(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】アルミニウムの抽出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/38 20060101AFI20240313BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20240313BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240313BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C22B3/38
C22B21/00
C22B7/00 C
C22B3/06
(21)【出願番号】P 2023577762
(86)(22)【出願日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2023019500
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2022087217
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022087219
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中澤 順
(72)【発明者】
【氏名】下垣内 泰輔
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-211386(JP,A)
【文献】特開2016-186113(JP,A)
【文献】特開昭54-38273(JP,A)
【文献】特開2015-183292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/38
C09B 3/38
B09B 5/00
C22B 3/06
C22B 3/44
C22B 7/00
C22B 21/00
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの抽出方法であって、アルミニウム
及びフッ素を含む酸溶解液と2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを含む有機溶媒を混合し、平衡pH1.8未満の条件下で当該酸溶解液からアルミニウムを抽出するアルミニウム抽出工程
、及び
当該アルミニウム抽出工程で得られる抽残液中のアルミニウム濃度を任意の範囲に調整し、平衡pHを2~7に調整して水酸化アルミニウムを生成させることによって、フッ素を共沈させ、固液分離するフッ素分離除去工程を含む、アルミニウムの抽出方法。
【請求項2】
請求項
1に記載されたアルミニウムの抽出方法において、前記抽残液中のアルミニウムの濃度が0.1~30g/Lである、アルミニウムの抽出方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載されたアルミニウムの抽出方法において、廃リチウムイオン電池から得られた活物質粉を鉱酸に溶解して前記酸溶解液を得る酸溶解工程を更に含む、アルミニウムの抽出方法。
【請求項4】
請求項
3に記載されたアルミニウムの抽出方法において、前記鉱酸は、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、アルミニウムの抽出方法。
【請求項5】
請求項
4に記載されたアルミニウムの抽出方法において、前記鉱酸は塩酸を含む、アルミニウムの抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の普及に伴い、廃リチウムイオン電池からコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有価金属を回収し、前記リチウムイオン電池の材料として再利用する方法が検討されている。
従来、前記廃リチウムイオン電池から前記有価金属を回収する際には、該廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)に付し、又は加熱処理に付さずに、粉砕、分級する等して得られた前記有価金属を含む粉末(以下、活物質粉という)からコバルト、ニッケル、マンガン、及びリチウムのそれぞれを湿式プロセスにて分離精製することが行われている。
なお、本願において、廃リチウムイオン電池とは、電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池、製造工程において製品化に用いられた残余の正極、負極材料等を意味する。また、前記活物質粉には、前記廃リチウムイオン電池の処理の過程で電解液及びバインダーが分解することによって生じたフッ素イオンが含まれる場合がある。
【0003】
前記活物質粉中に不純物として正極材のアルミニウムが含まれていると、酸浸出によってアルミニウムが浸出され、酸溶解液からアルミニウムを分離する必要が生じる。
アルミニウムを分離する方法として、pHを調整することでアルミを水酸化物として分離する方法がある。しかし、本方法では、アルミニウムを沈殿させる際に、回収目的の金属も共沈し、当該回収目的の金属の回収率が低下するという問題があった。
【0004】
特許文献1には、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを含む有機溶媒を用いて、平衡pH1.8以上3以下の条件にてアルミニウムを抽出分離する抽出工程を備えるアルミニウムの溶媒抽出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたアルミニウムの溶媒抽出方法では、pH>1.8の条件下ではアルミニウムと共にリチウムも沈殿し始める。具体的には、溶媒抽出槽において、このpHに調節する際に、アルカリを添加するが、槽内において、局所的に水酸化アルミニウムの沈殿が起こる。装置の滞留時間の間にこの水酸化アルミニウムが再溶解し終わらないために、精密な分離が行えない。さらにアルミニウムの沈殿はコバルト及びニッケルも共沈させるから、アルミニウムの沈殿はリチウム、コバルト及びニッケルそれぞれの回収率を低下させる。
【0007】
近年、前記酸溶解液からアルミニウムの沈殿を起こさずにアルミニウムを抽出する方法が希求されていた。本発明が解決しようとする課題は、前記酸溶解液からアルミニウムの沈殿を起こさずにアルミニウムを抽出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、アルミニウムを含む酸溶解液と2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを含む有機溶媒を混合し、平衡pH1.8未満の条件下で当該酸溶解液からアルミニウムを抽出すると、当該酸溶解液からアルミニウムの沈殿を起こさずにアルミニウムを抽出できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明は、アルミニウムの抽出方法であって、アルミニウム及びフッ素を含む酸溶解液と2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを含む有機溶媒を混合し、平衡pH1.8未満の条件下で当該酸溶解液からアルミニウムを抽出するアルミニウム抽出工程、及び、当該アルミニウム抽出工程で得られる抽残液中のアルミニウム濃度を任意の範囲に調整し、平衡pHを2~7に調整して水酸化アルミニウムを生成させることによって、フッ素を共沈させ、固液分離するフッ素分離除去工程を含む、アルミニウムの抽出方法に関する。
前記抽残液中のアルミニウムの濃度は、好ましくは0.1~30g/Lである。
前記アルミニウムの抽出方法は、好ましくは、廃リチウムイオン電池から得られた活物質粉を鉱酸に溶解して前記酸溶解液を得る酸溶解工程を更に含む。
前記鉱酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは塩酸を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウムの抽出方法は、前記酸溶解液からアルミニウムの沈殿を起こさずにアルミニウムを抽出できる、アルミニウムの抽出方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
【0012】
<酸溶解液>
本発明のアルミニウムの抽出方法で使用される、アルミニウムを含む酸溶解液は、酸を含む溶液にアルミニウムが溶解されている溶液であり、特定の溶液に限定されない。好ましい前記酸溶解液は、廃リチウムイオン電池から得られた活物質粉を鉱酸に溶解したものである。前記鉱酸は、好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つ含み、より好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、更に好ましくは塩酸、硫酸、又は硝酸であり、特に好ましくは塩酸である。前記活物質粉は、リチウム、鉄、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属を含んでいるから、前記鉱酸による前記活物質粉の溶解により、前記活物質粉に含まれる、アルミニウムをはじめとする前記有価金属が溶解されている酸溶解液を得ることができる。前記酸溶解液はフッ素を含んでいてもよい。
【0013】
酸溶解工程において同一の投入活物質組成であれば、液量によって前記酸溶解液中のアルミニウム以外の有価金属の濃度は濃くなり、前記酸溶解液からの前記有価金属の回収効率が向上する。この時、前記酸溶解液中のアルミニウムの濃度も変動し、例えば0.1~30g/Lである。また、前記酸溶解液中のフッ素の濃度も変動し、例えば0.1~30g/Lである。
【0014】
<抽出剤>
本発明のアルミニウムの抽出方法で使用される抽出剤は、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを含む有機溶媒である。前記有機溶媒は2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを溶解するものであり、特定の有機化合物に限定されない。前記有機溶媒は、好ましくは炭化水素を含み、より好ましく炭化水素である。前記炭化水素として、例えば直鎖状又は分岐を有する飽和又は不飽和炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。前記炭化水素として、ケロシンが例示される。
【0015】
前記有機溶媒中の2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルの濃度は、好ましくは0.1~3.1モル/Lであり、より好ましくは0.5~2モル/Lであり、更に好ましくは0.7~1.5モル/Lである。
【0016】
<アルミニウム抽出工程>
本発明のアルミニウムの抽出方法は、アルミニウムを含む前記酸溶解液と2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを含む前記有機溶媒を混合するアルミニウムの抽出工程を含む。前記酸溶解液と前記有機溶媒の混合比は、好ましくは前記酸溶解液:前記有機溶媒=1:0.5~10であり、より好ましくは前記酸溶解液:前記有機溶媒=1:1~5であり、更に好ましくは前記酸溶解液:前記有機溶媒=1:2~4である。
【0017】
前記アルミニウムの抽出工程における平衡pHは1.8未満である。前記平衡pHが1.8以上であると、アルミニウムが当該酸溶解液から沈殿するおそれがある。
【0018】
前記アルミニウム抽出工程によって得られる抽残液中のアルミニウム濃度を非常に低くすることも可能であるが、一方で任意の濃度にも調整できる。前記アルミニウム濃度を残存フッ素濃度にあわせて調整し、後述するフッ素分離除去工程後の溶存フッ素濃度を調整できる。
【0019】
<フッ素分離除去工程>
本発明のアルミニウムの抽出方法は、前記酸溶解液がフッ素を更に含む場合、前記アルミニウム抽出工程で得られる抽残液のアルミニウム濃度を任意の範囲に調整し、平衡pHを2~7に調整して水酸化アルミニウムを生成させることによって、フッ素を共沈させ、固液分離することによるフッ素分離除去工程を含む。生成されたフッ素を含む水酸化アルミニウムは固液分離される。前記抽残液の平衡pHは、前記抽残液にアルカリが添加されて調整されてよい。前記アルカリとして、アルカリ金属水酸化物、及びアンモニアからなる群から選ばれる少なくとも1つが使用されてよい。前記アルカリの固体、及び水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つが前記抽残液に添加される。
前記アルカリ金属水酸化物のアルカリ金属はリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。前記アルカリ金属は、好ましくはリチウム、ナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくはリチウム、ナトリウム、又はカリウムである。
【0020】
前記アルミニウム抽出工程後の抽残液、又はさらにフッ素分離除去して得られた処理液は、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属を含んでいる。よってこれら溶液からリチウム以外の有価金属を抽出し、当該抽出後に得られたリチウムを含む水溶液からリチウムが回収される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<有価金属塩溶液に含まれる有価金属の濃度>
有価金属塩溶液に含まれる有価金属の濃度が、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(パーキンエルマー社製Optima-8300)により測定された。
【0023】
実施例1
リチウムイオン電池の製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料である正極箔(集電体であるアルミニウム箔に正極活物質を含む正極合剤が塗布されたもの)を、電気炉中、空気雰囲気下で400℃の温度に10分間維持して加熱した。次に、前記正極箔を、ジョークラッシャーを用いて粉砕した後、目開き1mmの篩でアルミニウム箔を分離し、正極粉(電池粉末)を得た。
次に、前記正極粉10kgを塩酸48kg(40L)と水35kg(35L)との混合液に溶解し、酸溶解液75Lを得た。前記酸溶解液中のアルミニウム濃度は6.7g/L、コバルト濃度は8.7g/L、マンガン濃度は8.7g/L、ニッケル濃度は26.0g/L、リチウム濃度は6.0g/Lであった。
なお、前記酸溶解液中の各金属濃度を、以後抽出前金属濃度という。
【0024】
次に、前記酸溶解液75Lに、ケロシンで希釈した1モル/Lの2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製PC-88A)225Lを添加し、6.1モル/Lの水酸化ナトリウムで平衡pHを1.1に調整して、アルミニウムの溶媒抽出を行い、抽出残液として有価金属塩水溶液82Lを得た。前記有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は1.5g/L、コバルト濃度は7.9g/L、マンガン濃度は7.9g/L、ニッケル濃度は23.8g/L、リチウム濃度は5.5g/Lであった。各金属の除去率を表1に示す。
なお、前記有価金属塩水溶液中の各金属濃度を、以後、抽出後金属濃度という。
【0025】
【0026】
表1に示す抽出率は下記式(1)で算出された。なお、濃度補正係数は操作による希釈倍率である。
抽出率=1-(抽出後金属濃度×濃度補正係数/抽出前金属濃度)・・・(1)
【0027】
比較例1
リチウムイオン電池の製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料である正極箔(集電体であるアルミニウム箔に正極活物質を含む正極合剤が塗布されたもの)を、電気炉中、空気雰囲気下で400℃の温度に10分間維持して加熱した。次に、前記正極箔を、ジョークラッシャーを用いて粉砕した後、目開き1mmの篩でアルミニウム箔を分離し、正極粉(電池粉末)を得た。
次に、前記正極粉10kgを塩酸48kg(40L)と水35kg(35L)との混合液に溶解し、酸溶解液75Lを得た。前記酸溶解液中のアルミニウム濃度は6.7g/L、コバルト濃度は8.7g/L、マンガン濃度は8.7g/L、ニッケル濃度は26.0g/L、リチウム濃度は6.0g/Lであった。
なお、前記酸溶解液中の各金属濃度を、以後NaOH添加前金属濃度という。
【0028】
次に、前記酸溶解液75Lを、6.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて平衡pH4.0まで調整して濾過し、濾液82Lを得た。前記濾液中のアルミニウム濃度は0.7g/L、コバルト濃度は6.8g/L、マンガン濃度は7.1g/L、ニッケル濃度は19.6g/L、リチウム濃度は4.9g/Lであった。
なお、前記濾液中の各金属濃度を、以後NaOH添加後金属濃度という。
【0029】
【0030】
表2に示す除去率は下記式(2)で算出された。
除去率=1-(NaOH添加後金属濃度×濃度補正定数/NaOH添加前金属濃度)・・・(2)
【0031】
比較例1で使用された酸溶解液中のリチウムをはじめとする全ての有価金属が水酸化ナトリウムの添加により除去されていた。一方、実施例1で使用された酸溶解液中のマンガン、コバルト、ニッケル、及びリチウムは前記抽出溶媒で抽出されなかった。前記酸溶解液中のマンガン、コバルト、ニッケル、及びリチウムは前記アルミニウム抽出工程後に回収可能である。実施例1及び比較例1で使用された酸溶解液に含まれる有価金属の中でマンガン、コバルト、ニッケル、及びリチウムが、アルミニウムと共に抽出(除去)されない、ないしされ難い実施例1のアルミニウムの抽出方法は、比較例1のアルミニウムの除去方法より工業的に非常に優れていることは明らかである。
【0032】
比較例2
リチウムイオン電池の製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料である正極箔(集電体であるアルミニウム箔に正極活物質を含む正極合剤が塗布されたもの)を、電気炉中、空気雰囲気下で400℃の温度に10分間維持して加熱した。次に、前記正極箔を、ジョークラッシャーを用いて粉砕した後、目開き1mmの篩でアルミニウム箔を分離し、正極粉(電池粉末)を得た。
次に、前記正極粉10kgを塩酸48kg(40L)と水35kg(35L)との混合液に溶解し、酸溶解液75Lを得た。前記酸溶解液中のアルミニウム濃度は6.7g/L、コバルト濃度は8.7g/L、マンガン濃度は8.7g/L、ニッケル濃度は26.0g/L、リチウム濃度は6.0g/Lであった。
次に、前記酸溶解液75Lに、ケロシンで希釈した1モル/Lの2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製PC-88A)225Lを添加し、6.1モル/Lの水酸化ナトリウムで平衡pHを2.0に調整して、アルミニウムの溶媒抽出を行い、抽出残液として有価金属塩水溶液82Lを得た。前記有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は0.5g/L、コバルト濃度は6.7g/L、マンガン濃度は7.5g/L、ニッケル濃度は20.2g/L、リチウム濃度は4.9g/Lであった。
さらに、抽出運転を継続していると、槽内で水酸化アルミニウムが析出した。また水酸化アルミニウムから有価金属であるコバルト、マンガン、ニッケル、リチウムが確認された。
【0033】
実施例2
前記正極粉10kgを塩酸濃度9mol/L~10mol/Lに調整した塩酸に溶解し、得られた酸溶解液のpHを水酸化ナトリウムで1.0に調整した。前記酸溶解液中のアルミニウム濃度は10g/L、コバルト濃度は13g/L、マンガン濃度は13g/L、ニッケル濃度は39g/L、フッ素濃度は1g/Lで、液量は50Lであった。
次に前記酸溶解液50Lに、ケロシンで希釈した1mol/Lの2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製PC-88A)150Lを添加し、6.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で平衡pHを0.8~1.5に調整し、アルミニウムの溶媒抽出を行い、抽出残液として有価金属塩水溶液60Lを得た。前記有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は1.5g/L、コバルト濃度は11g/L、マンガン濃度は10.8g/L、ニッケル濃度32.5g/L、フッ素は0.8g/Lであった。前記有価金属塩水溶液中のアルミニウムイオンとフッ化物イオンのモル比は、0.4であった。
次に前記金属塩水溶液60Lに、水酸化ナトリウムを添加し、前記金属塩水溶液のpHを5に調整した。調整した有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は0.003g/L、コバルト濃度は11g/L、マンガン濃度10.5g/L、ニッケル濃度32g/L、フッ素濃度0.010g/Lであった。抽出前金属濃度、抽出後金属濃度、及びフッ素分離除去工程後の金属濃度(フッ素分離除去工程後金属濃度)を表3に示す。
【0034】
【0035】
実施例3
前記酸溶解液50Lに、ケロシンで希釈した1mol/Lの2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製PC-88A)150Lを添加し、更に6.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、前記酸溶解液の平衡pHを0.8~1.5に調整してアルミニウムの溶媒抽出を行い、抽出残液として有価金属塩水溶液58Lを得た。前記有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は3g/L、コバルト濃度は11.2g/L、マンガン濃度は11g/L、ニッケル濃度33.6g/L、フッ素は0.8g/Lであった。前記有価金属塩水溶液中アルミニウムイオンとフッ化物イオンのモル比は0.8であった。
次に前記金属塩水溶液58Lに水酸化ナトリウムを添加し、前記金属塩水溶液のpHを5に調整した。調整した有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は0.003g/L、コバルト濃度は10.8g/L、マンガン濃度は10.5g/L、ニッケル濃度は32.8g/L、フッ素濃度は0.005g/Lであった。抽出前金属濃度、抽出後金属濃度、及びフッ素分離除去工程後金属濃度を表4に示す。
【0036】
【0037】
実施例4
前記酸溶解液50Lに、ケロシンで希釈した1mol/Lの2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製PC-88A)150Lを添加し、更に6.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、前記酸溶解液の平衡pHを0.8~1.5に調整してアルミニウムの溶媒抽出を行い、抽出残液として有価金属塩水溶液62Lを得た。前記有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は0.7g/L、コバルト濃度は10.5g/L、マンガン濃度は11g/L、ニッケル濃度31.2g/L、フッ素は0.8g/Lであった。前記有価金属塩水溶液中アルミニウムイオンとフッ化物イオンのモル比は、1.6であった。
次に前記金属塩水溶液62Lに水酸化ナトリウムを添加し、前記金属塩水溶液のpHを5に調整した。調整した有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は0.003g/L、コバルト濃度は10.4g/L、マンガン濃度は11g/L、ニッケル濃度は31g/L、フッ素濃度は0.021g/Lであった。抽出前金属濃度、抽出後金属濃度、及びフッ素分離除去工程後金属濃度を表5に示す。
【0038】
【0039】
比較例3
前記酸溶解液50Lに、ケロシンで希釈した1mol/Lの2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(大八化学工業株式会社製PC-88A)150Lを添加し、更に6.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、前記酸溶解液の平衡pHを0.8~1.5に調整してアルミニウムの溶媒抽出を行い、抽出残液として有価金属塩水溶液65Lを得た。前記有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は0.1g/L以下、コバルト濃度は10g/L、マンガン濃度は10.5g/L、ニッケル濃度30g/L、フッ素は0.8g/Lであった。
次に前記金属塩水溶液65Lに水酸化ナトリウムを添加し、前記金属塩水溶液のpHを5に調整した。調整した有価金属塩水溶液中のアルミニウム濃度は0.003g/L、コバルト濃度は9.8g/L、マンガン濃度は10.4g/L、ニッケル濃度は29.8g/L、フッ素濃度は0.7g/Lであった。抽出前金属濃度、抽出後金属濃度、及びフッ素分離除去工程後金属濃度を表6に示す。
【0040】
【0041】
比較例3で使用された有価金属塩水溶液から、アルミニウムをほとんど除去した場合、その後の中和反応で、水酸化アルミニウムが生成しないため、共沈によるフッ素が除去できない。一方で、実施例1で使用された有価金属塩水溶液から、アルミニウム除去工程にてアルミニウムを意図的に残した場合、その後の中和反応で、水酸化アルミニウムが生成するため、共沈によりフッ素を除去することが可能である。
【0042】
アルミニウム抽出工程によって、酸溶解液中のアルミニウム濃度を非常に低くすることも可能であるが、一方で任意の濃度にも調整できる。前記アルミニウム濃度を残存フッ素濃度にあわせて調整し、前記フッ化アルミニウム分離工程後の溶存フッ素濃度を調整できる。例えば、以降の工程で、酸溶解液が希釈されずに排水される場合、実施例3及び4のような条件を用いれば、我が国における排水中のフッ素濃度の基準は8mg/L以下なので、追加のフッ素処理工程を経ずに、排水処理が可能となる。
実施例5の条件であっても、以降の工程でコバルト、ニッケル、及びマンガンの抽出操作などを実施する場合、酸溶解液中のフッ素が希釈されるため、前記排水基準に近いレベルまで到達できる。
【要約】
本発明が解決しようとする課題は、酸溶解液からアルミニウムの沈殿を起こさずにアルミニウムを抽出する方法を提供することである。本発明のアルミニウムの抽出方法は、アルミニウムを含む酸溶解液と2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを含む有機溶媒を混合し、平衡pH1.8未満の条件下でこの酸溶解液からアルミニウムを抽出するアルミニウム抽出工程を含む。この酸溶解液がフッ素を更に含む場合、本発明のアルミニウムの抽出方法は、この抽残液のアルミニウム濃度を任意の範囲に調整し、平衡pHを2~7に調整して水酸化アルミニウムを生成させることによって、フッ素を共沈させ、固液分離することによるフッ素分離除去工程含む。