(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】エレベーターの改修方法
(51)【国際特許分類】
B66B 7/06 20060101AFI20240313BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B66B7/06 A
D07B1/06 Z
(21)【出願番号】P 2023560909
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2022048380
【審査請求日】2023-10-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003568
【氏名又は名称】弁理士法人加藤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(74)【代理人】
【識別番号】100217021
【氏名又は名称】馬場 進吾
(72)【発明者】
【氏名】肥田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】高岡 治輝
(72)【発明者】
【氏名】安富 淳哉
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/079836(WO,A1)
【文献】国際公開第02/064480(WO,A1)
【文献】国際公開第03/050348(WO,A1)
【文献】特表2005-529043(JP,A)
【文献】特開平02-231385(JP,A)
【文献】特開昭54-038963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/00ー 7/12
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のエレベーター用ワイヤロープを新たなエレベーター用ワイヤロープに交換する工程
を含み、
前記既設のエレベーター用ワイヤロープ及び前記新たなエレベーター用ワイヤロープのそれぞれは、ロープ芯と、前記ロープ芯の外周に配置されている複数本の鋼製の外周ストランドとを有しており、
前記既設のエレベーター用ワイヤロープ及び前記新たなエレベーター用ワイヤロープのそれぞれにおける各前記外周ストランドは、複数本の素線を有しており、
前記複数本の素線には、前記ロープ芯に接する外層を構成する複数本の外層素線が含まれており、
前記新たなエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける前記外層素線の本数は、前記既設のエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける前記外層素線の本数よりも多く、
前記新たなエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける前記複数本の外層素線の断面占有率は、前記既設のエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける前記複数本の外層素線の断面占有率よりも低く、
前記新たなエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける前記複数本の外層素線を除く各前記素線の引張強度は、前記既設のエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける前記複数本の外層素線を除く各前記素線の引張強度よりも高く、
前記新たなエレベーター用ワイヤロープにおける前記ロープ芯は、中心鋼線と、前記中心鋼線の外周に配置されている芯外周層とを有しているエレベーターの改修方法。
【請求項2】
前記新たなエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける各前記外層素線の引張強度は、前記既設のエレベーター用ワイヤロープの各前記外周ストランドにおける各前記外層素線の引張強度と同じである請求項
1記載のエレベーターの改修方法。
【請求項3】
前記新たなエレベーター用ワイヤロープにおける各前記外周ストランドには、各前記外周ストランドを径方向外側から圧縮する異形化加工が施されていない請求項
1又は請求項
2に記載のエレベーターの改修方法。
【請求項4】
前記既設のエレベーター用ワイヤロープ及び前記新たなエレベーター用ワイヤロープのそれぞれは、かごを吊る主ロープであり、
既設の巻上機が改修後も使用される請求項
1から請求項
3までのいずれか1項に記載のエレベーターの改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーター用ワイヤロープ及びエレベーターの改修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベーター用ワイヤロープでは、芯の外周に複数本の鋼製の側ストランドが配置されている。複数本の側ストランドからなる層の外周には、複数本の鋼製の補助ストランドが配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された従来のエレベーター用ワイヤロープでは、長寿命化及び高強度化を図るために、複数本の補助ストランドが追加され、鋼線の充填密度が高くされているため、単位質量が他のワイヤロープとは異なる。このため、交換時期が来たときに、他のワイヤロープと交換することが難しく、同じ断面構成を持つワイヤロープを準備しておく必要があった。また、各補助ストランドにおける各外層素線は、異形線により構成されているため、各外層素線を異形化する工程が必要であり、製造工程が複雑である。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、製造工程が複雑になることを抑制しつつ、鋼線の充填密度が高められている他のワイヤロープとの互換性を確保することができるエレベーター用ワイヤロープ及びエレベーターの改修方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベーター用ワイヤロープは、ロープ芯、及びロープ芯の外周に配置されている複数本の鋼製の外周ストランドを備え、各外周ストランドは、中心素線と、中心素線の外周に配置されている少なくとも1層の素線層とを有しており、少なくとも1層の素線層の層数は、2以下であり、少なくとも1層の素線層は、ロープ芯の外周に接している外層を含んでおり、外層は、複数本の外層素線を有しており、各外周ストランド全体の断面積に対して、各外周ストランドに含まれる複数本の外層素線の断面積の割合は、60%以下であり、ロープ芯は、ロープ芯の中心に配置されている中心鋼線と、中心鋼線の外周に配置されている芯外周層とを有している。
本開示に係るエレベーターの改修方法は、既設のエレベーター用ワイヤロープを新たなエレベーター用ワイヤロープに交換する工程を含み、既設のエレベーター用ワイヤロープ及び新たなエレベーター用ワイヤロープのそれぞれは、ロープ芯と、ロープ芯の外周に配置されている複数本の鋼製の外周ストランドとを有しており、既設のエレベーター用ワイヤロープ及び新たなエレベーター用ワイヤロープのそれぞれにおける各外周ストランドは、複数本の素線を有しており、複数本の素線には、ロープ芯に接する外層を構成する複数本の外層素線が含まれており、新たなエレベーター用ワイヤロープの各外周ストランドにおける外層素線の本数は、既設のエレベーター用ワイヤロープの各外周ストランドにおける外層素線の本数よりも多く、新たなエレベーター用ワイヤロープの各外周ストランドにおける複数本の外層素線の断面占有率は、既設のエレベーター用ワイヤロープの各外周ストランドにおける複数本の外層素線の断面占有率よりも低く、新たなエレベーター用ワイヤロープの各外周ストランドにおける複数本の外層素線を除く各素線の引張強度は、既設のエレベーター用ワイヤロープの各外周ストランドにおける複数本の外層素線を除く各素線の引張強度よりも高く、新たなエレベーター用ワイヤロープにおけるロープ芯は、中心鋼線と、中心鋼線の外周に配置されている芯外周層とを有している。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、製造工程が複雑になることを抑制しつつ、鋼線の充填密度が高められている他のワイヤロープとの互換性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1によるエレベーターを示す概略の構成図である。
【
図3】実施の形態1による新たな主ロープの断面図である。
【
図4】実施の形態2による新たな主ロープの断面図である。
【
図5】実施の形態3による新たな主ロープの断面図である。
【
図6】実施の形態4による新たな主ロープの断面図である。
【
図7】実施の形態5による新たな主ロープの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるエレベーターを示す概略の構成図であり、改修前のエレベーターを示している。
図1において、昇降路1の上には、機械室2が設けられている。機械室2には、巻上機3及びそらせ車6が設置されている。
【0010】
巻上機3は、巻上機本体4と、駆動シーブ5とを有している。巻上機本体4は、図示しない巻上機モーターと、図示しない巻上機ブレーキとを有している。巻上機モーターは、駆動シーブ5を回転させる。巻上機ブレーキは、駆動シーブ5の静止状態を保持する。また、巻上機ブレーキは、駆動シーブ5の回転を制動する。
【0011】
駆動シーブ5及びそらせ車6には、複数本の既設の主ロープ7が巻き掛けられている。各主ロープ7は、既設のエレベーター用ワイヤロープである。
図1では、1本の主ロープ7のみが示されている。
【0012】
かご8及び釣合おもり9は、複数本の主ロープ7によって昇降路1内に吊り下げられている。また、かご8及び釣合おもり9は、駆動シーブ5を回転させることによって、昇降路1内を昇降する。
【0013】
昇降路1内には、一対のかごガイドレール10と、一対の釣合おもりガイドレール11とが設置されている。
図1では、片側のかごガイドレール10、及び片側の釣合おもりガイドレール11のみが示されている。
【0014】
一対のかごガイドレール10は、かご8の昇降を案内する。一対の釣合おもりガイドレール11は、釣合おもり9の昇降を案内する。
【0015】
かご8は、かご枠12及びかご室13を有している。かご枠12には、複数本の主ロープ7が接続されている。かご室13は、かご枠12に支持されている。
【0016】
図2は、
図1の主ロープ7の断面図であり、主ロープ7の長手方向に直角な断面を示している。既設の主ロープ7の断面構成は、8×P・S(19)のシール形である。なお、EN規格(European Norm/European Standard)における8×P・S(19)の表記は、8×K19Sである。
【0017】
主ロープ7は、ロープ芯21と、複数本の鋼製の外周ストランド22とを有している。ロープ芯21は、複数の天然繊維によって構成されている。外周ストランド22の本数は、8本である。
【0018】
複数本の外周ストランド22は、ロープ芯21の外周に配置されている。また、複数本の外周ストランド22は、ロープ芯21の外周に撚り合わせられている。
【0019】
各外周ストランド22は、中心素線23と、内層24と、外層25とを有している。内層24は、中心素線23の外周に配置されている。外層25は、内層24の外周に配置されている。
【0020】
内層24は、複数本の内層素線26を有している。複数本の内層素線26は、中心素線23の外周に撚り合わせられている。この例では、内層素線26の本数は、9本である。
【0021】
外層25は、複数本の外層素線27を有している。複数本の外層素線27は、内層24の外周に撚り合わせられている。この例では、外層素線27の本数は、内層素線26の本数と同じであり、9本である。
【0022】
各外周ストランド22の断面の外形は、各外周ストランド22の製造時に異形化加工を施すことにより、円形に近付けられている。異形化加工は、各外周ストランド22をダイスによって径方向外側から圧縮する加工である。
【0023】
これにより、主ロープ7の破断荷重は、各外周ストランド22に異形化加工を施さないロープ、即ち断面構成が8×S(19)のシール形であるロープに比べて、約10%向上している。主ロープ7の破断荷重は、主ロープ7全体としての引張強度である。以下、断面構成が8×S(19)のシール形であるロープを従来ロープと称する。
【0024】
実施の形態1によるエレベーターの改修方法は、複数本の既設の主ロープ7を複数本の新たな主ロープに交換する工程を含んでいる。各新たな主ロープは、新たなエレベーター用ワイヤロープである。
【0025】
図3は、実施の形態1による新たな主ロープの断面図であり、主ロープの長手方向に直角な断面を示している。新たな主ロープの断面構成は、8×S(25)のシール形である。
【0026】
図3において、新たな主ロープ51の直径は、既設の主ロープ7の直径と同じである。新たな主ロープ51は、ロープ芯31と、複数本の鋼製の外周ストランド32とを有している。
【0027】
外周ストランド32の本数は、8本である。即ち、新たな主ロープ51における外周ストランド32の本数は、既設の主ロープ7における外周ストランド22の本数と同じである。
【0028】
複数本の外周ストランド32は、ロープ芯31の外周に配置されている。また、複数本の外周ストランド32は、ロープ芯31の外周に撚り合わせられている。各外周ストランド32には、異形化加工が施されていない。
【0029】
ロープ芯31は、中心鋼線としての鋼製の中心ストランド41と、芯外周層42とを有している。中心ストランド41は、ロープ芯31の中心に配置されている。芯外周層42は、中心ストランド41の外周に配置されている。
【0030】
中心ストランド41は、複数本の中心ストランド素線43を有している。中心ストランド素線43の本数は、7本である。即ち、中心ストランド41は、1本の中心ストランド素線43の外周に6本の中心ストランド素線43が撚り合わせられて構成されている。
【0031】
芯外周層42は、複数本の繊維製の芯綱ストランド44を有している。複数本の芯綱ストランド44は、中心ストランド41の外周に撚り合わせられている。芯綱ストランド44の本数は、6本である。
【0032】
各芯綱ストランド44の材料としては、天然繊維が用いられてもよいが、合成繊維の長繊維が用いられることが望ましい。即ち、芯外周層42は、合成繊維により構成されていることが望ましい。合成繊維としては、機械的特性及び製造コストの面から、ポリエステル繊維のマルチフィラメントが特に望ましい。
【0033】
各外周ストランド32は、中心素線33と、少なくとも1層の素線層とを有している。少なくとも1層の素線層は、中心素線33の外周に配置されている。少なくとも1層の素線層の層数は、2以下である。実施の形態1における素線層の層数は、2である。即ち、実施の形態1の各外周ストランド32は、それぞれ素線層である内層34及び外層35を有している。
【0034】
外層35は、各外周ストランド32の最外周に位置し、ロープ芯31の外周に接している層である。内層34は、中心素線33と外層35との間に配置されている層である。
【0035】
内層34は、複数本の内層素線36を有している。複数本の内層素線36は、中心素線33の外周に撚り合わせられている。この例では、内層素線36の本数は、12本である。
【0036】
外層35は、複数本の外層素線37を有している。即ち、複数本の外層素線37は、外層35を構成している。複数本の外層素線37は、内層34の外周に撚り合わせられている。
【0037】
新たな主ロープ51の各外周ストランド32における外層素線37の本数は、既設の主ロープ7の各外周ストランド22における外層素線27の本数よりも多く、12本以上である。この例では、外層素線37の本数は、内層素線36の本数と同じであり、12本である。従って、各外周ストランド32の断面構成は、内層素線36の本数と外層素線37の本数とが等しいシール形である。
【0038】
また、新たな主ロープ51の各外周ストランド32における複数本の外層素線37の断面占有率は、既設の主ロープ7の各外周ストランド22における複数本の外層素線27の断面占有率よりも低い。
【0039】
具体的には、新たな主ロープ51においては、各外周ストランド32全体の断面積に対して、各外周ストランド32に含まれる全ての外層素線37の合計の断面積の割合は、60%以下である。
【0040】
また、新たな主ロープ51の各外周ストランド32における複数本の外層素線37を除く各素線の引張強度は、既設の主ロープ7の各外周ストランド22における複数本の外層素線27を除く各素線の引張強度よりも高い。即ち、中心素線33の引張強度は中心素線23の引張強度よりも高く、各内層素線36の引張強度は各内層素線26の引張強度よりも高い。
【0041】
また、新たな主ロープ51の各外周ストランド32における各外層素線37の引張強度は、既設の主ロープ7の各外周ストランド22における各外層素線27の引張強度と同じである。
【0042】
具体的には、新たな主ロープ51において、各外層素線37の引張強度は、1770MPa級以下、例えば1570N/mm2級又は1620N/mm2級である。
【0043】
また、新たな主ロープ51において、中心素線33の引張強度と、各内層素線36の引張強度とは、それぞれ2000MPa級以上、例えば2300N/mm2級又は2400N/mm2級である。このように、中心素線33の引張強度と、各内層素線36の引張強度とは、各外層素線37の引張強度の約1.5倍である。
【0044】
また、新たな主ロープ51の引張強度は、既設の主ロープ7の引張強度よりも高い。また、新たな主ロープ51の単位質量、即ち単位長さあたりの質量は、既設の主ロープ7の単位質量と同じである。これにより、実施の形態1の改修方法では、既設の巻上機3が、改修後もそのまま巻上機として使用される。
【0045】
ここで、一般に、改修後の主ロープの単位質量が改修前の主ロープの単位質量とある程度以上異なっていると、改修前と改修後とで、かご側と釣合おもり側との質量バランスが変わってしまう。このため、既設の巻上機の巻上機モーター及び巻上機ブレーキが使用できなくなる。また、トラクション損失が生じることもある。
【0046】
このため、従来から使用されている主ロープとは単位質量が異なる主ロープは、新設されるエレベーター向けに使用される。しかし、主ロープの需要としては、既設のエレベーターの保守時におけるロープ交換に使用される割合がかなり多い。
【0047】
また、エレベーターの仕様対応力を上げるため、ロープ径を太くせずに主ロープを高強度化することは常に求められている。そのような方法として、主ロープの強度種を1ランク上げる方法、ストランド数を8から6にする方法等が挙げられる。
【0048】
例えば、ロープの強度種をA種からB種に上げることにより、約110%の高強度化を図ることができる。また、ストランド数を8から6とすることによっても、約110%の高強度化を図ることができる。そして、これら両方の方法を実施した場合、約120%の高強度化を図ることができる。これにより、エレベーターの仕様対応力の向上だけではなく、ロープ本数削減も可能となり、コストの大幅な削減を図ることができる。
【0049】
しかし、主ロープの高強度化を実現するために、単純に素線の引張強度を向上させると、素線の硬度が高くなり、主ロープと接触する駆動シーブが早期に摩耗する恐れがある。また、主ロープに掛かる荷重が大きくなるため、主ロープと駆動シーブとの接触面圧が高くなり、主ロープが早期に損傷する恐れもある。
【0050】
また、ロープ強度を高くする方法としては、ロープ芯の材料に高強度繊維を用いる方法もある。しかし、通常、高強度繊維は価格が高く、主ロープ全体が高価になってしまう。
【0051】
これに対して、実施の形態1のエレベーターの改修方法では、新たな主ロープ51の各外周ストランド32において、外層素線37の本数が増やされ、複数本の外層素線37の断面積割合が低減されている。また、新たな主ロープ51の各外周ストランド32において、複数本の外層素線37を除く各素線の引張強度が高められている。
【0052】
また、新たな主ロープ51の各外周ストランド32における各外層素線37の引張強度は、既設の主ロープ7の各外周ストランド22における各外層素線27の引張強度と同じである。即ち、新たな主ロープ51における各外層素線37の硬度は、既設の主ロープ7における各外層素線27の硬度と同じである。
【0053】
このため、新たな主ロープ51と駆動シーブ5との接触面圧が高くなることが抑制され、新たな主ロープ51が早期に損傷したり、駆動シーブ5が早期に摩耗したりすることを抑制することができる。
【0054】
また、8×S(25)タイプである各外周ストランド32における鋼線の量は、8×P・S(19)タイプである各外周ストランド22における鋼線の量よりも少ない。しかし、新たな主ロープ51では、ロープ芯31に中心ストランド41が設けられているため、新たな主ロープ51の単位質量を既設の主ロープ7の単位質量に容易に近付けることができる。
【0055】
これにより、新たな主ロープ51における各外周ストランド32に異形化加工を施すことなく、既設の主ロープ7との互換性を確保することができる。即ち、製造工程が複雑になることを抑制しつつ、鋼線の充填密度が高められている既設の主ロープ7との互換性を高めることができる。
【0056】
また、既設の主ロープ7と新たな主ロープ51との互換性を確保したことによって、既設の巻上機3が改修後も使用される。これにより、改修工事をより容易に行うことができる。
【0057】
また、実施の形態1の新たな主ロープ51では、従来ロープに対して高強度化を図りつつ、駆動シーブ5の摩耗度を改修前と同等のままとし、ロープ寿命を改修前と同等にすることができる。
【0058】
具体的には、一般的な従来ロープの各外周ストランド22において、全ての外層素線27の合計の断面積の割合は、約70%である。また、通常、エレベーターに使用される鋼線において、コストの上昇を伴わずに実施できる引張強度の上限は、2500N/mm2級である。
【0059】
これに対して、実施の形態1では、各外周ストランド32に含まれる全ての外層素線37の断面積の割合が60%以下にされている。これにより、新たな主ロープ51において、各外層素線37の引張強度を改修前と同じにしつつ、各中心素線33及び各内層素線36の引張強度を改修前の約1.5倍として、破断荷重を高くすることが実現されている。
【0060】
例えば、従来ロープにおける各外周ストランドの強度を100として、新たな主ロープ51における各外周ストランド32の強度と比較すると、以下の通りとなる。
・従来ロープ:100×0.7+100×0.3=100
・新たな主ロープ51:100×0.6+150×0.4=120
【0061】
また、ロープ芯31に中心ストランド41が設けられていることによって、新たな主ロープ51の破断荷重は、さらに高められている。このように、新たな主ロープ51を高強度化することにより、新たな主ロープ51の本数削減を図ることができる。
【0062】
また、新たな主ロープ51は、外周ストランド32の構成がシンプルであるため、製造が容易であり、製造コストを削減することができる。
【0063】
また、新たな主ロープ51の各外周ストランド32における外層素線37の本数は、12本以上である。このため、複数本の外層素線27の断面積割合を、容易に約60%以下にすることができる。また、新たな主ロープ51と駆動シーブ5との接触面圧を低下させることができる。
【0064】
また、各外周ストランド32において、中心素線33と外層35との間には、内層24が配置されている。このため、中心素線33の直径を抑えつつ、各外周ストランド32の強度を高くすることができる。
【0065】
また、新たな主ロープ51において、各外層素線37の引張強度は1770MPa級以下であり、中心素線33の引張強度と、各内層素線36の引張強度とは、それぞれ2000MPa級以上である。このため、主ロープ51の破断荷重をより確実に高くすることができる。
【0066】
また、新たな主ロープ51において、各外周ストランド32の断面構成はシール形である。このため、一般的な従来ロープの製造装置と同様の製造装置によって、新たな主ロープ51を容易に製造することができる。
【0067】
また、同様の製造装置によって、ロープ芯31に中心ストランド41を配置しない従来ロープも容易に製造することができる。
【0068】
また、新たな主ロープ51において、外周ストランド32の本数を6本以上とすることにより、主ロープ51の断面形状を安定させることができる。
【0069】
また、芯外周層42の材料として合成繊維を用いることにより、新たな主ロープ51全体としての長寿命化を図ることができる。
【0070】
新たな主ロープ51が長寿命化することによって、ロープ交換周期の延長を実現し、ライフサイクルコストを低減することができる。
【0071】
実施の形態2.
次に、
図4は、実施の形態2による新たな主ロープの断面図であり、主ロープの長手方向に直角な断面を示している。
【0072】
実施の形態2の新たな主ロープ52では、各外周ストランド32における少なくとも1層の素線層は、外層35のみであり、内層34は設けられていない。即ち、実施の形態2の新たな主ロープ52における各外周ストランド32の断面構成は、シングルレイ形である。各外層素線37は、中心素線33の外周に撚り合わせられている。
【0073】
この場合も、各外層素線37の引張強度は、1770MPa級以下である。また、中心素線33の引張強度は、2000MPa級以上である。
【0074】
実施の形態2における他の構成及び改修方法は、実施の形態1と同様である。新たな主ロープ52は、新たなエレベーター用ワイヤロープである。
【0075】
このような新たな主ロープ52では、各外周ストランド32における中心素線33の直径が大きくなるが、主ロープ52の直径が小さい場合には、実施の形態2の断面構成も適用可能となる。そして、各外周ストランド32の製造を容易にすることができる。
【0076】
実施の形態3.
次に、
図5は、実施の形態3による新たな主ロープの断面図であり、主ロープの長手方向に直角な断面を示している。
【0077】
実施の形態3の新たな主ロープ53では、中心ストランド41として、外周ストランド32と同じストランドが用いられている。即ち、中心ストランド41の断面構成は、各外周ストランド32の断面構成と同じである。また、中心ストランド41の直径は、各外周ストランド32の直径と同じである。
【0078】
実施の形態3における他の構成及び改修方法は、実施の形態1と同様である。新たな主ロープ53は、新たなエレベーター用ワイヤロープである。
【0079】
このような新たな主ロープ53では、中心ストランド41として、外周ストランド32と同じストランドが用いられているため、製造コストを削減することができる。
【0080】
また、このような新たな主ロープ53は、例えば6×P・S(19)タイプの既設の主ロープとの交換に適している。即ち、実施の形態3の新たな主ロープ53は、単位質量を、6×P・S(19)タイプの既設の主ロープの単位質量と同等にすることが容易である。6×P・S(19)タイプは、外周ストランドの本数が6本であり、各外周ストランドに異形化加工が施されており、各外周ストランドが19本の素線を有しているシール形である。
【0081】
実施の形態4.
次に、
図6は、実施の形態4による新たな主ロープの断面図であり、主ロープの長手方向に直角な断面を示している。
【0082】
実施の形態4の新たな主ロープ54では、外周ストランド32の本数は、9本である。また、中心ストランド41として、外周ストランド32と同じストランドが用いられている。即ち、中心ストランド41の断面構成は、各外周ストランド32の断面構成と同じである。また、中心ストランド41の直径は、各外周ストランド32の直径と同じである。
【0083】
実施の形態4における他の構成及び改修方法は、実施の形態1と同様である。新たな主ロープ54は、新たなエレベーター用ワイヤロープである。
【0084】
このような新たな主ロープ54では、中心ストランド41として、外周ストランド32と同じストランドが用いられているため、製造コストを削減することができる。
【0085】
また、このような新たな主ロープ54は、例えば6×S(19)タイプの既設の主ロープとの交換に適している。即ち、実施の形態4の新たな主ロープ54は、単位質量を、6×S(19)タイプの既設の主ロープの単位質量と同等にすることが容易である。
【0086】
6×S(19)タイプは、外周ストランドの本数が6本であり、各外周ストランドに異形化加工が施されておらず、各外周ストランドが19本の素線を有しているシール形である。また、6×S(19)タイプにおいても、8×S(19)タイプに比べて、鋼線の充填密度が高められている。
【0087】
実施の形態5.
次に、
図7は、実施の形態4による新たな主ロープの断面図であり、主ロープの長手方向に直角な断面を示している。
【0088】
実施の形態5の新たな主ロープ55では、芯外周層42は、樹脂製の芯被覆体45によって構成されている。即ち、芯外周層42は樹脂により構成されており、中心ストランド41は芯被覆体45によって被覆されている。
【0089】
芯被覆体45の材料としては、耐摩耗性及び低摩擦性の面から、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが望ましい。
【0090】
実施の形態5における他の構成及び改修方法は、実施の形態1と同様である。新たな主ロープ55は、新たなエレベーター用ワイヤロープである。
【0091】
このような新たな主ロープ55では、中心ストランド41と複数本の外周ストランド32との間に、樹脂製の芯被覆体45が介在している。このため、中心ストランド41の摩耗及び各外周ストランド32の摩耗を抑制することができ、主ロープ55の長寿命化を図ることができる。
【0092】
なお、中心鋼線は、ストランドではなく、単線であってもよい。
【0093】
また、エレベーターの改修方法では、既設の巻上機本体4が改修後も使用されつつ、既設の駆動シーブ5は新たな駆動シーブに交換されてもよい。
【0094】
また、エレベーター全体のレイアウトは、
図1のレイアウトに限定されるものではない。例えば、ローピング方式は、2:1ローピング方式であってもよい。
【0095】
また、エレベーターは、機械室レスエレベーター、ダブルデッキエレベーター、ワンシャフトマルチカー方式のエレベーター装置等であってもよい。ワンシャフトマルチカー方式は、上かごと、上かごの真下に配置された下かごとが、それぞれ独立して共通の昇降路を昇降する方式である。
【0096】
また、エレベーター用ワイヤロープは、主ロープ以外のエレベーター用ワイヤロープ、例えばコンペンロープ又はガバナーロープであってもよい。
【符号の説明】
【0097】
3 既設の巻上機、7 既設の主ロープ(既設のエレベーター用ワイヤロープ)、8 かご、21,31 ロープ芯、22,32 外周ストランド、23,33 中心素線、24,34 内層、25,35 外層、26,36 内層素線、27,37 外層素線、41 中心ストランド(中心鋼線)、42 芯外周層、51,52,53,54,55 新たな主ロープ(新たなエレベーター用ワイヤロープ)。
【要約】
エレベーター用ワイヤロープにおいて、各外周ストランドは、中心素線と、中心素線の外周に配置されている少なくとも1層の素線層とを有している。少なくとも1層の素線層の層数は、2以下である。少なくとも1層の素線層は、ロープ芯の外周に接している外層を含んでいる。外層は、複数本の外層素線を有している。各ストランド全体の断面積に対して、各ストランドに含まれる複数本の外層素線の断面積の割合は、60%以下である。ロープ芯は、中心鋼線と、中心鋼線の外周に配置されている芯外周層とを有している。