び軽鎖のペア(HC/LC)で構成されているので、1つの分子の全体抗体は、二つの可変領域を通じて同一な2つの抗原に結合する2価の単一特異性を有するようになる。
【0053】
抗体が抗原に結合する部位を含む可変領域は、配列可変性が少ない骨格部位(framework region、FR)と配列可変性が高い過可変性部位(hyper variable region)である相補性決定部位(complementary determining region、CDR)に細分される。VHとVLはそれぞれ三つのCDR及び四つのFRがN-末端からC-末端の方向にFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順に配列されている。抗体の可変領域の中でも、配列可変性が最も高いCDRが抗原と直接結合する部位で、抗体の抗原特異性に最も重要である。
【0054】
本発明は、
(a)(i)アミノ酸配列SYDMSを含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X1IX2X3X4X5GX6X7YYADSVKGを含み、ここで、X1はA又はVであり、X2は、S、D又はGであり、X3はY、P、S又はAであり、X4は、D、Q、L又はYであり、X5は、N、M、S、又はGであり、X6はN、R又はPであり、X7は、T、V、I、又はSである重鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X8ALDFDYを含み、ここで、X8は、M又はLである重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む重鎖可変領域(VH)及び
(b)(i)アミノ酸配列TGSSSNIGSNYVTを含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);
(ii)アミノ酸配列X9NX10X11RPSを含み、ここで、X9は、D、S又はRであり、X10はS又はNであり、X11はN又はQである軽鎖相補性決定部位2(CDR2);及び
(iii)アミノ酸配列X12SFSDELGAYVを含み、ここで、X12は、A又はSである軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素のN-末端領域に特異的に結合する抗体又はその断片を提供する。
【0055】
具体的には、前記(a)重鎖可変領域(VH)は、配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号3、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、及び配列番号118からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2);及び、配列番号5及び配列番号25からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含むことを特徴とし、
前記(b)軽鎖可変領域(VL)は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号9、配列番号27、及び配列番号29からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2);及び、配列番号13及び配列番号15からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含むことを特徴とする。
【0056】
前記CDR配列から構成される抗体は、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に特異的に結合する能力が優れている。これは、本発明の明細書の実施例に示している。
【0057】
本発明の実施例では、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に特異的に結合し、親和性が高い抗体を作製するために、従来のN3抗体(出願番号:10-2018-0035446)の重鎖可変領域と軽鎖可変領域を改良した上、酵母発現にて改良ライブラリを選別した。1次、2次、3次のFACSスクリーニングを通して、KRS N-末端領域に高親和性と特異性を有するN3-1、N3-3、N3-4 scFvを選別し、このVH及びVLを互いに組み合わせた新しいN3-5 scFvを選別した。
【0058】
その次のGSTが結合されたKRS N-末端に特異的に結合し、親和性が高い改良ライブラリを選別するために、N3-3 scFvの重鎖可変領域を改良したライブラリを選別した。1次、2次、3次、4次FACSスクリーニングを介して、KRS N-末端領域に高親和性と特異性を有するN3-6、N3-7、N3-8、N3-9 scFvを選別した。
【0059】
この中で最も高い親和性を有するN3-8 IgG抗体の生産性、安定性等を改善するためにN3-8の重鎖可変領域及び軽鎖部位に突然変異を導入し、7種類(N3-8-1、N3-8-2、N3-8-3、N3-8-4、N3-8-5、N3-8-6、N3-8-7)の抗体を得た。
【0060】
その結果、N3-1 IgG、N3-3 IgG、N3-4 IgG、N3-5 IgG、N3-6 IgG、N3-7 IgG、N3-8 IgG、N3-9 IgG、N3-8-1 IgG、N3-8-2 IgG、N3-8-3 IgG、N3-8-4 IgG、N3-8-5 IgG、N3-8-6 IgG、N3-8-7 IgGの抗体を作製し、前記抗体もKRS N-末端に高い親和性を示すことを確認した。
【0061】
本発明に係る「細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に特異的に結合する抗体又はその断片」は、これに限定されないが、好ましくは、下記の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDR構成を含む抗体として、下記のi、ii、iii、iv、v、vi、vii、viii、ix、x、xi、xii、及びxiiiは、それぞれの実施例N3-1、N3-3、N3-4、N3-5、N3-6、N3-7、N3-8、N3-9、N3-8-1、N3-8-2、N3-8-3、N3-8-4、N3-8-5、N3-8-6、及びN3-8-7抗体のCDR組み合わせを示す:
【0062】
i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号13で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
ii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
iii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号118で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号13で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
iv)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号118で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
v)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号17で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
vi)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号19で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
vii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
viii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号23で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
ix)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号27で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
x)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号29で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
xi)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号25で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
xii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号25で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号27で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;又は
xiii)配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号25で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)と、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1)、配列番号29で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2)、及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体;
を含むことを特徴とする抗体又はその断片。
【0063】
最も好ましくは、本発明に係る前記抗体又はその断片は、下記のような重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含むことを特徴とする。
【0064】
前記抗体又はその断片において、前記重鎖可変領域は、配列番号31、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45及び配列番号47からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号49、配列番号51、配列番号53、及び配列番号55からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む。
【0065】
好ましくは、配列番号31で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号49で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号31で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号35で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号49で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号35で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号37で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号39で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号41で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号43で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号45で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号45で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号53で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号45で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号55で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号47で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号47で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号53で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号47で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号55で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;を含む抗体である。
【0066】
前記重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含むIgG形態の抗体は、具体的には、配列番号89、配列番号93、配列番号95、配列番号97、配列番号99、配列番号101、配列番号103及び配列番号105からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号107、配列番号109、配列番号111、配列番号113、及び配列番号115からなる群から選ばれる1以上のアミノ酸配列を含む軽鎖からなることを特徴とする抗体でもある。
【0067】
最も好ましくは、配列番号89で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号107で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号89で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号93で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号107で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号93で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号95で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号97で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号99で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号101で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号103で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号103で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号113で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号103で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号115で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号105で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号105で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号113で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号105で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号115で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号99で表示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;を含む抗体である。
【0068】
本発明に係る「細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に特異的に結合する抗体」は、前記CDR組み合わせや、VH及びVLの組み合わせを有するものであれば、その種類は限定されない。具体的一例として、前記抗体は、IgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDからなる群から選択されるものでもあり、好ましくはIgG抗体でもある。
【0069】
本発明の抗体は、KRS N-末端領域に特異的に結合する前記CDR組み合わせや、VH及びVLの組み合わせを有するものであれば、モノクローナル(monoclonal)抗体でもあり、ポリクローナル(polyclonal)抗体でもあるが、抗体の重鎖と軽鎖のアミノ酸配列が実質的に同一な抗体の集団であるモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0070】
本発明の抗体は、ヒトを含む哺乳動物、鳥類等を含む任意の動物から由来したものでもあって、好ましくはヒトから由来したものであるか、ヒトから由来した抗体の部分と他の種の動物から由来した抗体の部分を含むキメラ(chimeric)抗体でもある。つまり、本発明はキメラ抗体、ヒト化された抗体、ヒト抗体を全部含めて、好ましくは、ヒト抗体でもある。
【0071】
また、本発明で抗体の断片は、全体抗体の抗原特異的結合力を維持している抗体の断片を意味し、好ましく前記断片は、親抗体のKRS N-末端結合親和度と同程度か、又は少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%又は100%又はそれ以上を有する。具体的には、Fab、F(ab)2、Fab'、F(ab')2、Fv、ディアボディ(diabody)、scFv等の形態でもある。
【0072】
Fab(fragment antigen-binding)は、抗体の抗原結合断片であって、重鎖と軽鎖それぞれの一つの可変ドメインと不変ドメインで構成されている。F(ab')2は、抗体をペプシンで加水分解させて生成する断片であり、二つのFabが重鎖のヒンジ(hinge)で二硫化結合(disulfide bond)により連結された形態をしている。F(ab')は、F(ab')2断片の二硫化結合を還元し分離させたFabに重鎖のヒンジが付加された形の単量体抗体断片である。Fv(variable fragment)は、重鎖と軽鎖のそれぞれの可変領域だけで構成される抗体断片である。scFv(single chain variable fragment)は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が柔軟なペプチドリンカーで連結されている組換え抗体断片である。ディアボディは、scFvのVHとVLが極めて短いリンカーで連結されて互いに結合できず、同じ形態を有する他のscFvのVLとVHとそれぞれ結合し、二量体を形成している形態の断片を意味する。
【0073】
本発明の抗体の断片は、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に対する結合特異性を維持しているのであれば、構造や形態の限定を受けないが、好ましくは、scFvでもある。本発明に係るscFvは、前記KRS N-末端領域に特異的なCDR構成、又はVHとVLの構成を有するものであって、VHのC-末端とVLのN-末端がリンカーを介して連結されたものであれば、その配列が特に限定されない。前記リンカーは、当業界でscFvに適用されるリンカーで公知されたものであれば、その種類は特に限定されないが、好ましくは、配列番号57で表示されるアミノ酸配列を含むペプチドでもある。これにより、本発明のscFvは、具体的に配列番号61、配列番号63、配列番号65、配列番号67、配列番号69、配列番号71、配列番号73、配列番号75、配列番号77、配列番号79、配列番号81、配列番号83、配列番号85、及び配列番号87からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0074】
本発明の抗体又はその断片は、この生物学的活性を実質的に変更しない保存的なアミノ酸置換(抗体の保存的変異体と呼ばれる)を含むことができる。
【0075】
また、前述した本発明の抗体又はその断片は、酵素、蛍光物質、放射性物質や蛋白質等と接合してもよいが、これらに限定されない。また、抗体に前記物質を接合する方法は当業界に公知されている。
【0076】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを提供する。
【0077】
本明細書でポリヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド又は核酸と記載されることもあり、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA(genomic DNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチド類似体で生成された前記DNA又はRNAの類似体(例えば、ペプチド核酸及び非自然的発生するヌクレオチド類似体)及びこれらのハイブリッドが含まれる。前記ポリヌクレオチドは、一本鎖(single-stranded)又は二本鎖(double stranded)になることもある。
【0078】
前記ポリヌクレオチドは、前記KRS N-末端領域に特異的なCDR構成、又はVHとVLの構成を有する重鎖と軽鎖からなる抗体を符号化する塩基配列を意味する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の抗体又はその断片を符号化するものであれば、その配列が特に限定されないものであって、予め説明した本発明に係る抗体での前記CDR配列を符号化するポリヌクレオチドにおいて、その配列が特に限定されないが、好ましくは配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、又は配列番号119で表示される塩基配列を含んでもよい。
【0079】
また、本発明に係る抗体の前記VHとVLを符号化するポリヌクレオチドは、その配列が特に限定されないが、好ましくは、配列番号32(VH)、配列番号34(VL)、配列番号36(VH)、配列番号38(VH)、配列番号40(VH)、配列番号42(VH)、配列番号44(VH)、配列番号46(VH)、配列番号48(VH)、配列番号50(VL)、配列番号52(VL)、配列番号54(VL)、又は配列番号56(VL)に表示される塩基配列を含んでもよい。
【0080】
また、前記抗体の断片を符号化するポリヌクレオチドは、好ましくは、本発明に係るscFvを符号化する配列番号62、配列番号64、配列番号66、配列番号68、配列番号70、配列番号72、配列番号74、配列番号76、配列番号78、配列番号80、配列番号82、配列番号84、配列番号86、及び配列番号88からなる群から選ばれるいずれか一つの塩基配列を含んでもよい。
【0081】
本発明の抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドは、当業界に公知されている方法にて収得できる。例えば、前記抗体の重鎖及び軽鎖の一部又は全部をコードするDNA配列やそのアミノ酸配列に基づいて、当分野で公知されるオリゴヌクレオチド合成技法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法等を用いて合成できる。
【0082】
また、本発明は、本発明に係る抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを提供する。
【0083】
本発明で「組換え(recombinant)」は、「遺伝子操作(genetic manipulation)」との互換で用いることができ、遺伝子の改変、添加、切断、連結等、分子クローニング(molecular cloning)実験技法を用いて、自然状態で存在しない型の遺伝子を製造することを意味する。
【0084】
本発明で「発現(expression)」は、細胞で蛋白質又は核酸が生成することを意味する。
【0085】
本発明で「組換え発現ベクター」は、適切な宿主細胞(host cell)で目的とする蛋白質又は核酸(RNA)を発現できるベクターであり、ポリヌクレオチド(遺伝子)の挿入物が発現できるように作動可能に連結された必須な調節要素を含む遺伝子の作製物を示す。「作動可能に連結された(operably linked)」は、一般的な機能を果すよう、核酸の発現調節配列と目的とする蛋白質、又はRNAをコードする核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されていることであり、発現調節配列によって遺伝子が発現できるように連結されたことを意味する。前記「発現調節配列(expression control sequence)」は、特定な宿主細胞で作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現を調節するDNA配列を意味する。そのような調節配列は、転写を行うためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソームの結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終止を調節する配列、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサー等を含む。
【0086】
本発明の組換え発現ベクターは、クローニング分野で通常に用いられるベクターであれば、その種類が特に限定されない。その例としては、哺乳動物発現ベクター(mammalian expression vector)、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、及びウイルスベクター等を含むが、これらに限定しない。前記プラスミドは、大腸菌由来プラスミド(pBR322、pBR325、pUC118及びpUC119、pET-22b(+))、枯草菌由来プラスミド(pUB110及びpTP5)及び酵母由来プラスミド(YEp13、YEp24、及びYCp50)等があり、前記ウイルスとしてレトロウイルス、アデノウイルス、又は天然痘ウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が用いられる。
【0087】
従って、本発明に係る組換え発現ベクターは、KRS N-末端領域に特異的に結合できる前記CDR、又はVHとVLの構成を有する重鎖と軽鎖からなる抗体、又はその断片を符号化するポリヌクレオチドが適切な宿主細胞で発現できるように作動可能に連結される遺伝子の作製物を意味する。
【0088】
本発明に係る抗体の重鎖と軽鎖を符号化するポリヌクレオチドは、それぞれ違う組換え発現ベクターに含まれていることもあり、一つの組換え発現ベクターに含まれている場合もある。
【0089】
本発明は、前記組換え発現ベクターで形質転換される細胞を提供する。
【0090】
本発明の細胞は、本発明の組換え発現ベクターに含まれている抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを発現するのに用いられる細胞であれば、その種類は特に限定されない。本発明に係る組換え発現ベクターに形質転換した細胞(宿主細胞)として、原核生物(例えば、大腸菌)、真核生物(例えば、酵母又は他の菌類)、植物細胞(例えば、タバコ又はトマト植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター(hamster)細胞、ラット細胞(rat cell)、マウス細胞(mouse cell)、昆虫細胞、又はこれらに由来するハイブリドーマでもある。好ましくは、ヒトを含む哺乳類に由来する細胞でもある。
【0091】
本目的に適する原核生物は、グラム陰性又はグラム陽性の有機体、例えば、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えば、エシェリキア(Escherichia)、例えば、大腸菌(E. coli)、エンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、クレプジエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ(Salmonella)、例えば、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)、セラチア菌(Serratia)、例えば、セラチア菌(Serratia marcescans)、及び赤痢菌(Shigella)、及びバシラス(Bacilli)、例えば、枯草菌(B. subtilis)とB.リケニフォルミス(B. licheniformis)、シュードモナス(Pseudomonas)、例えば、緑膿菌(P. aeruginosa)及びストレプトマイセス(Streptomyces)を含む。本発明の細胞は、本発明のベクターが発現可能なものであれば、特に限定されないが、好ましくは、大腸菌でもある。
【0092】
本発明の細胞として真核生物は、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)が一番汎用される。一方、多くの別属、種及び菌株、これに限定されないが、例えば、シゾサッカロミケス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイウェロマイセス宿主、例えば、K.ラクティス(K. lactis)、K.フラジリス(K. fragilis)(ATCC12,424)、K.ブルガリクス(K. bulgaricus)(ATCC16,045)、K.ウィッカラミイ(K. wickeramii)(ATCC24,178)、K.ウォルチイ(K. waltii)(ATCC56,500)、K.ドロソフィラルム(K. drosophilarum)(ATCC36,906)、K.サーモトレランス(K. thermotolerans)、及びK.マルキシアヌス(K. marxianus);ヤロウイア(yarrowia)(EP402,226);ピキア・パストリス(Pichiapastoris)(EP183,070);カンジダ(Candida);トリコダーマ・リーシア(Trichoderma reesia(EP244,234));ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa);シュワンニオミセス(Schwanniomyces)、例えば、シュワンニオミセス・オクシデンタリス(occidentalis);及び糸状菌、例えば、ニューロスポラ、ペニシリウム(Penicillium)、トリポクラジウム(Tolypocladium)及びアスペルギルス(Aspergillus)宿主、例えば、A.ニデュランス(A. nidulans)と、A.ニガー(A. niger)が用いられる。
【0093】
前記用語「形質転換(transformation)」は、外来性ポリヌクレオチドを導入することによる宿主細胞の遺伝子型改変を意味し、その形質転換に用いた方法に関わらず、外来性ポリヌクレオチドが宿主細胞内に導入することを意味する。宿主細胞内に導入される外来性ポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノム内に統合されつつ維持されるか、又は統合されずに維持されることがあるが、本発明は、両者とも含む。
【0094】
本発明に係るKRS N-末端領域に特異的に結合する抗体又はその断片を発現することができる組換え発現ベクターは、当業界に公知された方法、例えば、これに限定されないが、一過性形質感染(transient transfection)、微細注射、形質導入(transduction)、細胞融合、カルシウムホスフェート沈殿法、リポソーム媒介形質感染(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン-媒介形質感染(DEAEdextran-mediated transfection)、ポリブレン-媒介形質感染(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃(gene gun)と細胞内の核酸を流入させるための公知の方法により、抗体又はその断片を生産するための細胞の内部に導入して形質転換することができる。
【0095】
本発明は、
(a)前記組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換する段階;
(b)形質転換された宿主細胞を培養して抗体又はその断片を生産する段階;及び
(c)宿主細胞で生産された抗体又はその断片を収得する段階を含む、細胞外膜に露出されるリシル-tRNA合成酵素のN-末端に特異的に結合する抗体又はその断片を製造する方法を提供する。
【0096】
(a)段階は、本発明による抗体又はその断片を生産するために宿主細胞を、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドが作動できるように連結された組換え発現ベクターに形質転換する段階である。
【0097】
通常の技術者は、選ばれた宿主細胞と組換え発現ベクターに応じて、前述したように、適切な形質転換方法を選択して、本段階を行うことができる。重鎖と軽鎖の塩基配列を含む組換え発現ベクターは、同じ宿主細胞に共形質転換して重鎖と軽鎖が一つの細胞で発現されるようにすることもあり、重鎖と軽鎖の塩基配列を含む組換え発現ベクターをそれぞれ違う宿主細胞に形質転換し、重鎖と軽鎖が別々に発現できるようにすることもできる。
【0098】
(b)段階は、前記形質転換された宿主細胞を培養して宿主細胞に導入した組換え発現ベクターから、本発明に係る抗体の重鎖、軽鎖、又は抗体断片のポリペプチドが生産されるようにする段階である。
【0099】
前記宿主細胞を培養するための培地組成と培養条件、培養時間等は、当業界で通常に用いる方法に応じて適宜選択することができる。宿主細胞で生産される抗体分子は、細胞の細胞質内に蓄積されるか、適切な信号配列によって細胞外又は培養培地に分泌されるか、ペリプラズム等で標的化(targeted)可能にすることもできる。また、本発明に係る抗体は、KRS N-末端に対する結合特異性を維持するように、当業界に公知されている方法を用いて、蛋白質をリフォールディング(refolding)させて機能性構造(conformation)を有するようにすることが好ましい。また、IgGの形態の抗体を生産する場合には、重鎖と軽鎖は、別の細胞で発現させ、別の段階で重鎖と軽鎖を接触させて、完全な抗体を構成するように製造することもでき、重鎖と軽鎖を同じ細胞で発現されるようにして細胞内での完全な抗体を形成するようにすることもできる。
【0100】
(c)段階は、宿主細胞で生産された抗体又はその断片を収得する段階である。
【0101】
宿主細胞で生産される抗体又はその断片ポリペプチドの特性、宿主細胞の特性、発現方式又はポリペプチドの標的化の程度を考えて、通常の技術者が収得方法を適切に選択及び調節することができる。例えば、培養培地に分泌される抗体又はその断片は、宿主細胞を培養した培地を収得し、遠心分離して不純物を除去する等の方法で抗体を回収することができる。必要に応じて、細胞内の特定の小器官や細胞質に存在する抗体を細胞外に放出し、回収のために抗体又はその断片の機能的構造に影響を及ぼさない範囲で、細胞を溶解させることもできる。また、収得した抗体は、クロマトグラフィ、フィルタ等によるろ過、透析等の方法を通して不純物をさらに除去し、濃縮する過程を追加することもできる。
【0102】
本発明の製造(生産)方法のポリペプチドは、本発明の抗体又はその断片自体であってもよく、本発明の抗体又はその断片以外のアミノ酸配列が追加的に結合していてもよい。この場合、本技術分野の通常の技術者に公知されている方法を用いて、本発明の抗体又はその断片から除去できる。
【0103】
本発明の抗体又はその断片は、KRS N-末端と特異的に結合するので、例えば、特定の細胞、組織、又は血清中のKRS蛋白質を検出し、定量するための診断分析に有用である。特に細胞を溶解させることなく、細胞外膜に露出されたKRS N-末端を特異的に検出できる。
【0104】
本発明の前記検出方法は、本発明に係る抗体又はその断片を試料と接触させる前に、本発明に係る抗体又はその断片を用いて、KRS(又は細胞外膜に露出されるKRS N-末端ペプチド)の有無と濃度を測定するための試料を準備する段階((1)段階)を含むことができる。
【0105】
通常の技術者は、抗体を利用し、蛋白質を検出する公知の方法を適宜選択して、選択した方法に適切に試料を準備することができる。また、試料は、癌(特に、乳癌又は肺癌)、癌転移の程度と段階を診断しようとする被検体から採取した生検等で得られた細胞や組織、血液、全血、血清、血漿、唾液、脳脊髄液等でもある。前記抗体を用いて蛋白質を検出する方法は、これらに限定されないが、例えば、ウェスタンブロット、免疫ブロット、ドットブロット、免疫組織化学染色(immunohistochemistry)、免疫細胞染色(Immunocytochemistry)、酵素免疫分析(ELISA)、放射能免疫検定法(radioimmunoassay)、競争的結合分析、免疫沈殿等がある。例えば、ウェスタンブロットを行うためには、試料又は細胞の溶解物に電気泳動に適したバッファを添加して沸騰させる等の方法で準備することができ、免疫組織化学染色のために、細胞や組織の切片を固定してブロッキング(blocking)する等の前処理を行うことができる。
【0106】
次に、本発明に係る抗体又はその断片を、前記段階で用意した試料と接触させる段階((2)段階)を実行する。
【0107】
本発明に係る抗体は、前述したCDR、又はVHとVLの構成を有し、KRS N-末端に特異的に結合する抗体又はその断片であって、その具体的な種類と配列の構成については前述した通りである。
【0108】
前記抗体又はその断片は、この「検出」のために、一般的に検出できる部分(moiety)で標識できる。例えば、当業界に公知された技術を用いて、放射性同位元素又は蛍光標識で標識できる。又は、様々な酵素-基質標識が用いられ、前記酵素的標識の例として、ショウジョウバエ・ルシフェラーゼと細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)のようなルシフェラーゼ、ルシフェリン(luciferin)、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ(urase)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)のようなペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖類オキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、ヘテロサイクリックオキシダーゼ(例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ)、ラクトペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ等を含む。抗体に酵素を接合する技術は当業界に公知されている。標識は、様々な公知の技術を利用して、抗体に直接又は間接的に接合することができる。例えば、抗体は、ビオチン(biotin)に接合することができ、前記の3種類の広範なカテゴリに属する任意の標識がアビジンと、又はその逆に接合することができる。ビオチンはアビジン(avidin)に選択的に結合することにより、この標識は、このような間接的な方法で抗体に接合することができる。又は、抗体の標識の間接的な接合を果すために、抗体は小さいハプテン(hapten)(例えば、ジゴキシン(digoxin))と接合でき、前記の相違な類型の標識の一つが抗-ハプテン抗体に接合できる(例えば、抗-ジゴキシン抗体)。よって、抗体の標識の間接的接合を果すことができる。
【0109】
本発明の「接触(contacting)」は、この一般的な意味で使用されることであり、2つ以上の物質を混合、結合、又は、連接することを意味する。前記接触は試験管内(in vitro)又は他のコンテナ(container)で実行でき、また、イン・シチュ(in situ)、生体内、個体内、組織内、細胞内で実行できる。
【0110】
次に、前記(2)段階を実行後の試料で、本発明に係る抗体又はその断片を検出する段階((3)の段階)を実行する。
【0111】
前記「検出」は、試料内で形成された本発明に係る抗体又はその断片と抗原の複合体を対象とするものであり、KRS N-末端領域のペプチド(又はこれを含む蛋白質、例えばKRS)の存在の有無の検出又は前記ペプチドのレベルを測定(定性的又は定量的測定の両方を含む)することを意味する。従って、前記(2)段階を実行した後、後述する検出段階((3)段階)の前に、KRS N-末端領域と複合体を形成していない余分な抗体又はその断片を除去する段階をさらに含んでもよい。
【0112】
前述した(2)段階で用いた抗体又はその断片が、蛍光、放射性同位元素、酵素等で直接標識される等、検出できる部分を含む場合は、当該部分を検出する当業界に公知された方法に応じて検出を行うことができる。一例として、放射能は、例えば、シンチレーション計数(scintillation counting)にて測定ができ、蛍光は、蛍光計を用いて定量することができる。
【0113】
また、前述した(2)段階で用いた抗体又はその断片自体が、前述した検出部分を含まない場合は、当業界で公知されているように、蛍光、放射能、酵素等で標識された二次抗体を用いて間接的に検出できる。前記2次抗体は、本発明による抗体又はその断片(1次抗体)に結合する。
【0114】
本発明は、前記本発明の抗体又はその断片を有効成分として含む癌転移の予防又は抑制用の薬学的組成物及び癌診断用組成物を提供する。
【0115】
前記癌は、当業界に悪性腫瘍として公知されたものであれば、その種類は特に限定されないが、乳癌、大腸癌、肺癌、小細胞肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部又は頸部癌、皮膚又は眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門癌、結腸癌、ラッパ管癌腫、子宮内膜癌腫、子宮頸部癌、膣癌、陰門癌腫、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性又は急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は輸尿管癌、腎臓細胞癌腫、腎臓骨盤癌腫、CNS腫瘍、1次CNSリンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、及び脳下垂体腺腫からなる群から選ばれることでもある。好ましくは、乳癌又は肺癌でもある。
【0116】
本発明に係る薬学的組成物は、本発明の抗体又はその断片を単独で含むこと、又は1以上の薬学的に許容できる担体をさらに含むことができる。前記「薬学的に許容できる」は、生理学的に許容でき、ヒトに投与される時、活性成分の作用を阻害せず、通常的に深刻な副作用を起こさない組成物を示す。
【0117】
本発明に係る薬学的組成物において、前記抗体又はその断片は、臨床投与時に経口及び非経口のさまざまな剤形で投与されることがあるが、製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤等の希釈剤又は賦形剤を使用して製造することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ等が含まれ、これらの固形製剤は、1以上のアリール誘導体、又はその薬学的に許容可能な塩の少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)又はラクトース(lactose)又はゼラチン等を混ぜて調剤することができる。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルク等の潤滑剤も使用することができる。経口投与のための液状製剤には、懸濁剤、内用液剤、乳剤又はシロップ剤等が該当するが、よく使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外にさまざまな賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤等が含まれる。
【0118】
非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁溶剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。本発明の治療用組成物を、任意の生理学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定化剤と好ましい純度を有する抗体を混合して、貯蔵するために凍結乾燥されたケーキ又は水溶液の形態で製造することができる。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、使用された投与量及び濃度で需要者に無毒であり、緩衝溶液、例えば、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸;アスコルビン酸をはじめとする抗酸化剤;低分子量(約10個未満の残基)ポリペプチド;蛋白質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;親水性重合体、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリシン;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、又はデキストリンをはじめとする他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖アルコール、例えば、マンニトール又はソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;及び(又は)非イオン性界面活性剤、例えば、ツイーン、プルロニック又はポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。
【0119】
本発明の抗体は、癌闘病中の個体に薬学的に有効な量で投与することができる。前記「薬学的に有効な量」は、陰性対照群に比べてそれ以上の反応を示す量を意味し、好ましくは癌の治療に十分な量又は癌転移の予防又は抑制に十分な量を意味する。本発明の抗体又はその断片の総有効量は、単一投与(single dose)で患者に投与することができ、多重投与(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与することができる。本発明の抗体又はその断片の人体に対する投与量は、一般的に0.01~100 mg/kg/weekであり、好ましくは0.1~20 mg/kg/weekであり、さらに好ましくは5~10 mg/kg/weekでもある。しかし、前記本発明の抗体又はその断片の容量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌及び排泄率等、さまざまな要因を考慮して、患者に対する有効投与量が決定されるので、これらの点を考慮すると当分野の通常の知識を有する者であれば、前記本発明の抗体又はその断片を癌治療剤又は癌転移の予防又は抑制剤としての特定の使用に応じた適切な有効投与量を決定することができるだろう。本発明に係る薬学的組成物は、本発明の効果を示す限り、その剤形、投与経路及び投与方法が特に限定されない。
【0120】
本発明の組成物の投与経路は、公知の抗体の投与方法、例えば静脈内、腹腔内、脳内、皮下、筋肉内、眼内、動脈内、脳脊髄内、又は病変内経路による注射又は注入、又は下記記載された徐放性(sustained release)システムによる注射又は注入でもあって、これに限定されない。一例として、本発明の抗体は、全身的に又は局部的に投与することができる。
【0121】
本発明の薬学的組成物は、癌又は癌転移の予防又は治療のために単独で、又は手術、ホルモン療法、化学療法、及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【0122】
本発明に係る癌、癌転移の診断と予後の評価は、生物学的試料中でKRS蛋白質(特に、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域)を検出することにより行うことができる。
【0123】
本発明において、用語「診断」は、病理状態の存在又は特徴を確認することを意味する。本発明で前記診断は、癌又は癌転移の発症の可否、発症の可能性(危険性)及び病の進行段階を確認することである。
【0124】
「検出」については、前述した通りであり、前記生物学的試料は、血液及び生物学的起源の他の液状試料、生検標本、組織培養のような固形組織試料又はそこから由来した細胞が含まれる。より具体的には、例えば、これに限定されないが、組織、抽出物、細胞溶解物、全血、血漿、血清、唾液、眼球液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水液、滑液、腹膜液等でもある。前記試料は、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくは、ヒトから得ることができる。前記試料は、検出に使用する前に、前処理することができる。例えば、ろ過、蒸留、抽出、濃縮、妨害成分の不活性化、試薬の添加等を含むことができる。また、前記試料から核酸及び蛋白質を分離して検出することができる。
【0125】
本発明に係る抗体又はその断片は、診断キットとして提供することができ、前記キットは、当業界に抗体又は特定な結合ドメインを有するペプチドを構成要素として提供する分析キットで公知されているものであれば、その種類は特に限定されないが、例えば、例えば、ウェスタンブロット、ELISA、放射性免疫分析法、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、細胞免疫染色、免疫沈殿分析法、補体固定分析法、FACS又は蛋白質チップ用キット等を含む。
【0126】
本発明の抗体又はその断片は、前記キット、すなわち、診断、分析を実行するための診断キットで、使用説明書と共に、あらかじめ指定された量で試薬の包装された組み合わせに使用することができる。抗体が酵素に標識された場合に、キットは、基質及び発色団又は蛍光団を提供する基質前駆体としての酵素によって要求される補助因子(cofactor)を含むことができる。また、安定化剤、緩衝液(例えば、遮断緩衝液又は溶解緩衝液)等のような添加剤が含まれることもある。様々な試薬の相対的な量は、分析の感度を十分に最適化させる試薬の溶液内濃度を提供するために幅広く変化することができる。試薬は、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含む一般的に凍結乾燥された乾燥粉末として提供されることができる。
【0127】
また、本発明は、前記抗体が、野生型ヒトIgG Fc領域のFc変異体を含むポリペプチドであって、前記Fc変異体は、配列番号126で表示される野生型ヒトIgG1 Fc領域のL117A、L118A、T182A、P212G、又は配列番号138で表示されるヒトIgG4 Fc領域のT179Aである1以上の追加のアミノ酸置換を含み、前記ポリペプチドは野生型IgG Fc領域を含むポリペプチドに比べてADCC/CDC機能が減少するポリペプチドを含むことを特徴とする。
【0128】
本発明において、前記Fc領域は、不変領域の一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC-末端領域を意味し、野生型配列のFc領域と変異体Fc領域を有する。本発明では、「Fc変異体」は、Fcドメインに修飾を含むポリペプチドを示す。本発明のFc変異体はそれを構成するアミノ酸修飾により定義される。具体的に、L118Aは親Fcポリペプチドに比べて位置118でロイシンがアラニンに置換されるFc変異体であり、T182Aは位置182でトレオニンがアラニンに置換されるFc変異体であり、P212Gは位置212でプロリンがグリシンに置換されるFc変異体である。アミノ酸修飾は、アミノ酸付加、アミノ酸欠失、又はアミノ酸置換でもある。アミノ酸置換は、自然発生的アミノ酸及び非自然発生的アミノ酸を含むことができる。変異体は、非自然的アミノ酸を含むこともある。
【0129】
前記「アミノ酸置換」は、所定のアミノ酸配列内から1以上の既存のアミノ酸残基の更なる相異な「代替」アミノ酸残基による置換を示す。代替残基又は残基は、「自然発生的アミノ酸残基」(すなわち、遺伝符号により符号化される)でもあり、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選ばれることができる。
【0130】
前記「ADCC/CDC機能」は、抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(Antibody-dependent cellular cytotoxicity、ADCC)、補体依存性細胞毒性(complement-dependent cytotoxicity、CDC)の機能を意味する。前記「補体依存性細胞毒性」(CDC)とは、補体が存在する状態で本発明の抗体による抗原発現細胞の溶解を意味する。「抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)」は、Fc受容体(FcRs)を発現する非特異的細胞毒性の細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が標的細胞で結合された抗体を認識し、従って、前記標的細胞を溶解することになる細胞媒介性反応を意味する。CDC及びADCCは、当業界で公知されており、使用可能な分析法を用いて測定することができる。(参考資料の例:US5,500,362及び5,821,337、及びClynesetal. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. (USA)95:652-656)。抗体の不変領域は、補体を固定させて細胞依存性細胞毒性を媒介する抗体の能力に重要である。よって、抗体のアイソタイプ(isotype)は、抗体が細胞毒性を媒介することの好ましさに基づいて選択できる。
【0131】
具体的には、本発明の前記抗体は、
配列番号140、142、144、146、148、150、152で表示されるアミノ酸配列から選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号91で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号140、142、144、146、148、150、152で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号107で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号140、142、144、146、148、150、152で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号154、156、158、160、162、164、166で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号107で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号154、156、158、160、162、164、166で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号168、170、172、174、176、178、180に表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号182、184、186、188、190、192、194で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号224、226、228、230、232、234、236で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号210、212、214、216、218、220、222で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号109で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号224、226、228、230、232、234、236で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号224、226、228、230、232、234、236で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号113で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号224、226、228、230、232、234、236で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号115で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号238、240、242、244、246、248、250で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号238、240、242、244、246、248、250で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号113で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号238、240、242、244、246、248、250で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号115で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖;又は
配列番号196、198、200、202、204、206、208で表示されるアミノ酸配列のうち選ばれた1以上のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号111で表示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体である。
【0132】
本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療用組成物及び免疫細胞の移動関連疾患の診断用組成物を提供する。
【0133】
本発明において、用語「免疫細胞の移動関連疾患」は、当業界に過度の免疫細胞の移動(又は/及び浸潤)が主要な発症機序であることが知られているものであれば、その具体的な種類は、特に限定されないが、例えば、心血管疾患、線維化疾患、炎症性疾患、及びアルポート症候群(Alport syndrome)からなる群から選択されることもある。
【0134】
前記心血管疾患は、その具体的な種類は特に限定されないが、例えば、高血圧(高血圧症による炎症性合併症を含む)、肺高血圧症、アテローム動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、虚血性脳血管疾患、細動脈硬化及び中膜硬化からなる群から選択されてもよい。
【0135】
前記線維化疾患は、その具体的な種類は特に限定されないが、例えば、硬皮症(scleroderma)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、クローン病(Crohn’ disease)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)、骨髄線維症(myelofibrosis)、肺線維症(pulmonary fibrosis)、肝臓線維症(hepathic fibrosis)、肝硬変(liver cirrhosis)、腎臓線維症(kidney fibrosis)、糸球体硬化症、筋線維症(myofibrosis)、心臓線維症、間質性線維化症、膵臓線維化症、脾臓線維化症、縦隔線維化症、血管線維化症、皮膚線維化症、眼線維化症、黄斑変性症、関節線維化症、甲状腺線維化症、心内膜心筋線維化症、腹膜線維化症、後腹膜線維化症、進行腫瘤性線維化症、腎性全身線維化症、全身性エリテマトーデス(systemiclupus erythematosu)、遺伝性線維症、感染性線維症、刺激性線維症、慢性自己免疫による線維症、臓器移植時の抗原不適合による線維症、外科手術による線維性合併症、高脂血症による線維症、肥満による線維症、糖尿病性線維症、高血圧による線維症及びステント挿入時の線維化による閉塞からなる群から選択されてもよい。
【0136】
本発明では、前記炎症性疾患は、その種類が特に制限されないが、好ましくは、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、皮膚炎(例えば、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬症等)、糖尿病性眼疾患(糖尿病性網膜症等)、腹膜炎、骨髄炎、蜂巣炎、髄膜炎、脳炎、膵炎、外傷誘発ショック、気管支喘息、鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、肺炎、胃炎、腸炎、嚢胞性線維症、脳出血(卒中、脳卒中等)、気管支炎、細気管支炎、肝炎(肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis)等)、腎炎(糖尿病性腎不全等)、蛋白尿症、関節炎(乾癬性関節炎、骨関節炎等)、神経炎(糖尿病性神経障害、多発性硬化症等)、痛風、脊椎炎、ライター症候群、結節性多発動脈炎、血管炎、ルー・ゲーリック病、ウェゲナー育児腫症、過サイトカイン血症(hypercytokinemia)、リウマチ性多発性筋肉痛、関節細胞動脈炎、カルシウム結晶沈着関節症、苛性痛風、非関節リウマチ、粘液嚢症、腱鞘炎、上顆炎症(テニス肘)、神経障害性関節疾患(Charcot's joint)、出血性関節症(hemarthrosis)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、肥厚性骨関節症、多中心性心細網組織球腫、サルコイドーシス(surcoilosis)、血色素症、鎌状赤血球症、高脂タンパク血症、低ガンマグロブリン血症、副甲状腺機能亢進症、末端巨大症、家族性地中海熱、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、回帰熱、乾癬、多発性硬化症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群、多臓器不全、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、急性肺損傷(acute lung injury)、及び気管支肺形成障害(broncho-pulmonary dysplasia)からなる群から選択されてもよく、また、慢性炎症性疾患を含む。
【0137】
本発明では、自己免疫疾患は、リウマチ性関節炎、全身性硬皮症、全身エリテマトーデス、乾癬、喘息、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、クローン病、多発性硬化症、皮膚筋炎、膠原病、血管炎、関節炎、育児腫症、臟器特異的自己免疫病変、潰瘍性大腸炎、及びGvHD(移植片対宿主反応疾患:graft-versus-host disease)からなる群から選択されてもよい。
【0138】
前記慢性炎症性疾患は、前述した炎症性疾患の種類を参照して、これらの慢性(chronic)化された状態を含む意味であり、それらの好ましい一例としては、喘息、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬症、骨関節炎、痛風、乾癬性関節炎、乾癬性、非アルコール性脂肪肝炎、慢性閉塞性肺疾患、鼻炎、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎不全、糖尿病性神経障害、及び多発性硬化症等があるが、これらに限定されない。
【0139】
また、本発明の抗体は、免疫細胞の移動関連疾患で闘病中である個体に薬学的に有効な量で投与することができる。前記「薬学的に有効な量」は、陰性対照群に比べてその以上の反応を示す量を示し、好ましくは、免疫細胞の移動関連疾患を治療するのに十分な量を示す。本発明の抗体又はその断片の総有効量、前記組成物の剤形、投与方法及び投与経路は、前記にて記載されている。
【0140】
本発明の薬学的組成物は、免疫細胞の移動関連疾患の予防又は治療のために単独で、又は手術、ホルモン療法、化学療法、及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【0141】
本発明に係る免疫細胞の移動関連疾患の診断及び予後の評価は、生物学的試料のうち、KRS蛋白質(特に、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域)を検出することにより行うことができる。
【0142】
また、本発明は、癌及び癌転移の予防又は抑制用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0143】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、癌及び癌転移の予防又は抑制方法を提供する。
【0144】
また、本発明は、癌又は癌転移診断用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0145】
本発明は、
a)癌転移が疑われる個体(被検体)から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体の前記抗体、又はその断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現レベルを正常対照群と比べて、KRS蛋白質の発現レベルが増加する場合に癌及び癌転移が発生したと診断する段階を含む、癌及び癌転移の診断方法を提供する。
【0146】
本発明は、免疫細胞の移動関連疾患の治療用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0147】
本発明は、免疫細胞の移動関連疾患の診断用製剤を製造するために前記抗体又はその断片の使用を提供する。
【0148】
本発明は、前記抗体又はその断片を含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、免疫細胞の移動関連疾患の治療方法を提供する。
【0149】
本発明は、
a)免疫細胞の移動関連疾患が疑われる個体から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体の前記抗体又はその断片を含む組成物を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;及び
d)前記KRS蛋白質の発現レベルを正常対照群と比べて、KRS蛋白質の発現レベルが増加する場合には、免疫細胞の移動関連疾患であると診断する段階を含む、免疫細胞の移動関連疾患の診断方法を提供する。
【0150】
一実施態様では、本発明は下記の段階を含む癌及び癌転移の診断と治療の方法を提供する:
a)癌転移が疑われる個体(被検体)から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体の前記抗体又はその断片を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;
d)前記KRS蛋白質の発現レベルを正常対照群と比べて、KRS蛋白質の発現レベルが増加する場合には、癌と癌転移が発生したと診断する段階と、及び
e)前記診断された個体について癌及び癌転移を治療するための治療薬の投与、又は手術を通じて前記疾患を治療する段階。
【0151】
一実施態様では、本発明は下記の段階を含む、免疫細胞の移動関連疾患の診断と治療の方法を提供する:
a)免疫細胞の移動関連疾患が疑われる個体から生物学的試料を収得する段階;
b)前記試料又は個体の前記抗体又はその断片を投与する段階;
c)前記b)段階の試料又は個体でKRS蛋白質の発現レベルを検出する段階;
d)前記KRS蛋白質の発現レベルを、正常対照群に比べて、KRS蛋白質の発現レベルが増加する場合には、免疫細胞の移動関連疾患であると診断する段階と、及び
e)前記診断された個体について免疫細胞の移動関連疾患を治療するための治療薬の投与、又は手術を通じて前記疾患を治療する段階。
【0152】
前記e)段階は、前記d)段階で疾患が診断された個体に治療薬の投与や手術等の手段を通じて前記疾患の治療を行う段階である。
【0153】
本発明の前記「治療」は、癌及び癌転移又は免疫細胞の移動関連疾患の症状を改善させることを包括的に示す。これは、癌及び癌転移又は免疫細胞の移動関連疾患を治癒したり、実質的な予防、又は状態の改善を含むことができ、前記疾患から始まった一つの症状又はほとんどの症状を緩和させたり、癒したり予防することを含むが、これに限定されない。
【0154】
前記治療薬は、一般的に癌、癌転移又は免疫細胞の移動関連疾患の治療に対して使用される薬剤の種類であれば、その種類は特に限定されず、一実施態様では、抗癌剤、抗炎症剤(代表的な一例として、ステロイド剤等)及び肺動脈性高血圧症治療剤等からなる群から選ばれる1以上の薬物を処理するものでもあるが、これらに限定されない。前記治療薬は、「治療学的に有効な量」で個体に投与され、前記治療学的に有効な量は、当業者が薬物の固有の性質、投与経路、及び治療回数のみならず、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌や排泄率等、さまざまな要因を考慮して、患者の有効投与量が決められる。前記治療薬の投与経路は特に限定されず、経口又は非経口的に投与されることでもあり、局所的投与のみならず全身経路の投与を全て含む。前記非経口的投与は、これに限定されないが、一例として、鼻腔内薬物塗布、皮下注射等であってもよく、別の例として、筋肉内注射、静脈注射等の方法を用いてもよい。
【0155】
本発明の用語「~を含む(comprising)」は、「含有する」又は「特徴とする」と同じように使用され、組成物又は方法において、記載されていない追加の成分、要素又は方法の段階を排除しない。用語「~で構成される(consisting of)」は、個別に記載されていない追加の要素、段階又は成分等を除外することを意味する。用語「本質的に構成される(consisting essentially of)」は、組成物又は方法の範囲において、記載された成分の要素又は段階に加えて、この基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分要素又は段階を含むことを意味する。
【発明の効果】
【0156】
従って、本発明は、本明細書で記載される特定のCDR(相補性決定部位)配列を有し、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に特異的に結合する抗体を提供する。本発明の方法は、従来の抗体よりもKRS N-末端に親和性が高い抗体を製造するのに有用に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【
図1】
図1は、KRS N末端標的抗体N3のKRS N末端に対する親和性の向上のためにN3の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)のそれぞれに基づいて構築された2つのライブラリの選別及び構築の戦略を模式図で表したものである。
【
図2a】
図2aは、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)を利用して選別された各段階のライブラリ発現酵母に対して、10nM、1nM又は0.1nM GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドと分析した結合能をフローサイトメトリー(FACS)で分析した結果を示したものである。
【
図2b】
図2bは、最終的に選別されたライブラリのうち、それぞれ47個の個別クローンを発現する酵母に対して、0.1nM GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドと結合能をフローサイトメトリーで分析した結果を示したものである。
【
図3a】
図3aは、KRS(1-72)ペプチドに高親和性と特異性を有するもので選別されたN3-1抗体、N3-3抗体、N3-4抗体及びN3-5抗体のKRSのN末端に対する親和性を測定するためのELISAの結果を示したものである。
【
図3b】
図3bは、KRS(1-72)ペプチドに高親和性と特異性を有するもので選別されたN3-1抗体、N3-3抗体、N3-4抗体及びN3-5抗体のKRSのN末端に対する親和性を測定するためのELISAの結果を示したものである。
【
図4】
図4は、N3抗体とN3-1抗体の細胞移動阻害効果を確認した結果を示したものである。
【
図5】
図5は、N3抗体とN3-1抗体のKRS親和度を表面プラズモン共鳴法(SPR)で比較した結果を示したものである。
【
図6】
図6は、MACSとFACSを利用して選別された各段階のライブラリ発現酵母に対して、10nM、1nM又は0.1nM GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドと分析した結合能をフローサイトメトリー(FACS)で分析した結果を示したものである。
【
図7】
図7は、N3-1抗体、N3-6抗体、N3-7抗体、N3-8抗体及びN3-9抗体のKRSのN末端に対する親和性を測定するためのELISAの結果を示したものである。
【
図8】
図8は、N3-6抗体、N3-7抗体、N3-8抗体、N3-9抗体のKRS親和性をSPR法で比較した結果を示したものである。
【
図9】
図9は、N3抗体、N3-1抗体、N3-6抗体、N3-7抗体、N3-8抗体、N3-9抗体の細胞移動阻害効果を確認した結果を示したものである。
【
図10】
図10は、N3抗体とN3-8抗体を用いて、乳癌細胞のエンドサイトーシス(endocytosis)をIHC法で確認した結果を示す。
【
図11】
図11は、N3抗体投与による肺高血圧症(PAH)モデルの右心室収縮期末圧力(right ventricularend-systolicpressure;RVESP)の変化を示す(MockIgG:陰性対照群、Ab 1mpk:N3抗体1mpk、Ab 10mpk:N3抗体10mpk、シルデナフィル:陽性対照群)。
【
図12】
図12は、肺高血圧症(PAH)モデルでN3抗体投与により免疫細胞の移動及び浸潤が減少したことをIHC染色で確認した結果である。
【
図13】
図13は、急性肺損傷のマウスモデルのBALF(Bronchoalveolar lavage fluid)内に増加した総(total)免疫細胞の数が、N3抗体(KRS N-末端結合抗体)の処理濃度依存的に減少したことを確認した結果を示す。
【
図14】
図14は、急性肺損傷のマウスモデルのBALF内に、特に多く増加している好中球(ニュートロフィル)が、N3抗体(KRS N-末端結合抗体)の処理濃度依存的に減少したことを確認した結果を示す。
【
図15】
図15は、急性肺損傷のマウスモデルの肺組織内に増加したマクロファージ(IM、CD11b+/F4/80+)の移動及び浸潤が、N3抗体(KRS N-末端結合抗体)の処理濃度依存的に減少したことをFACSで確認した結果を示す。
【
図17】
図17は、急性肺損傷のマウスモデルの肺組織内で行われた組織線維化がN3抗体(KRS N-末端結合抗体)の処理によって抑制されることを示す組織画像である。各実験群及び対照群の組織は、マッソントリクローム染色で処理した後に顕微鏡で観察した。
【
図18】
図18は、N3-8、N3-8-1抗体とADCC/CDC機能を除去したN3-8-1抗体処理によって細胞移動が抑制されることを確認した結果を示す。
【
図19】
図19は、N3-8、N3-8-1抗体とADCC/CDC機能を除去したN3-8-1抗体処理によって癌細胞の細胞移動が抑制されることを確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0158】
以下、本発明を詳細に説明する。
但し、下記の実施例は、本発明を例示するものにすぎず、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0159】
実施例1:親和性を高めるための酵母細胞表面の発現ライブラリ構築
従来のKRSのN末端を標的する抗体N3(韓国出願番号2018-0035446)のN末端に対する親和性は、約150nMのレベルであり、完全なIgG形態の様々な抗体の親和性に比べて低レベルである。これに対して、親和性を高めてより良い効果を有する抗体を製造するために、N3抗体の軽鎖可変領域と重鎖可変領域を改良した。
【0160】
ホモロジーモデルを利用して、N3のおおよその構造を予測し、これを通じて抗原結合に重要な役割をすると予測されるCDR部位に無作為な突然変異を導入した。具体的に、重鎖可変領域をベースにしたライブラリでは、CDR3の残基について20個すべてのアミノ酸配列を含むことができる縮退コドン(degenerated codon)であるNNKを使用した。軽鎖可変領域をベースにしたライブラリでは、CDR3の残基について20個すべてのアミノ酸配列を含むことができる縮退コドンのNNKを使用した。
【0161】
具体的に、デザインされたライブラリをコードするDNAは、PCR法を用いて増幅した後、エタノール沈殿法を用いて濃縮した。C-末端にaga2蛋白質が発現される相同性接合のための酵母表面発現ベクター(C-aga2)は、NheIとMluIで制限酵素処理をし、アガロースゲル抽出法を用いた精製、及びエタノール沈殿法を用いた濃縮を行った。それぞれのライブラリコードDNA 12μgに対して制限酵素処理された4μgのベクターを酵母表面発現用酵母EBY100に電気穿孔法で形質転換し、連続希釈を通じて選択培地SD-CAA(20g/Lグルコース、6.7g/L Yeast nitrogen base without amino acids、5.4g/L Na
2HPO
4、8.6g/L NaH
2PO
4、5g/Lカザミノ酸)に育ったコロニーの数を測定して、ライブラリのサイズを確認した。
この過程を
図1に示した。
【0162】
実施例2:GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに対する親和性が改良された軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)の選別
GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドを抗原として用いて、前記実施例1で構築された2種類のN3ベース親和性改良ライブラリを選別した。
【0163】
具体的に、1次FACSスクリーニングのために、10nMレベルに精製されたGSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドをSG-CAA(20g/Lガラクトース、6.7g/L Yeast nitrogen base without amino acids、5.4g/L Na2HPO4、8.6g/L NaH2PO4、5g/Lカザミノ酸)培地を用いて、細胞表面に一本鎖Fab(scFab)形態の軽鎖可変領域のライブラリ発現を誘導した酵母に常温で1時間反応させた。その後、GST結合されたKRS(1-72)ペプチドとライブラリを発現する酵母を、PEが接合されたストレプトアビジン(Streptavidin-R-phycoerythrin conjugate、SA-PE)に4℃で20分間反応させて、FACS(FACS Caliber;BD biosciences)を通じて浮遊化した。その後、同じ方法で、1nMのGSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドで2次FACSスクリーニングを行い、0.5nMのGSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドで3次FACSスクリーニングを行った。
【0164】
その結果、
図2a及び
図2bに示した通り、FACSを用いた選別過程を通じて、N3抗体に比べて重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)に依存的に、GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに対して高い親和性を有するクローンが選別されることを確認した。個別クローン結合能の分析を通して、GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに高親和性と特異性を表す3つのユニークなクローン(N3-1、N3-3、N3-4)を選別した。また、それらの軽鎖可変領域と重鎖可変領域を互いに組み合わせて別の1つのユニークなクローン(N3-5)を構築した。つまり、計4個のユニークなクローン(N3-1、N3-3、N3-4、N3-5)を選別した。
【0165】
GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに高い結合能を示す4つの個別クローンの軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のCDR配列を表1に示し、重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列を表2に示した。
【0166】
【0167】
【0168】
また、KRSのN末端に対する親和性の増加の有無を確認するために、KRSのN末端に対する親和性測定用のELISAを行った。
【0169】
具体的に、KRSのN末端部分(1-72)を96ウェルEIA/RIAプレート(COSTARCorning)に1時間、25℃で結合させた後、PBS(pH 7.4、137mM NaCl、12mMリン酸塩、2.7mM KCl)(SIGMA)で10分間3回洗浄した。その後、4% BSAPBS(4% Bovine Serum Albumin、pH 7.4、137mM NaCl、12mMリン酸塩、2.7mM KCl)(SIGMA)で1時間結合させた後、PBSで10分間、3回洗浄した。次に、IgG形態のKRS N末端標的抗体であるN3、N3-1、N3-3、N3-4、N3-5を結合させた後、0.1% PBSTで10分間、3回洗浄した。標識抗体として、HRPが接合された抗-ヒト抗体(Horse radish peroxidase-conjugated anti-humanm Ab)(SIGMA)を使用した。次に、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)(Sigma)で反応させて450 nmの吸光度で測定し、定量した。
【0170】
その結果、
図3a及び
図3bに示した通り、野生型であるN3抗体に比べて、突然変異であるN3-1、N3-3、N3-4、N3-5抗体の親和性が増加したことが確認できた。陰性対照群として使用されたGST又はNRP1-b1b2に対しては、すべてのクローンが結合していないことが示された。突然変異抗体であるN3-1、N3-3、N3-4、N3-5間のKRSの結合力には大きな差がないことを示した。
【0171】
実施例3:N3抗体とN3-1抗体の親和性比較
3-1.抗体の細胞移動阻害効果
前記実施例2のN3変異抗体のうち、N3-1抗体を、通常の方法を用いてIgG抗体に変換した。変換したIgG抗体を用いて以下の実験を行った。
【0172】
細胞移動は、通常に用いられるポリカーボネート膜(細孔径8.0μm、Costar)を有するトランズウェル24ウェル・チャンバーを用いて測定した。トランズウェルチャンバーで下側ウェル(lower well)を10μgラミニン(Laminin)でコーティングした。次に、A549細胞を無血清(serum-free)RPMI培地に懸濁し、各ウェル当り1x105細胞の濃度で上側チャンバーに入れた。N3及びN3-1IgG、ヒトモックIgG(human mock IgG、対照群)をそれぞれ10 nM又は100 nMで前記チャンバーに処理して24時間培養した。膜の上に存在する非遊走細胞を綿棒で除去した。次に、PBSで2回洗浄し、70%MeOH(in PBS)で30分間処理した。PBSで2回洗浄した後、ヘマトキシリン溶液で30分間処理した。次に、チャンバーをDWで3回洗浄した後、チャンバー内の膜を切り出し、スライドガラスの上に取り付けて観察した。
【0173】
その結果、
図4に示した通り、N3-1抗体がN3抗体に比べてA549細胞の移動を著しく抑制することが確認できた。
【0174】
3-2.抗体のKRS親和性の効果
KRS断片(1-207 aa)精製蛋白質を抗原として使用し、SPR法を通じてN3とN3-1抗体との結合力を分析した。
【0175】
SPR実験は、25℃で、SeriesSセンサーチップCM5(GE Healthcare)を装着したBiacoreT200(GE Healthcare)を用いて行った。アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いて抗体をチップに固定した後、抗原を4.8 nM~1250 nMの範囲で、PBS溶液で4倍希釈して60秒間流した。その後、300秒間PBSを流した。得られたデータはBiacoreT200Evaluationソフトウェアv2.0(GE Healthcare)で分析した。
【0176】
その結果、
図5に示した通り、N3-1抗体のKD値は31 nMと測定され、N3抗体よりもKRS蛋白質に対する結合力が増加することが確認できた。
【0177】
実施例4:親和性を高めるための酵母細胞表面発現ライブラリの構築(N3-1抗体)
前記実施例2で得られたKRSのN末端を標的するN3-1、N3-3、N3-4、N3-5抗体は、KRSに対する親和性が類似しており、N3-1抗体の結果で示したように、約31 nMレベルの親和性を有するものだと判断される。これは、完全にIgG形態の様々な抗体の親和性に比べると、依然として低レベルである。これを増加させて、より効果的な抗体を得るために、抗体の重鎖可変領域を集中的に改良することを試みた。
【0178】
軽鎖可変領域配列をN3-3に固定し、ホモロジー・モデリングを用いてN3-3のおおよそのモデリング構造を予測し、これを通じて、抗原結合に重要な役割をするものとして予測されるCDRに無作為な突然変異を導入した。
【0179】
具体的に、重鎖可変領域のCDR2とCDR3の残基を20個の全てのアミノ酸配列が含まれる縮退コドンのNNKを使用し、実施例1と同じ方法でライブラリを構築した。
【0180】
実施例5.GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに対する親和性が改良された軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)の選別
GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドを抗原として用い、前記実施例4で構築された2種類のN3-3ベースの親和性改良ライブラリを選別した。N3-3とN3-1の親和性がほぼ同じであると判断され、配列がほぼ同じであるため、抗体の比較実験はN3-1で行った。
【0181】
具体的に、GTPが結合されたKRS(1-72)ペプチドと結合されたライブラリを発現する酵母を、ストレプトアビジン・Microbead(商標)(Miltenyi Biotec)に4℃で20分間反応させた後、MACS(magnetic activated cell sorting)を用いて、GTPが結合されたKRS(1-72)ペプチドに高親和性を有する重鎖可変領域を発現する酵母を浮遊化した。前記選別されたライブラリを発現する酵母をSG-CAA(20 g/Lガラクトース、6.7 g/L Yeast nitrogen base without amino acids、5.4 g/L Na2HPO4、8.6 g/L NaH2PO4、5 g/Lカザミノ酸)培地で培養して、ライブラリの発現を誘導した。次に、実施例2と同じ方法を使ってFACSでスクリーニングした。
【0182】
10nMのGSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドで1次FACSスクリーニングを行い、1nMのGSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドで2次FACSスクリーニングを行い、0.5nMのGSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドで3次FACSスクリーニングを行い、0.1nMのGSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドで4次FACSスクリーニングを行った。
【0183】
その結果、
図6に示した通り、MACSとFACSを用いた選別過程を通じて、N3-1抗体に比べ、GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに対して重鎖可変領域(VH)依存的に高い親和性を有するクローンが選別されることを確認し、個別クローンの結合能分析を通じて、GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに高親和性及び特異性を有する4つのユニークなクローン(N3-6、N3-7、N3-8、N3-9)を選別した。
【0184】
GSTが結合されたKRS(1-72)ペプチドに高い結合能を示す4つの個別のクローンの軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のCDR配列を表3に示し、重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列を表4に示した。
【0185】
【0186】
【0187】
また、KRSのN末端に対する親和性の増加の程度を確認するために、実施例2と同様の方法でELISAを行い、KRSのN末端に対する親和性を測定した。
【0188】
具体的には、KRSのN末端部分(1-72)を96ウェルEIA/RIAプレート(COSTAR Corning)に1時間、25℃で結合させた後、PBSで10分間、3回洗浄した。その後、4%BSAPBSで1時間結合させた後、PBSで10分間、3回洗浄した。次に、IgG形態のKRS N末端標的抗体であるN3-1、N3-6、N3-7、N3-8、N3-9を結合させた後、0.1%PBSTで10分間、3回洗浄した。HRPが接合された抗-ヒト抗体を用い、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)で反応させて450 nmの吸光度で測定し定量した。
【0189】
その結果、
図7に示した通り、N3-1抗体に比べて突然変異であるN3-6、N3-7、N3-8、N3-9抗体の親和性が増加することが確認できた。陰性対照群として用いられたNRP1-b1b2に対しては、すべてのクローンが結合しないことが示された。
【0190】
実施例6:N3-1抗体とN3-6、N3-7、N3-8、N3-9抗体の親和性を比較
6-1.抗体のKRS結合の比較
KRSエピトープペプチドF4(EPKLSKNELKRRLKAEKKVAEKEAKQKE:配列番号117)を抗原エピトープとして用いて、SPR法にてN3、N3-6、N3-7、N3-8、N3-9抗体との結合力を分析した。SPR実験は、前記実施例の3-2と同じ方法で行い、エピトープをPBS溶液に希釈し、15.7 nM~4000 nMの範囲で2倍希釈して90秒間流した。その後、2400秒間PBSを流した。得られたデータはBiacoreT200Evaluationソフトウェアv2.0(GEHealthcare)で分析した。
【0191】
その結果、
図8に示した通り、N3-8抗体のKDが最も優れるものとして示され、N3-9、N3-6抗体が同様のKD値を示し、N3-7抗体のKD値が最も高く示された。N3-6抗体の解離(dissociation)がN3-7とN3-9より長く、結合がより長く維持されるセンサーグラムを示した。
【0192】
また、抗体エピトープ結合に重要な作用をする残基を確認するために、KRSエピトープペプチドF4(配列番号117)の単一アミノ酸をそれぞれアラニン(alanine、A)に置換したペプチド(peptide)を用いてELISAを行った。その結果、KRSエピトープペプチドF4から各抗体との結合に重要な作用をする残基が確認できた。
【0193】
6-2.抗体の細胞移動阻害効果
前記実施例3-1と同じ方法で実験を行った。前記実施例で製造したN3-6、N3-7、N3-8、N3-9抗体を通常の方法にてIgGに変換した。変換したIgG抗体を用いて以下の実験を行った。
【0194】
各ウェル当り1x105細胞の濃度で上側チャンバーに入れた後、N3 IgGを100 nMで処理し、N3-1、N3-6、N3-7、N3-8及びN3-9 IgG、ヒトモックIgG(対照群)をそれぞれ10 nMで前記チャンバーに処理し、24時間培養した。膜の上側に存在する非遊走細胞を綿棒で除去した。次に、PBSで2回洗浄し、70%MeOH(in PBS)で30分間処理した。PBSで2回洗浄した後、ヘマトキシリン溶液で30分間処理した。その後、チャンバーをDWで洗浄した後、チャンバー内の膜をスライドガラスの上に取り付けて観察した。
【0195】
その結果、
図9に示した通り、N3-6、N3-7、N3-8、N3-9抗体が、N3-1抗体に比べて、細胞の移動を著しく抑制することが確認できた。そして、N3-6、N3-7、N3-8、N3-9抗体では、細胞移動阻害効果において、大きな差異を示さなかった。
【0196】
実施例7:N3-8抗体の配列精製(sequence refinement)
7-1.N3-8抗体配列の変異体作製
前記実施例でN3-8抗体の親和性が最も優れるものであることを確認した。そこで、N3-8抗体の生産性、安定性等の物性を確認するために、以下のように実験を行った。
【0197】
N3-8抗体配列において安定性に影響を及ぼすと予想される配列に変異を誘導した。その結果、N3-8抗体の重鎖配列(HC)に変異が導入された2種類の追加的な重鎖配列を得ることができた。また、変異が導入された3種類の追加的な軽鎖配列が収得できた。そこで、N3-8の配列が変化した7種類の抗体の配列(N3-8誘導体)を、下記の表5及び表6に示した。
【0198】
【0199】
【0200】
7-2.N3-8抗体誘導体の生産とTm測定
前記実施例7-1で収得したN3-8抗体誘導体を発現するベクターを、一過性トランスフェクション(transient transfection)を用いて発現及び精製した。
【0201】
振とうフラスコを用いて、無血清FreeStyle293発現培地(Invitrogen)で浮遊成長するHEK293-F細胞(Invitrogen)をプラスミド及びポリエチレンイミン(Polyethylenimine、PEI)(Polyscience)の混合物でトランスフェクションした。振とうフラスコ(Corning)に200 mLトランスフェクション時に、HEK293-F細胞を2x106細胞/mlの密度で培地100 mlに播種して、150 rpm、8%CO2、37℃で培養した。
【0202】
それぞれのモノクローナル抗体を生産するために適切な重鎖プラスミドと軽鎖プラスミドを、10 ml FreeStyle293発現培地(Invitrogen)に重鎖:軽鎖DNAを1:1、あるいは1:2の割合でトランスフェクションした。1:1の場合、重鎖125μg、軽鎖125μgの総250μg(2.5μg/ml)で希釈し、PEI 750μg(7.5μg/ml)に希釈した10 mlの培地と混合して、室温で10分間反応させた。1:2の場合、軽鎖DNAの濃度を2倍にした。その後、反応させた混合培地を予め100 mlに播種した細胞に入れて4時間、150 rpm、8%CO2、37℃で培養した後、残りの100 mlのFreeStyle293発現培地を追加して6日間培養した。
【0203】
次に、細胞培養液を50 mlチューブに移して3000 rpmで5分間遠心分離を行った。その後、採取した細胞培養上澄み液から蛋白質を精製した。蛋白質Aセファロースカラム(Protein A Sepharose column)に抗体を適用し、PBS(pH 7.4)で洗浄した。0.1 Mグリシン緩衝液を用いてpH 3.0にて抗体を溶出した後、1 M Tris緩衝液を用いて、サンプルをすぐに中和した。溶出した抗体分画は、透析法を通じてPBS(pH 7.4)で緩衝液交換し濃縮した。精製された蛋白質は、280 nmの波長にて吸光度と吸光係数を用いて定量した。
【0204】
また、前記精製した抗体1 mg/mlの濃度で100μlを使用して抗体の熱安定性を測定した。タンパク質サーマルシフト・色素キット(Thermofisher)を利用して、QuantStudio3 Real-time PCR装置(Thermofisher)で4回繰り返しを行った。
【0205】
その結果、下記表7に示した通り、テストを行ったすべてのN3-8抗体誘導体の収率が改善され、N3-8抗体よりも改善されたこと、又は同レベルの高い収率を示した。また、表7のようにTm値を得た。抗体によって熱転移がTm1とTm2で異なって観察されたが、すべてのN3-8抗体誘導体でTm値の増加が示された。
【0206】
これにより、N3-8抗体誘導体がN3-8抗体に比べてより高い収率を有し、熱安定性が改善されたことを確認した。
【表7】
【0207】
前記実施例で使用したIgG全体抗体の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)配列の構成を下記表8に示す。
【0208】
【0209】
7-3.N3-8-1、N3-8-4抗体の親和性を比較
前記実施例6に記載されたように、KRSエピトープペプチドF4(EPKLSKNELKRRLKAEKKVAEKEAKQKE:配列番号117)を抗原エピトープとして使用して、SPR法を通じてN3-8-1、N3-8-4抗体との結合力を分析した。SPR実験は、前記実施例3-2と同じ方法で行い、エピトープをPBS溶液に希釈し、15.7 nM~4000 nMの範囲で2倍希釈して90秒間流した。その後、2400秒間PBSを流した。得られたデータはBiacoreT200Evaluationソフトウェアv2.0(GEHealthcare)で分析した。
【0210】
その結果、下記表9に示した通り、N3-8-1抗体のKDが最も優れることを示した。
【表9】
【0211】
実施例8:抗体の機序を確認
抗体(Ab)の蛍光プローブを結合して4T1乳がん細胞に処理した後、細胞膜の抗-KRS抗体(N3、N3-8)がエンドサイトーシスされることを確認した。
【0212】
Alexafluor488(Thermofisher)蛍光プローブで標識された抗-KRS抗体(N3、N3-8)と対照群であるMockIgG(Thermofisher)1μMを処理し、4時間後に抗体の移動をモニタリングした。このとき、エンドサイトーシスの程度を確認するためにリソソーム・マーカーとしてLysotracker(Thermofisher)を使用し、DAPIは細胞の核の染色を示す。Mockとは異なり、N3とN3-8抗体は、4時間の時点で細胞内に存在することが確認できた。
【0213】
結果として、
図10に示した通り、抗-KRS抗体が細胞膜KRSを認識して素早くエンドサイトーシスでき、これにより、細胞膜のKRSレベルを下げることが確認できた。
【0214】
実施例9:ADCC/CDC機能を除去した抗体の配列の精製
9-1.ADCC/CDC機能を除去した抗体配列の突然変異製作
前記抗体のADCC/CDC機能を除去するために、以下のように実験を行った。前記各抗体の配列にて、重鎖のC領域のADCC/CDC機能を有することが予想される部分に突然変異を導入した。各抗体のADCC/CDC機能を下げるためにIgG1を用いて抗体を作製し、前記抗体の重鎖配列(HC)に変異が導入された5種類の追加的な重鎖配列を得ることができた。また、IgG4が導入された追加的な重鎖配列と、IgG4に変異が導入された追加的な重鎖配列を得ることができた。そこで、各抗体のADCC/CDC機能が除去された突然変異の抗体配列を、それぞれ下記表10に示した。
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0215】
9-2.ADCC/CDC機能を除去した変異体抗体の精製
前記実施例9-1で収得したADCC/CDC機能を除去した突然変異抗体のうち、N3-8-1抗体のADCC/CDC機能を除去した突然変異抗体を発現するベクターを、一過性トランスフェクションを利用して発現及び精製した。
前記実施例7-2に記載された方法に従って振とうフラスコでHEK293-F細胞(Invitrogen)をトランスフェクションした。次に、HEK293-F細胞を2x106細胞/mlの密度で培地に播種して、150 rpm、8%CO2、37℃で培養した。
【0216】
それぞれのモノクローナル抗体を生産するために、適切な重鎖プラスミドと軽鎖プラスミドを10 ml FreeStyle293発現培地(Invitrogen)に重鎖:軽鎖DNAを1:1、あるいは1:2の割合でトランスフェクションした。1:1の場合、重鎖125μg、軽鎖125μg、総250μg(2.5μg/ml)で希釈して、PEI 750μg(7.5μg/ml)を希釈した10 mlの培地と混合し、室温で10分間反応させた。1:2の場合、軽鎖DNAの濃度を2倍にした。その後、反応させた混合培地を事前に100 mlに播種した細胞に入れて、4時間を150 rpm、8%CO2、37℃で培養した後、残りの100 mlのFreeStyle293発現培地を追加して、6日間培養した。
【0217】
次に、細胞培養液を50 mlチューブに移して3000 rpmで5分間遠心分離を行った。その後、採取した細胞培養上澄み液から蛋白質を精製した。蛋白質Aセファロースカラムに抗体を適用し、PBS(pH 7.4)で洗浄した。0.1 Mグリシン緩衝液を用いてpH 3.0にて抗体を溶出した後、すぐに1 M Tris緩衝液を用いてサンプルを中和した。溶出した抗体分画は、透析法を通じてPBS(pH 7.4)で緩衝液を交換し濃縮した。精製された蛋白質は280 nmの波長での吸光度と吸光係数を用いて定量した。
【0218】
また、前記精製した抗体の純度を測定し、タンパク質サーマルシフト・色素キット(Thermofisher)を用いてQuantStudio3 Real-time PCR装置(Thermofisher)で4回繰り返した。
【0219】
その結果、下記表11に示した通り、テストを行ったすべてのN3-8-1抗体変異体の収率が野生型と類似又は高い収率を示し、このうちLALAPGTA突然変異の収率が最も高いことが分かった。また、すべてのN3-8-1抗体突然変異は、野生型抗体と同様なレベルの高い純度を示した。
【0220】
これを通じて、N3-8-1のADCC/CDC機能を除去した抗体がN3-8-1抗体に比べて収率が同様又はより高くて、同様の純度を有することを確認した。
【0221】
【0222】
実施例10:KRS-N末端に特異的に結合する抗体の免疫細胞の移動関連疾患のin vivoモデルにおける効能確認_in vivo肺動脈高血圧モデル
KRS-N末端に特異的に結合する抗体を処理すると、細胞膜の位置のKRSレベルが減少(エンドサイトーシス等を通じて)されることを通じて、免疫細胞の移動/浸潤が阻害されて、結果的に細胞膜のKRSレベルを減少する効果を有するものとして認められた。よって、本発明のKRS-N末端に特異的な抗体(代表的に、N3抗体)は、免疫細胞の移動関連疾患に対して治療効果を示すものであることは明らかであると判断され、これは後述される実施例を通してさらに証明された。
【0223】
実験方法
1)肺動脈高血圧(PAH)モデル製作及び試験物質投与
7週齢のSDラット(オリエントバイオ)にPAHを誘導するためにMCT(monocrotaline)60 mpkを皮下注射した。その後、4つの群に分けて(各群当り5匹で実験)は、それぞれヒトモックIgG(ThermoFisherScientific、陰性対照群)1 mpk、N3 IgG抗体1 mpk、N3 IgG抗体10 mpk、シルデナフィル(陽性対照群)25 mpkを3週間投与した。全ての抗体は、週2回iv注射し、シルデナフィルは毎日経口投与した。
【0224】
2)血流及び血圧測定
3週後、ラットをイソフルランで麻酔し、動物用超精密空気圧測定システム(MPVS Cardiovascular Pressure and Volume system、モデル名:MPVSUltra、製造会社名:Millar Instruments)を利用して血流と圧力を測定した。右心室収縮気圧(RVESP)及び弛緩気圧、左心室の収縮気圧及び弛緩気圧は、専用カテーテル(Mikro-Tip rat pressure catheter、製造会社名:Millar Instruments)を利用して測定した。心拍出量は、血管周囲(perivascular)の血流プローブ(Transonic Flowprobes、製造会社名:Millar Instruments)を用いて測定し、これに対する実験技法は、下記文献に記載されたことと同じ方法で実行された:Pacher P, Nagayama T, Mukhopadhyay P, Batkai S, Kass DA.Measurement of cardiac function using pressure-volume conductance catheter technique in mice and rats., Nat Protoc 2008; 3(9): 1422-34.
【0225】
3)免疫組織化学染色(immunohistochemistry、IHC)
採取した肺を通常的な過程に従ってPFA(paraform aldehyde)に固定させた後、水洗、脱水、透明過程を経てパラフィン浸透させて包埋した。ラットの肺組織パラフィンブロックを3μmの厚さで薄切してスライドを製作した。その後、次のように染色を行った。まず、5分間、3回キシレン処理後、100%エタノール、95%エタノール、90%エタノール、70%エタノール、DWの順に2分間処理してPBSで5分間洗浄した。0.3%H2O2の処理後、サンプルをPBSで5分間、2回洗浄した。0.01 Mクエン酸緩衝液に浸して加熱した後、PBS-T(0.03% tween20)で洗浄した。その後、30分間室温でブロッキング(2%BSA及び2% goat serum in PBS)した。抗-CD68抗体(1:200、ED1 clone、Abcam)で、4℃で一晩染色した。PBS-Tで5分間3回洗浄した後、polymer-HRP anti-mouse envision kit(DAKO)で、4℃で1時間処理した。PBS-Tで3回洗浄した後、DAB基質緩衝液及びDABクロモジェニック20処理をして発色させた。染色された組織を1分間マイヤーヘマトキシリン(Sigma)で処理した後、70%エタノール、90%エタノール、95%エタノール、100%エタノールの順でそれぞれ2分間2回処理した。最後に、5分間、3回キシレン処理した後、光学顕微鏡で観察した。
【0226】
実験結果
10-1.血圧及び心拍出量の変化確認
免疫細胞の浸潤が病理現象と深く関係した疾患であるPAHモデルに、N3モノクローナル抗体を1 mpk又は10 mpkで3週間処理した後(iv、週2回)、右心室収縮期末圧力(right ventricular end-systolic pressure;RVESP)、右心室弛緩期末圧力(right ventricular end-diastolic pressure;RVEDP)、左心室収縮期末圧力(left ventricular end-systolic pressure;LVESP)、左心室弛緩期末圧力(left ventricular end-diastolic pressure;LVEDP)及び心拍出量(cardiac output;CO)を測定して、その結果を表12に示す。
【表15】
【0227】
肺動脈高血圧は、肺動脈が狭くなることにより右心室の圧力が上昇し、結果的に右心室不全をもたらす。また、継続的な高血圧によりその補償機序が破壊されると、右心室肥大に続いて右心室拡張が起きるようになる。これは、心室中隔の移動によって左心室に圧力をもたらすことになり、左心室の拡張期末容積及び心拍出量の減少をもたらすことになる(Korean Circulation J 2007;37:265-270)。結果的に、肺動脈高血圧は、主に右心室と関係するが、左心室の機能とも関連付けられる。
【0228】
PAH患者ではRVESPが増加し、これは、本実験のPAH動物モデルでも確認された。これに対して
図11に示した通り、N3抗体(KRS-N末端特異的結合抗体)は両方の濃度の全てから有意にRVESPを減少させ、特に陽性対照群の薬物であるシルデナフィルよりRVESPを減少させる効果が優れていた。
【0229】
また、N3抗体(KRS-N末端特異的結合抗体)の投与による左心室収縮期末圧力(LVESP)の減少は観察されず、むしろ本発明の抗体を投与した群では、
図13に示した通り、LVESPが有意に増加する結果を示した。これは、従来の肺動脈高血圧症の治療剤として使われているシルデナフィルの場合、肺動脈の拡張だけでなく、全身動脈の拡張も誘発して、全身血圧(systemic blood pressure)を低下させる危険性があるのと対比されるものである。すなわち、本発明のN3抗体は、シルデナフィルに比べて、全身動脈圧(systemic artery pressure)に及ぼす影響が低い傾向を示すことを確認し、これらの効果は、臨床現場においてシルデナフィル投与時に低血圧のリスクを懸念している状況があることを考慮したとき、治療薬剤の有利な特性になるものと思われた。他にも、肺動脈高血圧が甚だしい場合、収縮期右心室不全(systolic RV failure)が発生することにより、低心拍出量(cardiac output)及び全身低血圧(systemic hypotension)が伴われることがある。これに対して、本発明のN3抗体による肺動脈高血圧を好転させる治療によって心拍出量と全身血圧が上昇して、血圧が正常化される効果が予想される。
【0230】
総合して、これにより、本発明のKRS-N末端結合抗体(特に、N3抗体)の投与は、従来の治療薬物の副作用の可能性を改善してPAHの症状緩和及び治療効果を示すことを確認した。
【0231】
10-2.心超音波検査(Echocardiography)
右心室の圧力の過負荷を示唆するD-shaped left ventricleの所見は、MCT単独投与群(つまり、実験物質非投与PAHモデル)で3匹、MCT+シルデナフィル投与した群の3匹からそれぞれ観察され、治療抗体(N3抗体)を投与した群では観察されなかった。
【0232】
他にも、下記表13に示した通り、各群の体重は、ほぼ似通った程度に増加して有意的な差がなかった。つまり、治療抗体の投与を通じた非正常的な体重減少をはじめとする異常兆候を示唆する所見は観察されなかった。
【表16】
【0233】
10-3.単核球/大食細胞の移動及び浸潤の程度の確認
各実験群の肺組織を利用して、単核球/大食細胞マーカーのCD68のIHC染色を行った。実験結果を
図12に示した通り、本発明のN3抗体(KRS-N末端結合抗体)処理群は、単核球/大食細胞の肺組織浸潤を明確に減少させたことを確認し、これらの効果はシルデナフィルより著しく優れたことを確認した。
【0234】
実施例11:KRS-N末端に特異的に結合する抗体の免疫細胞の移動関連疾患invivoモデルにおける効能の確認_急性肺損傷モデル
実験方法
1)LPS誘導急性肺損傷モデル作成及び試験物質投与
急性肺損傷モデルは、7週齢の雄C57BL/6マウス(ヅヨルバイオ)にLPS(Sigma)2.5 mg/kgを気管内注入する方式で作成された。
【0235】
KRS阻害剤の急性肺損傷に対する効果を調べるために、まず、C57BL/6マウスにN3IgG抗体をそれぞれ1 mg/kg又は10 mg/kgずつIV注入し、24時間後にLPS 2.5 mg/kgを気管内注入した。前記LPS注入後24時間後に、各マウスを犠牲にして肺組織とBALF(Bronchoalveolarlavagefluid)を収集し分析した。
【0236】
2)BALF内の免疫細胞数の測定
PBSで肺を洗浄して得られたBALFを集めて800xgで、10分間、4℃で遠心してペレットを回収した。細胞を浮遊させた後、RBC lysis buffer(eBioscience cat. no. 00-4333-57)を利用して赤血球を除去した。その後、PBSで反応を停止し、2回洗浄した後、400μl PBSに浮遊させ、血球計算盤で細胞数を測定し、Hema3染色を介して好中球数を測定した。
【0237】
3)肺組織内の免疫細胞のFACS
肺組織を回収してgentleMACS Octo Dissociator(MACS Miltenyi Biotec、Order no. 130-095-937)装置を用いて、37℃で45分間回転して組織を破壞した。セルストレーナー(40μm)を用いてろ過した後、1500 rpmで5分間、室温で遠心分離を行った。ペレットを回収してRBC溶解緩衝液(eBioscience cat. no. 00-4333-57)を利用して赤血球を除去した。細胞を回収し、FACS緩衝液(NaN 31%とFBS 3%が含まれているPBS)に浮遊した後、50μlをチューブに込めて、同量の抗体混合物とよく混合し、4℃で1時間、光から遮断して染色した。肺に移動するIM(interstitial macrophage)の分析のために、FITC Rat Anti-CD11b(BD Pharmingen)とPE Rat Anti-Mouse F4/80(BD Pharmingen)抗体を使用した。FACS緩衝液を利用して、400xgで5分間、2回洗浄したあと、Navios Flow Cytometer(Beckman)機器で分析した。
【0238】
4)肺組織のマッソントリクローム染色
肺組織の通常の方法でパラフィン包埋した後、薄切した。その後キシレンを利用して、パラフィンを除去した組織スライドをDWで洗浄した後、56~60℃のブアン液に1時間処理した。ワイゲルト鉄ヘマトキシリン溶液で10分染色し、その後洗浄し、再びビーブリッヒスカーレット-酸性フクシン溶液に10~15分染色した後、洗浄した。リンタングステン・リンモリブデン酸液を10~15分間処理し、アニリンブルー液に移し5~10分間染色した。洗浄後、1%酢酸溶液で2~5分間処理した。洗浄及び脱水後、キシレン処理して取り付けた。
【0239】
実験結果
11-1.BALF(Bronchoalveolar lavage fluid)内の免疫細胞の移動抑制効果を確認
図13に示したように、LPS処理によって急性肺損傷を誘発したマウスでBALF内の総免疫細胞数が増加したことを確認し、これはN3抗体(KRSのN-term結合抗体)の処理によって濃度依存的に減少した。
【0240】
特に、
図14に示したように、LPS処理により急性肺損傷を誘発したマウスで好中球が多く増加したことが確認され、N3抗体(KRSのN-term結合抗体)の処理は、これらの好中球の数値を減少させた。これにより、KRS N-末端に特異的に結合する抗体の処理によってBALF内の免疫細胞、特に好中球の肺への浸潤が著しく抑制されることを確認した。
【0241】
11-2.肺組織内の免疫細胞の移動抑制効果を確認
図15及び
図16は、急性肺損傷によって肺組織に移動してきたマクロファージをFACSで分析した結果を示す。IM(interstitial macrophage)は、CD11b+/F4/80+細胞であり、肺に存在せず、特定の状況で肺に移動して来るマクロファージ(migrating macrophages)である。LPS処理により、IMの肺への浸潤が増加したが、N3抗体処理は、濃度依存的にIMの肺への移動を減少させた。これにより、KRS N末端に特異的に結合する抗体(代表的には、N3抗体)処理により、マクロファージ/単核球等の免疫細胞の肺組織への移動及び浸潤が抑制されることを確認した。
【0242】
前記マクロファージ/単核球等の免疫細胞の過剰な肺組織への移動及び浸潤は、組織線維化疾患において重要な病理現象である。前記急性肺損傷モデルに対して肺組織をマッソントリクローム染色して観察した結果(
図17)、肺組織内の線維化がかなり進行したことを確認しており、これに対してN3抗体(KRS N末端に特異的に結合する抗体)の処理は、これらの線維化を抑制したことを確認した。
【0243】
実施例12:ADCC/CDC機能を除去した変異体抗体の免疫細胞移動分析
前記ADCC/CDC機能を除去した変異体抗体が免疫細胞の移動に及ぼす影響を確認するために、先行文献(Park, SG et al. Human lysyl-tRNA synthetase is secreted to trigger pro-inflammatory response., Proc. Natl. Acad. Sci. USA102, 6356-6361(2005))に記載された方法に従って細胞移動分析(migration assay)を行った。
【0244】
ポリカーボネート膜(5.0μm空隙サイズ、Costar)のトランズウェルチャンバーで測定した。前記トランズウェルチャンバーにLN421を2.5μg/mlの濃度で下側チャンバーに入れた。その後、RAW264.7細胞を各ウェル当り5x104細胞の濃度で上側チャンバーに入れた。その次、各抗体を10 Mの濃度で前記チャンバーに入れた後に24時間を培養した。その後、PBSで2回洗浄し、70%MeOH(in PBS)を処理した。再びPBSで2回洗浄し、移動した細胞をクリスタルバイオレット(Sigma)で染色して乾燥させた。その次、33%酢酸(Merck)に上側チャンバーを入れて10分間攪拌した。クリスタルバイオレットが溶けた酢酸溶液を96ウェルプレートに移してマイクロプレートリーダー(Tecan)にて吸光度590nmで測定した。
【0245】
その結果、
図18に示した通り、N3-8、N3-8-1、N3-8-1変異LALA、N3-8-1変異LALATA、N3-8-1変異LALAPG、N3-8-1変異LALAPGTA抗体がすべて、何も処理していない対照群(Control、C)と同様なレベルでLN421による細胞移動を阻害することが示された。
【0246】
実施例13:ADCC/CDC機能を除去した変異体抗体の癌細胞移動分析
前記ADCC/CDC機能を除去した変異体抗体が免疫細胞の移動に及ぼす影響を確認するために、実施例12に記載された方法に従って細胞移動分析を行った。
【0247】
ポリカーボネート膜(8.0μm空隙サイズ、Costar)の24ウェルトランズウェルチャンバーで測定した。ラミニン(laminin)を下側チャンバーに1 mg/mlの濃度で入れて、リン酸化KRSであるT52D KRSを過発現する安定したMDA-MB-231細胞を用いて、細胞移動分析を行った。T52D KRS発現を誘導するために、ドキシサイクリン(0.1μg/ml)を一日処理したT52D KRS-MDA-MB-231安定細胞を無血清(serum-free)RPMI培地に懸濁した次に、各ウェル当り4×104細胞の濃度で上側チャンバーに入れた。次にN3-8、N3-8-1、N3-8-1変異LALA、N3-8-1変異LALATA、N3-8-1変異LALAPG、N3-8-1変異LALAPGTA抗体をそれぞれ10 nMで前記チャンバーに処理して7時間培養した。膜の上側に存在する非遊走細胞を綿棒で除去し、PBSで2回洗浄し、70%MeOH(in PBS)で30分間処理した。再びPBSで2回洗浄し、クリスタルバイオレット(Sigma)を利用して染色し乾燥させた。その次に、33%酢酸(Merck)に上側チャンバーを入れて攪拌した。クリスタルバイオレットが溶けた酢酸溶液を96ウェルプレートに移して、マイクロプレートリーダー(Tecan)にて吸光度590nmで測定した。
【0248】
その結果、
図19に示した通り、N3-8、N3-8-1、N3-8-1変異LALA、N3-8-1変異LALATA、N3-8-1変異LALAPG、N3-8-1変異LALAPGTA抗体全部がラミニンによる癌細胞の移動を阻害することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0249】
以上、述べたように、本発明の抗体又はその断片は、本明細書に記載された特定のCDR(相補性決定部位)配列を有し、細胞外膜に露出されるKRS N-末端領域に対する特異的結合能力及び親和性が非常に優れているので、癌又は免疫細胞の移動関連疾患のようなKRSの特異的挙動を伴う疾病の診断に利用可能であり、生産性及び安定性に優れ、癌転移抑制効果が優れているため、癌治療薬、癌転移の予防又は抑制剤として有効に利用することができ、免疫細胞の移動に関わる疾患の予防、改善及び治療等において極めて有用に使用することができる。
【配列表】