(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】全固体電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240313BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240313BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240313BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240313BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2019064647
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】富沢 祥江
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】川村 知栄
(72)【発明者】
【氏名】関口 正史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宇人
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-170189(JP,A)
【文献】特開2005-085729(JP,A)
【文献】特開2014-060084(JP,A)
【文献】特開2015-103332(JP,A)
【文献】特開2014-060148(JP,A)
【文献】特開2009-035598(JP,A)
【文献】特開2014-143133(JP,A)
【文献】久 英之,導電性カーボンブラックの現状,日本印刷学会誌,日本,社団法人 日本印刷学会,2007年,第44巻第3号,第133-143頁,特に表4を参照。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 10/0562
H01M 4/62
H01M 10/0585
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩系の固体電解質を主成分とし、ガラス成分を含
み、焼結体である固体電解質層と、
前記固体電解質層の両主面に形成され
、焼結体である電極層と、を備え、
前記電極層は、平均粒径が40nm以上120nm以下であって100mL/100g以下のDBP吸油量を示すカーボン材料を含むことを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記リン酸塩系の固体電解質は、NASICON構造を有することを特徴とする請求項1記載の全固体電池。
【請求項3】
前記DBP吸油量は、35mL/100g以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
カーボン材料を含む電極層用ペースト塗布物と、リン酸塩系の固体電解質の粒子およびガラス成分を含むグリーンシートと、前記カーボン材料を含む電極層用ペースト塗布物と、がこの順に積層された積層体を用意する工程と、
前記積層体を
、最高温度を400℃~1000℃として焼成する工程と、を含み、
前記カーボン材料は、40nm以上120nm以下の平均粒径を有し、100mL/100g以下のDBP吸油量を示すことを特徴とする全固体電池の製造方法。
【請求項5】
前記リン酸塩系の固体電解質は、NASICON構造を有することを特徴とする請求項4記載の全固体電池の製造方法。
【請求項6】
前記DBP吸油量は、35mL/100g以下であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池が様々な分野で利用されている。電解液を用いた二次電池には、電解液の漏液等の問題がある。そこで、固体電解質を備え、他の構成要素も固体で構成した全固体電池の開発が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Pd(パラジウム)が各種材料との反応が起きにくい性質を有しているため、電子伝導性確保のためにPdを電極層の導電助剤として用いることが考えられる。しかしながら、電極層内のPdは、電極層における活物質充填量増大に対して阻害要因となる。そこで、電極層の導電助剤として、カーボンを用いることが考えられる(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、電極層の導電助剤としてカーボンを用いると、イオン伝導性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電子伝導性およびイオン伝導性の両立を可能とする、全固体電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る全固体電池は、リン酸塩系の固体電解質を主成分とし、ガラス成分を含む固体電解質層と、前記固体電解質層の両主面に形成された電極層と、を備え、前記電極層は、平均粒径が40nm以上120nm以下であって200mL/100g以下のDBP吸油量を示すカーボン材料を含むことを特徴とする。
【0007】
上記全固体電池において、前記リン酸塩系の固体電解質は、NASICON構造を有していてもよい。
【0008】
本発明に係る全固体電池の製造方法は、カーボン材料を含む電極層用ペースト塗布物と、リン酸塩系の固体電解質の粒子およびガラス成分を含むグリーンシートと、前記カーボン材料を含む電極層用ペースト塗布物と、がこの順に積層された積層体を用意する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記カーボン材料は、40nm以上120nm以下の平均粒径を有し、200mL/100g以下のDBP吸油量を示すことを特徴とする。
【0009】
上記全固体電池の製造方法において、前記リン酸塩系の固体電解質は、NASICON構造を有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子伝導性およびイオン伝導性の両立を可能とする全固体電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】全固体電池の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0013】
図1は、全固体電池100の模式的断面図である。
図1で例示するように、全固体電池100は、第1電極10と第2電極20とによって、リン酸塩系の固体電解質層30が挟持された構造を有する。第1電極10は、固体電解質層30の第1主面上に形成されており、第1電極層11および第1集電体層12が積層された構造を有し、固体電解質層30側に第1電極層11を備える。第2電極20は、固体電解質層30の第2主面上に形成されており、第2電極層21および第2集電体層22が積層された構造を有し、固体電解質層30側に第2電極層21を備える。
【0014】
全固体電池100を二次電池として用いる場合には、第1電極10および第2電極20の一方を正極として用い、他方を負極として用いる。本実施形態においては、一例として、第1電極10を正極として用い、第2電極20を負極として用いるものとする。
【0015】
固体電解質層30は、リン酸塩系固体電解質であれば特に限定されるものではないが、例えば、NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質を用いることができる。NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高い導電率を有するとともに、大気中で安定しているという性質を有している。リン酸塩系固体電解質は、例えば、リチウムを含んだリン酸塩である。当該リン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えば、Tiとの複合リン酸リチウム塩(例えば、LiTi2(PO4)3)などが挙げられる。または、TiをGe,Sn,Hf,Zrなどといった4価の遷移金属に一部あるいは全部置換することもできる。また、Li含有量を増加させるために、Al,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換してもよい。より具体的には、例えば、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3や、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3などが挙げられる。例えば、第1電極層11および第2電極層21に含有されるオリビン型結晶構造をもつリン酸塩が含む遷移金属と同じ遷移金属を予め添加させたLi-Al-Ge-PO4系材料が好ましい。例えば、第1電極層11および第2電極層21にCoおよびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。この場合、電極活物質が含む遷移金属の電解質への溶出を抑制する効果が得られる。
【0016】
固体電解質層30は、原料粉末を焼結させることで形成することができる。例えば、液相焼結によって固体電解質層30を形成することができる。そこで、固体電解質層30は、Li-Al-Ge-PO4系、Li-Al-Ti-PO4系、Li-Al-Zr-PO4系のみでも液相焼結するが、ガラス成分、焼結助剤などを含んでいてもよい。焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分がどれか1つあるいは複数含まれている。
【0017】
第1電極層11および第2電極層21のうち、少なくとも、正極として用いられる第1電極層11は、オリビン型結晶構造をもつ物質を電極活物質として含有する。第2電極層21も、当該電極活物質を含有していることが好ましい。このような電極活物質として、遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩が挙げられる。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0018】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質の典型例として、Coを含むLiCoPO4などを用いることができる。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩などを用いることもできる。ここで、価数に応じてLiやPO4の比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いることが好ましい。
【0019】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質は、正極として作用する第1電極層11においては、正極活物質として作用する。例えば、第1電極層11にのみオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合には、当該電極活物質が正極活物質として作用する。第2電極層21にもオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合に、負極として作用する第2電極層21においては、その作用メカニズムは完全には判明してはいないものの、負極活物質との部分的な固溶状態の形成に基づくと推察される、放電容量の増大、ならびに、放電に伴う動作電位の上昇という効果が発揮される。
【0020】
第1電極層11および第2電極層21の両方ともオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有する場合に、それぞれの電極活物質には、好ましくは、互いに同一であっても異なっていてもよい遷移金属が含まれる。「互いに同一であっても異なっていてもよい」ということは、第1電極層11および第2電極層21が含有する電極活物質が同種の遷移金属を含んでいてもよいし、互いに異なる種類の遷移金属が含まれていてもよい、ということである。第1電極層11および第2電極層21には一種だけの遷移金属が含まれていてもよいし、二種以上の遷移金属が含まれていてもよい。好ましくは、第1電極層11および第2電極層21には同種の遷移金属が含まれる。より好ましくは、両電極層が含有する電極活物質は化学組成が同一である。第1電極層11および第2電極層21に同種の遷移金属が含まれていたり、同組成の電極活物質が含まれていたりすることにより、両電極層の組成の類似性が高まるので、全固体電池100の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、用途によっては誤作動せずに実使用に耐えられるという効果を有する。
【0021】
第1電極層11および第2電極層21のうち第2電極層21に、負極活物質として公知である物質をさらに含有させてもよい。一方の電解層だけに負極活物質を含有させることによって、当該一方の電極層は負極として作用し、他方の電極層が正極として作用することが明確になる。一方の電極層だけに負極活物質を含有させる場合には、当該一方の電極層は第2電極層21であることが好ましい。なお、両方の電解層に負極活物質として公知である物質を含有させてもよい。電極の負極活物質については、二次電池における従来技術を適宜参照することができ、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、リン酸バナジウムリチウムなどの化合物が挙げられる。
【0022】
第1電極層11および第2電極層21の作製においては、これら活物質に加えて、酸化物系固体電解質材料や、導電性材料(導電助剤)などが添加されている。本実施形態においては、これらの部材については、バインダと可塑剤を水あるいは有機溶剤に均一分散させることで電極層用ペーストを得ることができる。本実施形態においては、導電助剤として、カーボン材料が含まれている。導電助剤として、さらに金属が含まれていてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。
【0023】
第1集電体層12および第2集電体層22は、導電性材料からなる。
【0024】
図2は、全固体電池の他の例である全固体電池100aの模式的断面図である。全固体電池100aは、略直方体形状を有する積層チップ60と、積層チップ60の第1端面に設けられた第1外部電極40aと、当該第1端面と対向する第2端面に設けられた第2外部電極40bとを備える。以下の説明において、全固体電池100と同一の構成については、同一符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0025】
全固体電池100aにおいては、複数の第1集電体層12と複数の第2集電体層22とが、交互に積層されている。複数の第1集電体層12の端縁は、積層チップ60の第1端面に露出し、第2端面には露出していない。複数の第2集電体層22の端縁は、積層チップ60の第2端面に露出し、第1端面には露出していない。それにより、第1集電体層12および第2集電体層22は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとに、交互に導通している。
【0026】
第1集電体層12上には、第1電極層11が積層されている。第1電極層11上には、固体電解質層30が積層されている。固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。固体電解質層30上には、第2電極層21が積層されている。第2電極層21上には、第2集電体層22が積層されている。第2集電体層22上には、別の第2電極層21が積層されている。当該第2電極層21上には、別の固体電解質層30が積層されている。当該固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。当該固体電解質層30上には、第1電極層11が積層されている。全固体電池100aにおいては、これらの積層単位が繰り返されている。それにより、全固体電池100aは、複数の電池単位が積層された構造を有している。
【0027】
全固体電池100または全固体電池100aのように、リン酸塩系固体電解質を備え、焼成によって製造される全固体電池では、集電体層に適用できる金属として、酸化されにくく各種材料との反応が起きにくい材料が望まれる。そこで、第1集電体層12および第2集電体層22は、導電性材料として、酸化されにくいPdやカーボンを含んでいることが好ましい。
【0028】
Pdが各種材料との反応が起きにくい性質を有していることを利用して、Pdを第1電極層11および第2電極層21の導電助剤として用いることが考えられる。しかしながら、第1電極層11および第2電極層21内のPdは、焼成過程において球状化・粒成長することで電極内における導電ネットワークを十分とするために20vol.%~50vol.%程度存在させることが望ましく、導電性を高めようと体積分率を高めると電極層における活物質充填量増大に対して阻害要因となる。また、Pdは、クラーク数が極めて小さい元素であるため、非常に高価である。そこで、第1電極層11および第2電極層21の導電助剤として、カーボン材料を用いることが好ましい。カーボン材料は、焼成過程において球状化や粒成長が起こらないため、より少ない体積分率で高い導電性を担保できるといった理由により、電極層における活物質充填量増大に対して阻害要因となりにくい。また、カーボン材料は、安価である。しかしながら、カーボン材料は、固体電解質層30を液相焼結させる際に、ガラス成分の液相を吸着する傾向を有している。ガラス成分の液相がカーボン材料に吸着されると、固体電解質層30の焼結阻害や組成ズレなどが生じて固体電解質層30の緻密度が低下し、イオン伝導性が低下するおそれがある。
【0029】
そこで、本実施形態においては、カーボン材料として、DBP吸油量の少ないものを用いる。具体的には、DBP吸油量が200mL/100g以下のカーボン材料を用いる。例えば、空隙率の小さいカーボン材料などを用いることによって、DBP吸油量を少なくすることができる。ガラス成分の液相の吸着量を少なくする観点から、DBP吸油量は、より少ないことが好ましい。そこで、カーボン材料のDBP吸油量は、200mL/100g以下であることが好ましく、100mL/100g以下であることがより好ましい。なお、DBP吸油量は、JIS K 6217-4に従って測定することができる。
【0030】
カーボン材料の平均粒径が小さすぎると、焼成時に酸化して消失し、電子伝導性が低下するおそれがある。そこで、カーボン材料の平均粒径に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、カーボン材料の平均粒径を40nm以上とする。焼成時の消失を抑制する観点から、カーボン材料の平均粒径は大きい方が好ましい。そこで、カーボン材料の平均粒径は、40nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。
【0031】
カーボン材料の平均粒径が大きすぎると、焼成時に導電助剤のネットワークが構成されにくくなり、電子伝導性が低下するおそれがある。そこで、カーボン材料の平均粒径に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、カーボン材料の平均粒径を120nm以下とする。焼成時に導電助剤のネットワークを構成する観点から、カーボン材料の平均粒径は小さい方が好ましい。そこで、カーボン材料の平均粒径は、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態によれば、第1電極層11および第2電極層21が、200mL/100g以下のDBP吸油量を示すカーボン材料を導電助剤として含んでいる。この構成では、固体電解質層30に含まれるガラス成分が焼成時に当該カーボン材料に吸着される量を抑制することができる。それにより、固体電解質層30の焼結が促進され、固体電解質層30の焼結阻害や組成ズレなどが抑制され、固体電解質層30の緻密化が促進される。その結果、固体電解質層30のイオン伝導性が向上する。
【0033】
また、当該カーボン材料の平均粒径を40nm以上とすることで、焼成時におけるカーボンの消失が抑制される。また、当該カーボン材料の平均粒径を120nm以下とすることで、導電助剤のネットワークが構成されやすくなる。その結果、全固体電池100および全固体電池100aの電子伝導性が向上する。
【0034】
以上のことから、全固体電池100および全固体電池100aのイオン伝導性および電子伝導性の両立が可能となる。
【0035】
なお、第1電極層11および第2電極層21におけるカーボン材料の比率が小さすぎると、カーボン材料が導電助剤としての機能を十分に発揮できないおそれがある。そこで、第1電極層11および第2電極層21におけるカーボン材料の比率に下限を設けることが好ましい。例えば、第1電極層11および第2電極層21におけるカーボン材料の比率は、5vol%以上であることが好ましく、10vol%以上であることがより好ましい。
【0036】
なお、第1電極層11および第2電極層21におけるカーボン材料の比率が大きすぎると、イオン伝導低下、低緻密下、またペーストハンドリング性が困難になるといった不具合が生じるおそれがある。そこで、第1電極層11および第2電極層21におけるカーボン材料の比率に上限を設けることが好ましい。例えば、第1電極層11および第2電極層21におけるカーボン材料の比率は、60vol%以下であることが好ましく、40vol%以下であることがより好ましい。
【0037】
図3は、全固体電池100および全固体電池100aの製造方法のフローを例示する図である。
【0038】
(グリーンシート作製工程)
まず、上述の固体電解質層30を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、固体電解質層30を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製することができる。得られた粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrO2ボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0039】
添加物には、焼結助剤が含まれる。焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分のどれか1つあるいは複数などのガラス成分が含まれている。
【0040】
次に、得られた粉末を、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水性溶媒あるいは有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことで、所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混錬機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。得られた固体電解質ペーストを塗工することで、グリーンシートを作製することができる。塗工方法は、特に限定されるものではなく、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0041】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、上述の第1電極層11および第2電極層21の作製用の電極層用ペーストを作製する。例えば、導電助剤、活物質、固体電解質材料、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで電極層用ペーストを得ることができる。固体電解質材料として、上述した固体電解質ペーストを用いてもよい。導電助剤として、カーボン材料を用いる。第1電極層11と第2電極層21とで組成が異なる場合には、それぞれの電極層用ペーストを個別に作製すればよい。
【0042】
本実施形態においては、DBP吸油量が200mL/100g以下のカーボン材料を用いる。例えば、空隙率の小さいカーボン材料などを用いることによって、DBP吸油量を少なくすることができる。ガラス成分の液相の吸着量を少なくする観点から、DBP吸油量は、より少ないことが好ましい。そこで、カーボン材料のDBP吸油量は、200mL/100g以下であることが好ましく、100mL/100g以下であることがより好ましい。
【0043】
カーボン材料の平均粒径が小さすぎると、焼成時に酸化して消失するおそれがある。そこで、カーボン材料の平均粒径に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、カーボン材料の平均粒径を40nm以上とする。焼成時の消失を抑制する観点から、カーボン材料の平均粒径は大きい方が好ましい。そこで、カーボン材料の平均粒径は、40nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。
【0044】
カーボン材料の平均粒径が大きすぎると、焼成時に導電助剤のネットワークが構成されにくくなり、電子伝導性が低下するおそれがある。そこで、カーボン材料の平均粒径に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、カーボン材料の平均粒径を120nm以下とする。焼成時に導電助剤のネットワークを構成する観点から、カーボン材料の平均粒径は小さい方が好ましい。そこで、カーボン材料の平均粒径は、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0045】
(集電体用ペースト作製工程)
次に、上述の第1集電体層12および第2集電体層22の作製用の集電体用ペーストを作製する。例えば、Pdの粉末、バインダ、分散剤、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで、集電体用ペーストを得ることができる。
【0046】
(積層工程)
図1で説明した全固体電池100については、電極層用ペーストおよび集電体用ペーストをグリーンシートの両面に印刷する。印刷の方法は、特に限定されるものではなく、スクリーン印刷法、凹版印刷法、凸版印刷法、カレンダロール法などを用いることができる。薄層かつ高積層の積層デバイスを作製するにはスクリーン印刷がもっとも一般的と考えられる一方、ごく微細な電極パターンや特殊形状が必要な場合はインクジェット印刷を適用する方が好ましい場合もある。
【0047】
図2で説明した全固体電池100aについては、
図4で例示するように、グリーンシート51の一面に、電極層用ペースト52を印刷し、さらに集電体用ペースト53を印刷し、さらに電極層用ペースト52を印刷する。グリーンシート51上で電極層用ペースト52および集電体用ペースト53が印刷されていない領域には、逆パターン54を印刷する。逆パターン54として、グリーンシート51と同様のものを用いることができる。印刷後の複数のグリーンシート51を、交互にずらして積層し、積層体を得る。この場合、当該積層体において、2端面に交互に、電極層用ペースト52および集電体用ペースト53のペアが露出するように、積層体を得る。
【0048】
(焼成工程)
次に、得られた積層体を焼成する。電極層用ペーストに含まれるカーボン材料の消失を抑制する観点から、焼成雰囲気の酸素分圧に上限を設けることが好ましい。具体的には、焼成雰囲気の酸素分圧を2×10-13atm以下とすることが好ましい。一方、リン酸塩系固体電解質の融解を抑制する観点から、焼成雰囲気の酸素分圧に下限を設けることが好ましい。具体的には、焼成雰囲気の酸素分圧を5×10-22atm以上とすることが好ましい。このように酸素分圧の範囲を定めることで、カーボン材料の消失およびリン酸塩系固体電解質の融解を抑制することができる。焼成雰囲気の酸素分圧の調整手法は、特に限定されるものではない。
【0049】
カーボン材料の消失を抑制する観点から、焼成雰囲気の酸素分圧は、10-13atm以下であることがより好ましく、10-14atm以下であることがさらに好ましく、10-16atm未満であることがさらに好ましい。リン酸塩系固体電解質の融解を抑制する観点から、焼成雰囲気の酸素分圧は、10-22atm以上であることがより好ましく、10-21atm以上であることがさらに好ましい。
【0050】
焼成工程において、最高温度を好ましくは400℃~1000℃、より好ましくは500℃~900℃などとすることが特に限定なく挙げられる。最高温度に達するまでにバインダを十分に除去するために酸化性雰囲気において最高温度より低い温度で保持する工程を設けてもよい。プロセスコストを低減するためにはできるだけ低温で焼成することが望ましい。焼成後に、再酸化処理を施してもよい。このようにして、全固体電池100または全固体電池100aが製造される。
【0051】
本実施形態に係る製造方法によれば、電極層ペーストに用いる導電助剤として、DBP吸油量が200mL/100g以下のカーボン材料を使用することで、固体電解質ペーストに含まれるガラス成分の液相が当該カーボン材料に吸着される量を抑制することができる。それにより、固体電解質層30の焼結が促進され、固体電解質層30の焼結阻害や組成ズレなどが抑制され、固体電解質層30の緻密化が促進される。その結果、固体電解質層30のイオン伝導性が向上する。
【0052】
また、当該カーボン材料の平均粒径を40nm以上とすることで、焼成時におけるカーボンの消失が抑制される。また、当該カーボン材料の平均粒径を120nm以下とすることで、導電助剤のネットワークが構成されやすくなる。その結果、全固体電池100および全固体電池100aの電子伝導性が向上する。
【0053】
以上のことから、全固体電池100および全固体電池100aのイオン伝導性および電子伝導性の両立が可能となる。
【0054】
なお、電極層用ペーストにおけるカーボン材料の比率が小さすぎると、カーボン材料が導電助剤としての機能を十分に発揮できないおそれがある。そこで、電極層用ペーストにおけるカーボン材料の比率に下限を設けることが好ましい。例えば、電極層用ペーストにおけるカーボン材料の比率は、5vol%以上であることが好ましく、10vol%以上であることがより好ましい。
【0055】
なお、電極層用ペーストにおけるカーボン材料の比率が大きすぎると、イオン伝導低下、低緻密化、またペーストハンドリング性困難といった不具合が生じるおそれがある。また、DBP吸油量が小さくても液相吸着による組成ずれが顕著となるおそれがある。そこで、電極層用ペーストにおけるカーボン材料の比率に上限を設けることが好ましい。例えば、電極層用ペーストにおけるカーボン材料の比率は、60vol%以下であることが好ましく、50vol%以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施形態に係る製造方法に従って全固体電池を作製し、特性について調べた。
【0057】
(実施例1)
所定の粒子径を有するリン酸塩系固体電解質に焼結助剤としてLi-P-O系化合物であるLiPO3を微粉砕した非晶質粉末を添加し、分散媒中で分散させて固体電解質スラリを作製した。焼結助剤は、リン酸塩系固体電解質に対して20wt%とし、P:Li比は1:1とした。得られた固体電解質スラリにバインダを添加することで、固体電解質ペーストを作製した。固体電解質ペーストを塗工することで、グリーンシートを作製した。
【0058】
次に、例えば湿式ビーズミルにて電極活物質、固体電解質、カーボン材料を秤量し、溶剤、バインダとともにスラリ状に混練しシートに塗工したものを作製し、これをカーボン入り電極シートとした。カーボン材料として、平均粒径が80nmであり、比表面積が24m2/gであり、DBP吸油量が28mL/100gのものを用いた。
【0059】
次に、グリーンシートを複数枚重ね合わせて形成した固体電解質層の上下にカーボン入り電極シートを重ね貼り付け、□10mmにカットした角板を試料とした。この試料に対して焼成を行った。焼成温度は、700℃とした。焼成時の酸素分圧は、500℃以上で10-13atm以下とした。
【0060】
(実施例2)
実施例2では、カーボン入り電極シートに用いたカーボン材料として、平均粒径が40nmであり、比表面積が62m2/gであり、DBP吸油量が200mL/100gのものを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0061】
(実施例3)
実施例3では、カーボン入り電極シートに用いたカーボン材料として、平均粒径が120nmであり、比表面積が20m2/gであり、DBP吸油量が35mL/100gのものを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、カーボン入り電極シートに用いたカーボン材料として、平均粒径が30nmであり、比表面積が800m2/gであり、DBP吸油量が360mL/100gのものを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0063】
(比較例2)
比較例2では、カーボン入り電極シートに用いたカーボン材料として、平均粒径が130nmであり、比表面積が18m2/gであり、DBP吸油量が50mL/100gのものを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0064】
(比較例3)
比較例3では、カーボン入り電極シートに用いたカーボン材料として、平均粒径が40nmであり、比表面積が100m2/gであり、DBP吸油量が250mL/100gのものを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0065】
(比較例4)
比較例4では、カーボン入り電極シートに用いたカーボン材料として、平均粒径が35nmであり、比表面積が69m2/gであり、DBP吸油量が160mL/100gのものを用いた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0066】
(分析)
実施例1~3および比較例1~4の焼成後の各サンプルに対して、マイクロトラックベル株式会社製ベルピコノの乾式密度計にて粉体の混合状態で真密度を測定した。この値を100%として、焼成後の焼結体の緻密度を算出した。また、導電率(S/cm)を測定した。結果を表1に示す。なお、焼結体の緻密度は、固体電解質のみの緻密度である。導電率は、焼成後、角板の両面ではなく対向する1対の側面にAu電極をスパッタ形成し、0~0.5Vで電圧をかけたときの電流値から抵抗率を算出し、導電率を求めた。緻密度は、導電率評価後、Au電極と電極層を研磨除去したのちに重量と体積を計測することで算出した。
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1~3および比較例2では、焼結体緻密度が90%以上となった。これは、DBP吸油量を200mL/100g以下としたことで、ガラス成分の液相の吸着が抑制され、焼結が促進されたからであると考えられる。これに対して、比較例1,3では、焼結体緻密度が90%未満の低い値となった。これは、DMP吸油量が200mL/100gを上回ったために、ガラス成分の液相がカーボン材料に吸着し、焼結が阻害されたからであると考えられる。比較例4は、カーボン材料の平均粒径が35nmと小さく、焼成時の消失が認められた。このため電子伝導が0.05S/cmと低い値となった。
【0068】
次に、実施例1~3では、導電率(S/cm)が0.1以上となった。これは、カーボン材料の平均粒径を40nm以上120nm以下としたことで、カーボン材料の導電助剤としての機能が十分に得られたからであると考えられる。これに対して、比較例1~4では、導電率(S/cm)が0.1未満となった。これは、カーボン材料の平均粒径を40nm未満または120nmを上回る値としたために、カーボン材料の導電助剤としての機能が十分に得られなかったからであると考えられる。
【0069】
なお、実施例1~3では、焼結体緻密度が90%以上となりかつ導電率(S/cm)が0.1以上となったため、合格「〇」と判定した。比較例1~4では、焼結体緻密度が90%以上かつ導電率(S/cm)が0.1以上の条件の少なくともいずれかが満たされなかったため、不合格「×」と判定した。
【0070】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 第1電極
11 第1電極層
12 第1集電体層
20 第2電極
21 第2電極層
22 第2集電体層
30 固体電解質層
40a 第1外部電極
40b 第2外部電極
51 グリーンシート
52 電極層用ペースト
53 集電体用ペースト
54 逆パターン
60 積層チップ
100 全固体電池